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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】振動波モータおよび光学機器
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/12 20060101AFI20220906BHJP
   H02N 2/14 20060101ALI20220906BHJP
   H02N 2/16 20060101ALI20220906BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20220906BHJP
【FI】
H02N2/12
H02N2/14
H02N2/16
G02B7/04 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019549313
(86)(22)【出願日】2018-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2018038629
(87)【国際公開番号】W WO2019078239
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2017202118
(32)【優先日】2017-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】芦沢 隆利
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-052188(JP,A)
【文献】特開2012-039754(JP,A)
【文献】特開平9-154289(JP,A)
【文献】特表2009-514491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/12
H02N 2/14
H02N 2/16
G02B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧の印加により変位する素子と、
前記素子と接触する底面と溝を有する駆動面とを有し、前記素子の変位により、前記駆動面に生じた振動波によって移動子を駆動する円環状の弾性体と、を有し、
前記素子の密度が4.2~6.0×10kg/mであり、
前記溝の深さをTとし、前記溝の底部から前記底面までの距離をBとし、前記弾性体の径方向の幅をWとした場合、[(T/B)÷W]の値が、0.84~1.94の範囲である、
振動波モータ。
【請求項2】
請求項1に記載の振動波モータにおいて、
前記素子の厚さは前記溝の深さ方向の厚さである振動波モータ。
【請求項3】
請求項1に記載の振動波モータにおいて、
[(T/B)÷W]の値が0.84~1.02の範囲である振動波モータ。
【請求項4】
請求項1に記載の振動波モータにおいて、
[(T/B)÷W]の値が1.02~1.94の範囲である振動波モータ。
【請求項5】
請求項1に記載の振動波モータにおいて、
前記振動波モータへ繰り返し変動する駆動信号を与える駆動回路を有し、
前記駆動回路は、前記振動波モータを速度0から速度0より大きい速度に起動する場合、[(T/B)÷W]の値に基づいて前記駆動信号の周波数の変化率を変更する、
振動波モータ。
【請求項6】
請求項5に記載の振動波モータにおいて、
前記駆動回路は、前記周波数の変化率を、
[(T/B)÷W]の値が0.84~1.02の範囲の場合には、0.5kHz/msec以下とし、
[(T/B)÷W]の値が1.02~1.94の範囲の場合には、0.25kHz/msec以下とした振動波モータ。
【請求項7】
請求項1に記載の振動波モータにおいて、
前記素子は、ニオブ酸カリウムナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、またはチタン酸バリウムを主成分とした材料であることを特徴とする振動波モータ。
【請求項8】
請求項1に記載の振動波モータにおいて、
前記素子は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する電気機械変換素子である、振動波モータ。
【請求項9】
電圧の印加により変位する素子と、
前記素子と接触する底面と溝を有する駆動面とを有し、前記素子の変位により、前記駆動面に生じた振動波によって移動子を駆動する円環状の弾性体と、を有し、
前記溝の深さをTとし、前記溝の底部から前記底面までの距離をBとし、前記弾性体の径方向の幅をWとした場合、[(T/B)÷W]の値が、0.84~1.94の範囲である、
振動波モータ。
【請求項10】
振動波モータにより光学部材を駆動する光学機器であって、
前記振動波モータは、
電圧の印加により変位する素子と、
前記素子と接触する底面と溝を有する駆動面とを有し、前記素子の変位により、前記駆動面に生じた振動波によって移動子を駆動する円環状の弾性体と、を有し、
前記素子の密度が4.2~6.0×10kg/mであり、
前記溝の深さをTとし、前記溝の底部から前記底面までの距離をBとし、前記弾性体の径方向の幅をWとした場合、[(T/B)÷W]の値が、0.84~1.94の範囲である、
光学機器。
【請求項11】
振動波モータにより光学部材を駆動する光学機器であって、
前記振動波モータは、
電圧の印加により変位する素子と、
前記素子と接触する底面と溝を有する駆動面とを有し、前記素子の変位により、前記駆動面に生じた振動波によって移動子を駆動する円環状の弾性体と、を有し、
前記溝の深さをTとし、前記溝の底部から前記底面までの距離をBとし、前記弾性体の径方向の幅をWとした場合、[(T/B)÷W]の値が、0.84~1.94の範囲である、
光学機器。
【発明の詳細な説明】
【参照による取り込み】
【0001】
本出願は、平成29年(2017年)10月18日に出願された日本出願である特願2017-202118の優先権を主張し、その内容を参照することにより、本出願に取り込む。
【技術分野】
【0002】
本発明は、振動波モータおよび光学機器に関する。
【背景技術】
【0003】
振動波モータは、圧電体の伸縮を利用して弾性体の駆動面に進行性振動波(以降、進行波と略す)を発生させる(下記特許文献1参照)。この様な振動波モータの振動子は、一般的には、電気機械変換素子(以降、圧電体と称する)と、弾性体とから構成される。従来、圧電体は、一般的には通称PZTと呼ばれるチタン酸ジルコン酸鉛といった材料から構成されているが、近年では環境問題から鉛フリーの材料が研究され、振動波モータへの搭載が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平1-17354号公報
【発明の概要】
【0005】
本願において開示される技術の一側面となる振動波モータは、電圧の印加により変位する素子と、前記素子と接触する底面と溝を有する駆動面とを有し、前記素子の変位により、前記駆動面に生じた振動波によって移動子を駆動する円環状の弾性体と、を有し、前記素子の密度が4.2~6.0×10kg/mであり、前記溝の深さをTとし、前記溝の底部から前記底面までの距離をBとし、前記弾性体の径方向の幅をWとした場合、[(T/B)÷W]の値が、0.84~1.94の範囲である。
【0006】
本願において開示される技術の他の側面となる振動波モータは、電圧の印加により変位する素子と、前記素子と接触する底面と溝を有する駆動面とを有し、前記素子の変位により、前記駆動面に生じた振動波によって移動子を駆動する円環状の弾性体と、を有し、前記溝の深さをTとし、前記溝の底部から前記底面までの距離をBとし、前記弾性体の径方向の幅をWとした場合、[(T/B)÷W]の値が、0.84~1.94の範囲である。
【0007】
本願において開示される技術の一側面となる電子機器は、振動波モータにより光学部材を駆動する光学機器であって、前記振動波モータは、電圧の印加により変位する素子と、前記素子と接触する底面と溝を有する駆動面とを有し、前記素子の変位により、前記駆動面に生じた振動波によって移動子を駆動する円環状の弾性体と、を有し、前記素子の密度が4.2~6.0×10kg/mであり、前記溝の深さをTとし、前記溝の底部から前記底面までの距離をBとし、前記弾性体の径方向の幅をWとした場合、[(T/B)÷W]の値が、0.84~1.94の範囲である。
【0008】
本願において開示される技術の他の側面となる光学機器は、振動波モータにより光学部材を駆動する光学機器であって、前記振動波モータは、電圧の印加により変位する素子と、前記素子と接触する底面と溝を有する駆動面とを有し、前記素子の変位により、前記駆動面に生じた振動波によって移動子を駆動する円環状の弾性体と、を有し、前記溝の深さをTとし、前記溝の底部から前記底面までの距離をBとし、前記弾性体の径方向の幅をWとした場合、[(T/B)÷W]の値が、0.84~1.94の範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、振動波モータを備えるレンズ鏡筒を備えたカメラの概略断面図である。
図2図2は、振動子および移動子の一部を切り欠いた斜視図である。
図3図3は、圧電体を示す説明図である。
図4図4は、駆動回路のブロック構成例を示す説明図である。
図5図5は、振動波モータの振動子の等価回路と示す説明図である。
図6図6は、CAE解析結果を示すグラフである。
図7図7は、駆動電圧に応じた[(T/B)÷W]値の測定結果を示すグラフである。
図8図8は、振動波による振動子の突起部の挙動を示す説明図である。
図9図9は、振動波モータの駆動シーケンス例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<カメラの概略構成例>
図1は、振動波モータを備えるレンズ鏡筒を備えたカメラの概略断面図である。カメラ100は、静止画および動画撮影が可能な光学機器であり、撮像素子や画像処理部を有するカメラボディ1に撮像光学系であるレンズ鏡筒20が着脱自在な構成である。なお、カメラ100は、カメラボディ1とレンズ鏡筒20とが一体型の撮像装置でもよい。
【0011】
レンズ鏡筒20は、外側固定筒31と、内側固定筒32と、振動波モータ10と、を有する。外側固定筒31は、たとえば、円筒形状であり、レンズ鏡筒20の外周部を覆う。外側固定筒31は、その内周面から光軸OAに向かって突出する突出片31aを有する。突出片31aは、内側固定筒32を支持する。内側固定筒32は、たとえば、円筒形状であり、外側固定筒31よりも内周側に設けられる。振動波モータ10は、外側固定筒31と内側固定筒32との間に設けられる。
【0012】
内側固定筒32には、被写体側から第1レンズ群L1、第2レンズ群L2、第3レンズ群L3、第4レンズ群L4が同一の光軸OA上に配置されている。第3レンズ群L3は、円環状のAF(Auto Focus)環34に保持されたAFレンズである。第1レンズ群L1、第2レンズ群L2および第4レンズ群L4は、内側固定筒32に固定されている。第3レンズ群L3は、AF環34が移動することにより内側固定筒32に対して光軸OAの方向(以下、光軸方向)に移動可能に構成される。
【0013】
振動波モータ10は、振動子11、移動子15、加圧部材18などを備え、たとえば、振動子11を固定子(ステータ)とし、移動子15を、回転駆動する回転子(ロータ)とする。
【0014】
振動子11は、円環状の部材であり、弾性体12と、圧電体13と、により構成される。弾性体12は、圧電体13と接合する。弾性体12は、進行波を発生する。ここでは、進行波は、一例として9波の進行波とする。弾性体12は、共振先鋭度が大きな金属材料により構成される。弾性体12の形状は、円環形状である。
【0015】
圧電体13は、電圧の印加により変位する素子であり、具体的には、たとえば、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する圧電素子や電歪素子などの電気-機械変換素子である。圧電体13は、一般的には通称PZTと呼ばれるチタン酸ジルコン酸鉛といった材料から構成されるが、PZTに限らずその他の材料を用いてもよい。
【0016】
たとえば、圧電体13は、鉛フリー(無鉛)の材料であるニオブ酸カリウムナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウムなどから構成されていてもよい。なお、振動子11の詳細は、図2を用いて後述する。
【0017】
圧電体13と弾性体12とが接合する側の反対側には、不織布16、加圧板17、加圧部材18が配置されている。不織布16は、たとえば、フェルトで構成される。不織布16は、振動子11からの振動を加圧板17や加圧部材18に伝わらないようにする振動伝達防止部材である。
【0018】
加圧板17は、加圧部材18の加圧を受けるように構成される。加圧部材18は、たとえば、皿バネにより構成され、加圧板17に対し加圧力を発生させる。加圧部材18は、皿バネのほか、コイルバネやウェーブバネでもよい。押さえ環19は、円環状の部材であり、固定部材14に固定されることで、加圧部材18を保持する。
【0019】
移動子15は、たとえば、アルミニウムなどの軽金属により構成された円環状の部材である。移動子15は、その一端に、弾性体12に接触して摺動する摺動面15aを有する。摺動面15aには、耐摩耗性向上のための摺動材料などの表面処理がなされている。
【0020】
移動子15の他端側には、振動吸収部材23が配置される。振動吸収部材23は、たとえば、ゴムなどの弾性部材により構成され、移動子15の縦方向の振動を吸収する。振動吸収部材23の移動子15と接触する側とは反対側には、出力伝達部材24が配置される。
【0021】
出力伝達部材24は、固定部材14に設けられたベアリング25により、移動子15の加圧方向PDおよび径方向DDの位置ずれを規制する。
【0022】
出力伝達部材24は、突起部24aを有する。突起部24aは、カム環36に接続されたフォーク35に嵌合する。カム環36は、円環状の部材であり、出力伝達部材24の回転とともに回転する。
【0023】
カム環36には、その周方向に対して斜めに(螺旋状に)キー溝37が形成されている。また、AF環34の外周側には、固定ピン38が設けられている。固定ピン38は、キー溝37に嵌合する。これにより、カム環36が回転駆動することにより、AF環34は光軸OA上の第3レンズ群L3の前進方向(被写体側へ向かう方向。以下、OA+と表記。)に駆動され、光軸OA上の所望の位置に停止する。なお、光軸OA上の第3レンズ群L3の後退方向(カメラボディ1側へ向かう方向)を、「OA-」と表記する。
【0024】
固定部材14は、押さえ環19をネジ(不図示)により固定する。押さえ環19を固定部材14に取り付けることで、出力伝達部材24から移動子15、振動子11、加圧部材18までを一つのモータユニットとして構成できる。
【0025】
駆動回路40は、突出片31aに固定される。駆動回路40は、振動波モータ10を回転駆動するように制御する。駆動回路40は、信号線21により圧電体13と電気的に接続し、圧電体13に電圧信号を供給する。
【0026】
<振動子11および移動子15の概略構成例>
図2は、振動子11および移動子15の一部を切り欠いた斜視図である。上述したように、振動子11は、弾性体12と圧電体13とにより構成される。弾性体12は、圧電体13との接合面12dの反対側に、駆動面12aを有する。駆動面12aには潤滑性の表面処理がなされている。
【0027】
駆動面12aは、移動子15の摺動面15aに加圧接触され、移動子15を回転駆動させる。駆動面12aには、溝12cが形成される。また、弾性体12は、溝12cを挟むように複数の突起部12bを有する。換言すれば、隣接する突起部12bの間には、溝12cが形成される。突起部12bの先端面は、駆動面12aである。
【0028】
振動波モータ10は、圧電体13の励振により駆動面12aに発生する駆動力を用いて移動子15を駆動することによって、第3レンズ群L3を駆動する。弾性体12に溝12cを形成する理由は、振動子11の光軸方向の幅における進行波の中立面800を、できる限り圧電体13側に近づけ、これにより、駆動面12aでの進行波の振幅を増幅させるためである。
【0029】
弾性体12において、圧電体13が接触する接合面12dから移動子15の摺動面15aに加圧接触する駆動面12aまでのうち、突起部12bがない部分を、ベース部12eと称す。すなわち、弾性体12は、ベース部12eとベース部12e上で円周方向に配列された突起部12bとにより構成され、隣接する突起部12bの間に溝12cが形成されて、櫛歯状になる。
【0030】
なお、Bは、ベース部12eの厚さである。Cは、圧電体13の光軸方向の厚さである。Tは、隣接する突起部12bの間に設けた溝12cの深さ、換言すれば、突起部12bの光軸方向の長さである。Wは、弾性体12の径方向DDの幅である。
【0031】
移動子15は、駆動面12aに加圧接触する摺動面15aを有する。また、移動子15は、移動子15の摺動面15aの反対側に、出力伝達部材24と接合する接合面15bを有する。
【0032】
<圧電体13>
図3は、圧電体13を示す説明図である。(a)は、弾性体12の接合面12dと接合する円環状の第一面13Aを示し、(b)は、弾性体12の第一面13Aの裏面であり、不織布16と接触する円環状の第二面13Bを示す。
【0033】
圧電体13は、円周方向に沿って2つの相(A相、B相)に分離されている。各相では、進行波の1/2波長毎に分極が交互となった要素が配列され、A相とB相との間には1/4波長分の間隔が設けられる。
【0034】
(a)において、第一面13Aには、A相において、第一面13Aの周方向に沿って複数(本例では8個)の第一電極131Aが設けられ、B相において、第一面13Aの周方向に沿って複数(本例では8個)の第二電極131Bが設けられる。特に、複数の第一電極131Aの一端の第一電極131Aを第一電極131A1と表記し、他端の第一電極131Aを第一電極131A2と表記する。同様に、複数の第二電極131Bの一端の第二電極131Bを第二電極131B1と表記し、他端の第二電極131Bを第二電極131B2と表記する。
【0035】
第一面13Aは、第一電極131A1と第二電極131B1との間に、進行波の1/4波長分の第三電極131Cを有し、第一電極131A2と第二電極131B2との間に、進行波の3/4波長分の第四電極131Dを有する。これら電極131A,131B,131C,131Dは、隣接する電極131A,131B,131C,131D間では、周方向に沿って、それぞれ交互にプラス極(+)とマイナス極(-)に分極されている。
【0036】
(b)において、第二面13Bには、A相の裏面側において、第一電極132Aを有し、B相の裏面側において、第二電極132Bを有する。また、第二面13Bには、進行波の1/4波長分の第三電極131Cの裏面側において、進行波の1/4波長分の第三電極132Cを有し、進行波の3/4波長分の第四電極131Dの裏面側において、進行波の3/4波長分の第四電極132Dを有する。
【0037】
第一電極132Aに駆動電圧を加えるとA相に駆動電圧が伝わり、第二電極132Bに駆動電圧を加えるとB相の駆動電圧が伝わる。進行波の1/4波長分の第三電極132Cは、導電塗料で弾性体12に短絡させ、接地(GND)する。
【0038】
<駆動回路40のブロック構成例>
図4は、駆動回路40のブロック構成例を示す説明図である。駆動回路40は、振動波モータ10へ繰り返し変動する駆動信号を与える。駆動回路40は、発振部60と、移相部62と、増幅部64と、振動波モータ10と、回転検出部66と、制御部68と、を有する。
【0039】
発振部60は、制御部68の指令により所望の周波数の駆動信号を生成して、移相部62に出力する。移相部62は、発振部60によって生成された駆動信号を位相の異なる2つの駆動信号に分離する。増幅部64は、移相部62によって分離された2つの駆動信号をそれぞれ所望の電圧に昇圧する。増幅部64からの駆動信号は、振動波モータ10に伝達され、この駆動信号の印加により振動子11に進行波が発生し、移動子15が駆動される。
【0040】
回転検出部66は、たとえば、光学式エンコーダや磁気エンコ-ダにより構成され、移動子15の駆動によって駆動されたカム環36の位置や速度を検出し、検出値(検出位置および検出速度)を電気信号(検出信号)として制御部68に伝達する。
【0041】
制御部68は、レンズ鏡筒20内またはカメラボディ1のプロセッサ70からの駆動指令を基に、振動波モータ10の駆動を制御する。制御部68は、回転検出部66からの検出信号を受け、その検出値を基に、カム環36の目標位置および移動速度を示す情報を算出する。
【0042】
そして、制御部68は、カム環36を上記目標位置に位置決めするように、発振部60からの発振信号の周波数を制御する。制御部68は、カム環36の回転方向への正転反転の切換時に、移相部62の位相差を90度またはマイナス90度に変更する。
【0043】
<振動波モータ10の動作例>
つぎに、実施形態の振動波モータ10の動作を説明する。制御部68から、駆動指令が発令されると、発振部60は駆動信号を発生させ、移相部62に出力する。駆動信号は、移相部62により90度位相の異なる2つの駆動信号に分割され、増幅部64により所望の電圧に増幅される。
【0044】
増幅された駆動信号は、振動波モータ10の圧電体13に印加され、圧電体13は励振される。その励振によって弾性体12には9次の曲げ振動が発生する。圧電体13はA相とB相とに分けられており、駆動信号はそれぞれA相とB相に印加される。A相から発生する9次曲げ振動とB相から発生する9次曲げ振動とは位置的な位相が1/4波長ずれるようになっており、また、A相に印加された駆動信号とB相に印加された駆動信号とは90度位相がずれているため、2つの曲げ振動は合成され、9波の進行波となる。
【0045】
進行波の波頭には楕円運動が生じている。したがって、駆動面12aに加圧接触された移動子15は、この楕円運動によって摩擦的に駆動される。移動子15の駆動により駆動されたカム環36には、回転検出部66が配置されていて、そこから、電気パルスが発生し、検出信号として制御部68に伝達される。制御部68は、この検出信号を基に、カム環36の現在の位置と現在の速度を得ることが可能となる。
【0046】
上述した振動波モータ10では、環境問題に考慮して、圧電体13として鉛フリー材が使用される。しかし、本発明者らの鋭意検討の結果、鉛フリーの圧電体13を振動波モータ10に搭載した場合、同一条件下におけるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の圧電体と同様な駆動性能を得ることが困難であることがわかった。
【0047】
その原因究明すべく、CAE(computer aided engineering)解析等を用いて検討したところ、鉛フリーの圧電体13とPZTとの密度が異なっていることが判明した。鉛フリーの圧電体13の密度は、たとえば、ニオブ系の材料の場合は4.2~4.7×10[kg/m]、チタン酸バリウム系の材料の場合には5.5~6.0×10kg/mである。
【0048】
これに対して、PZTは7.7~7.8×10[kg/m]である。すなわち、鉛フリーの圧電体13は、PZTと比較して、20数%から40数%密度が小さい。これに起因して鉛フリーの圧電体13と弾性体12を接合した振動子11での振動特性が得られないということが判明した。
【0049】
<等価回路>
図5は、振動波モータ10の振動子11の等価回路と示す説明図である。(a)に等価回路、(b)に機械的品質係数Qmの計算式を示す。(a)において、Lmは等価インダクタンス、Cmは等価容量、Rは共振抵抗、Cdは圧電体13の静電容量を示す。LmやCmの値は、振動子11の共振特性に影響する。(b)の機械的品質係数Qmは、共振特性を示す尺度で、このQm値が大きいほど共振特性が良いことを示す。機械的品質係数Qmは、Lm値が大きいほど大きくなる。
【0050】
以下に示す表1は、各材料を圧電体13とした時にLm値、Cm値をCAE解析で算出した値である。ここで圧電体13のモデルは以下のように構成した。
【0051】
外径:62[mm]
内径:55[mm]
振動子11の厚さ:4.22[mm]
駆動面12a側に設けた溝12cの数:48個
溝12cの深さ:1.92[mm]
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、PZTのLm値が0.341であるのに対して、チタン酸バリウム系のLm値は0.325、ニオブ酸系のLm値は0.313である。すなわち、密度が小さくなるほどLm値が小さくなる。鉛フリーの圧電体13を振動子11に組み込んだ場合、PZTの圧電体を組み込んだ場合と比べてLm値が小さくなる。
【0054】
すなわち、鉛フリーの圧電体13を組み込んだ場合の機械的品質係数Qmは、PZTの圧電体を組み込んだ場合よりも小さくなる。このため、PZTの圧電体13を組み込んだ場合に比べて鉛フリーの圧電体13を組み込んだ場合は、所望の共振特性を得ることが困難となっていたことが分かった。
【0055】
また、振動波モータ10は、共振を利用する原理であるため、振動子11に所望の振動特性が得られないと、移動子15を組み合わせた状態での駆動性能が得にくい。したがって、鉛フリーの圧電体13を用いた振動子11では、所望の駆動性能を得にくい傾向がある。
【0056】
そこで、鉛フリーの圧電体13を用いた振動子11の共振特性を向上させるために、Lm値が向上する振動子11の寸法の傾向を調査した。ここで、弾性体12の隣接する突起部12bの間に設けた溝12cの深さをT、溝12cの底部から圧電体13との接合面12dまでのベース部12eの厚さをB、弾性体12の径方向DDの幅をW、振動子11に生じる進行波の波長をλとする。
【0057】
<CAE解析結果例>
図6は、CAE解析結果を示すグラフである。(a)は、CAE解析結果を示すグラフであり、(b)は、振動子11の寸法を示す。具体的には、たとえば、図6は、
T値:1.9~2.8、
B値:1.0~1.9、
W値:2.4~4.5、
の範囲においてそれぞれ変化させ、CAE解析にてLm値を算出した結果を示す。当該算出結果より、計算結果、[(T/B)÷W]の値と、Lm値とに相関があることがわかる。具体的には、たとえば、Lm値は、T値が大きいほど大きい値になり、B値が小さいほど大きい値になり、また、W値が小さいほど大きい値になる傾向があり、λ値が大きいほど大きい値になる傾向があるである。
【0058】
そこで、密度がPZTよりも小さいニオブ系材料(4.2~4.7×10[kg/m])とで、[(T/B)÷W]値を変えた場合、各圧電体13の材料において、振動子11のLm値がどの様な値となるのか、CAE解析にて算出した。その算出結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
なお、表2は、
T値:1.9~3.5
B値:1.0~2.9
W値:2.4~4.5
の範囲においてそれぞれ変化させ、[(T/B)÷W]値が、0.51、0.84、1.02、1.94になる時のLm値を算出した結果を示す。4.2~4.7×10[kg/m]の範囲は、一般的なニオブ系の圧電材料の密度の範囲なので、その上限密度値と下限密度値にてCAE解析を実施した。
【0061】
表2によれば、密度が小さいほどLm値が小さくなり、一方、[(T/B)÷W]値を大きくすれば、PZTを搭載した振動子11よりも大きな値が得られることがわかった。しかしながら、[(T/B)÷W]値を大きくした時の弊害も考えられるため、本発明者らは、ニオブ系材料を搭載した振動を試作して、振動波モータ10としての共振特性を調査することとした。
【0062】
圧電体13の材料は、ニオブ酸カリウムナトリウムを主成分とし、弾性体12はステンレス鋼とし、弾性体12のT、B値および径方向DDの幅Wを変えた振動子11を12種類試作して、12種の振動子11の各試作品において駆動できる駆動信号の電圧(駆動電圧)を調査した。
【0063】
試作品は、
T値:1.5~2.0
B値:0.35~0.75
W値:2.4~2.7の範囲で作成した。また、試作品の圧電体13の密度は、4.4×10[kg/m]である。
【0064】
駆動できる駆動信号の電圧が低いほど、振動波モータ10の実機においての共振特性が良く、駆動信号の電圧が高いほど、振動波モータ10の実機においての共振特性が良くないと考えられる。測定した結果を図7に示す。
【0065】
<[(T/B)÷W]値の測定結果例>
図7は、駆動電圧に応じた[(T/B)÷W]値の測定結果を示すグラフである。[(T/B)÷W]値が0.82の場合、100[V]の駆動電圧を与えても振動波モータ10は起動しなかった。
【0066】
一方、[(T/B)÷W]値が0.84~1.94の範囲においては、100[V]以下である適正な駆動電圧で振動波モータ10が駆動できることがわかった。
【0067】
また、[(T/B)÷W]値が2.29においては、振動波モータ10が駆動するが、移動子15の回転状態がやや不安定である状態であった。
【0068】
このように、[(T/B)÷W]値を大きくするほど、振動子11のLm値が大きくなり、Qm値が向上する。その反面、振動子11の電気機械結合係数Kvnが小さくなってしまう場合があり、電気エネルギーから機械エネルギーへの変換効率が悪くなる弊害が生じる。
【0069】
[(T/B)÷W]値を2.29とした時には、その弊害が生じてしまい、移動子15の回転状態がやや不安定になったものと考えられる。以上の検討結果を基に、実施例1の振動波モータ10は、下記の構成とする。
【実施例1】
【0070】
圧電体13は、ニオブ酸カリウムナトリウムを含む。具体的には、たとえば、圧電体13は、ニオブ酸カリウムナトリウムを主成分(たとえば、90%)とし、残りをリチウムやアンチモンなどの材料とした。また、圧電体13の密度を、4.2~4.7×10[kg/m]とした。
【0071】
また、弾性体12にはステンレス鋼を用い、[(T/B)÷W]値の範囲を0.84~1.94とした。このような構成にしたことにより、圧電体13の密度がPZTを主成分とした場合よりも小さくなっても、振動子11として共振特性が確保でき、移動子15を組み合わせた状態での駆動性能が確保できる様になった。
【0072】
具体的には、たとえば、[(T/B)÷W]値が0.84の時、CAE解析による計算結果では振動子11のLm値は約0.65となっており、また、[(T/B)÷W]値が1.94の時、振動子11のLm値は約1.4となっている。
【0073】
上述の実施例では、[(T/B)÷W]値を0.84~1.94としたが、さらに駆動電圧を下げる観点では、0.90~1.94が好ましく、さらには1.01~1.94が好ましく、1.01~1.71がより好ましい。
【実施例2】
【0074】
実施例2は、実施例1に対し圧電体13の材料を変えた例を示す。具体的には、たとえば、圧電体13はチタン酸バリウムを主成分とした材料とし、その密度を5.5~6.0×10[kg/m]とした。また、弾性体12にはステンレス鋼を用い、[(T/B)÷W]値の範囲を0.84~1.94とした。
【0075】
表1に示したように、圧電体13をチタン酸バリウムとした時でも、圧電体13の密度がPZTを主成分とした場合よりも小さいため、振動子11のLm値が下がり、振動子11として十分な共振特性が得られない。この状態で移動子15を組み合わせたても、駆動性能が得られないこととなる。
【0076】
そこで、実施例2では、[(T/B)÷W]値の変えてみて、CAE解析で振動子11のLm値を算出した。当該算出結果を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3は、圧電体13の密度が、5.5×10[kg/m]と6.0×10[kg/m]である場合において、[(T/B)÷W]値を0.51、0.84、1.2、1.94と変更した時の各振動子11のLm値を算出した結果を示す。
【0079】
圧電体13の密度が5.5~6.0×10[kg/m]の範囲は、一般的なチタン酸バリウム系の圧電材料の密度の範囲であるため、その上限密度値と下限密度値にてCAE解析を実施した。なお、
T値:1.9~3.5
B値:1.0~2.9
W値:2.4~4.5
の範囲にてCAE解析を行った。なお、振動子11に生じる進行波の波長λは、λ=20.4とする。
【0080】
圧電体13がチタン酸バリウムである場合、[(T/B)÷W]値が0.84の時、Lm値は約0.65、[(T/B)÷W]値が1.94の時、振動子11のLm値は約1.4となっている。圧電体13の密度が5.5~6.0×10[kg/m]の材料であるチタン酸バリウムにおいても、([(T/B)÷W]値とLm値との関係については、圧電体13の密度が4.2~4.7×10[kg/m]の材料であるニオブ酸系(表2を参照)とほぼ同じ値となっている。したがって、[(T/B)÷W]値は、0.84~1.94が適正の範囲と考えられる。
【0081】
圧電体13の材料が表2に示したニオブ酸系(密度:4.2~4.7×10[kg/m])であるLm値も、圧電体13の材料が表3に示したチタン酸バリウム系(密度:5.5~6.0×10[kg/m])であるLm値も、[(T/B)÷W]値が0.84~1.94の範囲においては、同様の関係となる。したがって、圧電体13の密度4.2~6.0×10[kg/m]においては、[(T/B)÷W]値0.84~1.94が適正の範囲と考えられる。
【0082】
上述の実施例では、[(T/B)÷W]値を0.84~1.94としたが、さらに駆動電圧を下げる観点では、0.90~1.94が好ましく、さらには1.01~1.94が好ましく、1.01~1.71がより好ましい。
【実施例3】
【0083】
実施例3について説明する。実施例1および実施例2においては、無鉛の圧電体13を搭載した時に等価回路のLm値を大きくする様に、[(T/B)÷W]値の範囲を定めることを示したが、その値は、圧電体13としてPZTを搭載した時よりも大きめな値になる傾向がある。
【0084】
[(T/B)÷W]値を大きくするためには、
(1)T/B値を大きくする、または、
(2)W値を小さくする
の2通りがあるが、2通りとも振動波モータ10の起動時の様な速度変化大きい状態になった時などに、振動波モータ10を駆動できないことが生じる。図8を用いて、その理由を説明する。
【0085】
<突起部12bの挙動例>
図8は、振動波による振動子11の突起部12bの挙動を示す説明図である。(a)は、(b)よりもT/B値が小さい場合(溝12cの深さが浅い)における振動波による振動子11の突起部12bの挙動を示す。(b)は、(a)よりもT/B値が大きい場合(溝12cの深さが深い)における振動波による振動子11の突起部12bの挙動を示す。(c)は、(a)よりもW値が小さい場合における振動波による振動子11の突起部12bの挙動を示す。
【0086】
(1)T/B値を大きくする場合
振動子11の進行波が発生している場合、ベース部12eの厚さと圧電体13の厚さとを合わせた部分で変形が生じる(すなわち、突起部12bが無い状態で弾性体12に屈曲変形が生じる)。
【0087】
屈曲した弾性体12の中立面800は、弾性体12の溝12cの溝底から接合面12dの間に存在する。そして、突起部12bは、ベース部12eの厚さBと圧電体13の厚さCとを合わせた部分で生じた屈曲振動により、駆動方向(弾性体12の周方向)に揺動する。
【0088】
(a)のように、T/Bが小さい場合、突起部12bの先端面(駆動面12a)の駆動方向への運動は小さく、(b)のように、T/Bが大きい場合、駆動方向への運動は大きくなる。ここで、当該運動の速度を概算する。ベース部12eの厚さBと圧電体13の厚さCとを合わせた部分に生じる移動子15の駆動方向への運動を((B+C)/2)とする。
【0089】
((B+C)/2)は、ベース部12eの厚さBと圧電体13の厚さCとを合わせた距離の半分、すなわち、圧電体13の不織布16と接合する第二面13Bから中立面800までの距離である。この場合、駆動面12aには、移動子15の(T+(B+C)/2)/((B+C)/2)倍の駆動方向への運動が生じる。たとえば、Tを大きくすると、駆動面12aの揺動は、その分大きくなる。
【0090】
また、圧電体13の厚さCは、ベース部12eの厚さBに比べると、数分の1以下と小さいため、上記式(T+(B+C)/2)/((B+C)/2)は、(T+B/2)/(B/2)と近似できる。
【0091】
T/Bが大きい場合、駆動方向への運動が大きい故、移動子15から駆動面12aにかかる力が大きくなる。たとえば、駆動方向への弾性体12の運動の変位が2倍になると、移動子15の速度および加速度も2倍となる。駆動面12aに接触する移動子15を動かそうとする場合、駆動面12aには2倍の力(負荷)がかかることになる。それが起因して、振動波モータ10の起動時のような速度変化が大きい状態になった場合などに、振動波モータ10が駆動できない場合が生じる。
【0092】
(2)W値を小さくする場合
振動子11の進行波が生じている時の突起部12bは、前述したように、ベース部12eの厚さBと圧電体13の厚さCとを合わせた部分で生じた屈曲振動により、駆動方向(弾性体12の周方向)に揺動する。
【0093】
外内径幅Wが小さい時、すなわち、外内径幅Wが狭い時、Wが広い場合と比較して、振動子11の突起部12bの質量が小さいことになる。従って、質量が小さいことから、駆動方向への突起部12bの慣性力が小さくなり、移動子15から駆動面12aにかかる駆動方向の力に対しての駆動できる抵抗力の範囲が低減してしまう。
【0094】
たとえば、外内径幅Wが1/2倍になると、突起部12bの質量が1/2倍となる。駆動面12aに接触する移動子15を動かそうとする場合、駆動面12aからの力(負荷)に対しての駆動できる抵抗力の範囲は1/2倍となる。それが起因して、振動波モータ10の起動時のような速度変化大きい状態になった場合などに、振動波モータ10を駆動できない場合が生じる。
【0095】
上記の考察から、(1)T/B値が大きい場合および(2)Wが小さい場合が、振動波モータ10の起動時のような速度変化が大きい状態になった場合などに、移動子15から駆動面12aにかかる力が大きくなる。
【0096】
すなわち、[(T/B)÷W]の値が大きな数値になる程、振動波モータ10の起動時のような速度変化大きい状態になった場合などに、移動子15から駆動面12aにかかる力が大きくなり、振動波モータ10は起動しにくくなる。
【0097】
また、前述した考察によれば、
(1)T/B値が大きくなると、その値にほぼ比例して移動子15から駆動面12aにかかる力が大きくなる。一方、
(2)Wが小さくなると、その値にほぼ半比例して移動子15から駆動面12aにかかる力が大きくなる。この考察結果を基にして、振動波モータ10を起動する方法を検討した。
【0098】
<振動波モータ10の駆動シーケンス例>
図9は、振動波モータ10の駆動シーケンス例を示す説明図である。図9では、振動波モータ10の駆動周波数の時間的変化、振動波モータ10の駆動電圧の時間的変化、2つの駆動信号の位相差の時間的変化、振動波モータ10の回転速度の時間的変化を示す。
【0099】
制御部68からの駆動指令がない状態(t0)では、
駆動周波数:fs0
駆動電圧:電圧V0(=0[V])
A相とB相との位相差:0度
となっている。
【0100】
制御部68から駆動指令が与えられると(t1)、
駆動周波数:fs0
駆動電圧:電圧V1
A相とB相との位相差:90度(反転駆動時は-90度)
と設定される。このとき、回転速度=0である(回転速度0)。
【0101】
徐々に駆動周波数を下げ、t2時の周波数:f0になった時に、移動子15が回転駆動される。
【0102】
t4時には周波数はflowとなり、回転速度は目標速度Rev1に達する。
【0103】
実施例3においては、[(T/B)÷W]値に応じて、周波数を掃引するとき周波数の変化に対しての時間を長くする。具体的には、たとえば、flow-fs0の周波数差と、t4-t2の時間差(以下、立ち上がり時間)とに関係を持たせる。
【0104】
[(T/B)÷W]値が小さい場合には、立ち上がり時間(t4-t2)を短くする。
【0105】
[(T/B)÷W]値が大きい場合には、立ち上がり時間(t4-t2)を長くする。
【0106】
これは、立ち上がり時間(t4-t2)を大きくすることで、起動時の振動波モータ10の振動子11にかかる移動子15からの反力を低減させることとなる。
【0107】
PZTを搭載した振動波モータ10の場合、[(T/B)÷W]:0.51、起動時の周波数掃引の周波数変化率は、1[kHz/msec]程度とする。
【0108】
[(T/B)÷W]値が0.84~1.02の範囲の場合には、駆動面12aの駆動方向への運動は、[(T/B)÷W]=0.51に対して、約1.6~2倍程度増加する。したがって、立ち上がり時間(t4-t2)を2倍にする、すなわち、周波数掃引の周波数変化率をその1/2程度、たとえば、0.5[kHz/msec]にすれば、振動波モータ10への負担は、PZT搭載時の[(T/B)÷W]:0.51と同じ程度かそれ以下となる。
【0109】
また、[(T/B)÷W]値が1.02~1.94の範囲の場合には、駆動面12aの駆動方向への運動は、[(T/B)÷W]=0.51に対して、約2~3.8倍程度増加する。したがって、立ち上がり時間(t4-t2)を4倍にする、すなわち、周波数掃引の周波数変化率をその1/4程度、たとえば、0.25[kHz/msec]にすれば、振動波モータ10への負担は、PZT搭載時の[(T/B)÷W]:0.51と同じ程度かそれ以下となる。
【0110】
[(T/B)÷W]値に応じて、周波数の変化量を変化させることで、振動波モータ10の起動時のような速度変化大きい状態になった場合(すなわち、振動波モータ10の振動子11への負担が大きい状態になった場合)でも、振動波モータ10を確実に起動できるようになる。
【0111】
本実施形態では、進行性振動波を用いた振動波モータ10で、波数9の場合を開示したが、他の波数である4~8波、10波以上でも、同様な構成で、同様な制御すれば、同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0112】
10 振動波モータ、11 振動子、12 弾性体、12a 駆動面、12b 突起部、12c 溝、12d 接合面、12e ベース部、13 圧電体、13A 第一面、13B 第二面、15 移動子、15a 摺動面、15b 接合面、36 カム環、40 駆動回路、60 発振部、62 移相部、64 増幅部、66 回転検出部、68 制御部、70 プロセッサ、100 カメラ、800 中立面、B ベース部の厚さ、T 溝の深さ、W 外内径幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9