(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】剥離層形成用組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20220906BHJP
H01L 27/12 20060101ALI20220906BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20220906BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20220906BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20220906BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01L27/12 B
C08G73/10
C08K5/3415
C08K5/20
C08L79/08 A
(21)【出願番号】P 2018531974
(86)(22)【出願日】2017-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2017028212
(87)【国際公開番号】W WO2018025955
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2016152490
(32)【優先日】2016-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】江原 和也
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/050933(WO,A1)
【文献】特開2016-086158(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152121(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/152120(WO,A1)
【文献】特開2015-136868(JP,A)
【文献】特開2013-153122(JP,A)
【文献】特開2010-221523(JP,A)
【文献】特開2014-139296(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129546(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08G 73/00-73/26
C08K 3/00-13/08
H01L 21/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるポリアミック酸、下記式(2)で表されるポリアミック酸、下記式(3)で表されるポリアミック酸又は下記式(4)で表されるポリアミドと、有機溶媒とを含
む剥離層形成用組成物
を用いて得られる剥離層を用いることを特徴とする、樹脂基板を備えるフレキシブル電子デバイスの製造方法。
【化1】
(式中、X
1は、フッ素原子を有しない4価の芳香族基を表し、X
2は、フッ素原子を有する4価の芳香族基を表し、X
3は、フッ素原子を有しない2価の芳香族基を表し、Y
1は、フッ素原子を有する2価の芳香族基を表し、Y
2は、フッ素原子を有しない2価の芳香族基を表し、mは、自然数を表す。)
【請求項2】
上記Y
1が、下記式(5)~(9)からなる群から選ばれる芳香族基である請求項1に記載の
フレキシブル電子デバイスの製造方法。
【化2】
【請求項3】
上記Y
1が、下記式(10)で表される芳香族基である請求項2に記載の
フレキシブル電子デバイスの製造方法。
【化3】
【請求項4】
上記X
2が、下記式(11)又は(12)で表される芳香族基である請求項1~3のいずれか1項に記載の
フレキシブル電子デバイスの製造方法。
【化4】
【請求項5】
上記X
1が、ベンゼン環を1~5個含む芳香族基である請求項1~4のいずれか1項に記載の
フレキシブル電子デバイスの製造方法。
【請求項6】
上記X
3が、ベンゼン環を1~5個含む芳香族基である請求項1~5のいずれか1項に記載の
フレキシブル電子デバイスの製造方法。
【請求項7】
上記Y
2が、ベンゼン環を1~5個含む芳香族基である請求項1~6のいずれか1項に記載の
フレキシブル電子デバイスの製造方法。
【請求項8】
上記有機溶媒が、式(S1)で表されるアミド類、式(S2)で表されるアミド類及び式(S3)で表されるアミド類から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~7のいずれか1項に記載の
フレキシブル電子デバイスの製造方法。
【化5】
(式中、R
1及びR
2は、互いに独立して、炭素数1~10のアルキル基を表す。R
3は、水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基を表す。hは、自然数を表す。)
【請求項9】
フレキシブル電子デバイスがタッチパネルセンサーである、請求項
1~8のいずれか1項に記載の
フレキシブル電子デバイスの製造方法。
【請求項10】
上記樹脂基板が、ポリイミド樹脂基板又は波長400nmの光透過率が80%以上である樹脂基板である請求項
1~9のいずれか1項に記載の
フレキシブル電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離層形成用組成物に関し、詳述すると、基体上に設ける剥離層を形成するための剥離層形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスには薄型化及び軽量化という特性に加え、曲げることができるという機能を付与することが求められている。このことから、従来の重く脆弱で曲げることができないガラス基板に代わって、軽量なフレキシブルプラスチック基板を用いることが求められる。
特に、新世代ディスプレイでは、軽量なフレキシブルプラスチック基板(以下、樹脂基板と表記する)を用いたアクティブマトリクス型フルカラーTFTディスプレイパネルの開発が求められている。この新世代ディスプレイに関する技術は、フレキシブルディスプレイや、フレキシブルスマートフォン、ミラーディスプレイ等の様々な分野への転用が期待されている。
【0003】
そこで、樹脂フィルムを基板とした電子デバイスの製造方法が各種検討され始めており、新世代ディスプレイでは、既存のTFTディスプレイパネル製造用の設備が転用可能なプロセスの検討が進められている。また、タッチパネル式ディスプレイにおいては、ディスプレイパネルに組み合わせて使用されるタッチパネルの透明電極用の樹脂基板等を効率的に製造するための方策が検討されている。一般的に、タッチパネルに使用される樹脂基板は、TFTディスプレイパネル等と同様に、ガラスと同等程度の透明性を有するポリイミド樹脂基板やアクリル樹脂基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂基板、シクロオレフィン樹脂基板等のフィルム基板が使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1、2及び3では、ガラス基板上にアモルファスシリコン薄膜層を形成し、その薄膜層上にプラスチック基板を形成した後に、ガラス面側からレーザーを照射して、アモルファスシリコンの結晶化に伴い発生する水素ガスによりプラスチック基板をガラス基板から剥離する方法が開示されている。また、特許文献4では、特許文献1~3開示の技術を用いて被剥離層(特許文献4において「被転写層」と記載されている。)をプラスチックフィルムに貼りつけて液晶表示装置を完成させる方法が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1~4で開示された方法、特に特許文献4で開示された方法では、レーザー光を透過させるために透光性の高い基板を使用することが必須であること、基板を通過させ、更にアモルファスシリコンに含まれる水素を放出させるのに十分な、比較的大きなエネルギーのレーザー光の照射が必要とされること、レーザー光の照射によって被剥離層に損傷を与えてしまう場合があること、といった問題がある。
しかも、被剥離層が大面積である場合には、レーザー処理に長時間を要するため、デバイス作製の生産性を上げることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-125929号公報
【文献】特開平10-125931号公報
【文献】国際公開第2005/050754号
【文献】特開平10-125930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、フレキシブル電子デバイスの樹脂基板、特にポリイミド樹脂やアクリル樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂等で形成される樹脂基板を損傷せずに剥離することが可能となる剥離層を与える、剥離層形成用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するポリアミック酸又はポリアミドと有機溶剤とを含む組成物が、ガラス基板等の基体との優れた密着性及びフレキシブル電子デバイスとして用いられる樹脂基板との適度な密着性と適度な剥離性とを有する剥離層を与えることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 下記式(1)で表されるポリアミック酸、下記式(2)で表されるポリアミック酸、下記式(3)で表されるポリアミック酸又は下記式(4)で表されるポリアミドと、有機溶媒とを含むことを特徴とする剥離層形成用組成物、
【化1】
(式中、X
1は、フッ素原子を有しない4価の芳香族基を表し、X
2は、フッ素原子を有する4価の芳香族基を表し、X
3は、フッ素原子を有しない2価の芳香族基を表し、Y
1は、フッ素原子を有する2価の芳香族基を表し、Y
2は、フッ素原子を有しない2価の芳香族基を表し、mは、自然数を表す。)
2. 上記Y
1が、下記式(5)~(9)からなる群から選ばれる芳香族基である1の剥離層形成用組成物、
【化2】
3. 上記Y
1が、下記式(10)で表される芳香族基である2の剥離層形成用組成物、
【化3】
4. 上記X
2が、下記式(11)又は(12)で表される芳香族基である1~3のいずれかの剥離層形成用組成物、
【化4】
5. 上記X
1が、ベンゼン環を1~5個含む芳香族基である1~4のいずれかの剥離層形成用組成物、
6. 上記X
3が、ベンゼン環を1~5個含む芳香族基である1~5のいずれかの剥離層形成用組成物、
7. 上記Y
2が、ベンゼン環を1~5個含む芳香族基である1~6のいずれかの剥離層形成用組成物、
8. 上記有機溶媒が、式(S1)で表されるアミド類、式(S2)で表されるアミド類及び式(S3)で表されるアミド類から選ばれる少なくとも1種を含む1~7のいずれかの剥離層形成用組成物、
【化5】
(式中、R
1及びR
2は、互いに独立して、炭素数1~10のアルキル基を表す。R
3は、水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基を表す。hは、自然数を表す。)
9. 1~8のいずれかの剥離層形成用組成物を用いて形成される剥離層、
10. 9の剥離層を用いることを特徴とする、樹脂基板を備えるフレキシブル電子デバイスの製造方法、
11. 9の剥離層を用いることを特徴とする、樹脂基板を備えるタッチパネルセンサーの製造方法、
12. 上記樹脂基板が、ポリイミド樹脂基板又は波長400nmの光透過率が80%以上である樹脂基板である10又は11の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の剥離層形成用組成物を用いることで、基体との優れた密着性、及び樹脂基板との適度な密着性と適度な剥離性とを有する膜を再現性よく得ることができる。本発明の組成物を用いることで、フレキシブル電子デバイスの製造プロセスにおいて、基体上に形成された樹脂基板や、更にその上に設けられる回路等に損傷を与えることなく、当該回路等とともに当該樹脂基板を当該基体から分離することが可能となる。したがって、本発明の剥離層形成用組成物は、樹脂基板を備えるフレキシブル電子デバイスの製造プロセスの簡便化やその歩留り向上等に寄与し得る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明の剥離層形成用組成物は、下記式(1)で表されるポリアミック酸、下記式(2)で表されるポリアミック酸、下記式(3)で表されるポリアミック酸又は下記式(4)で表されるポリアミドと、有機溶媒とを含むものである。
【0012】
本発明において、剥離層とは、樹脂基板が形成される基体(ガラス基体等)直上に設けられる層である。その典型例としては、フレキシブル電子デバイスの製造プロセスにおいて、上記基体と、ポリイミド樹脂やアクリル樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂等で形成されるフレキシブル電子デバイスの樹脂基板との間に当該樹脂基板を所定のプロセス中において固定するために設けられ、かつ、当該樹脂基板上に電子回路等の形成した後において当該樹脂基板が当該基体から容易に剥離できるようにするために設けられる剥離層が挙げられる。
【0013】
【0014】
上記式(1)~(4)において、X1は、フッ素原子を有しない4価の芳香族基を表し、X2は、フッ素原子を有する4価の芳香族基を表し、X3は、フッ素原子を有しない2価の芳香族基を表し、Y1は、フッ素原子を有する2価の芳香族基を表し、Y2は、フッ素原子を有しない2価の芳香族基を表し、mは、自然数を表す。
【0015】
上記X1は、フッ素原子を有さず、かつベンゼン環を1~5個含む芳香族基が好ましい。なお、上記X1は、エステル結合及びエーテル結合のいずれか一方、又は両方を含んでもよい。
【0016】
上記Y1は、フッ素原子を有し、かつベンゼン環を1~5個含む芳香族基が好ましく、下記式(5)~(9)からなる群から選ばれる芳香族基がより好ましく、下記式(5)から選ばれる芳香族基がより一層好ましく、下記式(10)で表される芳香族基が更に好ましい。
【0017】
【0018】
【0019】
上記X2は、フッ素原子を有し、かつベンゼン環を1~5個含む芳香族基が好ましく、下記式(11)又は(12)で表される芳香族基がより好ましい。
【0020】
【0021】
上記Y2は、フッ素原子を有さず、かつベンゼン環を1~5個含む芳香族基が好ましく、1~3個含む芳香族基がより好ましい。なお、上記Y2は、エステル結合及びエーテル結合のいずれか一方、又は両方を含んでもよい。
【0022】
上記X3は、フッ素原子を有さず、かつベンゼン環を1~5個含む芳香族基が好ましく、ベンゼン環を1~2個含む芳香族基がより好ましく、ビフェニル基が更に好ましい。
【0023】
上記mは、自然数であればよいが、100以下の自然数が好ましく、2~100の自然数がより好ましい。
【0024】
[ポリアミック酸1]
上記式(1)で表されるポリアミック酸は、フッ素原子を有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物と、フッ素原子を有する芳香族ジアミンとを反応させることにより得られるものである。以下、上記式(1)で表されるポリアミック酸の合成に使用できる芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンについて詳述する。
【0025】
本発明において、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物は、フッ素原子を有さず、かつ分子内に2個のジカルボン酸無水物部位を有する限り特に限定されるものではないが、ベンゼン環を1~5個含む芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0026】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、ベンゼン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル-2,2’,3,3’-テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル-2,3,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、アントラセン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、アントラセン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、アントラセン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、アントラセン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、アントラセン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-2,3,9,10-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-3,4,5,6-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、下記式(B1)~(B12)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられるが、これらに限定されない。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
【0028】
一方、芳香族ジアミンとしては、フッ素原子を有し、かつ分子内に芳香環に直結する2個のアミノ基を有していれば、特に限定されるものではないが、ベンゼン環を1~5個含む芳香族ジアミンが好ましい。また、フルオロアルキル基又はパーフルオロアルキル基を有するものがより好ましく、パーフルオロアルキル基が更に好ましい。上記パーフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、n-ヘプタフルオロプロピル基及びi-ヘプタフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0029】
上記芳香族ジアミンの具体例としては、5-トリフルオロメチルベンゼン-1,3-ジアミン、5-トリフルオロメチルベンゼン-1,2-ジアミン、2-トリフルオロメチルベンゼン-1,4-ジアミン、3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン-1,2-ジアミン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル-4,4’-ジアミン、3,3’,5,5’-テトラフルオロビフェニル-4,4’-ジアミン、4,4’-ジアミノオクタフルオロビフェニル、下記式(A1)~(A5)で表される芳香族ジアミン等が挙げられるが、これらに限定されない。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
【0031】
[ポリアミック酸2]
上記式(2)で表されるポリアミック酸は、フッ素原子を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物と、フッ素原子を有しない芳香族ジアミンとを反応させることにより得られるものである。以下、上記式(2)で表されるポリアミック酸の合成に使用できる芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンについて詳述する。
【0032】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、フッ素原子を有し、かつ分子内に2個のジカルボン酸無水物部位を有する限り特に限定されるものではない。また、フルオロアルキル基又はパーフルオロアルキル基を有するものがより好ましく、パーフルオロアルキル基が更に好ましい。上記パーフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、n-ヘプタフルオロプロピル基及びi-ヘプタフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0033】
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、N,N’-[2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル-4,4’-ジイル]ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボアミド)、3,6-ジフルオロピロメリット酸二無水物、3,6-ビス(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、3,6-ビス(トリフルオロメトキシ)ピロメリット酸二無水物、3-フルオロピロメリット酸二無水物、3-トリフルオロメチルピロメリット酸二無水物、3-トリフルオロメトキシピロメリット酸二無水物、9,9-ビス-(トリフルオロメチル)キサンテンテトラカルボン酸二無水物、9-フェニル-9-(トリフルオロメチル)キサンテンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,5,5’,6,6’-ヘキサフルオロオキシ-4,4’-ジフタル酸二無水物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
一方、芳香族ジアミンとしては、フッ素原子を有さず、かつ分子内に芳香環に直結する2個のアミノ基を有していれば、特に限定されるものではないが、ベンゼン環を1~5個含む芳香族ジアミンが好ましい。
【0035】
芳香族ジアミンの具体例としては、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン(m-フェニレンジアミン)、1,2-ジアミノベンゼン(o-フェニレンジアミン)、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,6-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4,6-トリメチル-1,3-フェニレンジアミン、2,3,5,6-テトラメチル-p-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン等のベンゼン環を1個含むジアミン;1,2-ナフタレンジアミン、1,3-ナフタレンジアミン、1,4-ナフタレンジアミン、1,5-ナフタレンジアミン、1,6-ナフタレンジアミン、1,7-ナフタレンジアミン、1,8-ナフタレンジアミン、2,3-ナフタレンジアミン、2,6-ナフタレンジアミン、4,4’-ビフェニルジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジクロロベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド等のベンゼン環を2個含むジアミン;1,5-ジアミノアントラセン、2,6-ジアミノアントラセン、9,10-ジアミノアントラセン、1,8-ジアミノフェナントレン、2,7-ジアミノフェナントレン、3,6-ジアミノフェナントレン、9,10-ジアミノフェナントレン、1,3-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)イソプロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(3-アミノフェニル)イソプロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)イソプロピル]ベンゼン等のベンゼン環を3個含むジアミン、下記式(A6)~(A44)で表される芳香族ジアミン等が挙げられるが、これらに限定されない。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
[ポリアミック酸3]
上記式(3)で表されるポリアミック酸は、フッ素原子を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物と、フッ素原子を有する芳香族ジアミンとを反応させることにより得られるものである。
【0043】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、上記式(2)で表されるポリアミック酸の合成に使用できるものと同様のフッ素原子を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することができる。
【0044】
芳香族ジアミンとしては、上記式(1)で表されるポリアミック酸の合成に使用できるものと同様のフッ素原子を有する芳香族ジアミンを使用することができる。
【0045】
[ポリアミド]
上記式(4)で表されるポリアミドは、フッ素原子を有しない芳香族ジカルボン酸又はその誘導体と、フッ素原子を有する芳香族ジアミンとを反応させることにより得られるものである。以下、上記式(4)で表されるポリアミドの合成に使用できる芳香族ジカルボン酸又はその誘導体、及び芳香族ジアミンについて詳述する。
【0046】
本発明において、上記芳香族ジカルボン酸又はその誘導体は、フッ素原子を有さず、かつ分子内に2個のカルボキシル基又はその誘導基を有する限り特に限定されるものではないが、ベンゼン環を1~5個、特に1~2個、更には2個含む芳香族ジカルボン酸又はその誘導体が好ましい。
【0047】
芳香族ジカルボン酸又はその誘導体の具体例としては、o-フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-tert-ブチルイソフタル酸、5-アミノイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、2,5-ジメチルテレフタル酸、テトラメチルテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-アントラセンジカルボン酸、1,6-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、1,4-アントラキノンジカルボン酸、2,5-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、3,4’-ビフェニルジカルボン酸、1,5-ビフェニレンジカルボン酸、4,4”-ターフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルプロパンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルヘキサフルオロプロパンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ビベンジルジカルボン酸、4,4’-スチルベンジカルボン酸、4,4’-トランジカルボン酸、4,4’-カルボニル二安息香酸、4,4’-スルホニル二安息香酸、4,4’-ジチオ二安息香酸、p-フェニレン二酢酸、3,3’-p-フェニレンジプロピオン酸、4-カルボキシ桂皮酸、p-フェニレンジアクリル酸、3,3’-[4,4’-(メチレンジ-p-フェニレン)]ジプロピオン酸、4,4’-[4,4’-(オキシジ-p-フェニレン)]ジプロピオン酸、4,4’-[4,4’-(オキシジ-p-フェニレン)]二酪酸、(イソプロピリデンジ-p-フェニレンジオキシ)二酪酸、ビス(p-カルボキシフェニル)ジメチルシラン等のジカルボン酸;
イソフタル酸ジクロリド、テレフタル酸ジクロリド、3-クロロイソフタル酸ジクロリド、3-ソトキシイソフタル酸ジクロリド、2,5-ジクロロテレフタル酸ジクロリド、トリクロロテレフタル酸ジクロリド、テトラクロロテレフタル酸ジクロリド、1,4-ナフタレンジカルボン酸ジクロリド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジクロリド、3,3’-ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、2,2’-ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、3,4’-ビフェニルジカルボン酸ジクロリド等の上記各種ジカルボン酸のハロゲン化物等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、上記各種ジカルボン酸は無水の構造のものであってもよい。
【0048】
芳香族ジアミンとしては、上記式(1)で表されるポリアミック酸の合成に使用できるものと同様のフッ素原子を有する芳香族ジアミンを使用することができる。
【0049】
上記式(1)で表されるポリアミック酸、及び上記式(2)で表されるポリアミック酸を合成する際の全テトラカルボン酸二無水物成分のモル数と全ジアミン成分のモル数との比はテトラカルボン酸成分/ジアミン成分=0.8~1.2であることが好ましい。また、上記式(4)で表されるポリアミドを合成する際の全ジカルボン酸成分のモル数と全ジアミン成分のモル数との比はジカルボン酸成分/ジアミン成分=0.8~1.2であることが好ましい。
【0050】
以上説明した芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応させることで、本発明に係る剥離層形成用組成物に含まれる式(1)で表されるポリアミック酸、式(2)で表されるポリアミック酸及び式(3)で表されるポリアミック酸を得ることができる。また、上記の芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とを反応させることで、本発明に係る剥離層形成用組成物に含まれる式(4)で表されるポリアミドを得ることができる。
【0051】
[有機溶媒]
このような反応に用いる有機溶媒は、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されないが、その具体例としては、m-クレゾール、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-イソプロポキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-sec-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。なお、有機溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
特に、反応に用いる有機溶媒は、上述したジアミン、テトラカルボン酸二無水物、ジカルボン酸、ポリアミック酸及びポリアミドをよく溶解することから、式(S1)で表されるアミド類、(S2)で表されるアミド類及び式(S3)で表されるアミド類から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0053】
【0054】
式中、R1及びR2は、互いに独立して、炭素数1~10のアルキル基を表す。R3は、水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基を表す。hは、自然数を表すが、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。
【0055】
炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、炭素数1又は2のアルキル基がより好ましい。
【0056】
反応温度は、用いる溶媒の融点から沸点までの範囲で適宜設定すればよく、通常0~100℃程度であるが、例えば、得られるポリアミック酸の溶液中でのイミド化を防いでポリアミック酸単位の高含有量を維持するためには、好ましくは0~70℃程度であり、より好ましくは0~60℃程度であり、より一層好ましくは0~50℃程度である。
【0057】
なお、ポリアミドの製造において、重合の効率を高めるために重合触媒を用いてもよい。重合触媒としては、例えばリン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩、ピリジンが挙げられる。重合触媒の添加量は、通常、ポリアミドを構成する全モノマーに対して、2モル%以下で用いることが好ましい。
【0058】
反応時間は、反応温度や原料物質の反応性に依存するため一概に規定できないが、通常1~100時間程度である。
【0059】
以上説明した方法によって、目的とするポリアミック酸又はポリアミドを含む反応溶液を得ることができる。
【0060】
上記ポリアミック酸又はポリアミドの重量平均分子量は、5,000~1,000,000が好ましく、6,000~500,000がより好ましく、ハンドリング性の観点から7,000~200,000がより一層好ましい。なお、本発明において重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析による標準ポリスチレン換算で得られる平均分子量である。
【0061】
本発明においては、通常、上記反応溶液をろ過した後、そのろ液をそのまま、又は希釈若しくは濃縮して得られる溶液を、本発明の剥離層形成用組成物として用いることができる。このようにすることで、得られる剥離層の密着性、剥離性等の悪化の原因となり得る不純物の混入を低減できるだけでなく、効率よく剥離層形成用組成物を得ることができる。また、上記反応溶液からポリアミック酸又はポリアミドを単離した後、再度溶媒に溶解して剥離層形成用組成物としてもよい。この場合の溶媒としては、前述した反応に用いる有機溶媒等が挙げられる。
【0062】
希釈に用いる溶媒は、特に限定されず、その具体例としては、上記反応の反応溶媒の具体例と同様のものが挙げられる。希釈に用いる溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、ポリアミック酸又はポリアミドをよく溶解することから、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトンが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがより好ましい。
【0063】
また、単独ではポリアミック酸又はポリアミドを溶解しない溶媒であっても、ポリアミック酸又はポリアミドが析出しない範囲であれば、本発明の剥離層形成用組成物に混合することができる。特に、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-ブトキシ-2-プロパノール、1-フェノキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート、プロピレングリコール-1-モノエチルエーテル-2-アセテート、ジプロピレングリコール、2-(2-エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-プロピル、乳酸n-ブチル、乳酸イソアミル等の低表面張力を有する溶媒を適度に混在させることができる。これにより、基板への塗布時に塗膜均一性が向上することが知られており、本発明の剥離層形成用組成物においても好適に用いられる。
【0064】
本発明の剥離層形成用組成物におけるポリアミック酸又はポリアミドの濃度は、作製する剥離層の厚み、組成物の粘度等を勘案して適宜設定するものではあるが、通常1~30質量%程度、好ましくは1~20質量%程度である。このような濃度とすることで、0.05~5μm程度の厚さの剥離層を再現性よく得ることができる。なお、ポリアミック酸又はポリアミドの濃度は、これらの原料であるジアミンとテトラカルボン酸二無水物又はジカルボン酸の使用量を調整する、上記反応溶液をろ過した後そのろ液を希釈又は濃縮する、単離したポリアミック酸又はポリアミドを溶媒に溶解させる際にその量を調整する等して調整することができる。
【0065】
また、剥離層形成用組成物の粘度は、作製する剥離層の厚み等を勘案して適宜設定するものではあるが、特に0.05~5μm程度の厚さの膜を再現性よく得ることを目的とする場合、通常、25℃で10~10,000mPa・s程度、好ましくは20~5,000mPa・s程度である。ここで、粘度は、市販の液体の粘度測定用粘度計を使用して、例えば、JIS K7117-2に記載の手順を参照して、組成物の温度25℃の条件にて測定することができる。好ましくは、粘度計としては、円錐平板型(コーンプレート型)回転粘度計を使用し、好ましくは同型の粘度計で標準コーンロータとして1°34’×R24を使用して、組成物の温度25℃の条件にて測定することができる。このような回転粘度計としては、例えば、東機産業(株)製TVE-25Lが挙げられる。
【0066】
なお、本発明に係る剥離層形成用組成物は、ポリアミック酸又はポリアミドと有機溶媒のほかに、例えば膜強度を向上させるために、架橋剤等の成分を含んでもよい。
【0067】
以上説明した本発明の剥離層形成組成物を基体に塗布し、得られた塗膜を加熱することにより、基体との優れた密着性、及び樹脂基板との適度な密着性と適度な剥離性とを有する剥離層を得ることができる。
【0068】
本発明の剥離層を基体上に形成する場合、剥離層は基体の一部表面に形成されていてもよいし、全面に形成されていてもよい。基体の一部表面に剥離層を形成する態様としては、基体表面のうち所定の範囲にのみ剥離層を形成する態様、基体表面全面にドットパターン、ラインアンドスペースパターン等のパターン状に剥離層を形成する態様等がある。なお、本発明において、基体とは、その表面に本発明に係る剥離層形成用組成物が塗られるものであって、フレキシブル電子デバイス等の製造に用いられるものを意味する。
【0069】
基体(基材)としては、例えば、ガラス、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ、メラミン、トリアセチルセルロース、ABS、AS、ノルボルネン系樹脂等)、金属(シリコンウエハ等)、木材、紙、スレート等が挙げられるが、特に、本発明に係る剥離層形成用組成物から得られる剥離層がそれに対する十分な密着性を有することから、ガラスが好ましい。なお、基体表面は、単一の材料で構成されていてもよく、2以上の材料で構成されていてもよい。2以上の材料で基体表面が構成される態様としては、基体表面のうち、ある範囲はある材料で構成され、その余の表面はその他の材料で構成されている態様、基体表面全体にドットパターン、ラインアンドスペースパターン等のパターン状にある材料がその他の材料中に存在する態様等がある。
【0070】
塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、キャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等)等が挙げられる。
【0071】
イミド化するための加熱温度は、通常50~550℃の範囲内で適宜決定されるが、好ましくは200℃以上、また、好ましくは500℃以下である。加熱温度をこのようにすることで、得られる膜の脆弱化を防ぎつつ、イミド化反応を十分に進行させることが可能となる。加熱時間は、加熱温度によって異なるため一概に規定できないが、通常5分~5時間である。また、イミド化率は、50~100%の範囲であればよい。
【0072】
本発明における加熱態様の好ましい一例としては、50~100℃で5分間~2時間加熱した後に、そのまま段階的に加熱温度を上昇させて最終的に375℃超~450℃で30分~4時間加熱する手法が挙げられる。特に、50~100℃で5分間~2時間加熱した後に、100℃超~375℃で5分間~2時間、最後に375℃超~450℃で30分~4時間加熱することが好ましい。
【0073】
加熱に用いる器具としては、例えば、ホットプレート、オーブン等が挙げられる。加熱雰囲気は、空気下であっても不活性ガス下であってもよく、また、常圧下であっても減圧下であってもよい。
【0074】
剥離層の厚さは、通常0.01~50μm程度、生産性の観点から、好ましくは0.05~20μm程度、より好ましくは0.05~5μm程度であり、加熱前の塗膜の厚さを調整して所望の厚さを実現する。
【0075】
以上説明した剥離層は、基体、特にガラスの基体との優れた密着性及び樹脂基板との適度な密着性と適度な剥離性を有する。それ故、本発明に係る剥離層は、フレキシブル電子デバイスの製造プロセスにおいて、当該デバイスの樹脂基板に損傷を与えることなく、当該樹脂基板を、その樹脂基板上に形成された回路等とともに、基体から剥離させるために好適に用いることができる。
【0076】
以下、本発明の剥離層を用いたフレキシブル電子デバイスの製造方法の一例について説明する。
本発明に係る剥離層形成用組成物を用いて、前述の方法によって、ガラス基体上に剥離層を形成する。この剥離層の上に、樹脂基板を形成するための樹脂溶液を塗布し、この塗膜を加熱することで、本発明に係る剥離層を介して、ガラス基体に固定された樹脂基板を形成する。この際、剥離層を全て覆うようにして、剥離層の面積と比較して大きい面積で、樹脂基板を形成する。上記樹脂基板としては、フレキシブル電子デバイスの樹脂基板として代表的なポリイミド樹脂やアクリル樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂からなる樹脂基板等が挙げられ、それを形成するための樹脂溶液としては、ポリイミド溶液、ポリアミック酸溶液、アクリルポリマー溶液及びシクロオレフィンポリマー溶液が挙げられる。当該樹脂基板の形成方法は、常法に従えばよい。また、透明性が高い樹脂基板としては、アクリル樹脂やシクロオレフィンポリマー樹脂で形成される樹脂基板を例示することができ、特に波長400nmの光透過率が80%以上であるものが好ましい。
【0077】
次に、本発明に係る剥離層を介して基体に固定された当該樹脂基板の上に、所望の回路を形成し、その後、例えば剥離層に沿って樹脂基板をカットし、この回路とともに樹脂基板を剥離層から剥離して、樹脂基板と基体とを分離する。この際、基体の一部を剥離層とともにカットしてもよい。
【0078】
一方、フレキシブルディスプレイの製造において、これまで高輝度LEDや三次元半導体パッケージ等の製造において使用されてきたレーザーリフトオフ法(LLO法)を用いてガラスキャリアからポリマー基板を好適に剥離できることが報告されている(特開2013-147599号公報)。フレキシブルディスプレイの製造では、ガラスキャリア上にポリイミド等からなるポリマー基板を設け、次にその基板の上に電極等を含む回路等を形成し、最終的にこの回路等とともに基板をガラスキャリアから剥離する必要がある。この剥離工程においてLLO法を採用し、すなわち、回路等が形成された面とは反対の面から、波長308nmの光線をガラスキャリアに照射すると、当該波長の光線がガラスキャリアを透過し、ガラスキャリア近傍のポリマー(ポリイミド樹脂)のみがこの光線を吸収して蒸発(昇華)する。その結果、ディスプレイの性能を決定づけることとなる、基板上に設けられた回路等に影響を与えることなく、ガラスキャリアからの基板の剥離を選択的に実行可能であると報告されている。
【0079】
本発明に係る剥離層を介して基体に固定された当該樹脂基板の上に、所望の回路を形成し、その後、LLO法を採用すると、該剥離層のみがこの光線を吸収して蒸発(昇華)する。すなわち、該剥離層が犠牲となり(犠牲層として働く)、ガラスキャリアからの基板の剥離を選択的に実行可能となる。本発明の剥離層形成用組成物は、LLO法の適用が可能となる特定波長(例えば308nm)の光線を十分に吸収するという特徴を持つため、LLO法の犠牲層として用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下、合成例、比較合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0081】
[1]化合物の略語
p-PDA:p-フェニレンジアミン
DDE;4,4’-オキシジアニリン
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
BPTP:ビス(4-アミノフェノキシ)テレフタレート
HFBAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン
Bis-F:2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン
BTFDPE:4,4-オキシビス[(3-トリフルオロメチル)ベンゼンアミン]
6FAPB:4,4’-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ビフェニル
FDA:9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン
TPDA:4,4’’’-ジアミノ-p-ターフェニル
a-ODPA:3,4’-オキシジフタル酸無水物
6FDA:4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物
DPDOC:ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸クロリド
PMDA:ピロメリット酸二無水物
CF3-BP-TMA:N,N’-[2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル-4,4’-ジイル]ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボアミド)
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BPTME:p-ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)
MMA:メタクリル酸メチル
MAA:メタクリル酸
HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
CHMI:シクロヘキシルマレイミド
エポリード GT-401:エポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス-(3-シクロヘキセニルメチル)修飾 ε-カプロラクトン、(株)ダイセル製
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
BCS:ブチルセロソルブ
【0082】
[2]重量平均分子量及び分子量分布の測定方法
ポリマーの重量平均分子量(以下Mwと略す)及び分子量分布の測定は、日本分光(株)製GPC装置(カラム:Shodex製 KD801及びKD805;溶離液:ジメチルホルムアミド/LiBr・H2O(29.6mM)/H3PO4(29.6mM)/THF(0.1質量%);流量:1.0mL/分;カラム温度:40℃;Mw:標準ポリスチレン換算値)を用いて行った。
【0083】
[3]ポリマーの合成
以下の方法によって、実施例及び比較例で使用する各種ポリマーを合成した。
なお、得られたポリマー含有反応液からポリマーを単離せず、後述の通りに、反応液を希釈することで、樹脂基板形成用組成物又は剥離層形成用組成物を調製した。
【0084】
<合成例S1 アクリルポリマー(S1)の合成>
MMA7.20g(0.0719mol)、HEMA7.20g(0.0553mol)、CHMI10.8g(0.0603mol)、MAA4.32g(0.0502mol)、AIBN2.46g(0.0150mol)をPGMEA46.9gに溶解し、60~100℃にて20時間反応させることによりアクリル重合体溶液(固形分濃度40質量%)を得た。得られたアクリル重合体のMnは3,800、Mwは7,300であった。
【0085】
<合成例S2 ポリアミック酸(S2)の合成>
p-PDA20.3g(188mmol)とTPDA12.2g(46.9mmol)をNMP617gに溶解し、15℃に冷却後、PMDA50.1g(230mmol)を添加し、窒素雰囲気下、50℃で48時間反応させた。得られたポリマーのMwは82,100、分子量分布は2.7であった。
【0086】
<合成例S3 ポリアミック酸(S3)の合成>
p-PDA3.22g(29.8mmol)をNMP88.2gに溶解させた。得られた溶液にBPDA8.58g(29.2mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは107,300、分子量分布は4.6であった。
【0087】
<合成例L1 ポリアミック酸(L1)の合成>
DDE1.74g(8.70mmol)をNMP14.0gに溶解させた。得られた溶液に、CF3-BP-TMA1.17g(1.74mmol)と6FDA3.09g(6.96mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは19,600、分子量分布2.1であった。
【0088】
<合成例L2 ポリアミック酸(L2)の合成>
HFBAPP2.82g(5.43mmol)をNMP10.5gに溶解させた。得られた溶液に、a-ODPA1.69g(5.43mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは33,800、分子量分布2.0であった。
【0089】
<合成例L3 ポリアミック酸(L3)の合成>
HFBAPP1.62g(3.12mmol)をNMP7.0gに溶解させた。得られた溶液に、6FDA1.38g(3.12mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは56,600、分子量分布1.8であった。
【0090】
<合成例L4 ポリアミック酸(L4)の合成>
BTFDPE1.92g(5.70mmol)をNMP35.6gに溶解させた。得られた溶液に、BPTME2.99g(5.59mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは38,300、分子量分布2.3であった。
【0091】
<合成例L5 ポリアミック酸(L5)の合成>
BPTP1.67g(4.80mmol)をNMP35.8gに溶解させた。得られた溶液に、CF3-BP-TMA3.21g(4.78mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは7,300、分子量分布1.9であった。
【0092】
<合成例L6 ポリアミック酸(L6)の合成>
HFBAPP1.70g(3.3mmol)をNMP17.6gに溶解させた。得られた溶液に、PMDA0.70g(3.2mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは48,300、分子量分布2.6であった。
【0093】
<合成例L7 ポリアミック酸(L7)の合成>
Bis-F1.46g(4.4mmol)をNMP17.6gに溶解させた。得られた溶液に、PMDA0.93g(4.3mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは16,000、分子量分布1.6であった。
【0094】
<合成例L8 ポリアミック酸(L8)の合成>
TFMB2.86g(8.9mmol)をNMP35.2gに溶解させた。得られた溶液に、PMDA1.95g(8.9mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは70,300、分子量分布1.7であった。
【0095】
<合成例L9 ポリアミック酸(L9)の合成>
TFMB1.18g(3.7mmol)とp-PDA0.93g(8.6mmol)をNMP35.2gに溶解させた。得られた溶液に、PMDA2.69g(12.3mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは60,700、分子量分布3.3であった。
【0096】
<合成例L10 ポリアミック酸(L10)の合成>
6FAPB2.16g(5.04mmol)をNMP35.2gに溶解させた。得られた溶液に、BPTME2.64g(4.94mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは87,700、分子量分布3.3であった。
【0097】
<合成例P1 ポリアミド(P1)の合成>
HFBAPP2.34g(4.51mmol)をNMP26.4gに溶解させ、ピリジン0.90g(11.28mmol)を添加した。得られた溶液に、DPDOC1.26g(4.51mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。その後、得られた溶液を純水500mLへ投入した。得られた沈殿物を濾別後、70℃で24時間減圧乾燥し、目的のポリアミドP1を得た。得られたポリマーのMwは88,200、分子量分布1.8であった。
【0098】
<比較合成例HL1 ポリアミック酸(HL1)の合成>
FDA1.56g(4.47mmol)をNMP7.0gに溶解させた。得られた溶液に、BTDA1.44g(4.47mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは67,300、分子量分布2.0であった。
【0099】
<比較合成例HL2 ポリアミック酸(HL2)の合成>
p-PDA0.98g(9.02mmol)をNMP36.0gに溶解させた。得られた溶液に、BTDA3.03g(9.39mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは67,600、分子量分布1.8であった。
【0100】
[4]樹脂基板形成用組成物の調製
以下の方法によって、樹脂基板形成用組成物を調製した。
【0101】
<調製例1 樹脂基板形成用組成物F1>
合成例S1で得られた反応液10gにGT-401 0.61gとPGMEA5.06gを添加し、23℃で24時間撹拌して、樹脂基板形成用組成物F1を調製した。
【0102】
<調製例2 樹脂基板形成用組成物F2>
合成例S2で得られた反応液をそのまま樹脂基板形成用組成物F2として用いた。
【0103】
<調製例3 樹脂基板形成用組成物F3>
合成例S3で得られた反応液をそのまま樹脂基板形成用組成物F3として用いた。
【0104】
<調製例4 樹脂基板形成用組成物F4>
四塩化炭素100gを入れたナスフラスコに、ゼオノア(登録商標)1020R(日本ゼオン(株)製、シクロオレフィンポリマー樹脂)10g及びGT-401 3gを添加した。この溶液を、窒素雰囲気下、24時間攪拌して溶解し、樹脂基板形成用組成物F4を調製した。
【0105】
<調製例5 樹脂基板形成用組成物F5>
四塩化炭素100gを入れたナスフラスコに、ゼオノア(登録商標)1060R(日本ゼオン(株)製、シクロオレフィンポリマー樹脂)10gを添加した。この溶液を、窒素雰囲気下、24時間攪拌して溶解し、樹脂基板形成用組成物F5を調製した。
【0106】
[5]剥離層形成用組成物の調製
[実施例1-1]
合成例L1で得られた反応液に、BCSとNMPを加え、ポリマー濃度が5質量%、BCSが20質量%となるように希釈し、剥離層形成用組成物L1を得た。
【0107】
[実施例1-2~1-10]
合成例L1で得られた反応液の代わりに、それぞれ合成例L2~L10で得られた反応液を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、剥離層形成用組成物L2~L10を得た。
【0108】
[実施例1-11]
合成例P1で得られたポリアミド0.5gに、BCSとNMPを加え溶解させ、ポリマー濃度が5質量%、BCSが20質量%となるように希釈し、剥離層形成用組成物P1を得た。
【0109】
[比較例1-1]
比較合成例HL1で得られた反応液に、BCSとNMPを加え、ポリマー濃度が5質量%、BCSが20質量%となるように希釈し、剥離層形成用組成物HL1を得た。
【0110】
[比較例1-2]
比較合成例HL2で得られた反応液に、BCSとNMPを加え、ポリマー濃度が5質量%、BCSが20質量%となるように希釈し、剥離層形成用組成物HL2を得た。
【0111】
[6]剥離層及び樹脂基板の作製
[実施例2-1]
スピンコータ(条件:回転数3,000rpmで約30秒)を用いて、実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1を、ガラス基体としての100mm×100mmガラス基板(以下同様)の上に塗布した。
そして、得られた塗膜を、ホットプレートを用いて80℃で10分間加熱し、その後、オーブンを用いて、300℃で30分間加熱し、加熱温度を400℃まで昇温(10℃/分)し、更に400℃で30分間加熱し、ガラス基板上に厚さ約0.1μmの剥離層を形成し、剥離層付きガラス基板を得た。なお、昇温の間、ガラス基板をオーブンから取り出すことはせず、オーブン内で加熱した。
【0112】
スピンコータ(条件:回転数500rpmで約10秒)を用いて、ガラス基板上の剥離層(樹脂薄膜)の上に樹脂基板形成用組成物F1を塗布した。そして、得られた塗膜を、ホットプレートを用いて80℃で10分間加熱し、その後、ホットプレートを用いて230℃で30分間加熱し、剥離層上に厚さ約5μmの樹脂基板を形成し、樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。その後、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製UV-2600)を用いて光透過率を測定した結果、樹脂基板は、400nmで80%以上の透過率を示した。
【0113】
[実施例2-2~2-5]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、実施例1-2~1-5で得られた剥離層形成用組成物L2~L5を用いた以外は、実施例2-1と同様の方法で剥離層及び樹脂基板を形成し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付ガラス基板を作製した。
【0114】
[実施例2-6]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、実施例1-6で得られた剥離層形成用組成物L6を用いて、実施例2-1と同様の方法で剥離層を形成し、剥離層付きガラス基板を得た。
【0115】
次に、バーコーター(ギャップ:250μm)を用いて、上記で得られたガラス基板上の剥離層(樹脂薄膜)の上に樹脂基板形成用組成物F2を塗布した。そして、得られた塗膜を、ホットプレートを用いて80℃で30分間加熱し、その後、オーブンを用いて、140℃で30分間加熱し、加熱温度を210℃まで昇温(10℃/分、以下同様)し、210℃で30分間、加熱温度を300℃まで昇温し、300℃で30分間、加熱温度を400℃まで昇温し、400℃で60分間加熱し、剥離層上に厚さ約20μmの樹脂基板を形成し、樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。なお、昇温の間、ガラス基板をオーブンから取り出すことはせず、オーブン内で加熱した。
【0116】
[実施例2-7]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、実施例1-7で得られた剥離層形成用組成物L7を用いて、実施例2-1と同様の方法で剥離層を形成し、剥離層付きガラス基板を得た。
【0117】
次に、バーコーター(ギャップ:250μm)を用いて、上記で得られたガラス基板上の剥離層(樹脂薄膜)の上に樹脂基板形成用組成物F3を塗布した。そして、得られた塗膜を、ホットプレートを用いて80℃で30分間加熱し、その後、オーブンを用いて、140℃で30分間加熱し、加熱温度を210℃まで昇温(2℃/分、以下同様)し、210℃で30分間、加熱温度を300℃まで昇温し、300℃で30分間、加熱温度を400℃まで昇温し、400℃で60分間加熱し、剥離層上に厚さ約20μmの樹脂基板を形成し、樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。なお、昇温の間、ガラス基板をオーブンから取り出すことはせず、オーブン内で加熱した。
【0118】
[実施例2-8]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、実施例1-8で得られた剥離層形成用組成物L8を用いた以外は、実施例2-6と同様の方法で剥離層及び樹脂基板を形成し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付ガラス基板を作製した。
【0119】
[実施例2-9]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、実施例1-8で得られた剥離層形成用組成物L8を用いた以外は、実施例2-7と同様の方法で剥離層及び樹脂基板を形成し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付ガラス基板を作製した。
【0120】
[実施例2-10]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、実施例1-9で得られた剥離層形成用組成物L9を用いた以外は、実施例2-7と同様の方法で剥離層及び樹脂基板を形成し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付ガラス基板を作製した。
【0121】
[実施例2-11]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、実施例1-10で得られた剥離層形成用組成物L10を用いた以外は、実施例2-6と同様の方法で剥離層及び樹脂基板を形成し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付ガラス基板を作製した。
【0122】
[実施例2-12]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、実施例1-10で得られた剥離層形成用組成物L10を用いた以外は、実施例2-7と同様の方法で剥離層及び樹脂基板を形成し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付ガラス基板を作製した。
【0123】
[実施例2-13]
スピンコータ(条件:回転数3,000rpmで約30秒)を用いて、実施例1-11で得られた剥離層形成用組成物P1を、ガラス基体としての100mm×100mmガラス基板の上に塗布した。
そして、得られた塗膜を、ホットプレートを用いて80℃で10分間加熱し、その後、オーブンを用いて、300℃で30分間加熱し、ガラス基板上に厚さ約0.1μmの剥離層を形成し、剥離層付きガラス基板を得た。
【0124】
次いで、実施例2-1と同様の方法で樹脂基板を形成し、樹脂基板・剥離層付ガラス基板を得た。
【0125】
[実施例2-14]
実施例1-8で得られた剥離層形成用組成物L8を用いて、実施例2-1と同様の方法で剥離層を形成し、剥離層付きガラス基板を得た。
その後、すぐにスピンコータ(条件:回転数200rpmで約15秒)を用いて、上記ガラス基板上の剥離層(樹脂薄膜)の上に樹脂基板形成用組成物F4を塗布した。得られた塗膜を、ホットプレートを用いて80℃で2分間加熱し、その後、ホットプレートを用いて230℃で30分間加熱し、剥離層上に厚さ約3μmの樹脂基板を形成し、樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。その後、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製UV-2600)を用いて光透過率を測定した結果、樹脂基板は、400nmで80%以上の透過率を示した。
【0126】
[実施例2-15]
実施例1-8で得られた剥離層形成用組成物L8の代わりに、実施例1-9で得られた剥離層形成用組成物L9を用いた以外は、実施例2-14と同様の方法で、剥離層及び樹脂基板を作製し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。
【0127】
[実施例2-16]
実施例1-8で得られた剥離層形成用組成物L8を用いて、実施例2-1と同様の方法で剥離層を形成し、剥離層付きガラス基板を得た。
その後、すぐにスピンコータ(条件:回転数200rpmで約15秒)を用いて、上記ガラス基板上の剥離層(樹脂薄膜)の上に樹脂基板形成用組成物F5を塗布した。得られた塗膜を、ホットプレートを用いて80℃で2分間加熱し、その後、ホットプレートを用いて230℃で30分間加熱し、剥離層上に厚さ約3μmの樹脂基板を形成し、樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。その後、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製UV-2600)を用いて光透過率を測定した結果、樹脂基板は、400nmで80%以上の透過率を示した。
【0128】
[実施例2-17]
実施例1-8で得られた剥離層形成用組成物L8の代わりに、実施例1-9で得られた剥離層形成用組成物L9を用いた以外は、実施例2-16と同様の方法で、剥離層及び樹脂基板を作製し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。
【0129】
[比較例2-1]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、比較例1-1で得られた剥離層形成用組成物HL1を用いた以外は、実施例2-1と同様の方法で剥離層及び樹脂基板を形成し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付ガラス基板を得た。
【0130】
[比較例2-2]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、比較例1-1で得られた剥離層形成用組成物HL1を用いた以外は、実施例2-7と同様の方法で剥離層及び樹脂基板を形成し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付ガラス基板を得た。
【0131】
[比較例2-3]
実施例1-1で得られた剥離層形成用組成物L1の代わりに、比較例1-2で得られた剥離層形成用組成物HL2を用いた以外は、実施例2-1と同様の方法で剥離層及び樹脂基板を形成し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付ガラス基板を得た。
【0132】
[7]剥離性の評価
上記実施例2-1~2-17及び比較例2-1~2-3で得られた剥離層付きガラス基板について、剥離層とガラス基板との剥離性を、樹脂基板・剥離層付きガラス基板について、剥離層と樹脂基板との剥離性を、下記手法にて確認した。
<樹脂薄膜のクロスカット試験剥離性評価>
実施例2-1~2-17及び比較例2-1~2-3で得られた剥離層付きガラス基板上の剥離層、並びに、樹脂基板・剥離層付きガラス基板上の剥離層及び樹脂基板をクロスカット(縦横2mm間隔、以下同様)し、25マスカットを行った。すなわち、このクロスカットにより、2mm四方のマス目を25個形成した。
そして、この25マスカット部分に粘着テープを張り付けて、そのテープを剥がし、以下の基準(5B~0B,B,A,AA)に基づき、剥離の程度を評価した。
更に、全て剥離した基板のうち、実施例2-14~2-17で作製した樹脂基板・剥離層付きガラス基板を用いて、剥離力評価試験を実施した。試験方法は、樹脂基板・剥離層付きガラス基板の樹脂基板を25mm×50mm幅の長方形に、カッターナイフにて樹脂基板の背面まで貫通するように切り込みを入れ、短冊を作製した。更に、作製した短冊上に、セロテープ(登録商標、ニチバンCT-24)をはった後、オートグラフAG-500N((株)島津製作所製)を用いて、基板の面に対して90度で、すなわち、垂直方向に剥離し、剥離力を測定し、100%剥離(すべて剥離)で、なおかつ剥離力が0.1N/25mm未満のものをAAAとした。
以上の結果を表1に示す。
<判定基準>
5B:0%剥離(剥離なし)
4B:5%未満の剥離
3B:5~15%未満の剥離
2B:15~35%未満の剥離
1B:35~65%未満の剥離
0B:65%~80%未満の剥離
B:80%~95%未満の剥離
A:95%~100%未満の剥離
AA:100%剥離(すべて剥離)
AAA:100%剥離で剥離力が0.1N/25mm未満
【0133】
【0134】
表1に示される通り、実施例2-1~2-17の剥離層は、ガラス基板との密着性に優れており、樹脂膜とは容易にはがれることが確認された。一方、比較例2-1~2-3の剥離層は、ガラス基板との密着性に優れるが、樹脂基板との剥離性に劣っていることが確認された。