(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】3次元造形用材料、3次元造形用フィラメント、該フィラメントの巻回体および3次元プリンター用カートリッジ
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20220906BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220906BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220906BHJP
B29C 64/259 20170101ALI20220906BHJP
【FI】
B29C64/118
B33Y70/00
B33Y30/00
B29C64/259
(21)【出願番号】P 2019569121
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2019002946
(87)【国際公開番号】W WO2019151235
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2018017467
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018108999
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】平野 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】風呂本 滋行
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-193601(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0122541(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0298521(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0320266(US,A1)
【文献】特開2017-094703(JP,A)
【文献】特開2017-065111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融積層方式の3次元プリンターに用いられる3次元造形用材料であって、該3次元造形用材料は多層構造であり、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が1.00×10
7Pa以下の熱可塑性樹脂(A)と、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が1.00×10
7Paより大きい熱可塑性樹脂(B)とを、それぞれ異なる層に含有
し、
前記熱可塑性樹脂(A)および前記熱可塑性樹脂(B)が結晶性樹脂であり、該熱可塑性樹脂(A)の、示差走査熱量測定の降温過程における結晶化温度(Tc)が、該熱可塑性樹脂(B)の示差走査熱量測定の降温過程における結晶化温度(Tc)より低い温度である、3次元造形用材料。
【請求項2】
熱溶融積層方式の3次元プリンターに用いられる3次元造形用材料であって、該3次元造形用材料は多層構造であり、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が1.00×10
7Pa以下の熱可塑性樹脂(A)と、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が1.00×10
7Paより大きい熱可塑性樹脂(B)とを、それぞれ異なる層に含有
し、
前記熱可塑性樹脂(A)および前記熱可塑性樹脂(B)が非結晶性樹脂であり、該熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)が、該熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)より低い温度であり、
該熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)が30℃以上である、3次元造形用材料。
【請求項3】
前記3次元造形用材料の表面の少なくとも一部が、前記熱可塑性樹脂(A)を含む層である、請求項1
又は2に記載の3次元造形用材料。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(A)の100℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が100MPa以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の3次元造形用材料。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(B)の100℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が100MPaより大きい、請求項1~
4のいずれか1項に記載の3次元造形用材料。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂(A)が、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、及びポリエステル系樹脂から選ばれる1以上である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の3次元造形用材料。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂(B)が、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂から選ばれる1以上である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の3次元造形用材料。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂(A)および前記熱可塑性樹脂(B)が、ともに、スチレン系樹脂またはオレフィン系樹脂である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の3次元造形用材料。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の3次元造形用材料からなる3次元造形用フィラメントであって、フィラメント径が1.0~5.0mmである、3次元造形用フィラメント。
【請求項10】
前記多層構造が、芯鞘構造である、請求項
9に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項11】
前記芯鞘構造において、フィラメント径の10%以上が芯部である、請求項
10に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項12】
請求項
9~
11のいずれか1項に記載の3次元造形用フィラメントの巻回体。
【請求項13】
請求項
9~
11のいずれか1項に記載の3次元造形用フィラメントを容器に収納した3次元プリンター用カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶融積層方式の3次元プリンターによる造形性が良好な3次元造形用材料および3次元造形用フィラメントに関する。また、本発明はこのフィラメントの巻回体と3次元プリンター用カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
種々の付加製造方式(例えば、結合剤噴射式、熱溶解積層方式、および液槽光重合式等)の3次元プリンターが販売されている。
【0003】
熱溶解積層法(以下、FDM(Fused Deposition Modeling)法と称することがある。)では、まず、原料は熱可塑性樹脂からなるフィラメントとして押出ヘッドへ挿入され、加熱溶融しながら押出ヘッドに備えたノズル部位からチャンバー内のX-Y平面基板上に連続的に押し出される。押し出された樹脂は既に堆積している樹脂積層体上に堆積すると共に融着し、これが冷却するにつれて一体となって固化する。FDM法はこのような簡単なシステムであるため、広く用いられるようになってきている。
【0004】
FDM法に代表される材料押出式3次元プリンターでは、通常、基板に対するノズル位置がX-Y平面に垂直方向なZ軸方向に上昇しつつ前記押出工程が繰り返されることによりCADモデルに類似した3次元物体が構築される。
【0005】
熱溶融積層方式の造形用材料に用いる原料としては、一般的にポリ乳酸(以下、「PLA樹脂」と称することがある)や、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂(以下「ABS樹脂」と称することがある)等の熱可塑性樹脂が、加工性や流動性の観点から好適に用いられてきた(特許文献1)。これら以外にも、ポリプロピレン(PP)やエラストマー等のフィラメントも実用化されてきている。特に、ABS樹脂やPPは、耐熱性や造形品の強度に優れるため、製品や製造ツールの造形といった産業用途も含めて広く用いられている。
【0006】
一方で、ABS樹脂やPPは、成形時の反りが大きいために、造形中に造形テーブル(基板)から剥離したり、寸法精度の高い目的造形物を得にくいという課題がある。
特許文献2では、造形エリアの温度を精密に制御することで、この反りを抑制している。
【0007】
特許文献3には、フィラメントを多層構造とすることで、フィラメントに複数の機能を付与することが開示されている。
【0008】
特許文献4には、押出機内で複数の樹脂を溶融混練して押し出すことで、複数の機能を有する3次元造形物を製造する3次元プリンターが開示されている。
【0009】
【文献】特開2008-194968号公報
【文献】特表2002-500584号公報
【文献】特開2016-193602号公報
【文献】特許第5920859号公報
【発明の概要】
【0010】
特許文献2に記載される、造形エリアの温度を精密に制御する方法は、3Dプリンター装置が大がかりで高価になるという課題がある。
造形エリアの温度制御ができない3Dプリンターは、安価ではあるが、上述した反りの課題が発生する。
【0011】
特許文献3のようにフィラメントを多層構造とする場合、以下の問題がある。
(1) フィラメントの製造時に吐出が不安定になったり、フィラメントの径を一定に制御できない等、フィラメントを適切に多層化することが難しい。或いは、フィラメントを製造すること自体が困難となる場合がある。
(2) 多層構造を維持するためには樹脂同士の粘度差や界面接着性などを考慮する必要があり、樹脂の組み合わせの自由度が低く、フィラメントに目的とする機能を発現させ難い。
(3) 特定の樹脂を組み合わせることでフィラメントを適切に多層化できたとしても、多層化時の熱履歴によって樹脂が劣化してしまう場合がある。
(4) 造形物に易破壊性を付与したい場合、フィラメントを多層構造にし、かつフィラメント内の層間接着性を低くする方法が有効であると考えられるが、そのような構成でフィラメント化しようとすると、フィラメント製造時や、フィラメントを巻回体としてカートリッジとする際や、カートリッジからフィラメントを巻き出す際等において、層間剥離等が生じて多層構造が失われる虞がある。
特許文献4の3次元プリンターでは、樹脂同士が混ざり合うため、3次元造形物の目的の箇所に目的の機能を付与することが難しい。例えば、造形物の内部にのみ耐熱性を付与しつつ表面部にのみ接着性を付与することは困難である。
【0012】
<第1発明の課題と要旨>
第1発明は、耐熱性や造形品の強度に優れ、良好な加工性を有し、かつ、造形エリアの精密な温度制御がなくても造形時の反りを抑制できる、産業用途にも好適に用いられる3次元造形用材料、および3次元造形用フィラメントを提供することを目的とする。
【0013】
第1発明の発明者は、特定の樹脂を組み合わせた多層構造を有する3次元造形用材料が上記第1発明の課題を解決し得ることを見出した。
第1発明の要旨は以下の[1]~[14]に存する。
【0014】
[1] 熱溶融積層方式の3次元プリンターに用いられる3次元造形用材料であって、該3次元造形用材料は多層構造であり、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が1.00×107Pa以下の熱可塑性樹脂(A)と、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が1.00×107Paより大きい熱可塑性樹脂(B)とを、それぞれ異なる層に含有することを特徴とする、3次元造形用材料。
【0015】
[2] 前記3次元造形用材料の表面の少なくとも一部が、前記熱可塑性樹脂(A)を含む層である、[1]に記載の3次元造形用材料。
【0016】
[3] 前記熱可塑性樹脂(A)および前記熱可塑性樹脂(B)が結晶性樹脂であり、該熱可塑性樹脂(A)の、示差走査熱量測定の降温過程における結晶化温度(Tc)が、該熱可塑性樹脂(B)の示差走査熱量測定の降温過程における結晶化温度(Tc)より低い温度である、[2]に記載の3次元造形材料。
【0017】
[4] 前記熱可塑性樹脂(A)および前記熱可塑性樹脂(B)が非結晶性樹脂であり、該熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)が、該熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)より低い温度である、[2]に記載の3次元造形材料。
【0018】
[5] 前記熱可塑性樹脂(A)の100℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が100MPa以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の3次元造形用材料。
【0019】
[6] 前記熱可塑性樹脂(B)の100℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が100MPaより大きい、[1]~[5]のいずれかに記載の3次元造形用材料。
【0020】
[7] 前記熱可塑性樹脂(A)が、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、及びポリエステル系樹脂から選ばれる1以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の3次元造形用材料。
【0021】
[8] 前記熱可塑性樹脂(B)が、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂から選ばれる1以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の3次元造形用材料。
【0022】
[9] 前記熱可塑性樹脂(A)および前記熱可塑性樹脂(B)が、ともに、スチレン系樹脂またはオレフィン系樹脂である、[1]~[8]のいずれかに記載の3次元造形用材料。
【0023】
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の3次元造形用材料からなる3次元造形用フィラメントであって、フィラメント径が1.0~5.0mmである、3次元造形用フィラメント。
【0024】
[11] 前記多層構造が、芯鞘構造である、[10]に記載の3次元造形用フィラメント。
【0025】
[12] 前記芯鞘構造において、フィラメント径の10%以上が芯部である、[11]に記載の3次元造形用フィラメント。
【0026】
[13] [10]~[12]のいずれかに記載の3次元造形用フィラメントの巻回体。
【0027】
[14] [10]~[12]のいずれかに記載の3次元造形用フィラメントを容器に収納した3次元プリンター用カートリッジ。
【0028】
<第2発明の課題と要旨>
第2発明は、多層構造の3次元造形用材料を用いる場合の、上記(1)~(4)の問題を解決すると共に、得られる3次元造形物の目的の箇所に目的の機能を付与することができる3次元プリンター及び3次元造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【0029】
第2発明の発明者は、材料押出方式において多層構造を有するフィラメントを用いた場合、溶融樹脂としてノズルから吐出された段階においても当該多層構造が維持されること、即ち、多層構造を維持したまま引き伸ばされて縮径したような状態となることを確認した。これにより3次元造形物の目的の箇所に目的の機能を付与することができ、上記第2発明の課題を解決し得ることを見出した。
第2発明の要旨は以下の[1]~[10]に存する。
【0030】
[1] 1つ以上のノズルを備える材料押出方式の3次元プリンターであって、少なくとも1つの前記ノズルが、複数の溶融樹脂を積層して吐出する機構を備える、3次元プリンター。
【0031】
[2] 少なくとも1つの前記ノズルが、複数の溶融樹脂を積層して、流れ方向と直交する断面において多層構造を有する溶融樹脂複合体としたうえで、該溶融樹脂複合体を吐出する機構を備える、[1]に記載の3次元プリンター。
【0032】
[3] 少なくとも1つの前記ノズルが、溶融樹脂を導入する複数の導入口と、複数の前記導入口から導入された複数の前記溶融樹脂を合流させて、流れ方向と直交する断面において多層構造を有する溶融樹脂複合体とする合流部と、前記合流部を経て得られた前記溶融樹脂複合体を吐出する吐出口と、を備える、[1]又は[2]に記載の3次元プリンター。
【0033】
[4] 複数の樹脂をノズルに供給する工程と、ノズルの内部で複数の溶融樹脂を積層する工程と、積層した複数の前記溶融樹脂をノズルから吐出する工程とを備える、材料押出方式による3次元造形物の製造方法。
【0034】
[5] 前記ノズルの内部で複数の前記溶融樹脂を積層して、流れ方向と直交する断面において多層構造を有する溶融樹脂複合体を得る工程を備える、[4]に記載の3次元造形物の製造方法。
【0035】
[6] 100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が互いに異なる少なくとも2つの樹脂を用いる、[4]又は[5]に記載の3次元造形物の製造方法。
【0036】
[7] ガラス転移温度(Tg)が互いに異なる少なくとも2つの樹脂を用いる、[4]~[6]のいずれかに記載の3次元造形物の製造方法。
【0037】
[8] 結晶化熱量(ΔHc)が互いに異なる少なくとも2つの樹脂を用いる、[4]~[7]のいずれかに記載の3次元造形物の製造方法。
【0038】
[9] 25℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が互いに異なる少なくとも2つの樹脂を用いる、[4]~[8]のいずれかに記載の3次元造形物の製造方法。
【0039】
[10] 添加材の種類及び/又は含有量が互いに異なる少なくとも2つの樹脂を用いる、[4]~[9]のいずれかに記載の3次元造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0040】
第1発明によれば、溶融積層方式の3次元プリンターによる成形性に優れた3次元造形用材料および3次元造形用フィラメントが提供される。
具体的には、造形エリアの精密な温度制御がなくても造形時の反りが抑制され、かつ、造形時の熱による変形を抑制できる高い耐熱性を有し、産業用途にも好適に用いられる3次元造形用材料および3次元造形用フィラメントを提供することができる。
【0041】
第2発明によれば、複数の樹脂をそれぞれ個別に1つのノズル内へと供給し、ノズルの内部にて溶融樹脂を積層して所望の多層構造を形成することができる。よって、本開第2発明においては、ノズルの前段階において多層構造を有する造形材料を用いる必要がない。すなわち、造形材料として単層のフィラメントだけでなく、ペレット等の不定形材料を用いることも可能であり、多層構造のフィラメントにおいては用いることができなかった各種樹脂を広く利用しつつ、3次元造形物の目的の箇所に目的の機能を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は、第1発明の3次元造形用材料における多層構造を説明する模式図である。
【
図2】
図2は、実施例におけるZ軸強度評価用の造形物示す参考図である。
【
図3】
図3は、第2発明の3次元プリンターのノズルの内部構造の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、ノズルの内部にて積層された複数の樹脂(溶融樹脂複合体)の断面形状の例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、第2発明の3次元プリンターのノズルの内部構造の他の一例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、第2発明の3次元プリンターのノズルの連結構造を示す概略図である。
【
図7】
図7は、造形材料としてフィラメントを用いる第2発明の3次元プリンターの構成の一例を示す概略図である。
【
図8】
図8は、3次元プリンター100が備えるシリンダ等の構成の一例を示す概略図である。
【
図9】
図9は、造形材料としてペレットや粉体を用いる第2発明の3次元プリンターの構成の一例を示す概略図である。
【
図10】
図10は、3次元プリンター200が備えるシリンダ等の構成の一例を示す概略図である。
【
図11】
図11は、3次元造形物の製造方法の一例を示す工程図である。
【
図12】
図12は、ノズル10の内部にて積層される複数の樹脂の物性の好適例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0044】
<第1発明の実施の形態>
〔3次元造形用材料〕
第1発明の3次元造形用材料は、熱溶融積層方式の3次元プリンターに用いられる3次元造形用材料であって、該3次元造形用材料は多層構造であり、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が1.00×107Pa以下の熱可塑性樹脂(A)と、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が1.00×107Paより大きい熱可塑性樹脂(B)とを、それぞれ異なる層に含有することを特徴とする。
第1発明の3次元造形用材料において、表面の少なくとも一部が、熱可塑性樹脂(A)を含む層であることが、得られる3次元造形物の層間接着性(Z軸強度)の観点から好ましい。
【0045】
[熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の結晶化温度(Tc)]
熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)が結晶性樹脂である場合、熱可塑性樹脂(A)の、示差走査熱量測定の降温過程における結晶化温度(Tc)は、熱可塑性樹脂(B)の示差走査熱量測定の降温過程における結晶化温度(Tc)より低い温度であることが、得られる3次元造形物の層間接着性(Z軸強度)の観点から好ましい。
【0046】
具体的には、熱可塑性樹脂(A)のTcは、造形物のZ軸強度の観点から、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。また、造形物の耐熱性の観点から、30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂(B)のTcは、造形物の耐熱性の観点から100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましい。また、上限は特に規定されないが、造形性の観点から200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂(A)のTcが熱可塑性樹脂(B)のTcより10℃以上、例えば20~80℃程度低いことが好ましい。
熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)の示差走査熱量測定の降温過程における結晶化温度(Tc)の測定方法は後述の実施例の項に記載の通りである。
【0047】
[熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)]
熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)が非結晶性樹脂である場合、熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)より低い温度であることが得られる3次元造形物の層間接着性(Z軸強度)の観点から好ましい。
【0048】
具体的には、熱可塑性樹脂(A)のTgは造形物のZ軸強度の観点から、95℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。また、造形物の耐熱性の観点から、30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂(B)のTgは、造形物の耐熱性の観点から95℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。また、上限は特に規定されないが、造形性の観点から180℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂(A)のTgが熱可塑性樹脂(B)のTgより5℃以上、例えば10~50℃程度低いことが好ましい。
熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)の測定方法は後述の実施例の項に記載の通りである。
【0049】
[熱可塑性樹脂(A)]
(物性)
第1発明の3次元造形用材料に用いられる熱可塑性樹脂(A)は、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が、1.00×107Pa以下であり、好ましくは0.90×107以下、より好ましくは0.80×107以下、さらに好ましくは0.60×107以下である。
【0050】
熱可塑性樹脂(A)のG´を上記上限値以下とすることにより、3次元造形用材料おける造形時の造形時の反りを抑制することができ好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂(A)の100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)を上記上限値以下にすることで、造形の際に、樹脂が3Dプリンターのノズルから吐出後に固化する温度と、造形雰囲気温度との差が小さくなり、固化後の線膨張による収縮応力が小さくなるため、反りが抑制されると考えられる。熱可塑性樹脂(A)のG´は、通常0.001×107Pa以上である。
【0051】
本明細書において各貯蔵弾性率の測定方法は、一般に知られている方法を用いられることができる。特に限定されないが、具体的には、後述の実施例に記載の条件で測定することが好ましい。
【0052】
上記のせん断貯蔵弾性率(G´)の熱可塑性樹脂(A)は、後述する通りその組成は特に限定されないが、例えば、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ乳酸(PLA)、および非晶性ポリエステル樹脂(PETG)などのポリエステル系樹脂から選ばれる1以上が挙げられる。さらにこれらの樹脂を構成する単量体の種類を適宜選択したり、ゴム粒子を添加したりすることで上記のG´を達成できる。なかでも、低吸湿性や耐衝撃性に優れる観点から、スチレン系樹脂やオレフィン系樹脂を主成分として選択することが好ましい。この場合、主成分とは、熱可塑性樹脂(A)のうち、50wt%以上を占める成分である。
【0053】
熱可塑性樹脂(A)の100℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)は、造形時の反り抑制の観点から、100MPa以下が好ましく、70MPa以下がより好ましく、50MPa以下がさらに好ましい。造形物や造形時の耐熱性の観点から、熱可塑性樹脂(A)のE´は1MPa以上であることが好ましい。
100℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)は、樹脂の組成や共重合比率等で調整できる。
【0054】
熱可塑性樹脂(A)は、30℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が、得られる3次元造形用材料および造形物の室温での強度や、3次元造形材料のブロッキング防止や滑り性などの観点から、100Ma以上が好ましく、150MPa以上がより好ましく、200MPa以上がさらに好ましい。E´の上限は通常5000MPa程度以下である。
30℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)は、樹脂の組成や共重合比率等で調整できる。
【0055】
(スチレン系樹脂)
熱可塑性樹脂(A)は、スチレン系樹脂を含有する樹脂とすることができる。
【0056】
スチレン系樹脂とは、少なくとも芳香族ビニル系単量体に由来する構成単位を有する樹脂であり、好ましくはスチレンに由来する構成単位を有する樹脂である。該スチレン系樹脂は、必要に応じて、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、共役ジエン系単量体、その他のビニル系単量体などに由来する構成単位を有していてもよい。
【0057】
スチレン系樹脂は、芳香族ビニル系単量体と、必要に応じてシアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、共役ジエン系単量体および/またはこれらと共重合可能な他のビニル系単量体を含む単量体混合物を、公知の塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、沈殿重合または乳化重合に供することにより得ることができる。
【0058】
芳香族ビニル系単量体については特に制限はなく、具体例として、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレンおよびp-t-ブチルスチレンなどが挙げられる。なかでもスチレンまたはα-メチルスチレンが好ましく用いられる。これらを1種または2種以上用いることができる。スチレン系樹脂を構成する単量体成分中、芳香族ビニル系単量体を20重量%以上含むことが好ましく、50重量%以上含むことがより好ましい。
【0059】
シアン化ビニル系単量体については特に制限はなく、具体例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられる。なかでもアクリロニトリルが好ましく用いられる。これらを1種または2種以上用いることができる。
【0060】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体については特に制限はないが、炭素数1~20のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好適である。かかるエステルはさらに置換基を有してもよく、置換基としては、例えば、水酸基、塩素などが挙げられる。
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられる。これらを1種または2種以上用いることができる。ここで、「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸またはメタクリル酸を表す。
【0061】
共役ジエン系単量体については特に制限はないが、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、クロロプレン等が挙げられる。好ましくは、1,3-ブタジエン、イソプレン又は1,3-ペンタジエンであり、更に好ましくは1,3-ブタジエン又はイソプレンである。これらを1種または2種以上用いることができる。
【0062】
他のビニル系単量体としては、芳香族ビニル系単量体、および必要に応じて用いられるシアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、共役ジエン系単量体と共重合可能であれば特に制限はない。
【0063】
他のビニル系単量体の具体例としては以下のものが挙げられる。
N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、
アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、無水マレイン酸、フタル酸およびイタコン酸などのカルボキシル基または無水カルボキシル基を有するビニル系単量体、
3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロペン、シス-5-ヒドロキシ-2-ペンテン、トランス-5-ヒドロキシ-2-ペンテン、4,4-ジヒドロキシ-2-ブテンなどのヒドロキシル基を有するビニル系単量体、
アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N-プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N-ビニルジエチルアミン、N-アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N-メチルアリルアミン、p-アミノスチレンなどのアミノ基またはその誘導体を有するビニル系単量体、
2-イソプロペニル-オキサゾリン、2-ビニル-オキサゾリン、2-アクリロイル-オキサゾリンおよび2-スチリル-オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有するビニル系単量体。
これらを1種または2種以上用いることができる。
【0064】
熱可塑性樹脂(A)として用いるスチレン系樹脂(以下、「スチレン系樹脂(A)」と称す場合がある。)の分子量には制限はないが、3次元造形用材料を用いて得られるフィラメントを生産する際の押出安定性や、フィラメントをボビンに巻き付けて回収するために必要な機械的強度を確保する観点より、重量平均分子量(Mw)は50,000以上が好ましく、80,000以上がより好ましい。スチレン系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、造形素材を用いて得られるフィラメントの低温における溶融粘度をより低減する観点より、400,000以下が好ましい。
スチレン系樹脂(A)のより好ましい重量平均分子量(Mw)は後述の通りである。
ここでいう重量平均分子量とは、溶媒としてクロロホルムを用いてGPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を指す。
【0065】
スチレン系樹脂(A)の具体例としては、たとえば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン(MBS)樹脂、ブタジエン-スチレン系樹脂などが挙げられる。
【0066】
具体的なABS樹脂としては、テクノUMG(株)製のHF-3やEX19C、デンカ(株)製のGT-R-61A等が挙げられる。
MBS樹脂としては、新日鉄住金化学(株)のエスチレンMBSや、デンカ(株)製のクリアレンTH-11等が挙げられる。
ブタジエンースチレン系樹脂としては、デンカ(株)製クリアレン730Lなどが挙げられる。
【0067】
スチレン系樹脂(A)において、熱可塑性樹脂(A)の100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が1.00×107Pa以下となるように単量体を選択することが好ましい。
たとえば、スチレン系樹脂(A)は、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体に由来する構成単位を含むことが好ましい。中でも、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位がより好ましく、目的のG´が達成できるという観点から、さらに好ましくはアルコール由来の炭化水素基の炭素数が1~20のアクリル酸エステルおよび、アルコール由来の炭化水素基の炭素数が炭素数2~20のメタクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1つに由来する構成単位を含むことである。特に好ましくは、スチレン系樹脂(A)は、共重合比率を低く抑えても目的のG´を達成できるという観点から、アルコール由来の炭化水素基の炭素数が炭素数1~20のアクリル酸エステルに由来する構成単位を含むことである。
【0068】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、具体的には、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなどが挙げられる。中でも、アルコール由来の炭化水素基の炭素数が1~20のアクリル酸エステルおよび、アルコール由来の炭化水素基の炭素数が2~20のメタクリル酸エステルが好ましい。これらを1種または2種以上用いることができる。
【0069】
共重合率を低く抑えても目的のTgが達成できるという観点から、スチレン系樹脂(A)はメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなどがより好ましい。
この場合、これらのアクリル酸エステルの共重合比率は、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)を1.00×107Pa以下にする観点から、スチレン系樹脂(A)全体に対して1wt%以上が好ましく、2wt%以上がより好ましい。アクリル酸エステルの共重合比率は、スチレン系樹脂(A)全体に対してスチレン系樹脂(A)の耐熱性や強度、後加工性維持の観点から、10wt%未満が好ましく、8wt%未満がより好ましい。
【0070】
最終的に得られる3次元造形用材料の発色性が向上するという観点から、スチレン系樹脂(A)は不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体として、さらにメチルメタクリレートを含むことが好ましい。
メチルメタクリレートの共重合比率は、発色性の観点からスチレン系樹脂(A)全体に対して5wt%以上が好ましく、10wt%以上がより好ましい。メチルメタクリレートの共重合比率は、3次元造形用材料および造形物の強度や耐衝撃性、後加工性維持の観点から、スチレン系樹脂(A)全体に対して60wt%以下が好ましく、50wt%以下がより好ましい。
【0071】
スチレン系樹脂(A)は、共役ジエン系単量体に由来する構成単位を含むことが好ましい。共役ジエン系単量体としては、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,4-ヘキサジエン、1,3-ブタジエン等が挙げられるが、中でも耐衝撃性の観点から、1,3-ブタジエンが好ましい。これらを1種または2種以上用いることができる。
共役ジエン系単量体の共重合比率は、スチレン系樹脂(A)の耐衝撃性の観点から、スチレン系樹脂(A)全体に対して1wt%以上が好ましく、3wt%以上がより好ましい。スチレン系樹脂(A)の耐熱性や強度の観点から共役ジエン系単量体の共重合比率はスチレン系樹脂(A)全体に対して30wt%以下が好ましく、20wt%以下がより好ましい。
【0072】
スチレン系樹脂(A)は、シアン化ビニル系単量体に由来する構成単位を含むことが好ましい。シアン化ビニル系単量体については特に制限はなく、具体例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられる。なかでもアクリロニトリルが好ましく用いられる。これらを1種または2種以上用いることができる。
シアン化ビニル系単量体を含むことで、本発明の3次元造形用材料の多層構造において、熱可塑性樹脂(B)としてABS樹脂などのシアン化ビニル系単量体を含んだ樹脂を用いる場合に、芯鞘の層間接着性が向上するため好ましい。
シアン化ビニル系単量体の共重合比率は、後述する熱可塑性樹脂(B)としてABS樹脂などのシアン化ビニル系単量体を含んだ樹脂を用いる場合に、層間の接着性の観点から、スチレン系樹脂(A)全体に対して1wt%以上が好ましく、5wt%以上がより好ましい。また、スチレン系樹脂(A)の耐衝撃性の観点からシアン化ビニル系単量体の共重合比率はスチレン系樹脂(A)全体に対して95wt%以下が好ましい。
【0073】
スチレン系樹脂(A)としては、MBS樹脂などの上述の単量体に由来する構成単位を含むスチレン系樹脂が好ましいが、これ以外に、後述する熱可塑性樹脂(B)で挙げられているスチレン系樹脂に、このスチレン系樹脂と相溶する重量平均分子量が5000以下程度の超低分子量のスチレン系樹脂を混合することでも、上記のG´を達成できる。しかし、超低分子量の樹脂を添加すると強度が低下する懸念があるため、好ましくない。
また、スチレン系樹脂(A)としては、後述するスチレン系樹脂(B)で挙げられているスチレン系樹脂に、このスチレン系樹脂と相溶する低Tgの樹脂を添加してもよい。低Tgの樹脂としては、スチレン系樹脂や、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂などが挙げられる。中でも、スチレン系樹脂(B)としてABS樹脂あるいはAS樹脂を用いる場合、相溶性の観点からPBS樹脂を用いることが好ましい。しかし、本手法は、低Tgの樹脂を添加し混練する工程が増えるため、生産性の観点から好ましくない。
【0074】
スチレン系樹脂(A)は、100℃未満の範囲にのみガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。よって、スチレン系樹脂(A)は複数のTgを有していてもよいが、すべてのTgは100℃未満の範囲にあり、100℃以上の範囲にTgを有さないスチレン系樹脂であることが好ましい。ここでのTgは、少なくとも1つのTgが、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上、特に好ましくは75℃以上であって、好ましくは98℃以下、より好ましくは95℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。Tgが上記上限値以下であることで、3次元造形用材料おける造形時の反り抑制効果が高まり好ましい。Tgを上記上限値以下にすることで、造形の際に、樹脂が3Dプリンターのノズルから吐出後に固化する温度と、造形雰囲気温度との差が小さくなり、固化後の線膨張による収縮応力が小さくなるため、反りが抑制されると考えられる。Tgが上記下限値以上であることにより、第1発明の3次元造形用材料を用いた造形物の耐熱性が向上するため好ましい。
【0075】
スチレン系樹脂(A)のTgは、例えば、前述の単量体を共重合することで制御することができる。
【0076】
スチレン系樹脂(A)は、220℃、10kgで測定したメルトインデックス(MI)が10以上、100未満であることが好ましく、20以上、90未満であることがより好ましい。得られる3次元造形用材料の特性において、MIが上記下限値以上であると3次元造形時の高速造形性が良好となる傾向があるため好ましい。MIが上記上限値以下であると分子量が低すぎることがないため強度に優れる傾向があるため好ましい。
【0077】
本明細書において、MIはメルトインデックス測定装置を用いて、JIS K7210に準じて測定される。具体的には、後述の実施例に記載の条件で測定することが好ましい。
MIの単位は「g/10min」であるが、本明細書においては、単位を省略して記載する。
【0078】
スチレン系樹脂(A)のMIは、樹脂の分子量によって調整できる。スチレン系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は前述の通りであるが、上記MIを達成するためのより適切な分子量は樹脂の組成によって異なるが、前述の好ましい組成の樹脂であれば、Mwは5万以上、20万未満であることが好ましく、10万以上、18万未満であるとより好ましい。
【0079】
(オレフィン系樹脂)
第1発明の3次元造形用材料に用いられる熱可塑性樹脂(A)は、オレフィン系樹脂を含有する樹脂とすることができる。
【0080】
オレフィン系樹脂とは、少なくともアルケンに由来する構成単位を有する樹脂であり、好ましくはエチレン、α-オレフィン、またはプロピレンに由来する構成単位を有する樹脂である。さらに、必要に応じて、無水マレイン酸、不飽和カルボン酸、アクリル酸エステル単量体などに由来する構成単位を有していてもよい。
【0081】
熱可塑性樹脂(A)として用いるオレフィン系樹脂(以下、「オレフィン系樹脂(A)」と称す場合がある。)は、特に制限されるものではないが、プロピレンやエチレン、α-オレフィン等の単量体を用いて、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法により得ることができる。例えば、チーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒やポストメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、気相重合法等、また、ラジカル開始剤を用いた塊状重合法等が挙げられる。
【0082】
オレフィン系樹脂(A)の分子量には制限はないが、重量平均分子量(Mw)で20,000以上が好ましく、より好ましくは50,000以上であって、1,000,000以下が好ましい。
ここでいう重量平均分子量とは、溶媒としてオルトジクロロベンゼン等を用いてGPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を指す。
【0083】
オレフィン系樹脂(A)の具体例としては、たとえば、超低密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、線状低密度ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、プロピレンの単独重合体、プロピレンと共重合可能な他の単量体との共重合体などが挙げられる。プロピレンと共重合可能な他の単量体としては、エチレンや1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-ペンテン-1、1-オクテン等の炭素数4~12のα-オレフィン及びジビニルベンゼン、1,4-シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、シクロオクタジエン、エチリデンノルボルネン等のジエン類等が挙げられる。これらの共重合形式(ランダム、ブロックなど)、分岐、分岐度分布や立体構造には特に制限がなく、イソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックあるいはこれらの混在した構造の重合体のいずれでもよい。
【0084】
オレフィン系樹脂(A)において、熱可塑性樹脂(A)の100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が、1.00×107Pa以下となるように単量体を選択したり、複数の樹脂をブレンドすることが好ましい。なかでも、造形性の観点から、超低密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、線状低密度ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、プロピレンと、エチレンや1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-ペンテン-1、1-オクテン等の炭素数4~12のα-オレフィンから選ばれる1種以上の単量体との共重合体が好ましい。とくに、3次元造形材料としての耐熱性を考えると、後述する熱可塑性樹脂(B)はプロピレン系樹脂を選択することが好ましく、プロピレン系樹脂との、芯鞘構造にした場合の界面接着性の観点から、オレフィン系樹脂(A)としては、プロピレンと、エチレンや1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-ペンテン-1、1-オクテン等の炭素数4~12のα-オレフィンから選ばれる1種以上の単量体との共重合体が好ましい。具体的なプロピレン系樹脂としては、日本ポリプロ(株)製、商品名:ウェルネクスRMG02やRFG4VM等が挙げられる。
【0085】
オレフィン系樹脂(A)は、190℃、10kgでのメルトインデックス(MI)が10以上、150未満であることが好ましく、20以上、120未満であることがより好ましい。得られる3次元造形用材料の特性において、MIが上記下限値以上であると3次元造形時の高速造形性が良好となる傾向があるため好ましく、上記上限値以下であると分子量が低すぎることがないため強度に優れる傾向があるため好ましい。
オレフィン系樹脂(A)のMIは、樹脂の分子量によって調整できる。
【0086】
オレフィン系樹脂(A)の融点(Tm)は特に限定されないが、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)との関係から、170℃以下であることが好ましく、より好ましくは160℃以下である。通常オレフィン系樹脂(A)の融点(Tm)は80℃以上である。
【0087】
[熱可塑性系樹脂(B)]
(物性)
第1発明の3次元造形用材料に用いられる熱可塑性樹脂(B)は、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が、1.00×107Paより大きい。造形物および造形時の耐熱性の観点から熱可塑性樹脂(B)のG´は、好ましくは2.00×107Pa以上である。一般にせん断貯蔵弾性率(G´)は、樹脂が固化すると測定不可となるため、測定不可の場合は、せん断貯蔵弾性率(G´)が2.00×107Paを大きく超えていると判断できる。熱可塑性系樹脂(B)のG´は通常2.00×107Paを大きく超える。
【0088】
上記のせん断貯蔵弾性率(G´)の熱可塑性樹脂(B)は、後述する通りその組成は特に限定されないが、例えば、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ乳酸(PLA)、およびポリエステル系樹脂から選ばれる1以上が挙げられる。さらにこれらの樹脂を構成する単量体の種類を適宜選択したり、炭素繊維やガラス繊維等のフィラーを添加したりすることで上記のG´を達成できる。なかでも、低吸湿性や耐衝撃性に優れる観点から、スチレン系樹脂やオレフィン系樹脂を主成分として選択することが好ましい。この場合、主成分とは、熱可塑性樹脂(B)のうち、50wt%以上を占める成分である。
【0089】
熱可塑性樹脂(B)の100℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)は、造形物や造形時の耐熱性の観点から、100MPaより大きいことが好ましく、200MPa以上がより好ましい。熱可塑性樹脂(B)のE´は、通常2000MPa以下である。
100℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)は、樹脂の組成や共重合比率等で調整できる。
【0090】
熱可塑性樹脂(B)は、30℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が、得られる3次元造形用材料および造形物の室温での強度の観点から、400Ma以上が好ましく、800MPa以上がより好ましく、1000MPa以上がさらに好ましい。熱可塑性樹脂(B)のE´の上限は、通常5000MPa程度以下である。
30℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)は、樹脂の組成や共重合比率等で調整できる。
【0091】
(スチレン系樹脂)
熱可塑性樹脂(B)は、スチレン系樹脂を含有する樹脂とすることができる。
【0092】
スチレン系樹脂としては、上記の熱可塑性樹脂(A)に用いるスチレン系樹脂(A)として記載したものと同様の単量体に由来する構成単位を含むことができる。たとえば、ABS樹脂、AS樹脂、MBS樹脂、MS樹脂、ポリスチレンなどが挙げられ、中でも強度や耐衝撃性に優れる点からは、ABS樹脂が好ましい。また、後述する多層構造とする際のスチレン系樹脂(A)との接着強度の観点からは、MBS樹脂を選択することが好ましい。
【0093】
熱可塑性樹脂(B)に含まれるスチレン系樹脂(以下、「スチレン系樹脂(B)」と称す場合がある。)において、熱可塑性樹脂(B)の100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が、1.00×107Paより大きくなるように単量体を選択することが好ましい。スチレン系樹脂(B)の具体的なABS樹脂としては、テクノUMG(株)製のHF-3やEX19C、デンカ(株)製のGT-R-61A等が挙げられる。
【0094】
スチレン系樹脂(B)は、100℃以上にガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。スチレン系樹脂(B)のTgはより好ましくは101℃以上である。スチレン系樹脂(B)は100℃以上に一つ以上のTgを有していればよく、複数のTgを有する場合には、100℃未満にTgを有していてもよい。
スチレン系樹脂(B)のTgが上記下限値以上であることで、得られる3次元造形用材料の造形物および造形時の耐熱性が向上する。
【0095】
スチレン系樹脂(B)は、220℃、10kgのメルトインデックス(MI)が10以上、100未満であることが好ましく、20以上、90未満であることがより好ましい。得られる3次元造形用材料の特性において、スチレン系樹脂(B)のMIが上記下限値以上であると3次元造形時の高速造形性が良好となる傾向があるため好ましい。スチレン系樹脂(B)のMIが上記上限値以下であると分子量が低すぎることがないため強度に優れる傾向があるため好ましい。
【0096】
スチレン系樹脂(B)のMIは、樹脂の分子量によって調整できる。スチレン系樹脂(B)の適切な分子量は樹脂の組成によって異なるが、好ましい組成の樹脂であれば、重量平均分子量(Mw)が5万以上、20万未満であることが好ましく、10万以上、18万未満であることがより好ましい。
【0097】
スチレン系樹脂(B)は、100℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が、造形物および造形時の耐熱性の観点から、100MPa以上が好ましく、500MPa以上がより好ましく、800MPa以上がより好ましい。このE´は通常5000MPa程度以下である。
100℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)は、樹脂の組成や共重合比率等で調整できる。
【0098】
スチレン系樹脂(B)は、30℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が、得られる3次元造形用材料および造形物の室温での強度の観点から、400Ma以上が好ましく、800MPa以上がより好ましく、1000MPa以上がさらに好ましい。このE´は通常5000MPa程度以下である。
30℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)は、樹脂の組成や共重合比率等で調整できる。
【0099】
(オレフィン系樹脂)
第1発明の3次元造形用材料に用いられる熱可塑性樹脂(B)は、オレフィン系樹脂を含有する樹脂とすることができる。
【0100】
熱可塑性系樹脂(B)として用いるオレフィン系樹脂(以下、「オレフィン系樹脂(B)」と称す場合がある。)としては、上記の熱可塑性樹脂(A)にて詳述したオレフィン系樹脂(A)と同様の単量体に由来する構成単位を含むことができる。たとえば、超低密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、線状低密度ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、プロピレンの単独重合体、プロピレンと共重合可能な他の単量体との共重合体などが挙げられる。プロピレンと共重合可能な他の単量体としては、エチレンや1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-ペンテン-1、1-オクテン等の炭素数4~12のα-オレフィン及びジビニルベンゼン、1,4-シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、シクロオクタジエン、エチリデンノルボルネン等のジエン類等が挙げられる。これらの共重合形式(ランダム、ブロックなど)、分岐、分岐度分布や立体構造には特に制限がなく、イソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックあるいはこれらの混在した構造の重合体のいずれでもよい。
【0101】
オレフィン系樹脂(B)において、熱可塑性樹脂(B)の100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が、1.00×107Paより大きくなるように単量体を選択したり、複数の樹脂をブレンドすることが好ましい。なかでも、造形性の観点から、線状低密度ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、プロピレン単独重合体、プロピレンと、エチレンや1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-ペンテン-1、1-オクテン等の炭素数4~12のα-オレフィンから選ばれる1種以上の単量体との共重合体が好ましい。とくに、3次元造形材料としての耐熱性を考えると、オレフィン系樹脂(B)のプロピレン単量体の含有量が、30wt%以上であることが好ましく、50wt%以上であることがより好ましい。また、タルク等の核剤を添加して結晶性を上げてもよい。プロピレン系樹脂(B)の具体例としては、日本ポリプロ(株)製、商品名:ノバテックPP MA3や、ウィンテックWMG03などが挙げられる。
【0102】
オレフィン系樹脂(B)の分子量には制限はないが、重量平均分子量(Mw)は20,000以上が好ましく、より好ましくは50,000以上であって、1,000,000以下が好ましい。
【0103】
オレフィン系樹脂(B)は、190℃、10kgでのメルトインデックス(MI)が10以上、150未満であることが好ましく、20以上、120未満であることがより好ましい。得られる3次元造形用材料の特性において、オレフィン系樹脂(B)のMIが上記下限値以上であると3次元造形時の高速造形性が良好となる傾向があるため好ましい。オレフィン系樹脂(B)のMIが上記上限値以下であると分子量が低すぎることがないため強度に優れる傾向があるため好ましい。
オレフィン系樹脂(B)のMIは、樹脂の分子量によって調整できる。
【0104】
オレフィン系樹脂(B)の融点(Tm)は特に限定されないが、上記G´との関係から、110℃以上であることが好ましく、より好ましくは130℃以上であって、通常180℃以下である。
【0105】
[3次元造形用材料の構造]
第1発明の3次元造形用材料は、前述の熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とを、それぞれ異なる層に含有する多層構造である。このような特定の多層構造とすることで、造形時の反りを抑制しつつ、耐熱性を向上させることが可能である。
【0106】
熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)をブレンドした単層フィラメントであっても、造形時の反りを抑制しながら耐熱性を向上させることが可能であるが、反りを抑制するために熱可塑性樹脂(A)の含有量を多くする必要があり、耐熱性の向上に限界がある。また、ブレンドするために製造工程が増えるため、製造コストが高くなる。
【0107】
熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とを、それぞれ異なる層に含有する多層構造とすることで、熱可塑性樹脂(A)層をある程度薄くしても反りが抑制されるため、熱可塑性樹脂(B)の含有量を上げることができ、結果として、反りを抑制しながら3次元造形材料に高い耐熱性を付与することができる。また、熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とをブレンドする必要もないため、製造コストも安く抑えられる。
【0108】
第1発明の3次元造形用材料の形態は特に限定されず、熱溶融積層方式の3次元プリンターに適用可能な形態であればよい。たとえば、粉体、ペレット、顆粒、フィラメントなどが挙げられる。
【0109】
本発明に係る多層構造は、特に限定されない。本発明の3次元造形用材料における多層構造の具体例を
図1を用いて説明する。
図1は3次元造形用材料の断面図であり、例えば3次元造形用フィラメントの場合には、フィラメントの任意の箇所を長軸に対して垂直に切断して断面を観察した図である。多層構造としては、
図1(a)のように、2種以上の樹脂を芯鞘構造とするパターン、
図1(b)のように2種以上の樹脂を順に積み重ねてフィラメント断面が層構造となるようにするパターンなどが挙げられる。
【0110】
多層構造において、各樹脂が配置される位置は特に限定されないが、造形物の層間接着性(造形物のZ軸強度)に優れることから、3次元造形用材料の表面の少なくとも一部が、熱可塑性樹脂(A)を含む層であることが好ましく、熱可塑性樹脂(A)が最外層に含まれるとより好ましい。具体的には、
図1(a)および
図1(b)において表面の大部分を占める符号1の箇所が熱可塑性樹脂(A)で、符号2の箇所が熱可塑性樹脂(B)であることが好ましい。
【0111】
第1発明における多層構造において、3次元造形用材料の多層構造における層間接着性の観点から、熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)が、同じ構成単位を有する樹脂であることが好ましく、例えば、ともに、スチレン系樹脂、またはオレフィン系樹脂のいずれかであることが好ましい。
【0112】
第1発明の3次元造形用材料における熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の比率は、熱可塑性樹脂(B)の割合が、熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の合計に対して、造形物や造形時の耐熱性の観点から体積比で40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。熱可塑性樹脂(B)の割合の上限は、熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の合計に対して、造形物のZ軸強度や3次元造形材料の生産性の観点から体積比で99%以下が好ましく、98%以下がより好ましく、95%以下がさらに好ましい。
【0113】
[3次元造形用材料の物性]
第1発明の3次元造形用材料は、前述した熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)としてスチレン系樹脂を使用する場合は、220℃、10kgで測定した際のメルトインデックス(MI)が10以上、100以下であることが好ましい。このMIはより好ましくは20以上であり、さらに好ましくは30以上であって、より好ましくは90以下、さらに好ましくは80以下である。
【0114】
第1発明の3次元造形用材料は、前述した熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)としてオレフィン系樹脂を使用する場合は、190℃、10kgで測定した際のメルトインデックス(MI)が10以上、150以下であることが好ましい。このMIはより好ましくは20以上、120以下である。
【0115】
第1発明の3次元造形用材料のMIが上記下限値以上であると3次元造形時の高速造形性が良好となる傾向があるため好ましい。第1発明の3次元造形用材料のMIが上記上限値以下であると分子量が低すぎることがないため強度に優れる傾向があるため好ましい。
【0116】
第1発明の3次元造形用材料は、100℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が、造形時の反り抑制の観点から、1000MPa以下であることが好ましく、900MPa以下がより好ましい。このE´は造形物および造形時の耐熱性の観点から、100MPa以上であることが好ましい。造形物の耐熱性が低いと、高温下で造形物が変形する懸念がある。造形時の耐熱性が低いと、造形中に造形物が変形し造形不良となる懸念がある。
【0117】
第1発明の3次元造形用材料は、30℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が、室温でのフィラメントや造形物の強度の観点から、400MPa以上であること好ましく、500MPa以上がより好ましく、800MPa以上がさらに好ましい。このE´は通常5000MPa程度以下である。
【0118】
第1発明の3次元造形用材料は、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が、造形時の耐熱性の観点から、0.05×107Pa以上であることが好ましく、0.1×107Pa以上がより好ましい。造形時の耐熱性が低いと、造形中に造形物が変形し造形不良となる懸念がある。このG´の上限については特に規定しないが、通常10×107Pa未満である。前述の熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)を併用することで、このG´を達成できる。
【0119】
[その他の成分]
第1発明の3次元造形用材料は、上述の熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)の他、第1発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を添加してもよい。以下の成分については、任意に組み合わせ用いてもよい。
【0120】
(ゴム粒子)
3次元造形用材料の造形時の耐熱性や耐衝撃性を向上させる目的で、ゴム粒子を用いてもよい。
ゴム粒子としては、例えば、アクリル系ゴム粒子、ブタジエン系ゴム粒子、シリコン系ゴム粒子、オレフィン系ゴム粒子が挙げられる。特にスチレン系樹脂の耐衝撃性の向上や、造形時の耐熱性の向上を目的とした場合、スチレン系樹脂への分散性の観点から、ブタジエン系ゴム粒子が好ましい。ブタジエン系ゴム粒子としては、三菱ケミカル製メタブレンC-223Aなどが挙げられる。
【0121】
(フィラー)
3次元造形用材料やフィラメントの剛性を向上させる目的では、有機フィラーや無機フィラーを用いることが好ましい。
有機フィラーとしては、例えば、セルロース繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等が挙げられる。
無機フィラーとしては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、マイカ、タルク、シリカ、アルミナ等が挙げられる。なかでも、剛性の観点から、炭素繊維やガラス繊維、マイカ、タルクが好ましい。
【0122】
これ以外に、3次元造形用材料に特定の特性を付与する目的で、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤など添加剤を添加してもよい。
また、第1発明の効果を阻害しない範囲で、その他の樹脂を添加してもよい。
【0123】
〔3次元造形用フィラメント〕
第1発明の3次元造形用フィラメントは、上述の第1発明の3次元造形用材料を用いて製造される。第1発明の3次元造形用フィラメントの製造方法は特に制限されないが、第1発明の3次元造形用材料を、通常、押出成形等の公知の成形方法により成形する方法や3次元造形用材料の製造時にそのままフィラメントとする方法等によって得ることができる。例えば、第1発明の3次元造形用フィラメントを押出成形により得る場合、その条件は、通常150~260℃、好ましくは170~250℃である。
【0124】
第1発明の3次元造形用フィラメントの径は、使用するシステムの能力に依存するが、好ましくは1.0~5.0mm、より好ましくは1.3~3.5mmである。更に径の精度はフィラメントの任意の測定点に対して±5%以内の誤差に納めることが原料供給の安定性の観点から好ましい。
【0125】
第1発明の3次元造形用フィラメントにおいて、多層構造は
図1(a)に示されるような好ましくは芯鞘構造であり、この場合において、フィラメント径の10%以上、特に50%以上、とりわけ60%以上が芯部であることが、造形物や造形時の耐熱性の観点から好ましい。一方で、造形物のZ軸強度や3次元造形材料の生産性の観点から、芯部はフィラメント径の99%以下、特に98%以下、とりわけ95%以下であることが好ましい。
この芯鞘構造において、芯部は熱可塑性樹脂(B)を含む層であり、鞘部は熱可塑性樹脂(A)を含む層であることが好ましい。
【0126】
第1発明の3次元造形用フィラメントを用いて熱溶融積層方式の3次元プリンターにより成形体を製造するにあたり、3次元造形用フィラメントを安定に保存すること、及び、熱溶融積層方式3次元プリンターに3次元造形用フィラメントを安定供給することが求められる。
【0127】
そのために、第1発明の3次元造形用フィラメントは、ボビンに巻きとった巻回体として密閉包装されている、又は、巻回体がカートリッジに収納されていることが、長期保存、安定した繰り出し、湿気等の環境要因からの保護、捩れ防止等の観点から好ましい。
【0128】
カートリッジとしては、ボビンに巻き取った巻回体の他、内部に防湿材または吸湿材を使用し、少なくともフィラメントを繰り出すオリフィス部以外が密閉されている構造のものが挙げられる。
【0129】
3次元造形用フィラメントの水分含有量は、3,000ppm以下であることが好ましく、2,500ppm以下であることがより好ましい。
3次元造形用フィラメントの製品はフィラメントの水分含有量が3,000ppm以下となるように密封されていることが好ましく、2,500ppm以下となるように密封されていることがより好ましい。
【0130】
3次元造形用フィラメントを巻回体とする際にフィラメント同士のブロッキング(融着)を防ぐため、フィラメント表面にブロッキング剤を塗布又はコーティングしてもよい。
【0131】
ここで用いることのできるブロッキング剤の例としては、シリコーン系ブロッキング剤、タルク等の無機フィラー、脂肪酸金属塩等が挙げられる。これらのブロッキング剤は1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0132】
フィラメントの好ましい形態は、ボビン等に巻きとった巻回体であり、また、フィラメントを容器に収納した3次元プリンター用カートリッジである。特に、フィラメントの巻回体を容器に収納したカートリッジは通常、3次元プリンター内又は周囲に設置され、成形中は常にカートリッジからフィラメントが3次元プリンターに導入され続ける。
【0133】
〔成形体の製造方法〕
第1発明の3次元造形用材料または3次元造形用フィラメントを熱溶融積層方式3次元プリンターにより成形することで、成形体を製造することができる。
【0134】
熱溶融積層方式3次元プリンターは一般に、加熱可能な基板(造形テーブル)、押出ヘッド(ノズル)、加熱溶融器、フィラメントのガイド、フィラメント設置部等の原料供給部を備えている。材料押出式3次元プリンターの中には押出ヘッドと加熱溶融器とが一体化されているものもある。
【0135】
押出ヘッドはガントリー構造に設置されることにより、基板のX-Y平面上に任意に移動させることができる。基板は目的の3次元物体や支持材等を構築するプラットフォームであり、加熱保温することで積層物との密着性を得たり、得られる成形体を所望の3次元物体として寸法安定性を改善したりできる仕様であることが好ましい。押出ヘッドと基板とは、通常、少なくとも一方がX-Y平面に垂直なZ軸方向に可動となっている。
【0136】
原料は原料供給部から繰り出され、対向する1組のローラー又はギアーにより押出ヘッドへ送り込まれ、押出ヘッドにて加熱溶融され、先端ノズルより押し出される。CADモデルを基にして発信される信号により、押出ヘッドはその位置を移動しながら原料を基板上に供給して積層堆積させていく。この工程が完了した後、基板から積層堆積物を取り出し、必要に応じて支持材等を剥離したり、余分な部分を切除したりして所望の3次元物体として成形体を得ることができる。
【0137】
押出ヘッドへ連続的に原料を供給する手段は、フィラメント又はファイバーを繰り出して供給する方法、粉体又は顆粒又はペレット等をタンク等から定量フィーダを介して供給する方法、及び粉体又はペレット又は顆粒を押出機等で可塑化したものを押し出して供給する方法等が例示される。これらの中でも工程の簡便さと供給安定性の観点から、フィラメント、即ち、前述の本発明の3次元造形用フィラメントを繰り出して供給する方法が最も好ましい。
【0138】
フィラメント状の原料を供給する場合、前述のように、ボビン状に巻きとったカートリッジに収納されていることが、安定した繰り出し、湿気等の環境要因からの保護、捩れやキンクの防止等の観点から好ましい。
【0139】
フィラメント状の原料を供給する場合に、ニップロールやギアロール等の駆動ロールにフィラメントを係合させて、引き取りながら押出ヘッドへ供給することが一般的である。ここでフィラメントと駆動ロールとの係合による把持をより強固にすることで原料供給を安定化させるために、フィラメントの表面に微小凹凸形状を転写させておいたり、係合部との摩擦抵抗を大きくするための無機添加剤、展着剤、粘着剤、ゴム等を配合したりすることも好ましい。
【0140】
第1発明の3次元造形用フィラメントとして用いる第1発明の3次元造形用材料は、押出に適当な流動性を得るための温度が180~250℃程度と、従来、3次元プリンンターによる成形に用いられてきた原料と比べて適用可能な温度領域が広いため、加熱押出ヘッドの温度を好ましくは200~240℃とし、また、基板温度を通常110℃以下、好ましくは60~80℃として安定的に成形体を製造することができる。
【0141】
押出ヘッドから吐出される溶融樹脂の温度は180℃以上が好ましく、190℃以上がより好ましく、250℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましい。
溶融樹脂の温度が上記下限値以上であると、樹脂が十分に流動するため、高速で造形した場合も造形外観に優れる傾向にあり好ましい。溶融樹脂の温度が上記上限値以下であると、樹脂の熱分解や焼け、発煙、臭い、べたつき、ダマの発生といった不具合の発生を防ぎやすいため好ましい。
【0142】
押出ヘッドから吐出される溶融樹脂は、好ましくは直径0.01~1mm、より好ましくは直径0.02~0.8mmのストランド状で吐出される。溶融樹脂がこのような形状で吐出されると、造形物の再現性が良好となる傾向にあるために好ましい。
【0143】
第1発明の3次元造形用材料は熱溶融積層方式の3次元プリンターに用いられるものであるが、粉末床溶融結合方式の3次元プリンターでも、同様に造形時の反り抑制に効果が期待される。
【0144】
第1発明の3次元造形方法により製造された成形体は、外観、強度、耐熱性、後加工性等に優れたものである。このため、文房具;玩具;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材、家電製品、OA機器の補修部品、自動車、オートバイ、自転車等の各種パーツ;建装材等の部材、プラスチックの賦形型等の用途に好適に用いることができる。
【0145】
<第2発明の実施形態>
〔3次元プリンター〕
第2発明の3次元プリンターは、1つ以上のノズルを備える材料押出方式の3次元プリンターであって、少なくとも1つのノズルが、複数の溶融樹脂を積層して吐出する機構を備えることを特徴とする。
このような機構を有するノズルによれば、複数の樹脂をそれぞれ個別に1つのノズル内へと供給し、ノズルの内部にて溶融樹脂を積層して所定の多層構造を形成することができる。
【0146】
第2発明の3次元プリンターにおいては、少なくとも1つのノズルが、複数の溶融樹脂を積層して、流れ方向と直交する断面において多層構造を有する溶融樹脂複合体としたうえで、該溶融樹脂複合体を吐出する機構を備えることが好ましい。
【0147】
図3、
図5、
図6に、このような機構を有するノズルの一例としてノズル10,10A,10Bの内部構造を概略的に示す。
図3(A)は樹脂を導入していない状態、
図3(B)は導入口11aから樹脂aを導入し、導入口11bから樹脂bを導入した状態を示す。
【0148】
図4にノズル10の内部にて積層された複数の樹脂の断面形状(流れ方向と直交する方向における多層構造)の例を概略的に示す。
図4の断面形状は、
図3(B)のIIA-IIA矢視断面における樹脂a及び樹脂bの断面図と対応する。
【0149】
図3に示すように、ノズル10は、溶融樹脂を導入する複数の導入口11a、11bと、複数の導入口11a、11bから導入された複数の溶融樹脂を合流させて、流れ方向と直交する断面において多層構造を有する溶融樹脂複合体とする合流部12と、合流部12を経て得られた溶融樹脂複合体を吐出する吐出口13とを備える。
【0150】
図3に示すように、ノズル10は複数の導入口11a、11bを有する。これにより複数の樹脂をノズル10の内部へと別々に供給することができる。ここで、導入口の数は図示したような2つに限られず、3つ以上であってもよい。導入口の数は、積層すべき樹脂の数や溶融樹脂複合体の断面形状に応じて適宜調整すればよい。
【0151】
図3に示すように、複数の導入口11a、11bから別々に導入された樹脂は、ノズル10の内部に設けられた流路14を通って合流部12に到達する。流路14の長さや径は特に限定されるものではなく、供給される樹脂の形態や供給量、流動特性、溶融樹脂複合体の断面形状、合流部における流路径の径等に応じて適宜決定すればよい。
【0152】
合流部12に到達した複数の樹脂は互いに積層されて一体となり、溶融樹脂複合体となる。合流部12および合流部12に到達するまでの流路14の形状によって合流部12における溶融樹脂複合体の断面形状が変化する。
導入口11a、11bから導入される樹脂の供給量や流動特性等によっても合流部12における溶融樹脂複合体の断面形状が変化する。
合流部12は複数個所あってもよく、2つ以上の合流部がある場合には、吐出口13に最も近い合流部12において、溶融樹脂複合体の断面形状が所望の形態となっていればよい。
【0153】
図3に示したノズル10によれば、
図4(A)に示すような芯鞘構造を有する溶融樹脂複合体を得ることができる。
【0154】
溶融樹脂複合体の断面形状はこのような形状に限定されるものではなく、
図4(B)~(D)に示すような形状としてもよいし、これら以外の形状としてもよい。
【0155】
図5に示すようなノズル10Aによって、合流部12にて樹脂aと樹脂bとを積層した場合、ノズル10Aの内部において
図4(C)のように、樹脂aと樹脂bとが長手方向に延在して積層された断面形状を有する溶融樹脂複合体を形成することができる。
【0156】
合流部12にて形成された溶融樹脂複合体は断面形状を維持しながら流路15を通って吐出口13にまで到達し、吐出口13から吐出される。ここで流路15の径は均一である必要はない。また、流路15の長さは特に限定されるものではない。流路15を介さずに溶融樹脂複合体を吐出口13から吐出することも可能である。溶融樹脂複合体の流れを安定させる観点や、溶融樹脂同士の界面接着を良好にする観点等から、ノズル10は合流部12と吐出口13との間に流路15を備えることが好ましい。
【0157】
図3では、ノズル10の全体が1つの連続する部材から構成される形態を示したが、ノズル10は複数の部材を連結して構成されたものであってもよい。例えば、
図6に示すように、合流部12近傍を境目としてノズルの上流側Uとノズルの下流側Dとを個別に成形し、これらをボルト等の連結部材によって連結したり、凹凸を利用した嵌合構造によって嵌合させること等によって、1つのノズル10Bを構成してもよい。この場合、ノズル10Bの上流側Uを構成する部材と下流側Dを構成する部材とを互いに着脱可能に構成することもできる。ノズル10Bの上流側Uを構成する部材と下流側Dを構成する部材とを互いに着脱可能とした場合、上流側Uを構成する部材を交換することで、溶融樹脂複合体の断面形状(
図4参照)を容易に変更することができる。
【0158】
ノズル10,10A,10Bは、樹脂の溶融状態を維持するために、ヒータ等の加熱機構を有することが好ましい。加熱機構としては、従来公知の一般的な構成のものを採用することができる。
【0159】
従来のノズルと異なり、第2発明に係るノズル10,10A,10B(以下、代表的に「ノズル10」と称す。)においては、複数の導入口を介して複数の樹脂がそれぞれ別々に供給され、内部において複数の溶融樹脂が積層されることから、ノズル10への樹脂の供給を停止したとしても(或いは、後述する送りギアやスクリューを逆回転させて材料を逆流させたとしても)、ノズル10の先端から液タレが生じ易いものと考えられる。そのため、ノズル10は、待機時の液タレ等を防ぐために、吐出口13を適宜閉鎖する物理的な閉鎖機構を有することが好ましい。或いは、ノズル10の内部の圧力を調整するための圧力調整機構を有することが好ましい。閉鎖機構や圧力調整機構としては、従来公知の一般的な構成のものを採用することができる。
【0160】
ノズル10の大きさは特に限定されるものではなく、3次元プリンターの規模(製造する造形物の大きさ)等に応じて適宜選択されればよい。
【0161】
第2発明の3次元プリンターにおいて、ノズル10以外の構成については特に限定されるものではなく、熱溶解積層方式の3次元プリンターとして自明の構成を備えていればよい。ただし、第2発明の3次元プリンターにおいてはノズル10に複数の樹脂を供給する必要があることから、ノズル10に接続される造形材料である樹脂の供給源の数も複数となる。第2発明の3次元プリンターにおいて、ノズル10以外の構成については、造形材料の形態(フィラメント、ペレット、粉体等)に応じて、従来の構成を応用すればよい。
以下、一例について説明する。
【0162】
図7に造形材料としてフィラメントを用いる場合における3次元プリンターの構成の一例を示す。
図7に示す3次元プリンター100は、上述したノズル10と、フィラメントをノズル10へと連続的に供給するための送りギア20、30と、造形テーブル40と、これらの動作を制御する制御装置50とを備えている。
【0163】
図7に示すように、3次元プリンター100においては、送りギア20、30を介してフィラメントA、Bが巻き出されて、それぞれ別々にノズル10の導入口11a、11bへと供給される。送りギア20および30がノズル10から離れた場所にある場合は、送りギア20および30からノズル10の導入口までの間において、チューブ等でフィラメントを誘導することが好ましい。
【0164】
制御装置50によって送りギア20、30の回転数を制御することで、ノズル10へと供給されるフィラメントA、Bの量を制御することができ、ノズル10の内部において複数の樹脂を所定の比率にて積層することができる。
制御装置50によって、ノズル10の温度制御やXY方向の位置制御、さらには造形テーブルのZ軸高さ制御が行われる。制御装置50の構成としては、従来公知の一般的な構成のものを採用することができる。
このように、各構成部材を動作させることで3次元造形が可能となる。
【0165】
図7に示す3次元プリンター100においては、送りギア20、30によってフィラメントをノズル10へと直接供給することが可能である。ただし、この場合、ヒータ等の加熱機構を制御してノズル10の導入口から合流部12に至るまでの間においてフィラメントを適切に溶融させる必要がある。
【0166】
ノズル10の前にシリンダーを設けて、シリンダーで樹脂を事前に加熱溶融してから、ノズル10に供給するようにしてもよい。
【0167】
図8に、3次元プリンター100が備え得るシリンダの構成の一例を概略的に示す。
図8に示すシリンダ60は、その上流に送りギア61を備えている。送りギア61はシリンダ60の直前にあってもよいし、離れた場所にあってもよい。送りギア20、30を送りギア61として機能させてもよい。送りギア61がシリンダ60から離れた場所にある場合は、送りギア61からシリンダ60の入口までの間において、チューブ等でフィラメントを誘導することが好ましい。
【0168】
シリンダ60から供給される樹脂の量は、フィラメントの供給量、すなわち送りギア61の回転量等によってコントロールすることができる。シリンダ60の内部に供給されたフィラメントは、シリンダ60の外部に備えられたヒータ62からの加熱によって溶融樹脂となる。溶融樹脂はシリンダ60の出口からノズル10の導入口へと供給される。シリンダ60の出口とノズル10の導入口とは直接接続されていてもよいし、導管等を介して接続されていてもよい。
【0169】
第2発明の3次元プリンターは、フィラメント以外の造形材料を用いて3次元プリントを行う場合にも適用可能である。
フィラメント以外の造形材料としては樹脂のペレットや粉体が挙げられる。造形材料としてペレットや粉体を用いることで、フィラメントとするコストや手間を省くことができる。また、フィラメントを用いる場合よりも材料への熱履歴が少なくなり、樹脂の劣化を抑えることもできる。
フィラメントはカートリッジ等によって供給可能な量(長さ)が一定以内に制限されるが、ペレットや粉体であれば材料の注ぎ足しが容易であり、大型の3次元造形物を製造する場合にも材料が尽きる心配がない。
フィラメント以外の造形材料としては、中でもペレットが好ましい。ペレットは粉体と比較して取り扱いが容易である。
【0170】
図9に造形材料としてペレットや粉体を用いる場合における3次元プリンターの構成の一例を示す。
図9に示す3次元プリンター200は、上述したノズル10と、造形材料を投入して一定量保持するためのホッパ120a、120bと、造形材料を加熱して溶融させるためのシリンダ130a、130bと、造形テーブル140と、これらの動作を制御する制御装置150とを備えている。
【0171】
図10にシリンダ130a近傍を拡大して示す。
図10に示すように、シリンダ130aは内部にスクリュー131aを備えており、スクリューモータ132aによってスクリュー131aが回転可能とされている。シリンダ130aの外側にはヒータ133aが設けられ、ヒータ133aによる加熱によってシリンダ130a内に供給された造形材料を溶融させることができる。
【0172】
図9、10に示すように、造形材料は、ホッパ120a、120bを介してシリンダ130a、130bへと供給され、制御装置150による制御の下、シリンダ130a、130b内部で加熱溶融されながら単軸のスクリュー131a、131bによって前方に運ばれ、シリンダ出口から導管を介してノズル10の導入口11a、11bへと連続的に供給される。
【0173】
シリンダ130a、130bからノズル10へと供給される樹脂の量は、スクリュー131aの回転数をスクリューモータ132aによって制御することで調整可能である。供給される樹脂の量を一定とするために、ギアポンプ等の調整手段をシリンダ出口に設けてもよい。シリンダ130a、130bの出口とノズル10の導入口とは直接接続されていてもよいし、導管等を介して接続されていてもよい。
【0174】
このように、複数の押出機を用いて造形材料を溶融させつつ押し出すことで、ノズル10の内部に複数の樹脂を別々に供給することができる。3次元プリンター200においては、ノズル10に備えられる導入口の数に応じて、ノズルに接続する押出機の数を決定すればよい。
【0175】
熱溶解積層方式の3次元プリンターにおいて適用可能なペレット押出機や、ノズルに対して1つの押出機を接続する手法については公知である(特許第5920859号公報)。3次元プリンター200においても、特許第5920859号公報に開示された内容を応用して、ノズル10に複数の押出機を接続すればよい。
【0176】
上記の説明では、3次元プリンターにおいて、ノズルとして第2発明に係るノズル10のみを備える形態を示したが、ノズルの数は1つに限定されない。第2発明の3次元プリンターは1つ以上のノズルを備えていればよく、そのうちの少なくとも1つが第2発明に係るノズル10であればよい。すなわち、第2発明の3次元プリンターは、第2発明に係るノズル10を複数備えていてもよいし、従来公知のノズルとともに第2発明に係るノズル10を備えていてもよい。この場合、ノズルの数やノズルに供給すべき樹脂の数に応じて、フィラメントや送りギアの数、押出機の数等を決定すればよい。
【0177】
上記の説明では、3次元プリンターにおいて、ノズルがXY方向(水平方向)に、造形テーブルがZ方向(高さ方向)に移動可能な形態を示したが、ノズルや造形テーブルの移動方向はこれに限定されるものではない。造形テーブルを固定とし、ノズルをXY方向及びZ方向へと3次元に移動可能としてもよいし、ノズルを固定とし、造形テーブルをXY方向及びZ方向へと3次元に移動可能としてもよい。ただし、造形テーブルを3次元に移動可能とする場合、装置が過度に大型化する虞があり現実的ではない。
【0178】
第2発明の3次元プリンターにおいては、ノズルに複数の樹脂を供給する必要があることから、ノズルの移動範囲が制限され、ノズルを3次元に移動可能とすることは難しい場合がある。そのため、第2発明の3次元プリンターにおいては、ノズルを多くともXY方向(水平方向)のみ又はZ方向(高さ方向)のみに移動可能とすることが好ましく、XY方向(水平方向)のみに移動可能とすることがより好ましい。
【0179】
上記の説明では、ノズル10において、複数の溶融樹脂を積層して、流れ方向と直交する断面において多層構造を有する溶融樹脂複合体を形成する形態について説明したが、ノズルから吐出される溶融樹脂複合体の形態はこれに限定されるものではない。例えば、流れ方向に沿った断面において多層構造を有する溶融樹脂複合体としても効果を奏する余地がある。例えば、ノズルから溶融樹脂aと溶融樹脂bとを切れ目なく交互に吐出するような形態である。この場合においても、ノズルの内部で溶融樹脂aと溶融樹脂bとを積層することが有効である。ただし、複数の機能を容易に確保可能である観点から、少なくとも1つのノズル10が、複数の溶融樹脂を積層して、流れ方向と直交する断面において多層構造を有する溶融樹脂複合体としたうえで、該溶融樹脂複合体を吐出する機構を備えることが好ましく、ノズル10が所定の合流部を備え、合流部において、流れ方向と直交する断面において多層構造を有する溶融樹脂複合体を形成することがより好ましい。
【0180】
以上の通り、第2発明の3次元プリンターによれば、複数の樹脂をそれぞれ個別に1つのノズル10内へと供給し、ノズル10の内部にて溶融樹脂を積層して所望の多層構造を形成することができる。よって、ノズル10の前段階において多層構造を有する造形材料を用いる必要がない。すなわち、造形材料として単層のフィラメントだけでなく、ペレット等の不定形材料を用いることも可能であり、多層構造のフィラメントにおいては用いることができなかった各種樹脂を広く利用しつつ、3次元造形物の狙った位置に狙った機能を付与することができる。
【0181】
〔3次元造形物の製造方法〕
第2発明に係る3次元造形物の製造方法について
図11を参照して説明する。
図11は、第2発明の3次元造形物の製造方法S10の流れを説明するための図である。
図11に示すように、第2発明の3次元造形物の製造方法S10は、複数の樹脂をノズルに供給する工程S1と、ノズルの内部で複数の溶融樹脂を積層する工程S2と、積層した複数の溶融樹脂をノズルから吐出する工程S3とを備えることを特徴とする。
【0182】
工程S1においては複数の樹脂をノズルに供給する。上述したように造形材料の種類によって、ノズルへの供給方法を決定すればよい。すなわち、造形材料が樹脂からなるフィラメントである場合、送りギアによる回転によってフィラメントをノズルへと連続的に供給することができる。造形材料が樹脂からなるペレットや粉体である場合、押出機によってペレット等をノズルへと連続的に供給することができる。上述したように、造形材料はノズル内の合流部に供給される前段階で加熱され、ノズル内の合流部に到達した段階で溶融していることが好ましい。造形材料を加熱する際の温度は、用いる樹脂の種類によって適宜調整すればよい。
【0183】
工程S2においては、ノズルの内部で複数の溶融樹脂を積層する。特に工程S2においては、ノズルの内部で複数の溶融樹脂を積層して、流れ方向と直交する断面において多層構造を有する溶融樹脂複合体を得ることが好ましい。例えば、上述したように、ノズル10において、複数の導入口11a、11bから導入された複数の溶融樹脂を合流させて、流れ方向と直交する断面において多層構造を有する溶融樹脂複合体とする。溶融樹脂複合体の断面形状(
図4参照)については上述した通りである。
【0184】
工程S3においては、積層した複数の溶融樹脂(溶融樹脂複合体)をノズルから吐出する。吐出された溶融樹脂は、造形テーブル上に既に堆積している樹脂積層体上に堆積すると共に融着し、これが冷却するにつれて一体となって固化する。造形テーブル上の樹脂積層体に対して工程S1~S3によって溶融樹脂を連続的に堆積させることで、所望の形状を有する3次元造形物を製造することができる。
【0185】
第2発明の3次元造形物の製造方法S10において、用いる樹脂の組み合わせによって、3次元造形物に種々の機能を付与することができる。以下、好ましい樹脂の組み合わせについて説明する。
【0186】
<せん断貯蔵弾性率>
製造方法S10においては、100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が互いに異なる少なくとも2つの樹脂を用いることが好ましい。これにより、造形時の反りを抑制することができるとともに、3次元造形物の耐熱性を調整することができる。特に好ましくは、少なくとも1つの下記熱可塑性樹脂(C)と、少なくとも1つの下記熱可塑性樹脂(D)とを用いることが好ましい。
せん断貯蔵弾性率(G´)は、樹脂の組成やフィラーの添加等で調整できる。
100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)は、レオメーターを用いて、周波数:1Hz、降温速度=3℃/minで、せん断貯蔵弾性率(G´)を、結晶融解温度(融点Tm)+20℃から80℃程度(測定可能な温度)まで測定し、得られたデータから求めることができる。
【0187】
熱可塑性樹脂(C):100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が1.00×107Pa以下
熱可塑性樹脂(D):100℃、1Hzで測定したせん断貯蔵弾性率(G´)が1.00×107Paより大きい
熱可塑性樹脂(C)は第1発明における好ましい熱可塑性樹脂(A)に該当し、熱可塑性樹脂(D)は第1発明における好ましい熱可塑性樹脂(B)に該当する。
【0188】
積層パターンは特に規定されないが、造形物の積層間接着性に優れることから、芯鞘構造とすることが好ましい。具体的には、
図12(A)に断面形状を示すように、ノズルから吐出された際、溶融樹脂複合体の表面の大部分を熱可塑性樹脂(C)が占めることが好ましく、表面全体が熱可塑性樹脂(C)により構成されることがより好ましい。このような断面形状を有する場合、造形の際に、表面の樹脂が3次元プリンターのノズル10から吐出された後に固化する温度と、造形雰囲気温度との際が小さくなり、固化後の線膨張による収縮量が小さくなるため、反りが抑制されるものと考えられる。
複数の樹脂を積層した場合の層間接着性の観点から、熱可塑性樹脂(C)及び(D)は、同じ構成単位を有する(構成単位の少なくとも一部が共通している)ことが好ましい。
【0189】
<ガラス転移温度>
製造方法S10においては、示差走査熱量測定で測定されるガラス転移温度(Tg)が互いに異なる少なくとも2つの樹脂を用いることが好ましい。これにより、造形時の反りを抑制することができるとともに、3次元造形物の耐熱性を調整することができる。特に好ましくは、少なくとも1つの下記熱可塑性樹脂(E)と、少なくとも1つの下記熱可塑性樹脂(F)とを用いることが好ましい。
樹脂のガラス転移温度は、樹脂の組成や分子量等で調整できる。
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)を用い、JIS K7122に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で室温から結晶融解温度(融点Tm)+20℃まで昇温し、該温度で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で30℃まで降温した時に測定される値である。
【0190】
熱可塑性樹脂(E):Tgが100℃未満
熱可塑性樹脂(F):Tgが100℃以上
熱可塑性樹脂(E)は第1発明における好ましい熱可塑性樹脂(A)に該当し、熱可塑性樹脂(F)は第1発明における好ましい熱可塑性樹脂(B)に該当する。
【0191】
積層パターンは特に規定されないが、造形物の積層間接着性に優れることから、芯鞘構造とすることが好ましい。具体的には、
図12(B)に断面形状を示すように、ノズルから吐出された際、溶融樹脂複合体の表面の大部分を熱可塑性樹脂(E)が占めることが好ましく、表面全体が熱可塑性樹脂(E)により構成されることがより好ましい。このような断面形状を有する場合、造形の際に、表面の樹脂が3次元プリンターのノズル10から吐出された後に固化する温度と、造形雰囲気温度との際が小さくなり、固化後の線膨張による収縮量が小さくなるため、反りが抑制されるものと考えられる。
複数の樹脂を積層した場合の層間接着性の観点から、熱可塑性樹脂(E)及び(F)は、同じ構成単位を有する(構成単位の少なくとも一部が共通している)ことが好ましい。
【0192】
<結晶化熱量>
製造方法S10においては、示差走査熱量測定における結晶化熱量(ΔHc)が互いに異なる少なくとも2つの樹脂を用いることが好ましい。具体的には、2つの樹脂の該結晶化熱量(ΔHc)が、下記式(1)を満たすことが好ましい。該範囲を満たすことで、それぞれの樹脂からなる層間の接着性が良好となるため、得られる3次元造形物の強度に優れる。
0<2つの樹脂のΔHcの差の絶対値(J/g)≦60 ・・・式(1)
【0193】
特に、得られる3次元造形物の層間接着性に優れることから、ノズルから吐出された際、溶融樹脂複合体の表面の大部分(好ましくはすべて)を構成する樹脂の該結晶化熱量が、60J/g以下であること好ましく、50J/g以下であることがより好ましく、45J/g以下であることがさらに好ましい。また、得られる3次元造形物の耐熱性の観点から、溶融樹脂複合体の表面の大部分(好ましくはすべて)を構成する樹脂の該結晶化熱量が、1J/g以上であることが好ましく、5J/g以上であることがより好ましく、10J/g以上であることがさらに好ましい。
【0194】
得られる3次元造形物の耐熱性や、造形時の反りを抑制する観点から、工程S3においてノズルから吐出される溶融樹脂複合体としての、示差走査熱量測定における冷却速度10℃/分で測定される結晶化熱量(ΔHc)は、20~60J/gであることが好ましい。
示差走査熱量測定の降温過程において結晶化温度(Tc)が複数発現する場合は、前記の結晶化熱量(ΔHc)は、各結晶化温度(Tc)における結晶化熱量を合計した値である。該結晶化熱量は、結晶化収縮量を小さくして造形時の反りを抑制する観点から、58J/g以下であることがより好ましく、55J/g以下であることがさらに好ましい。また、後述する樹脂成形体の耐熱性の観点から、該結晶化熱量は、22J/g以上であることがより好ましく、30J/g以上であることがさらに好ましく、35J/g以上であることが特に好ましい。
【0195】
該結晶化熱量(ΔHc)は、示差走査熱量計(DSC)を用い、JIS K7122に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で室温から結晶融解温度(融点Tm)+20℃まで昇温し、該温度で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で30℃まで降温した時に測定される値である。
複数の樹脂を積層した場合の層間接着性の観点から、使用するすべての樹脂は同じ構成単位を有する(構成単位の少なくとも一部が共通している)ことが好ましい。
【0196】
<引張貯蔵弾性率>
製造方法S10においては、25℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が互いに異なる少なくとも2つの樹脂を用いることが好ましい。例えば、ノズルから吐出された際、溶融樹脂複合体の表面の大部分(好ましくはすべて)が、引張貯蔵弾性率(E´)が高い樹脂によって構成されるようにするとよい。これにより、硬い触感を有しながら、全体的に柔軟な3次元造形物を得ることができる。一方で、ノズルから吐出された際、溶融樹脂複合体の表面の大部分(好ましくはすべて)が、引張貯蔵弾性率(E´)が低い樹脂によって構成されるようにしてもよい。これにより、柔らかい触感を有しながら、全体的に強度の高い3次元造形物を得ることができる。
該引張貯蔵弾性率(E´)は、動的粘弾性測定機を用いて、振動周波数:10Hz、昇温速度:3℃/分、歪0.1%の条件で、貯蔵弾性率(E´)を-100℃から結晶融解温度(融点Tm)付近まで測定し、得られたデータから求めることができる。
【0197】
25℃、10Hzで測定した引張貯蔵弾性率(E´)が高い方の樹脂は、引張貯蔵弾性率(E´)の値が1.0×109Pa以上であることが好ましく、低い方の樹脂は、1.0×109Pa未満であることが好ましい。引張貯蔵弾性率(E´)が高い方の樹脂の具体例としてはABSや高結晶性PPが挙げられる。引張貯蔵弾性率(E´)が低い方の樹脂としては低結晶性PPや三菱ケミカル社製ポリエステル系熱可塑性エラストマー「プリマロイ」が挙げられる。
【0198】
<添加剤>
製造方法S10においては、添加剤の種類及び/又は含有量が互いに異なる少なくとも2つの樹脂を用いることが好ましい。添加剤としては、タルク、無機繊維、有機繊維、無機粒子、有機粒子などのフィラーや紫外線吸収剤などが挙げられる。このように、添加剤の種類や含有量の異なる樹脂を組み合わせることで、3次元造形物に特定の機能を付与しながら、3次元造形物の積層間接着性を高めることが容易となる。特に、ノズルから吐出された際、溶融樹脂複合体の表面の大部分(好ましくはすべて)が、添加剤の含有量の少ない樹脂によって構成されるようにすることが好ましい。このとき、添加剤の含有量が少ない方の樹脂において、添加材の含有量は0wt%~50wt%であることが好ましい。添加剤の含有量が多い方の樹脂において、添加剤の含有量は1wt%~80wt%であることが好ましい。
【0199】
製造方法S10においては、上記のせん断貯蔵弾性率の関係、ガラス転移温度の関係、結晶化熱量の関係、引張貯蔵弾性率の関係、添加剤の種類及び含有量の関係のうちの複数の関係を満たすことも可能である。尚、造形時の反りを抑えることが可能な3次元造形材料については、第1発明において記載される通りである。
【0200】
製造方法S10によれば、複数の樹脂をそれぞれ個別に1つのノズル内へと供給し、ノズルの内部にて溶融樹脂を積層して所望の多層構造を形成することができる。よって、ノズルの前段階において多層構造を有する造形材料を用いる必要がない。すなわち、造形材料として単層のフィラメントだけでなく、ペレット等の不定形材料を用いることも可能であり、多層構造のフィラメントにおいては用いることができなかった各種樹脂を広く利用しつつ、3次元造形物の狙った位置に狙った機能を付与することができる。
【実施例】
【0201】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0202】
<測定・評価方法>
〔物性測定方法〕
[ガラス転移温度(Tg)]
示差走査熱量計((株)パーキンエルマー社製、商品名:Diamond DSC)を用いて、JIS K7121に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で0℃から250℃まで昇温し、250℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で0℃まで降温し、再度、加熱速度10℃/分で250℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから中間点ガラス転移温度を読み取り、ガラス転移温度(Tg)(℃)とした。
【0203】
[融点(Tm)]
示差走査熱量計((株)パーキンエルマー社製、商品名:Diamond DSC)を用いて、JIS K7121に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で0℃から250℃まで昇温し、250℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で0℃まで降温し、再度、加熱速度10℃/分で250℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから融点(Tm)を読み取った。
【0204】
[結晶化温度(Tc)]
示差走査熱量計((株)パーキンエルマー社製、商品名:Diamond DSC)を用いて、JIS K7121に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で0℃から250℃まで昇温し250℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で0℃まで降温する際に測定されたサーモグラムから結晶化温度(Tc)を読み取った。
【0205】
[メルトインデックス(MI)]
メルトインデックス測定装置((株)東洋精機製作所製、商品名:セミメルトインデックサ)を用いて、JIS K7210に準じて、220℃、荷重10kgにてMI(g/10min)を測定した。
【0206】
[分子量]
クロロホルムまたはオルトジクロロベンゼンにサンプルを溶解させ、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)にて重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0207】
[引張貯蔵弾性率(E´)]
原料ペレット、或いは実施例および比較例で得られたフィラメントを、熱プレスによりそれぞれ厚み約0.5mmのシートに成形し、測定用サンプルとした。動的粘弾性測定機(アイティ計測(株)製、商品名:粘弾性スペクトロメーターDVA-200)を用いて、振動周波数:10Hz、昇温速度:3℃/分、歪0.1%の条件で、貯蔵弾性率(E´)を-100℃から250℃まで測定し、得られたデータから、100℃における貯蔵弾性率(E´100℃)および30℃における貯蔵弾性率(E´30℃)を求めた。
【0208】
[せん断貯蔵弾性率(G´)]
実施例および比較例で得られたフィラメントを、熱プレスによりそれぞれ厚み0.5mmのシートに成形し、測定用サンプルとした。レオメーター(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製、商品名:MARS II)を用いて、周波数:1Hz、降温速度:3℃/minでせん断貯蔵弾性率(G´)を300℃から80℃まで測定し、得られたデータから、100℃のせん断貯蔵弾性率(G´100℃)を求めた。
【0209】
〔造形性評価方法〕
[反り]
3Dプリンター(武藤工業(株)製、商品名:MF-2200D)を用いて、基板(造形テーブル)温度80℃、ノズル温度240℃、造形速度30mm/s、内部充填率100%にて横100mm×縦25mm×厚み5mmの板を造形し、水平なテーブルの上に造形した板を置き、造形した板の、テーブルからの浮きの有無により以下の基準で評価した。
×:浮きあり
〇:浮きなし
【0210】
[造形時の耐熱性]
3Dプリンター(武藤工業(株)製、商品名:MF-2200D)を用いて、基板(造形テーブル)温度100℃、ノズル温度240℃、造形速度100mm/s、自動容器作成モード(造形物の外壁のみをらせん状に積み上げて造形していくモード)にて、直径50mmφ×高さ60mmの円柱を造形したときの状態を以下の基準で評価した。
×:変形して円柱の形状が保てない
〇:変形せず、円柱の形状を保ったまま造形できる
【0211】
〔造形物強度評価方法〕
[Z軸強度]
3Dプリンター(武藤工業(株)製、商品名:MF-2200D)を用いて、基板(造形テーブル)温度80℃、ノズル温度240℃、造形速度10mm/sにて、
図2に示すダンベル形状(長さ:75mm、幅:10mm(試験部分:5mm)、厚み5mm)の造形物3を、
図2の矢印方向を造形方向(Z軸方向)として造形した。得られたダンベル形状の造形物3に対して、Intesco製万能引張圧縮試験機(Model2050)を用いて、初期のチャック間距離45mm、速度50mm/minで引張試験を行い、検出された最大引張強度をZ軸強度とした。
【0212】
<使用原料>
スチレン系樹脂(A1):デンカ(株)製、商品名:TH-11、Tg:86℃、MI:76、Mw:約16万、E´100℃:72MPa、E´30℃:2274MPa、G´100℃:0.075×107Pa、組成(wt%):スチレン/ブタジエン/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート=56/4/35/5
PP系樹脂(A2):日本ポリプロ(株)製、商品名:ウェルネクスRMG02、Tc:85℃、Tm:130℃、E´100℃:40MPa、E´30℃:430MPa、G´100℃:0.003×107Pa、組成(wt%):プロピレン/エチレン=95/5
PP系樹脂(B1):日本ポリプロ(株)製、商品名:ウィンテックWMG03、Tc:130℃、Tm:142℃、E´100℃:300MPa、E´30℃:1500MPa、G´100℃:測定不可、組成(wt%):プロピレン/エチレン=98/2
ABS樹脂(B2):Chi Mei Corp.製、商品名:PA757H、Tg:104℃、E´100℃:1219MPa、E´30℃:1710MPa、G´100℃:測定不可
【0213】
<実施例および比較例>
[実施例1]
芯層としてスチレン系樹脂(A1)、鞘層としてABS樹脂(B2)をそれぞれ用いて、鞘層が芯層を被覆し、フィラメント径:芯層の径が2:1となるように溶融温度230~250℃にて共押出後、70℃の冷却水中で冷却し、直径1.75mmのフィラメントを得た。得られたフィラメントの各物性値と、造形評価結果を表1に示す。
【0214】
[実施例2]
芯層としてABS樹脂(B2)、鞘層としてスチレン系樹脂(A1)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で直径1.75mmのフィラメントを得た。得られたフィラメントの各物性値と、造形評価結果を表1に示す。
【0215】
[実施例3]
芯層としてPP系樹脂(B1)、鞘層としてPP系樹脂(A2)をそれぞれ用いて、鞘層が芯層を被覆し、フィラメント径:芯層の径が2:1となるように単軸押出機にて直径2.5mmのノズルから溶融温度180~220℃にて押出後、10℃の冷却水中で冷却し、直径1.75mmのフィラメントを得た。得られたフィラメントの各物性値と、造形評価結果を表1に示す。
【0216】
[比較例1]
ABS樹脂(B2)を用いて、単軸押出機にて直径2.5mmのノズルから溶融温度230~250℃にて押出後、70℃の冷却水中で冷却し、直径1.75mmのフィラメントを得た。得られたフィラメントの各物性値と、造形評価結果を表1に示す。なお、G´100℃は、このフィラメントでは100℃では固化しており測定不可であった。
【0217】
[比較例2]
スチレン系樹脂(A1)を用いて、比較例1と同様の方法で、直径1.75mmのフィラメントを得た。得られたフィラメントの各物性値と、造形評価結果を表1に示す。
【0218】
[比較例3]
PP系樹脂(B1)を用いて、単軸押出機にて直径2.5mmのノズルから溶融温度180~220℃にて押出後、10℃の冷却水中で冷却し、直径1.75mmのフィラメントを得た。得られたフィラメントの各物性値と、造形評価結果を表1に示す。なお、G´100℃は、このフィラメントでは100℃で固化しており測定不可であった。
【0219】
[比較例4]
PP系樹脂(A2)を用いたこと以外は、比較例3と同様にして直径1.75mmのフィラメントを得た。得られたフィラメントの各物性値と、造形評価結果を表1に示す。
【0220】
【0221】
表1より、実施例1~3は、多層構造である芯鞘構造であるため、造形時の反りを抑制しながらも、造形時の軟化による変形が抑制されており、造形時の耐熱性に優れている。
【0222】
[Z軸強度の測定]
実施例1および実施例2と同様の手法で得られた各フィラメントを用いて、それぞれZ軸強度を評価した。結果を表2に示す。
【0223】
【0224】
表2より次のことが分かる。
実施例1のフィラメントは、鞘にG’100℃が1×107Pa未満の樹脂を用い、また鞘に用いている樹脂のTgが、芯に用いている樹脂のTgより低いため、これとは逆に、芯にG’100℃が1×107Pa未満の樹脂を用いており、鞘に用いている樹脂のTgが、芯に用いている樹脂のTgより高い実施例2のフィラメントと比較して、Z軸強度が高い。
【0225】
実施例3と同様の手法で得られたフィラメントを用いて、Z軸強度を評価した。
実施例3とは逆に、芯層としてPP系樹脂(A2)を、鞘層としてPP系樹脂(B1)を用いた以外は、実施例3と同様の手法で得られたフィラメントを用いて、Z軸強度を評価した。
これらの結果を表3に示す。
【0226】
【0227】
表3より次のことが分かる。
実施例3のフィラメントは、鞘にG’100℃が1×107Pa未満の樹脂を用い、また鞘に用いている樹脂のTcが、芯に用いている樹脂のTcより低いため、これとは逆に、芯にG’100℃が1×107Pa未満の樹脂を用い、鞘に用いている樹脂のTcが、芯に用いている樹脂のTcより高いフィラメントを用いたものと比較して、Z軸強度が高い。
【0228】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2018年2月2日付で出願された日本特許出願2018-017467および2018年6月6日付で出願された特願2018-108999に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0229】
本発明によれば、種々の樹脂により3次元造形物を製造することができるとともに、造形時の反りが抑制されるなど造形性を向上させることができ、また3次元造形物に様々な機能を付与することができる。
【符号の説明】
【0230】
1 熱可塑性樹脂(A)
2 熱可塑性樹脂(B)
3 造形物
100 3次元プリンター
10、10A、10B ノズル
11a、11b 導入口
12 合流部
13 吐出口
20 送りギア
30 送りギア
40 造形テーブル
50 制御装置
200 3次元プリンター
120a、120b ホッパ
130a、130b シリンダ
140 造形テーブル
150 制御装置