(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-02
(45)【発行日】2022-09-12
(54)【発明の名称】副腎機能低下抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/19 20160101AFI20220905BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220905BHJP
A61P 5/38 20060101ALI20220905BHJP
A61P 5/44 20060101ALI20220905BHJP
【FI】
A23L33/19
A61K38/16
A61P5/38
A61P5/44
(21)【出願番号】P 2018094829
(22)【出願日】2018-05-16
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】津田 悠一
(72)【発明者】
【氏名】山口 真
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 佳緒里
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/132982(WO,A1)
【文献】特開2010-248147(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183595(WO,A1)
【文献】Burnout: evaluation of the efficacy and tolerability of TARGET 1 (Registerd Trademark) for professional fatigue syndrome (burnout), J. Int. Med. Res., 2015, vol. 43, no. 1, p. 54-66
【文献】Lactium Reduces Stress Symptoms - Nutraceuticals World, [online], 2015, [retrieved on 2022.03.08], <URL: https://www.nutraceuticalsworld.com/contents/view_supplier-research/2015-02-09/lactium-reduces-stress-symptoms/>
【文献】Burnout and cortisol: evidence for a lower cortisol awakening response in both clinical and non-clinical burnout, J. Psychosom. Res., 2015, vol. 78, no. 5, p. 445-451
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳タンパク質を有効成分として含有する副腎機能低下抑制剤
であって、
前記乳タンパク質がカゼインタンパク質であり、
(i)暑熱ストレス負荷状態にある対象に摂取させるため、および/または
(ii)前記乳タンパク質を、ヒトにおいて、総タンパク質量で一日あたり0.2g/kg体重以上となるように摂取させるため
の、副腎機能低下抑制剤。
【請求項2】
副腎皮質機能低下抑制剤である、請求項1に記載の副腎機能低下抑制剤。
【請求項3】
コルチゾールまたはコルチコステロン分泌低下抑制剤である、請求項1に記載の副腎機能低下抑制剤。
【請求項4】
ストレス負荷状態にある対象に摂取さ
せるための、請求項1~3のいずれか一項に記載の副腎機能低下抑制剤。
【請求項5】
暑熱ストレス負荷状態にある対象に摂取さ
せるための、請求項1~4のいずれか一項に記載の副腎機能低下抑制剤。
【請求項6】
乳タンパク質
を、ヒトにおいて、総タンパク質量で一日あたり0.2g/kg体重以上となるように摂取さ
せるための、請求項1~
5のいずれか一項に記載の副腎機能低下抑制剤。
【請求項7】
一食あたりの単位包装形態からなり、該単位包装形態中に、乳タンパク質を一食摂取量として総タンパク質量で5g以上含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の副腎機能低下抑制剤。
【請求項8】
乳タンパク質を有効成分として含有する副腎機能低下抑制用食品
であって、
前記乳タンパク質がカゼインタンパク質であり、
(i)暑熱ストレス負荷状態にある対象に摂取させるため、および/または
(ii)前記乳タンパク質を、ヒトにおいて、総タンパク質量で一日あたり0.2g/kg体重以上となるように摂取させるため
の、副腎機能低下抑制用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳タンパク質を有効成分として含有する、副腎機能低下抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体がストレスを受けると、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH:Corticotropin-Releasing Hormone)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH:Adrenocorticotropic Hormone)を介して、副腎皮質からコルチゾール(げっ歯類におけるコルチコステロン)が分泌される。
【0003】
コルチゾールおよびコルチコステロンは、血圧上昇作用、血糖上昇作用、抗炎症作用などが知られており、ストレスに抵抗する生体応答を促す役割を担っている。一方で、副腎機能の低下によりコルチゾール分泌が低減すると、疲労感や脱力感が誘発されることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。過剰なストレスに慢性的にさらされることによって副腎を酷使した結果、副腎の機能低下が生じると考えられている。実際に、ストレスにより疲労を感じている人は、副腎機能が低下しているという報告もある(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
従って、特に現代社会において、ストレスなどによる副腎の機能低下を抑制し、ストレスに抵抗する生体応答を促すことが希求されているといえる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Arlt W et al., Lancet, 361, 1881-1893, 2003.
【文献】Oosterholt et al., Journal of Psychosomatic Research, 78, 445-451, 2015.
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、乳タンパク質を対象へ摂取させることにより、対象の副腎の機能の低下を抑制できることを見出した。
【0007】
従って、本発明は、副腎機能低下抑制剤および副腎の機能低下抑制方法等を提供することを目的とする。
【0008】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)乳タンパク質を有効成分として含有する、副腎機能低下抑制剤。
(2)副腎皮質機能低下抑制剤である、(1)に記載の副腎機能低下抑制剤。
(3)コルチゾールまたはコルチコステロン分泌低下抑制剤である、(1)に記載の副腎機能低下抑制剤。
(4)ストレス負荷状態にある対象により摂取される、(1)~(3)のいずれかに記載の副腎機能低下抑制剤。
(5)暑熱ストレス負荷状態にある対象により摂取される、(1)~(4)のいずれかに記載の副腎機能低下抑制剤。
(6)乳タンパク質がカゼインタンパク質またはホエイタンパク質である、(1)~(5)のいずれかに記載の副腎機能低下抑制剤。
(7)乳タンパク質が、ヒトにおいて、総タンパク質量で一日あたり0.2g/kg体重以上となるように摂取される、(1)~(6)のいずれかに記載の副腎機能低下抑制剤。
(8)一食あたりの単位包装形態からなり、該単位包装形態中に、乳タンパク質を一食摂取量として総タンパク質量で5g以上含む、(1)~(6)のいずれか一項に記載の副腎機能低下抑制剤。
(9)乳タンパク質を有効成分として含有する、副腎機能低下抑制用組成物。
(10)乳タンパク質を有効成分として含有する、ストレス負荷時の疲労軽減剤。
(11)乳タンパク質を有効成分として含有する、副腎機能低下抑制用食品
(12)乳タンパク質を有効成分として含有する、ストレス負荷時の疲労軽減用食品。
(13)乳タンパク質を対象に摂取させる工程を含む、副腎機能低下抑制方法。
(14)乳タンパク質を対象に摂取させる工程を含む、副腎機能低下抑制方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
(15)総タンパク質量で一日あたり0.2g/kg体重以上となるようにヒトへ乳タンパク質を摂取させる工程を含む、(13)または(14)に記載の副腎機能低下抑制方法。
(16)乳タンパク質を、ストレス負荷状態にある対象に摂取させる工程を含む、疲労軽減方法。
(17)乳タンパク質を、ストレス負荷状態にある対象に摂取させる工程を含む、疲労軽減方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
(18)総タンパク質量で一日あたり0.2g/kg体重以上となるようにヒトへ乳タンパク質を摂取させる工程を含む、(16)または(17)に記載の疲労軽減方法。
(19)副腎機能低下抑制剤の製造のための、乳タンパク質の使用。
(20)副腎機能低下抑制用組成物の製造のための、乳タンパク質の使用。
(21)ストレス負荷時の疲労軽減剤の製造のための、乳タンパク質の使用。
(22)副腎機能低下抑制のための、乳タンパク質の使用。
(23)ストレス負荷時の疲労の軽減のための、乳タンパク質の使用。
【0009】
本発明によれば、副腎の機能低下を抑制できる剤を提供することができる点で有利である。また、本発明によれば、ストレス負荷時の疲労を軽減できる剤を提供することができる点でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は暗期の自発行動量を表す。Heat1~4は、それぞれ暑熱ストレス負荷1~4日目の非低たんぱく質食および低タンパク質食で飼育した場合の自発行動量を表す。*はt検定で群間を比較した場合にp<0.05であることを表す。#はDunnett検定でBaselineと比較した場合にp<0.05であることを表し、##はDunnett検定でBaselineと比較した場合にp<0.01であることを表す。
【
図2】
図2は血漿中のコルチコステロン濃度の推移を表す。横軸はACTH投与後の時間(分)を表し、縦軸は血漿中のコルチコステロン濃度(ng/mL)を表す。*はt検定で暑熱ストレス負荷した非低たんぱく質食群と暑熱ストレス負荷した低たんぱく質食群とを群間比較した場合にp<0.05であることを表す。
【
図3】
図3は血漿中のコルチコステロン濃度のAUC(Area under the blood concentration-time curve)を表す。
図3中、「非低タンパク質食群」はタンパク質量が少なくない飼料を与えた群を表し、「低タンパク質食群」は低いタンパク質量の飼料を与えた群を表す。*はt検定で暑熱ストレス負荷非低たんぱく質食の飼料を与えた群と比較した場合にp<0.05であることを表す。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明は、乳タンパク質を有効成分として含有する副腎機能低下抑制剤である。
【0012】
本発明において、「有効成分」とは、副腎の機能低下を抑制する上で、またはストレス負荷時の疲労を軽減する上で、必要とされる成分のことを意味する。
【0013】
本発明の副腎機能低下抑制剤に含まれる乳タンパク質は、乳由来のタンパク質であれば特に制限されず、例えば、牛乳、羊乳、山羊乳、水牛乳、めん羊乳、ラクダ乳、クジラ乳、イルカ乳、人乳などの哺乳動物由来の乳の乳タンパク質であってもよい。また、本発明の乳タンパク質は、例えば、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質分解物、カゼインタンパク質分解物、ペプチド、または非タンパク態窒素成分を特定の濃度(含量)で含んでいるものが挙げられ、カゼインタンパク質またはホエイタンパク質であることが好ましい。この「乳タンパク質」は、別々に分離や精製された、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質分解物、カゼインタンパク質分解物、ペプチド、または非タンパク態窒素成分を特定の濃度になるように混合して用いてもよいし、あるいは、別々に分離や精製されていない、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質分解物、カゼインタンパク質分解物、ペプチド、または非タンパク態窒素成分を既に特定の濃度で含んでいる原料(素材)や飲食品などを用いてもよい。このとき、本発明に用いられる「乳タンパク質」では、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質分解物、カゼインタンパク質分解物、ペプチド、非タンパク態窒素成分の分離工程や精製工程を必要とせず、それらの製造費が安価である点で、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質分解物、カゼインタンパク質分解物、またはペプチドおよび非タンパク態窒素成分を既に特定の濃度で含んでいる原料や飲食品などを主要な成分とし、必要に応じて、別々に精製されたホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質分解物、カゼインタンパク質分解物、またはペプチドおよび非タンパク態窒素成分を特定の濃度になるように混合して用いることができる。
【0014】
本発明の副腎機能低下抑制剤に含まれる乳タンパク質は、1種の乳を単独で用いてもよいし、2種以上の乳を混合して用いてもよい。そして、この乳タンパク質は、化学品(試薬など)のような高純度の成分を用いてもよいし、分離物や精製物のような混合成分を用いてもよい。ここで、タンパク質含量は、例えば、食品成分表などの公知の情報に基づいて算出してもよく、また、ケルダール法やローリー法などの慣用の方法によって測定して算出してもよい。実際に、ケルダール法の場合には、各種のタンパク質に含まれる窒素を測定し、その値に、窒素-タンパク質換算係数(通常:6.25)を乗じて算出することができる。
【0015】
本発明の副腎機能低下抑制剤に含まれる乳タンパク質の濃度は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、副腎機能低下抑制剤に対して、例えば、5質量%以上であり、好ましくは5~98質量%であり、より好ましくは5~75質量%であり、更に好ましくは10~50質量%であり、更に好ましくは15~25質量%であり、特に好ましくは18~22質量%である。本発明の副腎機能低下抑制剤に含まれる乳タンパク質の濃度を15~25質量%とすることにより、更に副腎の機能低下を抑制することができ、更にストレス負荷時の疲労を軽減することができる。本発明の副腎機能低下抑制剤に含まれる乳タンパク質の濃度は、例えば、ケルダール法により測定することができる。
【0016】
本発明の副腎機能低下抑制剤における副腎機能低下とは、副腎皮質または副腎髄質のいずれの機能の低下であってもよいが、好ましくは副腎皮質の機能低下であり、より好ましくはコルチゾールまたはコルチコステロンの分泌低下である。ヒトにおいては副腎皮質からはコルチゾールが分泌され、げっ歯類においては副腎皮質からはコルチコステロンが分泌される。副腎の機能が低下した場合、特に副腎皮質の機能が低下した場合には、コルチゾールおよびコルチコステロンの分泌が低下し、血圧上昇作用、血糖上昇作用、抗炎症作用などが抑制される。また、疲労感、全身倦怠感、うつ症状、アレルギー症状の悪化、食欲不振、低血糖、動悸、過呼吸、集中力の低下などが誘発される。従って、本発明の副腎機能低下抑制剤(好ましくは、副腎皮質機能低下抑制剤、より好ましくはコルチゾールまたはコルチコステロン分泌低下抑制剤)を用いることにより、これらの作用の抑制や疲労感などを改善することができる。
【0017】
本発明の副腎機能低下抑制剤は、ストレス負荷状態にある対象により摂取されることが好ましい。ストレス負荷状態にある対象とは、ストレス負荷の状態にあればどのような対象でもよいが、慢性的なストレス負荷状態にある対象では、コルチゾールまたはコルチコステロン分泌量がより低減して疲労感や脱力感がより誘発されていると考えられることから、このような対象に対して、本発明の副腎機能低下抑制剤を用いることが、より効果的である。また、暑熱ストレス負荷状態にある対象に、本発明の副腎機能低下抑制剤を用いることにより、本発明の効果が更に奏するものとなる。本発明において、対象には、ヒト以外の動物(馬、牛などの家畜、犬、猫などの愛玩動物、動物園などで飼育されている鑑賞動物など)も包含される。ここで、ストレスとは、生体の恒常性を障害する刺激に対する生物学的反応と定義され、ストレスの原因はストレッサーと呼ばれ、その外的刺激の種類から物理的ストレッサー(寒冷、暑熱、騒音、放射線など)、化学的ストレッサー(酸素、薬物など)、生物的ストレッサー(炎症、感染)、心理的ストレッサー(怒り、不安など)に分類される。本発明におけるストレスとは、上記のいずれのストレッサーによるストレスであってもよいが、本発明の副腎機能低下抑制剤は、物理的ストレッサーによるストレス負荷状態にある対象に摂取させることが好ましく、暑熱ストレス負荷状態にある対象に摂取させることが特に好ましい。
【0018】
本発明の副腎機能低下抑制剤に有効成分として含まれる乳タンパク質の摂取量には、特に制限はないが、ヒトにおいて、好ましくは、乳タンパク質が、総タンパク質量で一日あたり0.2g/kg体重以上となるように摂取され、より好ましくは0.3g/kg体重以上、乳タンパク質が、総タンパク質量で一日あたり0.2~2.5g/kg体重、好ましくは0.3~2.0g/kg体重、更に好ましくは0.3~1.0g/kg体重となるように摂取される。
なお、上述の有効成分の必要用量は、動物実験(例えば、マウス実験)における必要投与用量から食品安全委員会資料に基づく下記式を用いてヒトへの必要投与用量に換算できる。
【数1】
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の副腎機能低下抑制剤は、一食あたりの単位包装形態からなり、該単位包装形態中に、乳タンパク質を一食摂取量として総タンパク質量で5g以上、好ましくは7g以上含み、より好ましくは、乳タンパク質を一食摂取量として総タンパク質量で好ましくは5~50g、より好ましくは7~25g、特に好ましくは10~25g含む。ここで、「一食あたりの単位包装形態」からなるとは、一食あたりの摂取量があらかじめ定められた形態のものであり、例えば、特定量を経口摂取し得る食品として、一般食品のみならず、飲料(ドリンク剤など)、健康補助食品、保健機能食品、サプリメントなどの形態を意味する。「一食あたりの単位包装形態」では、例えば、液状の飲料、ゲル状、糊状、若しくはペースト状のゼリー、粉末状、顆粒状、カプセル状、若しくはブロック状の固体状の食品などの場合には、金属缶、ガラスビン(ボトルなど)、プラスティック容器(ペットボトルなど)、パック、パウチ、フィルム容器、紙箱などの包装容器で特定量(用量)を規定できる形態、あるいは、一食あたりの摂取量(用法、用量)を包装容器やホームページなどに表示することで特定量を規定できる形態が挙げられる。あるいは、一食当たりの摂取量を量りとれるスプーン等の計量器具を添付する形態が挙げられる。
【0020】
本発明の副腎機能低下抑制剤は、乳タンパク質以外の成分を含んでいてもよく、例えば、食物繊維、安定剤、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなどを含んでいてもよい。
【0021】
食物繊維としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、食品中に元来存在する可食性のもの、物理的、酵素的もしくは化学的処理により得られたもの、または合成されたものが挙げられる。また、食物繊維は、高分子水溶性食物繊維であっても低分子水溶性食物繊維であっても、不溶性食物繊維であってもよい。かかる食物繊維としては、セルロース、カルボキシメチルセルロース、寒天、キサンタンガム、サイリウム種皮、ジュランガム、低分子アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリデキストロース、アラビアガム、難消化性デキストリン、ビートファイバー、グァーガム、グァーガム酵素分解物、小麦胚芽、湿熱処理デンプン(難消化性デンプン)、レジスタントスターチ、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、プルラン、イヌリン等の多糖類が挙げられる。また、食物繊維として、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ビートオリゴ糖、ゲンチオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖等のオリゴ糖またはそれらオリゴ糖の組み合わせが挙げられる。
【0022】
安定剤としては、水溶性大豆多糖類、セルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコールエステル、でんぷん、加工でんぷん、カラギナン、キサンタンガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、タラガムおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0023】
脂質としては、食品または医薬用途に使用可能なものであれば特に限定されず、いずれのものであっても良い。このような脂質としては、植物性油脂、動物性油脂、微生物油脂、合成トリグリセリド、リン脂質等が挙げられる。これらは、単独で使用しても、任意に組み合わせて使用しても良い。
【0024】
糖質としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、糖類、加工澱粉(デキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)などが挙げられる。
【0025】
ビタミンとしては、食品または医薬用途に使用可能なものであれば特に限定されず、1種であっても複数種の混合物であっても良い。
【0026】
ミネラルとしては、食品または医薬用途に使用可能なものであれば特に限定されず、1種であっても複数種の混合物であっても良い。
【0027】
本発明の別の態様によれば、乳タンパク質を有効成分として含有する、副腎機能低下抑制用組成物が提供される。また、本発明の別の態様によれば、乳タンパク質を有効成分として含有する、ストレス負荷時の疲労軽減用組成物が提供される。これらの組成物には、食品組成物および医薬組成物(医薬品)のいずれもが含まれる。本明細書において、食品には、飲料も含まれる。また、これらの組成物は、例えば、固体状(粉末状、顆粒状、カプセル状、ブロック状など)、液状、ゲル状、糊状、ペースト状などの形態をとることができ、食物繊維、安定剤、脂質、ビタミン、ミネラルなどを含んでいてもよい。医薬組成物(医薬品)とは、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従って、経口製剤または非経口製剤として調製したものである。医薬組成物が経口製剤の場合には、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤などの固形製剤、溶液、懸濁液、乳濁液などの液状製剤の形態をとることができる。なお、患者への摂取(投与)の簡易性の点からは、医薬組成物では、経口製剤であることが好ましい。ここで、製剤化のために許容されうる添加剤には、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤などが挙げられる。本発明の医薬組成物(医薬品)は、副腎の機能低下を抑制すること、またはストレス負荷時の疲労を軽減することを必要とする疾患であればどのような疾患であっても適用することができ、例えば、血圧、血糖、炎症、代謝障害に起因する疾患の治療または予防に用いることができ、特に熱中症、夏バテ、または不定愁訴の治療または予防に用いることができる。
【0028】
本発明の別の態様によれば、乳タンパク質を有効成分として含有する、ストレス負荷時の疲労軽減剤が提供される。また、本発明の別の態様によれば、乳タンパク質を有効成分として含有する、ストレス負荷時の疲労軽減用組成物が提供される。
【0029】
本発明の別の態様によれば、乳タンパク質を対象に摂取させる工程を含む、副腎機能低下抑制方法が提供される。本発明の好ましい態様によれば、乳タンパク質を対象に摂取させる工程を含む、副腎機能低下抑制方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)が提供される。ここで、「ヒトに対する医療行為」とは、医師等の処方を必要として、ヒトに対して医薬品を摂取させる(投与する)行為などを意味する。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、総タンパク質量で一日あたり0.2g/kg体重以上となるようにヒトへ乳タンパク質を摂取させる工程を含む、副腎機能低下抑制方法が提供される。
【0031】
本発明の別の態様によれば、乳タンパク質を、ストレス負荷状態にある対象に摂取させる工程を含む疲労軽減方法が提供される。本発明の好ましい態様によれば、乳タンパク質を、ストレス負荷状態にある対象に摂取させる工程を含む、疲労軽減方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)が提供される。ここで、「ヒトに対する医療行為」とは、上記と同様に、医師等の処方を必要として、ヒトに対して医薬品を摂取させる(投与する)行為などを意味する。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、総タンパク質量で一日あたり0.2g/kg体重以上となるようにヒトへ乳タンパク質を摂取させる工程を含む、疲労軽減方法が提供される。
【0033】
本発明の別の態様によれば、乳タンパク質を有効成分として含有する、副腎機能低下抑制用食品が提供される。また、本発明の別の態様によれば、乳タンパク質を有効成分として含有する、ストレス負荷時の疲労軽減用食品が提供される。ここで、副腎機能低下抑制用食品またはストレス負荷時の疲労軽減用食品とは、乳及び/又は乳製品を含む食品をいう。ここで、乳とは、例えば、牛乳、羊乳、山羊乳、水牛乳、めん羊乳、ラクダ乳、クジラ乳、イルカ乳、人乳などの哺乳動物由来の乳などである。また、ここで、乳製品とは、乳を加工したもののであり、公知の液状の原料、例えば、脱脂乳、部分脱脂乳、脱塩脱脂乳、脱塩乳、成分調整乳、ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、部分脱脂濃縮乳、脱塩脱脂濃縮乳、れん乳、クリーム、公知方法により調製した乳原料由来のパーミエイト、公知方法により調製した乳タンパク質濃縮物なども使用でき、公知の加工された原料、例えば、粉乳、バター、チーズ、濃縮乳、れん乳、乳糖、乳清ミネラルなども使用することができる。
【0034】
また、本発明の飲食品には、流動食、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用の食品などが包含される。
【実施例】
【0035】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0036】
試験例1.乳タンパク質摂取によるストレス負荷後の自発行動量に与える影響
[方法]
6週齢のICR雄性マウスを日本SLCより購入し、1週間馴化飼育した。給餌飼料はAIN-76(リサーチダイエット社)を用いた。マウスを(1)非低たんぱく質食群(タンパク質量が少なくない飼料を与えた群)、(2)低タンパク質食群(低いタンパク質量の飼料を与えた群)の2群に分け、1週間馴化飼育後に、各飼料に切り替えた。用いた飼料の組成を下記表1に示す。非低たんぱく質食群へはAIN-76(リサーチダイエット社)(非低たんぱく質食)を与えた。低タンパク質食群へはAIN-76中の乳タンパク質の半量を糖質に置換した飼料(低タンパク質食)を与え(リサーチダイエット社)、非低たんぱく質食群に比べ、乳タンパク質の不足した栄養状態とした。飼料切り替え後、自発行動量測定装置ROC-100(シンファクトリー社)にて2週間飼育し、げっ歯類は主に暗期に活動することが知られていることから、暗期の自発行動量を毎日測定した。試験期間中、体重、摂餌量、および摂水量を測定した。飼料切り替えから2週間が経過する4日前より、小動物用温度調節機能付チャンバーHC-100(シンファクトリー社)を用いてマウスに暑熱ストレス負荷をかけた。負荷条件は、35±1℃で、2時間とした。また、暑熱ストレス負荷前4日間の平均値をBaseline値として算出した。
【0037】
【0038】
[結果]
暗期の自発行動量においては、低タンパク質食群の暑熱ストレス負荷1~4日目で、それぞれのBaselineと比較して有意に低値を示した。また、低タンパク質食群は非低たんぱく質食群と比較して、暑熱ストレス負荷1日目および4日目の暗期の自発行動量が有意に低値を示した。これらの結果から、低タンパク質食摂取条件におけるストレス負荷はマウスをやや疲労させ、暗期の自発行動量を低下させることが示された。この結果を
図1に示す。
なお、試験に用いたマウスへの1日当たりのタンパク質の投与用量は、非低たんぱく質食群では平均約27.9g/kg体重であり、低たんぱく質食群では平均約15.7g/kg体重であった。
【0039】
試験例2.乳タンパク質摂取量の違いによるストレス負荷後の副腎機能に与える影響
[方法]
ストレス負荷状態にある対象は、副腎機能が低下していることが報告されている。また、副腎機能が低下しコルチゾール分泌量が著しく低下する疾患である副腎不全症の主な特徴として、疲労感が挙げられており、その他、吐き気、不安などの症状が報告されている。そこで我々は、非低および低タンパク質食摂取条件での暑熱ストレス負荷による疲労に対し、副腎機能の低下が関与しているのかを、副腎機能の評価に広く用いられているACTH負荷試験により評価した。ここで、ACTH負荷試験とは、合成ACTH(コートロシン)を投与し負荷前および負荷後の所定時間でコルチゾール値を測定し、副腎の機能を調べる試験である。
【0040】
6週齢のICR雄性マウスを日本SLCより購入し、1週間馴化飼育した。給餌飼料はAIN-76(リサーチダイエット社)を用いた。マウスに暑熱ストレス負荷し、(1)非低たんぱく質食群(タンパク質量が少なくない飼料を与えた群)、(2)低タンパク質食群(低いタンパク質量の飼料を与えた群)の2群に分け、各飼料に切り替えた。非低たんぱく質食群へはAIN-76(リサーチダイエット社)(非低たんぱく質食)を与えた。低タンパク質食群へはAIN-76中のタンパク質の半量を糖質に置換した飼料を与え(リサーチダイエット社)、非低たんぱく質食群に比べ、タンパク質の不足した栄養状態とした。飼料切り替えから2週間が経過する4日前より、暑熱ストレス負荷群に対し、小動物用温度調節機能付チャンバーHC-100を用いてマウスに暑熱ストレス負荷をかけた。負荷条件は、35±1℃で、2時間とした。
【0041】
4日間の暑熱ストレス負荷終了翌日、ACTH負荷試験を実施した。コートロシン(第一三共株式会社製)100μg/kgを腹腔内投与し、投与30分前、投与直前、投与30、60、90分後に尾静脈より採血した。非負荷群は飼料切り替えから2週間経過後、同様に投与および採血を行った。血液は12,600×gで5分間遠心分離し、得られた血漿を-80℃で保存した。尾静脈採血血漿中コルチコステロン濃度は、Corticosterone EIA Kit(Arbor Assays)により測定した。
【0042】
[結果]
暑熱ストレス負荷した低タンパク質食群は、暑熱ストレス負荷した非低たんぱく質食群と比較してACTH投与30分後、60分後の血漿中コルチコステロン濃度が有意に低値を示した。ACTH負荷試験におけるAUCを算出したところ、暑熱ストレス負荷した低タンパク質食群は、暑熱ストレス負荷した非低たんぱく質食群と比較して有意な低値を示した。これらの結果を
図2および
図3に示す。なお、暑熱ストレス負荷した非低たんぱく質食群は、暑熱ストレス負荷を行っていない非低たんぱく質食群と同程度の血漿中コルチコステロン濃度の推移を示し、非低タンパク質食を摂食させることにより、血漿中コルチコステロン濃度に関しては暑熱ストレス負荷を行わない水準まで回復することが分かった(データ示さず)。
【0043】
自発行動量測定試験およびACTH負荷試験の結果を踏まえると、ストレス負荷下において、乳タンパク質の摂食、特に十分な乳タンパク質の摂食が副腎皮質機能低下を抑制し、それにより暗期の自発行動量の低下を抑制したと考えられ、血漿中コルチコステロン濃度の低下の抑制にも寄与すると考えられ、これらの効果は非低たんぱく質食群において特に顕著な効果を認めた。すなわち、ストレス負荷状態にある対象において、乳タンパク質摂取、特に十分な乳タンパク質摂取が副腎機能低下抑制に貢献することが分かった。