(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤、洗浄液及び洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B01D 65/06 20060101AFI20220906BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B01D65/06
B01D71/56
(21)【出願番号】P 2022517490
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2022011877
【審査請求日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2021159591
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】ウォン シン イー
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-097991(JP,A)
【文献】特開2008-229418(JP,A)
【文献】特開2016-215125(JP,A)
【文献】特開2008-132421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00- 71/82
C02F 1/44
C07F 7/00- 7/30
C02F 5/00- 5/14
C11D 1/00- 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化ハロゲンと、アミノ基を含まない脂肪族カルボン酸、アミノ基を含まないホスホン酸化合物、ポリリン酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上を含むキレート剤と、アルカリ剤とを含むpH13以上の水溶液よりなる、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項2】
前記洗浄剤中の安定化ハロゲンの濃度が0.1~0.5 Mであり、前記キレート剤の濃度が0.2~2 Mであり、アルカリ剤の濃度が1~5 Mである請求項1の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項3】
前記安定化ハロゲンがモノクロロスルファミン酸を含む請求項1又は2の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項4】
前記アルカリ剤が水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの少なくとも一方である請求項1ないし3のいずれか1項の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項5】
分子量1000未満のアミノ基およびアミンオキシドを分子構造中に有しないアニオン系界面活性剤を含む請求項1ないし4のいずれか1項の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項6】
前記水溶液中のアニオン系界面活性剤の濃度が0.002~0.5 Mである請求項5の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項7】
前記安定化ハロゲンが、1級アミノ基を有する化合物、アンモニア及びアンモニウム塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上と、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩との反応物である請求項1ないし6のいずれか1項の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤の希釈水溶液よりなる、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄液。
【請求項9】
前記洗浄液のpHが11~13である請求項8の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄液。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の洗浄液に芳香族ポリアミド系逆浸透膜を接触させる工程を有する、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理分野で使用される芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤、洗浄液、及び洗浄方法に関する。詳しくは、芳香族ポリアミド系逆浸透膜が汚染して、透過流束や阻止率などの膜性能が低下した際に、その性能を効果的に回復させるための洗浄剤と、この洗浄剤を含む洗浄液と、この洗浄液を用いた芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、全世界的な水供給量不足の対策として、RO(逆浸透)膜といった透過膜を用いたかん水の淡水化、排水回収が行われている。これらの透過膜を用いたシステムにおいて、透過膜の汚染による性能低下が問題となっており、汚染した透過膜を効果的に性能回復させる洗浄技術の開発が望まれている。
【0003】
近年、水処理用RO膜としては、低圧運転が可能で、脱塩性能に優れる芳香族ポリアミド系のRO膜が広く使われるようになってきている。しかし、芳香族ポリアミド系RO膜は、塩素に対する耐性が低いため、酢酸セルロース系のRO膜のように、運転条件下で塩素と接触させる処理を行うことができず、微生物や有機物による汚染が酢酸セルロース系のRO膜よりも起こりやすいという課題がある。一方、アルカリに対する耐性は、芳香族ポリアミド系RO膜の方が酢酸セルロース系RO膜よりも高く、pH10以上のアルカリ条件での洗浄を行うことが可能である。
【0004】
特許文献1には、耐アルカリ性の芳香族ポリアミドRO膜の洗浄剤として、クロラミン化合物とアルキルベンゼンスルホン酸塩などの界面活性剤と、アルカリ剤とを含むpH13以上の水溶液よりなる洗浄剤が記載されている。
【0005】
特許文献1の00512段落には、膜汚染物質の剥離効果を高めるために、さらにEDTAなどのキレート剤を配合してもよいと記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の洗浄剤にEDTA等のアミン系キレート剤を配合すると、クロラミン化合物と反応し、クロラミン化合物が失活することが認められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、芳香族ポリアミド系RO膜が汚染して透過流束や脱塩率などの性能が低下した際に、従来の洗浄剤では十分に除去することができない汚染物質を効果的に除去することができる洗浄剤及び洗浄液と洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 安定化ハロゲンと、アミノ基を含まない脂肪族カルボン酸、アミノ基を含まないホスホン酸化合物、ポリリン酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上を含むキレート剤と、アルカリ剤とを含むpH13以上の水溶液よりなる、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0011】
[2] 前記洗浄剤中の安定化ハロゲンの濃度が0.1~0.5 Mであり、前記キレート剤の濃度が0.2~2 Mであり、アルカリ剤の濃度が1~5 Mである[1]の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0012】
[3] 前記安定化ハロゲンがモノクロロスルファミン酸を含む[1]又は[2]の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0013】
[4] 前記アルカリ剤が水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの少なくとも一方である[1]ないし[3]のいずれか1項の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0014】
[5] 分子量1000未満のアミノ基およびアミンオキシドを分子構造中に有しないアニオン系界面活性剤を含む[1]ないし[4]のいずれか1項の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0015】
[6] 前記水溶液中のアニオン系界面活性剤の濃度が0.002~0.5 Mである[5]の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0016】
[7] 前記安定化ハロゲンが、1級アミノ基を有する化合物、アンモニア及びアンモニウム塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上と、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩との反応物である[1]ないし[6]のいずれか1項の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0017】
[8] [1]ないし[7]のいずれか1項に記載の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤の希釈水溶液よりなる、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄液。
【0018】
[9] 前記洗浄液のpHが11~13である[8]の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄液。
【0019】
[10] [8]又は[9]に記載の洗浄液に芳香族ポリアミド系逆浸透膜を接触させる工程を有する、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、塩素耐性の低い芳香族ポリアミド系RO膜であっても、塩素系洗浄剤成分を適用することが可能となる。このため、アルカリ条件における剥離効果、加水分解効果に加えて、安定化ハロゲンによる殺菌及び有機物分解効果、更には特定のキレート剤による洗浄効果が付加され、これらの効果が相乗的に作用して良好なアルカリ洗浄効果で芳香族ポリアミド系逆浸透膜の性能を効果的に回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例で用いた平膜試験装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図1の平膜試験装置の密閉容器の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
本発明の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤は、安定化ハロゲンと、アミノ基を含まない脂肪族カルボン酸、ポリリン酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上を含むキレート剤と、アルカリ剤とを含むpH13以上の水溶液よりなる。本発明の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄液は、この洗浄剤の希釈水溶液よりなる。
【0024】
<芳香族ポリアミド系逆浸透膜>
本発明は、芳香族ポリアミド系逆浸透膜(ナノ濾過(NF)膜を含む)を洗浄対象とする。
【0025】
<安定化ハロゲン>
本発明において、ハロゲン系洗浄剤成分として用いる安定化ハロゲンは、1級アミノ基を有する化合物、アンモニア、及びアンモニウム塩のいずれか(以下、これらを「NH2系化合物」と称す。)と、塩素系酸化剤や臭素系酸化剤などのハロゲン系酸化剤とを混合することにより生成させることができる。塩素系酸化剤としては次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩を使用することが好ましい。また、臭素系酸化剤としては臭素(液体臭素)、塩化臭素、臭素酸、臭素酸塩、次亜臭素酸等が挙げられる。安定化ハロゲンとしてはクロラミン化合物、すなわち、以下の反応式(1),(2)に示すような反応で次亜塩素酸(HOCl)と1級アミノ基を有する化合物(XNH2)とを反応させて得られる、アミノ基の水素原子が塩素原子に置換した化合物(XNHCl)が好ましい。この化合物は、膜に対する酸化作用が弱いため、塩素耐性の低い芳香族ポリアミド系RO膜であっても洗浄剤として用いることが可能となる。
【0026】
XNH2+HOCl⇔XNHCl+H2O (1)
XNH2+OCl-⇔XNHCl+OH- (2)
【0027】
1級アミノ基を有する化合物としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、スルファミン酸、スルファニル酸、スルファモイル安息香酸、アミノ酸などを挙げることができる。
【0028】
また、アンモニウム塩としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのNH2系化合物の中でもスルファミン酸(NH2SO2OH)が好ましい。スルファミン酸を用いてモノクロロスルファミンを生成させると安定なクロラミン化合物となる。スルファミン酸は、炭素を含まないため洗浄剤のTOC値を増加させない。スルファミン酸とアルカリ剤とを併用することで、非常に有効な洗浄剤となる。
【0029】
NH2系化合物と反応させる次亜塩素酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸のアルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸のアルカリ土類金属塩等を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
NH2系化合物と次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩を混合してクロラミン化合物を生成させる場合、NH2系化合物と次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩とは、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩由来の有効塩素(Cl2)と、NH2系化合物由来の窒素原子Nとのモル比であるCl2/Nモル比が、0.1~1、好ましく0.2~0.85、更に好ましくは0.3~0.7となるように用いることが、クロラミンの生成効率と安定性の点において好ましい。
【0031】
Cl2/Nモル比が上記上限よりも大きいと遊離塩素が生成する可能性があり、上記下限よりも小さいと使用したNH2系化合物に対してクロラミンの生成効率が低くなる。
【0032】
なおこの場合、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩の量がクロラミン化合物/界面活性剤含有アルカリ水溶液中のクロラミン化合物量となる。
【0033】
<キレート剤>
本発明で用いるキレート剤は、アミノ基を含まない脂肪族カルボン酸、アミノ基を含まないホスホン酸化合物、ポリリン酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上である。
【0034】
アミノ基を含まない脂肪族カルボン酸としては、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、PBTC(ホスホノブタントリカルボン酸)の他、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のモノマーが重合又は共重合してなる低分子水溶性ポリマーなどが例示される。
【0035】
アミノ基を含まないホスホン酸化合物としては、HEDP(ヒドロキシエチリデンジホスホン酸)、HPAA(ヒドロキシホスホノ酢酸)等を用いることができる。ポリリン酸としては、ヘキサメタリン酸、テトラポリリン酸、トリリン酸等を用いることができる。
【0036】
塩としては、ナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。
【0037】
<アルカリ剤>
本発明の洗浄剤に用いるアルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が好適である。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
<界面活性剤>
本発明の洗浄剤は界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、洗浄効果の面から、分子量1000以下のアニオン系界面活性剤が好ましい。分子量が過度に大きい界面活性剤では洗浄効果が得られないだけでなく、膜を汚染する場合がある。また、界面活性剤としては、アミノ基及びアミンオキシドを分子構造中に含まないものが好ましい。
【0039】
このようなアニオン系界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩などの1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
<洗浄剤のpH及び各成分濃度>
本発明の洗浄剤のpHは13以上である。洗浄剤中の安定化ハロゲン濃度は0.1~0.5Mであり、キレート剤濃度は0.2~2Mであり、アルカリ剤濃度は1~5Mであり、界面活性剤濃度は0.5M以下,例えば0.002~0.5Mであることが好ましい。
【0041】
<洗浄液のpH及び各成分濃度>
本発明の洗浄液は、この洗浄剤を水で希釈した水溶液よりなる。この洗浄液のpHが11未満であると、透過流束を十分に回復させることができない。洗浄液のpHは高い方が洗浄効果に優れるが、高過ぎると、洗浄液としての取り扱い性が悪くなり、RO膜等の透過膜が劣化する危険性が高くなる。洗浄液のpHは好ましくは11以上13以下である。
【0042】
この洗浄液中のクロラミン化合物等の安定化ハロゲン濃度は0.002~0.015Mであることが好ましく、特に0.005~0.01Mであることが好ましい。洗浄液の安定化ハロゲン濃度が低過ぎると十分な洗浄効果を得ることができず、高過ぎるとRO膜等の透過膜を劣化させるおそれがある。なお、クロラミン化合物濃度0.1Mとは全塩素濃度で7100mg-Cl2/Lに相当する濃度である。全塩素濃度はJIS K0400-33-10.1999等で規定するDPD法により測定することができる。
【0043】
クロラミン化合物は、従来、透過膜のスライムコントロール剤として用いられている。スライムコントロール剤としてのクロラミン化合物は、通常、全塩素濃度として0.05~50mg-Cl2/L程度の低濃度で用いられる。その際のpHは10未満である。これに対し、本発明の洗浄液は、クロラミン化合物を上記のような高濃度で含有し、pH11以上の高いアルカリ性を有し高い洗浄効果を有する。
【0044】
洗浄液中のキレート剤濃度は、0.004~0.06Mであることが好ましく、特に0.01~0.04Mであることが好ましい。
【0045】
また、洗浄液中の界面活性剤濃度は、0.0015M以下であることが好ましく、特に0.00005~0.001Mであることが好ましい。
【0046】
<洗浄剤及び洗浄液の製造方法>
本発明の洗浄剤は、前述のアルカリ剤の水溶液にスルファミン酸等のNH2系化合物を添加して溶解し、得られたNH2系化合物水溶液に、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩を添加して混合することにより調製することができる。上記アルカリ剤の水溶液は、水の量を50~90重量%とすることが好ましい。キレート剤及び界面活性剤は、洗浄剤の調製工程のうち、いずれの工程で添加されてもよく、前述のアルカリ剤の水溶液に予め含まれていてもよく、また、NH2系化合物水溶液に次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩を添加する際に添加してもよく、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩の添加の前後で添加してもよい。好ましくは、キレート剤や界面活性剤は次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩の添加の後に添加される。
【0047】
スルファミン酸等の1級アミノ基を有する化合物は、塩の形で添加してもよい。この塩としては、クロラミン化合物/界面活性剤含有アルカリ水溶液としたときに可溶性のものが挙げられ、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸アンモニウム等を用いることができる。NH2系化合物は、本発明の洗浄剤中のクロラミン化合物濃度が上記濃度となるように添加される。NH2系化合物の添加量は、アルカリ剤とNH2系化合物との含有割合が、N/アルカリ金属(モル比)で0.5~0.7とするのが好ましい。NH2系化合物は、粉末状態で、あるいは水溶液の状態で添加することができる。NH2系化合物としてスルファミン酸塩を用いる場合、スルファミン酸塩に含まれるアルカリ金属の量は、アルカリとして加算される。水溶液を用いる場合は、水溶液に含まれる水の量は、前記アルカリ水溶液の水の量として加算される。
【0048】
一方、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩は、有効塩素(Cl2)濃度として5~20重量%、好ましくは10~15重量%の水溶液として添加するのが好ましい。次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩は、本発明の洗浄剤中のクロラミン化合物濃度が上記濃度となるように、また、NH2系化合物と次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩との含有割合が、前述のCl2/Nモル比となるように添加される。これにより発泡や塩素臭の発生はなく、反応性、安定性、取扱性、無塩素臭等に優れた水溶液製剤からなる本発明の洗浄剤を効率よく製造することができる。この場合でも、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩は徐々に添加して混合するのが好ましい。
【0049】
本発明の洗浄液は、このようにして製造された本発明の洗浄剤を水、好ましくは純水で希釈することにより製造される。ただし、本発明の洗浄液は本発明の洗浄剤を経ることなく、直接上記と同様の方法で製造することもできる。
【0050】
<その他の洗浄剤成分>
本発明で用いる洗浄剤又は洗浄液には、その洗浄効果を損なわない範囲において、他の洗浄剤成分を添加してもよい。
【0051】
<洗浄方法>
本発明の洗浄液を用い芳香族ポリアミド系逆浸透膜を洗浄する方法としては、この洗浄液に芳香族ポリアミド系逆浸透膜を接触させればよく、特に制限はない。通常、透過膜モジュールの原水側に洗浄液を導入して静置する浸漬洗浄が行われる。
【0052】
洗浄液による浸漬洗浄時間には特に制限はなく、目的とする膜性能の回復率が得られる程度であればよいが、通常2~24時間程度である。
【0053】
上記の洗浄液による洗浄後は、通常、純水等の高純度水を通水して仕上げ洗浄を行う。
【0054】
なお、本発明による芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄に前後して、他の洗浄液による膜洗浄を行ってもよい。本発明の洗浄液を用いた芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄の前又は後に、クロラミン化合物及び界面活性剤を含まないアルカリ水溶液による洗浄を行ってもよい。また、スケールや金属コロイド除去に有効な酸洗浄を行ってもよい。
【実施例】
【0055】
[試験例1](クロラミン化合物のキレート剤に対する安定性試験)
本発明の洗浄剤に用いられるクロラミン化合物とキレート剤との反応性を試験するために、0.005Mモノクロロスルファミン酸を含むpH12の水酸化ナトリウム水溶液200mLに対し、キレート剤として、HEDP10g/L(0.05M)、クエン酸10g/L(0.05M)、ドデシル硫酸ナトリウム10g/L(0.03M)、EDTA10g/L(0.03M)、又はドデシルジメチルアミンオキシド10g/L(0.04M)添加し、残留塩素を測定した。塩素の残留率の経時変化を
図3に示す。
図3の通り、アミン系のEDTA又はドデシルジメチルアミンオキシドによりクロラミン化合物が分解され易いことが認められた。
【0056】
[試験例2]クロラミン化合物・キレート剤の併用による洗浄試験(1)
0.01Mモノクロロスルファミン酸を含むpH12の水酸化ナトリウム水溶液200mLに対しキレート剤としてEDTAを0.5%添加した洗浄液、トリリン酸ナトリウムを0.5%添加した洗浄液、及びトリリン酸ナトリウム2%添加した洗浄液の3種の洗浄液を調製した。
【0057】
各洗浄液に、下記の汚染芳香族ポリアミド系逆浸透膜(以下、RO膜という。)を浸漬し、常温にて6時間400rpmで撹拌し、洗浄効果を目視で比較した。
汚染RO膜:排水処理プラントから回収した、有機物で汚染されたRO膜(東レ社製芳香族ポリアミド系RO膜「TML10」)を8×5cmにカットしたもの。
【0058】
<結果>
その結果、トリリン酸ナトリウム0.5%添加洗浄液、又はトリリン酸ナトリウム2%添加洗浄液で洗浄した場合、EDTA0.5%添加洗浄液に比べて汚染物質除去効果が高いことが認められた。
【0059】
[試験例3]クロラミン化合物・キレート剤の併用による洗浄試験(2)
試験例2において、0.01Mモノクロロスルファミン酸を含むpH12の水酸化ナトリウム水溶液200mLに対し、キレート剤としてHEDPを1%又はPBTCを1%添加したこと以外は同様にして試験を行った。なお、ブランクとして、キレート剤を添加しない場合についても試験を行った。
【0060】
<結果>
その結果、HEDP又はPBTCを添加すると、洗浄効果が著しく向上することが認められた。
【0061】
[実施例1及び比較例1~3]
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0062】
以下の実施例及び比較例では、
図1,2に示す平膜試験装置及び下記の洗浄液を用いてRO膜の洗浄効果を調べた。
【0063】
<平膜試験装置>
この平膜試験装置において、RO膜供給水は、配管11より高圧ポンプ4で、密閉容器1のRO膜をセットした平膜セル2の下側の原水室1Aに供給される。
図2に示すように、密閉容器1は、原水室1A側の下ケース1aと、透過水室1B側の上ケース1bとで構成され、下ケース1aと上ケース1bとの間に、平膜セル2がOリング8を介して固定されている。平膜セル2はRO膜2Aの透過水側が多孔質支持板2Bで支持された構成とされている。平膜セル2の下側の原水室1A内はスターラー3で攪拌子5を回転させることにより攪拌される。RO膜透過水は平膜セル2の上側の透過水室1Bを経て配管12より取り出される。濃縮水は配管13より取り出される。密閉容器1内の圧力は、給水配管11に設けた圧力計6と、濃縮水取出配管13に設けた圧力調整バルブ7により調整される。
【0064】
<洗浄液>
比較例1:0.01Mモノクロロスルファミン酸のみを含むpH12の水酸化ナトリウム水溶液
比較例2:0.01Mモノクロロスルファミン酸及び0.026Mクエン酸を含むpH12の水酸化ナトリウム水溶液
比較例3:0.01Mモノクロロスルファミン酸、0.026Mクエン酸、及び0.00015Mドデシルメチルアミンオキシドを含むpH12の水酸化ナトリウム水溶液
実施例1:0.01Mモノクロロスルファミン酸、0.026Mクエン酸、及び0.00015M非アミン系アニオン界面活性剤を含むpH12の水酸化ナトリウム水溶液
【0065】
<RO膜、供試汚染RO膜、それらの純水透過流束>
排水処理プラントから回収した、有機物で汚染されたRO膜(東レ社製芳香族ポリアミド系RO膜「TML10」を、
図1,2に示す平膜試験装置に装填し、0.75MPa、25℃の条件で、汚染RO膜の純水透過流束を測定した。
【0066】
<洗浄試験>
その後、この汚染RO膜が装填された平膜試験装置の洗浄を行った。すなわち、汚染RO膜が装填された平膜試験装置に、上記の各洗浄液を供給して容器内を洗浄液で満たし、17時間浸漬洗浄した。浸漬洗浄後、純水を供給して容器内の洗浄液を純水で押し出した後、洗浄後のRO膜の純水透過流束(Flux)を同条件で測定した。
【0067】
洗浄による透水Flux上昇率を
[洗浄後のRO膜のFlux]/[洗浄前の汚染RO膜のFlux]×100%
により算出した。結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1より、クロラミン化合物とクエン酸と非アミン系アニオン界面活性剤を含むアルカリ水溶液よりなる本発明の洗浄液を用いた実施例1では、透過流束を十分に回復させることができることが分かる。これに対して、比較例1,2では、透過流束の回復率(上昇率)が低く、また、アミンオキシド系界面活性剤を併用した比較例3は、界面活性剤を併用しない比較例1よりも洗浄効果が低いことが認められた。
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2021年9月29日付で出願された日本特許出願2021-159591に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0070】
1 容器
2 平膜セル
2A RO膜
2B 多孔質支持板
3 スターラー
4 高圧ポンプ
5 攪拌子
6 圧力計
7 圧力調整バルブ
8 Oリング
【要約】
水処理に使用される芳香族ポリアミド系逆浸透膜が汚染して透過流束や脱塩率などの性能が低下した際に、従来の洗浄液では十分に除去することができない汚染物質を効果的に除去する洗浄剤、洗浄液及び洗浄方法を提供する。安定化ハロゲンと、アミノ基を含まない脂肪族カルボン酸、アミノ基を含まないホスホン酸化合物、ポリリン酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上を含むキレート剤と、アルカリ剤とを含むpH13以上の水溶液よりなる、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。この洗浄剤の水溶液よりなる洗浄液を用いて芳香族ポリアミド系逆浸透膜を洗浄する。安定化ハロゲンとしては、1級アミノ基を有する化合物と次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩とを混合することにより得られたクロラミン化合物が好ましい。