(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】強化ガラス
(51)【国際特許分類】
C03B 27/04 20060101AFI20220906BHJP
C03C 3/097 20060101ALI20220906BHJP
C03C 3/076 20060101ALI20220906BHJP
C03C 3/078 20060101ALI20220906BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20220906BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20220906BHJP
C03C 3/089 20060101ALI20220906BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C03B27/04
C03C3/097
C03C3/076
C03C3/078
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/089
C03C3/091
(21)【出願番号】P 2019530577
(86)(22)【出願日】2018-07-18
(86)【国際出願番号】 JP2018026961
(87)【国際公開番号】W WO2019017404
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2017138853
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 円佳
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2001/034531(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/118029(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/111524(WO,A1)
【文献】菊田雅司 他,ガラス破壊時における破損パターンと破壊応力の関係,窯業協會誌,日本,日本セラミックス協会,1985年03月01日,Vol. 93, No. 3,pp. 144-150
【文献】VARNER, J. R. and OEL. H. J,SURFACE DEFECTS: THEIR ORIGIN, CHARACTERIZATION AND EFFECTS ON STRENGTH,J. Non-Cryst. Solids,NL,North-Holland Publishing Company,1975年12月,Vol. 19,pp. 321-333
【文献】SHINKAI, Norihiko et al.,Fracture Mirror Constants of Silicate Glasses,Jpn. J. Appl. Phys.,日本,The Japan Sciety of Applied Physics,1975年01月,Vol. 14, No. 1,pp. 147-148
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00-35/26
40/00-40/04
C03C 1/00-14/00
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラー定数Aが2.2MPa・m
0.5以上であり、表面圧縮応力(CS)が10MPa以上であり、板厚tが1.2mm以上50mm以下である強化ガラス。
【請求項2】
板厚t方向中心部の仮想温度がガラス転移点Tg+60℃以下である、請求項1に記載の強化ガラス。
【請求項3】
前記表面圧縮応力(CS)と前記ミラー定数Aとの積(CS×A)が22(MPa)
2・m
0.5以上である、請求項1または2に記載の強化ガラス。
【請求項4】
前記板厚をt(単位:mm)としたときに、圧縮応力層深さDOLが(1/10)×tmm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項5】
酸化物基準のモル百分率表示で、SiO
2を30~85%、Al
2O
3を0~40%、P
2O
5を0~10%含有し、かつアルカリ金属酸化物(R
2O)を総量で8~40%、アルカリ土類金属酸化物(RO)を総量で0~40%含有し、B
2O
3を実質的に含有しない、請求項1~4のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項6】
ヤング率Eが68GPa以上である、請求項5に記載の強化ガラス。
【請求項7】
下記式で表されるGが0以上である、請求項5または6に記載の強化ガラス。
G=E×0.013+ν×(-6.6)+[Al
2O
3]×0.023+ΣRO×0.013
(式中、Eはガラスのヤング率(GPa)、νはガラスのポアソン比、[Al
2O
3]はガラス中のAl
2O
3の含有量(酸化物基準のモル%)、ΣROはガラス中のアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(酸化物基準のモル%)である。)
【請求項8】
下記式で表されるIが0.45以上である、請求項5~7のいずれか一項に記載の強化ガラス。
I=[Al
2O
3]×0.03+ΣRO×0.014
(式中、[Al
2O
3]はガラス中のAl
2O
3含有量(酸化物基準のモル%)、ΣROはガラス中のアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(酸化物基準のモル%)である。)
【請求項9】
酸化物基準のモル百分率表示で、Al
2
O
3
とSiO
2
の比(Al
2
O
3
/SiO
2
)が0.3~0.6である、請求項5~8のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項10】
酸化物基準のモル百分率表示で、Li
2
Oを0~20%、Na
2
Oを0~40%、K
2
Oを0~15%、MgOを0~35%、CaOを0~15%、SrOを0~15%、BaOを0~20%である、請求項5~9のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項11】
酸化物基準のモル百分率表示で、B
2O
3を0.01~40%、SiO
2を40~75%、Al
2O
3を0~20%、P
2O
5を0~10%含有し、かつアルカリ金属酸化物(R
2O)を総量で8~40%、アルカリ土類金属酸化物(RO)を総量で0~40%含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項12】
ヤング率Eが70GPa以上である、請求項
11に記載の強化ガラス。
【請求項13】
下記式で表されるHが0.4以上である、請求項
11または12に記載の強化ガラス。
H=B
2O
3(三配位)×0.039+E×0.036+ΣRO×(-0.030)-2.3
(式中、B
2O
3(三配位)はガラス中の三配位ホウ素含有量(酸化物基準のモル%)、Eはガラスのヤング率(GPa)、ΣROはガラス中のアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(酸化物基準のモル%)である。)
【請求項14】
下記式で表されるJが0.45以上である、請求項
11~13のいずれか一項に記載の強化ガラス。
J=[B
2O
3]×0.031-0.026×[K
2O]
(式中、[B
2O
3]はガラス中のB
2O
3含有量(酸化物基準のモル%)、[K
2O]はガラス中のK
2O含有量(酸化物基準のモル%)である。)
【請求項15】
酸化物基準のモル百分率表示で、Al
2
O
3
とSiO
2
の比(Al
2
O
3
/SiO
2
)が0.01~0.5である、請求項11~14のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項16】
酸化物基準のモル百分率表示で、Li
2
Oを0~20%、Na
2
Oを0~40%、K
2
Oを0~20%、MgOを0~35%、CaOを0~15%、SrOを0~5%、BaOを0~20%である、請求項11~15のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項17】
B
2
O
3
とR
2
Oの和との比(B
2
O
3
/ΣR
2
O)が0.8~2.5である、請求項11~16のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項18】
下記式で表される<M
R2O
>が30以下である、請求項11~17のいずれか一項に記載の強化ガラス。
<M
R2O
>=Σ(Mi×Ri)/ΣRi
(式中、Miはアルカリ金属の原子量、Riはガラスに含まれるアルカリ金属酸化物の含有量(酸化物基準のモル%)である。)
【請求項19】
50~350℃での平均熱膨張係数を低温熱膨張係数α
LTとするとき、該低温熱膨張係数α
LTが60×10
-7・K
-1以上である、請求項1~
18のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【請求項20】
ガラス転移点と屈伏点との間における熱膨張係数の極大値を高温熱膨張係数α
HTとするとき、前記高温熱膨張係数α
HTと前記低温熱膨張係数α
LTとの比α
HT/α
LTが2以上である、請求項
19に記載の強化ガラス。
【請求項21】
前記低温熱膨張係数α
LT
とヤング率Eとの積α
LT×Eが4×10
5Pa・K
-1以上である、請求項
19または20に記載の強化ガラス。
【請求項22】
風冷強化ガラスである、請求項1~
21のいずれか一項に記載の強化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラスに関する。より具体的には、建築物の窓用ガラスとして用いられる強化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されているように、地震や台風や竜巻などの自然災害の発生時の安全(破損ガラスの落下防止)のために普通のガラス窓を強化ガラスに代える動きがある。しかしながら、強化ガラスを窓として使うと、ガラスの内部の引張応力が強いため、割れた際にガラスが粉々になって落下する危険がある。このため、強化ガラス窓を合わせガラス窓に変更して落下を防止することが行われるが、合わせガラスの場合は、ガラスの厚みが大きくなって既存のサッシに入らなくなり、窓ガラスのみの交換ではなく、どうしてもサッシごと取り換える必要がある。
【0003】
図1は、破砕片が多いガラスの一例を示した図であり、
図2は、破砕片が少ないガラスの一例を示した図である。
図1、2の比較から明らかなように、割れた際に破砕片が少ないガラスとすることによっても、破砕片が大きく、サッシにガラスが支えられるため、破損ガラスの落下防止は可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術の問題点を解決するため、表面に圧縮応力があるため強度は強いが、割れた際に破砕片が少ない強化ガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するため、ミラー定数Aが2.2MPa・m0.5以上、表面圧縮応力(CS)が10MPa以上、板厚tが1.2mm以上50mm以下の強化ガラスを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の強化ガラスは、風圧や衝撃物に対して強く、万が一割れた際に破砕片が少ないため、建築物の窓用ガラスとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、破砕片が多いガラスの一例を示した図である。
【
図2】
図2は、破砕片が少ないガラスの一例を示した図である。
【
図3】
図3は、内部に残留応力のないガラスが一様な引張応力によって破壊した場合の破壊起点周辺の割れ方を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の強化ガラスの実施形態について説明する。
なお、本発明の強化ガラスの強化処理方法は特に限定されず、風冷強化処理を施した風冷強化ガラスであっても、化学強化処理を施した化学強化ガラスであってもよい。
但し、建築物の窓用ガラスとして用いる場合、強化処理が行いやすいガラスのサイズ、及びコスト面を考慮すると、風冷強化ガラスであることが好ましい。
【0010】
ガラスが割れた際、その破断面の形状は応力の大きさによって異なることが知られている。内部に残留応力のないガラス、すなわち、強化処理を施していないガラスが、一様な引張応力によって破壊した場合の破壊起点周辺の割れ方を、
図3に模式的に示す。
図3中、黒丸で示す破壊起点の周辺には、ミラー(mirror)面と呼ばれる平滑面が生じる。また、その周囲にはミスト(mist)と呼ばれるややざらざらした境界面が生じ、その先にはハックル(hackle)と呼ばれる粗い面が生じる。
図3において、黒丸で示す破壊起点からミラー(mirror)面と、ミスト(mist)面と、の境界までの距離をR(単位:m)とし、破壊を生じさせた応力をσ(単位:MPa)とすると、σはRの平方根の逆数に比例することが知られており、その比例定数がミラー定数A(単位:MPa・m
0.5)である。すなわち、下記式に示す関係になる。
σ=A/R
1/2
ミラー定数Aは、破壊時の応力σと、破壊起点から、ミラー面とミストとの界面までの距離Rを測定することで、実験的に求められる。
【0011】
また、ミラー定数Aが大きいガラスは、割れたときの破片数が少ない。強化ガラスの割れ方は、強化処理前のガラスの特性に依存する。そのため、強化処理前のミラー定数Aが大きいガラスに強化処理を施したガラス(強化ガラス)は、破壊した場合であっても破片数が少ないので、破片が飛び散りにくく、安全性が高い。
なお、ミラー定数Aは、強化処理の前後で変化しないため、以下、本明細書では、強化処理前のガラスについて求めたミラー定数Aを、強化処理を施したガラス(強化ガラス)のミラー定数Aとする。
【0012】
本発明の強化ガラスは、ミラー定数Aが2.2MPa・m0.5以上である。これにより、割れたときの破片数が少なくなる。そのため、破壊した場合も破片が飛び散りにくく、安全性が高い。
本発明の強化ガラスは、ミラー定数Aが2.3MPa・m0.5以上であることが好ましく、2.35MPa・m0.5以上であることがより好ましく、2.4MPa・m0.5以上であることがさらに好ましく、2.45MPa・m0.5以上であることが特に好ましく、2.5MPa・m0.5以上であることが最も好ましい。ミラー定数Aの上限は特に限定されないが、ガラス構造を保つために5MPa・m0.5以下が好ましい。
【0013】
本発明の強化ガラスは、上述した特性により、表面圧縮応力CS及び/あるいは圧縮応力層の深さDOLを高めることができる。
強度を高くするために表面圧縮応力CS及び/あるいは圧縮応力層の深さDOLを大きくすると、内部引張応力CTが大きくなるために、ガラスが割れた時の破砕片の密度が多くなり危険性が増すといわれていた。
ここで、特許文献1は強化ガラスの内部引張応力の許容限界を示す式(1)を開示し、下記CT’を低い値に調節することで化学強化ガラスの強度を大きくしても破砕片密度が小さく、破片の飛散が少ない化学強化ガラスが得られるとしていた。特許文献1に記載されるように内部引張応力CT’はCSおよびDOL’の値を使用し、下記式(2)の関係を有する。
CT’≦-38.7×ln(t)+48.2 (1)
CS×DOL’=(t-2×DOL’)×CT’ (2)
式(2)は式(3)のように書き換えてもよい。
CT’= CS×DOL’/(t-2×DOL’) (3)
ここで、DOL’はイオン交換層の深さに相当する。
DOLとDOL’は多くの場合一致するが、イオン交換後の熱履歴によっては値が異なる場合もある。本発明の強化ガラスは、割れたときの破砕片密度が少ないため、式(1)で表されるCT’の最大値を超える強化処理を施すことができる。CT’はCS、DOL’と式(2)の関係を有するため、CT’が上がると、CS、DOL’のいずれかを大きくすることができ、強度が上がる。CSが大きい強化ガラスは、表面に傷が生じても、表面圧縮応力によって傷が狭くなる効果があるために割れにくい。また、ガラス板を曲げた時に曲面の外側にかかる引張応力が表面圧縮応力によって相殺されるので、曲げた時にも割れにくい。DOLが大きければ、飛来物の衝突に対する耐性強度を上げることができる。
【0014】
本発明の強化ガラスは、上述した理由により表面圧縮応力(CS)を10MPa以上にすることができる。本発明の強化ガラスは、表面圧縮応力(CS)が15MPa以上であることが好ましく、50MPa以上であることがより好ましく、60MPa以上であることがより好ましく、70MPa以上であることがより好ましく、80MPa以上であることがさらに好ましく、90MPa以上であることが特に好ましく、100MPa以上であることが最も好ましい。表面圧縮応力(CS)の上限は特に限定されないが、過剰な圧縮により、微小クラック周辺で局所的な引張応力が生じ、全体の破壊につながることが知られているため2500MPa以下が好ましい。
本発明の強化ガラスは、表面圧縮応力(CS)とミラー定数Aとの積(CS×A)が22(MPa)2・m0.5以上であることが好ましく、50(MPa)2・m0.5以上であることがより好ましく、100(MPa)2・m0.5以上であることがさらに好ましく、150(MPa)2・m0.5以上であることがより好ましく、200(MPa)2・m0.5以上であることが特に好ましい。
【0015】
本発明の強化ガラスは、建築物の窓用ガラスとして用いられるため、板厚tが1.2mm以上50mm以下である。板厚tが1.2mm以上であれば、表面と内部の温度差がつきやすく物理強化処理(風冷強化処理ともいう。以下同じ)がしやすい。板厚tが50mm以下であれば、ガラス全体の重さが軽くなり窓として使用しやすい。
本発明の強化ガラスは、板厚tが1.3mm以上であることが好ましく、1.5mm以上がより好ましく、1.7mm以上がより好ましく、1.9mm以上がより好ましく、2.0mm以上がさらに好ましく、2.1mm以上が特に好ましく、2.3mm以上が最も好ましい。また、板厚tは45mm以下が好ましく、40mm以下がより好ましく、35mm以下がより好ましく、30mm以下がさらに好ましく、25mm以下が特に好ましく、20mm以下が最も好ましい。
【0016】
強化処理を施していないガラスの物性と、ミラー定数Aとの関連性に着目すると、強化処理を施していないガラスの仮想温度が低いほどミラー定数Aが大きくなる傾向がある。ガラスの破砕は、ガラスの引張応力が最大の部分で進行する。このような引張応力最大の部分とはガラスの板厚t方向の中心部であることから、ガラス全体の破砕の要因となるのはガラスの板厚t方向の中心部のミラー定数である。
なお、本明細書において、ガラスの板厚t方向の中心部とは、以下を意味する。ガラス板の主表面から、もう一方の主表面までの法線方向の距離をtとし、この法線方向をt方向と定義する。主表面からt方向にt/2の位置が、ガラスの板厚t方向の中心部である。通常、ガラスの両表面を同様に強化すると、主表面からt方向にt/2の位置で引張応力が最大になることから、この部分の引張応力の値が破砕の特性を決める重要な値となる。
強化処理を施したガラスの仮想温度、特に板厚t方向の中心部の仮想温度は、強化処理前のガラスの仮想温度の影響を受ける。適切な条件で強化処理を実施すれば、特に板厚t方向の中心部の仮想温度は、強化処理前後で実質的に差が生じない。
本発明の強化ガラスは、ガラスの板厚t方向の中心部の仮想温度が、そのガラスのガラス転移点Tg+60℃以下であることが、ガラスのミラー定数Aを2.2MPa・m0.5以上とするうえで好ましい。
本発明の強化ガラスは、ガラスの板厚t方向の中心部の仮想温度がTg+50℃以下であることがより好ましく、Tg+40℃以下であることがさらに好ましい。
なお、本発明における仮想温度Tfとは、以下に示す、屈折率法によって求められた数値のことをいう。仮想温度Tfは、ガラス断面を研磨し、屈折率nを測定することで測定でき、
Tf=a×n+b (4)
で表すことができる。ここで、a、bはガラス種に固有の定数である。
屈折率法による仮想温度Tfの具体的な求め方は以下の通りである。まず、仮想温度を測定しようとするガラスサンプルからi個(i≧2)の試験片を用意し、それぞれ異なる冷却開始温度に屈折率が平衡状態となるまで保持した後、冷却速度が1000℃/min以上で冷却する。ここで、冷却開始温度がガラス転移温度より低いと、十分に長い保持時間が必要となるので、冷却開始温度はガラス転移温度より10℃~100℃高い温度とすることが好ましい。この条件で冷却されたガラスに対して、特定の波長(例えばHeランプのd線、587.6nm)において屈折率ndを測定する。それぞれの冷却開始温度Tiに対して、その冷却開始温度から急冷したガラスの屈折率ndiをプロットし、線形回帰により式(4)における定数aおよびbを決定し、検量線を作成する。次に、仮想温度Tfを測定したいガラスから切り出し、研磨した試験片の屈折率ndSを測定し、検量線を用いてそのガラスの仮想温度Tfを決定することができる。
【0017】
強化処理前のガラスの仮想温度は以下の手順で調節できる。
強化ガラスを製造する場合、所定の組成のガラス原料を調合し溶解した後、板ガラスに成形する。この成形時の冷却温度プロファイルを調節することにより、ガラスの仮想温度を調節できる。ガラスの仮想温度を低くする場合は、例えば、ガラス転移温度付近で数時間保持した後に冷却したり、ガラス転移点付近(例えば徐冷点から歪点の間の温度)の冷却速度を小さくする、具体的には200℃/min以下とすることで達成することができる。
または、ガラスの仮想温度は、以下の手順で調整することも可能である。
所定の組成のガラス原料を調合し溶解した後、公知の板状ガラスの成形方法(例えばフロート法やフュージョン法、ロールアウト法)にて板ガラスに成形する。成形後、ガラスを所定の冷却開始温度まで昇温し、その温度にて保持する。その後、冷却速度を調整することにより、ガラスの仮想温度を調節できる。ガラスの仮想温度を低くする場合は、冷却開始温度を低くすればよい。この場合、冷却速度は速いほうが仮想温度が冷却開始温度に近い値となるため、好ましい。必要な保持時間は冷却開始温度により異なるが、500/(冷却開始温度-Tg)分以上が好ましく、1000/(冷却開始温度-Tg)分以上がより好ましい。
冷却開始温度は、Tg+100℃以下とすることが好ましい。Tg+100℃以下であれば、短時間の熱処理でも仮想温度を低くしやすいため工程に必要な時間を短縮したり、保持時の変形を抑制したりすることができる。冷却開始温度は、Tg+60℃以下がより好ましく、Tg+30℃以下がさらに好ましく、Tg+20℃以下が特に好ましい。またこの手順で仮想温度を調整する場合、冷却速度は、100℃/min以上とすることが好ましく、200℃/min以上とすることがより好ましく、300℃/min以上とすることがさらに好ましい。
【0018】
冷却後のガラスに所定の条件で強化処理を施す。風冷強化の場合、Tg+60℃~Tg+110℃にて短時間(例えば、7分以内)加熱炉に入れ、急冷(例えば、500℃/min以上の冷却速度)することにより、板厚t方向の中心部の仮想温度に強化処理の前後で実質的に差が生じない。
【0019】
上述したように、本発明の強化ガラスは、割れたときの破片数が少ないため、式(1)で表されるCT’の最大値を超える強化処理を施すことができ、CS、DOLを高くすることができる。
【0020】
本発明の強化ガラスは、板厚t方向中心部の引張応力CTと、ミラー定数Aとの積(CT×A)が11(MPa)2・m0.5以上であることが好ましく、15(MPa)2・m0.5以上であることがより好ましく、20(MPa)2・m0.5以上であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明の強化ガラスは、割れたときの破片数が少ないため、内部引張応力CT’の許容限界を超える強化処理を施して、圧縮応力層深さDOLを大きくすることができる。
DOLが大きい強化ガラスは、深い傷が生じた時にも傷の先端が圧縮応力層内に留まることから、破壊しにくい。
本発明の強化ガラスは、板厚をt(単位:mm)としたときに、圧縮応力層深さDOLが(1/10)×tmm以上であることが好ましく、(1/8)×tmm以上であることがより好ましく、(1/7)×tmm以上であることがさらに好ましく、(1/6.5)×tmm以上であることが特に好ましい。但し、DOLは、(1/4)×tmm以下であることが好ましく、(1/4.2)×tmm以下であることがより好ましく、(1/4.5)×tmm以下であることがさらに好ましい。DOLが(1/4)×tmm以下であれば、引張応力が生じる領域が板厚の(1/2)×tmm以下となり、引張応力CTを低くでき、強化ガラスが破損したときに多くの破片が飛び散る危険性が低くなる。
【0022】
DOLが大きい強化ガラスは、深い傷が生じた時にも傷の先端が圧縮応力層内に留まることから、破壊しにくい。
本発明の強化ガラスは、圧縮応力層深さDOLが0.150mm以上であることが好ましく、0.200mm以上がより好ましく、0.300mm以上がさらに好ましい。但し、圧縮応力層深さDOLは10mm以下が好ましく、8mm以下がより好ましく、6mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、4.5mm以下が特に好ましく、4mm以下が最も好ましい。
【0023】
DOL’が大きい強化ガラスは、深い傷が生じた時にも傷の先端が圧縮応力層内に留まることから、破壊しにくい。
本発明の強化ガラスは、圧縮応力層深さDOL’が0.150mm以上であることが好ましく、0.200mm以上がより好ましく、0.300mm以上がさらに好ましい。また、圧縮応力層深さDOL’は10mm以下が好ましく、8mm以下がより好ましく、6mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、4.5mm以下が特に好ましく、4mm以下が最も好ましい。
【0024】
本願出願人は、ガラスのミラー定数Aと、ガラスの物性若しくはガラスの組成との関連性について、以下の知見を得た。
【0025】
B2O3を実質的に含有しないガラス組成の場合
(1)ガラスのポアソン比νが高いほど、ガラスのミラー定数Aが小さくなる。そのため、ガラスのポアソン比が低いことが好ましい。具体的には、ガラスのポアソン比νが0.28以下であることが好ましく、0.26以下がより好ましく、0.24以下がさらに好ましい。ガラスのポアソン比νの下限は特に限定されないが、衝撃時の弾性変形範囲がある程度必要なため、0.1以上が好ましい。
ガラスのポアソン比νを低くするために、以下の手段がある。ガラス組成中のネットワークフォーマーとなるSiO2、Al2O3、P2O5含有量の割合を高くすることにより、ガラス中のネットワークが発達し、ガラスがより多くの空隙を持つようになる。この場合、ガラスが圧縮によって収縮する空間を有するため、ポアソン比が低いガラスを得やすい。上記ネットワークフォーマー以外のものでは、MgO、ZrO2などもTgを大きく上昇させることなくネットワーク形成因子として働くため、好適に用いられる。一方で、アルカリ金属酸化物R2OやCaO、SrOなどはネットワークを切断し、ガラスのパッキング密度(ガラスを構成する元素のイオン半径の和のガラス全体の体積に対する割合)を上げてポアソン比を上げる傾向がある。希土類の添加によっても結合数が多くなりポアソン比が上がる傾向があるが、同時にヤング率が高くなるため、ミラー定数Aは増大する傾向がある。ここで、アルカリ金属酸化物R2Oとは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2Oの総称である(以下、本明細書において同じ。)。また、B2O3を実質的に含有しないとは、B2O3を不可避的な不純物として混入する場合を除き含有しないことを意味する(以下、本明細書において同じ。)。
(2)ガラスのヤング率Eが高いほど、ガラスのミラー定数Aが大きくなる。ガラスのヤング率を高くするためには、ガラス中のAl2O3含有量を高くすることが効果的である。一般的にガラス中のSiO2含有量が高いと、ガラスのネットワーク構造が比較的強固になり、ガラスのヤング率が高い。ガラス中のSiO2含有量が低い場合は、Al2O3含有量を高くして、切断したネットワーク構造を補修することにより、ヤング率を高めることができる。また、ガラスのアルカリ土類金属酸化物(RO)の含有量を高くすることも、ガラスのヤング率を高めるのに効果的である。また、ガラスにNiO、TiO2、ZrO2、HfO2、ThO2などを含有する場合もガラスのヤング率が上昇する。ここで、アルカリ土類金属酸化物(RO)とは、MgO、CaO、SrO、BaOの総称である(以下、本明細書において同じ。)。
ガラスのミラー定数Aには影響しないが、P2O5は分相や失透種を作りやすいのでガラス中に多量には添加しないことが好ましい。
【0026】
上記の知見に基づくガラス組成として、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を30~85%、Al2O3を0~40%、P2O5を0~10%含有し、かつアルカリ金属酸化物(R2O)を総量で8~40%、アルカリ土類金属酸化物(RO)を総量で0~40%含有し、B2O3を実質的に含有しないものが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を30~85%、Al2O3を0~30%、P2O5を0~10%含有し、かつアルカリ金属酸化物(R2O)を総量で10~40%、アルカリ土類金属酸化物(RO)を総量で0~40%含有し、B2O3を実質的に含有しないものが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を35~55%、Al2O3とSiO2の比(Al2O3/SiO2)が0.3~0.6であり、P2O5を0~5%含有し、かつアルカリ金属酸化物(R2O)を総量で20~40%、アルカリ土類金属酸化物(RO)を総量で0~15%含有し、B2O3を実質的に含有しないものがさらに好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を40~50%、Al2O3とSiO2の比(Al2O3/SiO2)が0.5~0.6であり、P2O5を0~1%含有し、かつアルカリ金属酸化物(R2O)を総量で20~30%、アルカリ土類金属酸化物(RO)を総量で5~15%含有し、B2O3を実質的に含有しないものが特に好ましい。
上記のガラス組成とすることにより、ガラスのヤング率Eが68GPa以上、好ましくは70GPa以上、より好ましくは75GPa以上、更に好ましくは80GPa以上となる。なお、ガラスのヤング率の上限は特に限定されないが、一般的には180GPa以下である。
以下、B2O3を実質的に含有しないガラス組成の場合の各成分について説明する。
【0027】
SiO2はガラスの主要成分である。
SiO2の含有量が30%以上であれば、耐候性が良好である。SiO2の含有量は35%以上がより好ましく、38%以上がさらに好ましく、40%以上が特に好ましい。SiO2の含有量が85%以下であれば、失透しにくい。SiO2の含有量は、55%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましく、47%以下が特に好ましい。
【0028】
Al2O3は、耐候性を向上させる成分である。
Al2O3の含有量は0%以上である。Al2O3を含有すると耐候性が良好となる。Al2O3の含有量は、1%以上がより好ましく、3%以上がさらに好ましく、5%以上が特に好ましい。Al2O3の含有量が40%以下であれば、溶解性が良好である。Al2O3の含有量は、35%以下がより好ましく、32%以下がさらに好ましく、30%以下が特に好ましい。
【0029】
Al2O3とSiO2の比(Al2O3/SiO2)が0.3以上であれば、結合数の増加により、構造が強固になる。Al2O3/SiO2は0.35以上がより好ましく、0.4以上がさらに好ましい。さらに好ましくは0.5以上である。Al2O3とSiO2の比(Al2O3/SiO2)が0.6以下であれば、ガラスの高温での粘性が高くなりにくく、好適である。Al2O3/SiO2は0.55以下がより好ましく、0.52以下がさらに好ましい。
【0030】
P2O5は、分相や失透種を作りやすいので実質的に含有しないことが好ましいが、DOLを大きくするために10%以下含有させてもよい。P2O5の含有量は5%以下であってもよく、1%以下であってもよい。
【0031】
アルカリ金属酸化物(R2O)が総量で8%以上であれば、高温にした場合のガラスの粘性が下がりやすいため、溶かしやすいガラスとなる。R2Oは総量で10%以上がより好ましく、12%以上がさらに好ましく、20%以上が特に好ましい。また、R2Oが総量で40%以下であれば、ヤング率が低くなりにくい。R2Oは総量で35%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。
【0032】
Li2Oは、ガラスの高温時の粘性を下げる効果をもちながら、室温におけるヤング率低下を生じないアルカリ金属酸化物成分である。Li2Oの含有量が0.01%以上であれば、上記効果が現れる。Li2Oの含有量は、2%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましい。Li2Oが20%以下であれば、ガラス構造におけるネットワークを保つことが出来る。また、Li2Oの値段が高いことから、得られるガラスの値段の高騰を免れる。Li2Oの含有量は、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0033】
Na2Oは、Li2Oと同様に、ガラスの高温時の粘性を下げる効果をもつ成分である。Na2Oの含有量が5%以上であれば、上記の効果がある。Na2Oの含有量は、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。Na2Oの含有量が40%以下であれば、ガラス構造におけるネットワークを保つことが出来る。Na2Oの含有量は、30%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。
【0034】
K2Oは、Li2OやNa2Oと同様に、ガラスの高温時の粘性を下げる効果をもつ成分である。K2Oの含有量が2%以上であれば、粘性を下げる効果がより強くなる。K2Oの含有量は、3%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましい。K2Oの含有量が20%以下であれば、ガラスの潮解性をある程度下げることができる。K2Oの含有量は、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0035】
Rb2Oは、Li2O、Na2O、K2Oなどと同様に、ガラスの高温時の粘性を下げる効果をもつ成分である。Rb2Oの含有量が1%以上であれば、混合アルカリ効果により、ガラスの破壊時のエネルギー吸収効果を上げることが可能である。Rb2Oの含有量は、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。Rb2Oの含有量が10%以下であれば、ガラスの重量の過剰な増加を防ぐことが出来る。Rb2Oの含有量は、5%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましい。
【0036】
アルカリ土類金属酸化物(RO)はミラー定数を増加させる成分であるため、物理強化ガラスおよび化学強化ガラスの場合のいずれでも、含有してもよい。ROが総量で3%以上であれば、ミラー定数の上昇につながる。ROは総量で5%以上であってもよい。また、ROが総量で40%以下であれば、失透しにくい。ROは総量で30%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましく、20%以下が特に好ましい。
一方、特に化学強化ガラスの場合、アルカリ土類金属酸化物(RO)のうち、MgOを除くアルカリ金属土類酸化物成分、(CaO+SrO+BaO)が少ないとイオン交換能を向上させ、大きなDOLを得ることが出来るようになるため、(CaO+SrO+BaO)は総量で5%以下が好ましい。(CaO+SrO+BaO)は総量で4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。また、(CaO+SrO+BaO)はガラスの失透性を低減し、安定なガラスを得ることが出来るようになることから、(CaO+SrO+BaO)は、総量で0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましい。
【0037】
MgOは、ガラスのヤング率を増加させることでミラー半径を大きくする成分である。物理強化ガラスおよび化学強化ガラスの場合のいずれでも、MgOの含有量が3%以上であれば、ヤング率の増加効果が顕著となる。MgOの含有量は、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。MgOの含有量が35%以下であれば、失透しやすいなどの問題を回避できる。MgOの含有量は、30%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましい。
【0038】
CaOは、高温での溶融性を向上させる、または失透を起こりにくくするための成分である。そのため、物理強化ガラスおよび化学強化ガラスの場合のいずれでも、CaOの含有量が0.1%以上であれば、失透を抑制できる。CaOの含有量は、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましい。CaOの含有量が15%以下であれば、溶融性の向上とガラスのヤング率の上昇いずれの効果も得られる。CaOの含有量は、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。特に化学強化ガラスの場合、CaOの含有量を少なくすることにより、DOLを高める効果を得ることが出来ることから、CaOの含有量は5%以下が好ましい。CaOの含有量は、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましい。
【0039】
SrOは、高温での溶融性を向上させる、または失透を起こりにくくするための成分である。そのため、物理強化ガラスおよび化学強化ガラスの場合のいずれでも、SrOの含有量が0.1%以上であれば、失透防止に効果がある。SrOの含有量は、0.2%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましい。SrOの含有量が15%以下であれば、ガラスの重量上昇が問題とならない。SrOの含有量は、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。特に化学強化ガラスの場合、SrOの含有量を少なくすることにより、DOLを高める効果を得ることが出来ることから、SrOの含有量は5%以下が好ましい。SrOの含有量は、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0040】
BaOは、高温での溶融性を向上させる、または失透を起こりにくくするための成分である。物理強化ガラスの場合、BaOの含有量が0.1%以上であれば、アルカリ土類の混合効果によりエネルギー散逸が生じやすくなる傾向がある。物理強化ガラスの場合、BaOの含有量は、0.2%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましい。物理強化ガラスの場合、BaOの含有量が20%以下であれば、ガラスの重量上昇が問題とならない。物理強化ガラスの場合、BaOの含有量は、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。また、化学強化ガラスの場合、BaOの含有量を少なくすることにより、DOLを高める効果を得ることが出来ることから、化学強化ガラスの場合、BaOの含有量は5%以下が好ましい。BaOの含有量は、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.1%以下が特に好ましい。
【0041】
上記の知見に基づき、本発明の強化ガラスはB2O3を実質的に含有しない場合、下記式(7)で表されるGが0以上であることが好ましい。
G=E×0.013+ν×(-6.6)+[Al2O3]×0.023+ΣRO×0.013 (7)
(式中、Eはガラスのヤング率(GPa)、νはガラスのポアソン比、[Al2O3]はガラス中のAl2O3の含有量(酸化物基準のモル%)、ΣROはガラス中のアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(酸化物基準のモル%)である。)
Gが0以上であれば、ミラー定数が大きくなる傾向がある。Gは、0.05以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましく、0.2以上が特に好ましい。Gの上限は特に限定されないが、10以下であってよい。
【0042】
また、本発明の強化ガラスがB2O3を実質的に含有しない場合、下記式(9)で表されるIが0.45以上であることが好ましい。
I=[Al2O3]×0.03+ΣRO×0.014 (9)
(式中、[Al2O3]はガラス中のAl2O3含有量(酸化物基準のモル%)、ΣROはガラス中のアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(酸化物基準のモル%)である。)
Iが0.45以上であれば、ミラー定数が大きくなる傾向がある。Iは、0.5以上がより好ましく、0.6以上がさらに好ましく、0.7以上が特に好ましい。Iの上限は特に限定されないが、ガラスが含有できるAl2O3やROの量を考慮すると2以下が好ましい。
【0043】
B2O3を含有するガラス組成の場合
(1)ガラスに破砕が生じると、ガラス中を亀裂が進展するが、亀裂先端では応力が増大し、これが亀裂の新たな進展につながる。一方で、三配位ホウ素を含むガラスでは、この応力によって三配位ホウ素が四配位ホウ素になり、この配位数変化により破砕エネルギーが消費される。このエネルギー消費により、亀裂の進展に分配されるエネルギーが抑制される。その結果、破砕面の形成が抑制される。破砕面の形成が抑制されると、ミラー面が長く続き、ミスト面になりにくいことから、ミラー定数が大きいガラスとなる。つまり、ガラス中の三配位ホウ素の含有量が高いほど、ガラスのミラー定数Aが大きくなり、好ましい。
一方、Al2O3の添加はガラスのミラー定数Aを大きく下げるので好ましくない。
また、アルカリ土類金属酸化物ROはガラス全体の剛性を大きく変えないが、ホウ素を四配位にする傾向があるため、アルカリ土類金属酸化物ROは多く入れない方がよい。
アルカリ金属酸化物R2Oはガラス全体の剛性を下げるうえ、ホウ素を四配位にする傾向があるため、多く入れない方がよい。ただし、後述するαLT及びαHTを上昇させる効果があるので適量添加する。
【0044】
(2)ガラスのヤング率Eが高いほど、ガラスのミラー定数Aが大きくなる。ガラスのヤング率Eを上昇させる成分については、B2O3を実質的に含有しないガラス組成の場合と同様である。但し、上述した三配位ホウ素との関連性に比べると、ガラスのヤング率Eとミラー定数Aとの関連性は低い。
アルカリ土類金属酸化物ROの添加はガラスのヤング率Eを上昇させるが、ホウ素を四配位にする傾向があり、ガラスのミラー定数Aを低くする。そのため、B2O3を含有するガラス組成の場合、アルカリ土類金属酸化物ROの含有量を高くしないことが好ましい。Al2O3の添加はガラスのヤング率Eを上昇させるため、含有量は高い方が好ましい。
【0045】
ガラスのミラー定数Aには影響しないが、P2O5は分相や失透種を作りやすいのでガラス中に多量には添加しないことが好ましい。
【0046】
上記の知見に基づくガラス組成として、酸化物基準のモル百分率表示で、B2O3を0.01~40%、SiO2を40~75%、Al2O3を0~20%、P2O5を0~10%含有し、かつアルカリ金属酸化物(R2O)を総量で8~40%、アルカリ土類金属酸化物(RO)を総量で0~40%含有するものが好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示で、B2O3を5~25%、SiO2を40~73%、Al2O3を0~20%、P2O5を0~10%含有し、かつアルカリ金属酸化物(R2O)を総量で10~20%、アルカリ土類金属酸化物(RO)を総量で0~30%含有するものがより好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示で、B2O3を5~25%、SiO2を43~55%、Al2O3を0~15%、B2O3とR2Oの和との比(B2O3/ΣR2O)が0.8~2.5、P2O5を0~5%含有し、かつアルカリ金属酸化物(R2O)を総量で10~20%、アルカリ土類金属酸化物(RO)を総量で1~25%含有するものがさらに好ましい。
また、酸化物基準のモル百分率表示で、B2O3を5~25%、SiO2を46~50%、Al2O3を0~5%、B2O3とR2Oの和の比(B2O3/ΣR2O)が1.0~2.0、P2O5を0~1%含有し、かつアルカリ金属酸化物(R2O)を総量で15~20%、アルカリ土類金属酸化物(RO)を総量で1~15%含有するものが特に好ましい。
上記のガラス組成とすることにより、ガラスのヤング率Eが70GPa以上、より好ましくは75GPa以上、更に好ましくは80GPa以上となる。なお、ガラスのヤング率の上限は特に限定されないが、一般的には180GPa以下である。
以下、B2O3を含有するガラス組成の場合の各成分について説明する。
【0047】
SiO2はガラスの主要成分である。
SiO2の含有量が40%以上であれば、耐候性が良好である。SiO2の含有量は43%以上がより好ましく、46%以上がさらに好ましい。SiO2の含有量が75%以下であれば、失透しにくい。SiO2の含有量は、70%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましく、63%以下がよりさらに好ましく、55%以下が特に好ましく、50%以下が最も好ましい。
【0048】
Al2O3は、耐候性を向上させる成分である。
Al2O3の含有量は0%以上である。Al2O3を含有すると耐候性が良好となる。Al2O3の含有量は、0.1%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましく、0.5%以上が特に好ましい。Al2O3の含有量が20%以下であれば、溶解性が良好である。ただし、Al2O3が含まれるとミラー定数が急激に減少することから、含有量は、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。
【0049】
Al2O3とSiO2の比(Al2O3/SiO2)が0.01以上であれば、アルカリ金属によって切断された結合が補修され、ガラスのネットワーク構造が強固になり、硬度が向上する。Al2O3/SiO2は0.02以上がより好ましく、0.03以上がさらに好ましい。Al2O3とSiO2の比(Al2O3/SiO2)が0.5以下であれば、ミラー定数の低下を防ぐことが可能である。Al2O3/SiO2は0.3以下がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
【0050】
P2O5は、分相や失透種を作りやすいので実質的に含有しないことが好ましいが、化学強化ガラスとして利用する際の圧縮応力層の厚みを大きくするために10%以下含有させてもよい。P2O5の含有量は5%以下であってもよく、1%以下であってもよい。
【0051】
B2O3は、ミラー定数を増加させる成分として効果が大きく、0.01%以上含むことが好ましい。B2O3の含有量は、1%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましく、10%以上が特に好ましく、15%以上が最も好ましい。B2O3の含有量は、40%以下であれば、ヤング率の低下を防止できる。B2O3の含有量は、35%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、25%以下がよりさらに好ましく、23%以下が特に好ましく、20%以下が最も好ましい。
【0052】
B2O3とR2Oの和との比(B2O3/ΣR2O)が0.8以上であれば、3配位のホウ素が多く存在するため、ミラー定数が大きいガラスになりやすい。B2O3/ΣR2Oは、1.0以上がより好ましく、1.2以上がさらに好ましく、1.3以上が特に好ましい。B2O3/ΣR2Oは、2.5以下であれば、Tgが高くなり過ぎず、扱いやすい。B2O3/ΣR2Oは、2.0以下がより好ましく、1.8以下がさらに好ましい。
【0053】
アルカリ金属酸化物(R2O)が総量で8%以上であれば、高温にした場合のガラスの粘性が下がりやすいため、溶融性の高いガラスとなる。R2Oは総量で10%以上がより好ましく、12%以上がさらに好ましく、15%以下が特に好ましい。また、R2Oが総量で40%以下であれば、ヤング率の急激な低下を防止できる。R2Oは総量で35%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。
【0054】
Li2Oは、ガラスの高温時の粘性を下げる効果をもちながら、室温におけるヤング率低下を生じないアルカリ金属酸化物成分である。Li2Oの含有量が0.01%以上であれば、上記効果が現れる。Li2Oの含有量は、2%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましい。Li2Oの含有量が20%以下であれば、ガラス構造におけるネットワークを保つことが出来る。また、Li2Oの値段が高いことから、得られるガラスの値段の高騰を免れる。Li2Oの含有量は、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0055】
Na2Oは、Li2Oと同様に、ガラスの高温時の粘性を下げる効果をもつ成分である。Na2Oの含有量が0.01%以上であれば、上記の効果がある。Na2Oの含有量は、1%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましい。Na2Oの含有量が40%以下であれば、ガラス構造におけるネットワークを保つことが出来る。Na2Oの含有量は、35%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。
【0056】
K2Oは、Li2OやNa2Oと同様に、ガラスの高温時の粘性を下げる効果をもつ成分である。K2Oの含有量が0.01%以上であれば、粘性を下げる効果がより強くなる。K2Oは、2%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましい。K2Oの含有量が20%以下であれば、ガラスの潮解性をある程度下げることができる。K2Oの含有量は、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0057】
Rb2Oは、Li2O、Na2O、K2Oなどと同様に、ガラスの高温時の粘性を下げる効果をもつ成分である。Rb2Oの含有量が0.01%以上であれば、混合アルカリ効果により、ガラスの破壊時のエネルギー吸収効果を上げることが可能である。Rb2Oの含有量は、2%以上がより好ましく、3%以上がさらに好ましい。Rb2Oの含有量が10%以下であれば、ガラスの重量の過剰な増加を防ぐことが出来る。Rb2Oの含有量は、5%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましい。
【0058】
アルカリ土類金属酸化物(RO)はミラー定数を増加させる成分であるため、含有してもよい。物理強化ガラスおよび化学強化ガラスの場合のいずれでも、ROが総量で1%以上であれば、ミラー定数の上昇につながる。ROは総量で3%以上が好ましく、さらに好ましくは5%以上である。また、ROが総量で40%以下であれば、失透による影響が少ない。ROは総量で35%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、25%以下が特に好ましく、15%以下が最も好ましい。
一方、特に化学強化ガラスの場合、アルカリ土類金属酸化物(RO)のうち、MgOを除くアルカリ土類金属酸化物成分、(CaO+SrO+BaO)が少ないとイオン交換能を向上させ、大きなDOLを得ることが出来るようになるため、(CaO+SrO+BaO)は総量で20%以下が好ましい。(CaO+SrO+BaO)は、総量で15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。一方、(CaO+SrO+BaO)はガラスの失透性を低減し、安定なガラスを得ることが出来るようになることから、(CaO+SrO+BaO)は、総量で0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましい。
【0059】
MgOは、ガラスのヤング率を増加させることでミラー半径を大きくする成分である。物理強化ガラスおよび化学強化ガラスいずれの場合においても、MgOの含有量が1%以上であれば、ヤング率の増加効果が顕著となる。MgOの含有量は、3%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。MgOが35%以下であれば、失透しやすいなどの問題を回避できる。MgOの含有量は、35%以下がより好ましく、33%以下がさらに好ましい。一方、化学強化ガラスの場合、DOLを大きくしやすくすることができることから、MgOの含有量は8%以下が好ましい。MgOの含有量は、5%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましい。
【0060】
CaOは、高温での溶融性を向上させる、または失透を起こりにくくするための成分である。そのため、物理強化ガラスおよび化学強化ガラスのいずれにおいても、CaOの含有量が0.1%以上であれば、失透を抑制できる。CaOの含有量は、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましい。CaOの含有量が15%以下であれば、溶融性の向上とガラスのヤング率の上昇いずれの効果も得られる。CaOの含有量は、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。特に化学強化ガラスの場合には、DOLを大きくしやすくすることができることから、CaOの含有量は、8%以下が好ましい。5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下が特に好ましい。
【0061】
SrOは、高温での溶融性を向上させる、または失透を起こりにくくするための成分である。そのため、物理強化ガラスおよび化学強化ガラスのいずれにおいても、SrOの含有量が0.1%以上であれば、失透防止に効果がある。SrOの含有量は、0.2%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましい。SrOの含有量が5%以下であれば、ガラスの重量上昇が問題とならない。SrOの含有量は、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0062】
BaOは、高温での溶融性を向上させる、または失透を起こりにくくするための成分である。物理強化ガラスの場合、BaOの含有量が1%以上であれば、アルカリ土類の混合効果によりエネルギー散逸が生じやすくなる傾向がある。BaOの含有量は、2%以上がより好ましく、2.5%以上がさらに好ましい。また、BaOの含有量が20%以下であると粘性が高くなり過ぎず、溶融性が向上したり、比重が小さくなり軽量化が可能となるため好ましい。15%以下がより好ましく、13%以下が更に好ましく10%以下が特に好ましい。一方、特に化学強化ガラスの場合、BaOの含有量を少なくすることにより、DOLを高める効果を得ることが出来ることから、5%以下が好ましい。3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、実質上含有しないことが最も好ましい。
【0063】
上記の知見に基づき、本発明の強化ガラスがB2O3を含有する場合、下記式(8)で表されるHが0.4以上であることが好ましい。
H=B2O3(三配位)×0.039+E×0.036+ΣRO×(-0.030)-2.3 (8)
(式中、B2O3(三配位)はガラス中の三配位ホウ素含有量(酸化物基準のモル%)、Eはガラスのヤング率(GPa)、ΣROはガラス中のアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(酸化物基準のモル%)である。)
Hが0.4以上であれば、ミラー定数が大きくなる傾向がある。Hは、0.45以上がより好ましく、0.50以上がさらに好ましく、0.55以上が特に好ましい。Hの上限は特に限定されないが、全B2O3含有量のうち、三配位を取ることができるB原子の分率には限度があるため、2以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。
【0064】
上記の知見に基づき、本発明の強化ガラスがB2O3を含有する場合、下記式(10)で表されるJが0.45以上であることが好ましい。
J=[B2O3]×0.031-0.026×[K2O] (10)
(式中、[B2O3]はガラス中のB2O3含有量(酸化物基準のモル%)、[K2O]はガラス中のK2O含有量(酸化物基準のモル%)である。)
Jが0.45以上であれば、ミラー定数が大きくなる傾向がある。Jは、0.50以上がより好ましく、0.55以上がさらに好ましい。Jの上限は特に限定されないが、B2O3の含有量とアルカリ金属酸化物の含有量が多すぎると潮解性が生じ、特に屋外での使用での表面劣化が顕著となるため、1以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。
【0065】
上述したように、ガラスへのアルカリ土類金属酸化物ROの添加は、ガラスのヤング率Eを上昇させる。ガラスのヤング率を上昇させる効果は、アルカリ金属酸化物よりアルカリ土類金属酸化物の方が高く、アルカリ土類金属酸化物の中でもCaOが他のアルカリ土類金属酸化物に比べて高い。CaOの含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、0.5%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましい。
【0066】
アルカリ金属酸化物R2Oの場合は、アルカリ金属の原子量が小さいアルカリ金属酸化物R2Oを添加した方がガラスのネットワーク構造の切断を防止するので、破砕面が形成されにくくなる。このため、ミラー定数Aが大きくなる傾向がある。そのため、ガラスに添加するアルカリ金属酸化物R2Oとしては、K2OよりもNa2Oが好ましく、Li2Oがより好ましい。特にこの傾向はB2O3を含まないガラスにおいて顕著である。
本発明の強化ガラスは、下記式(11)で示される<MR2O>が30以下であることが好ましい。
<MR2O>=Σ(Mi×Ri)/ΣRi (11)
ここで、Miはアルカリ金属の原子量、Riはガラスに含まれるアルカリ金属酸化物の含有量(酸化物基準のモル%)であり、<MR2O>はガラス中のアルカリ金属の原子量に相関がある値である。<MR2O>が小さいほど、ガラスに含まれるアルカリ金属酸化物が軽元素であることが示唆され、軽元素のアルカリ金属酸化物を含むガラスのネットワークはより密になる傾向があるため、ヤング率が高くなる傾向があり、ミラー定数が大きくなる。<MR2O>は20以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。
【0067】
本発明の強化ガラスは、ランタノイドを実質的に含有しないことが好ましい。ここで、ランタノイドを実質的に含有しないとは、ランタノイドを不可避的な不純物として混入する場合を除き含有しないことを意味する。ランタノイドを実質的に含有しないことにより、ガラスを軽量とすることができる。また、ガラスに太陽光が当たったときに蓄光や発光が起こらない。
【0068】
また、本発明の強化ガラスは、Fを実質的に含有しないことが好ましい。ここで、Fを実質的に含有しないとは、Fを不可避的な不純物として混入する場合を除き含有しないことを意味する。Fを実質的に含有しないことにより、ガラスを熱処理しても組成が変化しにくい。
【0069】
本発明の実施形態によるガラス板は、SO3を含有してもよい。SO3は主として、清澄剤として用いられる芒硝(Na2SO4)に由来する。
本発明の実施形態によるガラス板において、SO3の含有量は、酸化物基準の質量%表示で、0.001%~0.2%が好ましい。SO3の含有量が0.001%以上であれば、ガラス溶融時の清澄効果が良く、泡が少なくなる。SO3の含有量は、0.003%以上が好ましく、0.01%以上がより好ましく、0.02%以上がさらに好ましい。SO3の含有量が0.2%以下であれば、SO2のガス成分が気泡としてガラス中に残りにくい。SO3の含有量は、0.1%以下が好ましく、0.05%以下がより好ましく、0.03%以下がさらに好ましい。
【0070】
本発明の実施形態によるガラス板は、SnO2を含有してもよい。SnO2は清澄剤として作用する。
本発明の実施形態によるガラス板において、SnO2の含有量は、酸化物基準の質量%表示で、0~1%が好ましい。SnO2を含有すれば、ガラス溶融時の清澄効果が良く、泡が少なくなる。SnO2の含有量は、0.1%以上であってもよく、0.2%以上であってもよく、0.3%以上であってもよい。また、SnO2の含有量が1%以下であれば、原料コストを抑えることができ、製造ラインでの揮散が少ない。SnO2の含有量は、0.7%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.4%以下が特に好ましい。
【0071】
本発明の実施形態によるガラス板は、着色成分として、例えばFe2O3、TiO2、CeO2、CoO、Se、MnO2、MnO、Cr2O3、V2O5、NiO、Er2O3を含有してもよいが、着色成分を含有しなくてもよい。本発明の実施形態のガラス板は、好ましくは、MnO2、MnO、Cr2O3、V2O5、NiO、Er2O3を実質的に含有しない。
【0072】
本発明の強化ガラスが風冷強化ガラスの場合、風冷強化のしやすさの観点から、以下に示す低温熱膨張係数αLT、高温熱膨張係数αHTを満たすことが好ましい。
風冷強化処理では、強化処理対象となるガラスを軟化点または屈伏点付近の温度まで加熱した後、表面に冷却媒を吹き付けて急冷することにより残留応力を付与する。
本明細書における風冷強化のしやすさとは、上述した手順で風冷強化処理を実施した際に、残留応力を付与しやすいことを意味する。
【0073】
本明細書において、50~350℃での平均熱膨張係数を低温熱膨張係数αLTとする。
本発明の強化ガラスは、低温熱膨張係数αLTが60×10-7・K-1以上であることが残留応力を付与する観点からは好ましい。
本発明の強化ガラスは、低温熱膨張係数αLTが70×10-7・K-1以上であることがより好ましく、80×10-7・K-1以上であることがさらに好ましい。
【0074】
本明細書において、10gの荷重を直径5mm、長さ20mmのサンプルに印加し、5℃/minの昇温速度で測定して得られた熱膨張曲線において、ガラス転移点と屈伏点との間における熱膨張係数の極大値を高温熱膨張係数αHTとする。
低温熱膨張係数αLTと高温熱膨張係数αHTには通常相関があり、低温熱膨張係数αLTが大きいと高温熱膨張係数αHTも大きくなる傾向がある。低温熱膨張係数αLTが従来のガラスに近い数値である一方、高温熱膨張係数αHTが従来のガラスよりも大きいガラスであれば、ガラスの成形には従来の装置を使用することができる。さらに、風冷強化処理を実施した際に残留応力を付与しやすいガラスにすることが可能である。
この観点から、本発明の強化ガラスは、高温熱膨張係数αHTと低温熱膨張係数αLTとの比αHT/αLTが2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがより好ましく、6以上がさらに好ましく、7以上が特に好ましく、8以上が最も好ましい。
【0075】
風冷強化処理によりガラスに付与される残留応力は、ガラスの低温熱膨張係数αLTとヤング率Eとの積αLT×Eによって決まる。そのため、αLT×Eの値がより大きいガラスの方が風冷強化ガラスとして好ましい。
本発明の強化ガラスは、低温熱膨張係数αLTとヤング率Eとの積αLT×Eが4×105Pa・K-1以上であることが好ましく、5×105Pa・K-1以上であることがより好ましく、6×105Pa・K-1以上であることがさらに好ましく、7×105Pa・K-1以上であることが特に好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
例1~14は実施例、例15~27は比較例である。
ガラス原料を適宜調製し、加熱・溶融した後、脱泡、攪拌等により均質化し、フロート法により成形してガラス板(板厚2.2mm)を得た。実施例、比較例に用いたガラスの組成(酸化物基準のモル%)を表1~3に示す。
なお、B2O3を含有する例7~14、例23~27について、三配位ホウ素の含有量(B(三配位)(モル%))は下記式(12)、(13)で特定した。
アルカリ金属酸化物の総量(ΣR2O)がAl2O3の含有量よりも多い場合(ΣR2O>[Al2O3]):[B(三配位)]=[B2O3]-(ΣR2O―[Al2O3]) (12)
アルカリ金属酸化物の総量(ΣR2O)がAl2O3の含有量以下の場合(ΣR2O≦[Al2O3]):[B(三配位)]=[B2O3] (13)
式中、[B(三配位)]はガラス中の三配位ホウ素の含有量(モル%)、[B2O3]はガラス中のB2O3の含有量(酸化物基準のモル%)、[Al2O3]はガラス中のAl2O3の含有量(酸化物基準のモル%)、ΣR2Oはガラス中のアルカリ金属酸化物の合計含有量(酸化物基準のモル%)である。
B2O3を含有しない例1~6、例15~22については、下記式(9)で表されるIを求めた。
I=[Al2O3]×0.03+ΣRO×0.014 (9)
式中、[Al2O3]はガラス中のAl2O3含有量(酸化物基準のモル%)、ΣROはガラス中のアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(酸化物基準のモル%)である。
B2O3を含有する例7~14、例23~27については、下記式(10)で表されるJを求めた。
J=[B2O3]×0.031-0.026×[K2O] (10)
式中、[B2O3]はガラス中のB2O3の含有量(酸化物基準のモル%)、[K2O]はガラス中のK2Oの含有量(酸化物基準のモル%)である。
【0077】
<比重>
上記の手順で得られたガラス板を直方体に加工し、ガラス板の長辺及び短辺の長さをマイクロメータにより誤差±0.01mmで測定し、ガラス板の重量を誤差±0.02gで測定し、比重を求めた。
<ヤング率E、ポアソン比ν>
上記の手順で得られたガラス板のヤング率Eとポアソン比νを超音波パルス法により測定した。
B2O3を含有しない例1~6、例15~22については、下記式(7)で表されるGを求めた。
G=E×0.013+ν×(-6.6)+[Al2O3]×0.023+ΣRO×0.013 (7)
式中、Eはガラスのヤング率(GPa)、νはガラスのポアソン比、[Al2O3]はガラス中のAl2O3含有量(酸化物基準のモル%)、ΣROはガラス中のアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(酸化物基準のモル%)である。
B2O3を含有する例7~14、例23~27については、下記式(8)で表されるHを求めた。
H=B2O3(三配位)×0.039+E×0.036+ΣRO×(-0.030)-2.3 (8)
式中、B2O3(三配位)はガラス中の三配位ホウ素含有量(酸化物基準のモル%)、Eはガラスのヤング率(GPa)、ΣROはガラス中のアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(酸化物基準のモル%)である。
【0078】
<低温熱膨張係数αLT、高温熱膨張係数αHT、ガラス転移点Tg、屈伏点>
上記の手順で得られたガラス板を加工して、直径5mm、長さ20mmのガラス棒を作製した。熱膨張計(ブルカー・エイエックスエス社製、TD5010SA)を用い、ガラス棒に10gの荷重を加えて5℃/分の昇温速度で線膨張曲線を測定し、ガラス転移点Tg(単位:℃)、屈伏点(単位:℃)、低温熱膨張係数αLT(単位:×10-7/℃)、高温熱膨張係数αHT(単位:×10-7/℃)を求めた。なお、表1~3において、括弧内に示す値は計算値である。
<仮想温度>
ガラスの仮想温度は、以下の手順で測定を行った。
まず、ガラスの異なる仮想温度のガラスの作製を、以下の手順で行った。所定の組成のガラス原料を調合し溶解した後、板ガラスに成形した。成形後、ガラスをそれぞれ表2及び表3の冷却開始温度で保持した。その後、冷却速度を調整することにより、ガラスの仮想温度を調整した。次に、ガラスの仮想温度を、次のように求めた。それぞれの組成のガラスにおいて、板状のガラスを3個ずつ準備し、白金線とセラミクス棒を用いて白金るつぼ内に壁面に接触しないように吊るした状態でそれぞれ異なる冷却開始温度T(℃)に保持した電気炉に入れた。ここで、冷却開始温度ならびに保持時間は、Tg+50℃で5分、Tg+30℃で20分、Tg+10℃で2時間とし、それぞれ保持した後に、ガラスを電気炉から室温約25℃の炉外に取り出すことによって、1000℃/min以上の冷却速度で冷却した。次に、これらのガラスのd線における屈折率ndを、屈折率計(KPR2000;島津デバイス製造社製)を用いて測定し、屈折率ndと冷却開始温度Tから、式(4)における定数aおよびbを線形回帰により決定した。次に、未知のTfのガラスについて、屈折率ndを測定し、式(4)の関係、Tf=a×nd+bを用いて仮想温度Tfを求めた。
【0079】
<ミラー定数>
下記手順でガラス加工、加傷、熱処理、曲げ試験、破壊面の観察を実施することにより、ミラー定数を測定した。
(加工)
上記の手順で得られたガラス板を40mm×6mm×3mmの大きさに加工し、表裏面と長手方向の端面(合わせて4面)を鏡面研磨したガラス板を8枚作製した。
(加傷)
ビッカース硬度計(HMV-2;島津製作所社製)を用いて対面角110°のダイヤモンド圧子を使用し、8枚のガラス板に異なる荷重で圧子を押し込み、加傷した。押し込み荷重は、0.05kgf、0.1kgf、0.3kgf、0.5kgf、0.75kgf、1.0kgf、2.0kgf、3.0kgfとした。
(熱処理)
加傷による歪の影響を除去するために熱処理を行った。熱処理は、表1~3に記載の冷却開始温度で1時間保持し、表1~3に記載の冷却速度で室温まで冷却することにより行った。
(曲げ試験)
4点曲げ用冶具のスパンは、負荷側(上):10mm、支持側(下):30mmのものを用いた。加傷および熱処理後のガラスの、加傷面の反対の面にテープを貼り、加傷面を下(テープを貼った面を上)にして荷重を印加し、破砕した時の荷重を測定した。以下の式(14)を用いて、測定した荷重から破砕時の応力を求めた。
σ=(3F(Ls-Ll))/(2wh2) (14)
ここで、σ:破砕時の応力(MPa)、F:破砕時の荷重(N)、Ls:下部支点間距離(mm)、Ll:上部荷重点間距離(mm)、w:サンプル幅(mm)、h:サンプル厚さ(mm)である。
(破壊面観察)
破断面をデジタルマイクロスコープ(VHX-5000;KEYENCE社製)を用いて観察し、破壊起点から、ミラー面とミスト面との界面までの距離Rを計測した。観察時は、サンプルの破断面と顕微鏡のレンズの光軸を垂直にし、20×150倍の倍率で観察を行った。
上記の手順で得られた結果から、下記式を用いてミラー定数Aを求めた。
σ=A/R1/2
【0080】
<強化処理>
例1、3、5のガラスについては、450℃の溶融硝酸カリウムに3時間浸漬し、化学強化処理を行った。
例2、4、6、7~27のガラスについては、電気炉で粘性がlogη=9となる温度(およそTg+110~130℃)で加熱し、ガラス表面が該温度になった直後に電気炉からガラスを取り出し、急冷することにより風冷強化処理を行った。
【0081】
<CS、DOL>
強化処理後のガラスの表面圧縮応力(CS)、圧縮応力層深さ(DOL)を以下の手順で算出した。
化学強化処理を行った例1、3、5のガラスについては、表面応力計(FSM6000;折原製作所社製)にて測定を行った。物理強化処理を行った例2、4、6、7~27のガラスについては散乱光光弾性解析装置(SLP-1000;折原製作所社製)にて測定をおこなった。
【0082】
<破砕数>
例2、4、6~27のガラスについては、強化処理後のガラスの破砕数を以下の手順で測定した。
強化処理後のガラスサンプル(10cm角)に対して、オートポンチ(超硬チップ付自動ポンチM型;新潟精機社製)を用いて、サンプルの一つの角から10mm離れたところに角度120°の圧子により衝撃を加えて破砕した。破砕したガラスの破片の数を破砕数とした。なお、ガラスが破砕しなかった場合は破砕数を0とした。
例1、3、5のガラスについては、強化処理後のガラスの破砕数を以下の手順で測定した。
マイクロビッカース硬度計(HMV-2;島津製作所社製)を用いて、正四角錐状60°(対面角)ダイヤモンド圧子を下記圧子負荷速度、荷重4kgf、押し込み時間15secで押し込み、破砕したガラスの破片の数を破砕数とした。なお、ガラスが破砕しなかった場合は破砕数を0とした。
圧子負荷速度:ガラス表面に触れるまでは260μm/sec、ガラス侵入後は5~120μm/sec
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
ミラー定数Aが2.2MPa・m0.5以上である例1~14の強化ガラスは、破砕数が10個未満であり、破砕片が少なかった。一方、ミラー定数Aが2.2MPa・m0.5未満である例15~27の強化ガラスは、破砕数が38個以上であり、破砕片が多かった。
【0087】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2017年7月18日出願の日本特許出願2017-138853に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の強化ガラスは、例えば、車両の窓用ガラス、建築物の窓用ガラス、外壁、太陽電池カバーガラスとして、特に建築物の窓用ガラスとして好適に用いられる。