(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】熱板融着用メタクリル系樹脂組成物、及び熱板融着への使用及び融着方法
(51)【国際特許分類】
C08L 33/04 20060101AFI20220906BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20220906BHJP
C08F 220/04 20060101ALI20220906BHJP
C08F 220/08 20060101ALI20220906BHJP
B29C 65/20 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C08L33/04
C08K5/09
C08F220/04
C08F220/08
B29C65/20
(21)【出願番号】P 2021036914
(22)【出願日】2021-03-09
【審査請求日】2021-10-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】今岡 笙太郎
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-168683(JP,A)
【文献】特開2018-162406(JP,A)
【文献】特開2009-249529(JP,A)
【文献】特開2011-168647(JP,A)
【文献】特開2003-013037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/04
C08K 5/09
C08F 220/04
C08F 220/08
B29C 65/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位
を70質量%以上含む(メタ)アクリル系重合体、及び脂肪酸を含
み、
前記(メタ)アクリル系重合体が、(メタ)アクリル酸エステル単量体(ただし、メタクリル酸メチルを除く。)をさらに含む重合体であり、
前記脂肪酸の含有量が、前記(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して、0.01質量部以上1.0質量部以下である、熱板融着用メタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸は、
昇温速度10℃/分で40℃から500℃まで昇温したときの10%重量減少温度が250℃以下である、請求項1に記載の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸は、融点が50℃以上である、請求項1又は2に記載の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸が、分子内にカルボキシル基を少なくとも1個有する鎖状炭化水素化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸が、分子量100以上500以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸が、ステアリン酸、パルミチン酸、及びミリスチン酸から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル系重合体中のメタクリル酸メチル由来の繰り返し単位の含有割合が70質量%以上である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル系重合体が、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の繰り返し単位と環構造由来の構造単位を含む重合体(A)であり、
前記環構造由来の構造単位が、グルタル酸無水物構造単位、マレイン酸無水物構造単位、グルタルイミド構造単位、ラクトン環構造単位、及びN-置換マレイミド構造単位から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物。
【請求項9】
前記重合体(A)が、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位(A1)、(メタ)アクリル酸由来の繰り返し単位(A2)及びグルタル酸無水物構造単位(A3)を含む、請求項
8に記載の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物。
【請求項10】
車両用部材の原材料として用いられる、請求項1~
9のいずれか一項に記載の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物。
【請求項11】
車両用部材が、テールランプカバー、ヘッドランプカバー及びメーターパネルから選ばれる少なくとも1種である請求項
10に記載の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物の熱板融着への使用。
【請求項13】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物から形成された第1の部材の少なくとも一部を熱板に接触させて溶融させる工程と、
前記第1の部材を前記熱板から引き離し、第2の部材と圧着する工程と、
を備える、融着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱板融着用メタクリル系樹脂組成物、熱板融着への使用及び融着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂は、その優れた外観、透明性、耐候性、耐薬品性等から、テールランプカバーや、ヘッドランプカバー、メーターパネルといった車両の内外装材料等の車両用部材;建築部材;洗面化粧台、浴槽、水洗便器等の住宅設備向け部材等、多くの用途に用いられている。
メタクリル系樹脂を前記用途に用いる場合、かかる部材は、これにMS樹脂やABS樹脂等のようなスチレン系樹脂や、ポリカーボネート系樹脂等のメタクリル系樹脂以外の樹脂からなる部材と接合され、加工される。これらの部材を接合する方法として、熱板融着法が知られている(特許文献1~4)。
熱板融着法とは、上述した各部材の接合面をそれぞれ金属製の熱板に密着させることにより加熱、溶融し、熱板を退避させた後、樹脂が冷えて固まるまでに、これらを他の部材と溶着(圧着)して接合する方法であり、高い溶着強度が得られる。また、熱板融着法は、大きな部品のどうしを溶着することが可能であり、接着剤を塗布する手間や接着剤を硬化させる時間を省くことができる等の利点があることから、生産性に優れた方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-239823号公報
【文献】特開2009-249528号公報
【文献】WO2009-125766号公報
【文献】特開2009-249529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱板融着法では、熱板温度を高くすることで、各部材の接合部分を短時間で溶融させることができる。しかし、熱板温度が高すぎると、各部材を熱板から引き離す際に、樹脂の一部が熱板からうまくはがれず、糸状に引き伸ばされる現象(いわゆる糸曳き)が見られることがあり、製品外観が損なわれてしまう。そこで、部材の接合部分を溶融させることができ、且つ、部材を熱板から引き離す際に、接合部分に糸曳きが発生しない程度に、熱板温度を低くする方法が用いられている。
しかしながら、特許文献1~4に開示されているメタクリル系樹脂組成物は、熱板で溶融した後、熱板から引き離す際に、樹脂の一部が熱板からうまく剥離されず、糸曳きを生じたり、射出成形時に金型から成形体を引き離す際に、金型の表面に樹脂が残る現象(いわゆる剥離残渣)が見られることがある。このような場合、部材の接合面が荒れてしまうことで製品外観が損なわれたり、熱板融着の熱板表面や、射出成形の金型表面の不要な洗浄作業が必要となるという課題があった。
【0005】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。すなわち、本発明の目的は、射出成形時に金型表面に樹脂組成物の剥離残渣が生じにくく、熱板融着時に熱板から樹脂組成物を引き離す際に糸曳きを生じにくい、すなわち、射出成形と熱板融着に好適な、熱板融着用メタクリル系樹脂組成物を提供することにある。
また、本発明は、前記熱板融着用メタクリル系樹脂組成物の熱板融着への使用及び融着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため検討を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち、本発明の第一の要旨は、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を主成分とする(メタ)アクリル系重合体、及び脂肪酸を含む、熱板融着用メタクリル系樹脂組成物にある。
本発明の第二の要旨は、前記熱板融着用メタクリル系樹脂組成物の熱板融着への使用にある。
本発明の第三の要旨は、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を主成分とする(メタ)アクリル系重合体と、脂肪酸とを含む熱板融着用メタクリル系樹脂組成物から形成された第1の部材の少なくとも一部を熱板に接触させて溶融させる工程と、前記第1の部材を前記熱板から引き離し、第2の部材と圧着する工程と、を備える、融着方法にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱板融着時に熱板から樹脂組成物を引き離す際に糸曳きを生じにくく、また、射出成形時に金型表面に樹脂組成物の剥離残渣が生じにくい、すなわち、射出成形と熱板融着に好適な、熱板融着用メタクリル系樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る熱板融着方法を示す工程図である。
【
図2】(a)離型性の評価に用いた円盤状の成形品を側面からみた模式図である。(b)離型性の評価に用いた円盤状の成形品を上面からみた模式図である。
【
図3】糸曳き性の評価に用いた円錐状の試験片を側面からみた模式図である。
【
図4】糸引き性の試験において、円錐状の試験片が糸を引いている状態を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」から選ばれる少なくとも1種を意味し、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を意味し、「(メタ)アクリル樹脂」は、「アクリル樹脂」及び「メタクリル樹脂」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
本発明において、「単量体」は未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は単量体が重合することによって形成された前記単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換されたものであってもよい。
本発明において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる所定の成分の含有割合を示す。
本明細書において、「得られた樹脂成形体」は、本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物を成形してなる成形体を意味する。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<熱板融着用メタクリル系樹脂組成物>
本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物(以下、適宜「メタクリル系樹脂組成物」という。)は、後述する(メタ)アクリル系重合体及び後述する脂肪酸を含む樹脂組成物である。
本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物は、熱板融着に使用した場合に、部材の接合部分を溶融させることができ、部材を熱板から引き離す際に接合部分に糸曳きが生じにくく、熱板融着用の材料として優れている。
さらに、本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物は、射出成形に使用した場合に、金型からの離型性に優れている。
【0012】
本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、特に限定されるものではないが、好ましくは、ISO 1133-1:2011に準じ、温度230℃、荷重3.8kgの条件で測定したMFRが、0.1~10g/10minの範囲内にあることが好ましいで。0.2~5.0g/10min以下がより好ましく、0.3~2.0g/10min以下がさらに好ましい。
前記MFRが10g/10min以下であることより、熱板融着法におけるメタクリル系樹脂組成物の溶融時に気泡等の発生が効果的に抑制される。前記MFRが0.1g/10min以上であることにより、メタクリル系樹脂組成物の成形性が良好となる。
【0013】
前記MFRを0.1~10g/10minに制御するためには、上述したような単量体単位の組成比を制御することや、前記(メタ)アクリル系重合体の質量平均分子量を調整する方法等が有効である。
【0014】
<(メタ)アクリル系重合体>
(メタ)アクリル系重合体は、本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物の構成成分の1つである。
本発明における(メタ)アクリル系重合体は、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位(以下、「メタクリル酸メチル単位」という。)を主成分とする重合体である。
本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物は、前記(メタ)アクリル重合体を含有することにより、得られた樹脂成形体の透明性が向上するとともに、樹脂成形体の熱分解が抑制され、耐候性、成形性を良好にすることができる。
なお、本明細書において、「メタクリル酸メチル単位を主成分とする」とは、(メタ)アクリル系重合体の総質量100%に対して、メタクリル酸メチル単位を70質量%以上含むことを言う。
【0015】
前記(メタ)アクリル系重合体の一実施形態としては、前記(メタ)アクリル系重合体中のメタクリル酸メチル単位の含有割合が、該(メタ)アクリル系重合体の総質量100%に対して、70質量%以上である重合体を挙げることができる。前記(メタ)アクリル系重合体として、具体的には、メタクリル酸メチルの単独重合体、又は、メタクリル酸メチル単位70質量%以上100質量%未満、及びメタクリル酸メチル以外の単量体由来の繰り返し単位(以下、「他の単量体単位」という。)0質量%を超えて30質量%以下を含む共重合体を挙げることができる。
【0016】
前記他の単量体単位に用いられる「他の単量体」としては、メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体であれば、特に限定されるものではなく、一分子内にラジカル重合可能な二重結合を1つ有する単官能単量体であってもよいし、一分子内にラジカル重合可能な二重結合を2つ以上有する多官能単量体であってもよい。中でも、(メタ)アクリル系重合体の流動性、成形性及び熱分解性のバランスに優れる観点から、アクリル酸エステルが好ましい。
【0017】
前記他の単量体として、アクリル酸エステルを使用する場合、前記(メタ)アクリル系重合体が、該(メタ)アクリル系重合体の総質量100%に対して、メタクリル酸メチル単位70質量%以上100質量%未満及び前記他の単量体0質量%を超えて30質量%以下を含有することが好ましく、メタクリル酸メチル単位80質量%以上99.9質量%以下及び他の単量体単位0.1質量%以上20質量%以下を含有することがより好ましく、メタクリル酸メチル単位90質量%以上99.5質量%以下及び他の単量体単位0.5質量%以上10質量%以下を含有することがさらに好ましい。
【0018】
前記アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。これらのアクリル酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアクリル酸エステルの中でも、アクリル酸メチル又はアクリル酸エチルが好ましい。
【0019】
或いは又、前記(メタ)アクリル系重合体の別の実施形態としては、主鎖に、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の繰り返し単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」と略する。)と環構造由来の構造単位(以下、「環構造単位」と略する。)を含む重合体(A)を挙げることができる。
前記環構造単位としては、例えば、グルタル酸無水物構造単位、マレイン酸無水物構造単位、グルタルイミド構造単位、ラクトン環構造単位、及びN-置換マレイミド構造単位から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0020】
前記重合体(A)中の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合の下限値は、特に限定されないが、得られた樹脂成形体が、透明性に優れ、加工性、機械的特性に優れるというアクリル樹脂本来の性能を損なわない観点から、前記重合体(A)に含まれる繰り返し単位の総モル数に対して、80.0mol%が好ましく、90.0mol%がより好ましく、94.0mol%がさらに好ましい。一方、(メタ)アクリル系重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有割合の上限値は、特に限定されないが、得られた樹脂成形体の耐熱性に優れる観点から、99.999mol%が好ましく、99.9mol%が好ましく、99.5mol%がより好ましい。上記の好ましい上限値及び好ましい下限値は任意に組み合わせることができる。
【0021】
前記重合体(A)中の環構造単位の含有割合の下限値は、特に限定されないが、得られた樹脂成形体が耐熱性に優れる観点から、前記重合体(A)に含まれる繰り返し単位の総モル数に対して、0.001mol%が好ましく、0.01mol%がより好ましく、0.05mol%がさらに好ましい。(メタ)アクリル系重合体中の環構造単位の含有割合の上限値は、特に限定されないが、得られた樹脂成形体が耐熱性に優れる観点から、10.0mol%が好ましく、成形着色の抑制、成形外観、及び耐候性に優れる観点から、3.0mol%がより好ましく、0.3mol%がさらに好ましい。
上記の好ましい上限値及び好ましい下限値は任意に組み合わせることができる。
【0022】
前記(メタ)アクリル酸エステル単位としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、iso-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリル酸などの単量体に由来する構成単位である。これらの構成単位は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。得られた樹脂成形体の熱安定性が向上する観点から、メタクリル酸メチル単位が好ましい。
【0023】
前記(メタ)アクリル酸エステル単位は、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位(以下、「カルボン酸基を有する単量体単位」と略する。)を含むことができる。カルボン酸基を有する単量体単位は、環化反応により環構造単位を形成するので、(メタ)アクリル系重合体の主鎖中に環構造単位を導入できる。したがって、(メタ)アクリル系重合体に、未反応のカルボン酸基を有する単量体単位が含まれていてもよい。カルボン酸基を有する単量体は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。これらの他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記重合体(A)の一態様としては、前記(メタ)アクリル酸エステル単位として、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位(A1)(以下、「単位(A1)」と略する。)及び(メタ)アクリル酸由来の繰り返し単位(A2)(以下、「単位(A2)」と略する。)、並びに、前記環構造単位としてグルタル酸無水物構造単位(A3)(以下、「単位(A3)」と略する。)を含む重合体が挙げられる。
【0025】
前記単位(A3)は、以下の化学構造式で示される構造単位である。
【0026】
【化1】
[式中、R
A及びR
Bは、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を示す。]
【0027】
前記重合体(A)が単位(A3)を含むことにより、得られた樹脂成形体の耐熱性を向上できる。
【0028】
前記重合体(A)中の単位(A1)の含有割合の下限値は、特に限定されないが、得られた樹脂成形体が、透明性に優れ、加工性、機械的特性に優れるというアクリル樹脂本来の性能を損なわない観点から、重合体(A)に含まれる繰り返し単位の総モル数(100mol%)に対して、80.0mol%が好ましく、90.0mol%がより好ましく、94.0mol%がさらに好ましい。前記重合体(A)中の単位(A1)の含有割合の上限値は、特に限定されないが、得られた樹脂成形体の耐熱性に優れる観点から、99.499mol%が好ましく、99.0mol%がより好ましく、98.0mol%がさらに好ましい。
上記の好ましい上限値及び好ましい下限値は任意に組み合わせることができる。
【0029】
前記単位(A2)を構成する(メタ)アクリル酸は、アクリル酸、メタクリル酸、又はそれらの混合物をいう。得られた樹脂成形体の耐熱性に優れることから、メタクリル酸が好ましい。
【0030】
前記重合体(A)中の単位(A2)の含有割合の下限値は、得られた樹脂成形体の耐熱性、機械特性に優れる観点から、重合体(A)に含まれる繰り返し単位の総モル数に対して、0.5mol%が好ましく、1.0mol%がより好ましく、2.0mol%がさらに好ましい。重合体(A)中の単位(A2)の含有割合の上限値は、得られた樹脂成形体の成形外観、低吸水性、及び成形性に優れるというアクリル樹脂本来の性能を損なわない観点から、20.0mol%が好ましく、7.0mol%がより好ましく、3.5mol%がさらに好ましい。
上記の好ましい上限値及び好ましい下限値は任意に組み合わせることができる。
【0031】
重合体(A)中の単位(A3)の含有割合の下限値は、得られた樹脂成形体が耐熱性に優れる観点から、重合体(A)に含まれる繰り返し単位の総モル数に対して、0.001mol%が好ましく、0.01mol%がより好ましく、0.05mol%がさらに好ましい。重合体(A)中の単位(A3)の含有割合の上限値は、得られた樹脂成形体の成形着色の抑制、成形外観、及び耐候性に優れる観点から、10.0mol%が好ましく、3.0mol%がより好ましく、0.3mol%がさらに好ましい。
上記の好ましい上限値及び好ましい下限値は任意に組み合わせることができる。たとえば、重合体(A)中の単位(A3)の含有割合は、重合体(A)に含まれる繰り返し単位の総モル数に対して、0.001mol%以上10.0mol%以下であり、0.01mol%以上2.0mol%以下が好ましく、0.3mol%以上0.15mol%以下がより好ましい。
【0032】
前記単位(A3)は、メタクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸を共重合させた共重合体において、単位(A1)に由来するメトキシカルボニル基と、該単位(A1)に隣接する単位(A2)に由来するカルボキシル基との環化反応により構築された単位であってもよい。
【0033】
なお、本明細書において、単位(A1)、単位(A2)及び単位(A3)を含む重合体中の各単位の含有率は、1H-NMR測定から算出した値とする。具体的には、WO2019/013186号公報に開示された方法を用いることができる。
【0034】
また、単位(A1)、単位(A2)及び単位(A3)を含む重合体を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、WO2017-022393号公報や、WO2019/013186号公報に開示された製造方法を用いることができる。
【0035】
前記(メタ)アクリル系重合体の質量平均分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、50,000以上150,000以下とすることができる。70,000以上130,000以下が好ましい。前記(メタ)アクリル系重合体の質量平均分子量が50,000以上であると、得られた樹脂成形体の機械特性に優れる。また、前記(メタ)アクリル系重合体の質量平均分子量が150,000以下であると、熱板融着用メタクリル系樹脂組成物の流動性に優れる。
なお、本明細書において、質量平均分子量は、標準試料として標準ポリスチレンを用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値とする。
前記(メタ)アクリル系重合体の質量平均分子量を制御するためには、単量体混合物の重合において連鎖移動剤の量を調整することが好ましい。
【0036】
前記(メタ)アクリル系重合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法が挙げられる。これらの重合方法の中でも、生産性に優れる観点から、塊状重合法、懸濁重合法が好ましい。
【0037】
<脂肪酸>
脂肪酸は、本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物の構成成分の1つである。
本発明における脂肪酸は、射出成形時に金型からの離型性を良好なものとし、金型表面に樹脂組成物の剥離残渣が生じにくく、また、熱板融着時に熱板から樹脂組成物を引き離す際に糸曳きを生じにくくするために添加する成分である。すなわち、本発明における脂肪酸は、樹脂組成物の、射出成形の金型からの離型性に優れたものとし、さらに、熱板融着時の離型性を優れたものとするための成分である。
【0038】
本発明における脂肪酸は、分子内にカルボキシル基を少なくとも1個有する鎖状炭化水素化合物が挙げられる。分子内にカルボキシル基を少なくとも1個有する鎖状炭化水素化合物とは、カルボキシル基が結合する炭素原子が炭素鎖の構成原子となっている化合物を意味する。分子内にカルボキシル基を少なくとも1個有する鎖状炭化水素化合物中の炭素鎖は、飽和であっても不飽和であってもよく、また、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。
前記脂肪酸の中でもカルボキシル基を1個有する鎖状炭化水素化合物が好ましい。カルボキシル基が1個であると、溶融混練や溶融成形の際に、(メタ)アクリル系重合体の反応性官能基との架橋反応による高分子量化が起こらず、流動性が低下しない。
【0039】
さらに、前記脂肪酸の10%重量減少温度及び/又は融点を選択することで、本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物を、射出成形するときの金型からの剥離性、又は得られた樹脂成形体を熱板融着するときの熱板からの離型性をより良好にできる。
【0040】
脂肪酸の10%重量減少温度の上限は、射出成形時の金型からの剥離性や、得られた樹脂成形体の熱板融着時の熱板からの剥離性がより良好となる観点から、250℃以下が好ましい。この理由については定かではないが、10%重量減少温度が250℃以下であれば、熱板融着時に、樹脂成形体に含まれる脂肪酸が溶融部に局在化して糸曳きが生じにくくなり、また、射出成形時に、メタクリル系樹脂組成物に含まれる脂肪酸は、金型内で揮発しやすくなり、その結果、後から金型内に注入されたメタクリル系樹脂組成物に、金型表面に付着して液化又は凝縮した脂肪酸が拡散、移行することで、最終的に得られた樹脂成形体の表面及び表面の近傍に、脂肪酸が高い含有割合で存在するためと推察している。脂肪酸の10%重量減少温度は240℃以下がより好ましく、230℃以下がさらに好ましい。
一方、脂肪酸の10%重量減少温度の下限は、射出成形時の金型からの剥離性や、得られた樹脂成形体の熱板融着時の熱板からの剥離性がより良好となる観点から、150℃以上が好ましい。この理由については定かではないが、10%重量減少温度が150℃以上であれば、熱板融着時に前記脂肪酸が樹脂成形体から過剰に揮発して、熱板離型性が低下してしまうことが抑制され、また、射出成形時には、金型内で揮発した前記脂肪酸が、金型表面に付着して液化又は凝縮しやすくなり、その結果、前記金型のガスベントからガスとして排出される脂肪酸の量が少なくなることが抑制され、得られた樹脂成形体の表面及び表面の近傍に脂肪酸が高い含有割合で存在できるためと推察している。脂肪酸の10%重量減少温度は170℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。
上記の脂肪酸の10%重量減少温度の好ましい上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、脂肪酸の10%重量減少温度は150℃以上250℃以下が好ましく、170℃以上240℃以下がより好ましく、200℃以上230℃以下がさらに好ましい。
【0041】
脂肪酸の融点の下限は、射出成形時の金型からの剥離性がより良好となり、さらに、得られた樹脂成形体の熱板融着時の熱板からの剥離性がより良好となる観点から、50℃以上が好ましい。この理由については定かではないが、脂肪酸の融点が50℃以上であれば、熱板融着時にメタクリル系樹脂組成物の粘度低下を抑制できるので、糸曳きが生じにくくなり、また、メタクリル系樹脂組成物に含まれる脂肪酸が、射出成形時に樹脂が金型に充填される際、溶融樹脂内で拡散しやすくなり、その結果、後から金型内に注入されたメタクリル系樹脂組成物に、金型表面に付着して液化又は凝縮した脂肪酸が拡散、移行することで、最終的に得られた樹脂成形体の表面及び表面の近傍に、脂肪酸が高い含有割合で存在するためと推察している。脂肪酸の融点は55℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。
一方、脂肪酸の融点の上限は、得られた樹脂成形体の熱板からの剥離性がより良好となる観点から、100℃以下が好ましい。この理由については定かではないが、脂肪酸の融点が100℃以下であれば、熱板融着時に樹脂成形体中の脂肪酸が有する糸曳き抑制の効果が得られやすくなり、また、射出成形時に金型内で揮発した前記脂肪酸が、金型表面で液化又は凝縮して、前記脂肪酸からなる被膜層が金型表面に形成されやすくなり、その結果、上述した作用、効果を得やすくなるためと推察している。脂肪酸の融点は90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。
上記の脂肪酸の融点の好ましい上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、脂肪酸の融点は、50℃以上100℃以下が好ましく、55℃以上90℃以下がより好ましく、60℃以上80℃以下がさらに好ましい。
【0042】
前記脂肪酸の分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、分子量100以上500以下の脂肪酸を用いることができる。分子量200以上400以下がより好ましい。脂肪酸の分子量が100以上だと、脂肪酸の揮発性が低いため、射出成形するときの金型からの剥離性や、熱板融着時の熱板からの離型性の向上に対して十分な効果が得られる。一方、脂肪酸の分子量が500以下だと、(メタ)アクリル系重合体との相溶性が高いため、射出成形するときの金型からの剥離性や熱板融着するときの熱板からの離型性に優れ、また、離型時に熱板表面や金型表面への脂肪酸の残存が少なくなるため、熱板や金型の表面汚れ、得られた樹脂成形体のクモリが発生しにくい。
【0043】
前記脂肪酸の炭素数は、特に限定されるものではないが、好ましくは、炭素数10~22の脂肪酸を用いることができる。炭素数が10以上だと、脂肪酸の揮発性が低いため、射出成形するときの金型からの剥離性や、熱板融着するときの熱板からの離型性の向上に対して十分な効果が得られる。一方、炭素数が22以下だと、(メタ)アクリル系重合体との相溶性が高いため、金型からの剥離性と熱板からの離型性に優れ、また、離型時に熱板や金型の表面への脂肪酸の残存が少なくなるため、熱板や金型の表面汚れや、得られた樹樹脂成形体のクモリが発生しにくい。
【0044】
前記脂肪酸として、具体的には、ラウリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチル酸、ベヘン酸のような飽和脂肪酸や、オレイン酸、リノール酸のような不飽和脂肪酸等が挙げられる。これらの脂肪酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの脂肪酸の中でも、ステアリン酸、パルミチン酸、及びミリスチル酸が好ましい。
【0045】
熱板融着用メタクリル系樹脂組成物中の前記脂肪酸の含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、前記(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して、0.01質量部以上1.0質量部以下とすることができる。0.1質量部以上0.3質量部以下がより好ましい。前記脂肪酸の含有割合が0.01質量部より多いと、射出成形するときの金型からの剥離性や、熱板融着するときの熱板からの離型性が向上し、1.0質量部より少ないと離型時に熱板や金型の表面への脂肪酸の残存が少なくなるため、熱板や金型の表面汚れや、得られた樹脂成形体のクモリが発生しにくい。
【0046】
熱板融着用メタクリル系樹脂組成物中の前記脂肪酸の含有割合は、特に限定されるものではないが、好ましくは、熱板融着用メタクリル系樹脂組成物の総質量100%に対して、0.01質量%以上1.0質量%以下とすることができる。0.1質量%以上0.3質量%以下がより好ましい。前記脂肪酸の含有割合が0.01質量%より多いと、射出成形するときの金型からの剥離性や、熱板融着するときの熱板からの離型性が向上し、1.0質量%より少ないと離型時に熱板や金型の表面への脂肪酸の残存が少なくなるため、熱板や金型の表面汚れや、得られた樹脂成形体のクモリが発生しにくい。
【0047】
<他の添加剤>
本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物には、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲内で、必要に応じて、紫外線吸収剤、光拡散剤、酸化防止剤、着色剤、顔料、熱安定化剤、補強剤、充填材、難燃剤、発泡剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤等を含有させてもよい。
【0048】
<熱板融着用メタクリル系樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物の製造方法としては、例えば、下記(1)又は(2)の方法が挙げられる。
(1)前記(メタ)アクリル系重合体と前記脂肪酸とを、単独押出機や二軸押出機に投入し、加熱溶融して混練することにより混合する方法。
(2)メタクリル酸メチルを主成分とする単量体に、前記脂肪酸を混合して、重合する方法。
【0049】
上述した製造方法により、本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物を得ることができる。
本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物は、射出成形の際に金型表面に樹脂組成物の剥離残渣が生じにくく、また、得られた樹脂成形体を熱板融着に使用した場合に、熱板融着の熱板から樹脂組成物を引き離す際に糸曳きを生じにくい。そのため、本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物を射出成形して得られた樹脂成形体は、熱板融着用の部材として好適に使用できる。
【0050】
<融着方法>
本発明の融着方法は、上述した熱板融着用メタクリル系樹脂組成物から形成された第1の部材の少なくとも一部を熱板に接触させて溶融させる工程と、第1の部材を熱板から引き離し、第2の部材と圧着する工程とを備えるものである。
ここで、第2の部材の材質としては、前記(メタ)アクリル系重合体と熱融着する材質であれば、特に限定されない。例えば、ABS、SAN、AS、MS樹脂等のスチレン系樹脂や、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂が挙げられる。また、第2の部材は、本発明に係る熱板融着用メタクリル系樹脂組成物を用いることもできる。
【0051】
図1は、本発明の融着方法の一実施形態を示す工程図である。
第1の部材1と第2の部材2との間に熱板3を配置し(
図1(a))、第1の部材1及び第2の部材2の少なくとも一部を熱板3に接触させてそれぞれ溶融させた後(
図1(b))、熱板4から引き離して(
図1(c))、第1の部材の溶融部1aと第2の部材の溶融部2aとを融着(圧着)して、第1の部材1と第2の部材2を接合することができる(
図1(d))。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
〔射出成形時の離型性〕
射出成形時の離型性の指標として、下記の方法で突き出しピン圧力を測定した。
実施例及び比較例で得られたペレット状のメタクリル系樹脂組成物を、80℃で約16時間熱風乾燥した後に、シリンダー温度260℃に設定した射出成形機(機種名:EC75-SXII、芝浦機械製(株)製)に供給し、ガス抜け部を設けた金型(縦直径75mm、厚さ3mmの円盤状の成形品(
図2の4)を成形できる。この円盤状の金型の中心にゲート部を有する。成形品を離型するための突き出しピンが、円盤状の金型の中央部に1本、前記金型の周縁部に等間隔で4本配置されている。)を用いて金型温度90℃、射出圧力80MPaの条件で、連続成形を行い、前記中央部の突出しピンの裏に設置した圧力センサにより、成形品(4)を金型から離型する時の突き出しピン圧力(単位:MPa)を測定した。突き出しピン圧力の値が低いほど、離型性が優れている。
【0054】
〔射出成形後の成形外観〕
射出成形後の成形外観の指標として、下記の方法で剥離不良の有無を観察した。
離型性の評価と同様の方法で、円盤状の成形品(4)を40ショット連続成形した。得られた成形品(4)の表面を目視で観察し、成形品(4)の表面に金型からの剥離不良による表面荒れが1ショットでも観察された場合、剥離不良と判定した。
【0055】
〔熱板融着時の離型性〕
熱板融着時の離型性の指標として、下記の方法で糸曳き性を観察した。
・試験片作製:離型性の評価で成形した円盤状の成形品(4)(縦直径75mm、厚さ3mm)からスプルー部(5)を切断して、円錐状の試験片(6)(底面の直径10mm、高さ70mm)を作製した(
図2及び
図3を参照)。
・熱板:ホットプレート(7)上にSUS304製のプレートを敷き、これを熱板(8)とした。プローブ型温度計で熱板(8)の表面温度を実測することにより、熱板表面の温度管理を行なった。
・試験方法:熱板(8)の表面温度が260℃となるように加熱した後、前記円錐状の試験片(6)の底面部(9)(直径10mm)を熱板(8)の表面に20秒間接触させ、接触部を溶融させた後、高さ30cmまで試験片(6)を引き上げ、試験片(6)と熱板(8)との間の糸曳きの発生の有無を確認した(
図4参照)。糸曳きとは、糸状のメタクリル系樹脂組成物の一部である。試験片5点を用意し、各試験片について1回ずつ上記の操作を行い、以下の判定基準に従って判定した。
(判定基準)
〇:糸曳き有りが0回
△:糸曳き有りが1~2回
×:糸曳き有りが3~5回
【0056】
<融点>
脂肪酸の融点を、示差走査熱量計(DSC)(セイコーインスツル社製、型式:DSC-6200)を用いて、下記の方法で評価した。
脂肪酸約10mgを、アルミニウム製のサンプル容器に入れ、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温して5分間保持して溶融させた後、10℃/分で0℃まで降温して、再度昇温速度10℃/分で昇温、5分間保持、10℃/分で降温を行い、この時に観察された結晶融解ピークの最大点を、脂肪酸の融点とした。
【0057】
<10%重量減少温度>
脂肪酸の10%重量減少温度を、熱重量測定装置(TGA)(セイコーインスツルメンツ株式会社製、型式:TG/DTA6200)を用いて、下記の方法に従って測定した。
乾燥窒素を100ml/分で流しながら、昇温速度10℃/分で40℃から500℃まで昇温し、重量減少率10%(重量が10質量%減少すること)となる温度を測定した。
【0058】
(原材料)
また、実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
MMA:メチルメタクリレート(商品名:アクリエステル(登録商標)M、三菱ケミカル(株)製)
MA:アクリル酸メチル(三菱ケミカル(株)製)
MAA:メタクリル酸
重合開始剤(1):2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩
重合開始剤(2):2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル(商品名:V-59、和光純薬工業(株)製)
連鎖移動剤(1):n-オクチルメルカプタン(東京化成工業(株)製)
重合体(1):アクリペット(登録商標)VH(商品名、三菱ケミカル(株)製、メチルメタクリレート単位を98質量%含むアクリル樹脂)
重合体(2):製造例1で製造した(メタ)アクリル系重合体
脂肪酸化合物(B-1):ミリスチン酸(商品名:ルナックMY-98、花王社製)
脂肪酸化合物(B-2):パルミチン酸(商品名:ルナックP-95、花王社製)
脂肪酸化合物(B-3):ステアリン酸(商品名:ルナックS-98、花王社製)
脂肪酸化合物(B-4):ミリスチルアルコール(商品名:カルコール4098、花王社製)
脂肪酸化合物(B-5):セチルアルコール(商品名:カルコール6098、花王社製)
脂肪酸化合物(B-6):ステアリルアルコール(商品名:カルコール8098、花王社製)
脂肪酸化合物(B-7):グリセリンモノステアレート(商品名:リケマールS100A、理研ビタミン社製)
脂肪酸化合物(B-8):グリセリンモノ・ジステアレート(商品名:リケマールS200A、理研ビタミン社製)
脂肪酸化合物(B-9):ステアリルステアレート(商品名:リケマールSL―900A、理研ビタミン社製)
脂肪酸化合物(B-10):ステアリン酸アミド(商品名:脂肪酸アマイドS、花王社製)
【0059】
ここで、「主成分として含む」とは、脂肪酸の総質量(100質量%)に対して、対象成分を70質量%以上含むことを言う。
【0060】
[製造例1]
脱イオン水900質量部、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム60質量部、メタクリル酸カリウム10質量部及びMMA12質量部を、内部を窒素置換した還流冷却器付き反応容器に加えた後、撹拌しながら反応容器内の液温が50℃になるように昇温した。その後、重合開始剤(1)0.08質量部を加え、撹拌しながら反応容器内の液温が60℃になるように昇温した後、滴下ポンプを用いて、MMAを0.24質量部/分の速度で75分間かけて連続的に滴下した。その後、さらに6時間保持して重合を行ない、分散剤(固形分10質量%)を得た。
【0061】
脱イオン水2000質量部及び硫酸ナトリウム4.2質量部を、窒素ガス導入管を備えた還流冷却器付き反応容器に加えた後、320rpmの撹拌速度で15分間撹拌した。その後、MMA1351.6質量部、MAA36.3質量部、MA12.1質量部、重合開始剤(2)を2.8質量部及び連鎖移動剤(1)4.2質量部の混合溶液を反応容器に加え、5分間撹拌した。次いで、製造例1で製造した分散剤(固形分10質量%)6.72質量部を反応容器に加えた後、撹拌して、反応容器中の単量体組成物を水中に分散させた。その後、反応容器内を窒素置換した。
【0062】
次いで、反応容器内の液温が75℃になるように昇温した後、さらに反応容器内の液温を連続的に測定して重合発熱ピークが観測されるまで75℃を保持した。重合発熱ピークが観測された後、反応容器内の液温が90℃になるように昇温した後、60分間保持して、重合を行なった。その後、反応容器内の混合物を濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、80℃で16時間乾燥し、ビーズ状の共重合体を得て、これをメタクリル系樹脂の前駆体(共重合体前駆体(1))とした。
共重合体前駆体(1)の組成は、上述した「単位(A)、(B)及び(C)の含有率」の測定方法に準じで分析したところ、MMA単位96.0mol%、メタクリル酸由来の繰り返し単位(以下、「MAA単位」という。)3.0mol%、アクリル酸メチル由来の繰り返し単位(以下、「MA単位」という。)1.0mol%であった。
【0063】
共重合体前駆体(1)を二軸押出機(機種名「PCM30」、(株)池貝製)に供給し、250℃で混練し、ペレット状の(メタ)アクリル系重合体を得て、これを重合体(2)とした。
得られた重合体(2)の組成は、MMA単位97.00mol%、(メタ)アクリル酸単位2.99mol%、グルタル酸無水物構造単位0.01mol%であった。なお、前記(メタ)アクリル酸単位とは、MAA単位及びMA単位を合わせた繰り返し単位のことをいう。
【0064】
[実施例1]
重合体(1)100質量部、脂肪酸として脂肪酸化合物(B-1)0.1質量部を、二軸押出機(機種名「TEM35」、芝浦機械(株)製)に供給し、押出機のシリンダー温度250℃で溶融混練し、金型温度60℃でペレット状のメタクリル系樹脂組成物を得た。
得られたメタクリル系樹脂組成物の評価結果を、表1に示す。
【0065】
[参考例1]
脂肪酸を使用しなかった以外は、実施例1と同様に操作を行い、ペレット状のメタクリル系樹脂組成物を得た。得られたメタクリル系樹脂組成物の評価結果を、表1に示す。
【0066】
[実施例2~3、比較例1~7]
脂肪酸化合物の種類を変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、ペレット状のメタクリル系樹脂組成物を得た。得られたメタクリル系樹脂組成物の評価結果を、表1に示す。
【0067】
[実施例4、比較例8~9]
重合体(1)の代わりに重合体(2)を用いて、脂肪酸化合物の種類と添加量を変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、ペレット状のメタクリル系樹脂組成物を得た。得られたメタクリル系樹脂組成物の評価結果を、表1に示す。
【0068】
【0069】
実施例1~4の樹脂成形体は、射出成形時の離形性、及び熱板融着時の離型性に優れていた。
参考例1の樹脂成形体は、脂肪酸を含有していないため、射出成形時の離形性、及び熱板融着時の離型性に劣っていた。
比較例1~9の樹脂成形体は、脂肪酸化合物を含むが、脂肪酸を用いていないため、射出成形時の離形性、及び熱板融着時の離型性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物は、射出成形する際に金型からの離形性に優れる、さらに、熱板融着する際に熱板からの剥離性に優れている。そのため、本発明の熱板融着用メタクリル系樹脂組成物を含む成形体は、テールランプカバーや、ヘッドランプカバー、メーターパネルといった車両の内外装材料等の車両用部材;建築部材;洗面化粧台、浴槽、水洗便器等の住宅設備向け部材の原材料に好適に用いることができ、特に、車両用部材の原材料に好適である。
【0071】
車両用部品としては、例えば、テールランプカバー、ヘッドランプカバー、メーターパネル、ドアミラーハウジング、ピラーカバー(サッシュカバー)、ライセンスガーニッシュ、フロントグリル、フォグガーニッシュ、エンブレム等が挙げられる。
【符号の説明】
【0072】
1 第1の部材
1a 第1の部材の溶融部
2 第2の部材
2a 第2の部材の溶融部
3 熱板
4 円盤状の成形品
5 スプルー部
6 円錐状の試験片
7 ホットプレート
8 熱板
9 底面部
10 試験片と熱板との間に生じた糸曳き
【要約】
【課題】熱板融着の熱板から樹脂組成物を引き離す際に糸曳きを生じにくく、また、射出成形の際に金型表面に樹脂組成物の剥離残渣が生じにくい、すなわち、熱板融着や射出成形に好適な、熱板や金型からの剥離性に優れた熱板融着用メタクリル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位を主成分とする(メタ)アクリル系重合体、及び脂肪酸を含む、熱板融着用メタクリル系樹脂組成物。前記メタクリル系樹脂組成物の熱板融着への使用。前記熱板融着用メタクリル系樹脂組成物から形成された第1の部材の少なくとも一部を熱板に接触させて溶融させる工程と、前記第1の部材を前記熱板から引き離し、第2の部材と圧着する工程と、を備える、融着方法。
【選択図】なし