(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】画像記録方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20220901BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220901BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20220901BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20220901BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 132
B41M5/00 120
B41M5/00 112
B41J2/01 123
B41J2/01 305
B41J2/01 501
C09D11/30
C09D11/54
(21)【出願番号】P 2021533961
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2020027293
(87)【国際公開番号】W WO2021015046
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2019137000
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮戸 健志
(72)【発明者】
【氏名】新井 道郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 勇介
(72)【発明者】
【氏名】白兼 研史
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154014(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004485(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/064978(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/069074(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/138436(WO,A1)
【文献】特開2018-187829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41J 2/01
C09D 11/30
C09D 11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
30N/mの張力が印加された状態で5℃/分の昇温速度にて25℃から60℃まで加熱されて60℃で2分間保持され、次いで30N/mの張力が印加された状態のまま5℃/分の降温速度にて25℃まで冷却された場合における、下記式(a1)で表される歪み率の絶対値が0.05%以上である樹脂基材Aを準備する工程と、
水及び樹脂Xを含有する前処理液を準備する工程と、
水及び着色剤を含有するインクを準備する工程と、
10N/m以上の張力S1が印加されている前記樹脂基材A上に、前記前処理液及び前記インクをこの順に付与して画像を得る付与工程と、
前記樹脂基材Aに対して10N/m以上の張力S2が印加されている状態で、前記画像を、50℃以上の温度T
dに加熱して乾燥させる乾燥工程と、
前記樹脂基材Aに対して10N/m以上の張力S3が印加されている状態で、前記乾燥工程後の前記画像を、30℃以下の温度T
rまで冷却する冷却工程と、
を含み、
下記式(1)によって算出されるσ
totalが、40kgf/cm
2以下である画像記録方法。
歪み率(%)=((冷却終了時点の張力印加方向の長さ-加熱開始時点の張力印加方向の長さ)/加熱開始時点の張力印加方向の長さ)×100 … 式(a1)
【数1】
式(1)中、σ
dryは、式(2)によって算出され、σ
coolは、式(3)によって算出される。
式(2)中、
E(T
d)は、kgf/cm
2の単位で表した、前記温度T
dにおける前記樹脂Xの弾性率であり、
ε(T
d)は、張力S2が印加された状態で25℃から温度T
dまで加熱されて温度T
dで保持され、次いで張力S2が印加された状態のまま25℃まで冷却された場合における、下記式(a2)で表される前記樹脂基材Aの張力印加方向の長さの膨張率である。
樹脂基材Aの張力印加方向の長さの膨張率 = (冷却終了時点の張力印加方向の長さ-加熱開始時点の張力印加方向の長さ)/加熱開始時点の張力印加方向の長さ … 式(a2)
式(3)中、
E(T)は、kgf/cm
2の単位で表した、前記冷却工程中の前記画像の温度Tにおける前記樹脂Xの弾性率であり、
α
r(T)は、前記温度Tにおける前記樹脂Xの線膨張係数であり、
α
s(T)は、前記温度Tにおける、前記張力S3が印加された状態の前記樹脂基材Aの張力印加方向の線膨張係数であり、
T
dは、前記温度T
dであり、
T
rは、前記温度T
rである。
【請求項2】
前記σ
totalが、30kgf/cm
2以下である請求項1に記載の画像記録方法。
【請求項3】
前記張力S1、前記張力S2、及び前記張力S3が、それぞれ独立に、10N/m~60N/mである請求項1又は請求項2に記載の画像記録方法。
【請求項4】
前記樹脂基材Aの厚さが、12μm~60μmである請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の画像記録方法。
【請求項5】
前記樹脂基材Aが、ポリプロピレン基材又はナイロン基材である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の画像記録方法。
【請求項6】
前記樹脂Xが、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂の少なくとも一方である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の画像記録方法。
【請求項7】
前記樹脂基材Aの形状が、長尺フィルム形状であり、
前記付与工程における前記前処理液及び前記インクの付与、前記乾燥工程における前記画像の乾燥、並びに、前記冷却工程における前記画像の冷却は、前記樹脂基材Aを、前記樹脂基材Aの長手方向にロール・ツー・ロール方式で搬送しながら行う請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の画像記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラスチックフィルム等の樹脂基材に対し、樹脂を含む前処理液(プライマーインク等とも称されている)を付与し、樹脂基材の前処理液が付与された面上に、インクを付与して画像を記録する技術が知られている。
例えば、特許文献1には、保存安定性が優れ、プラスチックフィルムからなる被記録媒体にインクジェット記録用インク組成物で印字する際の画像の密着性、滲み性および耐水性を向上させ得るインクジェット記録用プライマーインクとして、プラスチックフィルムからなる被記録媒体に設けられるインクジェット記録用プライマーインクであり、(A)成分である水溶性多価金属塩と、(B)成分である塩素化ポリオレフィンエマルジョンと、(C)成分であるアクリル系エマルジョンまたは酢酸ビニルエマルジョンのうち少なくともいずれか一方と、(D)成分である水とを含む、インクジェット記録用プライマーインクが開示されている。特許文献1には、プラスチックフィルム上に、上記インクジェット記録用プライマーインクを用いてプライマー層を形成し、形成されたプライマー層上に、インクジェット記録用インクを付与して画像を形成することも開示されている。
【0003】
特許文献1:特開2017-88646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者等の検討により、特定の樹脂基材に対し、張力が印加された状態で、樹脂を含む前処理液と、インクと、をこの順に付与して画像を得、得られた画像を、上記特定の樹脂基材に対して張力が印加された状態のまま、加熱乾燥させて冷却するプロセスによって画像を記録した場合に、記録された画像と上記特定の樹脂基材との密着性が低下しやすいことが判明した。
【0005】
本開示の一態様の課題は、張力が印加された状態の特定の樹脂基材に対して画像を記録する方法であって、かつ、記録される画像と特定の樹脂基材との密着性の低下を抑制できる画像記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 30N/mの張力が印加された状態で5℃/分の昇温速度にて25℃から60℃まで加熱されて60℃で2分間保持され、次いで30N/mの張力が印加された状態のまま5℃/分の降温速度にて25℃まで冷却された場合における、下記式(a1)で表される歪み率の絶対値が0.05%以上である樹脂基材Aを準備する工程と、
水及び樹脂Xを含有する前処理液を準備する工程と、
水及び着色剤を含有するインクを準備する工程と、
10N/m以上の張力S1が印加されている樹脂基材A上に、前処理液及びインクをこの順に付与して画像を得る付与工程と、
樹脂基材Aに対して10N/m以上の張力S2が印加されている状態で、画像を、50℃以上の温度Tdに加熱して乾燥させる乾燥工程と、
樹脂基材Aに対して10N/m以上の張力S3が印加されている状態で、乾燥工程後の画像を、30℃以下の温度Trまで冷却する冷却工程と、
を含み、
下記式(1)によって算出されるσtotalが、40kgf/cm2以下である画像記録方法。
歪み率(%)=((冷却終了時点の張力印加方向の長さ-加熱開始時点の張力印加方向の長さ)/加熱開始時点の張力印加方向の長さ)×100 … 式(a1)
【0007】
【0008】
式(1)中、σdryは、式(2)によって算出され、σcoolは、式(3)によって算出される。
式(2)中、
E(Td)は、kgf/cm2の単位で表した、温度Tdにおける樹脂Xの弾性率であり、
ε(Td)は、張力S2が印加された状態で25℃から温度Tdまで加熱されて温度Tdで保持され、次いで張力S2が印加された状態のまま25℃まで冷却された場合における、下記式(a2)で表される樹脂基材Aの張力印加方向の長さの膨張率である。
樹脂基材Aの張力印加方向の長さの膨張率 = (冷却終了時点の張力印加方向の長さ-加熱開始時点の張力印加方向の長さ)/加熱開始時点の張力印加方向の長さ … 式(a2)
式(3)中、
E(T)は、kgf/cm2の単位で表した、冷却工程中の画像の温度Tにおける樹脂Xの弾性率であり、
αr(T)は、温度Tにおける樹脂Xの線膨張係数であり、
αs(T)は、温度Tにおける、張力S3が印加された状態の樹脂基材Aの張力印加方向の線膨張係数であり、
Tdは、温度Tdであり、
Trは、温度Trである。
【0009】
<2> σtotalが、30kgf/cm2以下である<1>に記載の画像記録方法。
<3> 張力S1、張力S2、及び張力S3が、それぞれ独立に、10N/m~60N/mである<1>又は<2>に記載の画像記録方法。
<4> 樹脂基材Aの厚さが、12μm~60μmである<1>~<3>のいずれか1つに記載の画像記録方法。
<5> 樹脂基材Aが、ポリプロピレン基材又はナイロン基材である<1>~<4>のいずれか1つに記載の画像記録方法。
<6> 樹脂Xが、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂の少なくとも一方である<1>~<5>のいずれか1つに記載の画像記録方法。
<7> 樹脂基材Aの形状が、長尺フィルム形状であり、
付与工程における前処理液及びインクの付与、乾燥工程における画像の乾燥、並びに、冷却工程における画像の冷却は、樹脂基材Aを、樹脂基材Aの長手方向にロール・ツー・ロール方式で搬送しながら行う<1>~<6>のいずれか1つに記載の画像記録方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、張力が印加された状態の特定の樹脂基材に対して画像を記録する方法であって、かつ、記録される画像と特定の樹脂基材との密着性の低下を抑制できる画像記録方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の画像記録方法の一例における、冷却工程中の画像の温度Tと、「E(T)(α
r(T)-α
s(T))」と、の関係を示すグラフである。
【
図2】本開示の画像記録方法の実施に用いる画像記録装置の一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、kgf/cm2は、換算式「1kgf/cm2=9.80665×10-2MPa」にて換算される単位である。
【0013】
〔画像記録方法〕
本開示の画像記録方法は、
30N/mの張力が印加された状態で5℃/分の昇温速度にて25℃から60℃まで加熱されて60℃で2分間保持され、次いで30N/mの張力が印加された状態のまま5℃/分の降温速度にて25℃まで冷却された場合における、下記式(a1)で表される歪み率の絶対値が0.05%以上である樹脂基材Aを準備する工程と、
水及び樹脂Xを含有する前処理液を準備する工程と、
水及び着色剤を含有するインクを準備する工程と、
10N/m以上の張力S1が印加されている樹脂基材A上に、前処理液及びインクをこの順に付与して画像を得る付与工程と、
樹脂基材Aに対して10N/m以上の張力S2が印加されている状態で、画像を、50℃以上の温度Tdに加熱して乾燥させる乾燥工程と、
樹脂基材Aに対して10N/m以上の張力S3が印加されている状態で、乾燥工程後の画像を、30℃以下の温度Trまで冷却する冷却工程と、
を含み、
下記式(1)によって算出されるσtotalが、40kgf/cm2以下である。
歪み率(%)=((冷却終了時点の張力印加方向の長さ-加熱開始時点の張力印加方向の長さ)/加熱開始時点の張力印加方向の長さ)×100 … 式(a1)
【0014】
【0015】
式(1)中、σdryは、式(2)によって算出され、σcoolは、式(3)によって算出される。
式(2)中、
E(Td)は、kgf/cm2の単位で表した、温度Tdにおける樹脂Xの弾性率であり、
ε(Td)は、張力S2が印加された状態で25℃から温度Tdまで加熱されて温度Tdで保持され、次いで張力S2が印加された状態のまま25℃まで冷却された場合における、下記式(a2)で表される樹脂基材Aの張力印加方向の長さの膨張率である。
樹脂基材Aの張力印加方向の長さの膨張率 = (冷却終了時点の張力印加方向の長さ-加熱開始時点の張力印加方向の長さ)/加熱開始時点の張力印加方向の長さ … 式(a2)
式(3)中、
E(T)は、kgf/cm2の単位で表した、冷却工程中の画像の温度Tにおける樹脂Xの弾性率であり、
αr(T)は、温度Tにおける樹脂Xの線膨張係数であり、
αs(T)は、温度Tにおける、張力S3が印加された状態の樹脂基材Aの張力印加方向の線膨張係数であり、
Tdは、温度Tdであり、
Trは、温度Trである。
【0016】
本開示の画像記録方法は、張力が印加された状態の上記樹脂基材Aに対して画像を記録する方法であって、かつ、記録される画像と樹脂基材Aとの密着性の低下を抑制できる画像記録方法である。
ここで、画像は、前処理液に由来する層(即ち、樹脂基材Aに接する層)と、インクに由来する層と、が積層された積層構造を有する。
以下、上記効果について、より詳細に説明する。
【0017】
上記樹脂基材Aは、張力が印加された状態で加熱及び冷却が施された場合の残留歪みが大きい(具体的には、上記歪み率(%)の絶対値が0.05%以上である)樹脂基材である。
本発明者等の検討により、このような樹脂基材Aに対し、張力を印加した状態で、樹脂を含む前処理液と、インクと、をこの順に付与して画像を得、得られた画像を、樹脂基材Aに対して張力が印加された状態のまま加熱乾燥させ、次いで、冷却するプロセスによって画像を記録した場合、記録された画像と樹脂基材Aとの密着性が低下しやすいことが判明した。ここで、「加熱乾燥させ」とは、加熱して乾燥させることを意味する。
本開示の画像記録方法によれば、樹脂基材A上に上記プロセスによって画像を記録した場合における、画像と樹脂基材Aとの密着性(以下、単に「画像の密着性」ともいう)の低下を抑制できる。
【0018】
画像の密着性の効果が奏される理由は、以下のように推測される。
画像の密着性の低下は、樹脂基材Aの歪み率の絶対値が0.05%以上であることにより、加熱乾燥及び冷却を経た後における画像と樹脂基材Aとの間の残留応力が大きいために生じると考えられる。残留応力は、樹脂基材Aの上記残留歪みに起因すると考えられる。
画像と樹脂基材Aとの間の応力は、主に、画像の加熱乾燥時に、画像が昇温到達温度である温度Tdで保持されている間、及び、画像が冷却される過程で生じると考えられる。これらの応力が合算されることにより、残留応力が決まると考えられる。
一方、画像の温度が昇温到達温度に到達する前の過程では、応力は生じないと考えられる。その理由は、画像(前処理液に由来する層を含む)中に水等の液体成分が残存しており、画像が柔らかいためである。
また、画像の加熱乾燥時には、画像と樹脂基材Aとの線膨張係数の差による応力は生じないと考えられる。その理由は、画像の温度が温度Tdに(即ち、一定に)保持されているためである。
以上の点に鑑み、本開示の画像記録方法では、
画像が温度Td(即ち、昇温到達温度)で保持されている間に生じる応力に相関がある値として、σdryを求め、
画像が冷却される過程で生じる応力に相関がある値として、σcoolを求め、
σdry及びσcoolに基づき、残留応力に相関がある値として、σtotalを求め、
このσtotalを40kgf/cm2以下に制限する。これにより、樹脂基材Aと画像との間の残留応力が低減されるので、画像と樹脂基材Aとの密着性の低下が抑制されると考えられる。
【0019】
ここで、σdry及びσcoolは、それぞれ、正の値も負の値もとり得る。
例えば、画像の加熱乾燥時、画像の温度が温度Tdで保持されている間に樹脂基材Aが膨張する場合には、式(2)中のε(Td)が正の値となり、σdryも正の値となる。
また、画像の加熱乾燥時、画像の温度が温度Tdで保持されている間に樹脂基材Aが収縮する場合には、式(2)中のε(Td)が負の値となり、σdryも負の値となる。
また、冷却時、温度Tr~温度Tdの全範囲において、樹脂基材A及び画像が両方とも収縮する場合には、樹脂基材Aの線膨張係数(αs(T))、及び、画像(詳細には、前処理液に由来する層)中の樹脂Xの線膨張係数(αr(T))が、両方とも正の値となる。この場合において、温度Tr~温度Tdの全範囲において、αs(T)がαr(T)よりも小さい場合(概略的に言えば、温度低下に対する樹脂基材Aの収縮量が、温度低下に対する画像の収縮量よりも小さい場合)には、式(3)中の「αr(T)-αs(T)」が正の値となるため、σcoolも正の値となる。
また、冷却時、温度Tr~温度Tdの全範囲において、樹脂基材Aが膨張し、かつ、画像が収縮する場合には、αs(T)が負の値となり、αr(T)が正の値となるため、式(3)中の「αr(T)-αs(T)」が正の値となり、その結果、σcoolも正の値となる。
また、冷却時、温度Tr~温度Tdの全範囲において、樹脂基材A及び画像が両方とも収縮し、温度Tr~温度Tdの全範囲において、αs(T)がαr(T)よりも大きい場合(概略的に言えば、温度低下に対する樹脂基材Aの収縮量が、温度低下に対する画像の収縮量よりも大きい場合)には、式(3)中の「αr(T)-αs(T)」が負の値となるため、σcoolも負の値となる。
【0020】
σtotalは、σdryとσcoolとの合計の絶対値であり(式(1))、残留応力に相関がある値である。
一例として、加熱乾燥時、画像の温度が温度Tdで保持されている間に樹脂基材Aが膨張して応力が生じた場合(即ち、σdryが正の値である場合)であっても、冷却時、温度低下に対する樹脂基材Aの収縮量が、温度低下に対する樹脂Xの収縮量よりも大きい場合には、σcoolが負の値となる。この場合には、σdryとσcoolとが打ち消し合い、σtotalが小さくなる。このことは、冷却によって、加熱乾燥時に生じた応力とは反対向きの応力が生じ、その結果、応力が緩和され、残留応力が小さくなることを意味する。
別の一例として、加熱乾燥時、画像の温度が温度Tdで保持されている間に樹脂基材Aが膨張して応力が生じた場合(即ち、σdryが正の値である場合)において、冷却時、温度低下に対する樹脂基材Aの収縮量が、温度低下に対する樹脂Xの収縮量よりも小さい場合には、σcoolが正の値となる。この場合には、正のσdryと正のσcoolとが合算され、σtotalが大きくなる。このことは、冷却によって、加熱乾燥時に生じた応力と同じ向きの応力が生じ、その結果、応力が増大され、残留応力が大きくなることを意味する。
【0021】
σdry、σcool及びσtotalは、それぞれ、必ずしも実際の応力とは一致しない場合があり得るが、その場合においても、σtotalが残留応力と相関がある値であることに変わりはない。
従って、σtotalを40kgf/cm2以下に低減することにより、実際の残留応力を低減することができ、その結果、残留応力に起因する、樹脂基材Aと画像との密着性の低下を抑制することができる。
【0022】
以下、まず、本開示の画像記録方法における、樹脂基材A、σdry、σcool、σtotal、張力S1、張力S2、及び張力S3について説明する。
【0023】
<樹脂基材A>
本開示の画像記録方法では、樹脂基材Aに対して画像が記録される。
樹脂基材Aは、30N/mの張力が印加された状態で5℃/分の昇温速度にて25℃から60℃まで加熱されて60℃で2分間保持され、次いで30N/mの張力が印加された状態のまま5℃/分の降温速度にて25℃まで冷却された場合における、下記式(a1)で表される歪み率(以下、「歪み率(a1)」ともいう)の絶対値が0.05%以上である樹脂基材である。
【0024】
歪み率(%)=((冷却終了時点の張力印加方向の長さ-加熱開始時点の張力印加方向の長さ)/加熱開始時点の張力印加方向の長さ)×100 … 式(a1)
【0025】
式(a1)において、「冷却終了時点の張力印加方向の長さ-加熱開始時点の張力印加方向の長さ」の部分は、30N/mの張力が印加された状態の樹脂基材Aの温度が60℃に保持されている間における、樹脂基材Aの長さの変化を意味している。
補足すると、樹脂基材Aの温度が昇温される過程での樹脂基材Aの長さの変化と、樹脂基材Aの温度が降温される過程での樹脂基材Aの長さの変化と、の関係は、互いに打ち消し合う関係である。即ち、樹脂基材Aの温度が昇温される過程での樹脂基材Aの膨張量(即ち、樹脂基材Aが膨張する場合に正の値となり、樹脂基材Aが収縮する場合に負の値となる膨張量。以下同じ。)と、樹脂基材Aの温度が降温される過程での樹脂基材Aの膨張量と、の合計は0である。従って、「冷却終了時点の張力印加方向の長さ-加熱開始時点の張力印加方向の長さ」により、30N/mの張力が印加された状態の樹脂基材Aの温度が60℃に保持されている間における、樹脂基材Aの長さの変化が求められる。
【0026】
樹脂基材Aの歪み率(a1)は、張力が印加された状態の樹脂基材Aに対し、加熱及び冷却が施された場合の残留歪みに対応する。
残留歪みは、60℃の温度で保持されている間の歪みに対応する。その理由は、前述のとおり、樹脂基材Aの温度が昇温される過程での樹脂基材Aの長さの変化と、樹脂基材Aの温度が降温される過程での樹脂基材Aの長さの変化と、が互いに打ち消し合うためである。
樹脂基材Aは、歪み率(a1)の絶対値が0.05%以上であるため、画像記録に用いた場合に、残留歪みに起因する残留応力が生じやすい。このため、樹脂基材Aは、画像の密着性が低くなりやすい基材である。
【0027】
歪み率(a1)は、上述した特定の条件(張力、昇温速度、昇温到達温度、保持時間、降温速度、降温到達温度、等)での歪み率である。
但し、本開示の画像記録方法における条件は、上述した特定の条件に限定されるものではない。
即ち、歪み率(a1)の絶対値が0.05%以上である樹脂基材Aは、歪み率(a1)の絶対値が0.05%未満である樹脂基材と比較して、特定の条件以外の条件で加熱乾燥及び冷却を行った場合の残留歪みが大きいので、画像の密着性が低下しやすい樹脂基材である。
本開示の画像記録方法は、このような樹脂基材Aにおける画像の密着性を改善する方法である。
【0028】
(歪み率(a1)の測定方法)
歪み率(a1)は、熱機械分析装置を用い、引張型の測定方法によって測定する。後述する実施例では、熱機械分析装置として、NETZSCH社製の「TMA4000SE」を用いた。
引張型の測定方法の詳細は以下のとおりである。
樹脂基材を25℃に調温し、調温された樹脂基材の両端をチャックでつかんで引張方向の力を加えることにより、30N/mの張力を印加する。張力は、歪み率(a1)の測定終了までの間、30N/mを保つように適宜調整する。
次に、上記樹脂基材を、5℃/分の昇温速度にて25℃から60℃まで加熱する。
次に、上記樹脂基材を、60℃の温度のまま2分間保持する。
次に、上記樹脂基材を、5℃/分の降温速度にて25℃まで冷却する。
加熱開始時点の張力印加方向の長さ及び冷却終了時点の張力印加方向の長さに基づき、式(a1)により、歪み率(a1)を算出する。
【0029】
樹脂基材Aの歪み率(a1)の絶対値は、0.05%以上であればよいが、0.10%以上であってもよく、0.15%であってもよく、0.18%以上であってもよい。
一般的には、歪み率(a1)の絶対値が大きくなるほど、画像の密着性が低下しやすくなるので、本開示の画像記録方法を適用した場合の密着性の改善幅が大きくなる。
樹脂基材Aの歪み率(a1)の絶対値の上限には特に制限はないが、上限として、例えば、0.80%、0.53%、0.26%、等が挙げられる。
【0030】
樹脂基材Aの形状は、特に限定されないが、フィルム形状(即ち、シート形状)であることが好ましい。
樹脂基材Aの厚さは、特に限定されないが、好ましくは12μm~200μmであり、より好ましくは12μm~100μmであり、更に好ましくは12μm~60μmであり、更に好ましくは15μm~60μmである。
【0031】
樹脂基材Aの形状は、張力S1、張力S2、及び張力S3を印加しやすい点で、長尺フィルム形状(即ち、長尺シート形状)であることがより好ましい。
長尺フィルム形状である場合の樹脂基材Aの長さは特に制限はないが、好ましくは5m以上であり、より好ましくは10m以上であり、更に好ましくは100m以上である。
長尺フィルム形状である場合の樹脂基材Aの長さの上限にも特に制限はないが、上限として、例えば、10000m、8000m、5000m等が挙げられる。
【0032】
樹脂基材Aは、表面エネルギーを向上させる観点から、表面処理がなされていてもよい。
表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、熱処理、摩耗処理、光照射処理(UV処理)、火炎処理等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
樹脂基材Aとしては、歪み率(a1)の絶対値が0.05%以上である樹脂基材であれば特に制限はないが、例えば、ポリエチレン基材、ポリプロピレン基材又はナイロン基材である。
ポリエチレン基材としては、延伸ポリエチレン基材であっても未延伸ポリエチレン基材であってもよいが、好ましくは延伸ポリエチレン基材である。
ポリプロピレン基材としては、延伸ポリプロピレン基材であっても未延伸ポリプロピレン基材であってもよいが、好ましくは延伸ポリプロピレン基材である。
ナイロン基材としては、延伸ナイロン基材であっても未延伸ナイロン基材であってもよいが、好ましくは延伸ナイロン基材である。
【0034】
樹脂基材Aとしては、例えば、
フタムラ化学社製の二軸延伸ポリプロピレン基材「FOR-AQ」(厚さ25μm)(歪み率(a1):0.18%)、
ユニチカ社製の同時二軸延伸ナイロン基材「エンブレム(登録商標)ON-15」(厚さ15μm)(歪み率(a1):-0.26%)、
フタムラ化学社製の一軸延伸ポリプロピレン基材「PE3K-BT」(厚さ23μm)(歪み率(a1):0.23%)、
等が挙げられる。
これらの樹脂基材Aの例に対し、例えば、フタムラ化学社製の二軸延伸ポリエステル基材「FE2001」(厚さ25μm)の歪み率(a1)は、0.01%である。
【0035】
<σtotal>
本開示の画像記録方法において、式(1)によって算出されるσtotalは、40kgf/cm2以下である。σtotalは、0kgf/cm2であってもよい。
【0036】
【0037】
式(1)中、σdryは、後述の式(2)によって算出される値であり、加熱乾燥時における樹脂基材Aと画像との間の応力と相関がある値である。σdryは、正の値及び負の値を両方とり得る。
式(1)中、σcoolは、後述の式(3)によって算出される値であり、冷却時における樹脂基材Aと画像との間の応力と相関がある値である。σcoolも、正の値及び負の値を両方とり得る。
式(1)に示すように、σtotalは、σdryとσcoolとの和の絶対値であり、最終的な(即ち、乾燥工程における加熱乾燥及び冷却工程における冷却を経た後における)、樹脂基材Aと画像との間の残留応力と相関がある値である。
なお、σtotalは、σdryとσcoolとの和の絶対値における小数点以下1桁目を四捨五入して算出する。
【0038】
σtotalは、樹脂基材Aと画像との密着性をより向上させる観点から、好ましくは30kgf/cm2以下であり、より好ましくは20kgf/cm2以下であり、特に好ましくは10kgf/cm2以下である。
【0039】
<σdry>
σdryは、下記式(2)によって算出される値である。
【0040】
【0041】
式(2)中、
E(Td)は、kgf/cm2の単位で表した、温度Tdにおける樹脂Xの弾性率であり、
ε(Td)は、張力S2が印加された状態で25℃から温度Tdまで加熱されて温度Tdで保持され、次いで張力S2が印加された状態のまま25℃まで冷却された場合における、下記式(a2)で表される樹脂基材Aの張力印加方向の長さの膨張率である。
樹脂基材Aの張力印加方向の長さの膨張率 = (冷却終了時点の張力印加方向の長さ-加熱開始時点の張力印加方向の長さ)/加熱開始時点の張力印加方向の長さ … 式(a2)
【0042】
E(Td)及びε(Td)としては、それぞれ、有効数字2桁の測定値を適用する。E(Td)及びε(Td)の測定方法については、それぞれ後述する。
σdryは、有効数字2桁の値として求める。
【0043】
式(2)によって算出されるσdryは、乾燥工程における加熱乾燥時(詳細には、画像の温度が温度Tdに保持されている間)に生じる、樹脂基材Aと画像との間の応力と相関がある。
以下、この点をより詳細に説明する。
【0044】
本開示の画像記録方法は、
10N/m以上の張力S1が印加されている樹脂基材A上に、水及び樹脂Xを含有する前処理液と、水及び着色剤を含有するインクと、をこの順に付与して画像を得る付与工程と、
樹脂基材Aに対して10N/m以上の張力S2が印加されている状態で、画像を、50℃以上の温度Tdに加熱して乾燥させる乾燥工程と、
を含む。
付与工程で得られた画像は、前処理液に由来する層(即ち、樹脂基材Aに接する層)と、インクに由来する層と、が積層された積層構造を有する。
得られた画像は、乾燥工程で加熱されて乾燥される。
【0045】
式(2)中のE(Td)は、前処理液の一成分である樹脂Xの、温度Tdでの弾性率(単位:kgf/cm2)である。
E(Td)は、画像中の前処理液に由来する層(即ち、樹脂基材Aに接する層)の、温度Tdでの弾性率と相関がある(後述するE(T)についても同様である)。
【0046】
一方、式(2)中のε(Td)は、張力S2が印加された状態で25℃から温度Tdまで加熱されて温度Tdで保持され、次いで張力S2が印加された状態のまま25℃まで冷却された場合における、下記式(a2)で表される樹脂基材Aの張力印加方向の長さの膨張率(以下、「膨張率(a2)」ともいう)である。
【0047】
樹脂基材Aの張力印加方向の長さの膨張率 = (冷却終了時点の張力印加方向の長さ-加熱開始時点の張力印加方向の長さ)/加熱開始時点の張力印加方向の長さ … 式(a2)
【0048】
式(a2)において、「冷却終了時点の張力印加方向の長さ-加熱開始時点の張力印加方向の長さ」の部分は、乾燥工程において、樹脂基材Aに対して張力S2が印加されており、かつ、画像の温度が温度Tdに保持されている間における、樹脂基材Aの長さの変化(即ち、歪み)を意味している。その理由については、前述した式(a1)の説明を参照できる。
【0049】
式(2)では、上記E(Td)と、上記ε(Td)(即ち、樹脂基材Aの膨張率(a2))と、の積により、σdryを求める。
得られたσdryは、画像の温度が温度Tdに保持されている間に生じる、樹脂基材Aと、画像中の前処理液に由来する層(即ち、樹脂基材Aに接する層)と、の間に生じる応力と相関がある値である。
補足すると、式(2)は、以下の前提条件の下で、樹脂基材Aに対する前処理液に由来する層の応力に関係するσdryを計算する式である。後述の式(3)も同様である。
・前処理液に由来する層の物性は、樹脂Xの物性と相関がある。
・樹脂基材Aの温度と、樹脂基材A上の前処理液に由来する層の温度と、が等しい。
・樹脂基材A上の前処理液に由来する層の長さは、樹脂基材Aの長さの変化に追従して変化する。従って、式(2)における、E(Td)(即ち、樹脂Xの弾性率)とε(Td)(即ち、樹脂基材Aの膨張率)との積は、実質的に、E(Td)(即ち、樹脂Xの弾性率)と樹脂Xの膨張率との積に対応する。
【0050】
(E(Td)の測定方法)
式(2)中のE(Td)は、以下のようにして測定する。
樹脂Xの水分散液を、剥離剤層付きのポリエチレンテレフタレート基材の剥離剤層上に塗布し、乾燥させ、次いで上記基材から剥離することにより、樹脂Xを含有する厚さ50μmの自立膜を作製する。
得られた自立膜について、動的粘弾性試験機を用い、試験温度25℃~130℃、昇温速度5℃/分、及び周波数10Hzの条件にて動的粘弾性測定を行い、得られた結果に基づき、温度Tdでの弾性率を求める。得られた温度Tdでの弾性率を、E(Td)とする。
後述する実施例では、動的粘弾性試験機として、アイティー計測制御社製のDVA225型動的粘弾性試験機を用いた。
【0051】
(ε(Td)の測定方法)
式(2)中のε(Td)(即ち、樹脂基材Aの膨張率(a2))は、熱機械分析装置を用い、引張型の測定方法によって測定する。後述する実施例では、熱機械分析装置として、NETZSCH社製の「TMA4000SE」を用いた。
引張型の測定方法の詳細は以下のとおりである。
樹脂基材を25℃に調温し、調温された樹脂基材Aの両端をチャックでつかんで引張方向の力を加えることにより、張力S2を印加する。張力は、の膨張率(a2)の測定終了までの間、張力S2を保つように適宜調整する。
次に、上記樹脂基材Aを、5℃/分の昇温速度にて25℃から温度Tdまで加熱する。 次に、上記樹脂基材を、温度Tdのまま2分間保持する。
次に、上記樹脂基材を、5℃/分の降温速度にて25℃まで冷却する。
加熱開始時点の張力印加方向の長さ及び冷却終了時点の張力印加方向の長さに基づき、式(a2)により、膨張率(a2)を求め、得られた値を、ε(Td)とする。
【0052】
<σcool>
σcoolは、下記式(3)によって算出される値である。
【0053】
【0054】
式(3)中、
E(T)は、kgf/cm2の単位で表した、冷却工程中の画像の温度Tにおける樹脂Xの弾性率であり、
αr(T)は、温度Tにおける樹脂Xの線膨張係数であり、
αs(T)は、温度Tにおける、張力S3が印加された状態の樹脂基材Aの張力印加方向の線膨張係数であり、
Tdは、温度Tdであり、
Trは、温度Trである。
【0055】
ここで、線膨張係数の単位は、1/Kである。
【0056】
E(T)としては、有効数字3桁の測定値を適用し、αr(T)及びαs(T)としては、それぞれ、有効数字2桁の測定値を適用する。
E(T)、αr(T)及びαs(T)の測定方法については、それぞれ後述する。
「αr(T)-αs(T)」、「E(T)(αr(T)-αs(T))」、及びσcoolは、それぞれ、有効数字2桁の値として求める。
【0057】
式(3)によって算出されるσcoolは、冷却工程において、画像の温度が温度Tdから温度Trにまで低下する過程で生じる、樹脂基材Aと画像との間の応力に相関がある。
以下、この点をより詳細に説明する。
【0058】
冷却工程は、樹脂基材Aに対して10N/m以上の張力S3が印加されている状態で、乾燥工程後の画像を、30℃以下の温度Trにまで冷却する工程である。
冷却工程では、画像及び樹脂基材Aの温度が低下していくため、画像(詳細には、前処理液に由来する層)の線膨張係数と、樹脂基材Aの線膨張係数と、の差に起因する応力が生じる。
式(3)では、この差を、近似的に、「αr(T)-αs(T)」とする。
αs(T)は、冷却工程における樹脂基材Aの線膨張係数に対応する。αs(T)は、詳細には、温度Tにおける、張力S3が印加されている状態の樹脂基材Aの張力印加方向の線膨張係数である。
αr(T)は、温度Tにおける、前処理液に由来する層の線膨張係数に対応する。αr(T)は、詳細には、温度Tにおける、樹脂Xの張力印加方向の線膨張係数である。ここで、αr(T)については、張力を考慮しない。その理由は、画像の厚さが樹脂基材Aの厚さと比較して十分に薄いためである。
樹脂基材Aの厚さに対する画像の厚さの比(即ち、厚さ比〔画像/樹脂基材〕)は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.3以下であり、更に好ましくは0.2以下である。
厚さ比〔画像/樹脂基材〕の下限には特に制限はない。厚さ比〔画像/樹脂基材〕の下限としては、例えば、0.005、0.01、0.05等が挙げられる。
【0059】
式(3)は、「αr(T)-αs(T)」と、温度T(即ち、冷却工程中の画像の温度)における樹脂Xの弾性率(E(T))と、の積である「E(T)(αr(T)-αs(T))」を含む。この「E(T)(αr(T)-αs(T))」は、画像及び樹脂基材Aの温度が温度Tとなった時点での応力に相関がある。式(3)では、この「E(T)(αr(T)-αs(T))」の温度Tdから温度Trまでの積分値を、σcoolとしている。
得られたσcoolは、冷却工程において、画像の温度が温度Tdから温度Trにまで低下する過程で生じる、樹脂基材Aと画像との間の応力に相関がある。
【0060】
式(3)によって算出されるσcoolは、以下のようにして求める。
温度Tr以上温度Td以下の範囲を0.1℃間隔で分割した各温度Tについて、それぞれ、E(T)、αr(T)、及びαs(T)を測定する。
得られた結果から、上記各温度Tにおける「E(T)(αr(T)-αs(T))」を求める。
温度Tと「E(T)(αr(T)-αs(T))」との関係を示すグラフを作成し、得られたグラフの曲線と、温度Trを示す直線と、温度Tdを示す直線と、「E(T)(αr(T)-αs(T))」が0である直線と、によって囲まれた面積を求め、得られた面積に基づき、「E(T)(αr(T)-αs(T))」の温度Tdから温度Trまでの積分値、即ちσcoolを求める。前述のとおり、σcoolは、正の値及び負の値を両方とり得る。
【0061】
図1は、本開示の画像記録方法の一例(詳細には、後述の実施例1)における、冷却工程中の画像の温度Tと、「E(T)(α
r(T)-α
s(T))」と、の関係を示すグラフである。
この一例におけるσ
coolは、
図1中の斜線部の面積に基づいて求められる。
【0062】
(E(T)の測定方法)
各温度TにおけるE(T)は、測定温度を各温度Tに変更すること以外はE(Td)と同様にして測定する。
【0063】
(αr(T)の測定方法)
各温度Tにおけるαr(T)は、以下のようにして測定する。
E(Td)の測定において作製した自立膜と同様にして、樹脂Xを含有する自立膜を作製する。
得られた自立膜から5mm×5mmの正方形の試料を切り出し、切り出された試料について、熱機械分析装置を用い、圧縮型の測定方法により、各温度Tにおける線膨張係数を測定する。後述する実施例では、熱機械分析装置として、NETZSCH社製の「TMA4000SE」を用いた。
圧縮型の測定方法の詳細は以下のとおりである。
試料を25℃に調温し、25℃に調温された試料に対し、試料の厚さ方向に1kPaの加重を印加する。この状態で、試料の温度を変化させながら、各温度Tにおける試料の線膨張係数を測定する。得られた線膨張係数を、各温度Tにおけるαr(T)(即ち、温度Tにおける樹脂Xの線膨張係数)とする。
【0064】
(αs(T)の測定方法)
各温度Tにおけるαs(T)は、熱機械分析装置を用い、引張型の測定方法によって測定する。後述する実施例では、熱機械分析装置として、NETZSCH社製の「TMA4000SE」を用いた。
引張型の測定方法の詳細は以下のとおりである。
樹脂基材Aを25℃に調温し、25℃に調温された樹脂基材の両端をチャックでつかんで引張方向の力を加えることにより、張力S3を印加する。張力は、線膨張係数を測定し終えるまでの間、張力S3を保つように適宜調整する。
以上の状態で、樹脂基材Aの温度を変化させながら、各温度Tにおける線膨張係数を測定する。得られた値を、各温度Tにおけるαs(T)とする。
【0065】
<張力S1、張力S2、及び張力S3>
本開示の画像記録方法における、張力S1、張力S2、及び張力S3は、それぞれ独立に、10N/m以上の張力である。即ち、張力S1、張力S2、及び張力S3の全てが同一である態様であってもよいし、張力S1、張力S2、及び張力S3のうちの2つが同一で残りが上記2つと異なる態様であってもよいし、張力S1、張力S2、及び張力S3の全てが異なる態様であってもよい。
【0066】
張力S1、張力S2、及び張力S3は、それぞれ独立に、10N/m~60N/mであることが好ましく、10N/m~50N/mであることがより好ましく、10N/m~40N/mであることが更に好ましく、10N/m~30N/mであることが更に好ましい。
【0067】
画像記録の効率の観点からみると、下記式で表される、張力S1、張力S2、及び張力S3のばらつきは、0%~40%であることが好ましく、0%~20%であることがより好ましく、0%~10%であることがより好ましい。
張力S1、張力S2、及び張力S3のばらつき(%)
=(((張力S1、張力S2、及び張力S3の最大値)-(張力S1、張力S2、及び張力S3の最小値))/((張力S1、張力S2、及び張力S3の最大値)+(張力S1、張力S2、及び張力S3の最小値)))×100
【0068】
張力S1、張力S2、及び張力S3は、それぞれ、テンションメーターによって測定する。
張力S1、張力S2、及び張力S3は、それぞれ、制御装置(例えばテンションコントローラー)を用いて調整してもよい。
【0069】
樹脂基材Aに対し、張力S1、張力S2、及び張力S3を印加する方法としては特に制限はなく、公知の方法を適宜適用できる。
例えば、付与工程における前処理液及びインクの付与、乾燥工程における画像の乾燥、並びに、冷却工程における画像の冷却を、長尺フィルム形状の樹脂基材Aを長手方向にロール・ツー・ロール(roll to roll)方式で搬送しながら行う態様の画像記録方法によれば、樹脂基材Aに対し、張力S1を印加しながら付与工程の操作を施し、張力S2を印加しながら乾燥工程の操作を施し、張力S3を印加しながら冷却工程の操作を施しやすい。この際、搬送経路全域において、樹脂基材Aに付与される張力が、一定となるように調整してもよい。
ここで、ロール・ツー・ロール方式とは、ロール状に巻き取られている長尺フィルムを巻き出しながら連続搬送し、連続搬送された長尺フィルムを、再びロール状に巻き取る搬送方式を意味する。
また、本開示の画像記録装置の態様としては、上述した態様以外にも、付与工程、乾燥工程、及び冷却工程の各操作を、短尺フィルム形状の樹脂基材Aに対し、冶具等によって、張力を印加しながら行う態様も挙げられる。
【0070】
また、本開示の画像記録方法では、付与工程の開始から冷却工程の終了までの間の全域において、樹脂基材Aの張力が10N/m以上(より好ましくは10N/m~60N/m、更に好ましくは10N/m~50N/m、更に好ましくは10N/m~40N/m、更に好ましくは10N/m~30N/m)に維持されることが好ましい。
【0071】
次に、本開示の画像記録方法の各工程について説明する。
【0072】
<樹脂基材Aを準備する工程>
本開示の画像記録方法は、樹脂基材Aを準備する工程を含む。
樹脂基材Aを準備する工程は、予め製造された樹脂基材Aを、後述の付与工程以降の工程を実施するために単に準備するだけの工程であってもよいし、樹脂基材Aを製造する工程であってもよい。
また、樹脂基材に対し、表面処理を施して樹脂基材Aを得る工程であってもよい。
樹脂基材A及びその好ましい態様については前述したとおりである。
【0073】
<前処理液を準備する工程>
本開示の画像記録方法は、前処理液を準備する工程を含む。
前処理液を準備する工程は、予め製造された前処理液を、後述の付与工程以降の工程を実施するために単に準備するだけの工程であってもよいし、前処理液を製造する工程であってもよい。
前処理液は、水及び樹脂Xを含有する。
【0074】
(水)
前処理液は、水を含有する。
水の含有量は、前処理液の全量に対し、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上である。
水の含有量の上限は、他の成分の量にもよるが、前処理液の全量に対し、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下である。
【0075】
(樹脂X)
前処理液は、樹脂Xを含有する。
樹脂Xは、前述した式(1)~式(3)を満足する樹脂である。
樹脂Xは、1種の樹脂であってもよいし、2種以上の樹脂の混合物であってもよい。
【0076】
前処理液は、樹脂X以外の樹脂を含有していてもよいし、樹脂X以外の樹脂を含有していなくてもよい。
前処理液に含有される樹脂成分全体に占める樹脂X(樹脂Xが2種以上である場合には2種以上の合計量)の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0077】
樹脂Xとしては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレア樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂等が挙げられる。
樹脂Xとしては、式(1)~式(3)を満足しやすい観点から、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及びポリウレタン樹脂のうちの少なくとも一つが好ましく、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂の少なくとも一方がより好ましい。
【0078】
本開示において、アクリル樹脂とは、アクリル酸、アクリル酸の誘導体(例えば、アクリル酸エステル等)、メタクリル酸、及びメタクリル酸の誘導体(例えば、メタクリル酸エステル等)からなる群から選択される少なくとも1種を含む原料モノマーの重合体(単独重合体又は共重合体)を意味する。
【0079】
樹脂Xの重量平均分子量(Mw)は、1000~300000であることが好ましく、2000~200000であることがより好ましく、5000~100000であることが更に好ましい。
【0080】
本開示において、重量平均分子量(Mw)は、特別な記載がない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値を意味する。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定は、測定装置として、HLC(登録商標)-8020GPC(東ソー(株))を用い、カラムとして、TSKgel(登録商標)Super Multipore HZ-H(4.6mmID×15cm、東ソー(株))を3本用い、溶離液として、THF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、測定条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、及び測定温度を40℃とし、RI検出器を用いて行う。
検量線は、東ソー(株)の「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」、及び「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0081】
前処理液中の樹脂Xの形態としては、樹脂粒子が好ましい。
即ち、前処理液は、樹脂Xとしての樹脂粒子を含むことが好ましい。
この場合の樹脂Xは、水不溶性の樹脂であることが好ましい。
本開示において、「水不溶性」とは、25℃の水100gに対する溶解量が1.0g未満(より好ましくは0.5g未満)である性質を指す。
【0082】
樹脂Xとしての樹脂粒子の体積平均粒径は、1nm~300nmであることが好ましく、3nm~200nmであることがより好ましく、5nm~150nmであることが更に好ましい。
【0083】
本開示において、体積平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布計により測定された値を意味する。
測定装置としては、例えば、粒度分布測定装置「マイクロトラックMT-3300II」(日機装(株)製)が挙げられる。
【0084】
樹脂Xとしての樹脂粒子としては、
アクリル樹脂粒子、エステル樹脂粒子、アクリル樹脂粒子及びエステル樹脂粒子の混合物、アクリル樹脂とエステル樹脂とを含む複合粒子、又はポリウレタン樹脂粒子が好ましく、
アクリル樹脂粒子、エステル樹脂粒子、アクリル樹脂粒子及びエステル樹脂粒子の混合物、又は、アクリル樹脂とエステル樹脂とを含む複合粒子がより好ましい。
【0085】
樹脂粒子における樹脂Xは、脂環式構造又は芳香環式構造を有することが好ましく、芳香環式構造を有することがより好ましい。
脂環式構造としては、炭素数5~10の脂環式炭化水素構造が好ましく、シクロヘキサン環構造、ジシクロペンタニル環構造、ジシクロペンテニル環構造、又は、アダマンタン環構造が好ましい。
芳香環式構造としては、ナフタレン環又はベンゼン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
脂環式構造又は芳香環式構造の量としては、例えば、樹脂粒子X100gあたり0.01mol~1.5molであることが好ましく、0.1mol~1molであることがより好ましい。
【0086】
樹脂粒子における樹脂Xは、構造中にイオン性基を有することが好ましい。
イオン性基としては、アニオン性基であってもカチオン性基であってもよいが、導入の容易性の観点から、アニオン性基が好ましい。
アニオン性基としては、特に限定されないが、カルボキシ基、又は、スルホ基であることが好ましく、スルホ基であることがより好ましい。
イオン性基の量としては、特に限定されず、樹脂粒子Xが水分散性の樹脂粒子となる量であれば好ましく使用可能であるが、例えば樹脂粒子Xに含まれる樹脂100gあたり0.001mol~1.0molであることが好ましく、0.01mol~0.5molであることがより好ましい。
【0087】
前処理液中における樹脂Xの含有量には特に制限はない。
前処理液の全量に対する樹脂Xの含有量は、0.5質量%~30質量%であることが好ましく、1質量%~20質量%であることがより好ましく、1質量%~15質量%であることが特に好ましい。
【0088】
(凝集剤)
前処理液は、インクが付与されて形成される画像の画質を向上させる観点から、凝集剤を少なくとも1種含有していてもよい。
凝集剤としては、酸、多価金属化合物、金属錯体、等が挙げられる。
【0089】
-酸-
酸は、無機酸(例えば、硝酸、チオシアン酸等)であっても有機酸であってもよい。
画像の画質をより向上させる観点から、酸としては、有機酸が好ましい。
有機酸としては、酸性基を有する有機化合物が挙げられる。
酸性基としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、カルボキシ基等を挙げることができる。
上記酸性基は、インクの凝集速度の観点から、リン酸基又はカルボキシ基であることが好ましく、カルボキシ基であることがより好ましい。
なお、上記酸性基は、前処理液中において、少なくとも一部が解離していることが好ましい。
【0090】
カルボキシ基を有する有機化合物としては、ポリアクリル酸、酢酸、蟻酸、安息香酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸(好ましくは、DL-リンゴ酸)、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、アジピン酸、4-メチルフタル酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、等が好ましい。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0091】
カルボキシ基を有する有機化合物としては、インクの凝集速度の観点から、2価以上のカルボン酸(以下、多価カルボン酸ともいう。)が好ましく、ジカルボン酸又はトリカルボン酸がより好ましい。
多価カルボン酸としては、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、酒石酸、4-メチルフタル酸、又はクエン酸がより好ましく、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、又はクエン酸が更に好ましい。
【0092】
有機酸は、pKaが低い(例えば、1.0~5.0)ことが好ましい。
これにより、カルボキシ基等の弱酸性の官能基で分散安定化しているインク中の顔料やポリマー粒子などの粒子の表面電荷を、よりpKaの低い有機酸性化合物と接触させることにより減じ、分散安定性を低下させることができる。
【0093】
有機酸は、pKaが低く、水に対する溶解度が高く、価数が2価以上であることが好ましく、インク中の粒子を分散安定化させている官能基(例えば、カルボキシ基等)のpKaよりも低いpH領域に高い緩衝能を有する2価又は3価の酸性物質であることがより好ましい。
【0094】
-多価金属化合物-
多価金属化合物としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。
これらの金属の塩としては、前述した有機酸の塩、硝酸塩、塩化物、又はチオシアン酸塩が好適である。
中でも、好ましくは、有機酸(ギ酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩若しくはマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩若しくはマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、又は、チオシアン酸のカルシウム塩若しくはマグネシウム塩である。
多価金属化合物は、前処理液中において、少なくとも一部が多価金属イオンと対イオンとに解離していることが好ましい。
【0095】
-金属錯体-
金属錯体としては、金属元素として、ジルコニウム、アルミニウム、及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属錯体が好ましい。
金属錯体としては、配位子として、アセテート、アセチルアセトネート、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、オクチレングリコレート、ブトキシアセチルアセトネート、ラクテート、ラクテートアンモニウム塩、及びトリエタノールアミネートからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属錯体が好ましい。
【0096】
金属錯体としては、様々な金属錯体が市販されており、本開示においては、市販の金属錯体を使用してもよい。また、様々な有機配位子、特に金属キレート触媒を形成し得る様々な多座配位子が市販されている。そのため、市販の有機配位子と金属とを組み合わせて調製した金属錯体を使用してもよい。
【0097】
画像の画質をより向上させる観点から、凝集剤は、酸を含むことが好ましく、有機酸を含むことがより好ましい。
【0098】
前処理液の全量に対する凝集剤の含有量は、0.1質量%~40質量%であることが好ましく、0.1質量%~30質量%であることがより好ましく、1質量%~20質量%であることが更に好ましく、1質量%~10質量%であることが更に好ましい。
【0099】
(水溶性溶剤)
前処理液は、水溶性溶剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。
水溶性溶剤としては、公知のものを特に制限なく用いることができる。
水溶性溶剤としては、例えば、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール等)、ポリアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等)などの多価アルコール;
ポリアルキレングリコールエーテル(例えば、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル等)などの多価アルコールエーテル;
特開2011-42150号公報の段落0116に記載の、炭素原子数1~4のアルキルアルコール類、グリコールエーテル類、2-ピロリドン、及びN-メチル-2-ピロリドン;
等が挙げられる。
中でも、多価アルコール、又は、多価アルコールエーテルが好ましく、アルカンジオール、ポリアルキレングリコール、又は、ポリアルキレングリコールエーテルがより好ましい。
【0100】
(界面活性剤)
前処理液は、界面活性剤の少なくとも1種を含んでもよい。
界面活性剤は、表面張力調整剤又は消泡剤として用いることができる。表面張力調整剤又は消泡剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。中でも、インクの凝集速度の観点から、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が好ましい。
【0101】
界面活性剤としては、特開昭59-157636号公報の第37~38頁及びリサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)に界面活性剤として挙げた化合物も挙げられる。また、特開2003-322926号、特開2004-325707号、特開2004-309806号の各公報に記載の、フッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等も挙げられる。
【0102】
前処理液が界面活性剤を含む場合、前処理液における界面活性剤の含有量としては特に制限はないが、前処理液の表面張力が50mN/m以下となるような含有量であることが好ましく、20mN/m~50mN/mとなるような含有量であることがより好ましく、30mN/m~45mN/mとなるような含有量であることが更に好ましい。
例えば、前処理液が消泡剤としての界面活性剤を含む場合、消泡剤としての界面活性剤の含有量は、前処理液の全量に対し、0.0001質量%~1質量%が好ましく、0.001質量%~0.1質量%がより好ましい。
【0103】
(その他の成分)
前処理液は、必要に応じ、上記以外のその他の成分を含んでいてもよい。
前処理液に含有され得るその他の成分としては、固体湿潤剤、コロイダルシリカ、無機塩、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、キレート剤、水溶性高分子化合物(例えば、特開2013-001854号公報の段落0026~0080に記載された水溶性高分子化合物)、等の公知の添加剤が挙げられる。
【0104】
(前処理液の物性)
前処理液の25℃におけるpHは、0.1~3.5であることが好ましい。
前処理液の25℃におけるpHが、0.1以上であると、樹脂基材Aのザラツキがより低減され、画像の密着性がより向上する。
前処理液の25℃におけるpHが、3.5以下であると、凝集速度がより向上し、樹脂基材A上におけるインクによるドット(インクドット)の合一がより抑制され、画像のザラツキがより低減される。
前処理液の25℃におけるpHは、0.2~2.0がより好ましい。
本開示におけるpHは、pHメーターを用いて測定された値を意味する。
【0105】
前処理液の粘度としては、インクの凝集速度の観点から、0.5mPa・s~10mPa・sの範囲が好ましく、1mPa・s~5mPa・sの範囲がより好ましい。
【0106】
本開示における粘度は、粘度計を用い、25℃で測定される値である。
粘度計としては、例えば、VISCOMETER TV-22型粘度計(東機産業(株)製)を用いることができる。
【0107】
前処理液の表面張力としては、60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m~50mN/mであることがより好ましく、30mN/m~45mN/mであることが更に好ましい。
前処理液の表面張力が上記範囲内であると、樹脂基材Aと前処理液との密着性がより向上する。
【0108】
本開示における表面張力は、25℃の温度下で測定される値である。
表面張力の測定は、例えば、Automatic Surface Tentiometer CBVP-Z(共和界面科学(株)製)を用いて行うことができる。
【0109】
<インクを準備する工程>
本開示の画像記録方法は、インクを準備する工程を含む。
インクを準備する工程は、予め製造されたインクを、後述の付与工程以降の工程を実施するために単に準備するだけの工程であってもよいし、インクを製造する工程であってもよい。
インクは、水及び着色剤を含有する。
【0110】
(水)
インクは、水を含有する。
水の含有量は、インクの全量に対し、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上である。
水の含有量の上限は、他の成分の量にもよるが、インクの全量に対し、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下である。
【0111】
(着色剤)
インクは、着色剤を少なくとも1種含有する。
着色剤としては、特に限定されず、公知の着色剤が使用可能であるが、有機顔料又は無機顔料が好ましい。
【0112】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。
着色剤としては、特開2009-241586号公報の段落0096~0100に記載の着色剤が好ましく挙げられる。
【0113】
着色剤の含有量としては、インクの全量に対して、1質量%~25質量%が好ましく、2質量%~20質量%がより好ましく、2質量%~15質量%が特に好ましい。
【0114】
(分散剤)
インクは、着色剤を分散するための分散剤を含有してもよい。分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
分散剤としては、例えば、特開2016-145312号公報の段落0080~0096に記載の分散剤が好ましく挙げられる。
【0115】
着色剤(p)と分散剤(s)との混合質量比(p:s)としては、1:0.06~1:3の範囲が好ましく、1:0.125~1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125~1:1.5である。
【0116】
(樹脂粒子)
インクは、樹脂粒子を含有してもよい。
樹脂粒子としては、画像の密着性及び画質をより向上させる観点から、アクリル樹脂粒子及びウレタン樹脂粒子の少なくとも一方が好ましく、アクリル樹脂粒子がより好ましい。
【0117】
アクリル樹脂粒子としては、自己分散性樹脂粒子であるアクリル樹脂粒子も好ましい。
自己分散性樹脂粒子としては、例えば、特開2016-188345号公報の段落0062~0076に記載の自己分散性ポリマー粒子が挙げられる。
【0118】
また、インクに含有され得る樹脂粒子の体積平均粒径は、1nm~200nmであることが好ましく、3nm~200nmであることがより好ましく、5nm~50nmであることが更に好ましい。
樹脂粒子の体積平均粒径の測定方法については前述したとおりである。
【0119】
インクに含有され得る樹脂粒子の樹脂の重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、1000~300000であることが好ましく、2000~200000であることがより好ましく、5000~100000であることが更に好ましい。
Mwの測定方法については前述したとおりである。
【0120】
インクの全量に対する樹脂粒子の含有量は、1質量%~25質量%であることが好ましく、2質量%~20質量%であることがより好ましく、3質量%~15質量%であることが更に好ましい。
【0121】
(沸点210℃以下の水溶性有機溶剤)
インクは、沸点210℃以下の水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含有することが好ましい。
これにより、インクの吐出性がより向上し得る。
【0122】
本開示において、「水溶性」とは、25℃の水100gに対して1g以上(好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上)溶解する性質を意味する。
また、本開示において、沸点は、1気圧(101325Pa)下での沸点を意味する。
【0123】
沸点210℃以下の水溶性有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコール(沸点188℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点121℃)、エチレングリコール(沸点197℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点133℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点149℃)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(沸点151℃)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点170℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、2-エチル-1-ヘキサノール(沸点187℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点188℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点188℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点175℃)、等が挙げられる。
【0124】
インクが沸点210℃以下の水溶性有機溶剤を含有する場合、沸点210℃以下の水溶性有機溶剤の含有量は、インクの全量に対し、好ましくは1質量%~30質量%であり、より好ましくは5質量%~30質量%であり、更に好ましくは10質量%~30質量%であり、更に好ましくは15質量%~25質量%である。
【0125】
(沸点210℃超の有機溶剤)
インク中における沸点210℃超の有機溶剤の含有量は、1質量%未満であることが好ましい。これにより、インクの乾燥性がより高められる。
ここで、インク中における沸点210℃超の有機溶剤の含有量が1質量%未満であるとは、インクが、沸点210℃超の有機溶剤を含有しないか、又は、含有する場合でも、沸点210℃超の有機溶剤の含有量が、インクの全量に対し、1質量%未満であることを意味する。
インクにおいて、沸点210℃超の有機溶剤の含有量は1質量%未満であることは、概略的に言えば、インクが、沸点210℃超の有機溶剤を実質的に含有しないことを示している。
【0126】
沸点210℃超の有機溶剤としては、例えば、グリセリン(沸点290℃)、1,2-ヘキサンジオール(沸点223℃)、1,3-プロパンジオール(沸点213℃)、ジエチレングリコール(沸点245℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコール(沸点285℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、トリプロピレングリコール(沸点267℃)、トリメチロールプロパン(沸点295℃)、2-ピロリドン(沸点245℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点243℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点248℃)、等が挙げられる。
【0127】
(その他の添加剤)
インクは、上記成分以外のその他の成分を含有していてもよい。
その他の成分としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0128】
(インクの好ましい物性)
インクの粘度は、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、2mPa・s以上13mPa・s未満であることがより好ましく、2.5mPa・s以上10mPa・s未満であることが好ましい。
粘度の測定方法は前述したとおりである。
【0129】
インクの表面張力は、25mN/m以上40mN/m以下が好ましく、27mN/m以上37mN/m以下がより好ましい。
表面張力の測定方法は前述したとおりである。
【0130】
本開示のインクの25℃におけるpHは、分散安定性の観点から、pH6~11が好ましく、pH7~10がより好ましく、pH7~9が更に好ましい。
pHの測定方法は前述したとおりである。
【0131】
<付与工程>
本開示の画像記録方法における付与工程は、張力S1が印加されている樹脂基材A上に、前処理液及びインクをこの順に付与して画像を得る工程である。
【0132】
付与工程では、張力S1が印加されている樹脂基材A上に、前処理液を付与する。
樹脂基材Aに対する前処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。
塗布法としては、バーコーター(例えばワイヤーバーコーター)、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、フレキソコーター等を用いた公知の塗布法が挙げられる。
インクジェット法の詳細については、後述するインクを付与する工程に適用され得るインクジェット法と同様である。
【0133】
単位面積当たりの前処理液の付与質量(g/m2)としては、好ましくは0.1g/m2~10g/m2、より好ましくは0.5g/m2~6.0g/m2、さらに好ましくは1.0g/m2~4.0g/m2である。
【0134】
また、付与工程において、前処理液の付与前に樹脂基材Aを加熱してもよい。
加熱温度としては、樹脂基材Aの種類又は前処理液の組成に応じて適宜設定すればよいが、樹脂基材Aの温度を20℃~50℃とすることが好ましく、25℃~40℃とすることがより好ましい。
【0135】
付与工程では、前処理液の付与後であって、インクを付与する前に、前処理液を加熱乾燥させてもよい。
前処理液の加熱乾燥を行うための手段としては、ヒータ等の公知の加熱手段、ドライヤ等の公知の送風手段、及び、これらを組み合わせた手段が挙げられる。
前処理液の加熱乾燥を行うための方法としては、例えば、
樹脂基材Aの前処理液が付与された面とは反対側からヒータ等で熱を与える方法、
樹脂基材Aの前処理液が付与された面に温風又は熱風をあてる方法、
樹脂基材Aの前処理液が付与された面又は前処理液が付与された面とは反対側から、赤外線ヒータで熱を与える方法、
これらの複数を組み合わせた方法、
等が挙げられる。
【0136】
前処理液を加熱乾燥する場合の加熱温度は、35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。
加熱温度の上限には特に制限はないが、上限としては、例えば100℃が挙げられ、90℃が好ましく、70℃がより好ましい。
加熱乾燥の時間には特に制限はないが、0.5秒~60秒が好ましく、0.5秒~20秒がより好ましく、0.5秒~10秒が特に好ましい。
【0137】
付与工程では、樹脂基材Aの前処理液が付与された面上の少なくとも一部に、インクを付与する。
インクは1種のみ付与してもよいし、2種以上付与してもよい。
例えば、2色以上のインクを付与した場合には、2色以上の画像を記録することができる。
【0138】
インクの付与方法としては、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用できる。
中でも、インクジェット法が好ましい。
インクジェット法におけるインクの吐出方式には特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。
インクジェット法としては、特に、特開昭54-59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
インクジェット法として、特開2003-306623号公報の段落番号0093~0105に記載の方法も適用できる。
【0139】
インクの付与は、インクジェットヘッドのノズルからインクを吐出することにより行う。
インクジェットヘッドの方式としては、短尺のシリアルヘッドを、樹脂基材Aの幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、樹脂基材Aの1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式と、がある。
ライン方式では、記録素子の配列方向と交差する方向に樹脂基材Aを走査させることで樹脂基材Aの全面に画像記録を行なうことができる。ライン方式では、シャトル方式における、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、ライン方式では、シャトル方式と比較して、キャリッジの移動と樹脂基材Aとの複雑な走査制御が不要になり、樹脂基材Aだけが移動する。このため、ライン方式によれば、シャトル方式と比較して、画像記録の高速化が実現される。
【0140】
インクジェットヘッドのノズルから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、1pL(ピコリットル)~10pLが好ましく、1.5pL~6pLがより好ましい。
また、画像のムラ、連続階調のつながりを改良する観点で、異なる液適量を組み合わせて吐出することも有効である。
【0141】
付与工程における前処理液の付与量及びインクの付与量は、乾燥工程後における画像の厚さを考慮して調整してもよい。
乾燥工程後における画像の厚さ(即ち、前処理液に由来する層の厚さとインクに由来する層の厚さとの合計)は、好ましくは0.1μm~10μmであり、より好ましくは0.3μm~7μmであり、更に好ましくは0.7μm~7μmであり、更に好ましくは1μm~4μmである。
乾燥工程後における、前処理液に由来する層の厚さは、好ましくは0.01μm~1μmであり、より好ましくは0.05μm~0.8μmであり、更に好ましくは0.05μm~0.5μmである。
【0142】
<乾燥工程>
本開示の画像記録方法における乾燥工程は、樹脂基材Aに対して張力S2が印加されている状態で、上記画像を、50℃以上の温度Tdに加熱して乾燥させる工程である。
画像の加熱を行うための手段としては、ヒータ等の公知の加熱手段、ドライヤ等の公知の送風手段、及び、これらを組み合わせた手段が挙げられる。
画像の加熱を行うための方法としては、例えば、
樹脂基材Aの画像形成面とは反対側からヒータ等で熱を与える方法、
樹脂基材Aの画像形成面に温風又は熱風をあてる方法、
樹脂基材Aの画像形成面側及び/又は画像非形成面側から、赤外線ヒータで熱を与える方法、
これらの複数を組み合わせた方法、
等が挙げられる。
【0143】
温度Tdは、画像の乾燥効率の観点から、55℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。
温度Tdは、式(1)~式(3)を満足させやすい観点から、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、70℃未満が更に好ましく、65℃以下が更に好ましい。
【0144】
ここで、温度Tdは、画像の表面の温度を意味し、非接触式の温度計を用いて測定された値を意味する(後述する、温度T及び温度Trついても同様である)。
【0145】
画像の乾燥時間としては、画像と樹脂基材Aとの密着性の観点から、5秒以上が好ましい。
画像の乾燥時間としては、画像記録の生産性の観点から、30秒未満が好ましく、20秒未満がより好ましく、15秒以下が更に好ましく、10秒以下が更に好ましい。
ここで、画像の乾燥時間とは、画像の加熱を開始してから画像の冷却を開始するまでの時間を意味する。
本開示の画像記録方法によれば、σtotalが40kgf/cm2以下であることにより、乾燥の時間を短くした場合(例えば10秒以下とした場合)においても、画像と樹脂基材Aとの密着性を確保することができる。
【0146】
<冷却工程>
本開示の画像記録方法における冷却工程は、樹脂基材Aに対して張力S3が印加されている状態で、乾燥工程後の画像を、30℃以下の温度Trまで冷却する工程である。
画像の冷却を行うための手段としては、冷却ロール等の冷却手段、ドライヤ等の送風手段、自然冷却(空冷)、及び、これらを組み合わせた手段が挙げられる。
画像の冷却を行うための方法としては、例えば、
樹脂基材Aの画像形成面及び/又は画像非形成面を冷却ロールに接触させる方法、
樹脂基材Aの画像形成面に冷風をあてる方法、
画像が形成された樹脂基材Aを、温度Tr以下に調温された空間に配置する方法、
これらの複数を組み合わせた方法、
等が挙げられる。
【0147】
温度Trとしては、5℃~30℃が好ましく、10℃~30℃がより好ましく、20℃~30℃が更に好ましい。
【0148】
本開示の画像記録方法は、必要に応じ、その他の工程を有していてもよい。
その他の工程としては、前処理液が付与された領域及びこの領域上の一部に記録された画像を覆うオーバーコート層を形成する工程、画像が記録された樹脂基材Aの画像が設けられた側に、ラミネート基材をラミネートする工程、等が挙げられる。
【0149】
<画像記録装置の一例>
図2は、本開示の画像記録方法に用いる画像記録装置の一例を概念的に示す図である。
図2に示されるように、本一例に係る画像記録装置は、ロール・ツー・ロール方式で樹脂基材Aを搬送する搬送機構を備える画像記録装置の一例であり、ロール状に巻き取られている長尺フィルム形状の樹脂基材A1を、巻き出し装置W1によって巻き出し、巻き出された樹脂基材A1をブロック矢印の方向に搬送させ、前処理液付与装置P1、インク付与装置IJ1、乾燥ゾーンD1、及び冷却ゾーンC1をこの順に通過させ、最後に巻取り装置W2にて巻き取る装置である。
【0150】
ここで、樹脂基材A1は、樹脂基材Aの一例である。
樹脂基材A1は、張力が印加された状態で搬送される。
具体的には、搬送される樹脂基材A1における、巻き出し装置W1から乾燥ゾーンD1の直前までの部分には張力S1が印加され、乾燥ゾーンD1の直前から冷却ゾーンC1の直前までの部分には張力S2が印加され、冷却ゾーンC1の直前から巻き取り装置W2までの部分には張力S1が印加される。
樹脂基材A1に印加される張力は、搬送経路の全域において一定であってもよい(即ち、張力S1=張力S2=張力S3の関係が成り立っていてもよい)し、張力S1、張力S2及び張力S3のばらつきが例えば40%以下に低減されていてもよいし、上記ばらつきが特に制御されていなくてもよい。
本一例に係る画像記録装置は、張力S1、張力S2及び張力S3を調整するための張力調整手段を備えていてもよい。
張力調整手段としては、
巻き出し装置W1及び/又は巻き取り装置W2に設けられるパウダーブレーキ、
搬送経路の途中に設けられるダンサーロール、
画像記録装置の各条件の調整によって各張力を制御する制御装置(例えばテンションコントローラー)、
等が挙げられる。
また、本一例に係る画像記録装置は、張力S1、張力S2及び張力S3を測定するための張力測定手段(例えばテンションメーター)を備えていてもよい。
【0151】
なお、
図2は、概念図であるため、樹脂基材A1の搬送経路を簡略化し、樹脂基材A1が一方向に搬送されるかのように図示しているが、実際には、樹脂基材A1の搬送経路は蛇行していてもよいことは言うまでもない。
樹脂基材A1の搬送方式としては、胴、ロール等の各種ウェブ搬送方式を適宜選択することができる。
【0152】
樹脂基材A1を巻き出すための巻き出し装置W1に対し、樹脂基材A1の搬送方向下流側(以下、単に「下流側」ともいう)には、前処理液付与装置P1及びインク付与装置IJ1がこの順に配置されている。
前処理液付与装置P1及びインク付与装置IJ1において、付与工程(即ち、張力S1が印加されている樹脂基材A上に、前処理液及びインクをこの順に付与して画像を得る付与工程)が実施される。
前処理液の付与方法及びインクの付与方法については、それぞれ、「付与工程」の項で説明したとおりである。
前処理液付与装置P1とインク付与装置IJ1との間には、前処理液を乾燥させるゾーン(不図示)が設けられていてもよい。
前処理液付与装置P1に対して樹脂基材A1の搬送方向上流側には、樹脂基材A1に表面処理(好ましくはコロナ処理)を施すための表面処理部(不図示)が設けられていてもよい。
【0153】
図示は省略したが、インク付与装置IJ1の構造は、少なくとも1つのインクジェットヘッドを備える構造とすることができる。
インクジェットヘッドは、シャトルヘッドでも構わないが、画像記録の高速化の観点から、長尺フィルム形状の樹脂基材Aの幅方向にわたって多数の吐出口(ノズル)が配列されたラインヘッドが好ましい。
画像記録の高速化の観点から、インク付与装置IJ1の構造として、好ましくは、ブラック(K)インク用のラインヘッド、シアン(C)インク用のラインヘッド、マゼンタ(M)インク用のラインヘッド、及びイエロー(Y)インク用のラインヘッドのうちの少なくとも1つを備える構造である。
インク付与装置IJ1の構造として、より好ましくは、上記4つのラインヘッドのうちの少なくとも2つを備え、これら2つ以上のラインヘッドが、樹脂基材Aの搬送方向(ブロック矢印の方向)に配列されている構造である。
インク付与装置IJ1は、更に、ホワイトインク用のラインヘッド、オレンジインク用のラインヘッド、グリーンインク用のラインヘッド、パープルインク用のラインヘッド、ライトシアンインク用のラインヘッド、及びライトマゼンタインク用のラインヘッドのうちの少なくとも1つのラインヘッドを備えていてもよい。
【0154】
インク付与装置IJ1の下流側には、乾燥ゾーンD1が配置されている。
乾燥ゾーンD1において、乾燥工程(即ち、樹脂基材Aに対して10N/m以上の張力S2が印加されている状態で、画像を、50℃以上の温度Tdに加熱して乾燥させる乾燥工程)が実施される。
画像の乾燥方法については、「乾燥工程」の項で説明したとおりである。
【0155】
乾燥ゾーンD1の下流側には、冷却ゾーンC1が配置されている。
冷却ゾーンC1において、冷却工程(即ち、樹脂基材Aに対して張力S3が印加されている状態で、乾燥工程後の画像を、30℃以下の温度Trまで冷却する冷却工程)が実施される。
画像の冷却方法については、「冷却工程」の項で説明したとおりである。
【0156】
本一例に係る画像記録装置を用いた画像記録では、
まず、ロール状に巻き取られている長尺フィルム形状の樹脂基材A1を、巻き出し装置W1によって巻き出し、
巻き出された樹脂基材A1をブロック矢印の方向に搬送させ、
搬送される樹脂基材A1上に、前処理液付与装置P1及びインク付与装置IJ1によって前述の付与工程を実施して画像を形成し、
次いで、乾燥ゾーンD1にて、前述の乾燥工程を実施して画像を乾燥させ、
次いで、冷却ゾーンC1にて、前述の冷却工程を実施して画像の冷却を行い、
次いで、画像が記録された樹脂基材A1を、巻き出し装置W2によって巻き取る。
この画像記録において、前述したσtotalを40kgf/cm2以下に制御することにより、樹脂基材A1に対する画像の密着性の低下が抑制される。
【実施例】
【0157】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
以下において、特に断りがない限り、「部」および「%」は質量基準である。
また、以下において、「水」は、特に断りがない限り、イオン交換水を意味する。
【0158】
〔樹脂Xの水分散液の準備〕
樹脂Xの水分散液として、
樹脂Xとしての樹脂粒子E1(詳細には、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂を含む複合粒子)の水分散液、
樹脂Xとしてのアクリル樹脂粒子AC1の水分散液、及び
樹脂Xとしてのアクリル樹脂粒子AC2の水分散液を、
それぞれ準備した。
【0159】
<樹脂粒子E1の水分散液>
樹脂粒子E1(詳細には、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂を含む複合粒子)の水分散液として、高松油脂社製のペスレジンA-615GEを準備した。
【0160】
<アクリル樹脂粒子AC1の水分散液>
アクリル樹脂粒子AC1の水分散液を調製した。以下、詳細を示す。
攪拌機及び冷却管を備えた1000mLの三口フラスコに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(62質量%水溶液、東京化成工業社製)3.0g及び水377gを加え、窒素雰囲気下で90℃に加熱した。加熱された三口フラスコ中の混合溶液に、水20gに2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウムの50質量%水溶液(Aldrich社製)9.0gを溶解した溶液Aと、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(富士フイルム和光純薬社製)12.5g、アクリル酸ベンジル(東京化成工業社製)27.0g、及びスチレン(富士フイルム和光純薬社製)6.0gを混合した溶液Bと、水40gに過硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)6.0gを溶解した溶液Cと、を3時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、さらに3時間反応させることにより、アクリル樹脂粒子AC1の水分散液(アクリル樹脂粒子AC1の固形分量:10.1質量%)500gを合成した。
アクリル樹脂粒子AC1のアクリル樹脂の重量平均分子量は、149000であった。
【0161】
<アクリル樹脂粒子AC2の水分散液>
アクリル樹脂粒子AC2の水分散液を調製した。以下、詳細を示す。
攪拌機及び冷却管を備えた1000mLの三口フラスコに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(62質量%水溶液、東京化成工業社製)3.0g及び水376gを加え、窒素雰囲気下で90℃に加熱した。加熱された三口フラスコ中の混合溶液に、水20gに2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウムの50質量%水溶液(Aldrich社製)11.0gを溶解した溶液Aと、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(富士フイルム和光純薬社製)12.5g、メタクリル酸ブチル(富士フイルム和光純薬社製)17.0g、及びスチレン(富士フイルム和光純薬社製)15.0gを混合した溶液Bと、水40gに過硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)6.0gを溶解した溶液Cと、を3時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、さらに3時間反応させることにより、アクリル樹脂粒子AC2の水分散液(特定樹脂1の固形分量:10.1質量%)500gを合成した。
アクリル樹脂AC2の重量平均分子量は、126000であった。
【0162】
<ウレタン樹脂粒子U1の水分散液>
ウレタン樹脂粒子U1の水分散液として、第一工業製薬社製のスーパーフレックス620を準備した。
【0163】
〔実施例1〕
<前処理液の調製>
下記組成の前処理液を調製した。
【0164】
-前処理液の組成-
・凝集剤(富士フイルム和光純薬(株)製のグルタル酸;有機酸)
… 4質量%
・樹脂Xとしての樹脂粒子E1
… 樹脂粒子E1の固形分量として8質量%
・1,2-プロパンジオール(富士フイルム和光純薬(株)製)(水溶性溶剤)
… 3質量%
・消泡剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、TSA-739(15質量%)、エマルジョン型シリコーン消泡剤)
… 消泡剤の固形分量として0.01質量%
・オルフィンE1010(日信化学(株)製)(界面活性剤)
… 0.1質量%
・水
… 全体で100質量%となる残量
【0165】
<シアンインクの調製>
下記組成のシアンインクを調製した。
【0166】
-シアンインクの組成-
・CAB-O-JET450C(Cabot社製、シアン顔料分散液、顔料濃度:15質量%)
… 固形分量として2.4質量%
・1,2-プロパンジオール(富士フイルム和光純薬社製)(水溶性溶剤)
… 20質量%
・オルフィンE1010(日信化学工業社製)(界面活性剤)
… 1質量%
・下記のアクリル樹脂粒子IA-1(樹脂粒子)
… 樹脂粒子の量として8質量%
・スノーテックス(登録商標)XS(日産化学社製、コロイダルシリカ)
… シリカの固形分量として0.06質量%
・水
… 全体で100質量%となる残量
【0167】
(アクリル樹脂粒子IA-1の水分散液の調製)
上記シアンインクの組成中のアクリル樹脂粒子IA-1は、以下のようにして作製した。
撹拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン560.0gを仕込んで87℃まで昇温した。次いで反応容器内の還流状態を保ちながら(以下、反応終了まで還流状態を保った)、反応容器内のメチルエチルケトンに対し、メチルメタクリレート220.4g、イソボルニルメタクリレート301.6g、メタクリル酸58.0g、メチルエチルケトン108g、及び「V-601」(富士フイルム和光純薬社製の重合開始剤;ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート))2.32gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、1時間撹拌した後に、この1時間撹拌後の溶液に対し、下記工程(1)の操作を行った。
工程(1) … 「V-601」1.16g及びメチルエチルケトン6.4gからなる溶液を加え、2時間撹拌を行った。
【0168】
続いて、上記工程(1)の操作を4回繰り返し、次いで、さらに「V-601」1.16g及びメチルエチルケトン6.4gからなる溶液を加えて3時間撹拌を続けた(ここまでの操作を、「反応」とする)。
反応終了後、溶液の温度を65℃に降温し、イソプロパノール163.0gを加えて放冷することにより、メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸(=38/52/10[質量比])共重合体を含む重合溶液(固形分濃度41.0%)を得た。
上記共重合体は、重量平均分子量(Mw)が63000であり、酸価が65.1(mgKOH/g)であった。
【0169】
次に、得られた重合溶液317.3g(固形分濃度41.0質量%)を秤量し、ここに、イソプロパノール46.4g、20%無水マレイン酸水溶液1.65g(水溶性酸性化合物、共重合体に対してマレイン酸として0.3質量%相当)、及び2モル/LのNaOH水溶液40.77gを加え、反応容器内の液体の温度を70℃に昇温した。
次に、70℃に昇温された溶液に対し、蒸留水380gを10ml/分の速度で滴下し、水分散化を行った(分散工程)。
その後、減圧下、反応容器内の液体の温度を70℃で1.5時間保つことにより、イソプロパノール、メチルエチルケトン、及び蒸留水を合計で287.0g留去した(溶剤除去工程)。得られた液体に対し、プロキセルGXL(S)(アーチ・ケミカルズ・ジャパン社製)を0.278g(ポリマー固形分に対してベンゾイソチアゾリン-3-オンとして440ppm)添加した。
得られた液体を、1μmのフィルターでろ過し、ろ液を回収することにより、固形分濃度26.5質量%のアクリル樹脂粒子IA-1の水分散液を得た。
アクリル樹脂粒子IA-1のガラス転移温度(Tg)は120℃であり、体積平均粒径は10nmであった。
実施例1では、このアクリル樹脂粒子IA-1の水分散液を用い、シアンインク中に、樹脂粒子の量として8質量%のアクリル樹脂粒子IA-1を含有させた。
【0170】
<樹脂基材Aの準備>
樹脂基材Aとして、フタムラ化学社製の二軸延伸ポリプロピレン(OPP)基材「FOR-AQ」を準備した。
この「FOR-AQ」は、厚さ25μm、幅580mm、長さ2000mのOPP基材がロール状に巻き取られたロール体である。
以下、このOPP基材を、「樹脂基材O1」とし、上記ロール体を「ロール体1」とする。
樹脂基材O1の歪み率(a1)は、0.18%であった。
【0171】
(画像記録装置の準備)
評価に用いる画像記録装置として、前述した一例に係る、
図2に示す画像記録装置を準備した。
前処理液付与装置P1としては、グラビアコーターを用いた。
前処理液付与装置P1とインク付与装置IJ1との間に、前処理液を乾燥させるゾーン(乾燥方法は温風乾燥)を設けた。
この画像記録装置内には、テンションコントローラー(三菱電機社製「LE-40MTA」)を組み込み、これにより、後述する画像記録において、張力S1、張力S2、及び張力S3を制御した。
更に、この画像記録装置内には、張力S1、張力S2、及び張力S3を測定するためのテンションメーター(ニレコ社製「CJ200」)を組み込み、これにより、後述する画像記録において、張力S1、張力S2、及び張力S3を測定した。
【0172】
インク付与装置IJ1におけるインクジェットヘッド及びインク吐出条件は、以下のとおりとした。
・インクジェットヘッド:1200dpi(dot per inch、1inchは2.54cm)/20inch幅ピエゾフルラインヘッド(全ノズル数2048)を用いた。
・インク滴量:2.0pLとした。
・駆動周波数:30kHzとした。
【0173】
乾燥ゾーンD1における乾燥方法は、温風乾燥とした。
冷却ゾーンC1における冷却方法は、空冷とした。
【0174】
(画像記録)
上記画像記録装置における巻き出し装置W1にロール体1をセットし、この画像記録装置における前処理液付与装置P1に上述の前処理液をセットした。
次に、巻き出し装置W1により、ロール体1から樹脂基材A(OPP基材)を巻き出し、巻き出された樹脂基材Aを搬送速度635mm/秒にて搬送した。
搬送される樹脂基材Aの搬送経路の全域において、樹脂基材Aに対し、10N/mの張力が印加されるように調整した。即ち、巻き出し装置W1から乾燥ゾーンD1の直前までの部分の張力S1、乾燥ゾーンD1の直前から冷却ゾーンC1の直前までの部分の張力S2、及び、冷却ゾーンC1の直前から巻き取り装置W2までの部分張力S3が、いずれも10N/mとなるように調整した。
【0175】
搬送中の樹脂基材Aの片面全体に対し、前処理液を前処理液付与装置P1としてのグラビアコーターで1.5g/m2(液体塗布量;乾燥塗布量として0.1g/m2~0.2g/m2)となるように塗布し、塗布された前処理液を、不図示の前処理液乾燥ゾーンにて、膜面温度が60℃となる条件で、温風で8秒間乾燥させた。
前処理液の塗布及び乾燥が施された樹脂基材Aの、前処理液の塗布及び乾燥が施された領域の一部に、インク付与装置IJ1により、上述のシアンインクをインクジェット法によってベタ画像状に付与し、未乾燥のシアンベタ画像を得た。
ここで、シアンインクを付与する領域は、樹脂基材A1の全幅580mmのうち、幅方向中央部を中心とする幅250mmの帯状の領域とした。この際、シアンインクを付与する領域における、単位面積当たりのシアンインクの付与質量は、3.5g/m2とした。
【0176】
次に、インク付与装置IJ1から搬送された樹脂基材Aにおけるベタ画像を、乾燥ゾーンD1において、到達温度(温度Td)が60℃となり、乾燥時間(即ち、加熱開始から冷却開始までの時間)が8秒となる条件にて加熱し、乾燥させた。
次に、乾燥ゾーンD1から搬送された樹脂基材Aにおけるベタ画像(即ち、乾燥後のベタ画像)を、25℃(温度Tr)となるまで冷却した。
ベタ画像の冷却後、樹脂基材A(即ち、樹脂基材A上にベタ画像が記録されている画像記録物)を巻き取り装置W2にて巻き取った。
巻き取られた画像記録物を、以下、「ロール体2」とする。
上記ロール体2を25℃で1時間放置した。
【0177】
以上により、樹脂基材A上の、上述した幅250mmの帯状の領域全体に、シアンベタ画像を記録した。
シアンベタ画像の厚さ(即ち、前処理液に由来する層及びシアンインクに由来する層の総厚)は2μmであり、前処理液に由来する層の厚さは0.15μmであった。シアンベタ画像の厚さ及び前処理液に由来する層の厚さは、シアンベタ画像の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって倍率10000倍で観察することにより測定した。
【0178】
<E(Td)の測定>
上記樹脂Xの水分散液を用い、前述した方法により、E(Td)を測定した。
結果を表1に示す。
【0179】
<ε(Td)の測定>
上記樹脂基材Aを用い、前述した方法により、ε(Td)を測定した。
結果を表1に示す。
【0180】
<σdryの算出>
E(Td)及びε(Td)に基づき、式(2)により、σdryを算出した。
結果を表1に示す。
【0181】
<E(T)、αr(T)、及びαs(T)の測定>
上記樹脂Xの水分散液及び上記樹脂基材Aを用い、温度Tr以上温度Td以下の範囲を0.1℃間隔で分割した各温度Tについて、それぞれ、前述した方法により、E(T)、αr(T)、及びαs(T)を測定した。
結果の表記は省略する。
【0182】
<σ
coolの算出>
上記各温度Tにおける、E(T)、α
r(T)、及びα
s(T)の結果から、上記各温度Tにおける「E(T)(α
r(T)-α
s(T))」を求めた。
得られた「E(T)(α
r(T)-α
s(T))」に基づき、式(3)により、σ
coolを求めた。
具体的には、温度Tと「E(T)(α
r(T)-α
s(T))」との関係を示すグラフを作成し、得られたグラフの曲線と、温度T
rを示す直線と、温度T
dを示す直線と、「E(T)(α
r(T)-α
s(T))」が0である直線と、によって囲まれた面積を求め、得られた面積を、σ
coolとした。
結果を表1に示す。
実施例1における上記グラフを、
図1に示す。
【0183】
<σtotalの算出>
上記σdry及び上記σcoolに基づき、式(1)により、σtotalを算出した。
結果を表1に示す。
【0184】
<画像の密着性の評価>
上記25℃で1時間放置したロール体2から画像記録物を巻き出し、巻き出された画像記録物におけるシアンベタ画像上に、セロテープ(登録商標、No.405、ニチバン社製、幅12mm、以下、単に「テープ」ともいう。)のテープ片を貼り付け、次いでテープ片をシアンベタ画像から剥離することにより、画像の密着性を評価した。
テープの貼り付け及び剥離は、具体的には、下記の方法により行った。
一定の速度でテープを取り出し、75mmの長さにカットし、テープ片を得た。
得られたテープ片をシアンベタ画像に重ね、テープ片の中央部の幅12mm、長さ25mmの領域を指で貼り付け、指先でしっかりこすった。
テープ片を貼り付けてから5分以内に、テープ片の端をつかみ、できるだけ60°に近い角度で0.5秒~1.0秒で剥離した。
剥離したテープ片における付着物の有無と、樹脂基材A上のシアンベタ画像の剥がれの有無と、を目視で観察し、下記評価基準に従い、画像の密着性を評価した。
結果を表1に示す。
【0185】
-画像の密着性の評価基準-
5: テープ片に付着物が認められず、樹脂基材A上の画像の剥がれも認められない。
4: テープ片に若干の色付きの付着物が認められたが、樹脂基材A上の画像の剥がれは認められない。
3: テープ片に若干の色付きの付着物が認められ、樹脂基材A上の画像に若干の剥がれが認められるが、実用上許容できる範囲内である。
2: テープ片に色付きの付着物が認められ、樹脂基材A上の画像に剥がれも認められ、実用上許容できる範囲を超えている。
1: テープ片に色付きの付着物が認められ、樹脂基材A上の画像がほとんど剥がれ、樹脂基材Aが視認される。
【0186】
〔実施例2~15、比較例1~4〕
樹脂基材Aの種類、樹脂Xの種類、張力S1、張力S2、張力S3、温度Td、及び温度Trの組み合わせを、表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0187】
樹脂基材Aとしての樹脂基材N1は、ユニチカ社製の同時二軸延伸ナイロン基材「エンブレム(登録商標)ON-15」(厚さ15μm、幅580mm、長さ2000mのナイロン基材がロール状に巻き取られたロール体)である。樹脂基材N1の歪み率(a1)は、-0.26%であった。
樹脂基材Aとしての樹脂基材HDPEは、フタムラ化学社製の一軸延伸高密度ポリエチレン基材「PE3K-BT」(厚さ23μm、幅580mm、長さ2000mの基材がロール状に巻き取られたロール体)である。樹脂基材HDPEの歪み率(a1)は、0.23%であった。
【0188】
【0189】
表1に示すように、σtotalが40kgf/cm2以下である実施例1~15では、σtotalが40kgf/cm2超である比較例1~4と比較して、樹脂基材Aに対する画像の密着性に優れていた。
σtotalが30kgf/cm2以下である場合には、樹脂基材Aに対する画像の密着性がより向上することが確認された。
【0190】
以上、インクとして、シアンインクを用いた実施例群について説明したが、これらの実施例群において、シアンインクをシアンインク以外のインク(例えば、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク等)に変更した場合、又は、シアンインクに加えてシアンインク以外のインクの少なくとも1つを用いて多色の画像を記録した場合にも、上述した実施例群と同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0191】
2019年7月25日に出願された日本国特許出願2019-137000号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。