(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-01
(45)【発行日】2022-09-09
(54)【発明の名称】風味付与剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/21 20160101AFI20220902BHJP
A23L 7/113 20160101ALI20220902BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20220902BHJP
【FI】
A23L27/21 Z
A23L7/113
A23L7/10 E
(21)【出願番号】P 2018227991
(22)【出願日】2018-12-05
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内藤 厚憲
(72)【発明者】
【氏名】中村 由美子
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-227244(JP,A)
【文献】特開平10-234314(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0233330(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0065270(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 7/113
A23L 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロリン、糖類、穀粉、アルカリ剤、水及び食用油を加熱して製造
されることを特徴とする、即席麺又はカップライス用の風味付与剤の製造方法。
【請求項2】
前記糖類がフルクトース又はグルコースである請求項1に記載の風味付与剤の製造方法。
【請求項3】
前記穀粉が小麦粉又は米粉である請求項1又は2に記載の風味付与剤の製造方法。
以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の食品に添加して、当該食品の風味を付与することができる風味付与剤の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加工食品をはじめとする各種食品においては、特定の風味を付与又は増強するために香料等の風味付与剤が使用される場合がある。この場合、当該風味付与剤は当該付与される食品に使用されている原料に関係する場合が多い。このような加工食品等の食品に対してその風味を付与又は増強するための風味付与剤は種々のタイプが開示されている。
例えば、以下の先行技術文献1であると、畜肉エキスの風味を改善することを目的としている。また、先行技術文献2であると、トリュフの風味を付与することが可能なトリュフ風味付与剤に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-130057
【文献】特開2018-154716
【0004】
一方、食品が呈する風味については上記以外にも様々な種類・タイプがある。このような風味の中で特に、“穀物を水と共に加熱した際に生じる茹で、炊き又は蒸し等の加熱調理をした際の風味(調理感)”を付与する風味付与剤についても食品業界において求められていた。
しかし、このような風味を付与する風味付与剤に関する先行特許技術文献はほとんど存在しない。その一方、加工食品等に対して穀物を水分と共に加熱した際に生じる調理感を付与・増強させることができれば、一層、加工食品の分野の発展に寄与することが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の発明者らは“穀物を水と共に加熱した際に生じる茹で、炊き又は蒸し等の加熱調理をした際の風味(調理感)”呈する風味付与剤の製造方法を開発することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの鋭意研究の結果、アミノ酸の一種であるプロリンに対して、糖類、穀粉、アルカリ剤、食用油を混合して加熱処理することによって前記の穀物の茹で又は炊き当の加熱調理をした際の調理感を呈する風味付与剤を製造することが可能となることを見出し、本発明に至ったのである。
すなわち、本願第一の発明は、
“プロリン、糖類、穀粉、アルカリ剤、水及び食用油を加熱して製造する風味付与剤の製造方法。”、である
【0007】
次に、前記糖類はフルクトース又はグルコースであることが好ましい。
すなわち、本願第二の発明は、
“前記糖類がフルクトース又はグルコースである請求項1に記載の風味付与剤の製造方法。”、である。
【0008】
次に、前記穀粉については小麦粉又は米粉を利用することが好適である。
すなわち、本願第三の発明は、
“前記穀粉が小麦粉又は米粉である請求項1又は2に記載の風味付与剤の製造方法。”、である。
【0009】
次に、本願の風味付与剤は、即席麺やカップライス等の即席食品に好適に利用することができる。すなわち、本願第四の発明は、
“前記風味付与剤が即席食品に利用する風味付与剤である請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。”、である。
【0010】
次に、前記即席食品は即席麺やカップライスに対して好適に利用することができる。
すなわち、本願第五の発明は、
“前記即席食品が即席麺又はカップライスである請求項4に記載の風味付与剤の製造方法。”、である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施の形態に準じて詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
本願第一の発明は、
“プロリン、穀粉、糖類、炭酸水素ナトリウム、水及び油を加熱する風味付与剤の製造方法。”に関するものである。以下に本発明の内容を詳細に説明する。
【0012】
─プロリン─
本発明の風味付与剤はプロリンを含有することを特徴とする。プロリンとはタンパク質を構成するアミノ酸であり、環状構造を持つアミンでもある。
【0013】
─糖類─
糖類としては、種々の糖類が利用可能である。例えば、グルコース、フラクトース等の単糖や糖アルコール、また、ショ糖を初めとする二糖類やデキストリン等の多糖類を含めて種々の糖類を使用することができる。但し、好ましくは、フルクトース及びグルコースである。
【0014】
─穀粉─
穀粉としては、小麦粉、米粉、大麦粉、トウモロコシ粉、片栗粉、緑豆粉、ジャガイモ粉及びタピオカ粉等の種々の穀粉を利用することができる。特に小麦粉及び米粉が好適である。
【0015】
─プロリン、糖類及び穀粉の配合割合─
プロリン、糖類、穀粉の配合割合は、プロリン:フルクトースが5:1~40:1の重量比が好ましく、より好ましくは10:1~20:1の重量比である。
【0016】
─アルカリ剤─
本発明においては、本発明では、アルカリ剤を添加することが必須であるが、使用するアルカリ剤は、一般的に食品に使用されるアルカリ剤であれば良く、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩類、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等のリン酸塩類等が挙げられる。また、アルカリ剤は一種でも、多種を混合したものでもかまわない。また、その使用量としては、後の加熱条件等によって異なるものの、添加後のpHがおよそ7~9程度の範囲に含まれる微弱アルカリ状態としておくことが好ましい。また、さらに好ましくはpHがおよそ7.5~8.5程度である。
【0017】
─水─
本発明においては、上述のプロリン、糖類、穀粉、アルカリ剤を水に溶解・懸濁させた状態にし、後述する食用油を加えるのが一般的である。このようにした状態で食用油を加えて後述するように加熱処理を施すのが一般的な製造方法である。
【0018】
─食用油─
本発明にいう食用オイルとしては種々のオイルを利用することができるが、すなわち、植物油脂、動物油脂等の種々の食用オイルを使用することができる。より具体的には、植物油脂としては、パーム油、菜種油、米油、コーン油、オリーブ油、白絞油、ひまわり油等の種々の植物油脂が挙げられる。また、動物油脂としては、豚脂、牛脂、鶏油等の種々のオイルを利用することができる。
食用油は、プロリン、糖類、穀粉、炭酸水素ナトリウム及び水の混合物と食用油の混合比が、前記混合物:食用油が1:2~1:20の重量比の範囲が好ましい。さらに、1:4~1:10の重量比の範囲がより好ましい。
【0019】
─加熱─
加熱温度としては、特に限定されないが、概ね90℃~160℃位の温度範囲が一般的
である。特に100℃~150℃位の温度範囲がより好ましい。さらに、好ましくは、110℃~140℃程度である。
加熱時間としては、低温度であれば長く、高温度であれば短くすることが好ましい。具体的には、上記温度まで加熱し達温後5分~60分程度の加熱を行う。オートクレープ等によって所定時間加熱することによって製造する。
【0020】
─他の成分─
他の成分として、使用する食用オイルに対して、該食用オイルの劣化を防止する観点か
ら、トコロフェロール、アスコルビン酸モノパルミテート、緑茶抽出物(カテキン)、ロ
ーズマリー抽出物等の抗酸化剤等を含有させることができる。
【0021】
─本発明により得られる風味付与剤の有効成分─
本願発明の製造方法により得られる風味付与剤の香気成分を臭いかぎGC/MSにより解析したところ、2-アセチル-1-ピロリン(2-acetyl-1-pyrroline)、
2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジン(2-acetyl-1,4,5,6-tetrahydropyridine)、
2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン(2-acetyl-3,4,5,6-tetrahydropyridine)の3つの成分が本発明の目的である“穀物の茹で又は炊き、蒸し等の加熱調理をした際の調理感”を呈する上で有効な香気成分となっていることが判明した。
このため、本発明により製造する風味付与剤の風味の評価に関してこれらの2-アセチル-1-ピロリン、2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジン、
2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンの3つの香気成分の生成量を風味付与の効果の指標とすることができる。
【0022】
─本発明の風味付与剤を添加する対象食品─
本発明の風味付与剤は、各種食品に添加して当該食品に穀物を茹で等の加熱処理をした際に生じる風味を付与することができる。特に、穀物を原料とする即席麺やカップライス等の即席食品に好適に利用することができる。
具体的には、例えば、穀物である小麦を使用する麺類に関しては即席麺に好適に利用することができる。
【0023】
また、穀物である米を使用する食品として、即席食品である米を使用するカップライスに利用することができる。このように各種の即席食品(乾燥食品・レトルト食品等)に広く風味付与の目的で利用することができる。さらに、チルド食品や冷凍食品にも使用することができる。
さらに、本発明の風味付与剤を使用する食品については、本発明の風味付与剤の製造時に使用する穀物と風味を付与する対象となる食品の原料となる穀物が一致することが好ましい。
【0024】
すなわち、例えば、小麦を麺の原料として使用する即席麺等の麺類に対して本発明の風味付与剤は穀物として小麦を使用して製造することが好ましい。
また、米を原料として使用するカップライスに対して本発明の風味付与剤は穀物として米を使用して製造することが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下の本発明の実施例について説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定される
ものではない。
【0026】
[試験例1]穀粉の種類の検討
穀粉の種類を検討した。プロリンに対して糖類、アルカリ剤、水、食用油脂及び種々の穀粉を混合して加熱処理することによって風味付与剤を調製した。穀粉の種類による効果の違いを検討した。
表1に配合を示す。表1の試験区1~3に示す成分を混合した後、市販のオートクレープ機に140℃、10分間加熱し、加熱後において各試験区のサンプルを完成させた。
【0027】
【表1】
また、同時に得られた各試験区のサンプルをGC/MS分析(Agilent社製、機種5977)し、2-acetyl-1-pyrroline、2-acetyl-1,4,5,6-tetrahydropyridine、
2-acetyl-3,4,5,6-tetrahydropyridineの含有量を測定した。結果を表2に示す。
【0028】
【0029】
上述の各試験区の風味付与剤を利用して、加工食品として小麦を使用する商品(即席麺)に、当該各試験区の試験例1~3の風味付与剤を添加した。尚、即席麺の場合、麺の原料が小麦である。
具体的には醤油味の即席カップ麺(日清食品株式会社製の出前一丁(登録商標)どんぶり)を利用した。当該即席麺に対して410mlの熱湯を注湯し、3分後に攪拌して即席カップ麺の調理を完成させた。当該調理後の即席麺480gに対して、上述の試験区1~3の風味付与剤を0.1g添加して、風味の付与効果及び嗜好性を評価した。
【0030】
官能評価は、熟練のパネラー5名により行い、“風味”については、穀物を水分と共に加熱した際に生じる調理感を付与させる風味の強弱によって0~9の10段階で評価した。尚、0:コントロールと比較し風味が同じ ⇔ 9:風味が非常に強い、の10段階の評価で行った。
さらに、“嗜好性”については、小麦を使用する商品である即席麺に各試験区の風味付与剤を利用した場合において、当該小麦使用の商品に使用した場合の相性によって0~9の10段階で評価した。尚、0:相性が悪い ⇔ 9:相性が良い、の評価で行った。結果を表3に示す。当該官能評価を以下の表3に示す。
【0031】
【0032】
次に、上述の各試験区の風味付与剤を利用して、米使用商品(カップライス)に、当該各試験区の試験例1~3の風味付与剤を添加した。具体的には米使用商品として、日清食品株式会社製の商品名:カップヌードル「ぶっこみ飯」(登録商標)を調理後において、調理後の360gに対して上述の各試験区1~3の風味付与剤を0.1g添加して、風味の付与効果及び嗜好性を評価した。結果を表4に示す。
【0033】
【0034】
─結果─
穀粉を入れない試験例1に対して、穀粉を入れることで得られた本発明の風味付与剤の有効成分である2-acetyl-1-pyrroline、2-acetyl-1,4,5,6-tetrahydropyridine、
2-acetyl-3,4,5,6-tetrahydropyridineの各成分が増加することが判明した。また、当該風味付与剤の製造に用いた穀粉が小麦粉の場合、当該風味付与剤を同じく小麦粉製品である即席麺に使用すると風味・嗜好性の両面で良好な結果が得られた。
一方、当該風味付与剤の製造に用いた穀粉が米粉の場合、当該風味付与剤を同じく米粉製品であるカップライスに使用すると風味・嗜好性の両面で良好な結果が得られた。
【0035】
[試験例2]糖類の検討
本発明に利用する糖類の種類について検討した。プロリンに対して種々の糖類、アルカリ剤、水、食用油脂及び穀粉(小麦粉)を混合して加熱処理することによって風味付与剤を調製した。糖類の種類による効果の違いを検討した。表5に配合を示す。
【0036】
【0037】
表5の配合により得られた各試験区の風味付与剤について有効成分である2-acetyl-1-pyrroline、2-acetyl-1,4,5,6-tetrahydropyridine、
2-acetyl-3,4,5,6-tetrahydropyridineの各含有量を調べた。結果を表6に示す。
【0038】
【0039】
─結果─
糖類の種類を検討した結果、フルクトースとグルコースの場合に有効成分である2-acetyl-1-pyrroline、2-acetyl-1,4,5,6-tetrahydropyridine及び
2-acetyl-3,4,5,6-tetrahydropyridineを高い含有量で得られることが判明した。
使用する糖類としては、フルクトース及びグルコースが好ましいことが判明した。
【0040】
[試験例3]プロリンに類似する物質の検討
プロリンに類似する物質を用いてその効果を調べた。プロリン及びこれに類似する各種化合物、糖類(フルクトース)、アルカリ剤(炭酸水素ナトリウム)、水、食用油脂(パーム油)及び穀粉(小麦粉)を混合して加熱処理することによって風味付与剤を調製した。表7に配合を示す。
【0041】
【0042】
表7の配合により得られた各試験区の風味付与剤について有効成分である2-acetyl-1-pyrroline、2-acetyl-1,4,5,6-tetrahydropyridine、
2-acetyl-3,4,5,6-tetrahydropyridineの各含有量を調べた。結果を表8に示す。
【0043】
【0044】
─結果─
プロリン以外の物質では本発明の有効成分である2-acetyl-1-pyrroline、2-acetyl-1,4,5,6-tetrahydropyridine、2-acetyl-3,4,5,6-tetrahydropyridineは生成されないことが判明した。