(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】液体循環装置、液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/18 20060101AFI20220906BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20220906BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B41J2/18
B41J2/175 501
B41J2/01 401
B41J2/01 451
B41J2/01 109
(21)【出願番号】P 2018212893
(22)【出願日】2018-11-13
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】森 敦司
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-151528(JP,A)
【文献】特開2010-083021(JP,A)
【文献】特開2018-154082(JP,A)
【文献】特開2017-140756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環型の液体吐出ヘッドに供給され、前記液体吐出ヘッドから回収される液体が循環する循環経路と、
前記循環経路内の前記液体を循環させる送液手段と、
前記循環経路の圧力を検知する圧力検知手段と、
前記液体吐出ヘッドから吐出させる前記液体の吐出情報
と前記圧力検知手段で検知された圧力に基づいて前記送液手段による送液量を制御する手段と、
を有し、
さらに、前記送液量を制御する手段は、前記吐出情報に基づく制御信号と前記検知圧力に基づく制御信号を加算する加算器を備え
、
前記加算器から出力される制御信号により、循環経路に備わる供給ポンプと回収ポンプへの制御電圧を出力する
ことを特徴とする液体循環装置。
【請求項2】
前記吐出情報から得られる吐出量と、前記液体吐出ヘッドから前記液体を吐出させる吐出タイミングの情報に基づいて前記送液手段による送液量を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の液体循環装置。
【請求項3】
複数の領域に分けられた各領域毎の前記吐出量を得て、各領域の前記吐出量と前記吐出タイミングの情報に基づいて前記送液手段による送液量を制御する
ことを特徴とする請求項2に記載の液体循環装置。
【請求項4】
前記複数の領域は、前記液体吐出ヘッドから吐出される前記液体が付与される被吐出対象の移動方向において分けられた領域である
ことを特徴とする請求項3に記載の液体循環装置。
【請求項5】
前記複数の領域は、前記液体吐出ヘッドの移動方向において分けられた領域であることを特徴とする請求項3又は4に記載の液体循環装置。
【請求項6】
複数の液体吐出ヘッドと、
請求項1ないし
5のいずれかに記載の液体循環装置と、を備えている
ことを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項7】
立体造形物を造形する
ことを特徴とする請求項
6に記載の液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体循環装置、液体を吐出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」ともいう。)として、例えば、ノズルに連通する個別液室への供給流路と個別液室に通じる回収流路とを有し、供給流路に通じる液体の供給口と、回収流路に通じる液体の回収口を備えるフロースルー型ヘッド(循環型ヘッド)がある。
【0003】
従来、インク循環装置として、ヘッドにインクを供給または回収する交換可能なインクパックと、インクパックからヘッドにインクを供給するインク供給路と、ヘッドからインクパックにインクを回収するインク回収路と、インク回収路に備えられている第1ポンプと、インク供給路に備えられている第2ポンプと、第1ポンプとヘッドとの間に備えられる第1圧力センサと、第2ポンプとヘッドとの間に備えられる第2圧力センサとを備え、各圧力センサの検知結果に応じて第1ポンプ、第2ポンプの駆動を制御するものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、循環型ヘッドを使用して、ヘッドに対する液体供給側と液体回収側との圧力差で液体を循環させる構成とする場合、液体吐出動作に伴う循環経路内の圧力変動を抑制して安定した液体循環を行えるようにしなければならないという課題がある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、安定した液体循環を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に係る液体循環装置は、循環型の液体吐出ヘッドに供給され、前記液体吐出ヘッドから回収される液体が循環する循環経路と、前記循環経路内の前記液体を循環させる送液手段と、前記循環経路の圧力を検知する圧力検知手段と、前記液体吐出ヘッドから吐出させる前記液体の吐出情報と前記圧力検知手段で検知された圧力に基づいて前記送液手段による送液量を制御する手段と、を有し、さらに、前記送液量を制御する手段は、前記吐出情報に基づく制御信号と前記検知圧力に基づく制御信号を加算する加算器を備え、前記加算器から出力される制御信号により、循環経路に備わる供給ポンプと回収ポンプへの制御電圧を出力する構成とした。
【0008】
本発明によれば、安定した液体循環を行える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る液体を吐出する装置である印刷装置の一例の概略説明図である。
【
図2】同装置のヘッドユニットの一例の平面説明図である。
【
図3】液体吐出ヘッドの一例の外観斜視説明図である。
【
図4】同ヘッドのノズル配列方向と直交する方向(液室長手方向)の断面説明図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る液体循環装置(液体供給装置)の説明図である。
【
図6】送液制御手段による送液制御の説明に供するフロー図である。
【
図7】送液制御手段に与えられる吐出情報としての印刷情報(画像情報)及び領域分割の説明に供する説明図である。
【
図8】同印刷情報を吐出量に変換した時系列データの説明に供する説明図である。
【
図9】送液制御手段から時系列データに従って出力する制御電圧の一例の説明図である。
【
図10】同実施形態における圧力変動の説明に供する説明図である。
【
図11】比較例1の圧力変動の説明に供する説明図である。
【
図12】本発明の第2実施形態に係る液体循環装置の説明図である。
【
図13】本発明の第3実施形態に係る液体循環装置の説明図である。
【
図14】同じく送液制御手段のブロック説明図である。
【
図15】本発明の第4実施形態に係る液体循環装置の説明図である。
【
図16】同第4実施形態における送液制御手段に与えられた吐出情報の領域分割と時系列データの設定の第1例の説明に供する説明図である。
【
図17】同じく第2例の説明に供する説明図である。
【
図18】本発明の第5実施形態における送液制御手段に与えられた吐出情報の領域分割と時系列データの設定の一例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず、本発明に係る液体を吐出する装置としての印刷装置の一例について
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は同印刷装置の概略説明図、
図2は同印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図である。
【0011】
この印刷装置1000は、連帳紙などの連続体10を搬入する搬入手段1と、搬入手段1から搬入された連続体10を印刷手段5に案内搬送する案内搬送手段3と、連続体10に対して液体を吐出して画像を形成する印刷を行う印刷手段5と、連続体10を乾燥する乾燥手段7と、連続体10を搬出する搬出手段9などを備えている。
【0012】
連続体10は搬入手段1の元巻きローラ11から送り出され、搬入手段1、案内搬送手段3、乾燥手段7、搬出手段9の各ローラによって案内、搬送されて、搬出手段9の巻取りローラ91にて巻き取られる。
【0013】
この連続体10は、印刷手段5において、ヘッドユニット50及びヘッドユニット55に対向して搬送され、ヘッドユニット50から吐出される液体によって画像が形成され、ヘッドユニット55から吐出される処理液で後処理が行われる。
【0014】
ここで、ヘッドユニット50には、例えば、搬送方向上流側から、4色分のフルライン型ヘッドアレイ51K、51C、51M、51Y(以下、色の区別しないときは「ヘッドアレイ51」という。)が配置されている。
【0015】
各ヘッドアレイ51は、液体吐出手段であり、それぞれ、搬送される連続体10に対してブラックK,シアンC、マゼンタM、イエローYの液体を吐出する。なお、色の種類及び数はこれに限るものではない。
【0016】
ヘッドアレイ51は、例えば、
図2に示すように、液体吐出ヘッド(これを、単に「ヘッド」ともいう。)100をベース部材52上に千鳥状に並べて配置したものであるが、これに限らない。
【0017】
次に、液体吐出ヘッドの一例について
図3及び
図4を参照して説明する。
図3は同液体吐出ヘッドの外観斜視説明図、
図4は同ヘッドのノズル配列方向と直交する方向(液室長手方向)の断面説明図である。
【0018】
この液体吐出ヘッド100は、フロースルー型ヘッドであり、ノズル板101と、流路板102と、壁面部材としての振動板部材103とを積層接合している。そして、振動板部材103の振動領域(振動板)130を変位させる圧電アクチュエータ111と、ヘッドのフレーム部材を兼ねている共通流路部材120と、カバー129を備えている。なお、流路板102と振動板部材103で構成される部分を流路部材140という。
【0019】
ノズル板101は、液体を吐出する複数のノズル104を有している。
【0020】
流路板102は、ノズル104にノズル連通路105を介して通じる圧力室(個別液室)106、圧力室106に通じる供給側流体抵抗部107、供給側流体抵抗部107に通じる供給側導入部108を形成している。ノズル連通路105は、ノズル104と圧力室106にそれぞれ連通する流路である。供給側導入部108は、振動板部材103に設けた供給側開口部109を介して供給側共通流路110に通じている。
【0021】
振動板部材103は、流路板102の圧力室106の壁面を形成する変形可能な振動領域130を有する。ここでは、振動板部材103は2層構造(限定されない)とし、流路板102側から薄肉部を形成する第1層と、厚肉部を形成する第2層で形成され、第1層で圧力室106に対応する部分に変形可能な振動領域130を形成している。
【0022】
そして、この振動板部材103の圧力室106とは反対側に、振動板部材103の振動領域130を変形させる駆動手段(アクチュエータ手段、圧力発生手段)としての電気機械変換素子を含む圧電アクチュエータ111を配置している。
【0023】
この圧電アクチュエータ111は、ベース部材113上に接合した圧電部材をハーフカットダイシングによって溝加工して所要数の柱状の圧電素子112を所定の間隔で櫛歯状に形成している。
【0024】
そして、圧電素子112を振動板部材103の振動領域130に形成した島状の厚肉部である凸部130aに接合している。また、圧電素子112にはフレキシブル配線部材115が接続されている。
【0025】
共通流路部材120は、供給側共通流路110と回収側共通流路150を形成する。供給側共通流路110は供給ポート171に通じ、回収側共通流路150は回収ポート172に通じている。
【0026】
なお、ここでは、共通流路部材120は、第1共通流路部材121及び第2共通流路部材122によって構成され、第1共通流路部材121を流路部材140の振動板部材103側に接合し、第1共通流路部材121に第2共通流路部材122を積層して接合している。
【0027】
第1共通流路部材121は、供給側導入部108に通じる供給側共通流路110の一部である下流側共通流路110Aと、回収側個別流路156に通じる回収側共通流路150とを形成している。また、第2共通流路部材122は、供給側共通流路110の残部である上流側共通流路110Bを形成している。
【0028】
また、流路板102は、各個別液室6にノズル連通路105を介して連通する回収側流体抵抗部157と、回収側個別流路156と、回収側導出部158を形成している。
【0029】
回収側導出部158は振動板部材103に設けた回収側開口部159を介して回収側共通流路150に通じている。
【0030】
なお、本実施形態では、供給側共通流路110、供給側開口部109、供給側導入部108及び供給側流体抵抗部107で供給流路を構成し、回収側流体抵抗部157、回収側個別流路156、回収側導出部158及び回収側開口部159で回収流路を構成している。
【0031】
この液体吐出ヘッドにおいては、例えば圧電素子112に与える電圧を基準電位(中間電位)から下げることによって圧電素子112が収縮し、振動板部材103の振動領域130が引かれて圧力室106の容積が膨張することで、圧力室106内に液体が流入する。
【0032】
その後、圧電素子112に印加する電圧を上げて圧電素子112を積層方向に伸長させ、振動板部材103の振動領域130をノズル104に向かう方向に変形させて圧力室106の容積を収縮させることにより、圧力室106内の液体が加圧され、ノズル104から液体が吐出される。
【0033】
また、ノズル104から吐出されない液体はノズル104を通過して回収側流体抵抗部157、回収側個別流路156、回収側導出部158、回収側開口部159から回収側共通流路150に回収され、回収側共通流路150から外部の循環経路を通じて供給側共通流路110に再度供給される。
【0034】
また、ノズル104から液体を吐出する液体吐出動作を行っていないときにも、供給側共通流路110から供給側開口部109、供給側導入部108、供給側流体抵抗部107、圧力室106、回収側流体抵抗部157、回収側個別流路156、回収側導出部158、回収側開口部159を経て回収側共通流路150に回収され、回収側共通流路150から外部の循環経路を通じて供給側共通流路110に再度供給される。
【0035】
なお、ヘッドの駆動方法については上記の例(引き-押し打ち)に限るものではなく、駆動波形の与えた方によって引き打ちや押し打ちなどを行なうこともできる。
【0036】
次に、本発明の第1実施形態について
図5を参照して説明する。
図5は同実施形態に係る液体循環装置(液体供給装置)の説明図である。
【0037】
液体循環装置200は、連続体10の幅方向にライン状に配置された複数の循環可能なヘッド100に対して液体を循環させる。
【0038】
液体循環装置200は、ヘッド100から吐出する液体300を貯留する液体貯留手段としての液体タンクであるメインタンク201を備えている。また、供給タンク202と、回収タンク203と、送液手段である第1送液ポンプ(供給ポンプ)212と、送液手段である第2送液ポンプ(回収ポンプ213)と、フィルタ214を備えている。
【0039】
メインタンク201と供給タンク202とは液体経路222を介して接続され、液体経路222中に供給ポンプ212とフィルタ214とが配置されている。また、回収タンク203とメインタンク201とは液体経路223を介して接続され、液体経路223中に回収ポンプ213が配置されている。
【0040】
供給タンク202には複数のヘッド100の供給ポート171がそれぞれ液体経路252を介して接続され、回収タンク203には複数のヘッド100の回収ポート172がそれぞれ液体経路253を介して接続されている。
【0041】
ここで、メインタンク201から、液体経路222、供給タンク202、液体経路252、ヘッド100、液体経路253、回収タンク203、液体経路223を経てメインタンク201に戻る経路で循環経路210が構成される。
【0042】
また、供給タンク202及び回収タンク203は、内部に空気を取り込んだ状態で、それぞれ密閉されている。そのため、供給される液体量が多くなったり、回収される液体量が少なかったりして、タンク内の液体量が増加すると、タンク内の圧力は上昇する。逆に、供給される液体量が少なかったり、回収される液体量が多かったりして、タンク内の液体量が減少すると、タンク内の圧力は減少する。
【0043】
すなわち、供給タンク202内及び回収タンク203内の各圧力は、供給ポンプ212又は回収ポンプ213の駆動量を変化させ、液体の送液量(供給量、回収量)を調整することによって変化させることができる。
【0044】
そして、供給タンク202の圧力を回収タンク203の圧力より大きくすることで、液体はヘッド100内を流れて循環流路210を循環することになる。つまり、供給ポンプ212及び回収ポンプ213によって、循環経路210を液体が循環する圧力を生じさせる手段を構成している。
【0045】
これらの送液手段である供給ポンプ212及び回収ポンプ213は、電源装置から電源を供給され、入力される制御電圧の大きさに応じて駆動量が変化して送液量が変化するように構成されており、制御電圧V1、V2が送液制御手段400によって与えられる。
【0046】
送液制御手段400は、供給ポンプ212及び回収ポンプ213による送液量を制御する手段であり、CPU,ROM,RAM及びI/Oなどのマイクロコンピュータで構成され、ユーザーが印刷装置1000に入力する印刷情報を吐出情報として取得する。
【0047】
そして、送液制御手段400は、取得した吐出情報に基づいて、供給ポンプ212への制御電圧V1、回収ポンプ213への制御電圧V2を決定して出力する。
【0048】
次に、送液制御手段400による送液制御について
図6のフロー図を参照して説明する。
【0049】
まず、印刷情報が入力されたかを判別する(ステップS1、以下、単に「S1」などと表記する。)。そして、印刷情報が入力されたときには、後述する時系列データを作成する(S2)。
【0050】
その後、印刷が開始されたかを判別する(S3)。そして、印刷が開始されたときには、送液量を制御する制御電圧V1、V2を出力する(S4)。
【0051】
次いで、印刷情報が追加されたかを確認する(S5)。ここで、印刷情報が追加されているときには、時系列データを追加する(S6)。
【0052】
そして、印刷が終了したか否かを判別し(S7)、印刷が終了するまで上記の処理を繰り返し、印刷が終了したとき、この処理を終了する。
【0053】
次に、送液制御手段に与えられる吐出情報と領域分割と時系列データの設定について
図7及び
図8を参照して説明する。
図7は吐出情報としての印刷情報(画像情報)及び領域分割の説明に供する説明図、
図8は同印刷情報を吐出量に変換した時系列データの説明に供する説明図である。
【0054】
ここでは、
図7に示すように、ヘッド100から吐出される液体が付与される被吐出対象(本実施形態では連続体10)の移動方向を印刷方向とする。
【0055】
そして、例えば、
図7に示すように、ユーザーによって画像G1~G3を印刷する印刷情報(画像情報)が印刷装置1000に入力される。送液制御手段400は、印刷情報(画像情報)が与えられると、その画像情報を、
図7に示すように、印刷方向において、領域n1、n2、n3・・・のように、所定の複数の領域nx(x=1、2、3・・・)に分けて、各領域nx毎の吐出量情報へ変換する。
【0056】
画像情報から吐出量への変換は、予め設定された「濃度-吐出量」情報を基に実施する。また、画像に対してユーザーが濃度調整を行っている場合は、その濃度情報を加味することができる。
【0057】
そして、各領域nxの吐出量と印刷速度から、各領域nxの吐出量を、
図8に示すように、時系列データとして設定(作成)する。
【0058】
時系列データの時間tx(x=1、2、3・・・)は、次のようにして算出することができる。
tx=領域nxの長さ[m]/印刷速度[m/s](x=1、2、3・・・)
【0059】
領域nxの大きさは、小さくするほど圧力変動の低減が期待できるが、領域を小さくとりすぎると、送液制御手段400を構成するCPUや記憶装置にかかる演算負荷が大きくなり、必要な速度で演算が行えなくなる可能性がある。したがって、領域の大きさは、必要な演算速度が確保できる範囲でなるべく小さくすることが好ましい。
【0060】
また、吐出量は、液体循環装置200が扱う液体の吐出量とする。例えば、KCMY4色の液体を用いてフルカラー画像の印刷を行う装置であれば、各色に対応した液体循環装置200は、それぞれ扱う色の吐出量を用いて時系列データを設定する。
【0061】
次に、送液制御手段から出力する制御電圧について
図9を参照して説明する。
図9は
図8の時系列データに従って出力する制御電圧の一例の説明図である。
【0062】
送液制御手段400は、算出した時系列データ(時系列の吐出量情報)に基づいて、
図9(a)、(b)に示すように、時系列で出力する供給ポンプ212に対する制御電圧V1、回収ポンプ213に対する制御電圧V2のそれぞれの電圧値(制御電圧値)を決定する。
【0063】
吐出量に対する制御電圧の電圧値の変化量は、例えば、予め実験で複数水準の吐出量で吐出を続けたときの供給ポンプ212、回収ポンプ213の各電圧値を測定しておき、この測定した電圧値情報を基に決定するなどすれば良い。ただし、必要な制御電圧値はポンプや液体の個体差、雰囲気温度といった環境によってばらつきが存在するため、予め算出した値に、任意の係数Aを乗じた値を用いるようにすることもできる。例えば、本実施形態では、A=0.9として制御電圧値を設定している。
【0064】
そして、印刷が開始されると、印刷開始タイミングを基準時刻Tsとして、送液制御手段400は算出した時間txが経過する毎に制御電圧V1、V2を変化させる。
【0065】
次に、本実施形態の作用効果について
図10及び
図11を参照して説明する。
図10は本実施形態における圧力変動の説明に供する説明図、
図11は比較例1の圧力変動の説明に供する説明図である。
【0066】
循環型ヘッド100の供給ポート171から回収ポート172に液体が流れるようにするためには、供給タンク202内の圧力が回収タンク203内の圧力より大きい必要がある。このとき、ヘッド100内のノズル104の位置の圧力を所定の範囲内に収めておく必要がある。
【0067】
つまり、ヘッド100のノズル104は大気開放されているため、ノズル104からお液垂れを防止するためにノズル位置の圧力を大気圧より小さい値に維持する必要がある。一方、ノズル位置の圧力が大気圧より小さ過ぎると、逆にノズル104から空気を吸い込み、ヘッド100内に気泡が発生してしまうため、圧力は所望の範囲を維持する必要がある。
【0068】
したがって、液体循環が成立する所望の圧力範囲は、ヘッド100の構成や液体の物性によって決定される。例えば、本実施形態では、供給タンク202の圧力は-1±1[kPa]、回収タンク203の圧力は-8±1[kPa]の範囲に維持する必要があるものとする。
【0069】
ここで、比較例1における圧力変動について
図11を参照して説明する。
比較例1は、供給タンク202、回収タンク203のそれぞれに圧力センサを配置し、圧力目標値と圧力センサによる圧力検出値を比較し、その差分によって供給タンク202及び回収タンク203の少なくともいずれかの制御電圧を変化させる構成である。
【0070】
この比較例1の構成では、圧力センサによって圧力の変動が検知されてはじめて制御電圧を変化させることができるため、吐出動作を開始した直後の圧力変動を抑制することができない。
【0071】
すなわち、一定値ずつ制御電圧を変化させる構成であり、PID制御で制御電圧を変化させる構成であれ、制御電圧が適正な値となるまでには一定の時間がかかる。また、ポンプも制御電圧が入力されてから実際に駆動量が変化するまでには一定の時間を必要とする。この間は圧力を制御する機能が働かないため、吐出によって圧力は低下しつづけることになる。
【0072】
また、吐出動作終了時には逆の現象が発生する。すなわち、吐出動作中は圧力を維持するため、供給ポンプ212の駆動量は非吐出動作時以上となっており、回収ポンプ213の駆動量は非吐出動作時以下となっている。この状態で吐出が終了すると、今度は圧力上昇が発生する。しかし、比較例1では圧力変化が発生してから制御電圧を変化させるため、吐出動作終了直後には、圧力が上昇する側に大きな圧力変動が発生することになる。
【0073】
その結果、
図11に示すように、吐出動作開始直後、吐出動作終了直後には大きな圧力変動が発生する。このような圧力変動によって、装置構成やヘッド、液体の構成によっては圧力範囲を一定に維持することが困難となったり、圧力範囲は維持できるものの、圧力変動によってヘッドからの吐出量が変化したりするなどの問題を生じる。
【0074】
これに対して、本実施形態では、前述した
図7ないし
図9で説明したように、吐出情報に基づいて制御電圧を変化させて送液量を変化させることで圧力変動を抑えるので、吐出動作直後及び吐出動作終了後の急激な圧力変動を抑制することができる。
【0075】
つまり、ヘッド100から吐出する液体量を吐出動作前に取得しておき、ヘッド100の吐出動作に先行して、循環経路210における送液手段(ここでは、供給ポンプ212、回収ポンプ213)を動作させる。
【0076】
これにより、ヘッド100からの液体吐出動作を開始した直後や終了した直後におけるヘッド100の圧力変動が抑制されるので、ヘッド100への気泡混入やヘッド100からの液垂れのおそれを低減し、ヘッド100が吐出する液体量が安定するような安定した液体循環を行うことができる。
【0077】
また、ヘッド100が吐出する液体量が安定することにより、液体を吐出する装置による印刷品質や造形品質が向上する。
【0078】
次に、本発明の第2実施形態について
図12を参照して説明する。
図12は同実施形態に係る液体循環装置の説明図である。
【0079】
本実施形態では、送液手段として、供給タンク202の空気量を変化させることが可能なポンプや弁などの圧力調整手段232と、回収タンク203の空気量を変化させることが可能なポンプや弁などの圧力調整手段233とを備えている。
【0080】
これらの圧力調整手段232、233によって供給タンク202、回収タンク203の各圧力をメインタンク201より低く設定することで、液体を送液タンク202に引き込み、送液できる。
【0081】
次に、本発明の第3実施形態について
図13及び
図14を参照して説明する。
図13は同実施形態に係る液体循環装置の説明図、
図14は同じく送液制御手段のブロック説明図である。
【0082】
本実施形態では、供給タンク202の圧力を検知する圧力検知手段である圧力センサ242と、回収タンク203の圧力を検知する圧力検知手段である圧力センサ243とを備えている。
【0083】
送液制御手段400は、第1送液制御手段401と、第2送液制御手段402と、制御電圧Vを出力する加算器403とを備えている。
【0084】
第1送液制御手段401は、前記第1実施形態の送液制御手段400と同様、CPU,ROM,RAM及びI/Oなどのマイクロコンピュータで構成され、ユーザーが印刷装置1000に入力する印刷情報を吐出情報として取得する。そして、第1送液制御手段401は、取得した吐出情報に基づいて制御電圧Va(供給ポンプ212への制御電圧、回収ポンプ213への制御電圧)を決定して出力する。
【0085】
第2送液制御手段402は、CPU,ROM,RAM及びI/Oなどのマイクロコンピュータで構成され、あるいは、アナログ電子回路によって所望のPID制御が実現されるよう構成される。そして、第2送液制御手段402は、圧力センサ242及び圧力センサ243の各圧力検出値、供給タンク202及び回収タンク203の各圧力目標値から制御電圧Vb(供給ポンプ212への制御電圧、回収ポンプ213への制御電圧)を決定して出力する。
【0086】
そして、加算器403は、これらの第1送液制御手段401の出力(制御電圧Va)と第2送液制御手段402の出力(制御電圧Vb)とを加算して、制御電圧V(制御電圧V1、V2)として出力する。
【0087】
すなわち、吐出情報に基づく制御電圧は予め実験等により求められた値であるため、ばらつきの影響を受けて誤差が発生し、第1送液制御手段401だけでは、圧力が所望の値を維持できなくなるおそれがある。そこで、第2送液制御手段402を備えることで、誤差による圧力変動を抑制することができる。
【0088】
次に、本発明の第4実施形態について
図15を参照して説明する。
図15は同実施形態に係る液体循環装置のブロック説明図である。
【0089】
本実施形態では、ヘッド100はキャリッジなどに搭載されて、ガイド部材60に移動可能に保持され、駆動源61で回転駆動される駆動プーリ62と従動プーリ63との間に掛け回したタイミングベルト64による牽引力を受けて往復移動される。
【0090】
そして、ヘッド100と供給タンク202とは可撓性チューブなどの液体経路252で、ヘッド100と回収タンク203とは可撓性チューブなどの液体経路253でそれぞれ接続されている。
【0091】
このように、ヘッド100が往復移動するシリアル型の液体を吐出する装置にも、前記各実施形態を適用することができる。
【0092】
次に、本発明の第4実施形態における送液制御手段に与えられた吐出情報の領域分割と時系列データの設定の第1例について
図16を参照して説明する。
図16は同説明に供する説明図である。
【0093】
第4実施形態における送液制御手段は、ユーザーが入力する印刷情報(画像情報)が与えられると、その吐出情報としての画像情報を
図16(a)に示すように印刷方向及びヘッド100の移動方向において、領域n1、n2、n3・・・のように、所定の複数の領域nxに区切って、各領域nx毎の吐出量情報へ変換する。
【0094】
そして、算出した吐出量と印刷速度から、吐出量を
図16(b)に示すように時系列データとして設定する。
【0095】
時系列データの時間tx(x=1、2、3・・・)は、次のように算出すれば良い。
tx=領域nxの長さ[m]/ヘッド移動速度[m/s](x=1、2、3・・・)
【0096】
次に、本発明の第4実施形態における送液制御手段に与えられた吐出情報の領域分割と時系列データの設定の第2例について
図17を参照して説明する。
図17は同説明に供する説明図である。
【0097】
また、シリアル型の印刷装置においては、ヘッド100の往路、復路ともに印刷を行う双方向モードと、いずれか一方の経路のみで印刷を行う片方向モードが切り替えられる場合がある。
【0098】
そこで、一方の経路のみで印刷する片方向モードの場合には、
図17(a)に示すような各領域毎に算出された吐出量及び印刷速度から時系列データを設定するとき、
図17(b)に示すように、復路の移動に必要な時間treを考慮して時系列設定を行う。
【0099】
次に、本発明の第5実施形態について
図18を参照して説明する。
図18は同実施形態における送液制御手段に与えられた吐出情報の領域分割と時系列データの設定の一例を説明する説明図である。
【0100】
シリアル型印刷装置において、ヘッド100の折返しが行われる画像のヘッド移動方向端部では、その他の領域に比べて印刷までに時間がかかる場合がある。
【0101】
そこで、
図18(a)に示すような各領域毎に算出された吐出量と印刷速度から時系列データを設定するとき、
図18(b)に示すように、各端部で必要な時間をtr、tlとして、時系列データを設定する。
【0102】
本願において、吐出される「液体」は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0103】
「液体吐出ヘッド」には、液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0104】
「液体を吐出する装置」には、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を 気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0105】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0106】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0107】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0108】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0109】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0110】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0111】
また、「液体を吐出する装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0112】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【符号の説明】
【0113】
5 印刷手段
10 連続体
50 ヘッドユニット
100 液体吐出ヘッド(ヘッド)
200 液体循環装置
201 メインタンク(液体貯留手段)
202 供給タンク
203 回収タンク
210 循環経路
400 送液制御手段
1000 印刷装置(液体を吐出する装置)