(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 141/10 20060101AFI20220831BHJP
C10M 137/04 20060101ALN20220831BHJP
C10M 137/02 20060101ALN20220831BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20220831BHJP
C10M 133/16 20060101ALN20220831BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20220831BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220831BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220831BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
C10M141/10
C10M137/04
C10M137/02
C10M137/10 Z
C10M133/16
C10M137/10 A
C10N10:04
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:25
(21)【出願番号】P 2019065481
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】宇高 俊匡
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-151502(JP,A)
【文献】特開2003-113391(JP,A)
【文献】特開2018-095751(JP,A)
【文献】特開2013-203948(JP,A)
【文献】国際公開第2005/035701(WO,A1)
【文献】特表2008-533291(JP,A)
【文献】特開2009-108157(JP,A)
【文献】国際公開第2005/095558(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)、下記一般式(b-1)~(b-3)のいずれかで表されるリン系化合物(B)
、ホウ素変性のアルケニルコハク酸イミド(C)
、及び非ホウ素変性のアルケニルコハク酸イミド(D)を含み、
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)に由来する亜鉛原子の含有量が500質量ppm未満である、内燃機関用の潤滑油組成物
であって、
成分(B)に由来するリン原子と、成分(C)に由来するホウ素原子との含有量比〔P/B〕が、質量比で、1.0~4.0であり、
成分(C)及び成分(D)に由来する窒素原子の合計含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、60~4000質量ppmであり、
硫酸灰分が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.10~1.30質量%である、
潤滑油組成物。
【化1】
[上記式(b-1)及び(b-2)中、R
1~R
3及びR
4~R
6は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数10~30のアルキル基、炭素数10~30のアルケニル基、又は、アルキルフェニル基(当該アルキル基の炭素数は1~6)である。ただし、R
1~R
3の少なくとも一つ、及び、R
4~R
6の少なくとも一つは、それぞれ、前記アルキル基、前記アルケニル基又は前記アルキルフェニル基である。
また、上記式(b-3)中、R
7~R
9は、それぞれ独立に、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルケニル基、アルキルフェニル基(当該アルキル基の炭素数は1~6)、又は、-(CH
2)
n-COOR
a(R
aは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、nは1~20の数)で表される基である。X
1~X
4は、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子であり、X
1~X
4の少なくとも一つは硫黄原子である。]
【請求項2】
成分(B)のリン原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、10~1500質量ppmである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
成分(C)のホウ素原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、100~1000質量ppmである、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
さらに金属系清浄剤(E)を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を用いた、内燃機関。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を内燃機関に用いる、潤滑油組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下、「ZnDTP」ともいう)は、優れた耐摩耗性及び酸化防止性を有し、内燃機関用潤滑油を始め、様々な用途の潤滑油組成物に不可欠な添加剤として使用されている。
一方で、ZnDTPは、それ自体が酸化又は熱分解することで、潤滑油組成物中にチオリン酸や硫酸が生成し、潤滑油組成物の酸価や粘度の上昇を引き起こし、劣化を促進させてしまうという問題がある。また、潤滑油組成物に含まれる亜鉛原子は、燃焼ガスと共に燃焼室から排出された際に、排ガス後処理装置の触媒を劣化させてしまう要因ともなることが知られている。
そのため、近年、ZnDTPを使用しない内燃機関用潤滑油組成物の検討がされている。
【0003】
例えば、特許文献1の実施例には、潤滑油基油に、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート等のリン酸トリエステル、ポリブテニルコハク酸イミド、アルカリ土類金属系清浄剤、並びに、フェノール系及びアミン系の酸化防止剤を所定量含有する内燃機関用潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況において、各種性能が良好である新たな潤滑油組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の潤滑油組成物は、基油、特定の置換基及び構造を有するリン系化合物、及びホウ素変性のアルケニルコハク酸イミドを含み、亜鉛原子の含有量が500質量ppm未満である潤滑油組成物を提供する。
【0007】
本発明は、例えば、下記[1]~[10]の態様に係る潤滑油組成物、内燃機関、及び潤滑油組成物の使用を提供する。
[1]基油(A)、下記一般式(b-1)~(b-3)のいずれかで表されるリン系化合物(B)、及びホウ素変性のアルケニルコハク酸イミド(C)を含み、
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)に由来する亜鉛原子の含有量が500質量ppm未満である、内燃機関用の潤滑油組成物。
【化1】
[上記式(b-1)及び(b-2)中、R
1~R
3及びR
4~R
6は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数10~30のアルキル基、炭素数10~30のアルケニル基、又は、アルキルフェニル基(当該アルキル基の炭素数は1~6)である。ただし、R
1~R
3の少なくとも一つ、及び、R
4~R
6の少なくとも一つは、それぞれ、前記アルキル基、前記アルケニル基又は前記アルキルフェニル基である。
また、上記式(b-3)中、R
7~R
9は、それぞれ独立に、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルケニル基、アルキルフェニル基(当該アルキル基の炭素数は1~6)、又は、-(CH
2)
n-COOR
a(R
aは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、nは1~20の数)で表される基である。X
1~X
4は、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子であり、X
1~X
4の少なくとも一つは硫黄原子である。]
[2]成分(B)のリン原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、10~1500質量ppmである、上記[1]に記載の潤滑油組成物。
[3]成分(C)のホウ素原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、100~1000質量ppmである、上記[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4]成分(B)に由来するリン原子と、成分(C)に由来するホウ素原子との含有量比〔P/B〕が、質量比で、1.0~4.0である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[5]さらに非ホウ素変性のアルケニルコハク酸イミド(D)を含む、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[6]成分(C)及び成分(D)に由来する窒素原子の合計含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、60~4000質量ppmである、上記[5]に記載の潤滑油組成物。
[7]さらに金属系清浄剤(E)を含む、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[8]硫酸灰分が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.10~1.30質量%である、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[9]上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を用いた、内燃機関。
[10]上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を内燃機関に用いる、潤滑油組成物の使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明の好適な一態様の潤滑油組成物は、耐摩耗性、ロングドレイン性、及び排ガス後処理装置の触媒の劣化抑制性等の各種性状の少なくとも一つに優れており、特に好適な態様においては、耐摩耗性及びロングドレイン性に優れるため、内燃機関の潤滑に好適に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出された値を意味する。
リン原子、ホウ素原子、亜鉛原子、カルシウム原子の含有量は、JPI-5S-38-92に準拠して測定された値を意味する。
窒素原子の含有量は、JIS K2609:1998に準拠して測定された値を意味する。
硫黄原子の含有量は、JIS K2541-6:2013に準拠して測定された値を意味する。
【0010】
〔潤滑油組成物の構成〕
本発明の潤滑油組成物は、基油(A)、リン系化合物(B)、及びホウ素変性のアルケニルコハク酸イミド(C)を含み、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)に由来する亜鉛原子の含有量が500質量ppm未満に調製されたものである。
上述のとおり、ZnDTPは、それ自体が酸化又は熱分解することで、潤滑油組成物中にZnDTPに由来するチオリン酸や硫酸が生成し、潤滑油組成物の酸価や粘度の上昇を引き起こし、ロングドレイン性の低下の要因となり易い。また、ZnDTPの亜鉛原子は、燃焼ガスと共に燃焼室から排出された際に、排ガス後処理装置の触媒を劣化させてしまう要因ともなる。
そこで、本発明の潤滑油組成物は、ZnDTPに由来する亜鉛原子の含有量が500質量ppm未満となるように調製し、ZnDTPの含有量を制限している。
【0011】
一方で、ZnDTPは耐摩耗剤として知られている。そのため、特許文献1に記載されたような、ZnDTPを使用しない潤滑油組成物は、耐摩耗性の低下が問題となる。
しかしながら、本発明の潤滑油組成物は、成分(B)として、特定の置換基及び構造を有するリン系化合物と、成分(C)として、ホウ素変性のアルケニルコハク酸イミドを共に含有することで、優れた耐摩耗性を発現させることができる。また、本発明の潤滑油組成物において、この耐摩耗性の向上効果は、ZnDTPを用いた場合に比べても、格段に向上し得ることも分かった。
【0012】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、ZnDTPに由来する亜鉛原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、ロングドレイン性や排ガス後処理装置の触媒の劣化抑制性に優れた潤滑油組成物とする観点から、500質量ppm未満であるが、好ましくは400質量ppm未満、より好ましくは350質量ppm未満、より好ましくは200質量ppm未満、更に好ましくは100質量ppm未満、より更に好ましくは10質量ppm未満、特に好ましくは5質量ppm未満である。
【0013】
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに非ホウ素変性のアルケニルコハク酸イミド(D)及び金属系清浄剤(E)の少なくとも一方を含有することが好ましく、成分(D)及び(E)を共に含有することが好ましい。
また、本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記成分(B)~(E)以外の潤滑油用添加剤をさらに含有してもよい。
【0014】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)、(B)及び(C)の合計含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは75質量%以上である。
【0015】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)の合計含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上である。
【0016】
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0017】
<基油(A)>
本発明の一態様で用いる基油(A)としては、鉱油及び合成油から選ばれる1種以上が挙げられる。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;等が挙げられる。
【0018】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(GTL)等が挙げられる。
【0019】
本発明の一態様で用いる基油(A)としては、API(米国石油協会)基油カテゴリーのグループ2及びグループ3に分類される鉱油、並びに合成油から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の一態様で用いる基油(A)の100℃における動粘度としては、好ましくは2.5~18.0mm2/s、より好ましくは4.0~15.0mm2/s、更に好ましくは5.5~13.0mm2/s、より更に好ましくは7.0~11.5mm2/sである。
【0021】
また、本発明の一態様で用いる基油(A)の粘度指数としては、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上、より更に好ましくは100以上である。
なお、本発明の一態様において、基油(A)として、2種以上の基油を組み合わせた混合油を用いる場合、当該混合油の動粘度及び粘度指数が上記範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは50~99.5質量%、より好ましくは60~99.0質量%、更に好ましくは65~98.0質量%、より更に好ましくは70~97.0質量%である。
【0023】
<リン系化合物(B)>
本発明の潤滑油組成物は、下記一般式(b-1)~(b-3)のいずれかで表されるリン系化合物(B)を含有する。
成分(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
【0025】
上記式(b-1)及び(b-2)中、R1~R3及びR4~R6は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数10~30のアルキル基、炭素数1~30のアルケニル基、又は、アルキルフェニル基(当該アルキル基の炭素数は1~6)である。ただし、R1~R3の少なくとも一つ、及び、R4~R6の少なくとも一つは、前記アルキル基、前記アルケニル基又は前記アルキルフェニル基である。
また、上記式(b-3)中、R7~R9は、それぞれ独立に、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルケニル基、アルキルフェニル基(当該アルキル基の炭素数は1~6)、又は、-(CH2)n-COORa(Raは水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、nは1~20の数)で表される基である。X1~X4は、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子であり、X1~X4の少なくとも一つは硫黄原子である。
【0026】
特定の置換基及び構造を有する、前記一般式(b-1)~(b-3)のいずれかで表されるリン系化合物(B)は、ZnDTPに代えて、潤滑油組成物の耐摩耗性の向上に寄与する成分である。また、これらのリン系化合物(B)は、成分(C)と併用することで、ZnDTPを用いた場合に比べても、耐摩耗性をより向上させ得ることも分かった。そのため、本発明の潤滑油組成物は、ロングドレイン性に良好としつつ、優れた耐摩耗性をより効果的に発現させることができる。
【0027】
R1~R3、R4~R6及びR7~R9として選択し得る、前記アルキル基の炭素数は、10~30であるが、好ましくは10~24、より好ましくは10~20、更に好ましくは12~18である。
当該アルキル基としては、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、イコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
なお、当該アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
【0028】
R1~R3、R4~R6及びR7~R9として選択し得る、前記アルケニル基の炭素数は、10~30であるが、好ましくは10~24、より好ましくは10~20、更に好ましくは12~18である。
当該アルケニル基としては、例えば、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられる。
なお、当該アルケニル基は、直鎖アルケニル基であってもよく、分岐鎖アルケニル基であってもよい。
【0029】
R1~R3、R4~R6及びR7~R9として選択し得る、前記アルキルフェニル基が有するアルキル基の炭素数は、1~6であるが、好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。
当該アルキルフェニル基が有するアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基)、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
なお、当該アルキルフェニル基が有するアルキル基の数は、少なくとも1つであるが、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、更に好ましくは1である。
【0030】
さらに、前記一般式(b-3)において、R7~R9の選択し得る基の一つである、式:-(CH2)n-COORa中のRaは、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であるが、当該アルキル基としては、前記アルキルフェニル基が有するアルキル基の上述の例示に加えて、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
また、上記式中のnは、1~20の数であるが、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、更に好ましくは1~3である。
【0031】
前記一般式(b-1)において、R1~R3の少なくとも一つは、前記アルキル基、前記アルケニル基又は前記アルキルフェニル基であるが、R1~R3の少なくとも二つが、それぞれ独立に、前記アルキル基、前記アルケニル基又は前記アルキルフェニル基であることが好ましいく、R1~R3が、それぞれ独立に、前記アルキルフェニル基であることがより好ましい。
【0032】
また、前記一般式(b-2)において、R4~R6の少なくとも一つは、前記アルキル基、前記アルケニル基又は前記アルキルフェニル基であるが、R4~R6の少なくとも二つが、それぞれ独立に、前記アルキル基、前記アルケニル基又は前記アルキルフェニル基であることが好ましく、R4~R6の少なくとも二つが、それぞれ独立に、前記アルキル基又は前記アルケニル基であることがより好ましい。
【0033】
さらに、前記一般式(b-3)で表されるリン系化合物は、下記一般式(b-3-1)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】
【0034】
上記式(b-3-1)中、R7、R8、Ra及びnは、前記一般式(b-3)における定義と同じであるが、R7及びR8は、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルケニル基、又はアルキルフェニル基(当該アルキル基の炭素数は1~6)であることが好ましく、炭素数1~30のアルキル基であることがより好ましい。
【0035】
前記一般式(b-3-1)で表される化合物としては、下記式(b-3-2)で表されるジチオリン酸O,O-ジイソプロピルS-(2-エトキシカルボニルエチル)が好ましい。
【化4】
【0036】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)として、前記一般式(b-3)で表されるリン系化合物を含有する場合、当該リン系化合物に由来する硫黄原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは500~3500質量ppm、より好ましくは1000~3000質量ppm、更に好ましくは1500~2500質量ppmである。
【0037】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)のリン原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、耐摩耗性及びロングドレイン性をバランス良く向上させた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは10~1500質量ppm、より好ましくは50~1350質量ppm、更に好ましくは100~1250質量ppmである。
【0038】
ここで、成分(B)が、前記一般式(b-1)で表される中性リン酸エステル及び前記一般式(b-2)で表される中性亜リン酸エステルから選ばれる1種以上の中性リン系化合物(B1)を含む場合、成分(B1)のリン原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、上記観点から、より更に好ましくは150~1000質量ppm、特に好ましくは150~500質量ppmである。
なお、前記「中性リン酸エステル」とは、前記一般式(b-1)中のR1~R3がいずれも水素原子ではない化合物を指し、前記「中性亜リン酸エステル」とは、前記一般式(b-2)中のR4~R6がいずれも水素原子ではない化合物を指す。
【0039】
成分(B)が、前記一般式(b-1)で表される酸性リン酸エステル、前記一般式(b-2)で表される酸性亜リン酸エステル、及び前記一般式(b-3)で表されるリン系化合物から選ばれる1種以上のリン系化合物(B2)を含む場合、成分(B2)のリン原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、上記観点から、更に好ましくは200~1200質量ppm、より更に好ましくは300~1100質量ppm、特に好ましくは500~1000質量ppmである。
なお、前記「酸性リン酸エステル」とは、前記一般式(b-1)中のR1~R3の1つ又は2つが水素原子である化合物を指し、前記「中性亜リン酸エステル」とは、前記一般式(b-2)中のR4~R6の1つ又は2つが水素原子である化合物を指す。
【0040】
なお、成分(B)の配合量(含有量)は、配合するリン系化合物の種類に応じて適宜設定されるが、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.10~7.0質量%、より好ましくは0.20~5.0質量%、更に好ましくは0.30~3.0質量%、より更に好ましくは0.50~2.0質量%である。
【0041】
<ホウ素変性のアルケニルコハク酸イミド(C)>
本発明の潤滑油組成物は、成分(B)と共に、ホウ素変性のアルケニルコハク酸イミド(C)を含有する。
成分(C)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
成分(C)は、潤滑油組成物中にて、成分(B)を含む添加剤を均一に分散させる機能を有する。特に、成分(C)は、成分(B)を均一に分散させる効果が高いと推測され、成分(B)が有する耐摩耗性の向上機能を、より効果的に発現できると考えられる。また、成分(C)は、潤滑油組成物のロングドレイン性の向上にも寄与する。
【0043】
本発明の一態様で用いる成分(C)としては、下記一般式(1)で表されるアルケニルコハク酸モノイミドをホウ素変性してなるホウ素化物、もしくは、下記一般式(2)で表されるアルケニルコハク酸ビスイミドをホウ素変性してなるホウ素化物の少なくとも一方を含むことが好ましく、下記一般式(1)で表されるアルケニルコハク酸モノイミドをホウ素変性してなるホウ素化物を少なくとも含むことがより好ましい。
【0044】
【0045】
上記一般式(1)及び(2)中、RA、RA1及びRA2は、それぞれ独立に、質量平均分子量(Mw)が500~3000(好ましくは1000~3000)のアルケニル基である。
RB、RB1及びRB2は、それぞれ独立に、炭素数2~5のアルキレン基である。
x1は1~10の整数であり、好ましくは2~5の整数、より好ましくは3又は4である。
x2は0~10の整数であり、好ましくは1~4の整数、より好ましくは2又は3である。
【0046】
RA、RA1及びRA2して選択し得る、前記アルケニル基としては、例えば、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられ、これらの中でも、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基が好ましい。
【0047】
ホウ素変性のアルケニルコハク酸イミド(C)は、例えば、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物を、ポリアミン及びホウ素化合物と反応させることで製造することができる。
前記ポリオレフィンは、例えば、炭素数2~8のα-オレフィンから選ばれる1種又は2種以上を重合して得られる重合体が挙げられるが、イソブテンと1-ブテンとの共重合体が好ましい。
前記ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン等の単一ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、及びペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン;アミノエチルピペラジン等のピペラジン誘導体;等が挙げられる。
前記ホウ素化合物としては、例えば、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、ホウ酸のアンモニウム塩等が挙げられる。
【0048】
本発明の一態様で用いるホウ素変性のアルケニルコハク酸イミド(C)を構成するホウ素原子と窒素原子の比率〔B/N〕としては、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.8以上、より更に好ましくは0.9以上である。
【0049】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)のホウ素原子換算での含有量は、成分(B)の分散性を向上させ、耐摩耗性及びロングドレイン性に優れた潤滑油組成物とする観点から、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは100~1000質量ppm、より好ましくは120~800質量ppm、更に好ましくは150~650質量ppm、より更に好ましくは200~550質量ppmである。
【0050】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)の分散性を向上させ、耐摩耗性及びロングドレイン性に優れた潤滑油組成物とする観点から、成分(B)に由来するリン原子と、成分(C)に由来するホウ素原子との含有量比〔P/B〕は、質量比で、好ましくは1.0~4.0、より好ましくは1.1~3.5、更に好ましくは1.2~3.0、より更に好ましくは1.3~2.5である。
【0051】
また、成分(C)の窒素原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは10~1000質量ppm、より好ましくは30~700質量ppm、更に好ましくは50~600質量ppm、より更に好ましくは100~500質量ppmである。
【0052】
なお、成分(C)の配合量(含有量)は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.10~10.0質量%、より好ましくは0.20~7.0質量%、更に好ましくは0.30~5.0質量%、より更に好ましくは0.50~3.5質量%である。
【0053】
<ホウ素非変性のアルケニルコハク酸イミド(D)>
本発明の一態様の潤滑油組成物において、さらに、非ホウ素変性のアルケニルコハク酸イミド(D)を含有することが好ましい。
成分(C)と共に、成分(D)を含有することで、成分(B)の分散性をより向上させ、耐摩耗性及びロングドレイン性により優れた潤滑油組成物とすることができる。
なお、成分(D)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
本発明の一態様で用いる成分(D)としては、前記一般式(1)で表されるアルケニルコハク酸モノイミド、もしくは、前記一般式(2)で表されるアルケニルコハク酸ビスイミドの少なくとも一方を含むことが好ましく、当該アルケニルコハク酸モノイミド及びアルケニルコハク酸ビスイミドを共に含むことがより好ましい。
【0055】
なお、非ホウ素変性のアルケニルコハク酸イミド(D)は、成分(C)以外のアルケニルコハク酸イミドを包含するものである。そのため、ホウ素変性以外のアルケニルコハク酸イミドの変性物も、成分(D)に含まれる。
ただし、成分(B)の分散性をより向上させ、耐摩耗性及びロングドレイン性により優れた潤滑油組成物とする観点から、成分(D)は、非変性のアルケニルコハク酸イミドであることが好ましい。
【0056】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D)の窒素原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは50~3000質量ppm、より好ましくは100~2400質量ppm、更に好ましくは200~2000質量ppm、より更に好ましくは500~1500質量ppmである。
【0057】
なお、成分(D)の配合量(含有量)は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.10~15.0質量%、より好ましくは0.50~12.0質量%、更に好ましくは1.0~10.0質量%、より更に好ましくは2.5~8.0質量%である。
【0058】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)及び成分(D)に由来する窒素原子の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60~4000質量ppm、より好ましくは150~3000質量ppm、更に好ましくは300~2500質量ppm、より更に好ましくは600~2000質量ppmである。
【0059】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)及び成分(D)に由来する窒素原子の合計含有量に対する、成分(C)に由来するホウ素原子の含有量の比〔B/N〕としては、好ましくは0.05~3.0、より好ましくは0.10~1.0、更に好ましくは0.15~0.85、より更に好ましくは0.20~0.70である。
【0060】
<金属系清浄剤(E)>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、ロングドレイン性に優れた潤滑油組成物とする観点から、さらに金属系清浄剤(E)を含有することが好ましい。
成分(E)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
本発明の一態様で用いる金属系清浄剤(E)としては、アルカリ金属原子及びアルカリ土類金属原子から選ばれる金属原子を含有する、金属サリシレート、金属フェネート、及び金属スルホネートから選ばれる1種以上であることが好ましい。
なお、前記金属原子としては、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムが好ましく、カルシウムがより好ましい。つまり、金属系清浄剤(E)は、カルシウム系清浄剤であることが好ましい。
【0062】
また、前記金属スルホネートとしては、下記一般式(e-1)で表される化合物が好ましく、前記金属サリシレートとしては、下記一般式(e-2)で表される化合物が好ましく、前記金属フェネートとしては、下記一般式(e-3)で表される化合物が好ましい。
【0063】
【0064】
上記一般式(e-1)及び(e-2)中、Mは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子であり、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムが好ましく、カルシウムがより好ましい。
上記一般式(e-3)中、M’は、アルカリ土類金属であり、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムが好ましく、カルシウムがより好ましい。yは、0以上の整数であり、好ましくは0~3の整数である。
上記一般式(e-1)~(e-3)中、pはMの価数であり、1又は2である。Rは、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。
Rとして選択し得る炭化水素基としては、例えば、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルケニル基、環形成炭素数3~18のシクロアルキル基、環形成炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアルキルアリール基、炭素数7~18のアリールアルキル基等が挙げられる。
【0065】
成分(E)の塩基価としては、好ましくは0~600mgKOH/gである。
ただし、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(E)が、塩基価が100mgKOH/g以上の過塩基性金属系清浄剤(E1)を含むことが好ましい。
過塩基性金属系清浄剤(E1)の塩基価としては、100mgKOH/g以上であるが、好ましくは150~500mgKOH/g、より好ましくは200~400mgKOH/gである。
なお、本明細書において、成分(E)の「塩基価」は、JIS K2501「石油製品および潤滑油-中和価試験方法」の7.に準拠して測定される「過塩素酸法」による塩基価を意味する。
【0066】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(E)の金属原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは100~6000質量ppm、より好ましくは300~5000質量ppm、更に好ましくは600~4500質量ppm、より更に好ましくは1000~4000質量ppmである。
なお、本明細書において、金属原子の含有量は、JPI-5S-38-92に準拠して測定された値を意味する。
【0067】
なお、成分(E)の配合量(含有量)は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.10~10.0質量%、より好ましくは0.20~8.0質量%、更に好ましくは0.30~6.0質量%、より更に好ましくは0.5~4.5質量%である。
【0068】
<潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、更に成分(B)~(E)以外の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
このような潤滑油用添加剤としては、例えば、酸化防止剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、抗乳化剤、摩擦調整剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、消泡剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
これらの潤滑油用添加剤のそれぞれの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調製することができるが、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、それぞれの添加剤ごとに独立して、通常0.001~15質量%、好ましくは0.005~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。
【0070】
<潤滑油組成物の製造方法>
本発明の一態様の潤滑油組成物の製造方法としては、特に制限はないが、生産性の観点から、基油(A)に、上述の成分(B)及び(C)、並びに、必要に応じて、成分(D)、成分(E)及び他の潤滑油用添加剤を配合する工程を有する、方法であることが好ましい。
ここで、成分(B)、(C)、(D)及び(E)、並びに潤滑油用添加剤の配合量は、上述のとおりである。
【0071】
〔潤滑油組成物の性状〕
本発明の一態様の潤滑油組成物の40℃における動粘度としては、好ましくは10~130mm2/s、より好ましくは20~115mm2/s、更に好ましくは30~100mm2/s、より更に好ましくは40~90mm2/sである。
【0072】
本発明の一態様の潤滑油組成物の100℃における動粘度としては、好ましくは2.5~20.0mm2/s、より好ましくは4.0~16.0mm2/s、更に好ましくは5.5~14.0mm2/s、より更に好ましくは7.0~12.0mm2/sである。
【0073】
本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数としては、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上、より更に好ましくは130以上、特に好ましくは140以上である。
【0074】
本発明の一態様の潤滑油組成物の酸価としては、好ましくは0.40~2.00mgKOH/g、より好ましくは0.50~1.70mgKOH/g、更に好ましくは0.60~1.50mgKOH/g、より更に好ましくは0.70~1.30mgKOH/gである。
なお、本明細書において、酸価は、JIS K2501:2003(指示薬法)に準拠して測定された値を意味する。
【0075】
本発明の一態様の潤滑油組成物の塩基価としては、好ましくは5.0~16.0mgKOH/g、より好ましくは6.0~14.0mgKOH/g、更に好ましくは7.0~12.0mgKOH/g、より更に好ましくは8.0~11.0mgKOH/gである。
なお、本明細書において、潤滑油組成物の塩基価は、JIS K2501:2003(塩酸法)に準拠して測定された値を意味する。
【0076】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、リン原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは10~1500質量ppm、より好ましくは50~1350質量ppm、更に好ましくは100~1250質量ppmである。
【0077】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、ホウ素原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは100~1000質量ppm、より好ましくは120~800質量ppm、更に好ましくは150~650質量ppm、より更に好ましくは200~550質量ppmである。
【0078】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、窒素原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60~6000質量ppm、より好ましくは200~5000質量ppm、更に好ましくは500~4000質量ppm、より更に好ましくは1000~3000質量ppmである。
【0079】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、カルシウム原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは100~6000質量ppm、より好ましくは300~5000質量ppm、更に好ましくは600~4500質量ppm、より更に好ましくは1000~4000質量ppmである。
【0080】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、硫黄原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは1000質量ppm未満、より好ましくは800質量ppm未満、更に好ましくは650質量ppm未満、より更に好ましくは300質量ppm未満である。
ただし、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)として、前記一般式(b-3)で表されるリン系化合物を含有する場合、硫黄原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは500~3500質量ppm、より好ましくは1000~3000質量ppm、更に好ましくは1500~2500質量ppmである。
【0081】
本発明の一態様の潤滑油組成物の硫酸灰分は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.10~1.30質量%、より好ましくは0.12~1.25質量%、更に好ましくは0.15~1.20質量%、より更に好ましくは0.17~1.15質量%である。
なお、本明細書において、硫酸灰分は、JIS K2272:1998に準拠して測定された値を意味する。
【0082】
本発明の一態様の潤滑油組成物を用いて、後述の実施例の記載の方法に準拠し、LFW-1試験機により測定した磨耗幅は、好ましくは445μm以下、より好ましくは440μm以下、更に好ましくは435μm以下、より更に好ましくは420μm以下である。
【0083】
本発明の一態様の潤滑油組成物を用いて、JIS-K2514-1:2013に準拠するISOT試験を165.5℃にて行い、当該潤滑油組成物の塩基価が1mgKOH/gとなるまで低下するまでの時間が、好ましくは130時間以上、より好ましくは150時間以上、更に好ましくは170時間以上、より更に好ましくは200時間以上である。
また、上述の潤滑油組成物の塩基価が1mgKOH/gとなった際の潤滑油組成物(劣化油)の酸価は、好ましくは4.0mgKOH/g以下、より好ましくは3.7mgKOH/g以下、更に好ましくは3.5mgKOH/g以下、より更に好ましくは3.0mgKOH/g以下である。
さらに、上述の潤滑油組成物の塩基価が1mgKOH/gとなった際の潤滑油組成物(劣化油)と、ISOT試験を行う前の潤滑油組成物(新油)との100℃動粘度の比〔劣化油/新油〕は、好ましくは1.00~1.05、より好ましくは1.00~1.04、更に好ましくは1.00~1.03である。
なお、本明細書において、上述の各物性値は、実施例に記載の方法に準拠して測定された値を意味する。
【0084】
〔潤滑油組成物の用途〕
本発明の好適な一態様の潤滑油組成物は、耐摩耗性及びロングドレイン性に優れている。
そのため、本発明の一態様の潤滑油組成物は、上記特性を発揮し得る各種装置に適用することができ、内燃機関の潤滑に用いられることが好ましく、ガスエンジンの潤滑に用いられることがより好ましい。
【0085】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物の上述の特性を考慮すると、本発明は、以下の[1]及び[2]も提供し得る。
[1]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を用いた、内燃機関。
[2]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を内燃機関に用いる、潤滑油組成物の使用。
なお、上記[1]及び[2]に記載の内燃機関は、ガスエンジンであることが好ましい。
【実施例】
【0086】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各種物性の測定法は、下記のとおりである。
【0087】
(1)動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)リン原子、ホウ素原子、亜鉛原子、カルシウム原子の含有量
JPI-5S-38-92に準拠して測定した。
(3)窒素原子の含有量
JIS K2609:1998に準拠して測定した。
(4)硫黄原子の含有量
JIS K2541-6:2013に準拠して測定した。
(5)硫酸灰分
JIS K2272:1998に準拠して測定した。
(6)酸価
JIS K2501:2003(指示薬法)に準拠して測定した。
(7)塩基価(塩酸法/過塩素酸法)
金属系清浄剤の塩基価は、JIS K2501:2003(過塩素酸法)に準拠して測定し、潤滑油組成物の塩基価は、JIS K2501:2003(塩酸法)に準拠して測定した。
【0088】
実施例1~4、比較例1~2
表1に示す種類の基油及び各種添加剤を、表1に示す配合量にて添加して混合し、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。
当該潤滑油組成物の調製に使用した、各成分の詳細は以下のとおりである。
【0089】
<基油>
・「100N鉱油」:グループ3に分類されるパラフィン系鉱油、100℃動粘度=4.1mm2/s。
・「220N鉱油」:グループ3に分類されるパラフィン系鉱油、100℃動粘度=7.6mm2/s。
【0090】
<リン系化合物>
・「ジラウリルハイドロゲンホスファイト」:前記一般式(b-2)中のR4及びR5=ラウリル基(-C12H25)、R6=水素原子である化合物。リン原子含有量=6.8質量%。
・「ジオレイルハイドロゲンホスファイト」:前記一般式(b-2)中のR4及びR5=オレイル基(-C18H35)、R6=水素原子である化合物。リン原子含有量=5.1量%。
・「トリクレジルホスフェート」:前記一般式(b-1)中のR1~R3=メチルフェニル基である化合物。リン原子含有量=8.4質量%。
・「DTP」:ジチオリン酸O,O-ジイソプロピルS-(2-エトキシカルボニルエチル)、リン原子含有量=9.5質量%、硫黄原子含有量=21.2質量%。
・「ZnDTP」:ジアルキルジチオリン酸亜鉛、リン原子含有量=8.1質量%、亜鉛原子含有量=8.8質量%。
・「2-エチルヘキシルアシッドホスフェート」:前記一般式(b-1)中のR1及びR2=2-エチルヘキシル基、R3=水素原子である化合物と、R1=2-エチルヘキシル基、R2及びR3=水素原子である化合物との混合物。
【0091】
<無灰系分散剤>
・「ホウ素変性コハク酸モノイミド」:ポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸モノイミドのホウ素化物、ホウ素原子(B)の含有量=1.8質量%、窒素原子(N)の含有量=1.8質量%、B/N=1.0。
・「非変性コハク酸モノイミド」::ポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸モノイミド、窒素原子の含有量=2.1質量%。
【0092】
<金属系清浄剤>
・「Ca系清浄剤(1)」:過塩基性Caスルホネート、前記一般式(e-1)で表される化合物(式中、Mはカルシウム原子)、塩基価(過塩素酸法)=350mgKOH/g、Ca原子含有量=12.1質量%。
・「Ca系清浄剤(2)」:Caスルホネート:前記一般式(e-1)で表される化合物(式中、Mはカルシウム原子)、塩基価(過塩素酸法)=225mgKOH/g、Ca原子含有量=7.9質量%
【0093】
<他の添加剤>
・添加剤混合物:アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、金属不活性化剤及び粘度指数向上剤からなる添加剤混合物。
【0094】
調製した潤滑油組成物について、動粘度、粘度指数、酸価及び塩基価を測定もしくは算出すると共に、以下の測定を行った。これらの結果を表1に示す。
【0095】
(1)LFW-1による磨耗幅の測定
ASTM D2174に記載された密閉式のLFW-1試験機を用いて、下記測定条件にて、摩耗幅(単位:μm)を測定した。なお、当該摩耗幅の値が小さいほど、耐摩耗性に優れた潤滑油組成物であるといえる。
(試験治具)
・ブロック:Falex H-60 Test Block(SAE 01 Steel)
・リング:Falex S-10 Test Ring(SAE 4620 Steel)
(試験条件)
・荷重:45N
・温度:100℃
・回転数:750rpm
・試験時間:30分間
【0096】
(2)ロングドレイン性の評価
空気流量100mL/分と、一酸化窒素(NO)を窒素で希釈したNOガス(NO濃度:8,000体積ppm)流量100mL/分とを混合した混合ガスを、油温140℃の試料油250g中に導入し、NOx劣化油を調製した。なお、当該NOx劣化油は、調製過程で、JIS K2501:2003(塩酸法)に準拠して測定した塩基価が1.0mgKOH/gとなるまでの時間(ISOT寿命)を測定した。また、塩基価が1.0mgKOH/gとなったNOx劣化油の酸価を測定すると共に、100℃動粘度も測定し、劣化油と試験前の新油との100℃動粘度との比〔劣化油/新油〕も算出した。
【0097】
【0098】
表1から、実施例1~5で調製した潤滑油組成物は、優れた耐摩耗性及びロングドレイン性を有する結果となった。一方で、比較例1で調製した潤滑油組成物は、劣化油の酸価が高く、ロングドレイン性が劣る結果となり、また、実施例1~5と比べて、耐摩耗性についても不十分であった。また、比較例2で調製した潤滑油組成物は、耐摩耗性が劣ると共に、ISOT寿命が短く、ロングドレイン性も劣る結果であった。