(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】体液粘性測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 11/04 20060101AFI20220905BHJP
G01N 11/00 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
G01N11/04 B
G01N11/00 C
(21)【出願番号】P 2018127461
(22)【出願日】2018-07-04
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】大野 宏毅
(72)【発明者】
【氏名】八谷 百合子
(72)【発明者】
【氏名】坂本 憲児
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-052732(JP,A)
【文献】特表2017-504007(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0065044(US,A1)
【文献】国際公開第2008/097578(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00~11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液の粘性を計測する体液粘性測定装置において、
毛細管現象による力の作用によって前記体液が流れる流路と、
前記体液が前記流路に沿って移動した移動距離及び該移動距離の移動に要した移動時間に基づいて回帰分析し、前記体液の粘性を導出する演算手段とを備え
、
前記演算手段は、前記移動距離を基にした値の二乗を説明変数とし、前記移動時間を目標変数として回帰分析することを特徴とする体液粘性測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の体液粘性測定装置において、前記流路は、親水性内壁面を有する管内に形成されていることを特徴とする体液粘性測定装置。
【請求項3】
請求項1
又は2記載の体液粘性測定装置において、それぞれ前記流路の異なる位置に前記体液が到達したのを検出する少なくとも3つのセンサを更に備え、前記演算手段は、前記各センサが前記体液の到達を検出した時刻を基にして前記移動時間を導出することを特徴とする体液粘性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液の粘性を計測する体液粘性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脱水や出血、あるいは、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ症候群等の様々な疾患によって、血液の粘性が高くなることが知られている。そして、血液の粘性が高いと糖尿病の発生率が上昇することや、腎臓病が重症化する傾向があることが報告されている。
また、唾液腺から口腔内に分泌される唾液は、口腔内を湿らせて発声や食物の嚥下を円滑にする働き、及び、口腔内を清浄に保って虫歯や歯周病を防ぐ働きがある。更に、歯周病に罹患した患者の唾液粘度は健常者の唾液粘度より高いこと、唾液粘度が高いほど歯周病の重症度が増すことが指摘されている。
【0003】
従って、血液や唾液等の体液の粘性及びその経時変化を知ることは、様々な疾患の予防や診断、治療にとって極めて重要である。
そして、従来、液体の粘性の測定には、毛細管粘度計(特許文献1参照)、回転粘度計(特許文献2参照)、転落球粘度計(特許文献3参照)、振動粘度計(特許文献4参照)等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-108045号公報
【文献】特開2015-175841号公報
【文献】特開昭62-082340号公報
【文献】特開2014-219338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の粘度計は、計測対象の液体が微量(例えば、0.1mL以下)である場合に如何にして安定的に粘性を計測するかという点に課題があった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、微量な体液の粘性を計測可能な体液粘性測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る体液粘性測定装置は、体液の粘性を計測する体液粘性測定装置において、毛細管現象による力の作用によって前記体液が流れる流路と、前記体液が前記流路に沿って移動した移動距離及び該移動距離の移動に要した移動時間に基づいて回帰分析し、前記体液の粘性を導出する演算手段とを備え、前記演算手段は、前記移動距離を基にした値の二乗を説明変数とし、前記移動時間を目標変数として回帰分析する。
【0007】
本発明に係る体液粘性測定装置において、前記流路は、親水性内壁面を有する管内に形成されているのが好ましい。
【0009】
本発明に係る体液粘性測定装置において、それぞれ前記流路の異なる位置に前記体液が到達したのを検出する少なくとも3つのセンサを更に備え、前記演算手段は、前記各センサが前記体液の到達を検出した時刻を基にして前記移動時間を導出するのが好ましい。
【0010】
回帰分析によってどのように体液の粘性を計測するかについて、以下に説明する。
水平配置された断面円形(半径r)の管内を、以下の1)~4)に示す条件下で液体が流れる状況を検討する。
1)管は一端が液溜め部に満たされた液体に浸漬され、他端は大気圧中に配されている。管の一端が液溜め部内の液体に浸漬した時刻をゼロとする。
2)管内の液体には、表面張力による引力Fsが他端に向かって作用する。
3)液溜め部の容積は管内の容積に比べて大きく、管の一端から管内に浸入した液体が他端に到達するまで、管の一端は液溜め部内の液体に浸漬されている。
4)管の両端において液体に作用する圧力は等しい(圧力差が無い)。
【0011】
ここで、液体の表面張力をσ、液体の管の内壁に対する接触角をα、管内の液体からなる液柱の長さをl、液体の粘性(粘性率)をη、液体が管内を移動する速度をvとして、引力Fs及び管内の液柱に働く摩擦力Ffは以下の式1、式2でそれぞれ表わされる。
【0012】
【0013】
液体の密度をρとし、引力Fs及び摩擦力Ffを考慮して、管内を移動する液体の運動方程式を表すと、当該運動方程式は以下の式3に示すようになる。
【0014】
【0015】
lv=qとして、式3を整理することで、以下の式4が得られる。
【0016】
【0017】
管内を移動する液体が定常状態、即ち、以下の式5が成立する状態について検討すると、qは以下の式6で表わすことができる。
【0018】
【0019】
式6を時刻ゼロのとき液柱の長さがゼロ(即ち、l=0)の条件で積分すると、以下の式7を得ることができる。なお、tは時刻ゼロからの経過時間を意味する。
【0020】
【0021】
式7は、管が水平に配置されており、液体が管に沿って移動するに当たり液体に作用する駆動力が表面張力であるという条件下でのLucas-Washburnの式である。
【0022】
式7は、以下の式8で示すAを用いると、以下の式9のように簡易的に表すことができる。
【0023】
【0024】
なお、式9において、D(=2r)は管の内径である。式9から管内の液体の移動時間が移動距離の二乗に比例し、その比例係数が液体の粘性に比例することが分かる。
ここで、粘性を計測する液体の種類が決まっていれば(例えば、人の唾液)、液体ごとの表面張力及び接触角の個体差は、液体ごとの粘性の個体差に比べて無視できる大きさである。このことを前提に式9を検討すると、x=l
2、y=tとするxy座標系において、y=bx+aで表わされる直線の傾き、即ちbの値(以下、単に「b」とも言う)と液体の粘性とは、
図1に示すように、比例関係にあることが分かる。
図1において、粘性がゼロに近い領域で直線を破線で記しているのは、粘性が純水より低い体液は存在しないものと考えられるためである。
【0025】
よって、例えば、bを求めることができれば、粘性が判明している液体の粘性とそのbとの1つの関係に基づいて、求めたbから液体の粘性の絶対値(例えば、単位がmPasの値)を導出可能である。
また、bと液体の粘性とは一対一の関係にあることから、bを液体の粘性の相対値として扱っても良い。bを液体の粘性の相対値と扱うことの活用例として、ある人の特定の体液について異なる時刻でbを求め、そのbの変化を調べることで、その人の該当の体液の粘性の相対的な変化(例えば朝食前に比べ朝食後に唾液の粘性が1.3倍になった等)を知ることが挙げられる。
【0026】
そして、液体が管に沿って移動した移動距離及びその移動距離の移動に要した移動時間に基づいて(例えば、液体の移動距離の二乗を説明変数とし、その移動時間を目標変数として)回帰分析することで、y=bx+aのbを導出可能である。目標変数及び説明変数の組み合わせは上記パターンに限定されず、例えば、目標変数を液体の移動距離の二乗とし、説明変数を移動時間としてもよい。この場合は回帰分析で算出されるbの値が液体の粘性率に逆比例(反比例)する。
【0027】
ここまで、管の両端において液体に作用する圧力が等しいことを前提に説明したが、管の両端に圧力差が存在する場合について検討すると、管の両端の圧力差が△Pの場合(例えば、管の一端が大気圧であり、管の他端が陰圧である場合)、A1が以下の式10で表わされる値として、式9は以下の式11となる。
【0028】
【0029】
式11において、管の両端の圧力差△Pが不変であれば、式9から回帰分析を経て液体の粘性を導出するのと同様の考えによって、式11から回帰分析を経て液体の粘性を求めることが可能であることが分かる。
【0030】
また、管を鉛直に配置し、管の下端(一端)を液溜め部内の液体に浸漬する場合について検討すると、管内の液柱には表面張力に加えて重力が働くので、式3における右辺の第1項目が以下の式12となる。
【0031】
【0032】
但し、上向きを正とした。
管が鉛直から角度θ傾いている場合、式12のg(重力加速度)をgcosθに置き変えればよいことから、管内を移動する液体の運動方程式は以下の式13で表わすことができる。
【0033】
【0034】
管内を斜め上向きに移動する液体が定常状態になると、式13の左辺、即ち慣性項が消えるため、定常状態での運動方程式は、以下の式14となり、式14を整理すると式15となる。
【0035】
【0036】
管内で液体が移動して、管内の液柱の長さが以下の式16に示すlcの長さに達すると、表面張力による上向きの力と重力による下向きの力がつり合って液柱の長さが変わらなくなる。
【0037】
【0038】
式15をlcを用いて整理すると、以下の式17となる。
【0039】
【0040】
式17を時間tについて解くと、以下の式18を得ることができる。
【0041】
【0042】
但し、式18において、F(lc、l)及びBはそれぞれ以下の式19、20で表わされる。
【0043】
【0044】
式18は、管を水平に配置した場合の式7に比べて複雑であるが、関数F(lc、l)及びBは粘性ηを含まないので、液体が管に沿って上昇する時間tが液体の粘性ηに比例することを明瞭に見てとることができる。
式18をl≪lcの条件のもとで展開して、近似式を導く。まず、x=l/lcとおき、対数項のx2の項まで残すと、式21に示すように近似できる。
【0045】
【0046】
式21を式18に代入すると、以下の式22となり、式18は式9に帰着する。
【0047】
【0048】
よって、l≪lcの条件下では、管が水平でなくとも、管内の液体の移動時間が移動距離の二乗に比例し、その比例係数が粘性に比例するという結果となる。従って、管が鉛直又は水平に対して斜めに配置されている場合でも、回帰分析によって、液体の粘性を導出可能であることが分かる。
【0049】
また、管が鉛直又は水平に対して斜めに配置され、更に、管の両端に圧力差△Pがある場合(例えば、管の一端が大気圧であり、管の他端が陰圧である場合)は、式14で、
2πrσ・cosαを、2πrσ・cosα+πr2△Pに置き変えればよい。このとき、lcを以下の式23で示す。
【0050】
【0051】
そうすれば、式18と同様の以下の式24を得ることができる。
【0052】
【0053】
式24においても、l≪lcの条件下では、以下の簡易式(式25)が成り立つ。
【0054】
【0055】
式25は式10と同じ式であり、式25において、A1は式10と同じように、以下の式26によって表される。
【0056】
【0057】
従って、管が鉛直又は水平に対して斜めに配置され、管の両端に圧力差△Pがある場合でも、回帰分析によって、液体の粘性を導出できることが分かる。
【発明の効果】
【0058】
本発明に係る体液粘性測定装置は、毛細管現象による力の作用によって体液が流れる流路と、体液が流路に沿って移動した移動距離及びその移動距離の移動に要した移動時間に基づいて回帰分析し、体液の粘性を導出する演算手段とを備えるので、毛細管現象によって流路を流れる量の体液が確保されればよく、微量な体液の粘性を計測することが可能である。また、体液の移動時間の測定位置が3つ以上であれば、回帰分析することができるので、例えばノイズの混入や流路内面の不均一性などによる偶然誤差の影響を最小限に抑えて信頼性の高い粘性の値を求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図2】(A)、(B)、(C)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る体液粘性測定装置の説明図である。
【
図3】演算手段が受信する信号の計測結果を示す説明図である。
【
図4】100mMのNaCl水溶液の移動距離の二乗とその移動時間との関係を示す説明図である。
【
図5】33.5wt%のショ糖水溶液の移動距離の二乗とその移動時間との関係を示す説明図である。
【
図6】本発明に係る体液粘性測定装置が算出したbの値と従来の粘度計で計測した粘性との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図2(A)、(B)、(C)に示すように、本発明の一実施の形態に係る体液粘性測定装置10は、管11の内側に形成され体液BFが流れる流路と、体液BFが管11内の流路に沿って移動した移動距離及び移動距離の移動に要した移動時間に基づいて回帰分析し、体液BFの粘性を導出する演算手段12を備えている。以下、詳細に説明する。
【0061】
体液粘性測定装置10は、
図2(A)、(B)、(C)に示すように、長尺のベース板13と、ベース板13に取り付けられた液溜め部材14と、ベース板13に固定された光センサ15、16、17、18、19と、増幅回路20を介して光センサ15、16、17、18、19に接続された演算手段12を有している。なお、
図2(B)、(C)では、増幅回路20及び演算手段12の記載を省略している。
【0062】
ベース板13の一面側には、長手方向に沿って直線状の溝21が形成されている。ベース板13の一面側で長手方向一端部に固定された液溜め部材14には、中央に、貫通孔22が形成されている。貫通孔22の一端はベース板13によって塞がれており、溝21の一端はベース板13の貫通孔22内に対応する部分に位置している。
体液BFの粘性を計測する際、ベース板13は水平配置されて一面側が上側に配される。以下、特に記載しない限り、ベース板13は一面側が上側に配された状態で水平配置されているとする。
【0063】
液溜め部材14には溝21の上方位置に、貫通孔22から外側に開口するスリット23が設けられている。液溜め部材14の表面は疎水加工がなされている。
管11は、断面円形で直線状であり、体液BFが接触する内壁面全体が親水加工されている。即ち、管11は親水性内壁面を有している。管11は、溝21に沿った状態で、一端から他端に渡り外周面の一部が溝21内に収まることによって、ベース板13の一面側に載置され、一端が貫通孔22内に配されて、水平に配置される。以下、特に記載しない限り、管11はベース板13の一面側に載置されているものとする。
【0064】
光センサ15、16、17、18、19は、溝21の近傍に溝21(管11)に沿って等ピッチで配置(即ち、間隔を空けて配置)されている。光センサ15、16、17、18、19はそれぞれ、発光素子及び受光素子を具備し、各光センサ15、16、17、18、19からの距離が最短となる管11の部分に対して発光素子から光を照射し、当該部分で反射される光を受光素子で検出して、その検出値をアナログの電気信号として出力する。
【0065】
光センサ15、16、17、18、19が光を照射する管11の各位置をそれぞれ、光センサ15検出位置、光センサ16検出位置、光センサ17検出位置、光センサ18検出位置、光センサ19検出位置として、光センサ15は、光センサ15検出位置に体液BF(体液BFの下流端)が到達した際に、当該位置に体液BFが到達する前に比べ、受光素子が受光する光の強度が変化する。よって、光センサ15は、受光素子で受光する光の強度の変化によって、光センサ15検出位置に体液BFが到達したのを検出できる。この点、光センサ16、17、18、19についても同様のことが言える。よって、光センサ15、16、17、18、19はそれぞれ、管11内の流路の異なる位置に体液BFが到達したのを検出可能である。
【0066】
増幅回路20は、光センサ15、16、17、18、19から出力されるアナログの電気信号を増幅し、デジタル信号に変換して、演算手段12に送る。
演算手段12は、主として、ソフトウェアがインストールされたコンピュータによって構成でき、演算手段12には、予め、管11の一端から光センサ15検出位置までの距離(以下、l1とする)、管11の一端から光センサ16検出位置までの距離(以下、l2とする)、管11の一端から光センサ17検出位置までの距離(以下、l3とする)、管11の一端から光センサ18検出位置までの距離(以下、l4とする)、管11の一端から光センサ19検出位置までの距離(以下、l5とする)が入力されている。演算手段12は、増幅回路20からデジタル信号を受信し、そのデジタル信号を基に、体液BFが管11に沿ってl1移動した移動時間、体液BFが管11に沿ってl2移動した移動時間、体液BFが管11に沿ってl3移動した移動時間、体液BFが管11に沿ってl4移動した移動時間を求め、体液BFの粘性を導出する。
【0067】
本実施の形態では、液体BFの粘性を導出するにあたり、以下の処理がなされる。
(1)管11がベース板13に載置されていない(非接触の)状態で、貫通孔22の上方から貫通孔22内に体液BFを入れる。液溜め部材14は疎水性を有することから、貫通孔22に入れられた体液BFが、スリット23を通って貫通孔22の外側に流れ出ることはない。
【0068】
(2)光センサ15、16、17、18、19から電気信号が出力される状態にした後、空の管11を、一端が貫通孔22内に配されるように、スリット23を挿通した状態でベース板13の一面側に載置する。これによって、貫通孔22内の体液BFは、管11の一端から管11内に流入し、毛細管現象の力の作用によって管11の内側(流路)を管11の他端に向かって移動する。よって、管11内に形成された流路に沿って体液BFが流れ、管11内の体液BFからなる液柱は時間の経過と共に長くなる。
【0069】
体液BFが管11の他端に向かって進行中、光センサ15、16、17、18、19はそれぞれ、光センサ15検出位置、光センサ16検出位置、光センサ17検出位置、光センサ18検出位置、及び、光センサ19検出位置に体液BFが到達(を体液BFが通過)したのを検出する。
【0070】
ここで、光センサ15、16、17、18、19が体液BFの到達を検出した時刻をそれぞれt1、t2、t3、t4、t5として、光センサ15、16、17、18、19が体液BFの到達を検出した時刻から、体液BFが光センサ15検出位置から光センサ16検出位置までの移動距離(l2-l1)を移動するのに要した移動時間(t2-t1)、体液BFが光センサ15検出位置から光センサ17検出位置までの移動距離(l3-l1)を移動するのに要した移動時間(t3-t1)、体液BFが光センサ15検出位置から光センサ18検出位置までの移動距離(l4-l1)を移動するのに要した移動時間(t4-t1)、体液BFが光センサ15検出位置から光センサ19検出位置までの移動距離(l5-l1)を移動するのに要した移動時間(t5-t1)を導出することができる。
【0071】
本実施の形態では、演算手段12が、体液BFが光センサ15検出位置に到達した時刻をゼロとして各種の算出を行うことから、t1=0、t2-t1=t2、t3-t1=t3、t4-t1=t4、t5-t1=t5となる。そして、演算手段12は、x=l2、y=tとして、(x、y)=(l1
2、0)、(l2
2、t2)、(l3
2、t3)、(l4
2、t4)、(l5
2、t5)を、y=bx+aにあてはめた回帰分析(体液BFの移動距離を基にした値の二乗を説明変数とし、その移動時間を目標変数とした回帰分析)を行い、y=bx+aのbを求めて、体液BFの粘性を算出する。
【0072】
本実施の形態では、光センサ15に体液BFが到達した瞬間を時刻ゼロとした。この点、式7では体液が管の一端に侵入した瞬間を時刻ゼロとしている。このように時間をずらしても回帰分析から求められるbの値は変わらない。式7は時間tの一次式なので、時刻に任意の定数を加えて時間の原点を移動することが可能である。
一方、式7は移動距離lの2次式であることから、移動距離lに任意の定数を加えることはできない。つまり、体液の移動距離lは、正確に管の一端(体液の導入端)を原点として測定しなければならない。
【0073】
また、本実施の形態では、まず貫通孔22内に体液BFを入れ、空の管11を、一端が貫通孔22内に配されるように、ベース板13の一面側に載置することによって体液BFの流動を開始する方法を説明した。流動開始方法はこれに限らない。例えば、貫通孔22内に体液BFを入れていない状態で、空の管11を一端が貫通孔22内に配されるようにベース板13の一面側に載置しておき、ピペット等で体液BFを貫通孔22内に投与して体液BFの流動を開始させてもよい。
【実施例】
【0074】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。本実験では前述した体液粘性測定装置10を用いた。管11の長さは116mm、管11の内径は1.05mmであり、l1=23mm、l2=38mm、l3=53mm、l4=68mm、l5=83mmであった。
【0075】
まず、貫通孔22に濃度が100mMのNaCl水溶液(以下、単にNaCl水溶液とも言う)を入れた後、管11をベース板13の一面側に載置し、NaCl水溶液が管11の一端から他端に進むようにして、演算手段12が受信する信号の変化を調べた。その結果を
図3に示す。
図3において、縦軸は信号の大きさ(電圧値)を表し、横軸は時刻を表す。
図3に示す実験結果より、5個の光センサ15、16、17、18、19が、それぞれに対応する検出位置にNaCl水溶液が到達したのを検出できることが確認できる。
【0076】
そして、新たな管11を用いて、同様の手順で、NaCl水溶液が管11の一端から他端に進むようにし、光センサ15、16、17、18、19それぞれが、NaCl水溶液の到達を検出した時刻(t1、t2、t3、t4、t5)を調べたところ、その結果は以下の表1に記すようになった。なお、t1=0とした。
【0077】
【0078】
表1に記した値について、x=l
2、y=tとして、光センサ15、16、17、18、19それぞれに対応する測定値、即ち、(l
1
2、t
1)、(l
2
2、t
2)、(l
3
2、t
3)、(l
4
2、t
4)、(l
5
2、t
5)を、y=bx+aにあてはめて回帰分析を行い、b及びaを算出すると、b=0.0627、a=-25.453となり、決定係数R
2は、R
2=0.9985であった。y=0.0627x-25.453の直線と各測定値との関係は座標軸上で
図4に示すようになった。
図4から各測定値がy=0.0627x-25.453から大きく外れていないことが分かる。
【0079】
3つ以上の測定値があれば回帰分析を行うことが可能なため、表1に記した値に対し、5つの測定値の中で3つ、4つ又は5つの測定値を選択して、それぞれb及びR2を算出した。算出結果を表2に示す。
【0080】
【0081】
表2において、測定値1、2、3、4、5は、光センサ15、16、17、18、19の測定値にそれぞれ対応する。
【0082】
また、NaCl水溶液に対する手順と同様の手順によって、33.5wt%のショ糖水溶液について、回帰分析を行い、y=bx+aのb及びaと決定係数R
2を算出すると、b=0.2154、a=-123.36、R
2=0.9999であった。y=0.2154x-123.36の直線と各測定値との関係を
図5に示す。
【0083】
そして、100mMのNaCl水溶液、16.8wt%のショ糖水溶液及び33.5wt%のショ糖水溶液について、従来の粘度計によって計測した粘性(計測時の気温は25℃)はそれぞれ1.0mPas、1.61mPas、3.35mPasであった。これに対して、体液粘性測定装置10で算出したbを比較すべく、100mMのNaCl水溶液についてbを得る処理を6回行って求めた6個のbの平均値は0.06218であり、16.8wt%のショ糖水溶液についてbを得る処理を6回行って求めた6個のbの平均値は、0.10185であり、33.5wt%のショ糖水溶液についてbを得る処理を4回行って求めた4個のbの平均値は、0.22285であった。従来の粘度計によって計測した各水溶液の粘性と体液粘性測定装置10で算出した各水溶液のbの平均値の関係は
図6に示すようになり、bの値と液体の粘性は比例関係にあることが分かる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、管を設ける代わりに、溝を設けてもよく(その場合、溝が流路となる)、管を設ける場合、その管は断面円形でなくてよい(例えば、断面四角形の管を採用可能である)。
そして、流路は鉛直に配されていてもよいし、水平に対し傾斜していてもよい。
【0085】
また、流路を移動する体液の移動距離及びその移動に要した移動時間の値を得るために、前述した反射型の光センサを用いる必要はなく、例えば、透過型の光センサや静電センサ等のセンサを用いることができる。更に、センサを用いて体液の移動を検出する代わりに、カメラで体液の移動の様子を撮像し、撮像した動画を解析することによって、体液の移動距離や移動時間を得るようにしてもよい。
そして、体液の移動を検出する位置は3箇所以上であればよく、5箇所である必要はない。
【符号の説明】
【0086】
10:体液粘性測定装置、11:管、12:演算手段、13:ベース板、14:液溜め部材、15、16、17、18、19:光センサ、20:増幅回路、21:溝、22:貫通孔、23:スリット、BF:体液