IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧

特許7133703投映像表示用積層フィルム、投映像表示用の合わせガラス、および、画像表示システム
<>
  • 特許-投映像表示用積層フィルム、投映像表示用の合わせガラス、および、画像表示システム 図1
  • 特許-投映像表示用積層フィルム、投映像表示用の合わせガラス、および、画像表示システム 図2
  • 特許-投映像表示用積層フィルム、投映像表示用の合わせガラス、および、画像表示システム 図3
  • 特許-投映像表示用積層フィルム、投映像表示用の合わせガラス、および、画像表示システム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】投映像表示用積層フィルム、投映像表示用の合わせガラス、および、画像表示システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20220901BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20220901BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220901BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
G02B27/01
B32B7/023
B32B27/30 102
G02B5/30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021504112
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2020008919
(87)【国際公開番号】W WO2020179787
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2019040484
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019177867
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019191993
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】大谷 健人
(72)【発明者】
【氏名】有田 修介
(72)【発明者】
【氏名】内村 真
(72)【発明者】
【氏名】矢内 雄二郎
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/110066(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/212755(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項9】
請求項8に記載の投映像表示用の合わせガラスに、p偏光を出射する光源から画像を投映する、画像表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投映像表示用積層フィルムおよび投映像表示用の合わせガラス、ならびに、画像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のウインドシールド等に使用される合わせガラスにハーフミラーフィルムを内蔵することにより、ハーフミラーフィルム(合わせガラス)をヘッドアップディスプレイシステムの投映像表示用部材として利用することができる。
例えば、特許文献1には、位相差層および複数のコレステリック液晶層を含むハーフミラーフィルムを、自動車に搭載されるヘッドアップディスプレイシステムの投映像表示用部材として使用することが開示されている。通常、自動車用の合わせガラスは2枚のガラス板の間に中間膜を有する。特許文献1には、合わせガラス構成のウインドシールドガラスにおいて、ハーフミラーフィルムを中間膜に設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/052367号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、ハーフミラーフィルムをヘッドアップディスプレイシステムの投映像表示用部材として使用する場合、2枚の中間膜の間にハーフミラーフィルムを挟持させたものを、2枚のガラス板の間に挟持させて合わせガラスを形成する。
ところが、従来のハーフミラーフィルムを合わせガラスに内蔵して投映像表示用部材として用いた場合には、投映像に歪みが生じてしまい、投映像の視認性が悪いという問題が生じてしまう。
【0005】
上記問題に鑑み、本発明の目的、すなわち、本発明が解決しようとする課題は、ハーフミラーフィルムを合わせガラスに内蔵してヘッドアップディスプレイシステム等の投映像表示装置に用いた場合に、歪みのない視認性の良好な画像の投映が可能な投映像表示用積層フィルム、この投映像表示用フィルムを用いる合わせガラス、および、画像表示システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、ハーフミラーフィルムを合わせガラスに内蔵してヘッドアップディスプレイシステムの投映像表示用部材とした場合に、投映像の歪みの原因となるのは、ハーフミラーフィルムのシワであることを見出した。
さらに、本発明者らが鋭意検討した結果、ハーフミラーフィルムのシワを無くし、歪みのない視認性の良好な画像を投映するためには、ハーフミラーフィルムの剛性が十分に低いこと、ハーフミラーフィルムをガラスの表面に追従させて平滑性を保つこと、および、ハーフミラーフィルムを含む部材が、ガラスの表面に対して十分な滑り性を有することが重要であり、これらを実現することで、ハーフミラーフィルムのシワの発生が抑制され、ムラのない視認性に優れた投映像が得られる投映像表示用の合わせガラスを実現できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は下記の構成の発明に関するものである。
【0008】
[1] 波長選択的に光を反射する選択反射層を含むハーフミラーフィルムと、ハーフミラーフィルムの一方の面に積層されるヒートシール層と、を有し、
ハーフミラーフィルムの25℃における剛性が4.0N・mm以下であり、
ヒートシール層は、厚みが40μm以下で、熱可塑性樹脂を含有し、ハーフミラーフィルムとは逆の面の静摩擦係数が1.0以下である、投映像表示用積層フィルム。
[2] ハーフミラーフィルムの剛性が1.0N・mm以下である、[1]に記載の投映像表示用積層フィルム。
[3] ヒートシール層の厚みが10μm以下である、[1]または[2]に記載の投映像表示用積層フィルム。
[4] ヒートシール層がポリビニルアセタール樹脂を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の投映像表示用積層フィルム。
[5] ヒートシール層が平均一次粒子径が5~380nmの微粒子を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の投映像表示用積層フィルム。
[6] ヒートシール層が、一次粒子の凝集体である二次粒子を形成する微粒子を含有するものであり、かつ、
一次粒子の平均粒子径が5~50nmで、二次粒子の平均粒子径が50~380nmである、[1]~[4]のいずれかに記載の投映像表示用積層フィルム。
[7] ヒートシール層が、微粒子を3~30質量%含有する、[5]または[6]に記載の投映像表示用積層フィルム。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の投映像表示用積層フィルムと、投映像表示用積層フィルムの選択反射層に隣接する中間膜との積層体を、2枚のガラス板で挟持した、投映像表示用の合わせガラス。
[9] [8]に記載の投映像表示用の合わせガラスに、p偏光を出射する光源から画像を投映する、画像表示システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、投映像表示用部材としてハーフミラーフィルムを用いるヘッドアップディスプレイシステム等の投映像の表示において、歪みのない視認性の良好な画像の投映が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の投映像表示用積層フィルムの一例を概念的に示す図である。
図2図2は、本発明の投映像表示用積層フィルムの別の例を概念的に示す図である。
図3図3は、本発明の投映像表示用の合わせガラスの一例を概念的に示す図である。
図4図4は、本発明の画像表示システムの一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
また、本明細書において、角度(例えば「90°」等の角度)、およびその関係(例えば、「平行」、「水平」、「鉛直」等)については、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、厳密な角度±10°未満の範囲内であることなどを意味し、厳密な角度との誤差は、5°以下が好ましく、3°以下がより好ましい。
【0012】
本明細書において、円偏光につき「選択的」と言うときは、光の右円偏光成分および左円偏光成分のいずれかの光量が、他方の円偏光成分よりも多いことを意味する。具体的には「選択的」というとき、光の円偏光度は、0.3以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。光の円偏光度は、実質的に1.0が特に好ましい。ここで、円偏光度とは、光の右円偏光成分の強度をIR、左円偏光成分の強度をILとしたとき、|IR-IL|/(IR+IL)で表される値である。
【0013】
本明細書において、円偏光につき「センス」と言うときは、右円偏光であるか、または左円偏光であるかを意味する。円偏光のセンスは、光が手前に向かって進んでくるように眺めた場合に電場ベクトルの先端が時間の増加に従って時計回りに回る場合が右円偏光であり、反時計回りに回る場合が左円偏光であるとして定義される。
【0014】
本明細書においては、コレステリック液晶の螺旋の捩れ方向について「センス」との用語を用いることもある。コレステリック液晶の螺旋の捩れ方向(センス)が右の場合は右円偏光を反射し、左円偏光を透過し、センスが左の場合は左円偏光を反射し、右円偏光を透過する。
【0015】
本明細書において、「光」と言う場合、特に断らない限り、可視光かつ自然光(非偏光)の光を意味する。可視光線は電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の光であり、通常、380~780nmの波長域の光を示す。
本明細書において、単に「反射光」または「透過光」と言うときは、散乱光および回折光を含む意味で用いられる。
【0016】
なお、光の各波長の偏光状態は、円偏光板を装着した分光放射輝度計またはスペクトルメータを用いて測定することができる。この場合、右円偏光板を通して測定した光の強度がIR、左円偏光板を通して測定した光の強度がILに相当する。また、照度計または光スペクトルメータに円偏光板を取り付けても測定することができる。右円偏光透過板をつけ、右円偏光量を測定、左円偏光透過板をつけ、左円偏光量を測定することにより、比率を測定できる。
【0017】
本明細書において、p偏光は光の入射面に平行な方向に振動する偏光を意味する。入射面は反射面(ウインドシールドガラス表面など)に垂直で入射光線と反射光線とを含む面を意味する。p偏光は電場ベクトルの振動面が入射面に平行である。
【0018】
本明細書において、面内位相差(面内位相差Re)は、Axometrics(アクソメトリクス)社製のAxoScanを用いて測定した値である。測定波長は特に言及のないときは、550nmとする。
【0019】
本明細書において、「投映像(projection image)」は、前方などの周囲の風景ではない、使用するプロジェクターからの光の投射に基づく映像を意味する。投映像(投影像)は、観察者から見てウインドシールドガラスの投映像表示部位の先に浮かび上がって見える虚像として観測される。
本明細書において、「画像(screen image)」は、プロジェクターの描画デバイスに表示される像または、描画デバイスにより中間像スクリーン等に描画される像を意味する。虚像に対して、画像は実像である。
画像および投映像は、いずれも単色の像であっても、2色以上の多色の像であっても、フルカラーの像であってもよい。
【0020】
本明細書において、「可視光線透過率」は、JIS R 3212:2015(自動車用安全ガラス試験方法)において定められたA光源可視光線透過率とする。すなわちA光源を用い分光光度計にて、380~780nmの範囲の各波長の透過率を測定し、CIE(国際照明委員会)の明順応標準比視感度の波長分布および波長間隔から得られる重価係数を各波長での透過率に乗じて加重平均することによって求められる透過率である。
【0021】
また、本明細書において、液晶組成物および液晶化合物は、硬化等により、もはや液晶性を示さなくなったものも概念として含まれる。
【0022】
以下、本発明の投映像表示用積層フィルム、投映像表示用の合わせガラス、および、画像表示システムについて、添付の図面を参照して説明する。なお、以下に示す図1図4においては、同じ部材には同じ符号を付す。
【0023】
図1に、本発明の投映像表示用積層フィルムの第1の態様を概念的に示す。
図1に示すように、本発明の投映像表示用積層フィルムは、図中下方から、ヒートシール層4、透明支持体1、位相差層2、および、選択反射層3を有する。本例においては、透明支持体1、位相差層2、および、選択反射層3でハーフミラーフィルム10が構成される。後に実施例で示すが、本発明の投映像表示用積層フィルムは、このヒートシール層4の透明支持体1(ハーフミラーフィルム10)とは逆側の面の静摩擦係数が1.0以下であることにより、ガラスとの高い滑り性を実現している。
なお、本発明の投映像表示用積層フィルムにおいて、各層の積層順は、図1に示す例に制限はされない。例えば、図中下方から、ヒートシール層4、位相差層2、選択反射層3、および、透明支持体1の順で積層される構成でもよい。
また、図2に本発明の投映像表示用積層フィルムの第2の態様を概念的示す。図2に示す投映像表示用フィルムは、ハーフミラーフィルム10が選択反射層3のみから構成される。本発明の投映像表示用積層フィルムにおいて、選択反射層3が後述する積層体からなる直線偏光反射層のような場合、ハーフミラーフィルム10は、透明支持体1、および、位相差層2は必ずしも有さなくても良い。
従って、図2に示す例では、選択反射層3と、選択反射層3の一方の面に積層されるヒートシール層4とで、投映像表示用積層フィルムが構成される。
【0024】
図3に、本発明の投映像表示用の合わせガラスの一例を概念的に示す。なお、以下の説明では『投映像表示用の合わせガラス』を、単に、『合わせガラス』とも言う。
本発明の合わせガラスは、上述した本発明の投映像表示用積層フィルムと、投映像表示用積層フィルムの選択反射層に隣接する中間膜5とを、2枚のガラス板で挟持したものである。
図3に示す合わせガラスは、図中下方から、第1ガラス板6、ヒートシール層4、透明支持体1、位相差層2、選択反射層3、中間膜5、および、第2ガラス板7を有する。後に実施例で示すが、本発明の投映像表示用積層フィルムは、ハーフミラーフィルムの25℃における剛性を4.0N・mm以下とすることでガラスへの追従性が良く、さらに、上述のとおり、ヒートシール層の透明支持体とは逆側の面の静摩擦係数が1.0以下であることにより、ヒートシール層とガラスの滑り性が高く、投映像表示用積層フィルムのシワの発生を抑えた合わせガラスを実現している。
【0025】
図3に示す、本発明の合わせガラスは、ハーフミラーフィルム10が透明支持体1および位相差層2を有しているが、本発明の合わせガラスは、これに制限はされない。
すなわち、本発明の合わせガラスは、本発明の投映像表示用積層フィルムとして、ハーフミラーフィルム10が透明支持体1および位相差層2を有さない、図2に示される構成の物を用いてもよい。従って、本発明の合わせガラスは、透明支持体1、位相差層2を必ずしも有さなくてもよい。
【0026】
以下、このような層構成を有する本発明の投映像表示用積層フィルム、および、合わせガラス(投映像表示用の合わせガラス)、ならびに、本発明の投映像表示用積層フィルムおよび合わせガラスを構成する各層について、より詳細に説明する。
【0027】
<<投映像表示用積層フィルム>>
本明細書において、投映像表示用積層フィルムとは、反射光で投映像を表示することができるハーフミラーフィルムを意味する。
本発明の投映像表示用積層フィルムは可視光透過性である。具体的には、本発明の投映像表示用積層フィルムの可視光線透過率は、85%以上が好ましく、86%以上がより好ましく、87%以上がさらに好ましい。
このような高い可視光線透過率を有することにより、可視光線透過率が低いガラスと組み合わせて合わせガラスとしたときであっても、車両のウインドシールドガラスの規格を満たす可視光線透過率を実現することができる。
【0028】
本発明の投映像表示用積層フィルムは視感度の高い波長域において実質的な反射を示さないことが好ましい。具体的には、法線方向からの光に対して、通常の合わせガラスと、本発明の投映像表示用積層フィルムを組み込んだ合わせガラスとを比較したときに、波長550nm近辺で実質的に同等な反射を示すことが好ましい。特に、490~620nmの可視光波長域において、実質的に同等な反射を示すことがより好ましい。
「実質的に同等な反射」とは、例えば、日本分光社製の分光光度計「V-670」等の分光光度計で法線方向から測定した対象の波長における自然光(無偏光)の反射率の差が10%以下であることを意味する。上述の波長域において、「実質的に同等な反射」における反射率の差は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。
視感度の高い波長域において実質的に同等な反射を示すことによって、可視光線透過率が低いガラスと組み合わせて合わせガラスとしたときであっても、車両のウインドシールドガラスの規格を満たす可視光線透過率を実現することができる。
【0029】
本発明の投映像表示用積層フィルムは、薄膜のフィルム状、および、シート状などであればよい。
本発明の投映像表示用積層フィルムは、ウインドシールドガラス(合わせガラス)等に使用される前は、薄膜のフィルムとしてロール状等になっていてもよい。
【0030】
本発明の投映像表示用積層フィルムは、少なくとも投映されている光の一部に対して、ハーフミラーとしての機能を有しているものであればよく、例えば可視光域全域の光に対してハーフミラーとして機能していることを必要とするものではない。また、本発明の投映像表示用積層フィルムは、全ての入射角の光に対して上述のハーフミラーとしての機能を有していてもよいが、少なくとも一部の入射角の光に対して上述の機能を有していればよい。
【0031】
上述したように、本発明の投映像表示用積層フィルムは、ハーフミラーフィルムおよびヒートシール層を含む。また、本発明の投映像表示用積層フィルムにおいて、ハーフミラーフィルムは、選択反射層を含む。
また、本発明の合わせガラス(投映像表示用の合わせガラス)は、本発明の投映像表示用積層フィルムと中間膜とを、2枚のガラス板で挟持したものであり、中間膜は選択反射層に隣接する。
なお、図1に示す本発明の投映像表示用積層フィルムは、一例として、選択反射層に加え、透明支持体および位相差層を有する。また、本発明の投映像表示用積層フィルムは、必要に応じて、配向層、および、接着層などの層を含んでいてもよい。
【0032】
<選択反射層>
選択反射層は波長選択的に光を反射する層である。選択反射層は可視光波長域の一部において選択反射を示すことが好ましい。選択反射層は投映像表示のための光を反射すればよい。
【0033】
本発明において、最も短い波長に選択反射の中心波長を有する選択反射層の選択反射の中心波長は、750nm以下が好ましく、720nm以下がより好ましく、700nm以下がさらに好ましい。
【0034】
本発明の投映像表示用積層フィルムにおいて、ハーフミラーフィルムは、2層以上の選択反射層を含んでいてもよい。
2層以上の選択反射層の選択反射の中心波長は同一であってもよく、異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。
例えば、選択反射層を2層含む場合、この2層の選択反射の中心波長は、60nm以上異なることが好ましく、80nm以上異なることがより好ましく、100nm以上異なることがさらに好ましい。2層以上の選択反射層の選択反射の中心波長はいずれも650~780nmにあってもよく、少なくとも1つが650~780nmにあり、その他の1以上が780nm超の波長にあってもよいが、いずれも650~780nmにあることが好ましい。
【0035】
選択反射層は偏光反射層であることが好ましい。偏光反射層は、直線偏光、円偏光、または楕円偏光を反射する層である。
偏光反射層は、円偏光反射層または直線偏光反射層であることが好ましい。円偏光反射層は、選択的に反射する波長域において、いずれか一方のセンスの円偏光を反射し、かつ、他方のセンスの円偏光を透過する層である。また、直線偏光反射層は、選択的に反射する波長域において、1つの偏光方向の直線偏光を反射し、かつ、反射する偏光方向に直交する偏光方向の直線偏光を透過する層である。
偏光反射層は、反射しない偏光を透過させることができ、選択反射層が反射を示す波長域においても、一部の光を透過させることができる。そのため、投映像表示用ハーフミラーを透過した光の色味を悪化させにくく、可視光線透過率も低下させにくくなるため、好ましい。
円偏光反射層である選択反射層としては、コレステリック液晶層が好ましい。
【0036】
[コレステリック液晶層]
本明細書において、コレステリック液晶層は、コレステリック液晶相を固定した層を意味する。
コレステリック液晶層は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持されている層であればよい。コレスティック液晶層は、典型的には、重合性液晶化合物をコレステリック液晶相の配向状態としたうえで、紫外線照射、加熱等によって重合、硬化し、流動性が無い層を形成して、同時に、外場および外力等によって配向形態に変化を生じさせることがない状態に変化した層であればよい。
なお、コレステリック液晶層においては、コレステリック液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、層中の液晶化合物はもはや液晶性を示していなくてもよい。例えば、重合性液晶化合物は、硬化反応により高分子量化して、もはや液晶性を失っていてもよい。
【0037】
コレステリック液晶層は、右円偏光および左円偏光のいずれか一方のセンスの円偏光を選択的に反射させるとともに他方のセンスの円偏光を透過する円偏光選択反射を示すことが知られている。
円偏光選択反射性を示すコレステリック液晶相を固定した層を含むフィルムとして、重合性液晶化合物を含む組成物から形成されたフィルムは従来から数多く知られており、コレステリック液晶層については、それらの従来技術を参照することができる。
【0038】
コレステリック液晶層の選択反射の中心波長λは、コレステリック液晶相における螺旋構造のピッチP(=螺旋の周期)に依存し、コレステリック液晶層の平均屈折率nとλ=n×Pの関係にしたがう。この式からわかるように、コレステリック液晶層は、n値とP値を調節することにより、選択反射の中心波長を調節することができる。
【0039】
コレステリック液晶層の選択反射中心波長と半値幅は、下記のように求めることができる。
分光光度計UV3150(島津製作所製)を用いてコレステリック液晶層の透過スペクトル(コレステリック液晶層の法線方向から測定したもの)を測定すると、選択反射帯域に透過率の低下ピークがみられる。このピークの極小透過率と低下前の透過率との中間(平均)の透過率となる2つの波長のうち、短波長側の波長の値をλl(nm)、長波長側の波長の値をλh(nm)とすると、選択反射の中心波長λと半値幅Δλは下記式で表すことができる。
λ=(λl+λh)/2
Δλ=(λh-λl
上述のように求められる選択反射の中心波長はコレステリック液晶層の法線方向から測定した円偏光反射スペクトルの反射ピークの重心位置にある波長と略一致する。
【0040】
後述するように、ヘッドアップディスプレイシステムにおいては、ウインドシールドガラスに対して斜めに光が入射するように用いることにより、投映光入射側のガラス板表面での反射率を低くすることができる。
このとき、コレステリック液晶層に対しても斜めに光が入射する。例えば、屈折率1の空気中で投映像表示部位の法線に対し45°~70°の角度で入射した光は、屈折率1.61程度のコレステリック液晶層を26°~36°程度の角度で透過する。この場合、選択的な反射波長は、短波長側にシフトする。選択反射の中心波長がλであるコレステリック液晶層中でコレステリック液晶層の法線方向(コレステリック液晶層の螺旋軸方向)に対して光線がθ2の角度で通過するときの選択反射の中心波長をλdとするとき、λdは以下の式で表される。
λd=λ×cosθ2
【0041】
そのため、θ2が26°~36°のとき650~780nmの範囲に選択反射の中心波長を有するコレステリック液晶層は、520~695nmの範囲で投映光を反射することができる。
このような波長範囲は視感度の高い波長域であるため投映像の輝度への寄与度が高く、結果として高い輝度の投映像を実現することができる。
【0042】
コレステリック液晶相のピッチは、重合性液晶化合物とともに用いるキラル剤の種類、またはその添加濃度に依存するため、これらを調節することによって所望のピッチを得ることができる。なお、螺旋のセンスおよびピッチの測定法については「液晶化学実験入門」日本液晶学会編シグマ出版2007年出版、46頁、および「液晶便覧」液晶便覧編集委員会丸善196頁に記載の方法を用いることができる。
【0043】
各コレステリック液晶層としては、螺旋のセンスが右または左のいずれかであるコレステリック液晶層が用いられる。コレステリック液晶層の反射円偏光のセンスは螺旋のセンスに一致する。選択反射の中心波長が異なるコレステリック液晶層の螺旋のセンスは全て同じであっても、異なるものが含まれていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0044】
また、本発明の投映像表示用積層フィルムにおいて、ハーフミラーフィルムは、同一または重複する波長域で選択反射を示すコレステリック液晶層として異なる螺旋のセンスのコレステリック液晶層を含まないことが好ましい。特定の波長域での透過率が例えば50%未満に低下することを避けるためである。
【0045】
選択反射を示す選択反射帯の半値幅Δλ(nm)は、Δλが液晶化合物の複屈折Δnと上述ピッチPに依存し、Δλ=Δn×Pの関係に従う。そのため、選択反射帯の幅の制御は、Δnを調節して行うことができる。Δnの調節は重合性液晶化合物の種類および混合比率等を調節したり、配向固定時の温度を制御したりすることで行うことができる。
選択反射の中心波長が同一の1種のコレステリック液晶層の形成のために、ピッチPが同じで、同じ螺旋のセンスのコレステリック液晶層を複数積層してもよい。ピッチPが同じで、同じ螺旋のセンスのコレステリック液晶層を積層することによって、特定の波長で円偏光選択性を高くすることができる。
【0046】
ハーフミラーフィルムにおいて、複数のコレステリック液晶層を積層する際は、別に作製したコレステリック液晶層を接着剤等を用いて積層してもよく、後述の方法で形成された先のコレステリック液晶層の表面に直接、重合性液晶化合物等を含む液晶組成物を塗布し、配向および固定の工程を繰り返してもよいが、後者が好ましい。
先に形成されたコレステリック液晶層の表面に直接次のコレステリック液晶層を形成することにより、先に形成したコレステリック液晶層の空気界面側の液晶分子の配向方位と、その上に形成するコレステリック液晶層の下側の液晶分子の配向方位が一致し、コレステリック液晶層の積層体の偏光特性が良好となるからである。また、接着層の厚みムラに由来して生じる得るコレステリック液晶層の歪み、および、干渉ムラが生じない、という効果もある。
【0047】
コレステリック液晶層の厚みには制限はないが、0.5~10μmが好ましく、1.0~8.0μmがより好ましく、1.5~6.0μmがさらに好ましい。
本発明においては、コレステリック液晶層の厚みを上述の範囲とすることにより、可視光線透過率を高く維持することができる。
【0048】
(コレステリック液晶層の作製方法)
以下、コレステリック液晶層の作製材料および作製方法について説明する。
上述したコレステリック液晶層の形成に用いる材料としては、重合性液晶化合物とキラル剤(光学活性化合物)とを含む液晶組成物などが挙げられる。必要に応じてさらに界面活性剤および重合開始剤などと混合して溶剤などに溶解した上述液晶組成物を、支持体、配向層、下層となるコレステリック液晶層などに塗布し、コレステリック配向熟成後、液晶組成物の硬化により固定化してコレステリック液晶層を形成することができる。
【0049】
(重合性液晶化合物)
重合性液晶化合物は、棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよいが、棒状液晶化合物であることが好ましい。
コレステリック液晶層を形成する棒状の重合性液晶化合物の例としては、棒状ネマチック液晶化合物が挙げられる。棒状ネマチック液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、および、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0050】
重合性液晶化合物は、重合性基を液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、およびアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基が特に好ましい。重合性基は種々の方法で、液晶化合物の分子中に導入できる。重合性液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは一分子中に1~6個、より好ましくは1~3個である。
重合性液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586、国際公開WO95/24455、WO97/00600、WO98/23580、WO98/52905、特開平1-272551号公報、同6-16616号公報、同7-110469号公報、同11-80081号公報、および、特開2001-328973号公報などに記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0051】
また、液晶組成物中の重合性液晶化合物の添加量は、液晶組成物の固形分質量(溶媒を除いた質量)に対して、80~99.9質量%であることが好ましく、85~99.5質量%であることがより好ましく、90~99質量%であることが特に好ましい。
【0052】
(キラル剤:光学活性化合物)
キラル剤はコレステリック液晶相の螺旋構造を誘起する機能を有する。キラル剤は、化合物によって誘起する螺旋のセンスまたは螺旋ピッチが異なるため、目的に応じて選択すればよい。
キラル剤としては、特に制限はなく、公知の化合物を用いることができる。キラル剤の例としては、液晶デバイスハンドブック(第3章4-3項、TN、STN用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989)、特開2003-287623号、特開2002-302487号、特開2002-80478号、特開2002-80851号、特開2010-181852号、および、特開2014-034581号等の各公報に記載の化合物が挙げられる。
【0053】
キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物あるいは面性不斉化合物もキラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体が含まれる。
キラル剤は、重合性基を有していてもよい。キラル剤と液晶化合物とがいずれも重合性基を有する場合は、重合性キラル剤と重合性液晶化合物との重合反応により、重合性液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル剤から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル剤が有する重合性基は、重合性液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であることが好ましい。従って、キラル剤の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基またはアジリジニル基であることが好ましく、不飽和重合性基であることがより好ましく、エチレン性不飽和重合性基であることがさらに好ましい。
また、キラル剤は、液晶化合物であってもよい。
【0054】
キラル剤としては、イソソルビド誘導体、イソマンニド誘導体、および、ビナフチル誘導体等が好ましく例示される。イソソルビド誘導体としては、BASF社製のLC-756等の市販品を用いてもよい。
液晶組成物における、キラル剤の含有量は、重合性液晶化合物量の0.01~200モル%が好ましく、1~30モル%がより好ましい。なお、液晶組成物中におけるキラル剤の含有量は、組成物中の全固形分に対するキラル剤の濃度(質量%)を意図する。
【0055】
(重合開始剤)
液晶組成物は、重合開始剤を含有していることが好ましい。紫外線照射により重合反応を進行させる態様では、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であることが好ましい。光重合開始剤の例には、α-カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60-105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)、アシルフォスフィンオキシド化合物(特公昭63-40799号公報、特公平5-29234号公報、特開平10-95788号公報、特開平10-29997号公報、特開2001-233842号公報、特開2000-80068号公報、特開2006-342166号公報、特開2013-114249号公報、特開2014-137466号公報、特許4223071号公報、特開2010-262028号公報、特表2014-500852号公報記載)、オキシム化合物(特開2000-66385号公報、日本特許第4454067号明細書記載)、および、オキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。例えば、特開2012-208494号公報の段落[0500]~[0547]の記載も参酌できる。
【0056】
重合開始剤としては、アシルフォスフィンオキシド化合物またはオキシム化合物を用いることも好ましい。
アシルフォスフィンオキシド化合物としては、例えば、市販品のBASFジャパン社製のIRGACURE810(化合物名:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)を用いることができる。オキシム化合物としては、IRGACURE OXE01(BASF社製)、IRGACURE OXE02(BASF社製)、TR-PBG-304(常州強力電子新材料有限公司製)、アデカアークルズNCI-831、アデカアークルズNCI-930(ADEKA社製)、および、アデカアークルズNCI-831(ADEKA社製)等の市販品を用いることができる。
重合開始剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
液晶組成物中の光重合開始剤の含有量は、重合性液晶化合物の含有量に対して0.1~20質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。
【0057】
(架橋剤)
液晶組成物は、硬化後の膜強度向上、耐久性向上のため、任意に架橋剤を含有していてもよい。架橋剤としては、紫外線、熱、および、湿気等で硬化するものが好適に使用できる。
架橋剤には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等のアジリジン化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、ビウレット型イソシアネート等のイソシアネート化合物;オキサゾリン基を側鎖に有するポリオキサゾリン化合物;ビニルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物などが挙げられる。また、架橋剤の反応性に応じて公知の触媒を用いることができ、膜強度および耐久性向上に加えて生産性を向上させることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
架橋剤の含有量は、重合性液晶化合物の含有量に対して3~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。架橋剤の含有量を3質量%以上とすることにより、架橋密度向上の効果を得ることができる。架橋剤の含有量を20質量%以下とすることにより、コレステリック液晶層の安定性の低下を防止できる。
【0058】
(配向制御剤)
液晶組成物中には、安定的にまたは迅速にプレーナー配向のコレステリック液晶層とするために寄与する配向制御剤を添加してもよい。配向制御剤の例としては特開2007-272185号公報の段落[0018]~[0043]等に記載のフッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、特開2012-203237号公報の段落[0031]~[0034]等に記載の式(I)~(IV)で表される化合物、および、特開2013-113913号公報に記載の化合物などが挙げられる。
なお、配向制御剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
液晶組成物中における、配向制御剤の添加量は、重合性液晶化合物の全質量に対して0.01~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.02~1質量%が特に好ましい。
【0060】
(その他の添加剤)
その他、液晶組成物は、塗膜の表面張力を調節し厚みを均一にするための界面活性剤、および重合性モノマー等の種々の添加剤から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。また、液晶組成物中には、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、色材、金属酸化物微粒子等を、光学性能を低下させない範囲で添加することができる。
【0061】
コレステリック液晶層は、重合性液晶化合物および重合開始剤、さらに必要に応じて添加されるキラル剤、界面活性剤等を溶媒に溶解させた液晶組成物を、支持体、配向層、または先に作製されたコレステリック液晶層等の上に塗布し、乾燥させて塗膜を得、この塗膜に活性光線を照射してコレステリック液晶組成物を重合し、コレステリック規則性が固定化されたコレステリック液晶層を形成することができる。
なお、複数のコレステリック液晶層からなる積層膜は、コレステリック液晶層の上述製造工程を繰り返し行うことにより形成することができる。
【0062】
(溶媒)
液晶組成物の調製に使用する溶媒には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有機溶媒が好ましく用いられる。
有機溶媒には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、および、エーテル類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、環境への負荷を考慮した場合にはケトン類が特に好ましい。
【0063】
(塗布、配向、重合)
液晶組成物の塗布方法には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ワイヤーバーコーティング法、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、および、スライドコーティング法などが挙げられる。また、別途支持体上に塗設した液晶組成物を転写することによっても実施できる。塗布した液晶組成物を加熱することにより、液晶分子を配向させる。加熱温度は、200℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。この配向処理により、重合性液晶化合物が、フィルム面に対して実質的に垂直な方向に螺旋軸を有するようにねじれ配向している光学薄膜が得られる。
【0064】
配向させた液晶化合物をさらに重合させることにより、液晶組成物を硬化することができる。重合は、熱重合、および、光照射を利用する光重合のいずれでもよいが、光重合が好ましい。光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2~50J/cm2が好ましく、100~1,500mJ/cm2がより好ましい。
光重合反応を促進するため、加熱条件下および/または窒素雰囲気下で光照射を実施してもよい。照射紫外線波長は350~430nmが好ましい。重合反応率は、安定性の観点から高いほうが好ましく、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。重合反応率は、重合性の官能基の消費割合をIR吸収スペクトルを用いて測定することにより、決定することができる。
【0065】
[直線偏光反射層]
本発明の投映像表示用積層フィルムにおいて、ハーフミラーフィルムの選択反射層としては、直線偏光反射層を用いてもよい。
直線偏光反射層としては、例えば屈折率異方性の異なる薄膜を積層した偏光子が挙げられる。このような偏光子は、コレステリック液晶層と同様に、高い可視光線透過率であり、かつ特定の波長域で選択反射の中心波長を示す構成とすることができる。また、ヘッドアップディスプレイシステムにおける使用時に斜めから入射する投映光を視感度の高い波長において反射することができる。
【0066】
屈折率異方性の異なる薄膜を積層した偏光子としては、例えば特表平9-506837号公報などに記載されたものを用いることができる。所望の屈折率関係を得るために選ばれた条件下で加工すると、広く様々な材料を用いて、偏光子を形成できる。
一般に、第1の材料の一つが、選ばれた方向において、第2の材料とは異なる屈折率を有することが必要である。この屈折率の違いは、フィルムの形成中、またはフィルムの形成後の延伸、押出成形、或いはコーティングを含む様々な方法で達成できる。さらに、2つの材料が同時押出することができるように、類似のレオロジー特性(例えば、溶融粘度)を有することが好ましい。
【0067】
屈折率異方性の異なる薄膜を積層した偏光子としては、市販品を用いることができる。市販品としては、反射型偏光板と仮支持体との積層体となっているものを用いてもよい。市販品としては、例えば、DBEF(3M社製)、および、APF(高度偏光フィルム(Advanced Polarizing Film(3M社製))等が挙げられる。
反射型偏光板の厚みは、好ましくは0.5~50μm、より好ましくは1.0~30μmである。
【0068】
<位相差層>
本発明の投映像表示用積層フィルムにおいて、ハーフミラーフィルムは、選択反射層に加え、位相差層を含んでいてもよい。特に、選択反射層としてコレステリック液晶層を用いる場合には、ハーフミラーフィルムが位相差層を含むことが好ましい。
位相差層をコレステリック液晶層と組み合わせて用いることにより、鮮明な投映像を表示することができる。面内位相差および遅相軸方向の調節により、ヘッドアップディスプレイシステムにおいて高い輝度を与え、また二重像も防止することができる投映像表示用積層フィルムを提供することができる。
投映像表示用ハーフミラーにおいて、位相差層は、使用時に全ての選択反射層(コレステリック液晶層)に対して視認側にあるように設けられる。
なお、投映像表示用積層フィルムのハーフミラーフィルムが、選択反射層としてコレステリック液晶層を含む場合であっても、例えば、ヘッドアップディスプレイシステム(画像表示システム)のプロジェクターが円偏光の投映像を照射する場合には、ハーフミラーフィルムは、位相差層を含まなくてもよい。
【0069】
位相差層には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。位相差層としては、例えば、延伸されたポリカーボネートフィルム、延伸されたノルボルネン系ポリマーフィルム、炭酸ストロンチウムのような複屈折を有する無機粒子を含有して配向させた透明フィルム、支持体上に無機誘電体を斜め蒸着した薄膜、液晶化合物を一軸配向させて配向固定したフィルム、および、重合性液晶化合物を一軸配向させて配向固定したフィルムなどが挙げられる。
【0070】
位相差層は、重合性液晶化合物を一軸配向させて配向固定したフィルムが好ましい。例えば、位相差層は、仮支持体、または配向層表面に重合性液晶化合物を含む液晶組成物を塗布し、そこで液晶組成物中の重合性液晶化合物を液晶状態においてネマチック配向に形成後、硬化によって固定化して、形成することができる。この場合の位相差層の形成は液晶組成物中にキラル剤を添加しない以外は、上述のコレステリック液晶層の形成と同様に行うことができる。ただし、液晶組成物の塗布後のネマチック配向の際、加熱温度は50~120℃が好ましく、60~100℃がより好ましい。
【0071】
位相差層は、高分子液晶化合物を含む組成物を、仮支持体または配向層等の表面に塗布して液晶状態においてネマチック配向に形成後、冷却することによって当該配向を固定化して得られる層であってもよい。
【0072】
位相差層の厚みは、0.2~300μmが好ましく、0.4~150μmがより好ましく、0.5~80μmがさらに好ましい。液晶組成物から形成される位相差層の厚みは、特に限定はされないが、0.2~10μmが好ましく、0.4~5.0μmがより好ましく、0.5~2.0μmがさらに好ましい。
【0073】
位相差層の遅相軸の方向は、画像表示システム、例えばヘッドアップディスプレイシステムとしての使用時の、投映像表示のための入射光の入射方向、および、コレステリック液晶層の螺旋のセンスに応じて決定することが好ましい。
本発明の投映像表示用積層フィルムを用いる本発明の合わせガラスは、ヘッドアップディスプレイとしての使用時の方向が定まれば、位相差層の遅相軸の方向を決定できる。一例として、入射光が、合わせガラス(投映像表示用積層フィルム)の下(鉛直下)方向であり、かつ、コレステリック液晶層に対して位相差層側から入射する場合については、面内位相差に応じて、以下のような範囲で遅相軸の方向を定めることができる。
例えば、波長550nmにおける面内位相差が250~450nmの位相差層を用いる場合、合わせガラス(投映像表示用積層フィルム)の鉛直上方向に対し、位相差層の遅相軸が+30°~+85°または-30°~-85°の範囲が好ましい。また、波長550nmにおける面内位相差が50~180nmの位相差層を用いる場合、合わせガラスの鉛直上方向に対し、位相差層の遅相軸が+120°~+175°または-120°~-175°の範囲が好ましい。
【0074】
自動車などの乗り物に設けられたウインドシールドガラス(コンバイナ)では、通常の使用時に、ウインドシールドガラス(コンバイナ)の面内の方向であって、運転者を基準に、上下(鉛直方向の上下方向)となる方向、および、視認側(観察者側、運転者側、車内側)となる面が特定できる。
本明細書において、ウインドシールドガラス、合わせガラス、および、投映像表示用積層フィルムについて、鉛直上方向と言うときは、上述のように特定できるウインドシールドガラス、合わせガラス、および、投映像表示用積層フィルムの視認側の面において、上述のように特定できる使用時に鉛直方向に沿う方向を意味する。
【0075】
さらに、波長550nmにおける面内位相差が250~450nmの位相差層を用いる場合、合わせガラスの鉛直上方向に対し、位相差層の遅相軸が+35°~+70°または-35°~-70°の範囲が、より好ましい。
また、波長550nmにおける面内位相差が50~180nmの位相差層を用いる場合、合わせガラスの鉛直上方向に対し、位相差層の遅相軸が+125°~+160°または-125°~-160°の範囲が、より好ましい。
【0076】
なお、遅相軸について、上述で+および-が定義されているが、これは視認位置を固定したときの時計回り方向(+)と反時計回り方向(-)を意味する。好ましい方向は、投映像表示用積層フィルムのハーフミラーフィルムが有するコレステリック液晶層の螺旋のセンスに依存する。すなわち、位相差層の遅相軸は、コレステリック液晶層が反射する円偏光に応じて、入射した直線偏光(p偏光)を、コレステリック液晶層が反射する旋回方向の円偏光となるように、設定する。
例えば、ハーフミラーフィルムが有する全てのコレステリック液晶層の螺旋のセンスが右である場合、位相差層の遅相軸の方向は、コレステリック液晶層に対して位相差層側から見て、鉛直上方向に対して、時計回りに30°~85°または120°~175°であればよい。合わせガラスに含まれる全てのコレステリック液晶層の螺旋のセンスが左である場合、位相差層の遅相軸方向は、コレステリック液晶層に対して位相差層側から見て反時計回りに30°~85°または120°~175°であればよい。
【0077】
[第2の位相差層]
本発明の投映像表示用積層フィルムのハーフミラーフィルムは、上述した位相差層に加えて、第2の位相差層を含んでいてもよい。
第2の位相差層を設ける場合には、上述した位相差層(以下、「第1の位相差層」とも言う)、全てのコレステリック液晶層、および、第2の位相差層が、この順になるように設ければよい。特に、視認側から、第1の位相差層、選択反射層、および、第2の位相差層がこの順になるように設ければよい。
第1の位相差層に加えて上述の位置に第2の位相差層を含むことによって、二重像をさらに防止することができる。特に、p偏光を入射させて投映像を形成する場合の二重像を、さらに防止することができる。第2の位相差層の利用により二重像をさらに防止することができる理由は、コレステリック液晶層の選択反射帯域にない波長の光がコレステリック液晶層で偏光変換してウインドシールドガラスの裏面で反射されることに基づく二重像を防止できるためと推定される。
【0078】
第2の位相差層の面内位相差は、波長550nmにおいて160~460nmの範囲、好ましくは240~420nmの範囲で、適宜、調節すればよい。
第2の位相差層の材料および厚み等は、第1の位相差層と同様の範囲で選択することができる。
【0079】
第2の位相差層の遅相軸方向は、投映像表示のための入射光の入射方向、およびコレステリック液晶層の螺旋のセンスに応じて決定することが好ましい。
例えば、波長550nmにおける160~400nmの範囲の面内位相差を有する第2の位相差層であれば、合わせガラス(投映像表示用積層フィルム)の鉛直上方向に対し、遅相軸が+10°~+35°、または-10°~-35°の範囲となるようにすることが好ましい。波長550nmにおける200~400nmの範囲の面内位相差を有する第2の位相差層であれば、合わせガラスの鉛直上方向に対し、遅相軸が+100°~+140°、または-100°~-140°の範囲となるようにすることが好ましい。
【0080】
[他の層]
本発明の投映像表示用積層フィルムを構成するハーフミラーフィルムは、必須の構成要素である選択反射層、および、必要に応じて設けられる、上述した第1および第2の位相差層以外にも、他の層を含んでいてもよい。他の層はいずれも可視光領域で透明であることが好ましい。
また、他の層はいずれも低複屈折性であることが好ましい。本明細書において低複屈折性であるとは、本発明に用いられるウインドシールドガラスの投映像表示用ハーフミラーが反射を示す波長域において、面内位相差が10nm以下であることを意味し、面内位相差は5nm以下であることが好ましい。さらに、他の層はいずれもコレステリック液晶層の平均屈折率(面内平均屈折率)との屈折率の差が小さいことが好ましい。他の層としては支持体(透明支持体)、配向層、および、接着層などが挙げられる。
【0081】
(透明支持体)
ハーフミラーフィルムは、透明支持体を含んでいてもよい。位相差層が透明支持体を兼用してもよい。または、透明支持体が位相差層を兼用してもよい。
本発明で好ましく用いられる透明支持体は、波長550nmにおける面内位相差の絶対値が10nm以下、好ましくは面内位相差の絶対値が5nm以下である。また、厚み方向の位相差Rthの絶対値は40nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。位相差が小さいことにより、透明支持体による偏光の乱れが小さくなる。
【0082】
透明支持体は、熱で収縮してもよい。特に、ハーフミラーフィルムを2枚の曲面ガラスに挟持させて合わせガラスとする場合には、透明支持体が熱収縮することで、ハーフミラーフィルムが収縮し、シワを抑制できる点で好ましい。
曲面ガラスに対して、平面のハーフミラーフィルムを挟む場合に、余分となるフィルムによって生じるシワを、透明支持体を含むハーフミラーフィルムが収縮することで解消できるものと推定する。
一般に、透明支持体は、製造において延伸するプロセスが含まれており、延伸による応力が残留応力として存在する。そのため、この残留応力を利用し、合わせガラス作製時のオートクレーブの加熱によって、熱収縮させることができる。この熱収縮によって、曲面ガラスによる挟持で発生するシワを解消できるものと推定する。また、シワは、曲面ガラスの外周部近傍のガラスの湾曲の大きい部分に発生しやすく、ガラスの湾曲の小さい部分では発生しにくい。これに対して、熱収縮する透明支持体を用いたハーフミラーフィルムでは、ガラスの湾曲が大きい部分でシワの発生を効果的に抑える作用がある。ガラスの湾曲の大きい部分では、フィルムが厚み方向に膨張する自由度があり、面方向のフィルム収縮が起こり、ガラスの湾曲の小さい部分ではフィルムが厚み方向に膨張する自由度が小さく、面方向のフィルム収縮がほとんど起こらないという作用機構が考えられる。
透明支持体が熱収縮する温度は、透明支持体の形成材料に応じて様々であるが、80~200℃の範囲で収縮するのが好ましく、一般的な合わせガラスの作製におけるオートクレーブ処理温度である100~160℃の範囲で収縮するのがより好ましい。
透明支持体を収縮させるための加温は、合わせガラス全体に行ってもよいが、曲率が高く、シワが発生しやすい部分に局所的に行ってもよい。
ハーフミラーフィルムのシワの抑制に必要な透明支持体の収縮量は、ガラスの曲率および寸法等によって異なる。透明支持体は、合わせガラスの作製におけるオートクレーブの加温条件において、熱収縮率が最大となる方向、および、該方向と直交する方向の熱収縮率が、それぞれ、0.01~5.0%であることが好ましく、0.05~3.0%であることがより好ましく、0.2~2.0%であることがさらに好ましい。熱収縮率が0.01%以上の場合、合わせガラス作製時にシワが発生しにくい。また、熱収縮率が5.0%以下の場合、合わせガラス作製時に発泡が発生しにくい。熱収縮率は、透明支持体を製造する際の延伸条件によって適宜調整することができる。
【0083】
透明支持体は、セルロースアシレート、および、アクリル等の樹脂からなることが好ましい。特に、透明支持体は、セルロースアシレート樹脂からなることが好ましく、とりわけ、トリアセチルセルロース樹脂、または、ジアセチルセルロース樹脂からなることが好ましい。
【0084】
本発明においては、ハーフミラーフィルム(積層体)の貯蔵弾性率が2.0GPa以下となるように、透明支持体を加熱しながら2枚のガラス板とハーフミラーフィルムと、後述する中間膜とを密着することが好ましい。貯蔵弾性率が2.0GPa以下となることで曲面ガラスへの追従性が向上することが好ましい。
【0085】
透明支持体の厚みは、5.0~200μm程度であればよく、10~100μmが好ましく、15~80μmがより好ましく、20~40μmがさらに好ましい。
【0086】
なお、仮支持体を用いてコレステリック液晶層等を有するハーフミラーフィルムを作製する場合は、最終的に仮支持体を剥離してもよい。すなわち、支持体は、ハーフミラーフィルムの作製時のみに存在し、ハーフミラーフィルムが完成した時点では、ハーフミラーフィルムを構成する層とはならなくてもよい。
この場合には、支持体は、透明でなくてもよい。
【0087】
(配向層)
ハーフミラーフィルムは、コレステリック液晶層または位相差層の形成の際に液晶組成物が塗布される下層として、配向層を含んでいてもよい。
配向層は、ポリマーなどの有機化合物(ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドおよび変性ポリアミドなどの樹脂)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、ならびに、ラングミュア・ブロジェット法(LB膜)を用いた有機化合物(例えば、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチル)の累積等の手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与または光照射により、配向機能が生じる配向層を用いてもよい。
特にポリマーからなる配向層はラビング処理を行ったうえで、ラビング処理面に液晶組成物を塗布することが好ましい。ラビング処理は、ポリマー層の表面を、紙、布で一定方向に、擦ることにより実施することができる。
配向層を設けずに、透明支持体をラビング処理した表面に、液晶組成物を塗布してもよい。すなわち、透明支持体を配向層として作用させてもよい。
配向層の厚みには制限はないが、0.01~5.0μmが好ましく、0.05~2.0μmがより好ましい。
なお、仮支持体を用いてコレステリック液晶層等を有するハーフミラーフィルムを作製する場合は、配向層は仮支持体とともに剥離してもよい。すなわち、配向膜は、ハーフミラーフィルムの作製時のみに存在し、ハーフミラーフィルムが完成した時点では、ハーフミラーフィルムを構成する層とはならなくてもよい。
【0088】
(接着層)
ハーフミラーフィルムは、必要に応じて、各層の密着性を向上するための接着層を有してもよい。
接着層を設ける位置としては、例えば、選択反射層を複数のコレステリック層で構成する場合のコレステリック液晶層間、選択反射層と位相差層との間、および、選択反射層と透明支持体との間が例示される。また、接着層は、選択反射層表面に設けても良い。これにより、隣接する中間膜との密着性を向上することができる。
【0089】
接着層は接着剤から形成されるものであればよい。
接着剤としては硬化方式の観点からホットメルトタイプ、熱硬化タイプ、光硬化タイプ、反応硬化タイプ、および、硬化の不要な感圧接着タイプがある。これらの接着剤は、それぞれ素材として、アクリレート系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、エポキシ系、エポキシアクリレート系、ポリオレフィン系、変性オレフィン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアルコール系、塩化ビニル系、クロロプレンゴム系、シアノアクリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリスチレン系、および、ポリビニルブチラール系などの化合物を使用することができる。作業性および生産性の観点からは、硬化方式として光硬化タイプが好ましい。また、光学的な透明性および耐熱性の観点からは、素材はアクリレート系、ウレタンアクリレート系、および、エポキシアクリレート系等が好ましい。
【0090】
接着層は、高透明性接着剤転写テープ(OCAテープ)を用いて形成されたものであってもよい。高透明性接着剤転写テープとしては、画像表示装置用の市販品、特に画像表示装置の画像表示部表面用の市販品を用いればよい。市販品の例としては、パナック社製の粘着シート(PD-S1など)、および、日栄化工社製のMHMシリーズの粘着シートなどが挙げられる。
接着層の厚みには、制限はない。接着層の厚みは、0.5~10μmが好ましく、1.0~5.0μmがより好ましい。また、OCAテープを用いて形成された接着層の厚みは、10μm~50μmであってもよく、15μm~30μmが好ましい。投映像表示用ハーフミラーの色ムラ等を軽減するため均一な厚みで設けられることが好ましい。
【0091】
(ハーフミラーフィルムの剛性)
本発明の投映像表示用積層フィルムにおいて、ハーフミラーフィルムは、曲面を有するガラスへの追従性が良く、シワや撓みを抑える観点から、以下の式で表わされる剛性[N・mm]が低いことが好ましい。
剛性=σ×(d/1000)3
ここで、σは弾性率[MPa]を、dは膜厚[μm]を示す。
具体的には、本発明の投映像表示用積層フィルムにおいて、ハーフミラーフィルムの25℃にける剛性が、4.0N・mm以下である。従って、この式におけるハーフミラーフィルムの弾性率は、ハーフミラーフィルムが25℃である際における弾性率である。以下の説明では、特に断りがない場合には、『剛性』とは、25℃における剛性を示すものとする。
ハーフミラーフィルムの剛性が4.0N・mmを超えると、後述する合わせガラスとした際に、曲面ガラスに追従できずに、シワ、撓み、および、折れ等が発生する不都合が生じる。
なお、ハーフミラーフィルムの剛性の下限には、制限はないが、剛性が低すぎると、折れやすく、ハーフミラーフィルム自体の取り扱いが困難になる可能性がある。この点を考慮すると、ハーフミラーフィルムの強度は0.01N・mm以上が好ましい。
ハーフミラーフィルムの剛性は、0.015~2.0N・mmが好ましく、0.02~1.0N・mmがより好ましい。
なお、ハーフミラーフィルムの剛性については、後に詳述する。
【0092】
(ヒートシール層)
本発明の投映像表示用積層フィルムは、ハーフミラーフィルムに加え、ヒートシール層を有する。図1に示す投映像表示用積層フィルムでは、ヒートシール層4は、透明支持体1の選択反射層3(位相差層2)とは逆側の面に設けられる。
【0093】
本発明の投映像表示用積層フィルムにおいて、「ヒートシール層」とは、本発明の投映像表示用積層フィルムを用いて合わせガラスを作製する際に、投映像表示用積層フィルムのハーフミラーフィルム(図示例では透明支持体1)とガラス板とを物理的に接合するための層である。本発明においては、ヒートシール層に含まれる熱可塑性樹脂が、合わせガラス作製時の加熱により融着する作用を有する。
後述するが、本発明の投映像表示用積層フィルムにおいては、厚さおよび静摩擦係数が特定のヒートシール層を有することにより、ハーフミラーフィルムと合わせガラスのガラス板との滑り性を確保して、かつ、合わせガラス作製時のシワの発生を抑えながらハーフミラーフィルムとガラス板を強く密着することができる。
特に、本発明の投映像表示用積層フィルムでは、透明支持体とヒートシール層との間に、透明支持体の成分とヒートシール層の成分とが混合された混合層が形成されることによって、透明支持体とヒートシール層間の密着性も強固となり、合わせガラスとした際に、合わせガラス内部の剥離故障を防止する。
ここで、ヒートシール層と選択反射層とは、直接、接していてもよいし、その間に接着層等が介在して間接的に接していてもよい。
本発明の投映像表示用積層フィルムにおいて、ヒートシール層の厚みは40μm以下である。ヒートシール層の厚みを40μm以下とすることにより、ヒートシールの厚みが薄く、ハーフミラーフィルムがガラスと近くなることで、ガラスの平滑性により、ハーフミラーフィルムの歪みが抑制され、投映画像の視認性が向上できる。ヒートシール層の厚みの下限には、制限はないが、0.1μm以上が好ましい。ヒートシール層の厚みを0.1μm以上とすることにより、ハーフミラーフィルムとガラスとの十分な密着性が得られる点で好ましい。
ヒートシール層の厚みは、40μm以下であればよいが、0.1~10.0μmが好ましく、0.1~5.0μmがより好ましく、0.1~2.5μmがさらに好ましく、0.1~1.0μmが特に好ましい。
【0094】
[ヒートシール層に含まれる熱可塑性樹脂]
ヒートシール層は熱可塑性樹脂を含有する。ヒートシール層は、透明であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂は、非晶性樹脂であることが好ましい。
このような熱可塑性樹脂としては、ガラス板との親和性、接着性が良いものが好ましく、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂を代表とするポリビニルアセタール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、および、塩素含有樹脂からなる群から選ばれる樹脂を用いることができる。ヒートシール層の主成分は、上述した樹脂であることが好ましい。なお、主成分であるとは、ヒートシール層全質量のうちの50質量%以上の割合を占める成分のことを言う。
上述した樹脂のうち、ポリビニルブチラール樹脂を代表とするポリビニルアセタール樹脂およびエチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましく例示され、ポリビニルブチラール樹脂を代表とするポリビニルアセタール樹脂(アルキルアセタール化ポリビニルアルコールとも言う)がより好ましい。樹脂は、合成樹脂であることが好ましい。
ポリビニルブチラールは、ポリビニルアルコールをブチルアルデヒドによりアセタール化して得ることができる。上述したポリビニルブチラール樹脂を代表とするポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の好ましい下限は40%、好ましい上限は85%であり、より好ましい下限は60%、より好ましい上限は80%である。
【0095】
これらの樹脂の原料となるポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度80~99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。
また、ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は10000である。ポリビニルアルコールの重合度が200以上であると、得られる合わせガラスの耐貫通性が低下しにくく、10000以下であると、樹脂膜の成形性がよく、しかも樹脂膜の剛性が大きくなり過ぎず、加工性が良好である。より好ましい下限は500、より好ましい上限は5000である。ここでいう重合度とは平均重合度を表す。
【0096】
ヒートシール層に好ましく用いられるポリビニルアセタール樹脂としては、例えば、積水化学工業社製のKS-10、KS-1、KS-3、KS-5、および、BL-5等が挙げられる。これらのポリビニルアセタール樹脂は、透明支持体に塗工した際に透明支持体との混合層を形成しやすい。
また、ヒートシール層を薄層塗工するためには、塗工液が低粘性であることが重要である。その観点からは、ポリビニルアセタール樹脂の計算分子量は1万以上5万以下が好ましく、KS-10、および、KS-1が好ましい。本発明において、計算分子量とは、原料となるポリビニルアルコールの平均重合度に、アセタール化されたユニットの分子量を乗じた値と定義する。
【0097】
ヒートシール層には、ポリビニルアセタール樹脂の他に、ポリビニルアセタール樹脂構造中のポリビニルアルコールユニットを架橋する架橋剤を含むことも、好ましい態様の一つである。
架橋剤としては、エポキシ系の添加剤が挙げられ、特に1分子中にエポキシ基が2個以上である化合物が好ましく、下記の一般式(EP1)で表される化合物が好ましい。
Ep-CH2-O-(R-O)n-CH2-Ep (EP1)
上述一般式(EP1)中、Epはエポキシ基であり、Rは炭素数2~4のアルキレン基であり、nは1~30である。但し、nが2以上である場合、複数のRは同じであっても異なっていてもよい。
上述一般式(EP1)で表される化合物として具体的にはナガセケムテックス社製のデナコールEX-810、811、821、830、832、841、850、851、861、911、920、931、および、941等が挙げられる。
【0098】
架橋剤としてエポキシ系の添加剤を用いる場合は、光吸収性カチオン部と酸発生源であるアニオン部からなるオニウム塩であるカチオン重合開始剤(光酸発生剤)を用いることができ、公知のスルホニウム塩系、ヨードニウム塩系のカチオン重合開始剤を使用できる。特にヨードニウム系のカチオン重合開始剤が好ましい。
【0099】
[ヒートシール層の塗布組成物の溶媒]
ヒートシール層は、塗布組成物を用いて作製するのが好ましい。
本発明において、ヒートシール層を形成する塗布組成物は、少なくとも1種の溶媒を含有するとよい。
溶媒の具体例としては、透明支持体がトリアセチルセルロースである場合、ケトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、および、ジアセトンアルコール等、エステル類;蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、および、乳酸エチル等、含窒素化合物;ニトロメタン、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、および、N,N-ジメチルホルムアミド等、グリコール類;メチルグリコール、および、メチルグリコールアセテート等、エーテル類;テトラヒドロフラン、1,4―ジオキサン、ジオキソラン、および、ジイソプロピルエーテル等、ハロゲン化炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、および、テトラクロルエタン等、グリコールエーテル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、および、セロソルブアセテート等、その他;ジメチルスルホキシド、および、炭酸プロピレン等、が挙げられ、さらに、これらの混合物が挙げられ、好ましくはエステル類、ケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、および、メチルエチルケトン等、が挙げられる。その他、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールおよびイソブチルアルコール等のアルコール類、ならびに、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素類も、上述した溶媒と混合して用いることができる。
【0100】
ヒートシール層の塗布組成物の溶媒としては、ヒートシール層に含まれる熱可塑性樹脂を溶解する溶媒が好ましく、ポリビニルブチラールの場合、アルコール類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、および、ジアセトンアルコール等、芳香族炭化水素類;トルエン、および、キシレン等、グリコールエーテル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、および、セロソルブアセテート等、ケトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、および、イソホロン等、アミド類;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、および、N-メチル-2-ピロリドン等、エステル類;蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、および、乳酸エチル等、エーテル類;テトラヒドロフラン、1,4―ジオキサン、ジオキソラン、ジイソプロピルエーテル、および、エチルエーテル等、ハロゲン化炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、および、テトラクロルエタン等、含窒素化合物;ニトロメタン、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、および、N,N-ジメチルホルムアミド等、グリコール類;メチルグリコール、および、メチルグリコールアセテート等、その他;ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン、および、水等、が挙げられ、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0101】
[ヒートシール層の静摩擦係数]
本発明の投映像表示用積層フィルムにおいては、ヒートシール層と合わせガラスのガラス板との滑り性を向上するために、ヒートシール層の静摩擦係数を低くすることが好ましい。具体的には、本発明の投映像表示用積層フィルムは、ヒートシール層の静摩擦係数が、1.0以下である。なお、本発明の投映像表示用積層フィルムにおいて、ヒートシール層の静摩擦係数とは、ヒートシール層のハーフミラーとは逆側の面の静摩擦係数である。
ヒートシール層の静摩擦係数が1.0を超えると、合わせガラスのガラス板との滑り性が不十分で、合わせガラスを作製する際に折り曲がってシワを生じてしまう、シワを伸ばすことに起因して、投映像表示用積層フィルムが折れて跡になってしまう等の不都合が生じる。
ヒートシール層の静摩擦係数は、低いほど好ましいが、0.8以下が好ましく、0.6以下がより好ましい。
なお、本発明において、ヒートシール層の静摩擦係数とは、フロートガラスに対する静摩擦係数である。
ヒートシール層の静摩擦係数を下げる好ましい手段としては、エンボス加工および粒子などを使って表面凹凸を形成する方法、ならびに、表面にガラスとの摩擦係数を下げる化合物を偏在させる方法等がある。中でも、微粒子を使う方法が、細かな凹凸を形成して静摩擦を下げられ、かつ、光学的な性能などに影響せず、また、工程数が増えることもないため、好ましいと考えられる。
微粒子としては、シリカ(二酸化ケイ素)、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウム等の無機微粒子、ならびに、ポリマー微粒子等の少なくとも1種を含む微粒子をヒートシール層に適量添加することが挙げられる。この際には、添加した微粒子がヒートシール層表面に分布することによって、その表面が粗面化し、静摩擦係数が低下するものと考えられる。
【0102】
ヒートシール層に添加する微粒子としては、平均一次粒子径が5~380nmの分散粒子であることが好ましく、平均一次粒子径が30~200nmの分散粒子であることがさらに好ましい。
また、ヒートシール層に添加する微粒子は、一次粒子の凝集体である二次粒子を形成する微粒子も好適に利用可能である。この際において、一次粒子の平均一次粒子径は、5~50nmが好ましい。また、二次粒子の平均二次粒子径は、50~380nmが好ましく、100~250nmがより好ましい。
粒子径をこの範囲にすることで、ヒートシール表面を粗面化し、かつ、合わせガラス化した後は、ヒートシール層内に沈み、ヘイズなどの光学的な悪影響を及ぼさない。
ヒートシール層に添加する無機微粒子はシリカ微粒子が好ましく、例えば、市販のシリカ微粒子含有組成物(市販のコロイダルシリカ分散液)を、そのまま、あるいは任意に有機溶媒を添加して用いることができる。
ヒートシール層の塗布組成物中の微粒子(固形分)の好ましい量は、ヒートシール層の塗布組成物中の全固形分に対して1~40質量%が好ましく、3~30質量%がより好ましい。すなわち、ヒートシール層中における微粒子の含有量は、1~40質量%が好ましく、3~30質量%がより好ましい。
【0103】
また、ヒートシール層を形成する際に、残留溶剤量が少ないことが密着性および滑り性の観点から好ましい。残留溶剤量を減少させる方法として、乾燥時の温度を高くする方法、および、乾燥時間を長くする方法が好ましく例示される。
乾燥温度に関して、使用溶媒の沸点以上200℃以下が好ましく、80~150℃がより好ましい。乾燥時間に関して、0.2~300分が好ましく、0.5~10分がより好ましい。またヒートシール層を形成した後、大気圧環境下で1日以上放置しておくことも好ましい。
【0104】
上述した微粒子の平均一次粒子径は、その分散液組成物中に含まれる微粒子またはヒートシール層に含まれる微粒子について測定される値とする。
測定は、透過型電子顕微鏡観察により行う。具体的には、任意に選択した50個の一次粒子について、一次粒子に外接する円の直径を求め、その算術平均を、平均一次粒子径とする。透過型電子顕微鏡の観察倍率は、50万倍~500万倍の間の一次粒子径が判別できる任意の倍率とする。
【0105】
上述した無機微粒子の平均二次粒子径は、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置を用いて真球形フィッティング(屈折率1.46)を行い測定される値である。測定装置としては、例えばマイクロトラック・ベル社製のMicroTrac MT3000を用いることができる。
【0106】
ヒートシール層の表面の静摩擦係数を低くする別の手段としては、ヒートシール層を形成する塗布組成物の溶媒として水を適量使用することが挙げられる。水を使用することにより、ヒートシール層を乾燥固化する際の水蒸気の作用により、その表面が粗面化するものと考えられる。ヒートシール層の塗布組成物中の水の好ましい量は、全溶媒に対して2~8質量%である。
【0107】
(密着強化剤)
重合性基、および透明支持体に含有される樹脂と結合形成可能な基からなる群から選択される基、を複数個有する化合物(以下、密着強化剤とも言う)は、ヒートシール層とハーフミラーフィルムとの密着性を強める機能を有する。
ヒートシール層、および、ヒートシール層に隣接するハーフミラーフィルムの層の少なくとも一方が、上述した、密着強化剤由来の成分を含有することが、本発明の投映像表示用積層フィルムの好ましい態様の一つである。従って、図1に示す投映像表示表積層フィルムの場合には、ヒートシール層4および/または透明支持体1が、密着強化剤由来の成分を含有するのが好ましい。他方、図2に示す投映像表示表積層フィルムの場合には、ヒートシール層4および/または透明支持体1が、密着強化剤由来の成分を含有するのが好ましい。
なお、上記密着強化剤由来の成分とは、密着強化剤中の、重合性基および透明支持体に含有される樹脂と結合形成可能な基からなる群から選択される基が反応して得られる成分を意図する。例えば、密着強化剤はヒートシール層形成用塗布液に含まれていることにより、形成されるヒートシール層中に密着強化剤由来の成分が含まれることになる。
密着強化剤において、重合性基の定義は、上述の通りである。重合性基の数は特に制限されず、1つでも、複数(2つ以上)でもよいが、密着強化剤が透明支持体に含有される樹脂と結合形成可能な基を有さない場合は重合性基を複数個有する。
【0108】
密着強化剤としては、具体的には市販された、重合性基を複数個有するモノマー、オリゴマーから選択することができ、特に重合性基を3つ以上有することが好ましい。そのようなモノマーあるいはオリゴマーとしては、例えば、新中村化学工業社製のU6HA(6官能ウレタンアクリレートオリゴマー)、および、日本化薬社製のPET-30等が挙げられる。
【0109】
密着強化剤が重合性基を有する場合は、上述した重合開始剤を適宜選択して使用することが好ましい。なお、以下の説明は、ヒートシール層と隣接するハーフミラーフィルムの層が透明支持体である場合を例に説明するが、ハーフミラーフィルムの他の層がヒートシール層と隣接する場合も、同様である。
密着強化剤に含まれる透明支持体に含有される樹脂と結合形成可能な基(以後、反応性基とも称する)とは、透明支持体に含有される樹脂を構成している材料が有する基と相互作用して、透明支持体に含有される樹脂に化学吸着可能な基を意味する。
このような反応性基としては、一例として、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、オキシラニル基、オキセタニル基、水酸基、カルボキシル基、イソシアネート基、および、-SiX3(Xはハロゲン、アルコキシ基、または、アルキル基を表し、少なくとも一つはハロゲンもしくはアルコキシ基である)などが挙げられる。なかでも、上述した透明支持体に含有される樹脂が部分ケン化されたセルロースエステル樹脂である場合、反応性基としては、例示した基の中のセルロースエステル樹脂に残った水酸基と結合形成可能な基(例えば、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、イソシアネート基、および、-SiX3など)が好ましく、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、または、イソシアネート基がより好ましい。反応性基の数は特に制限されず、1つでも、複数(2つ以上)でもよい。
【0110】
密着強化剤としては、重合性基のみを複数個有する化合物であるか、または、透明支持体に含有される樹脂と結合形成可能な基のみを複数個有する化合物であってもよい。重合性基のみを複数個有する化合物としては、市販の多官能モノマー化合物を使用することができる。また、透明支持体に含有される樹脂と結合形成可能な基のみを複数個有する化合物としては、例えば、ポリイソシアネートが挙げられ、一例として、東ソー社製のコロネートLが挙げられる。
密着強化剤としては、重合性基を分子中に少なくとも1個有し、かつ、透明支持体に含有される樹脂と結合形成可能な基を分子中に少なくとも1個有する化合物であることが、透明支持体とヒートシール層との密着性が高い点で特に好ましい。
また、透明支持体とヒートシール層の間に、それらの混合層が形成される場合に、密着強化剤による密着性の向上作用は大きく、すなわち、混合層を形成しており、かつ、密着強化剤を用いることは、相乗効果があって好ましい。
【0111】
密着強化剤の最も好ましい態様としては、透明支持体とヒートシール層の間の密着性がより優れる点で、式(A)で表される化合物が挙げられる。
式(A) (Z)n-X-Q
式(A)中、Zは、重合性基を有する置換基を表す。重合性基の定義は、上述の通りである。該重合性基を有する置換基の具体例としては、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ビニルケトン基、ビニル基、ブタジエン基、ビニルエーテル基、オキシラニル基、アジリジニル基、または、オキセタニル基等を含む置換基が好ましく、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ビニル基、オキシラニル基またはオキセタニル基を含む置換基がより好ましく、(メタ)アクリロイル基またはスチリル基を含む置換基がさらに好ましく、(メタ)アクリロイル基を含む置換基が特に好ましい。
なかでも、Zは、下記式(II)で表される基、または、オキシラニル基もしくはオキセタニル基を有する置換基であるのが好ましい。
【0112】
【化1】
【0113】
式(II)中、R3は、水素原子またはメチル基であり、水素原子が好ましい。
1は、単結合、または、-O-、-CO-、-NH-、-CO-NH-、-COO-、-O-COO-、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロ環基(ヘテロアリール基)、および、それらの組み合わせから選ばれる2価の連結基であり、単結合、-CO-NH-、または-COO-が好ましく、単結合または-CO-NH-が最も好ましい。*は、結合位置を示す。
【0114】
式(A)中、Qは、透明支持体に含有される樹脂と結合形成可能な基である。該基の定義は、上述の通りである。
式(A)中、Xはn+1価の連結基を表す。
nは1~4の整数を表すが、1を表すことがより好ましい。
なお、nが1の場合、Xは2価の連結基を表し、例えば、-O-、-CO-、-NH-、-CO-NH-、-COO-、-O-COO-、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリール基、および、それらの組み合わせから選ばれる2価の連結基が好ましく、置換もしくは無置換のアリーレン基がより好ましい。
Xは好ましくは、-COO-アリーレン基-、-アリーレン基-、-CONH-アリーレン基-であり、より好ましくは-COO-アリーレン基-である。
【0115】
(表面改質処理)
ハーフミラーフィルムは、中間膜および/またはヒートシール層との接着性を向上させる目的で、少なくとも一方の表面に改質処理をしてもよい。
表面処理の方法としては、コロナ処理、グロー放電処理、プラズマ処理、オゾン・紫外線照射処理、鹸化処理、および、プライマー処理などが挙げられ、ハーフミラーフィルムの表面を構成する材料の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0116】
<本発明の投映像表示用積層フィルムの作用効果>
上述したように、本発明の投映像表示用積層フィルムは、選択反射層を含むハーフミラーフィルムと、ハーフミラーフィルムの一方の面に積層されるヒートシール層とを有するものである。ここで、本発明の投映像表示用積層フィルムにおいては、ハーフミラーフィルムの剛性が4.0N・mm以下であり、かつ、ヒートシール層の厚みが40μm以下で、さらに、ヒートシール層のハーフミラーフィルムとは逆の面の静摩擦係数が1.0以下である。
本発明の投映像表示用積層フィルムは、このような構成を有することにより、合わせガラスに内蔵してヘッドアップディスプレイシステム等の投映像表示装置に用いた場合に、歪みのない視認性の良好な画像の投映を可能にしている。
【0117】
ハーフミラーフィルムを自動車用の合わせガラスの間に内蔵し、これをウインドシールドガラスとして用いることにより、ウインドシールドガラスを利用してヘッドアップディスプレイを構成できる。
ウインドシールドガラスに用いられる合わせガラスは、2枚のガラス板の間に、後述する中間膜を設けた構成を有する。従って、ハーフミラーフィルムをヘッドアップディスプレイシステムの投映像表示用部材として使用する場合、2枚の中間膜の間にハーフミラーフィルムを挟持させたものを、2枚のガラス板の間に挟持させて合わせガラスを形成する。
ところが、ハーフミラーフィルムを合わせガラスに内蔵して投映像表示用部材として用いた場合には、投映像に歪みが生じてしまい、投映像の視認性が悪いという問題が生じる。
【0118】
本発明者らは、この点について、鋭意検討を重ねた。その結果、投映像の歪みの原因が、ハーフミラーフィルムの歪みに有ることを見出した。
一般的に、合わせガラスは、2枚のガラス板の間に中間膜を挟み、オートクレーブによって加熱加圧処理することで作製される。この加熱加圧処理の際に、中間膜が柔らかくなり、その結果、中間膜の間に挟んだハーフミラーの平滑性が大幅に低減し、ハーフミラーが歪んでしまう。
【0119】
これに対して、本発明の投映像表示用積層フィルムは、フィルムを挟む中間膜の一方を大幅に薄く、40μm以下のヒートシール層とする。これにより、投映像表示用積層フィルムを、ガラスの表面に追従させることができる。その結果、オートクレーブによる加熱加圧処理に起因するフィルムの歪みを防止できる。
ここで、ウインドシールドガラスは、多くの場合、曲面ガラスである。そのため、中間膜を薄くしても、ハーフミラーの剛性が高いと、ガラスの曲面にハーフミラーが追従できず、ハーフミラーにシワが生じてしまい、結果的に、投映像に歪みが生じてしまう。
本発明の投映像表示用積層フィルムは、ハーフミラーフィルムの剛性を低く、4.0N・mm以下とすることにより、ウインドシールド(合わせガラス)が曲面ガラスであっても、好適にフィルムがガラスの表面に追従し、シワが発生することを防止できる。
【0120】
ここで、投映像表示用フィルムに含まれるヒートシール層の表面は、ガラスとの滑り性が悪い。これは、ガラスとの密着性を持たせるために使用するヒートシール層の熱可塑性樹脂が、ガラスとの滑り性が悪いためと推定する。そのため、合わせガラスを作製する際にガラスとハーフミラーフィルムとを積層すると、ハーフミラーフィルムに、部分的にシワが発生してしまう。
また、ハーフミラーフィルムの剛性を低くした場合には、無理やりシワを伸ばそうとすると、ヒートシール層がガラスに対して滑らないことに起因して、フィルムが折れて跡(折れ跡)になってしまい、この部分で、表示画像に歪みが生じることが分かった。
これに対して、本発明の投映像表示用積層フィルムは、ヒートシール層のハーフミラーとは逆側の表面の静摩擦係数を1.0以下とする。これにより、本発明の投映像表示用フィルムは、シワを生じることなく、ガラスと積層して、合わせガラスを作製できる。
【0121】
本発明の投映像表示用積層フィルム、本発明の投映像表示用積層フィルムを用いる本発明の合わせガラス、および、本発明の合わせガラスを用いる本発明の画像表示システムは、このような構成を有することにより、歪みのない視認性の良好な投映像の表示を可能にしている。
【0122】
<ウインドシールドガラス>
本発明の投映像表示用積層フィルムを用いて、投映像表示機能を有するウインドシールドガラスを提供することができる。
本明細書において、ウインドシールドガラスは、車、電車などの車両、飛行機、船、遊具などの乗り物一般の窓ガラスを意味する。ウインドシールドガラスは乗り物の進行方向にあるフロントガラスであることが好ましい。ウインドシールドガラスは車両のフロントガラスであることが好ましい。
【0123】
ウインドシールドガラスの可視光線透過率は、70%以上が好ましく、70%超がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。この可視光線透過率はウインドシールドガラスのいずれの位置においても満たされていることが好ましく、特に投映像表示部位が上述の可視光線透過率を満たすことが好ましい。
【0124】
ウインドシールドガラス(本発明の合わせガラス)は、平面状であればよい。または、ウインドシールドガラス(本発明の合わせガラス)は、適用される乗り物への組み込み用に成形されていてもよく、例えば、曲面を有していてもよい。
【0125】
ウインドシールドガラスは、投映像表示部位において、厚みが均一であってもよく、厚みが不均一であってもよい。例えば、特表2011-505330号公報に記載の車両用ガラスのように楔形の断面形状を有し、投映像表示部位の厚みが不均一であってもよいが、投映像表示部位は、厚みが均一であることが好ましい。
【0126】
[投映像表示部位]
本発明の投映像表示用積層フィルムは、ウインドシールドガラスの投映像表示部位に設けられていればよい。
投映像表示用積層フィルムをウインドシールドガラスのガラス板の外面に設ける、または、ウインドシールドガラス(合わせガラス)における2枚のガラス板の間に設けることにより投映像表示部位を形成することができる。投映像表示用積層フィルムを、ウインドシールドガラスのガラス板の外面に設ける場合、投映像表示用積層フィルムはガラス板からみて視認側に設けられていても、その反対側に設けられていてもよいが、視認側に設けられていることが好ましい。投映像表示用積層フィルムは、2枚のガラス板の間に設けることがより好ましい。耐擦傷性がガラス板に比較して低い投映像表示用積層フィルムが保護されるためである。
【0127】
本明細書において、投映像表示部位とは、反射光で投映像を表示することができる部位であり、プロジェクター等から投映された投映像を視認可能に表示することができる部位であればよい。
投映像表示部位はヘッドアップディスプレイシステムのコンバイナとして機能する。ヘッドアップディスプレイシステムにおいて、コンバイナは、プロジェクターから投映された画像を視認可能に表示することができるとともに、画像が表示されている同じ面側からコンバイナを観察したときに、反対の面側にある情報または風景を同時に観察することができる光学部材を意味する。すなわち、コンバイナは、外界光と映像光を重ねあわせて表示する光路コンバイナとしての機能を有する。
【0128】
投映像表示部位(コンバイナ)は、ウインドシールドガラスの全面にあってもよく、またはウインドシールドガラスの全面積に対し一部にあってもよい。一部である場合、投映像表示部位はウインドシールドガラスのいずれの位置に設けてもよいが、ヘッドアップディスプレイシステムとしての使用時に、観察者(例えば、運転者)から視認しやすい位置に虚像が示されるように設けられていることが好ましい。例えば、適用される乗り物の運転席の位置とプロジェクターを設置する位置との関係から投映像表示部位を設ける位置を決定すればよい。
投映像表示部位は、曲面を有していない平面状であってもよいが、曲面を有していてもよく、全体として凹型または凸型の形状を有し、投映像を拡大または縮小して表示するようになっていてもよい。
【0129】
一般的なウインドシールドガラスは、2枚のガラス板で中間膜を挟んだ、合わせガラスである。
本発明の合わせガラスは、上述した本発明の投映像表示用積層フィルムと、投映像表示用積層フィルムの選択反射層に隣接する中間膜との積層体を、2枚のガラス板で挟持したものである。
【0130】
[合わせガラスのガラス板]
本明細書においては、ウインドシールドガラスにおいて、視認側(車内側)のガラス板を第1ガラス板と言い、視認側より遠い位置にあるガラス板を第2ガラス板とも言う。
ガラス板としては、ウインドシールドガラスに一般的に用いられるガラス板を使用することができる。例えば、遮熱性の高いグリーンガラスなどの、可視光線透過率が73%、76%など80%以下となるガラス板を使用してもよい。このように可視光線透過率が低いガラス板を使用したときであっても、本発明に用いられる投映像表示用ハーフミラーを使用することにより、投映像表示部位においても70%以上の可視光線透過率を有するウインドシールドガラスを作製することができる。
【0131】
本発明の合わせガラスは、2枚のガラス板が湾曲面を有することが好ましく、特に投映像表示用積層フィルム側のガラス板の投映像表示用積層フィルム側の面が凸型の湾曲面であることが好ましい。本発明の合わせガラスの態様の一例を示す図3に示すように、その湾曲面に、ヒートシール層4を介してハーフミラーフィルム10が密着することが好ましい。
本発明の合わせガラスは、ウインドシールドガラスとして好ましく用いられる。
【0132】
ガラス板の厚みについては特に制限はないが、0.5~5.0mm程度であればよく、1.0~3.0mmが好ましく、2.0~2.3mmがより好ましい。
第1ガラス板および第2ガラス板の材料または厚みは同一であっても異なっていてもよい。
【0133】
(中間膜)
中間膜は、公知の合わせガラスに用いられる、公知のいずれの中間膜を用いてもよい。
たとえば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体および塩素含有樹脂の群から選ばれる樹脂を含む樹脂膜を用いることができる。上述樹脂は、中間膜の主成分であることが好ましい。なお、主成分であるとは、中間膜の50質量%以上の割合を占める成分のことを言う。
【0134】
上述の樹脂のうち、ポリビニルブチラールまたはエチレン-酢酸ビニル共重合体であることが好ましく、ポリビニルブチラールがより好ましい。樹脂は、合成樹脂であることが好ましい。
ポリビニルブチラールは、ポリビニルアルコールをブチルアルデヒドによりアセタール化して得ることができる。ポリビニルブチラールのアセタール化度の好ましい下限は40%、好ましい上限は85%であり、より好ましい下限は60%、より好ましい上限は75%である。
【0135】
ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度80~99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。
また、ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は3000である。ポリビニルアルコールの重合度が200以上であると、得られる合わせガラスの耐貫通性が低下しにくく、3000以下であると、樹脂膜の成形性がよく、しかも樹脂膜の剛性が大きくなり過ぎず、加工性が良好である。より好ましい下限は500、より好ましい上限は2000である。
【0136】
本発明の好ましい態様としては、投映像表示用積層フィルムの全ての端部が、中間膜の端部よりも5mm以上内側となるよう投映像表示用積層フィルムと中間膜を配置し、その後、加熱しながら2枚のガラス板と投映像表示用積層フィルムと中間膜を密着する。端部が中間膜の端部より内側となることで端部が中間膜でシールされ、側面から空気の侵入を抑制するため皺が発生しない。
好ましくは、投映像表示用積層フィルムの全ての端部が、中間膜の端部よりも10mm以上内側であり、15mm以上内側であることが特に好ましい。
【0137】
(投映像表示用積層フィルムを含む中間膜)
本発明の投映像表示用積層フィルムは、合わせガラスに加工する前に、予め、中間膜の表面に貼合しておいてもよい。
投映像表示用積層フィルムと中間膜との貼合には、公知の貼合方法を用いることができるが、ラミネート処理を用いることが好ましい。投映像表示用積層フィルムと中間膜とが加工後に剥離してしまわないように、ラミネート処理を実施する場合には、ある程度の加熱および加圧条件下にて実施することが好ましい。
ラミネートを安定的に行なうには、中間膜の接着する側の膜面温度を50~130℃とするのが好ましく、70~100℃とするのがより好ましい。
ラミネート時には加圧することが好ましい。加圧条件は、2.0kg/cm2未満(196kPa未満)が好ましく、0.5~1.8kg/cm2(49~176kPa)がより好ましく、0.5~1.5kg/cm2(49~147kPa)がさらに好ましい。
【0138】
[選択反射層に対して視認側にある層]
一般的に、投映像表示用部材において、投映光を反射する層からの反射光に基づく像と、投映像表示用部材の光入射側から見て手前の面または裏側面からの反射光に基づく像が重なることによって二重像(または多重像)の問題が生じている。
本発明の合わせガラスにおいて、選択反射層を透過する光は、選択反射層が反射する円偏光と逆のセンスの円偏光となっているか、または、選択反射層が反射する直線偏光と直交する方向の偏光となっており、裏側面からの反射光は、選択反射層より裏側面側にある層が低複屈折性である場合は、通常上述選択反射層に反射される偏光が大部分となるため顕著な二重像を生じさせにくい。特に、投映光として偏光を利用することにより投映光の大部分が選択反射層で反射されるように構成できる。
一方で、手前の面からの反射光は顕著な二重像を生じさせ得る。特に選択反射層の重心(厚さ方向の中心)から合わせガラスの光入射側から見て手前の面までの距離が一定値以上であると、二重像が顕著になる可能性が有る。
具体的には、本発明の合わせガラスの構造において、選択反射層より位相差層側にある層の厚みの総計(選択反射層の厚みを含まない)、すなわち、選択反射層の視認側の面から合わせガラス(ウインドシールドガラス)の視認側の面までの距離が0.5mm以上になると二重像が顕著になる可能性があり、1mm以上でより顕著となる可能性があり、1.5mm以上でさらに顕著となる可能性があり、2.0mm以上で特に顕著になる可能性がある。選択反射層より視認側にある層としては、位相差層のほか、透明支持体、ヒートシール層、および、第1ガラス板などが挙げられる。
しかし、本発明の合わせガラスは、後述のようにp偏光を利用した投映像表示において、選択反射層より視認側にある層の厚みの総計が上述のようである場合でも、顕著な二重像なしに投映像を視認することができる。
【0139】
<ヘッドアップディスプレイシステム(画像表示システム)>
本発明の合わせガラスは、ヘッドアップディスプレイシステム(画像表示システム)の構成部材として用いることができる。本発明の画像表示システムは、本発明の合わせガラスに、p偏光光源から画像を投映する、画像表示システムである。
一例として、本発明の合わせガラスは、車両等においてヘッドアップディスプレイシステムを構成するウインドシールドとして用いることができる。ヘッドアップディスプレイシステムは、プロジェクターを含むことが好ましい。
図4に、本発明の合わせガラスをウインドシールドガラスとして用いるヘッドアップディスプレイシステムの一例を概念的に示す。図4に示す例は、合わせガラスとして、図3に示す本発明の合わせガラスを用いた例であり、プロジェクター100は、第1ガラス板6側からウインドシールドガラス(合わせガラス)に画像を投映し、使用者は、第1ガラス板6側から、画像を視認する。
【0140】
[プロジェクター]
本明細書において、「プロジェクター」は「光または画像を投映する装置」であり、「描画した画像を投射する装置」を含む。本発明に用いられるヘッドアップディスプレイシステムにおいて、プロジェクターは、ウインドシールドガラス中の投映像表示用積層フィルムに、上述のような斜め入射角度で入射できるように配置されていればよい。ヘッドアップディスプレイシステムにおいて、プロジェクターは、描画デバイスを含み、小型の中間像スクリーンに描画された画像(実像)をコンバイナにより虚像として反射表示するものが好ましい。
【0141】
(描画デバイス)
描画デバイスはそれ自体が画像を表示するデバイスであってもよく、画像を描画できる光を発するデバイスであってもよい。描画デバイスでは、光源からの光が、光変調器、レーザー輝度変調手段、または描画のための光偏向手段などの描画方式で調節されていればよい。本明細書において、描画デバイスは光源を含み、さらに、描画方式に応じて光変調器、レーザー輝度変調手段、および、描画のための光偏向手段などを含むデバイスを意味する。
【0142】
(光源)
光源は特に限定されず、LED(Light Emitting Diode、発光ダイオード、有機発光ダイオード(OLED(Organic Light Emitting Diode)を含む)、放電管、および、レーザー光源などを用いることができる。これらのうち、LEDおよび放電管が好ましい。直線偏光を出射する描画デバイスの光源に適しているからである。これらのうち、特にLEDが好ましい。
LEDは発光波長が可視光領域において連続的でないため、後述するように特定波長域で選択反射を示すコレステリック液晶層が用いられているコンバイナとの組み合わせに適しているためである。
【0143】
(描画方式)
描画方式としては、使用する光源および用途等に応じて選択することができ、特に限定されない。
描画方式の例としては、蛍光表示管、液晶を利用するLCD(Liquid Crystal Display)方式およびLCOS(Liquid Crystal on Silicon)方式、DLP(Digital Light Processing)方式、および、レーザーを利用する走査方式などが挙げられる。描画方式は光源と一体となった蛍光表示管を用いた方式であってもよい。描画方式としてはLCDが好ましい。
【0144】
LCD方式およびLCOS方式では、各色の光が光変調器で変調、合波され、投射レンズから光が出射する。
DLP方式は、DMD(Digital Micromirror Device)を用いた表示システムであり、画素数分のマイクロミラーを配置して描画され投射レンズから光が出射する。
【0145】
走査方式は光線をスクリーン上で走査させ、目の残像を利用して造影する方式であり、例えば、特開平7-270711号公報、および、特開2013-228674号公報等の記載が参照できる。レーザーを利用する走査方式では、輝度変調された各色(例えば、赤色光、緑色光、青色光)のレーザー光が合波光学系または集光レンズなどで1本の光線に束ねられ、光線が光偏向手段により走査されて後述する中間像スクリーンに描画されていればよい。
走査方式において、各色(例えば赤色光、緑色光、青色光)のレーザー光の輝度変調は、光源の強度変化として直接行ってもよく、外部変調器により行ってもよい。
光偏向手段としては、ガルバノミラー、ガルバノミラーとポリゴンミラーの組み合わせ、および、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電子機械システム)等が挙げられ、このうちMEMSが好ましい。走査方法としては、ランダムスキャン方式、およびラスタースキャン方式等が挙げられるが、ラスタースキャン方式を用いることが好ましい。ラスタースキャン方式において、レーザー光は、例えば、水平方向は共振周波数で、垂直方向はのこぎり波で駆動されることができる。走査方式は投射レンズが不要であるため、装置の小型化が容易である。
【0146】
描画デバイスからの出射光は、直線偏光であっても自然光(非偏光)であってもよい。
本発明に用いられるヘッドアップディスプレイシステムに含まれる描画デバイスからの出射光は、直線偏光であることが好ましい。描画方式がLCDまたはLCOSである描画デバイスおよびレーザー光源を用いた描画デバイスは、本質的には出射光が直線偏光となる。出射光が直線偏光である描画デバイスであって出射光が複数の波長(色)の光を含むものである場合は、複数の光の偏光の偏光方向(透過軸方向)は同一であるかまたは互いに直交していることが好ましい。市販の描画デバイスは、出射光の赤、緑、青の光の波長域での偏光方向が均一ではないものがあることが知られている(特開2000-221449号公報参照)。具体的には、緑色光の偏光方向が赤色光の偏光方向および青色光の偏光方向と直交している例が知られている。
【0147】
(中間像スクリーン)
上述のように、描画デバイスは中間像スクリーンを使用するものであってもよい。本明細書において、「中間像スクリーン」は、画像が描画されるスクリーンである。すなわち、描画デバイスを出射した光がまだ画像として視認できるものではない場合などにおいて、この光によって描画デバイスは中間像スクリーンに視認可能な画像を形成する。
中間像スクリーンにおいて描画された画像は、中間像スクリーンを透過する光によりコンバイナに投映されていてもよく、中間像スクリーンを反射してコンバイナに投映されていてもよい。
【0148】
中間像スクリーンの例としては、散乱膜、マイクロレンズアレイ、リアプロジェクション用のスクリーンなどが挙げられる。中間像スクリーンとしてプラスチック材料を用いる場合などにおいて、中間像スクリーンが複屈折性を有すると、中間像スクリーンに入射した偏光の偏光面および光強度が乱され、その結果、コンバイナにおいて色ムラ等が生じやすくなるが、所定の位相差を有する位相差層を用いることにより、この色ムラの問題が低減できる。
中間像スクリーンは、入射光線を広げて透過させる機能を有するものが好ましい。投映像拡大表示が可能となるからである。このような中間像スクリーンとしては、例えばマイクロレンズアレイで構成されるスクリーンが挙げられる。ヘッドアップディスプレイで用いられるマイクロアレイレンズについては、例えば、特開2012-226303号公報、特開2010-145745号公報、および、特表2007-523369号公報等に記載がある。
プロジェクターは描画デバイスで形成された投映光の光路を調節する反射鏡などを含んでいてもよい。
【0149】
ウインドシールドガラスを投映像表示用部材として用いたヘッドアップディスプレイシステムについては、特開平2-141720号公報、特開平10-96874号公報、特開2003-98470号公報、米国特許第5013134号明細書、および、特表2006-512622号公報などを参照することができる。
【0150】
本発明の合わせガラスは、特に、発光波長が可視光領域において連続的でないレーザー、LED、および、OLEDなどを光源に用いたプロジェクターと組み合わせて用いるヘッドアップディスプレイシステムを構成するウインドシールドガラスに有用である。各発光波長に合わせて、コレステリック液晶層の選択反射の中心波長を調節できるからである。また、LCD(液晶表示装置)などの表示光が偏光しているディスプレイの投映に用いることもできる。
【0151】
[投映光(入射光)]
本発明の合わせガラスにp偏光光源から画像を投映することにより、視認者が反射画像を視認できる本発明の画像表示システムが得られる。例えば、本発明の合わせガラスをウインドシールドガラスに利用して、ヘッドアップディスプレイシステムを構成する場合、ウインドシールドガラスにプロジェクターからp偏光の画像を投映することにより、視認者が反射画像を視認できる本発明の画像表示システムが得られる。
p偏光を入射する方向は、合わせガラスに内蔵される投映像表示用積層フィルムが直線偏光(p偏光)の反射偏光子として機能する方向であって、投映像表示用積層フィルムが、選択反射層と位相差層を有する場合は、位相差層側からp偏光を入射するように光源を配置する。
入射光は、投映像表示用ハーフミラーの法線に対し45°~70°の斜め入射角度で入射させることが好ましい。屈折率1.51程度のガラスと屈折率1の空気との界面のブリュースター角は約56°であり、上述の角度の範囲でp偏光を入射させることにより、投映像表示のための入射光の選択反射層に対して視認側のウインドシールドガラスの表面からの反射光が少なく、二重像の影響が小さい画像表示が可能である。上述角度は50°~65°であることも好ましい。このとき、投映像の観察を投映光の入射側において、選択反射層の法線に対し、入射光とは反対側で45°~70°、好ましくは50°~65°の角度で行うことができる構成であればよい。
【0152】
本発明の合わせガラスをウインドシールドガラスに利用する場合、入射光は、ウインドシールドガラスの上下左右等、いずれの方向から入射してもよく、視認方向と対応させて、決定すればよい。例えば、使用時の下方向から上述のような斜め入射角度で入射する構成が好ましい。
また、ウインドシールドガラス中の位相差層の遅相軸は、入射p偏光の振動方向(入射光の入射面)に対し、位相差層の面内位相差に応じて、30°~85°または120°~175°の角度をなしていることがより好ましい。
【0153】
上述のように、ヘッドアップディスプレイ(本発明の画像表示システム)における投映像表示の際の投映光は入射面に平行な方向に振動するp偏光である。プロジェクターの出射光が直線偏光ではない場合は、直線偏光フィルムをプロジェクターの出射光側に配して用いることによりp偏光としてもよく、プロジェクターからウインドシールドガラスまでの光路でp偏光としてもよい。上述のように、出射光の赤、緑、青の光の波長域での偏光方向が均一ではないプロジェクターについては、波長選択的に偏光方向を調節し、全ての色の波長域でp偏光として入射させることが好ましい。
【0154】
ヘッドアップディスプレイシステムは、虚像結像位置を可変とする投映システムであってもよい。このような投映システムについては、例えば特開2009-150947号公報に記載がある。虚像結像位置を可変とすることにより、運転者は、より快適に利便性高く虚像を視認することができる。虚像結像位置は、車両の運転者から虚像を視認できる位置であり、例えば、通常運転者から見てウインドシールドガラスの先、1000mm以上離れた位置である。
ここで、上述の特表2011-505330号公報に記載のガラスのように、ガラスが投映像表示部位において不均一(楔形)であると、虚像結像位置を変化させたときに、その楔形の角度も変更する必要が生じる。そのため、例えば、特開2017-15902号公報に記載されるように、部分的に楔形の角度を変えて投映位置を変えることによって擬似的に虚像結像位置変化に対応するなどの必要が生じる。
本発明の合わせガラスをウインドシールドガラスとして用い、かつ上述のようにp偏光を利用して構築されたヘッドアップディスプレイシステムでは、楔形のガラスの利用は不要であり、投映像表示部位においてガラスの厚みを均一とすることができるため、上述の虚像結像位置を可変とする投映システムを好適に採用することができる。
【実施例
【0155】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例、比較例、作製例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は、以下の実施例、および、参考例に限定されるものではない。
【0156】
<塗布液の調製>
(コレステリック液晶層形成用塗布液)
下記の成分を混合し、下記組成のコレステリック液晶層形成用の塗布液B、G、および、Rを調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
塗布液Bの組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――
・化合物1 80質量部
・化合物2 20質量部
・フッ素系化合物1 0.02質量部
・フッ素系化合物3 0.01質量部
・右旋回性キラル剤LC756(BASF社製)
目標の反射波長に合わせて調節
・重合開始剤IRGACURE OXE01(BASF社製)
0.75質量部
・溶媒(酢酸メチル) 溶質濃度が20質量%となる量
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0157】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
塗布液G、Rの組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――
・混合物1 100質量部
・フッ素系化合物1 0.05質量部
・フッ素系化合物2 0.04質量部
・右旋回性キラル剤LC756(BASF社製)
目標の反射波長に合わせて調節
・重合開始剤IRGACURE OXE01(BASF社製)
1.0質量部
・溶媒(メチルエチルケトン) 溶質濃度が25質量%となる量
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0158】
・混合物1
【0159】
【化2】
【0160】
・化合物1
【0161】
【化3】
【0162】
・化合物2
【0163】
【化4】
【0164】
・フッ素系化合物1
【0165】
【化5】
【0166】
・フッ素系化合物2
【0167】
【化6】
【0168】
・フッ素系化合物3
【0169】
【化7】
【0170】
上述の塗布液組成のキラル剤LC-756の処方量を調節して、塗布液B、G、および、Rを調製した。それぞれの塗布液を用いて、以下の選択反射層作製時と同様に剥離性支持体上に単一層のコレステリック液晶層を作製し、反射特性を確認したところ、作製されたコレステリック液晶層はすべて右円偏光反射層であり、選択反射の中心波長は、下記表1のとおりであった。
【0171】
【表1】
【0172】
(位相差層形成用塗布液)
下記の成分を混合し、下記組成の位相差層形成用塗布液を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
位相差層形成用塗布液の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――
・混合物1 100質量部
・フッ素系化合物1 0.05質量部
・フッ素系化合物2 0.01質量部
・重合開始剤IRGACURE OXE01(BASF社製)
0.75質量部
・溶媒(メチルエチルケトン) 溶質濃度が25質量%となる量
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0173】
<セルロースアシレートフィルムの鹸化>
国際公開第2014/112575号の実施例20と同一の作製方法で、厚み40μmセルロースアシレートフィルムを作製した。
作製したセルロースアシレートフィルムを、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させて、フィルムの表面温度を40℃に昇温した後に、フィルムの片面に下記に示す組成のアルカリ溶液を、バーコーターを用いて塗布量14mL/m2で塗布し、110℃に加熱したスチーム式遠赤外ヒーター(ノリタケカンパニーリミテド社製)の下に10秒間滞留させた。
次いで、同じくバーコーターを用いて、純水を3mL/m2塗布した。
次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に、70℃の乾燥ゾーンに5秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したセルロースアシレートフィルム1を作製した。
また、膜厚が80μm、25μm、および、100μmになるよう調節して作製したセルロースアシレートフィルムを用意し、上記と同様の処理を施し、セルロースアシレートフィルム2、3、および、4を作製した。
また、膜厚が40μmになるよう調節し、さらに、残留応力が大きくなるよう延伸条件を調整して作製したセルロースアシレートフィルムを用意し、上記と同様の処理を施し、セルロースアシレートフィルム5を作製した。
セルロースアシレートフィルム1~5の面内位相差をAxoScanで測定したところ、1nmであった。
さらに、セルロースアシレートフィルム1~5を、140℃で60分間加熱した。その結果、セルロースアシレートフィルム1~4の熱収縮率が最大となる方向の収縮率は0.5%で、該方向と直交する方向の熱収縮率は0.1%であった。一方、セルロースアシレートフィルム5の熱収縮率が最大となる方向の収縮率は0.8%で、該方向と直交する方向の熱収縮率は0.7%であった。
【0174】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
アルカリ溶液の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――
・水酸化カリウム 4.7質量部
・水 15.7質量部
・イソプロパノール 64.8質量部
・界面活性剤(C1633O(CH2CH2O)10H) 1.0質量部
・プロピレングリコール 14.9質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0175】
<配向膜の形成>
上述で得られた鹸化処理したセルロースアシレートフィルム1(透明支持体)の鹸化処理面に、下記に示す組成の配向膜形成用塗布液をワイヤーバーコーターで24mL/m2塗布し、100℃の温風で120秒乾燥し、厚み0.5μmの配向膜を得た。
【0176】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
配向膜形成用塗布液の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――
・下記に示す変性ポリビニルアルコール 28質量部
・クエン酸エステル(AS3、三共化学社製) 1.2質量部
・光開始剤(イルガキュア2959、BASF社製) 0.84質量部
・グルタルアルデヒド 2.8質量部
・水 699質量部
・メタノール 226質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0177】
(変性ポリビニルアルコール)
【0178】
【化8】
【0179】
<ハーフミラーフィルムの作製>
上述作製した配向膜に、短辺方向を基準に反時計回りに31.5°回転させた方向にラビング処理(レーヨン布、圧力:0.1kgf(0.98N)、回転数:1000rpm、搬送速度:10m/min、回数:1往復)を施した。
【0180】
セルロースアシレートフィルム1のラビングした表面に、位相差層形成用塗布液をワイヤーバーを用いて塗布後、乾燥させて55℃にて1分間加熱処理を行い、50℃のホットプレート上に置き、ヘレウス社製の無電極ランプ「Dバルブ」(60mW/cm2)にて6秒間、紫外線を照射し、液晶相を固定して、厚み1.9μmの位相差層を得た。このとき、位相差層のレタデーションと遅相軸角度をAxoScanで測定したところ、レタデーションは349nm、遅相軸角度は完成した合わせガラスの鉛直上方向(短辺方向)に対し、+58.5°であった。
得られた位相差層の表面に塗布液Bをワイヤーバーを用いて塗布後、乾燥させて85℃にて1分間加熱処理を行い、80℃のホットプレート上に置き、ヘレウス社製の無電極ランプ「Dバルブ」(60mW/cm2)にて6秒間、紫外線を照射し、コレステリック液晶相を固定して、厚み2.3μmのコレステリック液晶層を得た。
得られたコレステリック液晶層の表面にさらに塗布液Gをワイヤーバーを用いて塗布後、乾燥させて70℃にて1分間加熱処理を行い、75℃のホットプレート上に置き、ヘレウス社製の無電極ランプ「Dバルブ」(60mW/cm2)にて6秒間、紫外線を照射し、コレステリック液晶相を固定して、厚み0.7μmのコレステリック液晶層を得た。
得られたコレステリック液晶層の表面にさらに塗布液Rをワイヤーバーを用いて塗布後、乾燥させて70℃にて1分間加熱処理を行い、75℃のホットプレート上に置き、ヘレウス社製の無電極ランプ「Dバルブ」(60mW/cm2)にて6秒間、紫外線を照射し、コレステリック液晶相を固定して、厚み2.8μmのコレステリック液晶層を得た。
こうして位相差層および3層のコレステリック液晶層からなる選択反射層を有するハーフミラーフィルムA1を得た。ハーフミラーフィルムA1の透過スペクトルを分光光度計(日本分光社製、V-670)で測定したところ、515nm、685nm、775nmに選択反射中心波長を有する透過スペクトルが得られた。
【0181】
セルロースアシレートフィルム1の代わりにセルロースアシレートフィルム2~5を使用したこと以外は、同様の手順で、ハーフミラーフィルムA2~4、および、A7を作製した。ハーフミラーフィルムA2~4、および、A7の透過スペクトルを分光光度計(日本分光社製、V-670)で測定したところ、いずれのハーフミラーフィルムにおいても、515nm、685nm、775nmに選択反射中心波長を有する透過スペクトルが得られた。
【0182】
ハーフミラーフィルムA1のコレステリック液晶層の表面にVetaphone社製の装置を用いてコロナ処理(5.0kJ/cm2)を施し、ハーフミラーフィルムA5を作製した。
【0183】
また、別のハーフミラーフィルムとして直線偏光反射板を用意した。
特表平9-506837号公報に記載された方法に基づいて、2,6-ポリエチレンナフタレート(PEN)とナフタレート70/テレフタレート30のコポリエステル(coPEN)の層数、厚みを調整して、ハーフミラーフィルムA6を作製した。
ハーフミラーフィルムA6の透過スペクトルを、分光光度計(日本分光社製、V-670)で測定したところ、685nmに選択反射中心波長を有する透過スペクトルが得られた。
【0184】
<ヒートシール層の作製>
(ヒートシール層形成用塗布液)
下記の成分を混合し、下記表2の組成のヒートシール層形成用塗布液H1~14を調製した。各組成物の単位は質量%である。
【0185】
【表2】
【0186】
<シリカ粒子分散液の調製>
本発明においてヒートシール層に好ましく用いられる無機微粒子としてAEROSIL
RX300(日本アエロジル社製、平均一次粒子径7nm)を、固形分濃度が5質量%になるように、MiBK(メチルイソブチルケトン)へ添加し、マグネチックスターラーで30分攪拌した。その後、超音波分散機(エスエムテー社製、Ultrasonic Homogenizer UH-600S)で10分間、超音波分散し、シリカ粒子分散液を作製した。
得られた分散液から一部を平均二次粒子径測定用に採取し、Microtrac MT3000(マイクロトラックベル社製)を用いて、分散液中のシリカ粒子の平均二次粒子径を測定したところ、190nmであった。
IPA-ST-ZL(日産化学社製、平均一次粒子径70~100nm)、MEK-ST-ZL(日産化学社製、平均一次粒子径70~100nm)、MEK-ST-L(日産化学社製、平均一次粒子径40~50nm)は、市販のコロイダルシリカ分散液を用いた(固形分濃度30質量%)。
表中、無機微粒子の添加量は分散液の添加量を記載した。
ヒートシール樹脂には、市販のポリビニルアセタール樹脂から、エスレックKS10(積水化学工業社製)、エスレックBL-5(積水化学工業社製)を用いた。
【0187】
<投映像表示用積層フィルムの作製1>
ハーフミラーフィルムA1の透明支持体のコレステリック液晶を塗布していない側の面に、ヒートシール層形成用塗布液H1~14を、ワイヤーバーを用いて塗布後、乾燥させて100℃にて1分間加熱処理を行った。
こうして透明支持体の一面に、位相差層、および、3層のコレステリック液晶層(選択反射層)を持ち、セルロースアシレートフィルムの逆の面に厚み1.0μmのヒートシール層を持つ投映像表示用積層フィルムAH1~12(実施例1~12)、および、BH1~2(比較例1および2)を得た。
【0188】
ハーフミラーフィルムA1の透明支持体のコレステリック液晶を塗布していない側の面に、ヒートシール層形成用塗布液H5を、ワイヤーバー、および、アプリケータ―を適宜用いて乾燥後のヒートシール層の厚みがそれぞれ0.1μm、2.5μm、5μm、10μm、40μm、および、100μmとなるように塗布後、乾燥させて100℃にて1分間加熱処理を行った。
こうして透明支持体の一面に、位相差層、および、3層のコレステリック液晶層(選択反射層)を持ち、セルロースアシレートフィルムの逆の面に厚みがそれぞれ0.1μm、2.5μm、5μm、10μm、40μm、および、100μmのヒートシール層を持つ投映像表示用積層フィルムAH17~21(実施例13~17)、および、BH3(比較例3)を得た。
【0189】
ハーフミラーフィルムA2の透明支持体のコレステリック液晶を塗布していない側の面に、ヒートシール層形成用塗布液H5を、ワイヤーバーを用いて塗布後、乾燥させて100℃にて1分間加熱処理を行った。
こうして透明支持体の一面に、位相差層、および、3層のコレステリック液晶層(選択反射層)を持ち、セルロースアシレートフィルムの逆の面に厚みが1.0μmのヒートシール層を持つ投映像表示用積層フィルムAH13(実施例18)を得た。
【0190】
ハーフミラーフィルムA3の透明支持体のコレステリック液晶を塗布していない側の面に、ヒートシール層形成用塗布液H5を、ワイヤーバーを用いて塗布後、乾燥させて100℃にて1分間加熱処理を行った。
こうして透明支持体の一面に、位相差層、および、3層のコレステリック液晶層(選択反射層)を持ち、セルロースアシレートフィルムの逆の面に厚みが1.0μmのヒートシール層を持つ投映像表示用積層フィルムAH14(実施例19)を得た。
【0191】
ハーフミラーフィルムA4の透明支持体のコレステリック液晶を塗布していない側の面に、ヒートシール層形成用塗布液H5を、ワイヤーバーを用いて塗布後、乾燥させて100℃にて1分間加熱処理を行った。
こうして透明支持体の一面に、位相差層、および、3層のコレステリック液晶層(選択反射層)を持ち、セルロースアシレートフィルムの逆の面に厚みが1.0μmのヒートシール層を持つ投映像表示用積層フィルムBH4(比較例4)を得た。
【0192】
ハーフミラーフィルムA5の透明支持体のコレステリック液晶を塗布していない側の面に、ヒートシール層形成用塗布液H5を、ワイヤーバーを用いて塗布後、乾燥させて100℃にて1分間加熱処理を行った。
こうして透明支持体の一面に、位相差層、および、3層のコレステリック液晶層(選択反射層)を持ち、セルロースアシレートフィルムの逆の面に厚みが1.0μmのヒートシール層を持つ投映像表示用積層フィルムAH15(実施例20)を得た。
【0193】
ハーフミラーフィルムA6の透明支持体のコレステリック液晶を塗布していない側の面に、ヒートシール層形成用塗布液H5を、ワイヤーバーを用いて塗布後、乾燥させて100℃にて1分間加熱処理を行った。
こうして透明支持体の一面に、位相差層、および、3層のコレステリック液晶層(選択反射層)を持ち、セルロースアシレートフィルムの逆の面に厚みが1.0μmのヒートシール層を持つ投映像表示用積層フィルムAH16(実施例21)を得た。
【0194】
ハーフミラーフィルムA7の透明支持体のコレステリック液晶を塗布していない側の面に、ヒートシール層形成用塗布液H5を、ワイヤーバーを用いて塗布後、乾燥させて100℃にて1分間加熱処理を行った。
こうして透明支持体の一面に、位相差層、および、3層のコレステリック液晶層(選択反射層)を持ち、セルロースアシレートフィルムの逆の面に厚みが1.0μmのヒートシール層を持つ投映像表示用積層フィルムAH22(実施例22)を得た。
【0195】
<合わせガラスの作製>
縦260mm×横330mm、厚み2mmの凸の曲面ガラス板の上に、縦220×横290mmの投映像表示用積層フィルムAH1~22、および、BH1~4を、ヒートシール層側の面を下にしてガラス板の中央部に配置した。これにより、第1ガラス板、ヒートシール層、透明支持体、位相差層、および、選択反射層を、この順番で有する積層体を形成した。
この積層体の上に、縦260mm×横330mm、厚み0.38mmの積水化学工業社製のPVBフィルム(中間膜)を配置し、さらにその上に、縦260mm×横330mm、厚み2mmの凸の曲面ガラス板(第2ガラス板)を配置した。これを90℃、10kPa(0.1気圧)下で1時間保持した後に、オートクレーブ(栗原製作所製)にて140℃、1.3Mpa(13気圧)で60分間加熱して気泡を除去し、合わせガラスA~Z(実施例1~22、比較例1~4)を得た。
この合わせガラスA~Zは、図3に示す合わせガラスと同様の層構成を有するものである。
【0196】
(弾性率の測定)
ハーフミラーフィルムA1~7の試料10mm×150mmを、25℃、相対湿度60%で2時間以上調湿した後に東洋ボールドウィン社製の万能引っ張り試験機“STM T50BP”を用い、25℃、60RH%の雰囲気中、引張速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
【0197】
(剛性)
ハーフミラーフィルムA1~7の剛性[N・mm]を、ハーフミラーフィルムの厚みd[μm]と、上記測定で求めた弾性率σ[MPa]を用い、下記式から算出した。
剛性=σ×(d/1000)3
【0198】
(静摩擦係数の測定)
静摩擦係数測定機HEIDON-10(新東科学社製)を用いて、投映像表示用積層フィルムのヒートシール層面とガラス(フロート製法で作製された板ガラス(フロートガラス))の静摩擦係数を測定し、下記基準で評価した。
A:静摩擦係数が0.8以下
B:静摩擦係数が0.8よりも大きく、1.0以下
C:静摩擦係数が1.0よりも大きい
【0199】
(ヒートシール層のガラスに対する貼りつき性の評価(貼付性))
投映像表示用積層フィルムAH1~22、および、BH1~4について、液晶層塗布面と逆面の表面とガラスを貼り合わせた際の貼り付き性を、下記の基準で評価した。貼り付き感が無くなるほど滑り性が向上し、合わせガラス加工時の積層体のハンドリング性が向上し、シワが発生しにくくなる効果がある。
A:貼り付き感が全く無い。
B:貼り付き感が殆ど無い。
C:貼り付き感が強い。
【0200】
(シワの評価)
各合わせガラスの加工後に、積層体にシワが発生しているかを下記基準で目視にて評価した。
A:シワの発生が全くない。
B:微細なシワはないが、僅かな波打ちが見える。
C:微細なシワの発生が有る。
D:大きなうねり状のシワが有る。
【0201】
(画像視認性の評価)
画像視認性は各合わせガラスの凹面に図4に示すようにp偏光を当て、映像を投映し、発生した虚像の歪みを画像視認性として下記基準で評価した。
A:歪み無し。
B:殆ど歪み無し。
C:良く見ると僅かな歪みが有るが、特に違和感はない。
D:歪み有り。
【0202】
【表3】
【0203】
合わせガラスA~UおよびZ(実施例1~22)は、ヒートシール層のガラスに対する静摩擦係数が低いため、貼りつき性が弱く、合わせガラスにおいても目立つシワはなく、また、画像の視認性も大きな歪みは感じられなかった。合わせガラスA~C(実施例1~3)、E~UおよびZ(実施例5~22)は、ヒートシール層のガラスに対する静摩擦係数が特に低いため、ヒートシール層のガラスに対する貼りつき性が良好であり、合わせガラス時のハンドリング性が向上し、シワがさらに良化した。中でも、評価には表れていないが、合わせガラスZ(実施例22)は、セルロースアシレートフィルムの熱収縮により、シワが特に良化した。合わせガラスA~O(実施例1~15)、S~U(実施例19~21)およびZ(実施例22)は、ヒートシール層の膜厚が特に薄く、かつ、ハーフミラーフィルムの膜厚も薄いため、画像の視認性はさらに良好であった。
合わせガラスVおよびW(比較例1および2)は、ヒートシール層のガラスに対する静摩擦係数が高く、貼りつき性が強いため、合わせガラス時のハンドリング性が低く、シワが発生した。
合わせガラスX(比較例3)は、ヒートシール層が厚く、虚像の歪みが発生し、画像の視認性が低下した。
また、合わせガラスY(比較例4)は、ハーフミラーフィルムの剛性が高く、曲面ガラスへの追従性が低いため、合わせガラスにおいて、大きなうねり状のシワが発生した。
【符号の説明】
【0204】
1 透明支持体
2 位相差層
3 選択反射層
4 ヒートシール層
5 中間膜
6 第1ガラス板
7 第2ガラス板
10 ハーフミラーフィルム
100 プロジェクター(p偏光画像)
図1
図2
図3
図4