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特許7135661難燃性樹脂組成物、電線、ケーブル、難燃性樹脂組成物の製造方法、電線の製造方法およびケーブルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物、電線、ケーブル、難燃性樹脂組成物の製造方法、電線の製造方法およびケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20220906BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20220906BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220906BHJP
   B29B 7/88 20060101ALI20220906BHJP
   B29C 71/00 20060101ALI20220906BHJP
   B29C 48/34 20190101ALI20220906BHJP
   B29C 48/25 20190101ALI20220906BHJP
   B29C 48/15 20190101ALI20220906BHJP
   H01B 13/14 20060101ALI20220906BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20220906BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20220906BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20220906BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L23/26
C08K3/22
B29B7/88
B29C71/00
B29C48/34
B29C48/25
B29C48/15
H01B13/14 A
H01B7/295
H01B7/02 Z
H01B7/18 H
H01B3/44 M
H01B3/44 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018180001
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020050728
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 芳宣
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/074361(WO,A1)
【文献】特開2009-019190(JP,A)
【文献】特開2013-147586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
H01B 13/00 - 13/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エチレン-酢酸ビニル共重合体と、金属水酸化物とを混練させ、第1混練物を生成させる工程、
(b)前記第1混練物と、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体とを混練させ、難燃性樹脂組成物を生成させる工程、
とを含み、
前記難燃性樹脂組成物は、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体および前記マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなるベースポリマー100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上300質量部以下含有し、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体は、互いに酢酸ビニルの含有率の異なる第1エチレン-酢酸ビニル共重合体および第2エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む、難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の難燃性樹脂組成物の製造方法において、
前記(a)工程では、溶融させた前記エチレン-酢酸ビニル共重合体を混練させながら、前記金属水酸化物を複数回に分けて添加する、難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
(a)エチレン-酢酸ビニル共重合体と、金属水酸化物とを混練させ、第1混練物を生成させる工程、
(b)前記第1混練物と、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体とを混練させ、難燃性樹脂組成物を生成させる工程、
(c)導体の周囲を被覆するように、前記難燃性樹脂組成物を押出して、絶縁層を形成し、電線を作製する工程、
(d)前記電線に電子線を照射し、前記難燃性樹脂組成物中の前記エチレン-酢酸ビニル共重合体および前記マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体を架橋させる工程、
を含み、
前記難燃性樹脂組成物は、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体および前記マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなるベースポリマー100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上300質量部以下含有する、電線の製造方法。
【請求項4】
(a)エチレン-酢酸ビニル共重合体と、金属水酸化物とを混練させ、第1混練物を生成させる工程、
(b)前記第1混練物と、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体とを混練させ、難燃性樹脂組成物を生成させる工程、
(c)導体の周囲を被覆するように、前記難燃性樹脂組成物を押出して、絶縁層を形成し、電線を作製する工程、
(d)前記電線の周囲を被覆するように、前記難燃性樹脂組成物を押出して、シースを形成する工程、
を含み、
前記難燃性樹脂組成物は、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体および前記マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなるベースポリマー100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上300質量部以下含有する、ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、電線、ケーブル、難燃性樹脂組成物の製造方法、電線の製造方法およびケーブルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線は、導体と、前記導体の周囲に設けられる被覆材としての絶縁層とを有している。また、ケーブルは、前記電線と、前記電線の周囲に設けられる被覆材としてのシース(外被層)とを備えている。前記シースは、前記絶縁層の周囲に設けられる。
【0003】
前記電線の絶縁層や前記ケーブルのシースのような被覆材は、ゴムや樹脂を主原料とした電気絶縁性材料からなる。この電気絶縁性材料は、用途に応じて必要な特性が異なる。例えば、鉄道車両用の電線に用いる電気絶縁性材料には、高い難燃性や低温特性、耐燃料特性などが要求される。
【0004】
このような電気絶縁性材料および電線の例として、特許文献1には、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびマレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体からなるポリマーアロイに難燃剤として金属水酸化物を添加したノンハロゲン難燃性樹脂組成物およびこれを用いた電線などが記載されている。
【0005】
特許文献1に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、燃焼時に塩化水素やダイオキシンなどの有毒なガスが発生しないため、火災時の毒性ガスの発生や二次災害などを防止でき、かつ、廃却時に焼却処分を行っても問題とならないことから、鉄道車両用の電線の絶縁層として有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-53247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者の検討によれば、前記難燃性樹脂組成物を製造しようとしたところ、例えば前記ケーブルの外被層や前記電線の絶縁層のような被覆材として用いるには十分な耐燃料特性が得られない場合があることを見出した。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、低温特性および耐燃料特性に優れた難燃性樹脂組成物、ならびに、これを用いた電線およびケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0010】
[1]難燃性樹脂組成物の製造方法は、(a)エチレン-酢酸ビニル共重合体と、金属水酸化物とを混練させ、第1混練物を生成させる工程、(b)前記第1混練物と、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体とを混練させ、難燃性樹脂組成物を生成させる工程、とを含む。前記難燃性樹脂組成物は、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体および前記マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなるベースポリマー100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上300質量部以下含有する。
【0011】
[2][1]記載の難燃性樹脂組成物の製造方法において、前記(a)工程では、溶融させた前記エチレン-酢酸ビニル共重合体を混練させながら、前記金属水酸化物を複数回に分けて添加する。
【0012】
[3][1]記載の難燃性樹脂組成物の製造方法において、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体は、互いに酢酸ビニルの含有率の異なる第1エチレン-酢酸ビニル共重合体および第2エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む。
【0013】
[4]電線の製造方法は、(a)エチレン-酢酸ビニル共重合体と、金属水酸化物とを混練させ、第1混練物を生成させる工程、(b)前記第1混練物と、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体とを混練させ、難燃性樹脂組成物を生成させる工程、を含む。電線の製造方法は、(c)導体の周囲を被覆するように、前記難燃性樹脂組成物を押出して、絶縁層を形成し、電線を作製する工程、(d)前記電線に電子線を照射し、前記難燃性樹脂組成物中の前記エチレン-酢酸ビニル共重合体および前記マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体を架橋させる工程、を含む。前記難燃性樹脂組成物は、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体および前記マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなるベースポリマー100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上300質量部以下含有する。
【0014】
[5]ケーブルの製造方法は、(a)エチレン-酢酸ビニル共重合体と、金属水酸化物とを混練させ、第1混練物を生成させる工程、(b)前記第1混練物と、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体とを混練させ、難燃性樹脂組成物を生成させる工程を含む。ケーブルの製造方法は、(c)導体の周囲を被覆するように、前記難燃性樹脂組成物を押出して、絶縁層を形成し、電線を作製する工程、(d)前記電線の周囲を被覆するように、前記難燃性樹脂組成物を押出して、シースを形成する工程、を含む。前記難燃性樹脂組成物は、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体および前記マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなるベースポリマー100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上300質量部以下含有する。
【0015】
[6]難燃性樹脂組成物は、エチレン-酢酸ビニル共重合体と、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体と、金属水酸化物と、を含む。前記エチレン-酢酸ビニル共重合体は、互いに酢酸ビニルの含有率の異なる第1エチレン-酢酸ビニル共重合体および第2エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む。前記難燃性樹脂組成物は、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体および前記マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなるベースポリマー100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上300質量部以下含有する。
【0016】
[7][6]記載の難燃性樹脂組成物から形成される絶縁層を備える、電線。
【0017】
[8][6]記載の難燃性樹脂組成物から形成されるシースを備える、ケーブル。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低温特性および耐燃料特性を備えた難燃性樹脂組成物、ならびに、これを用いた電線およびケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施の形態の難燃性樹脂組成物の製造工程を示すフローである。
図2】一実施の形態の電線の構造を示す横断面図である。
図3】一実施の形態のケーブルの構造を示す横断面図である。
図4】実施例1の電線の絶縁層の透過型電子顕微鏡像である。
図5】比較例2の電線の絶縁層の透過型電子顕微鏡像である。
図6】比較例5の電線の絶縁層の透過型電子顕微鏡像および走査電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(検討事項)
まず、実施の形態を説明する前に、本発明者が検討した事項について説明する。
【0021】
本発明者は、例えば電線の絶縁層やケーブルの外被層のような被覆材として用いる材料として、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびマレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体からなるポリマーアロイに難燃剤として金属水酸化物を添加したノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いることを検討した。
【0022】
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、柔軟性や低温特性に優れた熱可塑性プラスチックである。エチレン-酢酸ビニル共重合体に金属水酸化物を添加することで、難燃性を高めることができる。しかし、この場合、エチレン-酢酸ビニル共重合体と金属水酸化物との密着性が高くないため、低温特性が低下することが知られている。
【0023】
そこで、エチレン-酢酸ビニル共重合体に、金属水酸化物と共に、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体を添加することが行われる。マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体とポリマーアロイを形成すると共に、金属水酸化物との密着性が高いため、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびマレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体からなるポリマーアロイ(以下、ベースポリマーと称する)に金属水酸化物を添加すると、低温特性を向上させることができる。
【0024】
このような難燃性樹脂組成物の製造方法は、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体、および、(C)金属水酸化物を同時に加圧ニーダなどに投入し、混練させるものである(以下、検討例1とする)。
【0025】
ただし、検討例1において、混練時には(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体および(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体からなるベースポリマーは溶融して液相となるのに対して、(C)金属水酸化物は溶融せず固相のままである。そのため、金属水酸化物は、ベースポリマーと混ざりにくい。
【0026】
また、難燃性樹脂組成物の難燃性を十分に発揮させるためには、難燃性樹脂組成物中の金属水酸化物の比率は高いことが好ましい。後述するように、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体および(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体からなるベースポリマー100質量部に対する(C)金属水酸化物の添加量は、150~300質量部である。
【0027】
このように、金属水酸化物は、ベースポリマーと混ざりにくい上に、難燃性樹脂組成物中の比率が高い。そのため、検討例1のように、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体、および、(C)金属水酸化物を同時に加圧ニーダなどに投入し、混練させようとすると、難燃性樹脂組成物中に金属水酸化物を十分に分散させることができないおそれがある。
【0028】
そこで、本発明者は、難燃性樹脂組成物中に金属水酸化物を分散させるために、難燃性樹脂組成物の製造方法として、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体と(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体とを加圧ニーダなどにより混練させ、その混練物に(C)金属水酸化物を複数回に分けて加え混練させることを検討した(以下、検討例2とする)。検討例2によれば、難燃性樹脂組成物中に金属水酸化物を効率よく分散させることができる。
【0029】
しかし、前述のように、本発明者は、検討例2の難燃性樹脂組成物において、例えば前記ケーブルの外被層や前記電線の絶縁層のような被覆材として用いるには十分な耐燃料特性が得られない場合があることを確認している。この原因として、後述の比較例で説明するように、ベースポリマーと金属水酸化物との間に空隙が生じ、この空隙に燃料が入り込むためであるとわかった。
【0030】
ここで、本発明者は、検討例2の難燃性樹脂組成物において、ベースポリマーと金属水酸化物との間に空隙が生じる原因が、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体と金属水酸化物との密着性にあると考えた。
【0031】
マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体は、2個のカルボキシル基(COOH)が脱水縮合したカルボン酸無水物の構造(無水マレイン酸由来)やカルボン酸無水物が加水分解して生成したカルボキシル基(マレイン酸由来)を有している。そのため、マレイン酸変性-α-オレフィン系共重合体は、金属水酸化物との間で水素結合を形成することができる。従って、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体と金属水酸化物との密着性は、エチレン-酢酸ビニル共重合体と金属水酸化物との密着性よりも高い。このような性質のため、難燃性樹脂組成物にマレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体を添加することで、ベースポリマーと金属水酸化物との密着性を高め、生成された難燃性樹脂組成物の低温特性を向上させることができる。
【0032】
しかし、以下の理由により、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体と金属水酸化物との密着性が、混練時には逆効果となると考えられる。すなわち、検討例2の難燃性樹脂組成物の製造方法において、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体が存在する状態で(C)金属水酸化物を添加して混練させると、(C)金属水酸化物は(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体に水素結合により密着した状態で混練される。その結果、検討例2では、金属水酸化物を添加した後の混練工程において、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体の混練によって金属水酸化物の結晶に過剰な応力がかかり、金属水酸化物の結晶の一部が剥れたり、金属水酸化物の結晶が細かく砕けたりしてしまう。その結果、検討例2では、ベースポリマーと金属水酸化物との間に空隙が生じる。
【0033】
特に、検討例2では、ベースポリマーに対して(C)金属水酸化物を数回に分けて加えるため、それだけ混練時間が長くなり、金属水酸化物の結晶が剥がれ、また、砕けやすくなったと考えられる。
【0034】
以上より、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびマレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体からなるポリマーアロイに難燃剤として金属水酸化物を添加したノンハロゲン難燃性樹脂組成物の製造方法において、その工程を工夫することにより、低温特性および耐燃料特性を備えた難燃性樹脂組成物を生成することが望まれる。
【0035】
(実施の形態)
(1)難燃性樹脂組成物
<難燃性樹脂組成物の構成>
本発明の一実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体と、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体と、(C)金属水酸化物とを含んでいる。
【0036】
本実施の形態の(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体は、単一のエチレン-酢酸ビニル共重合体でもよいが、後述の実施例に示すように、2種類以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を混合してもよい。ここで、エチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニルの含有率が高まるとガラス転移温度が高くなり、低温特性が低下する。一方、エチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニルの含有率が低下すると極性が低くなり、耐燃料特性が低下する。そのため、酢酸ビニルの含有率の異なる2種類以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含ませることで、低温特性および耐燃料特性のバランスに優れた難燃性樹脂組成物を生成することができる。なお、後述の実施例では、酢酸ビニル含有量(VA量)が28質量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体と、酢酸ビニル含有量(VA量)が41質量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体とを用いている。
【0037】
また、本実施の形態の(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体は、エチレン-プロピレン共重合体などのエチレン-α-オレフィン系共重合体に無水マレイン酸をグラフト重合させたものである。α-オレフィンの炭素数は3~8が好ましい。
【0038】
また、本実施の形態の(C)金属水酸化物は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、またはニッケルが固溶したこれらの金属水酸化物などを用いることができる。これらの金属水酸化物は1種類でもよいが、2種類以上を併用してもよい。また、これらの金属水酸化物は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸やステアリン酸カルシウムなどの脂肪酸または脂肪酸金属塩などによって表面処理されているものを用いることが好ましい。これら表面処理剤は複数種類を併用して処理するものであってもよい。
【0039】
また、本実施の形態の難燃性樹脂組成物は、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体および(C)金属水酸化物以外にも、必要に応じて(D)架橋助剤、(E)酸化防止剤、(F)着色剤または(G)滑剤などを含有していてもよい。(D)架橋助剤としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、N,N’-メタフェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジメタクリレート、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛などが挙げられる。また、(E)酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フェノール/チオエステル系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、亜リン酸エステル系酸化防止剤などが挙げられる。(F)着色剤としては、無機顔料、有機顔料、染料、および、カーボンブラックなどが挙げられる。(G)滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、シリコーン、脂肪酸アミド系、炭化水素系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などが挙げられる。
【0040】
また、本実施の形態では、前記難燃性樹脂組成物内において、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体同士、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体同士、または、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体と(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体とが架橋されている。本実施の形態においては、このような架橋がされていることは必須ではないが、架橋により難燃性樹脂組成物の機械特性が向上するため、このような架橋がされていることが好ましい。架橋方法としては、成形後に電子線を照射する電子線架橋法や難燃性樹脂組成物に架橋剤をあらかじめ添加しておき、成形後熱処理を行う化学架橋などを用いることができるが、本実施の形態では、電子線架橋法を用いている。
【0041】
本実施の形態において、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体および(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体からなるベースポリマー100質量部に対する(C)金属水酸化物の添加量は、150~300質量部、好ましくは150~200質量部である。ベースポリマー100質量部に対する金属水酸化物の添加量が150質量部より少ないと十分な難燃性が得られない。一方、ベースポリマー100質量部に対する金属水酸化物の添加量が300質量部より多いと機械特性が低下する。また、本発明の一実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物であることが好ましい。
【0042】
また、本実施の形態において、ベースポリマー中の(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体の含有率は、特に限定されるものではないが、ベースポリマー100重量部中、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体が1~30質量部という含有率が好ましい。ベースポリマー100重量部中、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体が1質量部より少ないと、ベースポリマーと金属水酸化物との密着性が低く、低温特性が低下する。一方、ベースポリマー100重量部中、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体が30質量部より多いと、ベースポリマーと金属水酸化物との密着性が高くなりすぎて、伸びが低下する。
【0043】
<難燃性樹脂組成物の製造方法>
図1は、本実施の形態の難燃性樹脂組成物の製造工程を示すフローである。図1に示すように、本実施の形態の難燃性樹脂組成物の製造方法は、(S1)(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体と(C)金属水酸化物とを混練させる工程(第1混練工程)と、(S2)前記(S1)工程によって生成された第1混練物と、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体とを混練させる工程(第2混練工程)とを含んでいる。これらの工程により、本実施の形態の難燃性樹脂組成物を生成することができる。
【0044】
エチレン-酢酸ビニル共重合体と金属水酸化物との混練を容易にし、かつ、難燃性樹脂組成物中に金属水酸化物を十分に分散させるため、前記(S1)工程では、溶融させた(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体を混練させながら、(C)金属水酸化物を複数回に分けて添加することが好ましい。
【0045】
また、図示しないが、前記(S2)工程の後に、前記(S2)工程によって生成された難燃性樹脂組成物に電子線を照射し、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体および(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体を架橋させる工程をさらに含んでいてもよい。
【0046】
また、前記(S1)工程において、必要に応じて(D)架橋助剤、(E)酸化防止剤、(F)着色剤または(G)滑剤などを添加してもよい。これらの添加物は、(C)金属水酸化物を添加する前に加えておくことが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0047】
前記(S1)工程の温度は、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体の溶融連続化(成形加工)温度以上であって、例えば70℃である。前記(S2)工程の温度は、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体の溶融連続化温度以上であって、例えば120~170℃である。その結果、前記(S2)工程の温度は、前記(S1)工程の温度よりも高い。
【0048】
本実施の形態の難燃性樹脂組成物を製造するための混練装置は、例えば、バンバリーミキサーや加圧ニーダなどのバッチ式混練機、二軸押出機などの連続式混練機などの公知の混練装置を採用することができる。
【0049】
なお、本実施の形態の難燃性樹脂組成物の製造方法は、(S1)第1混練工程と、(S2)第2混練工程とを含むものとして説明したが、これらの工程を連続した1つの工程として本実施の形態の難燃性樹脂組成物を製造することもできる。例えば、押出方向に沿って複数の投入口を有する二軸押出機などの連続式混練機の場合、1つの投入口から(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体および(C)金属水酸化物を投入し、別の投入口から(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体を投入することにより、前記(S1)工程と前記(S2)工程とを1つの混練装置で連続した1つの工程として行うことができる。
【0050】
<本実施の形態の特徴と効果>
本発明の一実施の形態に係る難燃性樹脂組成物の製造方法の特徴の一つは、前記(S1)工程において、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体が存在しない状態で、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体と(C)金属水酸化物とを混練させることである。そして、前記(S2)工程において、前記(S1)工程によって生成された第1混練物と(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体とを混練させている。
【0051】
本実施の形態では、このような工程を採用したことにより、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびマレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体からなるポリマーアロイに難燃剤として金属水酸化物を添加した難燃性樹脂組成物の製造方法において、低温特性および耐燃料特性を備えた難燃性樹脂組成物を生成できる。以下、その理由について具体的に説明する。
【0052】
前述したように、検討例2の難燃性樹脂組成物の製造方法において、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体が存在する状態で(C)金属水酸化物を数回に分けて添加して混練させた結果、(C)金属水酸化物の結晶の一部が剥れたり、金属水酸化物の結晶が細かく砕けたりしてしまった。これにより、ベースポリマーと金属水酸化物との間に空隙が生じ、耐燃料特性が低下する結果となった。
【0053】
一方、本実施の形態では、前記(S1)工程において、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体を添加せずに、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体と(C)金属水酸化物とを混練させる。前記(S1)工程では、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体が混練物中に存在しないため、金属水酸化物の結晶に過剰な応力がかかることはなく、金属水酸化物の結晶の一部が剥れたり、金属水酸化物の結晶が細かく砕けたりすることはない。また、難燃性樹脂組成物中に金属水酸化物を十分に分散させるために、検討例2と同様に前記(S1)工程において(C)金属水酸化物を複数回に分けて加え混練させたとしても、同様の理由により問題は生じない。
【0054】
その結果、前記(S1)工程において、エチレン-酢酸ビニル共重合体と金属水酸化物とを十分に混練することができ、混練物(第1混練物)中に金属水酸化物を十分に分散させることができる。
【0055】
そして、前記(S2)工程において、前記(S1)工程により生成した第1混練物中に(C)金属水酸化物が十分分散した状態で、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体を添加し混練させている。こうすることで、前記(S2)工程において(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体と(C)金属水酸化物との混練時間を検討例2に比べて短くすることができ、金属水酸化物の結晶の一部が剥れたり、金属水酸化物の結晶が細かく砕けたりする可能性を低減することができる。
【0056】
以上より、本実施の形態にあっては、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびマレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体からなるポリマーアロイに難燃剤として金属水酸化物を添加した難燃性樹脂組成物において、ベースポリマーと金属水酸化物との間に空隙が生じることを防止することができ、低温特性および耐燃料特性を備えさせることができる。
【0057】
(2)電線
図2は、本発明の一実施の形態に係る電線(絶縁電線)を示す横断面図である。図2に示すように、本実施の形態に係る電線10は、導体1と、導体1の周囲に被覆される絶縁層2とを有している。絶縁層2は、前述の難燃性樹脂組成物からなる。
【0058】
導体1としては、通常用いられる金属線、例えば銅線、銅合金線のほか、アルミニウム線、金線、銀線などを用いることができる。また、導体1として、金属線の周囲に錫やニッケルなどの金属めっきを施したものを用いてもよい。さらに、導体1として、金属線を撚り合わせた撚り導体を用いることもできる。
【0059】
本実施の形態の電線10は、例えば、以下のように製造される。まず、導体1として銅線を準備する。そして、押出機により、導体1の周囲を被覆するように、前述の難燃性樹脂組成物を押出して、所定厚さの絶縁層2を形成する。こうすることで、本実施の形態の電線10を製造することができる。
【0060】
本実施の形態において使用する難燃性樹脂組成物は、後述の実施例で作製した電線に限らず、あらゆる用途およびサイズに適用可能であり、鉄道車両用、自動車用、盤内配線用、機器内配線用、電力用の各電線の絶縁層に使用することができる。
【0061】
特に、本実施の形態の電線10の絶縁層2を構成する難燃性樹脂組成物は、前述のように、良好な低温特性および耐燃料特性を備えている。そのため、本実施の形態の電線10は、低温特性および耐燃料特性に優れた難燃性樹脂被覆電線として使用することができ、特に、鉄道車両用の電線に好適に使用することができる。
【0062】
(3)ケーブル
図3は、本発明の一実施の形態に係るケーブル11を示す横断面図である。図3に示すように、本実施の形態に係るケーブル11は、前述の電線10を2本撚り合わせた二芯撚り線と、前記二芯撚り線の周囲に設けられた介在3と、介在3の周囲に設けられたシース4とを備えている。シース4は、前述の難燃性樹脂組成物からなる。
【0063】
本実施の形態のケーブル11は、例えば、以下のように製造される。まず、前述した方法により、電線10を2本製造する。その後、電線10の周囲を介在3により被覆し、その後、介在3を被覆するように、前述の難燃性樹脂組成物を押出して、所定厚さのシース4を形成する。こうすることで、本実施の形態のケーブル11を製造することができる。
【0064】
本実施の形態のケーブル11のシース4を構成する難燃性樹脂組成物は、前述のように、良好な低温特性および耐燃料特性を備えている。そのため、本実施の形態のケーブル11は、低温特性および耐燃料特性に優れた難燃性樹脂ケーブルとして使用することができ、特に、鉄道車両用のケーブルに好適に使用することができる。
【0065】
本実施の形態のケーブル11は、芯線として電線10を2本撚り合わせた二芯撚り線を有する場合を例に説明したが、芯線は単芯(1本)でもよいし、二芯以外の多芯撚り線であってもよい。また、電線10とシース4との間に、他の絶縁層(シース)が形成された、多層シース構造を採用することもできる。
【0066】
また、本実施の形態のケーブル11は、前述の電線10を使用した場合を例に説明したが、これに限定されず、汎用の材料を用いた電線を使用することもできる。
【0067】
(実施例)
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例1~実施例8および比較例1~比較例4]
以下、実施例1~実施例8および比較例1~比較例4について説明する。実施例1~実施例8および比較例1~比較例4は、図2に示す電線10に対応する。図2に示す導体1として、外径1.21mmの錫メッキ撚り導体(芯数43、素線直径0.16mm)を用いた。また、絶縁層2として、実施例1~実施例8では、本実施の形態の製造方法によって製造された難燃性樹脂組成物からなる絶縁層を用いた。一方、比較例1~比較例4では、検討例2の製造方法によって製造された難燃性樹脂組成物からなる絶縁層を用いた。
【0069】
<実施例1~実施例8および比較例1~比較例4の構成>
実施例1~実施例8および比較例1~比較例4で用いた原料は次の通りである。
【0070】
(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA):
(A1)EV270(三井デュポンポリケミカル社製、MFR1g/10min、酢酸ビニル含有量28、融点72℃)
(A2)V9000(三井デュポンポリケミカル社製、MFR1g/10min、酢酸ビニル含有量41、融点50~60℃)
(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体:
(B1)MH7020(三井化学社製、成形加工温度(溶融連続化温度)115℃)
(B2)MH5040(三井化学社製、成形加工温度(溶融連続化温度)102℃)
(C)金属水酸化物:マグシーズS4(神島化学製、シランカップリング剤およびステアリン酸による表面処理済の水酸化マグネシウム)
(D)架橋助剤:TMPT(トリメチロールプロパントリメタクリレート、新中村化学製)
(E)酸化防止剤:
(E1)AO18(フェノール/チオエステル系酸化防止剤、ADEKA製)
(E2)songnox1010(フェノール系酸化防止剤、ソンウォン社製)
(F)着色剤:FTカーボン(カーボン、旭カーボン社製)
(G)滑剤:
(G1)Zn-St(ステアリン酸亜鉛、日東化成工業社製)
(G2)KE76S(シリコーン、信越化学工業社製)
表1には、実施例1~実施例8および比較例1~比較例4で使用する材料の配合の詳細を示している。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すように、配合1と配合2との相違点は、成形加工温度(溶融連続化温度)の異なる(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体を用いている点のみであり、これ以外の点については、同じである。
【0073】
<実施例1~実施例8の製造方法>
実施例1~実施例8のサンプルは、以下の方法で作製した。表2には、実施例1~実施例8の混練方法、配合、混練機、混練条件および評価結果をまとめた。
【0074】
【表2】
【0075】
前述したように、実施例1~実施例8は、本実施の形態の製造方法によって製造された難燃性樹脂組成物に対応する。各条件は一例である。材料の配合として、実施例1~実施例4は配合1を、実施例5~実施例8は配合2を採用している。また、混練機として、実施例1、実施例2、実施例5および実施例6は3L加圧ニーダを、実施例3、実施例4、実施例7および実施例8は6インチロールをそれぞれ採用している。混練条件としては、実施例1~実施例8において、第1混練工程(S1)での設定温度、第2混練工程(S2)での(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体の投入温度、および、第2混練工程(S2)の最終到達温度をそれぞれ示している。
【0076】
(a)第1混練工程(S1)
(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体、(D)架橋助剤、(E)酸化防止剤、(F)着色剤および(G)滑剤を、3L加圧ニーダまたは6インチロールに投入し混練させた。その後、この3L加圧ニーダまたは6インチロールに(C)金属水酸化物を3回に分けて投入し混練させた。
【0077】
(b)第2混練工程(S2)
前記第1混練工程(S1)を行った3L加圧ニーダまたは6インチロールに、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体を投入し混練させた。混練後の生成物(難燃性樹脂組成物)は8インチロールによりシート化した後に、角ペレタイザーによりカットし板状に成形した。
【0078】
(c)押出し工程
次に、40mm単軸押出機のダイスに、錫メッキ撚り導体を挿通させた。その後、前記第2混練工程(S2)の生成物を単軸押出機のホッパーから投入し、これをチューブ状に押出し、かつ、真空に引きながら線速30m/minで引落し、前記錫メッキ撚り導体の周囲に厚さ0.7mmの絶縁層を形成することにより、電線を作製した。
【0079】
なお、スクリュー直径Dとスクリュー長さLとの比率L/Dを24とした。また、4つのシリンダーの温度は160℃とし、ヘッドの温度は180℃とした。
【0080】
(d)架橋工程
前記押出し工程で作製した電線に7.5Mradで電子線を照射し、難燃性樹脂組成物中の(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体および(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体を架橋させた。以上の工程により、実施例1~実施例8の電線を作製した。
【0081】
<比較例1~比較例4の製造方法>
比較例1~比較例4のサンプルは、以下の方法で作製した。表2には、比較例1~比較例4の混練方法、配合、混練機、混練条件および評価結果をまとめた。
【0082】
前述したように、比較例1~比較例4は、検討例2の製造方法によって製造された難燃性樹脂組成物に対応する。各条件は一例である。材料の配合として、比較例1および比較例2は配合1を、比較例3および比較例4は配合2を採用している。また、混練機として、比較例1および比較例3は3L加圧ニーダを、比較例2および比較例4は6インチロールをそれぞれ採用している。混練条件としては、比較例1~比較例4において、混練工程での設定温度、および、混練工程の最終到達温度をそれぞれ示している。
【0083】
(a)混練工程
(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体、(D)架橋助剤、(E)酸化防止剤、(F)着色剤および(G)滑剤を、3L加圧ニーダまたは6インチロールに投入し混練させた。その後、この3L加圧ニーダまたは6インチロールに(C)金属水酸化物を3回に分けて投入し混練させた。混練後の生成物は8インチロールによりシート化した後に、角ペレタイザーによりカットし板状に成形した。
【0084】
(b)押出し工程
次に、40mm単軸押出機のダイスに、錫メッキ撚り導体を挿通させた。その後、前記混練工程の生成物を単軸押出機のホッパーから投入し、これをチューブ状に押出し、かつ、真空に引きながら線速30m/minで引落し、前記錫メッキ撚り導体の周囲に厚さ0.7mmの絶縁層を形成することにより、電線を作製した。
【0085】
なお、スクリュー直径Dとスクリュー長さLとの比率L/Dを24とした。また、4つのシリンダーの温度は160℃とし、ヘッドの温度は180℃とした。
【0086】
(c)架橋工程
前記押出し工程で作製した電線に7.5Mradで電子線を照射し、難燃性樹脂組成物中の(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体および(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体を架橋させた。以上の工程により、比較例1~比較例4の電線を作製した。
【0087】
<実施例1~実施例8および比較例1~比較例4の評価方法>
(1)垂直難燃試験(VFT)
作製した電線をIEC60332-1-2に準拠し、燃焼試験を行った。燃焼後の炭化部の長さが規格を満たすものを「○」、満たさなかったものを「×」とした。
【0088】
(2)耐燃料特性
作製した電線から導体を引き抜いて長さ120mmの絶縁層のみのサンプルとし、このサンプルをIRM903油(燃料)に70℃の条件で1週間浸漬し、このサンプルの「伸び値の変化率」=(初期の伸び値-浸漬後の伸び値)/初期の伸び値を算出した。伸び値の変化率が30%未満であるものを「○」、30%以上であるものを「×」とした。
【0089】
(3)低温特性
作製した電線から導体を引き抜いて長さ120mmの絶縁層のみのサンプルとし、このサンプルを-40℃に保持した後、その雰囲気での伸長率を計測した。このサンプルの伸張率が30%以上であるものを「○」、30%未満であるものを「×」とした。
【0090】
(4)相構造
作製した電線から導体を引き抜いて長さ120mmの絶縁層のみとし、これをさらに厚さ0.1~0.2μm程度のサンプルとしたものを、透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope:TEM)により、加速電圧100kV、拡大倍率10万倍の条件で観察した。
【0091】
また、比較のため、TEM像に加えて走査電子顕微鏡(Scanning electron microscope:SEM)像も測定した。具体的には、作製した電線から導体を引き抜いて長さ120mmの絶縁層のみとし、これをさらに厚さ1mm程度のサンプルとしたものを、走査電子顕微鏡(Scanning electron microscope:SEM)により、加速電圧5kV、拡大倍率2500倍の条件で観察した。
【0092】
<実施例1~実施例8および比較例1~比較例4の評価結果>
以上の評価結果を表2、図4および図5にまとめた。図4は実施例1のサンプルのTEM像である。図5は比較例2において6インチロールの温度条件を実施例4と同じにしたサンプルのTEM像およびSEM像である。図6は比較例2のサンプルのTEM像である。図4中、aは実施例1のサンプルをIRM903油に浸漬する前のものに、bは実施例1のサンプルをIRM903油に浸漬した後のものに、それぞれ対応している。図5中、dおよびeはいずれも比較例2において6インチロールの温度条件を実施例4と同じにしたサンプルをIRM903油に浸漬する前のものである。図6は、比較例2のサンプルをIRM903油に浸漬した後のものである。
【0093】
発明者の解析により、図4中a,b、図5中dおよび図6中cでは、黒色の楕円状のものがマレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体であり、多角形状のものが水酸化マグネシウムの結晶であり、白色の部分が空隙であり、それ以外の灰色のものがエチレン-酢酸ビニル共重合体であることがわかった。また、図5中eでは、白色~灰色のものが水酸化マグネシウムの結晶であり、それ以外の濃灰色~黒色のものがエチレン-酢酸ビニル共重合体およびマレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体であることがわかった。
【0094】
表2に示すように、実施例1~実施例8において、(1)垂直難燃試験、(2)耐燃料特性および(3)低温特性はいずれも良好であった。
【0095】
一方、比較例1~比較例4は、(1)垂直難燃試験および(3)低温特性は良好であった一方で、(2)耐燃料特性は不良であった。
【0096】
図4中a,bに示すように、実施例1において、(4)相構造は、海島構造、すなわち、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体が連続相(海相、マトリックス)であり、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体が分散相(島相、ドメイン)であった。(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体の平均粒径は50~300nm程度であった。
【0097】
また、図5中dに示すように、比較例2において6インチロールの温度条件を実施例4と同じにしたものでも、(4)相構造は、海島構造、すなわち、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体が連続相であり、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体が分散相であった。そして、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体の平均粒径は50~300nm程度であった。なお、このような相構造は、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体の平均粒径からもわかるように、図5中dに示すTEM像では確認できる一方で、図5中eに示すSEM像では確認できなかった。
【0098】
また、IRM903油に浸漬する前において、図5中dに示す、比較例2において6インチロールの温度条件を実施例4と同じにしたものは、難燃性樹脂組成物中に空隙が多い一方、図4中aに示す実施例1では、難燃性樹脂組成物中に空隙が少ない。
【0099】
そして、図4中bに示すIRM903油に浸漬した後の実施例1は、図4中aに示すIRM903油に浸漬する前の実施例1と比べて、ほとんど変化が見られない。一方、図6中cに示すIRM903油に浸漬した後の比較例2では、難燃性樹脂組成物中に空隙が少ないが、マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体の一部が溶出していることがわかった。
【0100】
また、図5中dに示す比較例2において6インチロールの温度条件を実施例4と同じにしたもの、および、図6中cに示す比較例2では、図4中a,bに示す実施例1に比べて水酸化マグネシウムの結晶が小さい。
【0101】
以上の結果の詳細な考察は、下記実施例のまとめに記載する。
【0102】
[実施例9および実施例10]
以下、実施例9および実施例10について説明する。実施例9および実施例10も、図2に示す電線10に対応する。絶縁層2として、実施例9および実施例10では、本実施の形態の製造方法によって製造された難燃性樹脂組成物からなる絶縁層を用いた。
【0103】
<実施例9および実施例10の構成>
実施例9および実施例10で用いた原料は、実施例1と同じであるため省略する。
【0104】
<実施例9および実施例10の製造方法>
実施例9および実施例10のサンプルは、以下の方法で作製した。表3には、実施例1、実施例9および実施例10の混練方法、配合、混練機、混練条件および評価結果をまとめた。
【0105】
【表3】
【0106】
前述したように、実施例9および実施例10は、本実施の形態の製造方法によって製造された難燃性樹脂組成物に対応する。各条件は一例である。実施例9および実施例10の混練機は、実施例1と同じ3L加圧ニーダである。ただし、実施例9および実施例10は、それぞれ、3L加圧ニーダにおけるロータと混練槽との間のギャップ(間隔)を実施例1と異なるものにしている。具体的には、表3に示すように、実施例1では、ロータ-混練槽間のギャップを2.5mmにしているのに対して、実施例9では2mmと、実施例10では1.5mmとそれぞれしている。
【0107】
これ以外の材料の配合などは、実施例1と同じであるため、以下、実施例9および実施例10の製造工程は省略する。
【0108】
<実施例9および実施例10の評価方法>
実施例9および実施例10の評価方法は、基本的には実施例1と同様であるため省略する。
【0109】
<実施例1、実施例9および実施例10の評価結果>
実施例9および実施例10の評価結果を実施例1の評価結果とともに、表3にまとめた。表3に示すように、実施例9および実施例10において、(1)垂直難燃試験、(2)耐燃料特性および(3)低温特性はいずれも良好であった。
【0110】
[実施例のまとめ]
実施例1~実施例10に示すように、本実施の形態の製造方法によれば、使用するマレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体の種類や配合比率、混練機、混練条件にかかわらず、低温特性および耐燃料特性を備えた難燃性樹脂組成物を生成できる。
【0111】
具体的には、図5中dに示す、比較例2において6インチロールの温度条件を実施例4と同じにしたものは、難燃性樹脂組成物中に空隙が多い。これは、検討例2の難燃性樹脂組成物の製造方法において、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体が存在する状態で(C)金属水酸化物を数回に分けて添加して混練させたところ、(C)金属水酸化物の結晶の一部が剥れた結果であると考えられる。
【0112】
そして、図6中cに示すように、比較例2では、一見空隙がないように見えるが、これは難燃性樹脂組成物中に生じた空隙にIRM903油が入り込んだ結果であると考えられる。そして、比較例2では、空隙にIRM903油が入り込んだ結果、この油にマレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体の一部が溶出してしまい、耐燃料特性が低下したものと考えられる。
【0113】
また、図5中dに示す比較例2において6インチロールの温度条件を実施例4と同じにしたもの、および、図6中cに示す比較例2では、図4中a,bに示す実施例1に比べて水酸化マグネシウムの結晶が小さい。これは、検討例2の難燃性樹脂組成物の製造方法において、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体が存在する状態で(C)金属水酸化物を数回に分けて添加して混練させたところ、(C)金属水酸化物の結晶が細かく砕けた結果であると考えられる。これも、ベースポリマーと金属水酸化物との間に空隙が生じ、耐燃料特性が低下する原因の一つと考えられる。
【0114】
一方、IRM903油に浸漬する前において、図4中aに示す実施例1では、難燃性樹脂組成物中に空隙が少ない。そのため、IRM903油に実施例1のサンプルを浸漬しても、IRM903油がこの空隙に入り込むことがなく、耐燃料特性の結果が良好であったと考えられる。その結果、本実施の形態では、前記(S1)工程および前記(S2)工程において、(C)金属水酸化物の結晶の一部が剥れたり、金属水酸化物の結晶が細かく砕けたりすることはないということが実証されたといえる。
【0115】
また、図4中a,bに示すように、実施例1では、難燃性樹脂組成物中に水酸化マグネシウムが十分分散している。そのため、本実施の形態では、前記(S2)工程において(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体と(C)金属水酸化物との混練時間を短くしても、前記(S1)工程によって、難燃性樹脂組成物中に(C)金属水酸化物が十分分散させることができることが実証されたといえる。
【0116】
また、実施例1、実施例9および実施例10に示すように、本実施の形態の製造方法によれば、3L加圧ニーダにおけるロータと混練槽との間のギャップにかかわらず、低温特性および耐燃料特性を備えた難燃性樹脂組成物を生成できる。一般的に、ロータ-混練槽間のギャップを小さくすると、混練物にかかるせん断応力が大きくなる。しかし、実施例1から実施例9へ、実施例9から実施例10へとロータ-混練槽間のギャップを小さくしても、良好な耐燃料特性が得られている。従って、本実施の形態では、前記(S1)工程および前記(S2)工程において、混練時に混練物にかかる応力が大きい場合であっても、(C)金属水酸化物の結晶の一部が剥れたり、金属水酸化物の結晶が細かく砕けたりすることを防止できるということが実証されたといえる。
【0117】
また、本実施の形態の難燃性樹脂組成物は、(B)マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン系共重合体が分散相(島相、ドメイン)であり、(A)エチレン-酢酸ビニル共重合体が連続相(海相、マトリックス)であることが、SEM像ではなく、TEM像を観察することにより初めて明らかになった。
【0118】
本発明は前記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0119】
1 導体
2 絶縁層
3 介在
4 シース
10 電線
11 ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6