(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 65/336 20060101AFI20220906BHJP
C09D 171/00 20060101ALI20220906BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C08G65/336
C09D171/00
B05D7/24 302Z
B05D7/24 302L
B05D7/24 302R
(21)【出願番号】P 2019538037
(86)(22)【出願日】2018-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2018029119
(87)【国際公開番号】W WO2019039226
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017159696
(32)【優先日】2017-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】星野 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】松浦 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】宇野 誠人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】石関 健二
(72)【発明者】
【氏名】周 莅霖
(72)【発明者】
【氏名】小林 大介
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038830(WO,A1)
【文献】特開2012-131683(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087902(WO,A1)
【文献】特開2016-204656(JP,A)
【文献】特開平09-326240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00-67/04
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09D 101/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式10で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
A-O-(R
f1
O)
m
-R
f2
-[C(O)N(R
1
)]
p
-Q
1
-C(R
2
)[-Q
2
-SiR
3
n
L
3-n
]
2
式10
ただし、
Aは、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、
R
f1は、直鎖のフルオロアルキレン基であり、
mは、2~500の整数であり、
(R
f1O)
mは、炭素数の異なる2種以上のR
f1Oからなるものであってもよく、
R
f2は、直鎖のフルオロアルキレン基(ただし、[C(O)N(R
1)]
p側の末端の炭素原子には少なくとも1個のフッ素原子が結合する。)であり、
R
1は、水素原子またはアルキル基であり、
pは、0または1であり、
Q
1は、単結合またはアルキレン基であり、
R
2は、水素原子、1価の炭化水素基、または水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子に置換された1価の炭化水素基であり、
Q
2は、アルキレン基であり、
R
3は、水素原子または1価の炭化水素基であり、
Lは、加水分解性基であり、
nは、0~2の整数であり、
2個の[-Q
2-SiR
3
nL
3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
前記式
10で表される基における-R
f2-[C(O)N(R
1)]
p-Q
1-が、下記式g1で表される基、下記式g2で表される基、下記式g3で表される基、または、下記式g4で表される基である、請求項
1に記載の含フッ素エーテル化合物。
-(CF
2)
q-C(O)N(R
1)-(CH
2)
r- 式g1
-(CF
2)
q-CH
2CHX-(CH
2)
r- 式g2
-(CF
2)
q-CX
2CH
2CX
2-(CH
2)
r- 式g3
-(CF
2)
q-CX
2-(CH
2)
r- 式g4
ただし、Xは水素原子またはフッ素原子であり、式g3中の4個のXはすべて同じ原子であり、式g4中の2個のXはすべて同じ原子であり、qは1~5の整数であり、rは0~2の整数である。
【請求項3】
前記式
10で表される化合物が、下記式11で表される化合物、下記式12で表される化合物、下記式13で表される化合物、または、下記式14で表される化合物である、請求項1
又は2に記載の含フッ素エーテル化合物。
A-O-(R
f1O)
m-(CF
2)
q-C(O)N(R
1)-(CH
2)
r-C(R
2)[-Q
2-SiR
3
nL
3-n]
2 式11
A-O-(R
f1O)
m-(CF
2)
q-CH
2CHX-(CH
2)
r-C(R
2)[-Q
2-SiR
3
nL
3-n]
2 式12
A-O-(R
f1O)
m-(CF
2)
q-CX
2CH
2CX
2-(CH
2)
r-C(R
2)[-Q
2-SiR
3
nL
3-n]
2 式13
A-O-(R
f1O)
m-(CF
2)
q-CX
2-(CH
2)
r-C(R
2)[-Q
2-SiR
3
nL
3-n]
2 式14
ただし、Aは炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、Xは水素原子またはフッ素原子であり、式13中の4個のXはすべて同じ原子であり、式14中の2個のXはすべて同じ原子であり、qは1~5の整数であり、rは0~2の整数である。
【請求項4】
前記R
f1が、ペルフルオロアルキレン基である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物の1種以上と、他の含フッ素エーテル化合物とを含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物または請求項
5に記載の含フッ素エーテル組成物と、
液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物または請求項
5に記載の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を基材の表面に有することを特徴とする物品。
【請求項8】
タッチパネルの指で触れる面を構成する部材の表面に前記表面層を有する、請求項
7に記載の物品。
【請求項9】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物または請求項
5に記載の含フッ素エーテル組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項10】
ウェットコーティング法によって請求項
6に記載のコーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項11】
下記式20で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
A-O-(R
f1
O)
m
-R
f2
-[C(O)N(R
1
)]
p
-Q
1
-C(R
2
)[-Q
2a
-CH=CH
2
]
2
式20
ただし、
Aは炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、
R
f1は、直鎖のフルオロアルキレン基であり、
mは、2~500の整数であり、
(R
f1O)
mは、炭素数の異なる2種以上のR
f1Oからなるものであってもよく、
R
f2は、直鎖のフルオロアルキレン基(ただし、[C(O)N(R
1)]
p側の末端の炭素原子には少なくとも1個のフッ素原子が結合する。)であり、
R
1は、水素原子またはアルキル基であり、
pは、0または1であり、
Q
1は、単結合またはアルキレン基であり、
R
2は、水素原子、1価の炭化水素基、または水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子に置換された1価の炭化水素基であり、
Q
2aは、単結合またはアルキレン基であり、
2個の[-Q
2a-CH=CH
2]は、同一であっても異なっていてもよい。
【請求項12】
前記式
20で表される化合物が、下記式21で表される化合物、下記式22で表される化合物、下記式23で表される化合物、または、下記式24で表される化合物である、請求項
11に記載の含フッ素エーテル化合物。
A-O-(R
f1O)
m-(CF
2)
q-C(O)N(R
1)-(CH
2)
r-C(R
2)[-Q
2a-CH=CH
2]
2 式21
A-O-(R
f1O)
m-(CF
2)
q-CH
2CHX-(CH
2)
r-C(R
2)[-Q
2a-CH=CH
2]
2 式22
A-O-(R
f1O)
m-(CF
2)
q-CX
2CH
2CX
2-(CH
2)
r-C(R
2)[-Q
2a-CH=CH
2]
2 式23
A-O-(R
f1O)
m-(CF
2)
q-CX
2-(CH
2)
r-C(R
2)[-Q
2a-CH=CH
2]
2 式24
ただし、Aは炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、Xは水素原子またはフッ素原子であり、式23中の4個のXはすべて同じ原子であり、式24中の2個のXはすべて同じ原子であり、qは1~5の整数であり、rは0~2の整数である。
【請求項13】
前記R
f1が、ペルフルオロアルキレン基である、請求項
11又は12に記載の含フッ素エーテル化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有する含フッ素エーテル化合物は、高い潤滑性、撥水撥油性等を示す表面層を基材の表面に形成できるため、表面処理剤に好適に用いられる。含フッ素エーテル化合物を含む表面処理剤は、表面層が指で繰り返し摩擦されても撥水撥油性が低下しにくい性能(耐摩擦性)および拭き取りによって表面層に付着した指紋を容易に除去できる性能(指紋汚れ除去性)が長期間維持されることが求められる用途、たとえば、タッチパネルの指で触れる面を構成する部材、メガネレンズ、ウェアラブル端末のディスプレイの表面処理剤として用いられる。
【0003】
耐摩擦性および指紋汚れ除去性に優れる表面層を基材の表面に形成できる含フッ素エーテル化合物としては、下記のものが提案されている。
ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の一方の末端に炭素原子による分岐を介して3個の加水分解性シリル基を導入した含フッ素エーテル化合物(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の含フッ素エーテル化合物は、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖と加水分解性シリル基との間の連結基がエーテル性酸素原子を有するため、光や薬品によって連結基のエーテル結合が切断されやすく、耐光性および耐薬品性が不充分である。また、最近では、タッチパネルの指で触れる面を構成する部材等の表面層には、さらなる耐摩擦性の向上が求められることがある。そのため、耐摩擦性がさらに優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル化合物が必要となることがある。
【0006】
本発明は、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル化合物を含む含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を有する物品およびその製造方法の提供を目的とする。
また、本発明は、表面処理剤に好適に用いられる含フッ素エーテル化合物の中間体として有用な含フッ素エーテル化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]~[15]の構成を有する含フッ素エーテル化合物、含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品、物品の製造方法、含フッ素エーテル化合物の他の態様を提供する。
【0008】
[1]下式1で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
A1-O-(Rf1O)m-B1 式1
ただし、A1は、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基またはB1であり、
Rf1は、直鎖のフルオロアルキレン基であり、mは、2~500の整数であり、(Rf1O)mは、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよく、
B1は下式1-1で表される基であり、
-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-C(R2)[-Q2-SiR3
nL3-n]2 式1-1
Rf2は、直鎖のフルオロアルキレン基(ただし、[C(O)N(R1)]p側の末端の炭素原子には少なくとも1個のフッ素原子が結合する。)であり、R1は、水素原子またはアルキル基であり、pは、0または1であり、Q1は、単結合またはアルキレン基であり、R2は、水素原子、1価の炭化水素基、または水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子に置換された1価の炭化水素基であり、Q2は、アルキレン基であり、R3は、水素原子または1価の炭化水素基であり、Lは、加水分解性基であり、nは、0~2の整数であり、2個の[-Q2-SiR3
nL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0009】
[2]前記式1で表される化合物が下記式10で表される化合物である、[1]の含フッ素エーテル化合物。
A-O-(Rf1O)m-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-C(R2)[-Q2-SiR3
nL3-n]2 式10
ただし、Aは炭素数1~20のペルフルオロアルキル基である。
[3]前記式1-1で表される基における-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-が、下記式g1で表される基、下記式g2で表される基、下記式g3で表される基、または、下記式g4で表される基である、[1]または[2]の含フッ素エーテル化合物。
-(CF2)q-C(O)N(R1)-(CH2)r- 式g1
-(CF2)q-CH2CHX-(CH2)r- 式g2
-(CF2)q-CX2CH2CX2-(CH2)r- 式g3
-(CF2)q-CX2-(CH2)r- 式g4
ただし、Xは水素原子またはフッ素原子であり、式g3中の4個のXはすべて同じ原子であり、式g4中の2個のXはすべて同じ原子であり、qは1~5の整数であり、rは0~2の整数である。
【0010】
[4]前記式1で表される化合物が、下記式11で表される化合物、下記式12で表される化合物、下記式13で表される化合物、または、下記式14で表される化合物である、[1]~[3]のいずれかの含フッ素エーテル化合物。
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-C(O)N(R1)-(CH2)r-C(R2)[-Q2-SiR3
nL3-n]2 式11
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CH2CHX-(CH2)r-C(R2)[-Q2-SiR3
nL3-n]2 式12
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CX2CH2CX2-(CH2)r-C(R2)[-Q2-SiR3
nL3-n]2 式13
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CX2-(CH2)r-C(R2)[-Q2-SiR3
nL3-n]2 式14
ただし、Aは炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、Xは水素原子またはフッ素原子であり、式13中の4個のXはすべて同じ原子であり、式14中の2個のXはすべて同じ原子であり、qは1~5の整数であり、rは0~2の整数である。
[5]前記Rf1が、ペルフルオロアルキレン基である、[1]~[4]のいずれかの含フッ素エーテル化合物。
【0011】
[6]前記[1]~[5]のいずれかの含フッ素エーテル化合物の1種以上と、他の含フッ素エーテル化合物とを含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
[7]前記[1]~[5]のいずれかの含フッ素エーテル化合物または[6]の含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
[8]前記[1]~[5]のいずれかの含フッ素エーテル化合物または[6]の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を基材の表面に有することを特徴とする物品。
[9]タッチパネルの指で触れる面を構成する部材の表面に前記表面層を有する、[8]の物品。
[10]前記[1]~[5]のいずれかの含フッ素エーテル化合物または[6]の含フッ素エーテル組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
[11]ウェットコーティング法によって[7]のコーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、前記含フッ素エーテル化合物または前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【0012】
[12]下式2で表される化合物である、含フッ素エーテル化合物。
A2-O-(Rf1O)m-B2 式2
ただし、A2は、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基またはB2であり、Rf1は、直鎖のフルオロアルキレン基であり、mは、2~500の整数であり、(Rf1O)mは、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよく、
B2は下式2-1で表される基であり、
-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式2-1
Rf2は、直鎖のフルオロアルキレン基(ただし、[C(O)N(R1)]p側の末端の炭素原子には少なくとも1個のフッ素原子が結合する。)であり、R1は、水素原子またはアルキル基であり、pは、0または1であり、Q1は、単結合またはアルキレン基であり、R2は、水素原子、1価の炭化水素基、または水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子に置換された1価の炭化水素基であり、Q2aは、単結合またはアルキレン基であり、2個の[-Q2a-CH=CH2]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0013】
[13]前記式2で表される化合物が下記式20で表される化合物である、[12]の含フッ素エーテル化合物。
A-O-(Rf1O)m-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式20
ただし、Aは炭素数1~20のペルフルオロアルキル基である。
[14]前記式2で表される化合物が、下記式21で表される化合物、下記式22で表される化合物、下記式23で表される化合物、または、下記式24で表される化合物である、[12]または[13]の含フッ素エーテル化合物。
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-C(O)N(R1)-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式21
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CH2CHX-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式22
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CX2CH2CX2-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式23
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CX2-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式24
ただし、Aは炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、Xは水素原子またはフッ素原子であり、式23中の4個のXはすべて同じ原子であり、式24中の2個のXはすべて同じ原子であり、qは1~5の整数であり、rは0~2の整数である。
[15]前記Rf1が、ペルフルオロアルキレン基である、[12]~[14]のいずれかの含フッ素エーテル化合物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の含フッ素エーテル化合物によれば、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
本発明の含フッ素エーテル組成物によれば、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
本発明のコーティング液によれば、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
本発明の物品は、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を有する。
本発明の物品の製造方法によれば、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を有する物品を製造できる。
本発明の含フッ素エーテル化合物の他の態様は、表面処理剤に好適に用いられる含フッ素エーテル化合物の中間体として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、式1で表される化合物を化合物1と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
また、式g1で表される基を基g1と記す。他の式で表される基も同様に記す。
本明細書における以下の用語の意味は、以下の通りである。
「エーテル性酸素原子」とは、炭素-炭素原子間においてエーテル結合(-O-)を形成する酸素原子を意味する。オキシフルオロアルキレン単位の化学式は、その酸素原子をフルオロアルキレン基の右側に記載して表すものとする。
「加水分解性シリル基」とは、加水分解反応してシラノール基(Si-OH)を形成し得る基を意味し、式1中のSiR3
nL3-nである。
「表面層」とは、基材の表面に形成される層を意味する。
含フッ素エーテル化合物の「数平均分子量」は、1H-NMRおよび19F-NMRによって、末端基を基準にしてオキシペルフルオロアルキレン基の数(平均値)を求めることによって算出される。末端基は、たとえば式1中のAまたはSiR3
nL3-nである。
【0016】
[含フッ素エーテル化合物]
本発明の含フッ素エーテル化合物は、化合物1であり、好ましくは後述の化合物10である。
A1-O-(Rf1O)m-B1 式1
-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-C(R2)[-Q2-SiR3
nL3-n]2 式1-1
ただし、A1は、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基またはB1であり、Rf1は、直鎖のフルオロアルキレン基であり、mは、2~500の整数であり、(Rf1O)mは、炭素数の異なる2種以上のRf1Oからなるものであってもよく、B1は上記基1-1であり、Rf2は、直鎖のフルオロアルキレン基(ただし、[C(O)N(R1)]p側の末端の炭素原子には少なくとも1個のフッ素原子が結合する。)であり、R1は、水素原子またはアルキル基であり、pは、0または1であり、Q1は、単結合またはアルキレン基であり、R2は、水素原子、1価の炭化水素基、または水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子に置換された1価の炭化水素基であり、Q2は、アルキレン基であり、R3は、水素原子または1価の炭化水素基であり、Lは、加水分解性基であり、nは、0~2の整数であり、2個の[-Q2-SiR3
nL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
A1は炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であることが好ましく、したがって好ましい化合物1は、下記式10で表される化合物、すなわち化合物10である。
A-O-(Rf1O)m-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-C(R2)[-Q2-SiR3
nL3-n]2 式10
ただし、Aは炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、Rf1、m、Rf2、R1、p、Q1、R2、Q2、R3およびnは、化合物1で説明したものと同じである。
炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であるA1およびAの炭素数は、化合物1や化合物10によって形成される表面層の潤滑性および耐摩擦性がさらに優れる点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。
【0018】
Rf1の炭素数は、表面層の耐摩擦性および指紋汚れ除去性がさらに優れる点から、1~6が好ましい。
Rf1としては、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、ペルフルオロアルキレン基が好ましい。ペルフルオロアルキレン基以外のRf1としては、水素原子を1~4個とフッ素原子を2個以上とを有する炭素数2~6のポリフルオロアルキレン基が好ましく、水素原子を1または2個とフッ素原子を2個以上とを有する炭素数2~6のポリフルオロアルキレン基がより好ましい。
全Rf1のうちのペルフルオロアルキレン基の割合は、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0019】
mは、2~200の整数が好ましく、5~150の整数がより好ましく、10~100の整数が特に好ましい。mが前記範囲の下限値以上であれば、表面層の撥水撥油性がさらに優れる。mが前記範囲の上限値以下であれば、表面層の耐摩擦性がさらに優れる。すなわち、化合物1の数平均分子量が大きすぎると、単位分子量あたりに存在する加水分解性シリル基の数が減少し、表面層の耐摩擦性が低下する。
【0020】
(Rf1O)mにおいて、2種以上のRf1Oが存在する場合、各Rf1Oの結合順序は限定されない。たとえば、CF2OとCF2CF2Oが存在する場合、CF2OとCF2CF2Oがランダム、交互、ブロックに配置されてもよい。
2種以上のRf1Oが存在するとは、炭素数の異なる2種以上のRf1Oが存在すること、水素原子数が異なる2種以上のRf1Oが存在すること、および水素原子の位置が異なる2種以上のRf1Oが存在することをいう。
2種以上のRf1Oの配置については、たとえば、{(CF2O)m1(CF2CF2O)m2}で表される構造は、m1個の(CF2O)とm2個の(CF2CF2O)とがランダムに配置されていることを表す。また、(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)m5で表される構造は、m5個の(CF2CF2O)とm5個の(CF2CF2CF2CF2O)とが交互に配置されていることを表す。
【0021】
(Rf1O)mとしては、(Rf1O)mの少なくとも一部に下記の構造を有するものが好ましい。
{(CF2O)m1(CF2CF2O)m2}
(CF2CF2O)m3
(CF2CF2CF2O)m4
(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)m5
(CF2CF2CF2CF2CF2O)m6(CF2O)m7
(CF2CF2CF2CF2CF2O)m6(CF2CF2O)m7
(CF2CF2CF2CF2CF2CF2O)m6(CF2O)m7
(CF2CF2CF2CF2CF2CF2O)m6(CF2CF2O)m7
(CF2CF2CF2CF2CF2O-CF2O)m8
(CF2CF2CF2CF2CF2O-CF2CF2O)m8
(CF2CF2CF2CF2CF2CF2O-CF2O)m8
(CF2CF2CF2CF2CF2CF2O-CF2CF2O)m8
(CF2O-CF2CF2CF2CF2CF2O)m8
(CF2O-CF2CF2CF2CF2CF2CF2O)m8
(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2CF2O)m8
(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2CF2CF2O)m8
ただし、m1は1以上の整数であり、m2は1以上の整数であり、m1+m2は2~500の整数であり、m3およびm4は、それぞれ、2~500の整数であり、m5は、1~250の整数であり、m6およびm7は、それぞれ1以上の整数であり、m6+m7は、2~500の整数であり、m8は、1~250の整数である。
【0022】
(Rf1O)mとしては、化合物1を製造しやすい点から、下記のものが好ましい。
{(CF2O)m1(CF2CF2O)m2}
(CF2CF2O)2{(CF2O)m1(CF2CF2O)m2-2}
(CF2CF2CF2O)m4
(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)m5-1CF2CF2O
(CF2CF2CF2CF2CF2O-CF2O)m8
(CF2CF2CF2CF2CF2CF2O-CF2O)m8
(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2CF2O)m8-1CF2CF2O
(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2CF2CF2O)m8-1CF2CF2O
ただし、m2-2、m5-1およびm8-1が1以上の整数となるように、m2、m5およびm8の数は選択される。
【0023】
Rf2の炭素数は、表面層の耐摩擦性および指紋汚れ除去性がさらに優れる点から、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~5が特に好ましい。
Rf2としては、表面層の耐摩擦性および潤滑性がさらに優れる点から、ペルフルオロアルキレン基が好ましい。
【0024】
R1としては、化合物1を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。R1がアルキル基の場合、その炭素数は1~4が好ましい。
Q1としては、単結合または炭素数1~10のアルキレン基が好ましく、単結合または炭素数1~4のアルキレン基が特に好ましい。
【0025】
-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-の構造は、化合物1を製造する際の合成方法に依存する。したがって、-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-は、化合物1の前駆体である後述する化合物2の合成方法に対応した構造となっている。たとえば、化合物21の製造方法では基g1が形成され、化合物22の製造方法では基g2が形成され、化合物23の製造方法では基g3が形成され、化合物24の製造方法では基g4が形成される。
-(CF2)q-C(O)N(R1)-(CH2)r- 式g1
-(CF2)q-CH2CHX-(CH2)r- 式g2
-(CF2)q-CX2CH2CX2-(CH2)r- 式g3
-(CF2)q-CX2-(CH2)r- 式g4
ただし、qは1~5の整数であり、Xは水素原子またはフッ素原子であり、rは0~2の整数である。式g3中の4個のXはすべて同じ原子である。式g4中の2個のXはすべて同じ原子である。
基g2~g4においては、式中のX、q、rの選択によっては互いが同じ基になる場合がある。
また、基g2~g4においては、式中のXの選択によってRf2に相当する部分とQ1に相当する部分との境界が変わる。すなわち、基g2のCH2CHX、基g3のCX2CH2CX2、基g4のCX2は、Xが水素原子の場合はQ1に属し、Xがフッ素原子の場合はRf2に属する。
【0026】
基g1としては、たとえば、下記の基が挙げられる。
-(CF2)q-C(O)NH-、
-(CF2)q-C(O)N(CH3)-、
-(CF2)q-C(O)NH-CH2-、
-(CF2)q-C(O)N(CH3)-CH2-、
-(CF2)q-C(O)NH-CH2CH2-、
-(CF2)q-C(O)N(CH3)-CH2CH2-。
【0027】
基g2としては、たとえば、下記の基が挙げられる。
-(CF2)q-CH2CH2-、
-(CF2)q-CH2CHF-、
-(CF2)q-CH2CH2-CH2-、
-(CF2)q-CH2CHF-CH2-、
-(CF2)q-CH2CH2-CH2CH2-、
-(CF2)q-CH2CHF-CH2CH2-。
【0028】
基g3としては、たとえば、下記の基が挙げられる。
-(CF2)q-CH2CH2CH2-、
-(CF2)q-CF2CH2CF2-、
-(CF2)q-CH2CH2CH2-CH2-、
-(CF2)q-CF2CH2CF2-CH2-。
【0029】
基g4としては、たとえば、下記の基が挙げられる。
-(CF2)q-CH2-、
-(CF2)q-CF2-、
-(CF2)q-CH2-CH2-、
-(CF2)q-CF2-CH2-。
【0030】
以下、-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-が、基g1である化合物10を化合物11、基g2である化合物10を化合物12、基g3である化合物10を化合物13、基g4である化合物10を化合物14と記す。
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-C(O)N(R1)-(CH2)r-C(R2)[-Q2-SiR3
nL3-n]2 式11
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CH2CHX-(CH2)r-C(R2)[-Q2-SiR3
nL3-n]2 式12
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CX2CH2CX2-(CH2)r-C(R2)[-Q2-SiR3
nL3-n]2 式13
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CX2-(CH2)r-C(R2)[-Q2-SiR3
nL3-n]2 式14
【0031】
(CF2)qはRf1に由来する基である。したがって、qは(Rf1O)mの構造および化合物11~14の原料である、後述する化合物3または化合物4の合成方法に応じて決まる。たとえば、(Rf1O)mが{(CF2O)m1(CF2CF2O)m2}または(CF2CF2O)m3である場合、qは1であり、(Rf1O)mが(CF2CF2CF2O)m4である場合、qは2であり、(Rf1O)mが(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)m5である場合、qは3であり、(Rf1O)mがCF2OまたはCF2CF2OとCF2CF2CF2CF2CF2Oとの組み合わせの場合、qは4であり、(Rf1O)mがCF2OまたはCF2CF2OとCF2CF2CF2CF2CF2CF2Oとの組み合わせの場合、qは5である。
【0032】
R2が1価の炭化水素基、または水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子に置換された1価の炭化水素基である場合、1価の炭化水素基の炭素数は、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~4が特に好ましい。
R2としては、水素原子または炭素数1~4のアルキル基が好ましく、化合物1を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。
Q2の炭素数は、1~10が好ましく、2~6がより好ましく、2~4が特に好ましい。
【0033】
SiR3
nL3-nは、加水分解性シリル基である。
化合物1は、1つの末端に加水分解性シリル基を2個有する。1つの末端に加水分解性シリル基を2個有する化合物1は基材と強固に化学結合するため、表面層の耐摩擦性に優れる。
また、化合物10は、一方の末端のみに加水分解性シリル基を有する。一方の末端のみに加水分解性シリル基を有する化合物10は凝集しにくいため、表面層は外観に優れる。
【0034】
Lは、加水分解性基である。加水分解性基は、加水分解反応によって水酸基となる基である。すなわち、化合物1の末端のSi-Lは、加水分解反応によってシラノール基(Si-OH)となる。シラノール基は、さらに分子間で反応してSi-O-Si結合を形成する。また、シラノール基は、基材の表面の水酸基(基材-OH)と脱水縮合反応して、化学結合(基材-O-Si)を形成する。
【0035】
Lとしては、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、イソシアナート基等が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が特に好ましい。
Lとしては、化合物1の製造をしやすい点から、アルコキシ基またはハロゲン原子が好ましい。Lとしては、塗布時のアウトガスが少なく、化合物1の保存安定性に優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、化合物1の長期の保存安定性が必要な場合にはエトキシ基が特に好ましく、塗布後の反応時間を短時間とする場合にはメトキシ基が特に好ましい。
【0036】
R3は、水素原子または1価の炭化水素基である。1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリル基等が挙げられる。
R3としては、1価の炭化水素基が好ましく、1価の飽和炭化水素基が特に好ましい。1価の飽和炭化水素基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。R3の炭素数がこの範囲であると、化合物1を製造しやすい。
【0037】
nは、0または1が好ましく、0が特に好ましい。1個の加水分解性シリル基にLが複数存在することによって、基材との密着性がより強固になる。
【0038】
SiR3
nL3-nとしては、Si(OCH3)3、SiCH3(OCH3)2、Si(OCH2CH3)3、SiCl3、Si(OCOCH3)3、Si(NCO)3が好ましい。工業的な製造における取扱いやすさの点から、Si(OCH3)3が特に好ましい。
化合物1中の複数のSiR3
nL3-nは、同一であっても異なっていてもよい。化合物1を製造しやすい点から、同一の基であることが好ましい。
【0039】
化合物11~14としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。下式の化合物は、工業的に製造しやすく、取扱いやすく、表面層の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、潤滑性、耐薬品性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる点から好ましい。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
ただし、Gはポリフルオロポリエーテル鎖を有する基を表す。すなわち、Gは、前記化合物11~14におけるA-O-(Rf1O)m-(CF2)q-を表す。Gの好ましい形態は、上述した好ましいA、(Rf1O)mおよびqを組み合わせたものとなる。
【0046】
(化合物1の製造方法)
化合物1は、下記式2で表される化合物2とHSiR3
nL3-nとをヒドロシリル化反応させる方法によって製造できる。同様に化合物10は、下記式20で表される化合物20とHSiR3
nL3-nとをヒドロシリル化反応させる方法によって製造できる。
A2-O-(Rf1O)m-B2 式2
ただし、A2は、AまたはB2であり、B2は下記式2-1で表される基であり、Q2aは、単結合またはアルキレン基であり、2個の[-Q2a-CH=CH2]は、同一であっても異なっていてもよい。-Q2a-CH=CH2は、ヒドロシリル化後に化合物1におけるQ2となる。
-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式2-1
A-O-(Rf1O)m-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式20
A、(Rf1O)m、-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-およびR2は、化合物1で説明したA、(Rf1O)m、-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-およびR2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0047】
以下、-Rf2-[C(O)N(R1)]p-Q1-が、基g1である化合物20を化合物21、基g2である化合物20を化合物22、基g3である化合物20を化合物23、基g4である化合物20を化合物24と記す。
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-C(O)N(R1)-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式21
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CH2CHX-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式22
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CX2CH2CX2-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式23
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CX2-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式24
【0048】
化合物11~14は、それぞれ化合物21~24とHSiR3
nL3-nとを反応させる方法(ヒドロシリル化)によって製造できる。
【0049】
(化合物2の製造方法)
化合物21~24は、末端にアルコキシカルボニル基またはカルボキシ基を有する化合物3、または末端にヨウ素原子を有する化合物4の末端に炭素-炭素不飽和二重結合を導入して製造できる。
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-C(O)OR4 式3
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-I 式4
ただし、R4は、水素原子または1価の有機基である。Aおよび(Rf1O)mは、化合物1で説明したAおよび(Rf1O)mと同じであり、好ましい形態も同様である。qは、化合物11~14で説明したqと同じであり、好ましい形態も同様である。
R4としては、アルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は1~10が好ましく、1が特に好ましい。
【0050】
化合物3は、国際公開第2009/008380号、国際公開第2013/121984号、国際公開第2013/121986号、国際公開第2015/087902号、国際公開第2017/038830号、国際公開第2017/038832号等に記載の方法によって製造できる。
化合物4は、国際公開第2009/008380号、国際公開第2013/121984号、国際公開第2013/121986号等に記載の方法によって製造できる。
【0051】
化合物21は、化合物3と化合物51とを反応させる方法(アミド化)によって製造できる。
NH(R1)-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式51
R1およびR2は、化合物1で説明したR1およびR2と同じであり、好ましい形態も同様である。rは、化合物11~14で説明したrと同じであり、好ましい形態も同様である。Q2aは、化合物2で説明したQ2aと同じであり、好ましい形態も同様である。
【0052】
化合物51としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0053】
【0054】
化合物22は、化合物4と化合物52とを反応させて化合物62を得た後、化合物62におけるヨウ素原子を水素原子またはフッ素原子に置換する、すなわち-CH2CHI-を-CH2CHX-にして製造できる。
CH2=CH-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式52
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-CH2CHI-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式62
A、(Rf1O)mおよびR2は、化合物1で説明したA、(Rf1O)mおよびR2と同じであり、好ましい形態も同様である。qおよびrは、化合物11~14で説明したqおよびrと同じであり、好ましい形態も同様である。Q2aは、化合物2で説明したQ2aと同じであり、好ましい形態も同様である。
【0055】
化合物52としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0056】
【0057】
化合物23は、化合物3と化合物53とを反応させて化合物63を得た後、化合物63におけるカルボニル基を水素還元またはフッ素化する、すなわち-C(O)-を-CX2-にして製造できる。
CH3-C(O)-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式53
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-C(O)CH2C(O)-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式63
A、(Rf1O)mおよびR2は、化合物1で説明したA、(Rf1O)mおよびR2と同じであり、好ましい形態も同様である。qおよびrは、化合物11~14で説明したqおよびrと同じであり、好ましい形態も同様である。Q2aは、化合物2で説明したQ2aと同じであり、好ましい形態も同様である。
【0058】
化合物53としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0059】
【0060】
化合物24は、化合物3と化合物54とを反応させて化合物64を得た後、化合物64におけるカルボニル基を水素還元またはフッ素化する、すなわち-C(O)-を-CX2-にして製造できる。
Z-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式54
A-O-(Rf1O)m-(CF2)q-C(O)-(CH2)r-C(R2)[-Q2a-CH=CH2]2 式64
ただし、Zは、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。A、(Rf1O)mおよびR2は、化合物1で説明したA、(Rf1O)mおよびR2と同じであり、好ましい形態も同様である。qおよびrは、化合物11~14で説明したqおよびrと同じであり、好ましい形態も同様である。Q2aは、化合物2で説明したQ2aと同じであり、好ましい形態も同様である。
【0061】
化合物54としては、たとえば、下式の化合物が挙げられる。
【0062】
【0063】
以上説明した化合物10にあっては、下記の理由から、初期の撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に優れる表面層を形成できる。
化合物10は、Aが末端にCF3-を有するため、化合物10の一方の末端がCF3-となり、他方の末端が加水分解性シリル基となる。一方の末端がCF3-であり、他方の末端が加水分解性シリル基である化合物10によれば、低表面エネルギーの表面層を形成できるため、表面層は潤滑性および耐摩擦性に優れる。一方、両末端に加水分解性シリル基を有する含フッ素エーテル化合物では、表面層の潤滑性および耐摩擦性が不充分である。
化合物1は、(Rf1O)mを有するため、フッ素原子の含有量が多い。そのため、化合物1は、初期撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性に優れる表面層を形成できる。また、Rf1が直鎖のフルオロアルキレン基であるため、(Rf1O)mが直鎖構造となる。(Rf1O)mが直鎖構造の化合物1によれば、表面層の耐摩擦性および潤滑性に優れる。一方、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖が分岐を有する含フッ素エーテル化合物では、表面層の耐摩擦性および潤滑性がやや劣る。
化合物1は、Rf2も直鎖のフルオロアルキレン基であるため、表面層の耐摩擦性および潤滑性に優れる。
化合物1は、Q1およびQ2がエーテル性酸素原子を有しないことによって、表面層の耐光性および耐薬品性に優れる。
化合物1は、炭素原子による分岐を介して2個の加水分解性シリル基が導入されているため、炭素原子による分岐を介して3個の加水分解性シリル基が導入されている含フッ素エーテル化合物に比べ、加水分解性シリル基側の末端が嵩高くない。そのため、基材の表面における化合物1の密度が比較的高くなり、その結果、表面層の耐摩擦性および耐光性に優れる。
【0064】
また、化合物1は、さらに下記の効果を発揮できる。
化合物1は、炭素原子による分岐を介して2個の加水分解性シリル基が導入されているため、炭素原子の代わりに、窒素原子による分岐を介して2個の加水分解性シリル基が導入されている含フッ素エーテル化合物に比べ、表面層の耐薬品性に優れる。
化合物1は、R2が水素原子、1価の炭化水素基、または水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子に置換された1価の炭化水素基であるため、R2が水酸基である含フッ素エーテル化合物に比べ、貯蔵安定性に優れる。
【0065】
[含フッ素エーテル組成物]
本発明の含フッ素エーテル組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、化合物1の1種以上と、他の含フッ素エーテル化合物とを含む。
【0066】
他の含フッ素エーテル化合物としては、化合物1の製造工程で副生する含フッ素エーテル化合物(以下、「副生含フッ素エーテル化合物」とも記す。)、化合物1と同様の用途に用いられる公知の含フッ素エーテル化合物等が挙げられる。
他の含フッ素エーテル化合物としては、化合物1の特性を低下させるおそれが少ない化合物が好ましい。
【0067】
副生含フッ素エーテル化合物としては、未反応の化合物2、化合物3および化合物4、化合物1の製造におけるヒドロシリル化の際に、アリル基の一部がインナーオレフィンに異性化した含フッ素エーテル化合物等が挙げられる。
公知の含フッ素エーテル化合物としては、市販の含フッ素エーテル化合物等が挙げられる。本組成物が公知の含フッ素エーテル化合物を含む場合、化合物1の特性を補う等の新たな作用効果が発揮される場合がある。
【0068】
化合物1の含有量は、本組成物のうち、60質量%以上100質量%未満が好ましく、70質量%以上100質量%未満がより好ましく、80質量%以上100質量%未満が特に好ましい。
他の含フッ素エーテル化合物の含有量は、本組成物のうち、0質量%超40質量%以下が好ましく、0質量%超30質量%以下がより好ましく、0質量%超20質量%以下が特に好ましい。
化合物1の含有量および他の含フッ素エーテル化合物の含有量の合計は、本組成物のうち、80~100質量%が好ましく、85~100質量%が特に好ましい。
化合物1の含有量および他の含フッ素エーテル化合物の含有量が前記範囲内であれば、表面層の初期の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、耐光性および耐薬品性がさらに優れる。
【0069】
本組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、化合物1および他の含フッ素エーテル化合物以外の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、化合物1や公知の含フッ素エーテル化合物の製造工程で生成した副生物(ただし、副生含フッ素エーテル化合物を除く。)、未反応の原料等の製造上不可避の化合物が挙げられる。
また、加水分解性シリル基の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒や塩基性触媒等の公知の添加剤が挙げられる。酸触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、燐酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。
他の成分の含有量は、本組成物のうち、0~10質量%が好ましく、0~1質量%が特に好ましい。
【0070】
[コーティング液]
本発明のコーティング液(以下、「本コーティング液」とも記す。)は、化合物1または本組成物と液状媒体とを含む。本コーティング液は、溶液であっても分散液であってもよい。
【0071】
液状媒体としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、含フッ素有機溶媒でも非フッ素有機溶媒でもよく、両溶媒を含んでもよい。
含フッ素有機溶媒としては、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、フッ素化アルキルアミン、フルオロアルコール等が挙げられる。
フッ素化アルカンとしては、炭素数4~8の化合物が好ましい。市販品としては、C6F13H(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC2000)、C6F13C2H5(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AC-6000)、C2F5CHFCHFCF3(ケマーズ社製、バートレル(登録商標)XF)等が挙げられる。
フッ素化芳香族化合物としては、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロトルエン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
フルオロアルキルエーテルとしては、炭素数4~12の化合物が好ましい。市販品としては、CF3CH2OCF2CF2H(旭硝子社製、アサヒクリン(登録商標)AE-3000)、C4F9OCH3(3M社製、ノベック(登録商標)7100)、C4F9OC2H5(3M社製、ノベック(登録商標)7200)、C2F5CF(OCH3)C3F7(3M社製、ノベック(登録商標)7300)等が挙げられる。
フッ素化アルキルアミンとしては、ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン等が挙げられる。
フルオロアルコールとしては、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
非フッ素有機溶媒としては、水素原子および炭素原子のみからなる化合物と、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物が好ましく、炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル、エステルが挙げられる。
液状媒体は、2種以上を混合した混合媒体であってもよい。
【0072】
化合物1または本組成物の含有量は、本コーティング液のうち、0.001~10質量%が好ましく、0.01~1質量%が特に好ましい。
液状媒体の含有量は、本コーティング液のうち、90~99.999質量%が好ましく、99~99.99質量%が特に好ましい。
【0073】
[物品]
本発明の物品(以下、「本物品」とも記す。)は、化合物1または本組成物から形成された表面層を基材の表面に有する。
表面層は、化合物1を、化合物1の加水分解性シリル基の一部または全部が加水分解反応し、かつ脱水縮合反応した状態で含む。
【0074】
表面層の厚さは、1~100nmが好ましく、1~50nmが特に好ましい。表面層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、表面処理による効果が充分に得られやすい。表面層の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、利用効率が高い。表面層の厚さは、薄膜解析用X線回折計(RIGAKU社製、ATX-G)を用いて、X線反射率法によって反射X線の干渉パターンを得て、干渉パターンの振動周期から算出できる。
【0075】
基材としては、撥水撥油性の付与が求められている基材が挙げられる。基材の材料としては、金属、樹脂、ガラス、サファイア、セラミック、石、これらの複合材料が挙げられる。ガラスは化学強化されていてもよい。基材の表面にはSiO2膜等の下地膜が形成されていてもよい。
基材としては、タッチパネル用基材、ディスプレイ用基材、メガネレンズが好適であり、タッチパネル用基材が特に好適である。タッチパネル用基材の材料としては、ガラスまたは透明樹脂が好ましい。
【0076】
[物品の製造方法]
本物品は、たとえば、下記の方法で製造できる。
・化合物1または本組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、化合物1または本組成物から形成された表面層を基材の表面に形成する方法。
・ウェットコーティング法によって本コーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、化合物1または本組成物から形成された表面層を基材の表面に形成する方法。
【0077】
ドライコーティング法としては、真空蒸着、CVD、スパッタリング等の手法が挙げられる。化合物1の分解を抑える点、および装置の簡便さの点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着時には、鉄、鋼等の金属多孔体に化合物1または本組成物を含浸させたペレット状物質を用いてもよい。本コーティング液を鉄、鋼等の金属多孔体に含浸させ、液状媒体を乾燥させて、化合物1または本組成物が含浸したペレット状物質を用いてもよい。
【0078】
ウェットコーティング法としては、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法等が挙げられる。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下において「%」は特に断りのない限り「質量%」である。なお、例1~4、7~10は実施例であり、例5、6、11、12は比較例である。
【0080】
[例1]
(例1-1)
国際公開第2013/121984号の実施例6に記載の方法にしたがい、化合物3-1を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3CF2CF2O-CF2CF2CF2-C(O)OCH3 式3-1
【0081】
化合物3-1のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:テトラメチルシラン(TMS)) δ(ppm):3.9(3H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55(3F)、-82(54F)、-88(54F)、-90(2F)、-118(2F)、-125(52F)、-126(2F)。
単位数x3の平均値:13、化合物3-1の数平均分子量:4,740。
【0082】
(例1-2)
Chemistry - A European Journal,第9巻,第19号2003年,p.4796-4810に記載の方法において、プロピオニトリルをアセトニトリルに変更した以外は同様の方法によって化合物51-1を得た。
H2N-CH2-CH[-CH2-CH=CH2]2 式51-1
【0083】
(例1-3)
50mLのナスフラスコに、例1-1で得た化合物3-1の9.0gおよび例1-2で得た化合物51-1の0.34gを入れ、12時間撹拌した。NMRから、化合物3-1がすべて化合物21-1に変換していることを確認した。また、副生物であるメタノールが生成していた。得られた溶液をAE-3000の9.0gで希釈し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:AE-3000)で精製し、化合物21-1の6.5g(収率72%)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3CF2CF2O-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-CH[-CH2-CH=CH2]2 式21-1
【0084】
化合物21-1のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):1.7(1H)、2.1(4H)、3.4(2H)、5.2(4H)、6.2~5.9(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55(3F)、-82(54F)、-88(54F)、-90(2F)、-120(2F)、-125(52F)、-126(2F)。
単位数x3の平均値:13、化合物21-1の数平均分子量:4,830。
【0085】
(例1-4)
10mLのテトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルコキシビニルエーテル)共重合体(以下、「PFA」とも記す。)製サンプル管に、例1-3で得た化合物21-1の6.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2質量%)の0.07g、HSi(OCH3)3の0.78g、アニリンの0.02g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の0.49gを入れ、40℃で10時間撹拌した。反応終了後、溶媒等を減圧留去し、1.0μm孔径のメンブランフィルタでろ過し、化合物11-1の6.3g(収率100%)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3CF2CF2O-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-CH[-CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]2 式11-1
【0086】
化合物11-1のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.7(4H)、1.3~1.7(9H)、3.4(2H)、3.6(18H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55(3F)、-82(54F)、-81(54F)、-90(2F)、-120(2F)、-125(52F)、-126(2F)。
単位数x3の平均値:13、化合物11-1の数平均分子量:5,070。
【0087】
[例2]
(例2-1)
国際公開第2014/163004号の実施例4に記載の方法にしたがい、化合物3-2を得た。
CF3CF2CF2-O-(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}-CF2-C(O)OCH3 式3-2
【0088】
化合物3-2のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):3.9(3H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-52~-56(42F)、-78(1F)、-80(1F)、-82(3F)、-89~-91(92F)、-131(2F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物3-2の数平均分子量:4,230。
【0089】
(例2-2)
化合物3-1の9.0gを例2-1で得た化合物3-2の8.0gに変更した以外は例1-3と同様にして、化合物21-2の6.5g(収率79%)を得た。
CF3CF2CF2-O-(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}-CF2-C(O)NH-CH2-CH[-CH2-CH=CH2]2 式21-2
【0090】
化合物21-2のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):1.7(1H)、2.1(4H)、3.4(2H)、5.2(4H)、6.2~5.9(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-52~-56(42F)、-79(1F)、-81(1F)、-82(3F)、-89~-91(92F)、-131(2F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物21-2の数平均分子量:4,330。
【0091】
(例2-3)
化合物21-1の6.0gを例2-2で得た化合物21-2の5.4gに変更した以外は例1-4と同様にして、化合物11-2の5.7g(収率100%)を得た。
CF3CF2CF2-O-(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}-CF2-C(O)NH-CH2-CH[-CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]2 式11-2
【0092】
化合物11-2のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.7(4H)、1.3~1.7(9H)、3.4(2H)、3.7(18H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-52~-56(42F)、-79(1F)、-81(1F)、-82(3F)、-89~-91(92F)、-131(2F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物11-2の数平均分子量:4,570。
【0093】
[例3]
(例3-1)
Chemistry - A European Journal,第9巻,第19号2003年,p.4796-4810に記載の方法によって化合物51-2を得た。
H2N-CH2-C(CH3)[-CH2-CH=CH2]2 式51-2
【0094】
(例3-2)
化合物51-1の0.34gを例3-1で得た化合物51-2の0.37gに変更した以外は例1-3と同様にして、化合物21-3の8.0g(収率87%)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3CF2CF2O-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C(CH3)[-CH2-CH=CH2]2 式21-3
【0095】
化合物21-3のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):1.0(3H)、2.1(4H)、3.4(2H)、5.2(4H)、6.2~5.9(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55(3F)、-82(54F)、-88(54F)、-90(2F)、-120(2F)、-125(52F)、-126(2F)。
単位数x3の平均値:13、化合物21-3の数平均分子量:4,850。
【0096】
(例3-3)
化合物21-1を例3-2で得た化合物21-3に変更した以外は例1-4と同様にして、化合物11-3の6.3g(収率100%)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3CF2CF2O-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C(CH3)[-CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]2 式11-3
【0097】
化合物11-3のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.7(4H)、1.0(3H)、1.4~1.6(8H)、3.4(2H)、3.6(18H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55(3F)、-82(54F)、-81(54F)、-90(2F)、-120(2F)、-125(52F)、-126(2F)。
単位数x3の平均値:13、化合物11-3の数平均分子量:5,090。
【0098】
[例4]
(例4-1)
化合物51-1の0.34gを例3-1で得た化合物51-2の0.37gに変更した以外は例2-2と同様にして、化合物21-4の7.8g(収率95%)を得た。
CF3CF2CF2-O-(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}-CF2-C(O)NH-CH2-C(CH3)[-CH2CH=CH2]2 式21-4
【0099】
化合物21-4のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):1.0(3H)、2.1(4H)、3.4(2H)、5.2(4H)、6.2~5.9(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-52~-56(42F)、-79(1F)、-81(1F)、-82(3F)、-89~-91(92F)、-131(2F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物21-4の数平均分子量:4,340。
【0100】
(例4-2)
化合物21-2を例4-1で得た化合物21-4に変更した以外は例2-3と同様にして、化合物11-4の6.3g(収率99%)を得た。
CF3CF2CF2-O-(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}-CF2-C(O)NH-CH2-C(CH3)[-CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]2 式11-4
【0101】
化合物11-4のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.7(4H)、1.0(3H)、1.4~1.6(8H)、3.4(2H)、3.6(18H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-52~-56(42F)、-79(1F)、-81(1F)、-82(3F)、-89~-91(92F)、-131(2F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物11-4の数平均分子量:4,580。
【0102】
[例5]
(例5-1)
50mLのナスフラスコに、テトラヒドロフランの5.0gおよびAE-3000の10gを入れ、0.7mol/Lのアリルマグネシウムブロミド5mLを滴下した。さらに、例1-1で得た化合物3-1の7.1gを滴下し、55℃で8時間撹拌した。25℃まで冷却し、1mol/Lの塩酸水溶液の10mLを入れて反応を停止させ、下層をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:AE-3000)で精製し、化合物65-1の6.5g(収率72%)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3CF2CF2O-CF2CF2CF2-C(OH)[-CH2-CH=CH2]2 式65-1
【0103】
化合物65-1のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):2.4~2.6(4H)、5.2~5.3(4H)、5.9~6.0(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55(3F)、-82(54F)、-88(54F)、-90(2F)、-116(2F)、-121(2F)、-125(52F)。
単位数x3の平均値:13、化合物65-1の数平均分子量:4,780。
【0104】
(例5-2)
50mLのナスフラスコに、例5-1で得た化合物65-1の6.0g、臭化アリルの1.0g、テトラブチルアンモニウムヨージドの0.02gおよび水酸化カリウムの0.5gを入れ、80℃で5時間撹拌した。25℃まで冷却し、AE-3000の10gを入れ、2回水洗した。得られた粗液をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:AC-6000)で精製し、化合物25-1の5.5g(収率91%)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3CF2CF2O-CF2CF2CF2-C[-O-CH2-CH=CH2][-CH2-CH=CH2]2
式25-1
【0105】
化合物25-1のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):2.6-2.7(4H)、4.1(2H)、5.0~5.3(6H)、5.7~5.9(3H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55(3F)、-82(54F)、-88(54F)、-90(2F)、-111(2F)、-123(2F)、-125(52F)。
単位数x3の平均値:13、化合物25-1の数平均分子量:4,820。
【0106】
(例5-3)
化合物21-1の6.0gを例5-2で得た化合物25-1の5.0gに変更した以外は例1-4と同様にして、化合物15-1の5.2g(収率99%)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3CF2CF2O-CF2CF2CF2-C[-O-CH2CH2CH2-Si(OCH3)3][-CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]2 式15-1
【0107】
化合物15-1のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.6~0.8(6H)、1.6~1.8(6H)、1.9~2.0(4H)、3.6(29H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55(3F)、-82(54F)、-88(54F)、-90(2F)、-120(2F)、-125(52F)、-126(2F)。
単位数x3の平均値:13、化合物15-1の数平均分子量:5,180。
【0108】
[例6]
(例6-1)
化合物3-1の7.1gを例2-1で得た化合物3-2の6.4gに変更した以外は例5-1と同様にして、化合物65-2の5.8g(収率90%)を得た。
CF3CF2CF2-O-(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}-CF2-C(OH)[-CH2-CH=CH2]2 式65-2
【0109】
化合物65-2のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):2.4~2.6(4H)、5.2~5.3(4H)、5.9~6.0(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-52~-56(42F)、-77(1F)、-81(1F)、-82(3F)、-89~-91(92F)、-131(2F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物65-2の数平均分子量:4,280。
【0110】
(例6-2)
化合物65-1の6.0gを例6-1で得た化合物65-2の5.5gに変更した以外は例5-2と同様にして、化合物25-2の5.1g(収率90%)を得た。
CF3CF2CF2-O-(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}-CF2-C[-O-CH2-CH=CH2][-CH2-CH=CH2]2 式25-2
【0111】
化合物25-2のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):2.5-2.6(4H)、4.1(2H)、4.9~5.2(6H)、5.7~5.9(3H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-52~-56(42F)、-76(1F)、-78(1F)、-82(3F)、-89~-91(92F)、-131(2F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物25-2の数平均分子量:4,320。
【0112】
(例6-3)
化合物21-1の6.0gを例6-2で得た化合物25-2の5.0gに変更した以外は例1-4と同様にして、化合物15-2の5.3g(収率100%)を得た。
CF3CF2CF2-O-(CF2CF2O)(CF2CF2O){(CF2O)x1(CF2CF2O)x2}-CF2-C[-O-CH2CH2CH2-Si(OCH3)3][-CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]2 式15-2
【0113】
化合物15-2のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.6~0.8(6H)、1.6~1.8(6H)、1.9~2.0(4H)、3.6(29H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-52~-56(42F)、-76(1F)、-78(1F)、-82(3F)、-89~-91(92F)、-131(2F)。
単位数x1の平均値:21、単位数x2の平均値:20、化合物15-2の数平均分子量:4,690。
【0114】
[例7~12:物品の製造および評価]
例1~6で得た各化合物を用いて基材を表面処理し、例7~12の物品を得た。表面処理方法として、各例について下記のドライコーティング法およびウェットコーティング法をそれぞれ用いた。基材としては化学強化ガラスを用いた。得られた物品について、下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0115】
(ドライコーティング法)
ドライコーティングは、真空蒸着装置(ULVAC社製、VTR-350M)を用いて行った(真空蒸着法)。例1~6で得た各化合物の0.5gを真空蒸着装置内のモリブデン製ボートに充填し、真空蒸着装置内を1×10-3Pa以下に排気した。化合物を配置したボートを昇温速度10℃/分以下の速度で加熱し、水晶発振式膜厚計による蒸着速度が1nm/秒を超えた時点でシャッターを開けて基材の表面への製膜を開始させた。膜厚が約50nmとなった時点でシャッターを閉じて基材の表面への製膜を終了させた。化合物が堆積された基材を、200℃で30分間加熱処理し、ジクロロペンタフルオロプロパン(旭硝子社製、AK-225)にて洗浄して基材の表面に表面層を有する物品を得た。
【0116】
(ウェットコーティング法)
例1~6で得た各化合物と、媒体としてのC4F9OC2H5(3M社製、ノベック(登録商標)7200)とを混合して、固形分濃度0.05%のコーティング液を調製した。コーティング液に基材をディッピングし、30分間放置後、基材を引き上げた(ディップコート法)。塗膜を200℃で30分間乾燥させ、AK-225にて洗浄して基材の表面に表面層を有する物品を得た。
【0117】
(評価方法)
<接触角の測定方法>
表面層の表面に置いた、約2μLの蒸留水またはn-ヘキサデカンの接触角を、接触角測定装置(協和界面科学社製、DM-500)を用いて測定した。表面層の表面における異なる5箇所で測定し、その平均値を算出した。接触角の算出には2θ法を用いた。
【0118】
<初期接触角>
表面層について、初期水接触角および初期n-ヘキサデカン接触角を前記測定方法で測定した。評価基準は下記のとおりである。
初期水接触角:
◎(優) :115度以上。
○(良) :110度以上115度未満。
△(可) :100度以上110度未満。
×(不可):100度未満。
初期n-ヘキサデカン接触角:
◎(優) :66度以上。
○(良) :65度以上66度未満。
△(可) :63度以上65度未満。
×(不可):63度未満。
【0119】
<耐摩擦性(スチールウール)>
表面層について、JIS L0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、スチールウールボンスター(♯0000)を圧力:98.07kPa、速度:320cm/分で1万回往復させた後、水接触角を測定した。摩擦後の撥水性(水接触角)の低下が小さいほど摩擦による性能の低下が小さく、耐摩擦性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :1万回往復後の水接触角の変化が2度以下。
○(良) :1万回往復後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :1万回往復後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):1万回往復後の水接触角の変化が10度超。
【0120】
<耐摩擦性(消しゴム)>
表面層について、JIS L0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、Rubber Eraser(Minoan社製)を荷重:4.9N、速度:60rpmで3万回往復させた後、水接触角を測定した。摩擦後の撥水性(水接触角)の低下が小さいほど摩擦による性能の低下が小さく、耐摩擦性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :1万回往復後の水接触角の変化が2度以下。
○(良) :1万回往復後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :1万回往復後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):1万回往復後の水接触角の変化が10度超。
【0121】
<指紋汚れ除去性>
人工指紋液(オレイン酸とスクアレンとからなる液)を、シリコンゴム栓の平坦面に付着させた後、余分な油分を不織布(旭化成社製、ベンコット(登録商標)M-3)にて拭き取って、指紋のスタンプを準備した。指紋スタンプを表面層上に乗せ、荷重:9.8Nにて10秒間押しつけた。指紋が付着した箇所のヘーズをヘーズメータにて測定し、初期値とした。指紋が付着した箇所について、ティッシュペーパーを取り付けた往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、荷重:4.9Nにて拭き取った。拭き取り一往復毎にヘーズの値を測定し、ヘーズが初期値から10%以下になる拭き取り回数を測定した。拭き取り回数が少ないほど指紋汚れを容易に除去でき、指紋汚れ拭き取り性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :拭き取り回数が3回以下。
○(良) :拭き取り回数が4~5回。
△(可) :拭き取り回数が6~8回。
×(不可):拭き取り回数が9回以上。
【0122】
<耐光性>
表面層に対し、卓上型キセノンアークランプ式促進耐光性試験機(東洋精機社製、SUNTEST XLS+)を用いて、ブラックパネル温度:63℃にて、光線(650W/m2、300~700nm)を1,000時間照射した後、水接触角を測定した。促進耐光試験後の水接触角の低下が小さいほど光による性能の低下が小さく、耐光性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :促進耐光試験後の水接触角の変化が2度以下。
○(良) :促進耐光試験後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :促進耐光試験後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):促進耐光試験後の水接触角の変化が10度超。
【0123】
<潤滑性>
人工皮膚(出光テクノファイン社製、PBZ13001)に対する表面層の動摩擦係数を、荷重変動型摩擦摩耗試験システム(新東科学社製、HHS2000)を用い、接触面積:3cm×3cm、荷重:0.98Nの条件で測定した。動摩擦係数が小さいほど潤滑性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :動摩擦係数が0.2以下。
○(良) :動摩擦係数が0.2超0.3以下。
△(可) :動摩擦係数が0.3超0.4以下。
×(不可):動摩擦係数が0.4超。
【0124】
<耐薬品性(耐アルカリ性)>
物品を、1規定の水酸化ナトリウム水溶液(pH=14)に5時間浸漬した後、水洗、風乾し、水接触角を測定した。試験後における水接触角の低下が小さいほどアルカリによる性能の低下が小さく、耐アルカリ性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :耐アルカリ性試験後の水接触角の変化が2度以下。
〇(良) :耐アルカリ性試験後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :耐アルカリ性試験後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):耐アルカリ性試験後の水接触角の変化が10度超。
【0125】
<耐薬品性(耐塩水性)>
JIS H8502に準拠して塩水噴霧試験を行った。すなわち、物品を、塩水噴霧試験機(スガ試験機社製)内で300時間塩水雰囲気に暴露した後、水接触角を測定した。試験後における水接触角の低下が小さいほど塩水による性能の低下が小さく、耐塩水性に優れる。評価基準は下記のとおりである。
◎(優) :塩水噴霧試験後の水接触角の変化が2度以下。
○(良) :塩水噴霧試験後の水接触角の変化が2度超5度以下。
△(可) :塩水噴霧試験後の水接触角の変化が5度超10度以下。
×(不可):塩水噴霧試験後の水接触角の変化が10度超。
【0126】
【0127】
化合物1を用いた例7~10は、初期の撥水撥油性、耐摩擦性、指紋汚れ除去性、耐光性および耐薬品性に優れていることを確認した。
特許文献1に記載の含フッ素エーテル化合物に相当する例7~8の化合物を用いた例11~12は、耐摩擦性、耐光性および耐薬品性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の含フッ素エーテル化合物は、潤滑性や撥水撥油性の付与が求められている各種の用途に用いることができる。たとえばタッチパネル等の表示入力装置、透明なガラス製または透明なプラスチック製部材の表面保護コート、キッチン用防汚コート、電子機器、熱交換器、電池等の撥水防湿コートや防汚コート、トイレタリー用防汚コート、導通しながら撥液が必要な部材へのコート、熱交換機の撥水・防水・滑水コート、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート等に用いることができる。より具体的な使用例としては、ディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板、あるいはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの、携帯電話、携帯情報端末等の機器のタッチパネルシートやタッチパネルディスプレイ等人の指あるいは手のひらで画面上の操作を行う表示入力装置を有する各種機器、トイレ、風呂、洗面所、キッチン等の水周りの装飾建材、配線板用防水コーティング熱交換機の撥水・防水コート、太陽電池の撥水コート、プリント配線板の防水・撥水コート、電子機器筐体や電子部品用の防水・撥水コート、送電線の絶縁性向上コート、各種フィルタの防水・撥水コート、電波吸収材や吸音材の防水性コート、風呂、厨房機器、トイレタリー用防汚コート、熱交換機の撥水・防水・滑水コート、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート、機械部品、真空機器部品、ベアリング部品、自動車部品、工具等の表面保護コートが挙げられる。
なお、2017年08月22日に出願された日本特許出願2017-159696号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。