(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】半導体装置、並びに、その製造に使用する熱硬化性樹脂組成物及びダイシングダイボンディング一体型テープ
(51)【国際特許分類】
H01L 23/29 20060101AFI20220906BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20220906BHJP
H01L 25/065 20060101ALI20220906BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20220906BHJP
H01L 25/18 20060101ALI20220906BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20220906BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20220906BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01L23/30 R
H01L25/08 E
H01L21/52 E
H01L21/78 M
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2020518855
(86)(22)【出願日】2018-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2018018765
(87)【国際公開番号】W WO2019220540
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-03-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山本 和弘
【審査官】多賀 和宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-014501(JP,A)
【文献】特開2010-182816(JP,A)
【文献】特開2012-191027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/29-23/31
H01L 25/04-25/18
H01L 21/52
H01L 21/301
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された第1の半導体素子と、
前記基板における前記第1の半導体素子が配置された領域を覆うように配置されており、前記第1の半導体素子を封止している第1の封止層と、
前記第1の封止層における前記基板の側と反対側の表面を覆うように配置されており、前記第1の半導体素子よりも大きい面積を有する第2の半導体素子と、
を備え、
前記第1の封止層が熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、前記熱硬化性樹脂組成物の120℃における溶融粘度が
5000~11500Pa・sである、半導体装置。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂組成物は、分子量10~1000の低分子量成分と、分子量10万~100万の高分子量成分とを含み、
前記低分子量成分の含有量M1が前記熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の質量100質量部に対して23~35質量部であり、
前記高分子量成分の含有量M2が前記熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の質量100質量部に対して25~45質量部である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の質量100質量部に対して前記低分子量成分と前記高分子量成分の合計量が54~76質量部である、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記基板の表面に形成された回路パターンと、
前記第1の半導体素子と前記回路パターンとを電気的に接続する第1のワイヤと、
を更に備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第2の半導体素子と前記回路パターンとを電気的に接続する第2のワイヤと、
前記第2の半導体素子及び前記第2のワイヤを封止している第2の封止層と、
を更に備える、請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第2の半導体素子の上に積層された第3の半導体素子を更に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
半導体装置の製造プロセスにおいて使用される熱硬化性樹脂組成物であって、
前記製造プロセスが、前記熱硬化性樹脂組成物を加熱する硬化処理を経て、ワイヤの少なくとも一部及び半導体素子の少なくとも一方が硬化処理後の前記熱硬化性樹脂組成物に埋め込まれた状態とする工程を含み、
前記熱硬化性樹脂組成物の120℃における溶融粘度が
5000~11500Pa・sである、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
分子量10~1000の低分子量成分と、
分子量10万~100万の高分子量成分と、
を含み、
前記低分子量成分の含有量M1が前記熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の質量100質量部に対して23~35質量部であり、
前記高分子量成分の含有量M2が前記熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の質量100質量部に対して25~45質量部である、請求項7に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
当該熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の質量100質量部に対して前記低分子量成分と前記高分子量成分の合計量が54~76質量部である、請求項8に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
粘着層と、
請求項7~9のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物からなる接着層と、
を備える、ダイシングダイボンディング一体型テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置、並びに、その製造に使用する熱硬化性樹脂組成物及びダイシングダイボンディング一体型テープに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等のデバイスの多機能化に伴い、半導体素子を多段に積層することによって高容量化したスタックドMCP(Multi Chip Package)が普及している。半導体素子の実装には、フィルム状接着剤が広く用いられている。フィルム状接着剤を使用した多段積層パッケージの一例としてワイヤ埋込型のパッケージが挙げられる。このパッケージは、基板上にワイヤボンド済みの半導体素子に対してフィルム状接着剤を圧着することによって当該半導体素子及びワイヤをフィルム状接着剤に埋め込む工程を経て製造される。
【0003】
上記スタックドMCP等の半導体装置に求められる重要な特性の一つとして接続信頼性が挙げられる。接続信頼性を向上させるために、耐熱性、耐湿性及び耐リフロー性等の特性を考慮したフィルム状接着剤の開発が行われている。例えば、特許文献1は熱硬化性成分とフィラーとを含有する厚さ10~250μmの接着シートを開示する。特許文献2はエポキシ樹脂とフェノール樹脂とを含む混合物及びアクリル共重合体を含む接着剤組成物を開示する。
【0004】
半導体装置の接続信頼性は、接着面に空隙(ボイド)を発生させることなく半導体素子を実装できているか否かによっても大きく左右される。このため、空隙を発生させずに半導体素子を圧着できるように高流動なフィルム状接着剤を使用する、又は発生した空隙を半導体素子の封止工程で消失させることができるように溶融粘度の低いフィルム状接着剤を使用するなどの工夫がなされている。例えば特許文献3には低粘度且つ低タック強度の接着シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2005/103180号公報
【文献】特開2002-220576号公報
【文献】特開2009-120830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び3の接着シートは、圧着時にワイヤを埋め込むため、高流動化を目的として比較的多量のエポキシ樹脂を含んでいる。このため、半導体装置の製造工程中に発生する熱により熱硬化が進行しやすい。これにより、接着フィルムが高弾性化して、換言すれば、封止時の高温高圧条件でも接着シートが変形しにくくなり、圧着時に形成された空隙が最終的に消失しないことがある。一方、上記特許文献2の接着剤組成物は、弾性率が低いため、封止工程で空隙を消失させることができるものの、粘度が高いことに起因して圧着時におけるワイヤの埋込性が不十分となりやすい。
【0007】
近年、ワイヤ埋込型の半導体装置の動作の高速化が重要視されている。従来は積層された半導体素子の最上段に、半導体装置の動作を制御するコントローラチップが配置されていた。動作の高速化を実現するため、最下段にコントローラチップを配置した半導体装置のパッケージ技術が開発されている。このようなパッケージの一つの形態として、多段に積層した半導体素子のうち、二段目の半導体素子を圧着する際に比較的分厚いフィルム状接着剤を使用し、当該フィルム状接着剤の内部にコントローラチップを埋め込むパッケージが注目を集めている。このような用途に使用されるフィルム状接着剤は、コントローラチップ及びこれと回路パターンとを接続するワイヤ、並びに、基板表面の凹凸起因の段差を埋め込むことのできる高い流動性が求められる。特許文献1及び3の接着シートのような高流動の接着シートを使用することで、この課題を解決できる。
【0008】
しかし、特許文献1及び3に記載の接着シートは硬化前に高い流動性を発現させる一方で、コントローラチップの埋め込み時に流動した樹脂が周辺の回路を汚染することもある。更に、埋め込み後の熱硬化により接着シートが流動し、チップの位置ずれが生じたり、埋め込みチップの端面から潮が引くように樹脂がチップ内側へ入り込んでいき、チップ端部から樹脂が無くなる「ヒケ」と呼ばれる現象が発生したりする(
図8参照)。特に、近年、埋込性向上のために加圧条件下で熱硬化処理を行うことが多い。このように外部から圧力がある状態で熱が加われば埋込性が向上する一方で樹脂がより一層流動しやすくなり、上記のような問題が発生することが多い。
【0009】
本開示は、優れた接続信頼性を有する半導体装置を提供することを目的とする。また、本開示は、優れた接続信頼性を有する半導体装置を製造するのに有用な熱硬化性樹脂組成物及びこれからなる接着層を備えるダイシングダイボンディング一体型テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、コントローラチップがフィルム状接着剤の硬化物に埋め込まれた態様のパッケージを開発するため、フィルム状接着剤の樹脂の選定と物性の調整について鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らは、フィルム状接着剤の溶融粘度が埋め込み時の回路汚染及びその後の熱工程で発生するヒケと相関があること見出した。
【0011】
本開示に係る半導体装置は、基板と、基板上に配置された第1の半導体素子と、基板における第1の半導体素子が配置された領域を覆うように配置されており、第1の半導体素子を封止している第1の封止層と、第1の封止層における基板の側と反対側の表面を覆うように配置されており、第1の半導体素子よりも大きい面積を有する第2の半導体素子とを備え、第1の封止層が熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、熱硬化性樹脂組成物の120℃における溶融粘度が2500~11500Pa・sである。
【0012】
上記半導体装置は、第1の半導体素子(例えば、コントローラチップ)が熱硬化性樹脂組成物の硬化物に埋め込まれた態様であり、動作の高速化が可能である。第1の封止層が、120℃における溶融粘度が2500~11500Pa・sである熱硬化性樹脂組成物の硬化物であることで、基板又は第1の半導体素子との界面における空隙が十分に少ないとともに、基板の汚染及びヒケの問題の発生も十分に抑制されるため、基板と第1の半導体素子との優れた接続信頼性を達成できる。
【0013】
本開示に係る半導体装置は、基板の表面に形成された回路パターンと、第1の半導体素子と回路パターンとを電気的に接続する第1のワイヤとを更に備えてもよい。本開示に係る半導体装置は、第2の半導体素子と回路パターンとを電気的に接続する第2のワイヤと、第2の半導体素子及び第2のワイヤを封止している第2の封止層とを更に備えてもよい。本開示に係る半導体装置は、第2の半導体素子の上に積層された第3の半導体素子を更に備えてもよい。
【0014】
上記フィルム状接着剤を構成する熱硬化性樹脂組成物は、分子量10~1000の低分子量成分(例えば、エポキシ樹脂)と、分子量10万~100万の高分子量成分(例えば、アクリルゴム)とを含み、低分子量成分の含有量M1が当該熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の質量100質量部に対して23~35質量部であり、高分子量成分の含有量M2が熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の質量100質量部に対して25~45質量部であることが好ましい。このような組成の熱硬化性樹脂組成物を使用することで、低分子量成分が優れた埋込性に寄与し、他方、高分子量成分が過剰な流動に起因する問題の抑制に寄与する。熱硬化性樹脂組成物は、当該熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の質量100質量部に対して低分子量成分と高分子量成分の合計量(M1+M2)が54~76質量部であることが好ましい。
【0015】
なお、熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の分子量(重量平均分子量)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて換算した値を意味する。
【0016】
基板としてその表面に回路パターンを有するものを使用する場合、本開示に係る半導体装置は、第1の半導体素子と回路パターンとを電気的に接続する第1のワイヤとを更に備えるものであってもよいし、第2の半導体素子と回路パターンとを電気的に接続する第2のワイヤと、第2の半導体素子及び第2のワイヤを封止している第2の封止層とを更に備えるものであってもよい。
【0017】
本開示に係る熱硬化性樹脂組成物は、当該熱硬化性樹脂組成物を加熱する硬化処理を経て、ワイヤの少なくとも一部及び半導体素子の少なくとも一方が硬化処理後の熱硬化性樹脂組成物に埋め込まれた状態とする工程を含む半導体装置の製造プロセスにおいて使用されるものであって、熱硬化性樹脂組成物の120℃における溶融粘度が2500~11500Pa・sである。上記熱硬化性樹脂組成物によれば、半導体素子等を埋め込み可能な流動性を有するとともに、埋め込み時の周辺回路の汚染及びその後の熱工程(熱硬化性樹脂組成物の熱硬化処理)における樹脂の過剰な流動に起因する問題を十分に抑制できる。
【0018】
本開示に係るダイシングダイボンディング一体型テープは、粘着層と、上記熱硬化性樹脂組成物からなる接着層とを備える。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、優れた接続信頼性を有する半導体装置が提供されるとともに、その製造において使用される熱硬化性樹脂組成物及びこれからなる接着層を備えるダイシングダイボンディング一体型テープが提供される。この熱硬化性樹脂組成物は、コントローラチップ等の半導体素子及びワイヤの少なくとも一方を埋め込み可能な優れた埋込性を有するとともに、埋め込み時の周辺回路の汚染及びその後の熱工程における樹脂の過剰な流動に起因する問題を十分に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は半導体装置の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2はフィルム状接着剤と第2の半導体素子とからなる積層体の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は
図1に示す半導体装置を製造する過程を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は
図1に示す半導体装置を製造する過程を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は
図1に示す半導体装置を製造する過程を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は
図1に示す半導体装置を製造する過程を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7(a)~
図7(e)は、フィルム状接着剤と第2の半導体素子とからなる積層体を製造する過程を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8(a)は「ヒケ」と称される現象が生じていない構造体の断面を示す写真であり、
図8(b)は「ヒケ」が生じている構造体(ヒケの深さ:140μm)の断面を示す写真である。
【
図9】
図9(a)はボイドの発生の有無を評価するための構造体を模式的に示す断面図であり、
図9(b)はボイドが発生していない構造体の写真であり、
図9(c)はボイドが発生している構造体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。なお、本明細書における「(メタ)アクリル」の記載は、「アクリル」及びそれに対応する「メタクリル」を意味する。
【0022】
<半導体装置>
図1は本実施形態に係る半導体装置を模式的に示す断面図である。この図に示す半導体装置100は、基板10と、基板10の表面上に配置された第1の半導体素子Waと、第1の半導体素子Waを封止している第1の封止層20と、第1の半導体素子Waの上方に配置された第2の半導体素子Wbと、第2の半導体素子Wbを封止している第2の封止層40とを備える。
【0023】
基板10は、表面に回路パターン10a,10bを有する。半導体装置100の反りを抑制する観点から、基板10の厚さは、例えば、90~180μmであり、90~140μmであってもよい。なお、基板10は有機基板であっても、リードフレーム等の金属基板であってもよい。
【0024】
本実施形態において、第1の半導体素子Waは半導体装置100を駆動するためのコントローラチップである。第1の半導体素子Waは、回路パターン10a上に接着剤15を介して接着されており、また、第1のワイヤ11を介して回路パターン10bに接続されている。平面視における第1の半導体素子Waの形状は、例えば矩形(正方形又は長方形)である。第1の半導体素子Waの一辺の長さは、例えば、5mm以下であり、2~4mm又は1~4mmであってもよい。第1の半導体素子Waの厚さは、例えば、10~150μmであり、20~100μmであってもよい。
【0025】
第2の半導体素子Wbは、第1の半導体素子Waよりも大きい面積を有する。第2の半導体素子Wbは、第1の半導体素子Waの全体と回路パターン10bの一部とが覆われるように第1の封止層20を介して基板10上に搭載されている。平面視における第2の半導体素子Wbの形状は、例えば矩形(正方形又は長方形)である。第2の半導体素子Wbの一辺の長さは、例えば、20mm以下であり、4~20mm又は4~12mmであってもよい。第2の半導体素子Wbの厚さは、例えば、10~170μmであり、20~120μmであってもよい。第2の半導体素子Wbは、第2のワイヤ12を介して回路パターン10bに接続されるとともに封止層25により封止されている。
【0026】
第1の封止層20はフィルム状接着剤20P(
図2参照)の硬化物からなる。なお、
図2に示すとおり、フィルム状接着剤20Pと第2の半導体素子Wbは実質的に同じサイズである。
図2に示す積層体30は、フィルム状接着剤20Pと第2の半導体素子Wbとからなり、接着剤付き半導体チップとも称される。積層体30は、後述のとおり、ダイシング工程及びピックアップ工程を経ることによって作製される(
図7参照)。
【0027】
<半導体装置の製造方法>
半導体装置100の製造方法について説明する。まず、
図3に示す構造体50を作製する。すなわち、基板10の表面上に接着剤15を介して第1の半導体素子Waを配置する。その後、第1の半導体素子Waと回路パターン10bとを第1のワイヤ11で電気的に接続する。
【0028】
次に、
図3及び
図4に示すように、別途準備した積層体30のフィルム状接着剤20Pを基板10に対して押圧する。これによって、第1の半導体素子Wa及び第1のワイヤ11をフィルム状接着剤20Pに埋め込む。フィルム状接着剤20Pの厚さは、第1の半導体素子Waの厚さ等に応じて適宜設定すればよく、例えば、20~200μmの範囲であればよく、30~200μm又は40~150μmであってもよい。フィルム状接着剤20Pの厚さを上記範囲とすることで、第1の半導体素子Waと第2の半導体素子Wbの間隔(
図5における距離G)を十分に確保することができる。距離Gは、例えば50μm以上であることが好ましく、50~75μm又は50~80μmであってもよい。
【0029】
フィルム状接着剤20Pの基板10に対して圧着は、例えば、80~180℃、0.01~0.50MPaの条件で、0.5~3.0秒間にわたって実施することが好ましい。
【0030】
次に、加熱によってフィルム状接着剤20Pを硬化させる。この硬化処理は、例えば、60~175℃、0.01~1.0MPaの条件で、5分間以上にわたって実施することが好ましい。これにより、フィルム状接着剤20Pの硬化物(第1の封止層20)で第1の半導体素子Waが封止される(
図6参照)。フィルム状接着剤20Pの硬化処理は、ボイドの低減の観点から、加圧雰囲気下で実施してもよい。第2の半導体素子Wbと回路パターン10bとを第2のワイヤ12で電気的に接続した後、第2の封止層40によって第2の半導体素子Wbを封止することによって半導体装置100が完成する(
図1参照)。
【0031】
<接着剤付き半導体チップの作製方法>
図7(a)~
図7(e)を参照しながら、
図2に示す積層体30(接着剤付き半導体チップ)の作製方法の一例について説明する。まず、ダイシングダイボンディング一体型テープ8(以下、場合により「テープ8」という。)を所定の装置(不図示)に配置する。テープ8は、基材層1と粘着層2と接着層20Aとをこの順序で備える。基材層1は、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)である。半導体ウェハWは、例えば、厚さ10~100μmの薄型半導体ウェハである。半導体ウェハWは、単結晶シリコンであってもよいし、多結晶シリコン、各種セラミック、ガリウム砒素等の化合物半導体であってもよい。
【0032】
図7(a)及び
図7(b)に示すように、半導体ウェハWの一方の面に接着層20Aが接するようにテープ8を貼り付ける。この工程は、好ましくは50~100℃、より好ましくは60~80℃の温度条件下で実施する。温度が50℃以上であると、半導体ウェハWを接着層20Aとの良好な密着性を得ることができ、100℃以下であると、この工程において接着層20Aが過度に流動することが抑制される。
【0033】
図7(c)に示すように、半導体ウェハW、粘着層2及び接着層20Aをダイシングする。これにより、半導体ウェハWが個片化されて半導体素子Wbとなる。接着層20Aも個片化されてフィルム状接着剤20Pとなる。ダイシング方法としては、回転刃又はレーザを用いる方法が挙げられる。なお、半導体ウェハWのダイシングに先立って半導体ウェハWを研削することによって薄膜化してもよい。
【0034】
次に、粘着層2が例えばUV硬化型である場合、
図7(d)に示すように、粘着層2に対して紫外線を照射することにより粘着層2を硬化させ、粘着層2とフィルム状接着剤20Pとの間の粘着力を低下させる。紫外線照射後、
図7(e)に示されるように、常温又は冷却条件下において基材層1をエキスパンドすることによって半導体素子Waを互いに離間させつつ、ニードル42で突き上げることによって粘着層2から積層体30のフィルム状接着剤20Pを剥離させるとともに、積層体30を吸引コレット44で吸引してピックアップする。このようにして得られた積層体30は、
図3に示す構造体50の製造に供される。
【0035】
<熱硬化性樹脂組成物>
フィルム状接着剤20Pを構成する熱硬化性樹脂組成物について説明する。なお、フィルム状接着剤20Pは接着層20Aを個片化したものであり、両者は同じ熱硬化性樹脂組成物からなる。この熱硬化性樹脂組成物は、例えば、半硬化(Bステージ)状態を経て、その後の硬化処理によって完全硬化物(Cステージ)状態となり得るものである。
【0036】
熱硬化性樹脂組成物は以下の成分を含むことが好ましい。
(a)熱硬化性樹脂(以下、単に「(a)成分」という場合がある。)
(b)高分子量成分(以下、単に「(b)成分」という場合がある。)
(c)無機フィラー(以下、単に「(c)成分」という場合がある。)
なお、本実施形態においては、(a)熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含む場合、エポキシ樹脂(以下、単に「(a1)成分」という場合がある。)が「低分子量成分」に該当する。この場合、(a)熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤となり得るフェノール樹脂(以下、単に「(a2)成分」という場合がある。)を含むことが好ましい。
【0037】
熱硬化性樹脂組成物は以下の成分を更に含んでもよい。
(d)カップリング剤(以下、単に「(d)成分」という場合がある。)
(e)硬化促進剤(以下、単に「(e)成分」という場合がある。)
【0038】
上記熱硬化性樹脂組成物は、分子量10~1000の低分子量成分((a1)成分)と、分子量10万~100万の高分子量成分((b)成分)との両方を含むことが好ましい。これらの成分を併用することで、低分子量成分が優れた埋込性に寄与し、他方、高分子量成分が過剰な流動に起因する問題の抑制に寄与する。
【0039】
低分子量成分の含有量M1は、熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の質量100質量部に対して23~35質量部であることが好ましく、25~35質量部であることがより好ましい。低分子量成分の含有量M1が23質量部以上であることで、優れた埋込性を達成しやすく、他方、35質量部以下であることで、優れたピックアップ性を達成しやすいという効果が奏される。なお、低分子量成分の軟化点は50℃以下であることが好ましく、例えば、10~30℃であってもよい。
【0040】
高分子量成分の含有量M2は、熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の質量100質量部に対して25~45質量部であることが好ましく、30~40質量部であることがより好ましい。高分子量成分の含有量M2が25質量部以上であることで、過剰な流動に起因する問題(基板の汚染、ヒケ及び反り等)を抑制しやすく、他方、45質量部以下であることで、優れた埋込性を達成しやすいという効果が奏される。なお、高分子量成分の軟化点は50℃超100℃以下であることが好ましい。
【0041】
熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の質量100質量部に対し、低分子量成分と高分子量成分の合計量(M1+M2)は54~76質量部であることが好ましく、55~75質量部であることがより好ましい。この合計量が54質量部以上であることで、これらの成分を併用したことの効果が十分に発揮される傾向にあり、他方、76質量部以下であることで、優れたピックアップ性を達成しやすいという効果が奏される。なお、熱硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂成分であって、低分子量成分及び高分子量成分以外のものとしては、主に、分子量が1001~9万9000の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0042】
熱硬化性樹脂組成物の120℃における溶融粘度は、接続信頼性の観点から、2500~11500Pa・sである。この溶融粘度が2500Pa・s以上であることで、圧着処理時等における基板10の汚染及びヒケの問題の発生を十分に抑制することができる。例えば、第2の半導体素子Wbと基板10との間に熱硬化性樹脂組成物の硬化物が存在しない領域(ヒケ)があると、その領域に第2の封止層40用の封止材が侵入し、これによって第2の半導体素子Wbが剥離しやすくなるという不具合が生じやすい。熱硬化性樹脂組成物の120℃における溶融粘度が11500Pa・s以下であることで、基板10又は第1の半導体素子Waとの界面における空隙を十分に少なくできる。この溶融粘度は、好ましくは5000~11000Pa・sであり、より好ましくは5000~10000Pa・sであり、更に好ましくは5000~9000Pa・sである。なお、溶融粘度は、ARES(TA Instruments社製)を用いてフィルム状に成形した熱硬化性樹脂組成物に5%の歪みを与えながら5℃/分の昇温速度で昇温させながら測定した場合の測定値を意味する。
【0043】
熱硬化性樹脂組成物の100℃における溶融粘度は、接続信頼性の観点から、3500~13500Pa・sであることが好ましい。この溶融粘度が3500Pa・s以上であることで、圧着処理時等における基板10の汚染及びヒケの問題の発生を十分に抑制することができる。他方、この溶融粘度が13500Pa・s以下であることで、基板10又は第1の半導体素子Waとの界面における空隙を十分に少なくできる。この溶融粘度は、好ましくは5500~10500Pa・sである。熱硬化性樹脂組成物の100℃及び120℃における溶融粘度を上記範囲内とするには、(a)熱硬化性樹脂、(b)高分子量成分及び(c)無機フィラーの量を適宜調整すればよい。
【0044】
図9(a)は透明な基板10と、その上の第1の半導体素子Waと、第1の封止層20(フィルム状接着剤20Pの硬化物)と、その上の第2の半導体素子Wbとを備える構造体である。
図9(b)及び
図9(c)は透明な基板10の裏面側(
図9(a)における矢印の方向)から撮影した写真である。
図9(b)に示す構造体においては、フィルム状接着剤の埋込性が十分であり、ボイドが発生していない。これに対し、
図9(c)に示す構造体においては、フィルム状接着剤の埋込性が不十分であり、ボイドVが発生している。
【0045】
熱硬化性樹脂組成物の硬化物(Cステージ)の180℃における貯蔵弾性率は、接続信頼性の観点から、10MPa以上であることが好ましく、25MPa以上であることがより好ましく、50MPa以上又は100MPa以上であってもよい。なお、この貯蔵弾性率の上限値は、例えば、600MPaであり、500MPaであってもよい。熱硬化性樹脂組成物の硬化物の180℃における貯蔵弾性率は、フィルム状接着剤を175℃の温度条件で硬化させたものを試料とし、動的粘弾性装置を使用して測定することができる。
【0046】
<(a)熱硬化性樹脂>
(a1)成分は、分子内にエポキシ基を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。(a1)成分としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリアジン骨格含有エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、トリフェノールフェノールメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、多官能フェノール類、アントラセン等の多環芳香族類のジグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(a1)成分は、耐熱性の観点から、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、又はビスフェノールA型エポキシ樹脂であってもよい。
【0047】
(a1)成分のエポキシ当量は、90~300g/eq、110~290g/eq、又は130~280g/eqであってよい。(a1)成分のエポキシ当量がこのような範囲にあると、フィルム状接着剤のバルク強度を維持しつつ、流動性を確保することができる傾向にある。
【0048】
(a1)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、5~50質量部、10~40質量部、又は20~30質量部であってよい。(a1)成分の含有量が5質量部以上であると、フィルム状接着剤の埋込性がより良好となる傾向にある。(a1)成分の含有量が50質量部以下であると、ブリードの発生をより抑制できる傾向にある。
【0049】
(a2)成分は、分子内にフェノール性水酸基を有するものであれば特に制限なく用いることができる。(a2)成分としては、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化ナフタレンジオール、フェノールノボラック、フェノール等のフェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂などが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(a2)成分は、吸湿性及び耐熱性の観点から、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、又はノボラック型フェノール樹脂であってもよい。
【0050】
(a2)成分の水酸基当量は、80~250g/eq、90~200g/eq、又は100~180g/eqであってよい。(a2)成分の水酸基当量がこのような範囲にあると、フィルム状接着剤の流動性を保ちつつ、接着力をより高く維持することができる傾向にある。
【0051】
(a2)成分の軟化点は、50~140℃、55~120℃、又は60~100℃であってよい。
【0052】
(a2)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、5~50質量部、10~40質量部、又は20~30質量部であってよい。(a2)成分の含有量が5質量部以上であると、より良好な硬化性が得られる傾向にある。(a2)成分の含有量が50質量部以下であると、フィルム状接着剤の埋込性がより良好になる傾向にある。
【0053】
(a1)成分のエポキシ当量と(a2)成分の水酸基当量との比((a1)成分のエポキシ当量/(a2)成分の水酸基当量)は、硬化性の観点から、0.30/0.70~0.70/0.30、0.35/0.65~0.65/0.35、0.40/0.60~0.60/0.40、又は0.45/0.55~0.55/0.45であってよい。当該当量比が0.30/0.70以上であると、より充分な硬化性が得られる傾向にある。当該当量比が0.70/0.30以下であると、粘度が高くなり過ぎることを防ぐことができ、より充分な流動性を得ることができる。
【0054】
<(b)高分子量成分>
(b)成分は、ガラス転移温度(Tg)が50℃以下であるものが好ましい。
【0055】
(b)成分としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル樹脂及びこれらの変性体等が挙げられる。
【0056】
(b)成分は、流動性の観点から、アクリル樹脂を含んでいてもよい。ここで、アクリル樹脂とは、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含むポリマーを意味する。アクリル樹脂は、構成単位として、エポキシ基、アルコール性又はフェノール性水酸基、カルボキシル基等の架橋性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含むポリマーであることが好ましい。また、アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルとアクリルニトリルとの共重合体等のアクリルゴムであってもよい。
【0057】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-50~50℃又は-30~30℃であってよい。アクリル樹脂のTgが-50℃以上であると、接着剤組成物の柔軟性が高くなり過ぎることを防ぐことができる傾向にある。これにより、ウェハダイシング時にフィルム状接着剤を切断し易くなり、バリの発生を防ぐことが可能となる。アクリル樹脂のTgが50℃以下であると、接着剤組成物の柔軟性の低下を抑えることができる傾向にある。これにより、フィルム状接着剤をウェハに貼り付ける際に、ボイドを充分に埋め込み易くなる傾向にある。また、ウェハの密着性の低下によるダイシング時のチッピングを防ぐことが可能となる。ここで、ガラス転移温度(Tg)は、DSC(熱示差走査熱量計)(例えば、株式会社リガク製「Thermo Plus 2」)を用いて測定した値を意味する。
【0058】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10万~300万又は50万~200万であってよい。アクリル樹脂のMwがこのような範囲にあると、フィルム形成性、フィルム状における強度、可撓性、タック性等を適切に制御することができると共に、リフロー性に優れ、埋込性を向上することができる。ここで、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて換算した値を意味する。
【0059】
アクリル樹脂の市販品としては、例えば、SG-70L、SG-708-6、WS-023 EK30、SG-280 EK23、HTR-860P-3CSP、HTR-860P-3CSP-3DB(いずれもナガセケムテックス株式会社製)が挙げられる。
【0060】
(b)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、5~70質量部、10~50質量部、又は15~30質量部であってよい。(b)成分の含有量が5質量部以上であると、成形時の流動性の制御及び高温での取り扱い性をより一層良好にすることができる。(b)成分の含有量が70質量部以下であると、埋込性をより一層良好にすることができる。
【0061】
<(c)無機フィラー>
(c)成分としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミウィスカ、窒化ホウ素、シリカ等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(c)成分は、樹脂との相溶性の観点から、シリカであってもよい。
【0062】
(c)成分の平均粒径は、接着性の向上の観点から、0.005~1μm又は0.05~0.5μmであってよい。ここで、平均粒径は、BET比表面積から換算することによって求められる値を意味する。
【0063】
(c)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、5~50質量部、15~45質量部、又は25~40質量部であってよい。(c)成分の含有量が5質量部以上であると、フィルム状接着剤の流動性がより向上する傾向にある。(c)成分の含有量が50質量部以下であると、フィルム状接着剤のダイシング性がより良好となる傾向にある。
【0064】
<(d)カップリング剤>
(d)成分は、シランカップリング剤であってよい。シランカップリング剤としては、例えば、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
(d)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、0.01~5質量部であってよい。
【0066】
<(e)硬化促進剤>
(e)成分は、特に限定されず、一般に使用されるものを用いることができる。(e)成分としては、例えば、イミダゾール類及びその誘導体、有機リン系化合物、第二級アミン類、第三級アミン類、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、反応性の観点から(e)成分はイミダゾール類及びその誘導体であってもよい。
【0067】
イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
(e)成分の含有量は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の総質量100質量部に対して、0.01~1質量部であってよい。
【0069】
[ダイシングダイボンディング一体型テープ及びその製造方法]
図7(a)に示すダイシングダイボンディング一体型テープ8及びその製造方法について説明する。テープ8の製造方法は、溶剤を含有する接着剤組成物のワニスを基材フィルム(不図示)上に塗布する工程と、塗布されたワニスを50~150℃で加熱乾燥することによって接着層20Aを形成する工程とを含む。
【0070】
接着剤組成物のワニスは、例えば、(a)~(c)成分、必要に応じて(d)成分及び(e)成分を、溶剤中で混合又は混練することによって調製することができる。混合又は混練は、通常の撹拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を用い、これらを適宜組み合わせて行うことができる。
【0071】
ワニスを作製するための溶剤は、上記各成分を均一に溶解、混練又は分散できるものであれば制限はなく、従来公知のものを使用することができる。このような溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、Nメチルピロリドン、トルエン、キシレン等が挙げられる。乾燥速度が速く、価格が安い点でメチルエチルケトン、シクロヘキサノン等を使用することが好ましい。
【0072】
基材フィルムとしては、特に制限はなく、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム等)、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルナフタレートフィルム、メチルペンテンフィルム等が挙げられる。
【0073】
基材フィルムにワニスを塗布する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、カーテンコート法等が挙げられる。加熱乾燥の条件は、使用した溶剤が充分に揮散する条件であれば特に制限はないが、例えば、50~150℃で、1~30分間加熱して行うことができる。加熱乾燥は、50~150℃の範囲内の温度で段階的に昇温させて行ってもよい。ワニスに含まれる溶剤を加熱乾燥によって揮発させることによって基材フィルムと、接着層20Aとの積層フィルムを得ることができる。
【0074】
上記のようにして得た積層フィルムと、ダイシングテープ(基材層1と粘着層2の積層体)とを貼り合わせることによってテープ8を得ることができる。基材層1としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルム等が挙げられる。また、基材層1は、必要に応じて、プライマー塗布、UV処理、コロナ放電処理、研磨処理、エッチング処理等の表面処理が行われていてもよい。粘着層2は、UV硬化型であってもよいし、感圧型であってもよい。テープ8は、粘着層2を覆う保護フィルム(不図示)を更に備えたものであってもよい。
【0075】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、二つの半導体素子Wa,Wbが積層された態様のパッケージを例示したが、第2の半導体素子Wbの上方に第3の半導体素子が積層されていてもよいし、その上方に更に一つ又は複数の半導体素子が積層されていてもよい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本開示についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
(参考例1,実施例2~5及び比較例1~3)
表1及び表2に示す成分を含むワニス(計8種類)を次のようにして調製した。すなわち、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂及びフェノール樹脂と、無機フィラーとを含む組成物にシクロヘキサノンを加えて撹拌した。これに、高分子量成分としてのアクリルゴムを加えて撹拌した後、カップリング剤と硬化促進剤とを更に加え、各成分が十分に均一になるまで撹拌することによってワニスを得た。
【0078】
表1及び表2に記載の成分は以下のとおりである。
(エポキシ樹脂)
・YDF-8170C(商品名):東都化成(株)製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量159、常温で液体、軟化点10~30℃、分子量100~1000(低分子量成分)
・YDCN-700-10(商品名):東都化成(株)製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量210、軟化点75~85℃)、分子量1000超
(フェノール樹脂)
・ミレックスXLC-LL(商品名):三井化学(株)製、フェノール樹脂、水酸基当量175、軟化点77℃、分子量1000超
(アクリルゴム)
・HTR-860P-3CSP:ナガセケムテックス(株)製、重量平均分子量80万(高分子量成分)
(無機フィラー)
・SC2050-HLG(商品名):アドマテックス(株)製、シリカフィラー分散液、平均粒径0.50μm
(硬化促進剤)
・キュアゾール2PZ-CN(商品名):四国化成工業(株)製、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール
【0079】
上記成分を含むワニスを100メッシュのフィルターでろ過し、真空脱泡した。真空脱泡後のワニスを、離型処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ38μm)上に塗布した。塗布したワニスを、90℃で5分間、続いて140℃で5分間の二段階で加熱乾燥した。こうして、基材フィルムとしてのPETフィルム上に、Bステージ状態にあるフィルム状接着剤(厚さ60μm)を備えた接着シートを得た。
【0080】
(フィルム状接着剤の溶融粘度の測定)
フィルム状接着剤の100℃及び120℃における溶融粘度は次の方法で測定した。すなわち、厚さ60μmのフィルム状接着剤を五枚積層することによって厚さを300μmとし、これを10mm×10mmのサイズに打ち抜くことによって測定用の試料を得た。動的粘弾性装置ARES(TA Instruments社製)に直径8mmの円形アルミプレート治具をセットし、更にここに上記試料をセットした。その後、35℃で5%の歪みを与えながら5℃/分の昇温速度で130℃まで昇温させながら測定し、100℃及び120℃のときの溶融粘度の値を記録した。表1及び表2に結果を示す。
【0081】
(フィルム状接着剤の硬化物の弾性率の測定)
フィルム状接着剤の硬化物(175℃の温度条件で硬化させたもの)の180℃における弾性率を測定した。測定には動的粘弾性装置(製品名:Rheogel-E4000、株式会社ユービーエム製)を使用し、試料に対して引張り荷重をかけて、周波数10Hz、3℃/分の昇温速度で300℃まで昇温させ、180℃における弾性率を測定した。表1及び表2に結果を示す。
【0082】
【0083】
【0084】
<フィルム状接着剤の評価>
フィルム状接着剤について、以下の項目について評価を行った。
【0085】
[埋込性]
フィルム状接着剤の埋込性を次の方法により評価した。
(第1の半導体素子とフィルム状接着剤とからなる積層体の作製)
半導体ウェハ(直径:8インチ、厚さ:50μm)にダイシングダイボンディング一体型フィルムHR-9004-10(日立化成(株)製、接着層の厚さ10μm、粘着層の厚さ110μm)を貼り付けた。これをダイシングすることによって第1の半導体素子(コントローラチップ、サイズ:3.0mm×3.0mm)とフィルム状接着剤とからなる第1の積層体を得た。
(第2の半導体素子とフィルム状接着剤とからなる積層体の作製)
参考例、実施例及び比較例に係る各フィルム状接着剤(厚さ120μm)とダイシング用粘着フィルムとからなるダイシングダイボンディング一体型フィルムを作製した。これを半導体ウェハ(直径:8インチ、厚さ:30μm)に貼り付けた。これをダイシングすることによって第2の半導体素子(サイズ:7.5mm×7.5mm)とフィルム状接着剤とからなる第2の積層体を得た。
(第1及び第2の半導体素子の接着)
第1及び第2の半導体素子を圧着するための基板(表面の凹凸:最大6μm)を準備した。この基板にフィルム状接着剤を介して第1の半導体素子を、120℃、0.20MPa、2秒間の条件で圧着した後、120℃で2時間にわたって加熱することによってフィルム状接着剤を半硬化させた。
次に、第1の半導体素子を覆うように、評価対象のフィルム状接着剤を介して第2の半導体素子を、120℃、0.20MPa、2秒間の条件で圧着した。この際、先に圧着された第1の半導体素子と第2の半導体素子の中心位置が平面視で一致するように位置合わせをした。
上記のようにして得た構造体を加圧オーブンに投入し、35℃から3℃/分の昇温速度で140℃まで昇温させ、140℃で30分加熱した。加熱処理後の構造体を超音波映像装置SAT((株)日立パワーソリューションズ製、品番FS200II、プローブ:25MHz)にて分析することによって、埋込性を確認した。以下の基準で評価を行った。表3及び表4に結果を示す。
A:所定の断面におけるボイドの面積割合が5%未満。
B:所定の断面におけるボイドの面積割合が5%以上。
【0086】
[パッケージ汚染及びヒケ発生の有無]
埋込性の評価に供した構造体の上部及び側面を顕微鏡で観察することによって、汚染の有無及びヒケ発生の有無を確認した。ヒケが発生した試料については、ヒケの深さ(起点:第2の半導体素子の端部)を測定した。表3及び表4に結果を示す。
【0087】
[接着強度の測定]
フィルム状接着剤の硬化物のダイシェア強度(接着強度)を次の方法により測定した。まず、参考例、実施例及び比較例に係る各フィルム状接着剤(厚さ120μm)を半導体ウェハ(厚さ400μm)に70℃で貼り付けた。これをダイシングすることによって半導体素子(サイズ:5mm×5mm)とフィルム状接着剤とからなる積層体を得た。他方、表面にソルダーレジストインキ(AUS308)を塗布した基板を準備した。この表面にフィルム状接着剤を介して半導体素子を、120℃、0.1MPa、5秒間の条件で圧着した。その後、これを110℃で1時間にわたって加熱処理した後、更に、170℃で3時間にわたって加熱することによって、フィルム状接着剤を硬化させることによって測定用の試料を得た。この試料を85℃、60RH%条件の下、168時間放置した。その後、試料を25℃、50%RH条件下で30分間放置してから、250℃でダイシェア強度を測定し、これを接着強度とした。ダイシェア強度の測定にはDage社製の万能ボンドテスタ シリーズ4000を使用した。表3及び表4に結果を示す。
【0088】
[耐リフロー性の評価]
フィルム状接着剤の耐リフロー性を次の方法により評価した。まず、埋込性の評価に供した構造体と同様の構造体を作製した。構造体の第2の半導体素子をモールド用封止材(日立化成(株)製、商品名「CEL-9750ZHF10)で封止することによって、評価用のパッケージを得た。なお、樹脂封止の条件は175℃/6.7MPa/90秒とし、硬化の条件は175℃、5時間とした。
上記パッケージを24個準備し、これらをJEDECで定めた環境下(レベル3、30℃、60RH%、192時間)に曝して吸湿させた。続いて、IRリフロー炉(260℃、最高温度265℃)に吸湿後のパッケージを3回通過させた。以下の基準で評価を行った。表3及び表4に結果を示す。
A:パッケージの破損、厚みの変化、フィルム状接着剤と半導体素子との界面での剥離等が24個のパッケージのうち1個も観察されなかった。
B:パッケージの破損、厚みの変化、フィルム状接着剤と半導体素子との界面での剥離等が24個のパッケージのうち少なくとも1個観察された。
【0089】
【0090】
【0091】
表3及び表4に示した結果から明らかなように、参考例1及び実施例2~5のフィルム状接着剤は、比較例1~3のフィルム状接着剤と比較して、加圧オーブンによる処理後において、埋込性に優れるとともにパッケージ汚染及びヒケの発生を抑えることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示によれば、コントローラチップ等の半導体素子及びワイヤの少なくとも一方を埋め込み可能な流動性を有しつつ、埋め込み時の周辺回路の汚染、その後の熱工程における樹脂の過剰な流動に起因する問題を十分に抑制できる熱硬化性樹脂組成物並びにこれを用いて製造される半導体装置及びその製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0093】
2…粘着層、8…ダイシングダイボンディング一体型テープ、10…基板、11…第1のワイヤ、12…第2のワイヤ、10a,10b…回路パターン、20…第1の封止層(フィルム状接着剤の硬化物)、20A…接着層、20P…フィルム状接着剤、40…第2の封止層、100…半導体装置、Wa…第1の半導体素子、Wb…第2の半導体素子