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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】電線接続構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20220831BHJP
   H01B 13/012 20060101ALI20220831BHJP
   H01R 4/02 20060101ALI20220831BHJP
   H01R 4/62 20060101ALI20220831BHJP
   H01R 43/02 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H01B7/00 306
H01B7/00 301
H01B13/012 A
H01R4/02 C
H01R4/62 A
H01R43/02 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017121106
(22)【出願日】2017-06-21
(65)【公開番号】P2019008900
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-02-21
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祥
(72)【発明者】
【氏名】橘 昭頼
(72)【発明者】
【氏名】水戸瀬 賢悟
【合議体】
【審判長】辻本 泰隆
【審判官】小田 浩
【審判官】松永 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-113946(JP,A)
【文献】特開2011-14438(JP,A)
【文献】特開2017-76497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金からなる銅系導体を絶縁被覆で被覆した銅系導体被覆部、および、前記絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記銅系導体を露出させた銅系導体露出部を有する1以上の銅系導体被覆電線と、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆したアルミニウム系導体被覆部、および、前記絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記アルミニウム系導体を露出させたアルミニウム系導体露出部を有する1以上のアルミニウム系導体被覆電線と、
を備え、
前記銅系導体露出部と前記アルミニウム系導体露出部とで超音波接合部を形成してなる電線接続構造体であって、
前記銅系導体および前記アルミニウム系導体を構成する素線の線径は0.05~1mmの範囲であり、
前記銅系導体および前記アルミニウム系導体を構成する素線の本数は7~90本の範囲であり、
前記銅系導体露出部および前記アルミニウム系導体露出部の長さは10~20mmであり、
前記超音波接合部の横断面は方形状であり、前記銅系導体露出部と前記アルミニウム系導体露出部を重ね合わせた状態を崩さずに形状保持されており、
前記超音波接合部は、前記超音波接合部の横断面で見て、方形状の横断面を有する前記銅系導体露出部と、方形状の横断面を有する前記アルミニウム系導体露出部の、それぞれの横断面の1つの辺同士を重ね合わせた箇所のみが超音波接合されており、
前記超音波接合部は、前記超音波接合部の横断面で見て、外表面のうち、少なくとも超音波振動が加圧状態で入力される外表面の部分である振動受面部にて、最表面から測定して50μmの断面厚さの断面領域に占める前記銅系導体の面積率が80%以上であることを特徴とする電線接続構造体。
【請求項2】
銅または銅合金からなる銅系導体を絶縁被覆で被覆した銅系導体被覆部を有する1以上の銅系導体被覆電線と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆したアルミニウム系導体被覆部を有する1以上のアルミニウム系導体被覆電線とを準備し、
前記銅系導体被覆電線の絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記銅系導体を露出させた銅系導体露出部と、前記アルミニウム系導体被覆電線の絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記アルミニウム系導体を露出させたアルミニウム系導体露出部とを形成し、
形成した前記銅系導体露出部および前記アルミニウム系導体露出部を、前記銅系導体露出部が、少なくとも超音波振動が加圧状態で入力される側に位置するように重ね合わせた状態で超音波接合することによって超音波接合部を形成し、
前記銅系導体および前記アルミニウム系導体を構成する素線の線径は0.05~1mmの範囲であり、
前記銅系導体および前記アルミニウム系導体を構成する素線の本数は7~90本の範囲であり、
前記銅系導体露出部および前記アルミニウム系導体露出部の長さは10~20mmであり、
前記超音波接合部の横断面は方形状であり、前記銅系導体露出部と前記アルミニウム系導体露出部を重ね合わせた状態を崩さずに形状保持されており、
前記超音波接合においては、前記超音波接合部の横断面で見て、方形状の横断面を有する前記銅系導体露出部と、方形状の横断面を有する前記アルミニウム系導体露出部の、それぞれの横断面の1つの辺同士を重ね合わせた箇所のみを超音波接合し、
前記超音波接合部は、前記超音波接合部の横断面で見て、外表面のうち、少なくとも超音波振動が加圧状態で入力される外表面の部分である振動受面部にて、最表面から測定して50μmの断面厚さの断面領域に占める前記銅系導体の面積率が80%以上であることを特徴とする電線接続構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部とで形成した超音波接合部を有する電線接続構造体およびその製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
電線同士を電気接続するために相互連結することによって形成される電線接続構造体としては、例えば自動車内に、電源供給や信号伝達のために配索されているワイヤーハーネスが挙げられる。ワイヤーハーネスは、非常に長いものもあり、例えば一つの電源から各装置に電力を送給する際に、一つの電源から一本一本配線したのでは配線本数が多くなってしまい、重くなってしまう。このため、配索された電線は、通常は、軽量化の観点から、電源との接続位置から、各装置に近い位置(手前位置)までは1本の太い線で形成し、各装置の近くになったらジョイントを使って複数本の細い線に分岐させ、さらに、電線を構成する導体として、銅系材料に代わって、軽量なアルミニウム系材料を用いるのが有用である。
【0003】
ジョイント方法としては、例えば溶接する部分を2つの電極で挟んで電流を流し、電気抵抗による発熱と加圧力を利用して金属同士を接合する、いわゆる抵抗溶接法が挙げられる。
【0004】
抵抗溶接法は、接合する電線の導体金属同士がともに銅系材料であれば健全な接合部を比較的容易に形成することができるが、例えばAl系導体とCu系導体のように異種金属同士を接合する場合には、融点が低いAl導体だけが溶融してしまい、融点が高いCu導体が溶融しないため健全な接合部を形成することができず、かかる方法で融点の異なる異種金属同士を接合するには、接合する両金属の融点以上の高温に短時間で加熱しなければならず、接合条件の制御が難しく、また、高温加熱による安全面の問題もあった。
【0005】
このため、異種金属同士を接合する方法として、常温で接合できる超音波接合法が着目されている。例えば特許文献1および2には、絶縁電線の導体を構成する素線同士および素線と金属スリーブ(または金属箔等)とを接合したワイヤーハーネスが記載されている。
【0006】
また、ワイヤーハーネスを構成する部品の点数を少なくする観点から、金属スリーブを用いることなく、銅系導体とアルミニウム系導体とを重ね合わせた状態で直接、超音波接合することが好ましい。
【0007】
しかしながら、銅系導体とアルミニウム系導体とを直接、超音波接合すると、銅系導体とアルミニウム系導体の重ね合わせの状態や条件によっては、超音波接合装置を構成するホーン(ソノトロード)とアンビルのうち、超音波振動を与えるホーンの加圧面に、銅系導体とアルミニウム系導体とで形成した超音波接合部が凝着して引っ付く場合があり、かかる場合、超音波接合部を、超音波接合装置を構成するホーンの加圧面から引き剥がす際に、超音波接合部に大きな引き剥がし力が作用して、超音波接合部にバリ、剥離、割れ等の接合欠陥が生じやすくなって、健全な超音波接合部が安定して形成できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-44887号公報
【文献】特開2009-70769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部とで形成される超音波接合部において発生しがちなバリ、剥離、割れ等の接合欠陥を有効に抑制した電線接続構造体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記問題に対して鋭意検討を行った結果、銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部とで超音波接合部を形成する際に、銅系導体露出部が少なくともホーン側に位置するように、銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部とを重ね合わせて超音波接合を行ったところ、接合後に超音波接合装置を構成するホーンとアンビルとの加圧力(挟持力)を解除してホーンとアンビルを互いに離れる方向に移動させた際に、超音波接合部が、ホーンの加圧面に凝着して引っ付くことがなく、または、ホーンの加圧面に引っ付いたとしても簡単に引き剥がすことができ、超音波接合部を引き剥がす際に発生しやすかったバリ、剥離、割れ等の接合欠陥が有効に抑制されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)銅または銅合金からなる銅系導体を絶縁被覆で被覆した銅系導体被覆部、および、前記絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記銅系導体を露出させた銅系導体露出部を有する1以上の銅系導体被覆電線と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆したアルミニウム系導体被覆部、および、前記絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記アルミニウム系導体を露出させたアルミニウム系導体露出部を有する1以上のアルミニウム系導体被覆電線とを備え、前記銅系導体露出部と前記アルミニウム系導体露出部とで超音波接合部を形成してなる電線接続構造体であって、前記超音波接合部は、横断面で見て、外表面のうち、少なくとも超音波振動が加圧状態で入力される外表面の部分である振動受面部にて、最表面から測定して50μmの断面厚さの断面領域に占める前記銅系導体の面積率が80%以上であることを特徴とする電線接続構造体。
(2)前記超音波接合部は、横断面で見て、外表面のうち、前記振動受面部と、該振動受面部に対向して位置する外表面の部分である対向面部との双方にて、それぞれの最表面から測定して50μmの断面厚さの断面領域に占める前記銅系導体の面積率がいずれも80%以上である、上記(1)に記載の電線接続構造体。
(3)前記超音波接合部は、横断面で見て、外表面全体にて、最表面から測定して50μmの断面厚さの断面領域に占める前記銅系導体の面積率がいずれも80%以上である、上記(1)に記載の電線接続構造体。
(4)銅または銅合金からなる銅系導体を絶縁被覆で被覆した銅系導体被覆部を有する1以上の銅系導体被覆電線と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆したアルミニウム系導体被覆部を有する1以上のアルミニウム系導体被覆電線とを準備し、前記銅系導体被覆電線の絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記銅系導体を露出させた銅系導体露出部と、前記アルミニウム系導体被覆電線の絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記アルミニウム系導体を露出させたアルミニウム系導体露出部とを形成し、形成した前記銅系導体露出部および前記アルミニウム系導体露出部を、前記銅系導体露出部が、少なくとも超音波振動が加圧状態で入力される側に位置するように重ね合わせた状態で超音波接合することによって超音波接合部を形成し、前記超音波接合部は、横断面で見て、外表面のうち、少なくとも超音波振動が加圧状態で入力される外表面の部分である振動受面部にて、最表面から測定して50μmの断面厚さの断面領域に占める前記銅系導体の面積率が80%以上であることを特徴とする電線接続構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銅または銅合金からなる銅系導体を絶縁被覆で被覆した銅系導体被覆部、および、前記絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記銅系導体を露出させた銅系導体露出部を有する1以上の銅系導体被覆電線と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆したアルミニウム系導体被覆部、および、前記絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記アルミニウム系導体を露出させたアルミニウム系導体露出部を有する1以上のアルミニウム系導体被覆電線とを備え、前記銅系導体露出部と前記アルミニウム系導体露出部とで超音波接合部を形成してなる電線接続構造体であって、前記超音波接合部は、横断面で見て、外表面のうち、少なくとも超音波振動が加圧状態で入力される外表面の部分である振動受面部にて、最表面から測定して50μmの断面厚さの断面領域に占める前記銅系導体の面積率が80%以上であることによって、銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部とで形成される超音波接合部に発生しがちなバリ、剥離、割れ等の接合欠陥を有効に抑制した電線接続構造体およびその製造方法の提供が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に従う一の実施形態の電線接続構造体の斜視図である。
図2図2は、図1の電線構造体を構成する超音波接合部を形成する際の銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部の重ね合わせ状態を説明するための図である。
図3図3は、別の実施形態の電線構造体を構成する超音波接合部を形成する際の銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部の重ね合わせ状態を説明するための図である。
図4図4は、他の実施形態の電線構造体を構成する超音波接合部を形成する際の銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部の重ね合わせ状態を説明するための図である。
図5図5は、超音波接合装置を用い、銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部とを重ね合わせて超音波接合する工程を説明するための模式図である。
図6図6は、実施例1の電線接続構造体の超音波接合部を構成する銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部の接合界面を拡大して示した断面SEM写真である。
図7図7は、比較例1の電線接続構造体の超音波接合部を構成する銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部の接合界面を拡大して示した断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に従う実施形態を、図面を参照しながら以下で説明する。図1は、本発明に従う一の実施形態の電線接続構造体の斜視図で示したものである。図示の電線接続構造体1は、銅系導体被覆部11および銅系導体露出部12を有する1以上の銅系導体被覆電線10と、アルミニウム系導体被覆部21およびアルミニウム系導体露出部22を有する1以上のアルミニウム系導体被覆電線20とを備えている。また、電線接続構造体1は、銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22とを互いに重ね合わせた状態で超音波接合することによって形成した超音波接合部30を有している。
【0015】
(電線接続構造体)
本発明の電線接続構造体1は、銅または銅合金からなる銅系導体を絶縁被覆で被覆した銅系導体被覆部11、および、絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで銅系導体を露出させた銅系導体露出部12を有する1以上の銅系導体被覆電線10と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆したアルミニウム系導体被覆部21、および、絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いでアルミニウム系導体を露出させたアルミニウム系導体露出部22を有する1以上のアルミニウム系導体被覆電線20とを備え、銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22とで超音波接合部30を形成し、超音波接合部30は、横断面で見て、外表面31のうち、少なくとも超音波振動が加圧状態で入力される外表面の部分である振動受面部32にて、最表面32aから測定して50μmの断面厚さtの断面領域Rに占める銅系導体12´の面積率が80%以上である。電線接続構造体1を構成する各要素については、以下の通りであり、このような電線接続構造体10は、超音波接合部30に発生しがちなバリ、剥離、割れ等の接合欠陥を有効に抑制することができる。
【0016】
(銅系導体被覆電線)
本発明で使用される銅系導体被覆電線10は、銅または銅合金からなる銅系導体を絶縁被覆で被覆した銅系導体被覆部11、および、絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで銅系導体を露出させた銅系導体露出部12を有している。銅系導体被覆電線10は、例えば、銅系材料からなる複数の素線を束ねて構成された銅系導体が絶縁被覆で被覆された1本の被覆電線であってもよく、あるいは、このような被覆電線を束ねて構成された複数の被覆電線であってもよい。また、銅系導体は、所定の断面積となるように、素線を撚って構成されることが好ましいが、この形態に限定されるものではなく、単線で構成されていてもよい。銅系導体を構成する素線の線径および本数は、特に限定はしないが、例えば素線の線径を0.05~1mmの範囲とし、素線の本数を7~90本の範囲とすることが好ましい。
【0017】
銅系導体は、特に限定されるものではないが、例えば、タフピッチ銅、無酸素銅、りん脱酸素銅などの純銅や、黄銅、りん青銅、コルソン系銅合金(Cu-Ni-Si系合金)等が挙げられる。
【0018】
このような銅または銅合金として、例えばJIS H 3100:2012の規格における合金番号C1000系の純銅、合金番号C2000系のCu-Zn系合金、合金番号C5000系のCu-Sn系合金、合金番号C6000系のCu-Al系合金を用いることができる。
【0019】
絶縁被覆は、絶縁性を有する材料であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ポリ塩化ビニル、架橋ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム等を主成分とするハロゲン系樹脂、または、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、エチレンプロビレンゴム、珪素ゴム、ポリエステル等を主成分とするハロゲンフリー樹脂等を、絶縁被覆を構成する樹脂材として用いることができ、特にポリ塩化ビニル樹脂が使用される。また、必要に応じて、これらの樹脂材に可塑剤や難燃剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0020】
銅系導体被覆部11は、銅系導体が絶縁被覆で被覆した銅系導体被覆電線10において、銅系導体が露出しておらず、絶縁被覆で覆われている銅系導体の部分を意味する。銅系導体被覆部11は、後述する超音波の影響を受けない当初の銅系導体の部分である。
【0021】
銅系導体露出部12は、絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで銅系導体が露出している部分を意味する。銅系導体露出部12は、後述する超音波が印加される銅系導体の部分であり、超音波により、アルミニウム系導体露出部22と共に超音波接合部30を形成する。絶縁被覆を剥ぐ長さは、銅系導体露出部12が、アルミニウム系導体露出部22と超音波接合できる程度の十分な長さを有していれば特に限定されるものではなく、対応するアルミニウム系導体露出部22と接合される領域の範囲に応じて、適宜設定することができる。銅系導体露出部12の長さ、すなわち、絶縁被覆を剥ぐ長さは、例えば、5~25mmが好ましく、10~20mmがより好ましい。
【0022】
(アルミニウム系導体被覆電線)
本発明で使用されるアルミニウム系被覆電線20は、アルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆したアルミニウム系導体被覆部21と、絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いでアルミニウム系導体を露出させたアルミニウム系導体露出部22を有する。アルミニウム系被覆電線20は、例えば、アルミニウム系材料からなる複数の素線を束ねて構成されたアルミニウム系導体が絶縁被覆で被覆された1本の被覆電線であってもよく、あるいは、このような被覆電線を束ねて構成された複数の被覆電線であってもよい。また、アルミニウム系導体は、所定の断面積となるように、素線を撚って構成されることが好ましいが、この形態に限定されるものではなく、単線で構成されていてもよい。アルミニウム系導体を構成する素線の線径および本数は、特に限定はしないが、例えば素線の線径を0.05~1mmの範囲とし、素線の本数を7~90本の範囲とすることが好ましい。
【0023】
アルミニウム系導体は、特に限定されるものではないが、例えば、純アルミニウム(Al)、アルミニウム-マンガン系合金(Al-Mn系合金)、アルミニウム-マグネシウム系合金(Al-Mg系合金)、アルミニウム-マグネシウム-ケイ素系合金(Al-Mg-Si系合金)、アルミニウム-亜鉛-マグネシウム系合金(Al-Zn-Mg系合金)、アルミニウム-銅-マグネシウム系合金(Al-Cu-Mg合金)等のアルミニウム合金を用いることができる。より高い強度が付与される観点から、アルミニウム合金であることが好ましい。
【0024】
このようなアルミニウムまたはアルミニウム合金として、例えば、JIS H 4100:2015の規格における合金番号1050、1060、1070、1100または1200の純アルミニウム、合金番号3003または3203のAl-Mn系合金、合金番号5052、5454、5083または5086のAl-Mg系合金、合金番号6101、6N01、6005A、6060、6061、6063または6082のAl-Mg-Si系合金、合金番号7003、7N01、7005、7020、7050または7075のAl-Zn-Mg系合金、合金番号2014、2014A、2017、2017Aまたは2024のAl-Cu-Mg合金を用いることができる。
【0025】
絶縁被覆は、絶縁性を有する材料であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ポリ塩化ビニル、架橋ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム等を主成分とするハロゲン系樹脂、または、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、エチレンプロビレンゴム、珪素ゴム、ポリエステル等を主成分とするハロゲンフリー樹脂等を、絶縁被覆を構成する樹脂材として用いることができ、特にポリ塩化ビニル樹脂が使用される。また、必要に応じて、これらの樹脂材に可塑剤や難燃剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0026】
アルミニウム系導体被覆部21は、アルミニウム系導体が絶縁被覆で被覆した被覆電線1において、アルミニウム系導体が露出しておらず、絶縁被覆で覆われているアルミニウム系導体の部分を意味する。アルミニウム系導体被覆部21は、後述する超音波の影響を受けない当初のアルミニウム系導体の部分である。
【0027】
アルミニウム系導体露出部22は、絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いでアルミニウム系導体が露出している部分を意味する。アルミニウム系導体露出部22は、後述する超音波が印加されるアルミニウム系導体の部分であり、超音波により、銅系導体露出部12と共に超音波接合部30を形成する。絶縁被覆を剥ぐ長さは、アルミニウム系導体露出部22が、銅系導体露出部12に接合できる程度の十分な長さを有していれば特に限定されるものではなく、対応する銅系導体露出部12と接合する領域の範囲に応じて、適宜設定することができる。アルミニウム系導体露出部22の長さ、すなわち、絶縁被覆を剥ぐ長さは、例えば、5~25mmが好ましく、10~20mmがより好ましい。
【0028】
(超音波接合部)
本発明の電線接続構造体10は、銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22とで形成した超音波接合部30を有している。
【0029】
そして、本発明の構成状の主な特徴は、超音波接合によって形成した超音波接合部30において、銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22の重ね合わせ状態の適正化を図ること、より具体的には、超音波接合部30を、横断面で見て、外表面31のうち、少なくとも超音波振動が加圧状態で入力される外表面の部分である振動受面部32、好ましくは、振動受面部32と、この振動受面部32に対向して位置する外表面の部分(すなわち超音波接合装置のアンビルの加圧面と接触する部分)である対向面部34との双方、さらに好ましくは、超音波接合部30の外表面全体(図7に示す超音波接合部30の外表面を構成する4つの外表面の部分32、34、36および38)にて、最表面32aから測定して50μmの断面厚さtの断面領域Rに占める銅系導体の面積率を80%以上とすることにあり、これによって、超音波接合部30に発生しがちなバリ、剥離、割れ等の接合欠陥を有効に抑制することができる。
【0030】
ここで、超音波接合部30を、振動受面部32にて、最表面32aから測定して50μmの断面厚さtの断面領域Rに占める銅系導体の面積率を80%以上とする理由は、前記面積率が80%以上にすれば、超音波接合部30の振動受面部32の表面を構成する導体露出部の大部分が、銅系導体露出部となり、アルミニウム系導体露出部が、超音波接合装置のホーンと直接接触することがなくなり、超音波接合部30が、ホーンの加圧面に凝着して引っ付くことがなく、または、ホーンの加圧面に引っ付いたとしても簡単に引き剥がすことができるためである。なお、前記断面領域Rに占める銅系導体の面積率は、より好ましくは90%以上である。
【0031】
なお、ここでいう超音波接合部の「振動受面部」は、超音波接合装置のホーンの加圧面が接触し、超音波振動が加圧状態で入力されて形成した超音波接合部の外表面の部分を意味する。
【0032】
加えて、「断面領域R」に関し、超音波接合部の外表面のうち、振動受面部における断面領域Rとは、振動受面部32の最表面32aと、最表面32aから測定して50μmの断面厚さtの位置とで区画された断面領域(図1(b)の斜線で示す領域)を意味し、また、超音波接合部の外表面のうち、振動受面部と、振動受面部に対向して位置する外表面の部分である対向面部との双方における断面領域Rとは、振動受面部32および対向面部の最表面32aと、それぞれの最表面から測定して50μmの断面厚さtとの位置で区画された断面領域(上下に分かれた2つの断面領域)を意味し、さらに、超音波接合部の外表面全体における断面領域Rとは、全ての外表面の最表面32aと、それぞれの最表面から測定して50μmの断面厚さtとの位置で区画された断面領域(環状の断面領域)を意味する。
【0033】
(電線接続構造体の製造方法)
次に、本発明に従う電線接続構造体1の製造方法について説明する。本発明における電線接続構造体1の製造方法は、主に銅系導体被覆電線10とアルミニウム系導体被覆電線20とを準備する工程と、銅系導体露出部およびアルミニウム系導体露出部を形成する工程と、銅系導体露出部およびアルミニウム系導体露出部を超音波接合して超音波接合部を形成する工程とを含み、超音波接合部は、横断面で見て、外表面のうち、少なくとも超音波振動が加圧状態で入力される外表面の部分である振動受面部にて、最表面から測定して50μmの断面厚さの断面領域に占める前記銅系導体の面積率を80%以上とするものである。
【0034】
(各被覆電線を準備する工程)
まず、銅系導体を絶縁被覆で被覆した銅系導体被覆部11を有する銅系導体被覆電線10と、アルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆したアルミニウム系導体被覆部21を有するアルミニウム系導体被覆電線20とを準備する。銅系導体被覆電線10を構成する銅系導体および絶縁被覆、ならびにアルミニウム系被覆電線20を構成するアルミニウム系導体および絶縁被覆は、それぞれ上述した材料を使用することができ、絶縁被覆は、ポリ塩化ビニル樹脂であることが好ましい。また、銅系導体は、特に限定されるものではないが、銅系材料からなる複数の素線を撚り合わせて束ねて構成された銅系導体が好ましい。例えば、銅系素線を7本撚り合わせて束ねて構成された0.13sq(0.13mm)のサイズ(太さ)の銅系導体を使用することができる。また、アルミニウム系導体は、特に限定されるものではないが、アルミニウム系材料からなる複数の素線を撚り合わせて束ねて構成されたアルミニウム系導体が好ましい。例えば、アルミニウム系素線を7本撚り合わせて束ねて構成された0.75sq(0.75mm)のサイズ(太さ)のアルミニウム系導体を使用することができる。
【0035】
(各導体露出部を形成する工程)
次に、銅系導体被覆電線およびアルミニウム系導体被覆電線は、それぞれ絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで露出された銅系導体露出部12およびアルミニウム系導体露出部22を形成する。絶縁被覆を剥ぐ手段は特に限定されるものではないが、例えば、ワイヤーストリッパーなどの工具または機器を使用することができる。絶縁被覆を剥ぐ長さは、両被覆電線10および20は、それぞれ導体露出部12および22の超音波接合する領域の範囲に応じて、適宜設計することができ、例えば、5~25mmが好ましく、10~25mmが特に好ましい。
【0036】
(超音波接合部を形成する工程)
さらに、形成した銅系導体露出部12およびアルミニウム系導体露出部22を、銅系導体露出部12が、少なくとも超音波振動が加圧状態で入力される側に位置するように重ね合わせた状態で超音波接合することによって超音波接合部30を形成する。
【0037】
銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22の重ね合わせの好適な実施形態を図2図4に示す。
【0038】
図2は、複数本(図2では5本)の素線を横並びに整列させて形成したアルミニウム系導体露出部22の上下いずれかの一方の面側(図2では下面側)に、複数本(図2では5本)の素線を横並びに整列させて形成した銅系導体露出部12を重ね合わせ、アルミニウム系導体露出部22の他方の面(図2では下面側)が、超音波接合装置のアンビルの加圧面と接触するように配置し、銅系導体露出部12が超音波接合装置のホーンの加圧面と接触するように配置した場合を示す。
【0039】
図3は、アルミニウム系導体露出部22の上下両面側(図2では上下面側)に、銅系導体露出部12を重ね合わせ、銅系導体露出部12が、超音波接合装置のホーンの加圧面およびアンビルの加圧面の双方と接触するように配置した場合を示す。
【0040】
図4は、アルミニウム系導体露出部22の全面(図4では上下左右の4面)に、これを取り囲むように銅系導体露出部12を重ね合わせ、銅系導体露出部12が、超音波接合装置のホーンの加圧面、アンビルの加圧面、および超音波接合部の両側面と接触するワーク保持治具(グライディングジョー)の内面と接触するように配置した場合を示す。
【0041】
なお、銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22の重ね合わせは、銅系導体露出部12を構成する素線の束や、アルミニウム系導体露出部22を構成する素線の束を、予め接合しておいてから接合された各導体露出部12、22同士を重ね合わせてもよい。
【0042】
超音波接合は、銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22を重ね合わせた状態で垂直方向に加圧力を与えながら、銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22との接合面40に平行な超音波振動を印加することにより行われる。一般に、アルミニウムは、空気中の酸素に一瞬でも触れると表面に強靭な酸化被膜を形成することが知られており、また、金属表面は、油や埃などの物質による汚れが付着していることがある。超音波振動によって銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22との界面同士が摩擦により互いに擦れ合い、接合面40の酸化被膜や付着物が取り除かれ、清浄な接合面に、活性化した金属分子が現れる。さらに超音波振動を与えると、摩擦熱による加熱から金属原子の運動が盛んになり、拡散による金属原子の移動が発生する。そして、相互の金属部材間に強力な引力が発生し、銅系導体露出部12における銅系金属と、アルミニウム系導体露出部22におけるアルミニウム系金属とが固相状態で接合する。
【0043】
このような超音波接合は、銅系導体露出部12における銅系金属と、アルミニウム系導体露出部22におけるアルミニウム系金属が固相状態で接合されるため、互いの金属が溶融する温度までは上昇せず、比較的低温(通常、母材溶融温度の35~50%程度)で行うことができる。一方、銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22との接合面40に平行な超音波振動を印加すると、超音波振動による微視的なせん断変形が生じ、これにより、銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22とから構成される超音波接合部30が形成される。
【0044】
図5は、超音波接合装置40を用いて、銅系導体被覆電線10とアルミニウム導体被覆電線22とを重ね合わせた後、その状態で、銅系導体露出部22とアルミニウム系導体露出部12との界面を超音波接合し、接合面40をもつ超音波接合部30を形成する工程を説明するための模式図である。
【0045】
超音波接合装置40は、例えば図5に示すように、ホーン41の加圧面を銅系導体露出部12の外表面に対向させ、アンビル42の加圧面をアルミニウム系導体露出部22の加圧面と対向させるように配置し、重ね合わせた状態の銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22とを、上下方向からホーン41およびアンビル42で挟持するとともに、左右両側にはワーク保持治具(グライディングジョー)43を配置して、重ね合わせた状態が崩れないように形状保持を行なう。そして、超音波接合装置40は、ホーン41により、長手方向X(図5中の矢印A1)に振動する超音波振動を発振させると同時に、アンビル42によりアルミニウム系導体露出部22側から加圧方向Z(図5中の矢印A2)に加圧して押さえ込むことにより超音波接合を行うことができる。印加される超音波のエネルギーは、特に限定はしないが、200~540Ws(J)が好ましく、300~450Wsがより好ましい。また、超音波接合において、重ね合わせた状態の銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22に垂直方向に与えられる加圧力は、使用される銅系導体被覆電線10の銅系導体と、アルミニウム系導体被覆電線20のアルミニウム系導体に応じて調整することができ、例えば1~1000kPaが好ましく、50~500kPaがより好ましい。
【0046】
このようにして超音波接合装置40が動作することにより、ホーン41から発振される超音波振動が、銅系導体露出部12の内部を加圧方向Z(図2中の矢印A31)に伝搬する結果、銅系導体露出部12から接合面40となる界面を介してアルミニウム系導体露出部22の内部を加圧方向Z(図2中の矢印A32)に伝搬され、界面周辺に接合面40が形成される結果、超音波接合部30が形成されることになる。ホーン41の加圧面に銅系導体露出部12が接触するようにして超音波接合を行なうことにより、超音波接合部30が、ホーン41の加圧面に凝着して引っ付くことがなく、または、ホーン41の加圧面に引っ付いたとしても簡単に引き剥がすことができ、超音波接合部を引き剥がす際に発生しやすかったバリ、剥離、割れ等の接合欠陥を有効に抑制することができる。
【0047】
なお、上述した実施形態は、本発明のいくつかの代表的な実施形態を例示したにすぎず、本発明の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【実施例
【0048】
以下の実施例に基づき、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1~10および比較例1~5)
表1に示される組成を有する銅系導体を、ポリ塩化ビニルの絶縁被膜で被覆することにより銅系導体被覆電線10と、表1に示される組成を有するアルミニウム系導体を、ポリ塩化ビニルの絶縁被膜で被覆することによりアルミニウム系導体被覆電線20を準備した。次に、各被覆電線10、20の先端側をワイヤーストリッパーによりそれぞれ約1.5cm剥いで、銅系導体が露出した銅系導体露出部12、アルミニウム系導体が露出したアルミニウム系導体露出部22を形成した。形成した銅系導体被覆電線10の銅系導体露出部12と、アルミニウム系導体被覆電線20のアルミニウム系導体露出部22を重ね合わせた後、銅系導体露出部12がホーンの加圧面側に位置するような重ね合わせた状態で、市販の超音波接合装置の受け台(ホーン側)上に設置した。重ね合わせた状態の銅系導体露出部12とアルミニウム系導体露出部22をホーンとアンビルで挟持した状態で、垂直方向に100kPaの加圧力を与えながら、表1に示す接合条件により超音波を印加し、超音波接合によって一体化した超音波接合部を形成した。重ね合わせ状態については、図2の重ね合わせ状態を(銅系導体露出部の)片面配置型、図3の重ね合わせ状態を両面配置型、図4の重ね合わせ状態を全面配置型とし、銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部とがランダムに混合配置された重ね合わせ状態をランダム配置型として表1に示す。このようにして得られた超音波接合部について、表面外観のおけるバリ発生の有無と剥離の有無を目視により観察し、さらに、走査型電子顕微鏡(SEM)により断面を観察し、剥離と割れの有無を観察した。表2にそれらの観察結果を示す。
【0050】
〈断面領域Rに占める銅系導体の面積率の算出方法〉
切断、研磨などにより超音波接合部の中央位置で切断して得られた横断面を観察できる状態にし、EPMAまたはSEM-EDXを用いて銅とアルミニウムの元素マッピングを行う。マッピングの結果から、銅とアルミニウム領域が鮮明にプロットされ、さらに画像処理することによって、断面領域Rに占める銅系導体の面積率(%)を求める。
【0051】
(評価方法)
<表面外観評価>
1.バリの有無の評価方法
超音波接合部の表面を目視または顕微鏡により観察し、長さ1mmを超える突出部が存在する場合には、バリが「あり」と判定した。また、長さ0.1mm以上1mm以下の突出部が存在する場合には、バリが「軽微」と判定した。
【0052】
2.剥離の有無の評価方法
超音波接合部の表面を目視または顕微鏡により観察し、連続して10mm以上の掘削部が認められる場合には、剥離が「あり」と判定した。また、掘削部が1mm以上10mm以下の場合には、剥離が「軽微」と判定した。
【0053】
<断面評価>
1.剥離の有無の評価方法
切断、研磨などにより超音波接合部の中央位置で切断して得られた横断面を観察できる状態とし、顕微鏡またはSEMによる観察により線材間に連続して線材直径の半分以上の乖離がある場合には、剥離が「あり」と判定した。
【0054】
2.割れの有無の評価方法
切断、研磨などにより超音波接合部の中央位置で切断して得られた横断面を観察できる状態とし、顕微鏡またはSEMによる観察により線材内部に発生した亀裂が連続して線材直径の半分以上である場合には、割れが「あり」と判定した。
【0055】
表2にこれらの評価結果を示す。
【0056】
<総合評価>
上記の表面外観評価および断面評価の結果を考慮して、総合評価を行った。総合評価は、表面外観評価でバリと剥離が無く、断面評価で剥離と割れが無い場合を「◎」、表面外観評価でバリまたは剥離が軽微であり、断面評価が剥離と割れが無い場合に「○」、そして、表面外観評価におけるバリと剥離、断面評価における剥離と割れのいずれかが認められる場合を「×」とし、本実施例では「◎」および「○」を合格レベルとした。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示す評価結果から、実施例1~3および5は、超音波接合部の表面には軽微なバリまたは剥離が認められたものの、超音波接合部の断面には剥離と割れが発生しておらず、合格レベルの超音波接合部が得られていることがわかる。また、実施例4および6~10は、超音波接合部の表面におけるバリおよび剥離や、超音波接合部の断面における剥離および割れのいずれも発生しておらず、健全な超音波接合部が得られていることがわかる。これに対し、少なくともホーン側にAl系導体とCu系導体をランダムに混在させて配置した、いわゆるランダム配置型の比較例1~5は、断面領域Rに占める銅系導体の面積率が、いずれも80%未満と低く、得られた超音波接合部には、表面および断面ともに剥離等の欠陥が認められ、合格レベルに達していなかった。
【0060】
また、実施例1および比較例1については、電線接続構造体の超音波接合部を構成する銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部の接合面を拡大して示した断面SEM写真でを、それぞれ図6および図7に示す。図6および図7から明らかなように、実施例1は、接合面での剥離の発生や割れの発生が認められず、健全な超音波接合部が得られているのに対し、比較例1は、接合面の一部に剥離が認められ、また、アルミニウム導体露出部内の数箇所に割れ(クラック)が発生していた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の電線接続構造体は、銅系導体露出部とアルミニウム系導体露出部とで形成される超音波接合部に発生しがちなバリ、剥離、割れ等の接合欠陥が有効に抑制され、健全な超音波接合部が安定して形成できるため、自動車用ワイヤーハーネスのコネクタ等に好適に用いられる他、電子機器同士の配線や、多くの電気配線を必要とする多様な機械装置等にも使用できるなど、あらゆる分野での適用が期待できる。
【符号の説明】
【0062】
1 電線接続構造体
10 銅系導体被覆電線
11 銅系導体被覆部
12 銅系導体露出部
20 アルミニウム系導体被覆電線
21 アルミニウム系導体被覆部
22 アルミニウム系導体露出部
30 超音波接合部
32 振動受面部(または外表面の部分)
33 接合面
34、36、38 外表面の部分
40 超音波接合装置
41 ホーン(またはソノトロード)
42 アンビル
43 ワーク保持治具(グライディングジョー)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7