(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】誘電体バリア放電イオン化検出器
(51)【国際特許分類】
G01N 27/70 20060101AFI20220901BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
G01N27/70
H05H1/24
(21)【出願番号】P 2019009204
(22)【出願日】2019-01-23
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】品田 恵
(72)【発明者】
【氏名】北野 勝久
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/119050(WO,A1)
【文献】特開2003-173889(JP,A)
【文献】特開2018-040718(JP,A)
【文献】特開2006-079876(JP,A)
【文献】特開2002-082327(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0050537(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60-27/70
H05H 1/24-1/52
G01N 30/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体管を有し、前記誘電体管の外壁に一対の電極が取り付けられており、前記一対の電極は前記誘電体管の管軸に沿う方向に互いに間隔をもって配置され、前記誘電体管の第1端からプラズマ生成ガスが導入され、前記誘電体管の内部で誘電体バリア放電を発生させてプラズマを生成する放電部と、
試料ガスを導入するための試料ガス導入部及びイオンを収集するための収集電極を有し、前記放電部において生成されたプラズマから発せられる光を利用して前記試料ガス中の成分をイオン化し、生成されたイオンを前記収集電極により収集して検出する検出部と、
前記一対の電極の間に電位差を生じさせる電圧印加部と、を備え、
前記電圧印加部は、交流電源、及び、前記交流電源に接続され、前記一対の電極の間の電位差が周期的に所定の最大電位差に達するように、前記一対の電極のそれぞれの電位を変動させるように構成された回路部を備えて
おり、
前記電圧印加部は、前記一対の電極のそれぞれに対して互いに位相の反転した電位を与えるものであり、
前記電圧印加部の前記回路部は、前記交流電源から印加される電圧を昇圧させる第1昇圧トランス及び第2昇圧トランスを備え、前記第1昇圧トランスの1次側コイルと前記第2昇圧トランスの1次側コイルは互いに並列に前記交流電源に接続され、前記第1昇圧トランスの2次側コイルの第1端と前記第2昇圧トランスの2次側コイルの第2端が常に互いに位相の反転した電位となるように、前記第1昇圧トランスの2次側コイルの第2端と前記第2昇圧トランスの2次側コイルの第1端が接地されており、前記第1昇圧トランスの2次側コイルの第1端が前記一対の電極の一方に接続され、前記第2昇圧トランスの2次側コイルの第2端が前記一対の電極の他方に接続されている、誘電体バリア放電イオン化検出器。
【請求項2】
前記第1昇圧トランスの昇圧倍率と前記第2昇圧トランスの昇圧倍率は同じである、請求項
1に記載の誘電体バリア放電イオン化検出器。
【請求項3】
誘電体管を有し、前記誘電体管の外壁に一対の電極が取り付けられており、前記一対の電極は前記誘電体管の管軸に沿う方向に互いに間隔をもって配置され、前記誘電体管の第1端からプラズマ生成ガスが導入され、前記誘電体管の内部で誘電体バリア放電を発生させてプラズマを生成する放電部と、
試料ガスを導入するための試料ガス導入部及びイオンを収集するための収集電極を有し、前記放電部において生成されたプラズマから発せられる光を利用して前記試料ガス中の成分をイオン化し、生成されたイオンを前記収集電極により収集して検出する検出部と、
前記一対の電極の間に電位差を生じさせる電圧印加部と、を備え、
前記電圧印加部は、交流電源、及び、前記交流電源に接続され、前記一対の電極の間の電位差が周期的に所定の最大電位差に達するように、前記一対の電極のそれぞれの電位を変動させるように構成された回路部を備えており、
前記電圧印加部は、前記一対の電極のそれぞれに対して互いに位相の反転した電位を与えるものであり、
前記電圧印加部の前記回路部は、前記交流電源から印加される電圧を昇圧させる昇圧トランスを有し、前記昇圧トランスの2次側コイルの第1端が前記一対の電極の一方に接続され、前記2次側コイルの第2端が前記一対の電極の他方に接続されている
、誘電体バリア放電イオン化検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体バリア放電イオン化検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ用の検出器として、誘電体バリア放電プラズマによるイオン化を利用した誘電体バリア放電イオン化検出器(Dielectric Barrier Discharge Ionization Detector;以下、BID)が実用化されている(特許文献1参照)。BIDは、電極表面が誘電体で覆われた誘電体バリア放電を利用することで、金属電極を利用した場合のような熱電子及び二次電子などの放出が少なく、また、低周波高圧電源により中性ガス温度が非常に低い(ほとんど発熱がない)非平衡プラズマを生成することで、内壁材量の加熱による不純物ガスの発生を抑えて安定性の高い放電状態を作り出し、高いSN比を実現することができる。
【0003】
特許文献1に開示されているBIDは、大きく分けて放電部とその下方に設けられた電荷収集部とで構成されている。放電部では、石英ガラス等の誘電体からなる管(誘電体管)に周接された高圧電極及び接地電極の間に低周波の交流高電圧を印加することで、誘電体管の管路内に供給された不活性ガスを電離して大気圧非平衡プラズマを形成する。そして、このプラズマから発せられる光(真空紫外光)や励起種などの作用により、電荷収集部内に導入された試料ガス中の試料成分をイオン化し、生成されたイオンを収集電極により収集することで、試料ガス中の成分量を電荷として検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
BIDでは、良好なSN比を得るためには、放電部の高圧電極と接地電極との間で放電を安定的に起こさせる必要がある。しかし、放電時の条件によっては、放電が高圧電極と接地電極との間を超えた範囲にまで広がり、それが誘電体管の端部に接続された金属製の接続部品にまで達する場合がある。放電範囲が拡大する原因は、誘電体管の内壁表面での沿面放電によるものである。
【0006】
沿面放電が発生して放電範囲が誘電体管の接続部品にまで達した場合、結果として不安定な放電となり、SN比を悪化させてしまう。そのため、放電範囲が誘電体管の端部の接続部品にまで達しないように、誘電体管の長さを十分に長くして誘電体管の端部の接続部品と放電用電極との間の距離を十分に確保する必要がある。しかし、そうすると、検出器全体が大型化する傾向にあり、検出器の小型化を図ることが難しい。また、誘電体間の端部と放電用電極との間の距離が長くなると、放電の発生している位置から電荷収集部までの距離が長くなってプラズマからの光が試料成分に届きにくくなるため、高い検出感度が得られない。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、誘電体管内において沿面放電を発生しにくくして検出器の大型化を抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るBIDは、誘電体からなる誘電体管を有し、前記誘電体管の外壁に一対の電極が取り付けられており、前記一対の電極は前記誘電体管の管軸に沿う方向に互いに間隔をもって配置され、前記誘電体管の第1端からプラズマ生成ガスが導入され、前記誘電体管の内部で誘電体バリア放電を発生させてプラズマを生成する放電部と、試料ガスを導入するための試料ガス導入部及びイオンを収集するための収集電極を有し、前記放電部において生成されたプラズマから発せられる光を利用して前記試料ガス中の成分をイオン化し、生成されたイオンを前記収集電極により収集して検出する検出部と、前記一対の電極の間に電位差を生じさせる電圧印加部と、を備えている。前記電圧印加部は、交流電源、及び、前記交流電源に電気的に接続され、前記一対の電極の間の電位差が周期的に所定の最大電位差に達するように、前記一対の電極のそれぞれの電位を変動させるように構成された回路部を備えている。
【0009】
誘電体管の外壁に取り付けられた互いに対をなす電極のうちの一方が接地されている場合、誘電体管内において誘電体バリア放電を発生させるためには、互いに対をなす電極の間に放電に必要な大きさの電位差が生じるように、接地されていない放電用電極の電位を高くしたり低くしたりする必要がある。そうすると、誘電体管の端部の接続部品(電位はゼロ)と電極との間の電位差が大きくなり、誘電体管内で沿面放電が発生しやすくなる。一方で、誘電体管内において誘電体バリア放電を発生させるためには、互いに対をなす電極のうちのどちらか一方の電位のみを極端に高くしたり低くしたりする必要はなく、対をなす電極の間に放電に必要な大きさの電位差が生じればよい。すなわち、一方の電極の電位がプラスで他方の電極の電位がマイナスとなるようにすれば、いずれか一方の電極が接地されている場合に比べて、電極と接地電位の間の電位差を小さくしながら両電極間の電位差を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るBIDでは、放電部の誘電体管の外壁に取り付けられた一対の電極のそれぞれの電位を変動させながら、前記一対の電極の間の電位差を周期的に所定の最大電位差に到達させるように構成させているので、いずれか一方の電極が接地されている場合に比べて、一対の電極間に放電に必要な電位差を与えたときの誘電体管の端部の接続部品と電極との間の電位差が小さくなる。これにより、沿面放電が発生しにくくなるので、電極と誘電体管の端部との間の距離を長くとる必要がなくなり、検出器の大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】BIDの他の実施例を示す概略構成図である。
【
図3】BIDの実施例の構成による効果を検証するために、誘電体管に取り付けた一対の電極のうちの一方を接地した比較例の構成を示す概略構成図である。
【
図4A】比較例において一対の電極間に5.7kVの電圧を印加したときの誘電体管内の放電状態を示す画像である。
【
図4B】比較例において一対の電極間に7.5kVの電圧を印加したときの誘電体管内の放電状態を示す画像である。
【
図4C】
図1の実施例において一対の電極間に5.8kVの電圧を印加したときの誘電体管内の放電状態を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、BIDの実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実現するための構成の例示に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
図1はBIDの一実施例を示している。この実施例のBIDは、主として、放電部2、検出部4及び電圧印加部6を備えており、放電部2において誘電体バリア放電によるプラズマを発生させ、そのプラズマから発せられる励起光によって検出部4内の試料ガス中の成分をイオン化し、生成されたイオンを検出部4に設けられた収集電極26によって収集して検出するものである。
【0014】
放電部2は石英ガラスなどの誘電体からなる誘電体管8を備えている。誘電体管8の外壁には一対の電極14,16が取り付けられており、誘電体管8の第1端(図において上端)に接続部材10が取り付けられている。一対の電極14,16は、誘電体管8の管軸に沿う方向に互いに間隔をもって、誘電体管8の外周面を取り巻くように誘電体管8に対して取り付けられている。接続部材10には、ヘリウム、アルゴンなどを含有するプラズマ生成ガスを供給するためのプラズマ生成ガス用配管12が流体的に接続されており、誘電体管8の第1端から誘電体管8内にプラズマ生成ガスが供給されるようになっている。
【0015】
検出部4は、放電部2の誘電体管8の第2端(図において下端)に連結された中空管状の部位であり、放電部2からの励起光を利用して試料ガス中の成分をイオン化するための内部空間を備えている。検出部4は接続配管18、バイアス電極22、収集電極26及び末端部材30を備えている。接続部材18は誘電体管8の第2端に接続され、接続部材18との間に絶縁部材20を挟んでバイアス電極22が設けられている。収集電極26はバイアス電極22との間に絶縁部材24を挟んで設けられ、末端部材30は収集電極26との間に絶縁部材28を挟んで設けられている。接続部材18及び末端部材30にはそれぞれ、検出部4の内部空間のプラズマ生成ガス及び試料ガスを排出するための配管32及び34が接続されている。末端部材30の底面からは試料ガスを導入するための試料ガス導入管31(試料ガス導入部)が検出部4内に挿入されている。
【0016】
電圧印加部6は交流電源36と回路部からなる。回路部は、放電部2の誘電体管8に取り付けられた一対の電極14,16のそれぞれの電位を変動させながら、一対の電極14,16間の電位差を周期的に所定の最大電位差に到達させるように構成されたものである。
【0017】
電圧印加部6の回路部は、第1昇圧トランス38及び第2昇圧トランス40を備えている。第1昇圧トランス38の一次側コイルと第2昇圧トランス40の二次側コイルは、互いに並列に交流電源36に接続されている。第1昇圧トランス38の二次側コイルの第1端(以下、H端)は電極14に電気的に接続され、第2昇圧トランス40の二次側コイルの第2端(以下、L端)は電極16に電気的に接続されている。第1昇圧トランス38の二次側コイルの第2端(以下、L端)と第2昇圧トランス40の二次側コイルの第1端(以下、H端)はともに接地されている。
【0018】
第1昇圧トランス38の昇圧倍率をm、第2昇圧トランス40の昇圧倍率をnとする。交流電源36から振幅Vの交流電圧を出力すると、第1昇圧トランス38の二次側コイルのH端とL端の間には振幅mVの交流高電圧が発生し、第2昇圧トランス40の二次側コイルのH端とL端の間には振幅nVの交流高電圧が発生する。第1昇圧トランス38の二次側コイルのL端と第2昇圧トランス40の二次側コイルのH端はともに接地されているため、第1昇圧トランス38の二次側コイルに発生する交流高電圧と第2昇圧トランス40の二次側コイルに発生する交流高電圧は、互いに位相が反転した(互いに位相が180度ずれた)波形をもつものとなる。
【0019】
上記の構成により、一対の電極14,16の間には(m+n)Vの大きさの最大電位差が周期的に生じることになる。したがって、最大電位差(m+n)Vが両電極14,16間で誘電体バリア放電を発生させるために必要な電位差(放電開始電圧)よりも高くなるようにV、m及びnを設定すればよい。一方で、各電極14,16に印加される交流高電圧の振幅はそれぞれ、mV、nVであるため、各電極14,16と誘電体管8の両端の接続部材10及び18(電位はゼロ)との間の最大電位差は放電開始電圧よりも低くなる。これにより、各電極14,16と誘電体管8の両端の接続部材10及び18との距離を短くしても電極14,16から接続部材10及び18への沿面放電が発生しにくくなり、誘電体バリア放電を安定的に発生させることができる。さらに、放電の発生する位置と検出部4との間の距離を短くすることができるので、検出感度の向上を図ることができる。
【0020】
ここで、第1昇圧トランス38の昇圧倍率mと第2昇圧トランス40の昇圧倍率nの関係をm=nとすることで、電極14及び16と接地電位との間の最大電位差を最小にすることができ、沿面放電を効率よく抑制することができる。なお、必ずしもm=nである必要はない。
【0021】
上記のように、この実施形態では、誘電体バリア放電を発生させるために必要な大きさの最大電位差を一対の電極14,16間に周期的に発生させ、かつ、電極14,16と接地電位との最大電位差を低く抑えることで、沿面放電の発生を抑制する。
図1の実施例では、2つの昇圧トランス38、40を用いてそのような作用効果を実現しているが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。同様の作用効果は、
図2に示されているように、1つの昇圧トランス38のみを用いて実現することもできる。
【0022】
図2に示されている実施例は、電圧印加部6’が交流電源36と、1つの昇圧トランス38を有する回路部とを備えている。電圧印加部6’の昇圧トランス38は、二次側コイルの両端がそれぞれ電極14、16に電気的に接続されている。交流電源36から振幅Vの交流電圧を出力すると、昇圧倍率がmである昇圧トランス38によって振幅mVの交流高電圧が一対の電極14、16間に印加される。すなわち、一対の電極14、16間にはmVの最大電位差が周期的に生じる。
【0023】
一方で、昇圧トランス38の二次側コイルのH端、L端のいずれも接地されていないため、二次側コイルの両端で電位差が発生しても電流がアースに逃げる経路がなく、二次側コイルと放電電極全体の電気的中性は常に保たれる。したがって、昇圧トランス38の二次側コイルのH端とL端の合計電位は常にゼロとなる。すなわち、電極14と16の電位は常に互いに位相の反転したものとなり、電極14、16の電位波形はいずれも振幅mV/2をもつものとなる。したがって、電極14、16と接地電位との最大電位差は放電発生電圧よりも小さくなり、沿面放電の抑制効果が得られる。
【0024】
図3に示されているように、交流電源36に接続された昇圧トランス38の二次側コイルのH端を電極14に接続し、L端を電極16とともに接地した構成を考える。このような構成では、交流電源38から振幅Vの交流電圧を出力すると、電極14、16間には振幅mVの交流高電圧が印加される。一方で、電極16は接地されており電極16の電位は常にゼロであるため、電極14の電位の波形が振幅mVをもつことになる。すなわち、電極14と接地電位との最大電位差が放電発生電圧と同じ大きさとなる。
【0025】
図4A及び
図4Bは
図3の構成を用いたときの放電状態の検証結果を示す画像であり、
図4Cは
図1の構成を用いたときの放電状態の検証結果を示す画像である。
【0026】
図4Aの検証では、
図3の昇圧トランス38の両端に振幅5.7kVの交流高電圧を発生させているが、それによって電極14と接地電位との間に最大で5.7kVもの電位差が発生している。そのため、電極14、16よりも広い範囲にまで放電範囲が広がっていることがわかる。
図4Bの検証では、昇圧トランス38の両端に発生させる交流高電圧の振幅を7.5kVにまで高めており、それによって放電範囲が誘電体管8の端部にまで達していることがわかる。
【0027】
対照的に、
図4Cに示されているように、
図1の第1昇圧トランス38、第2昇圧トランス40のそれぞれの両端に振幅2.9kVの交流高電圧を発生させると、電極14と16の間には最大電位差5.8kVが周期的に生じ、電極14と16の間に誘電体バリア放電が安定的に発生している。電極14、16と接地電位との最大電位差は2.9kVと放電開始電圧よりも小さいため、放電範囲が電極14と16の間の範囲内に留まっていることがわかる。
【0028】
以上において説明した実施形態では、誘電体管8の外壁に一対の電極14、16のみが取り付けられている構成について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、互いに対をなす電極が1組以上設けられていればよい。
【0029】
本発明に係るBIDの一実施形態は、誘電体からなる誘電体管(8)を有し、前記誘電体管(8)の外壁に少なくとも一対の電極(14、16)が取り付けられており、前記一対の電極(14、16)は前記誘電体管(8)の管軸に沿う方向に互いに間隔をもって配置され、前記誘電体管(8)の第1端からプラズマ生成ガスが導入され、前記誘電体管(8)の内部で誘電体バリア放電を発生させてプラズマを生成する放電部(2)と、試料ガスを導入するための試料ガス導入部(31)及びイオンを収集するための収集電極(26)を有し、前記放電部(2)において生成されたプラズマから発せられる光を利用して前記試料ガス中の成分をイオン化し、生成されたイオンを前記収集電極(26)により収集して検出する検出部(4)と、前記一対の電極(14、16)の間に電位差を生じさせる電圧印加部(6;6’)と、を備え、前記電圧印加部(6;6’)は、交流電源(36)、及び、前記一対の電極(14、16)の間の電位差が周期的に所定の最大電位差に達するように、前記一対の電極(14、16)のそれぞれの電位を変動させるように構成された回路部(38、40)を備えている。
【0030】
上記実施形態では、前記電圧印加部(6;6’)は、前記一対の電極(14、16)のそれぞれに対して互いに位相の反転した電位を与えるものである態様1が挙げられる。そうすれば、一対の電極(14、16)と接地電位との最大電位差を大きくすることなく、一対の電極(14、16)間の最大電位差を大きくとることができ、沿面放電を効果的に抑制することができる。
【0031】
上記態様1の前記電圧印加部(6)の前記回路部の構成の一例として、前記交流電源(36)から印加される電圧を昇圧させる第1昇圧トランス(38)及び第2昇圧トランス(40)を備え、前記第1昇圧トランス(38)の1次側コイルと前記第2昇圧トランス(40)の1次側コイルは互いに並列に前記交流電源(36)に接続され、前記第1昇圧トランス(38)の2次側コイルの第1端と前記第2昇圧トランス(40)の2次側コイルの第2端が常に互いに位相の反転した電位となるように、前記第1昇圧トランス(38)の2次側コイルの第2端と前記第2昇圧トランス(40)の2次側コイルの第1端が接地されており、前記第1昇圧トランス(38)の2次側コイルの第1端が前記一対の電極(14、16)の一方(14)に接続され、前記第2昇圧トランス(40)の2次側コイルの第2端が前記一対の電極(14、16)の他方(16)に接続された構成が挙げられる。
【0032】
上記回路部の構成において、前記第1昇圧トランス(38)の昇圧倍率と前記第2昇圧トランス(40)の昇圧倍率は同じであってよい。そうすれば、一対の電極(14、16)のそれぞれと接地電位との最大電位差を最小限にすることができ、沿面放電を効果的に抑制することができる。
【0033】
また、上記態様1の電圧印加部(6’)の前記回路部の他の例として、前記交流電源から印加される電圧を昇圧させる昇圧トランスを有し、前記昇圧トランスの2次側コイルの第1端が前記一対の電極の一方に接続され、前記2次側コイルの第2端が前記一対の電極の他方に接続されている構成が挙げられる。
【符号の説明】
【0034】
2 放電部
4 検出部
6,6’ 電圧印加部
8 誘電体管
10,18 接続部材
12,32,34 配管
14,16 電極
20,24,28 絶縁部材
22 バイアス電極
26 収集電極
30 末端部材
31 試料導入管
36 交流電源
38,40 昇圧トランス