(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】活性エステル化合物及び硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C07C 69/78 20060101AFI20220906BHJP
C08G 59/42 20060101ALI20220906BHJP
C08K 5/107 20060101ALI20220906BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220906BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C07C69/78 CSP
C08G59/42
C08K5/107
C08L63/00
H05K1/03 610H
H05K1/03 610L
(21)【出願番号】P 2019526745
(86)(22)【出願日】2018-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2018021499
(87)【国際公開番号】W WO2019003821
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2017126264
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泰
(72)【発明者】
【氏名】河崎 顕人
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-012534(JP,A)
【文献】国際公開第2012/002119(WO,A1)
【文献】特開2016-108437(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0144977(US,A1)
【文献】韓国特許第10-1350997(KR,B1)
【文献】中国特許出願公開第103408510(CN,A)
【文献】国際公開第2016/098488(WO,A1)
【文献】特開2013-195630(JP,A)
【文献】RWEI, S.P. et al.,Curing and Pyrolysis of Cresol Novolac Epoxy Resins Containing BABODOPN,Polymer Engineering and Science,2005年,p.478-486,Abstract, EXPERIMENTAL, SCHEME 1, 2
【文献】HORNER, L. et al.,Neue Mono- und Dihydroxynaphthochinone,Chemische Berichte,1965年,Vol.98,p.1246-1251,Schema 2、第1250頁第1行目-第11行目
【文献】O'DONNELL, D. C. et al.,Phenol Esters of 2,3,5-Triiodobenzoic Acid,Journal of Chemical and Engineering Data,1965年,Vol.10,p.66,Table 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/78
C08G 59/42
C08K 5/107
C08L 63/00
H05K 1/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エステル化合物と硬化剤とを含有する硬化性組成物であって、
前記活性エステル化合物が、ジヒドロキシナフタレン化合物(a1)と芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)とのジエステル化物であり、
下記構造式(1)
【化1】
(式中R
1はそれぞれ独立して脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アラルキル基の何れかであり、ナフタレン環を形成するどの炭素原子に結合していても良い。R
2はそれぞれ独立して脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリール基、アラルキル基の何れかであり、ベンゼン環を形成するどの炭素原子に結合していても良い。mは0又は1~6の整数であり、nは0又は1~5の整数である。)で表される分子構造を有し、
前記ジヒドロキシナフタレン化合物(a1)が、1,6-ジヒドロキシナフタレン化合物又は2,7-ジヒドロキシナフタレン化合物であり、
前記活性エステル化合物とその他の活性エステル化合物との合計に対する前記活性エステル化合物の割合が、80質量%以上である硬化性組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項3】
請求項
1に記載の硬化性組成物を用いてなる半導体封止材料。
【請求項4】
請求項
1に記載の硬化性組成物を用いてなるプリント配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温条件下での弾性率が低い活性エステル化合物、これを含有する硬化性組成物、その硬化物、半導体封止材料及びプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や多層プリント基板等に用いられる絶縁材料の技術分野では、各種電子部材の薄型化や小型化に伴い、これらの市場動向に合わせた新たな樹脂材料の開発が求められている。半導体封止材料に求められる性能としては、リフロー性向上の為に高温条件下での弾性率が低いことが求められる。この他、硬化物における耐熱性や耐吸湿性は勿論のこと、信号の高速化及び高周波数化対策として、硬化物における誘電率及び誘電正接値が低いこと、高温条件下での信頼性としてガラス転移温度(Tg)等の物性変化がないこと、薄型化に伴う反りや歪み対策として硬化収縮率や線膨張係数が低いこと等も重要である。
【0003】
硬化物における耐熱性や誘電特性等に優れる樹脂材料として、ジ(1-ナフチル)イソフタレートをエポキシ樹脂の硬化剤として用いる技術が知られている(下記特許文献1参照)。特許文献1に記載されたエポキシ樹脂組成物は、ジ(α-ナフチル)イソフタレートをエポキシ樹脂硬化剤として用いることにより、フェノールノボラック樹脂のような従来型のエポキシ樹脂硬化剤を用いた場合と比較して硬化物における誘電率や誘電正接の値は確かに低いものの、硬化物における高温条件下での弾性率が近年要求されるレベルを満足するものでは無かった。また、溶融粘度が高いことから、半導体封止材料等溶融粘度が低いことが求められる用途においては使用に制限があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明が解決しようとする課題は、高温条件下での弾性率が低い活性エステル化合物、これを含有する硬化性組成物、その硬化物、半導体封止材料及びプリント配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ジヒドロキシナフタレン化合物と芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物とのジエステル化物である活性エステル化合物は、硬化物における高温条件下での弾性率が低い上、溶融粘度も低いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、ジヒドロキシナフタレン化合物(a1)と芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)とのジエステル化物である活性エステル化合物に関する。
【0008】
本発明は更に、前記活性エステル化合物と、硬化剤とを含有する硬化性組成物に関する。
【0009】
本発明は更に、前記硬化性組成物の硬化物に関する。
【0010】
本発明は更に、前記硬化性組成物を用いてなる半導体封止材料に関する。
【0011】
本発明は更に、前記硬化性組成物を用いてなるプリント配線基板に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硬化物において高温条件下での弾性率が低い活性エステル化合物、これを含有する硬化性組成物、その硬化物、半導体封止材料及びプリント配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例1で得られた活性エステル化合物(1)のGPCチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の活性エステル化合物は、ジヒドロキシナフタレン化合物(a1)と芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)とのジエステル化物である。
【0015】
前記ジヒドロキシナフタレン化合物(a1)は、例えば、ジヒドロキシナフタレンや、ジヒドロキシナフタレンの芳香環上に一つ乃至複数の置換基を有するジヒドロキシナフタレン化合物が挙げられる。前記置換基は、例えば、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。前記脂肪族炭化水素基は直鎖型及び分岐型のいずれでもよく、構造中に不飽和結合を有していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基等のアルキル基;シクロへキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロパギル基等の不飽和結合含有基等が挙げられる。前記アルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。前記ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。前記アリール基は、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、及びこれらの芳香核上に前記脂肪族炭化水素基やアルコキシ基、ハロゲン原子等が置換した構造部位等が挙げられる。前記アラルキル基は、ベンジル基、フェニルエチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基、及びこれらの芳香核上に前記アルキル基やアルコキシ基、ハロゲン原子等が置換した構造部位等が挙げられる。また、前記ジヒドロキシナフタレン化合物(a1)における二つのヒドロキシ基の置換位置は特に限定されない。一例としては、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、3,4-ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。前記ジヒドロキシナフタレン化合物(a1)は一種類を単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0016】
前記ジヒドロキシナフタレン化合物(a1)の中でも、硬化物における高温条件下での弾性率が低く、また、硬化性等にも優れる活性エステル化合物となることから、1,6-ジヒドロキシナフタレン化合物又は2,7-ジヒドロキシナフタレン化合物が好ましい。
【0017】
前記芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)は、ベンゼンカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、これらの芳香核上に脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリール基、アラルキル基等の置換基を一つ乃至複数有する化合物、及びこれらの酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらは一種類を単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。中でも、硬化物における高温条件下での弾性率が低く、また、硬化性等にも優れる活性エステル化合物となることから、ベンゼンカルボン酸又はそのハロゲン化物が好ましい。したがって、本発明の活性エステル化合物のより好ましい構造としては、下記構造式(1)で表されるものが挙げられる
【0018】
【化1】
(式中R
1はそれぞれ独立して脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリール基、アラルキル基の何れかであり、ナフタレン環を形成するどの炭素原子に結合していても良い。R
2はそれぞれ独立して脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリール基、アラルキル基の何れかであり、ベンゼン環を形成するどの炭素原子に結合していても良い。mは0又は1~6の整数であり、nは0又は1~5の整数である。)
【0019】
前記ジヒドロキシナフタレン化合物(a1)と芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)との反応は、例えば、アルカリ触媒の存在下、40~65℃程度の温度条件下で加熱撹拌する方法により行うことができる。反応は必要に応じて有機溶媒中で行っても良い。また、反応終了後は所望に応じて、水洗や再沈殿等により反応生成物を精製しても良い。
【0020】
前記アルカリ触媒は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、ピリジン等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。また、3.0~30%程度の水溶液として用いても良い。中でも、触媒能の高い水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましい。
【0021】
前記有機溶媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル溶媒、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上の混合溶媒としても良い。
【0022】
前記ジヒドロキシナフタレン化合物(a1)と芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)との反応割合は、目的の活性エステル化合物を高収率で得られることから、前記ジヒドロキシナフタレン化合物(a1)が有する水酸基の合計1モルに対し、前記芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)が0.95~1.05モルとなる割合であることが好ましい。
【0023】
前記活性エステル化合物の溶融粘度は、ASTM D4287に準拠し、ICI粘度計にて測定した150℃における値が0.01~50dPa・sの範囲であることが好ましく、0.01~5dPa・sの範囲であることが特に好ましい。
【0024】
本発明の硬化性組成物は、前記本発明の活性エステル化合物と併せて、その他の活性エステル化合物を含有しても良い。前記その他の活性エステル化合物としては、分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物と芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物とのエステル化物、ポリヒドロキシベンゼンと芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物とのエステル化物、分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物、芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物及び分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物のエステル化物、芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物、分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物及び芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物のエステル化物等が挙げられる。
【0025】
前記その他の活性エステル化合物を用いる場合、本発明が奏する効果が十分に発揮されることから、本発明の活性エステル化合物とその他の活性エステル化合物との合計に対する本発明の活性エステル化合物の割合が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。また、本発明の活性エステル化合物とその他の活性エステル化合物との配合物の溶融粘度が0.01~50dPa・sの範囲であることが好ましく、0.01~5dPa・sの範囲であることが特に好ましい。配合物の溶融粘度はASTM D4287に準拠し、ICI粘度計にて測定した150℃における値である。
【0026】
本発明の硬化性組成物は、前述の活性エステル化合物と硬化剤とを含有する。前記硬化剤は前記活性エステル化合物と反応し得る化合物であれば良く、特に限定なく様々な化合物が利用できる。硬化剤の一例としては、例えば、エポキシ樹脂が挙げられる。
【0027】
前記エポキシ樹脂は、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、テトラフェノールエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0028】
本発明の硬化性組成物において、前記活性エステル化合物と硬化剤との配合割合は特に限定なく、所望の硬化物性能等に応じて適宜調整することができる。硬化剤としてエポキシ樹脂を用いる場合の配合の一例としては、硬化性組成物中のエポキシ基の合計1モルに対して、前記活性エステル化合物中の官能基の合計が0.7~1.5モルとなる割合であることが好ましい。
【0029】
本発明の硬化性組成物は、更にその他の樹脂成分を含有しても良い。その他の樹脂成分は、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ-ル、BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体等のアミン化合物;ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等のアミド化合物;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物;シアン酸エステル樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾオキサジン樹脂;スチレン-無水マレイン酸樹脂;ジアリルビスフェノールやトリアリルイソシアヌレートに代表されるアリル基含有樹脂;ポリリン酸エステルやリン酸エステル-カーボネート共重合体等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらその他の樹脂成分の配合割合は特に限定なく、所望の硬化物性能等に応じて適宜調整することができる。
【0030】
本発明の硬化性組成物は必要に応じて硬化促進剤、難燃剤、無機質充填材、シランカップリング剤、離型剤、顔料、乳化剤等の各種添加剤を含有しても良い。
【0031】
前記硬化促進剤は、例えば、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール化合物、ピリジン化合物、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。中でも、硬化性、耐熱性、電気特性、耐湿信頼性等に優れる点から、リン系化合物ではトリフェニルホスフィン、第3級アミンでは1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-ウンデセン(DBU)、イミダゾール化合物では2-エチル-4-メチルイミダゾール、ピリジン化合物では4-ジメチルアミノピリジンが好ましい。
【0032】
前記難燃剤は、例えば、赤リン、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム、リン酸アミド等の無機リン化合物;リン酸エステル化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、ホスフィンオキシド化合物、ホスホラン化合物、有機系含窒素リン化合物、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5―ジヒドロオキシフェニル)―10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10―(2,7-ジヒドロオキシナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等の環状有機リン化合物、及びそれをエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の化合物と反応させた誘導体等の有機リン化合物;トリアジン化合物、シアヌル酸化合物、イソシアヌル酸化合物、フェノチアジン等の窒素系難燃剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂等のシリコーン系難燃剤;金属水酸化物、金属酸化物、金属炭酸塩化合物、金属粉、ホウ素化合物、低融点ガラス等の無機難燃剤等が挙げられる。これら難燃剤を用いる場合は、硬化性組成物中0.1~20質量%の範囲であることが好ましい。
【0033】
前記無機質充填材は、例えば、本発明の硬化性組成物を半導体封止材料用途に用いる場合などに配合される。前記無機質充填材は、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、水酸化アルミ等が挙げられる。中でも、無機質充填材をより多く配合することが可能となることから、前記溶融シリカが好ましい。前記溶融シリカは破砕状、球状のいずれでも使用可能であるが、溶融シリカの配合量を高め、且つ、硬化性組成物の溶融粘度の上昇を抑制するためには、球状のものを主に用いることが好ましい。更に、球状シリカの配合量を高めるためには、球状シリカの粒度分布を適当に調整することが好ましい。その充填率は硬化性組成物100質量部中、0.5~95質量部の範囲で配合することが好ましい。
【0034】
この他、本発明の硬化性組成物を導電ペーストなどの用途に使用する場合は、銀粉や銅粉等の導電性充填剤を用いることができる。
【0035】
以上詳述した通り、本発明の活性エステル化合物及びこれを含有する硬化性組成物は、硬化物における高温条件下での弾性率が低い特徴を有する。この他、汎用有機溶剤への溶解性や、耐熱性、耐吸水性、低硬化収縮性、誘電特性等にも優れ、また、溶融粘度が低い等、樹脂材料に求められる他の一般的な要求性能も十分に高いものである。このため、プリント配線基板や半導体封止材料、レジスト材料等の電子材料用途の他、塗料や接着剤、成型品等の用途にも広く利用することができる。
【0036】
本発明の硬化性組成物をプリント配線基板用途やビルドアップ接着フィルム用途に用いる場合、一般には有機溶剤を配合して希釈して用いることが好ましい。前記有機溶剤は、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。有機溶剤の種類や配合量は硬化性組成物の使用環境に応じて適宜調整できるが、例えば、プリント配線板用途では、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド等の沸点が160℃以下の極性溶剤であることが好ましく、不揮発分が40~80質量%となる割合で使用することが好ましい。ビルドアップ接着フィルム用途では、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル溶剤、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を用いることが好ましく、不揮発分が30~60質量%となる割合で使用することが好ましい。
【0037】
また、本発明の硬化性組成物を用いてプリント配線基板を製造する方法は、例えば、硬化性組成物を補強基材に含浸し硬化させてプリプレグを得、これと銅箔とを重ねて加熱圧着させる方法が挙げられる。前記補強基材は、紙、ガラス布、ガラス不織布、アラミド紙、アラミド布、ガラスマット、ガラスロービング布などが挙げられる。硬化性組成物の含浸量は特に限定されないが、通常、プリプレグ中の樹脂分が20~60質量%となるように調製することが好ましい。
【0038】
本発明の硬化性組成物を半導体封止材料用途に用いる場合、一般には無機質充填材を配合することが好ましい。半導体封止材料は、例えば、押出機、ニーダー、ロール等を用いて配合物を混合して調製することができる。得られた半導体封止材料を用いて半導体パッケージを成型する方法は、例えば、該半導体封止材料を注型或いはトランスファー成形機、射出成型機などを用いて成形し、更に50~200℃の温度条件下で2~10時間加熱する方法が挙げられ、このような方法により、成形物である半導体装置を得ることが出来る。
【実施例】
【0039】
次に本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。実施例中の「部」及び「%」の記載は、特に断わりのない限り質量基準である。
【0040】
◆溶融粘度測定法
本願実施例において活性エステル化合物の溶融粘度は、ASTM D4287に準拠し、150℃における溶融粘度をICI粘度計にて測定した。
【0041】
実施例1 活性エステル化合物(1)の製造
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、攪拌器を取り付けたフラスコに1,6-ジヒドロキシナフタレン160gとトルエン1100gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。次いで、塩化ベンゾイル218gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。テトラブチルアンモニウムブロマイド0.6gを加え、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液420gを3時間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま1時間撹拌を続けて反応させた。反応終了後、反応混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。残った有機層に水を加えて約15分間攪拌混合した後、混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した後、デカンタ脱水で水分とトルエンを除去し、活性エステル化合物(1)を得た。活性エステル化合物(1)の溶融粘度は0.11dPa・sであった。
【0042】
実施例2 活性エステル化合物(2)の製造
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、攪拌器を取り付けたフラスコに2,7-ジヒドロキシナフタレン160gとトルエン1100gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。次いで、塩化ベンゾイル218gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。テトラブチルアンモニウムブロマイド0.6gを加え、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液420gを3時間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま1時間撹拌を続けて反応させた。反応終了後、反応混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。残った有機層に水を加えて約15分間攪拌混合した後、混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した後、デカンタ脱水で水分とトルエンを除去し、活性エステル化合物(2)を得た。活性エステル化合物(2)の溶融粘度は0.07dPa・sであった。
【0043】
比較製造例1 活性エステル化合物(1’)の製造
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、攪拌器を取り付けたフラスコにイソフタル酸クロリド202gとトルエン1250gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。次いで、1-ナフトール288gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。テトラブチルアンモニウムブロマイド0.63gを加え、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液420gを3時間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま1時間撹拌を続けて反応させた。反応終了後、反応混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。残った有機層に水を加えて約15分間攪拌混合した後、混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した後、デカンタ脱水で水分とトルエンを除去し、活性エステル化合物(1’)を得た。活性エステル化合物(1’)の溶融粘度は0.65dPa・sであった。
【0044】
実施例3、4及び比較例1
下記表1に示す割合で各成分を配合し、硬化性組成物を製造した。硬化性組成物を型枠へ流し込み、プレス機を用いて175℃の温度で10分間成型した。型枠から成型物を取り出し、175℃の温度で5時間硬化させて硬化物を得た。硬化物について下記要領で評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0045】
高温条件下での貯蔵弾性率の測定
前記硬化物から5mm×54mm×2.4mmサイズの試験片を切り出した。試験片について、粘弾性測定装置(レオメトリック社製「固体粘弾性測定装置RSAII」)を用い、レクタンギュラーテンション法、周波数1Hz、昇温温度3℃/分の条件で、260℃における貯蔵弾性率を測定した。
【0046】
高温条件下での曲げ弾性率及び曲げ歪の測定
前記硬化物から25mm×70mm×2.4mmサイズの試験片を切り出した。試験片について、万能材料試験機(インストロン社製「5582型」)を用い、試験速度1.0mm/分、試験温度260℃の条件で、曲げ弾性率及び曲げ歪を測定した。
【0047】
【0048】
エポキシ樹脂(*1):クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「N-655-EXP-S」、エポキシ当量202g/当量)