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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】コーティング液およびその利用品
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20220906BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220906BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20220906BHJP
   C09D 4/06 20060101ALI20220906BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220906BHJP
   C09J 7/29 20180101ALI20220906BHJP
   C09J 7/25 20180101ALI20220906BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20220906BHJP
【FI】
C09D4/02
B32B27/00 M
C09D133/00
C09D4/06
C09D7/63
C09J7/29
C09J7/25
C09J7/38
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018099077
(22)【出願日】2018-05-23
(65)【公開番号】P2019203077
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002011
【氏名又は名称】特許業務法人井澤国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100072039
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 洵
(74)【代理人】
【識別番号】100123722
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 幹
(74)【代理人】
【識別番号】100157738
【弁理士】
【氏名又は名称】茂木 康彦
(74)【代理人】
【識別番号】100158377
【弁理士】
【氏名又は名称】三谷 祥子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 今日子
(72)【発明者】
【氏名】江副 昭宏
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/010041(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/133535(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159023(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a):ウレタン(メタ)アクリレート、及び、成分(b):光重合性(メタ)アクリル系化合物類を、光重合性成分として含み、
上記成分(a)と成分(b)とが上記光重合性成分の合計量に対して、成分(a):1重量%以上50重量%以下、成分(b):50重量%以上99重量%以下の割合で混合されてなり、
上記成分(b)が、
成分(b1):以下の式(1)で表されるフルオロシルセスキオキサン誘導体に由来する構造単位を有する光重合性アクリル系化合物、
成分(b2):両末端ビニル基含有ポリオルガノシロキサン化合物、及び、
成分(b3):ウレタン単位を有さず、且つフッ素原子及びSi原子を共に有さない光重合性アクリル系化合物、を含む、
光重合性コーティング組成物。
【化1】
(式(1)において、R ~R はそれぞれ独立して、任意のメチレンが酸素で置き換えられていてもよい、炭素数1~20の、直鎖状もしくは分岐鎖状のフルオロアルキル;少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置き換えられた、炭素数6~20のフルオロアリール;またはアリール中の少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置き換えられた、炭素数7~20のフルオロアリールアルキルであり、Aは、下記式(1-1)または式(1-2)で表される基である。)
【化2】
(式(1-1)において、Yは炭素数2~10のアルキレンであり、Rは水素、炭素数1~5の直鎖状のアルキル、炭素数3~5の分岐鎖状のアルキル、または炭素数6~10のアリールである。)
【化3】


(式(1-2)において、Yは単結合または炭素数1~10のアルキレンである。)
【請求項2】
上記成分(b1)が、以下の式(1-3)で表されるγ-メタクリロキシプロピルヘプタ(トリフルオロプロピル)-T8-シルセスキオキサンに由来する構造単位を含み、
【化4】
上記成分(b2)が、両末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサンマクロモノマーである、
請求項1に記載の光重合性コーティング組成物。
【請求項3】
更に成分(c):フッ素系界面活性剤を含む、請求項1に記載の光重合性コーティング組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の光重合性コーティング組成物の硬化物からなるコート層を備える、物品。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の光重合性コーティング組成物の硬化物からなるコート層、熱可塑性ポリウレタンからなる基材層、感圧型接着剤からなる粘着層がこの順で接してなる、積層フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の積層フィルムを用いたペイントプロテクションフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種物品のトップコート層、特にペイントプロテクションフィルムなどの積層フィルムの材料として使用可能なコーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
ペイントプロテクションフィルム(PPF)は、屋外で使用される工業製品の表面保護に用いられるフィルム状の製品である。PPFの基本構造は、柔軟で透明な樹脂フィルムからなる基材と粘着層の少なくとも2層を含む積層体である。そして、PPFは、一般的には基材の粘着層と反対側の面に基材の防汚機能や耐傷付性を高めるためのコート層と、粘着層の基材と反対側の面に剥離層とをさらに有する積層フィルムの状態で市場に供給されている。PPFを使用する際には、まず、保護しようとする工業製品の表面部位に合わせてPPFを裁断し、裁断されたPPFの粘着層を保護目的の表面に密着させる。PPFで表面を被覆された製品は、その塗装や形状、外観が損なわれない状態で外界からの様々な刺激、例えば、風雨、埃、砂、河川水、微生物、動植物や昆虫の接触や排泄などによる汚れや傷つきから保護される。具体的には、PPFがいわゆるクッションとなって外界からの圧力や打撃を緩衝したり、PPFが雨水や汚物を撥いたりすることによって、外界の刺激が製品そのものに与える影響が抑えられる。
【0003】
このようなPPFは当初は飛行機のような過酷な環境で使用される工業製品向けに開発されたものであるが、今日では自動車やバイクなどのボディの表面保護部材として普及しつつある。例えば、自動車のルーフ、ボンネット、フロント、ドア、トランクドアをPPFで被覆することにより、ドライバーを悩ませている鳥の糞、昆虫の死骸、猫の足跡、いたずら、荷物搬出による傷、飛び石による傷などからボディを守ることができる。通常は、PPFで被覆された表面を水で洗浄することによりPPF表面の汚れを簡単に除去することができるため、PPFは比較的長い期間にわたって使用される。一定期間使用されたPPFはボディから剥がされて新しいPPFと簡単に交換することができる。
【0004】
近年の世界各地における自動車、バイクなどの車両の普及によって、より広範な環境下、例えば寒冷地、熱帯、乾燥地などより厳しい気候の下で使用可能なPPFが求められている。しかも、PPFの市場の拡大に伴って、より簡単に、特別な技能を持たない作業者でも適切に施工できるPPFが望まれるようになっている。したがって近年のPPFには、自動車やバイクなどの変化に富む表面形状に馴染む柔軟性と、長期間にわたる外界からの刺激に耐える耐久性、製品そのものの外観を損なわない透明性と平滑性、取替時の良好な剥離性など、様々な性能が求められている。
【0005】
このようなPPFとして、例えば特許文献1には、基材フィルムと表面粗さが制御された粘着層とを積層することによって、貼り付け特性に優れ且つ糊残りが抑制されたPPFを提供することが記載されている。しかしこのPPFでは基材フィルムの表面に追加する防汚層について具体的な検討がなされておらず、外観が重要視される自動車やバイクに対する実用性には問題があった。
【0006】
また例えば特許文献2には、ポリウレタンを含む第1層、熱可塑性ポリウレタンを含む第2層、感圧接着剤を含む第3層をこの順で積層したPPFが記載されている。しかしながらこのPPFでも諸性能の一層の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016- 20079号公報
【文献】特表2008-539107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように先行するPPF技術には改善の余地がある。本発明者は、改善すべき性能として特に、上述の先行技術では検討されていない耐候安定性、すなわち、長期間の過酷な屋外環境下での使用を経ても初期の防汚性や撥水性が維持される点に注目した。本発明者はPPFの最表面を構成する塗膜材料を改変することにより、上記耐候安定性の改善を目指した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その結果、特定の2種のフッ素含有光重合性成分を含むアクリル系光重合性コーティング組成物が、長期持続する防汚性や撥水性を発現する塗膜(コート層)を与えることを見出した。さらに本発明者は、この光重合性コーティング組成物の硬化物からなるコート層がPPFなどの積層フィルムとして利用可能であることを見出した。すなわち本発明は以下のものである。
【0010】
(発明1)成分(a):ウレタン(メタ)アクリレート、及び、成分(b):光重合性(メタ)アクリル系化合物類を、光重合性成分として含み、上記成分(a)と成分(b)とが上記光重合性成分の合計量に対して、成分(a):1重量%以上50重量%以下、成分(b):50重量%以上99重量%以下の割合で混合されてなり、
上記成分(b)が、成分(b1):以下の式(1)で表されるフルオロシルセスキオキサン誘導体に由来する構造単位を有する光重合性アクリル系化合物、成分(b2):反応性シリコーン、及び、成分(b3):ウレタン単位を有さず、且つフッ素原子及びSi原子を共に有さない光重合性アクリル系化合物、を含む、光重合性コーティング組成物。
【0011】
【化1】
【0012】
(式(1)において、R ~R はそれぞれ独立して、任意のメチレンが酸素で置き換えられていてもよい、炭素数1~20の、直鎖状もしくは分岐鎖状のフルオロアルキル;少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置き換えられた、炭素数6~20のフルオロアリール;またはアリール中の少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置き換えられた、炭素数7~20のフルオロアリールアルキルであり、Aは、下記式(1-1)または式(1-2)で表される基である。)
【0013】
【化2】
【0014】
(式(1-1)において、Yは炭素数2~10のアルキレンであり、Rは水素、炭素数1~5の直鎖状のアルキル、炭素数3~5の分岐鎖状のアルキル、または炭素数6~10のアリールである。)
【0015】
【化3】
【0016】
(式(1-2)において、Yは単結合または炭素数1~10のアルキレンである。)
【0017】
(発明2) 上記成分(b1)が、以下の式(1-3)で表されるγ-メタクリロキシプロピルヘプタ(トリフルオロプロピル)-T8-シルセスキオキサンに由来する構造単位を含み、
【0018】
【化4】
【0019】
上記成分(b2)が、末端ビニル基含有ポリオルガノシロキサン化合物である、発明1の光重合性コーティング組成物。
【0020】
(発明3) 更に成分(c):フッ素系界面活性剤を含む、発明1の光重合性コーティング組成物。
【0021】
(発明4) 発明1~発明3のいずれかの光重合性コーティング組成物の硬化物からなるコート層を備える、物品。
【0022】
(発明5) 発明1~発明3のいずれかの光重合性コーティング組成物の硬化物からなるコート層、熱可塑性ポリウレタンからなる基材層、感圧型接着剤からなる粘着層、フッ素系あるいはシリコーン系剥離剤で表面皮膜した剥離層がこの順で接してなる、積層フィルム。
【0023】
(発明6) 発明5に記載の積層フィルムを用いたペイントプロテクションフィルム。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光重合性コーティング組成物から得られる塗膜(コート層)の良好な防汚性と撥水性は、長期間屋外で使用された後も持続する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の積層フィルムの1例を模式的に示した図である。
図2】本発明の積層フィルムをPPFとして使用した様子を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[1. 光重合性コーティング組成物]
本発明の光コーティング組成物は必須成分である光重合性成分として、後述の成分(a):ウレタン(メタ)アクリレートと後述の成分(b):光重合性(メタ)アクリル系化合物を含む。本発明の光重合性コーティング組成物において上記成分(a)及び成分(b)は希釈された状態であっても、あるいは、希釈されていない重合体からなる状態であっても良い。
【0027】
本発明では、上記成分(a)と成分(b)とが上記光重合性成分の合計量に対して、成分(a):1重量%以上50重量%以下、成分(b):50重量%以上99重量%以下の割合、好ましくは成分(a):1重量%以上30重量%以下、成分(b):70重量%以上99重量%以下の割合となるように混合される。
【0028】
[成分(a):ウレタン(メタ)アクリレート]
上記成分(a)として用いるウレタン(メタ)アクリレートは、イソシアネート化合物、ポリオール、水酸基含有(メタ)アクリルモノマー、イソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーの反応によって得られる、末端に反応性の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマー状の化合物の総称である。
【0029】
本発明で用いられるウレタン(メタ)アクリレートは、典型的には紫外線硬化型ウレタン(メタ)アクリレートであり、好ましくは、(i)脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物からなるイソシアネート化合物と、(ii)エステル系ポリオール、(iii)エーテル系ポリオール又は(iv)ポリカーボネート系ポリオールから選ばれる1種以上のポリオール化合物と、(v)水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物とを反応させてなるウレタン(メタ)アクリレートである。
【0030】
(i)上記脂肪族イソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。上記脂環族イソシアネート化合物としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンイソシアネート、水添化キシレンシジイソシアネートなどが挙げられる。
【0031】
(ii)上記エステル系ポリオールとしては、例えば、ジオール類とジカボン酸とを反応させてなるエステル化合物が挙げられる。上記ジオール類としては、例えば、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオールなどが挙げられる。ジカルボン酸としては、セバチン酸、アジピン酸、ダイマー酸、琥珀酸、アゼライン酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、シトラコン酸などが挙げられ、それらの無水物であってもよい。
【0032】
(iii)エーテル系ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリ(オキシブチレン)グリコールなどが挙げられる。当該ポリエーテルジオールの具体例としては、ポリプロヒピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、プロピレン変成ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0033】
(iv)ポリカーボネート系ポリオールとしては、例えば、カーボネート誘導体とジオール類との反応生成物が挙げられる。当該カーボネート誘導体の例としては、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのジアリルカーボネートが挙げられる。又、当該ジオール類としては、上述の化合物が挙げられる。
【0034】
(v)水酸基を有するアクリレート化合物としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0035】
このようなウレタンアクリレートの製造においては、その必須構成成分であるイソシアネート化合物、ポリオール化合物、水酸基を有するアクリレート化合物を一括仕込みにより反応させることができる。あるいは、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物とこれらイソシアネート化合物とを反応させ、一旦、イソシアネート基過剰のプレポリマーを製造し、次いで、残存イソシアネート基とポリオール化合物と反応させることもできる。
【0036】
またあるいは、イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させ、一旦、イソシアネート基過剰のプレポリマーを製造し、次いで、残存イソシアネート基と水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物と反応させることができる。これらの手法で製造されたウレタン(メタ)アクリレートは、ポリウレタン鎖を持つことが好ましい。
【0037】
本発明では、市販品である、日本合成化学社の紫光 UT-5569、トクシキ社製のAUP-838、亜細亜化学社製のRUA-062S、RUA-058SY2亜細亜工業製RUA-012、RUA-075、共栄社化学製P7-532などを使用することができる。
【0038】
[成分(b):光重合性(メタ)アクリル系化合物類]
本発明の光重合性コーティング組成物は、上記成分(a)と光共重合する成分として、成分(b):光重合性(メタ)アクリル系化合物類を含む。上記成分(b)は、成分(b1):以下の式(1)で表されるフルオロシルセスキオキサン誘導体に由来する構造単位を有する光重合性アクリル系化合物、成分(b2):反応性シリコーン、及び、成分(b3):ウレタン単位を有さず、且つフッ素原子及びSi原子を共に有さない光重合性アクリル系化合物 を含む。上記成分(b1)、成分(b2)、成分(b3)は希釈された状態で、あるいは希釈されない重合体からなる状態で混合される。
【0039】
上記成分(b1)、成分(b2)、成分(b3)のそれぞれが上記成分(b)中で占める割合に特に制限はない。一般的には、上記成分(b1)と上記成分(b2)の合計量が上記成分(b)全量に対して0.1重量%以上10重量%以下、好ましくは0.5重量%以上5重量%以下を占めるように、各成分を配合する。また一般的に、上記成分(b1)に対して質量基準で0.1倍以上10倍以下、好ましくは0.2倍以上5倍以下の上記成分(b2)を組み合わせる。本発明では成分(b2)を上記成分(b1)と併用することにより相乗的効果が得られる。
【0040】
[成分(b1):フルオロシルセスキオキサン誘導体に由来する構造単位を有する光重合性アクリル系化合物]
【0041】
本発明の成分(b)に含まれる成分(b1)は、フルオロシルセスキオキサンの構造を有し、そのSi-O-Si骨格に応じて、一般的にランダム型構造、ラダー型、かご型構造に分類される。中でも、以下の式(1)で表されるフルオロシルセスキオキサン誘導体に由来する構造単位を有する光重合性(メタ)アクリル系化合物が特に好ましい。
【0042】
【化5】
【0043】
式(1)において、R ~R はそれぞれ独立して、任意のメチレンが酸素で置き換えられていてもよい、炭素数1~20の、直鎖状もしくは分岐鎖状のフルオロアルキル;少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置き換えられた、炭素数6~20のフルオロアリール;またはアリール中の少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置き換えられた、炭素数7~20のフルオロアリールアルキルであり、Aは、下記式(1-1)または式(1-2)で表される基である。
【0044】
好ましくは、式(1)におけるR ~R はそれぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル、ヘンイコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロドデシル、ペンタコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロテトラデシル、(3-ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピル、ペンタフルオロフェニルプロピル、ペンタフルオロフェニル、またはα,α,α-トリフルオロメチルフェニルである。
【0045】
より好ましくは、式(1)におけるR ~R はそれぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、または3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルである。
【0046】
【化6】
【0047】
式(1-1)において、Yは炭素数2~10のアルキレン、好ましくは炭素数2~6のアルキレンであり、Rは水素、または炭素数1~5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル、または炭素数6~10のアリール、好ましくは水素または炭素数1~3のアルキルである。
【0048】
【化7】
【0049】
式(1-2)において、Yは単結合または炭素数1~10のアルキレンである。
【0050】
上記フルオロシルセスキオキサン誘導体(1)は、以下の方法により製造される。まず、以下の式(2)で表される3官能の加水分解性基を有するケイ素化合物(2)をアルカリ金属水酸化物の存在下、含酸素有機溶剤中で加水分解し重縮合させることにより、以下の式(3)で表される化合物(3)を製造する。
【0051】
【化8】
【0052】
【化9】
【0053】
式(3)中、Mはアルカリ金属であれば特に限定されない。このようなアルカリ金属として例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムが挙げられる。
【0054】
式(2)、(3)におけるRはそれぞれ独立して上記式(1)のR ~R から選ばれる1つの基に一致し、任意のメチレンが酸素で置き換えられていてもよい、炭素数1~20の、直鎖状もしくは分岐鎖状のフルオロアルキル;少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置き換えられた、炭素数6~20のフルオロアリール;またはアリール中の少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置き換えられた、炭素数7~20のフルオロアリールアルキルであり、Xは、加水分解性基である。
【0055】
好ましくは、式(2)、(3)におけるRはそれぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル、ヘンイコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロドデシル、ペンタコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロテトラデシル、(3-ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピル、ペンタフルオロフェニルプロピル、ペンタフルオロフェニル、またはα,α,α-トリフルオロメチルフェニルである。
【0056】
より好ましくは、式(2)におけるRはそれぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、または3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルである。
【0057】
次に、上記化合物(3)に以下の式(4)で表される化合物(4)を反応させることによって、上記フルオロシルセスキオキサン誘導体(1)が得られる。
【0058】
【化10】
【0059】
式(4)における基Xは、上記式(1-1)または式(1-2)で表される基である。
【0060】
このようなフルオロシルセスキオキサン誘導体(1)の中で、以下の式(5)で表されるγ-メタクリロキシプロピルヘプタ(トリフルオロプロピル)-T8-シルセスキオキサンが好ましい。
【0061】
【化11】
【0062】
γ-メタクリロキシプロピルヘプタ(トリフルオロプロピル)-T8-シルセスキオキサンなどのフルオロシルセスキオキサン誘導体(1)を、コート層に導入すると、コート層の防汚機能を一層向上することができる。フルオロシルセスキオキサン誘導体(1)を、光重合性(メタ)アクリル系化合物類に含有させる際は、これを直接他の光重合性(メタ)アクリル系化合物類に混合してもよいし、これと光重合性(メタ)アクリル系化合物類とをあらかじめ架橋及び/又は重合して製造したオリゴマーを、他の光重合性アクリル系化合物類に混合してもよい。
【0063】
一般的には、フルオロシルセスキオキサン誘導体(1)と単官能アクリレート、二官能アクリレート、多官能アクリレートから選ばれる1種以上の(メタ)アクリレート系共重合成分とを共重合してフルオロシルセスキオキサン誘導体(1)単位を有する重合体をあらかじめ製造し、この重合体を、光重合性(メタ)アクリル系化合物類の一部として用いる。この場合、フルオロシルセスキオキサン誘導体(1)単位を含む重合体が光重合成分に対して0.01~10重量部、好ましくは0.05~5重量部の割合となるように配合する。
【0064】
上述の1種以上の(メタ)アクリレート系共重合成分としては、一般に光硬化性アクリルモノマーと称される化合物、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルやヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルのような単官能アクリレート、(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの二官能アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートのような3官能以上の多官能アクリレートなど、さらに、これらを重合して得られるオリゴマーを使用することができる。
【0065】
[成分(b2):反応性シリコーン]
本発明の上記成分(b)に含まれる成分(b2):反応性シリコーンは、反応性シリコーンオイル、ポリシロキサン系マクロモノマーとも称される、シリコーン化合物群である。これらは高分子合成分野において、ブロック共重合体やグラフト共重合体の原料として、また成形用樹脂の改質材、塗料の改質剤として用いられている。この成分(b2)は本発明の光重合性コーティング組成物の表面平滑性を向上させる。
【0066】
このような成分(b2)としては、末端ビニル基含有ポリオルガノシロキサン化合物が好ましく、末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサンマクロモノマーがさらに好ましい。
【0067】
[成分(b3):ウレタン単位を有さず、且つフッ素原子及びSi原子を有さない光重合性アクリル系化合物]
本発明の光重合性コーティング組成物には、上述の成分(a)、成分(b1)、及び成分(b2)の少なくとも一つの成分と光重合する架橋剤あるいは共重合モノマーとして、成分(b3):ウレタン単位を有さず、且つフッ素原子及びSi原子を共に有さない光重合性アクリル系化合物を含む。この成分(b3)は本発明の光重合性コーティング組成物の硬化における重合鎖の延長に寄与する。上記硬化に含まれるこの成分(b3)を主体とする樹脂成分は、上記硬化で生成する塗膜(コート層)の強度に寄与する。このような成分(b3)は、光重合性アクリル系化合物あるいはこれを含む溶液として入手できる様々な化合物及び製品から選択され、その種類に制限はない。
【0068】
上記成分(b3)を、あらかじめ上述の成分(a)、成分(b1)、及び成分(b2)から選ばれる一つ以上に混合した形で、本発明の光重合性コーティング組成物に供給することもできる。上記成分(b3)の少なくとも一部分と、上述の成分(a)、成分(b1)、成分(b2)から選ばれる一つ以上とを反応させて得られる共重合体を本発明の光重合性コーティング組成物に供給することもできる。
【0069】
[成分(c):フッ素系界面活性剤]
本発明の光重合性コーティング組成物は更に成分(c):フッ素系界面活性剤を含むことができる。この成分成分(c)は、化学構造中にフッ素原子と光重合性不飽和基を有するモノマー及びオリゴマーであり、塗料分野でフッ素系添加剤、フッ素系界面活性剤、フッ素系表面改質剤などと呼ばれる材料群を指す。本明細書では便宜上、上記成分(c)を一般的呼称の一つである「フッ素系界面活性剤」と表記する。
【0070】
このような成分(c)としては、本発明の光重合性コーティング組成物中で成分分離しない、各種有機溶媒(例えば、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒等)への溶解性が高い、ノニオン性のものが好ましい。また上記成分(c)としてはフッ素を0.01~80重量%含むものが好適である。
【0071】
好ましい成分(c)は、パーフルオロポリエーテル骨格を有し、その一端または両端に光重合性不飽和基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を用いることができる。パーフルオロポリエーテル骨格は、例えば、-(O-CFCF)-、-(OCFCFCF)-、又は-(O-CFC(CF)F)-等の繰り返し構造を示す。上記光重合性不飽和基は、特に限定されず、(メタ)アクリロイル、(メタ)アクリロイルオキシ、ビニル、アリルなどの基が挙げられ、上記成分(a)や上記成分(b)との反応性の観点からは(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0072】
このような成分(c)としては、例えば、「メガファック(登録商標)RS-75」(DIC株式会社製)、「KY-1203」(信越化学工業株式会社製)、「FLUOROLINK AD1700」「FLUOROLINK MD700」(ソルベイ ソレクシス株式会社製)、「オプツールDAC-HP」(ダイキン化学工業株式会社製)、「CN4000」(サートマー社製)などを用いることができる。
【0073】
本発明の光重合性コーティング組成物は、光重合性成分に対して一般的には0.1重量%以上10重量%以下、好ましくは0.5重量%以上5重量%以下の上記成分(c)を含むことができる。
【0074】
[2.重合開始剤]
本発明の光重合性コーティング組成物の硬化に用いられる重合開始剤としては、光重合開始剤の名で流通しているものを制限なく使用することができる。このような光重合開始剤として、例えば、{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパンオン}等のヒドロキシケトンのポリマー体、1-ヒドロキシジシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-{4(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフインオキサイド、ビス(2,4,6トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフインオキサイド等を使用することができる。
【0075】
[3.添加剤]
本発明の光重合性コーティング組成物には、一般的に塗料やフィルムの材料に配合される酸化防止剤、耐候安定剤、調色剤、希釈剤などの添加剤を配合することができる。その配合量は、本発明の光重合性コーティング組成物の機能を低下させない範囲であれば制限されない。
【0076】
[4.光重合性コーティング組成物の利用]
本発明の光重合性コーティング組成物を様々な物品の表面に塗布し、硬化・乾燥することによって物品表面に防汚・撥水機能を与える皮膜(コート層)を形成することができる。上記コート層を形成することのできる物品は特に制限されないが、特に積層フィルムは、液状の本発明の光重合性コーティング組成物を簡単に塗布することができる点で有利である。積層フィルムの中でも防汚・撥水機能を求められるPPFは特に上記コート層を利用した物品として有用である。
【0077】
以下、上記コート層を設けた積層フィルムについて詳述する。
【0078】
[コート層]
本発明の積層フィルムを構成するコート層は、上述の光重合性コーティング組成物を基材層上で重合開始剤の存在下に硬化させて得られる重合体からなる。コート層の厚みは、一般的には1~100μm、好ましくは2~50μm、より好ましくは3~30μmである。このようなコート層を構成する重合体の構造は複雑で、単一の繰り返し単位あるいは一律の構造式で表現することができない。本発明では、コート層を構成する重合体を、上記光重合性コーティング組成物に含まれる光重合性化合物によって定義する。
【0079】
[基材層]
本発明の積層フィルムを構成する基材層としては、熱可塑性樹脂で形成されたフィルムを用いることが望ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ノルボルネン系樹脂等の樹脂を挙げることができる。具体的には、熱可塑性ポリウレタン、ポリカプロラクトン(PCL)、アクリル酸重合体、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリエーテルケトン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、または、これらの誘導体が好ましい。これらの樹脂を単独で用いてもよいし、複数の樹脂を組合せて用いてもよい。
【0080】
特に好ましい基材層は熱可塑性ポリウレタンである。熱可塑性ポリウレタンの例として、SWM社製ArgoGuard(登録商標)49510、ArgoGuard(登録商標)49510-DV、日本マタイ社製エスマーURSPX86、エスマーURSPX93、エスマーURSPX98、シーダム社製DUS202、DUS213、DUS235、DUS501、DUS601、DUS605、DUS614、DUS203、DUS220、DUS701、XUS2086、XUS2098、DUS451、DUS450、日本ユニポリマー社製ユニグランドXN2001、XN2002、XN2004を挙げることができる。なかでも、ポリヒドロキシ化合物としてポリカプロラクトンポリオールを用いたポリカプロラクトン系熱可塑性ポリウレタンや、ポリカーボネートポリオールを用いたポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタンや、ポリエーテルポリオールを用いたポリエーテル系熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
【0081】
本発明では基材層の厚みは特に限定されないが、通常は25~300μmであり、好ましくは100~200μmである。
【0082】
[粘着層]
本発明の積層フィルムを構成する粘着層は、感圧型接着剤からなる。本発明で用いる感圧型接着剤としては、PPFの施工温度下、すなわち約20~約30℃の温度で粘着性を示し、熱可塑性ポリウレタン系材料からなる成形品とガラスや金属、プラスチック、紙などの物品との接着に用いられるものであれば、公知の物を制限なく使用することができる。このような感圧型接着剤として、市販のアクリル系感圧型接着剤、ウレタン系感圧型接着剤を使用することができ、好ましくはアクリル系感圧型接着剤が用いられる。粘着層の厚みは特に限定されないが、通常は10~200μm程度である。
【0083】
[剥離層]
本発明の積層フィルムを構成する粘着層には、好ましくはさらに剥離層が積層される。剥離層の材料としては公知の剥離材が制限なく用いられ、例えばポリエステル系樹脂やポリオレフィン系樹脂などの樹脂製フィルム、セロハン紙、グラシン紙や、これらにフッ素系あるいはシリコーン系剥離剤で表面被覆したものを使用することができる。剥離層の厚みは特に限定されないが、通常は20~200μm程度である。
【0084】
[保護層]
本発明の積層フィルムには、その保管、運搬、販売の形態に応じて、コート層の外表面を保護層で被覆することができる。このような保護層の材質に制限はなく、一般的に使用されているポリエチレンフィルムなどのプラスチック製フィルムや剥離処理された紙類などを適宜選択することができる。
【0085】
[積層フィルムの製造]
本発明の積層フィルムの製造方法は、各層の形成・積層に適した方法を制限なく採用することができる。例えば、本発明の積層フィルムが剥離層と保護層を有する場合には、本発明の積層フィルムを以下の工程を経て製造することができる。
【0086】
はじめに、剥離層の剥離処理された面上に粘着層を形成する。そして、形成された粘着層の開放された面と基材層の一方の表面とを密着させて、基材層、粘着剤層、剥離層がこの順で接した積層体を製造する。次に、得られた積層体の基材層の解放された面上に上述の光重合性コーティング組成物を塗布し、塗布面に紫外線を照射して光重合性コーティング組成物を硬化する。硬化が完了すると、コート層、基材層、粘着層、剥離層がこの順で接した積層フィルムが得られる。さらにコート層の開放面を保護フィルムで被覆する。こうして、保護層、コート層、基材層、粘着層、剥離層がこの順で接した積層フィルムが得られる。得られた積層フィルムを適宜裁断、巻取り、包装する。
【0087】
[PPF]
このようにして完成した本発明の積層フィルムは、適当な長さの単位で切断、積載、あるいは巻き取られて、PPFとして利用することができる。PPFを施工する際には、塗装面の形状や大きさに合わせた形状に本発明の積層フィルムを裁断し、裁断された積層フィルムを適度な力で展張して塗装面に粘着層を密着させる。
【0088】
本発明の積層フィルムでは、強度、平滑性、撥水性、撥油性に優れるコート層が、施工面に対する外界の刺激を緩和する機能を有する。その一方で柔軟な基材層が粘着層を介して塗装面に密着する。一定期間使用した後は、塗装面の表面を傷つけることなく積層フィルムを除去することができる。
【実施例
【0089】
[成分(b1)の例である、γ-メタクリロキシプロピルヘプタ(トリフルオロプロピル)-T8-シルセスキオキサン単位を含む重合体の製造]
まず以下の手順でγ-メタクリロキシプロピルヘプタ(トリフルオロプロピル)-T8-シルセスキオキサンを合成した。還流冷却器、温度計及び滴下漏斗を取り付けた内容積1Lの4つ口フラスコに、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(100g)、THF(500mL)、脱イオン水(10.5g)及び水酸化ナトリウム(7.9g)を仕込み、マグネチックスターラーで攪拌しながら、室温からTHFが還流する温度までオイルバスにより加熱した。還流開始から5時間撹拌を継続して反応を完結させた。その後、フラスコをオイルバスから引き上げ、室温で1晩静置した後、再度オイルバスにセットし固体が析出するまで定圧下で加熱濃縮した。
【0090】
析出した生成物を、孔径0.5μmのメンブレンフィルターを備えた加圧濾過器を用いて濾取した。次いで、得られた固形物をTHFで1回洗浄し、減圧乾燥機にて80℃、3時間乾燥を行い、74gの無色粉末状の固形物を得た。
【0091】
還流冷却器、温度計及び滴下漏斗を取り付けた内容積1Lの4つ口フラスコに、得られた固形物(65g)、ジクロロメタン(491g)、トリエチルアミン(8.1g)を仕込み、氷浴で3℃まで冷却した。次いでγ-メタクリロキシプロピルトリクロロシラン(21.2g)を添加し、発熱が収まったことを確認して氷浴から引き上げ、そのまま室温で一晩熟成した。イオン交換水で3回水洗した後、ジクロロメタン層を無水硫酸マグネシウムで脱水し、濾過により硫酸マグネシウムを除去した。ロータリーエバポレータで粘調な固体が析出するまで濃縮し、メタノール260gを加えて粉末状になるまで攪拌した。5μmの濾紙を備えた加圧濾過器を用いて粉体を濾過し、減圧乾燥器にて65℃、3時間乾燥を行い、41.5gの無色粉末状固体を得た。得られた個体のGPC、H-NMR測定を行い、下記式(5)で表されるγ-メタクリロキシプロピルヘプタ(トリフルオロプロピル)-T8-シルセスキオキサン(5)の生成を確認した。
【0092】
【化12】
【0093】
次に、以下の手順でγ-メタクリロキシプロピルヘプタ(トリフルオロプロピル)-T8-シルセスキオキサン単位を含む重合体を合成した。
【0094】
還流器、滴下漏斗を取り付けた窒素シールされた4口丸底フラスコ中に上記化合物5(25g)、サイラプレーンFM0721(6.3g、JNC(株)製)、メタクリル酸2-ヒドロキシルエチル(18.8g)、メタクリル酸メチル(12.5g)、メチルエチルケトン(62g)を加え、オイルバスを用い15分還流・脱気させた後、アゾビスイソブチロニトリル(0.48g)、メルカプト酢酸(0.054g)をメチルエチルケトン(4.8g)に溶解させた溶液を投入し、重合を開始させた。重合開始3時間後にアゾビスイソブチロニトリル(0.48g)をメチルエチルケトン(4.3g)に溶解させ添加し、5時間熟成させ得られた共重合体の溶液を得た。さらに重合禁止剤としてパラメトキシフェノール(0.16g)、ジラウリル酸ジブチルスズ(0.15g、昭和電工(株)製)をメチルエチルケトン(1.5g)に溶解させ添加した後、カレンズAOI(26.4g)を液温35℃から50℃となるように滴下漏斗を用いて滴下し、滴下後3時間45℃で熟成させた。
【0095】
その後メタノール(9g)を添加し処理した後、さらにパラメトキシフェノール(0.16g)を加え、これをメチルイソブチルケトン(107.3g)で希釈することで目的とする重合体(A-1)の30重量%溶液を得た。
【0096】
得られた重合体(A-1)は、重量平均分子量:Mw42,000、多分散指数:Mw/Mn1.9であった。重量平均分子量、多分散指数は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、型番:アライアンス2695、ウォーターズ社製、カラム:Shodex GPC KF-804L×2本(直列)、ガードカラム:KF-G)を用いて測定した。GPC分析により、得られた重合体(A-1)はγ-メタクリロキシプロピルヘプタ(トリフルオロプロピル)-T8-シルセスキオキサン単位を含み、側鎖にアクリロイル基を有する重合体であることを確認した。
【0097】
[光重合性コーティング組成物の製造]
表1に示す組成で材料を混合、攪拌し、本発明の光重合性コーティング組成物及び比較用の光重合性コーティング組成物を製造した。以下に使用した材料を示す。
(成分(a))
・P7-532:共栄社化学製ウレタンアクリレート商品。
(成分(b1))
・XUA008:上述の方法で製造した重合体(A-1)である。γ-メタクリロキシプロピルヘプタ(トリフルオロプロピル)-T8-シルセスキオキサン単位を含み、側鎖にアクリロイル基を有する重合体・
(成分(b2))
・FM7711:JNC製商品サイラプレーン(登録商標)。平均数分子量1,000の両末端にメタクリロキシ基を有するポリジメチルシロキサンマクロモノマー。
・FM7725:JNC製商品サイラプレーン(登録商標)。平均数分子量10,000の両末端にメタクリロキシ基を有するポリジメチルシロキサンマクロモノマー。
(成分(b3))
・M309:東亞合成製商品アロニックス(登録商標)。トリメチロールプロパントリアクリレート。
・DPCA-120:日本化薬製商品KAYARAD。カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート。
・A-HD-N:新中村化学製商品。1,6-ヘキサンジオールジアクリレート。
(成分(c))
・RS-75:DIC製フッ素系添加剤メガファック(登録商標)。含フッ素基・親水性基・親油性基・紫外線反応性基含有オリゴマー。
(その他の成分)
・Irgacure127(表1に掲載しない):BASF製光重合開始剤商品。光重合性コーティング組成物全量の7重量%となるように配合した。
【0098】
[積層フィルムの製造]
基材層としてSWM製熱可塑性ポリウレタンフィルム「ArgoGuard(登録商標)49510」(厚みは約152μm)を用いた。
【0099】
別途、シリコーン樹脂で剥離処理された剥離層に市販のアクリル系感圧型接着剤を塗布し、120℃で5分間乾燥した。こうして剥離層の片面に厚み40μmの粘着層を形成した。
【0100】
次に、上記粘着層の開放面と上記基材層とを、ゴムローラーを用いて圧着させ、45℃で1日間養生した。こうして基材層、粘着層、剥離層がこの順で接した積層フィルムが得られた。
【0101】
基材層の開放面に、上述の材料を用いて製造した光重合性コーティング組成物をマイヤーバーで塗布し、80℃で3分間乾燥した。その後、フュージョンUVランプ搭載ベルトコンベア硬化ユニット(ヘレウス社製)を用いて、積算光量:500mJ/cmで光重合性コーティング組成物を硬化させた。基材層上に厚み4μmのコート層が形成された。コート層、基材層、粘着層、剥離層がこの順で接した積層フィルムが得られた。
【0102】
[積層フィルムの評価]
(1)水接触角(撥水性)
【0103】
積層体のコート層の表面に蒸留水1.8μlを滴下し、蒸留水の液滴と積層体のコート層の表面とで形成される角度(水接触角)を測定した。測定機器には接触角計Drop Master 400(協和界面科学製)を使用した。測定値を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
・A:水接触角が100度以上。撥水性が良好。
・B:水接触角が100度未満。撥水性が悪い。
(2)摩擦係数(滑り性)
【0104】
積層体のコート層の表面の静摩擦係数と動摩擦係数を測定した。測定機器には新東化学製HEIDON Type 14W を用いた。摩擦の条件を、圧子直径11mm、荷重200g、速度300mm/min、片道移動50mmとした。結果を表1に示す。
(3)スキージー滑り性(作業性)
【0105】
積層フィルムから40mm×130mmの片を切り出し、剥離層を除去して、コート層、基材層、粘着層がこの順で接した積層フィルムを用意した。別途、自動車用黒色塗料で塗装されたアルミ板(幅50mm、縦150mm、厚み1.2mm)を用意した。
【0106】
上記積層フィルムの粘着層表面と塗装板の塗装面のそれぞれに水(ただしジョンソン・エンド・ジョンソン社製ベビーシャンプーが体積基準で1万倍に希釈されている)を噴霧した後、積層フィルムの粘着層面を塗装面に接触させ、市販のゴム製スキージーで積層フィルムと塗装面との間に生じる気泡、水泡を除きながら積層フィルムを押圧して、積層フィルムを塗装板に貼り付けた。この時の積層フィルムの滑り性(スキージー滑り性)を以下の基準で判定した。結果を表1に示す。
「+」:スキージーが積層フィルム表面で滑り、積層フィルムを困難なく貼り付けられた。
「-」:スキージーが積層フィルム表面に引っかかる、あるいは、スキージーに不均一な抵抗力がかかり、積層フィルムの貼り付けに支障があった。
【0107】
【表1】
【0108】
表1の結果が示すように、本発明の光重合性コーティング組成物を用いてコート層を形成した積層フィルムでは、良好な撥水性、滑り性、作業性が得られた。特に、成分(a), 成分(b)に加えて成分(c)を含む本発明の光重合性コーティング組成物では極めて良好な撥水性、滑り性、作業性が得られた。これに対して本発明の成分(b1)あるいは成分(b2)のいずれかを欠く比較例の積層フィルムでは、撥水性、作業性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の、光重合性コーティング組成物は撥水性・防汚性塗膜材料として利用価値が高い。本発明の光重合性コーティング組成物を用いたコート層を有する積層フィルムはPPFとして利用価値が高い。本発明の積層フィルムからなるPPFの適用対象として、自動車、バイクなどの車両の他、船舶、建築物、電気製品、展示物、内装、家具、工場設備、産業機器、医療機器など広範な対象を期待することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 コート層
2 基材層
3 粘着層
4 剥離層
5 積層フィルム
6 塗装面
7 PPF
図1
図2