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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】活性エステル組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/42 20060101AFI20220907BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20220907BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20220907BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C08G59/42
H01L23/30 R
H05K1/03 610H
H05K1/03 610S
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019507409
(86)(22)【出願日】2018-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2018003362
(87)【国際公開番号】W WO2018173500
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2017059123
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】迫 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泰
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-041936(JP,A)
【文献】国際公開第2004/109403(WO,A1)
【文献】特開平06-145347(JP,A)
【文献】エポキシ樹脂協会創設30周年記念出版編集委員会 編,総説 エポキシ樹脂 基礎編I,初版,日本,エポキシ樹脂技術協会,2003年11月19日,156-174頁, 235-236頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/00- 59/72
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エステル化合物(A)と酸無水物(B)とを必須の成分として含有し、前記酸無水物(B)が酸無水物基を2つ以上有する多官能酸無水物(B1)を必須成分とする活性エステル組成物と硬化剤とを含有し、
前記硬化剤が、エポキシ樹脂である硬化性組成物
【請求項2】
前記活性エステル化合物(A)が、下記(A1)~(A4)の何れか一種類以上を必須とする請求項1記載の硬化性組成物
活性エステル化合物(A1):分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)と芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)とのエステル化物
活性エステル化合物(A2):分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)と芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a4)とのエステル化物
活性エステル樹脂(A3):分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)、芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)及び分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)のエステル化物
活性エステル樹脂(A4):芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)、分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)及び芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a4)のエステル化物
【請求項3】
前記酸無水物(B)の50質量%以上が前記多官能酸無水物(B1)である請求項1記載の硬化性組成物
【請求項4】
前記多官能酸無水物(B1)が、下記構造式(4-1)~(4-6)
【化1】
(式中Rはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルキルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子の何れかである。Rは炭素原子数1~6の脂肪族炭化水素基である。mは0、1又は2、nは2~4の整数であり、m+nは2~4の整数である。)
の何れかで表される化合物である請求項1記載の硬化性組成物
【請求項5】
前記活性エステル化合物(A)100質量部に対し、前記酸無水物(B)を0.1~500質量部の範囲で含有する請求項1記載の硬化性組成物
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の硬化性組成物を用いてなる半導体封止材料。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の硬化性組成物を用いてなるプリント配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性が高く、かつ、硬化物における誘電特性や耐熱性、耐吸湿性等の諸性能に優れる活性エステル組成物、その硬化物、前記組成物を用いてなる半導体封止材料及びプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や多層プリント基板等に用いられる絶縁材料の技術分野では、各種電子部材の薄型化や小型化に伴い、これらの市場動向に合わせた新たな樹脂材料の開発が求められている。具体的な要求性能としては、硬化物における耐熱性や耐吸湿性は勿論のこと、信号の高速化及び高周波数化対策として、硬化物における誘電率及び誘電正接値が低いこと、高温条件下での信頼性としてガラス転移温度(Tg)等の物性変化がないこと、薄型化に伴う反りや歪み対策として硬化収縮率や線膨張係数が低いこと等も重要である。
【0003】
硬化物における耐熱性や誘電特性、銅箔密着性等に優れる樹脂材料として、ジ(α-ナフチル)イソフタレートをエポキシ樹脂の硬化剤として用いる技術が知られている(下記特許文献1参照)。特許文献1に記載されたエポキシ樹脂組成物は、ジ(α-ナフチル)イソフタレートをエポキシ樹脂硬化剤として用いることにより、フェノールノボラック樹脂のような従来型のエポキシ樹脂硬化剤を用いた場合と比較して硬化物における誘電率や誘電正接の値は確かに低いものの、硬化性が低く、高温かつ長時間での硬化が必要であったため、工業的な利用に際して生産性の低下やエネルギーコストの面で課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-82063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明が解決しようとする課題は、硬化性が高く、かつ、硬化物における誘電特性や耐熱性、耐吸湿性等の諸性能に優れる活性エステル組成物、その硬化物、前記組成物を用いてなる半導体封止材料及びプリント配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、活性エステル化物と酸無水物とを含有し、酸無水物として酸無水物基を2つ以上有する多官能酸無水物を用いた組成物は、硬化性が高く、かつ、硬化物における誘電特性や耐熱性、耐吸湿性等の諸性能に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、活性エステル化合物(A)と酸無水物(B)とを必須の成分として含有し、前記酸無水物(B)が酸無水物基を2つ以上有する多官能酸無水物(B1)を必須成分とする活性エステル組成物に関する。
【0008】
本発明は更に、前記活性エステル組成物と硬化剤とを含有する硬化性組成物に関する。
【0009】
本発明は更に、前記硬化性組成物の硬化物に関する。
【0010】
本発明は更に、前記硬化性組成物を用いてなる半導体封止材料に関する。
【0011】
本発明は更に、前記硬化性組成物を用いてなるプリント配線基板に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硬化性が高く、かつ、硬化物における誘電特性や耐熱性、耐吸湿性等の諸性能に優れる活性エステル組成物、その硬化物、前記組成物を用いてなる半導体封止材料及びプリント配線基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の活性エステル組成物は、活性エステル化合物(A)と酸無水物(B)とを必須の成分として含有し、前記酸無水物(B)が酸無水物基を2つ以上有する多官能酸無水物(B1)を必須成分とすることを特徴とする。
【0014】
前記活性エステル化合物(A)は、分子構造中に芳香族ポリエステル構造を有する化合物であれば、その具体構造は問われない。また、その分子量も特に制限がなく、単分子量の化合物であってもよいし、分子量分布を有するオリゴマー或いはポリマーであってもよい。活性エステル化合物(A)の具体例としては以下(A1)~(A4)のようなものが挙げられる。なお、これらはあくまでも活性エステル化合物(A)の一例であって、本発明の活性エステル化合物(A)はこれに限定されるものではない。また、活性エステル化合物(A)は一種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
活性エステル化合物(A1):分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)と芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)とのエステル化物
活性エステル化合物(A2):分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)と芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a4)とのエステル化物
活性エステル樹脂(A3):分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)、芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)及び分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)のエステル化物
活性エステル樹脂(A4):芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)、分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)及び芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a4)のエステル化物
【0015】
前記分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)の具体例としては、フェノール或いはフェノールの芳香核上に一つ乃至複数の置換基を有するフェノール化合物、ナフトール或いはナフトールの芳香核上に一つ乃至複数の置換基を有するナフトール化合物、アントラセノール或いはアントラセノールの芳香核上に一つ乃至複数の置換基を有するアントラセノール化合物等が挙げられる。芳香核上の置換基は、例えば、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基等が挙げられる。前記脂肪族炭化水素基は直鎖型及び分岐型のいずれでもよく、構造中に不飽和結合を有していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、シクロへキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基等が挙げられる。前記アルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。前記ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。前記アリール基は、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、及びこれらの芳香核上に前記脂肪族炭化水素基やアルコキシ基、ハロゲン原子等が置換した構造部位等が挙げられる。前記アリールオキシ基は、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基、及びこれらの芳香核上に前記アルキル基やアルコキシ基、ハロゲン原子等が置換した構造部位等が挙げられる。前記アラルキル基は、ベンジル基、フェニルエチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基、及びこれらの芳香核上に前記アルキル基やアルコキシ基、ハロゲン原子等が置換した構造部位等が挙げられる。前記分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)は一種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0016】
これらの中でも、誘電特性や耐熱性等の諸性能に優れる硬化物が得られることから、フェノール化合物又はナフトール化合物が好ましく、フェノール、ナフトール或いはこれらの芳香核上に前述の置換基を1つ又は2つ有する化合物がより好ましい。芳香核上の置換基としては炭素原子数1~6の脂肪族炭化水素基又はアラルキル基が好ましい。
【0017】
前記芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)は、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸;トリメリット酸等のベンゼントリカルボン酸;ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-2,3-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸;これらの酸ハロゲン化物;これらの芳香核上に一つ乃至複数の置換基を有する化合物等が挙げられる。前記酸ハロゲン化物は、酸塩化物、酸臭化物、酸フッ化物、酸ヨウ化物等が挙げられる。また、芳香核上の置換基は脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基等が挙げられ、其々の具体例は前述の通りである。前記芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)はそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。中でも、誘電特性や耐熱性等の諸性能に優れる硬化物が得られることから、イソフタル酸やテレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸又はその酸ハロゲン化物が好ましい。
【0018】
前記分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)は、例えば、各種の芳香族ポリヒドロキシ化合物や、前記分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)の一種乃至複数種を反応原料とするノボラック型樹脂、前記分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)の一種乃至複数種と下記構造式(x-1)~(x-5)
【0019】
【化1】
[式中hは0又は1である。Rはそれぞれ独立して脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基の何れかであり、iは0又は1~4の整数である。Zはビニル基、ハロメチル基、ヒドロキシメチル基、アルキルオキシメチル基の何れかである。Yは炭素原子数1~4のアルキレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基の何れかである。jは1~4の整数である。]
の何れかで表される化合物(x)とを必須の反応原料とする反応生成物等が挙げられる。
【0020】
前記各種の芳香族ポリヒドロキシ化合物は、例えば、ジヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシベンゼン、テトラヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシナフタレン、テトラヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシアントラセン、トリヒドロキシアントラセン、テトラヒドロキシアントラセン、ビフェノール、テトラヒドロキシビフェニル、ビスフェノール等の他、これらの芳香核上に一つ乃至複数の置換基を有する化合物等が挙げられる。芳香核上の置換基は脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基等が挙げられ、其々の具体例は前述の通りである。
【0021】
前記構造式(x-1)~(x-5)中のRについて、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基の具体例は前述の通りである。また、前記分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)と前記化合物(x)との反応は、酸触媒条件下、80~180℃程度の温度条件下で加熱撹拌する方法により行うことができる。
【0022】
前記分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)はそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。中でも、硬化性や硬化物における諸性能のバランスに優れることから、前記芳香族ジヒドロキシ化合物としてはジヒドロキシナフタレン又はその芳香核上に置換基を有する化合物が好ましく、アラルキル基を有するジヒドロキシナフタレンがより好ましい。前記化合物(a1)の一種乃至複数種を反応原料とするノボラック型樹脂としては、化合物(a1)としてフェノール、ナフトール或いはこれらの芳香核上に炭素原子数1~6の脂肪族炭化水素基又はアラルキル基を1つ乃至2つ有する化合物を用いたノボラック型樹脂が好ましい。前記化合物(a1)と前記化合物(x)とを必須の反応原料とする反応生成物としては、前記化合物(a1)としてフェノール、ナフトール或いはこれらの芳香核上に炭素原子数1~6の脂肪族炭化水素基又はアラルキル基を1つ又は2つ有する化合物を用い、かつ、前記化合物(x)として(x-1)~(x-4)の何れかで表される化合物を用いたものが好ましい。
【0023】
前記芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a4)は、例えば、安息香酸やハロゲン化ベンゾイル、これらの芳香核上に前記アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基等が置換した化合物等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0024】
前記活性エステル化合物(A)は、例えば、アルカリ触媒の存在下、40~65℃程度の温度条件下で各反応原料を混合撹拌する方法により製造することができる。反応は必要に応じて有機溶媒中で行っても良い。また、反応終了後は水洗や再沈殿等により反応生成物を精製しても良い。
【0025】
前記アルカリ触媒は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、ピリジン等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。また、3.0~30%程度の水溶液として用いても良い。中でも、触媒能の高い水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましい。
【0026】
前記有機溶媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル溶媒、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上の混合溶媒としても良い。
【0027】
各反応原料の反応割合は得られる活性エステル化合物(A)の所望の物性等に応じて適宜調整されるが、特に好ましくは以下の通りである。
【0028】
前記活性エステル化合物(A1)の製造において、前記分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)と前記芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)との反応割合は、目的の活性エステル化合物(A1)を高収率で得られることから、前記芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)が有するカルボキシル基又は酸ハライド基の合計1モルに対し、前記分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)が0.95~1.05モルとなる割合であることが好ましい。
【0029】
前記活性エステル化合物(A2)の製造において、前記分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)と前記芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a4)とのエステル化物との反応割合は、目的の活性エステル化合物(A2)を高収率で得られることから、前記分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)が有するフェノール性水酸基の合計1モルに対し、前記芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a4)が0.95~1.05モルとなる割合であることが好ましい。
【0030】
前記活性エステル樹脂(A3)の製造において、前記分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)、前記芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)及び前記分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)の反応割合は、前記分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)が有する水酸基のモル数と前記分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)が有する水酸基のモル数との割合が10/90~75/25となる割合であることが好ましく、20/80~60/40となる割合であることがより好ましい。また、前記芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)が有するカルボキシル基又は酸ハライド基の合計1モルに対し、前記分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)と前記分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)とが有する水酸基の合計が0.9~1.1モルの範囲であることが好ましい。
【0031】
前記活性エステル化合物(A3)の製造において、各原料の反応割合によっては、分子構造中にフェノール性水酸基を一つ有する化合物(a1)と芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)とのエステル化物である活性エステル化合物(A1)が一部生成してもよい。この場合、その含有量はエステル化合物(A3)中の40%未満であることが好ましく、0.5~30%の範囲であることがより好ましい。
【0032】
活性エステル化合物(A3)中の活性エステル化合物(A1)の含有量は、下記条件で測定されるGPCチャート図の面積比から算出される値である。
【0033】
測定装置 :東ソー株式会社製「HLC-8220 GPC」、
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HXL-L」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G3000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G4000HXL」
検出器: RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC-8020モデルIIバージョン4.10」
測定条件: カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 : 前記「GPC-8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
試料 : 樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)
【0034】
前記活性エステル化合物(A4)の製造において、前記芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)、前記分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)及び前記芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a4)の反応割合は、前記芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a4)が有するカルボキシル基又は酸ハライド基の合計1モルに対し、前記芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)が有するカルボキシル基又は酸ハライド基の合計との割合が0.5~5モルの範囲であることが好ましく、0.8~3モルの範囲であることがより好ましい。また、前記分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)が有する水酸基1モルに対し、前記芳香族ポリカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a2)と前記芳香族モノカルボン酸又はその酸ハロゲン化物(a4)とが有するカルボキシル基又は酸ハライド基の合計が0.9~1.1の範囲であることが好ましい。
【0035】
前記活性エステル化合物(A1)及び(A2)は、150℃における溶融粘度が0.01~5dPa・sの範囲であることが好ましい。なお、本発明において150℃における溶融粘度はASTM D4287に準拠し、ICI粘度計にて測定した値である。
【0036】
前記活性エステル樹脂(A3)及び(A4)は、JIS K7234に基づいて測定される軟化点が80~200℃の範囲であることが好ましく、85~180℃の範囲であることがより好ましい。また、その官能基当量は、硬化性や硬化物における諸性能のバランスに優れることから150~350g/当量の範囲であることが好ましい。なお、本発明において活性エステル樹脂中の官能基とは、活性エステル樹脂中のエステル結合部位とフェノール性水酸基とのことを言う。また、活性エステル樹脂の官能基当量は、反応原料の仕込み量から算出される値である。
【0037】
前記酸無水物(B)は、分子構造中に酸無水物基を一つ乃至複数有する化合物であれば、その具体構造は特に限定されず、多種多様な化合物を用いることができる。なお、本発明において酸無水物基とは下記構造式(3)で表される構造部位のことをいう。
【0038】
【化2】
【0039】
前記酸無水物(B)は、単分子化合物であってもよいし、分子量分布を有するオリゴマー或いはポリマーであってもよい。本発明では単分子化合物、オリゴマー、ポリマーのいずれを用いてもよく、組成物の粘度を低減させる等の目的においては、単分子化合物を用いることが好ましく、硬化物における靱性や柔軟性を高める等の目的においてはオリゴマー或いはポリマーが好ましい。
【0040】
本発明では、前記酸無水物(B)として、酸無水物基を2つ以上有する多官能酸無水物(B1)を用いる。前述の通り、多官能酸無水物(B1)は単分子化合物であってもよいし、分子量分布を有するオリゴマー或いはポリマーであってもよい。中でも、組成物粘度が低減でき、かつ、硬化物における諸物性に優れる活性エステル組成物となることから、前記多官能酸無水物(B1)として単分子化合物を用いることが好ましい。特に、多官能酸無水物(B1)における単分子化合物の割合が50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0041】
前記多官能酸無水物(B1)のうち、単分子化合物の例としては、例えば、ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等の他、下記構造式(4)で表される化合物等が挙げられる。また、前記多官能酸無水物(B1)のうちオリゴマー或いはポリマーの例としては、スチレンと無水マレイン酸との共重合物等が挙げられる。
【0042】
【化3】
[式中Vは下記構造式(V-1)~(V-7)の何れかで表される構造部位であり、Wは直接結合又は2価の連結基である。式中2つのVはそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0043】
【化4】
{式中RはWとの結合点或いはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルキルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子の何れかである。構造式(V-2)及び構造式(V-5)中の酸無水物基の位置は固定されず、異性体であってもよい。}]
【0044】
前記Rの具体例としては、前記構造式(x-1)~(x-5)中のRとして例示したもの等が挙げられる。
【0045】
前記構造式(4)中のWは直接結合又は2価の連結基であり、その具体構造は特に限定されず、所望の硬化物性能等に応じて適宜選択することができる。2価の連結基の一例としては、例えば、直鎖或いは分岐のアルキレン基、カルボニル基、スルホニル基、酸素原子、硫黄原子、エステル結合、及びこれらの組み合わせからなる構造部位等が挙げられる。Wがエステル結合を含む構造部位からなる化合物の例としては、例えば、下記構造式(v-1)~(v-7)で表される化合物のうちRの一つ乃至複数がカルボキシ基である化合物と、各種のポリオール化合物或いはそのアルキルエステル化物とを任意の割合で反応させて得られるもの等が挙げられる。前記ポリオール化合物は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の脂肪族ポリオール化合物;ビフェノール、ビスフェノール等の芳香族ポリオール化合物;前記各種のポリオール化合物の分子構造中に(ポリ)オキシエチレン鎖、(ポリ)オキシプロピレン鎖、(ポリ)オキシテトラメチレン鎖等の(ポリ)オキシアルキレン鎖を導入した(ポリ)オキシアルキレン変性体等が挙げられる。
【0046】
【化5】
{式中Rはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルキルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、カルボキシ基の何れかである。構造式(v-2)及び構造式(v-5)中の酸無水物基の位置は固定されず、異性体であってもよい。}]
【0047】
前記構造式(4)で表される化合物の中でも、硬化物における誘電特性や耐熱性、耐吸湿性等の諸物性に優れる活性エステル組成物となることから、Vが構造式(V-1)~(V-4)のいずれかで表されるものが好ましく、下記構造式(4-1)~(4-6)の何れかで表されるものが特に好ましい。
【0048】
【化6】
(式中Rはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルキルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子の何れかである。Rは炭素原子数1~6の脂肪族炭化水素基である。mは0、1又は2、nは2~4の整数であり、m+nは2~4の整数である。)
【0049】
本発明では、前記酸無水物(B)として、酸無水物を1つ有する単官能酸無水物(B2)を前記多官能酸無水物(B1)と併用してもよい。単官能酸無水物(B2)は、例えば、前記構造式(v-1)~(v-7)においてRが水素原子、アルキル基、アルキルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子の何れかである化合物等が挙げられる。単官能酸無水物(B2)を併用する場合には、本発明が奏する効果が十分に発揮されることから、前記酸無水物(B)中の前記多官能酸無水物(B1)の割合が50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0050】
酸無水物(B)は、その融点が250℃以下であるものが好ましく、130~240℃の範囲であるものがより好ましい。
【0051】
これら酸無水物(B)は市販の製品として入手することもできる。市販製品の一例としては、新日本理化株式会社のリカシッドシリーズや、DIC株式会社のEPICLONシリーズ等が挙げられる。
【0052】
本発明の活性エステル組成物において、前記活性エステル化合物(A)と前記酸無水物(B)との配合割合は、所望の硬化性や硬化物の物性に応じて適宜調整されるが、特に、硬化性と硬化物物性とのバランスに優れることから、前記活性エステル化合物(A)100質量部に対し、前記酸無水物(B)を0.1~500質量部の範囲で含有することが好ましく、10~400質量部の範囲で含有することがより好ましい。
【0053】
本発明の硬化性組成物は、前記活性エステル組成物と硬化剤とを含有する。前記硬化剤は本発明の活性エステル組成物と反応し得る化合物であれば良く、特に限定なく様々な化合物が利用できる。硬化剤の一例としては、例えば、エポキシ樹脂が挙げられる。前記エポキシ樹脂は、例えば、前記分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)のポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0054】
本発明の硬化性組成物において活性エステル組成物と硬化剤との配合割合は特に限定なく、所望の硬化物性能等に応じて適宜調整することができる。硬化剤としてエポキシ樹脂を用いる場合の配合の一例としては、エポキシ樹脂中のエポキシ基の合計1モルに対して、前記活性エステル組成物中の官能基の合計が0.7~1.5モルとなる割合であることが好ましい。なお、本発明において活性エステル組成物中の官能基とは、活性エステル組成物中のエステル結合部位と酸無水物基とのことを言う。活性エステル組成物の官能基当量は、反応原料の仕込み量から算出される値である。また、酸無水物基1モルは1官能として計算する。
【0055】
本発明の硬化性組成物は、更に硬化促進剤を含有しても良い。前記硬化促進剤は、例えば、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール化合物、ピリジン化合物、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。中でも、硬化性、耐熱性、誘電特性、耐吸湿性等に優れる点から、リン系化合物ではトリフェニルホスフィン、第3級アミンでは1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-ウンデセン(DBU)、イミダゾール化合物では2-エチル-4-メチルイミダゾール、ピリジン化合物では4-ジメチルアミノピリジン、2-フェニルイミダゾールが好ましい。これら硬化促進剤の添加量は、硬化性組成物100質量部中0.01~15質量%の範囲であることが好ましい。
【0056】
本発明の硬化性組成物は、更にその他の樹脂成分を含有しても良い。その他の樹脂成分は、例えば、前記前記分子構造中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物(a3)等のフェノール性水酸基含有化合物;ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ-ル、BF-アミン錯体、グアニジン誘導体等のアミン化合物;ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等のアミド化合物;ベンゾオキサジン化合物;シアン酸エステル樹脂;ビスマレイミド樹脂;スチレン-無水マレイン酸樹脂;ジアリルビスフェノールやトリアリルイソシアヌレートに代表されるアリル基含有樹脂;ポリリン酸エステルやリン酸エステル-カーボネート共重合体等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0057】
これらその他の樹脂成分の配合割合は特に限定なく、所望の硬化物性能等に応じて適宜調整することができる。配合割合の一例としては、本発明の硬化性組成物中1~50質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0058】
本発明の硬化性組成物は必要に応じて難燃剤、無機質充填材、シランカップリング剤、離型剤、顔料、乳化剤等の各種添加剤を含有しても良い。
【0059】
前記難燃剤は、例えば、赤リン、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム、リン酸アミド等の無機リン化合物;リン酸エステル化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、ホスフィンオキシド化合物、ホスホラン化合物、有機系含窒素リン化合物、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5―ジヒドロオキシフェニル)―10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10―(2,7-ジヒドロオキシナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等の環状有機リン化合物、及びそれをエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の化合物と反応させた誘導体等の有機リン化合物;トリアジン化合物、シアヌル酸化合物、イソシアヌル酸化合物、フェノチアジン等の窒素系難燃剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂等のシリコーン系難燃剤;金属水酸化物、金属酸化物、金属炭酸塩化合物、金属粉、ホウ素化合物、低融点ガラス等の無機難燃剤等が挙げられる。これら難燃剤を用いる場合は、硬化性組成物中0.1~20質量%の範囲であることが好ましい。
【0060】
前記無機質充填材は、例えば、本発明の硬化性組成物を半導体封止材料用途に用いる場合などに配合される。前記無機質充填材は、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、水酸化アルミ等が挙げられる。中でも、無機質充填材をより多く配合することが可能となることから、前記溶融シリカが好ましい。前記溶融シリカは破砕状、球状のいずれでも使用可能であるが、溶融シリカの配合量を高め、且つ、硬化性組成物の溶融粘度の上昇を抑制するためには、球状のものを主に用いることが好ましい。更に、球状シリカの配合量を高めるためには、球状シリカの粒度分布を適当に調整することが好ましい。その充填率は硬化性組成物100質量部中、0.5~95質量部の範囲で配合することが好ましい。
【0061】
この他、本発明の硬化性組成物を導電ペーストなどの用途に使用する場合は、銀粉や銅粉等の導電性充填剤を用いることができる。
【0062】
本発明の活性エステル組成物及びこれを用いた硬化性組成物は、硬化性が高く、誘電特性や耐熱性、耐吸湿性等の硬化物諸物性に優れる特徴を有する。この他、汎用有機溶剤への溶解性や保存安定性等、樹脂材料に求められる一般的な要求性能も十分に高いものである。したがって、半導体封止材料やプリント配線基板、レジスト材料等の電子材料用途の他、塗料や接着剤、成型品等の用途にも広く利用することができる。
【0063】
本発明の硬化性組成物を半導体封止材料用途に用いる場合、一般には無機質充填材を配合することが好ましい。半導体封止材料は、例えば、押出機、ニーダー、ロール等を用いて配合物を混合して調製することができる。得られた半導体封止材料を用いて半導体パッケージを成型する方法は、例えば、該半導体封止材料を注型或いはトランスファー成形機、射出成型機などを用いて成形し、更に50~200℃の温度条件下で2~10時間加熱する方法が挙げられ、このような方法により、成形物である半導体装置を得ることが出来る。
【0064】
本発明の硬化性組成物をプリント配線基板用途やビルドアップ接着フィルム用途に用いる場合、一般には有機溶剤を配合して希釈して用いることが好ましい。前記有機溶剤は、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。有機溶剤の種類や配合量は硬化性組成物の使用環境に応じて適宜調整できるが、例えば、プリント配線板用途では、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド等の沸点が160℃以下の極性溶剤であることが好ましく、不揮発分が40~80質量%となる割合で使用することが好ましい。ビルドアップ接着フィルム用途では、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル溶剤、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を用いることが好ましく、不揮発分が30~60質量%となる割合で使用することが好ましい。
【0065】
また、本発明の硬化性組成物を用いてプリント配線基板を製造する方法は、例えば、硬化性組成物を補強基材に含浸し硬化させてプリプレグを得、これと銅箔とを重ねて加熱圧着させる方法が挙げられる。前記補強基材は、紙、ガラス布、ガラス不織布、アラミド紙、アラミド布、ガラスマット、ガラスロービング布などが挙げられる。硬化性組成物の含浸量は特に限定されないが、通常、プリプレグ中の樹脂分が20~60質量%となるように調製することが好ましい。
【実施例
【0066】
次に本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。実施例中の「部」及び「%」の記載は、特に断わりのない限り質量基準である。
【0067】
本実施例におけるGPC測定条件は以下の通りである。
測定装置 :東ソー株式会社製「HLC-8220 GPC」、
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HXL-L」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G3000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G4000HXL」
検出器: RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC-8020モデルIIバージョン4.10」
測定条件: カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 : 前記「GPC-8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
試料 : 樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)
【0068】
製造例1 活性エステル樹脂(A3-1)の製造
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、ジシクロペンタジエンとフェノールとの付加反応物(水酸基当量165g/当量、軟化点85℃)165g、1-ナフトール144g、及びトルエン1315gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。次いで、イソフタル酸クロライド200gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液434gを3時間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま1時間撹拌を続けて反応させた。反応終了後、反応混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。残った有機層に水を加えて約15分間撹拌混合した後、混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した後、加熱減圧条件下でトルエン等を留去し、活性エステル化合物(A3-1)を得た。活性エステル化合物(A1-1)の官能基当量は219g/当量、JIS K7234に基づいて測定した軟化点は130℃であった。
【0069】
製造例2 活性エステル樹脂(A3-2)の製造
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、パラターシャリブチルフェノール234.3g、トルエン52.8g、37質量%ホルマリン水溶液52.8g、49%水酸化ナトリウム4.8gを仕込んだ。攪拌しながら75℃まで加熱し、同温度で1時間撹拌して反応させた。反応終了後、第1リン酸ソーダ7.1gを添加して中和し、トルエン363.2gを加え、水121.1gで3回洗浄した。加熱減圧条件下で乾燥させ、未反応のパラターシャリブチルフェノールとフェノール樹脂とを含む中間体(1)234.8質量部を得た。中間体(1)の水酸基当量は155g/当量であった。
【0070】
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、イソフタル酸クロリド141.4g、トルエン1000gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。先で得た中間体(1)217gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。テトラブチルアンモニウムブロマイド0.4gを溶解させ、窒素ガスパージを施しながら系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液280gを3時間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま1時間撹拌を続けて反応させた。反応終了後、反応混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。有機層に水307.3gを加えて約15分間撹拌混合した後、混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した後、加熱減圧条件下で乾燥させ、活性エステル樹脂(A3-2)298.1gを得た。活性エステル樹脂(A3-2)の官能基当量は220g/当量、JIS K7234に基づいて測定した軟化点は132℃であった。また、GPCチャート図から算出される活性エステル樹脂(A3-2)中のビス(パラターシャリーブチルフェニル)イソフタレートの含有量は10.1%であった。
【0071】
製造例3 活性エステル樹脂(A3-3)の製造
温度計、冷却管、分留管、攪拌器を取り付けたフラスコにフェノール565gとベンズアルデヒド106gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら撹拌して溶解させた。次いで、パラトルエンスルホン酸5.7gを仕込み、135℃で3時間反応させた。反応終了後、100℃まで冷却し、水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、170℃で残留フェノールを除去して中間体(2)を得た。中間体(2)の水酸基当量は150g/当量であった。
【0072】
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、前記中間体(2)225g、イソフタル酸クロリド102g、塩化ベンゾイル70g、トルエン1000gを仕込み、フラスコ内を減圧窒素置換しながら撹拌して溶解させた。テトラブチルアンモニウムブロマイド0.5gを添加し、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液327gを3時間かけて滴下した。滴下終了後、更に1時間撹拌を続けた。反応終了後、静置して分液し、水層を取り除いた。残ったトルエン相に水340gを投入して約15分間撹拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した後、加熱減圧条件下で乾燥させて活性エステル樹脂(A3-3)340g得た。活性エステル樹脂(A3-3)の官能基当量は228g/当量、JIS K7234に基づいて測定した軟化点は139℃であった。
【0073】
製造例4 活性エステル化合物(A1-1)の製造
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、攪拌器を取り付けたフラスコにイソフタル酸クロリド202.0g、トルエン1250gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。次いで、1-ナフトール288.0gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。テトラブチルアンモニウムブロマイド0.63gを加え、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液400gを3時間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま1時間撹拌を続けて反応させた。反応終了後、反応混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。残った有機層に水を加えて約15分間攪拌混合した後、混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した後、加熱減圧条件下で乾燥させて、活性エステル化合物(A1-1)を得た。活活性エステル化合物(A1-1)の溶融粘度は0.6dPa・sであった。
【0074】
製造例5 活性エステル化合物(A1-2)の製造
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、攪拌器を取り付けたフラスコにイソフタル酸クロリド202.0g、トルエン1400gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。次いで、オルトフェニルフェノール340.0gを仕込み、系内を減圧窒素置換しながら溶解させた。テトラブチルアンモニウムブロマイド0.70gを加え、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液400gを3時間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま1時間撹拌を続けて反応させた。反応終了後、反応混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。残った有機層に水を加えて約15分間攪拌混合した後、混合物を静置して分液し、水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した後、加熱減圧条件下で乾燥させて、活性エステル化合物(A1-2)を得た。活性エステル化合物(A1-2)の溶融粘度は0.2dP.sであった。
【0075】
製造例6 多官能酸無水物(B1-1)の製造
冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、3-メチル-4-シクロヘキセン-1・2-ジカルボン酸無水物(以下PMMAと略する)458g、無水マレイン酸542gを仕込んだ。200℃まで加熱して4時間撹拌した。温度を200℃に保ったまま、系内を10mmHgまで減圧し、未反応原料を回収した。反応容器に残った粗生成物215gにメチルイソブチルケトン600gを加え、110℃まで加熱して溶解させた後、室温まで冷却して晶析させた。得られた結晶を常温で風乾し、目的の多官能酸無水物(B1-1)を123g得た。多官能酸無水物(B1-1)の融点は168℃であった。
【0076】
この他、本願実施例及び比較例で用いた各化合物は以下の通り。
・多官能酸無水物(B1-2):株式会社ダイセル製「ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物[BTDA]」、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
・単官能酸無水物(B2-1):新日本理化株式会社製「リカシッド MH-700」、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸とヘキサヒドロ無水フタル酸の7/3(質量比)混合物
・エポキシ樹脂(1):DIC株式会社製「HP-7200H」、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、エポキシ基当量は275g/当量
・エポキシ樹脂(2):DIC株式会社製「N-655-EXP-S」、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ基当量は202g/当量
【0077】
実施例1~3及び比較例1
下記要領で硬化性組成物を調整し、各種評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0078】
硬化性組成物(1)の製造
下記表1に示す割合で活性エステル樹脂と酸無水物とをフラスコ内に仕込み、窒素を吹き込みながら170℃まで加熱し撹拌した。150℃まで冷却した後、更にエポキシ樹脂とジメチルアミノピリジンとを配合して混合し、硬化性組成物(1)を得た。ジメチルアミノピリジンの添加量は、活性エステル化合物、酸無水物、エポキシ樹脂の合計質量に対し0.5質量%とした。
【0079】
ガラス転移温度(Tg)の測定
硬化性組成物(1)を型枠へ入れ、プレス機を用いて150℃で10分間成型した。型枠から成型物を取り出し、175℃で更に5時間硬化させた。硬化後の成形物を5mm×54mm×2.4mmのサイズに切り出し、これを試験片とした。
粘弾性測定装置(レオメトリック社製「固体粘弾性測定装置RSAII」)を用い、レクタンギュラーテンション法、周波数1Hz、昇温温度3℃/分の条件で、室温から280℃まで加熱した。弾性率変化が最大となる(tanδが最も大きい)温度をガラス転移温度として評価した。
【0080】
硬化性の評価
先のガラス転移温度(Tg)測定後の試験片を室温まで冷却した後、再度ガラス転移温度(Tg)測定を行った。一回目のガラス転移温度(Tg)測定値と2回目のガラス転移温度(Tg)測定値との差(ΔTg)を算出し、以下の基準で評価した。ΔTg値が大きいほど硬化性が低く、成形時に反応しきらなかった官能基が多く残存していたと考えられる。
A:ΔTgが5℃以下である。
B:ΔTgが5℃を超える
【0081】
誘電率及び誘電正接の測定
先のガラス転移温度(Tg)測定と同様の装置及び条件で試験片を作成した。加熱真空乾燥後、23℃、湿度50%の室内に24時間保管した試験片について、JIS-C-6481に準拠し、アジレント・テクノロジー株式会社製インピーダンス・マテリアル・アナライザ「HP4291B」を用い、1GHzでの誘電率および誘電正接を測定した。
【0082】
硬化性組成物(2)の製造
下記表1に示す割合で活性エステル樹脂、酸無水物、エポキシ樹脂をフラスコに仕込んだ。メチルエチルケトンを全体の40重量%になるように加え、窒素を吹き込みながら撹拌した。ゲルタイムが5~7分となるようにジメチルアミノピリジンを適量加え、硬化性組成物(2)を得た。
【0083】
プリプレグの指触評価
硬化性組成物(2)を用いて下記条件でプリプレグを作成した。得られたプリプレグの指触評価を行った。プリプレグにべたつきやタック感があると、加工時の作業性や、プリプレグの保存安定性が低下する。
A:べたつき或いはタック感がない
B:べたつき或いはタック感がある
(プリプレグ作成条件)
基材:日東紡績株式会社製ガラスクロス「#2116」(210×280mm)
乾燥条件:160℃で3分乾燥
【0084】
耐吸湿性の評価
硬化性組成物(2)を用いて下記条件で積層板を作成した。積層板を85℃、85%RHの雰囲気下に168時間放置し、吸湿試験を行った。吸湿試験後の積層板を溶融させた半田浴に10秒浸し、外観に変化がないものをA、ボイドの生成等が観測されたものはBとして評価した。
(積層板作成条件)
基材:日東紡績株式会社製ガラスクロス「#2116」(210×280mm)
銅箔:JX日鉱日石金属株式会社製「JTC箔」(18μm)
プライ数:6
プリプレグ化条件:160℃
硬化条件:200℃、40kg/cmで1.5時間
成型後板厚:0.8mm
【0085】
【表1】
【0086】
実施例4~6及び比較例2
下記要領で硬化性組成物を調整し、各種評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0087】
硬化性組成物(3)の製造
下記表2に示す割合で活性エステル化合物と酸無水物とをフラスコ内に仕込み、窒素を吹き込みながら170℃まで加熱し撹拌した。150℃まで冷却した後、その他の成分を配合して混合し、硬化性組成物(3)を得た。
【0088】
硬化性組成物の指触評価
常温条件下で硬化性組成物(3)の指触評価を行った。
A:べたつき或いはタック感がない
B:べたつき或いはタック感がある
【0089】
ガラス転移温度(Tg)の測定
硬化性組成物(3)を型枠へ入れ、プレス機を用いて150℃で10分間成型した。型枠から成型物を取り出し、175℃で更に5時間硬化させた。硬化後の成形物を5mm×54mm×2.4mmのサイズに切り出し、これを試験片とした。
粘弾性測定装置(レオメトリック社製「固体粘弾性測定装置RSAII」)を用い、レクタンギュラーテンション法、周波数1Hz、昇温温度3℃/分の条件で、室温から280℃まで加熱した。弾性率変化が最大となる(tanδが最も大きい)温度をガラス転移温度として評価した。
【0090】
硬化性の評価
先のガラス転移温度(Tg)測定後の試験片を室温まで冷却した後、再度ガラス転移温度(Tg)測定を行った。一回目のガラス転移温度(Tg)測定値と2回目のガラス転移温度(Tg)測定値との差(ΔTg)を算出し、以下の基準で評価した。ΔTg値が大きいほど硬化性が低く、成形時に反応しきらなかった官能基が多く残存していたと考えられる。
A:ΔTgが5℃以下である。
B:ΔTgが5℃を超える
【0091】
硬化性組成物(4)の製造
下記表2に示す割合で活性エステル化合物と酸無水物とをフラスコ内に仕込み、窒素を吹き込みながら170℃まで加熱し撹拌した。150℃まで冷却した後、エポキシ樹脂とジメチルアミノピリジンとを配合して混合し、硬化性組成物(4)を得た。
【0092】
誘電率及び誘電正接の測定
硬化性組成物(4)を用い、硬化性の評価と同様の方法で試験片を作成した。加熱真空乾燥後、23℃、湿度50%の室内に24時間保管した試験片について、JIS-C-6481に準拠し、アジレント・テクノロジー株式会社製インピーダンス・マテリアル・アナライザ「HP4291B」を用い、1GHzでの誘電率および誘電正接を測定した。
【0093】
【表2】