(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】積層フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20220902BHJP
B32B 27/06 20060101ALI20220902BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/06
(21)【出願番号】P 2017051480
(22)【出願日】2017-03-16
【審査請求日】2019-12-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2016070404
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【氏名又は名称】阿部 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 豊
【合議体】
【審判長】久保 克彦
【審判官】柳本 幸雄
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/029795(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B9/00
B32B27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材上に、ガスバリア層と無機ポリマー層とが少なくとも積層された積層フィルムであって、
無機ポリマー層表面の算術平均高さ(Sa)が
1.3nm以下であり、
無機ポリマー層は、ポリシラザンを含む組成物の硬化物からなる層であり、
試料室内に無機ポリマー層を含む積層フィルムを収容し、試料室内に25℃、85%RHの加湿空気を流通させながら、試料室内を85℃、1時間加熱したときの無機ポリマー層単位質量当たりのNH
3ガス発生量が
550質量ppm以下である積層フィルム。
【請求項2】
無機ポリマー層におけるNH
3ガス発生量が
200質量ppm以下である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記ガスバリア層は、珪素原子、酸素原子及び炭素原子を含有し、且つ、
該ガスバリア層の膜厚方向における該ガスバリア層の表面からの距離と、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の量の比率(珪素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示す珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(i)~(iii)を全て満たす珪素酸化物系の層である請求項1又は2に記載の積層フィルム。
(i)珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該ガスバリア層の膜厚の90%以上の領域において下記式(1):
(酸素の原子比)>(珪素の原子比)>(炭素の原子比) ・・・(1)
で表される条件を満たすこと。
(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有すること。
(iii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であること。
【請求項4】
前記ガスバリア層は、珪素原子、酸素原子及び窒素原子を含有し、且つ、
該ガスバリア層が、下記条件(iv)及び(v)を全て満たす珪素酸化物系の層である請求項1又は2に記載の積層フィルム。
(iv)前記ガスバリア層が、樹脂基材側から酸素含有比率の異なる第2の薄膜層、第1の薄膜層、第3の薄膜層を有し、第1の薄膜層の、珪素原子、酸素原子及び窒素原子の平均組成が、10at%≦Si≦40at%、5at%≦O≦30at%、50at%≦N≦80at%の範囲にあること。
(v)前記第2及び第3の薄膜層の窒素原子及び珪素原子の元素比率が下記式(2)の範囲にあること。
N/Si≦0.2 ・・・(2)
【請求項5】
樹脂基材と、ガスバリア層と、無機ポリマー層とが少なくともこの順で積層されている請求項1~4のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項6】
樹脂基材上に、ガスバリア層と無機ポリマー層とが少なくとも積層された積層フィルムの製造方法であって、
前記ガスバリア層を化学気相成長法で形成する工程と、
前記ガスバリア層上に、前記無機ポリマー層を、ポリシラザンを含む組成物を硬化することで形成する工程と、
を有し、
無機ポリマー層表面の算術平均高さ(Sa)が
1.3nm以下であり、
試料室内に無機ポリマー層を含む積層フィルムを収容し、試料室内に25℃、85%RHの加湿空気を流通させながら、試料室内を85℃、1時間加熱したときの無機ポリマー層単位質量当たりのNH
3ガス発生量が
550質量ppm以下である、積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記無機ポリマー層を形成する工程において、前記ポリシラザンを含む組成物を波長200nm以下の真空紫外光の照射により硬化することで前記無機ポリマー層を形成する、請求項6記載の積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光素子として有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」とも言う)が注目されている。有機EL素子は、支持基板上において有機化合物の発光層を電極で挟んだ構造を有し、電極間に電流を供給することで発光する素子である。有機EL素子は、素子内部に酸素ガスや水蒸気等が侵入すると劣化し、ダークスポットと呼ばれる発光不良部が生じてしまう。そのため、有機EL素子の分野では、素子内部に酸素ガス及び水蒸気が侵入することを抑制するために、その発光素子部の支持基板に水蒸気等のガス透過防止性能の高い基板を利用することが提案されている。
【0003】
有機EL素子に利用されるガス透過防止性能を有する基板としては、例えば、基材と、その表面上に形成された珪素、酸素及び炭素を含有する薄膜層とを備えるガスバリア性の積層フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された積層フィルムは、水蒸気に対して高いガス透過防止性能を得ることができる。しかしながら、近年では積層フィルムに対して更に高い水準の水蒸気透過防止性能が求められており、特に、有機EL素子等の電子デバイスの支持基板として使用した場合に、長期間に亘ってダークスポットの発生を抑制できる積層フィルムの開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水蒸気の透過を高水準で防止することができ、有機EL素子等の電子デバイスの支持基板として使用した場合に、長期間に亘ってダークスポットの発生を抑制することができる積層フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、樹脂基材上に、ガスバリア層と無機ポリマー層とが少なくとも積層された積層フィルムであって、上記無機ポリマー層表面の算術平均高さ(Sa)が20nm以下であり、試料室内に上記無機ポリマー層を含む積層フィルムを収容し、試料室内に25℃、85%RHの加湿空気を流通させながら、試料室内を85℃、1時間加熱したときの無機ポリマー層単位質量当たりのNH3ガス発生量が5000質量ppm以下である、積層フィルムを提供する。
【0008】
上記積層フィルムによれば、算術平均高さ(Sa)及びNH3ガス発生量が上記範囲内である無機ポリマー層を備えることにより、無機ポリマー層自身のガスバリア性を付加しつつ、ガスバリア層に存在するクラック又はビアホール等の欠陥を補うことができ、水蒸気の透過をより高水準で防止することが可能になるとともに、無機ポリマー層がガスバリア層を保護するため、有機EL素子等の電子デバイスの支持基板として使用した場合に、電子デバイス製造時のプロセス耐性及び得られた電子デバイスの長期保存時の安定性を飛躍的に高めることができ、長期間に亘ってダークスポットの発生を抑制することが可能となる。そして、これらの効果は、無機ポリマー層の算術平均高さ(Sa)及びNH3ガス発生量が上記範囲内であることで、充分に得ることができる。ここで、NH3ガス発生量が多いと、積層フィルムの水蒸気透過防止性に悪影響を及ぼすとともに、積層フィルムを用いて電子デバイスを製造する際及び製造後の保管時等に、NH3ガス発生の影響により欠陥等が生じやすくなる。また、上記NH3ガス発生量は、無機ポリマー層中に存在しているものの、高温高湿環境下で無機ポリマー層から放出されやすい窒素原子の量の指標となる。すなわち、上記NH3ガス発生量の違いは、無機ポリマー層内部の構造及び組成の違いを表す。本発明者らは、このNH3ガス発生量が少ないほど、無機ポリマー層が構造及び組成的に安定した状態となっており、上述した効果が充分に得られることを見出した。また、上記NH3ガス発生量は、無機ポリマー層の成膜方法及び成膜条件によっても変化するが、このNH3ガス発生量が上記範囲内であることで、無機ポリマー層は上述した効果を奏するのに最適な膜状態となっていることを本発明者らは見出した。更に、算術平均高さ(Sa)が上記範囲内であることで、無機ポリマー層は表面平坦性が高く、ガスバリア層の欠陥を効果的に補うことができるとともに、ガスバリア層を保護する機能に優れ、上述した効果を奏するのに最適な膜状態となっていることを本発明者らは見出した。すなわち、これら算術平均高さ(Sa)及びNH3ガス発生量の範囲を同時に満たす無機ポリマー層を備えることにより、積層フィルムは、水蒸気の透過を高水準で防止することができ、有機EL素子等の電子デバイスの支持基板として使用した場合に、長期間に亘ってダークスポットの発生を抑制することができる。
【0009】
積層フィルムにおいて、無機ポリマー層におけるNH3ガス発生量が3000質量ppm以下であることが好ましい。これにより、積層フィルムは、水蒸気の透過をより高水準で防止することができ、有機EL素子等の電子デバイスの支持基板として使用した場合に、長期間に亘ってダークスポットの発生をより十分に抑制することができる。
【0010】
積層フィルムにおいて、無機ポリマー層におけるNH3ガス発生量は50質量ppm以上であることが好ましい。すなわち、無機ポリマー層中には、NH3ガス発生量の範囲を満たし得る程度の窒素原子が存在していることが好ましく、それにより、積層フィルムは水蒸気の透過をより高水準で防止することができ、且つ、電子デバイスに適用した場合に、長期間に亘ってダークスポットの発生をより充分に抑制することができる。
【0011】
上記積層フィルムにおいて、上記ガスバリア層は、化学気相成長法(CVD法)で形成された層であってもよい。
【0012】
上記積層フィルムにおいて、上記ガスバリア層は、珪素原子、酸素原子及び炭素原子を含有し、且つ、該ガスバリア層の膜厚方向における該ガスバリア層の表面からの距離と、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の量の比率(珪素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示す珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(i)~(iii)を全て満たす珪素酸化物系の層であることが好ましい。
(i)珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該ガスバリア層の膜厚の90%以上の領域において式(1):
(酸素の原子比)>(珪素の原子比)>(炭素の原子比) ・・・(1)
で表される条件を満たすこと。
(ii)上記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有すること。
(iii)上記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であること。
ガスバリア層が上記構成を有することにより、積層フィルムは酸素ガス及び水蒸気等に対してより優れたバリア性を得ることができるとともに、優れた耐屈曲性を得ることができる。
【0013】
上記積層フィルムにおいて、上記ガスバリア層は、珪素原子、酸素原子及び窒素原子を含有し、且つ、該ガスバリア層が、下記条件(iv)及び(v)を全て満たす珪素酸化物系の層であることが好ましい。
(iv)上記ガスバリア層が、樹脂基材側から酸素含有比率の異なる第2の薄膜層、第1の薄膜層、第3の薄膜層を有し、第1の薄膜層の、珪素原子、酸素原子及び窒素原子の平均組成が、10at%≦Si≦40at%、5at%≦O≦30at%、50at%≦N≦80at%の範囲にあること。
(v)上記第2及び第3の薄膜層の窒素原子及び珪素原子の元素比率が式(2)の範囲にあること。
N/Si≦0.2 ・・・(2)
ガスバリア層が上記構成を有することにより、積層フィルムは酸素ガス及び水蒸気に対して選りすぐれたバリア性を得ることができるとともに、優れた耐屈曲性を得ることができる。
【0014】
積層フィルムにおいて、無機ポリマー層は、無機ポリマーを含む組成物が波長200nm以下の真空紫外光の照射により硬化された硬化物からなる層であることが好ましい。これにより、無機ポリマー層は上記本発明の効果を奏するのに好適な硬化状態となり、積層フィルムは水蒸気の透過をより高水準で防止することができ、且つ、電子デバイスに適用した場合に、長期間に亘ってダークスポットの発生をより充分に抑制することができる。
【0015】
上記積層フィルムにおいて、上記無機ポリマー層は、ポリシラザンを含む組成物の硬化物からなる層であることが好ましい。ポリシラザンは、触媒の添加により反応が進行しやすく、容易に改質されてガラス化するとともに、その反応は縮合反応ではなく置換反応であるため、収縮率が小さいという利点がある。また、反応で発生する脱離成分(H2及びNH3)の分子サイズが小さいため、表面平坦性の高い均一な膜を形成しやすい。そのため、無機ポリマー層がポリシラザンを含む組成物の硬化物からなる層であることで、積層フィルムは水蒸気の透過をより高水準で防止することができ、且つ、電子デバイスに適用した場合に、長期間に亘ってダークスポットの発生をより充分に抑制することができる。
【0016】
積層フィルムは、樹脂基材と、ガスバリア層と、無機ポリマー層とが少なくともこの順で積層されていることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、樹脂基材上に、ガスバリア層と無機ポリマー層とが少なくとも積層された積層フィルムの製造方法であって、上記ガスバリア層を化学気相成長法で形成する工程を有し、無機ポリマー層表面の算術平均高さ(Sa)が20nm以下であり、試料室内に無機ポリマー層を含む積層フィルムを収容し、試料室内に25℃、85%RHの加湿空気を流通させながら、試料室内を85℃、1時間加熱したときの無機ポリマー層単位質量当たりのNH3ガス発生量が5000質量ppm以下である、積層フィルムの製造方法を提供する。
【0018】
上記製造方法は、記無機ポリマー層を、無機ポリマーを含む組成物を波長200nm以下の真空紫外光の照射により硬化することで形成する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水蒸気の透過を高水準で防止することができ、有機EL素子等の電子デバイスの支持基板として使用した場合に、長期間に亘ってダークスポットの発生を抑制することができる積層フィルム及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の積層フィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
【
図2】有機エレクトロルミネッセンス素子の一実施形態を示す模式断面図である。
【
図3】
図2に示した有機エレクトロルミネッセンス素子を封止基板側から見た場合の構造を模式的に示す上面図である。
【
図4】ロール間放電プラズマCVD法によるガスバリア層の形成に好適な装置の一例を示す模式図である。
【
図5】誘導結合プラズマCVD法によるガスバリア層の形成に好適な装置の一例を示す模式図である。
【
図6】NH
3ガス発生量を装置する装置の一例を示す模式図である。
【
図7】実施例及び比較例で得られた有機EL素子の初期及び60℃、90%RHで100時間保管した後の発光状態を示す観察像及びダークスポット面積率をまとめた図である。
【
図8】実施例1のガスバリア性積層フィルムにおけるガスバリア層のXPSデプスプロファイル測定結果を示すグラフである。
【
図9】実施例4のガスバリア性積層フィルムにおけるガスバリア層のXPSデプスプロファイル測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0022】
[積層フィルム]
図1は、本発明の積層フィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
図1に示すように、本実施形態の積層フィルム(ガスバリア性積層フィルム)1は、樹脂基材101上に、ガスバリア層102と無機ポリマー層103とが積層された構造を有する。積層フィルム1において、無機ポリマー層103表面(ガスバリア層102とは反対側の表面)の算術平均高さ(Sa)は、20nm以下である。また、無機ポリマー層103は、試料室内に無機ポリマー層を含む積層フィルムを収容し、試料室内に25℃、85%RHの加湿空気を流通させながら、試料室内を85℃、1時間加熱したときの無機ポリマー層単位質量当たりのNH
3ガス発生量が5000質量ppm以下となる層である。以下、各層について詳細に説明する。
【0023】
(樹脂基材101)
樹脂基材101としては、ガスバリア層102及び無機ポリマー層103を保持可能な樹脂(有機高分子材料)で形成されたものであれば、特に限定されるものではない。樹脂基材101としては、樹脂フィルムを用いることができ、無色透明であるものを用いることが好ましい。樹脂基材101を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル樹脂;アセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルサルファイド(PES)が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を組合せて用いることもできる。これらの中でも、透明性、耐熱性、線膨張性等の必要な特性に合せて、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂の中から選択して用いることが好ましく、PET、PEN、環状ポリオレフィンを用いることがより好ましい。また、樹脂基材101としては、上述した樹脂の層を2層以上積層した積層体を用いることもできる。
【0024】
樹脂基材101は、未延伸の樹脂基材であってもよく、未延伸の樹脂基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、樹脂基材の流れ方向(MD方向)、及び/又は、樹脂基材の流れ方向と直角方向(TD方向)に延伸した延伸樹脂基材であってもよい。
【0025】
樹脂基材101の厚みは、積層フィルム1を製造する際の安定性等を考慮して適宜設定されるが、真空中においても樹脂基材101の搬送が容易であることから、5~500μmであることが好ましい。さらに、後述するロール間放電プラズマCVD法によりガスバリア層102を形成する場合、樹脂基材101を通して放電を行うことから、樹脂基材101の厚みは10~200μmであることがより好ましく、20~100μmであることがさらに好ましい。
【0026】
なお、樹脂基材101には、ガスバリア層102との密着性の観点から、その表面を清浄するための表面活性処理を施してもよい。このような表面活性処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理が挙げられる。
【0027】
(ガスバリア層102)
ガスバリア層102は、水蒸気等のガスの透過を防止するガスバリア性を有する層である。ここにいう「ガスバリア性」とは、下記条件(A)~(C)のうちの少なくとも1つの条件を満たすものであればよい。
<条件(A)>
JIS K 7126(2006年発行)に準拠した方法で測定された「樹脂基材のガス透過度(単位:mol/m2・s・P)」と「ガスバリア層を成膜した樹脂基材のガス透過度(単位:mol/m2・s・P)」を比較して、「樹脂基材のガス透過度」に対して「ガスバリア層を成膜した樹脂基材のガス透過度」の方が2桁以上小さい値(100分の1以下の値)を示すこと。
<条件(B)>
JIS K 7129(2008年発行)に記載される方法に準拠した方法で測定された「樹脂基材の水蒸気透過度(単位:g/m2・s・P)」と「ガスバリア層を成膜した樹脂基材の水蒸気透過度(単位:g/m2・s・P)」を比較して、「樹脂基材の水蒸気透過度」に対して「ガスバリア層を成膜した樹脂基材の水蒸気透過度」の方が2桁以上小さい値(100分の1以下の値)を示すこと。
<条件(C)>
特開2005-283561号公報に記載される方法に準拠した方法で測定された「樹脂基材の水蒸気透過度(単位:g/m2・s・P)」と「ガスバリア層を成膜した樹脂基材の水蒸気透過度(単位:g/m2・s・P)」を比較して、「樹脂基材の水蒸気透過度」に対して「ガスバリア層を成膜した樹脂基材の水蒸気透過度」の方が2桁以上小さい値(100分の1以下の値)を示すこと。
【0028】
なお、一般的に、水蒸気バリア性(ガスバリア性)を有するガスバリア層を成膜した基材の水蒸気透過度は10-2g/m2/day以下の値を示すことから、上記条件(B)及び(C)を検討する場合に、「ガスバリア層を成膜した樹脂基材の水蒸気透過度」が10-2g/m2/day以下の値となっていることが好ましく、10-4g/m2/day以下の値となっていることがより好ましく、10-5g/m2/day以下の値となっていることがさらに好ましく、10-6g/m2/day以下の値となっていることがとりわけ好ましい。また、このようなガスバリア性を有するガスバリア層としては、上記条件(C)を満たすものがより好ましい。
【0029】
ガスバリア層102の厚みは、5~3000nmの範囲であることが好ましく、10~2000nmの範囲であることがより好ましく、10~1000nmの範囲であることが更に好ましく、100~1000nmの範囲であることがとりわけ好ましい。ガスバリア層102の厚みが上記の範囲内であれば、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が良好であり、また、屈曲によりガスバリア性が低下しにくい傾向にある。
【0030】
ガスバリア層102の種類は特に制限されず、公知のガスバリア性を有する薄膜層を適宜利用することができるが、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属酸炭化物のうちの少なくとも1種を含む薄膜層であることが好ましい。また、ガスバリア層102としては、上述した薄膜層を2層以上積層した多層膜を用いることもできる。
【0031】
ガスバリア層102としては、より高度な水蒸気透過防止性能を発揮できるといった観点、並びに、耐屈曲性、製造の容易性及び低製造コストといった観点から、少なくとも珪素原子と酸素原子とを含む薄膜からなる層であることがより好ましい。さらに、珪素原子と酸素原子とを含む薄膜からなる層は、プラズマ化学気相成長法、あるいは、プレカーサーを基材面に形成しプラズマ処理を行う薄膜形成法を用いた薄膜層であることが好ましい。
【0032】
ガスバリア層102は、珪素原子、酸素原子及び炭素原子を含有し、且つ、該ガスバリア層102の膜厚方向における該ガスバリア層102の表面(樹脂基材101とは反対側の表面であって、無機ポリマー層103との界面)からの距離と、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の量の比率(珪素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示す珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(i)~(iii):
(i)珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該ガスバリア層の膜厚の90%以上の領域において式(1):
(酸素の原子比)>(珪素の原子比)>(炭素の原子比) ・・・(1)
で表される条件を満たすこと、
(ii)上記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有すること、
(iii)上記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であること、
を全て満たす珪素酸化物系の薄膜層であってもよい。以下、このような珪素酸化物系の薄膜層についてより詳細に説明する。
【0033】
このような珪素酸化物系の薄膜層は、先ず、該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の量の比率(珪素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示す珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、(i)珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上(より好ましくは95%以上、さらに好ましくは100%)の領域において式(1):
(酸素の原子比)>(珪素の原子比)>(炭素の原子比) ・・・(1)
で表される条件を満たすことが必要である。珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が上記条件を満たすことにより、ガスバリア性積層フィルム1のガスバリア性がより優れたものとなる。
【0034】
また、このような珪素酸化物系の薄膜層は、(ii)上記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することが必要である。このような珪素酸化物系の薄膜層においては、上記炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することがさらに好ましい。上記炭素分布曲線が極値を有することにより、得られるガスバリア性積層フィルム1のフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性の低下が抑制される。また、上記炭素分布曲線が少なくとも3つの極値を有する場合においては、上記炭素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における珪素酸化物系の薄膜層の膜厚方向における該薄膜層の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。なお、ここにいう「極値」とは、薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離に対する元素の原子比の極大値又は極小値のことをいう。また、本明細書において極大値とは、薄膜層の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が増加から減少に変わる点であって且つその点の元素の原子比の値よりも、該点から薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点のことをいう。さらに、本明細書において極小値とは、薄膜層の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、且つその点の元素の原子比の値よりも、該点から薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上増加する点のことをいう。
【0035】
また、このような珪素酸化物系の薄膜層は、(iii)上記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であることが必要である。また、このような薄膜層においては、炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることがさらに好ましい。上記絶対値が5at%以上であると、得られるガスバリア性積層フィルム1のフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性の低下が抑制される。
【0036】
また、上記珪素酸化物系の薄膜層においては、上記酸素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することが好ましく、少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することがさらに好ましい。上記酸素分布曲線が極値を有することにより、得られるガスバリア性積層フィルム1のフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性の低下が抑制される。また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、上記酸素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における珪素酸化物系の薄膜層の膜厚方向における該薄膜層の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0037】
また、上記珪素酸化物系の薄膜層においては、該層の上記酸素分布曲線における酸素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であることが好ましく、6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることがさらに好ましい。上記絶対値が上記下限以上であると、得られるガスバリア性積層フィルム1のフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性の低下が抑制される。
【0038】
上記珪素酸化物系の薄膜層においては、該層の上記珪素分布曲線における珪素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることがさらに好ましい。上記絶対値が上記上限以下であると、得られるガスバリア性積層フィルム1のガスバリア性がより優れたものとなる。
【0039】
また、上記珪素酸化物系の薄膜層においては、該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子及び炭素原子の合計量の比率(酸素及び炭素の原子比)との関係を示す酸素炭素分布曲線において、上記酸素炭素分布曲線における酸素及び炭素の原子比の合計の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることがさらに好ましい。上記絶対値が上記上限以下であると、得られるガスバリア性積層フィルム1のガスバリア性がより優れたものとなる。
【0040】
上記珪素分布曲線、上記酸素分布曲線、上記炭素分布曲線及び上記酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は上記薄膜層の膜厚方向における上記薄膜層の表面からの距離に概ね相関することから、「薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される薄膜層の表面からの距離を採用することができる。また、このようなXPSデプスプロファイル測定に際して採用するスパッタ法としては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar+)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用し、そのエッチング速度(エッチングレート)を0.05nm/sec(SiO2熱酸化膜換算値)とすることが好ましい。
【0041】
また、膜面全体において均一で且つ優れたガスバリア性を有する上記珪素酸化物系の薄膜層を形成するという観点から、該層が膜面方向(薄膜層の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。本明細書において、上記珪素酸化物系の薄膜層が膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定により薄膜層の膜面の任意の2箇所の測定箇所について上記酸素分布曲線、上記炭素分布曲線及び上記酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
【0042】
さらに、上記珪素酸化物系の薄膜層においては、該層の上記炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。本明細書において、炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される上記薄膜層のうちの少なくとも1層の膜厚方向における該層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比(C、単位:at%)との関係において、数式(F1):
(dC/dx)≦ 0.5 ・・・(F1)
で表される条件を満たすことをいう。
【0043】
また、上記珪素分布曲線、上記酸素分布曲線及び上記炭素分布曲線において、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において上記式(1)で表される条件を満たす場合には、該層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の含有量の原子比率は、25~45at%であることが好ましく、30~40at%であることがより好ましい。また、上記珪素酸化物系の薄膜層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、33~67at%であることが好ましく、45~67at%であることがより好ましい。さらに、上記珪素酸化物系の薄膜層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、3~33at%であることが好ましく、3~25at%であることがより好ましい。
【0044】
ガスバリア層102の形成方法は特に限定されず、樹脂基材101上にガスバリア層102を成膜可能な公知の方法を適宜採用することができるが、ガスバリア性の観点から、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD)を採用することが好ましい。なお、上記プラズマ化学気相成長法はペニング放電プラズマ方式のプラズマ化学気相成長法であってもよい。
【0045】
また、上記プラズマ化学気相成長法においてプラズマを発生させる際には、複数の成膜ロールの間の空間にプラズマ放電を発生させることが好ましく、一対の成膜ロールを用い、その一対の成膜ロールのそれぞれに上記樹脂基材101を配置して、一対の成膜ロール間に放電してプラズマを発生させることがより好ましい。このようにして、一対の成膜ロールを用い、その一対の成膜ロール上に樹脂基材101を配置して、かかる一対の成膜ロール間に放電することにより、成膜時に一方の成膜ロール上に存在する樹脂基材101の表面部分を成膜しつつ、もう一方の成膜ロール上に存在する樹脂基材101の表面部分も同時に成膜することが可能となって効率よく薄膜を製造できるばかりか、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造の膜を成膜できるので上記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となり、効率よく上記条件(i)~(iii)を全て満たす層を形成することが可能となる。
【0046】
また、ガスバリア層102の形成方法としては、生産性の観点から、プラズマ化学気相成長法を利用しつつ、ロールツーロール方式を採用することが好ましい。また、このようなプラズマ化学気相成長法により積層フィルム1を製造する際に用いることが可能な装置としては、特に制限されないが、少なくとも一対の成膜ロールと、プラズマ電源とを備え且つ上記一対の成膜ロール間において放電することが可能な構成となっている装置であることが好ましく、例えば、後述の
図4に示すような製造装置を用いた場合には、プラズマ化学気相成長法を利用しながらロールツーロール方式で製造することも可能となる。
【0047】
<ロール間放電プラズマCVD法>
ここで、
図4を参照しながら、樹脂基材101上に上記珪素酸化物系薄膜からなるガスバリア層102を形成して、樹脂基材101と該樹脂基材101の少なくとも一方の表面上に形成されたガスバリア層102とを備えるフィルム部材を製造するために好適に利用することが可能な方法について説明する。なお、
図4は、一対の成膜ロール間にプラズマ放電を発生させるロール間放電プラズマCVD法によって樹脂基材101上にガスバリア層102を形成するために好適に利用することが可能な製造装置の一例を示す模式図である。
【0048】
図4に示す製造装置は、送り出しロール11と、搬送ロール21、22、23、24と、成膜ロール31、32と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源51と、成膜ロール31及び32の内部に設置された磁場発生装置61、62と、巻取りロール71とを備えている。また、このような製造装置においては、少なくとも成膜ロール31、32と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源51と、磁場発生装置61、62とが図示を省略した真空チャンバー内に配置されている。更に、このような製造装置において上記真空チャンバーは図示を省略した真空ポンプに接続されており、かかる真空ポンプにより真空チャンバー内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
【0049】
このような製造装置においては、一対の成膜ロール(成膜ロール31と成膜ロール32)を一対の対向電極として機能させることが可能となるように、各成膜ロールがそれぞれプラズマ発生用電源51に接続されている。そのため、このような製造装置においては、プラズマ発生用電源51により電力を供給することにより、成膜ロール31と成膜ロール32との間の空間に放電することが可能であり、これにより成膜ロール31と成膜ロール32との間の空間にプラズマを発生させることができる。なお、このように、成膜ロール31と成膜ロール32を電極としても利用する場合には、電極としても利用可能なようにその材質や設計を適宜変更すればよい。また、このような製造装置においては、一対の成膜ロール(成膜ロール31及び32)は、その中心軸が同一平面上において略平行となるようにして配置することが好ましい。このようにして、一対の成膜ロール(成膜ロール31及び32)を配置することにより、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造の膜を成膜できるので上記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となる。そして、このような製造装置によれば、CVD法により樹脂基材101の表面上にガスバリア層102を形成することが可能であり、成膜ロール31上において樹脂基材101の表面上に膜成分を堆積させつつ、更に成膜ロール32上においても樹脂基材101の表面上に膜成分を堆積させることもできるため、樹脂基材101の表面上にガスバリア層102を効率よく形成することができる。
【0050】
また、成膜ロール31及び成膜ロール32の内部には、成膜ロールが回転しても回転しないようにして固定された磁場発生装置61及び62がそれぞれ設けられている。
【0051】
さらに、成膜ロール31及び成膜ロール32としては適宜公知のロールを用いることができる。このような成膜ロール31及び32としては、より効率よくガスバリア層102を形成せしめるという観点から、直径が同一のものを使うことが好ましい。また、このような成膜ロール31及び32の直径としては、放電条件、チャンバーのスペース等の観点から、5~100cmの範囲とすることが好ましい。
【0052】
また、このような製造装置においては、樹脂基材101の表面がそれぞれ対向するように、一対の成膜ロール(成膜ロール31と成膜ロール32)上に、樹脂基材101が配置されている。このようにして樹脂基材101を配置することにより、成膜ロール31と成膜ロール32との間に放電を行ってプラズマを発生させる際に、一対の成膜ロール間に存在する樹脂基材101のそれぞれの表面を同時に成膜することが可能となる。すなわち、このような製造装置によれば、CVD法により、成膜ロール31上にて樹脂基材101の表面上に膜成分を堆積させ、更に成膜ロール32上にて膜成分を堆積させることができるため、樹脂基材101の表面上にガスバリア層102を効率よく形成することが可能となる。
【0053】
また、このような製造装置に用いる送り出しロール11及び搬送ロール21、22、23、24としては適宜公知のロールを用いることができる。また、巻取りロール71としても、ガスバリア層102を形成した樹脂基材101を巻き取ることが可能なものであればよく、特に制限されず、適宜公知のロールを用いることができる。
【0054】
また、ガス供給管41としては原料ガス等を所定の速度で供給又は排出することが可能なものを適宜用いることができる。さらに、プラズマ発生用電源51としては、適宜公知のプラズマ発生装置の電源を用いることができる。このようなプラズマ発生用電源51は、これに接続された成膜ロール31と成膜ロール32に電力を供給して、これらを放電のための対向電極として利用することを可能とする。このようなプラズマ発生用電源51としては、より効率よくプラズマCVDを実施することが可能となることから、上記一対の成膜ロールの極性を交互に反転させることが可能なもの(交流電源など)を利用することが好ましい。また、このようなプラズマ発生用電源51としては、より効率よくプラズマCVDを実施することが可能となることから、印加電力を100W~10kWとすることができ且つ交流の周波数を50Hz~500kHzとすることが可能なものであることがより好ましい。また、磁場発生装置61、62としては適宜公知の磁場発生装置を用いることができる。さらに、樹脂基材101としては、上述した樹脂基材101の他に、ガスバリア層102の一部となる薄膜層を予め形成させたものを用いることができる。このように、樹脂基材101として薄膜層を予め形成させたものを用いることにより、ガスバリア層102の厚みを厚くすることも可能である。
【0055】
このような
図4に示す製造装置を用いて、例えば、原料ガスの種類、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力、真空チャンバー内の圧力、成膜ロールの直径、並びに、フィルムの搬送速度を適宜調整することにより、樹脂基材101の表面上に上記珪素酸化物系の薄膜からなるガスバリア層102を形成することができる。すなわち、
図4に示す製造装置を用いて、成膜ガス(原料ガス等)を真空チャンバー内に供給しつつ、一対の成膜ロール(成膜ロール31及び32)間に放電を発生させることにより、上記成膜ガス(原料ガス等)がプラズマによって分解され、成膜ロール31上の樹脂基材101の表面上並びに成膜ロール32上の樹脂基材101の表面上に、ガスバリア層102がプラズマCVD法により形成される。なお、このような成膜に際しては、樹脂基材101が送り出しロール11や成膜ロール31等により、それぞれ搬送されることにより、ロールツーロール方式の連続的な成膜プロセスにより樹脂基材101の表面上に上記珪素酸化物系の薄膜からなるガスバリア層102が形成される。
【0056】
このような上記珪素酸化物系の薄膜からなるガスバリア層102の形成に用いる上記成膜ガス中の原料ガスとしては、形成する薄膜の材質に応じて適宜選択して使用することができる。このような原料ガスとしては、例えばケイ素を含有する有機ケイ素化合物を用いることができる。このような有機ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサンが挙げられる。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性及び得られるガスバリア層102のガスバリア性等の特性の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンが好ましい。また、これらの有機ケイ素化合物は、1種を単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0057】
また、上記成膜ガスとしては、上記原料ガスの他に反応ガスを用いてもよい。このような反応ガスとしては、上記原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物となるガスを適宜選択して使用することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、1種を単独で又は2種以上を組合せて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組合せて使用することができる。
【0058】
上記成膜ガスとしては、上記原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、上記成膜ガスとしては、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
【0059】
このような成膜ガスが原料ガスと反応ガスを含有する場合には、原料ガスと反応ガスの比率としては、原料ガスと反応ガスとを完全に反応させるために理論上必要となる反応ガスの量の比率よりも、反応ガスの比率を過剰にし過ぎないことが好ましい。反応ガスの比率を過剰にし過ぎてしまうと、上記条件(i)~(iii)を全て満たす薄膜が得られなくなってしまう。この場合には、形成される薄膜層によって、優れたバリア性や耐屈曲性を得ることができなくなる。また、上記成膜ガスが上記有機ケイ素化合物と酸素とを含有するものである場合には、上記成膜ガス中の上記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量以下であることが好ましい。
【0060】
以下、上記成膜ガスとして、原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(有機ケイ素化合物:HMDSO:(CH3)6Si2O)と反応ガスとしての酸素(O2)を含有するものを用い、ケイ素-酸素系の薄膜を製造する場合を例に挙げて、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスの好適な比率等についてより詳細に説明する。
【0061】
原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO、(CH3)6Si2O)と、反応ガスとしての酸素(O2)とを含有する成膜ガスをプラズマCVDにより反応させてケイ素-酸素系の薄膜を作製する場合、その成膜ガスにより反応式(I):
(CH3)6Si2O+12O2→6CO2+9H2O+2SiO2 ・・・(I)
に記載のような反応が起こり、二酸化ケイ素が製造される。このような反応においては、ヘキサメチルジシロキサン1モルを完全酸化するのに必要な酸素量は12モルである。そのため、成膜ガス中に、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して酸素を12モル以上含有させて完全に反応させた場合には、均一な二酸化ケイ素膜が形成されてしまうため、上記条件(i)~(iii)を全て満たす薄膜層を形成することができなくなってしまう。そのため、上記珪素酸化物系の薄膜からなるガスバリア層102を形成する際には、上記条件(i)~(iii)を全て満たす薄膜層を形成する観点では、上記(I)式の反応が完全に進行してしまわないように、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して酸素量を化学量論比の12モルより少なくすることが好ましい。なお、実際のプラズマCVDチャンバー内の反応では、原料のヘキサメチルジシロキサンと反応ガスの酸素は、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、反応ガスの酸素のモル量(流量)が原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には完全に反応を進行させることはできず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる(例えば、CVDにより完全酸化させて酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)を原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の20倍以上程度とする場合もある)。そのため、原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下(より好ましくは、10倍以下)の量であることが好ましい。このような比でヘキサメチルジシロキサン及び酸素を含有させることにより、完全に酸化されなかったヘキサメチルジシロキサン中の炭素原子や水素原子が薄膜層中に取り込まれ、上記条件(i)~(iii)を全て満たす薄膜層を形成することが可能となって、得られる積層フィルム1に優れたバリア性及び耐屈曲性を発揮させることが可能となる。なお、成膜ガス中のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)が少なすぎると、酸化されなかった炭素原子や水素原子が薄膜層中に過剰に取り込まれるため、この場合はガスバリア層102の透明性が低下して、積層フィルム1は有機ELデバイスや有機薄膜太陽電池などのような透明性を必要とするデバイス用のフレキシブル基板には利用しにくくなってしまう。このような観点から、成膜ガス中のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)の下限は、ヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の0.1倍より多い量とすることが好ましく、0.5倍より多い量とすることがより好ましい。
【0062】
また、真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、0.5~50Paの範囲とすることが好ましい。
【0063】
また、このようなプラズマCVD法において、成膜ロール31及び32間に放電するために、プラズマ発生用電源51に接続された電極ドラム(本実施形態においては成膜ロール31及び32に設置されている)に印加する電力は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるものであり一概に言えるものでないが、0.1~10kWの範囲とすることが好ましい。このような印加電力が上記の範囲にあると、パーティクルが発生し難くなる傾向にあり、また、成膜時に発生する熱量が多くなり過ぎず、成膜時の基材表面の温度が上昇することがなく、基材が熱負けして成膜時に皺が発生しにくく、さらに熱でフィルムが溶けて、裸の成膜ロール間に大電流の放電が発生して成膜ロール自体を傷めてしまうことがない傾向がある。
【0064】
樹脂基材101の搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.25~100m/minの範囲とすることが好ましく、0.5~20m/minの範囲とすることがより好ましい。ライン速度が上記の範囲にあると、熱に起因するフィルムの皺が発生しにくい傾向があり、また、形成されるガスバリア層102の厚みが薄くならない傾向にある。
【0065】
このようにして、樹脂基材101上に珪素酸化物系の薄膜からなるガスバリア層102を形成することができる。
【0066】
また、ガスバリア層102は、珪素原子、酸素原子および窒素原子を含有し、且つ、該ガスバリア層が、下記条件(iv)及び(v):
(iv)上記ガスバリア層が、樹脂基材101側から酸素含有比率の異なる第2の薄膜層、第1の薄膜層、第3の薄膜層を有し、第1の薄膜層の、珪素原子、酸素原子及び窒素原子の平均組成が、10at%≦Si≦40at%、5at%≦O≦30at%、50at%≦N≦80at%の範囲にあること、
(v)上記第2及び第3の薄膜層の窒素原子及び珪素原子の元素比率が式(2)の範囲にあること、
N/Si≦0.2 ・・・(2)
を全て満たす珪素酸化物系の層であることも好ましい。以下に、このような珪素酸化物系の薄膜層についてより詳細に説明する。
【0067】
上記ガスバリア層102は、珪素、酸素、窒素及び水素を含有していてもよい。この場合、上記ガスバリア層は、一般式がSiOαNβHγで表される化合物が主成分であることが好ましい。この一般式において、αは1未満の正数、βは3未満の正数、γは10未満の正数からそれぞれ選択される。上記の一般式におけるα、β及びγの一以上は、上記ガスバリア層の厚さ方向で一定の値でもよいし、変化していてもよい。さらに上記ガスバリア層は、珪素、酸素、窒素及び水素以外の元素、例えば、炭素、ホウ素、アルミニウム、リン、イオウ、フッ素及び塩素のうちの一以上を含有していてもよい。
【0068】
上記ガスバリア層の第1の薄膜層は、膜厚方向の平均元素比率が、Siが10at%≦Si≦40at%、5at%≦O≦30at%、並びに50at%≦N≦80at%の範囲にあることが好ましく、Siが15at%≦Si≦35at%、10at%≦O≦25at%、並びに55at%≦N≦75at%の範囲であることがより好ましい。
【0069】
上記ガスバリア層102の形成方法は、ガスバリア性の観点から、プラズマ化学気相成長法(PECVD法)を採用することが好ましい。なお、上記プラズマ化学気相成長法はペニング放電プラズマ方式のプラズマ化学気相成長法であってもよい。
【0070】
上記ガスバリア層102の厚さは、ガスバリア性や透明性を高める観点から、5~3000nmであることが好ましく、10~2000nmであることがより好ましく、100~1000nmであることがさらに好ましい。
【0071】
上記ガスバリア層102において、樹脂基材101側から酸素含有比率の異なる第2の薄膜層、第1の薄膜層、第3の薄膜層を有する方が、フレキシビリティやガスバリア性を両立する観点で好ましい。
【0072】
上記第2及び第3の薄膜層は、珪素及び酸素を含有し、一般式がSiOnで表される化合物が主成分であることが好ましい。nは1.5~3.0であることが好ましく、2.0~2.5であることがより好ましい。nは、第2及び第3の薄膜層の厚さ方向において一定の値でもよいし、変化していてもよい。上記第2及び第3の薄膜層は、構成される元素比率が第1の薄膜層とは異なり、上記第2及び第3の薄膜層の窒素原子及び珪素原子の元素比率は、式(2)の範囲にあることが好ましい。
N/Si≦0.2 (2)
【0073】
上記第2及び第3の薄膜層は、それぞれの層の組成が異なっていてもよいし同じであってもよいが、安定的に薄膜層を作製する観点では、実質的に同じ組成であることが好ましい。実質的に同じ組成とは、第2の薄膜層を構成する珪素及び酸素の平均元素比率と第3の薄膜層を構成する珪素及び酸素の平均元素比率が、±5at%の範囲にあることを言う。
【0074】
上記第2及び第3の薄膜層は、フレキシビリティやガスバリア性を両立する観点で、それぞれ膜厚が100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。
【0075】
上記ガスバリア層102(第2、第1及び第3の薄膜層を合せた層)は、透明性やガスバリア性を両立する観点で、赤外分光測定から得られる赤外吸収スペクトルにおいて、810~880cm-1に存在するピーク強度(I)と2100~2200cm-1に存在するピーク強度(I’)の強度比I’/Iを求めた場合、式(3)の範囲にあることが好ましい。
0.05≦I’/I≦0.20 ・・・(3)
【0076】
810~880cm-1に存在する吸収ピークはSi-Nに帰属され、2100~2200cm-1に存在する吸収ピークはSi-Hに帰属される。即ち、ガスバリア性を高める観点で、上記ガスバリア層がより緻密な構造となり得るために、I’/Iが0.20以下であることが好ましく、また透明性を高める観点で、可視光領域における光線透過率を低下させないために、I’/Iが0.05以上であることが好ましい。
【0077】
<誘導結合プラズマCVD法>
このようなガスバリア層102の形成方法として、誘導結合プラズマCVD法による形成方法が挙げられる。誘導結合プラズマCVD法は、誘導コイルに対して高周波電力を印加することで誘導電界を形成し、プラズマを発生させる手法である。発生したプラズマは高密度且つ低温のプラズマであり、また、安定なグロー放電プラズマであることから、特に耐熱性の低い樹脂基材101を用いる場合、該樹脂基材101上に緻密なガスバリア層102の薄膜を形成するのに適している。
【0078】
上記ガスバリア層102は、一般的な誘導結合プラズマCVD装置を用いて、誘導コイルに対して高周波電力を印加することで誘導電界を形成し、原料ガスを導入してプラズマを発生させ、樹脂基材101上に薄膜を形成することで形成される(例えば、特開2006-164543号公報参照)。
図5は、誘導結合プラズマCVD法によるガスバリア層の形成に好適な装置の一例を示す模式図である。
図5に示すように、真空チャンバー301の中に送り出しロール307、巻取りロール310及び搬送ロール308,309が配置され、樹脂基材101が連続的に搬送される。なお、送り出しロール307及び巻取りロール310は、状況に応じて反転することも可能で、送り出しロールが巻取りロールへ、巻取りロールが送り出しロールへと適宜変えることが可能である。また、真空チャンバー301には、樹脂基材101にガスバリア層102が形成される成膜部(成膜ゾーン)311の下方に、酸化アルミニウム等で構成される矩形の誘電体窓312を介して、磁場を発生させる誘導コイル303が設けられており、更に、ガスを導入するガス導入配管302及び余剰ガスを排気する真空ポンプ304が設けられている。なお、ガスの導入及び排気を行う部分付近に、ガスを均一化するための整流板が設けられていてもよい。また、誘導コイル303は、マッチングボックス305を介して高周波電源306に接続されている。
【0079】
ガスバリア層102は、この誘導結合プラズマCVD装置を用いて、樹脂基材101を一定速度で搬送しながら、ガス導入配管302から原料ガスを供給し、成膜部311にて誘導コイル303によってプラズマを発生させ、原料ガスを分解・再結合して成る薄膜層を樹脂基材101の上に形成することで作製することができる。
【0080】
ガスバリア層102の形成にあたっては、樹脂基材101の搬送方向が、成膜部311の下部に配置された矩形の誘電体窓312の一方の対辺二辺に対して平行であって、且つ残りの対辺二辺に対して垂直方向になるように、一定速度で搬送する。それによって、成膜部311を通過する際に、樹脂基材101の搬送方向に対して垂直方向である誘電体窓の対辺二辺の真上において、プラズマ密度が減少し、それに伴って原料ガスが分解・再結合した後の薄膜層組成が変化する。
【0081】
ガスバリア層102は、原料ガスとして無機シラン系ガス、アンモニアガス、酸素ガス及び不活性ガスを用いることで形成することができる。また、ガスバリア層102は、原料ガスを、それぞれ通常の誘導結合プラズマCVD法で用いられる範囲の流量及び流量比を流すことで形成される。
【0082】
無機シラン系ガスとしては、例えば、モノシランガス、ジシランガス、トリシランガス、ジクロロシランガス、トリクロロシランガス、テトラクロロシランガス等の水素化シランガス及びハロゲン化シランガス等が挙げられる。こられの無機シラン系ガスの中でも、化合物の取り扱い性及び得られる薄膜層の緻密性等の観点から、モノシランガス、ジシランガスが好ましい。また、これらの無機シラン系ガスは、1種を単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガス、キセノンガス等が挙げられる。
【0083】
電極に供給する電力は、原料ガスの種類や真空チャンバー301内の圧力等に応じて適宜調整することができ、例えば、0.1~10kWに設定され、且つ交流の周波数が、例えば50Hz~100MHzに設定される。電力が0.1kW以上であることで、パーティクルの発生を抑制する効果が高くなる。また、電力が10kW以下であることで、電極から受ける熱によって樹脂基材101に皺や損傷が生じることを抑制する効果が高くなる。さらに、原料ガスの分解効率を上げるという観点で、1~100MHzに設定された交流周波数を用いてもよい。
【0084】
真空チャンバー301内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができ、例えば、0.1~50Paに設定できる。
【0085】
樹脂基材101の搬送速度は、原料ガスの種類や真空チャンバー301内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、樹脂基材101を搬送ロールに接触させるときの、樹脂基材101の搬送速度と同じであることが好ましい。
【0086】
ガスバリア層102は、連続的な成膜プロセスで形成することが好ましく、長尺の樹脂基材101を連続的に搬送しながら、その上に連続的にガスバリア層102を形成することがより好ましい。
【0087】
ガスバリア層102は、樹脂基材101を送り出しロール307から巻取りロール310へ搬送しながら形成した後に、送り出しロール307及び巻取りロール310を反転させて、逆向きに樹脂基材101を搬送させることで、更に上から形成することが可能である。所望の積層数、膜厚、搬送速度に応じて、適宜変更が可能である。
【0088】
(無機ポリマー層103)
無機ポリマー層103は、ポリシラザン等の無機ポリマーを含む組成物を用いて形成される層である。このような無機ポリマー層103をガスバリア層102上に形成した積層フィルム1は、水蒸気の透過を高水準で防止することができるとともに、有機EL素子等の電子デバイスに適用した場合に、ダークスポットの発生を長期間に亘って抑制することができる。これは、無機ポリマー層103がガスバリア層102の表面を保護することにより、ガスバリア層102に存在するクラック又はビアホール等の欠陥を補うことができるとともに、有機EL素子等の電子デバイスの製造時にガスバリア層102にクラック等の欠陥が発生することを抑制することができるためである。上記効果をより充分に得る観点から、無機ポリマー層103は、ポリシラザンを含む組成物の硬化物からなる層であることがより好ましい。
【0089】
無機ポリマー層103は、その表面(ガスバリア層102とは反対側の表面)の算術平均高さ(Sa)が20nm以下であることが必要であり、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。無機ポリマー層103表面の算術平均高さ(Sa)が20nm以下であると、表面平坦性の高い均一な層となるため、水蒸気の透過を高水準で防止することができるとともに、積層フィルム1を有機EL素子等の電子デバイスの支持基板として使用した場合に、長期間に亘ってダークスポットの発生を抑制することができる。なお、この算術平均高さ(Sa)が20nmを超えると、上述した効果が得られないことに加え、場合によっては積層フィルム1を有機EL素子等の電子デバイスの支持基板として使用した際に短絡等の不具合が発生しやくなり、発光が得られないこともある。無機ポリマー層103表面の算術平均高さ(Sa)は、例えば、後述する無機ポリマー層103の形成方法により調整することができる。
【0090】
無機ポリマー層103の表面の算術平均高さ(Sa)は、市販の表面性状測定機を利用して測定することができる。本発明の算術平均高さ(Sa)は、三次元非接触表面形状計測システム((株)菱化システム製、商品名:MM557N-M100型)を用い、対物レンズ:10倍、中間レンズ:1倍、カメラ:XC-ST30 1/3型(ソニー(株)製)、視野:468.0μm×351.2μm、測定モード:Smooth Phase、光学フィルターの中心波長:520nmで測定した。積層フィルムにカール等のひずみを生じている場合は、易接着板等を用いてひずみを取り除いた条件で測定を実施した。
【0091】
無機ポリマー層103は、試料室内に無機ポリマー層を含む積層フィルムを収容し、試料室内に25℃、85%RHの加湿空気を流通させながら、試料室内を85℃、1時間加熱したときの無機ポリマー層単位質量当たりのアンモニア(NH3)ガス発生量が5000質量ppm以下であることが必要であり、3500質量ppm以下であることが好ましく、3000質量ppm以下であることがより好ましく、1000質量ppm以下であることが更に好ましく、550質量ppm以下であることがとりわけ好ましく、150質量ppm以下であることが極めて好ましい。また、上記NH3ガス発生量は、50質量ppm以上であることが好ましく、80質量ppm以上であることがより好ましい。上記方法で測定される無機ポリマー層103からのNH3ガス発生量は、無機ポリマー層103中に存在しているものの、高温高湿環境下で無機ポリマー層103から放出されやすい窒素原子の量の指標となる。そして、このNH3ガス発生量が多いと、水蒸気透過防止性に悪影響を及ぼすとともに、積層フィルム1を用いて有機EL素子等の電子デバイスを製造する際及び製造後の保管時等に、NH3ガス発生の影響により欠陥等が生じやすくなる。このNH3ガス発生量が5000質量ppm以下であると、水蒸気の透過を高水準で防止することができるとともに、積層フィルム1を有機EL素子等の電子デバイスの支持基板として使用した場合に、長期間に亘ってダークスポットの発生を抑制することができる。なお、このNH3ガス発生量が5000質量ppmを超えると、上述した効果が得られないことに加え、場合によっては積層フィルム1を有機EL素子等の電子デバイスの支持基板として使用した際に電極材料や発光材料等にダメージを与え、不具合が発生しやくなり、発光特性の低下や発光が得られないこともある。一方、NH3ガス発生量が50質量ppm以上であると、緻密性や屈曲性に優れる無機ポリマー層を得ることができる傾向がある。無機ポリマー層103のNH3ガス発生量は、例えば、後述する無機ポリマー層103の形成方法により調整することができる。
【0092】
上記NH
3ガス発生量は、例えば
図6に示す装置を用いて測定することができる。
図6に示す装置を用いた測定方法の具体例を以下に示す。まず、ガスバリア層が形成された樹脂基材のガスバリア層上に、90℃、1分間ホットプレート上で乾燥した後の厚みが500nmとなるように無機ポリマーを含む塗布液を塗布し、硬化処理を実施して無機ポリマー層を形成する。硬化処理後の試料は、無機ポリマー層が大気中の水蒸気と反応しないよう不活性雰囲気下(例えば、乾燥窒素雰囲気下等)で保管する。この無機ポリマー層付き積層フィルムを、不活性雰囲気下の保管箱から取り出し、速やかに、清浄度を確認したガラスチャンバー91(容積940ml)内に収容し、25℃、85%RHに加湿した高純度空気をガラスチャンバー91内に流量1500mL/minで流通させる。流通開始後、5分以内に、加湿空気を流通させながら、オーブン92を用いてガラスチャンバー91内を加熱し、10℃/分以上の昇温スピードで室温から85℃まで昇温した後、85℃で1時間加熱する。1時間の加熱中に試料から発生するガス成分を、吸収液(例えば、純水等)を収容した2段連結インピンジャー93に捕集する。ガス成分捕集後の吸収液をイオンクロマトグラフ(IC)で測定する。吸収液中のアンモニウムイオン濃度(g/mL)に吸収液量(mL)を乗じ、吸収液に捕集されたアンモニウムイオン質量(g)を求め、それをアンモニアに換算し、積層フィルム上に形成した無機ポリマー層の質量(g)で除することにより単位質量当たりのNH
3ガス発生量(質量ppm)を算出する。なお、分子量換算は、アンモニウムイオン分子量:18g/mol、アンモニア分子量:17g/molとして計算を行うことができる。
【0093】
無機ポリマー層103の厚みは、5~3000nmの範囲であることが好ましく、10~2000nmの範囲であることより好ましく、10~1000nmの範囲であることが更に好ましく、20~1000nmの範囲であることがとりわけ好ましい。無機ポリマー層103の厚みが上記の範囲にあると、水蒸気透過防止性及びダークスポット耐性が低下しにくい傾向にあり、また、耐屈曲性が低下しにくい傾向にある。
【0094】
無機ポリマー層103は、一回の塗布で所望の膜厚に調整することもできるし、複数回塗布し所望の膜厚に調整することもできる。複数回塗布する場合には、一回の塗布ごとに硬化処理を実施するほうが、硬化により発生するガスの拡散経路の確保やクラック等の欠陥を補う観点から効果的である。
【0095】
無機ポリマー層103は、ガスバリア層102上に、ポリシラザン等の無機ポリマーを含む塗布液を塗布し、乾燥した後、形成した塗膜を硬化処理することにより形成することができる。塗布液としては、無機ポリマーを溶媒に溶解又は分散させたものを用いることができる。塗布液中の無機ポリマーの濃度は、無機ポリマー層103の厚み及び塗布液のポットライフの要求に応じて適宜調整すればよいが、通常、0.2~35質量%とされる。
【0096】
無機ポリマーであるポリシラザンとしてより具体的には、パーヒドロポリシラザン(PHPS)等が挙げられる。
【0097】
溶媒としては、使用する無機ポリマーと反応せず、無機ポリマーを溶解又は分散させるのに適切であり、且つ、ガスバリア層102に悪影響のない溶媒を適宜選択して用いることができる。溶媒の例としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が挙げられる。溶媒の例としてより具体的には、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素、塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等が挙げられる。これらの溶媒は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0098】
無機ポリマーとしてポリシラザンを用いる場合、酸窒化ケイ素への変性を促進するため、塗布液にアミン触媒、Ptアセチルアセトナート等のPt化合物、プロピオン酸Pd等のPd化合物、Rhアセチルアセトナート等のRh化合物等の金属触媒を添加することもできる。
【0099】
ポリシラザンに対する触媒の添加量は、塗布液全量を基準として0.1~10質量%であることが好ましく、0.2~5質量%であることがより好ましく、0.5~2質量%であることが更に好ましい。触媒添加量を上記範囲内とすることにより、反応の急激な進行よる過剰なシラノール形成、膜密度の低下、膜欠陥の増大などを抑制することができる。
【0100】
ガスバリア層102上への塗布液の塗布方法としては、スピンコート法、ローラーコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
【0101】
乾燥は、塗布液中の溶媒を除去できる条件で行えばよい。また、例えば、加熱したホットプレート上で塗布液の塗布及び乾燥を同時に行ってもよい。
【0102】
形成した塗膜の硬化処理方法としては、例えば、プラズマCVD法、イオン注入処理法、紫外線照射法、真空紫外線照射法、酸素プラズマ照射法、加熱処理法等、塗膜中の無機ポリマーを硬化することができる方法を用いることができる。これらの中でも、硬化処理方法としては、波長200nm以下の真空紫外光(VUV光)を塗膜に照射する方法を用いることが好ましい。また、真空紫外光を塗膜に照射する方法は、無機ポリマーとしてポリシラザンを用いた場合により好ましい。
【0103】
ポリシラザンを含む塗膜の硬化処理方法として真空紫外線照射法を用いた場合、塗膜に真空紫外線を照射すると、ポリシラザンの少なくとも一部がSiOxNyで表される酸窒化ケイ素へと改質される。ここで、ポリシラザンとして-(SiH2-NH-)n-で表される構造を有するパーヒドロポリシラザンを用いた場合、SiOxNyへの改質の際にx>0となるためには酸素源が必要となるが、製造過程において塗膜中に取り込まれた酸素及び水分等が酸素源となる。
【0104】
SiOxNyの組成において、Si、O、Nの結合手の関係から、基本的には、x及びyは、2x+3y=4の範囲内となる。酸化が完全に進んだy=0の状態においては、塗膜中にシラノール基を含有するようになり、2<x<2.5の範囲となる場合もある。なお、Siの酸化よりも窒化が進行することは通常考えにくいことから、yは基本的には1以下である。
【0105】
真空紫外線の照射により、パーヒドロポリシラザンから酸窒化ケイ素が生じ、さらには酸化ケイ素が生じる反応機構は、以下のように考えられる。
【0106】
(1)脱水素、それに伴うSi-N結合の形成
パーヒドロポリシラザン中のSi-H結合及びN-H結合は、真空紫外線照射による励起等で比較的容易に切断され、不活性雰囲気下ではSi-Nとして再結合すると考えられる(Siの未結合手が形成される場合もある)。すなわち、パーヒドロポリシラザンは、酸化することなくSiNy組成として硬化する。この場合は、ポリマー主鎖の切断は生じない。Si-H結合やN-H結合の切断は、触媒の存在や加熱によって促進される。切断されたHは、H2として膜外に放出される。
【0107】
(2)加水分解及び脱水縮合によるSi-O-Si結合の形成
パーヒドロポリシラザン中のSi-N結合は水により加水分解され、ポリマー主鎖が切断されてSi-OHを形成する。二つのSi-OHが脱水縮合してSi-O-Si結合を形成して硬化する。これは大気中でも生じる反応であるが、不活性雰囲気下での真空紫外線照射中では、照射の熱によって樹脂基材からアウトガスとして生じる水蒸気が主な水分源となると考えられる。水分が過剰になると、脱水縮合しきれないSi-OHが残存し、SiO2.1~SiO2.3の組成で示されるガスバリア性の低い硬化膜となる。
【0108】
(3)一重項酸素による直接酸化、Si-O-Si結合の形成
真空紫外線照射中、雰囲気下に適当量の酸素が存在すると、酸化力の非常に強い一重項酸素が形成される。パーヒドロポリシラザン中のH及びNは、Oと置き換わってSi-O-Si結合を形成して硬化する。ポリマー主鎖の切断により結合の組み換えが生じる場合もあると考えられる。
【0109】
(4)真空紫外線照射及び励起によるSi-N結合切断を伴う酸化
真空紫外線のエネルギーは、パーヒドロポリシラザン中のSi-Nの結合エネルギーよりも高いため、Si-N結合は切断され、周囲に酸素、オゾン、水等の酸素源が存在すると、酸化されてSi-O-Si結合又はSi-O-N結合が生じると考えられる。ポリマー主鎖の切断により、結合の組み換えが生じる場合もあると考えられる。
【0110】
ポリシラザンを含有する塗膜に真空紫外線照射を施して得られた層の酸窒化ケイ素の組成の調整は、上述の(1)~(4)の酸化機構を適宜組合せて酸化状態を制御することで行うことができる。
【0111】
真空紫外線照射において、ポリシラザンを含有する塗膜が受ける塗膜面での真空紫外線の照度は、1~100000mW/cm2の範囲内であることが好ましく、30~200mW/cm2の範囲内であることがより好ましい。この照度が1mW/cm2以上であれば、改質効率の低下の懸念がなく、100000mW/cm2以下であれば、塗膜にアブレーションを生じることがなく、樹脂基材101にダメージを与えないため好ましい。
【0112】
真空紫外線照射において、ポリシラザンを含有する塗膜に照射される真空紫外線の積算光量(積算照射エネルギー量)は、無機ポリマー層の膜厚で規格化された以下の式において、1.0~100mJ/cm
2/nmの範囲内であることが好ましく、1.5~30mJ/cm
2/nmの範囲内であることがより好ましく、2.0~20mJ/cm
2/nmの範囲であることがさらに好ましく、5.0~20mJ/cm
2/nmの範囲であることがとりわけ好ましい。この規格化積算光量が1.0mJ/cm
2/nm以上であると、改質を充分に行うことができるとともに、得られた無機ポリマー層103における上記NH
3ガス発生量を低減することができる。一方、この規格化積算光量が100mJ/cm
2/nm以下であると、過剰改質条件とはならず、無機ポリマー層103へのクラック発生及び樹脂基材101の熱変形を防止することができる。所望の膜厚にするに当たり、複数回にわたって無機ポリマー層103を硬化させる場合にも、各層に対して、上記規格化積算光量の範囲となることが好ましい。
【数1】
【0113】
真空紫外光源としては、希ガスエキシマランプが好ましく用いられる。Xe、Kr、Ar、Neなどの希ガスの原子は、化学的に結合して分子を作らないため、不活性ガスと呼ばれる。
【0114】
しかし、放電などによりエネルギーを得た希ガスの励起原子は他の原子と結合して分子を作ることができる。希ガスがキセノンの場合には、
e+Xe→Xe*
Xe*+2Xe→Xe2
*+Xe
Xe2
*→Xe+Xe+hν(172nm)
となり、励起されたエキシマ分子であるXe2
*が基底状態に遷移するときに、波長172nmのエキシマ光を発光する。
【0115】
エキシマランプの特徴としては、放射が一つの波長に集中し、必要な光以外がほとんど放射されないので効率が高いことが挙げられる。また、余分な光が放射されないので、対象物の温度を低く保つことができる。さらには始動及び再始動に時間を要さないので、瞬時の点灯点滅が可能である。
【0116】
エキシマ光を得るには、誘電体バリア放電を用いる方法が知られている。誘電体バリア放電とは、両電極間に透明石英などの誘電体を介してガス空間を配し、電極に数10kHzの高周波高電圧を印加することによりガス空間に生じ、雷に似た非常に細いマイクロ・ディスチャージ(micro discharge)と呼ばれる放電であり、マイクロ・ディスチャージのストリーマが管壁(誘導体)に達すると誘電体表面に電荷が溜まるため、マイクロ・ディスチャージは消滅する。
【0117】
このマイクロ・ディスチャージが管壁全体に広がり、生成・消滅を繰り返している放電である。このため、肉眼でも確認できる光のチラツキを生じる。また、非常に温度の高いストリーマが局所的に直接管壁に達するため、管壁の劣化を早める可能性もある。
【0118】
効率よくエキシマ発光を得る方法としては、誘電体バリア放電以外に、無電極電界放電でも可能である。容量性結合による無電極電界放電で、別名RF放電とも呼ばれる。ランプと電極及びその配置は基本的には誘電体バリア放電と同じでよいが、両極間に印加される高周波は数MHzで点灯される。無電極電界放電はこのように空間的にまた時間的に一様な放電が得られるため、チラツキが無い長寿命のランプが得られる。
【0119】
誘電体バリア放電の場合は、マイクロ・ディスチャージが電極間のみで生じるため、放電空間全体で放電を行わせるには外側の電極は外表面全体を覆い、且つ外部に光を取り出すために光を透過するものでなければならない。
【0120】
このため、細い金属線を網状にした電極が用いられる。この電極は、光を遮らないようにできるだけ細い線が用いられるため、酸素雰囲気中では真空紫外光により発生するオゾンなどにより損傷しやすい。これを防ぐためには、ランプの周囲、すなわち照射装置内を窒素などの不活性ガスの雰囲気にし、合成石英の窓を設けて照射光を取り出す必要が生じる。合成石英の窓は高価な消耗品であるばかりでなく、光の損失も生じる。
【0121】
二重円筒型ランプは外径が25mm程度であるため、ランプ軸の直下とランプ側面では照射面までの距離の差が無視できず、照度に大きな差を生じる。したがって、仮にランプを密着して並べても、一様な照度分布が得られない。合成石英の窓を設けた照射装置にすれば、酸素雰囲気中の距離を一様にでき、一様な照度分布が得られる。
【0122】
無電極電界放電を用いた場合には、外部電極を網状にする必要は無い。ランプ外面の一部に外部電極を設けるだけでグロー放電は放電空間全体に広がる。外部電極には通常アルミのブロックで作られた光の反射板を兼ねた電極がランプ背面に使用される。しかし、ランプの外径は誘電体バリア放電の場合と同様に大きいため一様な照度分布にするためには合成石英が必要となる。
【0123】
細管エキシマランプの最大の特徴は、構造がシンプルなことにある。石英管の両端を閉じ、内部にエキシマ発光を行うためのガスを封入しているだけである。
【0124】
細管ランプの管の外径は6~12mm程度で、あまり太いと始動に高い電圧が必要になる。
【0125】
放電の形態は、誘電体バリア放電及び無電極電界放電のいずれも使用できる。電極の形状は、ランプに接する面が平面であってもよいが、ランプの曲面に合わせた形状とすることにより、ランプをしっかり固定できるとともに、電極がランプに密着することで放電がより安定する。また、アルミで曲面を鏡面にすれば、光の反射板にもなる。
【0126】
Xeエキシマランプは、波長の短い172nmの紫外線を単一波長で放射することから、発光効率に優れている。このエキシマ光は、酸素の吸収係数が大きいため、微量な酸素でラジカルな酸素原子種やオゾンを、高濃度で発生することができる。
【0127】
また、波長の短い172nmの光のエネルギーは、有機物の結合を解離させる能力が高いことが知られている。この活性酸素やオゾンと、紫外線放射が持つ高いエネルギーによって、短時間でポリシラザン層の改質を実現することができる。
【0128】
したがって、波長185nm、254nmの発する低圧水銀ランプやプラズマ洗浄と比べ、高スループットに伴うプロセス時間の短縮や設備面積の縮小、熱によるダメージを受けやすい有機材料やプラスチック基板などへの照射を可能としている。
【0129】
エキシマランプは光の発生効率が高いため、低い電力の投入で点灯させることが可能である。また、光照射による温度上昇の要因となる長い波長の光は発せず、紫外線領域、すなわち、短い波長範囲でエネルギーを照射するため、照射対象物の表面温度の上昇が抑えられる特徴を持っている。このため、熱の影響を受けやすいとされるPETなどの可とう性フィルムを有する材料の改質処理に適している。
【0130】
真空紫外線は、酸素が存在すると、酸素による吸収があるため、紫外線照射工程での効率が低下しやすいことから、真空紫外線照射時は、可能な限り酸素濃度の低い状態で行うことが好ましい。すなわち、真空紫外線照射時の酸素濃度は、10~100000体積ppmの範囲内とすることが好ましく、より好ましくは50~50000体積ppmの範囲内であり、更に好ましくは100~10000体積ppmの範囲内である。
【0131】
真空紫外線照射時に、照射環境を満たすガスとしては、乾燥した不活性ガスを用いることが好ましく、中でも、コストの観点から乾燥窒素ガスを用いることが好ましい。酸素濃度の調整は、照射環境内へ導入する酸素ガス、不活性ガスの流量を計測し、流量比を変えることで調整可能である。
【0132】
無機ポリマー層103は、硬化処理前の膜厚に対する硬化処理後の層厚の収縮率({(硬化処理前の膜厚-硬化処理後の層厚)/硬化処理前の膜厚}×100)が10%未満であることが好ましく、9.5%以下であることがより好ましく、9.0%以下であることが更に好ましい。また、上記収縮率は、1.0%以上であることが好ましく、2.0%以上であることがより好ましい。収縮率が上記の範囲にあると、収縮応力により積層フィルムにカール等のひずみが生じる量を抑えることができ、有機EL素子デバイス照明やディスプレイに用いる場合の作製プロセスに適用できる。上記収縮率は、使用する無機ポリマーの種類(例えば、ポリシラザンの種類)、硬化条件(例えば、真空紫外線を用いる場合にはその光強度及び照射時間等)を調整することにより制御することができる。
【0133】
(積層フィルムの構造等)
積層フィルム1は、その全体の厚みが10~300μmであることが好ましく、20~150μmであることがより好ましい。積層フィルム1の全体の厚みが上記の範囲にあると、積層フィルム1を長尺基材とする場合、有機EL素子等の電子デバイスの製造工程において積層フィルム1にシワやヨレが発生し難くなり、積層フィルム1をコントロールすることが容易となる傾向にあり、また、積層フィルム1による光吸収量が増加しないため、発光層から外部への光出射が減少しにくい傾向にある。
【0134】
また、積層フィルム1を有機ELデバイス照明及びディスプレイに利用する場合においては、積層フィルム1は黄色度YIがより低い値となることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることが更に好ましい。このような黄色度YIは、測定装置として3刺激値XYZを算出できる分光光度を用いて、JIS K 7373:2006に準拠することにより測定することができる。
【0135】
また、積層フィルム1を有機ELデバイス照明及びディスプレイに利用する場合、積層フィルム1は全光線透過率がより高いものが好ましい。このような観点からは、積層フィルム1の全光線透過率が80%以上であることがより好ましく、85%以上が更に好ましい。なお、このような全光線透過率は、測定装置として積分球を有する透過測定装置を用いて、JIS K7375:2008に準拠することにより測定することができる。
【0136】
さらに、積層フィルム1を画像表示装置用の有機EL素子の基板に用いる場合、積層フィルム1はヘイズがより低いものが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。一方、積層フィルム1を照明用の有機EL素子用の基板に使用する場合においては、その用途からヘイズはあまり気にならないばかりか、有機ELの発光面が濃淡や斑が生じるような状態で不均一に発光するような場合にヘイズが高い方が却って不均一な発光をぼかしてくれるため、かかる観点からは、ヘイズが高いものを好適に利用することもできる。このように、積層フィルム1は、有機EL素子の用途に応じて、その特性を好適な設計となるように適宜変更しながら使用することができる。
【0137】
また、このような積層フィルム1としては、十分にフレキシブルなもの(十分な可撓性を有するもの)が好ましい。このようなフレキシブルなフィルムとすることで、フレキシブル性が要求される用途に、より好適に利用することができる。
【0138】
[有機EL素子]
図2は、有機EL素子の一実施形態を示す模式断面図であり、
図3は、
図2に示した有機EL素子を封止基板側から見た場合の構造を模式的に示す上面図である。
図2に示すように、本実施形態の有機EL素子10は、支持基板(透明支持基板)としての積層フィルム1と、発光素子部2と、封止材層3と、封止基板4とを備える。以下、各部材について詳細に説明する。なお、積層フィルム1としては、上述した樹脂基材101、ガスバリア層102及び無機ポリマー層103を備える本実施形態の積層フィルム1が用いられる。また、積層フィルム1としては、無色透明であるものが用いられ、上述したように全光線透過率が好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上であるものが用いられる。
【0139】
(発光素子部2)
発光素子部2は、一対の電極(第一電極201及び第二電極203)及び該電極間に配置されている発光層202を備えるものである。このような発光素子部2を構成する一対の電極201,203及び該電極間に配置されている発光層202としては、特に制限されず、公知の有機EL素子に利用されている電極や発光層を適宜利用することができる。例えば、光の取り出し面側の電極を透明又は半透明として、発光層に低分子及び/又は高分子の有機発光材料を用いること等が挙げられる。以下、このような第一電極201、発光層202、第二電極203について詳細に説明する。
【0140】
<第一電極201>
第一電極201は、陽極及び陰極のうちの一方の電極である。
図2に示す実施形態の発光素子部2において、第一電極201は、発光素子部2の外部に発光層202から放射される光を出射することを可能とすべく、光透過性を示す電極(透明又は半透明の電極)を用いる。このような
図2に示す実施形態においては、光透過性を示す第一電極201を陽極として利用する。
【0141】
このような光透過性を示す第一電極201(陽極)としては、金属酸化物、金属硫化物及び金属などの薄膜を用いることができ、電気伝導度及び光透過率がより高いものが好適に用いられる。このような金属酸化物、金属硫化物及び金属などの薄膜からなる電極としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、金、白金、銀、及び銅等からなる薄膜が挙げられる。このような金属酸化物、金属硫化物及び金属などの薄膜としては、ITO、IZO、又は酸化スズからなる薄膜がより好ましい。このような金属酸化物、金属硫化物及び金属などの薄膜を製造する方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等を採用することができる。
【0142】
また、このような第一電極201としては、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。また、このような第一電極201としては、光透過性を有する樹脂と、該光透過性を有する樹脂中に配置された導電性を有するワイヤ状の導電体とからなる膜状の電極(A)であってもよい。このような光透過性を有する樹脂としては、光透過率がより高いものが好ましく、例えば、低密度又は高密度のポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-ノルボルネン共重合体、エチレン-ジメタノ-オクタヒドロナフタレン共重合体、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-6,6、メタキシレンジアミン-アジピン酸縮重合体;ポリメチルメタクリルイミドなどのアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリルなどのスチレン-アクリロニトリル系樹脂;トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロースなどの疎水化セルロース系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのハロゲン含有樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、セルロース誘導体などの水素結合性樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリメチレンオキシド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶樹脂などのエンジニアリングプラスチック系樹脂などが挙げられる。なお、このような第一電極201を構成する樹脂が、陽極上に有機層を塗布法などにより製造する場合に、塗液中に該樹脂がより溶解し難くなるといった観点からは、かかる樹脂として熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、フォトレジスト材料が好適に用いられる。
【0143】
また、上記ワイヤ状の導電体は、径の小さいものが好ましい。ワイヤ状の導電体の径は、400nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。このようなワイヤ状の導電体は、第一電極201を通る光を回折又は散乱するので、第一電極201のヘイズ値を高めるとともに光の透過率を低下させるが、可視光の波長程度又は可視光の波長よりも小さい径のワイヤ状の導電体を用いることによって、可視光に対するヘイズ値を低く抑えるとともに、光の透過率を向上させることができる。
また、ワイヤ状の導電体の径は、小さすぎると、抵抗が高くなるため、10nm以上が好ましい。なお、有機EL素子を照明装置に用いる場合には、第一電極201のヘイズ値はある程度高い方が広い範囲を照らすことができるので、ヘイズ値の高い第一電極201が好適に用いられる場合もある。このように、第一電極201の光学的特性は、有機EL素子が用いられる装置に応じて適宜設定することができる。
【0144】
また、このような膜状の電極(A)に含まれるワイヤ状の導電体は、1本であっても、あるいは、複数本であってもよい。このようなワイヤ状の導電体は、電極(A)中において、網目構造を形成していることが好ましい。すなわち、電極(A)中において、1つ又は複数本のワイヤ状の導電体は、樹脂中の全体に渡って複雑に絡み合うように配置されて網目構造(1本のワイヤ状の導電体が複雑に絡み合う構造や、複数本のワイヤ状の導電体が互いに接触し合って配置されて、2次元的又は3次元的に広がって形成される網目状の構造)を形成していることが好ましい。更に、このようなワイヤ状の導電体は、例えば曲線状でも、針状でもよい。曲線状及び/又は針状の導電体が互いに接触し合って網目構造を形成することによって、体積抵抗率の低い第一電極201を実現することができる。この網目構造は規則的であっても、規則的でなくてもよい。網目構造を形成するワイヤ状の導電体によって、第一電極201の体積抵抗率を下げることも可能である。
【0145】
ワイヤ状の導電体は、少なくとも一部が、第一電極201が配置されている積層フィルム1とは反対側の表面(本実施形態では発光層202側の表面)の近傍に配置されることが好ましい。このようにワイヤ状の導電体を配置することによって、第一電極201の表面部の抵抗を下げることができる。なお、このようなワイヤ状の導電体の材料としては、例えば、銀、金、銅、アルミニウム及びこれらの合金などの抵抗の低い金属が好適に用いられる。ワイヤ状の導電体は、例えば、N.R.Jana, L.Gearheart andC.J.Murphyによる方法(Chm.Commun.,2001, p617-p618)や、C.Ducamp-Sanguesa, R.Herrera-Urbina, andM.Figlarz等による方法(J. Solid State Chem.,Vol.100,1992, p272-p280)によって製造することができる。また、このような電極(A)としては、特開2010-192472号公報に記載の電極と同様の構成としてもよく、その製造方法も特開2010-192472号公報に記載の方法を採用することができる。
【0146】
また、このような第一電極201(陽極)の膜厚は、要求される特性及び工程の簡易さなどを考慮して適宜設定され、例えば10~10000nmであり、好ましくは20~1000nmであり、より好ましくは50~500nmである。
【0147】
<発光層202>
発光層202としては、有機EL素子の発光層(発光する機能を有する層)に利用できる公知の材料からなる層とすればよく、その材料等は特に制限されないが、有機材料からなる発光層であることが好ましい。このような、有機材料からなる発光層としては特に制限されないが、例えば、発光性材料としての蛍光又はりん光を発光する有機物(低分子化合物及び高分子化合物)と、これを補助するドーパントとから形成される層とすることが好ましい。なお、ここにいう高分子化合物とは、ポリスチレン換算の数平均分子量が1×103以上のものである。なお、このような数平均分子量の上限を規定する理由は特にないが、ポリスチレン換算の数平均分子量の上限は通常、1×108以下であることが好ましい。
【0148】
このような発光性材料(蛍光又はりん光を発光する有機物)としては、例えば、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料などが挙げられる。このような色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0149】
また、上記金属錯体系材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、アルミニウム、亜鉛、ベリリウムなど又はテルビウム、ユーロピウム、ジスプロシウムなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0150】
さらに、上記高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0151】
このような発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、及びそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0152】
また、緑色に発光する発光性材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0153】
また、赤色に発光する発光性材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0154】
なお、このような発光性材料の製造方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、特開2012-144722号公報に記載の方法を採用してもよい。
【0155】
また、発光層202においては、発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することが好ましい。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2~200nmであることが好ましい。
【0156】
このような発光層202の形成方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。このような発光層202の形成方法の中でも、塗布法によって形成することが好ましい。上記塗布法は、製造プロセスを簡略化できる点、生産性が優れている点で好ましい。このような塗布法としてはキャスティング法、スピンコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット法等が挙げられる。上記塗布法を用いて発光層を形成する場合、まず発光体と溶媒とを含有する溶液状態の組成物を塗布液として調製し、この塗布液を上述した所定の塗布法によって所望の層又は電極上に塗布し、さらにこれを乾燥することにより、所望の膜厚の発光層を形成することができる。
【0157】
<第二電極203>
第二電極203は、第一電極201とは反対の極性を有する電極であり、第一電極201に対向して配置されるものである。なお、
図2に示す実施形態において、第二電極は陰極である。
【0158】
このような第二電極203(陰極)の材料としては、特に制限されず、公知の材料を適宜利用することができるが、仕事関数が小さく、発光層202への電子注入が容易で、電気伝導度の高い材料を利用することが好ましい。また、
図2に示す実施形態のように、陽極側から光を取り出す構成の有機EL素子においては、発光層から放射される光を陰極で陽極側に反射して、より効率よく光を取り出すといった観点から、第二電極203(陰極)の材料としては可視光反射率の高い材料が好ましい。
【0159】
このような第二電極203(陰極)の材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及び周期表の13族金属などを用いることができる。より具体的には、第二電極203(陰極)の材料としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、上記金属のうちの2種以上の合金、上記金属のうちの1種以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうちの1種以上との合金、又はグラファイト若しくはグラファイト層間化合物等を好適に利用できる。このような合金の例としては、マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、マグネシウム-アルミニウム合金、インジウム-銀合金、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-マグネシウム合金、リチウム-インジウム合金、カルシウム-アルミニウム合金などを挙げることができる。
【0160】
また、第二電極203(陰極)としては導電性金属酸化物及び導電性有機物などからなる透明導電性電極を用いることもできる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、及びIZOを挙げることができ、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などを挙げることができる。なお、第二電極203(陰極)は、2層以上を積層した積層体で構成されていてもよい。また、いわゆる電子注入層を陰極として用いてもよい。
【0161】
このような第二電極203(陰極)の膜厚は、求められる特性及び工程の簡易さなどを考慮して適宜設計でき、特に制限されるものではないが、好ましくは10nm~10μmであり、好ましくは20nm~1μmであり、さらに好ましくは50~500nmである。このような第二電極203(陰極)の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法などを挙げることができる。
【0162】
なお、
図2に示す実施形態においては、第二電極203(陰極)は、外部と電気的に接続が可能となるような接続部(取り出し電極203(a))と電気的に接続されている。
ここで、
図2に示す実施形態においては、取り出し電極203(a)は、第一電極201と同じ材料で形成されている。このような取り出し電極203(a)は、公知の方法で、適宜、製造及び設計することができ、例えば、第一電極201を形成するときに、取り出し電極203(a)の部分を併せてパターン成膜することで形成する等して、容易に製造することができる。
【0163】
<積層フィルム1と発光素子部2との関係>
上述のような一対の電極201,203及び該電極間に配置されている発光層202を備える発光素子部2は、ガスバリア性の積層フィルム(支持基板)1の表面上に配置されたものであり、その発光素子部2の一方の電極(第一電極201)は、積層フィルム1の樹脂基材101上に、ガスバリア層102及び無機ポリマー層103を介して積層されている。ここで、
図3に示すように、発光素子部2は積層フィルム1の表面上の一部にのみ配置することができる。このように積層フィルム1の樹脂基材101との間にガスバリア層102及び無機ポリマー層103を介して一方の電極(第一電極201)を配置することで、積層フィルム1側から発光素子部2に水蒸気が浸入することをより高い水準で防止することが可能となる。なお、樹脂基材101の表面上に発光素子部2の一方の電極(第一電極201)を直接配置した場合には、樹脂基材101中に含まれる水分によって発光素子部2に対する水の浸入が起こり、劣化を十分に抑制することが困難となる。
【0164】
<封止材層3>
封止材層3は、発光素子部2を封止するように積層フィルム1上に配置されている層であり、公知の封止材(例えば、水蒸気透過性が十分に低い接着材のシート等)からなる層を適宜利用することができる。すなわち、このような封止材層3は、積層フィルム1上において発光素子部2の周囲を覆うようにして、発光層202が外気と接触することのないように封止する層である。なお、このような封止に際しては、発光素子として機能させるために、
図2及び
図3に示されるように、一対の電極を外部と電気的に接続するための接続部(例えば、接続配線やいわゆる取り出し電極の部分であって、
図2及び
図3に示す実施形態においては、第二電極203と接続された取り出し電極203(a)の部分並びに第一電極201の外気と接触可能となっている部分(外部に引き出されている第一電極の一部分)が接続部に相当する)は除いて封止する。
【0165】
このような封止材層3を形成する封止材としては、接着性、耐熱性、水分、酸素等に対するバリア性を考慮して、従来公知の任意好適な材料を用いて適宜形成することができ、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂等の他、従来公知の熱硬化性接着剤、光硬化性接着剤及び2液混合硬化性接着剤等の硬化性接着剤等を適宜利用することができる。なお、このような封止材層3を形成するためにシート状の封止材を利用してもよい。このようなシート状の封止材は公知の方法で適宜成形することにより形成することができる。
【0166】
また、このような封止材層3の厚みは、発光素子部2を封止することが可能となるように覆うことが可能な厚みを有していればよく、特に制限されないが、1~120μmとすることが好ましく、3~60μmとすることがより好ましく、5~50μmとすることが更に好ましく、10~40μmとすることがとりわけ好ましい。このような封止材層の厚み(積層フィルム1と封止基板4との間の厚み)が上記の範囲にあると、機械的な強度が低下し難く、外部から封止基板4に圧力が加わった場合、発光素子部2が押されて第一電極201と第二電極203間で短絡してしまう可能性が小さくなる傾向にあり、また、封止材層3の端部からの水分浸入量が増加し難く、有機ELの劣化が生じにくくなる傾向にある。
【0167】
<封止基板4>
封止基板4は、封止材層3上に配置される基板であり、封止材層3の積層フィルム1と接する面とは反対側の面の表面上から、発光素子部2の内部に水蒸気や酸素などが浸入することをより効率よく抑制するという観点や放熱性を向上させるという観点から用いられるものである。なお、封止材層3が発光素子部2を覆うように配置されているため、
図2に示す実施形態においては、発光素子部2と封止基板4との間には、封止材層3が存在することとなる。このように、
図2に示す実施形態においては、封止基板4が積層フィルム1と封止基板4との間に発光素子部2及び封止材層3が介在するように、封止材層3上に配置されている。
【0168】
このような封止基板4としては、公知の材料からなるものを適宜利用することができ、例えば、銅、アルミニウムなどの金属やその金属を含む合金の板又はホイル、ガラス、バリア層が積層されたプラスチック基板等からなるものを好適に利用することができる。また、このような封止基板4は、リジッドな基板であってもよく、フレキシブルな基板であってもよい。
【0169】
また、このような封止基板4の材料としては、放熱性や加工の容易性の観点からは、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金のうちのいずれかの金属材料からなることが好ましい。このような金属材料からなる封止基板4としては、例えば、アルミニウム箔(アルミニウムホイル)や銅箔(銅ホイル)等が好適なものとして挙げられる。
【0170】
さらに、このような封止基板4の中でも、電解法で作製された銅箔は、ピンホールがより少なくなり、水蒸気や酸素などの浸入防止の点でより高い効果が得られる傾向にある観点からより好ましい。すなわち、このような電解法で製造された銅箔(銅ホイル)を封止基板4に用いることで、より効率よく有機EL素子の封止が可能となり、これにより銅箔のピンホールから水分が侵入して有機EL素子が劣化することをより十分に抑制することが可能となる。なお、このような電解法としては、特に制限されず、銅箔を製造することが可能な公知の電解法を適宜採用できる。
【0171】
また、このような封止基板4の厚みは、特に制限されないが、5~100μmとすることが好ましく、8~50μmとすることがより好ましい。このような封止基板4の厚みが上記の範囲にあると、封止基板4の製造時にピンホールの発生を十分に抑制することが可能となり、ピンホールから水分が侵入して有機EL素子が劣化することをより高い水準で抑制することが可能となる傾向にあり、また、封止基板4のフレキシブル性が低下し難く、その結果として有機EL素子を曲げた場合の曲率半径が増加し、有機EL素子のフレキシブル性が低下し難い傾向にある。
【0172】
また、厚み方向(封止基板4に対して垂直な方向)における封止基板4と発光素子部2との間の距離(発光素子部2と封止基板4との間の封止材層3の厚み:第二電極203の封止材層3と接する面と、封止基板4の封止材層3と接する面との間の距離)としては、5~120μmであることが好ましく、10~60μmであることがより好ましい。このような封止基板4と発光素子部2との間の距離が上記の範囲にあると、屈曲時に第二電極203と封止基板4との接触を抑制することができ、ショートの発生を十分に抑制することが可能となる傾向にあり、発光品位が低下しにくくなる傾向にある。また、屈曲時に封止基板4表面の凹凸により第二電極203に圧力がかかり押されても、第一電極201と接触し難いためショートしてしまう可能性が小さくなる傾向にある。また、封止材層3の外気と接触する表面が増大しにくく、封止材層3の横方向(厚み方向に対して垂直な方向:積層フィルム1の表面に対して平行な方向)からの水蒸気の侵入量が増加しにくく、有機EL素子の保管寿命の低下をより高い水準で抑制することが可能となる傾向にある。
【0173】
なお、このような封止基板4は、JIS B 0601-1994の算術平均粗さRaを基準として、封止基板4の封止材層3側の表面の表面粗さが、該封止基板4のもう一方の表面の表面粗さ(外側の表面粗さ)よりも小さな値となるようにして利用することが好ましい。このような封止基板4の封止材層3側の表面の算術平均粗さが、上記の範囲にあると、有機EL素子を屈曲させた場合に、封止基板4の表面上の凹凸形状(表面の粗さにより存在する凹凸の形状)により発光素子部2に傷がつきにくくなるなどして、ショートしにくくなる傾向にある。なお、このような封止基板4の表面粗さを平滑にする処理を施すことも考慮されるが、そのような平滑処理(例えば研磨や表面処理等)を施すとコストが嵩み、有機EL素子の製造時の経済性が低下し、大量生産が困難となるばかりか、表面を平滑にし過ぎると封止材層3との密着性が低下して剥がれ易くなり、有機EL素子を長期に亘って使用することが困難となる傾向にある。また、封止基板4の表面が平滑になると放射率が低下して放熱が困難となる傾向にもある。
【0174】
なお、このような封止材層3及び封止基板4を積層する方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、積層フィルム1上の発光素子部2を覆うように接着性を有する材料からなる封止材を塗工し、その上に封止基板4を積層し、その後、封止材を固着させて、封止材層3及び封止基板4を積層フィルム1上に積層する方法を採用してもよい。また、封止基板4上に、封止材からなる層を予め形成しておき、かかる封止材からなる層が形成された封止基板4を、該封止材からなる層が発光素子部2の周囲を覆うことが可能となるようにしながら押し当て、封止材層3及び封止基板4を積層フィルム1上に積層する方法を採用してもよい。
【0175】
以上、本発明の積層フィルム及びそれを用いた有機EL素子の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明したが、本発明の積層フィルム及びそれを用いた有機EL素子は上記実施形態に限定されるものではない。
【0176】
例えば、
図1及び
図2に示す実施形態において、積層フィルム1は、樹脂基材101、ガスバリア層102及び無機ポリマー層103がこの順に積層された構造を有しているが、積層フィルム1は上記の層以外に、例えば、樹脂基材101及び/又は無機ポリマー層103の表面上に、必要に応じて、プライマーコート層、ヒートシール性樹脂層等を更に備えていてもよい。
【0177】
また、より高いガスバリア性が得られることから、樹脂基材101のガスバリア層102とは反対側の表面に、更にガスバリア層102が形成されていてもよく、該ガスバリア層102上に更に無機ポリマー層103が形成されていてもよい。すなわち、樹脂基材101の両面にガスバリア層102及び無機ポリマー層103が形成されていてもよい。
【0178】
また、
図2に示す有機EL素子の実施形態においては、発光素子部2が一対の電極(第一電極201、第二電極203)及び該電極間に配置されている発光層202を備えるものであったが、発光素子部2は、本発明の目的及び効果を損なわない範囲であれば、他の層を適宜備えていてもよい。以下、このような他の層について説明する。
【0179】
このような有機EL素子において利用することが可能な一対の電極(第一電極201、第二電極203)及び発光層202以外の他の層としては、有機EL素子において利用されている公知の層を適宜利用でき、例えば、陰極と発光層の間に設ける層、陽極と発光層の間に設ける層が挙げられる。このような陰極と発光層の間に設ける層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。なお、陰極と発光層の間に一層のみ設けた場合、かかる層は電子注入層である。また、陰極と発光層の間に二層以上設けた場合は、陰極に接している層を電子注入層と称し、それ以外の層は電子輸送層と称する。
【0180】
このような電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層であり、電子輸送層は、電子注入層又は陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。なお、上記電子注入層、若しくは、上記電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層を正孔ブロック層と称することもある。このような正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、ホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0181】
陽極と発光層の間に設ける層としては、いわゆる正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。ここにおいて、陽極と発光層の間に一層のみ設けた場合、かかる層は正孔注入層であり、陽極と発光層の間に二層以上設けた場合は、陽極に接している層を正孔注入層と称し、それ以外の層は正孔輸送層等と称する。このような正孔注入層は、陰極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層であり、正孔輸送層とは、正孔注入層又は陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。また、正孔注入層、又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層を電子ブロック層と称することがある。なお、電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0182】
また、このような他の層を備える発光素子部の構造としては、陰極と発光層との間に電子輸送層を設けた構造、陽極と発光層との間に正孔輸送層を設けた構造、陰極と発光層との間に電子輸送層を設け、且つ陽極と発光層との間に正孔輸送層を設けた構造等が挙げられる。このような構造としては、具体的には、以下のa)~d)の構造を例示することができる。
a)陽極/発光層/陰極 (
図2に示す実施形態)
b)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
c)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
d)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(ここで、/は各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
【0183】
ここで、正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する層であり、電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する層である。なお、電子輸送層と正孔輸送層を総称して電荷輸送層と呼ぶ。また、発光層、正孔輸送層、電子輸送層は、それぞれ独立に2層以上用いてもよい。また、電極に隣接して設けた電荷輸送層のうち、電極からの電荷注入効率を改善する機能を有し、素子の駆動電圧を下げる効果を有するものは、特に電荷注入層(正孔注入層、電子注入層)と一般に呼ばれることがある。
【0184】
さらに、電極との密着性向上や電極からの電荷注入の改善のために、電極に隣接して上記の電荷注入層又は膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよく、また、界面の密着性向上や混合の防止等のために電荷輸送層や発光層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。
このようにして、発光素子部に積層する層の順番や数、及び各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜設計して用いることができる。
【0185】
このような電荷注入層(電子注入層、正孔注入層)を設けた発光素子部(有機EL素子部)としては、陰極に隣接して電荷注入層を設けた構造のもの、陽極に隣接して電荷注入層を設けた構造のもの等が挙げられる。
【0186】
このような発光素子部(有機EL素子部)の構造としては、例えば、以下のe)~p)の構造が挙げられる。
e)陽極/電荷注入層/発光層/陰極
f)陽極/発光層/電荷注入層/陰極
g)陽極/電荷注入層/発光層/電荷注入層/陰極
h)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
i)陽極/正孔輸送層/発光層/電荷注入層/陰極
j)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷注入層/陰極
k)陽極/電荷注入層/発光層/電荷輸送層/陰極
l)陽極/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
m)陽極/電荷注入層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
n)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷輸送層/陰極
o)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
p)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
【0187】
なお、発光層と他の層(例えば、後述する電荷輸送層等)とを積層する場合には、発光層を設ける前に、陽極上に正孔輸送層を形成する、又は、発光層を設けた後に電子輸送層を形成することが望ましい。また、これらの他の層の材料は特に制限されず、公知の材料を適宜利用することができ、その製造方法も特に制限されず、公知の方法を適宜利用することができる。例えば、陽極と発光層との間、又は正孔注入層と発光層との間に設けられる層である、正孔輸送層を形成する正孔輸送性材料としては、トリフェニルアミン類、ビス類、ピラゾリン誘導体、ポリフィリン誘導体に代表される複素環化合物、ポリマー系では上記単量体を側鎖に有するポリカーボネート、スチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン等が挙げられる。また、このような正孔輸送層の膜厚としては、1nm~1μm程度が好ましい。
【0188】
また、上記電荷注入層のうちの正孔注入層(陽極と正孔輸送層との間、又は陽極と発光層との間に設けることができる層)を形成する材料としては、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0189】
さらに、発光層と陰極との間、又は発光層と電子注入層との間に設けることができる層である電子輸送層を形成する材料としては、例えば、オキサジアゾール類、アルミニウムキノリノール錯体など、一般的に安定なラジカルアニオンを形成し、イオン化ポテンシャルの大きい物質が挙げられる。具体的には、1,3,4-オキサジアゾール誘導体、1,2,4-トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体などが挙げられる。電子輸送層の膜厚としては、1nm~1μm程度が好ましい。
【0190】
また、上記電荷注入層のうちの電子注入層(電子輸送層と陰極との間、又は発光層と陰極との間に設けられる層である)としては、例えば、発光層の種類に応じて、Ca層の単層構造からなる電子注入層、又は、Caを除いた周期律表IA族とIIA族の金属であり且つ仕事関数が1.5~3.0eVの金属及びその金属の酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物の何れか1種又は2種以上で形成された層とCa層との積層構造からなる電子注入層を設けることができる。仕事関数が1.5~3.0eVの、周期律表IA族の金属又はその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられる。また、仕事関数が1.5~3.0eVの、Caを除いた周期律表IIA族の金属又はその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等により形成される。
電子注入層の膜厚としては、1nm~1μm程度が好ましい。
【実施例】
【0191】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0192】
[評価方法]
<ガスバリア性>
積層フィルムのガスバリア性は、水蒸気透過度(Water Vapor Transmission Rate:WVTR)により評価した。水蒸気透過度は、温度40℃、湿度90%RHの条件において、カルシウム腐食法(特開2005-283561号公報に記載される方法)によって算出した。すなわち、積層フィルムに対して、乾燥処理後、金属カルシウムを蒸着し、さらにその上から金属アルミニウムを蒸着し、最後に封止用樹脂を用いてガラスを貼り合せることで封止したサンプルを、温度40℃、湿度90%RHの条件での積層フィルム側の腐食点の経時変化による増加を画像解析で調べて水蒸気透過度を算出した。なお、このような水蒸気透過度の算出に際しては、腐食点をマイクロスコープで撮影し、その画像をパーソナルコンピューターに取り込んで、腐食点の画像を2値化し、腐食面積を算出して求めることにより、水蒸気透過度を算出した。この水蒸気透過度の値が小さいほど、ガスバリア性に優れている。
【0193】
<膜厚>
ガスバリア層及び無機ポリマー層の膜厚は、以下の方法で測定した。すなわち、樹脂基材上にガスバリア層を、ガスバリア層上に無機ポリマー層をそれぞれ形成し、表面粗さ測定器((株)小坂研究所社製、商品名:サーフコーダET200)を用いて、樹脂基材(無成膜部)/ガスバリア層、及び、ガスバリア層/無機ポリマー層の段差測定を行い、ガスバリア層及び無機ポリマー層の膜厚を求めた。
【0194】
<算術平均高さ(Sa)>
積層フィルムの表面平滑性を示す算術平均高さ(Sa)は、三次元非接触表面形状計測システム((株)菱化システム製、商品名:MM557N-M100型)を用い、対物レンズ:10倍、中間レンズ:1倍、カメラ:XC-ST30 1/3型(ソニー(株)製)、視野:468.0μm×351.2μm、測定モード:Smooth Phase、光学フィルターの中心波長:520nmで測定した。積層フィルムにカール等のひずみを生じている場合は、易接着板等を用いてひずみを取り除いた条件で測定を実施した。なお、算術平均高さ(Sa)は、積層フィルムの樹脂基材とは反対側の表面について測定したものである。すなわち、比較例1及び4においてはガスバリア層表面の、実施例1及び3~5、参考例2並びに比較例2~3においては無機ポリマー層表面の算術平均高さ(Sa)である。
【0195】
<NH
3ガス発生量>
NH
3ガス発生量は
図6に示す装置を用いて測定した。まず、ガスバリア層が形成された樹脂基材のガスバリア層上に、90℃、1分間ホットプレート上で乾燥した後の厚みが500nmとなるように実施例
、参考例および比較例と同様の無機ポリマーを含む塗布液(無機ポリマー層塗布液)を塗布し、実施例
、参考例および比較例と同様の手法で硬化処理を実施して無機ポリマー層を形成した。硬化処理後の試料は、無機ポリマー層が大気中の水蒸気と反応しないよう、乾燥窒素を流通した保管箱内に保管した。この無機ポリマー層付き積層フィルム0.5gを、乾燥窒素雰囲気の保管箱から取り出し、速やかに、清浄度を確認したガラスチャンバー91(容積940mL)内に収容し、25℃、85%RHに加湿した高純度空気をガラスチャンバー91内に流量1500mL/minで流通させた。流通開始から2分後、昇温速度10℃/minの速度で、オーブン92を用いてガラスチャンバー91内を加熱し、室温から85℃まで昇温した後、85℃で1時間加熱した。昇温には、6分を要した。1時間の加熱中に試料から発生したガス成分を、吸収液として純水を収容した2段連結インピンジャー93に捕集した。ガス成分捕集後の吸収液をイオンクロマトグラフ(IC)で測定した。吸収液中のアンモニウムイオン濃度(g/mL)に吸収液量(mL)を乗じ、吸収液に捕集されたアンモニウムイオン質量(g)を求め、それをアンモニアに換算し、無機ポリマー層の質量(g)で除することにより単位質量当たりのNH
3ガス発生量(質量ppm)を算出した。なお、分子量換算は、アンモニウムイオン分子量:18g/mol、アンモニア分子量:17g/molとして計算を行った。
【0196】
[比較例1]
(ガスバリア性積層フィルムの作製)
図4に示す製造装置を用いて、樹脂基材上にガスバリア層を形成した。すなわち、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(略称:PENフィルム、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名:テオネックスQ65HA、厚み100μm)を樹脂基材として用い、真空チャンバー内の送り出しロール11に装着した。真空チャンバー内を1×10
-3Pa以下になるまで真空引きした後、樹脂基材を0.5m/minの一定速度で搬送させながら樹脂基材上にガスバリア層の成膜を行った。ガスバリア層を形成させるために用いたプラズマCVD装置においては、一対の電極(成膜ロール31,32)間でプラズマを発生させて、電極表面に密接しながら樹脂基材が搬送され、樹脂基材上にガスバリア層が形成される。また、上記一対の電極は、磁束密度が電極及び樹脂基材表面で高くなるように、電極内部に磁石(磁場発生装置61,62)が配置されており、プラズマ発生時に電極及び樹脂基材上でプラズマが高密度に拘束される。
【0197】
ガスバリア層の成膜にあたっては、成膜ゾーンとなる電極間の空間に向けてヘキサメチルジシロキサンガスを100sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute、0℃、1気圧基準)、酸素ガスを1000sccm導入し、電極ロール間に1.6kW、周波数70kHzの交流電力を供給し、放電してプラズマを発生させた。次いで、真空チャンバー内の排気口周辺における圧力が1Paになるように排気量を調節した後、プラズマCVD法により搬送樹脂基材上にガスバリア層を形成した。得られた積層フィルムのガスバリア層の厚みは501.5nm、全光線透過率は91%、水蒸気透過度は1.6×10-4g/m2/day、算術平均高さ(Sa)は1.1nmであった。
【0198】
(有機EL素子の作製)
得られた積層フィルムのガスバリア層上に、メタルシャドウマスクを用いて、スパッタリング法にて膜厚150nmのITO膜をパターン成膜した。なお、かかるパターン成膜において、ITO膜は、
図2及び
図3に示すように、積層フィルムの表面上において2つの領域が形成されるようにパターン成膜され、一方の領域を陰極用取り出し電極(第二電極の取り出し電極203(a))として利用し、他方の領域を陽極(ITO電極)(第一電極201)として利用した。次に、積層フィルムのITO膜が形成されている面に対して、UVオゾン洗浄装置((株)テクノビジョン製、商品名:UV-312)を用いて10分間のクリーニング及び表面改質処理を実施した。次いで、積層フィルムのITO膜が形成されている面上に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(ヘレウス(株)製、商品名:AI4083)の懸濁液を0.2μm径のフィルターでろ過して得られたろ液を、スピンコートにより製膜し、大気圧下、ホットプレート上において、160℃の温度条件で60分間乾燥して、ITO膜上に65nmの厚みの正孔注入層を形成した。
【0199】
次に、有機溶媒のキシレンに発光材料(高分子化合物)を溶解させたキシレン溶液を準備した。なお、このような発光材料(高分子化合物)は特開2012-144722号公報の実施例1に記載の組成物1の調製方法と同様の手法により調製した。次いで、ITO膜及び正孔注入層が形成された積層フィルムの正孔注入層が形成されている表面上に、大気圧下において、上記キシレン溶液をスピンコート法により塗布し、厚さが80nmの発光層用の塗布膜を製膜した。その後、酸素濃度及び水分濃度がそれぞれ10体積ppm以下に制御された窒素ガス雰囲気下において、130℃の温度条件で10分保持して乾燥させて、正孔注入層上に発光層を積層した。次に、外部電極との接触部(陽極用及び陰極用の取り出し電極の部分)の上に成膜された正孔注入層及び発光層を除去して、外部電極との接触が可能となるように一部を露出させた。その後、蒸着チャンバーにITO膜、正孔注入層及び発光層が形成された積層フィルムを移し、陰極用マスクとの位置を調整(アライメント)して、発光層の表面上に陰極を積層しつつ陰極用の取り出し電極の部分に陰極が電気的に接続されるように陰極を成膜するために、マスクと基板を回転させながら陰極を蒸着した。このようにして形成した陰極は、まず、フッ化ナトリウム(NaF)を加熱して蒸着速度約0.5Å/secで厚さ約4nmとなるまで蒸着した後に、アルミニウム(Al)を蒸着速度約4Å/secで厚さ約100nmとなるまで蒸着して積層した構成とした。
【0200】
次に、厚みが35μmの電解銅ホイルを、陰極上に積層して陰極側から見た場合に、発光層の全体を覆うことが可能で、且つ、外部電極との接触部(陽極用及び陰極用の取り出し電極の部分)の一部が外部にはみ出すような大きさを有する形状(
図3参照:
図3のように、電解銅ホイル(封止基板4)を上部から見た場合に、陰極よりも大きな面積を有して陰極が見えなくなるような大きさで、且つ積層フィルム1上に形成されている外部との接触部(陽極用及び陰極用取出し電極の部分)(第一電極201及び第二電極の取り出し電極203(a))の一部がその電解銅ホイルの外側にはみ出して見えるような大きさを有する形状)にローラーカッターを用いて切り出して、封止基板を準備した。このようにして準備した電解銅ホイルからなる封止基板は縦40mm、横40mm、厚み35μmのものであった。
【0201】
そして、上記封止基板(電解銅ホイル)を、窒素雰囲気中、130℃の温度条件で15分間加熱して、表面に吸着している水分を除去した(乾燥処理を施した)。次いで、封止材としてビスフェノールA型エポキシ樹脂からなる主剤と変性ポリアミドからなる硬化剤との混合により室温(25℃)で硬化する2液型エポキシ接着剤を用いて、ITO膜/正孔注入層/発光層/陰極からなる積層構造部分からなる発光素子部を覆うように封止材を塗布し、その封止材の層上に、封止基板と陰極とが向かい合うように封止基板を貼り合せて、封止を行った。すなわち、ITO膜/正孔注入層/発光層/陰極からなる積層構造部分を覆うように、上記封止材(接着剤)を塗布して(ただし、各電極と外部とを電気的に接続することを可能とするための接続部(取り出し電極の部分)の一部は除く)、窒素中で気泡が入らないようにして、上記陰極形成後の上記積層フィルムの表面上の封止材の層上に、封止基板を貼り合せることで、発光素子部(ITO膜/正孔注入層/発光層/陰極の積層構造部分:取り出し電極の一部は除く)を封止して、有機EL素子を製造した。なお、このような有機EL素子はフレキシブルなものであった。この有機EL素子は、
図2に示す有機EL素子の発光素子部2に対して、更に、正孔注入層を積層したような構造のもの(
図2に示す発光素子部2とは正孔注入層を更に有する点で発光素子部の構成が異なるものの、それ以外は基本的に同様の構成の有機EL素子)である。ここで、封止材層の厚みは10μmであった。なお、封止基板は一方の表面の算術平均粗さRaが0.25μmであり、もう一方の表面の算術平均粗さRaが2.4μmであった。本比較例においては、封止材層と接する側の封止基板の面を、表面のRaが0.25μmである面とした。
【0202】
このような有機EL素子を封止基板側から見た場合の模式図を
図3に示す。また、
図3に示すように、比較例1で得られた有機EL素子を封止基板4側から見ると、積層フィルムと、陽極(第一電極201)の外部に引き出している部分(外部との接続部分:取り出し電極)と、陰極と外部との接続部(第二電極の取り出し電極203(a))と、封止基板4とが確認できる。このように、本比較例において、封止材及び封止基板を用いた封止に際しては、各電極の取り出し電極の一部を外部と接続可能な状態にしながら、発光素子部(ITO膜/正孔注入層/発光層/陰極からなる積層構造部分)の周囲を封止した。なお、発光素子部において、発光エリア(発光する部分の面積)の大きさは縦10mm、横10mmであった。
【0203】
得られた有機EL素子を発光させたところ、縦10mm、横10mmの均一な全面発光が確認された。次に、この有機EL素子を60℃、90%RHの加速試験条件下で保管し、100時間保管後に、再度発光させたときに見られる非発光部(ダークスポット、以下DSと略すことがある)の面積率を求めたところ、19.8%であった。
【0204】
[実施例1]
(ガスバリア性積層フィルムの作製)
比較例1と同様の手法にて、樹脂基材上にガスバリア層が積層された積層フィルムを得た。XPSデプスプロファイル測定により得られた、ガスバリア層の珪素原子、酸素原子、炭素原子及び窒素原子の分布曲線を、縦軸を各元素の濃度を各原子の濃度(at%)とし、横軸をスパッタ時間として作製したグラフを
図8に示した。エッチングレートはSiO
2熱酸化膜換算値で0.09nm/secであった。
図8から明らかなように、上記手法で作製されたガスバリア層は、上述した条件(i)~(iii)を満たす。次に、パーヒドロポリシラザン(メルクパフォーマンスマテリアルズ社製、商品名:アクアミカ NL110-20A、パラジウム触媒タイプ)の20質量%キシレン溶液を無機ポリマー層塗布液として使用し、上記積層フィルムのガスバリア層上に、スピンコート法により90℃のホットプレート上で1分間、乾燥後の膜厚が500nmとなるように塗布し、ポリシラザン層を形成した。
【0205】
次いで、上記形成したポリシラザン層に対し、真空紫外光照射装置((株)エムディエキシマ製、商品名:MEIRA-M-1-152-H2)を用いて、N2ガス流量20L/minの条件で照射装置内の酸素濃度が300体積ppm以下となるよう置換しながら、ポリシラザン層に照射される真空紫外光の積算照度が6000mJ/cm2となる条件で硬化処理を実施し、無機ポリマー層を形成した。これにより、樹脂基材上にガスバリア層及び無機ポリマー層が積層された積層フィルムを得た。無機ポリマー層は、真空紫外光の照射により膜厚が460nmまで収縮し、その収縮率は8.0%であった。得られた積層フィルムの全光線透過率は90%、水蒸気透過度は9.6×10-7g/m2/day、算術平均高さ(Sa)は1.2nm、アンモニアの発生ガス量は116質量ppmであった。
【0206】
(有機EL素子の作製)
上記で作製した積層フィルムを用いたこと以外は比較例1と同様の手法で有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を発光させたところ、縦10mm、横10mmの均一な全面発光が確認された。次に、この有機EL素子を60℃、90%RHの加速試験条件下で保管し、100時間保管後に、再度発光させたときに見られる非発光部(ダークスポット)の面積率を求めたところ、0.0%であった。
【0207】
[参考例2]
(ガスバリア性積層フィルムの作製)
比較例1と同様の手法にて、樹脂基材上にガスバリア層が積層された積層フィルムを得た。次に、パーヒドロポリシラザン(メルクパフォーマンスマテリアルズ社製、商品名:アクアミカ NL110-20A、パラジウム触媒タイプ)の20質量%キシレン溶液を無機ポリマー層塗布液として使用し、上記積層フィルムのガスバリア層上に、スピンコート法により90℃のホットプレート上で1分間、乾燥後の膜厚が500nmとなるように塗布し、ポリシラザン層を形成した。
【0208】
次いで、上記形成したポリシラザン層に対し、真空紫外光照射装置((株)エムディエキシマ製、商品名:MEIRA-M-1-152-H2)を用いて、N2ガス流量20L/minの条件で照射装置内の酸素濃度が300体積ppm以下となるよう置換しながら、ポリシラザン層に照射される真空紫外光の積算照度が600mJ/cm2となる条件で硬化処理を実施し、無機ポリマー層を形成した。これにより、樹脂基材上にガスバリア層及び無機ポリマー層が積層された積層フィルムを得た。無機ポリマー層は、真空紫外光の照射により膜厚が495nmまで収縮し、その収縮率は1.0%であった。得られた積層フィルムの全光線透過率は90%、水蒸気透過度は3.9×10-5g/m2/day、算術平均高さ(Sa)は1.2nm、アンモニアの発生ガス量は3340質量ppmであった。
【0209】
(有機EL素子の作製)
上記で作製した積層フィルムを用いたこと以外は比較例1と同様の手法で有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を発光させたところ、縦10mm、横10mmの均一な全面発光が確認された。次に、この有機EL素子を60℃、90%RHの加速試験条件下で保管し、100時間保管後に、再度発光させたときに見られる非発光部(ダークスポット)の面積率を求めたところ、1.0%であった。
【0210】
[実施例3]
(ガスバリア性積層フィルムの作製)
比較例1と同様の手法にて、樹脂基材上にガスバリア層が積層された積層フィルムを得た。次に、パーヒドロポリシラザン(メルクパフォーマンスマテリアルズ社製、商品名:アクアミカ NL110-20A、パラジウム触媒タイプ)の20質量%キシレン溶液を無機ポリマー層塗布液として使用し、上記積層フィルムのガスバリア層上に、スピンコート法により90℃のホットプレート上で1分間、乾燥後の膜厚が500nmとなるように塗布し、ポリシラザン層を形成した。
【0211】
次いで、上記形成したポリシラザン層に対し、リアクティブイオンエッチング装置(サムコ(株)製、商品名:RIE-200NL)を用いて、RF電力60W、酸素流量30sccm、放電全圧5Pa、10分間の条件で発生させた酸素プラズマを用いてポリシラザン層の硬化処理を実施し、無機ポリマー層を形成した。これにより、樹脂基材上にガスバリア層及び無機ポリマー層が積層された積層フィルムを得た。無機ポリマー層は、硬化処理により膜厚が490nmまで収縮し、その収縮率は2.0%であった。得られた積層フィルムの全光線透過率は90%、水蒸気透過度は1.7×10-5g/m2/day、算術平均高さ(Sa)は1.3nm、アンモニアの発生ガス量は510質量ppmであった。
【0212】
(有機EL素子の作製)
上記で作製した積層フィルムを用いたこと以外は比較例1と同様の手法で有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を発光させたところ、縦10mm、横10mmの均一な全面発光が確認された。次に、この有機EL素子を60℃、90%RHの加速試験条件下で保管し、100時間保管後に、再度発光させたときに見られる非発光部(ダークスポット)の面積率を求めたところ、0.8%であった。
【0213】
[比較例2]
(ガスバリア性積層フィルムの作製)
比較例1と同様の手法にて、樹脂基材上にガスバリア層が積層された積層フィルムを得た。次に、パーヒドロポリシラザン(メルクパフォーマンスマテリアルズ社製、商品名:アクアミカ NL110-20A、パラジウム触媒タイプ)の20質量%キシレン溶液を無機ポリマー層塗布液として使用し、上記積層フィルムのガスバリア層上に、スピンコート法により90℃のホットプレート上で1分間、乾燥後の膜厚が500nmとなるように塗布し、ポリシラザン層を形成した。
【0214】
次いで、上記形成したポリシラザン層に対し、高温高湿試験機(東京理化器械(株)製、商品名:KCL-2000W)を用いて、85℃、85%RH、180分間の条件でポリシラザン層の硬化処理を実施し、無機ポリマー層を形成した。これにより、樹脂基材上にガスバリア層及び無機ポリマー層が積層された積層フィルムを得た。無機ポリマー層は、硬化処理により膜厚が495nmまで収縮し、その収縮率は1.0%であった。得られた積層フィルムの全光線透過率は90%、水蒸気透過度は1.4×10-4g/m2/day、算術平均高さ(Sa)は25.2nm、アンモニアの発生ガス量は79.8質量ppmであった。
【0215】
(有機EL素子の作製)
上記で作製した積層フィルムを用いたこと以外は比較例1と同様の手法で有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を発光させたところ、電力を印加しても発光を得ることはできなかった。
【0216】
[比較例3]
(ガスバリア性積層フィルムの作製)
比較例1と同様の手法にて、樹脂基材上にガスバリア層が積層された積層フィルムを得た。次に、パーヒドロポリシラザン(メルクパフォーマンスマテリアルズ社製、商品名:アクアミカ NL110-20A、パラジウム触媒タイプ)の20質量%キシレン溶液を無機ポリマー層塗布液として使用し、上記積層フィルムのガスバリア層上に、スピンコート法により90℃のホットプレート上で1分間、乾燥及び硬化後の膜厚が500nmとなるように塗布及び硬化処理し、無機ポリマー層を形成した。これにより、樹脂基材上にガスバリア層及び無機ポリマー層が積層された積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの全光線透過率は90%、水蒸気透過度は5.0×10-4g/m2/day、算術平均高さ(Sa)は1.2nm、アンモニアの発生ガス量は28000質量ppmであった。
【0217】
(有機EL素子の作製)
上記で作製した積層フィルムを用いたこと以外は比較例1と同様の手法で有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を発光させたところ、電力を印加しても発光を得ることはできなかった。
【0218】
[比較例4]
(ガスバリア性積層フィルムの作製)
図5に示す製造装置を用いて、樹脂基材上にガスバリア層を形成した。すなわち、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(略称:PENフィルム、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名:テオネックスQ65HA、厚み100μm)を樹脂基材として用い、これを真空チャンバー301内に設置された送り出しロール307に装着し、ガスバリア層の成膜ゾーン311を経て、巻取りロール310まで連続的に搬送できるようにした。樹脂基材を装着後、真空チャンバー301内を1×10
-3Pa以下になるまで真空引きした後、樹脂基材を0.1m/minの一定速度で搬送させながら樹脂基材上にガスバリア層の成膜を行った。樹脂基材の搬送については、ガスバリア層の成膜ゾーン311下部に設置されている矩形の誘電体窓312の一方の対辺二辺に対して平行であって、且つ残りの対辺二辺に対して垂直方向になるように搬送を行った。
【0219】
ガスバリア層を形成させるために用いたプラズマCVD装置においては、誘導結合プラズマを誘電体窓312上に形成した。樹脂基材に用いた二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムは、片面に易接着処理を施した非対称構造をしており、易接着処理が施されていない面へガスバリア層の成膜を行った。成膜にあたって、成膜ゾーン311にモノシランガスを100sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute、0℃、1気圧基準)、アンモニアガスを500sccm、酸素ガスを0.75sccm導入し、誘導コイル303に1.0kW、周波数13.56kHzの電力を供給し、放電してプラズマを発生させた。次いで、真空チャンバー301内の圧力が1Paになるように排気量を調節した後、誘導結合プラズマCVD法により搬送樹脂基材上にガスバリア層を形成し、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムにおけるガスバリア層の厚みは500.0nm、全光線透過率は90%、水蒸気透過度は2.2×10-4g/m2/day、算術平均高さ(Sa)は1.2nmであった。
【0220】
(有機EL素子の作製)
上記で作製した積層フィルムを用いたこと以外は比較例1と同様の手法で有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を発光させたところ、縦10mm、横10mmの均一な全面発光が確認された。次に、この有機EL素子を60℃、90%RHの加速試験条件下で保管し、100時間保管後に、再度発光させたときに見られる非発光部(ダークスポット)の面積率を求めたところ、19.2%であった。
【0221】
[実施例4]
(ガスバリア性積層フィルムの作製)
比較例4と同様の手法にて、樹脂基材上にガスバリア層が積層された積層フィルムを得た。XPSデプスプロファイル測定により得られた、ガスバリア層の珪素原子、酸素原子、炭素原子及び窒素原子の分布曲線を、縦軸を各元素の濃度を各原子の濃度(at%)とし、横軸をスパッタ時間として作製したグラフを
図9に示した。エッチングレートはSiO
2熱酸化膜換算値で0.09nm/secであった。
図9から明らかなように、上記手法で作製されたガスバリア層は、上述した条件(iv)及び(v)を満たす。次に、パーヒドロポリシラザン(メルクパフォーマンスマテリアルズ社製、商品名:アクアミカ NL110-20A、パラジウム触媒タイプ)の20質量%キシレン溶液を無機ポリマー層塗布液として使用し、上記積層フィルムのガスバリア層上に、スピンコート法により90℃のホットプレート上で1分間、乾燥後の膜厚が500nmとなるように塗布し、ポリシラザン層を形成した。
【0222】
次いで、上記形成したポリシラザン層に対し、真空紫外光照射装置((株)エムディエキシマ製、商品名:MEIRA-M-1-152-H2、波長172nm)を用いて、N2ガス流量20L/minの条件で照射装置内の酸素濃度が300体積ppm以下となるよう置換しながら、ポリシラザン層に照射される真空紫外光の積算照度が6000mJ/cm2となる条件で硬化処理を実施し、無機ポリマー層を形成した。これにより、樹脂基材上にガスバリア層及び無機ポリマー層が積層された積層フィルムを得た。無機ポリマー層は、真空紫外光の照射により膜厚が455nmまで収縮し、その収縮率は、9.0%であった。得られた積層フィルムの全光線透過率は89%、水蒸気透過度は4.2×10-6g/m2/day、算術平均高さ(Sa)は1.2nm、アンモニアの発生ガス量は112質量ppmであった。
【0223】
(有機EL素子の作製)
上記で作製した積層フィルムを用いたこと以外は比較例1と同様の手法で有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を発光させたところ、縦10mm、横10mmの均一な全面発光が確認された。次に、この有機EL素子を60℃、90%RHの加速試験条件下で保管し、100時間保管後に、再度発光させたときに見られる非発光部(ダークスポット)の面積率を求めたところ、0.0%であった。
【0224】
[実施例5]
(ガスバリア性積層フィルムの作製)
ポリシラザン層に照射される真空紫外光の積算照度を2000mJ/cm2となる条件に変更して硬化処理を実施した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性積層フィルムを作製した。無機ポリマー層は、真空紫外光の照射により膜厚が460nmまで収縮し、その収縮率は8.0%であった。得られた積層フィルムの全光線透過率は92%、水蒸気透過度は1.3×10-5g/m2/day、算術平均高さ(Sa)は1.2nm、アンモニアの発生ガス量は200質量ppmであった。
【0225】
(有機EL素子の作製)
上記で作製した積層フィルムを用いたこと以外は比較例1と同様の手法で有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子を発光させたところ、縦10mm、横10mmの均一な全面発光が確認された。次に、この有機EL素子を60℃、90%RHの加速試験条件下で保管し、100時間保管後に、再度発光させたときに見られる非発光部(ダークスポット)の面積率を求めたところ、0.3%であった。
【0226】
実施例1
及び3~5
、参考例2並びに比較例1~4で得られた積層フィルム及び有機EL素子の評価結果を下記表1に示す。また、実施例1
及び3~5
、参考例2並びに比較例1及び4で得られた有機EL素子の、初期の発光状態、及び、60℃、90%RHで100時間保管した後の発光状態の観察像を
図7に示す。
図7の写真中の黒点が、ダークスポットと呼ばれる発光不良部である。
【0227】
【符号の説明】
【0228】
1…積層フィルム、2…発光素子部、3…封止材層、4…封止基板、10…有機EL素子、11…送り出しロール、21,22,23,24…搬送ロール、31,32…成膜ロール、41…ガス供給管、51…プラズマ発生用電源、61,62…磁場発生装置、71…巻取りロール、91…ガラスチャンバー、92…オーブン、93…2段連結インピンジャー、101…樹脂基材、102…ガスバリア層、103…無機ポリマー層、201…第一電極、202…発光層、203…第二電極、203(a)…第二電極の取り出し電極、301…真空チャンバー、302…ガス導入配管、303…誘導コイル、304…真空ポンプ(排気)、305…マッチングボックス、306…高周波電源、307…送り出しロール、308,309…搬送ロール、310…巻取りロール、311…成膜部(成膜ゾーン)。