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特許7133812ビンブラスチンを増量させるためのニチニチソウの処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】ビンブラスチンを増量させるためのニチニチソウの処理方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20220902BHJP
   F21V 9/08 20180101ALI20220902BHJP
   F21Y 101/00 20160101ALN20220902BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20220902BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20220902BHJP
   F21Y 103/00 20160101ALN20220902BHJP
【FI】
A01G7/00 601C
F21V9/08
F21Y101:00 300
F21Y115:30
F21Y115:10
F21Y103:00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019001243
(22)【出願日】2019-01-08
(65)【公開番号】P2020014451
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2018131677
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593171592
【氏名又は名称】学校法人玉川学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】大橋 敬子
(72)【発明者】
【氏名】藤川 康夫
(72)【発明者】
【氏名】鶴本 智大
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-252229(JP,A)
【文献】特表2007-511202(JP,A)
【文献】特開2007-89430(JP,A)
【文献】特開2004-121228(JP,A)
【文献】特表2017-529076(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/165167(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01H 1/00-17/00
A23L 19/00-19/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニチニチソウ(Catharanthus roseus)の全体又は少なくとも葉部を含む部分に、370nm以上400nm以下の波長域の光を、該ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるに効果的な量で照射する一方、該照射の間に該ニチニチソウに照射される200nm以上370nm未満の波長域の光の照射量を前記370nm以上400nm以下の波長域の光の照射量の20%未満とすることを特徴とするニチニチソウの処理方法。
【請求項2】
前記370nm以上400nm以下の波長域の光がニチニチソウの葉部に照射される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記200nm以上370nm未満の波長域の光の照射量が、前記370nm以上400nm以下の波長域の光の照射量の10%未満である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記370nm以上400nm以下の波長域の光の照度が0.5W/m2以上500W/m2以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記370nm以上400nm以下の波長域の光の照度が5W/m2以上150W/m2以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記370nm以上400nm以下の波長域の光の照射時間が1時間以上480時間以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記370nm以上400nm以下の波長域の光の照射時間が24時間以上168時間以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるに効果的な量が150kJ/m2以上150000kJ/m2以下の照射量である請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるに効果的な量が2000kJ/m2以上30000kJ/m2以下の照射量である請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記370nm以上400nm以下の波長域の光がピーク波長385±10nm及び半値幅0.5nm以上20nm以下の波長スペクトルを有する光である請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記370nm以上400nm以下の波長域の光が発光ダイオード又はレーザダイオードを光源とする光である請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法により処理したニチニチソウからビンブラスチンを抽出及び/又は精製することを特徴とするビンブラスチンの取得方法。
【請求項13】
主として370nm以上400nm以下の波長域の光を発出することができ、200nm以上370nm未満の波長域の光の放射量が前記370nm以上400nm以下の波長域の光の放射量の20%未満である光源と、
ニチニチソウに対する370nm以上400nm以下の波長域の光の照度が0.5W/m2以上500W/m2以下となるか又は該光の照射量が150kJ/m2以上150000kJ/m2以下となるように前記光源を制御する制御部と
を備え、ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるために用いることを特徴とする照明装置。
【請求項14】
ニチニチソウの植物体の全体又は少なくとも葉部を含む部分を収容する容器と、
前記容器中のニチニチソウに370nm以上400nm以下の波長域の光を照射するための第1の光源であって、370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する一方、200nm以上370nm未満の波長域の光の放射量が370nm以上400nm以下の波長域の光の放射量の20%未満である第1の光源と、
前記容器中のニチニチソウに対する370nm以上400nm以下の波長域の光の照度が0.5W/m2以上500W/m2以下となるか又は該光の照射量が150kJ/m2以上150000kJ/m2以下となるように前記第1の光源を制御する第1の制御部と、
前記容器中のニチニチソウに赤色光を含んでなる光を照射するための第2の光源と、
前記容器中のニチニチソウに対する光合成有効放射束密度(PPFD)が100μmol/m2/s以上400μmol/m2/s以下となるように前記第2の光源を制御する第2の制御部と
を備えることを特徴とする、ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビンブラスチンを増量させるためのニチニチソウの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニチニチソウ(Catharanthus roseus)(特に、その葉)に含まれるビンブラスチンは、抗悪性腫瘍剤又は抗癌剤として利用されている。
しかし、ニチニチソウが天然に含有するビンブラスチンの量は極めて少ない(乾燥重量当たり0.01wt%のオーダー)ため、ニチニチソウからの(抽出・精製による)取得には大量のニチニチソウを必要とし、高コストとなっている。
ニチニチソウは、ビンブラスチンの合成前駆体であるビンドリン及びカタランチンを、ビンブラスチンより多く含有している。そこで、ニチニチソウから抽出したこれら前駆体を用いてビンブラスチンを合成する方法(半合成法)が考案され、更に、合成に際して紫外(UV)光を照射することでビンブラスチン収量を高める技術も提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
例えば、特許文献1は、カタラチンとビンドリンとの反応に際してUV/可視スペクトル内の光(好ましくは254nmより大きい、特に400nmより大きい波長の光)を照射することにより、ビンブラスチンを効率的に生成する方法を記載している。同文献の実施例において用いられた光は、波長λ>400nmの光、λ>345nmの光及びλ>360nmの光である。
特許文献2は、ビンドリンとカタランチンとを酸性水溶液中で波長180~400nm(主に、254、265、297及び366nm)のUV光照射下に反応させることにより、生成されるビンブラスチンの収率を高めることが可能であることを記載している。
【0004】
他方で、ニチニチソウの植物体又は培養物において、紫外線ランプなどの近紫外(UVA)光の照射により、ビンブラスチン含量を増加させ得ることが知られている(特許文献3、非特許文献1、2)。
例えば、特許文献3は、400nm以下の近紫外部の光照射下、あるいは通常の培養に用いている光に近紫外部の光を補強した条件でニチニチソウの茎葉器官培養を行い、アルカロイド含量の高い株を得るニチニチソウの器官培養法を記載している。
非特許文献1は、ピーク波長370nmの近紫外光の照射下で、マルチプルシュート培養物中のビンブラスチンレベルが上昇することを記載している。
非特許文献2は、UVA光(ピーク波長370nmの人工光や自然光のうち290nm~380nmの波長域の光)がニチニチソウの完全植物体において二量体インドールアルカロイドの合成を刺激することを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第WO99/62912号
【文献】国際公開第WO89/12056号
【文献】特開平01-252229号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. Ferment. Bioeng., 74(4): 222-225, 1992
【文献】Planta Med., 59(1): 46-50, 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、UVA光照射によりニチニチソウ中のビンブラスチン量が増加することは知られている。しかし、前述のような先行技術においては、紫外光として、幅広な波長の光が用いられている。例えば、特許文献2において特に挙げられた主ピーク波長は、用いた水銀ランプ(幅広の波長域スペクトルを有するもの)の紫外光領域内のピーク波長に相当するものと推測される。
よって、紫外光のうち、ニチニチソウにおけるビンブラスチンの増量に真に寄与する波長域を特定することができれば、特定された波長の光を用いることで、ニチニチソウ中のビンブラスチンを効率的及び/又は飛躍的に増量させることができ、結果として、ビンブラスチン及びその誘導体を比較的低コストで提供することが可能となる。
このように、ニチニチソウ中のビンブラスチン量を効率的に増加させることのできる方法が依然として望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ニチニチソウにおいてビンブラスチンの増量に寄与する波長を鋭意検討した結果、特定の波長域の光がニチニチソウにおけるビンブラスチン増量に顕著に有効である一方、該波長域外の波長の光はビンブラスチン増量にほとんど寄与しないことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、ニチニチソウの全体又は少なくとも葉部を含む部分に、370nm以上400nm以下の波長域の光を、該ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるに効果的な量で照射する一方、該照射の間に該ニチニチソウに照射される200nm以上370nm未満の波長域の光の照射量を前記370nm以上400nm以下の波長域の光の照射量の20%未満とすることを特徴とするニチニチソウの処理方法が提供される。
本発明によれば、また、上記処理方法により処理したニチニチソウにからビンブラスチンを抽出及び/又は精製することを特徴とするビンブラスチンの取得方法が提供される。
【0010】
本発明によれば、更に、主として370nm以上400nm以下の波長域の光を発出することができ、200nm以上370nm未満の波長域の光の放射量が前記370nm以上400nm以下の波長域の光の放射量の20%未満である光源と;ニチニチソウに対する370nm以上400nm以下の波長域の光の照度が0.5W/m2以上500W/m2以下となるか又は該光の照射量が150kJ/m2以上150000kJ/m2以下となるように前記光源を制御する制御部と を備え、ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるために用いることを特徴とする照明装置が提供される。
【0011】
本発明によれば、更に、ニチニチソウの植物体の全体又は少なくとも葉部を含む部分を収容する容器と、前記容器中のニチニチソウに370nm以上400nm以下の波長域の光を照射するための第1の光源であって、370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する一方、200nm以上370nm未満の波長域の光の放射量が370nm以上400nm以下の波長域の光の放射量の20%未満である第1の光源と、前記容器中のニチニチソウに対する370nm以上400nm以下の波長域の光の照度が0.5W/m2以上500W/m2以下となるか又は該光の照射量が150kJ/m2以上150000kJ/m2以下となるように前記第1の光源を制御する第1の制御部と、前記容器中のニチニチソウに赤色光を含んでなる光を照射するための第2の光源と、前記容器中のニチニチソウに対する光合成有効放射束密度(PPFD)が100μmol/m2/s以上400μmol/m2/s以下となるように前記第2の光源を制御する第2の制御部と を備えることを特徴とする、ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるための装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ニチニチソウにおいてビンブラスチン合成量の増加に顕著に有効な特定波長域の光を比較的高い照射量で照射することができる一方、専ら有害なより短い波長の光への曝露による組織への悪影響を回避できるため、ニチニチソウ中のビンブラスチンの効率的及び/又は飛躍的な増量が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例(実験1~3)で用いたLEDの発光スペクトルを示す。
図2】種々の波長のLED光(5W/m2)を5日間照射したニチニチソウ(リーフディスク)中のビンブラスチン量を示す。サンプル数:n=1~2。「ND」はビンブラスチン濃度が検出限界以下であったこと示す。
図3】種々の照度でLED光(ピーク波長:385nm)を5日間照射したニチニチソウ(リーフディスク)中のビンブラスチン量を示す。「Cont.」は白色蛍光灯のみの照射であることを表す。
図4】LED光(ピーク波長:385nm;50W/m2)を種々の期間照射したニチニチソウ(リーフディスク)中のビンブラスチン量を示す。
図5】LED光(ピーク波長:385nm;50W/m2)を種々の期間照射したニチニチソウ(リーフディスク)中のビンブラスチン合成率を示す。
図6】実施例(実験4及び5)で用いたLED及びLDの発光スペクトルを示す。
図7】ピーク波長375nm又は396nmのLED光(50W/m2)を5日間照射したニチニチソウ(リーフディスク)中のビンブラスチン量を示す。
図8】ピーク波長375nmのLED光(50W/m2)又はピーク波長376nmのLD光(50W/m2)を5日間照射したニチニチソウ(リーフディスク)中のビンブラスチン量を示す。
図9】実験3で用いたニチニチソウ(リーフディスク)中のビンブラスチン量(A)及びビンクリスチン量(B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、或る観点からは、ニチニチソウの処理方法であって、ニチニチソウの全体又は少なくとも葉部を含む部分に、370nm以上400nm以下の波長域の光を、該ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるに効果的な量で照射する一方、該照射の間に該ニチニチソウに照射される200nm以上370nm未満の波長域の光の照射量を前記370nm以上400nm以下の波長域の光の照射量の20%未満とすることを特徴とする方法を提供する。
換言すれば、本発明は、ニチニチソウ中のビンブラスチンの増量方法であって、ニチニチソウに、370nm以上400nm以下の波長域の光を照射する一方で、該照射の間に該ニチニチソウに照射される200nm以上370nm未満の波長域の光の照射量を前記370nm以上400nm以下の波長域の光の照射量の20%未満とすることを特徴とする方法を提供する。
本発明は、別の観点からは、ビンブラスチンの含有量が増加したニチニチソウを生産する方法であって、ニチニチソウに、370nm以上400nm以下の波長域の光を照射する一方で、該照射の間に該ニチニチソウに照射される200nm以上370nm未満の波長域の光の照射量を前記370nm以上400nm以下の波長域の光の照射量の20%未満とすることを特徴とする方法を提供する。
【0015】
本発明は、後述する実施例により示されるとおり、波長域約370nm~約400nm付近の光がニチニチソウにおけるビンブラスチンの増量に顕著に有効である一方、波長370nm未満の紫外光及び波長400nmを超える光はニチニチソウにおいてビンブラスチンの増量に寄与しないという新たな知見に基づく。波長370nm未満の光のような短波長光が植物組織に損傷を与え得る(よって、ビンブラスチンの収量が低下し得る)ことを考慮すれば、本発明によれば、ニチニチソウにおけるビンブラスチンの増量に有効な特定の波長/波長域の光を効果的/効率的に照射することが可能となり、その結果、ニチニチソウ中のビンブラスチンを効率的及び/又は飛躍的に増量させることができる。
【0016】
本発明において、ニチニチソウには、ビンブラスチンの増量に有効である特定波長域の光、すなわち370nm以上400nm以下、より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下の波長域の光を照射する。
370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の照度は、照射したニチニチソウ中でビンブラスチンを増量させるに効果的な量であれば限定されないが、例えば0.2W/m2以上500W/m2以下、好ましくは0.5W/m2以上500W/m2以下、より好ましくは1W/m2以上500W/m2以下、より好ましくは1W/m2以上300W/m2以下、より好ましくは3W/m2以上200W/m2以下、より好ましくは5W/m2以上150W/m2以下、より好ましくは10W/m2以上150W/m2以下、より好ましくは20W/m2以上100W/m2以下、より好ましくは25W/m2以上80W/m2以下、より好ましくは25W/m2以上50W/m2以下である。0.2W/m2未満の場合や500W/m2を超える場合には、ニチニチソウ中のビンブラスチンの増量を効率的に達成できないことがある。
【0017】
370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の照射時間は、照射したニチニチソウ中でビンブラスチンを増量させるに効果的な時間であれば限定されないが、例えば1時間以上480時間以下、好ましくは1時間以上320時間以下、より好ましくは1時間以上168時間以下、より好ましくは24時間以上168時間以下、より好ましくは36時間以上160時間以下である。1時間未満の場合や480時間を超える場合には、ニチニチソウ中のビンブラスチンの増量を効率的に達成できないことがある。
370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光は、連続光であってもよいし、間欠光(例えば、パルス光)であってもよい。
【0018】
例えば、ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるに効果的な量は、下限が150、300、600、1200、2000、2500、3000、4500、6000、7000又は8000kJ/m2の照射量であり得、上限が150000、90000、60000、45000、30000、25000、20000又は15000kJ/m2の照射量であり得る。照射量が50kJ/m2未満の場合や300000kJ/m2を超える場合には、ニチニチソウ中のビンブラスチンの増量を効率的に達成できないことがある。ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるに効果的な量は、具体的には、150 kJ/m2以上150000 kJ/m2以下、好ましくは150 kJ/m2以上90000 kJ/m2以下、より好ましくは150 kJ/m2以上60000 kJ/m2以下、より好ましくは300 kJ/m2以上60000 kJ/m2以下、より好ましくは600 kJ/m2以上60000 kJ/m2以下、、より好ましくは1200 kJ/m2以上60000 kJ/m2以下、より好ましくは1200 kJ/m2以上45000 kJ/m2以下、より好ましくは2000 kJ/m2以上45000 kJ/m2以下、より好ましくは2000kJ/m2以上30000kJ/m2以下、より好ましくは2500kJ/m2以上30000kJ/m2以下、より好ましくは2500kJ/m2以上25000kJ/m2以下、より好ましくは3000kJ/m2以上25000kJ/m2以下、より好ましくは4500kJ/m2以上25000kJ/m2以下、より好ましくは6000kJ/m2以上25000kJ/m2以下、より好ましくは7000kJ/m2以上25000kJ/m2以下の照射量であり得る。
【0019】
370nm以上400nm以下の特定波長域の光は、単独でニチニチソウに照射してもよく、当該特定波長域以外の波長/波長域の光を含む光としてニチニチソウに照射してもよい。ニチニチソウに照射する光が、200nm以上370nm未満の波長域の光を含む場合、200nm以上370nm未満の波長域の光の照射量は、370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の照射量の20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、好ましくは2%未満、好ましくは1%未満となるようにする。ニチニチソウにビンブラスチン増量に有効な波長/波長域の光を照射する一方で、ビンブラスチン増量に寄与せず、植物組織に(例えば枯死に至る)悪影響を与え得るより短波長/波長域の光の照射量を低減することにより、収量/生産性の観点から効率的にニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させる(換言すれば、ビンブラスチン含有量が増加した多数のニチニチソウを得る)ことができる。
【0020】
他方、405nm付近の波長の光は、上記特定の波長域に近接する波長を有するにもかかわらず、ビンブラスチンの増量にほぼ全く寄与しない。よって、エネルギー効率性の観点から、370nm以上400nm以下の波長域の光は、主として370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する光源からの光であることが好ましい。
本明細書において、「主として370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する光源」とは、発出される370nm以上400nm以下の波長域の光の放射量が、発出される全波長域の光の放射量の50%以上、より具体的には60%以上、より具体的には70%以上、より具体的には80%以上である光源をいう。主として370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する光源からの200nm以上370nm未満の波長域の光の放射量は、好ましくは、370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には、375nm以上395nm以下)の波長域の光の照射量の20%未満であり、より好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、より好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満である。主として370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する光源からの400nmを超え430nm以下の波長域の光の放射量は、370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には、375nm以上395nm以下)の波長域の光の放射量の40%未満であることがエネルギー効率性の観点から更に好ましく、より好ましくは30%未満、より好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満である。
主として370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する光源は、好ましくは、シングルピークを370nm以上400nm以下の波長域に有する光源である。
【0021】
370nm以上400nm以下の波長域の光は、少なくとも赤色光(より具体的には、波長が例えば600nm以上700nm以下の波長域の光)を含んでなる光(例えば、赤単色光又は白色光)との組合せでニチニチソウに照射してもよい。赤色光は、ビンブラスチン合成の前駆体であるビンドリン及びカタランチンの合成を促進するため、370nm以上400nm以下の波長域の光に加えてニチニチソウに照射することにより、ニチニチソウ中のビンブラスチン量が更に増加し得る。特定の実施形態において、370nm以上400nm以下の波長域の光は、少なくとも赤色光を含んでなる光と同時にニチニチソウに照射する。
少なくとも赤色光を含んでなる光は、例えば、50μmol/m2/s以上500μmol/m2/s以下、より具体的には100μmol/m2/s以上400μmol/m2/s以下の光合成有効放射束密度(PPFD)でニチニチソウに照射し得る。
【0022】
370nm以上400nm以下の波長域の光が、少なくとも赤色光を含んでなる光と共にニチニチソウに照射される場合、370nm以上400nm以下の波長域の光は、少なくとも赤色光を含んでなる光を発出する光源と同じ光源から発出してもよいし、異なる光源から発出してもよい。
或る具体的実施形態においては、370nm以上400nm以下の波長域の光は、主として370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する光源(第1の光源)からニチニチソウに照射され、少なくとも赤色光を含んでなる光は、主として赤色光を発出する光源及び/又は白色光光源(第2の光源又は第2及び第3の光源)からニチニチソウに照射される。本明細書において、「主として赤色光を発出する光源」とは、発出される赤色光の放射量が、発出される全波長域の光の放射量の50%以上、より具体的には60%以上、より具体的には70%以上、より具体的には80%以上である光源をいう。
【0023】
ニチニチソウに370nm以上400nm以下の波長域の光を照射するために用い得る光源としては、当該波長域の光を照射できるものであれば特に制限されず、例えば、UVランプなどの一般に使用される紫外光光源を用いることができる。UVランプとしては、例えば、メタルハライドランプや高圧水銀ランプを用いることが好ましい。また、太陽光から光学フィルターなどにより取り出した光を用いてもよい。
用いる光源が、370nm以上400nm以下の波長域の光とともに200nm以上370nm未満の波長域の光を、その放射量が370nm以上400nm以下の波長域の光の放射量の20%以上で発出するものである場合には、370nm以上400nm以下の波長域の光に対する透過率が200nm以上370nm未満の波長域の光に対する透過率より大きいフィルターを併せて用いてもよい。
【0024】
エネルギー効率の観点から、370nm以上400nm以下の波長域の光は、主ピーク波長を、例えば385±10nm内に、より好ましくは385±5nm内、より好ましくは385±2nm内に有する光として照射される。第2ピークは存在しないか(すなわちシングルピーク)、存在してもその強度が主ピークの1/10以下であることが好ましい。
主ピーク(波長が370nm以上400nm以下のもの)の半値幅は0.5nm以上15nm以下であることが好ましい。主ピークの半値幅が15nm以下であることにより、ニチニチソウ中のビンブラスチンの増量に寄与しない(専ら有害であり得る)より短い波長域の光のニチニチソウへの照射を回避しつつ、ニチニチソウ中のビンブラスチンの増量に顕著に有効な波長域の光の照射(すなわち、選択的照射)が可能となることに加え、エネルギー効率も更に向上する。主ピークの半値幅が0.5nm未満の光も、本発明に使用可能であるが、費用対効果の観点から、主ピークの半値幅が0.5nm以上の光を用いることが現時点では好ましい。好適な具体的実施形態においては、ニチニチソウに照射される光はピーク波長385±5nm及び半値幅0.5nm以上15nm以下の波長スペクトルを有する光である。
【0025】
ニチニチソウに370nm以上400nm以下の波長域の光を照射するために用いる光源としては、発光スペクトルにおいてシングルピークを有する発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)が特に好ましい。光源としてLED又はLDを用いる場合、ニチニチソウ中のビンブラスチンの増量に寄与しない(専ら有害であり得る)より短い波長域の光のニチニチソウへの照射を回避しつつ、ニチニチソウ中のビンブラスチンの増量に有効な波長域の光の照射が容易に実現可能となる。また、LED又はLDの使用は、エネルギー集約性、低発熱性、低消費電力や長寿命に起因して、エネルギー効率及び経済性の観点からも好ましい。加えて、照射量の制御/管理が容易になる。
370nm以上400nm以下の波長域の光を発することができるLEDは、例えばInGaN系材料やAlInGaN系材料を用いたものであり得る。このようなLEDの具体例としては、型式:NVSU233BU385(中心波長385nm;日亜化学工業)が挙げられる。また、LDの具体例としては、型式:NDU4116(中心波長375nm;日亜化学工業)が挙げられる。
【0026】
主として赤色光を発出する光源は、当該波長域の光を照射できるものであれば特に制限されず、例えば、赤色蛍光灯、赤色灯、高圧ナトリウムランプ、赤色LEDなどの植物栽培に用いられる任意の赤色光源を用いることができる。
白色光光源は、植物栽培に用いられる任意の白色光源、例えば、白熱電灯、白色蛍光灯、白色灯、白色メタルハライドランプ、太陽光を用いることができる。
【0027】
本明細書において、ニチニチソウ(Catharanthus roseus)は、キョウチクトウ科ニチニチソウ属ニチニチソウ種に属するものであれば特に限定されず、任意の品種(原種、変種、栽培/園芸品種)であり得る。
ニチニチソウは遺伝子操作されていてもよく、例えば、ビンブラスチン合成系に関与する酵素、ビンブラスチンの合成前駆体であるカタラチンの輸送に関与するタンパク質やUVA領域に感受性を有する光受容体の遺伝子が操作されていてもよい。
【0028】
ニチニチソウは、370nm以上400nm以下の波長域の光の照射に際して、植物体全体の形態であってもよいし、シュート又は葉部のような植物体の部分からなる形態であってもよく、また培養物(例えば、葉茎器官培養物、カルス培養物)の形態であってもよい。ニチニチソウは、収量の観点から、好ましくは、少なくとも葉を有する植物体である。
370nm以上400nm以下の波長域の光の照射時のニチニチソウが植物体全体の形態である場合、栽培状態にあってもよいし、非栽培状態(根を通じた栄養供給がない状態)であってもよい。ここで、栽培は土壌栽培であってもよいし、養液栽培(例えば、水耕栽培や固形培地耕)であり得る。養液栽培は無菌下で行うことができる点で好ましい。
【0029】
370nm以上400nm以下の波長域の光の照射時のニチニチソウは、生存状態にある限り、収穫された植物体又はその部分であり得る。本明細書において、ニチニチソウについて「生存状態にある」とは、ビンブラスチン合成系が機能している状態をいう。
ニチニチソウの植物体の部分(特には、葉を含む部分)は裁断されていてもよい。裁断方法は任意の方法が可能であるが、裁断面はシャープであることが好ましく、裁断面積が大きくなるように裁断することがより好ましい。この実施形態によれば、ビンブラスチン増量に顕著に有効な波長の光の(ビンブラスチンを比較的多く含む葉組織への)効率的な照射及び/又は大量処理が可能となるため、ビンブラスチン増量を更に効率的に達成することができる。
本発明による370nm以上400nm以下の波長域の光の照射を、非栽培状態のニチニチソウの植物体又はその部分(好ましくは裁断された部分)に対して行う場合、老化の防止及び/又は光源からの受熱の低減の観点から、当該植物体又は部分は水中に配置されているか又は水を噴霧されていることが好ましい。水は、任意の水であり得るが、純水が好ましい。水には、添加物として、例えば、殺菌目的のアルコール、水揚げ向上のための界面活性剤、抗菌/静菌のための食酢やクエン酸などの酸、エネルギー源としての糖、ビタミン、無機塩など、植物老化ホルモン阻害剤などを加えてもよい。
【0030】
本発明による370nm以上400nm以下の波長域の光の照射時のニチニチソウは、いずれの生育段階のものであってもよいが、収量の観点からは成植物体又はその部分であることが好ましい。
ニチニチソウが栽培又は培養状態にある場合、本発明による370nm以上400nm以下の波長域の光の照射は、明期及び暗期のいずれに行なってもよいが、ビンブラスチン増量に寄与する合成前駆体の供給という観点から、明期に行うことが好ましい。
【0031】
ニチニチソウの栽培又は培養は、露地栽培であってもよいし、制御環境下での栽培又は培養であってもよい。制御される環境条件には、例えば、明暗周期、温度、湿度、自然光及び/又は人工光の照射量、二酸化炭素濃度が含まれる。これら条件は、用いるニチニチソウの栽培/成長に適するものであれば特に制限されない。
明暗周期は、栽培するニチニチソウ及び生育段階に応じて適切に選択することができる(例えば明期14~18時間の長日条件、又は例えば明期6~10時間の短日条件)。人工光の光源としては、従来使用されている白熱電灯、蛍光灯、白色灯、高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、LEDなどを用いることができる。人工光は、栽培するニチニチソウ及び成長段階などに応じて適宜設定されるPPFDで照射される。PPFDは、例えば50μmol/m2/s以上500μmol/m2/s以下、より具体的には100μmol/m2/s以上400μmol/m2/s以下であり得る。
温度は例えば20~30℃であり得、湿度は例えば50~80%であり得る。
二酸化炭素濃度は例えば約1000~1500ppmであり得る。
肥料/液肥は、栽培するニチニチソウに応じて適切に選択することができる。一般には、肥料/液肥は、窒素、リン、カリウムを含む。
【0032】
本明細書において、「ビンブラスチンの増量」又は「ビンブラスチン(の)含有量の増加」又は「ビンブラスチン量の増加」とは、本発明による370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の照射を行っていないニチニチソウと比較して、ビンブラスチン量が増加していること、例えば非照射ニチニチソウ中のビンブラスチン量の2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上、より好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上、より好ましくは30倍以上、より好ましくは40倍以上、より好ましくは50倍以上に増加していることをいう。
ビンブラスチンの定量は、公知の方法のいずれを用いて行ってもよく、例えばクロマトグラフィーにより行うことができる。クロマトグラフィーとしては液体クロマトグラフィー(例えばHPLC)が挙げられる。液体クロマトグラフィーは逆相クロマトグラフィーであり得る。
【0033】
別の観点から、本発明に従う370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の照射により、非照射のものと比較して、ビンブラスチン量が2倍以上、例えば3倍以上、より好ましくは4倍以上、より好ましくは5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上、より好ましくは30倍以上、より好ましくは40倍以上、より好ましくは50倍以上であるニチニチソウを生産することができる。よって、この観点から、本発明は、ニチニチソウに、370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光を照射する一方で、該照射の間に該ニチニチソウに照射される200nm以上370nm未満の波長域の光の照射量を前記370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の照射量の20%未満とすることを特徴とする、ビンブラスチンの含有量が増加したニチニチソウを生産する方法を提供する。
本発明のニチニチソウ生産方法によれば、ニチニチソウからのビンブラスチンの抽出効率が飛躍的に高まる。結果として、ビンブラスチンを安価に提供することもできる。
本発明のニチニチソウ生産方法に関しては、本発明のニチニチソウの処理方法(すなわち、ビンブラスチン増量方法)について上述した事項の全てが全て当てはまる。
【0034】
本発明の上記方法により生産されたニチニチソウは、ビンブラスチン又はその塩を生産するための原料として好適である。
したがって、本発明は、ビンブラスチン又はその塩の製造方法であって、
ニチニチソウに、370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光を照射する工程であって、該照射の間に該ニチニチソウに照射される200nm以上370nm未満の波長域の光の照射量が前記370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の照射量の20%未満である、工程
該ニチニチソウからビンブラスチン又はその塩を取得する工程
を含んでなることを特徴とする方法も提供する。
【0035】
ニチニチソウに、370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光を照射する一方で、該照射の間に該ニチニチソウに照射される200nm以上370nm未満の波長域の光の照射量を前記370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の照射量の20%未満とすることにより、上述のとおり、ビンブラスチンの含有量が増加したニチニチソウを効率的に生産/取得することができる。
本発明のニチニチソウ生産工程に関しては、本発明のビンブラスチン増量方法について上述した事項の全てが全て当てはまる。
【0036】
ビンブラスチンの塩は、例えば、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、酒石酸塩又はクエン酸塩であり得、好ましくは硫酸塩である。
ニチニチソウからのビンブラスチン又はその塩の取得工程は、例えば、抽出により行うことができる。抽出は、公知の方法のいずれかにより行なうことができ、例えば溶媒抽出又は超臨界抽出による。
溶媒抽出に用いる溶媒は、公知の有機溶媒から適宜選択することができる。有機溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、n-若しくはイソ-プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン、ヘキサン、トルエン、ベンゼンなどが挙げられる。有機溶媒には酸が加えられていてもよい。酸は、例えば、塩酸、硫酸、ギ酸、酢酸、リン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸又は過塩素酸であり得る。酸は、有機溶媒に、例えば0.1~10%、好ましくは1~3%の重量比で含まれ得る。
抽出は加温(例えば80~90℃)及び/又は加圧下で行なってもよい。抽出は還流抽出であってもよい。抽出時間は特に制限されず、抽出効率の観点から適切に決定できる。
【0037】
抽出には、ニチニチソウの植物体全体を用い得るが、少なくとも葉を含む植物体の部分であってもよい。ビンブラスチンは葉に多く含まれるため、効率性の観点から、抽出には葉を用いることが好ましい。植物体(全体又は部分)は、そのまま抽出に用いてもよいが、粉砕して用いてもよい。抽出又は粉砕の前に、植物を乾燥及び/又は凍結させてもよい。乾燥は、任意の方法によるが、例えば、熱風乾燥、常温乾燥、減圧乾燥又は凍結乾燥であり得る。
抽出液は、例えば、夾雑物を除去するため、適切なフィルターにより濾過してもよく、遠心分離に供されてもよい。
ビンブラスチンの具体的抽出法は、例えば、米国特許第4,749,787号明細書に記載されている。
【0038】
得られた抽出物から、ビンブラスチンを精製してもよい。
精製は、例えばクロマトグラフィーにより行なうことができる。クロマトグラフィーは例えばカラムクロマトグラフィー(特にHPLC)であり得、逆相モードで行うことが好ましい。
カラムクロマトグラフィーに用いるカラムは、分離モードに応じて公知のものから適宜選択できる。逆相クロマトグラフィーには、一般にはオクタデシル化シリカゲル(ODS)カラム(C18カラムとも呼ばれる)を用い得るがこれに限定されない。
【0039】
クロマトグラフィー(例えば、グラジエント法)では、溶離液として、水、極性有機溶媒、又はこれらの混合溶媒(水と1以上の極性有機溶媒との混合溶媒、2以上の極性有機溶媒の混合溶媒)を用いることができる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-若しくはイソ-プロパノール、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、テトラヒドロフランが挙げられる。溶離液には、トリフルオロ酢酸、ギ酸、酢酸、リン酸、トリクロロ酢酸などの酸を、例えば0.01~10M加えてもよい。
流速は特に限定されないが、例えば0.1~2ml/分であり得る。
ビンブラスチンの検出は、例えば250~300nmでの吸光度の測定により行うことができる。
ニチニチソウからビンブラスチンを単離する具体的方法は、例えば、米国特許第4,749,787号明細書に記載されている。
【0040】
本発明の上記方法により生産されたビンブラスチン又はその塩は、医薬品その他の工業製品の原料として用いることができる。よって、本発明によれば、生産されたビンブラスチンを医薬品その他の工業製品の原料として安価に提供することができる。
本発明の上記方法により生産されたビンブラスチン又はその塩はまた、ビンクリスチンやビンデシンなどのビンブラスチン誘導体又はその塩を(半)合成するための原材料としても好適である。
【0041】
したがって、本発明は、下記式(1):
【化1】
(1)
で表されるビンブラスチン誘導体又はその塩の製造方法であって、
ニチニチソウに、370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光を照射する工程であって、該照射の間に該ニチニチソウに照射される200nm以上370nm未満の波長域の光の照射量が前記370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の照射量の20%未満である工程、
該ニチニチソウからビンブラスチン又はその塩を取得する工程、及び
該ビンブラスチン又はその塩を化学的に修飾して前記ビンブラスチン誘導体又はその塩を合成する工程
を含むことを特徴とする方法も提供する。
【0042】
式(1)において、
n個のRは各々独立して、ハロゲン(好ましくはフッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選択されるハロゲン)、C1~C4(好ましくはC1~C3、より好ましくはC1~C2)のアルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルオキシカルボニル若しくはアルキルチオ、アリール(好ましくは置換を有していてもいなくてもよいフェニル)、シアノ、ニトロ、又はホルミルであり、
nは0~4の整数であり、好ましくは0~3の整数であり、より好ましくは0~2の整数であり、より好ましくは0又は1の整数であり;
1及びR3は各々独立して、C1~C4(好ましくはC1~C3、より好ましくはC1~C2)のアルキルオキシカルボニル、アミノカルボニル、メチルアミノカルボニル又はヒドラジノカルボニルであり、好ましくはCH3OCO-又はNH2CO-であり;
2は水素、メチル又はホルミルであり、好ましくはメチル又はホルミルであり、
4は水素又はC1~C4(好ましくはC1~C3、より好ましくはC1~C2)アルキルカルボニルであり、好ましくは水素又はCH3CO-である。
【0043】
式(1)で表されるビンブラスチン誘導体の具体例は、ビンクリスチン若しくはビンデシン又はそれらの塩であり得る。
前記ビンブラスチン誘導体の塩は、薬学的に受容可能な塩であれば特に制限されず、例えば塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、酒石酸塩又はクエン酸であり得、好ましくは硫酸塩である。
【0044】
本発明のビンブラスチン誘導体又はその塩の製造方法におけるニチニチソウからビンブラスチン又はその塩を取得する工程に関しては、本発明のビンブラスチン又はその塩の製造方法について上述した事項の全てが全て当てはまる。
化学的修飾は、例えば、脱アセチル化、酸化、エステル基若しくはカルボキシル基のアミド基への置換、及び/又はエステル交換などであり得る。化学的修飾の具体的方法は、例えば、Molecules 17, 5893-5914, 2012や米国特許第4,203,898号に記載されている。
本発明のビンブラスチン誘導体又はその塩の製造方法におけるニチニチソウ生産工程に関しては、本発明のビンブラスチン増量方法について上述した事項の全てが全て当てはまる。
【0045】
本発明はまた、
主として370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光を発出することができ、200nm以上370nm未満の波長域の光の放射量が前記370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の放射量の20%未満である光源と、
ニチニチソウに対する370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の照度が0.5W/m2以上500W/m2以下となるか又は該光の照射量が150kJ/m2以上150000kJ/m2以下となるように前記光源を制御する制御部と
を備え、ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるために用いることを特徴とする照明装置に関する。
本発明の照明装置は、上述した、本発明に係るニチニチソウの処理方法(又は本発明に係るニチニチソウ中のビンブラスチンの増量方法)、ビンブラスチンの含有量が増加したニチニチソウの生産方法、ビンブラスチン又はその塩の製造方法、及びビンブラスチン誘導体又はその塩の製造方法(以下、まとめて「本発明の方法」と呼ぶ)における使用に好適である。
【0046】
主として370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光を発出する光源については、本発明の方法に関して上述した事項の全てが当てはまる。
この光源は、200nm以上370nm未満(好ましくは100nm以上370nm未満、より好ましくは10nm以上370nm未満、さらに好ましくは1nm以上370nm未満)の波長域の光の放射量が、370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の放射量の20%未満であり、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、より好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満である光源である。
幾つかの実施形態において、この光源は、エネルギー効率性の観点から、好ましくは、400nmを超え430nm以下の波長域の光の放射量が、前記370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には、375nm以上395nm以下の波長域)の波長域の光の40%未満、より好ましくは30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満である光源である。より具体的に実施形態において、この光源は、シングルピークを370nm以上400nm以下の波長域に有する光源である。
主として370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する光源の好適な具体例としては、LED若しくはLD又は(必要なフィルター(上記参照)を備えた)メタルハライドランプ若しくは高圧水銀ランプ等が挙げられるが、LED又はLDがより好ましく、ピーク波長を375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下の波長域に有するLED又はLDがより好ましく、ピーク波長385±5nm及び半値幅0.5nm以上15nm以下の波長スペクトルを有するLED又はLDがより好ましい。
本発明の照明装置は、主として370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する光源を1つのみ有していてもよく、複数有していてもよい。後者の場合(複数有する場合)、光源は、LDやLEDのアレイ又はLEDクラスタとして提供され得る。
【0047】
制御部は、ニチニチソウに対する370nm以上400nm以下(より具体的には375nm以上396nm以下、より具体的には375nm以上395nm以下)の波長域の光の照度が0.5W/m2以上500W/m2以下(より好ましくは0.5W/m2以上100W/m2以下、より好ましくは0.5W/m2以上50W/m2以下)となるか又は該光の照射量が150kJ/m2以上150000kJ/m2以下(より好ましくは1200kJ/m2以上60000kJ/m2以下、より好ましくは2000kJ/m2以上30000kJ/m2以下)となるように前記光源を制御する。より具体的には、制御部は光源の調光を制御し、加えて光源の点灯及び消灯のタイミングを制御してもよい。制御部は、例えば、パルス幅変調回路又はパルス幅変調回路及びタイマーであり得、例えばマイコン、リレー及び/又はスイッチング素子などで構成され得る。例えば、タイマーは、光源の点灯時間を8~16時間又は1時間以上、例えば1時間以上480時間以下、より具体的には24時間以上168時間以下に設定し得る。
【0048】
また、本発明の照明装置は、主として370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する光源(第1の光源)に加えて、少なくとも赤色光(より具体的には、波長が例えば600nm以上700nm以下の波長域の光)を含んでなる光を発出する光源(第2の光源)を更に備えていてもよい。第2の光源は、例えば、白熱電灯、白色又は赤色蛍光灯、白色又は赤色灯、高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、赤色LED、太陽光などであり得る。この場合、本発明の照明装置は更に、第2の光源の調光並びに/又は点灯及び消灯のタイミングを制御する第2の制御部を備えていてもよいし、第1の制御部が第2の光源を制御してもよい。
第2の光源からの光は、PPFDが、例えば、50μmol/m2/s以上500μmol/m2/s以下、より具体的には100μmol/m2/s以上400μmol/m2/s以下であり得る。本発明の照明装置は、第2の光源を1つのみ有していてもよく、複数有していてもよい。
或る実施形態において、本発明の照明装置は、複数の第1の光源としてのLED又はLDと、複数の第2の光源としてのLED又はLDとから構成されるLED若しくはLDアレイ又はLEDクラスタを備え得る。
【0049】
本発明の照明装置は、上記本発明の方法において、ニチニチソウに、370nm以上400nm以下の波長域の光を照射する一方で、該照射の間に該ニチニチソウに照射される200nm以上370nm未満の波長域の光の照射量を前記370nm以上400nm以下の波長域の光の照射量の20%未満とすることに好適に用いられる。
本発明の照明装置は、ニチニチソウの植物体(特に葉)に対して370nm以上400nm以下の波長域の光を照射可能な態様であれば任意の態様で(例えば、ニチニチソウの上方、下方、側方、斜上方及び/又は斜下方に)設置し得る。
本発明の照明装置は、栽培状態のニチニチソウに対しても、非栽培状態又は収穫後のニチニチソウに対しても使用し得、したがって、例えば、植物栽培施設や植物工場などで使用されてもよいし、収穫後のニチニチソウの保管施設や、ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるための専用施設内などで使用されてもよい。
【0050】
本発明はまた、
ニチニチソウの植物体の全体及び/又はその部分を収容する容器と、
前記容器中のニチニチソウに370nm以上400nm以下の波長域の光を照射するための第1の光源であって、370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する一方、200nm以上370nm未満の波長域の光の放射量が370nm以上400nm以下の波長域の光の放射量の20%未満である第1の光源と、
前記容器中のニチニチソウに対する370nm以上400nm以下の波長域の光の照度が0.5W/m2以上500W/m2以下となるか又は該光の照射量が150kJ/m2以上150000kJ/m2以下となるように前記第1の光源を制御する第1の制御部と、
前記容器中のニチニチソウに赤色光を含んでなる光を照射するための第2の光源と、
前記容器中のニチニチソウに対する光合成有効放射束密度(PPFD)が50μmol/m2/s以上500μmol/m2/s以下となるように前記第2の光源を制御する第2の制御部と
を備えることを特徴とする、ニチニチソウ中のビンブラスチンを増量させるための装置を提供する。
【0051】
前記容器は、ニチニチソウの植物体の全体及び/又はその部分(好ましくは葉を含む部分)(以下、単に「ニチニチソウ」と呼ぶ)を収容できる内部空間を有するものであれば特に限定されず、例えば、少なくとも1つの開口部を有するタンク形状、ドラム形状であり得、開口部は例えば蓋などにより閉鎖可能であってもなくてもよい。開口部は容器の任意の位置(例えば、容器の上部又は側部に)に設けられていてもよい。
容器は直立状態に設置されていてもよいし、傾斜状態で設置されていてもよい。或いは、容器は、直立状態及び傾斜状態(垂直に対して0°~90°)のいずれもとり得るように支持機構に支持されていてもよい。
容器は、その内部に水を貯留可能な構造であってもよく、及び/又は、容器中のニチニチソウに水を供給する水供給部を備えていてもよい。水供給部は、任意のタイプのものあり得、例えば、水を注ぎ込むタイプや噴霧するタイプのものであり得る。水供給部はまた、その途中に濾過機構を有する水循環機構であってもよい。水循環機構にはポンプが含まれ得る。
容器は、その内部に収容したニチニチソウを撹拌するように、該容器自体が回転してもよいし(回転軸:垂直に対して0°(垂直軸)~90°(水平軸))、撹拌機構が取り付けられていてもよい。撹拌機構は、例えば、回転翼又はバブリング機構(バブリングガス:例えば、ドライエアやCO2ガス)であり得る。
【0052】
第1の光源については、本発明の方法に関連して「主として370nm以上400nm以下の波長域の光を発出する光源」について上述した事項の全てが当てはまる。第1の光源は、好ましくはLED又はLDであり、より好ましくはピーク波長385±10nm及び半値幅5nm以上20nm以下の波長スペクトルを有する光を発出するLED又はLDである。
第2の光源については、本発明の方法に関連して「少なくとも赤色光を含んでなる光」について上述した事項の全てが当てはまる。第2の光源は、例えば、白熱電灯、白色又は赤色蛍光灯、白色又は赤色灯、高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、赤色LED、太陽光である。
第1及び第2の光源は、容器中のニチニチソウに対して所定の光を照射可能な態様であれば任意の態様で設置し得る。例えば、第1及び第2の光源は、所定の光が容器の開口部からニチニチソウに照射されるように設けられ得る。
第1及び第2の制御部については、本発明の照明装置に関して上述した事項の全てが当てはまる。
【0053】
本発明のビンブラスチン増量装置は、例えば、温度調節器、pH調整器、O2及び/又はCO2供給器を備えていてもよく、容器内部の環境をモニターするセンサを更に備えていてもよい。センサは、例えば、水温センサ、pHセンサ、導電センサ、吸光度センサ、ガスセンサ(例えばO2及び/又はCO2センサ)であり得る。本発明のビンブラスチン増量装置は、これらセンサからの情報に基いて、容器内部の環境を所定の条件に自動的に維持するように構成されていてもよい。
【実施例
【0054】
<実験1>
ニチニチソウ(園芸種「タイタン」ピュアホワイト)を下記条件で水耕栽培した。
<水耕栽培条件>
白色蛍光灯:100μmol/m2/s
明/暗周期:16時間/8時間
室温:23℃
水耕液:OATハウスA処方(pH:6.0;EC:1.0ds/m)
【0055】
播種から40~60日後、ニチニチソウから葉を採取した。採取した葉を35mm角に裁断してリーフディスクを作成した。
超純水(pH:6.3;EC:0.005ds/m)に浸した状態で、リーフディスクに下記の光を5日間照射した(明/暗周期:16時間/8時間;室温:23℃)。白色蛍光灯とLED光は同時に照射した。
白色蛍光灯(150μmol/m2/s)のみ
白色蛍光灯(150μmol/m2/s)+LED光(ピーク波長:280nm;5W/m2)
白色蛍光灯(150μmol/m2/s)+LED光(ピーク波長:310nm;5W/m2)
白色蛍光灯(150μmol/m2/s)+LED光(ピーク波長:365nm;5W/m2)
白色蛍光灯(150μmol/m2/s)+LED光(ピーク波長:385nm;5W/m2)
白色蛍光灯(150μmol/m2/s)+LED光(ピーク波長:405nm;5W/m2)
【0056】
各波長のLED光の照射に用いたLEDの型式は次のとおりである。
<LED型式>
・280nm:NCSU234BU280 半値幅10nm Deep UV-LED
・310nm:NCSU234BU310 半値幅10nm Deep UV-LED
・365nm:NCSU276AU365 半値幅9nm UV-LED
・385nm:NVSU119CU385 半値幅11nm UV-LED
・405nm:NVSU119CU405 半値幅12nm UV-LED
各LEDの発光スペクトルを図1に示す。
【0057】
光照射後、各リーフディスクを凍結粉砕し、メタノールで溶媒抽出した。得られた抽出液を下記の分析条件でLC-MS/MS分析に供して抽出液中のビンブラスチンを定量した。比較のために、光を照射しなかったリーフディスクについても同様に分析した。
<LC-MS/MS分析条件>
・LC system ACQUITY UPLC system(Waters)
・カラム ODSカラム(ACQUITY UPLC BEH C18(2.1×150mm, 1.7μm), Waters)
・カラム温度 40℃
・流速 0.3ml/分
・注入量 5μl
・移動相 溶媒A:0.1%ギ酸水溶液;溶媒B:アセトニトリル
時間(分) 0 7 9 14 14.5 19.8
溶媒B(%) 20% 30% 95% 95% 20% 20%
・検出器 SYNAPT HDMS(Waters, Q-TOF-MS)
【0058】
結果:
LC-MS/MS分析により得られたビンブラスチン量を図2に示す。
波長が385nm付近の光を照射したニチニチソウにおいては、ビンブラスチン量は、光を照射しなかったニチニチソウ(図中の「0day」)と比較して約66倍増加した。
白色蛍光灯の光又は波長が280、310、365若しくは405nm付近の光を照射したニチニチソウにおいては、ビンブラスチン量は、光を照射しなかったニチニチソウと比較して同等又はそれ以下であった。
【0059】
この結果から、ニチニチソウにおけるビンブラスチン量の増加には、385nm付近の光の照射が有効である一方、白色光並びに280、310、365及び405nm付近の光の照射はビンブラスチン量の増加に寄与しないことが理解できる。
【0060】
<実験2>
実験1と同様に作成したリーフディスクに、超純水(pH:6.3;EC:0.005ds/m)に浸した状態で、白色蛍光灯(150μmol/m2/s)のみ(コントロール)又は白色蛍光灯(150μmol/m2/s)+LED光(ピーク波長:385nm)を種々の照度(5、25、50及び150W/m2)で5日間照射した(明/暗周期:16時間/8時間;室温:23℃)。白色蛍光灯とLED光は同時に照射した。用いたLEDの型式はNVSU119CU385 半値幅11nm UV-LEDである。
光照射後、実験1と同様に、各リーフディスクから抽出されたビンブラスチンをLC-MS/MS分析により定量した。
【0061】
結果:
得られたビンブラスチン量を図3(μg/g乾燥重量)及び表1(重量%)に示す。
【表1】
【0062】
図3及び表1から明らかなように、波長が385nm付近の光を5日間照射したニチニチソウにおいては、5W/m2~150W/m2の照度(1440~43200mol/m2の照射量)でビンブラスチン量の顕著な増加が確認された。特に、照度25~50W/m2(照射量7200~14400mol/m2)のとき、ビンブラスチン量は、白色光のみを照射したニチニチソウ(「Cont.」)と比較して約220~約370倍増加した(乾燥重量あたりのビンブラスチン含有率:約0.32%~約0.54%)。
【0063】
<実験3>
実験1と同様に作成したリーフディスクに、超純水(pH:6.3;EC:0.005ds/m)に浸した状態で、白色蛍光灯(150μmol/m2/s)のみ(コントロール)又は白色蛍光灯(150μmol/m2/s)+LED光(ピーク波長:385nm;50W/m2)を種々の期間(1時間、並びに1、3、5、7、10及び15日間)照射した(明/暗周期:16時間/8時間;室温:23℃)。白色蛍光灯とLED光は同時に照射した。用いたLEDの型式はNVSU119CU385 半値幅11nm UV-LEDである。
光照射後、各リーフディスクを凍結粉砕し、メタノールで溶媒抽出した。得られた抽出液をLC-MS/MS分析及びHCLP分析に供して抽出液中のそれぞれビンブラスチン並びにビンドリン及びカタランチンを定量した。LC-MS/MS分析条件は実験1で用いた条件と同じである。HCLP分析条件は下記のとおりである。
【0064】
<HCLP分析条件>
・カラム:ODSカラム(Triart C18 (150×4.6mm, S-5μm)、YMC)
・カラム温度:40℃
・流速:1ml/分
・注入量:5μl
・移動相:溶離液A 0.1%ギ酸水溶液
溶離液B 0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
・検出:190~800nm
【0065】
結果:
得られたビンブラスチン量を図4(μg/g乾燥重量)及び表2(重量%)に示す。
【表2】
【0066】
図4及び表2から明らかなように、波長が385nm付近の光を50W/m2の照度で照射したニチニチソウにおいては、1時間~15日間(360時間)の照射時間で(約180~43200 kJ/m2の照射量で)、ビンブラスチン量の顕著な増加が確認された。特に、3~7日間(72~168時間)の照射期間(約8640~20160kJ/m2の照射量)のとき、ビンブラスチン量は、白色光のみを照射したニチニチソウ(「Cont.」)と比較して約240~約290倍増加した(乾燥重量あたりのビンブラスチン含有率:約0.32%~約0.39%)。
【0067】
LC-MS/MS分析により得られたビンブラスチン量並びにHCLP分析により得られたビンドリン量及びカタランチン量から算出したビンブラスチン合成率(=ビンブラスチン量/(ビンブラスチン量+ビンドリン量+カタラチン量))を図5に示す。
図5から明らかなように、波長が385nm付近の光を50W/m2の照度で照射したニチニチソウにおいては、ビンブラスチン合成率は、5日間の照射時間(約14400 kJ/m2の照射量)まで上昇し、その後ほぼ一定であることが確認された。
なお、10日間又は15日間照射されたリーフディスクでは変色が観察された。この変色は短波長光を長時間照射したことによるものと考えられる。
【0068】
<実験4>
実験1と同様に作成したリーフディスクに、超純水(pH:6.3;EC:0.005ds/m)に浸した状態で、下記の光を5日間照射した(明/暗周期:16時間/8時間;室温:23℃)。白色蛍光灯とLED光は同時に照射した。
白色蛍光灯(150μmol/m2/s)のみ(コントロール)
白色蛍光灯(150μmol/m2/s)+LED光(ピーク波長:375nm;50W/m2)
白色蛍光灯(150μmol/m2/s)+LED光(ピーク波長:396nm;50W/m2)
各波長の光照射に用いたLEDの型式は、ピーク波長375nmについては、NVSU119CU375 半値幅9nm UV-LEDであり、ピーク波長396nmについては、NVSU119CU395 半値幅12nm UV-LEDである。各LEDの発光スペクトルを図6に示す。
光照射後、実験1と同様に、各リーフディスクから抽出されたビンブラスチンをLC-MS/MS分析により定量した。
【0069】
結果:
得られたビンブラスチン量を図7及び表3に示す。
【表3】
【0070】
図7及び表3から明らかなように、波長が375nm付近及び396nm付近の光を照射したニチニチソウにおいても、ビンブラスチン量の顕著な増加が確認された。特に、波長が375nm付近の光を照射したとき、ビンブラスチン量は、白色光のみを照射したニチニチソウ(「Cont.」)と比較して約800倍増加した(乾燥重量あたりのビンブラスチン含有率:約1.09%)。
この結果から、ニチニチソウにおけるビンブラスチン量の増加には、370nm以上400nm以下(より具体的には波長375nm以上396nm以下)の波長域内の光の照射が有効であることが確認された。
【0071】
<実験5>
実験1と同様に作成したリーフディスクに、超純水(pH:6.3;EC:0.005ds/m)に浸した状態で、下記の光を5日間照射した(明/暗周期:なし[連続照射];室温:25℃)。
白色蛍光灯(150μmol/m2/s)のみ(コントロール)
LED光(ピーク波長:375nm;50W/m2)
LD光(ピーク波長:376nm;50W/m2)
LED光の照射に用いた発光ダイオードの型式はNVSU119CU375 半値幅9nm UV-LEDであり、LD光の照射に用いたレーザダイオードスロットモジュールの型式はNUU102Eである。用いたLED及びLDスロットモジュールの発光スペクトルを図6に示す。
光照射後、実験1と同様に、各リーフディスクから抽出されたビンブラスチンをLC-MS/MS分析により定量した。
【0072】
結果:
得られたビンブラスチン量を図8及び表4に示す。
【表4】
【0073】
図8及び表4から明らかなように、LD光を照射したニチニチソウにおいても、LED光を照射したニチニチソウと同様に、ビンブラスチン量の顕著な増加が確認された。LD光照射により、ニチニチソウ中のビンブラスチン量は、白色光のみの照射(「Cont.」)と比較して約280倍増加した(乾燥重量あたりのビンブラスチン含有率:約0.38%)。
この結果から、光源の種類に関わらず、本発明所定の波長域(370nm以上400nm以下)内の光を照射することにより、ニチニチソウにおけるビンブラスチン量が顕著に増加することが確認された。
【0074】
<実験6>
実験3において、コントロール並びに照射時間1日及び3日のニチニチソウから得られたリーフディスクを用いて、LC-MS/MS分析によりビンクリスチンを定量した。LC-MS/MS分析条件は実験1で用いた条件と同じである。

結果:
LC-MS/MS分析により得られたビンブラスチン量及びビンクリスチン量を図9に示す。
図9から明らかなように、特定波長の光を照射したニチニチソウにおいて、ビンブラスチン量が多いほどビンクリスチン量も増加している。
この結果から、本発明所定の波長域(370nm以上400nm以下)内の光の照射は、ニチニチソウにおけるビンクリスチン量の増加にも有効であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9