(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】物性の測定方法、部材の評価方法、電子部品装置の製造方法、電子部品装置用材料の製造方法及び物性測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/16 20060101AFI20220906BHJP
G01N 5/02 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
G01N25/16 C
G01N5/02 Z
(21)【出願番号】P 2022541882
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021048024
【審査請求日】2022-07-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】乃万 裕一
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-141152(JP,A)
【文献】特開平3-245048(JP,A)
【文献】国際公開第2012/161287(WO,A1)
【文献】折井 靖光,Digital Image Correlation法を用いた熱変形計測・機械特性計測の材料設計への応,平成21年 電気学会全国大会講演論文集 [CD-ROM],日本,2009年03月19日,平成21年電気学会全国大会講演論文集 (,S15(13)~S15(16)
【文献】折井 靖光 Yasumitsu Orii,Digital Image Correlation法を用いた熱変形計測・機械特性計測の材料設計への応用,平成21年 電気学会全国大会講演論文集 [CD-ROM] 平成21年電気学会全国大会講演論文集 ,(第3分冊) ,13頁~16頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N25/00-25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料を含み、かつ既知の吸水率及び既知の質量を有する吸湿させた部材を準備する準備工程と、
前記部材に対して加熱を行った後に冷却を行う加熱冷却工程と、
前記加熱冷却工程中及び前記加熱冷却工程後の少なくとも一方にて前記部材の質量を測定し、かつデジタル画像相関法を用いて部材の変形率を測定する測定工程と、
を含む物性の測定方法。
【請求項2】
前記加熱冷却工程では、前記部材を-65℃~300℃の範囲内で加熱及び冷却する請求項1に記載の物性の測定方法。
【請求項3】
前記部材は、多層配線板、積層板、半導体パッケージ、コア基材、プリプレグ、ビルドアップ材、又は、ソルダーレジストから得られる測定用サンプルである請求項1又は請求項2に記載の物性の測定方法。
【請求項4】
前記準備工程は、前記吸湿させた前記部材の質量を測定することを含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の物性の測定方法。
【請求項5】
前記測定工程にて、前記デジタル画像相関法を用いて加熱後かつ冷却前での部材の変形率である第1変形率及び冷却後での部材の変形率である第2変形率を少なくとも測定し、
前記第1変形率及び前記第2変形率に基づいて前記加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を導出する導出工程をさらに含む請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の物性の測定方法。
【請求項6】
前記加熱冷却工程中にて前記部材の質量を測定することで第1質量を求め、かつデジタル画像相関法を用いて前記第1質量と対応する部材の変形率である第3変形率を測定し、
前記第1質量及び前記第3変形率に基づいて前記加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を導出する導出工程をさらに含む請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の物性の測定方法。
【請求項7】
前記加熱冷却工程及び前記測定工程を繰り返し行い、
前記加熱冷却工程及び前記測定工程を繰り返し行う際の前記加熱冷却工程及び前記測定工程の組み合わせ毎に、前記部材の質量及び前記部材の変形率を測定する請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の物性の測定方法。
【請求項8】
前記加熱冷却工程及び前記測定工程の組み合わせ毎に、前記デジタル画像相関法を用いて加熱後かつ冷却前での部材の変形率である第1変形率及び冷却後での部材の変形率である第2変形率を少なくとも測定し、
前記第1変形率及び前記第2変形率に基づいて各々の前記加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を導出する導出工程をさらに含む請求項7に記載の物性の測定方法。
【請求項9】
前記加熱冷却工程及び前記測定工程の組み合わせ毎に、前記加熱冷却工程中にて前記部材の質量を測定することで第1質量を求め、かつデジタル画像相関法を用いて前記第1質量と対応する部材の変形率である第3変形率を測定し、
前記第1質量及び前記第3変形率に基づいて各々の前記加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を導出する導出工程をさらに含む請求項7に記載の物性の測定方法。
【請求項10】
請求項5又は請求項8に記載の物性の測定方法を含み、
前記第2変形率と対応する前記加熱冷却工程後の部材の吸水率を導出し、導出された前記吸水率と、前記熱膨張係数と、前記有機材料を含み、かつ吸湿していない比較部材の熱膨張係数と、の関係を評価する評価工程をさらに含む部材の評価方法。
【請求項11】
請求項6又は請求項9に記載の物性の測定方法を含み、
前記第3変形率と対応する吸水率を導出し、導出された前記吸水率と、前記熱膨張係数と、前記有機材料を含み、かつ吸湿していない比較部材の熱膨張係数と、の関係を評価する評価工程をさらに含む部材の評価方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の部材の評価方法に基づいて、有機材料又は有機材料を含む複合材料である材料を選択し、選択した材料を用いて電子部品装置を製造する電子部品装置の製造方法。
【請求項13】
請求項10又は請求項11に記載の部材の評価方法に基づいて、有機材料又は有機材料を含む複合材料である材料を選択し、選択した材料を用いて電子部品装置用材料を製造する電子部品装置用材料の製造方法。
【請求項14】
前記電子部品装置用材料は、積層板又はプリプレグである請求項13に記載の電子部品装置用材料の製造方法。
【請求項15】
有機材料を含み、かつ既知の吸水率及び既知の質量を有する吸湿させた部材を配置する配置部、並びに前記配置部に配置される前記部材を加熱及び冷却する温調手段を内部に備える温調室と、
デジタル画像相関法を用いて前記配置部に配置される前記部材の変形率を測定する変形率測定手段と、
前記部材の質量を測定する質量測定手段と、を備える物性測定システム。
【請求項16】
前記質量測定手段は前記温調室内に配置され、前記配置部に配置される前記部材の質量を測定する請求項1
5に記載の物性測定システム。
【請求項17】
請求項10又は請求項11に記載の部材の評価方法を請求項15又は請求項16に記載の物性測定システムを用いて行い、
前記物性測定システムによる部材の評価結果に基づいて、有機材料又は有機材料を含む複合材料である材料を選択し、選択した材料を用いて電子部品装置を製造する電子部品装置の製造方法。
【請求項18】
請求項10又は請求項11に記載の部材の評価方法を請求項15又は請求項16に記載の物性測定システムを用いて行い、
前記物性測定システムによる部材の評価結果に基づいて、有機材料又は有機材料を含む複合材料である材料を選択し、選択した材料を用いて電子部品装置用材料を製造する電子部品装置用材料の製造方法。
【請求項19】
前記電子部品装置用材料は、積層板又はプリプレグである請求項18に記載の電子部品装置用材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物性の測定方法、部材の評価方法、電子部品装置の製造方法、電子部品装置用材料の製造方法及び物性測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等に使用される電子材料は、有機材料を含む場合、吸湿により特性が変化する。そのため、電子材料及びこれを含む電子部品において、吸湿による機械的特性及び電気的特性の変化の検討が行われている。例えば、非特許文献1(高戸谷健、James C. Seferis、「非対称CFRP積層板の吸湿における変形挙動」、材料システム第20巻(2002)、p.131-136)では、雰囲気温度を制御した状態で非対称CFRP積層板の吸湿による変形について検討している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
非特許文献1に開示されている非対称CFRP積層板の吸湿による変形挙動の検討では、積層板内部のひずみは、温度変化により生ずる熱ひずみ、吸湿による膨張により生ずるひずみ等の重ねあわせであり、それらのひずみは互いに独立であることが想定されている。つまり、非特許文献1では、積層板において、熱による変形(熱変形)と吸水率とは互いに独立であることが想定されている。
【0004】
しかし、非対称CFRP積層板等の部材を構成する有機材料の種類によっては、部材における熱変形と吸水率とが独立でない場合も考えられる。例えば、部材が吸湿した際の熱膨張係数が、乾燥した部材の熱膨張係数よりも増加又は減少する材料等が存在する(非特許文献2; G Baschek et al., “Effect of water absorption in polymers at low and high temperatures,” Polymer, Volume 40, Issue 12, Pages 3433-3441, 1999.)。そのため、有機材料を含む部材について、熱変形と吸水率との関係を適切に評価するため、熱変形と吸水率とが独立する材料及び熱変形と吸水率とが相関する材料の両方にて、部材の変形率と吸水率との関係が評価可能となる物性の測定方法が求められる。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、有機材料を含む部材について、熱変形と吸水率との相関性に関係なく、部材の変形率と吸水率との関係が評価可能となる物性の測定方法及び物性測定システム、並びにこの方法を含む部材の評価方法、電子部品装置の製造方法及び電子部品装置用材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 有機材料を含み、かつ既知の吸水率及び既知の質量を有する吸湿させた部材を準備する準備工程と、
前記部材に対して加熱を行った後に冷却を行う加熱冷却工程と、
前記加熱冷却工程中及び前記加熱冷却工程後の少なくとも一方にて前記部材の質量を測定し、かつデジタル画像相関法を用いて部材の変形率を測定する測定工程と、
を含む物性の測定方法。
<2> 前記加熱冷却工程では、前記部材を-65℃~300℃の範囲内で加熱及び冷却する<1>に記載の物性の測定方法。
<3> 前記部材は、多層配線板、積層板、半導体パッケージ、コア基材、プリプレグ、ビルドアップ材、又は、ソルダーレジストから得られる測定用サンプルである<1>又は<2>に記載の物性の測定方法。
<4> 前記準備工程は、前記吸湿させた前記部材の質量を測定することを含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の物性の測定方法。
<5> 前記測定工程にて、前記デジタル画像相関法を用いて加熱後かつ冷却前での部材の変形率である第1変形率及び冷却後での部材の変形率である第2変形率を少なくとも測定し、
前記第1変形率及び前記第2変形率に基づいて前記加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を導出する導出工程をさらに含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の物性の測定方法。
<6> 前記加熱冷却工程中にて前記部材の質量を測定することで第1質量を求め、かつデジタル画像相関法を用いて前記第1質量と対応する部材の変形率である第3変形率を測定し、
前記第1質量及び前記第3変形率に基づいて前記加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を導出する導出工程をさらに含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の物性の測定方法。
<7> 前記加熱冷却工程及び前記測定工程を繰り返し行い、
前記加熱冷却工程及び前記測定工程を繰り返し行う際の前記加熱冷却工程及び前記測定工程の組み合わせ毎に、前記部材の質量及び前記部材の変形率を測定する<1>~<4>のいずれか1つに記載の物性の測定方法。
<8> 前記加熱冷却工程及び前記測定工程の組み合わせ毎に、前記デジタル画像相関法を用いて加熱後かつ冷却前での部材の変形率である第1変形率及び冷却後での部材の変形率である第2変形率を少なくとも測定し、
前記第1変形率及び前記第2変形率に基づいて各々の前記加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を導出する導出工程をさらに含む<7>に記載の物性の測定方法。
<9> 前記加熱冷却工程及び前記測定工程の組み合わせ毎に、前記加熱冷却工程中にて前記部材の質量を測定することで第1質量を求め、かつデジタル画像相関法を用いて前記第1質量と対応する部材の変形率である第3変形率を測定し、
前記第1質量及び前記第3変形率に基づいて各々の前記加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を導出する導出工程をさらに含む<7>に記載の物性の測定方法。
<10> <5>又は<8>に記載の物性の測定方法を含み、
前記第2変形率と対応する前記加熱冷却工程後の部材の吸水率を導出し、導出された前記吸水率と、前記熱膨張係数と、前記有機材料を含み、かつ吸湿していない比較部材の熱膨張係数と、の関係を評価する評価工程をさらに含む部材の評価方法。
<11> <6>又は<9>に記載の物性の測定方法を含み、
前記第3変形率と対応する吸水率を導出し、導出された前記吸水率と、前記熱膨張係数と、前記有機材料を含み、かつ吸湿していない比較部材の熱膨張係数と、の関係を評価する評価工程をさらに含む部材の評価方法。
<12> <10>又は<11>に記載の部材の評価方法に基づいて、有機材料又は有機材料を含む複合材料である材料を選択し、選択した材料を用いて電子部品装置を製造する電子部品装置の製造方法。
<13> <10>又は<11>に記載の部材の評価方法に基づいて、有機材料又は有機材料を含む複合材料である材料を選択し、選択した材料を用いて電子部品装置用材料を製造する電子部品装置用材料の製造方法。
<14> 有機材料を含み、かつ既知の吸水率及び既知の質量を有する吸湿させた部材を配置する配置部、並びに前記配置部に配置される前記部材を加熱及び冷却する温調手段を内部に備える温調室と、
デジタル画像相関法を用いて前記配置部に配置される前記部材の変形率を測定する変形率測定手段と、
前記部材の質量を測定する質量測定手段と、を備える物性測定システム。
<15> 前記質量測定手段は前記温調室内に配置され、前記配置部に配置される前記部材の質量を測定する<14>に記載の物性測定システム。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、有機材料を含む部材について、熱変形と吸水率との相関性に関係なく、部材の変形率と吸水率との関係が評価可能となる物性の測定方法及び物性測定システム、並びにこの方法を含む部材の評価方法、電子部品装置の製造方法及び電子部品装置用材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の物性測定システムの一例を示す概略構成を示す断面図である。
【
図2】コア基材1について、吸水率と熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【
図3】コア基材2について、吸水率と熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
本開示において、「吸水率」は特定の部材に含まれている水分の割合を意味しており、特定の部材がどの程度の水分を含むことができるのかという性能(飽和吸水率)を意味するものではない。
【0010】
[物性の測定方法]
本開示の物性の測定方法は、有機材料を含み、かつ既知の吸水率及び既知の質量を有する吸湿させた部材を準備する準備工程と、前記部材に対して加熱を行った後に冷却を行う加熱冷却工程と、前記加熱冷却工程中及び前記加熱冷却工程後の少なくとも一方にて前記部材の質量を測定し、かつデジタル画像相関法を用いて部材の変形率を測定する測定工程と、を含む。
【0011】
本開示の物性の測定方法では、既知の吸水率及び既知の質量を有する吸湿させた部材を準備し、この部材を用いて加熱及び冷却を行う。加熱冷却工程中及び加熱冷却工程後の少なくとも一方にて、部材の質量を測定し、かつデジタル画像相関法を用いて部材の変形率を測定する。部材の質量を測定することで測定時点での部材の吸水率を求めることができる。以上により、部材の変形率と吸水率のデータを得ることができる。この部材の変形率と吸水率のデータから、熱変形と吸水率とに相関がある場合、及び熱変形と吸水率とに相関がない場合の両方において、部材の変形率と吸水率との関係が評価可能となる。
【0012】
以下、本開示の測定方法における各工程について説明する。
【0013】
(準備工程)
本開示の物性の測定方法は、有機材料を含み、かつ既知の吸水率及び既知の質量を有する吸湿させた部材を準備する準備工程を含む。
【0014】
例えば、準備工程では、最初に有機材料を含む部材を準備してもよい。最初に準備する部材は、吸湿した部材であってもよく、乾燥した部材であってもよい。
【0015】
本開示の測定方法で用いる部材としては、有機材料を含むものであれば特に限定されず、従来公知の電子部品、電子部品に用いられる部材から得られる測定用サンプル等であってもよい。例えば、本開示の測定方法で用いる部材としては、多層配線板、積層板、半導体パッケージ、コア基材、プリプレグ、ビルドアップ材、又はソルダーレジストから得られる測定用サンプルが挙げられる。測定用サンプルとしては、各種部材を加工、切断等したもの、各種部材から銅箔等の金属膜を除去したものなどが挙げられる。
【0016】
部材に含まれる有機材料としては、特に限定されず、例えば、従来公知の樹脂が挙げられる。樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよく、光硬化性樹脂であってもよい。
【0017】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ビニル系ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン共重合体樹脂(AES樹脂)、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0018】
熱硬化性樹脂としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。
【0019】
光硬化性樹脂としては、ラジカル重合を用いたアクリル樹脂、カチオン重合を用いたエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0020】
また、有機材料は、樹脂単独であってもよく、樹脂と、他の有機材料、無機材料等との混合物であってもよい。前記混合物としては、樹脂と無機充填材等とを含む樹脂組成物、ガラス繊維、炭素繊維等の強化繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が含浸した材料等が挙げられる。
ガラス繊維としては、ガラス織布、ガラス不織布、ガラスペーパー等のガラスクロスの状態であってもよい。
【0021】
本開示の準備工程では、以下の(1)~(4)をこの順で経て既知の吸水率及び既知の質量を有する吸湿させた部材を準備してもよい。
(1)有機材料を含む部材を加熱し、当該部材を乾燥させる。
(2)乾燥させた部材の質量を測定する。
(3)部材に吸湿させる。
(4)吸湿後の部材の質量を測定する。
【0022】
上記(1)にて、部材に含まれる水分を加熱により揮発させることで、部材を乾燥させる。部材を加熱する雰囲気、温度については、部材に含まれる水分を揮発可能であれば特に限定されない。
加熱雰囲気としては、水分を実質的に含まない乾燥雰囲気、不活性ガス雰囲気等が挙げられる。水分を揮発させやすくする目的で、真空ポンプ等による大気圧からの減圧を行ってもよい。
部材を加熱するときの温度としては、部材に含まれる水分を揮発可能であれば特に限定されず、例えば、加熱雰囲気、加熱時の気圧、有機材料の耐熱性等によって適宜調整すればよい。部材を加熱するときの温度は、例えば、100℃~150℃であってもよく、110℃~130℃であってもよい。
部材を加熱するときの時間は、例えば、1時間~5日であってもよく、10時間~3日であってもよい。
【0023】
上記(1)にて得られた部材は、水分が除去された部材であり、後述する部材の吸水率を求める際の基準となる。後述の部材の吸水率は、上記(1)にて得られた部材の吸水率を0%とみなしたときの相対値である。そのため、上記(1)にて得られた部材は、完全に水分が除去された部材に限定されない。
【0024】
上記(2)にて、乾燥させた部材の質量を測定する。質量を測定する際の温度条件は、特に限定されず、15℃~30℃であってもよく、室温(例えば25℃)であってもよい。
【0025】
乾燥させた部材については、デジタル画像相関法にてその表面を画像解析し、後に行うデジタル画像相関法を用いた部材の変形率の測定の基準を求めてもよい。つまり、後述の部材の変形率は、上記(1)にて乾燥させた部材を基準としたときの部材の変形率としてもよい。
【0026】
デジタル画像相関法は、DIC(Digital Image Correlation)ともいい、試験対象の変形前後の画像を解析することで、試験対象の変形量の変化を非接触で計測する方法である。試験対象としては、その表面にパターン、模様等が形成されていてもよく、パターン、模様等の変化を画像解析することで試験対象の変形量の変化を計測してもよい。パターン、模様等を形成する場合、DICにて画像解析可能であればよく、耐熱性を有する成分を用いてパターン、模様等を形成することが好ましい。パターン、模様等については、上記(1)の前に試験対象となる部材に形成すればよい。
【0027】
例えば、試験対象の領域面が視野に入るように、試験対象の厚さ方向で異なる角度に2台のデジタルカメラを配置し、2台のデジタルカメラにより得られたデジタル画像を用いて試験対象の変形量の変化を計測すればよい。これにより、試験対象の厚さ方向と直交する方向である幅方向及び長さ方向の変形量の変化を計測することができる。DICは、人間の左右の目が視差によって上下左右に加えて遠近感を把握する原理を利用している。後述の部材の変形率としては、例えば、幅方向(x方向ともいう)の変形率であってもよく、長さ方向(y方向ともいう)の変形率であってもよく、幅方向及び長さ方向の平均変形率であってもよい。
【0028】
熱膨張係数を求める方法としては、熱機械分析(TMA)により試験対象の変形量を計測する方法が一般的である。例えば、前述の非特許文献2においても、TMAにより熱膨張係数を求めていると考えられる。TMAにより試験対象の変形量の変化を計測する場合、ガラス棒等を試験対象に接触させる必要がある。試験対象の熱膨張係数が低い場合、ガラス棒等が試験対象に接触することによる試験対象の寸法変化の影響が大きくなり、熱変形及び吸水率の変動による変形を精度よく評価できないという問題がある。一方、本開示の物性の測定方法では、DICにより試験対象の変形量の変化を非接触で計測している。そのため、熱変形及び吸水率の変動以外による試験対象の変形の影響を抑制でき、熱変形及び吸水率の変動による変形を精度よく評価できる。
【0029】
上記(3)にて、乾燥させた部材に吸湿させる。部材に吸湿させる条件は特に限定されない。例えば、乾燥させた部材を30℃~130℃、60~85%RH(相対湿度)の条件に1時間~300時間程度曝すことで吸湿させてもよい。
【0030】
上記(4)にて、吸湿後の部材の質量を測定する。これにより、以下の式(a)に基づいて吸湿後の部材の吸水率を求めることができる。
吸湿後の部材の吸水率(%)=100×([吸湿後の部材の質量]-[乾燥させた部材の質量])/[乾燥させた部材の質量]・・・(a)
【0031】
以上の(1)~(4)を経ることで、既知の吸水率及び既知の質量を有する吸湿させた部材を準備できる。なお、既知の質量とは、吸湿させた部材(すなわち、乾燥した部材と部材に含まれる水分との合計)の質量を意味する。
【0032】
(加熱冷却工程)
本開示の物性の測定方法は、既知の吸水率及び既知の質量を有する吸湿させた部材に対して加熱を行った後に冷却を行う加熱冷却工程を含む。
【0033】
部材に対して加熱及び冷却を行うことで、部材に含まれる水分が揮発等により除去されるため、加熱冷却工程の前後にて部材の吸水率が変動する。具体的には、加熱冷却工程を行うことで、部材の吸水率が低下する。加熱冷却工程を行う雰囲気としては特に限定されず、大気雰囲気、水分を実質的に含まない乾燥雰囲気、不活性ガス雰囲気等であってもよい。
【0034】
部材に対して加熱を行うことで、熱により部材が膨張して変形が生じる。加熱後に部材に対して冷却を行うことで、部材が収縮して変形が生じる。
【0035】
加熱冷却工程では、部材を-65℃~300℃の範囲内で加熱及び冷却することが好ましい。一例として、部材を室温(例えば、25℃)から85℃まで加熱し、85℃まで加熱した後に室温(例えば、25℃)まで冷却してもよい。
【0036】
(測定工程)
本開示の物性の測定方法は、加熱冷却工程中及び前記加熱冷却工程後の少なくとも一方にて前記部材の質量を測定し、かつデジタル画像相関法を用いて部材の変形率を測定する測定工程を含む。前述の準備工程にて、吸湿させた部材の質量を測定していてもよく、乾燥状態である部材の質量と、吸湿させた部材の質量とから、吸湿後の部材の吸水率を求めてもよい。
【0037】
加熱冷却工程中に部材の変形率を測定する場合、加熱冷却工程のいずれの時点での部材の変形率を測定してもよい。例えば、加熱及び冷却を行う際に継続的に部材の変形率を計測してもよく、加熱及び冷却を行う際の特定の時点での部材の変形率を計測してもよい。
【0038】
前述の加熱冷却工程及び測定工程を繰り返し行ってもよい。加熱冷却工程及び測定工程を繰り返し行う際の加熱冷却工程及び測定工程の組み合わせ毎に、部材の質量及び部材の変形率を測定してもよい。加熱冷却工程を繰り返し行うことによって、部材の質量が継続的に変動する。さらに、測定工程によって変動した部材の質量及び部材の変形率を測定することができる。変動した部材の質量及び部材の変形率を繰り返し測定することで、部材の吸水率の変化及び部材の変形率の変化を確認することができる。
【0039】
(導出工程)
本開示の物性の測定方法は、前述の測定工程にて測定された部材の変形率に基づいて加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を導出する導出工程をさらに含んでいてもよい。前述の加熱冷却工程及び測定工程を繰り返し行う場合、導出工程にて各加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を導出してもよい。
【0040】
例えば、前述の測定工程にて、デジタル画像相関法を用いて加熱後かつ冷却前での部材の変形率である第1変形率及び冷却後での部材の変形率である第2変形率を少なくとも測定し、導出工程にて第1変形率及び第2変形率に基づいて加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を導出してもよい。前述の加熱冷却工程及び測定工程を繰り返し行う場合、第1変形率及び第2変形率に基づいて加熱冷却工程毎に部材の熱膨張係数を導出してもよい。
【0041】
導出工程では、第2変形率を用いて加熱冷却工程前後での部材の平均変形率を算出し、下記式(1)から加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を算出してもよい。
加熱冷却工程での部材の熱膨張係数(ppm/℃)=([第1変形率(ppm)]-[加熱冷却工程前後での部材の平均変形率(ppm)])/([加熱後かつ冷却前の温度(℃)]-[冷却後の温度(℃)])・・・式(1)
【0042】
前述の部材の平均変形率は、加熱冷却工程前の部材の変形率及び第2変形率を用い、([加熱冷却工程前の部材の変形率(ppm)]+[第2変形率(ppm)])÷2から算出することができる。
第1変形率及び第2変形率は、基準となる部材に対する加熱後かつ冷却前での部材の変形率及び基準となる部材の寸法に対する冷却後での部材の変形率を意味する。上記(1)にて乾燥させた部材を基準としてもよく、加熱冷却工程前の部材を基準としてもよい。
【0043】
加熱冷却工程中にて部材の質量を測定することで加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を求めてもよい。例えば、加熱冷却工程中にて部材の質量を測定することで第1質量を求め、かつデジタル画像相関法を用いて前記第1質量と対応する部材の変形率である第3変形率を測定し、導出工程にて第1質量及び第3変形率に基づいて加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を導出してもよい。前述の加熱冷却工程及び測定工程を繰り返し行う場合、第1質量及び第3変形率に基づいて加熱冷却工程毎に部材の熱膨張係数を導出してもよい。
【0044】
加熱冷却工程中にて部材の質量を測定することで、加熱又は冷却中に、温度範囲ごとに熱膨張係数、吸水率等をリアルタイムで算出することが可能である。例えば、35℃から45℃に昇温する間の質量測定結果及び変形率測定結果から、40℃近傍での吸水率及び熱膨張係数を算出可能となる。
【0045】
導出工程では、熱膨張の影響を第3変形率から除外した、吸湿に起因する変形率である第4変形率を算出し、下記式(2)から加熱冷却工程での部材の熱膨張係数を算出してもよい。
加熱冷却工程での部材の熱膨張係数(ppm/℃)=([第3変形率(ppm)]-[第4変形率(ppm)])/([第3変形率を測定する際の温度(℃)]-[加熱冷却工程開始時の温度(℃)]・・・式(2)
【0046】
第4変形率は、例えば、以下のようにして求めることができる。まず、加熱冷却工程前の部材の吸水率、加熱冷却工程前の部材の質量及び第1質量を用いることで、第1質量を求めた際の部材の吸水率を求める。さらに、上記(1)にて乾燥させた部材を基準としたときの加熱冷却工程前の部材の変形率、加熱冷却工程前の部材の吸水率、及び第1質量を求めた際の部材の吸水率を用いることで、熱膨張の影響を第3変形率から除外した、吸湿に起因する変形率である第4変形率を求めることができる。
【0047】
[部材の評価方法1]
本開示の部材の評価方法1は、本開示の物性の測定方法を含み、第2変形率と対応する加熱冷却工程後の部材の吸水率を導出し、導出された吸水率と、加熱冷却工程での部材の熱膨張係数と、有機材料を含み、かつ吸湿していない比較部材の熱膨張係数と、の関係を評価する評価工程をさらに含む。
【0048】
本開示の評価方法1では、加熱冷却工程での部材の熱膨張係数と、吸湿していない比較部材の熱膨張係数とを比較することで、吸湿が熱膨張係数に与える影響を評価することができる。例えば、吸湿していない比較部材の熱膨張係数に対して加熱冷却工程での部材の熱膨張係数が低下した場合、吸湿により熱膨張係数が低下すること、すなわち、熱変形と吸水率とに相関があることが分かる。一方、吸湿していない比較部材の熱膨張係数と加熱冷却工程での部材の熱膨張係数とがほぼ同程度である場合、吸湿により熱膨張係数が実質的に変動しないこと、すなわち、熱変形と吸水率とに相関がないことが分かる。
【0049】
有機材料を含み、かつ吸湿していない比較部材としては、前記準備工程にて有機材料を含む部材を加熱し、かつ乾燥させた後の部材であることが好ましい。
【0050】
導出された吸水率と、加熱冷却工程での部材の熱膨張係数と、比較部材の熱膨張係数と、の関係を評価する方法としては、一方の軸(例えば、x軸)を熱膨張係数とし、他方の軸(例えば、y軸)を吸水率としてグラフを作成することで確認してもよい。例えば、(x、y)=(加熱冷却工程での部材の熱膨張係数、加熱冷却工程後の部材の吸水率)、(比較部材の熱膨張係数、比較部材の吸水率)をそれぞれプロットすればよい。比較部材が前述のように乾燥させた後の部材である場合、比較部材の吸水率は、0%とみなしてもよい。
【0051】
本開示の評価方法1では、前述の加熱冷却工程及び測定工程を繰り返し行う場合、n回目の加熱冷却工程での部材の熱膨張係数及びn回目の加熱冷却工程後の部材の吸水率を用いてもよい(nは1以上の整数)。さらに、n回目の加熱冷却工程での部材の熱膨張係数及びn回目の加熱冷却工程後の部材の吸水率として、nの異なる2つ以上のデータを用いてもよい。
【0052】
[部材の評価方法2]
本開示の部材の評価方法2は、本開示の物性の測定方法を含み、第3変形率と対応する吸水率を導出し、導出された吸水率と、加熱冷却工程での部材の熱膨張係数と、有機材料を含み、かつ吸湿していない比較部材の熱膨張係数と、の関係を評価する評価工程をさらに含む。
【0053】
本開示の評価方法2は、第2変形率と対応する加熱冷却工程後の部材の吸水率の代わりに、第3変形率と対応する加熱冷却工程中の部材の吸水率を用いる点で前述の本開示の評価方法1と相違する。本開示の評価方法2においても、加熱冷却工程での部材の熱膨張係数と、吸湿していない比較部材の熱膨張係数とを比較することで、吸湿が熱膨張係数に与える影響を評価することができる。
【0054】
本開示の評価方法2では、前述の本開示の評価方法1の必須の構成、好ましい構成等を適宜組み合わせてもよい。
【0055】
[電子部品装置の製造方法及び電子部品装置用材料の製造方法]
本開示の電子部品装置の製造方法又は電子部品装置用材料の製造方法は、前述の本開示の評価方法1又は本開示の評価方法2に基づいて有機材料を選択し、選択した有機材料を用いて電子部品装置又は電子部品装置用材料を製造する製造方法である。
【0056】
本開示の評価方法1又は本開示の評価方法2に基づいて有機材料を選択する際は、熱変形と吸水率とに相関がある有機材料を選択してもよく、熱変形と吸水率とに相関がない有機材料を選択してもよい。
【0057】
電子部品装置としては、多層配線板、半導体パッケージ等が挙げられる。例えば、素子と、素子を封止する有機材料を含む組成物の硬化物とを備える半導体パッケージを製造してもよい。
【0058】
電子部品装置用材料としては、積層板、プリプレグ等が挙げられる。例えば、紙、ガラス等の基材に樹脂を含浸させたシートであるプリプレグを重ねた積層板を製造してもよく、積層板の両面に銅箔を施して銅張積層板としてもよい。
【0059】
[物性測定システム]
本開示の物性測定システムは、有機材料を含み、かつ既知の吸水率及び既知の質量を有する吸湿させた部材を配置する配置部、並びに前記配置部に配置される前記部材を加熱及び冷却する温調手段を内部に備える温調室と、デジタル画像相関法を用いて前記配置部に配置される前記部材の変形率を測定する変形率測定手段と、前記部材の質量を測定する質量測定手段と、を備える。本開示の物性測定システムを用いることで、部材の変形率と吸水率のデータを得ることができ、部材の変形率と吸水率との関係が評価可能である。
【0060】
以下、
図1を用いて本開示の物性測定システムの一例を説明する。物性測定システム100は、ステージ2、ヒーター5、渡し板7及び冷却供給手段(図示せず)を備えるチャンバー1と、ステージ2に配置された部材10の画像を取得するデジタルカメラ3と、デジタルカメラ3により得られた画像を解析して部材の変形率を求める解析手段(図示せず)と、部材10の質量を測定する質量測定手段(図示せず)と、を備える。
【0061】
チャンバー1の奥行方向に延設された渡し板7上にステージ2を配置する。チャンバー1内に配置されたステージ2上に有機材料を含む部材10が配置される。ヒーター5は、加熱冷却工程にて部材10を加熱するための加熱手段である。冷風供給手段は、加熱冷却工程にて部材10を冷却するための冷却手段である。
【0062】
デジタルカメラ3及び解析手段は、デジタル画像相関法を用いてステージ2に配置された部材10の変形率を測定する変形率測定手段である。チャンバー1の上部に透明窓4が設けられている。
【0063】
ステージ2に配置された部材10の表面に熱電対を配置して、部材10の温度、特に加熱冷却工程での部材10の温度を測定してもよい。あるいは、部材10と隣接するように部材10と材質等が同じである温度測定用の部材を配置し、当該温度測定用の部材の表面に熱電対を配置してもよい。当該温度測定用の部材の温度を部材10の温度とみなしてもよい。
【0064】
質量測定手段は、チャンバー1内に配置され、ステージ2に配置された部材10の質量を測定する構成であってもよい。あるいは、質量測定手段は、チャンバー1の外部に配置され、加熱冷却工程の前後で部材10の質量を測定する構成であってもよい。質量測定手段がチャンバー1内に配置されている場合、加熱冷却工程中に部材の質量を測定することが可能となる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
(乾燥後のコア基材1の準備)
エポキシ樹脂の樹脂硬化物、無機フィラー及びガラスクロスを含むコア基材に銅箔が付いた銅箔付きコア基材(厚さ0.7mm)を、シャーを用いて70mm×60mmの大きさに切断し、3つの切断したコア基材を準備した。以下、3つの切断コア基材について同様の処理を行い、3つの乾燥後のコア基材1を準備し、(乾燥後のコア基材1の準備)以降の処理についても実施した。
切断したコア基材の端部を4,000番の紙やすりで研磨仕上げした。次に、過硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)の水溶液に切断したコア基材を浸漬し、銅箔を除去した。その後、銅箔が除去されたコア基材を純水で1分間洗浄した。洗浄後のコア基材について、エアガンで水分を除去し、乾燥させた。次いで、白と黒の耐熱スプレーをコア基材に塗布した。耐熱スプレーは、DICでの認識が可能な範囲で薄く塗布した。後で50mm角の領域を再現良く測定する目的で、コア基材四隅にマジックで印をつけた。
次に、コア基材をオーブンに投入し、125℃で70時間乾燥した。乾燥後のコア基材の吸水率は0%とみなした。
以上のようにして乾燥後のコア基材1を準備した。
【0067】
(コア基材1の吸湿)
次に、乾燥後のコア基材1の質量を25℃にて電子天秤で測定した。
質量測定後、コア基材1(
図1中の部材10に対応)を
図1に示すようにチャンバー1内のガラス製のステージ2の中央に配置した。ステージ2は、チャンバー1の奥行方向に延設された金属製の渡し板7上に配置した。チャンバー1の鉛直方向上部に配置された2つのデジタルカメラ3を用い、チャンバー1の上部に設けられた透明窓4を介してDICにてコア基材1を画像解析した。このときのコア基材1の位置を以後のコア基材1の変形率の基準とした。
DICによる測定の後、チャンバー1内にてコア基材1を85℃、85%RHの条件下にて1週間放置し、コア基材1に吸湿させた。
吸湿後のコア基材1の質量を25℃にて電子天秤で測定した。乾燥後のコア基材1の質量及び吸湿後のコア基材1の質量から吸湿後のコア基材1の吸水率を求めた。
【0068】
(吸湿後のコア基材1の加熱冷却等)
質量を測定した後に、吸湿後のコア基材1をチャンバー1内のステージ2の中央に配置した。ステージ2に配置されたコア基材1と対面するように配置されたヒーター5を用いてコア基材1を加熱した。このとき、チャンバー1の奥行方向にてコア基材1に隣接するように、コア基材1と同じ大きさ及び厚さの温度測定用のコア基材(図示せず)を配置し、その表面に熱電対(図示せず)を配置し、その熱電対の温度を、コア基材1の温度とみなした。コア基材1を25℃から85℃まで加熱した。85℃まで加熱した後に、チャンバー1内に冷風を供給してコア基材1を85℃から25℃まで冷却した。コア基材1を25℃から85℃まで加熱及び85℃から25℃まで冷却する間、DICにてコア基材1を画像解析し、コア基材1の変形率を求めた。コア基材1の変形率については、幅方向(x方向)の変形率及び長さ方向(y方向)の変形率をそれぞれ求めた。
【0069】
(加熱冷却後のコア基材1の質量測定等)
加熱冷却後のコア基材1の質量を25℃にて電子天秤で測定した。その後、(吸湿後のコア基材1の加熱冷却等)に記載の各処理、及び加熱冷却後のコア基材1の質量測定を繰り返し行った。
【0070】
1回目の加熱冷却前、及び、1回目の加熱冷却後のコア基材1の質量測定の結果の平均値から、1回目の加熱冷却後のコア基材1の吸水率を算出した。
【0071】
1回目の加熱冷却中におけるDICによる測定にて、加熱開始時の25℃におけるコア基材1の変形率(加熱冷却工程前の部材の変形率に相当)、85℃におけるコア基材1の変形率(第1変形率に相当)、及び冷却終了後の25℃におけるコア基材1の変形率(第2変形率に相当)をそれぞれ求めた。
[加熱冷却工程前の部材の変形率(ppm)]+[第2変形率(ppm)])÷2から1回目の加熱冷却中におけるコア基材1の平均変形率を求めた。当該コア基材1の平均変形率及び85℃におけるコア基材1の変形率を用いて、前述の式(1)からコア基材1の熱膨張係数を算出した。平均変形率は、85℃における熱膨張の影響を除外した吸湿に起因する変形率と仮定した。この平均変形率と85℃におけるコア基材1の変形率とを用いることで吸湿による変形を除外した熱による変形から算出される熱膨張係数を計算することができる。
【0072】
次に、2回目の加熱冷却においても同様にしてコア基材1の熱膨張係数を算出した。
【0073】
(吸湿させていないコア基材1の物性測定)
前述の(乾燥後のコア基材1の準備)と同様にして3つの乾燥後のコア基材1を準備した。3つの乾燥後のコア基材1について以降の処理を実施した。
乾燥後のコア基材1の質量を25℃にて電子天秤で測定した。次に、乾燥後のコア基材1を吸湿させずに前述と同様にチャンバー1内のステージ2に配置した。次いで、吸湿させていないコア基材1を25℃から85℃まで加熱及び85℃から25℃まで冷却した。このとき、DICによる測定にて85℃におけるコア基材1の変形率を求め、その結果から吸湿させていないコア基材1の熱膨張係数を算出した。
吸湿させていないコア基材1について加熱冷却後の質量測定を行い、加熱冷却後のコア基材1の吸水率を算出した。
【0074】
吸湿後のコア基材1の吸水率(0.42%付近のデータ)及び1回目の加熱冷却後でのコア基材1の熱膨張係数、1回目の加熱冷却後でのコア基材1の吸水率(0.40%付近のデータ)及び2回目の加熱冷却後でのコア基材1の熱膨張係数並びに、吸湿させていないコア基材1の吸水率(0%付近のデータ)及び熱膨張係数の結果を
図2に示す。
図2中、CTExは、幅方向(x方向)に基づいて求めた値を意味し、CTEyは、長さ方向(y方向)に基づいて求めた値を意味する。
【0075】
図2では、加熱冷却後でのコア基材1の熱膨張係数と、吸湿させていないコア基材1の熱膨張係数との間に大きな差はなかった。そのため、コア基材1に含まれる有機材料は、吸湿によって熱膨張係数が大きく変動せず、有機材料における熱変形と吸水率との間に依存性が少ないことが確認された。
【0076】
(乾燥後のコア基材2の準備)
実験例1で用いたコア基材に含まれるエポキシ樹脂の樹脂硬化物とは別のエポキシ樹脂の樹脂硬化物を含み、さらに、無機充填材及びガラスクロスを含むコア基材に銅箔が付いた銅箔付きコア基材(厚さ0.7mm)を準備し、実験例1と同様の手順で乾燥後のコア基材2を準備した。
【0077】
実験例1と同様にして、吸湿後のコア基材2の吸水率(0.52%付近のデータ)及び1回目の加熱冷却後でのコア基材2の熱膨張係数、1回目の加熱冷却後でのコア基材2の吸水率(0.48%付近のデータ)及び2回目の加熱冷却後でのコア基材2の熱膨張係数並びに、吸湿させていないコア基材2の吸水率(0%付近のデータ)及び熱膨張係数をそれぞれ求めた。これらの結果を
図3に示す。
図3中、CTExは、幅方向(x方向)に基づいて求めた値を意味し、CTEyは、長さ方向(y方向)に基づいて求めた値を意味する。
【0078】
図3では、加熱冷却後でのコア基材1の熱膨張係数と、吸湿させていないコア基材2の熱膨張係数との間に大きな差がみられた。具体的には、吸水率が大きくなることで熱膨張係数が低下することが確認された。そのため、コア基材2に含まれる有機材料は、吸湿によって熱膨張係数が低下し、有機材料における熱変形と吸水率との間に依存性があることが確認された。
【0079】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【要約】
有機材料を含み、かつ既知の吸水率及び既知の質量を有する吸湿させた部材を準備する準備工程と、前記部材に対して加熱を行った後に冷却を行う加熱冷却工程と、前記加熱冷却工程にて前記部材に対して冷却を行った後に前記部材の質量を測定する測定工程と、を含み、前記加熱冷却工程では、デジタル画像相関法を用いて部材の変形率を測定する物性の測定方法。