(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】導電性ペースト及び焼成体
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20220831BHJP
H01B 5/16 20060101ALI20220831BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20220831BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20220831BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20220831BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B5/16
H05K1/09 A
C08K3/08
C08K3/40
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2018061784
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】吉井 喜昭
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-139488(JP,A)
【文献】特開2005-209404(JP,A)
【文献】特開2008-147033(JP,A)
【文献】特開2017-130355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 5/16
H05K 1/09
C08K 3/08
C08K 3/40
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビアホールの内部に焼成体を形成するためのビアホール充填用導電性ペーストであって、
(A)タップ密度が4.5g/cm
3以上の導電性フィラーと、
(B)融点が200℃~700℃の金属粉と
を含
み、
(A)導電性フィラーが、金属粒子であり、金属粒子の金属が、銀、金、ニッケル、パラジウム、白金、スズ又はこれらの合金であることを特徴とするビアホール充填用導電性ペースト。
【請求項2】
(C)線膨張係数αが、60×10
-7/℃以下のガラスフリットをさらに含む請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
(C)ガラスフリットが、亜鉛系ガラスフリットである請求項2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
(A)導電性フィラーが、銀粒子である請求項1から3のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の導電性ペーストの焼成体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線パターン及び電極パターン等を形成するための導電性ペースト及びその焼成体に関する。具体的には、本発明は、配線パターン及び電極パターンのビアホール充填用の導電性ペースト及びその焼成体に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ペーストは、プリント配線板の配線パターン及び電極パターン等の導体パターンの形成、及び電子部品の電極の形成等に用いられている。プリント配線板の配線パターン及び電極パターンでは、プリント配線板の表面と裏面との電気的接続のため、プリント配線板に形成された貫通孔(ビアホール)が形成される場合がある。ビアホールには、導電性ペーストが充填されることにより、プリント配線板の表面と裏面との電気的接続を得ることができる。
【0003】
特許文献1には、銀粉末からなる導電成分と、アルミニウム粉末からなる熱収縮抑制剤とを有機ビヒクル中に分散させてなることを特徴とする導電性ペーストが記載されている。さらに特許文献1には、安価なアルミニウム粉末を熱収縮抑制剤として添加することにより、焼成後にビア導体とビアホール内壁との間に空隙が発生せず、ビア導体に窪みが生成しにくい導電性ペーストを提供することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プリント配線板の配線パターン及び電極パターンでは、プリント配線板の絶縁基板、例えばアルミナ基板及び窒化アルミニウム基板のようなセラミック基板の表面と裏面との電気的接続のため、絶縁基板に形成されたビアホールが、導電性ペーストで充填される。
【0006】
例えば、
図1aに断面模式図として示すように、プリント配線板の基板10には、ビアホール12が形成されている。
図1bに示すように、ビアホール12の内部に導電性ペーストを充填し、焼成することにより、ビアホール内部に導電性の焼成体20を形成することができる。
図1cに示すように、プリント配線板では、基板の表面及び裏面に、さらに表面配線22及び裏面配線24を形成する。表面配線22及び裏面配線24は、それぞれビアホール内部の焼成体20と接触することにより、電気的接続を得ることができる。
【0007】
絶縁基板がセラミック基板の場合には、熱による基板の体積変化が少ない。したがって、セラミック基板10のビアホール12の形状は、大きく変化しない。一方、ビアホール12に充填された導電性ペーストは、乾燥及び/又は焼成により、その体積が収縮する傾向がある。そのため、ビアホール12に充填された導電性ペーストが焼成される際に、ビアホールの側面から剥離する可能性がある。
図1dに、ビアホール12内部の焼成体20bが、ビアホール12の側面から剥離する様子を模式的に示す。その場合、ビアホール12内部の焼成体20bによる表面配線22と、裏面配線24との電気的接続が不安定になったり、電気的接続が断たれたりすることがある。また、ビアホール12内部の焼成体20bが凹むことによって、ビアホールの表面及び裏面に凹みが生じる可能性がある。この場合にも、ビアホール内部の焼成体20bと、表面配線22及び裏面配線24との間で、電気的接続が不安定になったり、電気的接続が断たれたりすることがある。
【0008】
ビアホールの充填に用いられる導電性ペーストとして、焼成後の収縮を低減するために、銀と、パラジウム又は白金とを主成分とする金属成分を含む導電性ペーストを用いることが提案されている。しかしながら、パラジウム及び白金の比抵抗(電気抵抗率)は高いので、ビアの抵抗値が高くなるという問題が生じることになる。
【0009】
そこで本発明は、ビアホールに充填したときに、ビアホールの側面から剥離するという不具合を低減することのできる、ビアホール充填用の導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0011】
(構成1)
本発明の構成1は、(A)タップ密度が4.5g/cm3以上の導電性フィラーと、(B)融点が200℃~700℃の金属粉とを含むことを特徴とするビアホール充填用導電性ペーストである。
【0012】
本発明の構成1のビアホール充填用導電性ペーストを用いるならば、ビアホールに充填したときに、ビアホールの側面から剥離するという不具合を低減することができる。
【0013】
(構成2)
本発明の構成2は、(C)線膨張係数αが、60×10-7/℃以下のガラスフリットをさらに含む構成1の導電性ペーストである。
【0014】
本発明の構成2によれば、導電性ペーストが所定の範囲の低い線膨張係数αを有することにより、ビアホールに充填したときに、ビアホールの側面から剥離するという不具合を低減することを、より確実にできる。
【0015】
(構成3)
本発明の構成3は、(C)ガラスフリットが、亜鉛系ガラスフリットである構成2の導電性ペーストである。
【0016】
本発明の構成3のように、(C)ガラスフリットとして亜鉛系ガラスフリットを用いることにより、ビアホールの側面と、ビアホール内の導電性ペーストの焼成体との間で、安定した密着強度を得ることができる。
【0017】
(構成4)
本発明の構成4は、(A)導電性フィラーが、銀粒子である構成1から3のいずれかの導電性ペーストである。
【0018】
本発明の構成4によれば、銀粒子の比抵抗は低いので、電気抵抗の低いビアホールを形成することができる。
【0019】
(構成5)
本発明の構成5は、構成1~4のいずれかの導電性ペーストの焼成体である。
【0020】
本発明の構成5によれば、ビアホール充填用に所定の導電性ペーストの焼成体を用いることにより、焼成体が、ビアホールの側面から剥離するという不具合を低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ビアホールに充填したときに、ビアホールの側面から剥離するという不具合を低減することのできる、ビアホール充填用の導電性ペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1a】プリント配線板の基板及びビアホールを説明するための断面模式図である。
【
図1b】ビアホール内部に焼成体を形成したこと説明するための断面模式図である。
【
図1c】プリント配線板の表面及び裏面に、表面配線及び裏面配線を形成したこと説明するための断面模式図である。
【
図1d】プリント配線板のビアホール内部の焼成体が、ビアホールの側面から剥離する様子を説明するための断面模式図である。
【
図2】導電性ペーストを用いて形成した導電性薄膜の比抵抗測定用パターンを示す平面模式図である。
【
図3】導電性ペーストの焼成体のビアホール側面からの剥がれの様子を観察するために、ビアホールのほぼ中心の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により、250倍の倍率で観察したSEM写真の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0024】
本発明のビアホール充填用導電性ペーストは、(A)タップ密度が4.5g/cm3以上の導電性フィラーと、(B)融点が200℃~700℃の金属粉とを含む。本発明の導電性ペーストは、さらに所定のガラスフリットを含むことができる。本発明のビアホール充填用導電性ペーストを用いることにより、ビアホールに充填したときに、ビアホールの側面から剥離するという不具合を低減することができる。
【0025】
以下、本発明の導電性ペーストについて、詳細に説明する。
【0026】
<(A)導電性フィラー>
本発明のビアホール充填用導電性ペーストは、(A)タップ密度が4.5g/cm3以上の導電性フィラーを含む。なお、タップ密度は、5g/cm3以上であることが好ましい。また、タップ密度の上限は、特に制限はないものの、導電性フィラーの材料によって異なる。実用的な点から、例えば、導電性フィラーが銀の場合のタップ密度の上限は、10g/cm3以下であることが好ましく、8g/cm3以下であることがより好ましく、7g/cm3以下であることがさらに好ましい。
【0027】
タップ密度は、次のように測定することができる。すなわち、所定のメスシリンダに、所定重量の導電性フィラーを入れ、タッピング装置で所定回数、タップした後の導電性フィラーの容量を測定することにより、タップ密度を求めることができる。所定のメスシリンダとしては10ml用のものを用いることができる。また、導電性フィラーの所定重量とは、10gであることができる。また、タップ条件として、高さ20mmで、100回/分のタップ速度により、400回タップするという条件を用いることができる。タップ密度測定装置として、例えば、蔵持科学器械製作所製のKRS‐406を用いることができる。本明細書において、タップ密度とは、上述の条件により測定した値とすることができる。
【0028】
導電性フィラーの材料は、特に制限されないが、金属粒子を用いることができる。金属粒子の金属の種類としては、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、スズ(Sn)及びこれらの合金等であることができる。なお、導電性フィラーは、上述の金属材料によって無機材料をコーティングしたものを用いることができる。導電性フィラーは、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
本発明の導電性ペーストは、(A)導電性フィラーが、銀(Ag)粒子であることが好ましい。銀粒子の比抵抗は比較的低いので、(A)導電性フィラーが、銀粒子であることにより、電気抵抗の低いビアホールを形成することができる。
【0030】
導電性フィラーの粒子の形状は、特に限定されず、球状、及びフレーク状(リン片状)等が挙げられる。焼成時に発生するガスが抜けやすい観点から、導電性フィラーの形状は、球状であることが好ましい。
【0031】
導電性フィラーの粒径は、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは1~8μm、さらに好ましくは1~5μmである。導電性フィラーのBET比表面積は、好ましくは0.1~5.0m2/g、より好ましくは0.1~1.5m2/gであり、さらに好ましくは0.1~0.7m2/gである。
【0032】
一般的に、微小粒子の寸法は一定の分布を有するので、すべての導電性フィラーが上記の粒子寸法である必要はなく、全粒子の積算値50%の粒子寸法(平均粒径D50)が上記の粒子寸法の範囲であることが好ましい。本明細書に記載されている導電性フィラー以外の粒子及び粉末の寸法についても同様である。なお、平均粒径D50は、マイクロトラック法(レーザー回折散乱法)によって粒度分布測定を行い、粒度分布測定の結果からD50値を得ることにより求めることができる。
【0033】
<(B)金属粉>
本発明のビアホール充填用導電性ペーストは、(B)融点が200℃~700℃の金属粉を含む。
【0034】
金属粉の材料は、融点が200℃~700℃の金属からなる粉末であれば、特に制限なく用いることができる。金属粉の材料としては、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ビスマス(Bi)及びそれらの合金、並びにそれらの金属とシリコン(Si)との合金を用いることができる。低い融点及び取り扱い性の点から、金属粉として、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ビスマス(Bi)又はアルミニウム(Al)とシリコン(Si)との合金を用いることが好ましい。
【0035】
金属粉は、アルミニウムとシリコンとの合金(AlSi合金)の金属粉であることがさらに好ましい。AlSi合金中のアルミニウムの含有量は、50~95重量%であることが好ましく、70~93重量%であることがより好ましく、80~90重量%であることがさらに好ましく、85~90重量%であることが特に好ましい。AlSi合金は、本発明の効果を妨げない範囲で他の金属を含むことができる。しかしながら、本発明の効果を確実にするために、AlSi合金は、不可避的に混入する他の金属を除き、上述の含有量の範囲のアルミニウム及びシリコンのみからなることが好ましい。
【0036】
金属粉を構成する粒子の形状は、特に限定されず、不定形、球状、及びフレーク状(リン片状)等が挙げられる。
【0037】
金属粉を構成する粒子の粒径(平均粒径D50)は、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは0.5~8μm、さらに好ましくは1~5μmである。
【0038】
本発明の導電性ペーストにおいて、(B)金属粉の含有量は、(A)導電性フィラー100重量部に対して好ましくは0.01~20重量部であり、より好ましくは0.05~10重量部であり、さらに好ましくは0.1~5重量部であり、特に好ましくは0.1~1重量部である。
【0039】
<(C)ガラスフリット>
本発明のビアホール充填用導電性ペーストは、上述の所定の(A)導電性フィラー及び(B)金属粉に加えて、(C)ガラスフリットをさらに含むことができる。ただし、(C)ガラスフリットは任意成分である。したがって、本発明の導電性ペーストは、ガラスフリットを含まないことができる。ガラスフリットは絶縁体であることから、低い電気抵抗のビアを得るためには、ビアホール充填用導電性ペーストは、ガラスフリットを含まないことが好ましい。ただし、ビアホールの側面と、ビアホール内の導電性ペーストの焼成体との間で、より安定した高い密着強度を得るためには、ビアホール充填用導電性ペーストが、ガラスフリットを含むことが好ましい。
【0040】
本発明の導電性ペーストがガラスフリットをさらに含む場合、ガラスフリットは、線膨張係数αが、60×10-7/℃以下であることが好ましく、50×10-7/℃以下であることがより好ましい。本発明の導電性ペーストが、所定の範囲の低い線膨張係数αを有することにより、ビアホールに充填したときに、ビアホールの側面から剥離するという不具合を低減することを、より確実にできる。
【0041】
本発明の導電性ペーストに含まれるガラスフリットの材料は、所定の線膨張係数αを有する限り、特に限定されない。所定の線膨張係数αを有するガラスフリットとして、例えば、亜鉛系ガラスフリット及びアルミニウム系ガラスフリットを挙げることができる。亜鉛系ガラスフリットは、ガラスフリット100質量部に対してZnOを30質量%以上80質量%以下含むガラスフリットであり、好ましくは40質量%以上70質量%以下含む。亜鉛系ガラスフリットは、その他成分として、SiO2、B2O3、Bi2O3、Li2O、Al2O3、及びZrO2等の酸化物を含んでいてもよい。アルミニウム系ガラスフリットは、ガラスフリット100質量部に対してAl2O3を5質量%以上50質量%以下含むガラスフリットであり、好ましくは5質量%以上30質量%以下含む。アルミニウム系ガラスフリットは、その他成分として、SiO2、B2O3、Bi2O3、ZnO、BaO、及びCaO等の酸化物を含んでいてもよい。
【0042】
本発明の導電性ペーストに含まれるガラスフリットとしては、所定の亜鉛系ガラスフリットであることが好ましい。これは、アルミニウム系ガラスフリットに比べ亜鉛系ガラスフリットの方が融点が低いことによる。亜鉛系ガラスフリットの成分組成は、SiO2-B2O3-ZnOであり、ZnO含有率が40~70重量%であることが好ましい。このような亜鉛系ガラスフリットを用いると、導電性ペーストの線膨張係数αを著しく小さくできる。これにより、導電性ペーストとセラミック基板との焼成収縮率の差が小さくなるため、ビアホールの側面と、ビアホール内の導電性ペーストの焼成体との間で、剥離も生じず、より安定した高い密着強度を得ることができる。
【0043】
ガラスフリットの粒子の形状は、特に限定されず、例えば球状、又は不定形等のものを用いることができる。
【0044】
ガラスフリットの軟化点は、好ましくは300℃以上、より好ましくは400℃以上850℃以下である。さらに好ましくは400℃以上700℃以下である。ガラスフリットの軟化点が低いことにより、Agの焼結が促進され、抵抗値が低くなり、セラミックとの密着強度も向上する。ガラスフリットの軟化点は、熱重量測定装置(例えば、BRUKER AXS社製、TG-DTA2000SA)を用いて測定することができる。
【0045】
ガラスフリットの粒径(平均粒径D50)は、好ましくは0.1~20μm、より好ましくは0.2~10μm、最も好ましくは0.5~5μmである。
【0046】
本発明の導電性ペーストにおいて、(C)ガラスフリットの含有量は、(A)導電性フィラー100重量部に対して、好ましくは0.01~5重量部であり、より好ましくは0.05~3重量部であり、さらに好ましくは0.1~1重量部である。
【0047】
<樹脂成分>
本発明の導電性ペーストは、樹脂成分を含むことができる。樹脂成分は、導電性ペースト中において(A)導電性フィラー及び(B)金属粉をつなぎあわせるものである。なお樹脂成分は、導電性ペーストの焼成時に焼失する。樹脂成分としては、特に限定するものではないが、例えば、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0048】
熱可塑性樹脂としては、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、及びヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、及びポリイミド樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は、樹脂成分として、単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。本発明の導電性ペーストに含まれる樹脂成分として、エチルセルロース樹脂を好ましく用いることができる。
【0049】
本発明の導電性ペーストにおいて、樹脂成分の含有量は、(A)導電性フィラー100重量部に対して、好ましくは0.2~30重量部であり、より好ましくは、0.5~5重量部である。導電性ペースト中の樹脂成分の含有量が上記の範囲内の場合、導電性ペーストの基板への印刷性が向上し、微細なパターンを高精度に形成することができる。
【0050】
<その他成分>
本発明の導電性ペーストは、粘度調整等のために、溶媒を含有してもよい。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール及びイソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類、酢酸エチレン等の有機酸類、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のN-アルキルピロリドン類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類、テルピネオール(TEL)、ブチルカルビトール(BC)並びにブチルカルビトールアセテート(BCA)等が挙げられる。
【0051】
溶媒の含有量は、特に限定されない。導電性ペーストを適切な粘度に溶媒の含有量を調整するができる。一般的には、適切な粘度の導電性ペーストを得るために、溶媒の含有量は、(A)導電性フィラー100重量部に対して、好ましくは1~50重量部、より好ましくは2~20重量部、さらに好ましくは5~10重量部である。
【0052】
本発明の導電性ペーストの粘度は、好ましくは50~700Pa・s(せん断速度:4.0sec-1)であり、より好ましくは100~300Pa・s(せん断速度:4.0sec-1)である。導電性ペーストの粘度がこの範囲に調整されることによって、導電性ペーストのセラミック基板上のビアホールへの印刷性及び/又は作業性が良好になり、導電性ペーストを均一にセラミック基板上のビアホールへ印刷することが可能になる。
【0053】
本発明の導電性ペーストは、その他の添加剤、例えば、分散剤、レオロジー調整剤、及び/又は顔料などを含有してもよい。
【0054】
本発明の導電性ペーストは、さらに、可塑剤、及び/又は消泡剤などを含有してもよい。
【0055】
本発明の導電性ペーストは、上記の各成分を、例えば、ライカイ機、ポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、又は二軸ミキサー等を用いて混合することで製造することができる。
【0056】
本発明の導電性ペーストは、一般的な導電性ペーストの用途、例えば、電子部品の回路の形成や電極の形成、電子部品の基板への接合、スルーホール実装、ビア埋め用、及びヒートシンクの形成等に用いることが可能である。例えば、プリント配線板の導体回路の形成に用いることができる。本発明の導電性ペーストをビアホールに充填したときに、ビアホールの側面から剥離するという不具合を低減することができる。したがって、本発明の導電性ペーストは、ビアホール充填用として、特に好ましく用いることができる。
【0057】
本発明の導電性ペーストは、ビアホール充填用として、下記のように用いることができる。すなわち、まず、上記実施形態の導電性ペーストを、例えばセラミック基板(例えば、アルミナ基板、又は窒化アルミニウム基板)のビアホールが形成された部分に塗布する。塗布方法は任意であり、例えば、ディスペンス、ジェットディスペンス、孔版印刷、スクリーン印刷、ピン転写、又はスタンピングなどの公知の方法を用いて塗布することができる。簡便性の観点から、塗布方法はスクリーン印刷であることが好ましい。
【0058】
アルミナ基板、又は窒化アルミニウム基板上の所定の場所に導電性ペーストを塗布した後、基板を焼成炉等に投入する。そして、基板上に塗布された導電性ペーストを、500~1000℃、より好ましくは600~1000℃、さらに好ましくは600~900℃で焼成する。これにより、導電性ペーストに含まれる導電性フィラーが焼結し、金属粉は酸化し、導電性ペーストに含まれる溶剤成分は300℃以下で蒸発し、樹脂成分は400℃~600℃で焼失し、ビアホールの内部に導電性ペーストの焼成体を形成する。得られた焼成体は、ビアホールの側面との密着性を確保することができるので、焼成体が、ビアホールの側面から剥離するという不具合を低減することができる。
【0059】
本発明の導電性ペーストの焼成体が、ビアホールの側面との密着性を確保することの理由は、次のように推論することができる。ただし、本発明はこの推論に拘束されるものではない。
【0060】
本発明の導電性ペーストの焼成体には、所定の(A)導電性フィラー、及び所定の(B)金属粉を含む。導電性フィラーのタップ密度は高いので、焼成の際の熱収縮を抑制することができると考えられる。また、導電性フィラーのタップ密度は高いことにより、ビアホール内の焼結体の比抵抗を下げることにも寄与していると考えられる。また、本発明の導電性ペーストに含まれる所定の金属粉は、融点で溶融し、焼成の際に酸化して、酸化物を形成し、体積膨張すると考えられる。そのため、仮に導電性フィラーの体積が熱収縮したとしても、金属粉が存在することにより、焼成体の体積変化を抑制することができると考えられる。この結果、焼成の際に形成したビアホールの側面との密着性を損なうことなく、焼成工程を終了することができるものと考えられる。このため、(B)金属粉の材料は、融点が200℃~700℃の金属からなる粉末であるが、融点が600℃以下であると、焼成の際の体積膨張がより早く起こるため好ましい。また、導電性ペーストに含まれる樹脂成分の焼失後に(B)金属粉の体積膨張が起こることが好ましいことを考慮すると、金属粉の材料は、融点が450℃~600℃の金属からなる粉末であることが特に好ましい。
【0061】
また、本発明の導電性ペーストが、所定の(C)ガラスフリットを含む場合には、ガラスフリットによりビアホールの側面との密着性を補助することができるものと考えられる。
【0062】
以上述べたことから、本発明の導電性ペーストを用いれば、焼成工程において、焼成体がビアホールの側面から剥離するという不具合を低減することができるものといえる。ただし、本発明は、上述の推論に拘束されるものではない。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
[導電性ペーストの製造]
表2~4に、実施例及び比較例の材料の配合を示す。表2~4に示される配合割合は、(A)導電性フィラー100重量部に対する重量部である。
【0065】
<(A)導電性フィラー>
(A)導電性フィラーとして、下記の銀粒子A1、A2及びA3の3種類を、表2~4に示す配合で用いた。
銀粒子A1: タップ密度6.7g/cm3の銀粒子(平均粒子径D50:3μm、粒子形状:球状)
銀粒子A2: タップ密度5.3g/cm3の銀粒子(平均粒子径D50:5μm、粒子形状:球状)
銀粒子A3: タップ密度4.1g/cm3の銀粒子(平均粒子径D50:1μm、粒子形状:球状)
【0066】
銀粒子A1、A2及びA3のタップ密度は、次のようにして測定した。すなわち、メスシリンダ(10ml用)に、10gの銀粒子を入れ、タッピング装置で400回、タップした。なお、タップは、高さ20mmで、100回/分のタップ速度により行った。タップした後、銀粒子の容量を、メスシリンダの目盛を読み取ることにより、測定した。銀粒子の仕込み量及びタップした後の容量から、タップ密度を得た。測定には、タップ密度測定装置として、蔵持科学器械製作所製のKRS‐406を用いた。
【0067】
<(B)金属粉>
(B)金属粉として、表1に示す金属粉B1~B6の6種類を、表2~4に示す配合で用いた。
【0068】
<(C)ガラスフリット>
ガラスフリットとして、下記のガラスフリットC1~C4の4種類を、表2~4に示す配合で用いた。
ガラスフリットC1: 亜鉛系ガラスフリット(成分組成:SiO2-B2O3-ZnO、ZnO含有率:50~60重量%、線膨張係数α:40×10-7/℃、平均粒径1.1μm、軟化点635℃)
ガラスフリットC2: 亜鉛系ガラスフリット(成分組成:SiO2-B2O3-ZnO、ZnO含有率:60~70重量%、線膨張係数α:40×10-7/℃、平均粒径2μm、軟化点660℃)
ガラスフリットC3: アルミニウム系ガラスフリット(成分組成:SiO2-B2O3-Al2O3、Al2O3、含有率:5~30重量%、線膨張係数α:51×10-7/℃、平均粒径2μm、軟化点775℃)
ガラスフリットC4: アルミニウム系ガラスフリット(成分組成:SiO2-B2O3-Al2O3、Al2O3、含有率:5~30重量%、線膨張係数α:53×10-7/℃、平均粒径2μm、軟化点800℃)
【0069】
<樹脂成分>
実施例及び比較例の導電性ペーストには、樹脂成分として、エチルセルロース樹脂(ダウ・ケミカル製、製品名:エトセル(STD-45))を配合した。表2~4に、エチルセルロース樹脂の配合量を示す。
【0070】
<溶剤>
本発明の実施例及び比較例の導電性ペーストには、溶剤として、ブチルカルビトール(大伸化学株式会社製、製品名:ブチルカルビトール)を配合した。表2~4に、ブチルカルビトールの配合量を示す。
【0071】
次に、上述の所定の重量割合の材料を、プラネタリーミキサーで混合し、さらに三本ロールミルで分散し、ペースト化することによって、実施例及び比較例の導電性ペーストを製造した。得られた実施例及び比較例の導電性ペーストの粘度は、110~150Pa・s(せん断速度:4.0sec-1)だった。いずれも、ビアホールへの導電性ペーストの印刷が可能な粘度だった。
【0072】
[配線の比抵抗の測定]
実施例及び比較例の導電性ペーストを焼成して得られた導電膜の比抵抗(電気抵抗率)を測定した。この比抵抗は、導電性ペーストをビアホールに埋め込み焼成したときの焼成体の比抵抗と同様の値だといえる。
【0073】
実施例及び比較例の比抵抗は、以下の手順で測定した。すなわち、幅20mm、長さ20mm、厚さ1mmのアルミナ基板を準備した。この基板上に、325メッシュのステンレス製スクリーンを用いて、
図2に示すような導電性ペーストからなるパターンを印刷した。
【0074】
次に、基板上に塗布した実施例及び比較例の導電性ペーストからなるパターンを、850℃で10分間キープ、トータル焼成時間60分で焼成し、比抵抗測定用試料を得た。具体的には、所定のパターンを表面に印刷した基板を、焼成炉(光洋サーモシステム株式会社製 メッシュベルト式連続炉)を用いて、大気中で上述の条件により焼成した。焼成後の導電膜パターンの膜厚を測定した。
【0075】
実施例及び比較例の導電性ペーストを加熱して得られた、比抵抗測定用試料の導電膜パターン(
図2参照)の電気抵抗を、東陽テクニカ社製マルチメーター2001型を用いて、4端子法で測定した。得られた電気抵抗値と、電気抵抗値を測定したパターン形状及び膜厚とから、導電膜の比抵抗を算出した。表2~4の「配線の比抵抗」欄に、実施例及び比較例の導電性ペーストの導電膜パターンの測定結果を示す。
【0076】
なお、比抵抗測定用試料として、同じ条件のものを4個作製し、測定値は4個の平均値として求めた。比抵抗が、4.5μΩ・cm以下の場合には、その導電性ペーストをビアホール充填用として使用することが許容できる。比抵抗が、4.0μΩ・cm以下の場合には、その導電性ペーストをビアホール充填用として、良好に使用することができる。比抵抗が、3.5μΩ・cm以下の場合には、その導電性ペーストをビアホール充填用として、特に良好に使用することができる。比抵抗が、3.0μΩ・cm以下の場合には、その導電性ペーストをビアホール充填用として、極めて良好に使用することができる。
【0077】
表2~4から明らかなように、本発明の実施例1~15の導電性ペーストを用いて形成した導電膜の比抵抗は、2.4μΩ・cm(実施例7)~3.5μΩ・cm(実施例9)の範囲だった。したがって、本発明の実施例の導電性ペーストは、ビアホール充填用として、特に良好に使用することができる比抵抗の値だといえる。なお、表4から明らかなように、比較例1~4の導電性ペーストを用いて形成した導電膜の比抵抗も、すべて3.5μΩ・cm以下だった。したがって、比較例1~4の導電性ペーストも、比抵抗の点では問題がないといえる。
【0078】
[ビア埋め後の剥がれの有無]
実施例及び比較例の導電性ペーストを、厚さ270μmのセラミック基板の貫通孔(ビアホール、直径250μm)に、スクリーン印刷法により充填した。ビアホールに充填した導電性ペーストを、850℃で10分間キープ、トータル焼成時間60分で焼成することにより、ビアホール内に焼成体を形成した。具体的には、所定のパターンを表面に印刷した基板を、焼成炉(光洋サーモシステム株式会社製 メッシュベルト式連続炉)を用いて、大気中で上述の温度及び加熱時間の条件により焼成した。
【0079】
焼成体のビアホール側面からの剥がれの様子を観察するために、ビアホールのほぼ中心の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により、250倍の倍率で観察した。
図3に、焼成体のビアホール側面からの剥がれの様子を観察するための、ビアホールの断面のSEM写真の一例を示す。一部でも焼成体がビアホール側面からの剥がれている場合(
図3の右の写真のような場合)には、表2~4の「ビア埋め後の剥がれの有無」欄に「有」と記載した。焼成体がビアホール側面からの剥がれていることが観察されなかった場合(
図3の左の写真のような場合)には、「ビア埋め後の剥がれの有無」欄に「無」と記載した。
【0080】
表2~4から明らかなように、本発明の実施例1~15の導電性ペーストを用いて形成したビアホールの焼成体では、ビアホール側面からの剥がれていることが観察されなかった。したがって、本発明の導電性ペーストを用いることにより、ビアホールに充填したときに、ビアホールの側面から剥離するという不具合を低減することができるといえる。
【0081】
一方、表4から明らかなように、比較例1~4の導電性ペーストを用いて形成したビアホールの焼成体では、少なくとも一部がビアホール側面からの剥がれていることが観察された。したがって、比較例1~4の導電性ペーストを用いた場合には、ビアホールに充填したときに、ビアホールの側面から剥離するという不具合を発生する恐れが高いといえる。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【符号の説明】
【0086】
10 基板
12 ビアホール
20、20b 焼成体
22 表面配線
24 裏面配線