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特許7134434物性改善処理をした甲殻類の製造方法及びレトルト食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】物性改善処理をした甲殻類の製造方法及びレトルト食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/40 20160101AFI20220905BHJP
   A23L 3/00 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
A23L17/40 A
A23L3/00 101C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019046720
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020145973
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】木村 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】山岡 浩
(72)【発明者】
【氏名】張替 敬裕
(72)【発明者】
【氏名】仲西 由美子
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-240210(JP,A)
【文献】特開2008-182966(JP,A)
【文献】特開2005-261305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する第1のアルカリ処理工程と、
前記第1のアルカリ処理工程の後に食塩を含むpH2~5の溶液に甲殻類を浸漬する酸処理工程と、
前記酸処理工程の後にpH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する第2のアルカリ処理工程と、を含むことを特徴とする物性改善処理をした甲殻類の製造方法。
【請求項2】
前記食塩を含むpH2~5の溶液の食塩濃度が10質量%以上である請求項1に記載の物性改善処理をした甲殻類の製造方法。
【請求項3】
前記第1のアルカリ処理工程の前にトランスグルタミナーゼを含む溶液に甲殻類を浸漬するトランスグルタミナーゼ処理工程を含む請求項1又は2に記載の物性改善処理をした甲殻類の製造方法。
【請求項4】
前記甲殻類がエビ、又はカニである請求項1から3のいずれかに記載の物性改善処理をした甲殻類の製造方法。
【請求項5】
レトルト食品の製造方法であって、
請求項1から4のいずれかに記載の方法で製造された物性改善処理をした甲殻類を含む食品を110~140℃で加熱するレトルト処理工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項6】
前記レトルト処理工程が、甲殻類をpH5以下のソースとともに加熱する工程である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記レトルト処理工程が、甲殻類をトマトソースとともに加熱する工程である請求項5又は6に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物性改善処理をした甲殻類の製造方法及びレトルト食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、保存性、及び簡便性の点から多くのレトルト食品が流通し、販売されている。レトルト食品は、長期保存が可能である利点を有する反面、製造時に強い加熱殺菌処理を必要とすることから、レトルト食品に含まれる具材中のタンパク質が変性し、その具材が硬い食感や脆い食感となる欠点を有する。
特に、具材に甲殻類が含まれる場合にこの欠点は顕著であり、甲殻類を使用するレトルト食品において、品質上の大きな課題であった。
【0003】
従来、水産物の物性を改善する方法として、トランスグルタミナーゼ溶液に浸漬する工程、食塩水又は食塩粉末中に浸漬する工程、及びリン酸塩溶液に浸漬する工程を含む方法(例えば、特許文献1参照)や、酸性溶液に浸漬する工程、及びアルカリ溶液に浸漬する工程を含む方法(例えば、特許文献2参照)、酸性溶液に浸漬する工程、又はアルカリ溶液に浸漬する工程を含む方法(例えば、特許文献3参照)、リン酸塩及び食塩を含む溶液に浸漬する工程を含む方法(例えば、特許文献4参照)が提案されている。しかしながら、これらの提案の技術は、水産物の軟化が十分ではなかったり、得られた水産物が脆い物性を示すという問題がある。
【0004】
したがって、レトルト処理後の脆さが軽減され食感が優れた甲殻類の簡便な製造方法及びレトルト食品の製造方法は未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-240210号公報
【文献】特開2008-182966号公報
【文献】特開2002-315550号公報
【文献】特開平1-181767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、レトルト処理後の脆さが軽減され食感が優れた甲殻類の簡便な製造方法及びレトルト食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、pH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する第1のアルカリ処理工程と、前記第1のアルカリ処理工程の後に食塩を含むpH2~5の溶液に甲殻類を浸漬する酸処理工程と、前記酸処理工程の後にpH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する第2のアルカリ処理工程と、を含む製造方法を採用することにより、簡便に、レトルト処理後の脆さが軽減され食感が優れた甲殻類が製造できることを知見した。
【0008】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> pH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する第1のアルカリ処理工程と、前記第1のアルカリ処理工程の後に食塩を含むpH2~5の溶液に甲殻類を浸漬する酸処理工程と、前記酸処理工程の後にpH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する第2のアルカリ処理工程と、を含むことを特徴とする物性改善処理をした甲殻類の製造方法である。
<2> 前記食塩を含むpH2~5の溶液の食塩濃度が10質量%以上である前記<1>に記載の物性改善処理をした甲殻類の製造方法である。
<3> 前記第1のアルカリ処理工程の前にトランスグルタミナーゼを含む溶液に甲殻類を浸漬するトランスグルタミナーゼ処理工程を含む前記<1>又は<2>に記載の物性改善処理をした甲殻類の製造方法である。
<4> 前記甲殻類がエビ、又はカニである前記<1>から<3>のいずれかに記載の物性改善処理をした甲殻類の製造方法である。
<5> レトルト食品の製造方法であって、前記<1>から<4>のいずれかに記載の方法で製造された物性改善処理をした甲殻類を含む食品を110~140℃で加熱するレトルト処理工程を含むことを特徴とする製造方法である。
<6> 前記レトルト処理工程が、甲殻類をpH5以下のソースとともに加熱する工程である前記<5>に記載の製造方法である。
<7> 前記レトルト処理工程が、甲殻類をトマトソースとともに加熱する工程である前記<5>又は<6>に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、レトルト処理後の脆さが軽減され食感が優れた甲殻類の簡便な製造方法及びレトルト食品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(レトルト前処理方法)
本発明の物性改善処理をした甲殻類の製造方法は、レトルト前処理方法としてレトルト処理前にpH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する第1のアルカリ処理工程と、前記第1のアルカリ処理工程の後に食塩を含むpH2~5の溶液に甲殻類を浸漬する酸処理工程と、前記酸処理工程の後にpH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する第2のアルカリ処理工程とを含み、さらにその他の工程を含むことができる。
【0011】
<第1のアルカリ処理工程>
前記第1のアルカリ処理工程は、pH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する工程である。酸処理工程の前にアルカリ処理工程を行うことにより、筋組織の保水力を高め、酸処理による甲殻類の収縮を軽減することができる。酸処理による甲殻類の収縮を効率よく軽減する点から、酸処理工程の直前にアルカリ処理を行うことが好ましい。
【0012】
前記甲殻類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、生の甲殻類であっても、加熱処理した甲殻類であってもよい。
前記加熱処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、焼くことによる加熱、煮ることによる加熱、炒めることによる加熱、蒸すことによる加熱、茹でることによる加熱などが挙げられる。
【0013】
前記甲殻類の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イセエビ、タイショウエビ、クルマエビ、ブラックタイガー、バナメイエビ、アマエビ、シバエビ、ボタンエビ、シロエビ、シラエビ、アカエビ、テナガエビ、オオコシオリエビ(クモエビ)、アミエビ、サクラエビ、カナダキングエビ、ナンバンエビ、シマエビ、ゴシキエビ、ウチワエビ等のエビ、並びにタラバガニ、ズワイガニ、毛ガニ、ハナサキガニ、紅ズワイガニ、ワタリガニ、クリガニ、アブラガ二、タカアシガニ、イシガニ、イバラガニ、アサヒガニ、モクズガニ、サワガニ、スナガニ、イソガニ、イチョウガニ、上海ガニ等のカニなどが挙げられる。これらの中でも、エビが好ましい。
前記エビは、殻、頭部、付属肢を除去したものが好ましく、前記カニは、殻、甲羅を除去したものが好ましい。
【0014】
前記甲殻類の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、所望の大きさにカットしたものであってもよい。
【0015】
前記pHとしては、pH8~13である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、pH9.5~13が好ましく、pH10.5~13がより好ましく、pH12~13がさらに好ましい。
【0016】
前記pH8~13の溶液の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸三カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、グルコン酸カリウム、酒石酸カリウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、その他の成分を含むこともできる。
これらのなかでも、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、リン酸三ナトリウムが好ましい。
【0017】
前記pH8~13の溶液の成分の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、0.1%から10%が好ましく、0.3%から5%がより好ましく、0.5%から5%がさらに好ましく、1%から3%が特に好ましい。
【0018】
前記pH8~13の溶液の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、4℃~40℃が好ましく、4℃~30℃がより好ましい。
【0019】
前記pH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、3分間~60分間が好ましく、5分間~30分間がより好ましい。
【0020】
<酸処理工程>
前記酸処理工程は、前記第1のアルカリ処理工程の後に食塩を含むpH2~5の溶液に甲殻類を浸漬する工程である。酸処理を行うことで、レトルト処理時におけるタンパク質の熱分解が抑制され、脆くなりにくくなる。
【0021】
前記pHとしては、pH2~5である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、pH2.5~4.5が好ましい。
【0022】
前記食塩濃度としては、10質量%以上である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましく、飽和食塩水が特に好ましい。
【0023】
前記食塩を含むpH2~5の溶液の食塩以外の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、乳酸、酢酸、アジピン酸、フィチン酸、アスコルビン酸などの有機酸、炭酸、塩酸、リン酸などの無機酸と、そのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、その他の成分を含むこともできる。これらのなかでも、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、クエン酸や酢酸の酸性緩衝液が好ましい。
【0024】
前記食塩を含むpH2~5の溶液の食塩以外の成分の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、0.01Mから2Mが好ましく、0.05Mから1Mがより好ましく、0.1Mから1Mがさらに好ましく、0.1Mから0.5Mが特に好ましい。
【0025】
前記食塩を含むpH2~5の溶液の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、4℃~40℃が好ましく、4℃~30℃がより好ましい。
【0026】
前記食塩を含むpH2~5の溶液に甲殻類を浸漬する時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、10分間~3時間が好ましく、30分間~2時間がより好ましく、30分間から1.5時間が更に好ましい。
【0027】
<第2のアルカリ処理工程>
前記第2のアルカリ処理工程は、前記酸処理工程の後にpH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する工程である。
条件等は、前記第1のアルカリ処理工程と同様である。
【0028】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、第1のアルカリ処理工程前のトランスグルタミナーゼ処理工程、第2のアルカリ処理工程後の加熱工程、第2のアルカリ処理工程後の冷却工程などが挙げられる。
【0029】
<<第1のアルカリ処理工程前のトランスグルタミナーゼ処理工程>>
【0030】
第1のアルカリ処理工程前のトランスグルタミナーゼ処理工程は、前記第1のアルカリ処理工程前に、トランスグルタミナーゼ溶液に甲殻類を浸漬する工程である。
【0031】
前記トランスグルタミナーゼとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、哺乳動物、魚類又は微生物等由来のトランスグルタミナーゼが挙げられる。
前記微生物由来のトランスグルタミナーゼとしては、アクティバTG―K(味の素株式会社)などが挙げられる。
【0032】
前記トランスグルタミナーゼの濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、0.002%~2%が好ましく、0.01%~0.05%がより好ましい。
【0033】
前記トランスグルタミナーゼ溶液のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、pH6~10が好ましく、pH7~9がより好ましい。
【0034】
前記トランスグルタミナーゼ溶液の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、40℃~70℃が好ましく、50~60℃がより好ましい。
【0035】
前記トランスグルタミナーゼ溶液に甲殻類を浸漬する時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される点で、10分間~18時間が好ましく、30分間~12時間がより好ましく、1時間から6時間が更に好ましい。
【0036】
<<第2のアルカリ処理工程後の加熱工程>>
第2のアルカリ処理工程後の加熱工程は、前記第2のアルカリ処理工程後の物性改善処理をした甲殻類を加熱処理する工程である。
【0037】
前記加熱処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、焼くことによる加熱、煮ることによる加熱、炒めることによる加熱、蒸すことによる加熱、茹でることによる加熱などが挙げられる。
生の甲殻類を使用した場合は、本工程により、内在酵素を失活させる、又は弱めることができる。
前記第2のアルカリ処理工程後の加熱工程は、加熱処理の後に、さらに、冷却する工程を含むことができる。
前記冷却としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、放冷、差圧冷却、真空冷却、又はこれらの組合せなどが挙げられる。
【0038】
<<第2のアルカリ処理工程後の冷却工程>>
第2のアルカリ処理工程後の冷却工程は、前記第2のアルカリ処理工程後の物性改善処理をした甲殻類を冷却する工程である。
【0039】
前記冷却としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、放冷、差圧冷却、真空冷却、又はこれらの組合せなどが挙げられる。
前記冷却後の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、衛生上の点で、30℃以下が好ましく、25℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。
【0040】
(レトルト食品の製造方法)
本発明のレトルト食品の製造方法は、前記レトルト前処理方法で製造された物性改善処理をした甲殻類を含む食品を110~140℃で加熱する工程を含み、さらにその他の工程を含むことができる。
【0041】
<110~140℃で加熱する工程>
前記110~140℃で加熱する工程は、前記レトルト前処理方法で製造された物性改善処理をした甲殻類を含む食品を110~140℃で加熱する工程である。
【0042】
前記甲殻類を含む食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減される本願の効果がより発揮される点から、甲殻類及びpH5以下のソース、甲殻類及びトマトソースなどが好ましい。
【0043】
前記110~140℃で加熱する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パウチ、缶、瓶等の容器に密封された食品を、品温が110~140℃になるように加熱する方法、パウチ、缶、瓶等の容器に密封された食品を、高圧釜で加熱する方法などが挙げられる。
【0044】
前記110~140℃で加熱する時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3分間以上が好ましく、5分間以上がより好ましく、10分間以上がさらに好ましく、15分間以上が特に好ましい。
【0045】
前記レトルト食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カレー、シチュー、スープ、粥、パスタソース、丼物の具、米飯、ハンバーグ、ミートボール、煮物などが挙げられる。
【0046】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、充填工程、110~140℃で加熱する工程後の冷却工程などが挙げられる。
【0047】
<<充填工程>>
前記充填工程は、前記レトルト前処理方法で製造された物性改善処理をした甲殻類を含む食品を、前記110~140℃で加熱する工程前に、パウチ、缶、瓶等の容器に充填する工程である。
【0048】
<<110~140℃で加熱する工程後の冷却工程>>
前記110~140℃で加熱する工程後の冷却工程は、前記110~140℃で加熱する工程後の食品を冷却する工程である。
前記冷却としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、放冷、水冷、差圧冷却、真空冷却、又はこれらの組合せなどが挙げられる。
前記冷却後の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、衛生上の点で、30℃以下が好ましく、25℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。
【実施例
【0049】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
<レトルト前処理、及びレトルト前処理を行った甲殻類を含むレトルト食品の製造>
(実施例1)
殻、頭部、付属肢を除去した100gのボイルエビ(バナメイエビ)を、500mLの0.02%トランスグルタミナーゼ溶液(pH8)に55℃で2時間浸漬した(トランスグルタミナーゼ処理)。次に、2%リン酸三Na溶液(pH12.4)に25℃で10分間浸漬した(第1のアルカリ処理)。直後に、飽和食塩水となるよう食塩を加えた0.2Mクエン酸緩衝液(pH3)に25℃で1時間浸漬した(酸処理)。次に、2%リン酸三Na溶液(pH12.4)に25℃で10分間浸漬した(第2のアルカリ処理)。得られたレトルト前処理をしたエビに、下記に記載の900gのトマトソース(pH4.1)を加え、レトルト処理(125℃25分間)し、エビ入りトマトソースを製造した。レトルト処理後のエビの食感評価結果を表1に示した。
【0051】
--食感評価--
対照品(比較例1)をコントロールとして、甲殻類の食感を10名のパネルにより下記評価基準にて評価し、平均点を求めた。なお、下記の柔らかさでは、身のプリプリ度合(弾力度合)、水を組織が抱えている度合を評価し、下記の脆さでは、レトルト処理に伴いタンパク質の熱分解が進んで組織が損傷している度合、身の崩れやすさの度合を評価した。
【0052】
(評価基準:柔らかさ)
5:対照品よりも非常に柔らかい
4:対照品よりも柔らかい
3:対照品と同等の弾力感である
2:対照品よりも硬い
1:対照品よりも非常に硬い
【0053】
(評価基準:脆さ)
5:対照品と比べ、脆さが非常に軽減されている
4:対照品と比べ、脆さがやや軽減されている
3:対照品と同等の脆さである
2:対照品と比べ、脆い
1:対照品と比べ、非常に脆い
【0054】
--トマトソースの製造--
1.9kgのダイストマトと1.9kgのトマトペーストを鍋の中で混合した。その他の原料(0.5kgのオリーブオイル、0.2kgの食塩、0.13kgの澱粉)を投入し、5.4kgの水を加え、85℃まで達温させた。
【0055】
(実施例2)
トランスグルタミナーゼ処理を行わなかった点以外は、実施例1と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表1に示した。
【0056】
(実施例3)
第一のアルカリ処理の処理時間を3分間とした点以外は実施例2と同様にエビ入りトマトソースを製造した
【0057】
(比較例1)
第1のアルカリ処理を行わなかった点以外は、実施例2と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表1に示した。
【0058】
(比較例2)
第1のアルカリ処理及び酸処理を行わなかった点以外は、実施例2と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表1に示した。
【0059】
(比較例3)
第1のアルカリ処理及び第2のアルカリ処理を行わなかった点以外は、実施例2と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表1に示した。
【0060】
(比較例4)
第2のアルカリ処理を行わなかった点以外は、実施例2と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表1に示した。
【0061】
(比較例5)
第1のアルカリ処理、酸処理、及び第2のアルカリ処理を行わなかった点以外は、実施例2と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表1に示した。
【0062】
(参考例1)
第1のアルカリ処理、酸処理、第2のアルカリ処理を行わず、レトルト処理の代わりに、90℃10分間の加熱を行った点以外は、実施例2と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表1に示した。
【0063】
【表1】
【0064】
(実施例4)
100gのボイルエビに変えて、100gの生エビを使用した点以外は、実施例1と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表2に示した。
【0065】
(実施例5)
100gのボイルエビに変えて、100gの生エビを使用した点以外は、実施例2と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表2に示した。
(実施例6)
100gのボイルエビに変えて、100gの生エビを使用した点以外は、実施例3と同様にエビ入りトマトソースを製造した
【0066】
(比較例6)
100gのボイルエビに変えて、100gの生エビを使用した点以外は、比較例1と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表2に示した。
【0067】
(比較例7)
100gのボイルエビに変えて、100gの生エビを使用した点以外は、比較例2と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表2に示した。
【0068】
(比較例8)
100gのボイルエビに変えて、100gの生エビを使用した点以外は、比較例3と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表2に示した。
【0069】
(比較例9)
100gのボイルエビに変えて、100gの生エビを使用した点以外は、比較例4と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表2に示した。
【0070】
(比較例10)
100gのボイルエビに変えて、100gの生エビを使用した点以外は、比較例5と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表2に示した。
【0071】
(参考例2)
100gのボイルエビに変えて、100gの生エビを使用した点以外は、参考例1と同様にエビ入りトマトソースを製造した。食感評価結果を表2に示した。
【0072】
【表2】
【0073】
表1及び表2の結果より、pH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する第1のアルカリ処理工程と、前記第1のアルカリ処理工程の後に食塩を含むpH2~5の溶液に甲殻類を浸漬する酸処理工程と、前記酸処理工程の後にpH8~13の溶液に甲殻類を浸漬する第2のアルカリ処理工程を含む製造方法で製造した甲殻類は、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減されることが分かった。また、さらに、トランスグルタミナーゼ処理を事前に行うことにより、さらに、レトルト処理後の食感が優れ、脆さが軽減されることが分かった。