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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】放射線検出器及び放射線検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/24 20060101AFI20220831BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20220831BHJP
   G01N 23/2252 20180101ALI20220831BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
G01T1/24
G01T7/00 Z
G01N23/2252
G01N23/223
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019559218
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2018046024
(87)【国際公開番号】W WO2019117276
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2017240835
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】松永 大輔
(72)【発明者】
【氏名】青山 淳一
(72)【発明者】
【氏名】大久保 悠史
(72)【発明者】
【氏名】井川 聖史
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-530252(JP,A)
【文献】特開2012-32164(JP,A)
【文献】特開2015-181122(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110507(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0264319(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0026569(US,A1)
【文献】特開2016-142729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/24
G01T 7/00
G01N 23/2252
G01N 23/223
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備える放射線検出器において、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部よりも大きく前記開口部に対向する表面を有し、
前記ハウジングは、接着部材を介して前記表面の一部に重なった重なり部分を更に有し、
前記接着部材は遮光性を有すること
を特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記表面は、入射した放射線が検出され得る有感領域を有しており、
前記表面内で前記重なり部分が重なった部分で囲まれた部分は、前記有感領域に含まれること
を特徴とする請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記重なり部分は金属含有材料で構成されてあり、
前記接着部材は絶縁性を有すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記表面内で前記重なり部分が重なった部分で囲まれた部分は、遮光膜で覆われていること
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記シリコンドリフト型放射線検出素子を冷却する冷却部を備えておらず、
前記ハウジングは気密されていないこと
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記表面に対向する位置に窓材が設けられていないこと
を特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の放射線検出器。
【請求項7】
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、
前記表面とは逆側にある裏面に設けられ、放射線の入射によって発生する電荷が流入し、前記電荷に応じた信号を出力する信号出力電極と、
前記表面に設けられており、電圧を印加される第1電極と、
前記裏面に設けられ、前記信号出力電極を囲んでおり、前記信号出力電極からの距離が互いに異なる複数の第2電極とを更に有し、
前記第2電極は、前記裏面に沿った一の方向の長さが前記裏面に沿った他の方向の長さよりも長い形状を有し、
前記信号出力電極は、前記一の方向に沿って並んでおり互いに接続された複数の電極からなること
を特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の放射線検出器。
【請求項8】
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、
前記表面とは逆側にある裏面に設けられ、放射線の入射によって発生する電荷が流入し、前記電荷に応じた信号を出力する信号出力電極と、
前記表面に設けられており、電圧を印加される第1電極と、
前記裏面に設けられ、前記信号出力電極を囲んでおり、前記信号出力電極からの距離が互いに異なる複数の第2電極とを更に有し、
前記第2電極は、前記裏面に沿った一の方向の長さが前記裏面に沿った他の方向の長さよりも長い形状を有し、
前記信号出力電極は、前記裏面に設けられており前記一の方向に沿って延伸した線電極を含んでいること
を特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の放射線検出器。
【請求項9】
前記ハウジングと前記シリコンドリフト型放射線検出素子との間の隙間に充填された充填物を更に備えること
を特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の放射線検出器。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一つに記載の放射線検出器と、
該放射線検出器が検出した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項11】
試料へ放射線を照射する照射部と、
前記試料から発生した放射線を検出する請求項1乃至9のいずれか一つに記載の放射線検出器と、
該放射線検出器が検出した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、
該スペクトル生成部が生成したスペクトルを表示する表示部と
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出器及び放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線等の放射線を検出する放射線検出器には、半導体を用いた放射線検出素子を備えたものがある。半導体を用いた放射線検出素子には、例えばシリコンドリフト型放射線検出素子がある。シリコンドリフト型放射線検出素子を備えた放射線検出器は、シリコンドリフト型放射線検出器(SDD:Silicon Drift Detector)である。従来、このような放射線検出素子は、ノイズを低減するために、冷却して使用されていた。放射線検出器は、ハウジングと、放射線検出素子と、ペルチェ素子等の冷却部とを備える。放射線検出素子及び冷却部は、ハウジングの内側に配置される。冷却による結露を防止するために、ハウジングは気密状態になっており、ハウジングの内側は減圧されているか又は乾燥ガスが封入されている。また、放射線検出素子はハウジングから可及的に熱的に離隔している。
【0003】
ハウジングには、放射線を透過させる材料で形成された窓材を有する窓が設けられている。窓材を透過した放射線が放射線検出素子へ入射し、放射線が検出される。窓材には、放射線検出素子への光の入射を防止するために遮光を行う役割がある。窓材は、気密状態を維持するための構造的な強度を有する必要がある。また、放射線検出器では、放射線検出の精度を保つために、放射線検出素子の放射線が入射する範囲を限定する必要がある。このため、放射線検出素子の表面には、放射線が入射する範囲を限定するコリメータが配置されていた。特許文献1には、放射線検出器の例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-55839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料から発生する放射線の検出効率を高めるためには、放射線検出素子を試料に近づければよい。しかしながら、従来の放射線検出器では、ハウジングの気密状態を維持するためにハウジング及び窓材にある程度の大きさが必要であり、更にハウジングの内側にコリメータが配置されている。このため、放射線検出器全体の大きさが大きくなっている。放射線検出器全体の大きさのため、放射線検出素子を試料に近づけることができる距離には下限があり、検出効率の向上には限界がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、放射線検出器の大きさを小さくすることにより、放射線の検出効率を向上させた放射線検出器及び放射線検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る放射線検出器は、ハウジングと、該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備える放射線検出器において、前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部よりも大きく前記開口部に対向する表面を有し、前記ハウジングは、接着部材を介して前記表面の一部に重なった重なり部分を更に有し、前記接着部材は遮光性を有することを特徴とする。
【0008】
本発明においては、放射線検出器のハウジングは、塞がれていない開口部を有し、シリコンドリフト型放射線検出素子の表面は開口部に対向している。ハウジングは、シリコンドリフト型放射線検出素子の表面の一部に接着材を介して重なる重なり部分を有する。重なり部分は、放射線を遮蔽し、コリメータとしての役割を果たす。このため、放射線検出器は、コリメータを備えていない。また、接着部材は遮光性を有しており、光によりノイズが発生することが防止される。
【0009】
本発明に係る放射線検出器は、前記表面は、入射した放射線が検出され得る有感領域を有しており、前記表面内で前記重なり部分が重なった部分で囲まれた部分は、前記有感領域に含まれることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、シリコンドリフト型放射線検出素子の表面内で重なり部分が重なった部分で囲まれた部分は、放射線が検出される有感領域に含まれる。重なり部分によって遮蔽されずに開口部を通過した放射線は、シリコンドリフト型放射線検出素子の表面内の有感領域へ入射し、シリコンドリフト型放射線検出素子によって検出される。
【0011】
本発明に係る放射線検出器は、前記重なり部分は金属含有材料で構成されてあり、前記接着部材は絶縁性を有することを特徴とする。
【0012】
本発明においては、重なり部分が金属含有材料で構成されてあることにより、効果的に放射線が遮蔽される。また、接着部材が絶縁性を有することによって、重なり部分とシリコンドリフト型放射線検出素子との間の電気的な接触が防止される。
【0013】
本発明に係る放射線検出器は、前記表面内で前記重なり部分が重なった部分で囲まれた部分は、遮光膜で覆われていることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、シリコンドリフト型放射線検出素子の表面内でハウジングの重なり部分が重なった部分で囲まれた部分は、遮光膜に覆われている。シリコンドリフト型放射線検出素子の放射線が入射する部分が遮光され、光によるノイズの発生が防止される。
【0015】
本発明に係る放射線検出器は、前記シリコンドリフト型放射線検出素子を冷却する冷却部を備えておらず、前記ハウジングは気密されていないことを特徴とする。
【0016】
本発明においては、放射線検出器は、シリコンドリフト型放射線検出素子を冷却するペルチェ素子等の冷却部を備えていない。冷却を行わないので、ハウジングは気密されている必要が無い。このため、ハウジングを小さくすることができ、放射線検出器の大きさが小さくなる。
【0017】
本発明に係る放射線検出器は、前記表面に対向する位置に窓材が設けられていないことを特徴とする。
【0018】
本発明においては、シリコンドリフト型放射線検出素子の放射線が入射する表面に対向する位置には、窓材が設けられていない。このため、放射線検出器の大きさが小さくなる。
【0019】
本発明に係る放射線検出器は、前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記表面とは逆側にある裏面に設けられ、放射線の入射によって発生する電荷が流入し、前記電荷に応じた信号を出力する信号出力電極と、前記表面に設けられており、電圧を印加される第1電極と、前記裏面に設けられ、前記信号出力電極を囲んでおり、前記信号出力電極からの距離が互いに異なる複数の第2電極とを更に有し、前記第2電極は、前記裏面に沿った一の方向の長さが前記裏面に沿った他の方向の長さよりも長い形状を有し、前記信号出力電極は、前記一の方向に沿って並んでおり互いに接続された複数の電極からなることを特徴とする。
【0020】
本発明の一形態においては、シリコンドリフト型放射線検出素子は、裏面に設けられた信号出力電極と、表面に設けられた第1電極と、裏面に設けられ、信号出力電極を囲んだ複数の第2電極とを備える。第2電極は、信号出力電極に向かって電位が変化する電位勾配が生成されるように、電圧が印加される。第2電極は、一の方向の長さが他の方向の長さよりも長い形状を有し、信号出力電極は、前記一の方向に沿って並んだ複数の電極からなる。複数の電極は互いに接続されている。信号出力電極の面積の増大が抑制されると共に、信号出力電極と第2電極との間の距離の変化が小さく、電荷が信号出力電極へ収集される速度のばらつきが小さい。
【0021】
本発明に係る放射線検出器は、前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記表面とは逆側にある裏面に設けられ、放射線の入射によって発生する電荷が流入し、前記電荷に応じた信号を出力する信号出力電極と、前記表面に設けられており、電圧を印加される第1電極と、前記裏面に設けられ、前記信号出力電極を囲んでおり、前記信号出力電極からの距離が互いに異なる複数の第2電極とを更に有し、前記第2電極は、前記裏面に沿った一の方向の長さが前記裏面に沿った他の方向の長さよりも長い形状を有し、前記信号出力電極は、前記裏面に設けられており前記一の方向に沿って延伸した線電極を含んでいることを特徴とする。
【0022】
本発明の一形態においては、第2電極は、一の方向の長さが他の方向の長さよりも長い形状を有し、信号出力電極は、前記一の方向に沿って延伸した線電極を含む。信号出力電極の面積の増大が抑制されると共に、線電極を含む信号出力電極と第2電極との間の距離の変化が小さく、電荷が信号出力電極へ収集される速度のばらつきが小さい。
【0023】
本発明に係る放射線検出器は、前記ハウジングと前記シリコンドリフト型放射線検出素子との間の隙間に充填された充填物を更に備えることを特徴とする。
【0024】
本発明の一形態においては、ハウジングとシリコンドリフト型放射線検出素子との間に樹脂などの充填物が充填されている。シリコンドリフト型放射線検出素子に接続されたボンディングワイヤが充填物に埋もれ、ボンディングワイヤが湿気から防護される。
【0025】
本発明に係る放射線検出装置は、本発明に係る放射線検出器と、該放射線検出器が検出した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部とを備えることを特徴とする。
【0026】
本発明に係る放射線検出装置は、試料へ放射線を照射する照射部と、前記試料から発生した放射線を検出する本発明に係る放射線検出器と、該放射線検出器が検出した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、該スペクトル生成部が生成したスペクトルを表示する表示部とを備えることを特徴とする。
【0027】
本発明においては、放射線検出器は、コリメータを備えていないので、大きさが小さい。放射線検出器の大きさが小さいので、放射線検出装置では、放射線検出器を試料に近づけることが可能となる。放射線検出器が試料に近づくことにより、試料から発生する放射線の検出効率が向上する。
【発明の効果】
【0028】
本発明にあっては、放射線検出器を試料に近づけることにより、試料から発生する放射線の検出効率が向上する等、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態1に係る放射線検出器の構成例を示す模式的断面図である。
図2】実施形態1に係る放射線検出装置の構成を示すブロック図である。
図3】実施形態1に係る放射線検出素子とカバーの一部とを示す模式的断面図である。
図4】遮光膜の一例を示す模式的断面図である。
図5】遮光膜の他の例を示す模式的断面図である。
図6】実施形態1に係る放射線検出器の他の構成例を示す模式的断面図である。
図7】実施形態2に係る放射線検出器の構成例を示す模式的断面図である。
図8】実施形態3に係る放射線検出素子の模式的平面図である。
図9】実施形態3における信号出力電極の第2の構成例を示す模式的平面図である。
図10】実施形態3における信号出力電極の第3の構成例を示す模式的平面図である。
図11】実施形態4に係る放射線検出装置の構成を示すブロック図である。
図12】実施形態4に係る放射線検出器の内部の構成例を示す模式図である。
図13】実施形態4に係る複数の放射線検出器の配置例を示す模式的斜視図である。
図14】実施形態4に係る照射部、放射線検出器及び試料の配置例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る放射線検出器1の構成例を示す模式的断面図であり、図2は、実施形態1に係る放射線検出装置10の構成を示すブロック図である。放射線検出装置10は、例えば蛍光X線分析装置である。放射線検出装置10は、試料6に電子線又はX線等の放射線を照射する照射部4と、試料6が載置される試料台5と、放射線検出器1とを備えている。照射部4から試料6へ放射線が照射され、試料6では蛍光X線等の放射線が発生し、放射線検出器1は試料6から発生した放射線を検出する。図中には、放射線を矢印で示している。放射線検出器1は、検出した放射線のエネルギーに比例した信号を出力する。なお、放射線検出装置10は、試料台5に載置させる方法以外の方法で試料6を保持する形態であってもよい。
【0031】
放射線検出器1には、出力した信号を処理する信号処理部2と、放射線検出器1が備える放射線検出素子11に放射線検出のために必要な電圧を印加する電圧印加部34とが接続されている。信号処理部2は、放射線検出器1が出力した各値の信号をカウントし、放射線のエネルギーとカウント数との関係、即ち放射線のスペクトルを生成する処理を行う。信号処理部2は、スペクトル生成部に対応する。
【0032】
信号処理部2は、分析部32に接続されている。分析部32は、演算を行う演算部及びデータを記憶するメモリを含んで構成されている。信号処理部2、分析部32、電圧印加部34及び照射部4は、制御部31に接続されている。制御部31は、信号処理部2、分析部32、電圧印加部34及び照射部4の動作を制御する。信号処理部2は、生成したスペクトルを示すデータを分析部32へ出力する。分析部32は、信号処理部2からのデータを入力され、入力されたデータが示すスペクトルに基づいて、試料6に含まれる元素の定性分析又は定量分析を行う。分析部32には、液晶ディスプレイ等の表示部33が接続されている。表示部33は、分析部32による分析結果を表示する。また、表示部33は、信号処理部2が生成したスペクトルを表示する。制御部31は、使用者の操作を受け付け、受け付けた操作に応じて放射線検出装置10の各部を制御する構成であってもよい。また、制御部31及び分析部32は同一のコンピュータで構成されていてもよい。
【0033】
図1に示すように、放射線検出器1は、板状の底板部14を備えている。底板部14の一面側には、キャップ状のカバー13が被さっている。カバー13は、円筒の一端に切頭錐体が連結した形状になっており、円筒の他端は底板部14に接合している。カバー13の先端の切頭部分には、開口部131が形成されている。開口部131には窓材を有する窓は設けられておらず、開口部131は塞がれていない。カバー13及び底板部14は、放射線検出器1のハウジングを構成している。カバー13及び底板部14の内側は気密されていない。ここで、気密された状態とは、カバー13及び底板部14の内側と外側との間でガスの交換が無い状態である。即ち、本実施形態では、カバー13及び底板部14の内側と外側との間でガスの交換がある。開口部131又はその他の部分を通って、カバー13及び底板部14の内側と外側との間をガスが出入りする。
【0034】
カバー13の内側には、放射線検出素子11と、基板12とが配置されている。基板12は、開口部131に対向する面を有し、当該面上に放射線検出素子11が配置されている。基板12と放射線検出素子11との間には介在物があってもよい。基板12は、放射線の照射による放射線の発生が可及的に少ない材質で形成されていることが望ましい。基板12の材質は、例えばセラミックである。放射線検出素子11は、シリコンドリフト型放射線検出素子であり、放射線検出器1は、シリコンドリフト型放射線検出器である。例えば、放射線検出素子11は板状である。放射線検出素子11は、開口部131に対向する位置に配置されている。近年、電気回路等の低ノイズ化により、放射線検出器は、冷却を行わなくとも十分な性能が得られるようになっている。このため、放射線検出素子11は、冷却をせずに動作が可能である。即ち、放射線検出素子11は、室温での動作が可能である。放射線検出器1は、放射線検出素子11を冷却するためのペルチェ素子等の冷却部を備えていない。
【0035】
基板12には、配線が設けられている。基板12の配線と放射線検出素子11とはボンディングワイヤ153を介して電気的に接続されている。カバー13には、ボンディングワイヤ153を通すために、カバー13の内面から窪んだ凹部が形成されている。凹部があることによって、ボンディングワイヤ153を通すために放射線検出器1全体が大きくなることが防止される。基板12の配線と放射線検出素子11とは、後述するように、ボンディングワイヤ153が放射線検出素子11に接続される方法以外の方法で接続されていてもよい。基板12の、開口部131に対向する面とは反対側の面には、増幅器151と、放射線検出器1の動作に必要な各種の部品152とが設けられている。例えば、部品152には、ESD(electro-static discharge;静電気放電)対策用の部品が含まれる。ESD対策用の部品は、例えば、コンデンサ、ダイオード又はバリスタである。開口部が塞がれている形態に比べて、放射線検出器1は、外部からの影響を受けやすくなっている。放射線検出器1は、ESD対策用の部品を備えることにより、EDSによる悪影響を抑制するように、EDS対策を強化することができる。
【0036】
基板12には、貫通孔が設けられている。増幅器151は、貫通孔を通るように配置されたボンディングワイヤ154を介して放射線検出素子11に接続されている。増幅器151及び部品152は、基板12の配線に電気的に接続されている。なお、図1に示す基板12の形状は一例であり、基板12は貫通孔を有しておらず、増幅器151は、貫通孔を通るボンディングワイヤ154を用いる方法以外の方法で放射線検出素子11に接続されていてもよい。
【0037】
また、放射線検出器1は複数のリードピン17を備えている。リードピン17は、底板部14を貫通している。基板12の配線とリードピン17とは、電気的に接続されている。リードピン17を用いて、放射線検出素子11に対する電圧の印加及び信号の入出力が行われる。
【0038】
増幅器151は、例えばプリアンプである。放射線検出素子11は、検出した放射線のエネルギーに比例した信号を出力し、出力された信号はボンディングワイヤ154を通じて増幅器151へ入力される。増幅器151は、信号の変換及び増幅を行う。変換・増幅後の信号は、増幅器151から出力され、リードピン17を通じて放射線検出器1外へ出力される。このようにして、放射線検出器1は、放射線検出素子11が検出した放射線のエネルギーに比例した信号を出力する。出力された信号は、信号処理部2へ入力される。なお、増幅器151は、プリアンプ以外の機能をも有していてもよい。また、増幅器151は、放射線検出器1の外部に配置されていてもよい。
【0039】
信号処理部2は、増幅器151からの信号に対する温度の影響を補正する機能を有していてもよい。放射線検出素子11から出力される信号の強度は、温度に影響される。放射線検出素子11では、放射線に由来しないリーク電流が発生し、増幅器151からの信号には、リーク電流に応じた信号が含まれている。リーク電流は温度に影響される。信号処理部2は、リーク電流に応じた信号に基づいて信号への温度の影響の度合いを判定し、判定した度合いに応じて、増幅器151からの信号に対する温度の影響を補正する処理を行ってもよい。また、放射線検出器1は、放射線検出器1内の温度を測定するサーミスタ等の温度測定部を有していてもよい。信号処理部2は、温度測定部による温度の測定結果に応じて、増幅器151からの信号に対する温度の影響を補正する処理を行ってもよい。また、信号に対する温度の影響を補正する処理は、分析部32が行ってもよい。
【0040】
図3は、実施形態1に係る放射線検出素子11とカバー13の一部とを示す模式的断面図である。放射線検出素子11は、開口部131に対向した表面111を有している。放射線検出素子11は、表面111の一部を覆う遮光膜161を有している。表面111は、開口部131よりも大きい。カバー13の一部分は、放射線検出素子11の表面111に対向する視点から表面111に直交する方向に見た場合、表面111の一部に重なっている。カバー13の中で表面111の一部に重なっている部分を重なり部分132とする。重なり部分132は、開口部131の縁を含んでいる。重なり部分132は、放射線検出素子11の表面111に、接着部材162を介して接着されている。
【0041】
放射線検出素子11は、板状の半導体部112を有している。半導体部112の成分は例えばn型のSi(シリコン)である。表面111には、第1電極113が設けられている。第1電極113は、表面111の中央部分を含む領域に連続的に設けられている。第1電極113は、表面111の周縁の近傍まで設けられており、表面111の大部分を占めている。第1電極113は、電圧印加部34に接続されている。放射線検出素子11の表面111とは逆側にある裏面には、多重になったループ状の第2電極114が設けられている。また、多重の第2電極114で囲まれた位置には、放射線検出時に信号を出力する電極である信号出力電極115が設けられている。信号出力電極115は、増幅器151に接続されている。多重の第2電極114の内、最も信号出力電極115に近い第2電極114と最も信号出力電極115から遠い第2電極114とは、電圧印加部34に接続されている。
【0042】
電圧印加部34は、多重の第2電極114に対し、最も信号出力電極115に近い第2電極114の電位が最も高く、最も信号出力電極115から遠い第2電極114の電位が最も低くなるように、電圧を印加する。また、放射線検出素子11は、隣接する第2電極114の間に、所定の電気抵抗が発生するように構成されている。例えば、隣接する第2電極114の間に位置する半導体部112の一部分の化学成分を調整することで、二つの第2電極114が接続される電気抵抗チャネルが形成されている。即ち、多重の第2電極114は、電気抵抗を介して数珠つなぎに接続されている。このような多重の第2電極114に電圧印加部34から電圧が印加されることによって、夫々の第2電極114は、信号出力電極115に遠い第2電極114から信号出力電極115に近い第2電極114に向けて順々に単調に増加する電位を有する。なお、複数の第2電極114の中に、電位が同じ隣接する一対の第2電極114が含まれていてもよい。
【0043】
複数の第2電極114の電位によって、半導体部112内には、段階的に信号出力電極115に近いほど電位が高く信号出力電極115から遠いほど電位が低くなる電界が生成される。更に、電圧印加部34は、最も電位の高い第2電極114よりも第1電極113の電位が低くなるように、第1電極113に電圧を印加する。このように、第1電極113と第2電極114との間で半導体部112に電圧が印加され、半導体部112の内部には、信号出力電極115に近づくほど電位が高くなる電界が生成される。
【0044】
放射線検出器1は、開口部131が試料台5の載置面に対向するように配置されている。即ち、試料台5に試料6が載置された状態では、放射線検出素子11の表面111は、試料6に対向する。試料6からの放射線は、第1電極113を透過し、表面111から半導体部112内へ入射する。放射線は半導体部112に吸収され、吸収された放射線のエネルギーに応じた量の電荷が発生する。発生する電荷は電子及び正孔である。発生した電荷は、半導体部112の内部の電界によって移動し、一方の種類の電荷は、信号出力電極115へ流入する。本実施形態では、信号出力電極115がn型である場合、放射線の入射によって発生した電子が移動し、信号出力電極115へ流入する。信号出力電極115へ流入した電荷は電流信号となって出力され、増幅器151へ入力される。
【0045】
図3に示すように、放射線検出素子11の表面111の内、周縁部分には第1電極113が設けられていない。半導体部112の中で、入射した放射線を検出することが可能な部分は、第1電極113及び第2電極114に電圧が印加されることによって、信号出力電極115へ向けて電荷が流れるように電界が発生した部分である。表面111の内、半導体部112の放射線を検出することが可能な部分の表面になっている領域を、有感領域116とする。有感領域116へ入射した放射線は、放射線検出素子11によって検出され得る。半導体部112の中で、有感領域116以外の領域を表面とする部分では、信号出力電極115へ向けて電荷が流れるための電界が発生しないか、又は信号出力電極115へ向けて電荷が流れるための電界の強度が弱く、入射した放射線は検出され難い。例えば、有感領域116は、表面111の中央部分を含む領域であり、表面111の縁は有感領域116に含まれない。
【0046】
カバー13の重なり部分132は、表面111の縁を含む領域に重なっている。表面111の重なり部分132が重なった部分で囲まれた部分は、重なり部分132が重なっておらず、有感領域116に含まれている。例えば、重なり部分132は、有感領域116以外の領域と有感領域116の一部とに重なっている。また、例えば、重なり部分132は、有感領域116ではない領域に重なっており、有感領域116が開口部131と対向している。重なり部分132は、遮光性を有し、放射線を遮蔽する材料で構成されている。例えば、重なり部分132は金属含有材料で構成されてある。より具体的には、重なり部分132は、金属製であるか、又は、バリウム等、亜鉛よりも原子番号の大きい金属が混合した樹脂で構成されている。重なり部分132が金属含有材料で構成されていることによって効果的に放射線が遮蔽される。放射線検出器1へ入射する放射線の一部は重なり部分132によって遮蔽され、重なり部分132によって遮蔽されずに開口部131を通過した放射線は、有感領域116へ入射し、放射線検出素子11によって検出される。
【0047】
即ち、重なり部分132は、放射線が入射する範囲を限定するコリメータとしての役割を果たす。このため、放射線検出器1では、従来に比べて放射線検出の性能を落とさずに、コリメータが不要になっている。即ち、放射線検出器1は、コリメータを備えていない。カバー13の内側にコリメータが配置されていないので、コリメータを備えた従来の放射線検出器に比べて、カバー13の大きさが小さく、放射線検出器1の大きさは小さい。
【0048】
接着部材162は、遮光性を有している。接着部材162が遮光性を有していることによって、カバー13内部へ光が入射して放射線検出素子11へ光が入射することが防止され、光によりノイズが発生することが防止される。遮光膜161がカバー13と放射線検出素子11との間を埋めていれば、遮光膜161によりカバー13と放射線検出素子11との間を遮光することは可能である。しかし、接着部材162が遮光膜161よりも厚い場合は、遮光膜161がカバー13と放射線検出素子11との間を埋めることができず、接着部材162は遮光性を有している必要がある。接着部材162は遮光膜161よりも厚いことが多いので、接着部材162は遮光性を有していることが望ましい。接着部材162は、光の量を0.1%未満に減少させることが望ましい。光の量が0.1%未満に減少することにより、ノイズの発生が効果的に防止される。光はゼロまで減少してもよい。
【0049】
重なり部分132が金属含有材料で構成されている場合等、重なり部分132が導電性を有している場合は、接着部材162は絶縁性を有する。接着部材162が絶縁性を有することによって、重なり部分132と放射線検出素子11との間の電気的な接触が防止され、カバー13に電圧が印加されることが防止される。従って、放射線検出素子11へ印加される電圧が不安定になることが防止され、放射線検出器1の性能低下が防止される。接着部材162は、表面111の周縁部分全体にわたって設けられていることが望ましい。接着部材162が表面111の周縁部分全体にわたって設けられている場合は、光がカバー13の内部に入ってこなくなる。また、放射線検出器1の組み立て時に、カバー13に対する放射線検出素子11の位置決めを容易に行うことができる。なお、放射線検出素子11の表面111と接着部材162との間には、保護膜等の他の構成物が介在していてもよい。
【0050】
接着部材162は絶縁性を有していなくてもよい。重なり部分132が導電性を有していない場合は、接着部材162は絶縁性を有していなくてもよい。また、接着部材162が絶縁性を有しておらず重なり部分132が導電性を有している場合、放射線検出器1は、重なり部分132を介して放射線検出素子11と基板12の配線とが接続されている形態であってもよい。例えば、放射線検出素子11と重なり部分132とが電気的に接続されており、重なり部分132と基板12の配線とがボンディングワイヤを介して接続されている。このようにして、ボンディングワイヤ153が放射線検出素子11に接続される方法以外の方法で放射線検出素子11と基板12の配線とが接続される。基板12の配線を通じて重なり部分132に電圧が印加され、重なり部分132を通じて放射線検出素子11に電圧が印加される。この場合、重なり部分132と、底板部14、リードピン17、及び基板12との間は絶縁されている必要がある。
【0051】
放射線検出素子11の表面111の内、重なり部分132が重なった部分で囲まれた部分は、遮光膜161で覆われている。表面111の上の遮光膜161に対向する位置は、開口部131によって開放されている。放射線検出器1は、遮光膜161が真空中にある状態、又は遮光膜161が大気に曝露された状態でも使用される。遮光膜161によって、光が表面111へ入射することが防止され、光が原因で放射線検出素子11にノイズが発生することが防止される。特に、放射線検出素子11の放射線が入射する部分で光によるノイズが発生することが遮光膜161によって防止される。遮光膜161は、光の量を0.1%未満に減少させることが望ましい。表面111へ入射する光の量が0.1%未満に減少することによって、放射線検出素子11に発生するノイズが十分に低減される。放射線検出素子11へ入射する光を遮光膜161が遮光するので、放射線検出器1は、放射線検出器1内へ可視光が入射される環境で使用されることが可能である。
【0052】
図4は、遮光膜161の一例を示す模式的断面図である。放射線検出素子11の表面111上には、金属膜でなる遮光膜161が設けられている。金属膜でなる遮光膜161は、遮光性を有する。金属膜でなる遮光膜161の成分は、例えば、Al(アルミニウム)、Au(金)、リチウム合金、ベリリウム、又はマグネシウムである。遮光膜161がAlでなる場合、遮光膜161の厚さは、50nm超500nm未満であることが望ましい。Alでなる遮光膜161の厚さが50nmを超えることによって、放射線検出素子11でのノイズを低減させるために必要な遮光性が得られる。遮光膜161の厚さが500nm以上では、低エネルギーのX線の感度が低下する。より好ましくは、Alでなる遮光膜161の厚さは、100nm以上350nm以下である。遮光膜161と第1電極113の間には、酸化膜があってもよい。また、遮光膜161の表面上には、遮光膜161を保護する保護膜があってもよい。例えば、保護膜の成分は、Al23 (酸化アルミニウム)又はSiO2 (二酸化ケイ素)であってもよい。
【0053】
図5は、遮光膜161の他の例を示す模式的断面図である。放射線検出素子11の表面111の上に金属膜163が設けられ、金属膜163の上に、カーボン膜でなる遮光膜161が設けられている。金属膜163の成分は、例えば、Al又はAuである。カーボン膜でなる遮光膜161の成分は、例えば、グラフェニックカーボンである。遮光膜161がカーボン膜である場合でも、効果的に遮光が行われる。カーボン膜は、耐薬品性及び耐腐食性に優れており、可視光を通しにくい一方で、X線を透過させ易い。また、金属膜に比べて、カーボン膜は放射線の照射により特性X線が発生し難い。このため、放射線検出時に所謂システムピークが発生し難く、放射線検出の精度がより高くなる。金属膜163に重なる遮光膜161の表面上には、遮光膜161を保護する保護膜があってもよい。例えば、保護膜の成分は、Al23 又はSiO2 であってもよい。また、放射線検出器1は、金属膜163を備えておらず、カーボン膜でなる遮光膜161が放射線検出素子11の表面111の上に直接に設けられていてもよい。また、放射線検出素子11の表面111と金属膜163又はカーボン膜でなる遮光膜161との間には、酸化膜があってもよい。
【0054】
遮光膜161は、放射線検出素子11の一部ではなくてもよい。図6は、実施形態1に係る放射線検出器1の他の構成例を示す模式的断面図である。放射線検出素子11の表面111の内で重なり部分132が重なった部分で囲まれた部分、重なり部分132の端面、及び重なり部分132の一部が、遮光膜161で覆われている。放射線検出器1の遮光膜161以外の構成は、図1に示した例と同様である。例えば、放射線検出器1を組み立てる際の最後の工程で遮光膜161を形成することによって、図6に示す例が構成される。この例では、遮光膜161は、放射線検出素子11とは別の放射線検出器1の構成部分である。この例においても、表面111の上の遮光膜161に対向する位置は開放されている。
【0055】
本実施形態においては、放射線検出素子11の表面111は、カバー13の重なり部分が重なった部分で囲まれた部分が遮光膜161に覆われているので、放射線検出素子11は、光によるノイズの発生を防止しながら、放射線検出のための動作を行うことができる。このため、遮光のために窓材を有する窓を開口部131に設ける必要が無い。また、放射線検出器1は冷却部を備えておらず、カバー13及び底板部14の内側は気密されていないので、気密のために窓材を有する窓を開口部131に設ける必要が無い。従って、放射線検出器1は、窓材を有する窓を備えておらず、開口部131は塞がれていない。ここで、「開口部131が塞がれていない」とは、放射線検出素子11の表面111の上に設けられた遮光膜161に対向する位置が開放されていることを意味する。例えば、図6に示す例においても、開口部131は塞がれていない。放射線検出器1が窓材を有する窓を備えていないので、放射線が窓材を透過することが無く、低エネルギーの放射線でもより放射線検出素子11へ入射し易い。このため、放射線検出器1では、低エネルギーの放射線の検出感度が向上する。放射線検出装置10では、低エネルギーの放射線を放射する軽元素の分析が容易となる。
【0056】
また、本実施形態においては、放射線検出器1が窓材を有する窓を備えていないので、従来に比べて放射線検出器1の大きさは小さい。また、コリメータを備えていないので、従来に比べて放射線検出器1の大きさは小さい。また、カバー13の内側に冷却部が配置されていないので、従来に比べてカバー13の大きさが小さく、放射線検出器1の大きさは小さい。また、カバー13及び底板部14の内側は気密されていないので、カバー13及び底板部14は気密状態を維持するための強度及び大きさが不要である。例えば、カバー13の重なり部分132以外の部分は、樹脂製であってもよい。このため、カバー13及び底板部14の大きさを小さくすることができ、放射線検出器1の大きさは小さい。放射線検出器1の大きさが従来よりも小さいので、放射線検出装置10では、従来よりも放射線検出器1を試料台5へ近づけて配置することが可能である。即ち、放射線検出素子11は、従来に比べて試料6に近づくことが可能である。放射線検出素子11が試料6に近づくことにより、試料6から発生する放射線の検出効率が向上する。従って、放射線検出装置10では、試料6から発生する放射線の検出効率が向上する。
【0057】
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係る放射線検出器1の構成例を示す模式的断面図である。放射線検出素子11及び基板12とカバー13の内面との間の隙間には、充填物181が充填されている。また、放射線検出素子11及び基板12と底板部14の内面との間の隙間には、充填物182が充填されている。充填物181及び182は、絶縁性を有する。充填物181及び182は、遮光性を有することが望ましい。充填物181及び182の材料は、例えば樹脂である。充填物181及び182は隙間に完全に充填されていなくてもよく、充填物181及び182が充填されていない隙間が残っていてもよい。但し、ボンディングワイヤ153は充填物181に埋もれていることが望ましく、ボンディングワイヤ154は充填物182に埋もれていることが望ましい。放射線検出器1のその他の部分の構成は実施形態1と同様であり、放射線検出素子11の構成は実施形態1と同様である。また、放射線検出器1以外の放射線検出装置10の構成は実施形態1と同様である。
【0058】
充填物181及び182は、遮光性を有することが望ましい。充填物181及び182が遮光性を有することにより、放射線検出素子11への光の入射がより効果的に防止され、光により放射線検出素子11にノイズが発生することがより効果的に防止される。
【0059】
ボンディングワイヤ153,154が充填物181,182に埋もれていることによって、ボンディングワイヤ153,154が湿気から防護される。このため、ボンディングワイヤ153,154が湿気によって劣化することが防止される。また、ボンディングワイヤ153が放射線検出素子11又は基板12から分離することが防止され、ボンディングワイヤ154が放射線検出素子11又は増幅器151から分離することが防止される。
【0060】
充填物181,182により、放射線検出素子11及び基板12が湿気から防護される。このため、放射線検出素子11及び基板12に設けられた電極及び配線が湿気によって劣化することが防止される。また、充填物181,182に覆われることによって、放射線検出素子11及び基板12に設けられた電極及び配線で電流のリークが発生することが抑制される。以上のように、充填物181,182を備えることにより、放射線検出器1の耐久性が向上する。
【0061】
(実施形態3)
図8は、実施形態3に係る放射線検出素子11の模式的平面図である。図8には、表面111とは逆側にある裏面117の側から見た放射線検出素子11を示している。半導体部112の裏面117には、信号出力電極115と多重に信号出力電極115を囲む複数の第2電極114との組が複数組設けられている。第2電極114は、裏面117に沿った一の方向の長さが裏面117に沿った他の方向の長さよりも長い形状を有する。他の方向の長さよりも長さが長い一の方向を長方向とする。例えば、第2電極114の形状は平面視で楕円であり、長方向は楕円の長軸に沿った方向である。複数組の第2電極114は、長方向に交差する方向に並んでいる。図8には、二組の第2電極114が設けられている例を示している。多重の第2電極114の組数は二組以上であってもよい。図8には、各組に三つの第2電極114が含まれている例を示しているが、実際にはより多くの第2電極114が設けられている。
【0062】
各組の多重の第2電極114で囲まれた位置には、複数の小電極1151を含んでなる信号出力電極115が設けられている。複数の小電極1151は、長方向に沿って並んでいる。複数の小電極1151は、互いにワイヤ1152で接続されている。実施形態1又は2と同様に、表面111には第1電極113が設けられており、放射線検出器1は遮光膜161を有している。第1電極113と最も内側の第2電極114と最も外側の第2電極114とは、電圧印加部34に接続されている。電圧印加部34が電圧を印加することにより、半導体部112の内部には、信号出力電極115に近づくほど電位が高くなる電界が生成される。夫々の小電極1151に対して、電荷が流入する。複数の信号出力電極115は、増幅器151に接続している。複数の小電極1151が連結されているので、増幅器151は、夫々の小電極1151に接続されておらずとも、信号出力電極115に接続されていればよい。夫々の小電極1151に増幅器151を接続する場合に比べて、増幅器151の数が減少し、放射線検出素子11の部品数が減少する。放射線検出器1のその他の部分の構成及び放射線検出装置10の構成は、実施形態1又は2と同様である。なお、放射線検出器1が複数の増幅器151を備え、信号出力電極115に一対一で増幅器151が接続されていてもよい。
【0063】
実施形態3では、複数組の第2電極114及び信号出力電極115が長方向に交差する方向に並んでいることにより、放射線検出素子11は、長方向に交差する方向に放射線検出の精度を向上させることができる。信号出力電極115が単一の電極であり、裏面117に沿ったいずれの方向にも信号出力電極115の大きさがほぼ均等である場合は、信号出力電極115と第2電極114との間の距離が裏面117に沿った方向によって変化する。半導体部112内に発生する電界は方向によって異なり、半導体部112内で電荷が発生した位置によって、電荷が流れる速度が異なる。このため、電荷が信号出力電極115へ移動する速度がばらつき、信号処理に必要な時間が増大し、放射線検出の時間分解能が低下する。信号出力電極115が長方向に長い形状を有する場合は、信号出力電極115と第2電極114との間の距離は均等になるものの、信号出力電極115の面積が大きくなる。面積が大きくなることによって、信号出力電極115の容量が大きくなり、一つの電荷当たりの信号が小さくなり、放射線検出時の信号強度のノイズ比が悪化する。
【0064】
実施形態3では、信号出力電極115が長方向に長い形状を有するのではなく、信号出力電極115が複数の小電極1151を含んでなることによって、信号出力電極115の面積の増大が抑制される。信号出力電極115の容量の増大が抑制され、放射線検出時の信号強度のノイズ比の悪化が抑制される。また、複数の小電極1151が長方向に沿って並んでいることによって、信号出力電極115と第2電極114との間の距離の変化が小さい。このため、電荷が信号出力電極115へ移動する速度のばらつきが小さく、信号処理に必要な時間の増大が抑制され、放射線検出の時間分解能の低下が抑制される。なお、放射線検出素子11は、小電極1151を個別に囲む第2電極114を含んでいてもよい。例えば、夫々の小電極1151を個別に第2電極114が囲み、複数の小電極1151はワイヤ1152で接続され、小電極1151と当該小電極1151を囲む第2電極114との複数の組を他の第2電極114が囲んでいてもよい。
【0065】
図9は、実施形態3における信号出力電極115の第2の構成例を示す模式的平面図である。信号出力電極115は、複数の小電極1151を含んでなる。複数の小電極1151は、長方向に沿って並んでいる。複数の小電極1151は、裏面117に設けられた線電極1153を介して互いに接続されている。線電極1153は、線状の電極であり、小電極1151と同じ成分で構成されている。線電極1153に対しても、電荷が流入する。この構成においても、信号出力電極115の面積の増大が抑制される。また、信号出力電極115と第2電極114との間の距離の変化が小さく、電荷が信号出力電極115へ移動する速度のばらつきが小さい。
【0066】
図10は、実施形態3における信号出力電極115の第3の構成例を示す模式的平面図である。信号出力電極115は、単一の小電極1151と、裏面117に設けられた線電極1153とを含んでいる。線電極1153は、小電極1151に連結しており、長方向に沿って延伸している。この構成においても、信号出力電極115の面積の増大が抑制される。また、線電極1153が長方向に沿って延伸していることにより、第2電極114の、小電極1151から遠い部分は、線電極1153からはより近い。このため、信号出力電極115と第2電極114との間の距離の変化が小さく、電荷が信号出力電極115へ移動する速度のばらつきが小さい。
【0067】
実施形態3においては、放射線検出素子11が信号出力電極115及び多重の第2電極114を複数組備えた形態を示したが、放射線検出素子11は、信号出力電極115と一の方向の長さが他の方向の長さよりも長い形状を有する多重の第2電極114とを一組のみ備えた形態であってもよい。また、実施形態3に係る放射線検出器1は、窓材で開口部131を塞いだ形態をとることも可能である。開口部131が窓材で塞がれている放射線検出器1は、遮光膜161又は遮光性を有する接着部材162を有していなくてもよい。
【0068】
(実施形態4)
図11は、実施形態4に係る放射線検出装置10の構成を示すブロック図である。実施形態4に係る放射線検出装置10は、複数の放射線検出器1を備える。照射部4は試料6へ放射線を照射し、試料6から発生した放射線を複数の放射線検出器1で検出する。図中には、放射線を矢印で示している。複数の放射線検出器1は、夫々に電圧印加部34及び信号処理部2に接続されている。電圧印加部34は、各放射線検出器1内の放射線検出素子11に電圧を印加する。信号処理部2は、複数の放射線検出器1から出力された信号を処理する。分析部32は、複数の放射線検出器1での検出結果に基づいて各種の分析を行う。なお、放射線検出装置10は、複数の電圧印加部34及び信号処理部2を備え、一つの電圧印加部34及び信号処理部2に一つの放射線検出器1が接続されていてもよい。
【0069】
図12は、実施形態4に係る放射線検出器1の内部の構成例を示す模式図である。図12には、放射線検出器1内の放射線検出素子11の配置を平面視で示している。放射線検出器1は、複数の放射線検出素子11を備えている。複数の放射線検出素子11は、表面111を同一方向に向けており、カバー13の内側に配置されている。例えば、図12に示すように、複数の放射線検出素子11は二列に並べられている。図12には放射線検出器1内に七個の放射線検出素子11が配置された例を示したが、放射線検出器1内の放射線検出素子11の数は七個以外の数であってもよい。複数の放射線検出素子11は一体に形成されていてもよく、個別に分離されていてもよい。夫々の放射線検出素子11の構成は、実施形態1~3のいずれかと同様である。放射線検出器1は、複数の増幅器151を備え、放射線検出素子11中の信号出力電極115は夫々に増幅器151に接続されている。なお、放射線検出器1は放射線検出素子11の数よりも少ない数の増幅器151を備え、一つの増幅器151に複数の信号出力電極115が接続されていてもよい。放射線検出器1のその他の部分の構成は、実施形態1~3と同様である。また、放射線検出装置10のその他の部分の構成は、実施形態1~3と同様である。
【0070】
図13は、実施形態4に係る複数の放射線検出器1の配置例を示す模式的斜視図である。照射部4から試料6へ照射されるX線等の放射線を実線矢印で示す。図中の61は、照射部4からの放射線の試料6での照射位置である。照射位置61を通り試料6に交差する直線62を一点鎖線で示す。例えば、直線62は試料6の表面に直交する。直線62を囲う位置に、複数の放射線検出器1が配置されている。複数の放射線検出器1は、正面を照射位置61に対向させるように配置されている。このため、各放射線検出素子11の表面111は、照射位置61に対向する。試料6への放射線の照射により、蛍光X線等の放射線が試料6から発生する。放射線は照射位置61から放射状に発生し、夫々の放射線検出器1へ入射する。夫々の放射線検出器1において、放射線は夫々の放射線検出素子11へ入射し、放射線が検出される。図13には三個の放射線検出器1を示したが、配置された放射線検出器1の数は、二個又は四個以上であってもよい。
【0071】
直線62を囲って複数の放射線検出器1が配置され、放射線検出器1内に複数の放射線検出素子11が配置されていることによって、多数の放射線検出素子11によって放射線が検出される。試料6から発生したX線は、高い確率でいずれかの放射線検出素子11へ入射し、検出される。このため、実施形態4に係る放射線検出装置10は、試料6から発生した放射線を検出する効率が高い。放射線の検出効率が高いことにより、放射線検出装置10は、試料6から発生した放射線を検出するために必要な時間を短縮することができる。
【0072】
図14は、実施形態4に係る照射部4、放射線検出器1及び試料6の配置例を示す模式図である。試料6は、長尺のシートであり、白抜き矢印で示す方向にローラ63によって移動する。照射部4及び複数の放射線検出器1は、試料6の下側に配置されている。図14には二個の放射線検出器1を示したが、配置された放射線検出器1の数は、三個以上であってもよい。なお、照射部4及び放射線検出器1は、試料6の表側と裏側とに分かれて配置されていてもよい。
【0073】
試料6は連続的に移動し、照射部4は連続的に試料6へ放射線を照射する。試料6が移動することにより、試料6上の複数の部分に放射線が順次照射され、各部分から放射線が順次発生する。複数の放射線検出器1は、試料6から発生した放射線を順次検出し、分析部32は、順次分析を行う。図14中には、放射線を破線矢印で示している。例えば、放射線検出器1は試料6から発生した蛍光X線を検出し、分析部32は、試料6に含まれる不純物の量を計測する。例えば、試料6の母材の蛍光X線の強度が試料6の厚みによって変化することを利用して、分析部32は、検出した蛍光X線の強度から試料6の厚みを計測する。
【0074】
例えば、試料6は工業生産物であり、放射線検出装置10を用いて不純物の量又は試料6の厚みを測定し、不純物の量又は試料6の厚みが許容範囲を外れた場合に試料6が異常であると判定することができる。放射線検出装置10は、試料6から発生した放射線を検出するために必要な時間が短いので、試料6の異常を判定するために必要な時間も短い。このため、試料6の異常を判定する際の試料6の移動時間を速くすることができる。従って、実施形態4に係る放射線検出装置10を用いることにより、試料6の生産及び検査を時間的に効率良く実行することが可能となる。
【0075】
なお、実施形態4に係る放射線検出器1は、窓材で開口部131を塞いだ形態をとることも可能である。開口部131が窓材で塞がれている放射線検出器1は、遮光膜161又は遮光性を有する接着部材162を有していなくてもよい。
【0076】
なお、以上の実施形態1~4においては、放射線検出器1がペルチェ素子等の冷却部を備えていない形態を示したが、放射線検出器1は、放射線検出素子11の温度を一定に保つための温度調整部を備えていてもよい。温度調整部は、ペルチェ素子を用いることがあるものの、従来の冷却部よりも冷却能力はより低くてもよく、カバー13及び底板部14の内側と外側との温度差は10℃以内であり、結露が発生するような温度まで冷却を行うことは無い。温度調整部は、冷却能力は低くてもよいので、従来の冷却部よりも小さい。このため、温度調整部を備えた形態であっても、放射線検出器1の大きさは従来よりも小さい。また、実施形態1~4においては、放射線検出素子11がシリコンドリフト型放射線検出素子である形態を示したが、放射線検出素子11は、半導体製の素子であれば、シリコンドリフト型放射線検出素子以外の素子であってもよい。このため、放射線検出器1は、シリコンドリフト型放射線検出器以外の放射線検出器であってもよい。例えば、放射線検出器1は、X線エネルギー検出用のピクセルアレイ型半導体検出器であってもよい。
【0077】
また、実施形態1~4においては、放射線を試料6へ照射し、試料6から発生した放射線を検出する形態を示したが、放射線検出装置10は、試料6を透過又は試料6で反射した放射線を検出する形態であってもよい。また、放射線検出装置10は、放射線の方向を変更することにより試料6を放射線で走査する形態であってもよい。また、放射線検出装置10は、照射部4、試料台5、分析部32、又は表示部33を備えていない形態であってもよい。放射線検出装置10が照射部4及び試料台5を備えていない形態であっても、放射線検出素子11が従来よりも試料に近づくように放射線検出装置10を使用することが可能であり、放射線の検出効率を向上させることが可能である。
【0078】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
1 放射線検出器(シリコンドリフト型放射線検出器)
10 放射線検出装置
11 放射線検出素子(シリコンドリフト型放射線検出素子)
111 表面
13 カバー(ハウジング)
131 開口部
132 重なり部分
14 底板部(ハウジング)
161 遮光膜
162 接着部材
2 信号処理部
31 制御部
32 分析部
33 表示部
4 照射部
5 試料台
6 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図14