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  • 特許-キセノン吸着剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】キセノン吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/18 20060101AFI20220906BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220906BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20220906BHJP
   C01B 39/44 20060101ALI20220906BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20220906BHJP
   C01B 23/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B01J20/18 D
B01J20/28 Z
B01D53/04
C01B39/44
C01B39/48
C01B23/00 P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017250092
(22)【出願日】2017-12-26
(65)【公開番号】P2019077603
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2017001299
(32)【優先日】2017-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017125856
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017218780
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平野 茂
(72)【発明者】
【氏名】徳永 敬助
(72)【発明者】
【氏名】岡庭 宏
(72)【発明者】
【氏名】福井 めぐ
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-042381(JP,A)
【文献】国際公開第2016/005227(WO,A1)
【文献】特開2003-221212(JP,A)
【文献】特開平02-006814(JP,A)
【文献】国際公開第03/045536(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 53/02-53/12
C01B 15/00-23/00
C01B 33/20-39/54
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CHA型、FER型、MWW型から選択される少なくとも1種類の構造を含み、細孔径が3.5~5Åの範囲で、シリカアルミナモル比が10~30の範囲であるゼオライトを含有することを特徴とするキセノン吸着剤。
【請求項2】
ゼオライトに含まれる金属成分として、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、鉄、銅、銀から選択される少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項1に記載のキセノン吸着剤。
【請求項3】
金属成分が、ゼオライトのアルミニウムに対して0.1~1.0当量(価数nの金属イオンについて、金属/Alモル比に金属の価数nを乗じた値)であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のキセノン吸着剤。
【請求項4】
空気中500℃で焼成後に測定した紫外可視吸光スペクトルが290~350nmに吸光ピークを有し、かつ、該吸光ピークが310~330nmに最大値を有する銀を含有することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかの項に記載のキセノン吸着剤。
【請求項5】
キセノン吸着剤が成形体であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかの項に記載のキセノン吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キセノン吸着剤に関する。本発明のキセノン吸着剤は、例えば、混合ガスからのキセノンを選択的に吸着して回収する用途に有用である。
【背景技術】
【0002】
キセノンの用途としては、特許文献1に記載されているような、医療業界での麻酔ガス、医学画像、イオン推進エンジン(宇宙空間)、フラットパネルディスプレイ(プラズマ)及び高輝度放電(HID)ライトが挙げられる。
【0003】
また、特許文献2に記載されているような、半導体集積回路、液晶パネル、太陽電池パネル、磁気ディスク等の半導体製品を製造する工程でもキセノンは使用され、近年はより高度な処理を行うためにキセノンの使用量が増加している。
【0004】
しかし、キセノンは大気の微量成分(87ppb)であり、空気からの分離により得るためには、1Lのキセノンを得るのに11,000,000Lの空気を必要とする。このため、キセノンは非常に高価なガスとなる。
【0005】
このため、キセノンを含む混合ガスからキセノンを吸着回収することが求められる。
【0006】
特許文献1には、Xe/N2選択比が65未満の吸着剤として、アルミナ、ゼオライト、シリカゲル及び活性炭が挙げられているが、具体的な吸着剤は例示されていない。
【0007】
特許文献2には、易吸着成分としてのキセノンを吸着する吸着剤として、活性炭、Na-X型ゼオライト、Ca-X型ゼオライト、Ca-A型ゼオライト、Li-X型ゼオライトが開示されているが、低濃度のキセノンを吸着させる吸着剤としては十分な性能を有しているとは言えなかった。
【0008】
キセノン吸着剤として、特許文献3には銀イオン交換ZSM5が、特許文献4にはCa-X型ゼオライトまたはNa-Y型ゼオライトが開示されているが、低濃度のキセノンを吸着させる吸着剤としては十分な性能を有しているとは言えなかった。
【0009】
また、特許文献5にはキセノン吸着剤として細孔径5Å以上の合成ゼオライト、細孔径5Å以上のモレキュラーシービングカーボンが挙げられているが、具体的な吸着剤は例示がない。
【0010】
いずれの吸着剤も、特に低濃度のキセノンを吸着させる吸着剤としては十分な性能を有しているとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5449289号
【文献】特開2006-61831号
【文献】特許第5392745号
【文献】特許第3824838号
【文献】特開2008-137847号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来のキセノン吸着剤よりも、特に低濃度のキセノン吸着量が大きく、更には空気成分の一種である窒素に対する選択性が高いキセノン吸着剤を提供するものである。本発明のキセノン吸着剤は、混合ガスから効率的にキセノンを吸着させることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、キセノン吸着剤として、細孔径が3.5~5Åの範囲で、シリカアルミナモル比が10~30の範囲であるゼオライトが優れることを見出し、本発明を完成したものである。すなわち、本発明は、細孔径が3.5~5Åの範囲で、シリカアルミナモル比が10~30の範囲であるゼオライトを含有することを特徴とするキセノン吸着剤である。
【0014】
以下、本発明について説明する。
【0015】
本発明のキセノン吸着剤は、細孔径が3.5~5Åの範囲で、シリカアルミナモル比が10~30の範囲であるゼオライトを含有するものである。
【0016】
ここに、細孔径とは、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)2007年発行のゼオライト構造データ集「Atlas of Zeolite Framework Types」(Elsevier出版)に記載の細孔径を指す(ただし、細孔が楕円状の場合は吸着分子を形状的に制限する短径とする)。
【0017】
細孔径3.5~5Åの範囲のゼオライトのキセノン吸着性能が優れる理由は定かではないが、キセノン分子の大きさである約4Åと近いことが影響している可能性がある。細孔径が4Åより小さいゼオライトでも、結晶骨格の熱振動により細孔径は変化するため、キセノンの吸着は可能となる。細孔径が3.5Å未満の場合は、キセノンが吸着されず、5Åを超える場合はキセノンと共存する他の成分の吸着が優勢となる。細孔径は、キセノンをより吸着させるため、3.5Å以上4.5Å未満の範囲であることが好ましい。
【0018】
シリカアルミナモル比とは、SiO/Alモル比のことであり、10未満の場合は、吸着点となる金属成分が多く、極性が強くなりすぎてキセノンと共存する他の成分の吸着が優勢となり、30を超える場合は吸着点となる金属成分が少なく、十分な吸着性能を有さない。
【0019】
本発明のキセノン吸着剤に用いられるゼオライトに含まれる金属成分として、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、鉄、銅、銀から選択される少なくとも1種類を含んでいることが好ましく、特に、ナトリウム、銀から選択される少なくとも1種類を含んでいることが好ましい。キセノンは単原子分子であるため極性を持たない分子であるが、外部から電場を与えることで双極子が誘起され、極性を持つようになり、ゼオライトに吸着するようになる。双極子を誘起する金属成分として前記の金属成分が優れる。
【0020】
前記の金属成分は、キセノンをより効果的に吸着させるために、ゼオライトのアルミニウムに対して0.1~1.0当量(価数nの金属イオンについて、金属/Alモル比に金属の価数nを乗じた値。以下同じ)が好ましく、0.4~1.0当量がさらに好ましく、0.5~1.0当量が特に好ましい。
【0021】
さらに、本発明のキセノン吸着剤が含有する銀は、空気中500℃で焼成後に測定した紫外可視吸光スペクトルが290~350nmに吸光ピークを有し、かつ、該吸光ピークが310~330nmに最大値を有する特徴がある。紫外可視吸光スペクトルを測定するキセノン吸着剤の焼成は、一般的な箱型のマッフル炉を用いて、1.0~1.2分間当りマッフル炉の内容積と等しい量の乾燥空気を吹き込みながら、1時間40分間で昇温し、500℃で3時間焼成を行った。紫外可視吸光スペクトルは上記のように500℃で焼成した試料を拡散反射法により室温で測定したものである。
【0022】
本発明のキセノン吸着剤は、より高いキセノン吸着量を得るために、銀の含有量が1~20重量%であることが好ましく、3~18重量%がさらに好ましく、4~15重量%が特に好ましい。
【0023】
ゼオライトに金属成分を修飾する方法は特に限定されず、イオン交換法、含浸法、蒸発乾固法などが使用できる。イオン交換法としては、ゼオライトと所望のイオンを含有する溶液とをゼオライト中のイオン量が所望の濃度になるまで接触させることにより達成される。回分法、流通法など一般的なイオン交換法が適用可能である。なお、金属成分の修飾は、キセノン吸着剤が粉末であっても、成形体であってもよく、いずれでも可能である。成形体のキセノン吸着剤を製造する際には、ゼオライト粉末を金属修飾した後に成形体とすることも、ゼオライト粉末を成形体とした後に金属修飾を行うことも、何れでも可能である。さらに、銀を含有するキセノン吸着剤は300℃から700℃、好ましくは400℃から600℃の温度で熱処理(焼成)することによりキセノンの吸着性能を向上させることができる。焼成雰囲気は空気、窒素などの不活性雰囲気のいずれでもよい。
【0024】
本発明のキセノン吸着剤に用いられるゼオライトとしては、CHA型、FER型、HEU型、MWW型から選択される少なくとも1種類の構造を含むことが好ましい。中でもCHA型、FER型、HEU型、MWW型が好ましく、FER型が最も好ましい。FER型は細孔径が4.2Å程度であり、キセノン分子サイズと細孔径が最も近いため、キセノン吸着性能が優れるものと推測される。CHA型のゼオライトとしては、例えば、チャバサイト等があげられ、FER型のゼオライトとしては、例えば、フェリエライト等があげられ。HEU型のゼオライトとしては、例えば、ヒューランダイト、クリノプチロライト等があげられ、MWW型のゼオライトとしては、例えば、MCM-22、ITQ-1、SSZ-25等があげられる。
【0025】
本発明のキセノン吸着剤に用いられる細孔径が3.5~5Åの範囲で、シリカアルミナモル比が10~30の範囲のゼオライトであり、好ましくはCHA型、FER型、HEU型、MWW型のゼオライトは、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、必要に応じて構造指向剤の混合物を水熱下で結晶化することで製造することができる。
【0026】
シリカ源は、例えば、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、アルミノシリケートゲル等を使用することができる。
【0027】
アルミナ源は、例えば、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミノシリケートゲル、金属アルミニウム等を用いることができる。シリカ源及びアルミナ源は、他の原料と十分均一に混合できる形態のものが好ましい。
【0028】
アルカリ源は、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウムの水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの各種の塩、アルミン酸塩中、珪酸塩中、アルミノシリケートゲル中のアルカリ成分等を用いることができる。
【0029】
構造指向剤も必要に応じて使用することができる。構造指向剤としては、例えば、アミン類等が使用でき、アミン類としては、例えば、テトラメチルアンモニウム水酸化物、テトラメチルアンモニウムハロゲン化物、テトラエチルアンモニウム水酸化物、テトラエチルアンモニウムハロゲン化物、テトラプロピルアンモニウム水酸化物、テトラプロピルアンモニウムハロゲン化物、N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム水酸化物、N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウムハロゲン化物、N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム炭酸塩、N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウムメチルカーボネート塩、N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム硫酸塩などから選ばれる少なくとも1種類を含んで使用することができる。
【0030】
ゼオライトの結晶化はオートクレーブを使用することができ、結晶化の温度は100℃以上、250℃以下、好ましくは110℃以上、200℃以下、更に好ましくは120℃以上、190℃以下とすることができる。結晶化時間は12時間以上、96時間以内、好ましくは14時間以上、84時間以内、更に好ましくは16時間以上、72時間以内とすることができる。結晶化は静置、撹拌下のいずれでも行うことができる。
【0031】
結晶化終了後は、固液分離を行い、余剰のアルカリ溶液を純水、温水などで洗浄することができる。洗浄後は乾燥することができる。乾燥温度は80℃以上、200℃以下であればよい。構造指向剤を含む場合は、乾燥後に熱分解処理によって除去することができる。
【0032】
上に記載した方法で製造されたゼオライトは、そのままでキセノン吸着剤とすることができる。また、ゼオライトをバインダーと混合して成形体のキセノン吸着剤とすることもできる。
【0033】
本発明のキセノン吸着剤は成形体とすることができる。混合ガスを分離する時は成形体とする方が扱いやすい。成形する方法は特に限定されない。成形に使用されるバインダーとしては、例えば、粘土、アルミナ、シリカなどの無機系バインダー等が使用できる。また成形する時には成形助剤としてセルロースなどの有機系助剤、リン酸塩などの無機系助剤等を使用することができる。成形体の形状は、例えば、球状、円柱状、三つ葉型、楕円状、俵型、リング状等とすることができる。成形体の大きさは、直径として0.5~3mmの大きさとすることができる。成形体はバインダーを焼結させるために400~650℃程度の温度で、空気、窒素などの不活性ガス中で焼成することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のキセノン吸着剤は混合ガスから低濃度でもキセノンを効率よく吸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】銀を含有するキセノン吸着剤の紫外可視吸光スペクトルである。
図2図1の320nm付近の吸光ピークを拡大したものである。
【実施例
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
<キセノン吸着量及び窒素吸着量の測定>
吸着量の測定は、定容量式吸着測定装置(BELSORP 28SA:マイクロトラックベル社製)を使用した。吸着剤は350℃で2時間、0.01Pa以下の真空下で前処理した。吸着温度は25℃で測定した。キセノン吸着量は圧力1kPaの時の吸着量、窒素吸着量は100kPaの時の吸着量を求めた。
【0038】
<キセノン選択性>
キセノン選択性は式(1)で算出した。
【0039】
キセノン選択性=(1kPaのキセノン吸着量/1kPa)/(100kPaの窒素吸着量/100kPa) (1)
<紫外可視吸光スペクトルの測定>
銀を含有するキセノン吸着剤の紫外可視吸光スペクトルの測定は、内容積30Lのマッフル炉に25L/minの流量で乾燥空気を吹き込みながら、1時間40分間で昇温し、500℃で3時間焼成を行った試料を、積分球ユニットを備えた紫外可視分光光度計(V-650:日本分光社製)を使用して拡散反射法により室温で測定した。測定条件は、200~400nmの波長範囲を2分間で測定を行った。
【0040】
実施例1
N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム水酸化物25%水溶液7.5g、純水37.0g、水酸化ナトリウム48%水溶液1.0g、水酸化カリウム48%水溶液1.4g、及び、無定形アルミノシリケートゲル9.3gを加え、よく混合して原料組成物を得た。原料組成物の組成は、SiOを1とした場合のモル比として、Al:0.072、N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム水酸化物:0.065、NaO:0.044、KO:0.044、HO:18であった。
【0041】
この原料組成物を80ccのステンレス製オートクレーブに密閉し、55rpmで回転させながら150℃で70時間加熱した。加熱後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の純水で洗浄し、110℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折と蛍光X線分析から、生成物はCHA型ゼオライト単相であった。得られたCHA型ゼオライトの乾燥粉末を空気流通下600℃で2時間焼成した(CHA型ゼオライトの細孔径:3.8Å)。CHA型ゼオライトのSiO/Alモル比は13、Na/Al比は0.2、K/Al比は0.4であった(アルミニウムに対する金属(Na+K)量:0.6当量)。
【0042】
このCHA型ゼオライト(キセノン吸着剤)の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.14mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.47mol/kgであった。また、キセノン選択性は29.8であった。
【0043】
実施例2
純水825g、水酸化ナトリウム48%水溶液4.9g、水酸化カリウム48%水溶液13.5g、及び、無定形アルミノシリケートゲル557gを加え、よく混合して原料組成物を得た。原料組成物の組成は、SiOを1とした場合のモル比として、Al:0.051、NaO:0.071、KO:0.019、HO:21であった。
【0044】
この原料組成物を2000ccのステンレス製オートクレーブに密閉し、撹拌しながら180℃で72時間加熱した。加熱後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の純水で洗浄し、110℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折と蛍光X線分析から、生成物はFER型ゼオライト(細孔径:4.2Å)単相であった。FER型ゼオライトのSiO/Alモル比は18、Na/Al比は0.3、K/Al比は0.7であった(アルミニウムに対する金属(Na+K)量:1.0当量)。
【0045】
得られたFER型ゼオライト100重量部に対して、アタパルジャイト粘土(ミニゲルMB:アクティブミネラルズ製)20重量部、カルボキシメチルセルロース3重量部、レオドール(TWL-120:花王製)1重量部、純水110重量部を添加して、ミックスマラーで混練した。混練物を直径1.5mmφの円柱状に押出し、成形した。成形物を110℃で乾燥した後、650℃で3時間を空気下で焼成し、キセノン吸着剤(成形体)を得た。
【0046】
得られたキセノン吸着剤の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.34mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.60mol/kgであった。また、キセノン選択性は56.7であった。
【0047】
実施例3
実施例1で得られた焼成後のCHA型ゼオライト(細孔径:3.8Å)を硝酸ナトリウム溶液でイオン交換を行った。得られたナトリウム交換CHA型ゼオライトのSiO/Alモル比は13で、Na/Al比は0.8(アルミニウムに対する金属(Na)量:0.8当量)で、Kは含有していなかった。なお、イオン交換前のNa/Al比は0.2、K/Al比は0.4であった。
【0048】
このナトリウム交換CHA型ゼオライト(キセノン吸着剤)の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.17mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.64mol/kgであった。また、キセノン選択性は26.6であった。
【0049】
実施例4~7
実施例2で得られた結晶化後のFER型ゼオライト(細孔径:4.2Å、成形する前の粉体、実施例6)、このFER型ゼオライトを硝酸ナトリウム溶液(実施例4、5)、硝酸カリウム(実施例7)でイオン交換を行って、Na、K含有量の異なる4種のFER型ゼオライトを調製した(SiO/Alモル比は18)。それぞれの25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量、25℃、100kPaにおける窒素吸着量、キセノン選択性を表1に記す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、ナトリウム交換量が多いほどキセノン吸着量が多く、またキセノン選択性に優れていた。
【0052】
実施例8
アルミン酸ナトリウム水溶液(浅田化学製、Al19.3%、NaO19.6%)1.07gと、48%水酸化ナトリウム水溶液0.39gと、純水51.6gをよく混合し、これにヘキサメチレンイミン2.27g、無定形シリカ(Nipsil-VN3:東ソーシリカ製、SiO90.2%、Al0.38%、NaO0.25%)4.40gを添加して、さらによく混合して原料組成物を得た。原料組成物の組成は、SiOを1とした場合のモル比として、Al:0.033、ヘキサメチレンイミン:0.35、NaO:0.09、HO:45であった。
【0053】
この原料組成物を80ccのステンレス製オートクレーブに密封し、55rpmで回転させながら150℃で7日間加熱した。加熱後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の純水で洗浄し、110℃で乾燥し、さらに空気流通下600℃で2時間焼成した。粉末X線回折から生成物はMWW型ゼオライト(細孔径:4.0Å)であった。また、蛍光X線分析から、MWW型ゼオライトのSiO/Alモル比は20であった。
【0054】
得られたMWW型ゼオライト焼成品を硝酸ナトリウム溶液でイオン交換を行った。得られたナトリウム交換MWW型ゼオライトのSiO/Alモル比は20で、Na/Al比は0.6(アルミニウムに対する金属(Na)量:0.6当量)であった。
【0055】
このナトリウム交換MWW型ゼオライト(キセノン吸着剤)の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.17mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.47mol/kgであった。また、キセノン選択性は36.2であった。
【0056】
実施例9
実施例1で得られた焼成後のCHA型ゼオライト(細孔径:3.8Å)を硝酸銀溶液でイオン交換を行った。得られた銀交換CHA型ゼオライトのSiO/Alモル比は13で、Ag/Al比は0.6(アルミニウムに対する金属(Ag)量:0.6当量)で、Na、Kは含有していなかった。この銀交換CHA型ゼオライトの紫外可視吸光スペクトルを図1図2に示した。図から明らかなように310~330nmにピークトップを有する吸光ピークを有していた。
【0057】
この銀交換CHA型ゼオライト(キセノン吸着剤)の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.88mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.65mol/kgであった。また、キセノン選択性は135であった。
【0058】
実施例10
実施例2で得られた結晶化後のFER型ゼオライト(細孔径:4.2Å、成形する前の粉体)を硝酸銀溶液でイオン交換を行った。得られた銀交換FER型ゼオライトのSiO/Alモル比は18で、Ag/Al比は0.5(アルミニウムに対する金属(Ag)量:0.5当量)で、Na、Kは含有していなかった。この銀交換FER型ゼオライトの紫外可視吸光スペクトルを図1図2に示した。図から明らかなように310~330nmにピークトップを有する吸光ピークを有していた。
【0059】
この銀交換FER型ゼオライト(キセノン吸着剤)の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.79mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.63mol/kgであった。また、キセノン選択性は125であった。
【0060】
この銀交換FER型ゼオライトを乾燥空気雰囲気で400、500、600℃で3時間焼成を行った(昇温速度:何れも5℃/min)。焼成後の銀交換ゼオライトそれぞれの25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量、25℃、100kPaにおける窒素吸着量、キセノン選択性を表2に記す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、400℃から600℃の焼成により、銀交換ゼオライトのキセノン吸着量は増加した。
【0063】
実施例11
実施例10で得られた銀交換FER型ゼオライトを再度硝酸銀溶液でイオン交換を行った。得られた銀交換FER型ゼオライトのSiO/Alモル比は18で、Ag/Al比は0.8(アルミニウムに対する金属(Ag)量:0.8当量)で、Na、Kは含有していなかった。この銀交換FER型ゼオライトの紫外可視吸光スペクトルを図1図2に示した。図から明らかなように310~330nmにピークトップを有する吸光ピークを有していた。
【0064】
この銀交換FER型ゼオライト(キセノン吸着剤)の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.98mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.74mol/kgであった。また、キセノン選択性は132であった。
【0065】
この銀交換FER型ゼオライトを乾燥空気雰囲気で500℃で3時間焼成を行った(昇温速度:何れも5℃/min)。焼成後の銀交換ゼオライトそれぞれの25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量、25℃、100kPaにおける窒素吸着量、キセノン選択性を表2に記す。
【0066】
表2に示すように、500℃の焼成により、銀交換ゼオライトのキセノン吸着量は増加した。
【0067】
実施例12
実施例8で得られたMWW型ゼオライト(細孔径:4.0Å)を硝酸銀溶液でイオン交換を行った。得られた銀交換MWW型ゼオライトのSiO/Alモル比は20で、Ag/Al比は0.5(アルミニウムに対する金属(Ag)量:0.5当量)で、Naは含有していなかった。この銀交換MWW型ゼオライトの紫外可視吸光スペクトルを図1図2に示した。図から明らかなように310~330nmにピークトップを有する吸光ピークを有していた。
【0068】
この銀交換MWW型ゼオライト(キセノン吸着剤)の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.49mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.38mol/kgであった。また、キセノン選択性は129であった。
【0069】
実施例13
実施例1で得られた焼成後のCHA型ゼオライト(細孔径:3.8Å)を硝酸銀溶液でイオン交換を行った。得られた銀交換CHA型ゼオライトのSiO/Alモル比は13で、Ag/Al比は0.5(アルミニウムに対する金属(Ag)量:0.5当量)で、Na、Kは含有していなかった。この銀交換CHA型ゼオライトの紫外可視吸光スペクトルを図1図2に示した。図から明らかなように310~330nmにピークトップを有する吸光ピークを有していた。
【0070】
この銀交換CHA型ゼオライト(キセノン吸着剤)の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.79mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.59mol/kgであった。また、キセノン選択性は134であった。
【0071】
この銀交換CHA型ゼオライトを乾燥空気雰囲気で400、500℃で3時間焼成を行った(昇温速度:何れも5℃/min)。焼成後の銀交換ゼオライトそれぞれの25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量、25℃、100kPaにおける窒素吸着量、キセノン選択性を表2に記す。
【0072】
表2に示すように、400℃から500℃の焼成により、銀交換ゼオライトのキセノン吸着量は増加した。
【0073】
実施例14
実施例2で得られた結晶化後のFER型ゼオライト(細孔径:4.2Å、成形する前の粉体)を塩化アンモニウム溶液でイオン交換を行い、続いて硝酸カルシウム溶液でイオン交換を行った。得られたカルシウム交換FER型ゼオライトのSiO/Alモル比は18で、Ca/Al比は0.45(アルミニウムに対する金属(Ca)量:0.90当量)で、Na、Kは含有していなかった。
【0074】
このカルシウム交換FER型ゼオライト(キセノン吸着剤)の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.55mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.70mol/kgであった。また、キセノン選択性は78.6であった。
【0075】
実施例15
実施例2で得られた結晶化後のFER型ゼオライト(細孔径:4.2Å、成形する前の粉体)を塩化アンモニウム溶液でイオン交換を行い、続いて硝酸マグネシウム溶液でイオン交換を行った。得られたマグネシウム交換FER型ゼオライトのSiO/Alモル比は18で、Mg/Al比は0.45(アルミニウムに対する金属(Mg)量:0.90当量)で、Na、Kは含有していなかった。
【0076】
このマグネシウム交換FER型ゼオライト(キセノン吸着剤)の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.36mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.50mol/kgであった。また、キセノン選択性は72.0であった。
【0077】
実施例16
実施例2で得られた結晶化後のFER型ゼオライト(細孔径:4.2Å、成形する前の粉体)を塩化アンモニウム溶液でイオン交換を行い、続いて塩化リチウム溶液でイオン交換を行った。得られたリチウム交換FER型ゼオライトのSiO/Alモル比は18で、Li/Al比は1.0(アルミニウムに対する金属(Li)量:1.0当量)で、Na、Kは含有していなかった。
【0078】
このリチウム交換FER型ゼオライト(キセノン吸着剤)の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.63mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は1.08mol/kgであった。また、キセノン選択性は58.3であった。
【0079】
比較例1
NaX型ゼオライト成形体(ゼオラム(登録商標)F-9HA:東ソー製、ゼオライトの細孔径:7.4Å、シリカアルミナモル比:2.5)のキセノン吸着量と窒素吸着量を測定した。25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.03mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.43mol/kgであった。また、キセノン選択性は7.0であった。
【0080】
比較例2
LiLSX型ゼオライト成形体(ゼオラム(登録商標)NSA-700:東ソー製、ゼオライトの細孔径:7.4Å、シリカアルミナモル比:2.0)のキセノン吸着量と窒素吸着量を測定した。25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.03mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は1.13mol/kgであった。また、キセノン選択性は2.7であった。
【0081】
比較例3
CaX型ゼオライト成形体(ゼオラム(登録商標)SA-600A:東ソー製、ゼオライトの細孔径:7.4Å、シリカアルミナモル比:2.5)のキセノン吸着量と窒素吸着量を測定した。25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.11mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は1.14mol/kgであった。また、キセノン選択性は9.6であった。
【0082】
比較例4
CaA型ゼオライト成形体(ゼオラム(登録商標)SA-500A:東ソー製、ゼオライトの細孔径:4.1Å、シリカアルミナモル比:2.0)のキセノン吸着量と窒素吸着量を測定した。25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.05mol/kgで、25℃、100kPaにおける窒素吸着量は0.57mol/kgであった。また、キセノン選択性は8.8であった。
【0083】
比較例5
NaY型ゼオライト(HSZ-320NAA:東ソー製、ゼオライトの細孔径:7.4Å、シリカアルミナモル比:5.7)を塩化アンモニウム溶液でイオン交換を行い、続いて硝酸銀溶液でイオン交換を行った。得られた銀交換FAU型ゼオライトのSiO/Alモル比は5.7、Ag/Al比は0.2、Na/Al比は0.2であった。
【0084】
この銀交換FAU型ゼオライト(キセノン吸着剤)の25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.02mol/kgであった。
【0085】
この銀交換FAU型ゼオライトを乾燥空気雰囲気で500℃で3時間焼成を行った(昇温速度:何れも5℃/min)。焼成後の銀交換ゼオライトの25℃、1kPaにおけるキセノン吸着量は0.02mol/kgであった。500℃の焼成により、銀交換ゼオライトのキセノン吸着量は増加しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のキセノン吸着剤は、低濃度のキセノン吸着量が多いため、混合ガスから効率的にキセノンを吸着することができる。
図1
図2