(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】フッ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/23 20060101AFI20220901BHJP
C07C 23/08 20060101ALI20220901BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220901BHJP
【FI】
C07C17/23
C07C23/08
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018115586
(22)【出願日】2018-06-18
【審査請求日】2021-04-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】権 恒道
(72)【発明者】
【氏名】楊 剛
(72)【発明者】
【氏名】水門 潤治
(72)【発明者】
【氏名】田村 正則
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-086548(JP,A)
【文献】国際公開第2010/007968(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/129488(WO,A1)
【文献】特開2002-293538(JP,A)
【文献】特開2001-240567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化アルミニウムに担持されたパラジウムとビスマスとを含む触媒存在下、1,2-ジクロロ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(以下、「F6-1,2」という。)、1-クロロ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(以下、「F6-1」という。)、または、F6-1,2とF6-1との混合物から、水素を用いた気相水素化脱塩素化反応により、3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(以下、「F6E」という。)を製造するF6Eの製造方法。
【請求項2】
前記
パラジウムおよびビスマスが触媒全体の0.01~5重量%である請求項1に記載のF6Eの製造方法。
【請求項3】
前記
気相水素化脱塩素化反応における、F6-1,2、F6-1、または、F6-1,2とF6-1の混合物の接触時間が4~50秒である請求項1または
請求項2に記載のF6Eの製造方法。
【請求項4】
F6-1,2、F6-1、または、F6-1,2とF6-1の混合物に対する水素のモル比が3~25である請求項1~3のいずれか1項に記載のF6Eの製造方法。
【請求項5】
前記水素を用いた気相水素化脱塩素化反応の反応温度が100~360℃である請求項1~4のいずれか1項に記載のF6Eの製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のF6Eの製造方法において、前記触媒の前駆体を水素と窒素の混合物で還元して前記触媒を調製することを含むF6Eの製造方法。
【請求項7】
触媒調製時の還元温度が100~350℃である請求項6に記載のF6Eの製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載のF6Eの製造方法において、前記F6-1またはF6-1,2とF6-1との混合物として、F6-1,2の水素を用いた気相水素化脱塩素化反応により得られたものを用いるF6Eの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾール噴射剤、伝熱流体、発泡剤、消火剤、作動流体などとして使用できるフッ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素化合物は、エアゾール噴射剤、冷媒や熱媒、発泡剤、消火剤、作動流体などとして様々な化合物が開発され、幅広く使用されているが、環境負荷の観点から、地球温暖化係数(GWP: Global Warming Potential)とオゾン破壊係数(ODP: Ozone-Depleting Potential)の値の低いものが求められている。そのような環境負荷が比較的小さく、上記のような用途に使用可能と考えられるフッ素化合物の1つとして、3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(以下、「F6E」ということがある。)が知られている(特許文献1)。
【0003】
F6Eの従来の製造方法としては、1-クロロ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(以下、「F6-1」ということがある。)とLiAlH6との反応によるもの(非特許文献1)、Cr-Zn触媒を用いた1,2-ジクロロ-3,3,4,4,5,5,-ヘキサフルオロシクロペンテン(以下、「F6-1,2」ということがある。)の水素還元反応によるもの(非特許文献2)、Ni触媒を用いたF6-1,2の水素還元反応によるもの(特許文献3)等が知られている。
【0004】
また、Pd-Bi触媒を用いた1-クロロ-ヘプタフルオロシクロペンテンの水素還元反応により、1,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロシクロペンテンを製造する際に、1,3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(6F-CPE)が副生するもの(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-141372号公報
【文献】WO2010/007968
【文献】特開2000-086548号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Tetrahedron, 22, 433-439(1966)
【文献】Rus. J. Org. Chem., 46(9), 1290-1295 (2010)
【文献】Phys.Chem.Chem.Phys.,1,3173-3181(1999))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上述のような従来技術について検討したが、次の(ア)~(エ)のような問題点などが存在することを認識した。
(ア)F6-1とLiAlH6との反応による方法は、F6Eの収率が記載されていないし、LiAlH6が汎用の化合物でないこともあって、工業的生産に適するものではない。
(イ)Cr-Zn触媒とF6-1,2を用いる方法は、F6Eの選択性が22%と低く、工業的生産に適するものではない。
(ウ)Ni触媒とF6-1,2を用いる方法は、6時間後のF6Eの収率が86.9%であったことが記載されているが、水素還元反応(水素化脱塩素化反応)においてNi触媒が失活しやすいことが指摘されており(非特許文献3)、また、本発明者もそのことを確認した。
(エ)Pd-Bi触媒と1-クロロ-ヘプタフルオロシクロペンテンを用いる方法は、副生するとされる1,3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(6F-CPE)とF6Eとの異同が明瞭でないし、仮に F6Eが副生するとしても、その収率は6%未満と低く、工業的生産には適するものではない。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術や該従来技術について本発明者が認識した問題点を背景としてなされたものであり、収率や選択性がよく、触媒の寿命が比較的に長い、F6Eの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、金属フッ化物に担持されたパラジウムとビスマスとを活性種として含む触媒存在下、F6-1,2、F6-1、または、F6-1,2とF6-1との混合物から、水素を用いた気相水素化脱塩素化反応によりP6Eを比較的高収率、高選択性で、かつ、比較的長期に製造できることなどを知見した。
【0010】
本発明は、前記知見などに基づいて完成したものであり、本件では、以下のような発明が提供される。
<1>フッ化アルミニウムに担持されたパラジウムとビスマスとを含む触媒存在下、1,2-ジクロロ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(F6-1,2)、1-クロロ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(F6-1)、または、F6-1,2とF6-1との混合物から、水素を用いた気相水素化脱塩素化反応により、3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(F6E)
を製造するF6Eの製造方法。
<2>前記パラジウムおよびビスマスが触媒全体の0.01~5重量%である<1>に記載のF6Eの製造方法。
<3>前記気相水素化脱塩素化反応における、F6-1,2、F6-1、または、F6-1,2とF6-1の混合物の接触時間が4~50秒である<1>または<2>に記載のF6Eの製造方法。
<4>F6-1,2、F6-1、または、F6-1,2とF6-1の混合物に対する水素のモル比が3~25である<1>~<3>のいずれか1項に記載のF6Eの製造方法。
<5>前記水素を用いた気相水素化脱塩素化反応の反応温度が100℃~360℃である<1>~<4>のいずれか1項に記載のF6Eの製造方法。
<6><1>~<5>のいずれか1項に記載のF6Eの製造方法において、前記触媒の前駆体を水素と窒素の混合物で還元して前記触媒を調製することを含むF6Eの製造方法。
<7>触媒調製時の還元温度が100℃から350℃である<6>に記載のF6Eの製造方法。
<8><1>~<5>のいずれか1項に記載のF6Eの製造方法において、前記F6-1またはF6-1,2とF6-1との混合物として、F6-1,2の水素を用いた気相水素化脱塩素化反応により得られたものを用いるF6Eの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のF6Eの製造方法によれば、比較的高い収率を比較的長く保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態について、以下、具体例を挙げて説明するが、以下の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更して実施することができる。
なお、本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味として使用される。
【0013】
本発明の製造方法は、金属フッ化物に担持されたパラジウムとビスマスとを活性種として含む触媒存在下、基質としてのF6-1,2、F6-1、または、F6-1,2とF6-1との混合物から、水素を用いた気相水素化脱塩素化反応により、F6Eを製造する。その水素化脱塩素化反応は、次の(1)、(2)で示され、これら(1)、(2)の反応が同時に進行するものも含まれる。
【化1】
【化2】
【0014】
本発明の製造方法で使用する触媒としては、金属フッ化物に担持されたパラジウムとビスマスとを活性種として含むものを用いる。パラジウム単独では活性が高すぎてF6Aが主生成物となり、ビスマス単独では触媒活性を示さない。
水素還元触媒の担体としては、一般的に、活性炭やアルミナがよく用いられるが、本水素化脱塩素化反応の場合では、活性炭やアルミナを用いると触媒活性の低下がみられた。詳細は明確でないが、本水素化脱塩素化反応では反応の副生成物として小量のフッ化水素(HF)が生じ、このHFが担体を腐食して活性を落とすことが考えられる。金属フッ化物はHFで腐食されにくいため、活性を維持できると考えられる。
金属フッ化物としては、限定するものではないが、例えば、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化亜鉛(ZnF2)等が挙げられる。
【0015】
触媒全体に対する活性種としてのパラジウムとビスマスとの合計量の割合は、好ましくは、0.01~5重量%、より好ましくは0.1~4重量%、さらに好ましくは0.5~3重量%である。
パラジウムとビスマスとの重量割合は、好ましくは1:10~10:1、より好ましくは1:5~5:1、さらに好ましくは1:3~3:1である。
【0016】
本発明における触媒は、どのように調製されたものでもよいが、例えば、パラジウム化合物とビスマス化合物を含む水溶液を、予め希フッ酸、希硝酸等で洗浄した多孔性金属フッ化物に含浸ないし吸着させ、乾燥後、不活性雰囲気中で100~500℃、好ましくは150~300℃で所定時間加熱焼成した後、水素含有ガス流中100~350℃(好ましくは120~250℃)の加熱下で還元されたもの等が挙げられる。
前記加熱や加熱下の還元は、パラジウム化合物とビスマス化合物を含浸ないし吸着した多孔性金属フッ化物を水素化脱塩素化反応用の気相反応容器や気相反応管中で行うこともできる。
還元用の水素含有ガスとしては、水素ガス単独でもよいが、窒素などの不活性ガスとの混合ガスを好適に使用することができる。
パラジウム化合物としては、限定するものではないが、例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウムなどが挙げられる。
ビスマス化合物としては、限定するものではないが、例えば、塩化ビスマス、酢酸ビスマス、臭化ビスマス、硝酸ビスマスなどが挙げられる。
【0017】
本発明の気相水素化反応によるF6Eの製造は、バッチ式でも可能であるが、基質と水素、または、それらの混合物を気相反応容器に連続的に供給し、反応生成物を連続的に気相反応容器から抜き出す連続式の方が製造効率等の点で好ましい。
気相水素化脱塩素化反応に使用する水素は、基質に対しモル比で3~25(好ましくは6~13)とすると、収率の点で望ましい。
気相水素化脱塩素化反応における反応温度は、好ましくは100~360℃、より好ましくは120~300℃、さらに好ましくは150~250℃である。
気相水素化脱塩素化反応における接触時間(=触媒見掛け体積/基質の供給速度)は、好ましくは4~50秒、より好ましくは20~30秒である。
基質と水素の混合流体は、発熱の抑制などを目的として希釈剤としての不活性ガスを混合することができる。そのような不活性ガスとしては、窒素、希ガス、パーフルオロカーボンなどが挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0019】
〔実施例1:パラジウム-ビスマス/フッ化アルミニウム触媒(触媒1:1wt%Pd-1.2wt%Bi/AlF3)を用いたF6-1,2からF6Eの製造〕
塩化パラジウムと塩化ビスマスを含む水溶液(PdCl2濃度:1.9重量%、BiCl2濃度:2.0重量%)6gを、10ml(6.7g)の、あらかじめ希フッ酸および希硝酸で洗浄した多孔質フッ化アルミニウムに吸着させた。これをすべてインコネル製反応管(外径1.44cm×長さ30cm)に入れ、窒素気流下(15ml/min)120℃で3時間加熱、さらに200℃に温度を上げて3時間加熱した。次に、水素と窒素の混合気流(H2/N2: 20ml/50ml/min)を流して150℃で3時間還元し、引き続きH2/N2(40ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(60ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(80ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(100ml/50ml/min)気流で3時間、還元して、触媒1を内部に有する反応管を得た。
この反応管に、反応温度200℃で、F6-1,2(液体状態で1.0ml/hの速度)および水素(20ml/min、F6-1,2に対するモル比:8)を供給して、反応させた。このときの、接触時間は26.7秒であった。反応継続時間が12時間と18時間の時、反応後のガスをサンプリングし、水(1~3℃)に通して塩化水素を除去するとともに有機物を水槽の底に集めた。この有機物を乾燥して得た生成物をガスクロマトグラフィー(島津製、GC-2014S)で分析した。
表1に分析結果を示す。反応継続時間が12時間後、18時間後のどちらも60%以上の比較的高収率を示し、また、反応継続時間が18時間後でも原料のF6-1,2の残存量やF6E等の生成量が変わっていない。これは触媒の活性が変わらず維持されていることを示している。
【0020】
【0021】
〔実施例2:パラジウム-ビスマス/フッ化アルミニウム触媒(触媒2:1wt%Pd-0.8wt%Bi/AlF3)を用いたF6-1からF6Eの製造〕
塩化パラジウムと塩化ビスマスを含む水溶液(PdCl2濃度:1.9重量%、BiCl2濃度:1.3重量%)6gを、10ml(6.7g)の、あらかじめ希フッ酸および希硝酸で洗浄した多孔質フッ化アルミニウムに吸着させた。これをすべてインコネル製反応管(外径1.44cm×長さ30cm)に入れ、窒素気流下(15ml/min)120℃で3時間加熱、さらに200℃に温度を上げて3時間加熱した。次に、水素と窒素の混合気流(H2/N2: 20ml/50ml/min)を流して150℃で3時間還元し、引き続きH2/N2(40ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(60ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(80ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(100ml/50ml/min)気流で3時間、還元して、触媒2を内部に有する反応管を得た。
この反応管に、反応温度200℃で、F6-1(液体状態で1.0ml/hの速度)および水素(20ml/min、F6-1に対するモル比:8)を供給して、反応させた。このときの、接触時間は26.5秒であった。反応継続時間が12時間と18時間の時、反応後のガスをサンプリングし、水(1~3℃)に通して塩化水素を除去するとともに有機物を水槽の底に集めた。この有機物を乾燥して得た生成物をガスクロマトグラフィー(島津製、GC-2014S)で分析した。
表2に分析結果を示す。反応継続時間が12時間後、18時間後のどちらも57%の比較的高収率を示し、反応継続時間が18時間後でも原料のF6-1の残存量や生成物F6E等の生成量が変わっていない。これは触媒の活性が変わらず維持されていることを示している。
【0022】
【0023】
〔実施例3:パラジウム-ビスマス/フッ化アルミニウム触媒(触媒1:1wt%Pd-1.2wt%Bi/AlF3)を用いたF6-1からF6Eの製造〕
実施例1と同様の触媒1を内部に有する反応管に、反応温度200℃で、F6-1(液体状態で1.0ml/hの速度)および水素(20ml/min、F6-1に対するモル比:8)を供給して、反応させた。このときの、接触時間は 26.5秒であった。反応継続時間が12時間、18時間、24時間、36時間の時、反応後のガスをサンプリングし、水(1~3℃)に通して塩化水素を除去するとともに有機物を水槽の底に集めた。この有機物を乾燥して得た生成物をガスクロマトグラフィー(島津製、GC-2014S)で分析した。
表3に分析結果を示す。反応継続時間が12時間後から36時間後にわたって67%~70%の比較的高収率を示し、また、反応継続時間が12時間以降では原料のF6-1の残存量や生成物F6E等の生成量がほとんど変わっていない。これは触媒の活性が変わらず維持されていることを示している。
【0024】
【0025】
〔比較例1:ニッケル/活性炭触媒(触媒3:20wt%Ni/C)を用いたF6-1,2からF6Eの製造〕
塩化ニッケル水溶液(NiCl2濃度:25重量%)8.8gを10ml(5.0g)の活性炭に吸着させた。これをすべてインコネル製反応管(外径1.44cm×長さ30cm)に入れ、窒素気流下(15ml/min)120℃で3時間加熱、さらに250℃に温度を上げて3時間加熱した。次に、水素と窒素の混合気流(H2/N2: 20ml/50ml/min)を流して150℃で3時間還元し、引き続きH2/N2(40ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(60ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(80ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(100ml/50ml/min)気流で3時間、還元して、触媒4を内部に有する反応管を得た。
この反応管に、反応温度300℃で、F6-1,2(液体状態で1.0ml/hの速度)および水素(20ml/min、F6-1,2に対するモル比:8)を供給して、反応させた。このときの、接触時間は26.7秒であった。反応継続時間が12時間、18時間の時、反応後のガスをサンプリングし、水(1~3℃)に通して塩化水素を除去するとともに有機物を水槽の底に集めた。この有機物を乾燥して得た生成物をガスクロマトグラフィー(島津製、GC-2014S)で分析した。
表4に分析結果を示す。反応継続時間が12時間後では、67%の比較的高収率を示したが、18時間後には、原料のF6-1,2の残存量が大幅に増加し、F6E等の生成量が大幅に減少している。これは、反応継続時間が12~18時間の間に触媒の活性が著しく低下したことを示している。
【0026】
【0027】
〔比較例2:パラジウム-ビスマス/活性炭触媒(触媒4:1wt%Pd-1.2wt%Bi/C)を用いたF6-1,2からF6Eの製造〕
塩化パラジウムと塩化ビスマスを含む水溶液(PdCl2濃度:1.9重量%、BiCl2濃度:2.0重量%)4.5gを、10ml(5.0g)の、活性炭に吸着させた。これをすべてインコネル製反応管(外径1.44cm×長さ30cm)に入れ、窒素気流下(15ml/min)120℃で3時間加熱、さらに200℃に温度を上げて3時間加熱した。次に、水素と窒素の混合気流(H2/N2: 20ml/50ml/min)を流して150℃で3時間還元し、引き続きH2/N2(40ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(60ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(80ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(100ml/50ml/min)気流で3時間、還元して、触媒5を内部に有する反応管を得た。
この反応管に、反応温度200℃で、F6-1,2(液体状態で1.0ml/hの速度)および水素(20ml/min、F6-1,2に対するモル比:8)を供給して、反応させた。このときの、接触時間は26.7秒であった。反応継続時間が12時間、15時間の時、反応後のガスをサンプリングし、水(1~3℃)に通して塩化水素を除去するとともに有機物を水槽の底に集めた。この有機物を乾燥して得た生成物をガスクロマトグラフィー(島津製、GC-2014S)で分析した。
表5に分析結果を示す。反応継続時間が12時間後でも収率が40%に止まり、F6Eの生成量が実施例に比べて低い。また、反応継続時間が15時間後には、原料のF6-1,2の残存量が増加し、F6Eの生成量が減少している。これは触媒の低い活性がさらに低下したことを示している。
【0028】
【0029】
〔比較例3:パラジウム-ビスマス/アルミナ触媒(触媒5:1wt%Pd-1.2wt%Bi/Al2O3)を用いたF6-1,2からF6Eの製造〕
塩化パラジウムと塩化ビスマスを含む水溶液(PdCl2濃度:1.9重量%、BiCl2濃度:2.0重量%)5.8gを、10ml(6.6g)の、アルミナに吸着させた。これをすべてインコネル製反応管(外径1.44cm×長さ30cm)に入れ、窒素気流下(15ml/min)120℃で3時間加熱、さらに200℃に温度を上げて3時間加熱した。次に、水素と窒素の混合気流(H2/N2: 20ml/50ml/min)を流して150℃で3時間還元し、引き続きH2/N2(40ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(60ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(80ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(100ml/50ml/min)気流で3時間、還元して、触媒6を内部に有する反応管を得た。
この反応管に、反応温度200℃で、F6-1,2(液体状態で1.0ml/hの速度)および水素(20ml/min、F6-1,2に対するモル比:8)を供給して、反応させた。このときの、接触時間は26.7秒であった。反応継続時間が12時間と18時間の時、反応後のガスをサンプリングし、水(1~3℃)に通して塩化水素を除去するとともに有機物を水槽の底に集めた。この有機物を乾燥して得た生成物をガスクロマトグラフィー(島津製、GC-2014S)で分析した。
表6に分析結果を示す。反応継続時間が12時間後でも収率が48%に止まり、F6Eの生成量が実施例に比べて低い。また、反応継続時間が18時間後には、原料のF6-1,2の残存量が増加し、F6Eの生成量が減少している。これは触媒の低い活性がさらに低下したことを示している。
【0030】
【0031】
〔比較例4:ニッケル触媒(触媒6:5wt%Ni/AlF3)を用いたF6-1からF6Eの製造〕
塩化ニッケル水溶液(NiCl2濃度:11重量%)7gを10ml(6.7g)の多孔質フッ化アルミニウムに吸着させた。これをすべてインコネル製反応管(外径1.44cm×長さ30cm)に入れ、窒素気流下(15ml/min)120℃で3時間加熱、さらに200℃に温度を上げて3時間加熱した。次に、水素と窒素の混合気流(H2/N2: 20ml/50ml/min)を流して150℃で3時間還元し、引き続きH2/N2(40ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(60ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(80ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(100ml/50ml/min)気流で3時間、還元して、触媒7を内部に有する反応管を得た。
この反応管に、反応温度200℃で、F6-1(液体状態で1.0ml/hの速度)および水素(20ml/min、F6-1に対するモル比:8)を供給して、反応させた。このときの、接触時間は26.5秒であった。反応継続時間が12時間と18時間の時、反応後のガスをサンプリングし、水(1~3℃)に通して塩化水素を除去するとともに有機物を水槽の底に集めた。この有機物を乾燥して得た生成物をガスクロマトグラフィー(島津製、GC-2014S)で分析した。
表7に分析結果を示す。反応継続時間が12時間後では、61%の比較的高収率を示したが、18時間後には、原料のF6-1の残存量が増加し、F6E等の生成量が大幅に減少している。これは触媒の活性が著しく低下したことを示している。
【0032】
【0033】
〔比較例5:パラジウム/フッ化アルミニウム触媒(触媒7:1wt%Pd/AlF3)を用いたF6-1,2からF6Eの製造〕
塩化パラジウムを含む水溶液(PdCl2濃度:1.9重量%)6gを、10ml(6.7g)の、あらかじめ希フッ酸および希硝酸で洗浄した多孔質フッ化アルミニウムに吸着させた。これをすべてインコネル製反応管(外径1.44cm×長さ30cm)に入れ、窒素気流下(15ml/min)120℃で3時間加熱、さらに200℃に温度を上げて3時間加熱した。次に、水素と窒素の混合気流(H2/N2: 20ml/50ml/min)を流して150℃で3時間還元し、引き続きH2/N2(40ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(60ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(80ml/50ml/min)気流で3時間、H2/N2(100ml/50ml/min)気流で3時間、還元して、触媒7を内部に有する反応管を得た。
この反応管に、反応温度200℃で、F6-1,2(液体状態で0.5ml/hの速度)および水素(10ml/min、F6-1,2に対するモル比:6)を供給して、反応させた。このときの、接触時間は51.4秒であった。反応継続時間が6時間の時、反応後のガスをサンプリングし、水(1~3℃)に通して塩化水素を除去するとともに有機物を水槽の底に集めた。この有機物を乾燥して得た生成物をガスクロマトグラフィー(島津製、GC-2014S)で分析した。
表8に分析結果を示す。F6Eは得られずF6Aが主生成物として得られた。これは、触媒の活性が強すぎて塩素の水素置換だけでは止まらず。炭素-炭素二重結合の還元も進行することを示している。
【0034】
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製造方法は、比較的高い収率で比較的長時間にわたってF6Eを製造できるので、エアゾール噴射剤、冷媒または伝熱流体、発泡剤、消火剤、吸収パワーサイクルシステムの作動流体、ヒートポンプ用冷媒等の製造に使用することが考えられる。