(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20220906BHJP
G01M 13/045 20190101ALI20220906BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01M13/045
(21)【出願番号】P 2019043274
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】中塩 雄二
(72)【発明者】
【氏名】菊田 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】松田 道昭
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-240536(JP,A)
【文献】特開2008-267871(JP,A)
【文献】特開2011-242294(JP,A)
【文献】特開2009-31100(JP,A)
【文献】特開2009-109267(JP,A)
【文献】特開昭63-152715(JP,A)
【文献】特開平4-63662(JP,A)
【文献】特開2013-837(JP,A)
【文献】特開2008-268187(JP,A)
【文献】特開2004-279734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H1/00-17/00
G01M13/00-13/045、99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の振動、可聴音、超音波またはアコースティックエミッションを計測するセンサの計測信号を入力とし、前記回転機械の異常診断用のデータを生成する信号処理装置であって、
前記計測信号が通されるフィルタと、
前記フィルタを通された信号に包絡線処理を施す包絡線処理部と、
前記包絡線処理が施された信号を周波数分析して周波数スペクトルを生成する周波数分析部と、
異常診断用のデータとして、前記周波数スペクトルから前記回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出するパーシャルオーバーオール算出部と、
を備えたことを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記回転機械は、脈動周波数がfZNのポンプであり、
前記パーシャルオーバーオール算出部は、前記周波数スペクトルから(3fZN+fN)以下の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記回転機械は、脈動周波数がfZNのポンプであり、
前記パーシャルオーバーオール算出部は、前記周波数スペクトルからnfN、nfZN、およびnfZN±fN(nは自然数)の周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記パーシャルオーバーオール算出部は、前記周波数スペクトルからnfN(nは自然数)の周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記包絡線処理部は、前記フィルタを通された信号の絶対値を求めるときに、前記信号を3乗して絶対値化した後に2乗根を算出する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の信号処理装置。
【請求項6】
回転機械毎に固有の回転周波数fNを含む処理条件を記憶するデータベースから、対象とする回転機械の処理条件を読み出す処理条件読出部
をさらに備えたことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記センサは、回転機械の軸受、ケーシングまたは接続配管に取り付けられている
ことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の信号処理装置。
【請求項8】
第2の異常診断用のデータとして、前記周波数スペクトルから前記回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク周波数に対応するピーク部分を抽出するピーク抽出部
をさらに備えたことを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の信号処理装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の信号処理装置と、
前記信号処理装置にて生成された異常診断用のデータを出力する出力装置と、
を備えた信号処理システム。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の信号処理装置と、
前記信号処理装置にて生成された異常診断用のデータに基づいて前記回転機械の状態を診断する診断装置と、
を備えた信号処理システム。
【請求項11】
回転機械の振動、可聴音、超音波またはアコースティックエミッションを計測するセンサの計測信号を入力とし、前記回転機械の異常診断用のデータを生成する信号処理方法であって、
前記計測信号をフィルタに通すステップと、
前記フィルタを通された信号に包絡線処理を施すステップと、
前記包絡線処理が施された信号を周波数分析して周波数スペクトルを生成するステップと、
異常診断用のデータとして、前記周波数スペクトルから前記回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出するステップと、
を含むことを特徴とする信号処理方法。
【請求項12】
前記回転機械は、脈動周波数がfZNのポンプであり、
前記パーシャルオーバーオールを算出するステップでは、前記周波数スペクトルから(3fZN+fN)以下の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出する、
ことを特徴とする請求項11に記載の信号処理方法。
【請求項13】
前記回転機械は、脈動周波数がfZNのポンプであり、
前記パーシャルオーバーオールを算出するステップでは、前記周波数スペクトルからnfN、nfZN、およびnfZN±fN(nは自然数)の周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出する
ことを特徴とする請求項11に記載の信号処理方法。
【請求項14】
前記パーシャルオーバーオールを算出するステップでは、前記周波数スペクトルからnfN(nは自然数)の周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出する
ことを特徴とする請求項11に記載の信号処理方法。
【請求項15】
前記包絡線処理を施すステップでは、前記フィルタを通された信号の絶対値を求めるときに、前記信号を3乗して絶対値化した後に2乗根を算出する
ことを特徴とする請求項11~14のいずれかに記載の信号処理方法。
【請求項16】
回転機械毎に固有の回転周波数fNを含む処理条件を記憶するデータベースから、対象とする回転機械の処理条件を読み出すステップ
をさらに含むことを特徴とする請求項11~15のいずれかに記載の信号処理方法。
【請求項17】
前記センサは、回転機械の軸受、ケーシングまたは接続配管に取り付けられている
ことを特徴とする請求項11~16のいずれかに記載の信号処理方法。
【請求項18】
第2の異常診断用のデータとして、前記周波数スペクトルから、前記回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク周波数に対応するピーク部分を抽出するステップ
をさらに含むことを特徴とする請求項11~17のいずれかに記載の信号処理方法。
【請求項19】
異常診断用のデータとして算出されたパーシャルオーバーオールを出力するステップ
をさらに含むことを特徴とする請求項11~18のいずれかに記載の信号処理方法。
【請求項20】
異常診断用のデータとして算出されたパーシャルオーバーオールに基づいて前記回転機械の状態を診断するステップ
をさらに含むことを特徴とする請求項11~18のいずれかに記載の信号処理方法。
【請求項21】
回転機械の振動、可聴音、超音波またはアコースティックエミッションを計測するセンサの計測信号を入力とし、前記回転機械の異常診断用のデータを生成するコンピュータの信号処理プログラムであって、
前記計測信号をフィルタに通すステップと、
前記フィルタを通された信号に包絡線処理を施すステップと、
前記包絡線処理が施された信号を周波数分析して周波数スペクトルを生成するステップと、
異常診断用のデータとして、前記周波数スペクトルから前記回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置および信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプなどの回転機械には、回転軸を支持するための軸受がある。この軸受に異常が発生すると、回転軸の回転の妨げとなり、回転機械の運転の支障となる。大型排水ポンプなど、河川の増水による氾濫を防止するインフラ設備に使用される機器は、緊急時に異常が発生して停止することが許されない。そのため、定期的に機器の整備が行われているが、そこでは、振動などの物理量が計測され、そのデータを基に機器の状態が診断されている。
【0003】
一般に、軸受に異常が発生した場合、比較的高い周波数の振動が発生することが知られている。また、転がり軸受では、特定箇所に傷などの明確な異常が発生した場合には、その構造や寸法により異常が発生した箇所に応じて特定の周波数の振幅変動(周波数成分のピーク)が現れる。
【0004】
これらの性質を利用して、転がり軸受の診断方法として、振動を計測し、計測した振動信号に対して、ハイパスフィルター(HPF)により帯域制限を行い、さらに包絡線処理(エンベロープ処理)を施した信号を周波数分析することで、発生している振幅変動の周波数成分から、異常発生の有無とその箇所を特定する診断方法が知られていた(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の診断方法では、特定箇所に発生した傷などの周期性の強い振幅変動(ピーク)を生じる異常しか検出できない。
【0007】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたものでる。本発明の目的は、回転機械について、より高度な異常診断ができるデータを提供できる信号処理装置および信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る信号処理装置は、
回転機械の振動、可聴音、超音波またはアコースティックエミッションを計測するセンサの計測信号を入力とし、前記回転機械の異常診断用のデータを生成する信号処理装置であって、
前記計測信号が通されるフィルタと、
前記フィルタを通された信号に包絡線処理を施す包絡線処理部と、
前記包絡線処理が施された信号を周波数分析して周波数スペクトルを生成する周波数分析部と、
異常診断用のデータとして、前記周波数スペクトルから前記回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出するパーシャルオーバーオール算出部と、
を備える。
【0009】
このような態様によれば、異常診断用のデータとして、周波数スペクトルから回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分をあえて除外してパーシャルオーバーオールが算出されるため、特定箇所に発生した傷などの周期性の強い成分の影響を排除して、軸受の摩耗や潤滑油の劣化といった周期性の弱い成分の状態を分離して評価できるデータを提供することが可能となり、すなわち、より高度な異常診断ができるデータを提供することが可能となる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る信号処理装置は、第1の態様に係る信号処理装置であって、
前記回転機械は、脈動周波数がfZNのポンプであり、
前記パーシャルオーバーオール算出部は、前記周波数スペクトルから(3fZN+fN)以下の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出する。
【0011】
本件発明者らが鋭意研究を重ねた結果、(3fZN+fN)の周波数は、ポンプの運転で発生する脈動に起因する周波数成分のうち、オーバーオールに影響を与える周波数成分の概ね上限であることが分かった。したがって、このような態様によれば、周波数スペクトルから(3fZN+fN)以下の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することにより、回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することが可能となり、より高度な異常診断ができるデータを提供することが可能となる。
【0012】
本発明の第3の態様に係る信号処理装置は、第1の態様に係る信号処理装置であって、
前記回転機械は、脈動周波数がfZNのポンプであり、
前記パーシャルオーバーオール算出部は、前記周波数スペクトルからnfN、nfZN、およびnfZN±fN(nは自然数)の周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出する。
【0013】
本件発明者らの知見によれば、ポンプにアンバランス、芯ずれ、脈動などの明確な異常が発生した場合には、回転周波数の基本波および高調波(=nfN)、脈動周波数の基本波および高調波(=nfZN)、脈動周波数の基本波および高調波の側帯波(=nfZN±fN)に対応するピークが、周波数スペクトルに現れる。したがって、このような態様によれば、周波数スペクトルからnfN、nfZN、およびnfZN±fNの周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することにより、回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することが可能となり、より高度な異常診断ができるデータを提供することが可能となる。
【0014】
本発明の第4の態様に係る信号処理装置は、第1の態様に係る信号処理装置であって、
前記パーシャルオーバーオール算出部は、前記周波数スペクトルからnfN(nは自然数)の周波数に対応するピーク部分を除去して、パーシャルオーバーオールを算出する。
【0015】
本件発明者らの知見によれば、回転機械の特定箇所に傷などの明確な異常が発生した場合には、回転周波数の基本波および高調波(=nfN)に対応するピークが、周波数スペクトルに現れる。したがって、このような態様によれば、周波数スペクトルからnfNの周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することにより、回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することが可能となり、より高度な異常診断ができるデータを提供することが可能となる。
【0016】
本発明の第5の態様に係る信号処理装置は、第1~4のいずれかの態様に係る信号処理装置であって、
前記包絡線処理部は、前記フィルタを通された信号の絶対値を求めるときに、前記信号を3乗して絶対値化した後に2乗根を算出する。
【0017】
このような態様によれば、包絡線の山谷が強調され、周波数分析したときにピーク性が高まるため、波高率(Crest Factor;CF)などで評価する場合に、異常の兆候を明確に表すことができる。
【0018】
本発明の第6の態様に係る信号処理装置は、第1~5のいずれかの態様に係る信号処理装置であって、
回転機械毎に固有の回転周波数fNを含む処理条件を記憶するデータベースから、対象とする回転機械の処理条件を読み出す処理条件読出部
をさらに備える。
【0019】
このような態様によれば、特定の回転機械に対する特注品ではなく、様々の回転機械に対応可能な汎用性を有する信号処理装置を提供できる。
【0020】
本発明の第7の態様に係る信号処理装置は、第1~6のいずれかの態様に係る信号処理装置であって、
前記センサは、回転機械の軸受、ケーシングまたは接続配管に取り付けられている。
【0021】
本発明の第8の態様に係る信号処理装置は、第1~7のいずれかの態様に係る信号処理装置であって、
第2の異常診断用のデータとして、前記周波数スペクトルから、前記回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク周波数に対応するピーク部分を抽出するピーク抽出部
をさらに備える。
【0022】
このような態様によれば、異常診断用のデータとして、軸受の摩耗や潤滑油の劣化といった周期性の弱い成分の状態を評価できるデータを提供することに加えて、特定箇所に発生した傷などの周期性の強い成分に紐づく異常を検出できるデータを提供することも可能となる。
【0023】
本発明の第9の態様に係る信号処理システムは、
第1~8のいずれかの態様に係る信号処理装置と、
前記信号処理装置にて生成された異常診断用のデータを出力する出力装置と、
を備える。
【0024】
このような態様によれば、作業者は出力装置に出力されたデータから回転機械の状態を確認することが可能となる。
【0025】
本発明の第10の態様に係る信号処理システムは、
第1~8のいずれかの態様に係る信号処理装置と、
前記信号処理装置にて生成された異常診断用のデータに基づいて前記回転機械の状態を診断する診断装置と、
を備える。
【0026】
このような態様によれば、回転機械の状態を自動的に診断することが可能となる。
【0027】
本発明の第11の態様に係る信号処理方法は、
回転機械の振動、可聴音、超音波またはアコースティックエミッションを計測するセンサの計測信号を入力とし、前記回転機械の異常診断用のデータを生成する信号処理方法であって、
前記計測信号をフィルタに通すステップと、
前記フィルタを通された信号に包絡線処理を施すステップと、
前記包絡線処理が施された信号を周波数分析して周波数スペクトルを生成するステップと、
異常診断用のデータとして、前記周波数スペクトルから前記回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出するステップと、
を含む。
【0028】
本発明の第12の態様に係る信号処理方法は、第11の態様に係る信号処理方法であって、
前記回転機械は、脈動周波数がfZNのポンプであり、
前記パーシャルオーバーオールを算出するステップでは、前記周波数スペクトルから(3fZN+fN)以下の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出する。
【0029】
本発明の第13の態様に係る信号処理方法は、第11の態様に係る信号処理方法であって、
前記回転機械は、脈動周波数がfZNのポンプであり、
前記パーシャルオーバーオールを算出するステップでは、前記周波数スペクトルからnfN、nfZN、およびnfZN±fN(nは自然数)の周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出する。
【0030】
本発明の第14の態様に係る信号処理方法は、第11の態様に係る信号処理方法であって、
前記パーシャルオーバーオールを算出するステップでは、前記周波数スペクトルからnfN(nは自然数)の周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出する。
【0031】
本発明の第15の態様に係る信号処理方法は、第11~14のいずれかの態様に係る信号処理方法であって、
前記包絡線処理を施すステップでは、前記フィルタを通された信号の絶対値を求めるときに、前記信号を3乗して絶対値化した後に2乗根を算出する。
【0032】
本発明の第16の態様に係る信号処理方法は、第11~15のいずれかの態様に係る信号処理方法であって、
回転機械毎に固有の回転周波数fNを含む処理条件を記憶するデータベースから、対象とする回転機械の処理条件を読み出すステップ
をさらに含む。
【0033】
本発明の第17の態様に係る信号処理方法は、第11~16のいずれかの態様に係る信号処理方法であって、
前記センサは、回転機械の軸受、ケーシングまたは接続配管に取り付けられている。
【0034】
本発明の第18の態様に係る信号処理方法は、第11~17のいずれかの態様に係る信号処理方法であって、
第2の異常診断用のデータとして、前記周波数スペクトルから、前記回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク周波数に対応するピーク部分を抽出するステップ
をさらに含む。
【0035】
本発明の第19の態様に係る信号処理方法は、第11~18のいずれかの態様に係る信号処理方法であって、
異常診断用のデータとして算出されたパーシャルオーバーオールを出力するステップ
をさらに含む。
【0036】
本発明の第20の態様に係る信号処理方法は、第11~18のいずれかの態様に係る信号処理方法であって、
異常診断用のデータとして算出されたパーシャルオーバーオールに基づいて前記回転機械の状態を診断するステップ
をさらに含む。
【0037】
本発明の第21の態様に係る信号処理プログラムは、
回転機械の振動、可聴音、超音波またはアコースティックエミッションを計測するセンサの計測信号を入力とし、前記回転機械の異常診断用のデータを生成するコンピュータの信号処理プログラムであって、
前記計測信号をフィルタに通すステップと、
前記フィルタを通された信号に包絡線処理を施すステップと、
前記包絡線処理が施された信号を周波数分析して周波数スペクトルを生成するステップと、
異常診断用のデータとして、前記周波数スペクトルのうち、前記回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク周波数を含まない周波数範囲からパーシャルオーバーオールを算出するステップと、
をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、回転機械について、より高度な異常診断ができるデータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1A】
図1Aは、一実施の形態に係る信号処理システムの構成を示すブロック図である。
【
図1B】
図1Bは、一実施の形態の一変形例に係る信号処理システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、一実施の形態に係る信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、一実施の形態に係る信号処理装置における信号の流れを説明するための図である。
【
図4】
図4は、センサから取得される計測信号の時間波形の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、フィルタを通された信号の時間波形の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、包絡線処理が施された信号の時間波形の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、一変形例に係る包絡線処理が施された信号の時間波形を説明するための図である。
【
図8】
図8は、周波数分析されて生成された周波数スペクトルの一例を示す図である。
【
図9】
図9は、周波数スペクトルからピーク部分を除去する処理を説明するための図である。
【
図10】
図10は、一実施の形態に係る信号処理方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の説明および以下の説明で用いる図面では、同一に構成され得る部分について、同一の符号を用いるとともに、重複する説明を省略する。
【0041】
図1Aは、一実施の形態に係る信号処理システム1の構成を示すブロック図である。
【0042】
図1Aに示すように、信号処理システム1は、回転機械2に取り付けられたセンサ3と、増幅器4と、信号処理装置10と、診断装置5と、出力装置6とを備えている。信号処理装置10と診断装置5の少なくとも一部はコンピュータにより実現される。
【0043】
以下では、回転機械2の一例としてポンプについて説明するが、ポンプはあくまで一例であり、本実施の形態に係る回転機械2はポンプに限定されるものではなく、たとえば、減速機や送風機、電動機、ディーゼルエンジン、圧縮機などの回転機械であってもよい。
【0044】
本実施の形態では、センサ3は、振動センサであり、回転機械2に接触するように取り付けられており、回転機械2で発生する振動を計測する。なお、センサ3は、振動センサに限定されるものでなく、たとえば回転機械2に接触するように取り付けられ、回転機械2で発生するアコースティックエミッションを計測するアコースティックエミッションセンサであってもよい。
【0045】
あるいは、
図1Bを参照し、センサ3は、回転機械2の周囲に近接して取り付けられ、回転機械2で発生する可聴音または超音波の音圧を計測するマイクロホンであってもよい。この場合、センサ3を回転機械2に接触するようには設置できない環境であっても、回転機械2の状態の診断を行うことが可能となる。
【0046】
図示された例では、センサ3は、回転機械2の軸受2aに取り付けられているが、これに限定されるものではなく、回転機械2のうち特に状態を監視したい箇所に取り付けられていればよく、たとえば、回転機械2のケーシングまたは接続配管に取り付けられていてもよい。
【0047】
増幅器4は、センサ3により計測された計測信号の強度を電気的に増幅するアンプである。
【0048】
信号処理装置10は、増幅器4により増幅されたセンサの計測信号を入力とし、回転機械2の異常診断用のデータを生成する装置である。
【0049】
図2は、信号処理装置10の構成を示すブロック図である。
図3は、信号処理装置10における信号の流れを説明するための図である。
【0050】
図2に示すように、信号処理装置10は、通信部11と、制御部12と、記憶部13とを有している。各部は、バスを介して互いに通信可能に接続されている。
【0051】
このうち通信部11は、診断装置5および後述する外部のデータベース7と信号処理装置10との間の通信インターフェースである。通信部11は、診断装置5および外部のデータベース7と信号処理装置10との間でネットワークを介して情報を送受信する。
【0052】
記憶部13は、たとえばハードディスク等の固定型データストレージである。記憶部13には、制御部12が取り扱う各種データが記憶される。また、記憶部13には、後述する処理条件読出部12eにより外部のデータベース7から読み出された処理条件が記憶されてもよい。
【0053】
制御部12は、信号処理装置10の各種処理を行う制御手段である。
図2に示すように、制御部12は、フィルタ12aと、包絡線処理部12bと、周波数分析部12cと、パーシャルオーバーオール算出部12dと、処理条件読出部12eと、ピーク抽出部12fとを有している。これらの各部12a~12fは、信号処理装置10内のプロセッサが所定のプログラムを実行することにより実現されてもよいし、ハードウェアで実装されてもよい。
【0054】
フィルタ12aは、センサ3の計測信号に対して帯域制限を行う。フィルタ12aは、ローパスフィルタ(LPF)であってもよいし、ハイパスフィルタ(HPF)であってもよいし、バンドパスフィルタ(BPF)であってもよい。
【0055】
図4は、センサ3から取得される計測信号の時間波形の一例を示す図であり、
図5は、フィルタ12aを通された信号の時間波形の一例を示す図である。
【0056】
本実施の形態では、フィルタ12aは、HPFであり、フィルタ12aを通過する計測信号の周数数帯域を、軸受2aの異常発生時に兆候が表れやすい高周波帯域に限定する。これにより、センサ3の計測信号から、軸受2a以外に起因して発生する振動成分を除外することができる。具体的には、たとえば、ポンプのアンバランスや脈動によって発生する低周波帯域の振動は比較的信号レベルが大きく、それらが存在することによりそれら以外の振動成分の変化を捉えにくくなるため、フィルタ12aを通すことによりそれらの振動成分を除外する。
【0057】
フィルタ12aが帯域制限時に使用するカットオフ周波数や時定数は、回転機械2ごとの特性に応じて予め定められた数値が外部のデータベース7に記憶されており、フィルタ12aが帯域制限時に使用するカットオフ周波数や時定数として、処理条件読出部12eによりデータベース7から読み出されたカットオフ周波数や時定数が採用されてもよいし、作業者により手入力されるカットオフ周波数や時定数が採用されてもよい。
【0058】
具体的には、たとえば、センサ3が振動センサの場合には、HPFであるフィルタ12aのカットオフ周波数は、診断対象とする回転機械2の異常の兆候をつかむのに適した値、たとえば1k、2k、5kHzなど、概略1k~10kHzの範囲で調整されてもよい。また、センサ3が超音波センサやアコースティックエミッションセンサの場合には、HPFであるフィルタ12aのカットオフ周波数は、たとえば20k、50k、100kHzなど、概略20k~100kHzの範囲で調整されてもよい。
【0059】
包絡線処理部12bは、フィルタ12aを通された信号に包絡線処理(エンベロープ処理ともいう)を施す。具体的には、たとえば、包絡線処理部12bは、フィルタ12aを通された信号を2乗した後に2乗根(平方根)を算出することで絶対値を求め、次いでローパスフィルタ(たとえばカットオフ周波数1kHzのローパスフィルタ)を通すことにより、包絡線波形を得る。
図6は、包絡線処理が施された信号の時間波形の一例を示す図である。包絡線処理を施すことで、短い周期で変動する成分を除外して振動波形の変化の外形を捉えることが可能となり、これにより、振動波形の周期性を観察することが可能となる。
【0060】
一変形例として、包絡線処理部12bは、フィルタ12aを通された信号の絶対値を求めるときに、フィルタ12aを通された信号を3乗して絶対値化した後に2乗根を算出してもよい。
【0061】
図7は、一変形例に係る包絡線処理が施された信号の時間波形を説明するための図である。
図7において、破線は、フィルタ12aを通された信号の絶対値を求めるときに、フィルタ12aを通された信号を2乗した後に2乗根を算出することで絶対値を求めた場合に得られる包絡線波形を示し、一点鎖線は、フィルタ12aを通された信号の絶対値を求めるときに、フィルタ12aを通された信号を3乗して絶対値化した後に2乗根を算出することで絶対値を求めた場合に得られる包絡線波形を示している。
【0062】
図7に示すように、包絡線処理部12bでの包絡線処理において、フィルタ12aを通された信号の絶対値を求めるときに、3乗して絶対値化した後に2乗根を求める場合に得られる包絡線(
図7における一点鎖線の波形)は、2乗した後に2乗根を算出する場合に得られる包絡線(
図7における破線の波形)に比べて、波形の山谷がはっきりする。これにより、後述する周波数分析部12cにおいて周波数分析したときに、ピーク性が高まるため、波高率(Crest Factor;CF)などで評価する場合に、異常の兆候が明確に現れるようになる。さらに、ピーク性が高まるため、想定しているピーク成分だけでなく、想定外のピークが現れる可能性があり、より正確にピーク除去の処理ができる可能性がある。
【0063】
包絡線処理部12bにおけるローパスフィルタが使用するカットオフ周波数や時定数は、回転機械2ごとの特性に応じて予め定められた数値が外部のデータベース7に記憶されており、包絡線処理部12bにおけるローパスフィルタが使用するカットオフ周波数や時定数として、処理条件読出部12eによりデータベース7から読み出されたカットオフ周波数や時定数が採用されてもよいし、作業者により手入力されるカットオフ周波数や時定数が採用されてもよい。
【0064】
具体的には、たとえば、包絡線処理部12bにおけるローパスフィルタのカットオフ周波数は、診断対象とする回転機械2の異常の兆候をつかむのに適した値、たとえば100、200、500Hzなど、概略100~1kHzの範囲で調整されてもよい。
【0065】
周波数分析部12cは、包絡線処理が施された信号を周波数分析して周波数スペクトルを生成する。
図8は、周波数分析されて生成された周波数スペクトルの一例を示す図である。
【0066】
周波数分析部12cは、包絡線処理が施された信号に対して高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)などの狭帯域周波数分析を行って周波数スペクトルを生成してもよい。狭帯域周波数分析を行うことで、周波数分解能が高まり、後述するパーシャルオーバーオール算出部12dにおいて、確実に除外したい周波数成分を選択して除外することが可能となる。これにより、信号処理装置10から出力される異常診断用のデータの精度が高まる。
【0067】
パーシャルオーバーオール算出部12dは、異常診断用のデータとして、周波数分析部12cにより生成された周波数スペクトルから回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外して、パーシャルオーバーオールを算出する。
【0068】
たとえば、転がり軸受2aの特定箇所に傷などの明確な異常がある場合に発生する振動パルスの繰り返し周波数は、内輪の回転周波数f0(Hz)(=回転機械2の回転周波数fN)、軸受の転動体の直径d(mm)、転動体のピッチサークル径D(mm)、転動体の数Z、接触角α(rad)を用いて、以下の式により定まる。
【0069】
(1)内輪転動体通過周波数(内輪レース面に傷や剥離が発生した場合)
【数1】
【0070】
(2)外輪転動体通過周波数(外輪レース面に傷や剥離が発生した場合)
【数2】
【0071】
(3)転動体の自転周波数(転動体に傷や剥離が発生した場合)
【数3】
【0072】
(4)転動体の公転周波数(保持器に欠陥が発生した場合)
【数4】
【0073】
パーシャルオーバーオール算出部12dは、周波数分析部12cにより生成された周波数スペクトルから、上記(1)~(4)の式で表されるような、内輪の回転周波数f0(=回転機械2の回転周波数fN)に応じて定まるピーク部分(振動パルス)の周波数成分を除外して、パーシャルオーバーオールを算出し、算出されたパーシャルオーバーオールを異常診断用のデータとして出力する。
【0074】
異常診断用のデータとして、周波数スペクトルから回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することにより、特定箇所に発生した傷などの周期性の強い成分の影響を排除して、軸受の摩耗や潤滑油の劣化といった周期性の弱い成分の状態を分離して評価できるデータを提供することが可能となり、すなわち、より高度な異常診断ができるデータを提供することが可能となる。
【0075】
より詳しくは、回転機械2が、脈動周波数がfZNのポンプである場合には、パーシャルオーバーオール算出部12dは、
図8に示すように、周波数スペクトルから(3fZN+fN)以下の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出する。ここで、ポンプの脈動周波数fZNとは、ポンプの回転周波数fNと、ポンプのインペラの羽根枚数との積である。
【0076】
具体的には、たとえば、ポンプの脈動周波数fZN=100Hz、ポンプの回転周波数fN=20Hzの場合には、パーシャルオーバーオール算出部12dは、異常診断用のデータとして、周波数スペクトルのうち3fZN+fN=320Hzを超える周波数成分のパーシャルオーバーオールを算出する。
【0077】
本件発明者らが鋭意研究を重ねた結果、(3fZN+fN)の周波数は、ポンプの運転で発生する脈動に起因する周波数成分のうち、オーバーオールに影響を与える周波数成分の概ね上限であることが分かった。したがって、
図8に示すように、周波数スペクトルから(3fZN+fN)以下の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することにより、回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することが可能となる。
【0078】
一変形例として、回転機械2が、脈動周波数がfZNのポンプである場合には、パーシャルオーバーオール算出部12dは、
図9に示すように、周波数スペクトルからnfN、nfZN、およびnfZN±fN(nは自然数)の周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外して、パーシャルオーバーオールを算出してもよい。
【0079】
本件発明者らの知見によれば、ポンプにアンバランス、芯ずれ、脈動などの明確な異常が発生した場合には、回転周波数の基本波および高調波(=nfN)、脈動周波数の基本波および高調波(=nfZN)、脈動周波数の基本波および高調波の側帯波(=nfZN±fN)に対応するピークが、周波数スペクトルに現れる。したがって、
図9に示すように、周波数スペクトルからnfN、nfZN、およびnfZN±fNの周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することにより、回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することが可能となる。
【0080】
別の変形例として、パーシャルオーバーオール算出部12dは、周波数スペクトルからnfN(nは自然数)の周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出してもよい。
【0081】
本件発明者らの知見によれば、回転機械2がポンプ以外の場合であっても、回転機械2にアンバランスや芯ずれなどの明確な異常が発生した場合には、少なくとも回転周波数の基本波および高調波(=nfN)に対応するピークが、周波数スペクトルに現れる。したがって、周波数スペクトルからnfNの周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することにより、回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することが可能となる。
【0082】
処理条件読出部12eは、回転機械2毎に固有の回転周波数fNを含む処理条件を記憶するデータベース7から、対象とする回転機械2の処理条件を読み出す。処理条件読出部12eによりデータベース7から読み出される処理条件には、対象とする回転機械2の回転周波数fNに加えて、対象とする回転機械2の脈動周波数fZNないし羽根枚数の情報が含まれていてもよいし、フィルタ12aに設定すべきカットオフ周波数や時定数の情報が含まれていてもよいし、包絡線処理部12bのローパスフィルタに設定すべきカットオフ周波数や時定数の情報が含まれていてもよいし、対象とする回転機械2の軸受2aの寸法や転動体の数が含まれていてもよい。処理条件読出部12eにより読み出された処理条件は、記憶部13に記憶されてもよい。
【0083】
処理条件読出部12eは、対象とする回転機械2の処理条件を外部のデータベース7から読み出すことにより、信号処理装置10を、特定の回転機械2に対する特注品ではなく、様々の回転機械2に対応可能な汎用性を有する信号処理装置とすることができる。
【0084】
ピーク抽出部12fは、周波数スペクトルから回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク周波数に対応するピーク部分を抽出し、第2の異常診断用のデータとして出力する。この場合、信号処理装置10は、軸受の摩耗や潤滑油の劣化といった周期性の弱い成分の状態を評価できるデータ(すなわちパーシャルオーバーオール算出部12dにより出力される異常診断用のデータ)を提供することに加えて、特定箇所に発生した傷などの周期性の強い成分に紐づく異常を検出できるデータ(すなわちピーク抽出部12fにより出力される第2の異常診断用のデータ)を提供することも可能となる。
【0085】
図1に示すように、信号処理装置10から出力される異常診断用のデータおよび第2の異常診断用のデータは、診断装置5に入力される。
【0086】
診断装置5は、信号処理装置10にて生成された異常診断用のデータ(すなわち回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外して算出されたパーシャルオーバーオール)に基づいて回転機械2の状態を診断する。一般に、異常に起因して発生する振動は、異常の度合いが強まると大きくなるので、信号処理装置10により求められたパーシャルオーバーオールを閾値判定したり、傾向管理することで、回転機械2の状態診断を行うことができる。
【0087】
たとえば、診断装置5は、信号処理装置10にて生成された異常診断用のデータ(パーシャルオーバーオール)を、回転機械2ごとに予め定められた判定基準と比較し、判定基準を超えている場合には、回転機械2に異常があると判定してもよい。
【0088】
一例として、診断装置5は、信号処理装置10にて生成された異常診断用のデータ(パーシャルオーバーオール)を、対象とする回転機械2について予め定められた判定基準(たとえば初期値または正常値の2~5倍)と比較し、当該判定基準を超えている場合には、回転機械2に潤滑異常があると判定してもよい。
【0089】
なお、「初期値または正常値の2~5倍」という判定基準の根拠は以下のとおりである。すなわち、機械の振動の評価基準の目安としてISO10816-1:1995/Amd1:2009には、TableA.2を参照し、A:良、B:可、C:警告、D:危険、の4段階の基準値が示されている。そして、正常なレベルの範囲を「可」(Bゾーン)までと考えると、固定された機械の場合の許容振幅値は45μmとなっている。新規設置された機器は通常は良好な状態なので、その振動値はA/Bライン以下と考えられることから、仮に初期値が22μmとすると、2倍の44μmは、B:可の範囲である。このことから、異常判断基準を2倍未満とすると誤判定するおそれがあるため、異常判断基準は2倍以上であることが望ましい。
【0090】
また、ISO10816-1:1995/Amd1:2009では、TableB.1を参照し、グレード(A/BラインとB/Cラインの下限値の比)が2.5倍程度(≒1.8/0.71)になっている。つまり、2.5倍違うと、明らかに振動状態が異なると言える。
【0091】
異常から、判定基準の下限は正常値の2倍とし、さらにその2.5倍で警告状態に変わるとして、2×2.5=5倍を上限(5倍以上は明らかに異常とみなす)と考えると、誤判定のリスクを低減できる。
【0092】
一方、大型機種や柔軟支持(ISO10816-1:1995/Amd1:2009のTableA.2のFlexible)など、元々振動が大きい場合は、1ランク上の基準値が2.5倍よりも小さい。このように、シビアな機械ほどエンベロープの判定値上限が小さくなるなど、機器によって判定基準を決める倍率を調整してもよい。
【0093】
図1参照し、診断装置5は、信号処理装置10にて生成された第2の異常診断用のデータ(すなわち回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分)に基づいて回転機械2の状態を診断してもよい。
【0094】
たとえば、診断装置5は、信号処理装置10にて生成された第2の異常診断用のデータ(ピーク部分の周波数成分)を、回転機械2ごとに予め定められた判定基準と比較し、判断基準を満たしている場合には、回転機械2に異常があると判定してもよい。
【0095】
一例として、診断装置5は、信号処理装置10にて生成された第2の異常診断用のデータ(ピーク部分の周波数成分)を、回転機械2ごとに予め定められた軸受振動周波数と比較し、周波数が一致する場合であって、その波高率(=ピーク値/実効値)が5以上である場合には、その周波数に関連した軸受異常があると判定してもよい。
【0096】
診断装置5が異常診断時に使用する判定基準は、回転機械2ごとの特性に応じて予め定められた数値が外部のデータベース8に記憶されており、診断装置5が異常診断時に使用する判定基準として、データベース8からネットワークを介して読み出された判定基準が採用されてもよいし、作業者により手入力される判定基準が採用されてもよい。
【0097】
出力装置6は、ディスプレイ(モニタ)であり、信号処理装置10にて生成された異常診断用のデータおよび第2の異常診断用のデータを表示する。出力装置6は、診断装置5の診断結果を表示してもよい。これにより、作業者は出力装置に出力されたデータから回転機械の状態を確認することが可能となる。
【0098】
出力装置6は、
図4~
図9に示すような、信号処理装置10の各処理段階の時間波形や周波数スペクトルを表示してもよい。この場合、作業者は出力装置に出力された時間波形や周波数スペクトルから、各処理段階の信号処理が適切であるか確認できる。
【0099】
次に、以上のような構成からなる信号処理システム1における信号処理方法について、
図10を参照して説明する。
図10は、信号処理方法の一例を示すフローチャートである。
【0100】
図10に示すように、まず、信号処理装置10の処理条件読出部12eが、回転機械2毎の回転周波数fNを含む処理条件を記憶する外部のデータベース7から、対象とする回転機械2の処理条件を読み出す(ステップS10)。処理条件読出部12eにより読み出された処理条件は、信号処理装置10の記憶部13に記憶されてもよい。
【0101】
次に、回転機械2に取り付けられたセンサ3により、回転機械2の振動、可聴音、超音波またはアコースティックエミッションが計測され、センサ3の計測信号の強度が増幅器4により増幅されたのち、信号処理装置10のフィルタ12aに通されて帯域制限される(ステップS11)。
【0102】
次に、包絡線処理部12bが、フィルタ12aを通された信号に包絡線処理を施す(ステップS12)。
【0103】
より詳しくは、包絡線処理部12bは、フィルタ12aを通された信号の絶対値を求めた後、ローパスフィルターを通すことにより、包絡線波形を得る。包絡線処理部12bは、フィルタ12aを通された信号の絶対値を求めるときに、フィルタ12aを通された信号を2乗した後に2乗根(平方根)を算出することで絶対値を求めてもよいし、フィルタ12aを通された信号を3乗して絶対値化した後に2乗根を算出することで絶対値を求めてもよい。
【0104】
次に、周波数分析部12cが、包絡線処理が施された信号を周波数分析して周波数スペクトルを生成する(ステップS13)。
【0105】
次いで、パーシャルオーバーオール算出部12dが、周波数分析部12cにより生成された周波数スペクトルから回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外して、パーシャルオーバーオールを算出し、算出されたパーシャルオーバーオールを異常診断用のデータとして出力する(ステップS14)。
【0106】
一例として、回転機械2が、脈動周波数がfZNのポンプである場合には、パーシャルオーバーオール算出部12dは、
図8に示すように、周波数スペクトルから(3fZN+fN)以下の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出してもよい。
【0107】
一変形例として、回転機械2が、脈動周波数がfZNのポンプである場合には、パーシャルオーバーオール算出部12dは、
図9に示すように、周波数スペクトルからnfN、nfZN、およびnfZN±fN(nは自然数)の周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外して、パーシャルオーバーオールを算出してもよい。
【0108】
別の変形例として、パーシャルオーバーオール算出部12dは、周波数スペクトルからnfN(nは自然数)の周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出してもよい。
【0109】
ステップS14において、パーシャルオーバーオール算出部12dが、周波数スペクトルから回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外して、パーシャルオーバーオールを算出し、算出されたパーシャルオーバーオールを異常診断用のデータとして出力することに加えて、ピーク抽出部12fが、周波数スペクトルから回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク周波数に対応するピーク部分を抽出し、第2の異常診断用のデータとして出力してもよい。
【0110】
次に、診断装置5が、信号処理装置10にて生成された異常診断用のデータ(すなわち回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外して算出されたパーシャルオーバーオール)に基づいて回転機械2の状態を診断する(ステップS15)。
【0111】
ステップS15において、診断装置5は、信号処理装置10にて生成された第2の異常診断用のデータ(すなわち回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分)に基づいて回転機械2の状態を診断してもよい。
【0112】
その後、出力装置6が、信号処理装置10にて生成された異常診断用のデータ(すなわちパーシャルオーバーオール算出部12dにて算出されたパーシャルオーバーオール)および第2の異常診断用のデータ(すなわちピーク抽出部12fにて抽出されたピーク部分の周波数成分)を、作業者に対して出力する(ステップS16)。出力装置6は、診断装置5の診断結果を、作業者に対して出力してもよい。
【0113】
ところで、背景技術および発明が解決しようとする課題の欄でも言及したように、従来、転がり軸受の診断方法として、振動の周波数スペクトルに現れるピーク部分の周波数成分から、異常発生の有無とその箇所を特定する診断方法が知られていたが、この診断方法では、特定箇所に発生した傷などの周期性の強い振幅変動(ピーク)を生じる異常しか検出できなかった。
【0114】
これに対し、本実施の形態によれば、パーシャルオーバーオール算出部12dにより、異常診断用のデータとして、周波数スペクトルから回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分をあえて除外してパーシャルオーバーオールが算出されるため、特定箇所に発生した傷などの周期性の強い成分の影響を排除して、軸受の摩耗や潤滑油の劣化といった周期性の弱い成分の状態を分離して評価できるデータを提供することが可能となり、すなわち、より高度な異常診断ができるデータを提供することが可能となる。
【0115】
また、本件発明者らが鋭意研究を重ねた結果、(3fZN+fN)の周波数は、ポンプの運転で発生する脈動に起因する周波数成分のうち、オーバーオールに影響を与える周波数成分の概ね上限であることが分かった。したがって、本実施の形態の第1の態様によれば、周波数スペクトルから(3fZN+fN)以下の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することにより、回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することが可能となり、より高度な異常診断ができるデータを提供することが可能となる。
【0116】
また、本件発明者らの知見によれば、ポンプにアンバランス、芯ずれ、脈動などの明確な異常が発生した場合には、回転周波数の基本波および高調波(=nfN)、脈動周波数の基本波および高調波(=nfZN)、脈動周波数の基本波および高調波の側帯波(=nfZN±fN)に対応するピークが、周波数スペクトルに現れる。したがって、本実施の形態の第2の態様によれば、周波数スペクトルからnfN、nfZN、およびnfZN±fNの周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することにより、回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することが可能となり、より高度な異常診断ができるデータを提供することが可能となる。
【0117】
また、本件発明者らの知見によれば、回転機械にアンバランスや芯ずれなどの明確な異常が発生した場合には、回転周波数の基本波および高調波(=nfN)に対応するピークが、周波数スペクトルに現れる。したがって、本実施の形態の第3の態様によれば、周波数スペクトルからnfNの周波数に対応するピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することにより、回転機械の回転周波数fNに応じて定まるピーク部分の周波数成分を除外してパーシャルオーバーオールを算出することが可能となり、より高度な異常診断ができるデータを提供することが可能となる。
【0118】
また、本実施の形態の一態様によれば、包絡線処理部12bが、前記フィルタを通された信号の絶対値を求めるときに、前記信号を3乗して絶対値化した後に2乗根を算出することにより、包絡線の山谷が強調され、周波数分析したときにピーク性が高まるため、波高率(CF)などで評価する場合に、異常の兆候を明確に表すことができる。
【0119】
また、本実施の形態の一態様によれば、処理条件読出部12eが、回転機械2毎の回転周波数fNを含む処理条件を記憶するデータベース7から、対象とする回転機械2の処理条件を読み出すため、特定の回転機械に対する特注品ではなく、様々の回転機械に対応可能な汎用性を有する信号処理装置10を提供することが可能となる。
【0120】
また、本実施の形態の一態様によれば、ピーク抽出部12fが、第2の異常診断用のデータとして、周波数分析部12cにより生成された周波数スペクトルから、回転機械2の回転周波数fNに応じて定まるピーク周波数に対応するピーク部分を抽出するため、信号処理装置10は、異常診断用のデータとして、軸受の摩耗や潤滑油の劣化といった周期性の弱い成分の状態を評価できるデータを提供することに加えて、第2の診断用のデータとして、特定箇所に発生した傷などの周期性の強い成分に紐づく異常を検出できるデータを提供することも可能となる。
【0121】
また、本実施の形態の一態様によれば、出力装置6が、信号処理装置10にて生成された異常診断用のデータを出力するため、作業者は出力装置6に出力されたデータから回転機械2の状態を確認することが可能となる。
【0122】
また、本実施の形態の一態様によれば、診断装置5が、信号処理装置にて生成された異常診断用のデータに基づいて回転機械2の状態を診断する診断装置と、回転機械2の状態を、人手を介さずに自動的に診断することが可能となる。
【0123】
なお、上述した実施の形態では、診断対象の回転機械2としてポンプを例に説明したが、減速機、送風機、電動機、ディーゼルエンジン、圧縮機などの回転機械でも、次のようなピーク成分の振動や音(可聴音または超音波)やアコースティックエミッションが発生する可能性があるので、この成分を除外する本実施の形態に係る技術が適用可能である。
【0124】
たとえば、傘歯車減速機では、軸の回転周波数とその整数倍、軸の回転周波数と歯車の歯数との積とその整数倍、軸の回転周波数と歯車の歯数との積とその整数倍の側帯波の周波数成分を含む振動や音(可聴音または超音波)やアコースティックエミッションが発生する可能性がある。
【0125】
また、送風機やターボ圧縮機では、回転周波数とその整数倍、回転周波数と羽根枚数との積とその整数倍の周波数成分を含む振動や音(可聴音または超音波)やアコースティックエミッションが発生する可能性がある。
【0126】
電動機では、電源周波数とその2倍、回転周波数とその整数倍、回転周波数と固定子スロット数もしくは回転子スロット数との積の周波数成分を含む振動や音(可聴音または超音波)やアコースティックエミッションが発生する可能性がある。
【0127】
ディーゼルエンジンでは、回転周波数の1/2次の整数倍の周波数を含む振動や音(可聴音または超音波)やアコースティックエミッションが発生する可能性がある。
【0128】
本実施の形態に係る技術よれば、それぞれの機器で発生するピーク成分や回転機械に通常具備される軸受に起因するピーク成分を除去することで、軸受の潤滑状態の診断を行うことができる。また、それぞれのピーク成分の状態を含めて、機器の総合的な異常診断ができる。
【0129】
以上、本発明の実施の形態および変形例を例示により説明したが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において目的に応じて変更・変形することが可能である。また、各実施の形態および変形例は、内容が矛盾しない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【0130】
また、本実施の形態に係る信号処理装置10は1つまたは複数のコンピュータによって構成され得るが、1つまたは複数のコンピュータに信号処理装置10を実現させるためのプログラム及び当該プログラムを記録した記録媒体も、本件の保護対象である。
【符号の説明】
【0131】
1 信号処理システム
2 回転機械
2a 軸受
3、3’ センサ
4 増幅器
5 診断装置
6 出力装置
7、8 データベース
10 信号処理装置
11 通信部
12 制御部
12a フィルタ
12b 包絡線処理部
12c 周波数分析部
12d パーシャルオーバーオール算出部
12e 処理条件読出部
12f ピーク抽出部
13 記憶部