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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20220906BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20220906BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20220906BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01L23/30 R
H01L23/12 501P
H01L23/12 501B
H01L21/56 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018555044
(86)(22)【出願日】2017-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2017043841
(87)【国際公開番号】W WO2018105662
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2016238760
(32)【優先日】2016-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】笠原 彩
(72)【発明者】
【氏名】野中 敏央
(72)【発明者】
【氏名】藤本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直也
【審査官】平林 雅行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-201387(JP,A)
【文献】特開2014-197569(JP,A)
【文献】特開平07-007134(JP,A)
【文献】特開2016-092106(JP,A)
【文献】特開2011-032434(JP,A)
【文献】特開2009-054666(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0233754(US,A1)
【文献】米国特許第06154366(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/56
H01L 23/12-23/15
H01L 23/28-23/31
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と該支持体上に設けられた金属箔とを備える支持体付金属箔の前記金属箔上に貼り合わされた、熱硬化性樹脂組成物が含まれる熱硬化性樹脂フィルム上に、能動面を有する半導体素子を1つ以上、前記熱硬化性樹脂フィルムと前記半導体素子の前記能動面とが接するように配置する工程(I)と、
前記熱硬化性樹脂フィルム上に配置された前記半導体素子を半導体封止用部材で封止する工程(II)と、
前記工程(II)の後、前記支持体を除去して、前記金属箔及び前記熱硬化性樹脂フィルム若しくはその硬化物に、前記半導体素子の前記能動面にまで至る開口を設ける工程(III)と、
前記開口に導体を充填する又は前記開口の内側に導体層を形成する工程(IV)と、
を備える、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂フィルムが、熱硬化性樹脂組成物を含む第一の樹脂層と、第二の樹脂層とを含む、複合フィルムであり、
前記工程(I)において、前記第一の樹脂層上に前記半導体素子を配置する、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第一の樹脂層が、官能エポキシ樹脂(A)、活性エステル硬化剤(B)、及びフェノール性水酸基含有ポリブタジエン変性ポリアミド樹脂(C)を含有し、
前記第二の樹脂層が、N-置換マレイミド基を少なくとも2個有するマレイミド化合物(a1)由来の構造単位とジアミン化合物(a2)由来の構造単位とを有するポリイミド化合物(G)、変性ポリブタジエン(H)、及び無機充填材(J)を含有する、請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記工程(IV)の後、
前記金属箔及び前記導体上に配線パターンを形成する工程(V)と、
前記配線パターンが設けられている部分以外の金属箔を除去する工程(VI)と、
前記配線パターン及び前記熱硬化性樹脂フィルムの硬化物上に、前記配線パターンにまで至る第二の開口を有する第2の絶縁層を形成する工程(VII)と、
前記第二の開口に、外部接続用端子を形成する工程(VIII)と、
を更に備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂フィルムの前記半導体素子と接する面の25℃におけるタック力が、5gf以上40gf以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂フィルムの硬化物の5GHzの誘電正接が0.005以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関する。より詳しくは、小型化及び薄型化の要求が高いウェハレベルの半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高機能化に伴って、半導体装置の小型化及び薄型化が進んでいる。近年、半導体装置の軽薄短小化は留まるところを知らず、半導体素子とほぼ同じ大きさのウェハレベルの半導体装置、及び、半導体装置の上に半導体装置を積むパッケージ・オン・パッケージといった実装形態が開発されている。更に今後、半導体装置の小型化及び薄型化が一層進むと予想される。
【0003】
ところで、ウェハレベルの半導体装置は、ウェハ上に再配線層を形成し、はんだボール等の外部接続用端子を設けた後、ダイシングによって個片化することで製造されている。このような方法において、端子数が数10ピンから400ピン程度の場合は、ウェハ上にはんだボールなどの外部接続用端子を設けることが可能である。
【0004】
しかしながら、半導体素子の微細化が進展し、端子数が400ピン以上に増加してくると、ウェハ上のみに再配線層を形成し、外部接続用端子を設けることが難しくなる。無理に外部接続用端子を設けた場合、端子間のピッチが狭くなるとともに、端子高さが低くなり、半導体装置を実装した後の接続信頼性の確保が難しくなる。このため、半導体素子の微細化、つまりは外部接続端子数の増加への対応が求められている。
【0005】
最近では、ウェハを所定サイズに個片化し、再配線することで、半導体素子の外側にも外部接続用端子を設けることができる半導体装置の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3616615号公報
【文献】特開2001-244372号公報
【文献】特開2001-127095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3に記載されている方法は、ウェハ上に再配線するよりも再配線領域を広く確保することができ、半導体素子の多ピン化に対応することが可能となる。
【0008】
しかし、実用性の観点からは半導体実装プロセスを更に簡略化する必要があり、半導体装置の小型化及び薄型化、並びに半導体素子の微細化に十分対応しながらも、効率よく再配線された半導体装置が得られることも重要である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、半導体実装プロセスの簡略化を可能とする半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、熱硬化性樹脂組成物が含まれる熱硬化性樹脂フィルム上に、能動面を有する半導体素子を1つ以上、熱硬化性樹脂フィルムと半導体素子の能動面とが接するように配置する工程(I)と、熱硬化性樹脂フィルム上に配置された半導体素子を半導体封止用部材で封止する工程(II)と、工程(II)の後、熱硬化性樹脂フィルム若しくはその硬化物に、半導体素子の能動面にまで至る開口を設ける工程(III)と、開口に導体を充填する又は開口の内側に導体層を形成する工程(IV)とを備える半導体装置の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、熱硬化性樹脂フィルムが、半導体素子を保持する部材として機能しつつ半導体素子の封止後には絶縁層として機能することができ、再配線までの工程を簡略化することができる。これにより、効率よく再配線された半導体装置を得ることができる。
【0012】
本発明の半導体装置の製造方法において、上記熱硬化性樹脂フィルムが、熱硬化性樹脂組成物を含む第一の樹脂層と第二の樹脂層とを含む複合フィルムであり、上記工程(I)において、第一の樹脂層上に半導体素子を配置することができる。
【0013】
この場合、第一の樹脂層に半導体素子を配置したときに位置ずれが起こりにくい充分なタック力と絶縁層としたときに要求される低反り性、及び導体との接着性に優れた特性とを持たせ、第二の樹脂層に低反り性、配線埋め込み性、配線間の平坦性、及び絶縁性に優れた特性を持たせることが容易となり、信頼性に優れた半導体装置を得ることができる。
【0014】
本発明の半導体装置の製造方法において、上記熱硬化性樹脂フィルムが、支持体と該支持体上に設けられた金属箔とを備える支持体付金属箔の金属箔上に貼り合わされており、上記工程(III)において、工程(II)の後、支持体を除去して、金属箔及び熱硬化性樹脂フィルム若しくはその硬化物に、半導体素子の能動面にまで至る開口を設けることができる。
【0015】
熱硬化性樹脂フィルムが支持体付金属箔に貼り合わされていることにより、寸法安定性が向上し、半導体素子の位置ずれを抑制することが容易となるとともに、金属箔を再配線の形成に利用することができる。これにより、再配線までの工程を一層簡略化することができ、なおかつ半導体実装の精度を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、半導体実装プロセスの簡略化を可能とする半導体装置の製造方法を提供することができる。
【0017】
本発明により得られる半導体装置は、高機能化・多機能化が進むスマートフォン及びタブレット端末等の電子機器に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る半導体装置の製造方法の一例を説明するための模式端面図である。
図2図1の続きを示す模式端面図である。
図3図2の続きを示す模式端面図である。
図4図3の続きを示す模式端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。また、以下で説明する本発明の製造方法は、直径200mm又は300mmの円形のウェハサイズでの製造に限定されるものでなく、例えば1辺が300mm又は600mmを超えるより大面積となる正方形又は長方形の角型サイズにも適用可能である。
【0020】
なお、本明細書においてはX以上でありY以下である数値範囲(X、Yは実数)を「X~Y」と表すことがある。また、本明細書において硬化物とは、半硬化されたものも含まれる。さらに、本明細書において「層」とは、一部が欠けているもの、開口(ビア)又はパターンが形成されているものも含む。
【0021】
図1~4を参照しながら、本実施形態に係る半導体装置の製造方法について説明する。
【0022】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、下記工程(I)、(II)、(III)及び(IV)を備える。
工程(I):熱硬化性樹脂組成物が含まれる熱硬化性樹脂フィルム上に、能動面を有する半導体素子を1つ以上、熱硬化性樹脂フィルムと半導体素子の能動面とが接するように配置する。
工程(II):熱硬化性樹脂フィルム上に配置された半導体素子を半導体封止用部材で封止する。
工程(III):工程(II)の後、熱硬化性樹脂フィルム若しくはその硬化物に、半導体素子の能動面にまで至る開口を設ける。
工程(IV):開口に導体を充填する又は開口の内側に導体層を形成する。
【0023】
工程(I)としては、例えば、上記熱硬化性樹脂フィルムとして、熱硬化性樹脂組成物を含む第一の樹脂層1と第二の樹脂層2とを含む複合フィルム10と、支持体4と該支持体上に設けられた金属箔3とを備える支持体付金属箔20とを、第二の樹脂層2及び金属箔3が接するように貼り合せた積層体を用意し(図1の(a))、この積層体の第一の樹脂層1上に半導体素子5を配置することができる(図1の(b))。
【0024】
熱硬化性樹脂組成物としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド化合物、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂及び硬化剤、必要に応じて硬化促進剤、充填剤を含有させることができる。これらの成分は公知の化合物を用いることができるが、本実施形態においては半導体素子の位置ずれを抑制するためのタック力が得られやすいとの観点から、以下で説明する本実施形態の熱硬化性樹脂組成物(以下、第一の熱硬化性樹脂組成物ともいう)が好ましい。
【0025】
第一の熱硬化性樹脂組成物は、多官能エポキシ樹脂(A)(以下、「成分(A)」ともいう)、活性エステル硬化剤(B)(以下、「成分(B)」ともいう)、及びフェノール性水酸基含有ポリブタジエン変性ポリアミド樹脂(C)(以下、「成分(C)」ともいう)を含有することができる。
【0026】
<多官能エポキシ樹脂(A)>
多官能エポキシ樹脂(A)は、エポキシ基を2個以上有する樹脂であれば、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、キサンテン型エポキシ樹脂等が挙げられる。金属箔又はめっき銅との接着性の観点から、ビフェニル構造を有することが好ましく、ビフェニル構造を有する多官能エポキシ樹脂又はビフェニル構造を有するアラルキルノボラック型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0027】
多官能エポキシ樹脂(A)としては、市販品を用いてもよい。市販されている多官能エポキシ樹脂(A)としては、日本化薬株式会社製「NC-3000H」、「NC-3000L」、「NC-3100」及び「NC-3000」(ビフェニル構造を有するアラルキルノボラック型エポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0028】
多官能エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量としては、特に制限はないが、接着性の観点からは150~450g/molが好ましく、200~400g/molがより好ましく、250~350g/molがさらに好ましい。
【0029】
多官能エポキシ樹脂(A)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
第一の熱硬化性樹脂組成物中の多官能エポキシ樹脂(A)の含有量は、特に限定されないが、第一の熱硬化性樹脂組成物に含まれる固形分100質量部に対して、10~90質量部が好ましく、20~70質量部がより好ましく、30~60質量部がさらに好ましい。多官能エポキシ樹脂(A)の含有量が、10質量部以上であれば、金属箔又はめっき銅とのより良好な接着強度が得られ、90質量部以下であれば、より低い誘電正接が得られる傾向にある。
【0031】
なお、本明細書において、樹脂組成物に含まれる固形分とは、樹脂組成物を構成する成分から揮発性の成分を除外した残分を意味する。
【0032】
<活性エステル硬化剤(B)>
活性エステル硬化剤(B)は、エステル基を1分子中に1個以上有し、エポキシ樹脂の硬化作用を有するものをいう。活性エステル硬化剤(B)としては、特に制限はないが、例えば、脂肪族又は芳香族カルボン酸と脂肪族又は芳香族ヒドロキシ化合物とから得られるエステル化合物等が挙げられる。これらの中でも、脂肪族カルボン酸、脂肪族ヒドロキシ化合物等から得られるエステル化合物は、脂肪族鎖を含むことにより有機溶媒への可溶性及びエポキシ樹脂との相溶性を高くできる傾向にある。また、芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシ化合物等から得られるエステル化合物は、芳香族環を有することで耐熱性を高められる傾向にある。
【0033】
活性エステル硬化剤(B)としては、例えば、フェノールエステル化合物、チオフェノールエステル化合物、N-ヒドロキシアミンエステル化合物、複素環ヒドロキシ化合物のエステル化化合物等が挙げられる。より具体的には、例えば、芳香族カルボン酸とフェノール性水酸基との縮合反応にて得られる芳香族エステルが挙げられ、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルプロパン、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン酸等の芳香環の水素原子の2~4個をカルボキシ基で置換したものから選ばれる芳香族カルボン酸成分と、前記した芳香環の水素原子の1個を水酸基で置換した1価フェノールと芳香環の水素原子の2~4個を水酸基で置換した多価フェノールとの混合物を原材料として、芳香族カルボン酸とフェノール性水酸基との縮合反応にて得られる芳香族エステル等が好ましい。すなわち、上記芳香族カルボン酸成分由来の構造単位と上記1価フェノール由来の構造単位と上記多価フェノール由来の構造単位とを有する芳香族エステルが好ましい。
【0034】
活性エステル硬化剤(B)としては、市販品を用いてもよい。活性エステル硬化剤(B)の市販品としては、例えば、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル化合物として、「EXB9451」、「EXB9460」、「EXB9460S」、「HPC-8000-65T」(DIC株式会社製)、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物として「EXB9416-70BK」(DIC株式会社製)、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル化合物として「DC808」(三菱化学株式会社製)、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル化合物として「YLH1026」(三菱化学株式会社製)等が挙げられる。
【0035】
活性エステル硬化剤(B)のエステル当量は、特に制限はないが、150~400g/molが好ましく、170~300g/molがより好ましく、200~250g/molがさらに好ましい。
【0036】
活性エステル硬化剤(B)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
第一の熱硬化性樹脂組成物中の活性エステル硬化剤(B)の含有量は特に限定されないが、第一の熱硬化性樹脂組成物に含まれる固形分100質量部に対して、10~90質量部が好ましく、20~70質量部がより好ましく、30~60質量部がさらに好ましい。活性エステル硬化剤(B)が、10質量部以上であれば、第一の熱硬化性樹脂組成物の硬化性がより向上し、90質量部以下であれば、より低い誘電正接が得られる傾向にある。
【0038】
第一の熱硬化性樹脂組成物中の活性エステル硬化剤(B)の含有量としては、多官能エポキシ樹脂(A)のエポキシ基に対する、活性エステル硬化剤(B)のエステル基の当量比(エステル基/エポキシ基)が、0.3~1.5となる量が好ましく、0.5~1.3となる量がより好ましく、0.8~1.2となる量がさらに好ましい。活性エステル硬化剤(B)の含有量が前記範囲内であると、金属箔又はめっき銅との接着強度をより高め、且つより低い誘電正接と平滑な表面を得られるため、微細配線を形成する観点から好適である。
【0039】
<フェノール性水酸基含有ポリブタジエン変性ポリアミド樹脂(C)>
成分(C)は、フェノール性水酸基を有するポリブタジエン変性されたポリアミド樹脂であれば、特に制限はないが、ジアミン由来の構造単位と、フェノール性水酸基を含有するジカルボン酸由来の構造単位と、フェノール性水酸基を含有しないジカルボン酸由来の構造単位と、両末端にカルボキシ基を有するポリブタジエン由来の構造単位とを有するものが好ましい。具体的には、下記一般式(i)で表される構造単位、下記一般式(ii)で表される構造単位、及び下記一般式(iii)で表される構造単位を有するものが好ましく挙げられる。
【0040】
【化1】
【0041】
一般式(i)~(iii)中、a、b、c、x、y及びzは、それぞれ平均重合度を示す整数であって、a=2~10、b=0~3、c=3~30、x=1に対しy+z=2~300((y+z)/x)を示し、さらにy=1に対しz≧20(z/y)である。
【0042】
一般式(i)~(iii)中、R’はそれぞれ独立に、芳香族ジアミン又は脂肪族ジアミンに由来する2価の基を示し、一般式(iii)中、R’’は芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又は両末端にカルボキシ基を有するオリゴマーに由来する2価の基を示す。一般式(i)~(iii)中に含まれる複数のR’同士は同一であっても異なっていてもよい。また、zが2以上の整数のとき、複数のR’’同士は同一であっても異なっていてもよい。なお、一般式(i)~(iii)中、R’は、具体的には、後述する芳香族ジアミン又は脂肪族ジアミンに由来する2価の基であり、R’’は、後述する芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又は両末端にカルボキシ基を有するオリゴマーに由来する2価の基であることが好ましい。
【0043】
ジアミンとしては、例えば、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン等が挙げられる。芳香族ジアミンとしては、例えば、ジアミノベンゼン、ジアミノトルエン、ジアミノフェノール、ジアミノジメチルベンゼン、ジアミノメシチレン、ジアミノニトロベンゼン、ジアミノジアゾベンゼン、ジアミノナフタレン、ジアミノビフェニル、ジアミノジメトキシビフェニル、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジメチルジフェニルエーテル、メチレンジアミン、メチレンビス(ジメチルアニリン)、メチレンビス(メトキシアニリン)、メチレンビス(ジメトキシアニリン)、メチレンビス(エチルアニリン)、メチレンビス(ジエチルアニリン)、メチレンビス(エトキシアニリン)、メチレンビス(ジエトキシアニリン)、イソプロピリデンジアニリン、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノジメチルベンゾフェノン、ジアミノアントラキノン、ジアミノジフェニルチオエーテル、ジアミノジメチルジフェニルチオエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルスルホキシド、ジアミノフルオレン等が挙げられる。脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ヒドロキシプロパンジアミン、ブタンジアミン、へプタンジアミン、ヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、アザペンタンジアミン、トリアザウンデカジアミン等が挙げられる。
【0044】
フェノール性水酸基を含有するジカルボン酸としては、例えば、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸、ジヒドロキシイソフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸等が挙げられる。
【0045】
フェノール性水酸基を含有しないジカルボン酸としては、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、両末端にカルボキシ基を有するオリゴマー等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、メチレン二安息香酸、チオ二安息香酸、カルボニル二安息香酸、スルホニル安息香酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0046】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、メチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、りんご酸、酒石酸、(メタ)アクリロイルオキシコハク酸、ジ(メタ)アクリロイルオキシコハク酸、(メタ)アクリロイルオキシりんご酸、(メタ)アクリルアミドコハク酸、(メタ)アクリルアミドりんご酸等が挙げられる。
【0047】
成分(C)の重量平均分子量は、特に制限はないが、例えば、60,000~250,000であることが好ましく、80,000~200,000であることがより好ましい。成分(C)の重量平均分子量は、後述するポリイミド化合物(G)の重量平均分子量と同様の方法により求めることができる。
【0048】
成分(C)の活性水酸基当量は、特に制限はないが、1500~7000g/molが好ましく、2000~6000g/molがより好ましく、3000~5000g/molがさらに好ましい。
【0049】
成分(C)は、例えば、ジアミンと、フェノール性水酸基を含有するジカルボン酸と、フェノール性水酸基を含有しないジカルボン酸と、両末端にカルボキシ基を有するポリブタジエンとを、ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」ともいう)等の有機溶媒中で、触媒として亜リン酸エステルとピリジン誘導体の存在下で反応性させて、カルボキシ基とアミノ基とを重縮合させることにより合成される。製造に使用できる各化合物は、上記したものを例示できる。
【0050】
成分(C)の製造に使用する両末端にカルボキシ基を有するポリブタジエンとしては、例えば、数平均分子量が200~10000であることが好ましく、数平均分子量が500~5000のオリゴマーであることがより好ましい。
【0051】
成分(C)としては、市販品を使用することができ、市販品の成分(C)としては、例えば、日本化薬株式会社製のBPAM-155等が挙げられる。
【0052】
第一の熱硬化性樹脂組成物中の成分(C)の含有量は、特に限定されないが、第一の熱硬化性樹脂組成物に含まれる固形分100質量部に対して、1~20質量部が好ましく、2~15質量部がより好ましく、3~10質量部がさらに好ましい。成分(C)の含有量が、1質量部以上であれば、樹脂組成物の強靭性を高くすることができ、緻密な粗化形状が得られ、金属箔又はめっき銅との接着強度を高めることができる。また、10質量部以下であれば、耐熱性の低下がなく、粗化工程時の薬液に対する耐性の低下も防ぐことができる。また、金属箔又はめっき銅との十分な接着性を確保できる。
【0053】
<リン系硬化促進剤(D)>
第一の熱硬化性樹脂組成物は、更にリン系硬化促進剤(D)を含有することが好ましい。リン系硬化促進剤(D)としては、リン原子を含有し、多官能エポキシ樹脂(A)と活性エステル硬化剤(B)との反応を促進させる硬化促進剤であれば特に制限なく使用することができる。
【0054】
第一の熱硬化性樹脂組成物は、リン系硬化促進剤(D)を含有することによって、硬化反応をより一層十分に進めることができる。この理由は、リン系硬化促進剤(D)を用いることによって、活性エステル硬化剤(B)中のカルボニル基の電子求引性を高めることができ、これにより活性エステル硬化剤(B)と多官能エポキシ樹脂(A)との反応が促進されるためと推察される。
【0055】
このように第一の熱硬化性樹脂組成物は、リン系硬化促進剤(D)を含有することにより、他の硬化促進剤を用いた場合より、多官能エポキシ樹脂(A)と活性エステル硬化剤(B)との硬化反応がより一層十分に進行するため、第二の樹脂層と組み合わせた際に、低い誘電正接が得られると考えられる。
【0056】
リン系硬化促進剤(D)としては、例えば、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等の有機ホスフィン類;有機ホスフィン類と有機ボロン類との錯体;及び第三ホスフィンとキノン類との付加物などが挙げられる。硬化反応がより十分に進み、高い金属箔又はめっき銅との接着性を発揮できる観点から、第三ホスフィンとキノン類との付加物が好ましい。第三ホスフィンとしては、特に限定されないが、例えば、トリノルマルブチルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、ブチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン等が挙げられる。また、キノン類としては、例えば、o-ベンゾキノン、p-ベンゾキノン、ジフェノキノン、1,4-ナフトキノン、アントラキノン等が挙げられる。金属箔又はめっき銅との接着性、耐熱性、及び平滑な表面が得られる点から、例えば、トリノルマルブチルホスフィンとp-ベンゾキノンとの付加物がより好ましい。
【0057】
第三ホスフィンとキノン類との付加物の製造方法としては、例えば、原料となる第三ホスフィンとキノン類がともに溶解する溶媒中で両者を撹拌混合し、付加反応させた後、単離する方法等が挙げられる。この場合の製造条件としては、例えば、第三ホスフィンとキノン類とを、20~80℃の範囲で、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類などの溶媒中で、1~12時間撹拌し、付加反応させることが好ましい。
【0058】
リン系硬化促進剤(D)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、リン系硬化促進剤(D)以外の硬化促進剤を1種以上と併用してもよい。
【0059】
第一の熱硬化性樹脂組成物中のリン系硬化促進剤(D)の含有量は、特に限定されないが、第一の熱硬化性樹脂組成物に含まれる固形分100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.2~5質量部がより好ましく、0.4~2質量部がさらに好ましい。リン系硬化促進剤(D)の含有量が、0.1質量部以上であれば、硬化反応を十分進めることができ、10質量部以下であれば、硬化物の均質性を保つことができる。
【0060】
<充填材(E)>
第一の熱硬化性樹脂組成物は、充填材(E)を含有していてもよい。充填材(E)としては、無機充填材、有機充填材等が挙げられる。充填材(E)を含有することで、第一の樹脂層をレーザー加工する際に樹脂の飛散をより低減できる。
【0061】
無機充填材としては特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム等が挙げられる。
【0062】
無機充填材の粒子径は、第一の樹脂層上に微細配線を形成する観点から、比表面積が、20m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましい。比表面積の上限に特に制限はないが、入手容易性の観点からは、500m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましい。比表面積は、不活性気体の低温低湿物理吸着によるBET法で求めることができる。具体的には、粉体粒子表面に、吸着占有面積が既知の分子を液体窒素温度で吸着させ、その吸着量から粉体粒子の比表面積を求めることができる。
【0063】
比表面積が20m/g以上の無機充填材としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ヒュームドシリカであるAEROSIL R972(日本アエロジル株式会社製、商品名、比表面積110±20m/g)、及びAEROSIL R202(日本アエロジル株式会社製、商品名、比表面積100±20m/g)、コロイダルシリカであるPL-1(扶桑化学工業株式会社製、商品名、比表面積181m/g)、PL-7(扶桑化学工業株式会社製、商品名、比表面積36m/g)等が挙げられる。また、耐湿性を向上させる観点からは、シランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理された無機充填材であることが好ましい。
【0064】
第一の熱硬化性樹脂組成物中の無機充填材の含有量は、第一の熱硬化性樹脂組成物中の樹脂成分の固形分換算100質量部に対して、1~30質量部が好ましく、2~25質量部がより好ましく、3~20質量部がさらに好ましく、5~20質量部が特に好ましい。無機充填材の含有量が、1質量部以上であれば、より良好なレーザー加工性が得られる傾向にあり、30質量部以下であれば、第一の樹脂層と金属箔又はめっき銅との接着性がより向上する傾向にある。
【0065】
有機充填材としては、特に制限はされないが、例えば、アクリロニトリルブタジエンの共重合物として、アクリロニトリルとブタジエンとを共重合した架橋NBR粒子、アクリロニトリルとブタジエンとアクリル酸等のカルボン酸とを共重合したもの、ポリブタジエン、NBR、シリコーンゴムをコアとし、アクリル酸誘導体をシェルとした、いわゆるコア-シェルゴム粒子等が使用可能である。有機充填材を含有することで、樹脂層の伸び性がより向上する。
【0066】
<シアネート樹脂(F)>
第一の熱硬化性樹脂組成物は、シアネート樹脂(F)を含有していてもよい。シアネート樹脂(F)は、特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型等のビスフェノール型シアネート樹脂、フェノールノボラック型、アルキルフェノールノボラック型等のノボラック型シアネート樹脂、ジシクロペンタジエン型シアネート樹脂、及びこれらが一部トリアジン化したプレポリマーなどが挙げられる。これらのシアネート樹脂(F)は単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
シアネート樹脂(F)の重量平均分子量は、特に限定されないが、500~4500が好ましく、600~3000がより好ましい。重量平均分子量が500以上であれば、シアネート樹脂(F)の結晶化が抑制され、有機溶媒に対する溶解性がより良好になる傾向にある。また、重量平均分子量が4500以下であれば、粘度の増大が抑制され、作業性により優れる傾向にある。シアネート樹脂(F)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値から求めることができ、後述するポリイミド化合物(G)の重量平均分子量と同様の方法により求めることができる。
【0068】
第一の熱硬化性樹脂組成物中のシアネート樹脂(F)の含有量は、特に限定されないが、第一の熱硬化性樹脂組成物に含まれる固形分100質量部に対して、20~60質量部が好ましく、30~50質量部がより好ましく、35~45質量部がさらに好ましい。シアネート樹脂(F)の含有量が、第一の熱硬化性樹脂組成物に含まれる固形分100質量部に対して、20質量部以上であれば、より良好な誘電特性、耐熱性、及び低熱膨張性が得られる傾向にあり、60質量部以下であれば、金属箔又はめっき銅との密着性により優れる傾向にある。
【0069】
<その他の成分>
第一の熱硬化性樹脂組成物は、上記各成分の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、並びに難燃剤、酸化防止剤、流動調整剤、硬化促進剤等の添加剤などを含有することができる。
【0070】
第二の樹脂層に用いられる熱硬化性樹脂組成物(以下、第二の熱硬化性樹脂組成物ともいう)は、N-置換マレイミド基を少なくとも2個有するマレイミド化合物(a1)由来の構造単位とジアミン化合物(a2)由来の構造単位とを有するポリイミド化合物(G)(以下、「ポリイミド化合物(G)」又は「成分(G)」ともいう)、変性ポリブタジエン(H)(以下、「成分(H)」ともいう)、及び無機充填材(J)(以下、「成分(J)」ともいう)を含有することができる。
【0071】
<ポリイミド化合物(G)>
ポリイミド化合物(G)は、N-置換マレイミド基を少なくとも2個有するマレイミド化合物(a1)由来の構造単位とジアミン化合物(a2)由来の構造単位とを有するものである。
【0072】
N-置換マレイミド基を少なくとも2個有するマレイミド化合物(a1)(以下、「成分(a1)」ともいう)は、N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物であれば、特に限定されない。成分(a1)としては、例えば、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、ポリフェニルメタンマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0073】
成分(a1)は、安価である点から、ビス(4-マレイミドフェニル)メタンが好ましく、誘電特性に優れ、低吸水性である点から、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミドが好ましく、導体との高接着性、伸び、破断強度等の機械特性に優れる点から、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパンが好ましい。
【0074】
成分(a1)由来の構造単位としては、例えば、下記一般式(1-1)で表される基、下記一般式(1-2)で表される基等が挙げられる。
【0075】
【化2】
【0076】
一般式(1-1)及び(1-2)中、A1は成分(a1)の残基を示し、*は結合部を示す。Aは特に限定されないが、例えば後述するAと同様の残基が好ましい。なお、残基とは、原料成分から結合に供された官能基(成分(a1)においてはマレイミド基)を除いた部分の構造をいう。
【0077】
ポリイミド化合物(G)中における、成分(a1)由来の構造単位の合計含有量は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。好ましい含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。成分(a1)由来の構造単位の含有量を上記範囲内とすることにより、本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物において、より良好な高周波特性、耐熱性、難燃性、及びガラス転移温度が得られる傾向にある。
【0078】
ジアミン化合物(a2)(以下、「成分(a2)」ともいう)は、アミノ基を2個有する化合物であれば、特に制限されない。成分(a2)としては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(1-(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)-1-メチルエチル)ベンゼン、1,4-ビス(1-(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)-1-メチルエチル)ベンゼン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、3,3’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0079】
成分(a2)は、有機溶媒への溶解性、合成時の反応性、及び耐熱性に優れる点から、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、及び4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリンが好ましい。また、成分(a2)は、誘電特性及び低吸水性に優れる観点から、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタンが好ましい。また、成分(a2)は、導体との高接着性、伸び、破断強度等の機械特性に優れる観点から、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパンが好ましい。更に、上記の有機溶媒への溶解性、合成時の反応性、耐熱性、導体との高接着性に優れるのに加えて、優れた高周波特性と低吸湿性を発現できる観点から、成分(a2)は、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリンが好ましい。これらは目的、用途等に合わせて、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0080】
成分(a2)由来の構造単位としては、例えば、下記一般式(2-1)で表される基、下記一般式(2-2)で表される基等が挙げられる。
【0081】
【化3】
【0082】
一般式(2-1)及び(2-2)中、Aは成分(a2)の残基を示し、*は結合部を示す。Aは特に限定されないが、例えば後述するAと同様の残基が好ましい。
【0083】
ポリイミド化合物(G)中における、成分(a2)由来の構造単位の合計含有量は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。好ましい含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。成分(a2)由来の構造単位の含有量を上記範囲内とすることにより、本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物において、より良好な高周波特性、耐熱性、難燃性、及びガラス転移温度が得られる傾向にある。
【0084】
ポリイミド化合物(G)中における成分(a1)由来の構造単位と、成分(a2)由来の構造単位との含有比率は、ポリイミド化合物(G)中における、成分(a2)の-NH基由来の基(-NHも含む)の合計当量(Ta2)と、成分(a1)に由来するマレイミド基由来の基(マレイミド基も含む)の合計当量(Ta1)との当量比(Ta1/Ta2)が、1.0~10.0の範囲であることが好ましく、2.0~10.0の範囲であることがより好ましい。上記範囲内とすることにより、本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物において、より良好な高周波特性、耐熱性、難燃性、及びガラス転移温度が得られる傾向にある。
【0085】
ポリイミド化合物(G)は、有機溶媒への溶解性、高周波特性、導体との高接着性、及びプリプレグの成形性等の点から、下記一般式(3)で表されるポリアミノビスマレイミド化合物を含むことが好ましい。
【0086】
【化4】
[式中、Aは下記一般式(4)、(5)、(6)、又は(7)で表される残基であり、Aは下記一般式(8)で表される残基である。]
【0087】
【化5】
[式中、Rは各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、又はハロゲン原子を示す。]
【0088】
【化6】
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、又はハロゲン原子を示し、A5は炭素数1~5のアルキレン基若しくはアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルフォニル基、カルボオキシ基、ケトン基、単結合、又は下記一般式(5-1)で表される残基である。]
【0089】
【化7】
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、又はハロゲン原子を示し、Aは炭素数1~5のアルキレン基、イソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルフォニル基、カルボオキシ基、ケトン基、又は単結合である。]
【0090】
【化8】
[式中、iは1~10の整数である。]
【0091】
【化9】
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子又は炭素数1~5の脂肪族炭化水素基を示し、jは1~8の整数である。]
【0092】
【化10】
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、炭素数1~5のアルコキシ基、水酸基、又はハロゲン原子を示し、Aは炭素数1~5のアルキレン基若しくはアルキリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルフォニル基、カルボオキシ基、ケトン基、フルオレニレン基、単結合、下記一般式(8-1)、又は下記一般式(8-2)で表される残基である。]
【0093】
【化11】
[式中、R10及びR11は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、又はハロゲン原子を示し、Aは炭素数1~5のアルキレン基、イソプロピリデン基、m-又はp-フェニレンジイソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルフォニル基、カルボオキシ基、ケトン基、又は単結合である。]
【0094】
【化12】
[式中、R12は各々独立に、水素原子、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基、又はハロゲン原子を示し、A及びA10は炭素数1~5のアルキレン基、イソプロピリデン基、エーテル基、スルフィド基、スルフォニル基、カルボオキシ基、ケトン基、又は単結合である。]
【0095】
ポリイミド化合物(G)は、例えば、成分(a1)と成分(a2)とを有機溶媒中で反応させることで製造できる。ポリイミド化合物(G)を製造する際に使用される有機溶媒は特に制限はなく、公知の溶媒を使用できる。有機溶媒は、後述する熱硬化性樹脂フィルム用ワニスの製造に用いられる有機溶媒であってもよい。
【0096】
ポリイミド化合物(G)を製造する際の成分(a1)と成分(a2)の使用量は、成分(a2)の-NH基当量(Ta2’)と、成分(a1)のマレイミド基当量(Ta1’)との当量比(Ta1’/Ta2’)が1.0~10.0の範囲になるように配合することが好ましく、2.0~10.0の範囲になるように配合することがより好ましい。上記範囲内で成分(a1)と成分(a2)を配合することにより、本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物において、より良好な高周波特性、耐熱性、難燃性、及びガラス転移温度が得られる傾向にある。
【0097】
成分(a1)と成分(a2)とを反応させてポリイミド化合物(G)を製造する際には、反応触媒を必要に応じて使用することもできる。反応触媒としては制限されないが、例えば、p-トルエンスルホン酸等の酸性触媒;トリエチルアミン、ピリジン、トリブチルアミン等のアミン類;メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;トリフェニルホスフィン等のリン系触媒などが挙げられる。これらは単独又は2種類以上を混合して用いてもよい。また、反応触媒の配合量は特に限定されないが、例えば、成分(a1)及び成分(a2)の合計量100質量部に対して、0.01~5.0質量部の範囲で使用することができる。
【0098】
成分(a1)、成分(a2)、必要によりその他の成分を合成釜に所定量仕込み、成分(a1)と成分(a2)とをマイケル付加反応させることによりポリイミド化合物(G)が得られる。この工程での反応条件としては、特に限定されないが、例えば、反応速度等の作業性、ゲル化抑制などの観点から、反応温度は50~160℃が好ましく、反応時間は1~10時間が好ましい。また、この工程では前述の有機溶媒を追加又は濃縮して反応原料の固形分濃度、溶液粘度を調整することができる。反応原料の固形分濃度は、特に制限はないが、例えば、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましい。反応原料の固形分濃度が10質量%以上の場合、反応速度が遅くなりすぎず、製造コストの面で有利である。また、反応原料の固形分濃度が90質量%以下の場合、より良好な溶解性が得られ、攪拌効率が良く、またゲル化することも少ない。なお、ポリイミド化合物(G)の製造後に、目的に合わせて有機溶媒の一部又は全部を除去して濃縮してもよく、有機溶媒を追加して希釈してもよい。追加で使用される有機溶媒としては、ポリイミド化合物(G)の製造工程で例示した有機溶媒が適用できる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。また、使用する有機溶媒は、溶解性の観点から、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0099】
ポリイミド化合物(G)の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、800~1500の範囲が好ましく、800~1300の範囲がより好ましく、800~1100の範囲がさらに好ましい。ポリイミド化合物(G)の重量平均分子量は、GPCにより、標準ポリスチレンを用いた検量線から換算する方法により求めることができる。検量線は、標準ポリスチレン:TSKstandard POLYSTYRENE(Type;A-2500、A-5000、F-1、F-2、F-4、F-10、F-20、F-40)[東ソー株式会社製、商品名]を用いて3次式で近似することができる。GPCの条件は、以下に示す条件とすることができる。
装置:(ポンプ:L-6200型[株式会社日立ハイテクノロジーズ製])
(検出器:L-3300型RI[株式会社日立ハイテクノロジーズ製])
(カラムオーブン:L-655A-52[株式会社日立ハイテクノロジーズ製])
カラム:ガードカラム;TSK Guardcolumn HHR-L + カラム;TSK gel-G4000HHR+TSK gel-G2000HHR(すべて東ソー株式会社製、商品名)
カラムサイズ:6.0×40mm(ガードカラム)、7.8×300mm(カラム)
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:30mg/5mL
注入量:20μL
流量:1.00mL/分
測定温度:40℃
【0100】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物中におけるポリイミド化合物(G)の含有量は、特に限定されないが、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物中に含まれる全樹脂成分の合計質量中、50~95質量%が好ましく、60~90質量%がより好ましく、70~85質量%がさらに好ましい。ポリイミド化合物(G)の含有量を前記範囲内とすることにより、誘電正接がより低くなる傾向にある。
【0101】
<変性ポリブタジエン(H)>
本実施形態において、変性ポリブタジエン(H)は、化学変性されているポリブタジエンであれば、特に限定されない。変性ポリブタジエン(H)を用いると、得られる絶縁層において、無機充填材(J)と樹脂成分との分離、光沢ムラ等を低減できる。
【0102】
本明細書において、化学変性されているポリブタジエンとは、分子中の側鎖の1,2-ビニル基及び/又は末端の両方若しくは片方が、酸無水物化、エポキシ化、グリコール化、フェノール化、マレイン化、(メタ)アクリル化、ウレタン化等の化学変性されたものを指す。
【0103】
変性ポリブタジエン(H)は、側鎖に1,2-ビニル基を有する1,2-ブタジエン単位を分子中に含有するものが好ましく、前記1,2-ブタジエン単位を40質量%以上含有するものがより好ましい。より誘電正接が低い熱硬化性樹脂組成物を得る観点から、変性ポリブタジエン(H)は酸無水物で変性されているポリブタジエンが好ましい。酸無水物としては限定されないが、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸、無水ジメチルグルタル酸、無水ジエチルグルタル酸、無水コハク酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられ、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸のいずれかであることが好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0104】
変性ポリブタジエン(H)が酸無水物で変性されている場合、変性ポリブタジエン(H)1分子中に含まれる酸無水物由来の基(以下、「酸無水物基」ともいう)の数は、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、2~5がさらに好ましい。酸無水物基の数が1分子中に1以上であると、絶縁層を形成した際の無機充填材(J)と樹脂成分との分離がより抑制される傾向にある。また、酸無水物基の数が1分子中に10以下であると、得られる熱硬化性樹脂組成物の誘電正接がより低くなる傾向にある。すなわち、変性ポリブタジエン(H)が無水マレイン酸で変性されている場合、上記と同様の観点から、変性ポリブタジエン(H)1分子中に含まれる無水マレイン酸由来の基(以下、「無水マレイン酸基」ともいう)の数は、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、2~5がさらに好ましい。
【0105】
また、変性ポリブタジエン(H)の重量平均分子量は、500~25000であることが好ましく、1000~20000であることがより好ましく、2000~13000であることがさらに好ましく、3000~10000であることが特に好ましい。変性ポリブタジエン(H)の重量平均分子量が500以上の場合、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化性及び硬化物としたときの誘電特性がより良好となる傾向にある。また、変性ポリブタジエン(H)の重量平均分子量が25000以下である場合、得られる絶縁層において、無機充填材(J)と樹脂成分との分離及び光沢ムラがより抑制される傾向にある。なお、変性ポリブタジエン(H)の重量平均分子量は、上述したポリイミド化合物(G)の重量平均分子量の測定方法が適用できる。
【0106】
本実施形態に用いる変性ポリブタジエン(H)としては、市販品を用いてもよい。変性ポリブタジエン(H)の市販品としては、例えば、Ricon130MA8、Ricon131MA5、Ricon184MA6(クレイバレー社製、商品名)、POLYVEST MA75、POLYVEST EP MA120(エボニック社製、商品名)等が挙げられる。
【0107】
本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物中における変性ポリブタジエン(H)の含有量は、特に制限はないが、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物中に含まれる全樹脂成分の合計質量中、1~50質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましく、10~30質量%がさらに好ましい。変性ポリブタジエン(H)の含有量を前記範囲内とすることにより、樹脂分離及び光沢ムラをより少なくすることができる傾向にある。
【0108】
本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物中におけるポリイミド化合物(G)及び変性ポリブタジエン(H)の合計含有量は、特に制限はないが、本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物中に含まれる全樹脂成分の合計質量中、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。含有量の上限は特に限定されず、100%であってもよい。
【0109】
本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物中におけるポリイミド化合物(G)及び変性ポリブタジエン(H)の合計含有量は、特に制限はないが、本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物の合計質量中、20~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましく、35~70質量%がさらに好ましい。
【0110】
<無機充填材(J)>
無機充填材(J)としては、特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム等が挙げられる。得られる絶縁層をより低熱膨張化できる観点から、成分(J)は、シリカが好ましい。
【0111】
成分(J)の体積平均粒径は、特に限定されないが、例えば、0.05~5μmが好ましく、0.1~3μmがより好ましく、0.2~1μmがさらに好ましい。成分(J)の体積平均粒径が5μm以下であれば、絶縁層上に配線パターンを形成する際にファインパターンの形成をより安定的に行える傾向にある。また、成分(J)の体積平均粒径が0.1μm以上であれば、耐熱性がより良好となる傾向にある。なお、体積平均粒径とは、粒子の全体積を100%として、粒子径による累積度数分布曲線を求めたときの体積50%に相当する点の粒径のことであり、レーザー回折散乱法を用いた粒度分布測定装置等で測定できる。
【0112】
また、成分(J)の分散性及び成分(J)と熱硬化性樹脂組成物中の有機成分との接着性を向上させる目的で、必要に応じ、カップリング剤を併用してもよい。カップリング剤としては特に限定されず、例えば、各種のシランカップリング剤、チタネートカップリング剤等を用いることができる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。また、その使用量も特に限定されず、例えば、使用する成分(J)100質量部に対して0.1~5質量部が好ましく、0.5~3質量部がより好ましい。この範囲であれば、成分(J)の使用による特長をより効果的に発揮できる。
【0113】
カップリング剤を用いる場合、その添加方式は、本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物中に成分(J)を配合した後、カップリング剤を添加する、いわゆるインテグラルブレンド処理方式であってもよいが、より効果的に成分(J)の特長を発現させる観点から、予め無機充填材にカップリング剤を乾式又は湿式で表面処理した無機充填材を使用する方式であってもよい。
【0114】
成分(J)の熱硬化性樹脂組成物への分散性の観点から、必要に応じ、成分(J)を予め有機溶媒中に分散させたスラリーとして用いることが好ましい。成分(J)をスラリー化する際に使用される有機溶媒は特に制限はないが、例えば、上述したポリイミド化合物(G)の製造工程で例示した有機溶媒が適用できる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。また、これらの有機溶媒の中でも、より高い分散性の観点から、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンが好ましい。また、成分(J)のスラリーの不揮発分濃度は特に制限はないが、例えば、無機充填材(J)の沈降性及び分散性の観点から、50~80質量%が好ましく、60~80質量%がより好ましい。
【0115】
成分(J)の含有量は、例えば、熱硬化性樹脂組成物の樹脂成分の固形分換算100質量部に対して、40~300質量部が好ましく、60~200質量部がより好ましく、80~150質量部がさらに好ましい。
【0116】
本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、難燃剤、硬化促進剤等を含有してもよい。本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に難燃剤を含有させることで、より良好な難燃性を付与することができる。難燃剤としては特に限定されず、例えば、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、金属水和物系難燃剤等が挙げられる。環境への適合性からは、リン系難燃剤又は金属水和物系難燃剤が好ましい。
【0117】
本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物に適切な硬化促進剤を含有させることで、熱硬化性樹脂組成物の硬化性を向上させ、絶縁層の誘電特性、耐熱性、高弾性率性、ガラス転移温度等をより向上させることができる。硬化促進剤としては、特に限定されず、例えば、各種イミダゾール化合物及びその誘導体;各種第3級アミン化合物、各種第4級アンモニウム化合物、トリフェニルホスフィン等の各種リン系化合物などが挙げられる。
【0118】
本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物には、その他にも酸化防止剤、流動調整剤等の添加剤を含有させてもよい。
【0119】
図1に示される本実施形態に係る半導体装置の製造方法においては、熱硬化性樹脂フィルムとして、上述した本実施形態の第一の熱硬化性樹脂組成物を含む第一の樹脂層と、上述した本実施形態の第二の熱硬化性樹脂組成物を含む第二の樹脂層とを含む複合フィルムを用いている。なお、第一の樹脂層と第二の絶縁層との間には、明確な界面が存在せず、例えば、第一の樹脂層の構成成分の一部と、第二の絶縁層の構成成分の一部とが、相溶及び/又は混合した状態であってもよい。
【0120】
<第一の樹脂層>
第一の樹脂層は、本実施形態の第一の熱硬化性樹脂組成物を含むものである。第一の樹脂層を設けることにより、例えば、本実施形態の複合フィルムを用いて半導体装置を製造する場合において、タック性を向上させやすくなる。
【0121】
<第二の樹脂層>
第二の樹脂層は、本実施形態に係る半導体装置の製造において、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を含む第一の樹脂層の硬化物と、金属箔3との間に位置し、金属箔3との接着性を向上させることができる。第二の樹脂層は、半導体素子の能動面側に再配線を形成するときの絶縁層となり、スルーホール、ビアホール等の開口が設けられ、それらの中に導体が充填される又はそれらの内側に導体層が形成されるという役割も果たす。
【0122】
支持体付金属箔20に代えて支持体のみを用いた場合には、第二の樹脂層上に、再配線のために無電解銅めっき処理などによりシード層を設けることができるが、このときのシード層ともより良好な接着強度が得られる。
【0123】
本実施形態の複合フィルムは、更に、第一の樹脂層の第二の樹脂層とは反対側の面に、支持体が設けられていてもよい。支持体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィンのフィルム;ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ともいう)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルのフィルム;ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム等の各種プラスチックフィルムなどが挙げられる。また、銅箔、アルミニウム箔等の金属箔、離型紙などを使用してもよい。支持体及び後述する保護フィルムには、マット処理、コロナ処理等の表面処理が施してあってもよい。また、支持体及び後述する保護フィルムには、シリコーン樹脂系離型剤、アルキッド樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤等による離型処理が施してあってもよい。支持体の厚さは特に限定されないが、10~150μmが好ましく、25~50μmがより好ましい。
【0124】
本実施形態の複合フィルムは、例えば、上記支持体の上に第一の樹脂層を形成し、その上に第二の樹脂層を形成する方法により製造することができる。
【0125】
第一の樹脂層の形成には、前述の第一の熱硬化性樹脂組成物又は熱硬化性樹脂フィルム用ワニス(ここでは、「第一の樹脂層用ワニス」ともいう)を用いることができる。
【0126】
なお、 本明細書において「ワニス」とは「有機溶媒を含有する樹脂組成物」と組成的に同義である。
【0127】
ワニスを製造するのに用いられる有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類;セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒などを挙げることができる。これらの有機溶媒は単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0128】
有機溶媒の配合量は、第一の樹脂層用ワニスの全質量100質量部に対して、10~60質量部が好ましく、10~35質量部がより好ましい。
【0129】
第二の樹脂層の形成には、第二の熱硬化性樹脂組成物又は第二の熱硬化性樹脂組成物を有機溶媒に溶解又は分散した樹脂ワニス(以下、「第二の樹脂層用ワニス」ともいう)を用いることが好ましい。第二の樹脂層用ワニスの製造方法、第二の樹脂層用ワニスの製造に用いる有機溶媒は、熱硬化性樹脂フィルム用ワニスと同様である。
【0130】
有機溶媒の配合量は、第二の樹脂層用ワニスの全質量100質量部に対して、70~95質量部が好ましく、80~90質量部がさらに好ましい。
【0131】
第一の樹脂層用ワニスを、支持体に塗工した後、加熱乾燥させ、更にその上に第二の樹脂層用ワニスを塗工した後、加熱乾燥させることにより、複合フィルムを形成することができる。第一の樹脂層及び第二の樹脂層を逆の順序で設けることもできる。
【0132】
第一の樹脂層用ワニス又は第二の樹脂層用ワニスの塗工方法としては、例えば、コンマコーター、バーコーター、キスコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター等の塗工装置を用いることができる。これらの塗工装置は、膜厚によって、適宜選択することが好ましい。ワニスを塗工した後の乾燥条件としては特に限定されないが、例えば、30~60質量%の有機溶媒を含む樹脂用ワニスの場合、50~150℃で3~10分程度乾燥させることにより、樹脂層を好適に形成することができる。乾燥後の樹脂層中の揮発成分(主に有機溶媒)の含有量が、10質量%以下となるように乾燥させることが好ましく、6質量%以下となるように乾燥させることがより好ましい。
【0133】
本実施形態の複合フィルムにおいて形成される第一の樹脂層の厚さは、半導体素子の能動面の凹凸を埋め込む場合、これら凹凸の高さ以上であることが好ましい。具体的には、第一の樹脂層の厚さは、1~10μmであることが好ましく、2~5μmであることがより好ましい。また、高周波特性及び微細配線形成の観点から、第二の樹脂層の厚さは、5~40μmであることが好ましく、10~30μmであることが好ましい。
【0134】
支持体上に形成された複合フィルムの、支持体とは反対側の面(第二の樹脂層の第一の樹脂層が設けられていない面)には、保護フィルムを設けてもよい。保護フィルムの厚さは、特に限定されないが、例えば、1~40μmである。保護フィルムを積層することにより、複合フィルムの表面へのゴミ等の付着及びキズ付きを防止することができる。複合フィルムは、ロール状に巻き取って保管することができる。
【0135】
本実施形態の複合フィルムは、半導体素子と接する面(第一の樹脂層の第二の樹脂層が設けられていない面)の25℃におけるタック力が、半導体素子の位置ずれを防止する観点から、5gf以上40gf以下であることが好ましい。また、同様の観点から、40℃におけるタック強度が20gf以上100gf以下であることが好ましい。タック力は、レスカ株式会社製プローブタッキング試験機を用いて、JISZ0237-1991に記載の方法(プローブ直径5.1mm、引き剥がし速度10mm/s、接触荷重100gf/cm、接触時間1s)により測定することができる。
【0136】
半導体素子を配置するときに複合フィルムが硬化している場合には、半導体素子と接する硬化物の面が上記タック力を有していることが好ましい。本実施形態においては、複合フィルム10と支持体付金属箔20とを貼り合わせるときに加熱することができる。
【0137】
本実施形態の複合フィルムの硬化物は、5GHzの誘電正接が0.005以下であることが好ましい。なお、5GHzの誘電正接は、5GHzにおいて得られる共振周波数と無負荷Q値から算出できる。測定温度は25℃である。誘電正接の測定装置としては、例えばベクトル39型ネットワークアナライザ(Keysight TechnologiesInc.社製、商品名:E8364B)、5GHz共振器を用い、プログラムとしてCPMA-V2を用いることができる。
【0138】
本実施形態の複合フィルムの硬化物は、導体層との接着の観点から、導体層が設けられる面(第二の樹脂層の第一の樹脂層が設けられていない面)のピール強度が0.2kN/m以上であることが好ましく、0.3kN/m以上であることがより好ましく、0.4kN/m以上であることがさらに好ましい。ピール強度の上限は特にないが、例えば1.2kN/mとすることができる。なお、ピール強度は、接着強度測定部の導体層の一端を、導体層と絶縁層との界面で剥がしてつかみ具でつかみ、小型卓上試験機(株式会社島津製作所製、商品名:EZT Test)を用いて、垂直方向に引っ張り速度50mm/分により測定することができる。
【0139】
本実施形態の複合フィルムの硬化物は、微細配線形成の観点から、導体層が設けられる面(第二の樹脂層の第一の樹脂層が設けられていない面)の表面粗さRaが250nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、180nm以下であることがさらに好ましい。表面粗さの下限値は特にないが、ピール強度をより高める観点から、1nm以上であることが好ましい。なお、表面粗さは、比接触式表面粗さ計(ブルカーエイエックスエス株式会社製、商品名:wykoNT9100)を用い、内部レンズ1倍、外部レンズ50倍を用いて測定したときの算術平均粗さ(Ra)を指す。
【0140】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法においては、熱硬化性樹脂フィルムとして上記複合フィルムを用いているが、熱硬化性樹脂組成物を含む単層の熱硬化性樹脂フィルムを用いることもできる。
【0141】
単層の熱硬化性樹脂フィルムに含まれる熱硬化性樹脂組成物としては、例えば、熱硬化性樹脂及び硬化剤、必要に応じて硬化促進剤、充填剤を含有させることができる。これらの成分は公知の化合物を用いることができるが、本実施形態においては半導体素子の位置ずれを抑制するためのタック力が得られやすいとの観点から、上述した第一の熱硬化性樹脂組成物が好ましい。
【0142】
単層の熱硬化性樹脂フィルムは、上述した複合フィルムの作製方法と同様にして、樹脂ワニスを支持体に塗工した後、加熱乾燥させることにより得ることができる。また、複合フィルムと同様に保護フィルムを設けることができる。
【0143】
単層の熱硬化性樹脂フィルムは、半導体素子と接する面のタック力、硬化物の5GHzの誘電正接、及び導体層が設けられる面のピール強度、導体層が設けられる面の表面粗さRaが、上述した複合フィルムにおける好ましい条件と同様にすることができる。
【0144】
単層の熱硬化性樹脂フィルムの厚さは、基板の薄型化の観点から、5~40μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましい。
【0145】
支持体付金属箔20を構成する支持体4としては、例えば、繊維を含む樹脂基材等が挙げられる。MCL-E-679FG(日立化成株式会社製、商品名)等の市販品を用いることができる。具体的には、ガラス布-エポキシ樹脂、紙-フェノール樹脂、紙-エポキシ樹脂、ガラス紙-エポキシ樹脂等を使用することができる。繊維を含む樹脂基材である上記MCL-E-679FG等は、ガラス及び金属に比べて軽い、割れにくい等の点で取り扱い性に優れている。
【0146】
金属箔3としては特に限定されないが、例えば、銅箔、ステンレス箔、金箔、銀箔、アルミ箔、ニッケル箔等が挙げられる。
【0147】
支持体付金属箔20は、支持体がキャリア箔付基材であってもよい。この場合、金属箔3を残して、支持体を除去することが容易となる。このような支持体付金属箔は、MCL-E-705-GL-N3DX(日立化成株式会社製、商品名)等の市販品を用いることができる。
【0148】
複合フィルム10と支持体付金属箔20との積層体は、支持体付金属箔の金属箔上に、複合フィルムをラミネートすることにより作製することができる。ラミネートする装置としては、例えば、真空ラミネーターが挙げられる。真空ラミネーターとしては市販品を用いることができ、市販品の真空ラミネーターとしては、例えば、ニチゴー・モートン株式会社製のバキュームアップリケーター、株式会社名機製作所製の真空加圧式ラミネーター、日立インダストリーズ株式会社製のロール式ドライコーター、日立エーアイシー株式会社製の真空ラミネーター等が挙げられる。
【0149】
ラミネートにおいて、複合フィルムが保護フィルムを有している場合には、保護フィルムを除去した後、複合フィルムを加圧及び/又は加熱しながら支持体付金属箔に圧着する。
【0150】
ラミネートの条件は、複合フィルム及び支持体付金属箔を必要に応じてプレヒートし、圧着温度(ラミネート温度)を60~140℃、圧着圧力を0.1~1.1mPa(9.8×10~107.9×10N/m)、空気圧20mmHg(26.7hPa)以下の減圧下でラミネートしてもよい。また、ラミネートの方法は、バッチ式であっても、ロールでの連続式であってもよい。
【0151】
複合フィルムに代えて単層の熱硬化性樹脂フィルムを用いる場合も同様にラミネートすることができる。また、支持体付金属箔に代えて剥離性の支持体を用いる場合も同様にラミネートすることができる。
【0152】
半導体素子5としては、特に限定されず、公知のものを用いることができ、本実施形態においては、例えば、厚みが400μm以下の半導体素子を用いることができる。また、支持体上に固定する半導体素子の数は2以上とすることができ、樹脂充填性の観点から、半導体素子間に隙間を設けることが好ましい。
【0153】
本実施形態に係る工程(II)では、複合フィルム10の第一の樹脂層1上に配置された半導体素子5を半導体封止用部材6で封止する(図1の(c))。
【0154】
工程(II)としては、例えば、CEL-1702HF13(日立化成株式会社製、商品名)等の半導体封止用部材を用意し、半導体素子5の受動面側を覆うように配置し、これらを公知の真空ラミネーター、ロールラミネーター、又はプレス機等を用いて貼り合わせることにより、半導体素子5を封止する半導体封止用部材から形成される封止層を設ける。
【0155】
このときの封止温度は、好ましくは50~140℃であり、より好ましくは70~100℃である。封止温度をこのような範囲に設定することにより、半導体素子を充分に樹脂で埋め込むことができるとともに、封止後に半導体素子を上記部材で封止することにより得られる構成物から支持体4をはく離することが難しくなることを防止することができる。
【0156】
封止時間は、好ましくは10~300秒であり、より好ましくは30~120秒である。封止時間をこのような範囲に設定することにより、半導体素子を充分に樹脂で埋め込むことができるとともに、生産性の低下及びコストの上昇を抑制することができる。
【0157】
封止圧力は、好ましくは0.2~2.0MPaであり、より好ましくは0.2~1.0MPaである。封止圧力をこのような範囲に設定することにより、半導体素子を充分に樹脂で埋め込むことができるとともに、半導体素子5の受動面上に充分な厚みの封止層を形成することができる。
【0158】
本実施形態においては、所定の温度及び時間で封止層の後硬化を行うことができる。後硬化温度は特に限定するものではないが、好ましくは120~200℃であり、より好ましくは150~180℃である。後硬化時間についても特に限定するものではないが、好ましくは15~180分であり、より好ましくは30~120分である。
【0159】
本実施形態においては上記の封止工程の際に複合フィルムを硬化させることができる。
【0160】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法では、工程(III)の前に支持体4が除去される。
【0161】
工程(III)では、複合フィルムの硬化物7に半導体素子の能動面にまで至る開口8を設ける(図2の(b))。開口は、ドリル、レーザー、プラズマ、又はこれらの組み合わせ等の方法により、穴あけを行って形成することができる。レーザーとしては、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、UVレーザー、エキシマレーザー等が一般的に用いられる。
【0162】
開口はアルカリ処理によっても設けることができる。アルカリ処理で使用するアルカリ処理液は特に限定されるものではなく、デスミア処理液又はレジストはく離液等を用いることができる。開口径に応じて、pHを調整することもできる。デスミア処理は、例えば、過マンガン酸ナトリウム液、水酸化ナトリウム液、過マンガン酸カリウム液、クロム液、硫酸等の混合液に被処理基板を浸漬することによって実施できる。具体的には、熱湯又は所定の膨潤液を用いて被処理基板を膨潤処理した後、過マンガン酸ナトリウム液等で残渣等を除去し、還元(中和)を行った後、水洗、湯洗、乾燥を行う。1回の処理を行っても充分な粗化及び残渣除去の効果が得られない場合は複数回処理を行ってもよい。なお、デスミア処理は上記のものに限定されない。また、デスミア処理後に、再度、熱硬化性樹脂組成物の熱硬化を行ってもよい。再度の熱硬化は、用いる熱硬化性樹脂によっても効果は異なるが、熱硬化を充分に行い、未反応物を減少させること、ガラス転移温度を上げることができるだけでなく、低熱膨張化を図ることができるからである。
【0163】
本実施形態では、支持体付金属箔20を用いることにより、複合フィルムの硬化物7の半導体素子5とは反対側の面上に金属箔3が導電層として設けられているが、支持体のみを用いた場合には、複合フィルムの硬化物7に半導体素子の能動面にまで至る開口を設けた後に、シード層を形成することができる。
【0164】
シード層の形成は、無電解銅めっき法、スパッタ法を用いることができる。シード層は、銅を蒸着する前にTiを蒸着する等、形成層を種々選択することができる。
【0165】
本実施形態では工程(IV)として開口8に導体9を充填する(図3の(a))。なお、開口の内側に導体層を形成してもよい。
【0166】
上記の加工は、例えば、公知のフィルドビア加工により行うことができる。
【0167】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法では、工程(IV)の後、再配線を行うことができる。再配線は、例えば、下記の工程を経て設けることができる。
工程(V):金属箔3’及び導体9上に配線パターン12を形成する(図4の(a))。
工程(VI):配線パターン12が設けられている以外の部分(金属箔3’)を除去する(図4の(b))。
工程(VII):配線パターン12及び複合フィルムの硬化物(第1の絶縁層)7上に、上記配線パターンにまで至る開口を有する第2の絶縁層を形成する。
工程(VIII):上記開口に、外部接続用端子を形成する。
【0168】
工程(V)は、例えば、以下の工程により行うことができる。
【0169】
まず、金属箔3’上に回路形成用レジストをラミネートし、次いで、マスクパターンを通して活性光線を照射して回路形成用レジストの所定部分を露光し、露光部の回路形成用レジストを光硬化させる露光処理、及び未露光部を除去するための現像処理を施すことにより、再配線用のレジストパターン11を形成する(図3の(b))。
【0170】
活性光線の光源としては、公知の光源を用いることができるが、例えば、カーボンアーク灯、水銀蒸気アーク灯、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノンランプ等の紫外線を有効に放射するものを使用できる。また、直接描画方式のダイレクトレーザ露光を用いてもよい。露光量は使用する装置及び回路形成用レジストの組成によって異なるが、好ましくは10~600mJ/cmであり、より好ましくは20~400mJ/cmである。露光量が10mJ/cm以上であると光硬化が不充分となることが少なく、他方、600mJ/cm以下であると光硬化が過剰となることが少なく、レジストパターン11の開口形状を安定して得ることができる傾向にある。回路形成用レジストは液状、フィルム状のいずれも用いることができる。液状の場合は、印刷機を用いて塗布することができる。フィルム状の場合はロールラミネータ又は真空ラミネータを用いて貼り付けることができる。
【0171】
露光部以外の回路形成用レジストを除去するために用いる現像液としては、例えば、20~50℃の炭酸ナトリウムの希薄溶液(1~5質量%水溶液)等のアルカリ現像液が用いられる。現像は、スプレー、揺動浸漬、ブラッシング及びスクラッビング等の公知の方法により行うことができる。
【0172】
次いで、電気めっき法により、金属箔3’上に銅の配線パターン12を形成する(図3の(c))。配線パターン12は、1~20μmの厚みを有することが好ましい。電気めっき法以外の公知の方法により、配線パターン12を形成してもよい。
【0173】
次いで、はく離液により、レジストパターン11をはく離し除去する(図4の(a))。はく離液としては、特に限定されず公知のものを用いることができ、例えば、炭酸ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を用いることができる。
【0174】
工程(VI)としては、例えば、エッチング液により、複合フィルムの硬化物(第1の絶縁層)7表面上で露出している金属箔3’を除去する工程(図4の(b))が挙げられる。エッチング液としては、特に限定されず公知のものを用いることができ、市販されており一般に入手可能なエッチング液を用いることができる。
【0175】
工程(VII)としては、例えば、複合フィルムの硬化物(第1の絶縁層)7及び配線パターン12上に熱硬化性樹脂組成物からなる絶縁層を形成し、アルカリ処理を施すことにより、配線パターン12にまで至る開口を有する第2の絶縁層13を設ける工程(図4の(c))が挙げられる。
【0176】
第2の絶縁層の形成方法及びアルカリ処理については以下の方法が挙げられる。熱硬化性樹脂組成物が液状、もしくは溶剤で樹脂を溶解したワニスの場合は、塗布する工程及び半硬化もしくは乾燥する工程を経ることで第2の絶縁層を形成できる。塗布する工程では、コータを用いて塗布、もしくは印刷法を用いて塗布できる。コータの方式は、特に限定されるものではなく、ダイ、コンマ、ディップ、スピン等が使用できる。硬化もしくは乾燥する工程では、ホットプレート又は乾燥炉を用いることができる。熱硬化性樹脂組成物がフィルムの場合は、公知の真空ラミネーター、ロールラミネーター、プレス機等により貼り合わせる工程を経ることで第1の絶縁層7’及び配線パターン12上に第2の絶縁層を形成できる。熱硬化性樹脂組成物がフィルムの場合、貼り合わせ工程におけるラミネーターの圧力、温度、時間は特に限定するものではないが、空気のかみこみ等が生じない条件を選択することが好ましい。
【0177】
アルカリ処理で使用するアルカリ処理液は特に限定されるものではなく、デスミア処理液又はレジストはく離液等を用いることができる。開口径に応じて、pHを調整することもできる。デスミア処理は、例えば、過マンガン酸ナトリウム液、水酸化ナトリウム液、過マンガン酸カリウム液、クロム液、硫酸等の混合液に被処理基板を浸漬することによって実施できる。具体的には、熱湯又は所定の膨潤液を用いて被処理基板を膨潤処理した後、過マンガン酸ナトリウム液等で残渣等を除去し、還元(中和)を行った後、水洗、湯洗、乾燥を行う。1回の処理を行っても充分な粗化及び残渣除去の効果が得られない場合は複数回処理を行ってもよい。なお、デスミア処理は上記のものに限定されない。また、デスミア処理後に、再度、熱硬化性樹脂組成物の熱硬化を行ってもよい。再度の熱硬化は、用いる熱硬化性樹脂によっても効果は異なるが、熱硬化を充分に行い、未反応物を減少させること、ガラス転移温度を上げることができるだけでなく、低熱膨張化を図ることができるからである。
【0178】
第2の絶縁層は、上述した本実施形態に係る複合フィルムを用いて形成してもよい。本実施形態の複合フィルムを用いる場合、第1の絶縁層上に、第一の樹脂層が最外層に位置するように貼り合わせることが好ましい。本実施形態に係る第一の樹脂層を用いることにより、平滑な表面が得られ、且つ、めっきにて形成される導体層ともより良好な接着強度が得られる。そのため、第一の絶縁層を最外層に位置させることにより、第2の絶縁層の外側(第1の絶縁層が形成されていない側)に回路層を形成する際に微細な回路とすることができる。
【0179】
工程(VIII)は、第2の絶縁層に設けた開口から露出した配線パターン12上に無電解ニッケルめっき及び金めっきを行う工程を含むことができる。めっき厚みは特に限定されるものではないが、ニッケルめっき厚は1~10μm、金めっき厚は0.1μm~0.5μm程度が好ましい。
【0180】
上記工程の後、第2の絶縁層の開口部に外接続用端子としての導電材料を形成することができる。導電材料は、特に限定されるものではないが、環境保全の観点から、Sn-Ag系及びSn-Ag-Cu系のはんだを使用することが好ましい。回路形成用レジストを用いて、Cuポストを形成しても構わない。
【0181】
本実施形態においては、工程(VIII)の後、ダイサーを用いてダイシング個片化することで、図4の(d)に示す外接続用端子14が設けられた半導体装置100を得ることができる。
【0182】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法において、熱硬化性樹脂フィルムを硬化する時期及び程度は適宜変更することができ、例えば、下記の加熱工程の1つ又は2つ以上の組み合わせが挙げられる。
i)熱硬化性樹脂フィルムの状態での加熱
ii)支持体と貼り合わせるときの加熱
iii)半導体素子の封止時の加熱
iv)半導体素子の封止後、支持体を除去する前の加熱
v)第2の絶縁層の形成時の加熱
vi)めっきによる配線形成後の加熱
【0183】
本実施形態においては、熱硬化性樹脂フィルムを全硬化するための加熱工程を設けることもできる。
【0184】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、小型化及び薄型化が進むウェハレベルの半導体装置の製造方法として特に好適である。また、本実施形態の方法で得られる半導体装置は、高機能化・多機能化が進むスマートフォン、タブレット端末、ウェアラブル端末等の電子機器に好適である。
【符号の説明】
【0185】
1…第一の樹脂層、2…第二の樹脂層、3,3’,3’’…金属箔、4…支持体、5…半導体素子、6,6’…封止材、7,7’,7’’…複合フィルムの硬化物(第1の絶縁層)、8…開口、9…導体、10…複合フィルム、20…支持体付金属箔、11…レジストパターン、12…配線パターン、13,13’…開口を有する第2の絶縁層、14…外部接続用端子、100…半導体装置。
図1
図2
図3
図4