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特許7136065熱伝導性シリコーン組成物及び熱伝導性シリコーンシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物及び熱伝導性シリコーンシート
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20220906BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20220906BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20220906BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220906BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20220906BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K3/01
C08K3/11
C08K3/22
C08K5/5415
C08L83/05
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019205901
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021080311
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇則
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】宮野 萌
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-178821(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121563(WO,A1)
【文献】特開2015-071662(JP,A)
【文献】特開2013-112809(JP,A)
【文献】特開昭62-184058(JP,A)
【文献】特開2017-101171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/07
C08K 3/01
C08K 3/11
C08K 3/22
C08K 5/5415
C08L 83/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子の個数が(A)成分のアルケニル基の個数の0.2~2.0倍量となる量、
(C)平均粒径が50~120μmである酸化マグネシウム、平均粒径が1~70μmである酸化アルミニウム及び平均粒径1~50μmである水酸化アルミニウムを含む熱伝導性充填材:2500~5000質量部、
(D)熱伝導性充填材の表面処理剤として下記一般式(1)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン:100~300質量部、
【化1】
(式(1)中、R5は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
(E)白金族金属系硬化触媒:(A)成分に対して白金族金属元素の質量換算で0.1~1000ppm 及び
(F)付加反応制御剤:有効量
を含む熱伝導性シリコーン組成物であって、
(C)成分の熱伝導性充填材が、酸化マグネシウムが(C)成分の総量に対して20~40質量%、酸化アルミニウムが(C)成分の総量に対して40~60質量%、水酸化アルミニウムが(C)成分の総量に対して10~30質量%含むものである熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記熱伝導性シリコーン組成物の粘度が10~120Pa・sである請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記酸化マグネシウムの平均粒径が50~90μmである請求項1又は2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
前記酸化アルミニウムの平均粒径が1~50μmである請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
前記水酸化アルミニウムの平均粒径5~20μmである請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項6】
硬化物の密度が3.0g/cm3以下、熱伝導率が3.8W/mK以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項7】
硬化物のアスカーC硬度が60以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物の硬化物である熱伝導性シリコーンシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に熱伝導による電子部品の冷却のために、発熱性電子部品の熱境界面とヒートシンク又は回路基板などの放熱部材との界面に、好適に使用される熱伝達材料に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューター、デジタルビデオディスク、携帯電話等の電子機器に使用されるCPU、ドライバICやメモリー等のLSIチップは、高性能化・高速化・小型化・高集積化に伴い、それ自身が大量の熱を発生するようになり、その熱によるチップの温度上昇はチップの動作不良、破壊を引き起こす。そのため、動作中のチップの温度上昇を抑制するための多くの熱放散方法及びそれに使用する熱放散部材が提案されている。
【0003】
従来、電子機器等においては、動作中のチップの温度上昇を抑えるために、アルミニウムや銅等の熱伝導率の高い金属板を用いたヒートシンクが使用されている。このヒートシンクは、そのチップが発生する熱を伝導し、その熱を外気との温度差によって表面から放出する。
チップから発生する熱をヒートシンクに効率よく伝えるために、ヒートシンクをチップに密着させる必要があるが、各チップの高さの違いや組み付け加工による公差があるため、柔軟性を有するシートや、グリースをチップとヒートシンクとの間に介装させ、このシート又はグリースを介してチップからヒートシンクへの熱伝導を実現している。
シートはグリースに比べ、取り扱い性に優れており、熱伝導性シリコーンゴム等で形成された熱伝導シート(熱伝導性シリコーンゴムシート)は様々な分野に用いられている。
【0004】
特許文献1には、シリコーンゴム等の合成ゴム100質量部に酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、水和酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上の金属酸化物を100~800質量部配合した絶縁体組成物が開示されている。
また、絶縁性を必要としない場所に用いられる放熱材料として、特許文献2には、付加硬化型シリコーンゴム組成物にシリカ及び銀、金、ケイ素等の熱伝導性粉末を60~500質量部配合した組成物が開示されている。
【0005】
しかし、これらの熱伝導性材料は、いずれも熱伝導率が低く、また、熱伝導性を向上させるために熱伝導性充填材を多量に高充填すると、液状シリコーンゴム組成物の場合は流動性が低下し、ミラブルタイプのシリコーンゴム組成物の場合は可塑度が増加して、いずれも成形加工性が非常に悪くなるという問題があった。
【0006】
そこで、これを解決する方法として、特許文献3には、平均粒径5μm以下のアルミナ粒子10~30質量%と、残部が単一粒子の平均粒径10μm以上であり、かつカッティングエッジを有しない形状である球状コランダム粒子からなるアルミナを充填してなる高熱伝導性ゴム・プラスチック組成物が開示されている。また、特許文献4には、平均重合度6,000~12,000のガム状のオルガノポリシロキサンと平均重合度200~2,000のオイル状のオルガノポリシロキサンを併用したベースと球状酸化アルミニウム粉末500~1,200質量部からなる熱伝導性シリコーンゴム組成物が開示されている。
【0007】
シリコーン組成物の熱伝導率を上げるためには、ポリマーに対して熱伝導性充填材をより高充填する方法が一般的である。しかしながら、熱伝導性充填材は、酸化アルミニウム(比重3.9)や、酸化亜鉛(比重5.6)に代表されるように、その比重がシリコーンポリマーと比較して大きいため、充填量を増やせば増やすほど組成物の比重が大きくなる傾向がある。また酸化アルミニウムはモース硬度が9と硬く、シリコーン樹脂と混錬する際に、反応釜の内壁や攪拌羽の摩耗が進行しやすい。
【0008】
近年、リチウムイオンバッテリーが搭載される電気自動車はさらなる長距離走行を実現するために、車体全体の軽量化が課題となっている。また、人が直接身に着けるモバイル機器・ウェラブル機器においてもその重量は無視できない点となる。特許文献5では比重の小さな水酸化アルミニウムをシリコーンポリマーに充填した比重2.0程のシリコーン組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭47-32400号公報
【文献】特開昭56-100849号公報
【文献】特開平1-69661号公報
【文献】特開平4-328163号公報
【文献】特開2011-89079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献5の熱伝導性シリコーン組成物は、その硬化物の熱伝導率が1.5W/m・K程度と低く、昨今の大容量化したデバイスから発生する熱を冷却するためには不十分である。また水酸化アルミニウムの充填量を上げることで熱伝導率をさらに高めることは可能であるが、組成物の粘度が急激に上昇しポンプ圧送が困難となる。
また、酸化マグネシウムは比重3.65と酸化アルミニウムよりも軽量でありながら、酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムに比べて高い熱伝導率を示すため、熱伝導性シリコーン樹脂の充填材として期待されるものの、水酸化アルミニウムと同様に高充填時には組成物の粘度を著しく上昇させため、成形が困難となる問題があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、組成物は低粘度で生産性と加工性に優れながら、その硬化物は熱伝導性に優れ軽量である、熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物である熱伝導性シリコーンシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、粒径の異なる酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、及び水酸化アルミニウムと表面処理剤とを巧みに組み合わせ、組成物に高充填することによって、低粘度で加工し易く熱伝導性及び軽量性を両立した硬化物を与える熱伝導性シリコーン組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、次の熱伝導性シリコーン組成物及び熱伝導性シリコーンシートを提供するものである。

[1]
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子の個数が(A)成分のアルケニル基の個数の0.2~2.0倍量となる量、
(C)酸化マグネシウム、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムを含む熱伝導性充填材:2500~5000質量部、
(D)熱伝導性充填材の表面処理剤として下記一般式(1)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン:100~300質量部、
【化1】
(式(1)中、R5は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
(E)白金族金属系硬化触媒:(A)成分に対して白金族金属元素の質量換算で0.1~1000ppm 及び
(F)付加反応制御剤:有効量
を含む熱伝導性シリコーン組成物であって、
(C)成分の熱伝導性充填材が、酸化マグネシウムが(C)成分の総量に対して20~40質量%、酸化アルミニウムが(C)成分の総量に対して40~60質量%、水酸化アルミニウムが(C)成分の総量に対して10~30質量%含むものである熱伝導性シリコーン組成物。
[2]前記熱伝導性シリコーン組成物の粘度が10~120Pa・sである[1]に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
[3]前記酸化マグネシウムの平均粒径が50~120μmである[1]又は[2]に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
[4]前記酸化アルミニウムの平均粒径が1~70μmである[1]~[3]のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
[5]前記水酸化アルミニウムの平均粒径1~50μmである[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
[6]硬化物の密度が3.0g/cm3以下、熱伝導率が3.8W/mK以上である[1]~[5]のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
[7]硬化物のアスカーC硬度が60以下である[1]~[6]のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
[8][1]~[7]のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物の硬化物である熱伝導性シリコーンシート。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、低粘度で加工しやすい。また、その硬化物は熱伝導率が3.8W/mK以上と熱伝導性に優れ、密度が3.0g/cm3以下と軽量であるため、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、軽量化が求められる電気自動車、モバイル機器・ウェラブル機器用の放熱材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、
(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)熱伝導性充填材、
(D)表面処理剤、
(E)白金族金属系硬化触媒 及び
(F)付加反応制御剤
を必須成分として含有する。
【0015】
[オルガノポリシロキサン]
(A)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンであり、本発明の組成物の主剤となるものである。主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるのが一般的であるが、これは分子構造の一部に分枝状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよいが、硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0016】
ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の基としては、非置換又は置換の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、又はシアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。これらの中でも、(A)成分のオルガノポリシロキサンのケイ素原子に結合するアルケニル基以外の基としては、好ましくは炭素原子数が1~10、より好ましくは炭素原子数が1~6のものであり、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1~3の非置換又は置換のアルキル基及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基である。また、ケイ素原子に結合したアルケニル基以外の基は全てが同一であってもよい。
【0017】
また、アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の通常炭素原子数2~8程度のものが挙げられ、中でもビニル基、アリル基等の低級アルケニル基が好ましく、特に好ましくはビニル基である。なお、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、アルケニル基が、1分子中に2個以上存在するものであり、得られる硬化物の柔軟性をよくするため、分子鎖末端のケイ素原子にのみにアルケニル基が結合しているものが好ましい。
【0018】
このオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、通常、10~100,000mm2/s、特に好ましくは300~50,000mm2/sの範囲である。前記粘度が低すぎると、得られる組成物の保存安定性が悪くなり、また高すぎると得られる組成物の伸展性が悪くなる場合がある。なお、動粘度はオストワルド粘度計を用いた場合の25℃における値である。
【0019】
この(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独でも、粘度が異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。組成物中の(A)成分の配合量は、0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0020】
[オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に2個以上、好ましくは2~100個のケイ素原子に直接結合する水素原子(Si-H基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A)成分の架橋剤として作用する成分である。即ち、(B)成分中のSi-H基と(A)成分中のアルケニル基とが後述の(E)成分の白金族金属系硬化触媒により促進されるヒドロシリル化反応により付加して、得られる硬化物に架橋構造を有する3次元網目構造を与える。なお、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのSi-H基の数が1個以下の場合、硬化しないおそれがある。
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの平均構造式は以下のように表される。
【化2】
(式(3)中、R7は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基あるいは水素原子であり、但し、少なくとも2個は水素原子であり、nは1以上の整数である。)
【0021】
式(3)中、R7の水素以外の脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、又はシアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。これらの中でも、R7の脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基としては、好ましくは炭素原子数が1~10、より好ましくは炭素原子数が1~6のものであり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1~3の非置換又は置換のアルキル基及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基である。また、R7は全てが同一であってもよい。
【0022】
式(3)中、nは1以上の整数であり、好ましくは1~200である。
【0023】
これら(B)成分の添加量は、(B)成分由来のSi-H基が(A)成分由来のアルケニル基1個に対して0.2個から2.0個となる量、好ましくは0.3~1.5個となる量、さらに好ましくは0.5~1.0個となる量である。(B)成分のSi-H基量が(A)成分由来のアルケニル基1個に対して0.2個未満であると組成物が硬化しない場合があり、または硬化物の強度が不十分で成形体としての形状を保持出来ず取り扱えない場合がある。また、(B)成分のSi-H基量が(A)成分由来のアルケニル基1個に対して2.0個を超えると硬化物の柔軟性がなくなり、熱抵抗が著しく上昇してしまう。
【0024】
[熱伝導性充填材]
(C)成分である熱伝導性充填材に関して、本発明では組成物の流動性と成形物の熱伝導性、軽量性の観点から、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、及び水酸化アルミニウムの3種類の熱伝導性充填材を所定量含む。なお、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、及び水酸化アルミニウム以外の熱伝導性充填材を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
酸化マグネシウムは、(C)成分の総量に対して20~40質量%用いる。酸化マグネシウムの配合量が20質量%よりも少ない場合、硬化物(成形体)の熱伝導性が低くなる。配合量が40質量%を超える場合は熱伝導性シリコーン組成物の粘度が上がり硬化物の成形が困難となる。
酸化マグネシウムの平均粒径は50~120μmが好ましく、さらに好ましくは50~90μmである。ここで平均粒径とは、マイクロトラック(レーザー回折散乱法)により粒体の体積分布を測定した際、この平均粒径を境に二つに分けた時、大きい側と小さい側が等量になる径を指す。なお、以下の本文中で記載される平均粒径は、すべてこの内容で定義される。
【0026】
酸化アルミニウムは、(C)成分の総量に対して40~60質量%用いる。酸化アルミニウムの配合量が40質量%よりも少ない場合、表面処理剤の効果が小さくなり熱伝導性シリコーン組成物の粘度が上昇する。酸化アルミニウムの配合量が60質量%よりも多い場合、熱伝導性シリコーン硬化物(成形体)の密度が高くなり軽量化の妨げとなる。酸化アルミニウムの平均粒径は1~70μmが好ましく、さらに好ましくは1~50μmである。
【0027】
水酸化アルミニウムは、(C)成分の総量に対して10~30質量%用いる。水酸化アルミニウムの配合量が10質量%よりも少ない場合、熱伝導性シリコーン硬化物(成形体)を軽量化することが困難である。配合量が30質量%を超える場合は熱伝導性シリコーン硬化物(成形体)の熱伝導性が低下しやすい。水酸化アルミニウムの平均粒径は1~50μmが好ましく、さらに好ましくは5~20μmである。
【0028】
(C)成分の総質量部としては、(A)成分100質量部に対して、2500~5000質量部である。この配合量が2500質量部未満の場合には、得られる硬化物(成形体)の熱伝導率が小さくなる上、熱伝導性充填材の沈降により保存安定性に乏しいものになることがある。また5000質量部を超える場合には、組成物の粘度が高くなり、ポンプ搬送が著しく悪化することがある。
【0029】
[表面処理剤]
表面処理剤(D)成分は組成物調製の際に、(C)成分である熱伝導性充填材を(A)成分を主成分とするマトリックス中に均一に分散させることを目的として配合する。(D)成分は一般式(1)
【化3】
(式(1)中、R5は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
で表される分子鎖片末端がトリアルコキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサンである。
式(1)中のR5で表される炭素原子数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基及びヘキシル基等が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。
【0030】
(D)成分は(A)成分100質量部に対して100~300質量部であり、特に100~200質量部であることが好ましい。(D)成分が100質量部未満である場合、熱伝導性シリコーン組成物中の熱伝導性充填材の分散性が低下し組成物の粘度が大きくなる。配合量が300質量部を超える場合、熱伝導性充填材を希釈することになるため熱伝導性が低下するおそれがある。
【0031】
[白金族金属系硬化触媒]
(E)成分の白金族金属系硬化触媒は(A)成分由来のアルケニル基と、(B)成分由来のSi-H基との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KaHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属を酸化アルミニウム、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム-オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックスなどが挙げられる。(E)成分の使用量は、所謂触媒量でよく、通常、(A)成分に対する白金族金属元素の質量換算で、0.1~1000ppm程度がよい。
【0032】
[付加反応制御剤]
(F)成分として、付加反応制御剤は通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応制御剤を全て用いることが出来る。例えば、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、3-ブチン-1-オール、エチニルメチリデンカルビノールなどのアセチレン化合物、窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。(F)成分の使用量としては、(A)成分100質量部に対して0.01~1質量部程度が望ましい。
【0033】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上記した成分に加え、本発明の目的を損なわない範囲で、更に、内添離型剤、着色材、酸化防止剤等を配合してもよい。内添離型剤としては、メチルフェニルポリシロキサンなどのフェニル変性シリコーン等が挙げられ、その配合量は(A)成分100質量部に対して1~50質量部である。
【0034】
[組成物の製造方法]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上記した各成分を均一に混合することにより製造される。混合方法は、従来公知の方法に従えばよく、混合する装置としては、プラネタリーミキサー等が挙げられる。また、配合する全成分を一度に混合してもよく、1種又は2種以上の成分を数段階に分けて混合してもよいが、(C)成分及び(D)成分は同時に配合することが好ましい。
【0035】
[組成物の粘度]
硬化前の熱伝導性シリコーン組成物の粘度は、10~120Pa・sであることが好ましく、30~100Pa・sであることがより好ましい。組成物の粘度が120Pa・sを超える場合、必要量をポンプ圧送する際の時間が長くなり生産性が低下するだけでなく、ポンプ圧送自体が困難となる場合がある。粘度が10Pa・sに満たない場合、成形時に硬化前に金型から流れ出たり、コーターを使用する場合に必要な厚みを維持することが困難となったりする場合がある。
【0036】
[熱伝導性シリコーン成形体の製造方法]
熱伝導性シリコーン組成物の硬化条件は、公知の付加反応硬化型シリコーン組成物と同様でよく、例えば100~150℃で1~20分間であり、好ましくは120℃で10分間である。
硬化は、本発明の熱伝導性シリコーン組成物を2枚の樹脂フィルムにはさみ、100~150℃、1~20分間、プレスしながら硬化することが好ましく、このような方法により、本発明の熱伝導性シリコーン成形体(例えば、熱伝導性シリコーンシート)を得ることができる。
使用する樹脂フィルムとしては、貼り合わせ後の熱処理に耐えうる、熱変形温度が100℃以上のもの、例えば、PET、PBT、ポリカーボネート製のフィルムから適時選択して用いることができる。樹脂フィルムに本発明の熱伝導性シリコーン組成物を均一な厚さに塗布するコーティグ装置としては、後計量方式のブレードコータ、グラビアコータ、キスロールコータ、スプレイコータ等が挙げられる。
【0037】
[硬化物(成形体)の熱伝導率・密度]
本発明における硬化物(成形体)の熱伝導率は、ホットディスク法により測定した25℃における測定値が3.8W/mK以上であることが好ましく、さらに好ましくは4.0W/mK以上である。熱伝導率が3.8W/mK未満であると、発熱量の大きな発熱体に適用することが困難となる。なお、硬化物(成形体)の熱伝導率の上限は特に限定されないが、組成物中で最も高い酸化マグネシウムの熱伝導率40W/mK以下である。
また、本発明における硬化物(成形体)の密度は、水中置換法により測定した値が3.0g/cm3以下であることが好ましい。なお、硬化物(成形体)の密度の下限は特に限定されないが、通常2.4g/cm3以上である。
上記硬化物(成形体)の熱伝導率及び密度は、本発明の熱伝導性シリコーン組成物を、120℃で10分間硬化したときの値である。
【実施例
【0038】
[組成物の調製]
下記実施例に用いられている(A)~(F)成分を下記に示す。
(A)成分
下記式で表されるオルガノポリシロキサン
【化4】
上記式中、Xはビニル基であり、nは粘度を400mm2/sとする数である。
【0039】
(B)成分
下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化5】
上記式中、o=28、p=2であり、それぞれ平均重合度である。
【0040】
(C)成分
平均粒径が下記の通りである各種熱伝導性充填材
(C-1)平均粒径:60μm:酸化マグネシウム
(C-2)平均粒径:90μm:酸化マグネシウム
(C-3)平均粒径: 1μm:酸化アルミニウム
(C-4)平均粒径:10μm:酸化アルミニウム
(C-5)平均粒径:70μm:酸化アルミニウム
(C-6)平均粒径: 8μm:水酸化アルミニウム
(C-7)平均粒径:50μm:水酸化アルミニウム
【0041】
(D)成分
下記式で表される分子鎖片末端がトリメトキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化6】
上記式中、c=30であり、R5はMe(メチル基)である。
【0042】
(E)成分
5%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液
【0043】
(F)成分
エチニルメチリデンカルビノール
【0044】
[実施例1~8、比較例1~8]
表1及び表2に示す配合で下記成分を順次加えた。まず、(A)、(C)、及び(D)成分をプラネタリーミキサーで60分間混練した。
該プラネタリーミキサーに(E)成分、(F)成分を加え、セパレータとの離型を促す内添離型剤としてフェニル変性シリコーンオイルであるKF-54(信越化学工業製)を有効量加え、さらに60分間混練した。該プラネタリーミキサーにさらに(B)成分を加え、30分間混練し、熱伝導性シリコーン組成物を得た。
【0045】
[成形方法]
調製した熱伝導性シリコーン組成物を60mm×60mm×6mmの金型に流し込み、金型開口部をPETフィルム2枚ではさんだ後、プレス成形機を用い、120℃,10分間硬化させることで熱伝導性シリコーン成形体(熱伝導性シリコーンシート)を得た。
【0046】
[評価方法]
粘度:
加熱硬化前の熱伝導性シリコーン組成物の粘度は、粘度・粘弾性測定装置(HAAKE MARS 40/60)により、組成物温度25℃、せん断速度10s-1で測定した。
熱伝導率:
下記実施例1~8及び比較例1~8で得られた6mm厚の成形体を2枚用いて、熱伝導率計(TPA-501、京都電子工業株式会社製の商品名)により該成形体の熱伝導率を測定した。
密度:
熱伝導性シリコーン成形体の密度を水中置換法により測定した。
硬度:
熱伝導性シリコーン成型体の硬度をSRIS0101に規定されているアスカーC硬度計で測定した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
実施例1~8で得られた熱伝導性シリコーン組成物及び該組成物を硬化した熱伝導性シリコーンシートは、粒径の異なる酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、及び水酸化アルミニウムと表面処理剤とを適切な割合で高充填することにより、組成物は粘度120Pa・s以下、シートは熱伝導率3.8W/mK以上、密度3.0g/cm3以下を示した。
比較例1は、熱伝導性充填材の総量が2500質量部より少ないため、シートの熱伝導率が3.8W/mKを下回り、発熱量の大きな部品の放熱用途に適さない。
比較例2は、熱伝導性充填材の総量が5000質量部より多いため、熱伝導性充填材を適切な組み合わせで配合しても組成物の粘度が120Pa・s超となった。
比較例3は、酸化マグネシウムの割合が20w%よりも少ないため、シートの熱伝導率が3.8W/mKを下回った。
比較例4は、酸化マグネシウムの割合が40w%よりも多いため、粘度上昇が著しく組成物を混錬することができなかった。
比較例5は、酸化アルミニウムの割合が40w%よりも少ないため、表面処理剤の効果が小さく組成物を混錬することができなかった。
比較例6は、酸化アルミニウムの割合が60w%よりも多いため、シートの密度が3.0g/cm3超となった。
比較例7は、水酸化アルミニウムの割合が10w%よりも少ないため、シートの密度が3.0g/cm3超となった。
比較例8は、水酸化アルミニウムの割合が30w%よりも多いため、シートの熱伝導率が3.8W/mK未満、組成物の粘度が120Pa・s超となった。