(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】樹脂フィルムの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 48/92 20190101AFI20220906BHJP
B65H 23/02 20060101ALI20220906BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20220906BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20220906BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20220906BHJP
B29C 48/25 20190101ALI20220906BHJP
B29K 45/00 20060101ALN20220906BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20220906BHJP
【FI】
B29C48/92
B65H23/02
B29C48/08
B29C48/305
B29C48/88
B29C48/25
B29K45:00
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2019051496
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 賢
(72)【発明者】
【氏名】植村 宣行
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-134768(JP,A)
【文献】特開2004-255695(JP,A)
【文献】特開平11-20004(JP,A)
【文献】特開昭57-166533(JP,A)
【文献】特開2015-187629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00 - 48/96
B65H 23/00 - 23/16
B65H 23/24 - 23/34
B65H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の熱可塑性樹脂を、キャストロールの周面に押し出して、溶融フィルムを得る第一工程と、
前記溶融フィルムの幅方向の少なくとも一部分に、前記溶融フィルムと前記キャストロールの前記周面とを接触させるピニング処理を施す第二工程と、
前記ピニング処理を施された前記溶融フィルムを、前記キャストロールの周面で冷却して、樹脂フィルムを得る第三工程と、
前記ピニング処理を施された前記部分において、前記樹脂フィルムの光学特性を測定する第四工程と、
測定された前記光学特性に基づいて、前記ピニング処理の処理条件を調整する第五工程と、を含む、樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記光学特性が、前記樹脂フィルムの幅方向に対する配向角であり、
前記第五工程において、前記配向角が70°以上の閾値以上となるように、前記ピニング処理の処理条件が調整される、請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記光学特性が、前記樹脂フィルムの面内レターデーションであり、
前記第五工程において、前記面内レターデーションが10nm以上の閾値以上となるように、前記ピニング処理の処理条件が調整される、請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第四工程において、前記樹脂フィルムの光学特性の測定が、偏光カメラを用いて行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ピニング処理が、前記溶融フィルムに電荷を付与することを含む静電ピニング処理であり、
前記第五工程が、前記溶融フィルムに電荷を付与するためのピニング電圧を調整することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ピニング処理が、前記溶融フィルムにエアを吹き付けることを含むエアピニング処理であり、
前記第五工程が、前記溶融フィルムに吹き付けるエア圧を調整することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ピニング処理が、前記溶融フィルムを押圧具で前記キャストロールの前記周面に押し付けることを含むタッチピニング処理であり、
前記第五工程が、前記押圧具が前記溶融フィルムを押し付けるタッチ圧を調整することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記溶融フィルムの前記ピニング処理を施される前記部分が、前記溶融フィルムの幅方向の両端部にある、請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記樹脂フィルムが、光学フィルムである、請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂が、非晶性樹脂である、請求項1~9のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押し出して溶融フィルムを形成しうる押出機と、
前記溶融フィルムを受けうる周面を有するキャストロールと、
前記溶融フィルムの幅方向の少なくとも一部分に、前記溶融フィルムと前記キャストロールの前記周面とを接触させるピニング処理を施しうるピニング装置と、
前記ピニング処理を施された前記溶融フィルムが冷却して得られる樹脂フィルムの光学特性を、前記ピニング処理を施された前記部分において測定しうる、センサと、
測定された前記光学特性に基づいて、前記ピニング処理の処理条件を調整しうる制御部と、を備える、樹脂フィルムの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融押出法による樹脂フィルムの製造方法では、一般に、溶融状態の熱可塑性樹脂をダイスからキャストロールの周面に押し出し、硬化させて、樹脂フィルムを得る(特許文献1~5)。通常、溶融状態の熱可塑性樹脂は、ダイスから、フィルム状に押し出される。この溶融状態の熱可塑性樹脂で形成されたフィルムを、以下「溶融フィルム」ということがある。
【0003】
溶融フィルムは、一般に、冷却時に収縮応力を生じ、幅方向に縮もうとする。このように溶融フィルムが幅方向に縮もうとする現象を、「ネックイン」ということがある。このネックインを抑制するため、従来から、溶融フィルムの幅方向の両端部をキャストロールの周面に接触させるためのピニング処理を行うことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-218814号公報
【文献】特開2008-238554号公報
【文献】特開2009-116339号公報
【文献】特許第5752897号公報
【文献】特許第4964805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ピニング処理は、溶融フィルムとキャストロールの周面とを接触させる処理であり、例えば、静電ピニング処理、エアピニング処理、タッチピニング処理などが挙げられる。これらのピニング処理は、いずれも、溶融フィルムをキャストロールの周面に適切な密着力で密着させて、当該溶融フィルムのピニング処理が施された部分を幅方向に移動しないように拘束する。
【0006】
ピニング処理によって与えられる溶融フィルムとキャストロールの周面との間の密着力が不足すると、溶融フィルムのピニング処理を施されたフィルム端部の一部又は全部の拘束が解除されることがある。このような拘束の解除があると、フィルム端部における拘束力が不足したり、フィルム両端部の拘束力が不均一になったりすることがある。そして、その結果、斜行、蛇行等のフィルム搬送不具合が生じたり、フィルムの破断を生じたりすることがある。ここで、フィルムの「斜行」とは、フィルムがMD方向に対して非平行な方向に走行することを表す。また、フィルムの「蛇行」とは、フィルムの幅方向の位置を変動させながら当該フィルムが走行することを表す。さらに、溶融フィルムに与えられる「拘束力」とは、ピニング処理を施された溶融フィルムの部分を、幅方向に移動させないようにキャストロールの周面に固定しようとする力を表す。
【0007】
前記のようなフィルム搬送不具合又は破断が頻発すると、得られる樹脂フィルムの変形部分又は破損部分の面積が大きくなるので、最終的に得られる製品の量は、減る。よって、樹脂得率を高めるためには、溶融フィルムとキャストロールの周面との間の密着力を十分に大きくできるようにピニング処理を実施することが望まれる。ここで、「樹脂得率」とは、樹脂フィルムの製造に用いられた樹脂量に対する、製品として得られた樹脂フィルムの量の比率を表す。しかし、密着力を適切に調整することは、難しい。例えば、静電ピニング処理では、ピニング針の位置及び角度によって密着力は容易に変動する。また、キャストロールの周面に汚れがあると、当該汚れによっても密着力は容易に変動する。
【0008】
前記のような密着力の変動分も含めて充分に大きな密着力が得られるように、ピニング処理の処理条件を強く設定することも、考えられる。しかし、過大な密着力が与えられる条件でのピニング処理では、溶融フィルムの破損又は面状不具合を生じる可能性がある。例えば、静電ピニング処理では、大きな密着力を得るためにピニング電圧の大きさを過大にすると、ピニング針とキャストロールとの間にスパークが生じ、そのスパークによって溶融フィルムが破損する可能性がある。このような破損の可能性は、材料として帯電を生じる傾向が小さい樹脂を用いる場合、特に大きな課題になる。なぜならば、そのような樹脂を用いる場合、要求される密着力を得るための電圧と、不所望なスパークが発生する電圧との差が特に小さくなり、したがって許容されるピニング電圧の範囲が特に狭くなるからである。また、例えば、エアピニング処理及びタッチピニング処理では、大きな密着力を得るためにエア圧又はタッチ圧を過大にすると、当該エア圧及びタッチ圧によって溶融フィルムに厚みの乱れ及び光学特性の乱れ等の面状不具合が生じる可能性がある。
【0009】
このような事情から、ピニング処理の条件は、従来、高い樹脂得率を達成できるように人間が経験に基づいて調整することが通常であった。しかし、このような調整には手間及び時間を要する。例えば、静電ピニング処理では、ピニング電圧;ピニング針の位置及び角度;キャストロールの周面の状態(汚れなど);溶融フィルムの厚み;湿度等の環境条件;など、多数の要素が拘束力に影響しうるので、調整には多大な手間及び時間を要する。よって、高い樹脂得率で樹脂フィルムを簡単に製造できる新たな技術が求められる。
【0010】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、高い樹脂得率で樹脂フィルムを簡単に製造できる、樹脂フィルムの製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、ピニング処理によって与えられる拘束力の大きさを、配向角θ及び面内レターデーションRe等の光学特性によって反映することができることを見い出した。そして、この光学特性に基づいてピニング条件を適切にフィードバック制御することにより、前記の課題を解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0012】
〔1〕 溶融状態の熱可塑性樹脂を、キャストロールの周面に押し出して、溶融フィルムを得る第一工程と、
前記溶融フィルムの幅方向の少なくとも一部分に、前記溶融フィルムと前記キャストロールの前記周面とを接触させるピニング処理を施す第二工程と、
前記ピニング処理を施された前記溶融フィルムを、前記キャストロールの周面で冷却して、樹脂フィルムを得る第三工程と、
前記ピニング処理を施された前記部分において、前記樹脂フィルムの光学特性を測定する第四工程と、
測定された前記光学特性に基づいて、前記ピニング処理の処理条件を調整する第五工程と、を含む、樹脂フィルムの製造方法。
〔2〕 前記光学特性が、前記樹脂フィルムの幅方向に対する配向角であり、
前記第五工程において、前記配向角が70°以上の閾値以上となるように、前記ピニング処理の処理条件が調整される、〔1〕に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔3〕 前記光学特性が、前記樹脂フィルムの面内レターデーションであり、
前記第五工程において、前記面内レターデーションが10nm以上の閾値以上となるように、前記ピニング処理の処理条件が調整される、〔1〕に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔4〕 前記第四工程において、前記樹脂フィルムの光学特性の測定が、偏光カメラを用いて行われる、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔5〕 前記ピニング処理が、前記溶融フィルムに電荷を付与することを含む静電ピニング処理であり、
前記第五工程が、前記溶融フィルムに電荷を付与するためのピニング電圧を調整することを含む、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔6〕 前記ピニング処理が、前記溶融フィルムにエアを吹き付けることを含むエアピニング処理であり、
前記第五工程が、前記溶融フィルムに吹き付けるエア圧を調整することを含む、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔7〕 前記ピニング処理が、前記溶融フィルムを押圧具で前記キャストロールの前記周面に押し付けることを含むタッチピニング処理であり、
前記第五工程が、前記押圧具が前記溶融フィルムを押し付けるタッチ圧を調整することを含む、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔8〕 前記溶融フィルムの前記ピニング処理を施される前記部分が、前記溶融フィルムの幅方向の両端部にある、〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔9〕 前記樹脂フィルムが、光学フィルムである、〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔10〕 前記熱可塑性樹脂が、非晶性樹脂である、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
〔11〕 溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押し出して溶融フィルムを形成しうる押出機と、
前記溶融フィルムを受けうる周面を有するキャストロールと、
前記溶融フィルムの幅方向の少なくとも一部分に、前記溶融フィルムと前記キャストロールの前記周面とを接触させるピニング処理を施しうるピニング装置と、
前記ピニング処理を施された前記溶融フィルムが冷却して得られる樹脂フィルムの光学特性を、前記ピニング処理を施された前記部分において測定しうる、センサと、
測定された前記光学特性に基づいて、前記ピニング処理の処理条件を調整しうる制御部と、を備える、樹脂フィルムの製造装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い樹脂得率で樹脂フィルムを簡単に製造できる、樹脂フィルムの製造方法及び製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置が備える制御部の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、一例に係る溶融フィルムのフィルム端部の近傍を模式的に示す平面図である。
【
図5】
図5は、別の一例に係る溶融フィルムのフィルム端部の近傍を模式的に示す平面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法の第五工程においてS側制御部が実行する制御手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す側面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置が備える制御部の構成を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法の第五工程においてS側制御部が実行する制御手順を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、本発明の第三実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す側面図である。
【
図12】
図12は、本発明の第三実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す斜視図である。
【
図13】
図13は、本発明の第三実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置が備える制御部の構成を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、本発明の第三実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法の第五工程においてS側制御部が実行する制御手順を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、本発明の第四実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す側面図である。
【
図16】
図16は、本発明の第四実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す斜視図である。
【
図17】
図17は、本発明の第四実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置が備える制御部の構成を示すブロック図である。
【
図18】
図18は、本発明の第四実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法の第五工程においてS側制御部が実行する制御手順を示すフローチャートである。
【
図19】
図19は、本発明の第五実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す側面図である。
【
図20】
図20は、本発明の第五実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す斜視図である。
【
図21】
図21は、本発明の第五実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置が備える制御部の構成を示すブロック図である。
【
図22】
図22は、本発明の第五実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法の第五工程においてS側制御部が実行する制御手順を示すフローチャートである。
【
図23】
図23は、本発明の第六実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す側面図である。
【
図24】
図24は、本発明の第六実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置を模式的に示す斜視図である。
【
図25】
図25は、本発明の第六実施形態に係る樹脂フィルムの製造装置が備える制御部の構成を示すブロック図である。
【
図26】
図26は、本発明の第六実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法の第五工程においてS側制御部が実行する制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0016】
以下の説明において、フィルム搬送路を搬送される溶融フィルム及び樹脂フィルムといったフィルムの幅方向の一側を「S側」と呼び、他側を「K側」と呼ぶことがある。
【0017】
以下の説明において、MD方向(machine direction)は、製造ラインにおけるフィルムの流れ方向であり、TD方向(traverse direction)は、フィルム面に平行な方向であって、MD方向に垂直な方向である。
【0018】
以下の説明において、フィルムの面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。ここで、nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0019】
以下の説明において、固有複屈折値が正の樹脂とは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも大きくなる樹脂を意味する。また、固有複屈折値が負の樹脂とは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも小さくなる樹脂を意味する。固有複屈折値は、誘電率分布から計算しうる。
【0020】
[1.第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置100を模式的に示す側面図である。
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係る製造装置100は、押出機110と、キャストロール120と、ピニング装置としてのピニング針130S及び130Kと、センサとしての偏光カメラ140S及び140Kと、制御部150と、を備える。また、製造装置100は、必要に応じて、フィルム搬送用の搬送ロール160を備えうる。
【0021】
押出機110は、溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押し出して、溶融状態の熱可塑性樹脂で形成されたフィルムとしての溶融フィルム20を形成しうるように設けられる。通常、押出機110は、スリット状の吐出口(図示せず。)を形成されたダイ111を備える。このダイ111は、吐出口から溶融状態の熱可塑性樹脂を押し出して、連続的に溶融フィルム20を形成できるように設けられる。
【0022】
キャストロール120は、溶融フィルム20を受けうる周面121を有する部材であり、通常は、ダイ111に対向して設けられる。キャストロール120は、軸122(
図2参照)を中心として周方向に回転可能に設けられる。そして、このキャストロール120の回転により、溶融フィルム20がキャストロール120の周面121上のフィルム搬送路に沿って搬送され、同時に、溶融フィルム20が冷却されうるように設けられる。
【0023】
通常、キャストロール120の周面121で受けられた溶融フィルム20は、搬送時にはキャストロール120によって当該キャストロール120の周方向に引っ張られる。引っ張られた溶融フィルム20は、キャストロール120の周速度に応じた程度に延伸されて、厚みを調整される。したがって、キャストロール120の周速度は、製造したい樹脂フィルム10の厚みに応じて設定することが望ましい。具体的な周速度の範囲は、例えば、30m/分以上、150m/分以下でありうる。
【0024】
キャストロール120の周面121に沿って搬送される期間中、溶融フィルム20の熱は、一部は周囲の空気中にも放熱されうるが、大部分はキャストロール120へ伝達され、それによって溶融フィルム20の冷却が進行する。よって、キャストロール120の周面121の温度は、溶融フィルム20の冷却を適切に進行させられるように、適切な範囲に設定することが望ましい。周面121の具体的な温度範囲は、例えば、「Tg-80℃」以上、Tg以下でありうる。ここで、Tgとは、熱可塑性樹脂のガラス転移温度を表す。
【0025】
前記のキャストロール120としては、例えば、直径300mm~1200mmのロール状の部材を用いうる。通常、キャストロール120には、上述した適切な周速度で回転できるように、図示しない回転駆動装置が接続される。また、キャストロール120の温度を前記のような適切な温度に維持するため、キャストロール120内に、水等の冷媒が流通できる流路が形成されていてもよい。
【0026】
図2は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置100を模式的に示す斜視図である。ただし、
図2では、制御部150の図示は省略する。
図2に示すように、製造装置100は、溶融フィルム20の幅方向の少なくとも一部分にピニング処理を施しうるピニング装置として、ピニング針130S及び130Kを備える。
【0027】
通常、溶融フィルム20とキャストロール120の周面121とを接触させるピニング処理を施される部分としてのピニング処理部分は、溶融フィルム20の幅方向の両端部30S及び30Kに設定される。すなわち、溶融フィルム20のS側の縁20Sの近傍にある所定の幅WSの部分としてのフィルム端部30S、及び、溶融フィルム20のK側の縁20Kの近傍にある所定の幅WKの部分としてのフィルム端部30Kが、溶融フィルム20のピニング処理部分として設定される。
【0028】
通常、ピニング処理部分としてのフィルム端部30S及び30Kからは、所望の特性が得られないので、それらのフィルム端部30S及び30Kを樹脂フィルム10の製品に含めることが難しい。よって、製品として得られる面積を広くして高い樹脂得率を達成する観点では、フィルム端部30S及び30Kの幅WS及びWKは、小さいことが好ましい。具体的には、溶融フィルムの全幅Wを100%とした場合、フィルム端部30S及び30Kの幅WS及びWKは、それぞれ、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%以下、特に好ましくは2.0%以下である。他方、フィルム端部30S及び30Kにおける拘束力を十分に大きくして高い樹脂得率を達成する観点では、溶融フィルムの全幅Wを100%とした場合のフィルム端部30S及び30Kの幅WS及びWKは、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.5%以上、特に好ましくは1.0%以上である。フィルム端部30Sの幅WSとフィルム端部30Kの幅WKとは、異なっていてもよいが、両方のフィルム端部30S及び30Kでの拘束力を均一にする観点では、同じであることが好ましい。
本実施形態では、溶融フィルム20のS側の縁20Sからの距離が0[mm]~WSの部分が、S側のピニング処理部分としてのフィルム端部30Sであり、且つ、溶融フィルム20のK側の縁20Kからの距離が0[mm]~WKの部分が、K側のピニング処理部分としてのフィルム端部30Kである例を示して、説明する。
【0029】
S側のピニング針130Sは、溶融フィルム20の一方のフィルム端部30Sに電荷を付与できるように設けられる。他方、K側のピニング針130Kは、溶融フィルム20の他方のフィルム端部30Kに電荷を付与できるように設けられる。これらのピニング針130S及び130Kは、MD方向においては、押出機110から供給される溶融フィルム20がキャストロール120の周面121に受けられる地点のなるべく近くに設けられることが好ましい。これにより、ネックインの影響を効果的に排除したり、キャストロールによる動力を溶融フィルム20により多く伝達して円滑なフィルム搬送を達成したりできる。または、ピニング針130S及び130Kは、MD方向において、キャストロール120の周面121に受けられる以前の溶融フィルム20に電荷を付与できるように設けてもよい。
【0030】
ピニング針130S及び130Kには、図示しない電源が接続され、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kに電荷を付与するためのピニング電圧が前記の電圧から印加されうるように設けられている。具体的には、ピニング針130S及び130Kは、電源から印加されるピニング電圧の大きさに応じた量の電荷を溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kに付与できるように設けられる。また、ピニング針130S及び130Kは、制御部150に接続され、ピニング針130S及び130Kに印加されるピニング電圧の大きさが、制御部150によって制御されるように設けられている。ここで、ピニング電圧の大きさとは、ピニング電圧の絶対値を表す。
【0031】
偏光カメラ140S及び140Kは、ピニング処理を施された溶融フィルム20が冷却されて得られる樹脂フィルム10の光学特性を、フィルム端部30S及び30Kにおいて測定できるように設けられる。偏光カメラ140S及び140Kは、通常、製造装置100のフィルム搬送路において、キャストロール120よりも下流に設けられる。本実施形態では、偏光カメラ140S及び140Kが、樹脂フィルム10の光学特性として配向角θを測定できるように設けられた例を示して説明する。
【0032】
配向角θは、樹脂フィルム10に含まれる重合体分子の配向方向が、当該樹脂フィルム10の幅方向に対してなす角を表す。熱可塑性樹脂の固有複屈折値が正である場合、前記の配向角θは、通常、樹脂フィルム10の遅相軸が幅方向に対してなす角を表す。他方、熱可塑性樹脂の固有複屈折値が負である場合、前記の配向角θは、通常、樹脂フィルム10の進相軸が幅方向に対してなす角を表す。
【0033】
具体的には、S側の偏光カメラ140Sは、S側のフィルム端部30Sにおいて樹脂フィルム10の配向角θを測定できるように設けられている。偏光カメラ140Sは、フィルム端部30S内の1つの測定点のみで配向角θを測定してもよいが、より正確なフィードバック制御によって更に高い樹脂得率を達成する観点から、フィルム端部30S内の幅方向の複数の測定点で配向角θを測定することが好ましい。
【0034】
他方、K側の偏光カメラ140Kは、K側のフィルム端部30Kにおいて樹脂フィルム10の配向角θを測定できるように設けられている。偏光カメラ140Kは、フィルム端部30K内の1つの測定点のみで配向角θを測定してもよいが、より正確なフィードバック制御によって更に高い樹脂得率を達成する観点から、フィルム端部30K内の幅方向の複数の測定点で配向角θを測定することが好ましい。
【0035】
偏光カメラ140S及び140Kは、制御部150に接続され、測定された各測定点での配向角θの情報を制御部150に送りうるように設けられている。
【0036】
図3は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置100が備える制御部150の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、制御部150は、偏光カメラ140S及び140Kで測定された配向角θに基づいて、ピニング針130S及び130Kによるピニング処理の処理条件を調整しうる制御装置である。この制御部150は、S側の偏光カメラ140Sで測定された配向角θに基づいてピニング針130Sによるピニング処理の処理条件を調整するためのS側制御部150Sと、K側の偏光カメラ140Kで測定された配向角θに基づいてピニング針130Kによるピニング処理の処理条件を調整するためのK側制御部150Kと、を備える。
【0037】
S側制御部150Sは、偏光カメラ140Sから送られてくる配向角θの情報を取り込むための情報取込部151Sと;取り込まれた配向角θの情報に、閾値未満の値が含まれるか否かを判定するための情報判定部152Sと;配向角θの情報に閾値未満の値が含まれると判定された場合に、ピニング針130Sに印加されるピニング電圧の大きさを大きくするように調整するピニング条件調整部153Sと;を備える。
【0038】
K側制御部150Kは、偏光カメラ140Kから送られてくる配向角θの情報を取り込むための情報取込部151Kと;取り込まれた配向角θの情報に、閾値未満の値が含まれるか否かを判定するための情報判定部152Kと;配向角θの情報に閾値未満の値が含まれると判定された場合に、ピニング針130Kに印加されるピニング電圧の大きさを大きくするように調整するピニング条件調整部153Kと;を備える。
【0039】
前記の制御部150のハードウェア構成に制限はない。制御部150は、例えば、CPU等のプロセッサ、RAM及びROM等のメモリ、入出力端子等のインターフェースなどで構成されるコンピュータでありえる。このコンピュータは、予めメモリ等の記録装置に記録された制御内容に従って、制御を行うように設けうる。
【0040】
本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置100は、以上のように設けられている。この製造装置100を用いた樹脂フィルム10の製造方法は、
溶融状態の熱可塑性樹脂を、キャストロール120の周面121に押し出して、溶融フィルム20を得る第一工程と、
溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kにピニング処理を施す第二工程と、
ピニング処理を施された溶融フィルム20を、キャストロール120の周面121で冷却して、樹脂フィルム10を得る第三工程と、
ピニング処理を施されたフィルム端部30S及び30Kにおいて、樹脂フィルム10の光学特性としての配向角θを測定する第四工程と、
測定された配向角θに基づいて、ピニング処理の処理条件を調整する第五工程と、を含む。
【0041】
以下、この製造方法を具体的に説明する。
第一工程では、溶融状態の熱可塑性樹脂が、押出機110の吐出口からフィルム状に押し出され、これにより、溶融フィルム20が連続的に形成される。押し出される熱可塑性樹脂の温度は、通常はTgより高い温度である。具体的な温度範囲は、好ましくはTg+80℃以上、より好ましくはTg+100℃以上であり、好ましくはTg+180℃以下、より好ましくはTg+150℃以下である。この第一工程において、単独の種類の熱可塑性樹脂を押し出して単層構造を有する溶融フィルム20を形成してもよく、種類の異なる複数の熱可塑性樹脂を共押し出しして複層構造を有する溶融フィルム20を形成してもよい。形成された溶融フィルム20は、キャストロール120の周面に連続的に導かれる。
【0042】
第二工程では、前記のように形成された溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kに、ピニング処理を施す。本実施形態では、ピニング針130S及び130Kにピニング電圧を印加することにより、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kに電荷を付与することを含む静電ピニング処理を行う。これにより、電荷を帯びたフィルム端部30S及び30Kとキャストロール120との間には静電気力が働くので、フィルム端部30S及び30Kがキャストロール120の周面121に接触させられる。この際、前記接触の密着力は、通常、フィルム端部30S及び30Kに付与される電荷の大きさに依存し、よってピニング針130S及び130Kに印加されるピニング電圧の大きさに依存する。十分に大きい密着力でキャストロール120の周面121に接触した部分では、溶融フィルム20はキャストロール120の周面121に拘束され、幅方向への移動が抑制される。
【0043】
他方、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30K以外の部分には、電荷が付与されないので、静電気力は働かない。通常、溶融フィルム20がキャストロール120の周面121で受けられるときに、溶融フィルム20とキャストロール120との間に空気が巻き込まれるので、フィルム端部30S及び30K以外の部分では、溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との間に空気層が介在する。よって、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30K以外の部分は、キャストロール120の周面121には接触しない。
【0044】
前記のピニング処理において、最初のピニング電圧は、通常、フィルム端部30S及び30Kとキャストロール120の周面121との密着力が過大とならないように、適切に設定される。
【0045】
第三工程では、ピニング処理を施された溶融フィルム20を、キャストロール120の周面121で冷却して、樹脂フィルム10を得る。ピニング処理によってフィルム端部30S及び30Kがキャストロール120の周面121に接触させられると、回転するキャストロール120に引っ張られるので、溶融フィルム20は、キャストロール120の周面121に沿って搬送される。そして、このようにキャストロール120の周面121に沿って搬送されるときに、溶融フィルム20が熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以下に冷却されて硬化し、樹脂フィルム10が得られる。こうして得られた樹脂フィルム10は、必要に応じて搬送ロール160に案内されてキャストロール120から離れ、下流へと送出される。送出された樹脂フィルム10は、通常、図示しない回収装置によって回収される。
【0046】
第四工程では、偏光カメラ140S及び140Kを用いて、フィルム端部30S及び30Kにおける樹脂フィルム10の配向角θを測定する。具体的には、偏光カメラ140Sが、フィルム端部30Sに設定される単独の測定点又は幅方向の複数の測定点において、樹脂フィルム10の配向角θを測定する。また、偏光カメラ140Kが、フィルム端部30Kに設定される単独の測定点又は幅方向の複数の測定点において、樹脂フィルム10の配向角θを測定する。測定された配向角θの情報は、制御部150へと送られる。
【0047】
前記の配向角θは、当該配向角θが測定された測定点における溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との密着力を反映している。よって、配向角θの測定値から、ピニング処理によって十分な拘束力が得られていたかが分かる。以下、この点を、図面を示して説明する。
【0048】
まず、十分に大きい拘束力が得られている場合について、説明する。
図4は、一例に係る溶融フィルム20のフィルム端部30Sの近傍を模式的に示す平面図である。
図4に示すように、溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との密着力が充分に高い場合、溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との間には大きな摩擦力が働く。周方向に回転するキャストロール120の周面121から摩擦力を受けるので、溶融フィルム20に含まれる重合体分子は、キャストロール120の周方向への応力を受けて、前記周方向に近づくように配向する。そうすると、その配向した重合体分子を含む部分では、矢印A
30Sで示すように、重合体分子はMD方向又はそれに近い方向に配向するから、溶融フィルム20の大きな配向角θが測定される。
図4に示す例のように、溶融フィルム20のフィルム端部30Sの全体において溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との密着力が充分に高い場合には、フィルム端部30Sの全ての測定点において、大きな配向角θが測定される。この場合、溶融フィルム20のフィルム端部30Sの全体において十分に大きい密着力が得られていたのであるから、フィルム端部30Sは、幅方向に移動しないようにキャストロール120の周面121に強力に拘束されていたことが分かる。
【0049】
なお、フィルム端部30Sに隣接する部分31Sでは、溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との間に空気層があるので、重合体分子にはキャストロール120の周面121からの摩擦力は加わらない。また、この部分31Sには、熱可塑性樹脂の冷却によるネックインによって生じる幅方向への収縮力が応力として加わる。よって、この部分31Sに含まれる重合体分子には、幅方向への応力が大きく作用するから、当該重合体分子の配向方向は、矢印A
31Sで示すように、MD方向から外れた方向に配向する。よって、
図4に示すようにフィルム端部30Sで十分に大きい拘束力が得られていた場合でも、フィルム端部30Sに隣接する部分31Sでは、小さい配向角θが観察されうる。
【0050】
次に、十分に大きい拘束力が得られていない場合について、説明する。
図5は、別の一例に係る溶融フィルム20のフィルム端部30Sの近傍を模式的に示す平面図である。
図5に示すように、フィルム端部30Sの一部分32Sのみにおいて溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との密着力が充分に高い場合、当該部分32Sでは、矢印A
32Sで示すように、重合体分子はMD方向又はそれに近い方向に配向する。しかし、フィルム端部30Sのそれ以外の部分33S及び34Sでは、十分な密着力が得られないので、ネックインによって生じる幅方向への収縮力の作用が大きくなる。よって、それらの部分33S及び34Sに含まれる重合体分子は、矢印A
33S又はA
34Sで示すように、MD方向から外れた方向に配向するから、それらの密着力が不足する部分33S及び34Sでは、小さい配向角θが観察されうる。よって、
図5に示すように、溶融フィルム20のフィルム端部30Sの一部又は全体において溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との密着力が小さい場合には、フィルム端部30Sの一部又は全ての測定点において、小さい配向角θが測定される。この場合、密着力が不足して充分に大きい拘束力が得られないことが分かる。
【0051】
このように、偏光カメラ140S及び140Kで測定される配向角θの情報は、フィルム端部30S及び30Kにおいてピニング処理によって与えられる密着力を反映しており、よってフィルム端部30S及び30Kでの拘束力の大きさを反映している。そこで、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法では、前記の配向角θに基づいて、制御部150が、ピニング処理の処理条件を調整する第五工程を行う。具体的には、制御部150のS側制御部150Sが、偏光カメラ140Sから送られてくる配向角θに基づいて、S側のピニング針130Sによるピニング処理の処理条件としてのピニング電圧を調整する制御を行い、また、制御部150のK側制御部150Kが、偏光カメラ140Kから送られてくる配向角θに基づいて、K側のピニング針130Kによるピニング処理の処理条件としてのピニング電圧を調整する制御を行う。
【0052】
図6は、本発明の第一実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法の第五工程においてS側制御部150Sが実行する制御手順を示すフローチャートである。
図6に示すように、S側制御部150Sによる処理では、まず、ステップS-151Sを行う。このステップS-151Sでは、情報取込部151が、偏光カメラ140Sから送られてくる配向角θの情報を取り込む。
【0053】
次いで、情報判定部152Sが、ステップS-152Sを行う。このステップS-152Sでは、取り込んだ配向角θに閾値よりも小さい値が含まれるかを、情報判定部152Sが判定する。例えば、取り込まれた配向角θの情報が、フィルム端部30S内の1つの測定点での配向角θの情報だけである場合には、その配向角θが閾値よりも小さい値であるかを判定する。また、例えば、取り込まれた配向角θの情報が、フィルム端部30S内の幅方向の複数の測定点で配向角θの情報である場合には、それらの配向角θのなかに、閾値よりも小さい値が含まれるかを判定する。
【0054】
前述のように、配向角θは、その配向角θが測定された測定点での密着力を反映している。よって、取り込まれた配向角θに閾値よりも小さい値が含まれることは、フィルム端部30Sの一部又は全部で密着力が不足していることを表し、よって溶融フィルム20のフィルム端部30Sで拘束力が不足していることを表す。他方、取り込まれた配向角θに閾値よりも小さい値が無いことは、フィルム端部30Sの全部で十分に大きい密着力が得られていることを表し、よって溶融フィルム20のフィルム端部30Sで拘束力が充分に大きいことを表す。前記の閾値は、通常70°以上、好ましくは75°以上、特に好ましくは80°以上、且つ、通常90°以下の範囲において、設定しうる。
【0055】
ステップS-152Sでの判定の結果、配向角θに閾値よりも小さい値が含まれる場合には、ピニング条件調整部153Sが、ステップS-153Sを行う。このステップS-153Sでは、ピニング条件調整部153Sが、ピニング針130Sに印加されるピニング電圧を調整する。具体的には、ピニング条件調整部153Sは、ピニング針130Sに印加されるピニング電圧の大きさを大きくする調整を行う。この際、一回の調整当たりのピニング電圧の大きさの増加量は、一定でもよく、一定でなくてもよい。
【0056】
ピニング電圧の大きさが大きくなると、ピニング針130Sから溶融フィルム20のフィルム端部30Sに付与される電荷の量が増加するので、フィルム端部30Sとキャストロール120との間の静電気力が上昇する。よって、その上昇した静電気力の分だけ、フィルム端部30Sとキャストロール120との間の密着力が上昇する。したがって、その上昇した密着力に応じて、フィルム端部30Sにおいて配向角θは大きくなり、また、拘束力が上昇する。
【0057】
このステップS-153Sの後、制御は、ステップS-151Sに戻る。ただし、通常は、ステップS-153Sで行われたピニング電圧の調整によって変化した後のフィルム端部30Sの配向角θの情報を、情報取込部151Sが適切に取り込めるようにするため、ステップS-153SとステップS-151Sとの間には、所定の時間を空ける。具体的には、ピニング針130Sの位置から、偏光カメラ140Sの位置まで、フィルム(溶融フィルム又は樹脂フィルム)を搬送するために要する時間以上の時間を空けることが望ましい。
【0058】
このように、ステップS-151SからステップS-153Sまでを繰り返すことにより、ピニング針130Sに印加されるピニング電圧が、フィルム端部30Sでの配向角θが閾値以上となるように調整されるので、偏光カメラ140Sで測定される配向角θには、閾値より小さい値が含まれなくなる。そうすると、ステップS-152Sにおいて、情報判定部152Sが、情報取込部151Sによって取り込まれた配向角θに閾値よりも小さい値が含まれない、と判定する。このように情報判定部152Sが判定した場合、S側制御部150Sにおける処理を完了する。
【0059】
また、制御部150のK側制御部150Kにおいても、情報取込部151K、情報判定部152K及びピニング条件調整部153Kが、S側制御部150Sの情報取込部151S、情報判定部152S及びピニング条件調整部153Sが行ったのと同じ手順で、フィルム端部30Kでの配向角θを閾値以上にするようにピニング電圧を調整する制御を行う。このとき、情報判定部152Kで採用される配向角θの閾値は、情報判定部152Sで採用される閾値と異なっていてもよいが、両方のフィルム端部30S及び30Kでの拘束力を均一にする観点では、同じであることが好ましい。
【0060】
したがって、第五工程を行うことにより、樹脂フィルム10のフィルム端部30S及びフィルム端部30Kの両方において、配向角θを閾値以上にできる。このように閾値以上の配向角θが測定されている状態では、ピニング処理によって十分に大きい拘束力が、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kの両方で得られる。さらに、通常は、S側及びK側の閾値を同じに設定することにより、S側及びK側の両方のフィルム端部における拘束力を均一にできる。したがって、このときのピニング処理の処理条件を維持しながら、前記の第一工程~第三工程による樹脂フィルム10の製造を更に続けることにより、搬送不具合及び破断を抑制しながら、樹脂フィルム10の製造を行うことができる。したがって、シワ等の面状不具合が生じた変形部分、及び、破断が生じた破断部分のように、製品として使用できない部分の発生を抑制できる。よって、製品として得られる樹脂フィルムの面積を広くできるので、高い樹脂得率を達成することができる。
【0061】
[2.第二実施形態]
上述した第一実施形態では、ピニング処理の処理条件の調整のための基準として用いる光学特性として配向角θを採用したが、光学特性は、配向角θに限定されない。例えば、光学特性として、面内レターデーションReを採用してもよい。
【0062】
第一実施形態において
図4及び
図5を示して説明したように、溶融フィルム20のフィルム端部30Sにピニング処理が施されて溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との密着力が充分に高くなると、そのフィルム端部30Sに含まれる重合体分子は、キャストロール120の周方向への応力を受ける。よって、フィルム端部30Sに含まれる重合体分子が配向するので、その溶融フィルム20が硬化して得られる樹脂フィルム10のフィルム端部30Sでは、面内レターデーションReが大きくなる。
【0063】
よって、
図4に示す例のように、溶融フィルム20のフィルム端部30Sの全体において溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との密着力が充分に高い場合には、フィルム端部30Sの全ての測定点において、大きな面内レターデーションReが測定される。この場合、フィルム端部30Sは、幅方向に移動しないようにキャストロール120の周面121に強力に拘束されていたことが分かる。
【0064】
なお、フィルム端部30Sに隣接する部分31Sでは、溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との間に空気層がある。よって、この部分31Sには、キャストロール120の周面121からの摩擦力が応力として加わらない。また、この部分31Sには、溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との密着力が小さいか又は無いので、溶融フィルム20がキャストロール120の周面121に拘束されずに、厚み変化等の変形を生じることができる。よって、この部分31Sには、熱可塑性樹脂の冷却によるネックインによる応力が加わるものの、この応力は前記の変形によって開放される。したがって、この部分31Sに含まれる重合体分子に作用する応力は小さいから、
図4に示すようにフィルム端部30Sで十分に大きい拘束力が得られていた場合でも、フィルム端部30Sに隣接する部分31Sでは、面内レターデーションReが小さくなる。
【0065】
さらに、
図5に示すように、フィルム端部30Sの一部分32Sのみにおいて溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との密着力が充分に高い場合、当該部分32Sでは、重合体分子が配向して面内レターデーションReが大きくなる。しかし、フィルム端部30Sのそれ以外の部分33S及び34Sでは、溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との密着力が小さいか又は無いので、溶融フィルム20がキャストロール120の周面121に拘束されずに、変形を生じることができる。よって、摩擦力又はネックインによる応力が前記の変形によって開放されるので、それらの部分33S及び34Sに含まれる重合体分子に作用する応力は、小さい。したがって、それらの密着力が不足する部分33S及び34Sでは、面内レターデーションReが小さくなる。よって、
図5に示すように、溶融フィルム20のフィルム端部30Sの一部又は全体において溶融フィルム20とキャストロール120の周面121との密着力が小さい場合には、フィルム端部30Sの一部又は全ての測定点において、小さい面内レターデーションReが測定される。この場合、密着力が不足して充分に大きい拘束力が得られないことが分かる。
【0066】
以上のような溶融フィルム20の拘束力と樹脂フィルム10の面内レターデーションReとの相関関係は、フィルム端部30S以外のピニング処理部分においても適用できる。よって、これを利用して、樹脂フィルム10の面内レターデーションReを光学特性として用いた実施形態を採用してもよい。以下、その実施形態の例として、第二実施形態を説明する。
【0067】
図7は、本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置200を模式的に示す側面図である。また、
図8は、本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置200を模式的に示す斜視図である。ただし、
図8では、制御部250の図示は省略する。
図7及び
図8に示すように、本発明の第二実施形態に係る製造装置200は、偏光カメラ140S及び140Kの代わりに、樹脂フィルム10のフィルム端部30S及び30Kの面内レターデーションReを測定しうる偏光カメラ240S及び240Kをセンサとして備えること、並びに、制御部150の代わりに、偏光カメラ240S及び240Kから送られる面内レターデーションReに基づいてピニング処理の処理条件を調整しうる制御部250を備えること、以外は、第一実施形態に係る製造装置100と同じに設けられている。よって、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置200は、第一実施形態において説明したのと同じ押出機110、キャストロール120、並びに、ピニング装置としてのピニング針130S及び130Kを備える。
【0068】
偏光カメラ240S及び240Kは、ピニング処理を施された溶融フィルム20が冷却されて得られる樹脂フィルム10の面内レターデーションReを、フィルム端部30S及び30Kにおいて測定できるように設けられる。
【0069】
具体的には、S側の偏光カメラ240Sは、S側のフィルム端部30Sにおいて樹脂フィルム10の面内レターデーションReを測定できるように設けられている。偏光カメラ240Sは、フィルム端部30S内の1つの測定点のみで面内レターデーションReを測定してもよいが、より正確なフィードバック制御によって更に高い樹脂得率を達成する観点から、フィルム端部30S内の幅方向の複数の測定点で面内レターデーションReを測定することが好ましい。
【0070】
他方、K側の偏光カメラ240Kは、K側のフィルム端部30Kにおいて樹脂フィルム10の面内レターデーションReを測定できるように設けられている。偏光カメラ240Kは、フィルム端部30K内の1つの測定点のみで面内レターデーションReを測定してもよいが、より正確なフィードバック制御によって更に高い樹脂得率を達成する観点から、フィルム端部30K内の幅方向の複数の測定点で面内レターデーションReを測定することが好ましい。
【0071】
偏光カメラ240S及び240Kは、制御部250に接続され、測定された各測定点での面内レターデーションReの情報を制御部250に送りうるように設けられている。
【0072】
図9は、本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置200が備える制御部250の構成を示すブロック図である。
図9に示すように、制御部250は、偏光カメラ240S及び240Kで測定された面内レターデーションReに基づいて、ピニング針130S及び130Kによるピニング処理の処理条件を調整しうる制御装置である。この制御部250は、S側の偏光カメラ240Sで測定された面内レターデーションReに基づいてピニング針130Sによるピニング処理の処理条件を調整するためのS側制御部250Sと、K側の偏光カメラ240Kで測定された面内レターデーションReに基づいてピニング針130Kによるピニング処理の処理条件を調整するためのK側制御部250Kと、を備える。
【0073】
S側制御部250Sは、偏光カメラ240Sから送られてくる面内レターデーションReの情報を取り込むための情報取込部251Sと;取り込まれた面内レターデーションReの情報に、閾値未満の値が含まれるか否かを判定するための情報判定部252Sと;面内レターデーションReの情報に閾値未満の値が含まれると判定された場合に、ピニング針130Sに印加されるピニング電圧の大きさを大きくするように調整するピニング条件調整部253Sと;を備える。
【0074】
K側制御部250Kは、偏光カメラ240Kから送られてくる面内レターデーションReの情報を取り込むための情報取込部251Kと;取り込まれた面内レターデーションReの情報に、閾値未満の値が含まれるか否かを判定するための情報判定部252Kと;面内レターデーションReの情報に閾値未満の値が含まれると判定された場合に、ピニング針130Kに印加されるピニング電圧の大きさを大きくするように調整するピニング条件調整部253Kと;を備える。
【0075】
本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置200は、以上のように設けられている。この製造装置200を用いた樹脂フィルム10の製造方法は、光学特性として配向角θの代わりに面内レターデーションReを採用したこと以外は、第一実施形態に係る製造方法と同様に実施しうる。よって、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、第一実施形態に係る製造方法と同じ第一工程、第二工程及び第三工程と、
ピニング処理を施されたフィルム端部30S及び30Kにおいて、樹脂フィルム10の光学特性としての面内レターデーションReを測定する第四工程と、
測定された面内レターデーションReに基づいて、ピニング処理の処理条件を調整する第五工程と、を含む。
【0076】
第一工程、第二工程及び第三工程は、第一実施形態に係る製造方法と同じく行うことができる。
【0077】
第四工程では、偏光カメラ240S及び240Kを用いて、フィルム端部30S及び30Kにおける樹脂フィルム10の面内レターデーションReを測定する。具体的には、偏光カメラ240Sが、フィルム端部30Sに設定される単独の測定点又は幅方向の複数の測定点において、樹脂フィルム10の面内レターデーションReを測定する。また、偏光カメラ240Kが、フィルム端部30Kに設定される単独の測定点又は幅方向の複数の測定点において、樹脂フィルム10の面内レターデーションReを測定する。測定された面内レターデーションReの情報は、制御部250へと送られる。
【0078】
上述したように、偏光カメラ240S及び240Kで測定される面内レターデーションReの情報は、フィルム端部30S及び30Kにおいてピニング処理によって与えられる密着力を反映しており、よってフィルム端部30S及び30Kでの拘束力の大きさを反映している。そこで、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法では、前記の面内レターデーションReに基づいて、制御部250が、ピニング処理の処理条件を調整する第五工程を行う。具体的には、制御部250のS側制御部250Sが、偏光カメラ240Sから送られてくる面内レターデーションReに基づいて、S側のピニング針130Sによるピニング処理の処理条件としてのピニング電圧を調整する制御を行い、また、制御部250のK側制御部250Kが、偏光カメラ240Kから送られてくる面内レターデーションReに基づいて、K側のピニング針130Kによるピニング処理の処理条件としてのピニング電圧を調整する制御を行う。
【0079】
図10は、本発明の第二実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法の第五工程においてS側制御部250Sが実行する制御手順を示すフローチャートである。
図10に示すように、S側制御部250Sによる処理では、まず、ステップS-251Sを行う。このステップS-251Sでは、情報取込部251が、偏光カメラ240Sから送られてくる面内レターデーションReの情報を取り込む。
【0080】
次いで、情報判定部252Sが、ステップS-252Sを行う。このステップS-252Sでは、取り込んだ面内レターデーションReに閾値よりも小さい値が含まれるかを、情報判定部252Sが判定する。例えば、取り込まれた面内レターデーションReの情報が、フィルム端部30S内の1つの測定点での面内レターデーションReの情報だけである場合には、その面内レターデーションReが閾値よりも小さい値であるかを判定する。また、例えば、取り込まれた面内レターデーションReの情報が、フィルム端部30S内の幅方向の複数の測定点で面内レターデーションReの情報である場合には、それらの面内レターデーションReのなかに、閾値よりも小さい値が含まれるかを判定する。
【0081】
前述のように、面内レターデーションReは、その面内レターデーションReが測定された測定点での密着力を反映している。よって、取り込まれた面内レターデーションReに閾値よりも小さい値が含まれることは、フィルム端部30Sの一部又は全部で密着力が不足していることを表し、よって溶融フィルム20のフィルム端部30Sで拘束力が不足していることを表す。他方、取り込まれた面内レターデーションReに閾値よりも小さい値が無いことは、フィルム端部30Sの全部で十分に大きい密着力が得られていることを表し、よって溶融フィルム20のフィルム端部30Sで拘束力が充分に大きいことを表す。前記の閾値は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、且つ、通常20nm以下、好ましくは15nm以下の範囲において、設定しうる。
【0082】
ステップS-252Sでの判定の結果、面内レターデーションReに閾値よりも小さい値が含まれる場合には、ピニング条件調整部253Sが、ステップS-253Sを行う。このステップS-253Sでは、ピニング条件調整部253Sが、ピニング針130Sに印加されるピニング電圧を調整する。具体的には、ピニング条件調整部253Sは、ピニング針130Sに印加されるピニング電圧の大きさを大きくする調整を行う。この際、一回の調整当たりのピニング電圧の大きさの増加量は、一定でもよく、一定でなくてもよい。
【0083】
ピニング電圧の大きさが大きくなると、ピニング針130Sから溶融フィルム20のフィルム端部30Sに付与される電荷の量が増加するので、フィルム端部30Sとキャストロール120との間の静電気力が上昇する。よって、その上昇した静電気力の分だけ、フィルム端部30Sとキャストロール120との間の密着力が上昇する。したがって、その上昇した密着力に応じて、フィルム端部30Sにおいて面内レターデーションReは大きくなり、また、拘束力が上昇する。
【0084】
このステップS-253Sの後、制御は、ステップS-251Sに戻る。ただし、通常は、ステップS-253Sで行われたピニング電圧の調整によって変化した後のフィルム端部30Sの面内レターデーションReの情報を、情報取込部251Sが適切に取り込めるようにするため、第一実施形態と同じく、ステップS-253SとステップS-251Sとの間には、所定の時間を空ける。具体的には、ピニング針130Sの位置から、偏光カメラ240Sの位置まで、フィルム(溶融フィルム又は樹脂フィルム)を搬送するために要する時間以上の時間を空けることが望ましい。
【0085】
このように、ステップS-251SからステップS-253Sまでを繰り返すことにより、ピニング針130Sに印加されるピニング電圧が、フィルム端部30Sでの面内レターデーションReが閾値以上となるように調整されるので、偏光カメラ240Sで測定される面内レターデーションReには、閾値より小さい値が含まれなくなる。そうすると、ステップS-252Sにおいて、情報判定部252Sが、情報取込部251Sによって取り込まれた面内レターデーションReに閾値よりも小さい値が含まれない、と判定する。このように情報判定部252Sが判定した場合、S側制御部250Sにおける処理を完了する。
【0086】
また、制御部250のK側制御部250Kにおいても、情報取込部251K、情報判定部252K及びピニング条件調整部253Kが、S側制御部250Sの情報取込部251S、情報判定部252S及びピニング条件調整部253Sが行ったのと同じ手順で、フィルム端部30Kでの面内レターデーションReを閾値以上にするようにピニング電圧を調整する制御を行う。このとき、情報判定部252Kで採用される面内レターデーションReの閾値は、情報判定部252Sで採用される閾値と異なっていてもよいが、両方のフィルム端部30S及び30Kでの拘束力を均一にする観点では、同じであることが好ましい。
【0087】
したがって、第五工程を行うことにより、樹脂フィルム10のフィルム端部30S及びフィルム端部30Kの両方において、面内レターデーションReを閾値以上にできる。このように閾値以上の面内レターデーションReが測定されている状態では、ピニング処理によって十分に大きい拘束力が、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kの両方で得られる。よって、このときのピニング処理の処理条件を維持しながら、前記の第一工程~第三工程による樹脂フィルム10の製造を更に続けることにより、搬送不具合及び破断を抑制しながら、樹脂フィルム10の製造を行うことができる。したがって、製品として得られる樹脂フィルムの面積を広くできるので、高い樹脂得率を達成することができる。また、本実施形態によれば、第一実施形態と同じ利点を得ることができる。
【0088】
[3.第三実施形態]
上述した第一実施形態及び第二実施形態では、ピニング針を用いた静電ピニング処理をピニング処理として採用したが、ピニング処理は静電ピニング処理に限定されない。例えば、ピニング処理として、エアピニング処理を採用してもよい。以下、このようにエアピニング処理を採用した実施形態の例として、第三実施形態を説明する。
【0089】
図11は、本発明の第三実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置300を模式的に示す側面図である。また、
図12は、本発明の第三実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置300を模式的に示す斜視図である。ただし、
図12では、制御部350の図示は省略する。
図11及び
図12に示すように、本発明の第三実施形態に係る製造装置300は、ピニング針130S及び130Kの代わりに、溶融フィルム20にエアを吹き付けうるエアノズル330S及び330Kをピニング装置として備えること、並びに、制御部150の代わりに、エアノズル330S及び330Kのエア圧をピニング処理の処理条件として調整しうる制御部350を備えること、以外は、第一実施形態に係る製造装置100と同じに設けられている。よって、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置300は、第一実施形態において説明したのと同じ押出機110、キャストロール120、並びに、偏光カメラ140S及び140Kを備える。
【0090】
図12に示すように、製造装置300は、ピニング装置としてエアノズル330S及び330Kを備える。S側のエアノズル330Sは、溶融フィルム20の一方のフィルム端部30Sに所定のエア圧でエアを吹き付けうるように設けられる。他方、K側のエアノズル330Kは、溶融フィルム20の他方のフィルム端部30Kに所定のエア圧でエアを吹き付けうるように設けられる。これらのエアノズル330S及び330Kは、MD方向においては、押出機110から供給される溶融フィルム20がキャストロール120の周面121に受けられる地点のなるべく近くに設けられることが好ましい。これにより、ネックインの影響を効果的に排除したり、キャストロールによる動力を溶融フィルム20により多く伝達して円滑なフィルム搬送を達成したりできる。
【0091】
エアノズル330S及び330Kには、図示しない配管が接続され、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kに吹き付けるためのエアを供給されるように設けられている。また、エアノズル330S及び330Kは、制御部350に接続され、エアノズル330S及び330Kのエア圧の大きさが、制御部350によって制御されるように設けられている。
【0092】
制御部350は、偏光カメラ140S及び140Kで測定された配向角θに基づいて、エアノズル330S及び330Kによるエアピニング処理の処理条件を調整しうる制御装置である。この制御部350は、偏光カメラ140S及び140Kに接続され、これら偏光カメラ140S及び140Kから送られる各測定点での配向角θの情報を受け取りうるように設けられている。
【0093】
図13は、本発明の第三実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置300が備える制御部350の構成を示すブロック図である。
図13に示すように、制御部350は、S側の偏光カメラ140Sで測定された配向角θに基づいてエアノズル330Sによるエアピニング処理の処理条件を調整するためのS側制御部350Sと、K側の偏光カメラ140Kで測定された配向角θに基づいてエアノズル330Kによるエアピニング処理の処理条件を調整するためのK側制御部350Kと、を備える。
【0094】
S側制御部350Sは、偏光カメラ140Sから送られてくる配向角θの情報を取り込むための情報取込部351Sと;取り込まれた配向角θの情報に、閾値未満の値が含まれるか否かを判定するための情報判定部352Sと;配向角θの情報に閾値未満の値が含まれると判定された場合に、エアノズル330Sのエア圧の大きさを大きくするように調整するピニング条件調整部353Sと;を備える。
【0095】
K側制御部350Kは、偏光カメラ140Kから送られてくる配向角θの情報を取り込むための情報取込部351Kと;取り込まれた配向角θの情報に、閾値未満の値が含まれるか否かを判定するための情報判定部352Kと;配向角θの情報に閾値未満の値が含まれると判定された場合に、エアノズル330Kのエア圧の大きさを大きくするように調整するピニング条件調整部353Kと;を備える。
【0096】
本発明の第三実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置300は、以上のように設けられている。この製造装置300を用いた樹脂フィルム10の製造方法は、溶融フィルム20にエアを吹き付けることを含むエアピニング処理をピニング処理として行うこと、並びに、溶融フィルム20に吹き付けるエア圧を調整することをピニング処理の処理条件の調整として行うこと以外は、第一実施形態に係る製造方法と同様に実施しうる。よって、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、第一実施形態に係る製造方法と同じ第一工程、第三工程及び第四工程と、
第一工程で得られた溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kにエアピニング処理を施す第二工程と、
第四工程で測定された配向角θに基づいて、エアピニング処理の処理条件としてエア圧を調整する第五工程と、を含む。
【0097】
第一工程は、第一実施形態に係る製造方法と同じく行うことができる。
【0098】
第二工程では、第一実施形態で形成された溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kに、エアピニング処理を施す。具体的には、エアノズル330S及び330Kからフィルム端部30S及び30Kにエアを吹き付けることにより、フィルム端部30S及び30Kをキャストロール120の周面121に押し付けて、接触させる。この際、前記接触の密着力は、通常、フィルム端部30S及び30Kに吹き付けられるエアのエア圧の大きさに依存する。十分に大きい密着力でキャストロール120の周面121に接触した部分では、溶融フィルム20はキャストロール120の周面121に拘束され、幅方向への移動が抑制される。他方、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30K以外の部分は、キャストロール120の周面121には接触しない。前記のエアピニング処理において、最初のエア圧は、通常、フィルム端部30S及び30Kとキャストロール120の周面121との密着力が過大とならないように、適切に設定される。
【0099】
第三工程及び第四工程は、第一実施形態に係る製造方法と同じく行うことができる。
【0100】
第五工程では、偏光カメラ140S及び140Kで測定された配向角θに基づいて、制御部350が、エアピニング処理の処理条件を調整する。具体的には、制御部350のS側制御部350Sが、偏光カメラ140Sから送られてくる配向角θに基づいて、S側のエアノズル330Sによるピニング処理の処理条件としてのエア圧を調整する制御を行い、また、制御部350のK側制御部350Kが、偏光カメラ140Kから送られてくる配向角θに基づいて、K側のエアノズル330Kによるピニング処理の処理条件としてのエア圧を調整する制御を行う。
【0101】
図14は、本発明の第三実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法の第五工程においてS側制御部350Sが実行する制御手順を示すフローチャートである。
図14に示すように、S側制御部350Sによる処理では、まず、ステップS-351Sを行う。このステップS-351Sでは、情報取込部351が、偏光カメラ140Sから送られてくる配向角θの情報を取り込む。
【0102】
次いで、情報判定部352Sが、ステップS-352Sを行う。このステップS-352Sでは、取り込んだ配向角θに閾値よりも小さい値が含まれるかを、情報判定部352Sが判定する。具体的な判定は、第一実施形態で説明した情報判定部152Sが行うステップS-152Sと同じように行いうる。
【0103】
ステップS-352Sでの判定の結果、配向角θに閾値よりも小さい値が含まれる場合には、ピニング条件調整部353Sが、ステップS-353Sを行う。このステップS-353Sでは、ピニング条件調整部353Sが、エアノズル330Sから溶融フィルム20のフィルム端部30Sに吹き付けられるエアのエア圧を調整する。具体的には、ピニング条件調整部353Sは、エア圧の大きさを大きくする調整を行う。この際、一回の調整当たりのエア圧の大きさの増加量は、一定でもよく、一定でなくてもよい。
【0104】
エア圧の大きさが大きくなると、その上昇したエア圧の分だけ、フィルム端部30Sとキャストロール120との間の密着力が上昇する。したがって、その上昇した密着力に応じて、フィルム端部30Sにおいて配向角θは大きくなり、また、拘束力が上昇する。
【0105】
このステップS-353Sの後、制御は、ステップS-351Sに戻る。ただし、通常は、第一実施形態及び第二実施形態と同じく、ステップS-353SとステップS-351Sとの間には、所定の時間を空けることが望ましい。具体的には、エアノズル330Sの位置から、偏光カメラ140Sの位置まで、フィルム(溶融フィルム又は樹脂フィルム)を搬送するために要する時間以上の時間を空けることが望ましい。
【0106】
このように、ステップS-351SからステップS-353Sまでを繰り返すことにより、エアノズル330Sのエア圧が、フィルム端部30Sでの配向角θが閾値以上となるように調整されるので、偏光カメラ140Sで測定される配向角θには、閾値より小さい値が含まれなくなる。そうすると、ステップS-352Sにおいて、情報判定部352Sが、情報取込部351Sによって取り込まれた配向角θに閾値よりも小さい値が含まれない、と判定する。このように情報判定部352Sが判定した場合、S側制御部350Sにおける処理を完了する。
【0107】
また、制御部350のK側制御部350Kにおいても、情報取込部351K、情報判定部352K及びピニング条件調整部353Kが、S側制御部350Sの情報取込部351S、情報判定部352S及びピニング条件調整部353Sが行ったのと同じ手順で、フィルム端部30Kでの配向角θを閾値以上にするようにエア圧を調整する制御を行う。このとき、情報判定部352Kで採用される配向角θの閾値は、情報判定部352Sで採用される閾値と異なっていてもよいが、両方のフィルム端部30S及び30Kでの拘束力を均一にする観点では、同じであることが好ましい。
【0108】
したがって、第五工程を行うことにより、樹脂フィルム10のフィルム端部30S及びフィルム端部30Kの両方において、配向角θを閾値以上にできる。このように閾値以上の配向角θが測定されている状態では、ピニング処理によって十分に大きい拘束力が、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kの両方で得られる。よって、このときのピニング処理の処理条件を維持しながら、前記の第一工程~第三工程による樹脂フィルム10の製造を更に続けることにより、搬送不具合及び破断を抑制しながら、樹脂フィルム10の製造を行うことができる。したがって、製品として得られる樹脂フィルムの面積を広くできるので、高い樹脂得率を達成することができる。また、本実施形態によれば、第一実施形態及び第二実施形態と同じ利点を得ることができる。
【0109】
[4.第四実施形態]
上述した第三実施形態では、エアピニング処理の処理条件の調整のための基準として用いる光学特性として配向角θを採用したが、光学特性として、面内レターデーションReを採用してもよい。以下、その実施形態の例として、第四実施形態を説明する。
【0110】
図15は、本発明の第四実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置400を模式的に示す側面図である。また、
図16は、本発明の第四実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置400を模式的に示す斜視図である。ただし、
図16では、制御部450の図示は省略する。
図15及び
図16に示すように、本発明の第四実施形態に係る製造装置400は、偏光カメラ140S及び140Kの代わりに、樹脂フィルム10のフィルム端部30S及び30Kの面内レターデーションReを測定しうる偏光カメラ240S及び240Kをセンサとして備えること、並びに、制御部150の代わりに、偏光カメラ240S及び240Kから送られる面内レターデーションReに基づいてピニング処理の処理条件を調整しうる制御部450を備えること、以外は、第三実施形態に係る製造装置300と同じに設けられている。偏光カメラ240S及び240Kは、第二実施形態で説明したものと同じである。よって、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置400は、第一実施形態において説明したのと同じ押出機110及びキャストロール120、第二実施形態で説明したのと同じ偏光カメラ240S及び240K、並びに、第三実施形態で説明したのと同じピニング装置としてのエアノズル330S及び330Kを備える。
【0111】
制御部450は、偏光カメラ240S及び240Kで測定された面内レターデーションReに基づいて、エアノズル330S及び330Kによるエアピニング処理の処理条件を調整しうる制御装置である。この制御部450は、偏光カメラ240S及び240Kに接続され、これら偏光カメラ240S及び240Kから送られる各測定点での面内レターデーションReの情報を受け取りうるように設けられている。
【0112】
図17は、本発明の第四実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置400が備える制御部450の構成を示すブロック図である。
図17に示すように、制御部450は、S側の偏光カメラ240Sで測定された面内レターデーションReに基づいてエアノズル330Sによるエアピニング処理の処理条件を調整するためのS側制御部450Sと、K側の偏光カメラ240Kで測定された面内レターデーションReに基づいてエアノズル330Kによるエアピニング処理の処理条件を調整するためのK側制御部450Kと、を備える。
【0113】
S側制御部450Sは、偏光カメラ240Sから送られてくる面内レターデーションReの情報を取り込むための情報取込部451Sと;取り込まれた面内レターデーションReの情報に、閾値未満の値が含まれるか否かを判定するための情報判定部452Sと;面内レターデーションReの情報に閾値未満の値が含まれると判定された場合に、エアノズル330Sのエア圧の大きさを大きくするように調整するピニング条件調整部453Sと;を備える。
【0114】
K側制御部450Kは、偏光カメラ240Kから送られてくる面内レターデーションReの情報を取り込むための情報取込部451Kと;取り込まれた面内レターデーションReの情報に、閾値未満の値が含まれるか否かを判定するための情報判定部452Kと;面内レターデーションReの情報に閾値未満の値が含まれると判定された場合に、エアノズル330Kのエア圧の大きさを大きくするように調整するピニング条件調整部453Kと;を備える。
【0115】
本発明の第四実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置400は、以上のように設けられている。この製造装置400を用いた樹脂フィルム10の製造方法は、光学特性として配向角θの代わりに面内レターデーションReを採用したこと以外は、第三実施形態に係る製造方法と同様に実施しうる。よって、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、第三実施形態に係る製造方法と同じ第一工程、第二工程及び第三工程と、
ピニング処理を施されたフィルム端部30S及び30Kにおいて、樹脂フィルム10の光学特性としての面内レターデーションReを測定する第四工程と、
測定された面内レターデーションReに基づいて、エアピニング処理の処理条件を調整する第五工程と、を含む。
【0116】
第一工程、第二工程及び第三工程は、第三実施形態に係る製造方法と同じく行うことができる。
【0117】
第四工程は、第二実施形態に係る製造方法と同じく行うことができる。よって、第四工程では、偏光カメラ240S及び240Kを用いて、フィルム端部30S及び30Kにおける樹脂フィルム10の面内レターデーションReを、単独の測定点又は幅方向の複数の測定点において、測定する。測定された面内レターデーションReの情報は、制御部450へと送られる。
【0118】
第五工程では、偏光カメラ240S及び240Kで測定された面内レターデーションReに基づいて、制御部450が、エアピニング処理の処理条件を調整する。具体的には、制御部450のS側制御部450Sが、偏光カメラ240Sから送られてくる面内レターデーションReに基づいて、S側のエアノズル330Sによるピニング処理の処理条件としてのエア圧を調整する制御を行い、また、制御部350のK側制御部350Kが、偏光カメラ240Kから送られてくる面内レターデーションReに基づいて、K側のエアノズル330Kによるピニング処理の処理条件としてのエア圧を調整する制御を行う。
【0119】
図18は、本発明の第四実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法の第五工程においてS側制御部450Sが実行する制御手順を示すフローチャートである。
図18に示すように、S側制御部450Sによる処理では、まず、ステップS-451Sを行う。このステップS-451Sでは、情報取込部451が、偏光カメラ240Sから送られてくる面内レターデーションReの情報を取り込む。
【0120】
次いで、情報判定部452Sが、ステップS-452Sを行う。このステップS-452Sでは、取り込んだ面内レターデーションReに閾値よりも小さい値が含まれるかを、情報判定部452Sが判定する。具体的な判定は、第二実施形態で説明した情報判定部252Sが行うステップS-252Sと同じように行いうる。
【0121】
ステップS-452Sでの判定の結果、面内レターデーションReに閾値よりも小さい値が含まれる場合には、ピニング条件調整部453Sが、ステップS-453Sを行う。このステップS-453Sでは、ピニング条件調整部453Sが、エアノズル330Sから溶融フィルム20のフィルム端部30Sに吹き付けられるエアのエア圧を調整する。具体的には、ピニング条件調整部453Sは、エア圧の大きさを大きくする調整を行う。この際、一回の調整当たりのエア圧の大きさの増加量は、一定でもよく、一定でなくてもよい。
【0122】
エア圧の大きさが大きくなると、その上昇したエア圧の分だけ、フィルム端部30Sとキャストロール120との間の密着力が上昇する。したがって、その上昇した密着力に応じて、フィルム端部30Sにおいて面内レターデーションReは大きくなり、また、拘束力が上昇する。
【0123】
このステップS-453Sの後、制御は、ステップS-451Sに戻る。ただし、通常は、第一実施形態から第三実施形態と同じく、ステップS-453SとステップS-451Sとの間には、所定の時間を空けることが望ましい。具体的には、エアノズル330Sの位置から、偏光カメラ240Sの位置まで、フィルム(溶融フィルム又は樹脂フィルム)を搬送するために要する時間以上の時間を空けることが望ましい。
【0124】
このように、ステップS-451SからステップS-453Sまでを繰り返すことにより、エアノズル330Sのエア圧が、フィルム端部30Sでの面内レターデーションReが閾値以上となるように調整されるので、偏光カメラ240Sで測定される面内レターデーションReには、閾値より小さい値が含まれなくなる。そうすると、ステップS-452Sにおいて、情報判定部452Sが、情報取込部451Sによって取り込まれた面内レターデーションReに閾値よりも小さい値が含まれない、と判定する。このように情報判定部452Sが判定した場合、S側制御部450Sにおける処理を完了する。
【0125】
また、制御部450のK側制御部450Kにおいても、情報取込部451K、情報判定部452K及びピニング条件調整部453Kが、S側制御部450Sの情報取込部451S、情報判定部452S及びピニング条件調整部453Sが行ったのと同じ手順で、フィルム端部30Kでの面内レターデーションReを閾値以上にするようにエア圧を調整する制御を行う。このとき、情報判定部452Kで採用される面内レターデーションReの閾値は、情報判定部452Sで採用される閾値と異なっていてもよいが、両方のフィルム端部30S及び30Kでの拘束力を均一にする観点では、同じであることが好ましい。
【0126】
したがって、第五工程を行うことにより、樹脂フィルム10のフィルム端部30S及びフィルム端部30Kの両方において、面内レターデーションReを閾値以上にできる。このように閾値以上の面内レターデーションReが測定されている状態では、ピニング処理によって十分に大きい拘束力が、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kの両方で得られる。よって、このときのピニング処理の処理条件を維持しながら、前記の第一工程~第三工程による樹脂フィルム10の製造を更に続けることにより、搬送不具合及び破断を抑制しながら、樹脂フィルム10の製造を行うことができる。したがって、製品として得られる樹脂フィルムの面積を広くできるので、高い樹脂得率を達成することができる。また、本実施形態によれば、第一実施形態から第三実施形態と同じ利点を得ることができる。
【0127】
[5.第五実施形態]
ピニング処理として、タッチピニング処理を採用してもよい。以下、このようにエアピニング処理を採用した実施形態の例として、第五実施形態を説明する。
【0128】
図19は、本発明の第五実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置500を模式的に示す側面図である。また、
図20は、本発明の第五実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置500を模式的に示す斜視図である。ただし、
図20では、制御部550の図示は省略する。
図19及び
図20に示すように、本発明の第五実施形態に係る製造装置500は、ピニング針130S及び130Kの代わりに、溶融フィルム20をキャストロール120の周面121に押し付けうる押圧具としてのタッチロール530S及び530Kをピニング装置として備えること、並びに、制御部150の代わりに、タッチロール530S及び530Kが溶融フィルム20を押し付けるタッチ圧をピニング処理の処理条件として調整しうる制御部550を備えること、以外は、第一実施形態に係る製造装置100と同じに設けられている。よって、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置500は、第一実施形態において説明したのと同じ押出機110、キャストロール120、並びに、偏光カメラ140S及び140Kを備える。
【0129】
図20に示すように、製造装置500は、ピニング装置としてタッチロール530S及び530Kを備える。S側のタッチロール530Sは、溶融フィルム20の一方のフィルム端部30Sを所定のタッチ圧でキャストロール120の周面121に押し付けうるように設けられる。他方、K側のタッチロール530Kは、溶融フィルム20の他方のフィルム端部30Kを所定のタッチ圧でキャストロール120の周面121に押し付けうるように設けられる。これらのタッチロール530S及び530Kは、MD方向においては、押出機110から供給される溶融フィルム20がキャストロール120の周面121に受けられる地点のなるべく近くに設けられることが好ましい。これにより、ネックインの影響を効果的に排除したり、キャストロールによる動力を溶融フィルム20により多く伝達して円滑なフィルム搬送を達成したりできる。
【0130】
タッチロール530S及び530Kには、図示しないエアシリンダ等の付勢力調整装置が取り付けられ、この付勢力調整装置から与えられる付勢力に応じたタッチ圧で、タッチロール530S及び530Kは溶融フィルム20をキャストロール120の周面121に押し付けられるように設けられている。また、前記のタッチロール530S及び530Kは、制御部550に接続され、付勢力調整装置から与えられる付勢力が調整されることにより、タッチ圧の大きさが、制御部550によって制御されるように設けられている。
【0131】
制御部550は、偏光カメラ140S及び140Kで測定された配向角θに基づいて、タッチロール530S及び530Kによるタッチピニング処理の処理条件を調整しうる制御装置である。この制御部550は、偏光カメラ140S及び140Kに接続され、これら偏光カメラ140S及び140Kから送られる各測定点での配向角θの情報を受け取りうるように設けられている。
【0132】
図21は、本発明の第五実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置500が備える制御部550の構成を示すブロック図である。
図21に示すように、制御部550は、S側の偏光カメラ140Sで測定された配向角θに基づいてタッチロール530Sによるタッチピニング処理の処理条件を調整するためのS側制御部550Sと、K側の偏光カメラ140Kで測定された配向角θに基づいてタッチロール530Kによるタッチピニング処理の処理条件を調整するためのK側制御部550Kと、を備える。
【0133】
S側制御部550Sは、偏光カメラ140Sから送られてくる配向角θの情報を取り込むための情報取込部551Sと;取り込まれた配向角θの情報に、閾値未満の値が含まれるか否かを判定するための情報判定部552Sと;配向角θの情報に閾値未満の値が含まれると判定された場合に、タッチロール530Sのタッチ圧の大きさを大きくするように調整するピニング条件調整部553Sと;を備える。
【0134】
K側制御部550Kは、偏光カメラ140Kから送られてくる配向角θの情報を取り込むための情報取込部551Kと;取り込まれた配向角θの情報に、閾値未満の値が含まれるか否かを判定するための情報判定部552Kと;配向角θの情報に閾値未満の値が含まれると判定された場合に、タッチロール530Kのタッチ圧の大きさを大きくするように調整するピニング条件調整部553Kと;を備える。
【0135】
本発明の第五実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置500は、以上のように設けられている。この製造装置500を用いた樹脂フィルム10の製造方法は、溶融フィルム20をタッチロール530S及び530Kでキャストロール120の周面121に押し付けることを含むタッチピニング処理をピニング処理として行うこと、並びに、タッチロール530S及び530Kが溶融フィルム20をキャストロール120の周面121に押し付けるタッチ圧を調整することをピニング処理の処理条件の調整として行うこと以外は、第一実施形態に係る製造方法と同様に実施しうる。よって、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、第一実施形態に係る製造方法と同じ第一工程、第三工程及び第四工程と、
第一工程で得られた溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kにタッチピニング処理を施す第二工程と、
第四工程で測定された配向角θに基づいて、タッチピニング処理の処理条件としてタッチ圧を調整する第五工程と、を含む。
【0136】
第一工程は、第一実施形態に係る製造方法と同じく行うことができる。
【0137】
第二工程では、第一実施形態で形成された溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kに、タッチピニング処理を施す。具体的には、タッチロール530S及び530Kで溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kをキャストロール120の周面121に押し付けることにより、フィルム端部30S及び30Kを接触させる。この際、前記接触の密着力は、通常、フィルム端部30S及び30Kにタッチロール530S及び530Kのタッチ圧の大きさに依存する。十分に大きい密着力でキャストロール120の周面121に接触した部分では、溶融フィルム20はキャストロール120の周面121に拘束され、幅方向への移動が抑制される。他方、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30K以外の部分は、キャストロール120の周面121には接触しない。前記のタッチピニング処理において、最初のタッチ圧は、通常、フィルム端部30S及び30Kとキャストロール120の周面121との密着力が過大とならないように、適切に設定される。
【0138】
第三工程及び第四工程は、第一実施形態に係る製造方法と同じく行うことができる。
【0139】
第五工程では、偏光カメラ140S及び140Kで測定された配向角θに基づいて、制御部550が、タッチピニング処理の処理条件を調整する。具体的には、制御部550のS側制御部550Sが、偏光カメラ140Sから送られてくる配向角θに基づいて、S側のタッチロール530Sによるピニング処理の処理条件としてのタッチ圧を調整する制御を行い、また、制御部550のK側制御部550Kが、偏光カメラ140Kから送られてくる配向角θに基づいて、K側のタッチロール530Kによるピニング処理の処理条件としてのタッチ圧を調整する制御を行う。
【0140】
図22は、本発明の第五実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法の第五工程においてS側制御部550Sが実行する制御手順を示すフローチャートである。
図22に示すように、S側制御部550Sによる処理では、まず、ステップS-551Sを行う。このステップS-551Sでは、情報取込部551が、偏光カメラ140Sから送られてくる配向角θの情報を取り込む。
【0141】
次いで、情報判定部552Sが、ステップS-552Sを行う。このステップS-552Sでは、取り込んだ配向角θに閾値よりも小さい値が含まれるかを、情報判定部552Sが判定する。具体的な判定は、第一実施形態で説明した情報判定部152Sが行うステップS-152Sと同じように行いうる。
【0142】
ステップS-552Sでの判定の結果、配向角θに閾値よりも小さい値が含まれる場合には、ピニング条件調整部553Sが、ステップS-553Sを行う。このステップS-553Sでは、ピニング条件調整部553Sが、タッチロール530Sが溶融フィルム20のフィルム端部30Sをキャストロール120の周面121に押し付けるタッチ圧を調整する。具体的には、ピニング条件調整部553Sは、タッチ圧の大きさを大きくする調整を行う。この際、一回の調整当たりのタッチ圧の大きさの増加量は、一定でもよく、一定でなくてもよい。
【0143】
タッチ圧の大きさが大きくなると、その上昇したタッチ圧の分だけ、フィルム端部30Sとキャストロール120との間の密着力が上昇する。したがって、その上昇した密着力に応じて、フィルム端部30Sにおいて配向角θは大きくなり、また、拘束力が上昇する。
【0144】
このステップS-553Sの後、制御は、ステップS-551Sに戻る。ただし、通常は、第一実施形態から第四実施形態と同じく、ステップS-553SとステップS-551Sとの間には、所定の時間を空けることが望ましい。具体的には、タッチロール530Sの位置から、偏光カメラ140Sの位置まで、フィルム(溶融フィルム又は樹脂フィルム)を搬送するために要する時間以上の時間を空けることが望ましい。
【0145】
このように、ステップS-551SからステップS-553Sまでを繰り返すことにより、タッチロール530Sのタッチ圧が、フィルム端部30Sでの配向角θが閾値以上となるように調整されるので、偏光カメラ140Sで測定される配向角θには、閾値より小さい値が含まれなくなる。そうすると、ステップS-552Sにおいて、情報判定部552Sが、情報取込部551Sによって取り込まれた配向角θに閾値よりも小さい値が含まれない、と判定する。このように情報判定部552Sが判定した場合、S側制御部550Sにおける処理を完了する。
【0146】
また、制御部550のK側制御部550Kにおいても、情報取込部551K、情報判定部552K及びピニング条件調整部553Kが、S側制御部550Sの情報取込部551S、情報判定部552S及びピニング条件調整部553Sが行ったのと同じ手順で、フィルム端部30Kでの配向角θを閾値以上にするようにタッチ圧を調整する制御を行う。このとき、情報判定部552Kで採用される配向角θの閾値は、情報判定部552Sで採用される閾値と異なっていてもよいが、両方のフィルム端部30S及び30Kでの拘束力を均一にする観点では、同じであることが好ましい。
【0147】
したがって、第五工程を行うことにより、樹脂フィルム10のフィルム端部30S及びフィルム端部30Kの両方において、配向角θを閾値以上にできる。このように閾値以上の配向角θが測定されている状態では、ピニング処理によって十分に大きい拘束力が、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kの両方で得られる。よって、このときのピニング処理の処理条件を維持しながら、前記の第一工程~第三工程による樹脂フィルム10の製造を更に続けることにより、搬送不具合及び破断を抑制しながら、樹脂フィルム10の製造を行うことができる。したがって、製品として得られる樹脂フィルムの面積を広くできるので、高い樹脂得率を達成することができる。また、本実施形態によれば、第一実施形態から第四実施形態と同じ利点を得ることができる。
【0148】
[6.第六実施形態]
上述した第五実施形態では、タッチピニング処理の処理条件の調整のための基準として用いる光学特性として配向角θを採用したが、光学特性として、面内レターデーションReを採用してもよい。以下、その実施形態の例として、第六実施形態を説明する。
【0149】
図23は、本発明の第六実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置600を模式的に示す側面図である。また、
図24は、本発明の第六実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置600を模式的に示す斜視図である。ただし、
図24では、制御部650の図示は省略する。
図23及び
図24に示すように、本発明の第六実施形態に係る製造装置600は、偏光カメラ140S及び140Kの代わりに、樹脂フィルム10のフィルム端部30S及び30Kの面内レターデーションReを測定しうる偏光カメラ240S及び240Kをセンサとして備えること、並びに、制御部150の代わりに、偏光カメラ240S及び240Kから送られる面内レターデーションReに基づいてピニング処理の処理条件を調整しうる制御部650を備えること、以外は、第五実施形態に係る製造装置500と同じに設けられている。偏光カメラ240S及び240Kは、第二実施形態で説明したものと同じである。よって、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置600は、第一実施形態において説明したのと同じ押出機110及びキャストロール120、第二実施形態で説明したのと同じ偏光カメラ240S及び240K、並びに、第五実施形態で説明したのと同じピニング装置としてのタッチロール530S及び530Kを備える。
【0150】
制御部650は、偏光カメラ240S及び240Kで測定された面内レターデーションReに基づいて、タッチロール530S及び530Kによるタッチピニング処理の処理条件を調整しうる制御装置である。この制御部650は、偏光カメラ240S及び240Kに接続され、これら偏光カメラ240S及び240Kから送られる各測定点での面内レターデーションReの情報を受け取りうるように設けられている。
【0151】
図25は、本発明の第六実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置600が備える制御部650の構成を示すブロック図である。
図25に示すように、制御部650は、S側の偏光カメラ240Sで測定された面内レターデーションReに基づいてタッチロール530Sによるタッチピニング処理の処理条件を調整するためのS側制御部650Sと、K側の偏光カメラ240Kで測定された面内レターデーションReに基づいてタッチロール530Kによるタッチピニング処理の処理条件を調整するためのK側制御部650Kと、を備える。
【0152】
S側制御部650Sは、偏光カメラ240Sから送られてくる面内レターデーションReの情報を取り込むための情報取込部651Sと;取り込まれた面内レターデーションReの情報に、閾値未満の値が含まれるか否かを判定するための情報判定部652Sと;面内レターデーションReの情報に閾値未満の値が含まれると判定された場合に、タッチロール530Sのタッチ圧の大きさを大きくするように調整するピニング条件調整部653Sと;を備える。
【0153】
K側制御部650Kは、偏光カメラ240Kから送られてくる面内レターデーションReの情報を取り込むための情報取込部651Kと;取り込まれた面内レターデーションReの情報に、閾値未満の値が含まれるか否かを判定するための情報判定部652Kと;面内レターデーションReの情報に閾値未満の値が含まれると判定された場合に、タッチロール530Kのタッチ圧の大きさを大きくするように調整するピニング条件調整部653Kと;を備える。
【0154】
本発明の第六実施形態に係る樹脂フィルム10の製造装置600は、以上のように設けられている。この製造装置600を用いた樹脂フィルム10の製造方法は、光学特性として配向角θの代わりに面内レターデーションReを採用したこと以外は、第五実施形態に係る製造方法と同様に実施しうる。よって、本実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法は、第五実施形態に係る製造方法と同じ第一工程、第二工程及び第三工程と、
ピニング処理を施されたフィルム端部30S及び30Kにおいて、樹脂フィルム10の光学特性としての面内レターデーションReを測定する第四工程と、
測定された面内レターデーションReに基づいて、タッチピニング処理の処理条件を調整する第五工程と、を含む。
【0155】
第一工程、第二工程及び第三工程は、第五実施形態に係る製造方法と同じく行うことができる。
【0156】
第四工程は、第二実施形態に係る製造方法と同じく行うことができる。よって、第四工程では、偏光カメラ240S及び240Kを用いて、フィルム端部30S及び30Kにおける樹脂フィルム10の面内レターデーションReを、単独の測定点又は幅方向の複数の測定点において、測定する。測定された面内レターデーションReの情報は、制御部650へと送られる。
【0157】
第五工程では、偏光カメラ240S及び240Kで測定された面内レターデーションReに基づいて、制御部650が、タッチピニング処理の処理条件を調整する。具体的には、制御部650のS側制御部650Sが、偏光カメラ240Sから送られてくる面内レターデーションReに基づいて、S側のタッチロール530Sによるピニング処理の処理条件としてのタッチ圧を調整する制御を行い、また、制御部650のK側制御部650Kが、偏光カメラ240Kから送られてくる面内レターデーションReに基づいて、K側のタッチロール530Kによるピニング処理の処理条件としてのタッチ圧を調整する制御を行う。
【0158】
図26は、本発明の第六実施形態に係る樹脂フィルム10の製造方法の第五工程においてS側制御部650Sが実行する制御手順を示すフローチャートである。
図26に示すように、S側制御部650Sによる処理では、まず、ステップS-651Sを行う。このステップS-651Sでは、情報取込部651が、偏光カメラ240Sから送られてくる面内レターデーションReの情報を取り込む。
【0159】
次いで、情報判定部652Sが、ステップS-652Sを行う。このステップS-652Sでは、取り込んだ面内レターデーションReに閾値よりも小さい値が含まれるかを、情報判定部652Sが判定する。具体的な判定は、第二実施形態で説明した情報判定部252Sが行うステップS-252Sと同じように行いうる。
【0160】
ステップS-652Sでの判定の結果、面内レターデーションReに閾値よりも小さい値が含まれる場合には、ピニング条件調整部653Sが、ステップS-653Sを行う。このステップS-653Sでは、ピニング条件調整部653Sが、タッチロール530Sが溶融フィルム20のフィルム端部30Sをキャストロール120の周面121に押し付けるタッチ圧を調整する。具体的には、ピニング条件調整部653Sは、タッチ圧の大きさを大きくする調整を行う。この際、一回の調整当たりのタッチ圧の大きさの増加量は、一定でもよく、一定でなくてもよい。
【0161】
タッチ圧の大きさが大きくなると、その上昇したタッチ圧の分だけ、フィルム端部30Sとキャストロール120との間の密着力が上昇する。したがって、その上昇した密着力に応じて、フィルム端部30Sにおいて面内レターデーションReは大きくなり、また、拘束力が上昇する。
【0162】
このステップS-653Sの後、制御は、ステップS-651Sに戻る。ただし、通常は、第一実施形態から第五実施形態と同じく、ステップS-653SとステップS-651Sとの間には、所定の時間を空けることが望ましい。具体的には、タッチロール530Sの位置から、偏光カメラ240Sの位置まで、フィルム(溶融フィルム又は樹脂フィルム)を搬送するために要する時間以上の時間を空けることが望ましい。
【0163】
このように、ステップS-651SからステップS-653Sまでを繰り返すことにより、タッチロール530Sのタッチ圧が、フィルム端部30Sでの面内レターデーションReが閾値以上となるように調整されるので、偏光カメラ240Sで測定される面内レターデーションReには、閾値より小さい値が含まれなくなる。そうすると、ステップS-652Sにおいて、情報判定部652Sが、情報取込部651Sによって取り込まれた面内レターデーションReに閾値よりも小さい値が含まれない、と判定する。このように情報判定部652Sが判定した場合、S側制御部650Sにおける処理を完了する。
【0164】
また、制御部650のK側制御部650Kにおいても、情報取込部651K、情報判定部652K及びピニング条件調整部653Kが、S側制御部650Sの情報取込部651S、情報判定部652S及びピニング条件調整部653Sが行ったのと同じ手順で、フィルム端部30Kでの面内レターデーションReを閾値以上にするようにタッチ圧を調整する制御を行う。このとき、情報判定部652Kで採用される面内レターデーションReの閾値は、情報判定部652Sで採用される閾値と異なっていてもよいが、両方のフィルム端部30S及び30Kでの拘束力を均一にする観点では、同じであることが好ましい。
【0165】
したがって、第五工程を行うことにより、樹脂フィルム10のフィルム端部30S及びフィルム端部30Kの両方において、面内レターデーションReを閾値以上にできる。このように閾値以上の面内レターデーションReが測定されている状態では、ピニング処理によって十分に大きい拘束力が、溶融フィルム20のフィルム端部30S及び30Kの両方で得られる。よって、このときのピニング処理の処理条件を維持しながら、前記の第一工程~第三工程による樹脂フィルム10の製造を更に続けることにより、搬送不具合及び破断を抑制しながら、樹脂フィルム10の製造を行うことができる。したがって、製品として得られる樹脂フィルムの面積を広くできるので、高い樹脂得率を達成することができる。また、本実施形態によれば、第一実施形態から第五実施形態と同じ利点を得ることができる。
【0166】
[7.変形例]
以上、本発明の第一実施形態から第六実施形態について説明したが、本発明は、更に変更して実施してもよい。
例えば、樹脂フィルム10の製造方法は、上述した工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。任意の工程としては、例えば、樹脂フィルム10を延伸する延伸工程、樹脂フィルム10のフィルム端部30S及び30Kを切り除くトリミング工程、樹脂フィルム10を任意のフィルムと貼り合わせる貼合工程、樹脂フィルムの表面に表面処理を施す表面処理工程、樹脂フィルムを巻き取って回収する巻回工程、などが挙げられる。通常、これらの任意に工程を行う場合、通常は、任意の工程を行う前の樹脂フィルム10に、センサによる光学特性の測定が行われる。
【0167】
例えば、配向角θ及び面内レターデーションReのような光学特性の情報は、上述した実施形態で用いたような当該光学特性そのものの情報に限定されず、当該光学特性の情報を含む別の情報であってもよい。具体例を挙げると、樹脂フィルムの厚み方向の両側に偏光子をクロスニコルで配置し、一方の偏光子、樹脂フィルム及び他方の偏光子をこの順で透過する光の光量を光学特性として採用してもよい。前記の光量は、樹脂フィルムの配向角θ及び面内レターデーションReに相関がある。よって、前記の光量の情報を光学特性として用いても、配向角θ又は面内レターデーションθに間接的に基づく適切なフィードバック制御が可能である。
【0168】
[8.熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂には、格別の制限は無く、熱可塑性の重合体を含む任意の樹脂を用いうる。重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステルの重合体としてのアクリルポリマー;ポリビニルアルコール;ポリカーボネート;ポリアリレート;セルロースエステル重合体;ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;ポリアリルサルホン;ポリ塩化ビニル;ノルボルネン系重合体等の、脂環式構造を含有する重合体;棒状液晶ポリマーなどが挙げられる。用語「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル及びそれらの組み合わせを包含する。重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、重合体は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。
【0169】
熱可塑性樹脂は、結晶構造を有していない非晶性樹脂であることが好ましい。非晶性樹脂は、結晶性樹脂と比較して(1)透明性が高い、(2)冷却硬化時の容積変化が少ない、(3)寸法精度を出しやすい、(4)吸水性が少ないなどの性質を有しており、従って光学フィルムの材料として特に好適に用いうる。非晶性樹脂を用いる場合は、具体的には、各種の熱可塑性樹脂の中から非晶性のものを適宜選択し採用しうる。
【0170】
これらの中でも、機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性に優れることから、脂環式構造を含有する重合体を含む樹脂が好ましい。また、脂環式構造を含有する重合体は、一般に、帯電を生じにくく、誘電率が3.5以下と低い。よって、静電ピニング処理を用いる場合、拘束力の適切な調整が、従来は難しかった。そこで、このように従来は難しかった拘束力の調整を容易に行えるという本発明の効果を有効に活用する観点では、本発明は、脂環式構造を含有する重合体を含む樹脂フィルムの製造を静電ピニング処理を用いて行う場合に適用することが望ましい。
【0171】
脂環式構造を含有する重合体は、その重合体の構造単位が脂環式構造を含有する。脂環式構造を含有する重合体は、通常、耐湿熱性に優れる。そのため、脂環式構造を含有する重合体を用いることにより、樹脂フィルムの耐湿熱性を良好にできる。
【0172】
脂環式構造を含有する重合体は、主鎖に脂環式構造を有していてもよく、側鎖に脂環式構造を有していてもよい。中でも、機械的強度及び耐熱性の観点から、主鎖に脂環式構造を含有する重合体が好ましい。
【0173】
脂環式構造としては、例えば、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などが挙げられる。中でも、機械的強度及び耐熱性の観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0174】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下の範囲である。脂環式構造を構成する炭素原子数がこの範囲にある場合、脂環式構造を含有する重合体を含む樹脂の機械的強度、耐熱性及び成形性が高度にバランスされる。
【0175】
脂環式構造を含有する重合体において、脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造を含有する重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合がこの範囲にある場合、脂環式構造を含有する重合体を含む樹脂の透明性及び耐熱性が良好である。
【0176】
脂環式構造を含有する重合体としては、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物が挙げられる。これらの中でも、透明性及び成形性が良好であるので、ノルボルネン系重合体及びこの水素化物がより好ましい。
【0177】
ノルボルネン系重合体及びその水素化物の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びその水素添加物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びその水素添加物が挙げられる。また、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体との開環共重合体が挙げられる。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体との付加共重合体が挙げられる。これらの重合体としては、例えば、特開2002-321302号公報等に開示されている重合体が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物は、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性の観点から、特に好適である。
【0178】
ノルボルネン系重合体及びこれらの水素添加物の好適な具体例としては、日本ゼオン社製「ゼオノア」;JSR社製「アートン」;TOPAS ADVANCED POLYMERS社製「TOPAS」などが挙げられる。
【0179】
重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。重量平均分子量がこのような範囲にある場合、この重合体を含む層の機械的強度および成型加工性が高度にバランスされる。
【0180】
重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.7以下である。ここで、Mnは、数平均分子量を表す。分子量分布が前記範囲の下限値以上である場合、重合体の生産性を高め、製造コストを抑制できる。また、上限値以下である場合、低分子成分の量が小さくなるので、高温曝露時の緩和を抑制して、その重合体を含む層の安定性を高めることができる。
【0181】
前記の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、溶媒としてシクロヘキサンを用いた(但し、試料がシクロヘキサンに溶解しない場合にはトルエンを用いてもよい)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、ポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量として測定しうる。
【0182】
重合体のガラス転移温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上であり、好ましくは170℃以下、より好ましくは150℃以下、特に好ましくは140℃以下である。重合体のガラス転移温度が、前記範囲の下限値以上である場合に、高温環境下における樹脂フィルムの耐久性を高めることができ、前記範囲の上限値以下である場合に、樹脂フィルムの延伸処理を容易に行える。
【0183】
熱可塑性樹脂における重合体の量は、好ましくは90.0重量%~100重量%、より好ましくは95.0重量%~100重量%である。重合体の量が前記範囲にある場合、樹脂フィルムの耐湿熱性及び機械的強度を効果的に高めることができる。
【0184】
熱可塑性樹脂は、上述した重合体に組み合わせて、更に任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、可塑剤;蛍光増白剤;分散剤;熱安定剤;光安定剤;帯電防止剤;酸化防止剤;界面活性剤;紫外線吸収剤;等の配合剤が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0185】
熱可塑性樹脂の比誘電率は、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.5以下である。一般に、比誘電率が低い熱可塑性樹脂で形成されたフィルムは、帯電を生じ難く、よって、静電ピニング処理を用いる場合、拘束力の適切な調整が従来は難しかった。これに対し、上述した製造方法によれば、このように従来は難しかった拘束力の調整を容易に行いながら樹脂フィルムの製造が可能である。よって、この効果を有効に活用する観点では、静電ピニング処理を用いて製造される樹脂フィルムの材料としては、前記のように比誘電率が低い熱可塑性樹脂が望ましい。熱可塑性樹脂の比誘電率は、IEC250に従った方法により、precision LCR meter HP4284A により測定できる。
【0186】
[9.樹脂フィルム]
上述した製造方法によって製造される樹脂フィルムの具体的な用途は、特に制限は無く、各種の用途に用いることができる。樹脂フィルムは、例えば、偏光板保護フィルム、光学補償フィルム、位相差フィルム及び光学用支持フィルム等の光学フィルムとして用いてもよい。
【0187】
樹脂フィルムは、光学部材としての機能を安定して発揮させる観点から、可視領域において高い光線透過率を有することが好ましい。具体的には、樹脂フィルムの測定波長430nm~700nmにおける全光線透過率は、好ましくは70%~100%、より好ましくは80%~100%、特に好ましくは90%~100%である。この全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長430nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0188】
樹脂フィルムは、当該樹脂フィルムを組み込んだ画像表示装置の画像鮮明性を高める観点から、ヘイズが小さいことが好ましい。光学フィルムの具体的なヘイズは、好ましくは1%以下、より好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.5%以下である。ヘイズは、JIS K7361-1997に準拠して、濁度計を用いて測定しうる。
【0189】
樹脂フィルムは、面内レターデーションReを実質的に有さない光学等方性のフィルムであってもよく、用途に応じた大きさの面内レターデーションReを有する光学異方性のフィルムであってもよい。光学異方性の樹脂フィルムは、例えば、樹脂フィルムを延伸する工程を含む製造方法によって製造できる。
【0190】
樹脂フィルムの厚さは、使用目的に応じて適宜調整でき、好ましくは10~200μm、より好ましくは30~150μmでありうる。
【0191】
樹脂フィルムの寸法は、特に制限はないが、通常は、長尺の樹脂フィルムとしうる。それにより、効率的な製造を行うことができる。「長尺」とは、幅に対して、5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。樹脂フィルムの幅方向の寸法は、使用目的に応じて適宜調整でき、好ましくは500~3000mm、より好ましくは800~2000mmでありうる。
【実施例】
【0192】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。以下の操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中にて行った。
【0193】
[実施例1]
(1-1.熱可塑性樹脂の用意)
熱可塑性樹脂として、ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製「ゼオノア」)を用意した。この熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgは、120℃である。
【0194】
(1-2.装置の用意)
スリット状の吐出口を形成されたダイを備えた押出機と、ダイから押し出された熱可塑性樹脂で形成される溶融フィルムを受けうる周面を有するキャストロールと、キャストロールの周面へと押し出された溶融フィルムのS側のフィルム端部に電荷を付与できるピニング装置としてのピニング針と、溶融フィルムのK側のフィルム端部に電荷を付与できるピニング装置としてのピニング針と、を備えるフィルム製造装置を用意した。本実施例において、「S側のフィルム端部」とは、溶融フィルムのS側の縁からの距離が0mm~30mmの部分を表し、「K側のフィルム端部」とは、溶融フィルムのK側の縁からの距離が0mm~30mmの部分を表す。
【0195】
(1-3.フィードバック制御)
熱可塑性樹脂を押出機に供給し、溶融させた。この溶融した熱可塑性樹脂を、ダイからフィルム状に押し出した。押し出された熱可塑性樹脂で形成された溶融フィルムは、周方向に回転するキャストロールの周面で受けられ、キャストロールの回転によりMD方向に搬送された。搬送される期間に熱可塑性樹脂が冷却され、溶融フィルムが硬化して、幅2260mmの長尺の樹脂フィルムが得られた。得られた樹脂フィルムは、キャストロールから回収装置に送出され、回収装置で巻き取られて回収された。
【0196】
前記の樹脂フィルムの製造過程の最初の時点では、S側のピニング針及びK側のピニング針のいずれも、ピニング電圧は-6.0kVであった。そこで、下記の要領により、ピニング電圧のフィードバック制御を行った。
すなわち、キャストロールから送出されて回収装置で回収されるまでの場所で、偏光カメラ(フォトロン社製の偏光ラインカメラ「KAMAKIRI」)を用いて、S側のフィルム端部における樹脂フィルムの配向角θを測定した。この際の測定は、光源(シーシーエス社製の白色ライン照明「LNSP2-800SW」)で樹脂フィルムを照らしながら行った。測定された配向角θの測定値が75°未満である場合、当該S側端部に対応するS側のピニング針のピニング電圧の大きさを、0.1kV上昇させた。この配向角θの測定と、ピニング電圧の大きさの上昇制御とを、1秒毎に、配向角θの測定値が75°以上となるまで繰り返すフィードバック制御を行った。
また、S側のフィルム端部と同じく、K側のフィルム端部においても、K側のフィルム端部における樹脂フィルムの配向角θに基づくK側静電ピニング装置のピニング電圧の大きさのフィードバック制御を行った。
【0197】
(1-4.製造された樹脂フィルムの評価)
S側及びK側の両方のピニング針のピニング電圧のフィードバック制御が完了した後で、ピニング電圧の大きさを一定に保った状態で、幅2260mmの樹脂フィルムの製造を続けた。
【0198】
フィードバック制御の完了後の樹脂フィルムの製造中に、樹脂フィルムの厚みを測定した。厚みの測定は、赤外線膜厚計(クラボウ社製「RX-100])を樹脂フィルムの幅方向に3m/minで往復するように走査させながら、50mm間隔で行った。これらの測定結果から、樹脂フィルム全体の厚みの平均値Tave及び標準偏差σTを求めた。
【0199】
また、フィードバック制御の完了後の樹脂フィルムの製造中に、樹脂フィルムの蛇行量を測定した。この「蛇行量」は、樹脂フィルムのS側の縁の幅方向における移動量を表す。具体的には、キャストロールから樹脂フィルムが送出される地点において、樹脂フィルムのS側の縁が最もS側にきた時点での当該縁の位置と、樹脂フィルムのS側の縁が最もK側にきた時点での当該縁の位置との、フィルム幅方向における距離を、前記の蛇行量として測定した。この測定は、CCD透過型デジタルレーザセンサ(キーエンス社製「IG-028」)を用いて行った。
【0200】
さらに、フィードバック制御が完了した時点で、S側のフィルム端部における樹脂フィルムの配向角θ及び面内レターデーションReを、前記の偏光カメラで測定した。
【0201】
また、フィードバック制御の完了後の樹脂フィルムの製造中に、S側のピニング針及びK側のピニング針による処理部を観察して、ピニング針とキャストロールとの間にスパークが生じないかを調べた。
【0202】
さらに、フィードバック制御の完了後に製造された樹脂フィルムを観察して、シワの発生の有無を調べた。
【0203】
また、フィードバック制御の完了後の樹脂フィルムから、シワ又は破断がある部分を除去し、製品フィルムを得た。この製品フィルムの重量を、当該製品フィルムを製造するために押し出した熱可塑性樹脂の重量で割り算して、樹脂得率を求めた。
【0204】
[実施例2]
初期ピニング電圧を-8.0kVに変更したこと以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0205】
[実施例3]
初期ピニング電圧を-10.5kVに変更したこと以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0206】
[比較例1]
ピニング処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0207】
[比較例2]
ピニング電圧のフィードバック処理を行わず、S側のピニング針及びK側のピニング針のいずれのピニング電圧も-4.0kVで一定にしたこと以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0208】
[比較例3]
ピニング電圧のフィードバック処理を行わず、S側のピニング針及びK側のピニング針のいずれのピニング電圧も-15.0kVで一定にしたこと以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0209】
[比較例4]
S側及びK側のピニング装置として、キャストロールの周面へと押し出された溶融フィルムのS側及びK側のフィルム端部にエアを吹き付けうるエアノズルを設けた。また、樹脂フィルムの製造を、前記のエアノズルから一定のエア圧20kPaのエアを溶融フィルムのフィルム端部に吹き付けながら、行った。よって、本比較例では、ピニング条件のフィードバック制御は行っていない。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0210】
[比較例5]
S側及びK側のピニング装置として、キャストロールの周面へと押し出された溶融フィルムのS側及びK側のフィルム端部をキャストロールの周面に押し当てうるタッチロールを設けた。また、樹脂フィルムの製造を、前記のタッチロールによって一定のタッチ圧5N/mmで溶融フィルムのフィルム端部を押し付けながら、行った。よって、本比較例では、ピニング条件のフィードバック制御は行っていない。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、樹脂フィルムの製造及び評価を行った。
【0211】
[結果]
前記の実施例及び比較例の結果を、下記の表に示す。下記の表において、略称の意味は、以下の通りである。
Tave:樹脂フィルムの厚みの平均値。
σT:樹脂フィルムの厚みの標準偏差。
フィルム端部のθ:S側のフィルム端部における樹脂フィルムの配向角。
フィルム端部のRe:S側のフィルム端部における樹脂フィルムの面内レターデーション。
【0212】
【符号の説明】
【0213】
10 樹脂フィルム
20 溶融フィルム
30S、30K フィルム端部
100、200、300、400、500及び600 製造装置
110 押出機
111 ダイ
120 キャストロール
121 キャストロールの周面
122 キャストロールの軸
130S、130K ピニング針
140S、140K、240S、240K 偏光カメラ
150、250、350、450、550、650 制御部
160 搬送ロール
240S、240K 偏光カメラ
330S、330K エアノズル
530S、530K タッチロール