(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】有機カルボン酸水溶液の製造方法および装置
(51)【国際特許分類】
C07C 51/48 20060101AFI20220906BHJP
C07C 51/44 20060101ALI20220906BHJP
C07C 53/08 20060101ALI20220906BHJP
C07C 53/122 20060101ALI20220906BHJP
C07C 57/055 20060101ALI20220906BHJP
C07C 57/145 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C07C51/48
C07C51/44
C07C53/08
C07C53/122
C07C57/055 Z
C07C57/145
(21)【出願番号】P 2021066024
(22)【出願日】2021-04-08
(62)【分割の表示】P 2017197538の分割
【原出願日】2017-10-11
【審査請求日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2016200856
(32)【優先日】2016-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】豊田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】富川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】安田 大介
(72)【発明者】
【氏名】星野 学
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-228486(JP,A)
【文献】特開2021-138772(JP,A)
【文献】特開昭52-8287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/48
C07C 51/44
C07C 53/08
C07C 53/122
C07C 57/055
C07C 57/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸、酢酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロピオン酸、マレイン酸、無水マレイン酸およびα-メチル無水マレイン酸からなる群から選ばれる一もしくは複数の有機カルボン酸を含む水溶液(原料としての有機カルボン酸含有水溶液
)を濃縮することにより有機カルボン酸が富化された有機カルボン酸含有水溶液を製造する方法であって、
(a)抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液を接触させ、有機カルボン酸を抽出相に抽出する工程、
(b)工程(a)から得られる抽出相を、抽出溶剤が富化された画分と、有機カルボン酸が富化された画分と、に分離する工程、および
(c)工程(a)から排出される抽残相を、抽出溶剤が富化された画分と、水が富化された画分と、に分離する工程、
を含み
、
前記抽出溶剤として、
メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、ジエチルエーテル(DEE)、ジイソブチルエーテル(DIBE)、およびジイソプロピルエーテル(DIPE)からなる群から選ばれる一もしくは複数種からなる第1の抽出溶剤と、
メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、およびシクロヘキサノンからなる群から選ばれる一もしくは複数種からなる第2の抽出溶剤とからなる混合抽出溶剤を用いる、
有機カルボン酸含有水溶液の製造方法。
【請求項2】
工程(b) において、蒸留塔を用いて分離を行い、この蒸留塔の留出成分として、前記抽出溶剤が富化された画分を得る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(c)において、蒸留塔を用いて分離を行い、この蒸留塔の留出成分として、前記抽出溶剤が富化された画分を得る、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)から得られる抽出溶剤および工程(c)から得られる抽出溶剤の一部もしくは全部を工程(a)に供給する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)が、
(a1)抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液を接触混合し、得られた混合液を、抽出溶剤が主成分である抽出溶剤相と、水が主成分である水相に二相分離する工程、および、
(a2) 抽出溶剤と有機カルボン酸含有水溶液を抽出塔において接触させ、有機カルボン酸を有機カルボン酸含有水溶液から抽出相に抽出する工程
を含み、
工程(a1)から得られた抽出溶剤相を、工程(a2)に抽出溶剤として供給し、
工程(a1)から得られた水相を、工程(a2)に有機カルボン酸含有水溶液として供給する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)が、
(a1)抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液を接触混合し、得られた混合液を、抽出溶剤が主成分である抽出溶剤相と、水が主成分である水相に二相分離するとともに、水相と抽出溶剤相との間に生じたポリマーを除去する工程、および、
(a2)抽出溶剤と有機カルボン酸含有水溶液を抽出塔において接触させ、有機カルボン酸を有機カルボン酸含有水溶液から抽出相に抽出する工程
を含み、
工程(a1)から得られた水相を、工程(a2)に有機カルボン酸含有水溶液として供給し、
工程(a1)から得られた抽出溶剤相を、工程(b)に抽出相として供給し、
工程(a2)から得られた抽出相を、工程(a1)に抽出溶剤として供給する
請求項1~3のいずれか1 項に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)が、有機カルボン酸を、前記混合抽出溶剤を含む抽出相に抽出する工程を含み、
工程(b)が、
(b1)工程(a)から得られる抽出相を、前記第1の抽出溶剤が富化された第1の画分と、前記第2の抽出溶剤および有機カルボン酸が富化された第2の画分とに分離する工程、および、
(b2)工程(b1)から得られる第2の画分を、前記第2 の抽出溶剤が富化された第3の画分と、有機カルボン酸が富化された第4の画分とに分離する工程
を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(a)が、
(a1)抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液を接触混合し、得られた混合液を、抽出溶剤が主成分である抽出溶剤相と、水が主成分である水相に二相分離するとともに、水相と抽出溶剤相との間に生じたポリマーを除去する工程、および、
(a2)抽出溶剤と有機カルボン酸含有水溶液を抽出塔において接触させ、有機カルボン酸を有機カルボン酸含有水溶液から抽出相に抽出する工程
を含み、
工程(a1)から得られた水相を、工程(a2)に有機カルボン酸含有水溶液として供給し、
工程(a1)から得られた抽出溶剤相を、工程(b1)に、工程(a)から得られる抽出相として供給し、
工程(a2)から得られた抽出相も、工程(b1)に、工程(a)から得られる抽出相として供給する
請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の画分を、工程(a1)に抽出溶剤として供給し、
前記第3の画分を、工程(a2) に抽出溶剤として供給する、
請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
原料としての有機カルボン酸含有水溶液が、アクリル酸、メタクリル酸、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、ポリエチレンテレフタレート、マレイン酸、フタル酸、フマル酸またはプロピオン酸の製造プロセスから排出された廃水である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記廃水が、R-COOHで表される一もしくは複数の有機カルボン酸を含み、
ここでRは、水素および炭素数1から5までの飽和または不飽和炭化水素基から選ばれ、廃水中の有機カルボン酸の合計濃度が0 .1~50重量%であり、
工程(a)における抽出溶剤の使用量が該廃水に対して0 .1~10.0質量倍である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
ギ酸、酢酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロピオン酸、マレイン酸、無水マレイン酸およびα-メチル無水マレイン酸からなる群から選ばれる一もしくは複数の有機カルボン酸を含む水溶液(原料としての有機カルボン酸含有水溶液
)を濃縮することにより有機カルボン酸が富化された有機カルボン酸含有水溶液を製造する装置であって、
抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液を接触させ、有機カルボン酸を抽出相に抽出する抽出器、
抽出器から得られる抽出相を、抽出溶剤が富化された画分と、有機カルボン酸が富化された画分と、に分離する抽出溶剤回収器、および
抽出器から排出される抽残相を、抽出溶剤が富化された画分と、水が富化された画分と、に分離する抽出溶剤分離器、
を含み、
抽出溶剤として、第1の抽出溶剤と第2の抽出溶剤とからなる混合抽出溶剤が用いられ、
該第1の抽出溶剤は、
メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、ジエチルエーテル(DEE)、ジイソブチルエーテル(DIBE)、およびジイソプロピルエーテル(DIPE)からなる群から選ばれる一もしくは複数種からなり、
該第2の抽出溶剤は、
メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、およびシクロヘキサノンからなる群から選ばれる一もしくは複数種からなり、
抽出器が、有機カルボン酸を、前記混合抽出溶剤を含む抽出相に抽出するよう構成され、
抽出溶剤回収器が、
抽出器から得られる抽出相を、前記第1 の抽出溶剤が富化された第1の画分と、前記第2の抽出溶剤および有機カルボン酸が富化された第2の画分とに分離する第1 の抽出溶剤回収器と、
第1の抽出溶剤回収器から得られる第2 の画分を、前記第2の抽出溶剤が富化された第3の画分と、有機カルボン酸が富化された第4の画分とに分離する第2の抽出溶剤回収器と
を含む、有機カルボン酸含有水溶液の製造装置。
【請求項13】
抽出溶剤回収器が、留出成分として前記抽出溶剤が富化された画分を得るよう構成された蒸留塔である、請求項
12に記載の装置。
【請求項14】
抽出溶剤分離器が、留出成分として前記抽出溶剤が富化された画分を得るよう構成された蒸留塔である、請求項
12または
13に記載の装置。
【請求項15】
抽出溶剤回収器から得られる抽出溶剤および抽出溶剤分離器から得られる抽出溶剤の一部もしくは全部を抽出器に供給するラインを有する、請求項
12~
14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
抽出器が、
抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液を接触混合するミキサー、
ミキサーから得られた混合液を、抽出溶剤が主成分である抽出溶剤相と、水が主成分である水相に二相分離するデカンターであって、抽出溶剤相と水相との間に開口するノズルを備えるデカンター、および
抽出溶剤と有機カルボン酸含有水溶液を接触させ、有機カルボン酸を抽出相に抽出する抽出塔を含み、
デカンターから得られた抽出溶剤相を、抽出塔に抽出溶剤として供給するラインと、
デカンターから得られた水相を、抽出塔に有機カルボン酸含有水溶液として供給するラインとを有する、請求項
12~
14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
抽出器が、
抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液を接触混合するミキサー、
ミキサーから得られた混合液を、抽出溶剤が主成分である抽出溶剤相と、水が主成分である水相に二相分離するデカンターであって、抽出溶剤相と水相との間に開口するノズルを備えるデカンター、および
抽出溶剤と有機カルボン酸含有水溶液を接触させ、有機カルボン酸を有機カルボン酸含有水溶液から抽出相に抽出する抽出塔を含み、
デカンターから得られた水相を、抽出塔に有機カルボン酸含有水溶液として供給するラインと、
デカンターから得られた抽出溶剤相を、抽出溶剤回収器に抽出溶剤として供給するラインと、
抽出塔から得られた抽出相を、ミキサーに抽出溶剤として供給するラインとを有する、
請求項
12~
14のいずれか1 項に記載の装置。
【請求項18】
抽出器が、
抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液を接触混合するミキサー、
ミキサーから得られた混合液を、抽出溶剤が主成分である抽出溶剤相と、水が主成分である水相に二相分離するデカンターであって、抽出溶剤相と水相との間に開口するノズルを備えるデカンター、および
抽出溶剤と有機カルボン酸含有水溶液を接触させ、有機カルボン酸を有機カルボン酸含有水溶液から抽出相に抽出する抽出塔を含み、
デカンターから得られた水相を、抽出塔に有機カルボン酸含有水溶液として供給するラインと、
デカンターから得られた抽出溶剤相を、前記第1の抽出溶剤回収器に、抽出器から得られる抽出相として供給するラインと、
抽出塔から得られた抽出相を、前記第1の抽出溶剤回収器に、抽出器から得られる抽出相として供給するラインとを有する、請求項
17に記載の装置。
【請求項19】
前記第1の画分を、前記ミキサーへ抽出溶剤として供給するラインと、
前記第3の画分を、抽出塔に抽出溶剤として供給するラインを有する、請求項
18に記載の装置。
【請求項20】
原料としての有機カルボン酸含有水溶液が、アクリル酸、メタクリル酸、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、ポリエチレンテレフタレート、マレイン酸、フタル酸、フマル酸またはプロピオン酸の製造プロセスから排出された廃水である、請求項
12~
19のいずれか1項に記載の装置。
【請求項21】
前記廃水が、R-COOHで表される一もしくは複数の有機カルボン酸を含み、
ここでRは、水素および炭素数1から5までの飽和または不飽和炭化水素基から選ばれ、
廃水中の有機カルボン酸の合計濃度が0.1~50重量%であり、
抽出器における抽出溶剤の使用量が該廃水に対して0.1~10.0質量倍である、
請求項
20に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機カルボン酸含有水溶液を濃縮することにより有機カルボン酸が富化され
た有機カルボン酸含有水溶液を製造する方法および装置に関する。つまり、原料としての
有機カルボン酸を含有する水溶液から、より高濃度の有機カルボン酸を含有する水溶液を
製造する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的にメタクリル酸を製造する方法においては、第1工程として、イソブチレンまた
はtert-ブチルアルコール、あるいは、両者の混合物を原料として、分子状酸素と共
に熱交換型多管式反応器に導入し、気相接触酸化反応を用いてメタクロレイン(メタクリ
ルアルデヒド)を製造する。第2工程では、このメタクロレイン、あるいは、気相接触酸
化反応で生成するメタクロレインと残留する原料イソブチレンやtert-ブチルアルコ
ールをも含有する混合物を、さらに気相接触酸化してメタクリル酸を製造する。
【0003】
この方法を用いてメタクリル酸を製造するプラントでは、前記の気相接触酸化反応工程
に由来する排ガス、ならびに、反応後に、メタクリル酸の抽出、精製の工程に付随する廃
液が大量に発生する。この排ガスには、利用した空気に由来する窒素、酸化反応で発生す
る水、二酸化炭素、あるいは、一酸化炭素やアルデヒド、その他の副生する有機化合物が
含まれている。一方、廃液には、メタクリル酸の抽出、精製、ならびに未反応原料メタク
ロレインなどの回収工程に利用した大量の水の他に、酢酸や前記の工程で反応ガスから除
かれたその他の副生有機化合物が含まれている。従来より、これらのプラントからの排ガ
スならびに廃液中に含まれる、一酸化炭素やアルデヒド、酢酸、その他の副生する有機化
合物の除去、無害化の処理を行い、窒素、水、二酸化炭素など、環境を汚染する懸念のな
いもののみが最終的に排出されている。
【0004】
このような排ガスおよび廃液の処理方法として、直接燃焼法が知られている。この方法
は、廃液中に含まれる有機化合物を焼却して、水と二酸化炭素として排出する方法である
。例えば、メタクリル酸製造プラントの廃液に適用する場合、廃液は多量の水を含むため
、有機化合物濃度が低い。よってそのままで処理する際には、処理する廃液の量と比較し
て多量の助燃剤が必要となり、処理コストが高くなる。そのため、一般的に、廃液中の水
分濃度を下げ、有機化合物濃度を高めるために、前処理として廃液を予め濃縮した後、焼
却処理する方法が採用されている。
【0005】
特許文献1には、気相反応による有機化合物の合成に伴い生ずる排ガス、ならびに前記
反応で派生する化学的酸素要求物質(COD物質)と多量の水を含む廃液を処理する方法
であって、前記排ガスと多量の水を含む廃液とを直接接触させ、廃液を濃縮する工程を設
け、濃縮される前記廃液に対して、それに含まれる化学的酸素要求物質(COD物質)を
燃焼処理する工程を設けることを特徴とする廃液及び排ガス処理方法が開示される。
【0006】
特許文献2には、酢酸、ギ酸および高沸点物質からなる水性混合物から、純粋な酢酸お
よび純粋なギ酸をそれぞれ単離する方法が開示される。この方法では、溶剤を用いて水性
混合物を抽出し、抽出物流を蒸留カラムに導き、当該カラムの頂部から大部分が溶剤であ
る混合物を取り出し、側面取り出し口からギ酸、水および溶剤からなる混合物を取り出し
、底部から酢酸および高沸点物質からなる混合物を取り出す。
【0007】
特許文献3には、抽出溶剤を用いた抽出法によって、酢酸含有廃水から高純度の酢酸を
回収する方法が開示される。この方法では、下記(a)~(b)の各工程を逐次通過させ
て精製した、下記(c)~(e)の特性を有する溶剤を抽出溶剤の少なくとも一部に用い
る。(a)抽出溶剤回収塔内に抽出溶剤と水とを導入し、該回収塔塔頂部から抽出溶剤と
水とからなる共沸混合物を留出液として取り出す、第一工程。(b)抽出溶剤回収塔から
の留出液である共沸混合物を、溶剤相と水相とに液々分離する第二工程。(c)水と共沸
混合物を形成すること。(d)酢酸とは共沸混合物を形成しないこと。(e)酢酸の沸点
よりも高い沸点を有すること。
【0008】
特許文献4には、酢酸含有率が5%以下の低濃度の排水から効率よく酢酸を回収する方
法が開示される。この方法では、貴金属触媒を用い、酸素含有ガス存在下または不存在下
に、排水が液相を保持する圧力下で酢酸含有排水の加熱分解処理をした後、残存する酢酸
を回収する。加熱分解処理後の廃水は、抽出塔において抽剤によって抽出される。
【0009】
特許文献5には、非水溶性溶剤を主成分とする抽出溶剤を用いたときに(メタ)アクリ
ル酸水溶液から(メタ)アクリル酸を高い抽出効率で抽出できる(メタ)アクリル酸の製
造方法が開示される。この方法では、(メタ)アクリル酸水溶液と抽出溶剤とを接触させ
て(メタ)アクリル酸を抽出する抽出工程を含む(メタ)アクリル酸の製造方法において
、前記抽出溶剤は、前記抽出溶剤全量に対して75.0~99.5質量%の非水溶性溶剤
と、前記抽出溶剤全量に対して0.5~5.0質量%の酢酸とを含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2001-179238号公報
【文献】特表2003-505442号公報
【文献】特開平11-228486号公報
【文献】特開平9-122663号公報
【文献】特開2009-263351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の廃液及び排ガス処理方法では、気液接触により廃水中の水分の一部
を排ガスに移行させているものの、カルボン酸類廃水のうち、大部分は蒸発・燃焼させる
。蒸発しなかった残渣も燃焼させ、双方ともに排熱を回収した後、大気に放出している。
【0012】
この方法では、排熱回収しているとはいえ、廃水に含まれていた水の大部分が水蒸気の
まま大気に放出されているため、大気放出している水の量と水の蒸発潜熱の積に相当する
エネルギーを損失していると言える。
【0013】
そこで本発明者らは、酢酸等のカルボン酸類のみを燃焼することができれば、省エネの
可能性があることに着眼した。そして、蒸発の際には共沸してしまう水とカルボン酸類と
を、いかに低エネルギーで分離させるプロセスで処理することができるか、について検討
を行った。
【0014】
本発明の目的は、有機カルボン酸水溶液を低消費エネルギーで濃縮し、有機カルボン酸
が富化された有機カルボン酸含有水溶液を製造することのできる方法および装置を提供す
ることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様によれば、
原料としての有機カルボン酸含有水溶液を濃縮することにより有機カルボン酸が富化さ
れた有機カルボン酸含有水溶液を製造する方法であって、
(a)抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液を接触させ、有機カルボン酸を
抽出相に抽出する工程、
(b)工程(a)から得られる抽出相を、抽出溶剤が富化された画分と、有機カルボン酸
が富化された画分と、に分離する工程、および
(c)工程(a)から排出される抽残相を、抽出溶剤が富化された画分と、水が富化され
た画分と、に分離する工程、
を含む、有機カルボン酸含有水溶液の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の別の態様によれば、
原料としての有機カルボン酸含有水溶液を濃縮することにより有機カルボン酸が富化さ
れた有機カルボン酸含有水溶液を製造する装置であって、
抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液を接触させ、有機カルボン酸を抽出相
に抽出する抽出器、
抽出器から得られる抽出相を、抽出溶剤が富化された画分と、有機カルボン酸が富化され
た画分と、に分離する抽出溶剤回収器、および
抽出器から排出される抽残相を、抽出溶剤が富化された画分と、水が富化された画分と、
に分離する抽出溶剤分離器、
を含む、有機カルボン酸含有水溶液の製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、有機カルボン酸水溶液を低消費エネルギーで濃縮し、有機カルボン酸
が富化された有機カルボン酸含有水溶液を製造することのできる方法および装置が提供さ
れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】有機カルボン酸水溶液製造装置の一形態を示すプロセスフローダイアグラムである。
【
図2】有機カルボン酸水溶液製造装置の別の形態を示すプロセスフローダイアグラムである。
【
図3】有機カルボン酸水溶液製造装置のさらに別の形態を示すプロセスフローダイアグラムである。
【
図4】有機カルボン酸水溶液製造装置のさらに別の形態を示すプロセスフローダイアグラムである。
【
図5】
図4に示した抽出器の構造例を示す模式図である。
【
図6】廃水処理装置の一形態を示すプロセスフローダイアグラムである。
【
図7】実施例1で使用したプロセスフローダイアグラムである。
【
図8】有機カルボン酸水溶液製造装置のさらに別の形態を示すプロセスフローダイアグラムである。
【
図9】有機カルボン酸水溶液製造装置のさらに別の形態を示すプロセスフローダイアグラムである。
【
図10】有機カルボン酸水溶液製造装置のさらに別の形態を示すプロセスフローダイアグラムである。
【
図11】有機カルボン酸水溶液製造装置のさらに別の形態を示すプロセスフローダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、用語「富化する」とは、濃度を増加させることを意味する。「或る
流体から、或る成分が富化された画分を得る」という場合、当該流体中の当該成分の濃度
よりも、得られた画分における当該成分の濃度のほうが、高い。
【0020】
本発明の方法においては、工程(a)~(c)を行う。
(a)抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液を接触させ、有機カルボン酸を
抽出相に抽出する工程。
(b)工程(a)から得られる抽出相を、抽出溶剤が富化された画分と、有機カルボン酸
が富化された画分と、に分離する工程。
(c)工程(a)から排出される抽残相を、抽出溶剤が富化された画分と、水が富化され
た画分と、に分離する工程。
本発明によって製造される有機カルボン酸含有水溶液として、工程(b)で分離された有
機カルボン酸が富化された画分を、得ることができる。
【0021】
工程(a)、(b)および(c)を行うために、それぞれ、抽出器、抽出溶剤回収器お
よび抽出溶剤分離器を用いることができる。
【0022】
抽出器は、抽出溶剤と有機カルボン酸含有水溶液を接触させ、有機カルボン酸を抽出相
に抽出する装置である。典型的には、抽出器として、抽出塔、特には液々接触塔が用いら
れる。
【0023】
抽出溶剤回収器は、抽出器から得られる抽出相を、抽出溶剤が富化された画分と、有機
カルボン酸が富化された画分と、に分離する装置である。典型的には、抽出溶剤回収器と
して蒸留塔を用いることができる。特には、この蒸留塔の留出成分として、抽出溶剤が富
化された画分を得ることができ、この蒸留塔の缶出液として有機カルボン酸が富化された
画分を得ることができる。
【0024】
抽出溶剤分離器は、抽出器から排出される抽残相を、抽出溶剤が富化された画分と、水
が富化された画分と、に分離する装置である。典型的には、抽出溶剤分離器として蒸留塔
を用いることができる。特には、この蒸留塔の留出成分として、抽出溶剤が富化された画
分を得ることができ、この蒸留塔の缶出液として、水が富化された画分を得ることができ
る。
【0025】
以下、図面を用いて本発明を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではな
い。また、以下においては、主に、抽出器として抽出塔を用い、抽出溶剤回収器および抽
出溶剤分離器としていずれも蒸留塔を用いる場合を例に、本発明を説明する。
【0026】
なお、抽出塔としては、クーニ式液々抽出装置、カールカラム(商品名、住友重機械株
式会社製)、MSカラム(商品名、関西化学機械製作株式会社製)、WINTRAY(商
品名、日揮株式会社製)などが挙げられるが、省エネの観点からWINTRAYが好まし
い。
【0027】
蒸留塔としては、インターナルの種類が、シーブトレイ、デュアルフロートレイ、バル
ブキャップトレイ、規則充填物、または不規則充填物である蒸留塔などが挙げられる。ま
た、上記の従来型蒸留塔に加えて、VC(Vapor compression),MVR(Mechanical Vapor
Recompression),TVR(Thermal Vapor Recompression),AHP(Absorption Heat pum
p),CRHP(Compression Resorption Heat pump),TAHP(Thermo-Acoustic Heat P
ump),HIDIC(Heat Integrated Distillation column)、DWC(Divided Wall Colum
n)などの省エネ型蒸留塔を使用することもできる。
【0028】
〔有機カルボン酸水溶液製造装置の第1の形態〕
図1を参照して、有機カルボン酸水溶液製造装置の一形態を説明する。
【0029】
抽出塔Aに、処理対象である、原料としての有機カルボン酸含有水溶液がライン101
から供給され、また、抽出溶剤がライン102から供給される。抽出塔Aに供給される有
機カルボン酸含有水溶液に対する抽出塔Aに供給される抽出溶剤の質量基準の比率は1.
0~1.5が好ましい。また、抽出操作温度としては、25℃~35℃が好ましい。有機
カルボン酸含有水溶液の供給位置は、抽出溶剤の供給位置よりも上方とされ、抽出塔にお
いて有機カルボン酸含有水溶液と抽出溶剤とが向流接触し、塔頂から抽出相がライン10
3に排出され、塔底から抽残相がライン104に排出される。有機カルボン酸の大部分お
よび抽出溶剤の大部分は抽出相に含まれる。
【0030】
抽出塔Aの理論段数は、有機カルボン酸含有水溶液と使用する抽出溶剤の組み合わせよ
り、1段以上が好ましく、2段以上がより好ましく、3段以上がさらに好ましい。また1
2段以下が好ましく、11段以下がより好ましく、10段以下がさらに好ましい。
【0031】
抽出相はライン103から第1の蒸留塔(抽出溶剤回収器)Bに供給され、抽出溶剤が
富化された画分が塔頂からライン105に排出され、有機カルボン酸が富化された画分が
塔底からライン106に排出される。第1の蒸留塔Bの塔底から得られる有機カルボン酸
が富化された画分が、本発明によって製造される有機カルボン酸含有水溶液である(他の
形態においても同様)。第1の蒸留塔の操作圧力としては、塔頂圧力として、0kPaG
~5.0kPaGが好ましく、操作温度としては、塔底温度として、103℃~108℃
が好ましい。
【0032】
第1の蒸留塔の理論段数は、使用する溶剤と有機カルボン酸含有水溶液との組み合わせ
より、3段以上が好ましく、5段以上がより好ましい。また、差圧と装置規模の点から3
0段以下が好ましく、20段以下がより好ましい。
【0033】
抽残相はライン104から第2の蒸留塔(抽出溶剤分離器)Cに供給され、抽出溶剤が
富化された画分がライン107に排出され、水が富化された画分がライン108に排出さ
れる。第2の蒸留塔の操作圧力としては、塔頂圧力として、0.0kPaG~5.0kP
aGが好ましく、操作温度としては、塔底温度として、98℃~103℃が好ましい。
【0034】
第2の蒸留塔の理論段数は、使用する溶剤と有機カルボン酸含有水溶液との組み合わせ
より、3段以上が好ましく、5段以上がより好ましい。また、差圧と装置規模の点から3
0段以下が好ましく、20段以下がより好ましい。
【0035】
図1に示す有機カルボン酸水溶液製造装置には、原料としての有機カルボン酸含有水溶
液がライン101から供給され、濃縮された有機カルボン酸含有水溶液がライン106か
ら得られる。このようにして製造した高濃度有機カルボン酸含有水溶液を、燃焼法などの
廃水処理方法によって処理することができる。
【0036】
ライン108から得られる水が富化された画分を、適宜活性汚泥処理して環境に排出す
ることができる。
【0037】
ライン105もしくは107から得られる抽出溶剤が富化された画分は、例えば次の第
2の形態で説明するように、リサイクルして抽出操作に利用することが好ましいが、その
限りではない。
【0038】
〔有機カルボン酸水溶液製造装置の第2の形態〕
図2を参照して、有機カルボン酸水溶液製造装置の別の形態を説明する。
【0039】
この形態では、第1の蒸留塔(抽出溶剤回収器)Bの塔頂から排出される抽出溶剤が富
化された画分が、ライン205を経て、抽出塔Aに供給される。
また、第2の蒸留塔(抽出溶剤分離器)Cの塔頂から排出される抽出溶剤が富化された画
分が、ライン207を経て抽出塔Aに供給される。これにより、第1および第2の蒸留塔
の塔頂から得られる抽出溶剤を抽出塔にリサイクルして有効活用することができる。第1
および第2の蒸留塔から得られる抽出溶剤が富化された画分(ライン205および207
の流体)の全部もしくは一部を抽出塔にリサイクルすることができる。
【0040】
この点を除いて、
図2に示すプロセスフローは、
図1に示すプロセスフローと同様であ
る。
【0041】
抽出塔Aに供給される有機カルボン酸含有水溶液(ライン201)に対する抽出塔Aに
供給される抽出溶剤(ライン202、205および207における抽出溶剤の合計量)の
質量基準の比率は1.0~1.5が好ましい。また、抽出操作温度としては、25℃~3
5℃が好ましい。有機カルボン酸含有水溶液の供給位置は、抽出溶剤の供給位置よりも上
方とされ、抽出塔Aにおいて有機カルボン酸含有水溶液と抽出溶剤とが向流接触し、塔頂
から抽出相がライン203に排出され、塔底から抽残相がライン204に排出される。有
機カルボン酸の大部分および抽出溶剤の大部分は抽出相に含まれる。抽出塔Aの理論段数
は、有機カルボン酸含有水溶液と使用する抽出溶剤の組み合わせより、1段以上が好まし
く、2段以上がより好ましく、3段以上がさらに好ましい。また12段以下が好ましく、
11段以下がより好ましく、10段以下がさらに好ましい。第1の蒸留塔(抽出溶剤回収
器)Bの操作圧力としては、塔頂圧力として、0kPaG~5.0kPaGが好ましく、
操作温度としては、塔底温度として、103℃~108℃が好ましい。また、第2の蒸留
塔(抽出溶剤分離器)Cの操作圧力としては、塔頂圧力として、0kPaG~5.0kP
aGが好ましく、操作温度としては、塔底温度として、98℃~103℃が好ましい。
【0042】
〔有機カルボン酸水溶液製造装置の第3の形態〕
図3を参照して、有機カルボン酸水溶液製造装置の別の形態を説明する。
【0043】
この形態では、工程(a)において、工程(a1)と工程(a2)とを行う。
(a1)抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液を接触混合し、得られた混合
液を、抽出溶剤が主成分である抽出溶剤相と、水が主成分である水相に二相分離する工程
。工程(a1)(装置A1)に供給される有機カルボン酸含有水溶液に対する工程(a1
)(装置A1)に供給される抽出溶剤の質量基準の比率は0.01~0.3が好ましい。
また、抽出操作温度としては、25℃~35℃が好ましい。
(a2)抽出溶剤と有機カルボン酸含有水溶液を抽出塔において接触させ、有機カルボン
酸を有機カルボン酸含有水溶液から抽出相に抽出する工程。工程(a2)(装置A2)に
供給される有機カルボン酸含有水溶液に対する工程(a2)(装置A2)に供給される抽
出溶剤の質量基準の比率は1.0~1.5が好ましい。また、抽出操作温度としては、2
5℃~35℃が好ましい。
【0044】
ここで、用語「主成分」とは、50質量%を超える濃度を有する成分をいう。
【0045】
この形態で使用する抽出器は、第1の抽出装置A1および第2の抽出装置A2を含む。
装置A1においては工程(a1)を行うが、この装置の詳細については
図5を用いて後に
説明する。
【0046】
装置A1(したがって工程(a1))には、ライン301から原料としての有機カルボ
ン酸含有水溶液が供給され、ライン302から抽出溶剤が供給される。
【0047】
装置A1(したがって工程(a1))から得られた抽出溶剤相を、余剰の抽出溶剤とし
て、ライン312から装置A2(したがって工程(a2))に供給する。また、装置A1
(したがって工程(a1))から得られた水相を、有機カルボン酸含有水溶液として、ラ
イン311から装置A2(したがって工程(a2))に供給する。
【0048】
装置A2においては工程(a2)を行うが、装置A2としては前述の抽出塔(工程(a
)を行うために用いる抽出塔A)と同様の抽出塔を用いることができる。ただし、装置A
2(したがって工程(a2))に、ライン313から抽出溶剤を供給する。また、ライン
312が装置A2に接続される(特には、ライン311よりも塔頂側に接続される)。
【0049】
工程(a2)から得られる抽出溶剤相が、換言すれば、抽出塔(装置A2)の塔頂から
得られる抽出剤相が、「工程(a)から得られる抽出相」もしくは「抽出器から得られる
抽出相」としてライン303を経て抽出溶剤回収器(第1の蒸留塔)Bに供給される。抽
出溶剤回収器(第1の蒸留塔)Bの操作圧力としては、塔頂圧力として、0kPaG~5
.0kPaGが好ましく、操作温度としては、塔底温度として、103℃~108℃が好
ましい。
【0050】
工程(a2)から得られる抽残相、換言すれば抽出塔(装置A2)の塔底から得られる
抽残相が、「工程(a)から排出される抽残相」もしくは「抽出器から排出される抽残相
」としてライン304を経て抽出溶剤分離器(第2の蒸留塔)Cに供給される。抽出溶剤
分離器(第2の蒸留塔)Cの操作圧力としては、塔頂圧力として、0kPaG~5.0k
PaGが好ましく、操作温度としては、塔底温度として、98℃~103℃が好ましい。
【0051】
図1に示した形態と同様に、抽出溶剤回収器(第1の蒸留塔)Bからは、抽出溶剤が富
化された画分が塔頂からライン305に排出され、有機カルボン酸が富化された画分が塔
底からライン306に排出される。また、抽出溶剤分離器(第2の蒸留塔)Cからは、抽
出溶剤が富化された画分が塔頂からライン307に排出され、水が富化された画分が塔底
からライン308に排出される。
【0052】
次に、
図5を参照して、装置A1として使用可能な装置について説明する。この装置は
、ミキサーA11と、デカンターA12とを含む。
【0053】
ミキサーA11には、ライン502から抽出溶剤が供給され、ライン501から原料と
しての有機カルボン酸含有水溶液が供給される。ミキサーA11に供給される有機カルボ
ン酸含有水溶液に対するミキサーA11に供給される抽出溶剤の質量基準の比率は0.0
1~0.3が好ましい。また、抽出操作温度としては、25℃~35℃が好ましい。ミキ
サーにおいて抽出溶剤と原料としての有機カルボン酸含有水溶液とが接触混合される。ミ
キサーには適宜攪拌機(不図示)が備わる。デカンターの内部には、堰51によって相互
に仕切られた2つの槽52および53が存在する。
【0054】
ミキサーから得られた混合物が、ライン503からデカンターA12に供給され、第1
の槽52に流入し、セトリングによって、抽出溶剤相(上層)と水相(下層)とに分離す
る。抽出溶剤相は、堰51を超えて第2の槽53に流入し、第2の槽(特にはその底部)
からライン512に排出される。一方水相は、第1の槽(特にはその底部)からライン5
11に排出される。
【0055】
第1の槽52の、抽出剤相と水相との境界部に開口するノズル54から、ライン513
にポリマーや固形物を排出することができる。このポリマーや固形物は、有機カルボン酸
含有水溶液の中に溶解しており、溶剤との接触により、液々界面に現れる物質である。こ
のようなポリマーや固形物が、例えば抽出塔内に多量に蓄積すると、抽出塔の運転を停止
せざるを得なくなることがある。したがって、上記のようにしてポリマーや固形物を除去
することが好ましい。
【0056】
図5に示した装置A1を
図3に示すプロセスに適用する場合、ライン501、502、
511および512がそれぞれ、ライン301、302、311、312に対応する。
【0057】
〔有機カルボン酸水溶液製造装置の第4の形態〕
図4を参照して、有機カルボン酸水溶液製造装置の別の形態を説明する。
【0058】
この形態は、
図3に示した第3の形態と、次の点で異なる。
i)装置A1(したがって工程(a1))から得られた抽出溶剤相を、ライン412を経
て、抽出溶剤回収器B(したがって工程(b))に、抽出相として供給する。
ii)装置A2(したがって工程(a2))から得られた抽出相を、ライン403を経て
、装置A1(したがって工程(a1))に、抽出溶剤として供給する、すなわちリサイク
ルする。
iii)抽出溶剤回収器B(したがって工程(b))から得られる抽出溶剤富化画分を、
ライン405を経て、装置A2(したがって工程(a2))に、抽出溶剤として供給する
。これにより、抽出溶剤をリサイクルして有効活用することができる。
iv)抽出溶剤分離器C(したがって工程(c))から得られる、抽出溶剤富化画分を、
ライン407を経て、抽出溶剤回収器B(したがって工程(b))に供給する。
v)ライン313に相当するライン(系外から装置A2に抽出溶剤を供給するライン)は
存在しない。
vi)ライン402は定常運転時には使用しない。定常運転時には、ライン402からで
はなく、ライン403から抽出溶剤が装置A1に供給される。ライン402は、スタート
アップ時に抽出溶剤を装置A1に供給するために使用する。ライン402は、運転の途中
で必要な場合に抽出溶剤を補充するためにも使用できる。
【0059】
前記ivのために、抽出溶剤分離器Cとして、放散塔(リボイラーを備え、還流機構を
有しない)を使用する。放散塔の操作圧力としては、塔頂圧力として、0.0kPaG~
5.0kPaGが好ましく、操作温度としては、塔底温度として、103℃~108℃が
好ましい。抽出溶剤分離器Cからの留出ガス(ライン407)を凝縮させずに、ガスのま
ま抽出溶剤回収器Bに供給する。そして、ライン412から供給される液(主に抽出溶剤
)も抽出溶剤回収塔Bへ供給する。
【0060】
図4に示す形態は、上記の点以外は
図3に示す形態と同様のプロセスフローを有する。
この形態でも前述のポリマー等の除去が可能である。
【0061】
〔有機カルボン酸水溶液製造装置の第5の形態〕
図8を参照して、後に詳述する第1および第2の抽出溶剤を用いる場合、特には、第1
の抽出溶剤と第2の抽出溶剤とを混合した混合抽出溶剤を用いる場合の有機カルボン酸水
溶液製造装置の一形態を説明する。
【0062】
この形態の、
図1に示した第1の形態との相違点は、次のとおりであり、他の点につい
ては本形態は第1の形態と同様とすることができる。
【0063】
・本形態では、抽出溶剤(ライン802)として、第1および第2の抽出溶剤からなる
混合抽出溶剤が抽出器Aに供給される。第1の抽出溶剤は、後述する構造式1のエーテル
からなる群から選ばれる一もしくは複数種からなる。第2の抽出溶剤は、後述する構造式
2の芳香族炭化水素、構造式3のケトン、構造式4の環状ケトンおよび構造式5の芳香族
ケトンからなる群から選ばれる一もしくは複数種からなる。抽出器Aによって、原料(ラ
イン801)に含まれる有機カルボン酸を、混合抽出溶剤を含む抽出相(ライン803)
に抽出する。
【0064】
・工程(b)において、工程(b1)と工程(b2)とを行う。
(b1)工程(a)から得られる抽出相(ライン803)を、第1の抽出溶剤回収器B1
を用いて、第1の抽出溶剤が富化された画分(ライン805)と、第2の抽出溶剤および
有機カルボン酸が富化された第2の画分(ライン806)とに分離する工程。
(b2)工程(b1)から得られる第2の画分(ライン806)を、第2の抽出溶剤回収
器B2を用いて、第2の抽出溶剤が富化された第3の画分(ライン813)と、有機カル
ボン酸が富化された第4の画分(ライン814)とに分離する工程。
【0065】
このために、第1の抽出溶剤回収器B1(したがって工程(b1))から得られる第2
の画分を、ライン806を経て、第2の抽出溶剤回収器B2(したがって工程(b2))
に、供給する。
【0066】
この形態で使用する抽出溶剤回収器は、第1の溶剤回収のための装置(第1の抽出溶剤
回収器B1)および第2の溶剤回収のための装置(第2の抽出溶剤回収器B2)を含む。
第1の抽出溶剤回収器B1においては工程(b1)を行い、第2の抽出溶剤回収器B2に
おいては工程(b2)を行う。
【0067】
〔有機カルボン酸水溶液製造装置の第6の形態〕
図9を参照して、
図8に示した形態の変形形態について説明する。本形態の、
図8に示
した形態との相違点は次のとおりであり、他の点については、本形態は
図8に示した形態
と同様とすることができる。
【0068】
・工程(a)において、工程(a1)と工程(a2)とを行う。したがって、抽出器は
、第1の抽出装置A1および第2の抽出装置A2を含む。工程(a1)、(a2)ならび
に装置A1、A2は、
図4に示した形態と同様である。
【0069】
ただし、装置A1(工程(a1))から得られた抽出溶剤相は、ライン912を経て、
第1の抽出溶剤回収器B1(工程(b1))に、工程aもしくは抽出器から得られる抽出
相として供給する。また、装置A2(したがって工程(a2))から得られた抽出相を、
ライン903を経て、第1の抽出溶剤回収器B1(したがって工程(b1))に、工程a
もしくは抽出器から得られる抽出相として供給する。
【0070】
また、
図4の形態のように抽出溶剤回収器B(工程(b))から得られる抽出溶剤富化
画分(ライン905)を装置A2(工程(a2))に供給することもできるが、本形態で
はこのような操作は行っていない。その代わりに、装置A2(工程(a2))には、系外
から、ライン915を経て、混合抽出溶剤が供給される。第1、第3および第4の画分は
系外に排出することができる。
【0071】
したがって、第1の抽出溶剤回収器B1(したがって工程(b1))には、装置A1(
したがって工程(a1))から得られた抽出溶剤相がライン912を経て供給され、装置
A2(したがって工程(a2))から得られた抽出相がライン903を経て供給され、装
置C(したがって工程(c))から得られる抽出溶剤が富化された画分が、ライン907
を経て供給される。
【0072】
抽出溶剤分離器Cとして、放散塔(リボイラーを備え、還流機構を有しない)を使用す
ることが好ましい。放散塔の操作圧力としては、塔頂圧力として、0.0kPaG~5.
0kPaGが好ましく、操作温度としては、塔底温度として、103℃~108℃が好ま
しい。抽出溶剤分離器Cからの留出ガス(ライン907)を凝縮させずに、ガスのまま第
1の抽出溶剤回収器B1に供給する。そして、ライン912から供給される液(主に抽出
溶剤)も第1の抽出溶剤回収塔B1へ供給する。
【0073】
第1の抽出溶剤回収器B1の蒸留塔の理論段数は、使用する溶剤と有機カルボン酸水溶
液の組み合わせにより、3段以上が好ましく、5段以上がより好ましい。また、差圧と装
置規模の点から30段以下が好ましく、25段以下がより好ましい。また、第1の抽出溶
剤回収器B1の操作圧力としては、塔頂圧力として、0kPaG~5kPaGが好ましく
、塔底温度として、60℃~65℃が好ましい。
【0074】
第2の抽出溶剤回収器B2の蒸留塔の理論段数は、使用する溶剤と有機カルボン酸水溶
液の組み合わせにより、3段以上が好ましく、5段以上がより好ましい。また、差圧と装
置規模の点から30段以下が好ましく、20段以下がより好ましい。また、第2の抽出溶
剤回収器B2の操作圧力としては、塔頂圧力として、0kPaG~5kPaGが好ましく
、塔底温度として、100℃~115℃が好ましい。
【0075】
〔有機カルボン酸水溶液製造装置の第7の形態〕
図10を参照して、
図9に示した形態の変形形態について説明する。本形態の、
図9に
示した形態との相違点は次のとおりであり、他の点については本形態は
図9に示した形態
と同様とすることができる。
【0076】
・第1の抽出溶剤回収器B1(したがって工程(b1))から得られる第1の画分を、
ライン1005を経て、装置A1(したがって工程(a1))に、抽出溶剤として供給す
る。効率的なポリマー除去のためには、エーテル類のみを装置A1(したがって工程(a
1))に供給することが好ましい。
【0077】
・第2の抽出溶剤回収器B2(したがって工程(b2))から得られる第3の画分を、
ライン1013を経て、装置A2(したがって工程(a2))に、抽出溶剤として供給す
る。これにより、抽出溶剤をリサイクルして有効活用することができる。
【0078】
・ライン1002は定常運転時には使用しない。定常運転時には、ライン1002から
ではなく、ライン1005から抽出溶剤(第1の画分)が装置A1に供給される。ライン
1002は、スタートアップ時に混合抽出溶剤もしくは第1の抽出溶剤を装置A1に供給
するために使用する。ライン1002は、運転の途中で必要な場合に混合抽出溶剤もしく
は第1の抽出溶剤を補充するためにも使用できる。また、ライン1015は定常運転時に
は使用しない。定常運転時には、ライン1015からではなく、ライン1013から抽出
溶剤(第3の画分)が装置A2に供給される。ライン1015は、スタートアップ時に混
合抽出溶剤を装置A2に供給するために使用する。ライン1015は、運転の途中で必要
な場合に混合抽出溶剤を補充するためにも使用できる。
【0079】
したがって本形態では、第1の抽出溶剤回収器B1(したがって工程(b1))から得
られた第1の画分(エーテル成分が富化された画分)を、ライン1005を経て、装置A
1(したがって工程(a1))に供給する。また、第1の抽出溶剤回収器B1(したがっ
て工程(b1))から得られた第2の画分を、ライン1006から第2の抽出溶剤回収器
B2(したがって工程(b2))に供給する。
【0080】
〔有機カルボン酸水溶液製造装置の第8の形態〕
図11を参照して、
図10に示した形態の変形形態について説明する。本形態の、
図1
0に示した形態との相違点は次のとおりであり、他の点については、本形態は
図10に示
した形態と同様とすることができる。
【0081】
図11に示されるように、第1の抽出溶剤回収器B1は、その中段部(例えば蒸留塔の
中段すなわち、塔頂でも塔底でもない段)に液を排出できる構造を有する。第1の抽出溶
剤回収器B1の塔中段部から、抽出溶剤(特には第2の抽出溶剤)が富化された第5の画
分を排出することで、第2の抽出溶剤回収器B2(したがって工程(b2))の負荷を低
減することができる。その場合、第5の画分は、ライン1120を経て、装置A2(した
がって工程(a2))に供給することが好ましい。
【0082】
第2の抽出溶剤回収器B2(したがって工程(b2))には、第1の抽出溶剤回収器B
1(したがって工程(b1))から得られた第2の画分がライン1106を経て供給され
る。また、第2の抽出溶剤回収器B2(したがって工程(b2))から得られた第3の画
分(第2の抽出溶剤が富化された画分)は、ライン1113を経て、装置A2(したがっ
て工程(a2))に供給する。また、第2の抽出溶剤回収器B2(したがって工程(b2
))の塔底からは、第4の画分(有機カルボン酸が富化された画分)がライン1114に
排出される。本形態の第5の画分(ライン1120)と第3の画分(ライン1113)と
を合わせた流体は、
図10に示した形態の第3の画分(ライン1013)と同等とするこ
とができる。
【0083】
工程(b1)と工程(b2)は一つの装置で行ってもよい。その場合は、例えば、蒸留
塔を用い、その塔頂から、第1の画分(エーテル類が富化された画分)が得られ、塔中段
から、第3の画分(残りの抽出溶剤が富化された画分)が得られ、塔底から第4の画分(
有機カルボン酸が富化された画分)を得ることができる。
【0084】
〔濃縮処理対象となる原料としての有機カルボン酸含有水溶液〕
本発明は、原料としての有機カルボン酸含有水溶液が、アクリル酸、メタクリル酸、テ
レフタル酸、テレフタル酸ジメチル、ポリエチレンテレフタレート、マレイン酸、フタル
酸、フマル酸またはプロピオン酸の製造プロセスから排出された廃水(プロセス廃水)で
ある場合に、好ましく利用される。
【0085】
廃水が、R-COOHで表される一もしくは複数の有機カルボン酸を含むことができる
。ここでRは、水素および炭素数1から5までの飽和または不飽和炭化水素基から選ばれ
る。
【0086】
また、廃水が、ギ酸、酢酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロピオン酸、マレイン酸、
無水マレイン酸およびα-メチル無水マレイン酸からなる群から選ばれる一もしくは複数
の有機カルボン酸を含む場合に、本発明が好ましく利用される。なお、有機カルボン酸は
、無水物であってもよい。
【0087】
濃縮しようとする原料としての有機カルボン酸含有水溶液中の、特には廃水中の有機カ
ルボン酸の合計濃度が、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質
量%以下であることがより好ましい。
【0088】
製造した有機カルボン酸含有水溶液中のカルボン酸類の濃度を、少なくとも廃水中の有
機カルボン酸の合計濃度を下回らない範囲で、20質量%~50質量%に調整して廃液燃
焼装置を使用する従来の廃液処理プロセスで処理することが好ましい。したがって濃縮後
の、製造した有機カルボン酸含有水溶液中のカルボン酸類の濃度(合計濃度)をこの範囲
にすることができる。濃縮後の当該濃度は、省エネ効果の観点から20質量%以上が好ま
しく、廃液燃焼装置の運転安定性の観点から、25質量%以下が好ましい。
【0089】
〔抽出溶剤〕
カルボン酸類との親和性(水からの抽出効率)、非水溶性、および蒸発潜熱の小ささ、
の観点から、抽出溶剤が、
構造式1:R1-O-R2
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数4以下のアルキル基を表す)
で表わされるエーテル、
構造式2:Ph-R3
(式中、Phはフェニル基を表し、R3は炭素数3以下のアルキル基を表す)
で表わされる芳香族炭化水素、
構造式3:R4-C(=O)-R5
(式中、R4およびR5はそれぞれ独立して炭素数4以下のアルキル基を表す)
で表わされるケトン、
構造式4:CyR=O
(式中、CyRは炭素数6以下のシクロアルキリデン基を表す)
で表わされる環状ケトン、および
構造式5:Ph-C(=O)-R6
(式中、Phはフェニル基を表し、R6は炭素数3以下のアルキル基を表す)
で表わされる芳香族ケトン
からなる群から選ばれる一もしくは複数種であることが好ましい。
【0090】
より好ましくは、抽出溶剤はメチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、ジエチル
エーテル(DEE)、ジイソブチルエーテル(DIBE)、ジイソプロピルエーテル(D
IPE)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シク
ロヘキサノンからなる群から選ばれる一もしくは複数種である。
【0091】
抽出溶剤は有機カルボン酸水溶液の含有するカルボン酸の種類により適宜組み合わされ
るが、例えば、マレイン酸など親水性の高いカルボン酸が含まれる場合は、ケトン類を含
む抽出溶剤が好ましいが、有機カルボン酸の抽出効率と溶剤の分離除去に要するエネルギ
ーの両立を図る観点から、第1の抽出溶剤と第2の抽出溶剤とを用いることが好ましい。
この場合、第1の抽出溶剤と第2の抽出溶剤との混合抽出溶剤を用いることができる。
【0092】
ここで、第1の抽出溶剤は、構造式1で表わされるエーテルからなる群から選ばれる一
もしくは複数種からなる。第2の抽出溶剤は、構造式2で表わされる芳香族炭化水素、構
造式3で表わされるケトン、構造式4表わされる環状ケトン、および構造式5で表わされ
る芳香族ケトンからなる群から選ばれる一もしくは複数種からなることが好ましい。
【0093】
この時の混合抽出溶剤を構成する抽出溶剤の比率は、「第1の抽出溶剤:第2の抽出溶
剤」の質量比で、6:4~8:2が好ましい。この比率は、マレイン酸などの親水性の高
いカルボン酸の抽出効率の観点から、8:2以下が好ましい。一方、水相側に溶解する溶
剤量が増加することを抑制し、抽出溶剤を回収・再利用する際のエネルギーが大きくなる
ことを抑制する観点から、6:4以上が好ましい。
【0094】
より好ましくは、第1の抽出溶剤は、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、
ジエチルエーテル(DEE)、ジイソブチルエーテル(DIBE)、およびジイソプロピ
ルエーテル(DIPE)からなる群から選ばれる一もしくは複数種からなり、第2の抽出
溶剤は、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロ
ヘキサノンからなる群から選ばれる一もしくは複数種からなる。
【0095】
工程(b)では、留出成分(抽出溶剤が富化された画分)中のカルボン酸合計濃度は、
この留出成分を抽出溶剤として再利用する場合の抽出効率の観点から、200質量ppm
以下が好ましい。
図8~10に示したように、工程(b1)および(b2)を行う場合、
工程(b2)の留出画分すなわち第3の画分(ライン813、913、1013)中のカ
ルボン酸合計濃度が、200質量ppm以下であることが好ましい。
図11に示したよう
に、工程(b1)および(b2)を行い、かつ工程(b1)で用いる第1の抽出溶剤回収
器B1の塔中段部から、抽出溶剤(特には第2の抽出溶剤)が富化された第5の画分を排
出する場合、第3の画分と第5の画分を合わせた流体中のカルボン酸合計濃度が、200
質量ppm以下であることが好ましい。
【0096】
工程(c)では、溶剤ロス抑制の観点から、缶出液(水が富化された画分)中の抽出溶
剤濃度が100質量ppm以下であることが好ましい。
【0097】
〔廃水処理〕
前述の工業的なメタクリル酸を製造するプロセスでは、イソブチレンおよび/またはt
ert-ブチルアルコールを原料とし、気相接触酸化反応を用いてメタクロレイン(メタ
クリルアルデヒド)を製造し、このメタクロレインあるいは気相接触酸化反応で生成する
メタクロレインと残留する原料イソブチレンやtert-ブチルアルコールをも含有する
混合物を、さらに気相接触酸化してメタクリル酸を製造する。
【0098】
このメタクリル酸製造プロセスからの廃水(酢酸およびその他の副生有機化合物を含む
水溶液)を燃焼によって処理する廃水処理プロセスの例を
図6に示す。
【0099】
廃液蒸発装置61に、ライン601から廃水が供給される。また、この蒸発装置には、
ライン611からメタクリル酸製造プロセスからの排ガス(窒素、水、二酸化炭素、一酸
化炭素、アルデヒド、その他の副生する有機化合物を含む)も供給される。
【0100】
廃液蒸発装置61は、その底部に再沸器(不図示)を備えており、再沸器にスチームを
供給することによって、蒸発器に熱を与えて廃水を蒸発させる。なお、ここでは加熱媒体
としてスチームを例にして説明するが、スチーム以外の加熱媒体を使用することもできる
。
【0101】
廃液蒸発装置から得られたガスは、ライン602を経て、ライン612からの空気とラ
イン604からの第1の排熱回収装置63で冷却された燃焼ガスの一部とともに排ガス燃
焼装置62に供給される。
【0102】
排ガス燃焼装置62では、混合ガスに含まれていた可燃物が燃焼する。
【0103】
その燃焼ガスがライン603から第1の排熱回収装置63に供給され、燃焼ガスの熱が
蒸気として回収されて燃焼ガスが冷却され、ライン605に排出される。
【0104】
廃液蒸発装置61で蒸発しなかった廃水は、ライン606を経て、ライン613からの
空気とともに濃縮廃液燃焼装置64に供給される。
【0105】
濃縮廃液燃焼装置64では、廃液蒸発装置61で蒸発しなかった廃水中に含まれていた
可燃物が燃焼する。
【0106】
その燃焼ガスがライン607から第2の排熱回収装置65に供給され、燃焼ガスの熱が
蒸気として回収されて燃焼ガスが冷却され、ライン608に排出される。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定され
るものではない。
【0108】
〔実施例1〕
図7に示したプロセスフローを有するプラントの熱物質収支をとった。
【0109】
この装置は、有機カルボン酸水溶液製造装置71と、廃水処理装置72と有する。この
製造装置71は、
図4に示したプロセスフローを有する有機カルボン酸水溶液製造装置で
ある。また、この廃水処理装置72は、
図6に示したプロセスフローを有する廃水処理装
置である。
【0110】
メタクリル酸製造プロセスからの廃水を模した酢酸水溶液25kg/hをライン701
に供給し、それを17kg/hの流れ(ライン702)と、8kg/hの流れ(ライン7
03)との、2つの流れに分岐した。
【0111】
ライン702の流れは、有機カルボン酸水溶液製造装置71に原料として供給した。製
造装置71のプロセスフローは
図4に示されるとおりであり、
図7のライン702の流れ
は、
図4のライン401に供給される。
【0112】
・有機カルボン酸水溶液濃縮
有機カルボン酸水溶液製造装置71について、
図4に示されるプロセスフローに基づき
、熱物質収支をとった。
【0113】
抽出溶剤としてはMTBEを用いた。
抽出塔A2としては、対向流抽出塔(水相を分散)を用いた。
溶剤回収器Bとしては、運転圧力0kPaGの蒸留塔を用いた。
溶剤分離器Cとしては、運転圧力0kPaGの放散塔を用いた。
【0114】
また、供給MTBE(ライン402)は、定常状態においてライン405から抽出塔A
2に送られるMTBEが23.33kg/hとなるように調節した。ライン402は定常
状態時には使用しないので、表4においては成分流量をゼロ(0)とし、総流量の欄には
「S/Uのみ」と記載した。S/Uはスタートアップを意味する。
【0115】
装置A1(特にはデカンタ)から排出されるポリマーは、長期間運転に伴って若干量排
出されるものであるので、ここでは無視した。ただし、表6におけるライン513の流量
は、堆積したポリマーの量に応じて不定期に間欠的に排出した際の流量を示す。
【0116】
このプロセスにおいて、溶剤回収器Bに備わるリボイラーおよび溶剤分離器Cに備わる
リボイラーにおけるスチーム消費は合計2.5kg/hであった。
【0117】
このようにして、原料としての酢酸含有廃水(ライン401)を濃縮して、高濃度酢酸
水溶液(ライン406)が製造される。この高濃度酢酸水溶液は、
図7のライン704に
排出される。一方、
図4のライン408に得られる水が富化された画分は、
図7のライン
705に排出される。ライン705の流れは、適宜活性汚泥処理によって処理したうえで
、環境に排出することができる。
【0118】
ライン704の流れを、ライン703の流れと合流し、ライン706から廃水処理装置
72に供給した。廃水処理装置72のプロセスフローは
図6に示されるとおりであり、図
7のライン706の流れは、
図6のライン601に供給した。
【0119】
・廃水処理
廃水処理装置72について、
図6に示したプロセスフローに基づき、熱物質収支をとっ
た。
【0120】
メタクリル酸製造プロセスからの排ガスを想定したガスをライン611に供給した。な
お、
図6のライン611、612、613に相当するラインは、
図7においては図示され
ない。
【0121】
図6のライン605に得られる流れ(燃焼排ガス)は、
図7のライン707に排出され
る。
図6のライン608に得られる流れも、ライン605と同じく
図7のライン707に
排出される。
【0122】
図4に示されるストリームの詳細を、表1に示す。また有機カルボン酸水溶液製造装置
および廃水処理装置の主要なエネルギー消費を、表2に示す。
図6に示されるストリーム
の詳細を、表7に示す。
【0123】
なお、表中、高沸点物質とは、常温で固体の物質および酢酸よりも沸点が高い物質をい
う。また、説明した以外の冷却や昇圧、減圧も適宜行っているが、本発明に大きく影響し
ないので、省略した。
【0124】
〔比較例1〕
図7において、実施例1と同様のメタクリル酸製造プロセスからの廃水を想定した酢酸
水溶液(ライン701)の全量を、ライン703に流し、ライン706を経て廃水処理装
置72に供給した。ライン702には何も供給しなかった。つまり、酢酸水溶液の全量を
、製造装置71を通すことなく、廃水処理装置72に供給した。
【0125】
これ以外は実施例1と同様にして、廃水処理装置72について熱物質収支をとった。
【0126】
廃水処理装置の主要なエネルギー消費を、表2に示す。表2から、比較例1と比較して
実施例1のほうが、合計スチーム消費量が大幅に少なく、従って省エネルギー化が達成さ
れたことがわかる。
【0127】
〔実施例2~4〕
実施例2~4において、
図1、2および3にそれぞれ示されるプロセスフローを有する
有機カルボン酸水溶液製造装置について熱物質収支をとった。各例について、処理しよう
とする有機カルボン酸含有水溶液は、実施例1と同様とした。各例についての熱物質収支
をそれぞれ表3~5に示す。
【0128】
〔参考例1〕
図5に示した装置について、熱物質収支をとった。この装置に原料として供給する有機
カルボン酸含有水溶液は、実施例1と同様とした。熱物質収支を表6に示す。
【0129】
〔実施例5〕
図4に示されるプロセスフローを有する有機カルボン酸水溶液製造装置において、抽出
溶剤としてMTBEとDEEを質量比8対2で混合した混合抽出溶剤を、スタートアップ
時にライン402から装置A1に供給した。このとき、供給混合抽出溶剤(ライン402
)は、定常状態においてライン405から抽出塔A2に送られる流体(混合抽出溶剤が富
化された画分)の質量流量が25.22kg/hとなるように調節した。ライン402は
定常状態時には使用しないので、表8においては成分流量をゼロ(0)とし、総流量の欄
には「S/Uのみ」と記載した。
【0130】
装置A1(特にはデカンタ)から排出されるポリマーは、長期間運転に伴って若干量排
出されるものであるので、ここでは無視した。
【0131】
これ以外は実施例1と同様とした。熱物質収支を表8に示す。
【0132】
〔実施例6〕
図4に示されるプロセスフローを有する有機カルボン酸水溶液製造装置において、原料
として、マレイン酸を含む有機カルボン酸水溶液を、抽出溶剤としてMTBEを用いた。
マレイン酸以外の有機カルボン酸水溶液の構成成分は実施例1と同様である。
【0133】
また、供給MTBE(ライン402)は、定常状態においてライン405から抽出塔A
2に送られる流体(抽出溶剤が富化された画分)の質量流量が69.92kg/hとなる
ように調節した。ライン402は定常状態時には使用しないので、表9においては成分流
量をゼロ(0)とし、総流量の欄には「S/Uのみ」と記載した。
【0134】
装置A1(特にはデカンタ)から排出されるポリマーは、長期間運転に伴って若干量排
出されるものであるので、ここでは無視した。
【0135】
これ以外は実施例1と同様とした。熱物質収支を表9に示す。
【0136】
このプロセスにおいて、溶剤回収器Bに備わるリボイラーおよび溶剤分離器Cに備わる
リボイラーにおけるスチーム消費は合計8.3kg/hであった(表2参照)。
【0137】
〔実施例7〕
図10に示されるプロセスフローを有する有機カルボン酸水溶液製造装置について熱物
質収支をとった。
【0138】
スタートアップ時に、抽出溶剤としてMTBEとMEKを質量比6対4の割合で混合し
た混合抽出溶剤をライン1015から装置A2に供給するとともに、第1の抽出溶剤(M
TBE)のみをライン1002から装置A1に供給した。
抽出塔A2としては、対向流抽出塔(水相を分散)を用いた。
第1の抽出溶剤回収器B1および第2の抽出溶剤回収器B2としては、運転圧力0kPa
Gの蒸留塔を用いた。
溶剤分離器Cとしては、運転圧力0kPaGの放散塔を用いた。
【0139】
また、供給MTBE(ライン1002)は、定常状態においてライン1005から抽出
塔A1に送られる流体(MTBEが富化された画分)の流量が4.0kg/hとなるよう
に調節した。ライン1002は定常状態時には使用しないので、表10においては成分流
量をゼロ(0)とし、総流量の欄には「S/Uのみ」と記載した。
【0140】
また、供給混合抽出溶剤(ライン1015)は、定常状態においてライン1013から
抽出塔A2に送られる流体(主に混合抽出溶剤)が19.57kg/hとなるように調節
した。ライン1002と同様に、ライン1015は定常状態時には使用しないので、表1
0においては成分流量をゼロ(0)とし、総流量の欄には「S/Uのみ」と記載した。
【0141】
装置A1(特にはデカンタ)から排出されるポリマーは、長期間運転に伴って若干量排
出されるものであるので、ここでは無視した。
【0142】
処理しようとする有機カルボン酸含有水溶液(ライン1001)は、実施例6(ライン
401)と同様とした。熱物質収支を表10に示す。
【0143】
このプロセスにおいて、第1の抽出溶剤回収器B1および第2の抽出溶剤回収器B2に
備わるリボイラーおよび溶剤分離器Cに備わるリボイラーにおけるスチーム消費は合計6
.0kg/hであった(表2参照)。
【0144】
廃水処理装置の主要なエネルギー消費を、表2に示す。表2から、比較例1と比較して
実施例5~7のほうが、合計スチーム消費量が少なく、従って省エネルギー化が達成され
たことがわかる。
【0145】
実施例6における合計スチーム消費量よりも実施例7における合計スチーム消費量の方
が少なく、第1の抽出溶剤(特にはエーテル類)と第2の抽出溶剤(特にはケトン類)の
混合抽出溶剤を用いることで、マレイン酸のように親水性の高いカルボン酸を含むカルボ
ン酸水溶液からでも、効率良くカルボン酸を濃縮できることがわかる。また、表9および
表10からわかるように、実施例7における使用抽出溶剤量は実施例6における抽出溶剤
量と比較して少量であり、そのためポンプやタンク等の機器費およびランニングコストも
抑えることができる。
【符号の説明】
【0146】
A 抽出器
A1 第1の抽出装置
A2 第2の抽出装置
A11 ミキサー
A12 デカンター
B 抽出溶剤回収器
B1 第1の抽出溶剤回収器
B2 第2の抽出溶剤回収器
C 抽出溶剤分離器
51 堰
52 第1の槽
53 第2の槽
54 ノズル
61 廃液蒸発装置
62 排ガス燃焼装置
63 第1の排熱回収装置
64 濃縮廃液燃焼装置
65 第2の排熱回収装置
71 有機カルボン酸水溶液製造装置
72 廃水処理装置
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】