(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】回折光学素子、投影装置及び計測装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20220906BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20220906BHJP
G01B 11/255 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
G02B5/18
G03B21/14 A
G01B11/255 G
(21)【出願番号】P 2019519601
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2018018973
(87)【国際公開番号】W WO2018216575
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017104668
(32)【優先日】2017-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 浩司
(72)【発明者】
【氏名】村上 亮太
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-259132(JP,A)
【文献】国際公開第2012/018017(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/084442(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/016559(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/097816(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106324898(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元の位相分布を発生させる凹凸パターンを有し、入射光を2次元に回折して複数の回折光を発生させる回折光学素子であって、
透明基材と、前記透明基材の一方の表面に接して備えられた凹凸部と、前記凹凸部の凹部を充填するとともに前記凹凸部の凸部の上面を覆って前記凹凸部を平坦化する充填部とを備え、
前記凹凸部は、前記透明基材の前記表面上に2段以上の段を構成するとともに、各段の上面が互いに平行であり、前記透明基材の前記表面の法線方向から入射する前記入射光に対する、前記透明基材、前記凹凸部及び前記充填部のうち、少なくとも前記凹凸部と前記充填部の屈折率が異なり、前記入射光に対する、前記透明基材、前記凹凸部及び前記充填部の屈折率をそれぞれ、n1、n2、n3としたとき、いずれの値も2.2以下であり、|n1-n3|≦
0.2であり、|n2-n3|≧
0.45であることを特徴とする回折光学素子。
【請求項2】
前記入射光が前記法線方向から入射して発生する複数の回折光の各々である光スポットがなす対角方向の角度が7.5°以上である、請求項1に記載の回折光学素子。
【請求項3】
前記入射光が前記法線方向から入射して発生する複数の回折光の各々である光スポットの数が4以上である、請求項1又は2に記載の回折光学素子。
【請求項4】
n3<n1<n2、又は、n2<n1<n3の関係を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項5】
前記充填部の一部は、入射光の有効領域内において前記透明基材に接しており、
前記有効領域内において、前記凹凸部と前記充填部のうち屈折率の高い部材が前記透明基材と接する界面の面積に対する、前記凹凸部及び前記充填部が前記透明基材と接する界面の面積の割合をAとしたとき、A<50%を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項6】
前記凹凸部は、少なくとも入射光の有効領域内において前記透明基材の表面を覆う第1の層を含み、前記充填部は、前記透明基材に接することなく、前記凹凸部を平坦化する、請求項1~5のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項7】
n2>n3であってn1、n2及びn3がいずれも1.96以下であるか、又は、n2<n3であってn1、n2及びn3がいずれも2.1以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項8】
前記凹凸部のいずれかの段において、前記透明基材から当該段の上面までの距離が、前記入射光の全波長域に含まれる波長のうち所定の設計波長の半波長の整数倍の光路長に相当する、請求項1~7のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項9】
前記凹凸部の段数は4段以上であり、
前記凹凸部の段数のうち半数以上の段において、前記透明基材から当該段の上面までの距離が、前記入射光の全波長域に含まれる波長のうち所定の設計波長の半波長の整数倍の光路長に相当する、請求項8に記載の回折光学素子。
【請求項10】
2次元の位相分布を発生させる凹凸パターンを有し、入射光を2次元に回折して複数の回折光を発生させる回折光学素子であって、
透明基材と、前記透明基材の一方の面上に備えられた凹凸部と、前記凹凸部の凹部を充填するとともに前記凹凸部の凸部の上面を覆って前記凹凸部を平坦化する充填部とを備え、
前記凹凸部は、前記透明基材の表面上に2段以上の段を構成するとともに、各段の上面が互いに平行であり、前記透明基材の前記表面の法線方向から入射する前記入射光に対する、前記透明基材、前記凹凸部及び前記充填部のうち、少なくとも前記凹凸部と前記充填部の屈折率が異なり、前記凹凸部と前記充填部の間に第一の屈折率調整層と、前記透明基材と前記凸部の間に第二の屈折率調整層を備え、
前記第一、第二の屈折率調整層はそれぞれ、入射側界面をなす媒質の屈折率をn
m、出射側界面をなす媒質の屈折率をn
0、当該屈折率調整層もしくはその各層の屈折率をn
r、厚さをd
r[nm]、前記入射光のうち最も光強度の高い波長をλ[nm]としたとき、当該屈折率調整層の両界面に対して、以下の式(A)を満たす単層の屈折率調整層又は多層構造による理論反射率R<4%を満たす1層以上の屈折率調整層であることを特徴とする回折光学素子。
式(A):
(n
0×n
m)
0.5-α<n
r<(n
0×n
m)
0.5+α、かつ
(1-β)×λ/4<n
r×d
r<(1+β)×λ/4
ただし、α=0.25、β=0.6
【請求項11】
前記入射光に対する、前記透明基材、前記凹凸部及び前記充填部のいずれかの屈折率の値が、1.7以上である、請求項10に記載の回折光学素子。
【請求項12】
2次元の位相分布を発生させる凹凸パターンを有し、入射光を2次元に回折して複数の回折光を発生させる回折光学素子であって、
透明基材と、前記透明基材の一方の表面に接して備えられた凹凸部と、前記凹凸部の凹部を充填するとともに前記凹凸部の凸部の上面を覆って前記凹凸部を平坦化する充填部とを備え、前記凹凸部は、前記透明基材の表面上に2段以上の段を構成するとともに、各段の上面が互いに平行であり、前記凹凸部の各段のうち少なくとも高さを有する段は、所定の屈折率及び厚さを有する2層以上の多層膜を基本ブロックとしたとき、前記基本ブロックを1つ以上積み上げてなり、前記入射光に対する、前記透明基材、前記充填部の屈折率をそれぞれ、n1、n3、前記凹凸部の平均屈折率をn2としたとき、|n1-n3|≦
0.2であり、|n2-n3|≧
0.45であることを特徴とする回折光学素子。
【請求項13】
前記基本ブロックは、多層構造における理論反射率R<4%を満たす、請求項12に記載の回折光学素子。
【請求項14】
前記入射光の少なくとも有効領域内における前方透過率が80%以上である、請求項1~13のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項15】
前記入射光の少なくとも有効領域内における反射率が10%以下である、請求項1~14のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項16】
前記入射光は、波長が780~1020nmの範囲に含まれる光である、請求項1~15のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項17】
光源からの光を所定の投影面に投影する投影装置であって、
光源と、前記光源から出射される光の照射範囲を広げるための光学素子として、前記請求項1~16のいずれか1項に記載の回折光学素子を備え、
前記光源から出射される光の光量に対する所定の投影面に照射される光の光量の割合が50%以上であることを特徴とする投影装置。
【請求項18】
検査光を出射する投影部と、前記投影部から照射される検査光が測定対象物に照射されることによって発生する散乱光を検出する検出部とを備え、前記投影部として、請求項17に記載の投影装置を備えることを特徴とする計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定パターンの光スポットを生成する回折光学素子、該回折光学素子を備えた投影装置及び計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
計測対象の被測定物に所定の光を照射し、その被測定物によって散乱された光を検出することにより、該被測定物の位置や形状等の計測を行う装置がある(例えば、特許文献1等参照)。このような計測装置において、特定の光のパターンを計測対象に照射するために、回折光学素子を使用できる。また、投影する対象に対してより均一性を高めて照射する用途でも回折拡散光学素子が用いられている(例えば、特許文献2等参照)。
【0003】
所定の投影面において特定の光のパターンや均一照射を実現する光のパターンといった所定の光スポットを生成する回折光学素子は、回折光学素子からの出射光の位相分布をフーリエ変換して得られる。そのような回折光学素子は、例えば、平面視で2次元の凹凸パターンを有し、所定の凹凸パターンからなる基本ユニットを、反復フーリエ変換法等を用いて位相分布を求めて適切に配置して得られる。
【0004】
回折光学素子は、例えば、基板表面を凹凸加工して得られるものが知られている。このような凹凸構成の場合、凹部を充填する材料となる空気(屈折率=1)と凸部材料との、比較的大きな屈折率差を利用して所望の光路長差を与えて光を回折できるので、凸部の高さを比較的小さく加工できる。凸部の高さは凹部の深さと読み替えてもよい。
【0005】
一方、該構成の場合、凹凸表面が外気と触れるため、汚れ、水滴、析出物等の付着により、所定パターンの光スポットを安定して発生できないおそれがあった。即ち、凹凸表面の露出が付着物により凹凸形状を変化させ、回折効率が変化してしまうからである。
【0006】
回折光学素子の他の例として、凸部材料とは異なるとともに空気ではない屈折率材料で凹部(より具体的には凹部及び凸部上面)を充填する構成も知られている。該構成は、凹凸表面が露出しないため、付着物による回折効率の変動を抑制できる。例えば、特許文献3には、2次元の光スポットを発生させる凹凸パターンを埋めるように、屈折率が異なる他の透明材料を与える回折光学素子も示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本特許第5174684号公報
【文献】米国特許第6075627号明細書
【文献】日本特許第5760391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、空気以外の材料で凹部を充填する場合、凹部の屈折率が空気の屈折率より高いため、凹部と凸部の屈折率差が小さくなり、所定の光路長差を得るために、凸部を高くしなければならない。特に、投影装置や計測装置用として、広範囲に光を照射させるため、広い回折角度の光スポットを発生させる回折光学素子の場合、これらの屈折率差が大きくなる材料の組み合わせでなければ凸部の高さが大きくなり、加工が困難になるおそれがある。
【0009】
このように、加工困難性に起因する回折の精度が低下する問題に対し、凸部材料又は凹部材料(充填材料)に屈折率の高い材料を用いることで凸部の高さを低減させる凹凸構造が考えられる。
【0010】
しかし、凹部と凸部の屈折率差が大きくなる材料の組み合わせの場合、凹凸構造がなす界面、例えばこれら材料の界面やこれら材料と空気の界面における反射率が高くなり、光利用効率が低く、また、迷光が発生する問題があった。これらの問題は、投影装置や計測装置のような、多くの光スポットを発生させたり、発生させた光スポットによって照射させた光の戻り光(散乱光等)を計測したりする場合、高い精度が得られない原因となる。
【0011】
そこで、本発明は、所定パターンの光スポットを安定的に発生できるとともに、光利用効率の高い回折光学素子、該回折光学素子を備えた投影装置及び計測装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による回折光学素子は、2次元の位相分布を発生させる凹凸パターンを有し、入射光を2次元に回折して複数の回折光を発生させる回折光学素子であって、透明基材と、
透明基材の一方の表面に接して備えられた凹凸部と、凹凸部の凹部を充填するとともに凹凸部の凸部の上面を覆って凹凸部を平坦化する充填部とを備え、凹凸部は、透明基材の表面上に2段以上の段を構成するとともに、各段の上面が互いに平行であり、透明基材の表面の法線方向からの入射光に対する、透明基材、凹凸部及び充填部のうち、少なくとも凹凸部と充填部の屈折率が異なり、入射光に対する、透明基材、凹凸部及び充填部の屈折率をそれぞれ、n1、n2、n3としたとき、いずれの値も2.2以下であり、|n1-n3|≦0.2であり、|n2-n3|≧0.45であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明による回折光学素子は、2次元の位相分布を発生させる凹凸パターンを有し、入射光を2次元に回折して複数の回折光を発生させる回折光学素子であって、透明基材と、透明基材の一方の面上に備えられた凹凸部と、凹凸部の凹部を充填するとともに凹凸部の凸部の上面を覆って凹凸部を平坦化する充填部とを備え、凹凸部は、透明基材の表面上に2段以上の段を構成するとともに、各段の上面が互いに平行であり、透明基材の表面の法線方向からの入射光に対する、透明基材、凹凸部及び充填部のうち、少なくとも凹凸部と充填部の屈折率が異なり、凹凸部と充填部の間に第一の屈折率調整層を備え、透明基材と凸部の間に第二の屈折率調整層を備え、第一の屈折率調整層及び第二の屈折率調整層は、それぞれ、入射側界面をなす媒質の屈折率をnm、出射側界面をなす媒質の屈折率をn0、当該屈折率調整層もしくはその各層の屈折率をnr、厚さをdr
[nm]、入射光のうち最も光強度の高い波長をλ[nm]としたとき、当該屈折率調整層の両界面に対して、以下の式(A)を満たす単層の屈折率調整層又は多層構造による理論反射率R<4%を満たす1層以上の屈折率調整層でもよい。
式(A):
(n0×nm)0.5-α<nr<(n0×nm)0.5+α、かつ
(1-β)×λ/4<nr×dr<(1+β)×λ/4
ただし、α=0.25、β=0.6
【0014】
また、本発明による回折光学素子は、2次元の位相分布を発生させる凹凸パターンを有し、入射光を2次元に回折して複数の回折光を発生させる回折光学素子であって、透明基材と、透明基材の一方の表面に接して備えられた凹凸部と、凹凸部の凹部を充填するとともに凹凸部の凸部の上面を覆って凹凸部を平坦化する充填部とを備え、凹凸部は、透明基材の表面上に2段以上の段を構成するとともに、各段の上面が互いに平行であり、凹凸部の各段は、所定の屈折率及び厚さを有する2層以上の多層膜を基本ブロックとしたとき、基本ブロックを1つ以上積み上げた多層構造からなり、入射光に対する、透明基材、充填部の屈折率をそれぞれ、n1、n3、凹凸部の平均屈折率をn2としたとき、|n1-n3|≦0.2であり、|n2-n3|≧0.45であることを特徴とする構成でもよい。
【0015】
本発明による投影装置は、光源からの光を所定の投影面に投影する投影装置であって、光源と、光源から出射される光の照射範囲を広げるための光学素子として、上記いずれかの回折光学素子を備え、光源から出射される光の光量に対する所定の投影面に照射される光の光量の割合が50%以上であることを特徴とする。
【0016】
本発明による計測装置は、検査光を出射する投影部と、投影部から照射される検査光が測定対象物に照射されることによって発生する散乱光を検出する検出部とを備え、投影部として、上記の投影装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所定パターンの光スポットを安定的に発生できるとともに、光利用効率の高い回折光学素子、投影装置及び計測装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態1の回折光学素子10の断面模式図。
【
図2】透明基材11、凹凸部12及び充填部13の界面反射の例を示す断面模式図。
【
図3】回折光学素子10により生成される光のパターンの例を示す説明図。
【
図4】実施形態1の回折光学素子10の凹凸部12の例を模式的に示す図。
【
図5】実施形態1の回折光学素子10の他の例を示す断面模式図。
【
図6】回折光学素子10内における回折光の伝播の例を示す断面模式図。
【
図7】凹凸部12のピッチ別の、回折光の各次数の回折効率の計算結果を示す説明図。
【
図8】実施形態2の回折光学素子50の断面模式図。
【
図9】実施形態3の回折光学素子60の断面模式図。
【
図10】実施形態3の回折光学素子60の他の例を示す断面模式図。
【
図11】実施形態3の回折光学素子60の断面模式図。
【
図12】例1の波長800~1000nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図13】例2の波長800~1000nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図14】例3の波長800~1000nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図15】例4の波長800~1000nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図16】例5の波長800~1000nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図17】例6の波長800~1000nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図18】例7の波長800~1000nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図19】例8の波長900~1000nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図20】例9の波長900~1000nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図21】例10の波長600~1000nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図22】例11の波長600~1000nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図23】例12の回折光学素子の凹凸部構造を模式的に示す図。
【
図24】例12の波長300~1100nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図25】例12の波長300~1000nmにおける反射率の計算結果を示す。
【
図26】例13の回折光学素子の凹凸部構造を模式的に示す図。
【
図27】例14の回折光学素子の凹凸部構造を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の幾つかの実施形態を、図面を参照して説明する。
(実施形態1)
図1、2は、実施形態1の回折光学素子10の断面模式図である。回折光学素子10は、透明基材11と、透明基材11の一方の表面に接して備えられる凹凸部12と、凹凸部12の上面を覆って平坦化する充填部13とを備える。
【0020】
回折光学素子10は、例えば、2次元の位相分布を発生させる凹凸パターンを有し、入射光を2次元に回折させて複数の回折光を発生させる。ここで、凹凸パターンは、上記凹凸部12の凸部121がなす段差の平面視による2次元のパターンである。「平面視」とは、回折光学素子10に入射する光の進行方向から見た平面であり、回折光学素子10の主面の法線方向から見た平面に相当する。凹凸パターンは、平面視において特定の凹凸パターンを有する基本ユニットが規則的に配列されてもよく、不規則な配列でもよい。凹凸パターンは、それによって発生する複数の回折光の各々である光スポットが、予め定めた投影面において所定の光のパターンを実現できるように構成されてもよい。
【0021】
実施形態1において、凹凸部12は、透明基材11の一方の表面(図中のS1)に接して設けられる。また、
図1に示すように、凹凸部12は、透明基材11の表面S1上に2段以上の段を構成するとともに、各段の上面が互いに平行であるとする。ここで、平行とは、基準線や基準面に対する傾斜角が0.5°以内をいう。
凹凸部12から見て透明基材11に近づく方向を下方とし、透明基材11から離れる方向を上方とする。従って、透明基材11と凹凸部12の界面が凹凸部12の最下面となり、凹凸部12の各段の上面のうち透明基材11と最も離れる面が最上面となる。
【0022】
本発明では、凹凸部を構成する部材について、凹凸部と充填部が接する面のうち最も低い部分よりも高い位置にあるものを凹凸部の凸部と呼ぶ場合がある。また、凸部に囲まれてなる凹み部分であって凸部の最上面よりも低くなる部分を凹凸部の凹部と呼ぶ場合がある。透明基材11の表面を切削して凹凸部を得た場合は、表面の凹凸構造のうち最も低い位置にある面を、凹凸部と透明基材の境界(凹凸部の最下面であり透明基材の表面)とすればよい。
【0023】
充填部13は、凹凸部12の凹部122を隙間なく充填するとともに凹凸部12の凸部121の上面を覆って凹凸部12を平坦化する。充填部13は、透明基材11の表面S1に接する部分を有する。
凹凸部12の段数は、一般的な回折格子と同様、入射光に対して位相差を生じさせる段差を構成する各面を1段として数える。凹凸部12では、例えば、透明基材11側から光が入射すると仮定し、凹部の底面、即ち充填部13が透明基材11と接する部分を1段目とする。そして、凸部121の各段を2段目以降として数える。尚、
図1に示す例は、透明基材11の表面S1上に、最大で4段の段を構成する凹凸部12を有する回折光学素子である。
【0024】
以下、透明基材11の表面S1の法線方向からの入射光に対する、透明基材11、凹凸部12及び充填部13の屈折率をそれぞれ、n11、n12、n13と記す。尚、凹凸部12の屈折率n12及び充填部13の屈折率n13は平均屈折率でよい。
【0025】
これら部材の屈折率は、次の関係を満たす。第1に、少なくともn12≠n13である。ここでは、n12>n13とするが、n12<n13でもよい。更に、凹凸部12の加工容易性の観点から、|n12-n13|≧0.2が好ましく、|n12-n13|≧0.3がより好ましく、|n12-n13|≧0.45が更に好ましい。ここでいう「屈折率」は、入射光のうち最も光強度が高い波長近傍における屈折率に相当し、例えば、当該波長に対して±20nmの範囲や、±10nmの範囲、更には最も光強度が高い波長で設定してもよい。
【0026】
凹凸部12及び充填部13の材料として、無機材料や有機材料、有機無機ハイブリッド材料を使用できる。有機材料としては、シリコーン樹脂やポリイミド樹脂を用いると高い耐熱性が得られ好ましい。無機材料としては、Zn、Al、Y、In、Cr、Si、Zr、Ce、Ta、W、Ti、Nd、Hf、Mg、La等の酸化物、窒化物、酸窒化物、Al、Y、Ce、Ca、Na、Nd、Ba、Mg、La、Liのフッ化物、シリコンカーバイド、又は、これらの混合物、ITO等の透明導電体、Si、Ge、ダイヤモンドライクカーボン、これらに水素等の不純物を含有させたもの等が使用できる。
【0027】
一般的な樹脂材料の屈折率は、大きい場合でも1.7程度であって、凹凸部12と充填部13の屈折率差を大きくできない場合がある。それに伴い凹凸部12の段差が高くなると、屈折率差に対する凹凸部12と充填部13の光路長差の感度が高くなり、その結果、回折効率の感度が高くなる。従って、凹凸部12と充填部13の両方が樹脂材料の場合、温度依存性を考慮すると2つの材料の屈折率変動の温度依存性が近いことが好ましい。より具体的には、凹凸部12と充填部13が接する面のうち最も高い部分と低い部分の差を高さd、2つの材料の屈折率差をΔnとし、0℃から50℃に変動した場合のΔndの変動値が、20℃におけるΔndの5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。また、回折光学素子がより厳しい環境下で用いられる場合、-20℃から60℃に変動した場合のΔndの変動値が、20℃におけるΔndの5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。また、各温度における20℃における各回折効率からの回折効率の変動が10%以下となることが好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がより好ましい。一般的には各回折効率の次数の中で0次回折効率の変動が最も大きくなるので、回折効率変動を0次回折効率で評価してもよい。
【0028】
例えば、20℃における光路長差をL、温度変化によるLの変化量をδL、Δnの変化量をδΔn、dの変化量をδdとした場合、L+δL=(Δn+δΔn)(d+δd)となる。L=Δn×dであり、2次の微小量を無視すると、δL=(d/L)δd+dδΔnである。従って、Δnが小さくなるとdが大きくなり、同じδΔnが生じた場合、δLの変化が大きくなる。このδLの係数に相当する(d/L)が上記でいう「感度」に相当する。
【0029】
また、凹凸部12と充填部13の組み合わせが有機材料と無機材料である場合も、2つの材料の温度変化に対する屈折率変動の挙動が大きく異なる。この場合も、2つの材料及び高さdを調整することで0℃から50℃に変動した場合、更に、-20℃から60℃に変動した場合のΔndの値が上記条件を満たすとよい。
また、透明基材11として、ガラス等、入射光に対して透明な部材を使用できる。このような透明材料の屈折率は、一般的には1.3以上である。
【0030】
表1に、2段、即ち、バイナリの回折格子をなす凹凸部12を仮定した、3部材の屈折率n11、n12及びn13の組み合わせに対する反射による損失の計算結果例を示す。
【0031】
【0032】
表1において反射率の計算は、2つの屈折率の異なる媒質に対して光が界面に対して垂直に入射した場合を想定している。また、薄膜による干渉の効果はここでは考慮していない。つまり、
図2に示すような透明基材11と凹凸部12の2つの材料の界面で生じる反射率R12、透明基材11と充填部13の2つの材料の界面で生じる反射率R13及び凹凸部12と充填部13の2つの材料の界面で生じる反射率R23のそれぞれを、式(1)を用いて計算した。
【0033】
また、各界面で生じる反射率の合計Rallは、式(2)を用いて計算した。ここでAは、上部から透明基材11の表面S1を観察した際に、該表面S1の入射光の有効領域内において凹凸部12又は充填部13のうち屈折率がより高い部材が透明基材11と接する面積の割合を表す。ここで、入射光の有効領域とは、入射光の光強度が1/e2以上の領域、即ち、入射光のうち最も高い(位置の)光強度を100%とした場合、13%以上の光強度を示す光が照射させる領域とする。実施形態1では、波長950nmにおける屈折率がn12>n13であるとして凹凸部12が透明基材11と接する面積の割合をAとする。
【0034】
R12=(n11-n12)2/(n11+n12)2
R13=(n11-n13)2/(n11+n13)2
R23=(n12-n13)2/(n12+n13)2 ・・・(1)
Rall=A×(R12+R23)+(1-A)×R13 ・・・(2)
【0035】
表1において、グループ1は、n11<n13<n12及びA=50%として、屈折率差|n12-n13|を0.1から0.7まで略0.1刻みで変化させた場合の反射率の見積もりである。また、グループ2は、n13<n11<n12及びA=50%として、屈折率差|n12-n13|を0.1から0.7まで略0.1刻みで変化させた場合の反射率の見積もりである。また、グループ3は、グループ2の屈折率の組み合わせでA=40%とした場合の反射率の見積もりである。また、グループ0は、比較例として、充填部13を有しない構成、即ち凹部122が空気で充填されており、石英基板を直接加工した場合の、界面反射の計算結果である。
【0036】
表1より、グループ1とグループ2を比較すると、略同一の屈折率差でもグループ2の方が、反射率Rallが小さい。また、同じ屈折率関係を有するグルー2とグループ3を比較すると、同じ屈折率差でもグループ3の方が、反射率Rallが小さい。
従って、透明基材11、凹凸部12及び充填部13の屈折率を、n13<n11<n12を満たすように調整すると、凹部122(充填部13)と凸部121の屈折率差が同一の場合に、より反射率を低減でき好ましい。また、A<50%となるように有効領域内における凸部121の面積比を調整する、より具体的には凹凸部12及び充填部13のうち高屈折率材料を用いた部材の割合を低減すると、反射率を低減でき好ましい。
【0037】
また、グループ0との比較により、透明基材11、凹凸部12及び充填部13の材料の屈折率として、グループ0の反射率Rall=3.4%を下回る組み合わせを選択するとよい。表1の例では、n11、n12、n13のすべてが、2.2以下が好ましく、2.0以下がより好ましく、1.8以下が更に好ましい。
【0038】
表1は、凹凸部12が2段の回折格子の見積もりであるが、多段の凹凸部12、即ち3段以上の回折格子を構成する凹凸部12の場合、凹凸部12における凸部121の占める面積比が50%以上になる場合が多い。このため、n12>n13かつ凹凸部12が(3段以上の)多段の場合、Aが50%以上となって反射量が大きくなる傾向がある。そのような場合、n11、n12、n13のすべてが、1.96以下が好ましく、1.8以下がより好ましい。一方、多段でもn12<n13の場合、n11、n12、n13のすべてが、2.1以下が好ましく、1.9以下がより好ましい。
【0039】
また、透明基材11と充填部13の関係としては、透明基材11との界面での反射を抑制する観点から、特にn12>n13の場合、|n11-n13|≦0.3が好ましく、|n11-n13|≦0.2がより好ましい。n13>n12の場合は、|n11-n12|≦0.3が好ましく、|n11-n12|≦0.2がより好ましい。
【0040】
また、回折光学素子10全体としての反射率は、10%以下が好ましい。より具体的に、該反射率は6%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下が更に好ましい。このとき、透明基材11、凹凸部12及び充填部13での各界面での反射の合計、即ち3部材積層構造による反射率を8%以下にするのが好ましい。より具体的に、該反射率は、4%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下が更に好ましい。ここで、3部材積層構造による反射率は、上記のRallで評価してもよいが、更に干渉を考慮し、後述の式(7)で示す多層構造による理論反射率で評価してもよい。
【0041】
次に、回折光学素子10が発現する回折作用について、
図3の回折光学素子10により生成される光のパターンの例示に基づき説明する。回折光学素子10は、光軸方向をZ軸として入射する光束21に対して出射される回折光群22が2次元に分布するように形成される。回折光学素子10は、Z軸と交点を持ちZ軸に垂直な軸をX軸及びY軸とした場合、X軸上における最小角度θx
minから最大角度θx
max及びY軸上における最小角度θy
minから最大角度θy
max(いずれも不図示)の角度範囲内に光束群が分布する。
【0042】
ここでX軸は光スポットパターンの長辺に略平行でY軸は光スポットパターンの短辺に略平行となる。X軸方向における最小角度θxminから最大角度θxmax、Y軸方向における最小角度θyminから最大角度θymaxにより形成される回折光群22の照射される範囲は、回折光学素子10と一緒に用いられる光検出素子における光検出範囲と略一致した範囲となる。本例では、光スポットパターンにおいて、Z軸に対しX方向の角度がθxmaxである光スポットを通るY軸に平行な直線が上記短辺となり、Z軸に対しY方向の角度がθymaxである光スポットを通るX軸と平行な直線が上記長辺となる。以下、上記短辺と上記長辺の交点と回折光学素子を結ぶ直線とZ軸とがなす角度をθdとし、この角度を対角方向の角度と称する。
【0043】
回折光学素子10は、例えば、入射光が透明基材11の表面S1の法線方向から入射したときに発生する複数の回折光の各々(光スポット)がなす対角方向の角度θdが7.5°以上でもよく、また15°以上でもよい。また、回折光学素子10は、発生させる光スポットの数が4以上でもよく、また9以上でもよく、100以上でもよく、10000以上でもよい。光スポットの数の上限は、特に限定されないが、例えば、1000万点でもよい。
【0044】
また、通常、回折光学素子の凹凸構造は、断面がバイナリ形状やブレーズ形状等であるが、回折光学素子の凹凸構造の断面が連続的なブレーズ形状以外で形成される場合や、断面がブレーズ形状でも製造上のバラツキがある場合、所望の回折光の他に迷光が発生するおそれがある。しかし、このような迷光は、設計段階において意図するものではないため、上記角度範囲内に分布する光スポットには含まないものとする。
【0045】
また、
図3において、R
ijは投影面の分割領域を示す。例えば、回折光学素子10は、透明面を複数の領域R
ijに分割した場合、各領域R
ijに照射される回折光群22による光スポット23の分布密度が全領域の平均値に対して±50%以内となるように構成されてもよい。上記分布密度は、全領域の平均値に対して±25%以内でもよい。このように構成すると、投影面内で光スポット23の分布を均一にできるので、計測用途等において好適である。ここで投影面は、平面だけでなく曲面でもよい。また、平面の場合も、光学系の光軸に対して垂直な面以外に傾斜した面でもよい。
【0046】
図3に示す回折光群22に含まれる各回折光は、式(3)に示すグレーティング方程式において、Z軸方向を基準として、X方向における角度θ
xo、Y方向における角度θ
yoに回折される光となる。式(3)において、m
xはX方向の回折次数であり、m
yはY方向の回折次数であり、λは光束21の波長であり、P
x、P
yは後述する回折光学素子の基本ユニットのX軸方向、Y軸方向におけるピッチであり、θ
xiはX方向における回折光学素子への入射角度、θ
yiはY方向における回折光学素子への入射角度である。この回折光群22をスクリーン又は測定対象物等の投影面に照射させることにより、照射された領域に複数の光スポット23が生成される。
【0047】
sinθxo=sinθxi+mxλ/Px
sinθyo=sinθyi+myλ/Py ・・・(3)
【0048】
このような所定の条件を満たす回折光群22を出射する回折光学素子10として、反復フーリエ変換法等により設計された回折光学素子を使用できる。より具体的に、所定の位相分布を生じさせる基本ユニットを周期的に、例えば、2次元的に配列させた回折光学素子を使用できる。このような回折光学素子においては、遠方における回折光の回折次数の分布は基本ユニットにおけるフーリエ変換により得られる。
【0049】
回折光学素子10は、
図4(a)に示すように、透明基材11上に、凹凸部12を構成する基本ユニット31が、X軸方向にピッチP
x、Y軸方向にピッチP
yで2次元状に周期的に配列されてもよい。基本ユニット31は、例えば、
図4(b)や
図4(c)に示すような位相分布を有する。
図4(b)に示す例では、黒塗りの領域が凸部121、白抜きの領域が凹部122となるように凹凸パターンを形成する。
図4(c)に示す例は、8段の位相差を有する位相分布の例であり、塗りつぶしの各パターンが凹凸部12の各段に対応するように凹凸パターンを形成する。凹凸部12は、位相分布を発生できればよく、ガラスや樹脂材料等の光を透過する部材(透明基材11)の表面に凹凸パターンを形成した構造も含まれる。回折光学素子10としては、凹凸パターンが形成された透明な部材(透明基材11)の上に、この部材とは屈折率の異なる部材(充填部13)を貼り合わせ、表面を平坦化した構造だけでなく、透明な部材において屈折率を変化させた構造でもよい。つまり、凹凸パターンは、表面形状が凹凸である場合のみを意味するものではなく、入射光に位相差を与えられる構造も含む。
【0050】
また、回折光学素子10に基本ユニット31を2次元状に配置する際に基本ユニットは整数個である必要はなく、凹凸パターン内に1つ以上の基本ユニットが含まれれば凹凸パターンと凹凸パターンを有さない領域の境界が基本ユニットの境界と必ずしも一致しなくてもよい。また、基本ユニット31は一種類に限らず複数種でもよい。
また、ここまで2次元状の周期構造を有する回折光学素子について説明したが、回折光学素子10は、2次元に光を拡散させる非周期的な凹凸構造でもよく、更には1次元方向に光を回折させる凹凸構造、レンズ機能を有するフレネルレンズ構造を有する凹凸構造でもよい。透明基材11と凹凸部12の界面及び凹凸部12の各段の上面が互いに平行でなくても、上記で示した屈折率の関係を満たすことにより、凹凸部がなす界面における屈折率差に伴う反射率の低減効果が得られる。
凹凸部12がN段の階段状の疑似ブレーズ形状の場合、凹凸部12と充填部13が接する面のうち最も高い部分と低い部分の差を高さdとしたとき、d×(n12-n13)/λ=(N-1)/Nを満たすと凸部121と凹部122(充填部13)によって発生する光路長差が1波長分の波面を近似したものにでき、高い回折効率が得られ好ましい。
【0051】
また、凹凸部12の形状に関わらず、凹凸部12の各段の高さについて、透明基材11から凹凸部12と充填部13の界面までの距離を、入射光の全波長域に含まれる波長のうち所定の設計波長の半波長の整数倍となる光路長に設定するとよい。当該条件は全ての段に適用されなくてもよい。即ち、凹凸部12のいずれかの段において、透明基材11から当該段の上面までの距離が、設計波長の半波長の整数倍の光路長に相当する構成が好ましい。これは、半波長の整数倍の光路長となる層は光学的には無作用の層となるためである。特に、2以上の段において光路長を半波長の整数倍にするとよい。例えば、凹凸部の段数が4段以上である場合、半数以上の段において光路長を半波長の整数倍にしてもよい。ここで、半波長の整数倍とは、整数をmとして、0.5m-0.15<nr×dr/λ<0.5m+0.15を満たすものをいう。nrは光路長の算出対象とした媒質の屈折率であり、ここでは凹凸部12の屈折率n12である。drは光路長の算出対象とした媒質の高さであり、ここでは凹凸部12の各段の高さである。尚、設計波長は、入射光のうち最も光強度の高い波長でもよい。
また、凹凸部12の形状に関わらず、加工容易性の観点から、凹凸の高さdが低い方が好ましい。従って、|n12-n13|の値は、0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.45以上が更に好ましい。
【0052】
また、
図1では充填部13が露出しているが、
図5(a)のように充填部13の上面をもう1つの基材(11-2)によって封止した構造でもよい。このとき、各基材(11-1,11-2)と空気との界面に反射防止膜を成膜してもよい。第2の透明基材11-2を設けずに、空気と接する充填部13の上面に反射防止膜を成膜してもよい。また、
図5(b)のように回折光学素子10は回折作用を有する凹凸パターン層(凹凸部12)が1つに限らず、凹凸パターン層(凹凸部)を複数有してもよい。この場合、2つの回折光学素子を積層した構成でもよいし、
図5(b)に示すような2つの凹凸部(12-1、12-2)を、充填部13を介して一体化させた構成でもよい。
【0053】
上記説明では、凹凸部12と他媒質の界面の反射率に基づいた構成を説明したが、実際の回折光学素子は、反射光も凹凸構造の回折作用によって複数の反射回折光に分岐されるため反射光の光量の測定が難しい場合がある。この場合、反射光の光量の評価を透過光の光量によって評価してもよい。透過光の光量は、回折光学素子の入射面と対向する出射面から出射される光を、素子に対して隣接させた積分球等の受光素子に受光させ、その光量を測定し評価できる。例えば、透過光の光量を、入射光の光量に対する受光量の割合である前方透過率により評価してもよい。このとき、透過光の光量は、入射光の光量から、透明基材11、凹凸部12、充填部13の界面で生じる反射だけでなく、素子の吸収、入射側素子界面で生じる反射、出射側素子界面で生じる反射を除いたものになる。
また、例えば、透過光の光量を、後述する各回折光に関するグレーティング方程式を用いた理論値を用いて評価してもよい。この場合も、回折光学素子において、透明基材11、凹凸部12、充填部13の界面による反射以外に、素子内の吸収や素子界面の反射が発生しないものとする。
【0054】
実施形態1の回折光学素子の場合、前方透過率は入射光から、(A)基材、凹凸部、充填部の界面による反射、(B)基材、凹凸部、充填部を構成する部材の吸収、の2つの要因以外にも、(C)回折光が素子界面から出射されず素子内を伝播する成分を考慮する必要がある。この成分は例えば、
図6において実線の矢印のように、素子内のいずれかの界面で全反射される光線であり、例えば式(3)を用いて計算できる。式(3)において、光線のZ方向のベクトル成分は(1-sin
2θ
xo-sin
2θ
yo)
0.5となるが、カッコ内が負の値になる場合、Z成分の伝播ベクトル成分が虚数になり空気中には出射されない成分であると判断してもよい。厳密には、素子内を伝播する回折光は素子界面で全反射され、凹凸部に再入射して、素子内で再度回折される場合があるが、以下では簡単のためにそのような擾乱がないとする。
【0055】
具体例として、21点の回折光(光スポット)を発生させる回折光学素子を考える。回折光学素子の凹凸パターンの基本ユニットは高速フーリエ変換を繰り返し行い計算する。
図7(a)は、回折光学素子の凹凸パターンとして、基本ユニットが直角に交わる2つの軸方向にそれぞれ3.6μmピッチで配列した場合の、x方向(横軸)及びy方向(縦軸)の各次数による回折効率を示した。本例の場合、入射光の波長を950nmとし、黒塗りの次数の光は、
図6の実線矢印で示すような回折光となり、出射側素子界面で全反射されて回折光学素子の外に出射できない。このとき、反射や吸収による損失がないとした場合、実施形態1の回折光学素子では、前方へ透過する光の光量は92.3%となる。また、
図7(a)に示すようにこの例では21点の合計の回折効率は85.2%である。
【0056】
また、
図7(b)は、回折光学素子の凹凸パターンとして、基本ユニットが直角に交わる2つの軸方向にそれぞれ6.6μmピッチで配列した場合の、x方向及びy方向の各次数による回折効率を示した。各次数の回折効率及び黒塗りの意味は、
図7(a)と同じである。本例において、反射や吸収による損失がないとした場合、実施形態1の回折光学素子では、前方へ透過する光の光量は95.4%となる。また、
図7(b)に示すようにこの例では21点の合計の回折効率は85.2%である。
【0057】
前述のように前方透過率は、積分球等の受光素子で評価できる。このとき、
図6の実線で示すような出射側素子界面での全反射による素子内を伝播する成分は、素子側面から出射される光を受光装置で計測して評価できる。回折光学素子に吸収がないとした場合、回折光学素子としての反射率を、入射光量から前方透過率と回折光学素子側面から出射する光量を差分した値で評価してもよい。
【0058】
以上のように、前方透過率は回折次数の設計によって値が変化する場合があり、特に広角の回折光を出射する回折光学素子の場合、顕著になりやすい。また、透明基材、凹凸部、充填部の界面による反射率が低い場合、相対的に前方透過率を大きくできる。従って、反射光量の評価の指標としての前方透過率は、80%以上であればよく、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が更に好ましい。また、回折光学素子が他の機能層を含む場合があるが、上記の前方透過率は1つの凹凸部のみを含む単純な構造を想定した。一方、他の機能層を有する回折光学素子の場合、他の機能層による吸収や反射によるロスを計算して除去し、前方透過率を評価してもよい。また、透明基材、凹凸部及び充填部の界面以外で生じる反射、吸収によるロスを計算して評価し、それを除去してもよい。また、設計回折光以外に10%程度の不要回折光が発生する場合があるので、設計回折光の合計の回折効率が70%以上であればよく、75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましい。
【0059】
(実施形態2)
図8は、実施形態2の回折光学素子50の断面模式図である。回折光学素子50は、透明基材51と、透明基材51の一方の表面に接して備わる凹凸部52と、凹凸部52の上面を覆って平坦化する充填部53とを備える。
凹凸部52は、少なくとも入射光の有効領域内において透明基材51の表面を覆う第1の層523を含む。これにより、充填部53が少なくとも有効領域内において透明基材51と接しない構成である。凹凸部52は、第1の層523の上面が1段目である。
【0060】
また、凹凸部52の部材と透明基材51の部材は異なるものとする。以下、透明基材51の表面S1の法線方向からの入射光に対する、透明基材51、凹凸部52及び充填部53の屈折率をそれぞれ、n51、n52、n53と記す。実施形態2においても、n52及びn53は平均屈折率でよい。
表2に、2段の凹凸部52を仮定したときの3部材の屈折率の組み合わせに対する反射による損失の計算結果例を示す。
【0061】
【0062】
表2における反射率の計算の前提条件は、表1の条件と同様である。その上で、
図8に示す透明基材51と凹凸部52の2つの材料の界面で生じる反射率R52、凹凸部52と充填部53の2つの材料の界面で生じる反射率R53のそれぞれを、式(4)を用いて計算した。また、各界面で生じる反射率の合計R
allは式(5)を用いて計算した。各部材の屈折率は波長950nmの光に対する屈折率を用いた。
【0063】
R52=(n51-n52)2/(n51+n52)2
R53=(n52-n53)2/(n52+n53)2 ・・・(4)
Rall=R52+R53 ・・・(5)
【0064】
表2において、グループ4は、n53<n51<n52として、屈折率差|n52-n53|を0.1から略0.7まで略0.1刻みで変化させた場合の反射率の見積もりである。また、グループ5は、n52<n51<n53として、屈折率差|n52-n53|を略0.1から略0.7まで略0.1刻みで変化させた場合の反射率の見積もりである。グループ0は、表1と同様である。
【0065】
表2において、グループ0との比較により、回折光学素子50は、例えば、反射率Rallが3.4%以下となる屈折率n51、n52及びn53の組み合わせが好ましい。より具体的には、n52>n53の場合、n51、n52、n53のすべては、1.96以下が好ましく、1.8以下がより好ましい。また、n52<n53の場合、n51、n52、n53のすべては、2.1以下が好ましく、1.9以下がより好ましい。
【0066】
更に、略同一の屈折率差となる条件下では、グループ4よりグループ5が優れている。従って、グループ5のような、n52<n51<n53の関係を満たすと好ましい。更に、本実施形態においても、透明基材51との界面での反射を抑制する観点から、|n51-n52|≦0.3が好ましく、|n51-n52|≦0.2がより好ましい。
【0067】
他の点は、実施形態1と同様である。ただし、実施形態1の説明中の符号は、対応する部材の符号に読み替えるものとする。例えば、部材間の屈折率関係を含む他の点(高さdや屈折率変動の温度依存性等)であれば、n11をn51、n12をn52、n13をn53に読み替えればよい。高さdは、実施形態1と同様、凹凸部52と充填部53が接する面のうち最も高い部分と低い部分の差である高さを用いる。この場合、高さdは、第1の層523の厚さを含まない高さとなる。
【0068】
(実施形態3)
図9は、実施形態3の回折光学素子60の断面模式図である。回折光学素子60は、透明基材61と、透明基材61の一方の面上に備わる凹凸部62と、凹凸部62の上面を覆って平坦化する充填部63とを備える。回折光学素子60は、更に、凹凸部62と充填部63の間又は透明基材61と凹凸部62の間に、屈折率調整層を備える。
【0069】
図9に示す例では、透明基材61と凹凸部62の間に、屈折率調整層64が設けられる。また、凹凸部62と充填部63の間であって、少なくとも光の透過する領域の一部の領域に、屈折率調整層65が設けられる。
図9では、回折光学素子60が屈折率調整層64、65の両方を有する例を示すが、回折光学素子60は、屈折率調整層64のみ、又は屈折率調整層65のみを有する構成でもよい。
【0070】
以下、透明基材61の表面S1の法線方向からの入射光に対する、透明基材61、凹凸部62及び充填部63の屈折率をそれぞれ、n61、n62、n63と記す。実施形態3においても、n62及びn63は平均屈折率でよい。
屈折率調整層は、透明基材61、凹凸部62、充填部63のいずれかの屈折率が高いと特に有効であり、例えば、n61、n62、n63のいずれかが1.7以上であると、凹凸構造がなす界面反射の抑制に特に適応でき効果的である。n61、n62、n63のいずれかは、1.9以上がより好ましく、2.1以上が更に好ましい。
屈折率調整層64、65は、後述する条件を満たせば、単層でもよく、多層でもよい。屈折率調整層65は、単層の薄膜がより好ましい。
【0071】
また、凸部621の段数が増える等により、回折光学素子の凹凸構造のピッチが狭くなる場合、凹凸部62に対して、回折効率を維持できる精度での屈折率調整層65の成膜が難しくなる場合がある。これは、ピッチが狭い場合、屈折率調整層65の部材が凸部621の側面等に成膜されることで生じる散乱の影響が大きくなるためである。従って、凹凸構造のピッチを狭くしないために屈折率調整層65を有する構成として凸部621が2段の凹凸部62を用いてもよい。
【0072】
また、屈折率調整層64、65として単層の薄膜を用いる場合、条件式(6)を満たすとよい。式(6)において、対象とする屈折率調整層の材料の屈折率をnr、厚さをdr、また対象とする屈折率調整層の入射側界面をなす媒質の屈折率をnm、出射側界面をなす媒質の屈折率をn0とした。これにより、界面の反射率を低減できる。ここで、αは0.25、βは0.6である。以下、式(6)に示す条件式を、単層薄膜に関する第1の屈折率関係式と呼ぶ場合がある。尚、αは、0.2がより好ましく、0.1が更に好ましい。また、βは、0.4がより好ましい。
【0073】
(n0×nm)0.5-α<nr<(n0×nm)0.5+α、かつ
(1-β)×λ/4<nr×dr<(1+β)×λ/4 ・・・(6)
【0074】
表3に、屈折率調整層がない場合と比較して、単層の屈折率調整層64を設けた場合の反射率の計算結果の例を示す。表3は、λ=950nm、透明基材61の屈折率n61=1.513(ガラス基板)、凹凸部62の屈折率n62=2.143(TiO2)を仮定して(n0×nm)0.5=1.8とし、その上でα≦0.25及びβ≦0.6の条件下のnr及びnr×drに対する反射率の計算結果である。
【0075】
【0076】
ここで、屈折率調整層の作用について説明する。屈折率n0を有する媒質M1から入射角θ0で光が入射し、各層の屈折率がnrで厚さがdrであるq層からなる多層膜M2を透過し、屈折率nmを有する媒質M3へ光が入射する場合を考える。このときの反射率は、式(7)のように計算できる。尚、η0、ηm、ηrはそれぞれ、斜入射を考慮した媒質M1、多層膜M2、媒質M3の実効屈折率である。
【0077】
【0078】
従って、屈折率調整層がない場合はY=ηmとなり、比較的大きく反射が発生するのに対して、屈折率調整層によってYをη0に近づけられると、反射を低減できる。特に、垂直入射の時は、η0やηmやηrは屈折率と等価である。屈折率調整層は、R<4%を満たすと好ましく、R<2%を満たすとより好ましく、R<1%を満たすと更に好ましい。以下では、式(7)に示す反射率Rを、多層構造による理論反射率と呼ぶ場合がある。
一般的に、凹凸部62を構成する部材は薄膜であり、上記の多層膜の一部として計算する必要があるが、上述したように屈折率調整層を設けることで、凹凸部62を構成する薄膜の厚さに依存せずに反射率を低減できる。単層の屈折率調整層に対しても、q=1として式(7)を適用し、干渉の効果を考慮してもよい。
【0079】
また、屈折率調整層へ回折光学素子の法線方向に対して斜めの光(波長:λ[nm])が入射する場合、透明基材61、屈折率調整層64及び凹凸部62からなる界面、及び/又は、凹凸部62、屈折率調整層65及び充填部63からなる界面に対して垂直に光を入射した際に、次の条件を満たすと好ましい。即ち、λ-200nmからλ+200nmの範囲にある透過率スペクトルの局所的な最小値が、λ~λ+200nmの範囲にあると好ましい。該最小値は、λ~λ+100nmの範囲にあるとより好ましい。これは、斜めの光が入射する場合、透過率スペクトルが短波長シフトするためであり、こうすることで、斜入射によって生じる屈折率調整層界面の透過率の低減を抑制できる。なお、λは「設計波長」に相当する。
【0080】
また、回折光学素子60において、垂直に入射する光に対する透明基材61、凹凸部62及び充填部63のいずれかの屈折率は、1.7以上が好ましい。
回折光学素子60は、実施形態2と同様、凹凸部62が第1の層623を有する例を示すが、凹凸部62は、実施形態1の凹凸部12のように、第1の層を有さなくてもよい。この場合、充填部63は、透明基材61と接してもよいし、接しなくてもよい(
図10(a),(b)参照)。また、屈折率調整層64、65とが接してもよい(
図10(b)参照)。
【0081】
これら実施形態1~3においては、いずれも、凹凸構造への付着物に起因する回折効率の変動を防止できるとともに、回折作用を発現させる凹凸構造がなす界面での反射による回折効率の低減を抑制できる。従って、所定パターンの光スポットを安定的に発生できるとともに、光利用効率の高い回折光学素子が得られる。
【0082】
(実施形態4)
図11(a)は、実施形態4の回折光学素子70の断面模式図である。回折光学素子70は、透明基材71と、透明基材71の一方の表面に接して備わる凹凸部72と、凹凸部72の上面を覆って平坦化する充填部73とを備える。
図11(b)は
図11(a)の要部拡大図である。
図11(b)に示すように、凹凸部72の各段(ただし、高さを有する段に限る)は、2層以上の薄膜構造を基本ブロック(図中の724)とする多層構造である。また、基本ブロックは1種類に限らず、複数種類でもよい。
【0083】
ここで、基本ブロック724は、これを構成する各層の屈折率をnr、厚さをdrとしたq層からなる多層膜としたとき、上述の多層構造による理論反射率R<4%を満たすように構成される。基本ブロック724は、R<2%を満たすとより好ましく、R<1%を満たすと更に好ましい。
理論反射率Rを求める際、凹凸部72から見て入射側界面を構成する部材(透明基材71又は充填部73)の屈折率をn0、凹凸部72から見て出射側界面を構成する部材(透明基材71又は充填部73)の屈折率をnmとすればよい。
【0084】
図11(b)に、凸部721の各段に識別用の番号を付したときに、i番に相当する段及びj番に相当する段の断面を示した。本例におけるi番の段は2段構成であり、j番の段は1段構成である。この場合、i番の段は基本ブロック724が2つ積み上げられた構成になる。また、j番の段は基本ブロック724が1つ積み上げられた構成になる。図中には、i番の段を構成する基本ブロック724として、“b(i-2)”及び“b(i-1)”が例示される。また、j番の段を構成する基本ブロック724として“b(j-1)”が例示される。これら3つの基本ブロックはいずれも同じ構成である。即ち、2段以上の段は基本ブロック724の繰り返し構造である。
図11(a)及び
図11(b)では、基本ブロック724同士で境界を図示するが、基本ブロック724同士の境界が同一部材である場合、境界は存在しない。この場合、凸部721の各段の高さとなる平面と同一高さにある水準を仮想的な境界としてもよい。また、式(7)に従って理論反射率を求めて、理論反射率がR<4%の厚さになる水準を仮想的な境界としてもよい。
【0085】
以下、透明基材71の表面S1の法線方向からの入射光に対する、透明基材71、凹凸部72及び充填部73の屈折率をそれぞれ、n71、n72、n73と記す。本実施形態においても、n72及びn73は平均屈折率でよい。
また、
図11(a)は、凹凸部72が、実施形態1と同様、第1の層を含まない例を示す。しかし、これに限らず、凹凸部72は、第1の層(不図示)を有してもよい。この場合、第1の層(1段目)を含む全ての段において、基本ブロック724を1つ以上積み上げた多層構造とすればよい。即ち、凹凸部72の段のうち高さを有する段の各々が、基本ブロック724を1つ以上積み上げた多層構造からなればよい。
実施形態4によれば、凹凸部72の凸部721自体に、透明基材71と充填部73間の屈折率差を調整する屈折率調整層としての機能を持たせることにより、凹凸構造がなす界面の反射をより低減できる。
【0086】
上記各実施形態において、入射光の波長は特に限定されないが、例えば、赤外光(具体的には、波長が780~1020nmの範囲に含まれる光)でもよい。可視光よりも長波長の光を取り扱う場合、特に、光路長差を大きくするために凹凸が高くなる傾向にあるので、上記各実施形態の回折光学素子はより効果的である。
また、各実施形態の回折光学素子は、光を効率よく拡散できるので、例えばプロジェクタのような投影装置に使用できる。また、各実施形態の回折光学素子は、例えば、該投影装置において、光源と所定の投影面との間に配置される、光源からの光を所定の投影面に投影するための拡散素子として使用できる。また、各実施形態の回折光学素子は、3次元計測装置や、認証装置等のように、光を照射して対象物によって散乱された光を検知する装置に含まれる、検査光を所定の投影範囲に照射するための光の投影装置にも使用できる。更に、各実施形態の回折光学素子は、ヘッドアップディスプレイのような投影装置の中間スクリーン(中間像生成用の光学素子)にも使用できる。その場合、該回折光学素子は、例えば、該投影装置において、中間像を構成する光を出射する光源とコンバイナーとの間に配置され、光源からの光であって中間像を構成する光を、コンバイナーに投影するための中間スクリーンとしても使用できる。
【0087】
これら各装置においては、回折光学素子において反射率が低減される効果により、光源から出射される光の光量に対する所定の投影面に照射される光の光量の割合が50%以上であると好ましい。
【実施例】
【0088】
(例1)
本例は、
図1に示す実施形態1の回折光学素子10の例である。ただし、例1では、凹凸部12の段数を8段(凸部の段数としては7段)とする。また、透明基材11の部材として石英基板、凹凸部12の部材としてTiO
2、充填部13の部材としてSiO
2を、それぞれ用いる。素子、及び凹凸部が配置される領域は2mm角であり、その中に
図4(c)に示す基本ユニットが配置されている。
【0089】
まず、石英基板上にTiO2を成膜する。その後、フォトリソグラフィ等によりTiO2を8段の凹凸構造へ加工し、透明基材11上に凹凸部12を得る。その後、該凹凸部12の凹部122を充填するとともに凸部121の上面を覆うように、凹凸構造の上にSiO2を成膜する。成膜後、SiO2の表面を研磨して平坦化する。
表4に、例1の凹凸部12の具体的構成を示す。表4において凹凸部の各段の高さ=0の段(例えば、1段目)は、凸部が設けられない領域、即ち透明基材と充填部とが接する領域を表す。
【0090】
【0091】
また、例1では、回折光学素子によって21点の回折光(光スポット)を発生できる位相差を付与している。回折光学素子の凹凸パターンの基本ユニットは、高速フーリエ変換を繰り返し行い計算した。例1では、そのような基本ユニットを直角に交わる2つの軸方向にそれぞれ3.6μmピッチで配列して凹凸パターンを得る。当該計算によって得られた回折光の各次数における、入射光に対する回折効率分布は、
図7(a)のとおりである。従って、入射側界面及び回折光学素子内での反射や吸収による損失がないとする場合、例1の回折光学素子の前方透過率は、92.3%となる。
【0092】
例1の石英基板及びSiO2の屈折率は1.457であり、TiO2の屈折率は2.143である。また、凸部の1段の高さを、光路長差がλ/8に近づくよう略172nmとした。ここで、λは例1の設計波長である950nmである。
【0093】
図12に、波長800~1000nmにおける例1の各光路(より具体的には、凹凸部の各段に相当する領域)の垂直入射に対する反射率の計算結果を示す。各光路の反射率は、式(7)を用いて計算した。
図12より、例1の回折光学素子は、950nm波長の光における反射率の最大が12.6%であり、各光路を透過する光の反射率の平均値が7.2%である。従って、当該反射(透明基材、凹凸部及び充填部の積層構造による反射)と、高次回折光の出射側界面での全反射とを考慮した例1の前方透過率は、92.3%×(100%-7.2%)=85.6%となる。
【0094】
(例2)
本例も、
図1に示す実施形態1の回折光学素子10の例である。例2でも、凹凸部12の段数を8段とする。また、透明基材11の部材としてガラス基板、凹凸部12の部材としてTiO
2、充填部13の部材としてSiO
2を、それぞれ用いる。
例2の回折光学素子の製造方法は例1と同様である。また、凹凸部の各段の具体的構成も例1と同様である。表5に、例2の凹凸部12の具体的構成を示す。
【0095】
【0096】
例2のガラス基板の屈折率は1.513であり、SiO
2の屈折率は1.457、TiO
2の屈折率は2.143である。各屈折率は、λ=950nmの光における値である。
図13に、波長800~1000nmにおける例2の各光路の垂直入射に対する反射率の計算結果を示す。計算方法は例1と同様である。
図13より、例2の回折光学素子は、950nm波長における反射率の最大が11.5%であり、各光路を透過する光の反射率の平均値が6.5%である。従って、当該反射(透明基材、凹凸部及び充填部の積層構造による反射)と、高次回折光の出射側界面での全反射とを考慮した例2の前方透過率は、86.3%となる。
【0097】
(例3)
本例も、
図1に示す実施形態1の回折光学素子10の例である。例3でも、凹凸部12の段数を8段とする。また、透明基材11の部材としてガラス基板、凹凸部12の部材としてZnO
2、充填部13の部材としてSiO
2を、それぞれ用いる。
例3の回折光学素子の製造方法は例1と同様である。ただし、例3の凹凸部12の各段の具体的構成は表6のとおりとする。設計波長λを含む他の点は例1と同様である。
【0098】
【0099】
例13のガラス基板の屈折率は1.513であり、SiO2の屈折率は1.457、ZnO2の屈折率は1.905である。また、例3では、凸部の1段の高さを、光路長差がλ/8に近づくよう略262nmとした。
【0100】
図14に、波長800~1000nmにおける例3の各光路の垂直入射に対する反射率の計算結果を示す。計算方法は例1と同様である。
図14より、例3の回折光学素子は、950nm波長における反射率の最大が4.9%であり、各光路を透過する光の反射率の平均値が2.1%である。従って、当該反射(透明基材、凹凸部及び充填部の積層構造による反射)と、高次回折光の出射側界面での全反射とを考慮した例3の前方透過率は、90.3%となる。
【0101】
(例4)
本例は、
図8に示す実施形態2の回折光学素子50の例である。ただし、例4では、凹凸部52の段数を第1の層523を含めて8段とする。また、透明基材51の部材としてガラス基板、凹凸部52の部材としてZnO
2、充填部13の部材としてSiO
2を、それぞれ用いる。
まず、ガラス基板上にZnO
2を成膜する。その後、フォトリソグラフィ等により成膜したZnO
2を、ガラス基板の表面に対し8つの段を有する凹凸構造へ加工し、透明基材51上に透明基材51の表面を覆って備えられる凹凸部52を得る。その後、該凹凸部52の凹部522を充填するとともに凸部521の上面を覆うように、凹凸構造の上にSiO
2を成膜する。成膜後、SiO
2の表面を研磨して平坦化する。
表7に、例4の凹凸部52の具体的構成を示す。尚、他の点は例1と同様である。
【0102】
【0103】
例4のガラス基板の屈折率は1.513であり、SiO2の屈折率は1.457であり、ZnO2の屈折率は1.905である。また、例4でも凸部の1段の高さを、光路長差がλ/8に近づくよう略262nmとした。
【0104】
図15に、波長800~1000nmにおける例4の各光路の垂直入射に対する反射率の計算結果を示す。計算方法は例1と同様である。
図15より、例4の回折光学素子は、950nm波長における反射率の最大が5.9%であり、各光路を透過する光の反射率の平均値が5.2%である。従って、当該反射(透明基材、凹凸部及び充填部の積層構造による反射)と、高次回折光の出射側界面での全反射とを考慮した例4の前方透過率は、87.5%となる。
【0105】
(例5)
本例も、
図8に示す実施形態2の回折光学素子50の例である。例5でも、凹凸部52の段数を第1の層523を含めて8段とする。また、透明基材51の部材としてガラス基板、凹凸部52の部材としてZnO
2、充填部13の部材としてSiO
2を、それぞれ用いる。
例5の回折光学素子の製造方法は例4と同様である。ただし、例5の凹凸部52の各段の具体的構成は表8のとおりとする。尚、例4と比べて第1の層523の厚さが異なる。
【0106】
【0107】
例5のガラス基板の屈折率は1.513であり、SiO
2の屈折率は1.457であり、ZnO
2の屈折率は1.905である。また、例5でも凸部の1段の高さを、光路長差がλ/8に近づくよう略262nmとした。
図16に、波長800~1000nmにおける例5の各光路の垂直入射に対する反射率の計算結果を示す。計算方法は例1と同様である。
図16より、例5の回折光学素子は、950nm波長における反射率の最大が2.1%であり、各光路を透過する光の反射率の平均値が0.8%である。従って、当該反射(透明基材、凹凸部及び充填部の積層構造による反射)と、高次回折光の出射側界面での全反射とを考慮した例5の前方透過率は、91.6%となる。このとき、各光路の光路長は、表8に示すとおり、凹凸部の各段で半波長の整数倍に近い値となる。
【0108】
(例6)
本例は、
図9に示す実施形態3の回折光学素子60の例である。ただし、例6では、屈折率調整層65は含まれない。また、凹凸部62の段数を第1の層623を含めて8段とする。また、透明基材61の部材として石英基板、凹凸部62の部材としてTiO
2、充填部63の部材としてSiO
2を、それぞれ用いる。また、屈折率調整層64の部材として、TiO
2とSiO
2の多層膜を用いる。
【0109】
まず、石英基板上に、屈折率調整層64となるTiO2とSiO2の多層膜と、凹凸部62となるTiO2を成膜する。その後、フォトリソグラフィ等により、成膜したうちの上位層のTiO2を、該基板の表面に対し8つの段を有する凹凸構造へ加工し、透明基材61上に、屈折率調整層64と、更に該屈折率調整層64の表面を覆って備わる凹凸部62を得る。その後、該凹凸部62の凹部622を充填するとともに凸部621の上面を覆うように、凹凸構造の上にSiO2を成膜する。成膜後、SiO2の表面を研磨して平坦化する。
表9に、例6の凹凸部62、64の具体的構成を示す。
【0110】
【0111】
また、例6では、回折光学素子によって21点の回折光(光スポット)を発生させる位相差を付与している。回折光学素子の凹凸パターンの基本ユニットは、高速フーリエ変換を繰り返し行い計算した。例6では、そのような基本ユニットを直角に交わる2つの軸方向にそれぞれ6.6μmピッチで配列して凹凸パターンを得る。当該計算によって得られた回折光の各次数における、入射光に対する回折効率分布は、
図7(b)のとおりである。従って、入射側界面及び回折光学素子内での反射や吸収による損失がないとする場合、例6の回折光学素子の前方透過率は、95.4%となる。
【0112】
例6の石英基板及びSiO2の屈折率は1.457であり、TiO2の屈折率は2.143である。また、凸部の1段の高さを、光路長差がλ/8に近づくよう略172nmとした。ここで、λ=950nmである。例6では、透明基材、凹凸部及び充填部の部材並びに凹凸部の凸部の高さを例1と同様にした。その上で、SiO2とTiO2の多層膜からなる屈折率調整層64を、多層構造による理論反射率R<4%を満たす構成にした。
【0113】
図17に、波長800~1000nmにおける例6の各光路の垂直入射に対する反射率の計算結果を示す。計算方法は例1と同様である。
図17より、例6の回折光学素子は、950nm波長における反射率の最大が5.0%であり、各光路を透過する光の反射率の平均値が3.8%である。従って、当該反射(透明基材、屈折率調整層(64)、凹凸部及び充填部の積層構造による反射)と、高次回折光の出射側界面での全反射とを考慮した例6の前方透過率は、95.4%×(100%-3.8%)=91.8%となる。
【0114】
(例7)
本例も、
図9に示す実施形態3の回折光学素子60の例である。ただし、例7では、屈折率調整層64は含まれない。また、凹凸部62の段数を第1の層623を含めて8段とする。また、透明基材61の部材として石英基板、凹凸部62の部材としてTiO
2、充填部63の部材としてSiO
2を、それぞれ用いる。また、屈折率調整層64の部材として、ZrO
2とAl
2O
3の混合物を用いる。
【0115】
まず、石英基板上に、凹凸部62となるTiO2を成膜する。その後、フォトリソグラフィ等により、成膜したうちの上位層のTiO2を、該基板の表面に対し8つの段を有する凹凸構造へ加工し、透明基材61上に、透明基材61の表面を覆って備えられる凹凸部62を得る。その後、該凹凸部62上に、ZrO2とAl2O3の混合物からなる屈折率調整層65を成膜する。その後、屈折率調整層65を介在させた状態で該凹凸部62の凹部622を充填するとともに凸部621(より具体的には凸部621上に設けられた屈折率調整層65)の上面を覆うように、屈折率調整層65の成膜後の凹凸構造の上にSiO2を成膜する。成膜後、SiO2の表面を研磨して平坦化する。
表10に、例7の凹凸部62及び屈折率調整層65の具体的構成を示す。尚、他の点は例6と同様である。
【0116】
【0117】
例7の石英基板及びSiO2の屈折率は1.457であり、TiO2の屈折率は2.143である。また、凸部の1段の高さを、光路長差がλ/8に近づくよう略172nmとした。ここで、λ=950nmである。例7でも、透明基材、凹凸部及び充填部の部材並びに凹凸部の凸部の高さを例1と同様にした。その上で、ZrO2、Al2O3の混合物からなる屈折率調整層65を、単層薄膜に関する第1の屈折率関係式(上記の式(6))を満たす構成にした。
【0118】
図18に、波長800~1000nmにおける例7の各光路の垂直入射に対する反射率の計算結果を示す。計算方法は例1と同様である。
図18より、例7の回折光学素子は、950nm波長における反射率の最大が3.9%であり、各光路を透過する光の反射率の平均値が3.6%である。従って、当該反射(透明基材、凹凸部、屈折率調整層(65)及び充填部の積層構造による反射)と、高次回折光の出射側界面での全反射とを考慮した例7の前方透過率は、95.4%×(100%-3.6%)=91.9%となる。
【0119】
(例8)
本例も、
図9に示す実施形態3の回折光学素子60の例である。ただし、例8では、凹凸部62の段数を第1の層623を含めて8段とする。また、透明基材61の部材として石英基板、凹凸部62の部材としてTiO
2、充填部63の部材としてSiO
2を、それぞれ用いる。また、屈折率調整層64の部材としてTiO
2とSiO
2の多層膜、屈折率調整層64の部材としてZrO
2とAl
2O
3の混合物を、それぞれ用いる。
【0120】
まず、石英基板上に、屈折率調整層64となるTiO2とSiO2の多層膜と、凹凸部62となるTiO2を成膜する。その後、フォトリソグラフィ等により、成膜したうちの上位層のTiO2を、該基板の表面に対し8つの段を有する凹凸構造へ加工し、透明基材61上に、屈折率調整層64と、更に該屈折率調整層64の表面を覆って備わる凹凸部62を得る。その後、該凹凸部62上に、ZrO2とAl2O3の混合物からなる屈折率調整層65を成膜する。その後、屈折率調整層65を介在させた状態で該凹凸部62の凹部622を充填するとともに凸部621(より具体的には凸部621上に設けられた屈折率調整層65)の上面を覆うように、屈折率調整層65の成膜後の凹凸構造の上にSiO2を成膜する。成膜後、SiO2の表面を研磨して平坦化する。
表11に、例8の凹凸部62、屈折率調整層64、65の具体的構成を示す。他の点は例6と同様である。
【0121】
【0122】
例8の石英基板及びSiO2の屈折率は1.457であり、TiO2の屈折率は2.143であり、ZrO2とAl2O3の混合物の屈折率は1.78である。また、凸部の1段の高さを、光路長差がλ/8に近づくよう略172nmとした。ここで、λ=950nmである。例8では、透明基材、凹凸部及び充填部の部材並びに凹凸部の凸部の高さを例1と同様にした。その上で、例6の屈折率調整層64及び例7の屈折率調整層65の両方を備える構成とした。
【0123】
図19に、波長900~1000nmにおける例8の各光路の垂直入射に対する反射率の計算結果を示す。計算方法は例1と同様である。
図19より、例8の回折光学素子は、950nm波長における反射率の最大が0.2%であり、各光路を透過する光の反射率の平均値が0.1%である。従って、当該反射(透明基材、屈折率調整層(64)、凹凸部、屈折率調整層(65)及び充填部の積層構造による反射)と、高次回折光の出射側界面での全反射とを考慮した例8の前方透過率は、95.3%となる。
【0124】
(例9)
本例は、
図11に示す実施形態4の回折光学素子70の例である。ただし、例9では、凹凸部72の段数を8段とする。また、透明基材71の部材として石英基板、凹凸部72の部材としてTiO
2とSiO
2からなる多層膜、充填部73の部材としてSiO
2を、それぞれ用いる。
例9の凹凸部72は、基板側から順にTiO
2,SiO
2,TiO
2がそれぞれ85nm,29nm,93nmの膜厚で積層される3層からなる多層膜を基本ブロックとする。
【0125】
まず、石英基板上に、凹凸部72となるTiO2とSiO2からなる多層膜を成膜する。ここでは、最も高い段の構成となるように成膜する。その後、フォトリソグラフィにより多層膜を7段の凹凸構造へ加工し、透明基材71上に凹凸部72を得る。その後、該凹凸部72の凹部722を充填するとともに凸部721の上面を覆うように、凹凸構造の上にSiO2を成膜する。成膜後、SiO2の表面を研磨して平坦化する。
表12に、例9の凹凸部72の具体的構成を示す。他の点は例6と同様である。
【0126】
【0127】
尚、表12において破線は基本ブロックを表す。例9の石英基板及びSiO2の屈折率は1.457であり、TiO2の屈折率は2.143である。また、凸部の1段の高さを、光路長差がλ/8に近づくよう略172nmとした。ここで、λ=950nmである。
【0128】
図20に、波長900~1000nmにおける例9の各光路の垂直入射に対する反射率の計算結果を示す。各光路の反射率は、式(7)を用いて計算した。
図20より、例9の回折光学素子は、950nm波長における反射率の最大が0.4%であり、各光路を透過する光の反射率の平均が0.2%である。従って、高次回折光の出射側界面での全反射と透明基材、凹凸部及び充填部の積層構造による反射とを考慮した例9の前方透過率は、95.4%×(100%-0.2%)=95.2%となる。高次回折光の全反射や吸収がないと仮定すると、例9の前方透過率は、99%以上となる。
【0129】
(例10)
本例は、
図1に示す実施形態1の回折光学素子10の例である。ただし、例10では、凹凸部12の段数を2段、即ちバイナリの凹凸構造とする。また、透明基材11の部材としてガラス基板、凹凸部12の部材としてSiO
2、充填部13の部材として樹脂を、それぞれ用いる。
まず、ガラス基板上に厚さ2.13μmのSiO
2を成膜する。その後、フォトリソグラフィ等により該SiO
2を2段の凹凸構造へ加工し、透明基材11上に凹凸部12を得る。その後、該凹凸部12の凹部122を充填するとともに凸部121の上面を覆って表面が平坦化されるように、凹凸構造の上に樹脂を塗布する。
表13に、例10の凹凸部12の具体的構成を示す。
【0130】
【0131】
また、例10の凹凸構造は、水平、垂直方向に1段の凸部(SiO2部位)と凹部(樹脂部位)とが所定のピッチで並んだ基本ユニット31が2次元に配置され、当該凹凸構造によって合計9つの光スポットが生じる。光軸に垂直な平面方向から見た場合、凹凸構造の樹脂側(屈折率の高い側)の面積が基本ユニット31中45%である(A=0.45)。例10のガラス基板の屈折率は1.515であり、SiO2の屈折率は1.450である。また、樹脂の屈折率は表14のとおりである。例10では、凸部の1段の高さを2.13μmとした。各屈折率は、λ=950nmの光における値である。
【0132】
【0133】
図21に、波長600~1000nmにおける例10の各光路の垂直入射に対する反射率の計算結果を示す。各光路の反射率は、式(7)を用いて計算した。
図21より、例10の回折光学素子は、950nm波長帯(950nm±20nm)における反射率の最大が0.9%であり、各光路を透過する光の反射率の平均が0.6%である。また、高次回折光の全反射や吸収がないと仮定すると、例10の前方透過率は、98.4%である。
また、各温度での0次回折効率の変動を計算すると、20℃での0次回折効率を1とした場合、50℃で1.06、0℃で0.96となり、変動が10%未満となる。
【0134】
(例11)
本例も、
図1に示す実施形態1の回折光学素子10の例である。ただし、例11では、凹凸部12の段数を2段の凹凸構造とする。また、透明基材11の部材としてガラス基板、凹凸部12の部材としてTiO
2、充填部13の部材としてシリコーン樹脂を、それぞれ用いる。
まず、ガラス基板上に厚さ689nmのTiO
2を成膜する。その後、フォトリソグラフィ等により該TiO
2を1段の凹凸構造へ加工し、透明基材11上に凹凸部12を得る。その後、該凹凸部12の凹部122を充填するとともに凸部121の上面を覆って表面が平坦化されるように、凹凸構造の上にシリコーン樹脂を塗布する。
表15に、例11の凹凸部12の具体的構成を示す。他の点は例10と同様である。
【0135】
【0136】
また、例11の凹凸構造は、水平、垂直方向に1段の凸部(TiO2部位)と凹部(樹脂部位)とが所定のピッチで並んだ基本ユニット31が2次元的に配置され、当該凹凸構造によって合計9つの光スポットが生じる。なお、光軸に垂直な平面方向から見た場合、凹凸構造の樹脂側(屈折率の高い側)の面積が基本ユニット31中45%である(A=0.45)。
例11のガラス基板の屈折率は1.515であり、TiO2及び樹脂の屈折率は表16のとおりである。例11では、凸部の1段の高さを、光路長が、設計波長である950nmの半波長の整数倍となるように689nmとした。
【0137】
【0138】
図22に、波長600~1000nmにおける例11の各光路の垂直入射に対する反射率の計算結果を示す。各光路の反射率は、式(7)を用いて計算した。
図22より、例11の回折光学素子は、950nm波長帯(950nm±20nm)における反射率の最大が3.5%であり、各光路を透過する光の反射率の平均が1.8%である。また、垂直入射の波長950nmの光に対して、当該反射(透明基材、凹凸部及び充填部の積層構造による反射)と、高次回折光の出射側界面での全反射とを考慮した例11の前方透過率は、84.6%である。
【0139】
また、凹凸部の2段目(TiO2部位)を通る光路の反射率がλ=950nm等において小さくなっているが、これはnd/λが0.47であり、ndが半波長の整数倍に近い値であることによる。
また、各温度での0次回折効率の変動を計算すると、20℃での0次回折効率を1とした場合、50℃で0.95、0℃で1.03となり、変動が10%未満となる。
【0140】
(例12)
本例にかかる凹凸構造を
図23に示す。例12では、凹凸部82の段数を2段の凹凸構造とする。また、透明基材81の部材としてガラス基板、凹凸部82の部材としてTa
2O
5、充填部83の部材としてメチルシロキサン高分子を、それぞれ用いた。
まず、ガラス基板上に4層からなる屈折率調整層84を成膜し、その上に厚さ695nmのTa
2O
5を成膜した。その後、フォトリソグラフィ等により該Ta
2O
5を1段の凹凸構造へ加工し、深さ595nmの凹凸部82を得た。その後、該凹凸部82の凹部822を充填するとともに凸部821の上面を覆って表面が平坦化されるように、凹凸構造の上にメチルシロキサン高分子を塗布し硬化した。
【0141】
図24に、例12の屈折率調整硬84の具体的構成と理論反射率を計算したものを示した。
図24にあるように理論反射率は900~1100nmの波長帯で反射率が4%以下となっている。
また、例12の凹凸構造は、水平、垂直方向に1段の凸部(Ta
2O
5部位)と凹部(樹脂部位)とがピッチ3μmで並んだ基本ユニットが2次元的に配置され、当該凹凸構造によって合計9つの光スポットが生じる。
【0142】
例12のガラス基板の屈折率は1.515であり、波長933nmにおける各材料の屈折率はSiO
2が1.456、Ta
2O
5が2.196、メチルシロキサン高分子が1.386であった。なお、透明基材81の凹凸部と対抗する面には反射防止層85が形成されており、その構成及び理論反射率を
図25Cに示す。
波長933nmにおいて例12の回折効率を測定した結果を表17に示す。75%以上の合計の回折効率が得られており、温度変動も1%以下ということがわかった。
【0143】
【0144】
(例13)
本例にかかる凹凸構造を
図26に示す。例13では、凹凸部92の段数を2段の凹凸構造とする。また、透明基材91の部材としてガラス基板、凹凸部92の部材としてTa
2O
5、充填部93の部材としてエポキシ樹脂を、それぞれ用いた。
まず、ガラス基板上に4層からなる屈折率調整層94を成膜し、その上に厚さ515nmのTa
2O
5を成膜した。その後、フォトリソグラフィ等により該Ta
2O
5を1段の凹凸構造へ加工し、深さ515nmの凹凸部92を得た。その後、該凹凸部92の凹部922を充填するとともに凸部921の上面を覆って表面が平坦化されるように、凹凸構造の上にエポキシ樹脂を塗布し硬化した。
【0145】
図24に、例13の屈折率調整硬94の具体的構成と理論反射率を計算したものを示した。
図24にあるように理論反射率は900~1100nmの波長帯で反射率が4%以下となっている。
また、例13の凹凸構造は、水平、垂直方向に1段の凸部(Ta
2O
5部位)と凹部(樹脂部位)とがピッチ3μmで並んだ基本ユニットが2次元的に配置され、当該凹凸構造によって合計9つの光スポットが生じる。
【0146】
例13のガラス基板の屈折率は1.515であり、波長933nmにおける各材料の屈折率はSiO
2が1.456、Ta
2O
5が2.196、エポキシ樹脂が1.500であった。なお、透明基材91の凹凸部と対抗する面には反射防止層95が形成されており、その構成及び理論反射率を
図25に示す。
波長933nmにおいて例13の回折効率を測定した結果を表18に示す。75%以上の合計の回折効率が得られており、温度変動も1%以下ということがわかった。
【0147】
【0148】
(例14)
本例にかかる凹凸構造を
図27に示す。例14では、凹凸部102の段数を2段の凹凸構造とする。また、透明基材101の部材としてガラス基板、凹凸部102の部材としてTa
2O
5、充填部103の部材としてシリコーン樹脂を、それぞれ用いた。
まず、ガラス基板上に4層からなる屈折率調整層104を成膜し、その上に厚さ715nmのTa
2O
5を成膜した。その後、フォトリソグラフィ等により該Ta
2O
5を1段の凹凸構造へ加工し、深さ615nmの凹凸部102を得た。その後、該凹凸部102の凹部1022を充填するとともに凸部1021の上面を覆って表面が平坦化されるように、凹凸構造の上にシリコーン樹脂を塗布し、第2のガラス基材106と積層、硬化した。第2のガラス基材106はその表層に反射防止層107を有している。
【0149】
図24に、例14の屈折率調整硬104の具体的構成と理論反射率を計算したものを示した。
図24にあるように理論反射率は900~1100nmの波長帯で反射率が4%以下となっている。
また、例14の凹凸構造は、水平、垂直方向に1段の凸部(Ta
2O
5部位)と凹部(樹脂部位)とがピッチ3μmで並んだ基本ユニットが2次元的に配置され、当該凹凸構造によって合計9つの光スポットが生じる。
【0150】
例14のガラス基板の屈折率は1.515であり、波長933nmにおける各材料の屈折率はSiO
2が1.456、Ta
2O
5が2.196、シリコーン樹脂が1.502であった。なお、透明基材101の凹凸部と対抗する面には反射防止層105が形成されており、その構成及び理論反射率を
図Cに示す。反射防止層107の光学特性も同様である。
波長933nmにおいて例14の回折効率を測定した結果を表19に示す。75%以上の合計の回折効率が得られており、温度変動も1%以下ということがわかった。
【0151】
【産業上の利用可能性】
【0152】
特定の範囲に光の損失を抑えて効率よく拡散させる用途や所定パターンを光の損失を抑えて照射する用途を有する光学素子や装置であれば、好適に適用可能である。
【0153】
なお、2017年5月26日に出願された日本特許出願2017-104668号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0154】
10、50、60、70:回折光学素子、11、51、61、71:透明基材、12、52、62、72:凹凸部、121、521、621、721:凸部、122、522、622、722:凹部、523、623:第1の層、724:基本ブロック、13、53、63、73:充填部、64、65:屈折率調整層、21:光束、22:回折光群、23:光スポット、31:基本ユニット、11-1:第1の透明基材、11-2:第2の透明基材、12-1:第1の凹凸部、12-2:第2の凹凸部