(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20220906BHJP
G02B 1/11 20150101ALI20220906BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B1/11
(21)【出願番号】P 2018224489
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-08-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】若林 剛守
(72)【発明者】
【氏名】坂上 貴尋
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 誠
(72)【発明者】
【氏名】吉原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】久野 一秀
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/056803(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/168190(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02B 1/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学フィルタであって、
波長400nm~550nmの光の平均透過率が80%以上の第1の赤外線吸収ガラス板と、
波長400nm~550nmの光の平均透過率が80%以上の第2の赤外線吸収ガラス板と、
を備え、
前記第1の赤外線吸収ガラス板の波長700nmにおける透過率をT
aとし、前記第2の赤外線吸収ガラス板の波長700nmにおける透過率をT
bとしたとき、T
aとT
bの差の絶対値ΔTが10%以上、90%以下であ
り、
前記第1の赤外線吸収ガラス板および前記第2の赤外線吸収ガラス板は、それぞれ独立に、リン酸ガラス、フツリン酸ガラス、ケイリン酸ガラス、硫リン酸ガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、およびアルミノシリケートガラスからなる群から選ばれた少なくとも1つを含む、光学フィルタ。
【請求項2】
波長850nm~950nmの範囲における光学濃度の平均値が2.5以上である、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
波長400nm~550nmの光の平均透過率が76%以上である、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記第1の赤外線吸収ガラス板の両面側に、前記第2の赤外線吸収ガラス板が設けられている、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記第1の赤外線吸収ガラス板および前記第2の赤外線吸収ガラス板は、赤外線吸収成分を0.05カチオン%以上含有する、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記第1の赤外線吸収ガラス板は、鉄を含み、
前記第2の赤外線吸収ガラス板は、銅を含む、請求項1乃至
5のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記第1の赤外線吸収ガラス板および前記第2の赤外線吸収ガラス板は、銅を含む、請求項1乃至
6のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記第2の赤外線吸収ガラス板は、フッ素を含む、請求項1乃至
7のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【請求項9】
少なくとも一方の外表面に反射防止膜を有する、請求項1乃至
8のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【請求項10】
前記第1の赤外線吸収ガラス板と前記第2の赤外線吸収ガラス板との間に、透明なガラス板を有し、
前記第1の赤外線吸収ガラス板の25℃~250℃の平均熱膨張係数をα
aとし、前記第2の赤外線吸収ガラス板の25℃~250℃の平均熱膨張係数をα
bとし、前記透明なガラス板の25℃~250℃の平均熱膨張係数をα
cとしたとき、α
cは、α
aとα
bの間にある、請求項1乃至
9のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線カットフィルタのような光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線カットフィルタは、赤外領域の波長の光(以下、「赤外光」という)をカットし、可視光を透過させることができるため、固体撮像装置やセンサ等のデバイスに幅広く使用されている。
【0003】
通常、赤外線カットフィルタは、透明基板のような基板の上に、高屈折率層と低屈折率層を交互に有する光学多層膜を設置することにより構成される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の機器の小型化や薄型化に伴い、機器内の各種デバイスは、より近接した状態で配置されるようになってきた。このため、赤外線カットフィルタを備えるデバイスには、広角度で光が入射される傾向にある。
【0006】
しかしながら、赤外線カットフィルタの光学多層膜は、入射角度依存性を有することが知られている。従って、光学多層膜を有する従来の赤外線カットフィルタでは、光の入射角度によって光学特性が変化してしまうという問題がある。
【0007】
また、赤外線カットフィルタを備えるデバイス(以下、「赤外線カットデバイス」と称する)が赤外線を放射するデバイス(以下、「赤外線放射デバイス」と称する)と近接した状態で配置される機器では、赤外線カットフィルタによる赤外光のカット機能が十分でないと、赤外線カットデバイスに誤動作が生じるおそれがある。
【0008】
例えば、スマートフォンや携帯ゲーム機等には、機器の周囲の環境光を検出する環境光センサが設置されている。環境光センサで環境光を検出することにより、機器のディスプレイの輝度を適正に調整することができる。しかしながら、環境光センサは、赤外線カットフィルタを有するため、環境光センサの近傍に赤外線放射デバイスが配置されると、該赤外線放射デバイスからの赤外線によって、環境光センサに誤動作が生じるおそれがある。
【0009】
このような問題から、近年、光学特性の角度依存性を有意に抑制することができる上、赤外光を適正にカットすることが可能な赤外線カットフィルタに対する要望が高まっている。
【0010】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、赤外光を適正にカットすることができる上、光学特性が光の入射角度にあまり依存しない光学フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、光学フィルタであって、
波長400nm~550nmの光の平均透過率が80%以上の第1の赤外線吸収ガラス板と、
波長400nm~550nmの光の平均透過率が80%以上の第2の赤外線吸収ガラス板と、
を備え、
前記第1の赤外線吸収ガラス板の波長700nmにおける透過率をTaとし、前記第2の赤外線吸収ガラス板の波長700nmにおける透過率をTbとしたとき、TaとTbの差の絶対値ΔTが10%以上、90%以下である、光学フィルタが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、赤外光を適正にカットすることができる上、光学特性が光の入射角度にあまり依存しない光学フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態による光学フィルタの特徴を説明するための模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態による光学フィルタの構成を模式的に示した断面図である。
【
図3】本発明の別の実施形態による光学フィルタの構成を模式的に示した断面図である。
【
図4】本発明のさらに別の実施形態による光学フィルタの構成を模式的に示した断面図である。
【
図5】本発明のさらに別の実施形態による光学フィルタの構成を模式的に示した断面図である。
【
図6】例1に係る光学フィルタの透過率特性を、第1の赤外線吸収ガラス板および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性と合わせて示したグラフである。
【
図7】例2に係る光学フィルタの透過率特性を、第1の赤外線吸収ガラス板および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性と合わせて示したグラフである。
【
図8】例3に係る光学フィルタの透過率特性を、第1の赤外線吸収ガラス板および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性と合わせて示したグラフである。
【
図9】例4に係る光学フィルタの透過率特性を、第1の赤外線吸収ガラス板および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性と合わせて示したグラフである。
【
図10】例5に係る光学フィルタの透過率特性を、第1の赤外線吸収ガラス板および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性と合わせて示したグラフである。
【
図11】例6に係る光学フィルタの透過率特性を、第1の赤外線吸収ガラス板および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性と合わせて示したグラフである。
【
図12】例11に係る光学フィルタの透過率特性を示したグラフである。
【
図13】例12に係る光学フィルタの透過率特性(光の入射角度依存性)を示したグラフである。
【
図14】例1に係る光学フィルタの透過率特性(光の入射角度依存性)を示したグラフである。
【
図15】例2に係る光学フィルタの透過率特性(光の入射角度依存性)を示したグラフである。
【
図16】例3に係る光学フィルタの透過率特性(光の入射角度依存性)を示したグラフである。
【
図17】例4に係る光学フィルタの透過率特性(光の入射角度依存性)を示したグラフである。
【
図18】例5に係る光学フィルタの透過率特性(光の入射角度依存性)を示したグラフである。
【
図19】例6に係る光学フィルタの透過率特性(光の入射角度依存性)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
本発明の一実施形態では、光学フィルタであって、
波長400nm~550nmの光の平均透過率が80%以上の第1の赤外線吸収ガラス板と、
波長400nm~550nmの光の平均透過率が80%以上の第2の赤外線吸収ガラス板と、
を備え、
前記第1の赤外線吸収ガラス板の波長700nmにおける透過率をTaとし、前記第2の赤外線吸収ガラス板の波長700nmにおける透過率をTbとしたとき、TaとTbの差の絶対値ΔTが10%以上、90%以下である、光学フィルタが提供される。
【0016】
ここで、本願において、ガラス板における波長400nm~550nmの光の平均透過率を、特に「可視光平均透過率」とも称する。
【0017】
本発明の一実施形態では、光学フィルタは、複数の赤外線吸収ガラス板で構成される。また、本発明の一実施形態による光学フィルタでは、各赤外線吸収ガラス板は、赤外線吸収成分を含有する。
【0018】
従って、本発明の一実施形態では、従来のような光学多層膜の構造による光の干渉を用いて赤外光を反射する赤外線カットフィルタとは異なり、赤外線吸収成分により、赤外光を吸収することができる。このため、本発明の一実施形態による光学フィルタでは、光の入射角度が光学特性に及ぼす影響を有意に抑制することができる。
【0019】
なお、複数の赤外線吸収ガラス板を単に重ね合わせて光学フィルタを構成しただけでは、可視光領域の透過率が著しく低下するおそれがある。
【0020】
しかしながら、本発明の一実施形態では、第1および第2の赤外線吸収ガラス板は、いずれも可視光平均透過率が80%以上であるという特徴を有する。従って、本発明の一実施形態では、第1および第2の赤外線吸収ガラス板を重ね合わせても、可視光領域における透過率の大きな低下は生じ難い。
【0021】
さらに、本発明の一実施形態による光学フィルタでは、第1の赤外線吸収ガラス板の波長700nmにおける透過率をTaとし、第2の赤外線吸収ガラス板の波長700nmにおける透過率をTbとしたとき、TaとTbの差の絶対値(以下、「ΔT」で表す)が10%以上、90%以下となるように、それぞれの赤外線吸収ガラス板が選定される。これにより、透過率が大きく変化することが求められる波長700nm前後の光学フィルタの透過率が、一方の赤外線吸収ガラス板の光学特性と略同一となり、光学フィルタの設計が容易になる。また、光学フィルタの赤外領域における透過率を有意に低減することができる。
【0022】
以上の特徴により、本発明の一実施形態に係る光学フィルタでは、可視光領域の透過率の低下を有意に抑制したまま、赤外光を有意に低減することができる。
【0023】
以下、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る光学フィルタの特徴をより詳しく説明する。
【0024】
図1には、本発明の一実施形態に係る光学フィルタに含まれる第1および第2の赤外線吸収ガラス板の光学特性の一例を模式的に示す。
【0025】
図1において、横軸は波長であり、縦軸は透過率である。また、曲線Aは、第1の赤外線吸収ガラス板の透過率特性を模式的に表しており、曲線Bは、第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性を模式的に表している。さらに、曲線Cは、曲線Aと曲線Bの掛け合わせ、すなわち第1の赤外線吸収ガラス板と第2の赤外線吸収ガラス板を組み合わせた際の光学フィルタとしての透過率特性を表している。
【0026】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る光学フィルタでは、第1の赤外線吸収ガラス板および第2の赤外線吸収ガラス板は、いずれも、可視光領域において80%を超える可視光平均透過率を有する。
【0027】
この場合、曲線Cに示すように、2枚の赤外線吸収ガラス板を組み合わせても、可視光領域において、比較的高い透過率を維持することができる。第1の赤外線吸収ガラス板および第2の赤外線吸収ガラス板は、いずれも、可視光領域において80%未満の可視光平均透過率を有する場合、光学フィルタの可視光の透過率特性が低くなるため好ましくない。第1の赤外線吸収ガラス板および第2の赤外線吸収ガラス板は、いずれも、可視光領域において81%以上の可視光平均透過率を有することが好ましく、82%以上の可視光平均透過率を有することがより好ましい。
【0028】
例えば、本発明の一実施形態による光学フィルタは、76%以上の可視光平均透過率を有する。光学フィルタは、76%未満の可視光平均透過率を有する場合、光センサにこの光学フィルタを用いるとセンサの受光量が低くなるおそれがあり好ましくない。光学フィルタは、78%以上の可視光平均透過率を有することが好ましく、80%以上の可視光平均透過率を有することがより好ましい。
【0029】
また、第1の赤外線吸収ガラス板は、波長700nmにおいて透過率Taを有し、第2の赤外線吸収ガラス板は、波長700nmにおいて透過率Tbを有する。両赤外線吸収ガラス板は、透過率Taと透過率Tbの差の絶対値ΔTが10%以上となるように選定される。換言すれば、2枚の赤外線吸収ガラス板の一方は、波長700nmにおいて、他方の赤外線吸収ガラス板よりも10%以上大きな(または小さな)透過率を有する。
【0030】
この場合、波長700nmにおける透過率が高い方の赤外線吸収ガラス板(
図1の場合、第1の赤外線吸収ガラス板)は、波長700nmにおける透過率が低い方の赤外線吸収ガラス板(
図1の場合、第2の赤外線吸収ガラス板)に比べて、透過率が大きく低下する波長が高波長側に存在する。
【0031】
例えば、
図1に示す例において、赤外線吸収ガラス板における透過率が50%となる際の高波長側の波長を半値波長T
50で表すと、第1の赤外線吸収ガラス板の半値波長T
50は、第2の赤外線吸収ガラス板の半値波長T
50に比べて、高波長側に存在する。
【0032】
そしてこの場合、曲線Cに示すように、それぞれの赤外線吸収ガラス板を重ね合わせた際に得られる赤外領域における透過率は、十分に小さくなる。ここで、透過率Taと透過率Tbの差の絶対値ΔTが10%未満であると、光学フィルタとしての波長700nmの光の透過率特性が低くなるため好ましくない。透過率Taと透過率Tbの差の絶対値ΔTが90%超であると、一方の赤外線吸収ガラス基板(波長700nmにおける透過率が低い方)の波長700nmの透過率を低くする必要があり、これに伴い可視光平均透過率が低くなるおそれがあり好ましくない。両赤外線吸収ガラス板は、透過率Taと透過率Tbの差の絶対値ΔTが15%以上となるように選定されるのが好ましく、20%以上となるように選定されるのがより好ましい。また、両赤外線吸収ガラス板は、透過率Taと透過率Tbの差の絶対値ΔTが89%以下となるように選定されるのが好ましく、88%以下となるように選定されるのがより好ましい。
【0033】
例えば、本発明の一実施形態による光学フィルタでは、波長850nm~950nmの範囲における光学濃度の平均値は、2.5以上である。波長850nm~950nmの範囲における光学濃度の平均値は、3.0以上であることが好ましく、3.5以上であることがより好ましい。
【0034】
このように、本発明の一実施形態による光学フィルタでは、可視光領域における透過率を高い値に維持したまま、赤外領域における透過率を有意に低減させることができる。
【0035】
また、本発明の一実施形態に係る光学フィルタでは、光学多層膜による赤外光のカット機能を利用していないため、透過率に及ぼす入射光の角度依存性を有意に抑制することができる。
【0036】
(本発明の一実施形態による光学フィルタ)
次に、
図2を参照して、本発明の一実施形態による光学フィルタの構成について詳しく説明する。
【0037】
図2には、本発明の一実施形態による光学フィルタ(以下、「第1の光学フィルタ」と称する)の断面を模式的に示す。
【0038】
図2に示すように、第1の光学フィルタ100は、第1の赤外線吸収ガラス板110と、第2の赤外線吸収ガラス板130とを相互に積層することにより構成される。第1の赤外線吸収ガラス板110の外表面は、第1の光学フィルタ100の第1の側102となり、第2の赤外線吸収ガラス板130の外表面は、第1の光学フィルタ100の第2の側104となる。
【0039】
なお、本願において、「赤外線吸収ガラス板」とは、赤外線吸収成分を0.05カチオン%以上含有するガラス板を意味する。また、赤外線吸収成分としては、例えば、鉄および銅などが挙げられる。また、ガラス板としては、前述の赤外線吸収成分を含有するガラスであれば構成するガラス組成系は特に限定されない。ガラス組成として、例えば、リン酸ガラス、フツリン酸ガラス、ケイリン酸ガラス、硫リン酸ガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス等が挙げられる。
【0040】
第1の赤外線吸収ガラス板110は、80%以上の可視光平均透過率を有する。また、第2の赤外線吸収ガラス板130は、80%以上の可視光平均透過率を有する。
【0041】
さらに、第1の赤外線吸収ガラス板110の波長700nmにおける透過率をTaとし、第2の赤外線吸収ガラス板130の波長700nmにおける透過率をTbとしたとき、第1の赤外線吸収ガラス板110および第2の赤外線吸収ガラス板130は、透過率Taと透過率Tbの差の絶対値ΔTが10%以上、90%以下となるように選定される。
【0042】
なお、以降の記載では、便宜上、Ta>Tbと仮定する。
【0043】
このような第1の光学フィルタ100では、前述のように、可視光領域における透過率を高い値に維持したまま、赤外領域における透過率を有意に低減させることができる。また、第1の光学フィルタ100では、透過率に及ぼす入射光の角度依存性を有意に抑制することができる。
【0044】
以下、第1の光学フィルタ100を構成する各部材についてより詳しく説明する。
【0045】
(第1の赤外線吸収ガラス板110)
前述のように、第1の赤外線吸収ガラス板110は、80%以上の可視光平均透過率を有する。可視光平均透過率は、81%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましい。
【0046】
また、第1の赤外線吸収ガラス板110は、0.05カチオン%以上の赤外線吸収成分を有する。赤外線吸収成分は、例えば、鉄および/または銅であっても良い。
【0047】
なお、第1の赤外線吸収ガラス板110は、第2の赤外線吸収ガラス板130との間で前述のTaとTb関係を満たす限り、いかなる組成を有しても良い。
【0048】
ただし、第1の赤外線吸収ガラス板110が第1の光学フィルタ100の一方の外表面となる場合、すなわち、第1の赤外線吸収ガラス板110の一方の表面が露出される場合、第1の赤外線吸収ガラス板110は、フッ素を有しても良い。これにより、少なくとも第1の赤外線吸収ガラス板110の側において、第1の光学フィルタ100の耐侯性を向上させることができる。
【0049】
第1の赤外線吸収ガラス板110の厚さは、特に限られない。ただし、第1の光学フィルタ100が環境光センサのような小型デバイスに使用される場合、第1の光学フィルタ100の薄肉化のため、厚さは0.05mm~2mmの範囲であることが好ましい。
【0050】
(第2の赤外線吸収ガラス板130)
第2の赤外線吸収ガラス板130についても、組成を除き、第1の赤外線吸収ガラス板110と同様のことが言える。
【0051】
第2の赤外線吸収ガラス板130は、0.05カチオン%以上の赤外線吸収成分を有する。赤外線吸収成分は、例えば、銅であっても良い。
【0052】
第2の赤外線吸収ガラス板130は、第1の赤外線吸収ガラス板110との間で前述のTaとTb関係を満たす限り、いかなる組成を有しても良い。
【0053】
ただし、第2の赤外線吸収ガラス板130が第1の光学フィルタ100の一方の外表面となる場合、すなわち、第2の赤外線吸収ガラス板130の一方の表面が露出される場合、第2の赤外線吸収ガラス板130は、フッ素を有しても良い。これにより、少なくとも第2の赤外線吸収ガラス板130の側において、第1の光学フィルタ100の耐侯性を向上させることができる。
【0054】
(その他)
図2には示されていないが、第1の光学フィルタ100は、さらに、第1の側102および/または第2の側104に、反射防止膜を有しても良い。反射防止膜を設けることにより、第1の光学フィルタ100に入射される光量の損失を、有意に抑制することが可能となる。
【0055】
反射防止膜は、例えば、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層することにより構成されても良い。低屈折率層としては、屈折率が1.7以下の層が好ましく、例えば、低屈折率層は、SiO2、MgF2、Al2O3等で構成されても良い。一方、高屈折率層としては、屈折率が2.0以上の層が好ましく、例えば、高屈折率層は、TiO2、Nb2O5、Ta2O5等で構成されても良い。
【0056】
なお、第1の赤外線吸収ガラス板110と第2の赤外線吸収ガラス板130の接合方法は、特に限られない。
【0057】
第1の赤外線吸収ガラス板110と第2の赤外線吸収ガラス板130は、例えば、間に接着層を介在させることにより、接合されても良い。
【0058】
接着層としては、屈折率が第1の赤外線吸収ガラス板110および第2の赤外線吸収ガラス板130に近いものが好ましい。接着層としては、例えば、アクリル系の樹脂またはエポキシ系の樹脂が使用されても良い。
【0059】
あるいは、第1の赤外線吸収ガラス板110と第2の赤外線吸収ガラス板130は、フッ素接合(フッ素で表面を溶融して接着)、オプティカルコンタクト、エッチングによる活性化、金属薄膜(スパッタリングにより形成)の介在による接合、プラズマによる活性化、陽極接合、ガラスフリットの介在による接合、およびレーザーによる表面溶融による接合等により、接合されても良い。
【0060】
(本発明の別の実施形態による光学フィルタ)
次に、
図3を参照して、本発明の別の実施形態による光学フィルタの構成について詳しく説明する。
【0061】
図3には、本発明の別の実施形態による光学フィルタ(以下、「第2の光学フィルタ」と称する)の断面を模式的に示す。
【0062】
図3に示すように、第2の光学フィルタ200は、第1の赤外線吸収ガラス板210と、第2の赤外線吸収ガラス板230と、両者の間に設置された透明ガラス板270とを有する。
【0063】
第2の光学フィルタ200において、第1の赤外線吸収ガラス板210の外表面は、第2の光学フィルタ200の第1の側202となり、第2の赤外線吸収ガラス板230の外表面は、第2の光学フィルタ200の第2の側204となる。
【0064】
第2の光学フィルタ200において、第1の赤外線吸収ガラス板210および第2の赤外線吸収ガラス板230の構成としては、前述の第1の光学フィルタ100における第1の赤外線吸収ガラス板110および第2の赤外線吸収ガラス板130の記載が参照できる。従って、ここではこれ以上説明しない。
【0065】
一方、透明ガラス板270は、赤外線吸収ガラス板ではなく、赤外線吸収成分を含有しない透明ガラスで構成される。
【0066】
透明ガラス板270は、第2の光学フィルタ200において、第1の赤外線吸収ガラス板210と第2の赤外線吸収ガラス板230の間の剥離を抑制するために設置される。すなわち、第1の赤外線吸収ガラス板210の25℃~250℃の平均熱膨張係数をαaとし、第2の赤外線吸収ガラス板230の25℃~250℃の平均熱膨張係数をαbとし、透明ガラス板270の25℃~250℃の平均熱膨張係数をαcとしたとき、透明ガラス板270は、αcがαaとαbの間となるように選定される。
【0067】
このような透明ガラス板270を設けることにより、第1の赤外線吸収ガラス板210と第2の赤外線吸収ガラス板230の間の温度変化に起因する剥離を抑制することが可能になる。
【0068】
第2の光学フィルタ200においても、第1の赤外線吸収ガラス板210および第2の赤外線吸収ガラス板230は、透過率Taと透過率Tbの差の絶対値ΔTが10%以上、90%以下となるように選定される。
【0069】
従って、第2の光学フィルタ200においても、可視光領域における透過率を高い値に維持したまま、赤外領域における透過率を有意に低減させることができる。また、第2の光学フィルタ200では、透過率に及ぼす入射光の角度依存性を有意に抑制することができる。
【0070】
なお、
図3には示されていないが、第2の光学フィルタ200は、さらに、第1の側202および/または第2の側204に、反射防止膜を有しても良い。
【0071】
なお、第2の光学フィルタ200に含まれる透明ガラス板270は、以下のような特徴を有しても良い。
【0072】
(透明ガラス板270)
透明ガラス板270は、前述の第2の光学フィルタ200の機能を阻害しない限り、いかなる組成を有しても良い。ガラス組成としては、例えば、リン酸ガラス、フツリン酸ガラス、ケイリン酸ガラス、硫リン酸ガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス等が挙げられる。
【0073】
透明ガラス板270は、80%以上の可視光平均透過率を有する。透明ガラス板270は、81%以上の可視光平均透過率を有することが好ましく、82%以上の可視光平均透過率を有することがより好ましい。
【0074】
透明ガラス板270は、例えば、0.05mm~2mmの厚さを有しても良い。
【0075】
なお、前述のように、透明ガラス板270は、実質的に赤外線吸収成分を含まない。ただし、製造工程上、透明ガラス板270には、不可避不純物として、0.01質量%未満の赤外線吸収成分が含まれる場合がある。
【0076】
(本発明のさらに別の実施形態による光学フィルタ)
次に、
図4を参照して、本発明のさらに別の実施形態による光学フィルタの構成について詳しく説明する。
【0077】
図4には、本発明のさらに別の実施形態による光学フィルタ(以下、「第3の光学フィルタ」と称する)の断面を模式的に示す。
【0078】
図4に示すように、第3の光学フィルタ300は、第2の赤外線吸収ガラス板330と、第1の赤外線吸収ガラス板310と、第3の赤外線吸収ガラス板350とをこの順に有する。
【0079】
ここで、第3の赤外線吸収ガラス板350は、第2の赤外線吸収ガラス板330と同じ組成を有する。従って、第3の光学フィルタ300は、第1の赤外線吸収ガラス板310が、両側の第2の赤外線吸収ガラス板330で挟まれた構成を有する。
【0080】
第3の光学フィルタ300において、第2の赤外線吸収ガラス板330の外表面は、第3の光学フィルタ300の第1の側302となり、第3の赤外線吸収ガラス板350の外表面は、第3の光学フィルタ300の第2の側304となる。
【0081】
第3の光学フィルタ300において、第1の赤外線吸収ガラス板310および第2の赤外線吸収ガラス板330の構成としては、前述の第1の光学フィルタ100における第1の赤外線吸収ガラス板110および第2の赤外線吸収ガラス板130の記載が参照できる。
【0082】
なお、第3の光学フィルタ300では、第2の赤外線吸収ガラス板330および第3の赤外線吸収ガラス板350は、フッ素を含むことが好ましい。これにより、第3の光学フィルタ300の耐侯性を向上させることができる。
【0083】
第3の光学フィルタ300においても、第1の赤外線吸収ガラス板310および第2の赤外線吸収ガラス板330は、透過率Taと透過率Tbの差の絶対値ΔTが10%以上、90%以下となるように選定される。第3の光学フィルタ300のように赤外線吸収ガラス板を3枚用いる場合、ガラス組成もしくは透過率特性が略同一の2枚の赤外線吸収ガラス板を重ね合せた際の透過率特性を透過率Taもしくは透過率Tbと定義する。例えば、第3の光学フィルタ300においては、組成が同一である第2の赤外線吸収ガラス板330と第3の赤外線吸収ガラス板350とを重ね合せた際の透過率特性を用いて、透過率Tbを定義する。
【0084】
従って、第3の光学フィルタ300においても、可視光領域における透過率を高い値に維持したまま、赤外領域における透過率を有意に低減させることができる。また、第3の光学フィルタ300では、透過率に及ぼす入射光の角度依存性を有意に抑制することができる。
【0085】
なお、
図4には示されていないが、第3の光学フィルタ300は、さらに、第1の側302および/または第2の側304に、反射防止膜を有しても良い。
【0086】
(本発明のさらに別の実施形態による光学フィルタ)
次に、
図5を参照して、本発明のさらに別の実施形態による光学フィルタの構成について詳しく説明する。
【0087】
図5には、本発明のさらに別の実施形態による光学フィルタ(以下、「第4の光学フィルタ」と称する)の断面を模式的に示す。
【0088】
図5に示すように、第4の光学フィルタ400は、前述の第3の光学フィルタ300において、それぞれの赤外線吸収ガラス板の間に、透明ガラス板が設置された構成を有する。すなわち、第4の光学フィルタ400は、第2の赤外線吸収ガラス板430と、第1の透明ガラス板470と、第1の赤外線吸収ガラス板410と、第2の透明ガラス板480と、第3の赤外線吸収ガラス板450とをこの順に積層した構成を有する。
【0089】
第4の光学フィルタ400において、第2の赤外線吸収ガラス板430の外表面は、第4の光学フィルタ400の第1の側402となり、第3の赤外線吸収ガラス板450の外表面は、第4の光学フィルタ400の第2の側404となる。
【0090】
第4の光学フィルタ400において、第1、第2および第3の赤外線吸収ガラス板410、430、450の構成としては、前述の第3の光学フィルタ300における第1、第2および第3の赤外線吸収ガラス板310、330、350の記載が参照できる。さらに、第1の透明ガラス板470の構成としては、前述の第2の光学フィルタ200における透明ガラス板270の記載が参照できる。
【0091】
一方、第2の透明ガラス板480は、赤外線吸収ガラス板ではなく、赤外線吸収成分を含有しないガラスで構成される。
【0092】
また、第2の透明ガラス板480は、第4の光学フィルタ400において、第1の赤外線吸収ガラス板410と第3の赤外線吸収ガラス板450の間の剥離を抑制するために設置される。
【0093】
すなわち、第1の赤外線吸収ガラス板410の25℃~250℃の平均熱膨張係数をαaとし、第3の赤外線吸収ガラス板450の25℃~250℃の平均熱膨張係数をαb'(αb'は、第2の赤外線吸収ガラス板430の25℃~250℃の平均熱膨張係数αbと等しい)とし、第2の透明ガラス板480の25℃~250℃の平均熱膨張係数をαdとしたとき、第2の透明ガラス板480は、αdがαaとαb'の間となるように選定される。
【0094】
このような第2の透明ガラス板480を設けることにより、第1の赤外線吸収ガラス板410と第3の赤外線吸収ガラス板450の間の剥離も、有意に抑制することが可能になる。
【0095】
第4の光学フィルタ400において、第1の赤外線吸収ガラス板410および第2の赤外線吸収ガラス板430は、透過率Taと透過率Tbの差の絶対値ΔTが10%以上、90%以下となるように選定される。第4の光学フィルタ400は、第3の光学フィルタ300と同様に赤外線吸収ガラス板を3枚用いるため、前述のとおり組成が同一である第2の赤外線吸収ガラス板430と第3の赤外線吸収ガラス板450とを重ね合せた際の透過率特性を用いて、透過率Tbを定義する。
【0096】
従って、第4の光学フィルタ400においても、可視光領域における透過率を高い値に維持したまま、赤外領域における透過率を有意に低減させることができる。また、第4の光学フィルタ400では、透過率に及ぼす入射光の角度依存性を有意に抑制することができる。
【0097】
なお、
図5には示されていないが、第4の光学フィルタ400は、さらに、第1の側402および/または第2の側404に、反射防止膜を有しても良い。
【0098】
以上、
図2~
図5を参照して、本発明の一実施形態による光学フィルタについて説明した。しかしながら、これらの構成は単なる一例であって、本発明の一実施形態による光学フィルタは、前述のような第1および第2の赤外線吸収ガラス板を有し、前述のような効果が得られる限り、いかなる構成を有しても良いことは明らかである。
【実施例】
【0099】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の記載において、例1~例6は実施例であり、例11および例12は比較例である。
【0100】
(例1)
前述の
図2に示したような2枚の赤外線吸収ガラス板を含む光学フィルタ(「例1に係る光学フィルタ」と称する)を構成し、その特性を評価した。
【0101】
第1の赤外線吸収ガラス板としては、以下の表1における「ガラスA」の組成を有するガラス板を使用した。厚さは、1.06mmである。
【0102】
また、第2の赤外線吸収ガラス板としては、表1における「ガラスB」の組成を有するガラス板を使用した。厚さは、0.38mmである。従って、例1に係る光学フィルタの総厚さは、1.44mmである。
【0103】
【表1】
第1の赤外線吸収ガラス板は、可視光平均透過率が84.4%であり、波長700nmでの透過率T
aが61.0%であった。また、透過率が50%となる長波長側の波長、すなわち半値波長T
50は、724nmであった。
【0104】
一方、第2の赤外線吸収ガラス板は、可視光平均透過率が87.3%であり、波長700nmでの透過率Tbが7.1%であった。また、半値波長T50は、614nmであった。
【0105】
従って、両者の波長700nmにおける透過率差の絶対値ΔT(=|Ta-Tb|)は、53.9%であった。
【0106】
以下の表2における「例1」の欄には、例1に係る光学フィルタの構成およびΔTなどをまとめて示した。
【0107】
【表2】
次に、以下の方法で、例1に係る光学フィルタの光学特性を評価した。
【0108】
まず、日本分光株式会社製V-570を用いて、第1の赤外線吸収ガラス板および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性を実際に測定した。
【0109】
次に、得られた測定結果から、2枚の赤外線吸収ガラス板を積層した際の透過率特性を算定した。ここで、各赤外線吸収ガラス板の間の界面反射はゼロと仮定した。また、各赤外線吸収ガラス板の界面には、接着層が存在すると仮定し、該接着層の透過率損失を0.1%と仮定とした。
【0110】
図6には、このような方法により算定された、例1に係る光学フィルタの透過率特性を示す。なお、この
図6には、第1の赤外線吸収ガラス板の透過率特性および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性が合わせて示されている。
【0111】
図6から、例1に係る光学フィルタでは、可視光領域における透過率が十分に高く維持されることがわかった。
【0112】
なお、例1に係る光学フィルタにおいて、波長850nm~950nmの範囲における光学濃度の平均値ODaveを求めると、ODave=3.72となった。このことから、例1に係る光学フィルタでは、赤外領域、特に波長850nm~950nmにおける透過率が有意に抑制されることがわかった。
【0113】
(例2)
例1と同様の方法により、光学フィルタ(「例2に係る光学フィルタ」と称する)を構成した。
【0114】
ただし、この例2では、第1の赤外線吸収ガラス板(ガラスA)の厚さは、1.37mmとした。また、第2の赤外線吸収ガラス板としては、表1における「ガラスC」の組成を有するガラス板を使用した。厚さは、0.23mmである。従って、例2に係る光学フィルタの総厚さは、1.60mmである。
【0115】
前述の表2における「例2」の欄には、例2に係る光学フィルタの構成およびΔTなどをまとめて示した。
【0116】
次に、前述の方法で、例2に係る光学フィルタの光学特性を評価した。
【0117】
図7には、得られた例2に係る光学フィルタの透過率特性を示す。なお、この
図7には、第1の赤外線吸収ガラス板の透過率特性および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性が合わせて示されている。
【0118】
図7から、例2に係る光学フィルタでは、可視光領域における透過率が十分に高く維持されることがわかった。
【0119】
なお、例2に係る光学フィルタにおいて、波長850nm~950nmの範囲における光学濃度の平均値ODaveを求めると、ODave=4.23となった。このことから、例2に係る光学フィルタでは、赤外領域、特に波長850nm~950nmにおける透過率が有意に抑制されることがわかった。
【0120】
(例3)
例1と同様の方法により、光学フィルタ(「例3に係る光学フィルタ」と称する)を構成した。
【0121】
ただし、この例3では、第1の赤外線吸収ガラス板(ガラスA)の厚さは、1.32mmとした。また、第2の赤外線吸収ガラス板(ガラスB)の厚さは、0.27mmとした。従って、例3に係る光学フィルタの総厚さは、1.59mmである。
【0122】
前述の表2における「例3」の欄には、例3に係る光学フィルタの構成およびΔTなどをまとめて示した。
【0123】
次に、前述の方法で、例3に係る光学フィルタの光学特性を評価した。
【0124】
図8には、得られた例3に係る光学フィルタの透過率特性を示す。なお、この
図8には、第1の赤外線吸収ガラス板の透過率特性および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性が合わせて示されている。
【0125】
図8から、例3に係る光学フィルタでは、可視光領域における透過率が十分に高く維持されることがわかった。
【0126】
なお、例3に係る光学フィルタにおいて、波長850nm~950nmの範囲における光学濃度の平均値ODaveを求めると、ODave=3.57となった。このことから、例3に係る光学フィルタでは、赤外領域、特に波長850nm~950nmにおける透過率が有意に抑制されることがわかった。
【0127】
(例4)
例1と同様の方法により、光学フィルタ(「例4に係る光学フィルタ」と称する)を構成した。
【0128】
ただし、この例4では、第1の赤外線吸収ガラス板(ガラスA)の厚さは、1.43mmとした。また、第2の赤外線吸収ガラス板としては、表1における「ガラスC」の組成を有するガラス板を使用した。厚さは、0.17mmである。従って、例4に係る光学フィルタの総厚さは、1.60mmである。
【0129】
前述の表2における「例4」の欄には、例4に係る光学フィルタの構成およびΔTなどをまとめて示した。
【0130】
次に、前述の方法で、例4に係る光学フィルタの光学特性を評価した。
【0131】
図9には、得られた例4に係る光学フィルタの透過率特性を示す。なお、この
図9には、第1の赤外線吸収ガラス板の透過率特性および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性が合わせて示されている。
【0132】
図9から、例4に係る光学フィルタでは、可視光領域における透過率が十分に高く維持されることがわかった。
【0133】
なお、例4に係る光学フィルタにおいて、波長850nm~950nmの範囲における光学濃度の平均値ODaveを求めると、ODave=3.79となった。このことから、例4に係る光学フィルタでは、赤外領域、特に波長850nm~950nmにおける透過率が有意に抑制されることがわかった。
【0134】
(例5)
例1と同様の方法により、光学フィルタ(「例5に係る光学フィルタ」と称する)を構成した。
【0135】
ただし、この例5では、第1の赤外線吸収ガラス板として、表1の「ガラスD」を使用した。厚さは、0.45mmである。また、第2の赤外線吸収ガラス板としては、表1における「ガラスF」の組成を有するガラス板を使用した。厚さは、0.87mmである。従って、例5に係る光学フィルタの総厚さは、1.32mmである。
【0136】
前述の表2における「例5」の欄には、例5に係る光学フィルタの構成およびΔTなどをまとめて示した。
【0137】
次に、前述の方法で、例5に係る光学フィルタの光学特性を評価した。
【0138】
図10には、得られた例5に係る光学フィルタの透過率特性を示す。なお、この
図10には、第1の赤外線吸収ガラス板の透過率特性および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性が合わせて示されている。
【0139】
図10から、例5に係る光学フィルタでは、可視光領域における透過率が十分に高く維持されることがわかった。
【0140】
なお、例5に係る光学フィルタにおいて、波長850nm~950nmの範囲における光学濃度の平均値ODaveを求めると、ODave=4.06となった。このことから、例5に係る光学フィルタでは、赤外領域、特に波長850nm~950nmにおける透過率が有意に抑制されることがわかった。
【0141】
(例6)
例1と同様の方法により、光学フィルタ(「例6に係る光学フィルタ」と称する)を構成した。
【0142】
ただし、この例6では、第1の赤外線吸収ガラス板として、表1の「ガラスD」を使用した。厚さは、0.51mmである。また、第2の赤外線吸収ガラス板としては、表1における「ガラスE」の組成を有するガラス板を使用した。厚さは、0.10mmである。従って、例6に係る光学フィルタの総厚さは、0.61mmである。
【0143】
前述の表2における「例6」の欄には、例6に係る光学フィルタの構成およびΔTなどをまとめて示した。
【0144】
次に、前述の方法で、例6に係る光学フィルタの光学特性を評価した。
【0145】
図11には、得られた例6に係る光学フィルタの透過率特性を示す。なお、この
図11には、第1の赤外線吸収ガラス板の透過率特性および第2の赤外線吸収ガラス板の透過率特性が合わせて示されている。
【0146】
図11から、例6に係る光学フィルタでは、可視光領域における透過率が十分に高く維持されることがわかった。
【0147】
なお、例6に係る光学フィルタにおいて、波長850nm~950nmの範囲における光学濃度の平均値ODaveを求めると、ODave=4.37となった。このことから、例6に係る光学フィルタでは、赤外領域、特に波長850nm~950nmにおける透過率が有意に抑制されることがわかった。
【0148】
(例11)
単一の赤外線吸収ガラス板を用いて光学フィルタ(「例11に係る光学フィルタ」と称する)とした。なお、この例11では、単一の赤外線吸収ガラス板として、表1の「ガラスC」を使用した。厚さは、0.63mmである。
【0149】
例11に係る光学フィルタの光学特性を評価した。
【0150】
図12には、実際に測定された例11に係る光学フィルタの透過率特性を示す。
【0151】
例11に係る光学フィルタにおいて、波長850nm~950nmの範囲における光学濃度の平均値ODaveを求めると、ODave=5.41となった。
【0152】
なお、
図12から、例11に係る光学フィルタでは、可視光領域における透過率があまり高くないことがわかった。
【0153】
以下の表3には、各例に係る光学フィルタの特性をまとめて示した。
【0154】
【表3】
なお、表3には、後述する例12に係る光学フィルタの特性も示した。
【0155】
(例12)
赤外線吸収ガラス板に光学多層膜(TiO2とSiO2とを交互積層(合計40層)した赤外線反射膜)を積層して、光学フィルタ(「例12に係る光学フィルタ」と称する)を製造した。ただし、この例12では、赤外線吸収ガラス板として、表1の「ガラスC」を使用した。厚さは、0.29mmである。
【0156】
次に、例12に係る光学フィルタを用いて、光の入射角度が光学特性に及ぼす影響を、光学薄膜シミュレーションソフト(TFCalc、Software Spectra社製)を用いて評価した。
【0157】
図13には、例12に係る光学フィルタの透過率特性を示す。光の入射角度は、0°、30°、および40°とした。
【0158】
図13から、例12に係る光学フィルタでは、光の入射角度が大きくなるに従い、可視光の波長領域に透過リップル(透過率の変動)が発生し、可視光平均透過率が低下することがわかった。
【0159】
次に、前述の例1~例6に係る光学フィルタを用いて、光学特性の光の入射角度依存性を、光学薄膜シミュレーションソフト(TFCalc、Software Spectra社製)を用いて評価した。
【0160】
図14には、例1に係る光学フィルタにおける、各入射角度での透過率特性を示す。
【0161】
図15には、例2に係る光学フィルタにおける、各入射角度での透過率特性を示す。
【0162】
図16には、例3に係る光学フィルタにおける、各入射角度での透過率特性を示す。
【0163】
図17には、例4に係る光学フィルタにおける、各入射角度での透過率特性を示す。
【0164】
図18には、例5に係る光学フィルタにおける、各入射角度での透過率特性を示す。
【0165】
図19には、例6に係る光学フィルタにおける、各入射角度での透過率特性を示す。
【0166】
これらの図において、光の入射角度は、いずれも0°、30°、および40°とした。
【0167】
図14~
図19に示すように、例1~例6に係る光学フィルタにおいては、光の入射角度が変化しても、透過率特性にあまり変化は認められないことがわかる。すなわち、例1~例6に係る光学フィルタでは、可視光の波長領域において、透過リップル(透過率の変動)の発生が有意に抑制されており、光学特性は、光の入射角度にあまり依存しないと言える。
【0168】
例12に係る光学フィルタと、例1~例6に係る光学フィルタにおける透過率特性(光の入射角度)の相違は、以下に起因するものと考えられる。
【0169】
すなわち、例12に係る光学フィルタは、赤外線吸収ガラス板と光学多層膜との組合せにより光学特性を発現させているため、光の干渉作用を用いる光学多層膜の光の入射角度による特性変化の影響を受ける。これに対し、例1~例6に係る光学フィルタは、赤外線吸収ガラス板により光学特性を発現させているため、光の入射角度による特性変化が生じにくいと考えられる。
【符号の説明】
【0170】
100 第1の光学フィルタ
102 第1の側
104 第2の側
110 第1の赤外線吸収ガラス板
130 第2の赤外線吸収ガラス板
200 第2の光学フィルタ
202 第1の側
204 第2の側
210 第1の赤外線吸収ガラス板
230 第2の赤外線吸収ガラス板
270 透明ガラス板
300 第3の光学フィルタ
302 第1の側
304 第2の側
310 第1の赤外線吸収ガラス板
330 第2の赤外線吸収ガラス板
350 第3の赤外線吸収ガラス板
400 第4の光学フィルタ
402 第1の側
404 第2の側
410 第1の赤外線吸収ガラス板
430 第2の赤外線吸収ガラス板
450 第3の赤外線吸収ガラス板
470 第1の透明ガラス板
480 第2の透明ガラス板