IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京応化工業株式会社の特許一覧

特許7137395積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法
<>
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図1
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図2
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図3
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図4
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図5
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図6
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図7
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図8
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図9
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図10
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図11
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図12
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図13
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図14
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図15
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図16
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図17
  • 特許-積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 37/14 20060101AFI20220907BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
B32B37/14 Z
H01L23/12 501P
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018148320
(22)【出願日】2018-08-07
(65)【公開番号】P2020023086
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】岩田 泰昌
(72)【発明者】
【氏名】山本 毅
(72)【発明者】
【氏名】中田 公宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】稲尾 吉浩
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-050464(JP,A)
【文献】特開2018-065953(JP,A)
【文献】特開2017-170870(JP,A)
【文献】特開2017-098481(JP,A)
【文献】特開2017-147331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
H01L 23/12 - 23/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、光の吸収又は加熱により変質する分離層と、接着層と、再配線層の形成に用いられかつ融点が300℃以上である保護層とを、この順番で積層すること、を含み、前記接着層の前記支持体が存在しない側の全面に前記保護層を形成することを含む、積層体の製造方法。
【請求項2】
支持体と、光の吸収又は加熱により変質する分離層と、接着層と、再配線層の形成に用いられかつ融点が300℃以上である保護層とを、この順番で積層すること、を含み、前記保護層は、Ti及びCuの一方又は双方を含む金属で形成される、積層体の製造方法
【請求項3】
支持体と、光の吸収又は加熱により変質する分離層と、接着層と、再配線層の形成に用いられかつ融点が300℃以上である保護層とを、この順番で積層すること、を含み、前記接着層は、融点が50℃以上300℃以下である、積層体の製造方法。
【請求項4】
前記保護層は、導電性の金属で形成される、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記保護層は、スパッタリングで形成されることを含む、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記接着層の厚さは、1μm以上100μm以下である、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記支持体は、ガラス、その他の光が透過する材料で形成される、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記保護層の上に、前記再配線層を形成することを含む、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記再配線層は、誘電体層及び導電体層を含む、請求項に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記誘電体層は、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド、及びポリアミドの少なくとも一つを含む樹脂が用いられる、請求項に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記再配線層の上に、電子部品を有する基板を積層することを含み、
前記基板の厚さは、50μm以上1000μm以下であり、
前記支持体の厚さは、500μm以上2000μm以下でありかつ前記基板の厚さよりも厚い、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
前記基板は、前記電子部品をモールド材によりモールドしている、請求項11に記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
支持体と、光の吸収又は加熱により変質する分離層と、接着層と、再配線層の形成に用いられかつ融点が500℃以上である保護層と、この順番で積層され、前記接着層の前記支持体が存在しない側の全面に前記保護層が形成されている積層体。
【請求項14】
請求項11又は請求項12に記載の積層体の製造方法により積層体を製造することと、
前記分離層を変質させて、前記積層体から前記支持体を分離することと、
前記基板から前記接着層及び前記分離層を除去して、前記電子部品を含む電子装置を得ることと、を含む、電子装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子装置を製造する方法の一例として、いわゆるファンアウト型PLP(Fan-out Panel Level Package)技術と呼ばれる手法が知られている。ファンアウト型PLP技術では、例えば、ウエハなどの支持体に、光の吸収又は加熱により変質する分離層を形成し、その上に電子部品を有する基板を積層する。その後、分離層に光又は熱を加えて支持体から基板を分離させ、基板を電子部品ごとに切断して電子装置を得ている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなファンアウト型PLP技術には、分離層上に基板を積層した後、基板に再配線を形成するチップファーストと呼ばれる手法と、分離層上に再配線を形成した後、再配線上に基板を積層するRLDファーストと呼ばれる手法とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-29167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のRLDファースト技術では、分離層上に接着層を形成し、接着層上に再配線をパターニングする。再配線をパターニングする場合、例えば接着層上の全面に絶縁層を形成し、絶縁層上にフォトレジストを塗布して露光及び現像を行う。これらの処理には、フォトレジストを加熱する工程を含むため、接着層が熱により収縮あるいは変形する場合がある。接着層が収縮あるいは変形すると、接着層上に形成されている絶縁層が移動し、パターニングされた絶縁層の位置あるいは間隔が設計値からずれてしまう。その結果、絶縁層の間に形成される再配線の位置ずれ又は配線幅の変動を生じさせ、このような再配線を用いることにより不良品が生じて歩留まりを低下させる要因となる。
【0006】
本発明は、接着層上に形成される絶縁層の変形又は移動を抑制し、再配線を精度よく形成することにより歩留まりの低下を抑制することが可能な積層体の製造方法、積層体、及び電子装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様では、支持体と、光の吸収又は加熱により変質する分離層と、接着層と、再配線層の形成に用いられかつ融点が300℃以上である保護層とを、この順番で積層すること、を含み、前記接着層の前記支持体が存在しない側の全面に前記保護層を形成することを含む、積層体の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の第2態様では、支持体と、光の吸収又は加熱により変質する分離層と、接着層と、再配線層の形成に用いられかつ融点が500℃以上である保護層と、この順番で積層され、前記接着層の前記支持体が存在しない側の全面に前記保護層が形成されている積層体が提供される。
【0009】
本発明の第3態様では、第1態様に係る積層体の製造方法により積層体を製造することと、前記分離層を変質させて、前記積層体から前記支持体を分離することと、前記基板から前記接着層及び前記分離層を除去して、前記電子部品を含む電子装置を得ることと、を含む、電子装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接着層上に融点が300℃以上である保護層を積層するため、保護層上に再配線を形成する際に加熱工程を行う場合であっても、接着層の変形あるいは移動を抑制できる。これにより、接着層上に形成される再配線の移動あるいは配線幅の変動を抑制し、再配線を精度よく形成することにより不良品の発生を抑えて、歩留まりの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2】再配線層形成工程の処理の一例を示すフローチャートである。
図3】(A)及び(B)は、電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図4】(A)及び(B)は、図3に続いて、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図5】(A)及び(B)は、図4に続いて、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図6】(A)及び(B)は、図5に続いて、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図7】(A)及び(B)は、図6に続いて、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図8】(A)及び(B)は、図7に続いて、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図9】(A)及び(B)は、図8に続いて、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図10】(A)及び(B)は、図9に続いて、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図11】(A)及び(B)は、図10に続いて、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図12】再配線層形成工程の処理の他の例を示すフローチャートである。
図13】(A)及び(B)は、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図14】(A)及び(B)は、図13に続いて、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図15】(A)及び(B)は、図14に続いて、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図16】(A)及び(B)は、図15に続いて、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図17】(A)及び(B)は、図16に続いて、積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一工程を示す図である。
図18】(A)は比較例、(B)は実施例における製造方法により製造した再配線層の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造又は形状、縮尺等が異なっている場合がある。
【0013】
図1は、実施形態に係る積層体の製造方法及び電子装置の製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態では、いわゆるファンアウト型PLP技術により電子装置を製造する。実施形態に係る積層体の製造方法及び電子装置の製造方法は、図1に示すように、分離層形成工程S01と、接着層形成工程S02と、保護層形成工程S03と、再配線層形成工程S04と、基板形成工程S05と、モールド研磨工程S06と、分離層変質工程S07と、ガラス支持体剥離工程S08と、接着層除去工程S09と、を含む。
【0014】
図3から図11は、実施形態に係る積層体の製造方法及び電子装置の製造方法について、工程の一例を示す図である。以下、図3から図11においては、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。このXYZ座標系においては、ガラス支持体のうち分離層が形成される分離層形成面に平行な面をXY平面とする。このXY平面に平行な一方向(例えば、ガラス支持体の短手方向)をX方向と表記し、X方向に直交する方向(例えば、ガラス支持体の長手方向)をY方向と表記する。また、XY平面に垂直な方向はZ方向と表記する。すなわち、分離層形成面の法線方向がZ方向となる。X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれは、図中の矢印の方向が+方向であり、矢印の方向とは反対の方向が-方向であるとして説明する。
【0015】
<分離層形成工程>
分離層形成工程S01では、例えば、図3(A)に示すように、例えば矩形状のガラス支持体10の分離層形成面10fに分離層20を形成する。分離層形成工程S01では、例えばガラス支持体10を不図示のステージ上に保持し、スリットノズル等からガラス支持体10の分離層形成面10fに分離層20を形成するための液状体を吐出する。この状態でステージとスリットノズルとを相対的に移動させ、ガラス支持体10上に分離層20が形成することで、積層体100を形成する。なお、ガラス支持体10は、例えば、厚さ500μm以上、2000μm以下のガラス板などが用いられ、不図示のステージ部等に載置されて吸着等されることにより、分離層形成面10fを所定の平面度とした状態で保持される。分離層20を形成するための液状体の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、ディッピング法、ローラーブレード法、ドクターブレード法、スプレー法、スリットノズル法、インクジェット法などによる塗布法等が挙げられる。また、分離層20を形成するための液状体をガラス支持体10上に塗布した後、加熱等により乾燥させてもよい。
【0016】
分離層20は、例えば光を吸収することによって変質する材料から形成される。本実施形態において、分離層20が変質するとは、分離層20がわずかな外力を受けて破壊され得る状態、又は分離層20と接する層との接着力が低下した状態にさせることをいう。分離層20は、光を吸収して変質することにより、変質する前に比べて、強度又はガラス支持体10に対する接着性が低下する。このため、変質後の分離層20は、わずかな外力を加える(例えば、ガラス支持体10を持ち上げるなど)こと等により、破壊され又はガラス支持体10から剥離される。
【0017】
分離層20の変質は、吸収した光のエネルギーによる(発熱性又は非発熱性の)分解、架橋、立体配置の変化又は官能基の解離(そして、これらにともなう分離層20の硬化、脱ガス、収縮又は膨張)等であり得る。分離層20の変質は、分離層20を構成する材料による光の吸収の結果として生じる。よって、分離層20の変質の種類は、分離層20を構成する材料の種類に応じて変化し得る。また、分離層20は、光を吸収することによって変質する材料に限定されない。例えば、光によらずに与えられた熱を吸収することによって変質する材料、あるいは、他の溶剤等によって変質する材料であってもよい。
【0018】
分離層20の厚さは、例えば、0.05μmから50μmであることがより好ましく、0.3μmから1.0μmであることがさらに好ましい。分離層20の厚さが0.05μmから50μmの範囲内に収まっていれば、短時間の光の照射及び低エネルギーの光の照射、あるいは短時間の加熱、溶剤への短時間の浸漬などによって、分離層20に所望の変質を生じさせることができる。また、分離層20の厚さは、生産性の観点から1μm以下の範囲内に収まっていることが特に好ましい。
【0019】
以下、吸収した光のエネルギーにより変質する分離層20について説明する。分離層20は、光を吸収する構造を有する材料のみから形成されていることが好ましいが、本質的な特性を損なわない範囲において、光を吸収する構造を有していない材料を添加して、分離層20を形成してもよい。また、分離層20において、後述する接着層30に対向する側の面が平坦である(凹凸が形成されていない)ことが好ましく、これにより、接着層30の平滑化が可能となり、接着層30上に形成される金属層70(再配線層71)を精度よく形成することが可能となる。
【0020】
分離層20は、レーザから照射される光を吸収することによって変質するものであってもよい。すなわち、分離層20を変質させるために分離層20に照射される光は、レーザから照射されたものであってもよい。分離層20に照射する光を発射するレーザの例としては、YAGレーザ、ルビーレーザ、ガラスレーザ、YVOレーザ、LDレーザ、ファイバーレーザ等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、COレーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He-Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、又は、非レーザ光等が挙げられる。分離層20に照射する光を発射するレーザは、分離層20を構成している材料に応じて適宜選択することが可能であり、分離層20を構成する材料を変質させ得る波長の光を照射するレーザを選択すればよい。
【0021】
(フルオロカーボン)
分離層20は、フルオロカーボンからなっていてもよい。分離層20は、フルオロカーボンによって構成されることにより、光を吸収することによって変質するようになっており、その結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。よって、わずかな外力を加える(例えば、ガラス支持体10を持ち上げる等)ことによって、分離層20が破壊されて、ガラス支持体10と基板80とを分離し易くすることができる。分離層20を構成するフルオロカーボンは、プラズマCVD(化学気相堆積)法によって好適に成膜することができる。
【0022】
フルオロカーボンは、その種類によって固有の範囲の波長を有する光を吸収する。分離層20に用いたフルオロカーボンが吸収する範囲の波長の光を分離層に照射することにより、フルオロカーボンを好適に変質させ得る。なお、分離層20における光の吸収率は80%以上であることが好ましい。
【0023】
分離層20に照射する光としては、フルオロカーボンが吸収可能な波長に応じて、例えば、YAGレーザ、ルビーレーザ、ガラスレーザ、YVO4レーザ、LDレーザ、ファイバーレーザ等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、COレーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He-Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、又は、非レーザ光を適宜用いればよい。フルオロカーボンを変質させ得る波長としては、これに限定されるものではないが、例えば、600nm以下の範囲のものを用いることができる。
【0024】
(光吸収性を有している構造をその繰り返し単位に含んでいる重合体)
分離層20は、光吸収性を有している構造をその繰り返し単位に含んでいる重合体を含有していてもよい。該重合体は、光の照射を受けて変質する。該重合体の変質は、上記構造が照射された光を吸収することによって生じる。分離層20は、重合体の変質の結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失っている。よって、わずかな外力を加える(例えば、ガラス支持体10を持ち上げる等)ことによって、分離層20が破壊されて、ガラス支持体10と基板80とを分離し易くすることができる。
【0025】
光吸収性を有している上記構造は、光を吸収して、繰り返し単位として該構造を含んでいる重合体を変質させる化学構造である。該構造は、例えば、置換若しくは非置換のベンゼン環、縮合環又は複素環からなる共役π電子系を含んでいる原子団である。より詳細には、該構造は、カルド構造、又は上記重合体の側鎖に存在するベンゾフェノン構造、ジフェニルスルフォキシド構造、ジフェニルスルホン構造(ビスフェニルスルホン構造)、ジフェニル構造若しくはジフェニルアミン構造であり得る。
【0026】
上記構造が上記重合体の側鎖に存在する場合、該構造は以下の式によって表され得る。
【0027】
【化1】
【0028】
(式中、Rはそれぞれ独立して、アルキル基、アリール基、ハロゲン、水酸基、ケトン基、スルホキシド基、スルホン基又はN(R)(R)基であり(ここで、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1から5のアルキル基である)、Zは、存在しないか、又は-CO-、-SO-、-SO-若しくは-NH-であり、nは0又は1から5の整数である。)
また、上記重合体は、例えば、以下の式のうち、(a)から(d)の何れかによって表される繰り返し単位を含んでいるか、(e)によって表されるか、又は(f)の構造をその主鎖に含んでいる。
【0029】
【化2】
【0030】
(式中、lは1以上の整数であり、mは0又は1から2の整数であり、Xは、(a)から(e)において上記の化学式[化1]に示した式のいずれかであり、(f)において上記の[化1]に示した式のいずれかであるか、又は存在せず、Y及びYはそれぞれ独立して、-CO-又は-SO-である。lは好ましくは10以下の整数である。)
上記の化学式[化1]に示されるベンゼン環、縮合環及び複素環の例としては、フェニル、置換フェニル、ベンジル、置換ベンジル、ナフタレン、置換ナフタレン、アントラセン、置換アントラセン、アントラキノン、置換アントラキノン、アクリジン、置換アクリジン、アゾベンゼン、置換アゾベンゼン、フルオレン、置換フルオレン、フルオレノン、置換フルオリレノン、カルバゾール、置換カルバゾール、N-アルキルカルバゾール、ジベンゾフラン、置換ジベンゾフラン、フェナンスレン、置換フェナンスレン、ピレン及び置換ピレンが挙げられる。例示した置換基がさらに置換基を有している場合、その置換基は、例えば、アルキル、アリール、ハロゲン原子、アルコキシ、ニトロ、アルデヒド、シアノ、アミド、ジアルキルアミノ、スルホンアミド、イミド、カルボン酸、カルボン酸エステル、スルホン酸、スルホン酸エステル、アルキルアミノ及びアリールアミノから選択される。
【0031】
上記の化学式[化1]に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している5番目の置換基であって、Zが-SO-である場合の例としては、ビス(2,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,6‐ジヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3‐ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(2‐ヒドロキシフェニル)スルホン、及びビス(3,5‐ジメチル‐4‐ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。
【0032】
上記の化学式[化1]に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している5番目の置換基であって、Zが-SO-である場合の例としては、ビス(2,3‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2,3‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4‐ジヒドロキシ‐6‐メチルフェニル)スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,5‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3,4‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3,5‐ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,3,4‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,3,4‐トリヒドロキシ‐6‐メチルフェニル)‐スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2,3,4‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4,6‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(5‐クロロ‐2,4,6‐トリヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。
【0033】
上記の化学式[化1]に示される置換基のうち、フェニル基を2つ有している5番目の置換基であって、Zが-C(=O)-である場合の例としては、2,4‐ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4‐トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’‐テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,5,6’‐テトラヒドロキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐オクトキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’‐ジヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2,6‐ジヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2,2’‐ジヒドロキシ‐4,4’‐ジメトキシベンゾフェノン、4‐アミノ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジメチルアミノ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジエチルアミノ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジメチルアミノ‐4’‐メトキシ‐2’‐ヒドロキシベンゾフェノン、4‐ジメチルアミノ‐2’,4’‐ジヒドロキシベンゾフェノン、及び4‐ジメチルアミノ‐3’,4’‐ジヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0034】
上記構造が上記重合体の側鎖に存在している場合、上記構造を含んでいる繰り返し単位の、上記重合体に占める割合は、分離層20の光の透過率が0.001%以上、10%以下になる範囲内にある。該割合がこのような範囲に収まるように重合体が調製されていれば、分離層20が十分に光を吸収して、確実かつ迅速に変質し得る。すなわち、基板80からのガラス支持体10の除去が容易であり、該除去に必要な光の照射時間を短縮させることができる。
【0035】
上記構造は、その種類の選択によって、所望の範囲の波長を有している光を吸収することができる。例えば、上記構造が吸収可能な光の波長は、100nm以上、2,000nm以下の範囲内であることがより好ましい。この範囲内のうち、上記構造が吸収可能な光の波長は、より短波長側であり、例えば、100nm以上、500nm以下の範囲内である。例えば、上記構造は、好ましくはおよそ300nm以上、370nm以下の範囲内の波長を有している紫外光を吸収することによって、該構造を含んでいる重合体を変質させ得る。
【0036】
上記構造が吸収可能な光は、例えば、高圧水銀ランプ(波長:254nm以上、436nm以下)、KrFエキシマレーザ(波長:248nm)、ArFエキシマレーザ(波長:193nm)、F2エキシマレーザ(波長:157nm)、XeClレーザ(波長:308nm)、XeFレーザ(波長:351nm)若しくは固体UVレーザ(波長:355nm)から発せられる光、又はg線(波長:436nm)、h線(波長:405nm)若しくはi線(波長:365nm)等である。
【0037】
上述した分離層20は、繰り返し単位として上記構造を含んでいる重合体を含有しているが、分離層20はさらに、上記重合体以外の成分を含み得る。該成分としては、フィラー、可塑剤、及びガラス支持体10の剥離性を向上し得る成分等が挙げられる。これらの成分は、上記構造による光の吸収、及び重合体の変質を妨げないか、又は促進する、従来公知の物質又は材料から適宜選択される。
【0038】
(無機物)
分離層20は、無機物からなっていてもよい。分離層20は、無機物によって構成されることにより、光を吸収することによって変質するようになっており、その結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。よって、わずかな外力を加える(例えば、ガラス支持体10を持ち上げる等)ことによって、分離層20が破壊されて、ガラス支持体10と基板80とを分離し易くすることができる。
【0039】
上記無機物は、光を吸収することによって変質する構成であればよく、例えば、金属、金属化合物及びカーボンからなる群より選択される1種類以上の無機物を好適に用いることができる。金属化合物とは、金属原子を含む化合物を指し、例えば、金属酸化物、金属窒化物であり得る。このような無機物の例示としては、これに限定されるものではないが、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、チタン、クロム、SiO、SiN、Si、TiN、及びカーボンからなる群より選ばれる1種類以上の無機物が挙げられる。なお、カーボンとは炭素の同素体も含まれ得る概念であり、例えば、ダイヤモンド、フラーレン、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンナノチューブ等であり得る。
【0040】
上記無機物は、その種類によって固有の範囲の波長を有する光を吸収する。分離層20に用いた無機物が吸収する範囲の波長の光を分離層に照射することにより、上記無機物を好適に変質させ得る。
【0041】
無機物からなる分離層20に照射する光としては、上記無機物が吸収可能な波長に応じて、例えば、YAGレーザ、ルビーレーザ、ガラスレーザ、YVOレーザ、LDレーザ、ファイバーレーザ等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、COレーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He-Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、又は、非レーザ光を適宜用いればよい。
【0042】
無機物からなる分離層20は、例えばスパッタ、化学蒸着(CVD)、メッキ、プラズマCVD、スピンコート等の公知の技術により、ガラス支持体10上に形成され得る。無機物からなる分離層20の厚さは特に限定されず、使用する光を十分に吸収し得る膜厚であればよいが、例えば、0.05μm以上、10μm以下の範囲内の膜厚とすることがより好ましい。また、分離層20を構成する無機物からなる無機膜(例えば、金属膜)の両面又は片面に予め接着剤を塗布し、ガラス支持体10及び基板80に貼り付けてもよい。
【0043】
なお、分離層20として金属膜を使用する場合には、分離層20の膜質、レーザ光源の種類、レーザ出力等の条件によっては、レーザの反射や膜への帯電等が起こり得る。そのため、反射防止膜や帯電防止膜を分離層20の上下又はどちらか一方に設けることで、それらの対策を図ることが好ましい。
【0044】
(赤外線吸収性の構造を有する化合物)
分離層20は、赤外線吸収性の構造を有する化合物によって形成されていてもよい。該化合物は、赤外線を吸収することにより変質する。分離層20は、化合物の変質の結果として、赤外線の照射を受ける前の強度又は接着性を失っている。よって、わずかな外力を加える(例えば、支持体を持ち上げる等)ことによって、分離層20が破壊されて、ガラス支持体10と基板80とを分離し易くすることができる。
【0045】
赤外線吸収性を有している構造、又は赤外線吸収性を有している構造を含む化合物としては、例えば、アルカン、アルケン(ビニル、トランス、シス、ビニリデン、三置換、四置換、共役、クムレン、環式)、アルキン(一置換、二置換)、単環式芳香族(ベンゼン、一置換、二置換、三置換)、アルコール及びフェノール類(自由OH、分子内水素結合、分子間水素結合、飽和第二級、飽和第三級、不飽和第二級、不飽和第三級)、アセタール、ケタール、脂肪族エーテル、芳香族エーテル、ビニルエーテル、オキシラン環エーテル、過酸化物エーテル、ケトン、ジアルキルカルボニル、芳香族カルボニル、1,3-ジケトンのエノール、o-ヒドロキシアリールケトン、ジアルキルアルデヒド、芳香族アルデヒド、カルボン酸(二量体、カルボン酸アニオン)、ギ酸エステル、酢酸エステル、共役エステル、非共役エステル、芳香族エステル、ラクトン(β-、γ-、δ-)、脂肪族酸塩化物、芳香族酸塩化物、酸無水物(共役、非共役、環式、非環式)、第一級アミド、第二級アミド、ラクタム、第一級アミン(脂肪族、芳香族)、第二級アミン(脂肪族、芳香族)、第三級アミン(脂肪族、芳香族)、第一級アミン塩、第二級アミン塩、第三級アミン塩、アンモニウムイオン、脂肪族ニトリル、芳香族ニトリル、カルボジイミド、脂肪族イソニトリル、芳香族イソニトリル、イソシアン酸エステル、チオシアン酸エステル、脂肪族イソチオシアン酸エステル、芳香族イソチオシアン酸エステル、脂肪族ニトロ化合物、芳香族ニトロ化合物、ニトロアミン、ニトロソアミン、硝酸エステル、亜硝酸エステル、ニトロソ結合(脂肪族、芳香族、単量体、二量体)、メルカプタン及びチオフェノール及びチオール酸等の硫黄化合物、チオカルボニル基、スルホキシド、スルホン、塩化スルホニル、第一級スルホンアミド、第二級スルホンアミド、硫酸エステル、炭素-ハロゲン結合、Si-A結合(Aは、H、C、O又はハロゲン)、P-A結合(Aは、H、C又はO)、又はTi-O結合であり得る。
【0046】
上記炭素-ハロゲン結合を含む構造としては、例えば、-CHCl、-CHBr、-CHI、-CF-、-CF、-CH=CF、-CF=CF、フッ化アリール、及び塩化アリール等が挙げられる。
【0047】
上記Si-A結合を含む構造としては、SiH、SiH、SiH、Si-CH、Si-CH-、Si-C、SiO-脂肪族、Si-OCH、Si-OCHCH、Si-OC、Si-O-Si、Si-OH、SiF、SiF、及びSiF等が挙げられる。Si-A結合を含む構造としては、特に、シロキサン骨格及びシルセスキオキサン骨格を形成していることが好ましい。
【0048】
上記P-A結合を含む構造としては、PH、PH、P-CH、P-CH-、P-C、A -P-O(Aは脂肪族又は芳香族)、(AO)-P-O(Aはアルキル)、P-OCH、P-OCHCH、P-OC、P-O-P、P-OH、及びO=P-OH等が挙げられる。
【0049】
上記構造は、その種類の選択によって、所望の範囲の波長を有している赤外線を吸収することができる。具体的には、上記構造が吸収可能な赤外線の波長は、例えば1μm以上、20μm以下の範囲内であり、2μm以上、15μm以下の範囲内をより好適に吸収することができる。さらに、上記構造がSi-O結合、Si-C結合及びTi-O結合である場合には、9μm以上、11μm以下の範囲内であり得る。なお、各構造が吸収できる赤外線の波長は当業者であれば容易に理解することができる。例えば、各構造における吸収帯として、非特許文献:SILVERSTEIN・BASSLER・MORRILL著「有機化合物のスペクトルによる同定法(第5版)-MS、IR、NMR、UVの併用-」(1992年発行)第146頁から第151頁の記載を参照することができる。
【0050】
分離層20の形成に用いられる、赤外線吸収性の構造を有する化合物としては、上述のような構造を有している化合物のうち、塗布のために溶媒に溶解することができ、固化されて固層を形成することができるものであれば、特に限定されるものではない。しかしながら、分離層20における化合物を効果的に変質させ、ガラス支持体10と基板80との分離を容易にするには、分離層20における赤外線の吸収が大きいこと、すなわち、分離層20に赤外線を照射したときの赤外線の透過率が低いことが好ましい。具体的には、分離層20における赤外線の透過率が90%より低いことが好ましく、赤外線の透過率が80%より低いことがより好ましい。
【0051】
一例を挙げて説明すれば、シロキサン骨格を有する化合物としては、例えば、下記の化学式[化3]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化4]で表される繰り返し単位の共重合体である樹脂、あるいは下記の化学式[化4]で表される繰り返し単位及びアクリル系化合物由来の繰り返し単位の共重合体である樹脂を用いることができる。
【0052】
【化3】
【0053】
【化4】
【0054】
(上記の化学式[化4]中、Rは、水素、炭素数10以下のアルキル基、又は炭素数10以下のアルコキシ基である。)
中でも、シロキサン骨格を有する化合物としては、上記の化学式[化3]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化5]で表される繰り返し単位の共重合体であるt-ブチルスチレン(TBST)-ジメチルシロキサン共重合体がより好ましく、上記の化学式[化3]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化5]で表される繰り返し単位を1:1で含む、TBST-ジメチルシロキサン共重合体がさらに好ましい。
【0055】
【化5】
【0056】
また、シルセスキオキサン骨格を有する化合物としては、例えば、下記の化学式[化6]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化7]で表される繰り返し単位の共重合体である樹脂を用いることができる。
【0057】
【化6】
【0058】
【化7】
【0059】
(上記の化学式[化6]中、Rは、水素又は炭素数1以上、10以下のアルキル基であり、上記の化学式[化7]中、Rは、炭素数1以上、10以下のアルキル基、又はフェニル基である。)
シルセスキオキサン骨格を有する化合物としては、このほかにも、特開2007-258663号公報(2007年10月4日公開)、特開2010-120901号公報(2010年6月3日公開)、特開2009-263316号公報(2009年11月12日公開)及び特開2009-263596号公報(2009年11月12日公開)において開示されている各シルセスキオキサン樹脂を好適に利用することができる。
【0060】
中でも、シルセスキオキサン骨格を有する化合物としては、下記の化学式[化8]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化9]で表される繰り返し単位の共重合体がより好ましく、下記の化学式[化8]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化9]で表される繰り返し単位を5:5~9:1の範囲(例えば7:3)で含む共重合体がさらに好ましい。
【0061】
【化8】
【0062】
【化9】
【0063】
シルセスキオキサン骨格を有する重合体としては、ランダム構造、ラダー構造、及び籠型構造があり得るが、何れの構造であってもよい。
【0064】
また、Ti-O結合を含む化合物としては、例えば、(i)テトラ-i-プロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、及びチタニウム-i-プロポキシオクチレングリコレート等のアルコキシチタン;(ii)ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、及びプロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)等のキレートチタン;(iii)i-CO-[-Ti(O-i-C-O-]-i-C、及びn-CO-[-Ti(O-n-C-O-]-n-C等のチタンポリマー;(iv)トリ-n-ブトキシチタンモノステアレート、チタニウムステアレート、ジ-i-プロポキシチタンジイソステアレート、及び(2-n-ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン等のアシレートチタン;(v)ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン等の水溶性チタン化合物等が挙げられる。
【0065】
中でも、Ti-O結合を含む化合物としては、ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン(Ti(OC[OCN(COH))が好ましい。
【0066】
上述した分離層20は、赤外線吸収性の構造を有する化合物を含有しているが、分離層20はさらに、上記化合物以外の成分を含み得る。該成分としては、フィラー、可塑剤、及びガラス支持体10の剥離性を向上し得る成分等が挙げられる。これらの成分は、上記構造による赤外線の吸収、及び化合物の変質を妨げないか、又は促進する、従来公知の物質又は材料から適宜選択される。
【0067】
(赤外線吸収物質)
分離層20は、赤外線吸収物質を含有していてもよい。分離層20は、赤外線吸収物質を含有して構成されることにより、光を吸収することによって変質するようになっており、その結果として、光の照射を受ける前の強度又は接着性を失う。よって、わずかな外力を加える(例えば、ガラス支持体10を持ち上げる等)ことによって、分離層20が破壊されて、ガラス支持体10と基板80とを分離し易くすることができる。
【0068】
赤外線吸収物質は、赤外線を吸収することによって変質する構成であればよく、例えば、カーボンブラック、鉄粒子、又はアルミニウム粒子を好適に用いることができる。赤外線吸収物質は、その種類によって固有の範囲の波長を有する光を吸収する。分離層20に用いた赤外線吸収物質が吸収する範囲の波長の光を分離層20に照射することにより、赤外線吸収物質を好適に変質させ得る。
【0069】
<接着層形成工程>
接着層形成工程S02は、分離層形成工程S01の後に行う。接着層形成工程S02では、例えば図3(B)に示すように、分離層20のガラス支持体10が存在しない側、つまり分離層20の接着層形成面20fに、分離層20と互いに接し合うように接着層30が形成される。接着層形成工程S02では、接着層30が分離層20上に形成される。
【0070】
接着層形成工程S02では、例えば分離層形成工程S01と同様、ガラス支持体10を不図示のステージ上に保持し、スリットノズル等から分離層20の接着層形成面20fに向けて接着層30を形成するための液状体を吐出する。この状態でステージとスリットノズルとを相対的に移動させることで、分離層20上に接着層30が形成される。接着層30は、例えば厚さが1μm以上100μm以下に形成されることが好ましい。
【0071】
(接着層の製造例)
接着層形成工程S02では、分離層20に接着剤を含む液状体を塗布してもよいし、接着剤が両面に塗布された接着テープを分離層20に貼り付けてもよい。接着剤の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、ディッピング法、ローラーブレード法、ドクターブレード法、スプレー法、スリットノズル法、インクジェット法などによる塗布法等が挙げられる。また、接着剤を分離層20上に塗布した後、加熱等により乾燥させてもよい。また、接着剤としては、例えばアクリル系、ノボラック系、ナフトキノン系、炭化水素系、ポリイミド系、エラストマー等の、当該分野において公知の種々の接着剤が使用可能である。
【0072】
接着層30に含有される樹脂としては、接着性を備えたものであればよく、例えば、炭化水素樹脂、アクリル-スチレン系樹脂、マレイミド系樹脂、エラストマー樹脂等、又はこれらを組み合わせたもの等が挙げられる。
【0073】
接着剤の融点は、上記樹脂の種類や分子量、及び接着剤への可塑剤等の配合物によって変化する。上記接着剤に含有される樹脂の種類や分子量は、基板及び支持体の種類に応じて適宜選択することができるが、接着剤に使用する樹脂の融点は、50℃以上、300℃以下の範囲内が好ましい。接着剤に使用する樹脂の融点が50℃以上、300℃以下の範囲内であることによって、加熱時における接着層の流動性を抑制できる。また、接着層30の融点は、適宜、可塑剤や低重合度の樹脂等を配合することによって調整してもよい。融点は、例えば、公知の示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて測定することができる。
【0074】
(炭化水素樹脂)
炭化水素樹脂は、炭化水素骨格を有し、単量体組成物を重合してなる樹脂である。炭化水素樹脂として、シクロオレフィン系ポリマー(以下、「樹脂(A)」ということがある)、並びに、テルペン樹脂、ロジン系樹脂及び石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(以下、「樹脂(B)」ということがある)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0075】
樹脂(A)としては、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を重合してなる樹脂であってもよい。具体的には、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分の開環(共)重合体、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を付加(共)重合させた樹脂等が挙げられる。
【0076】
樹脂(A)を構成する単量体成分に含まれる前記シクロオレフィン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエン等の三環体、テトラシクロドデセン等の四環体、シクロペンタジエン三量体等の五環体、テトラシクロペンタジエン等の七環体、又はこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル等)置換体、アルケニル(ビニル等)置換体、アルキリデン(エチリデン等)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチル等)置換体等が挙げられる。これらの中でも特に、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、又はこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0077】
樹脂(A)を構成する単量体成分は、上述したシクロオレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよく、例えば、アルケンモノマーを含有することが好ましい。アルケンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ヘキセン、α-オレフィン等が挙げられる。アルケンモノマーは、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0078】
また、樹脂(A)を構成する単量体成分として、シクロオレフィンモノマーを含有することが、高耐熱性(低い熱分解、熱重量減少性)の観点から好ましい。樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましい。また、樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するシクロオレフィンモノマーの割合は、特に限定されないが、溶解性及び溶液での経時安定性の観点からは80モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましい。
【0079】
また、樹脂(A)を構成する単量体成分として、直鎖状又は分岐鎖状のアルケンモノマーを含有してもよい。樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対するアルケンモノマーの割合は、溶解性及び柔軟性の観点からは10から90モル%であることが好ましく、20から85モル%であることがより好ましく、30から80モル%であることがさらに好ましい。
【0080】
なお、樹脂(A)は、例えば、シクロオレフィン系モノマーとアルケンモノマーとからなる単量体成分を重合させてなる樹脂のように、極性基を有していない樹脂であることが、高温下でのガスの発生を抑制する上で好ましい。
【0081】
単量体成分を重合するときの重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜設定すればよい。
【0082】
樹脂(A)として用いることのできる市販品としては、例えば、ポリプラスチックス株式会社製の「TOPAS」、三井化学株式会社製の「APEL」、日本ゼオン株式会社製の「ZEONOR」及び「ZEONEX」、JSR株式会社製の「ARTON」等が挙げられる。
【0083】
樹脂(B)は、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂及び石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である。具体的には、テルペン系樹脂としては、例えば、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、水添テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。ロジン系樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステル、変性ロジン等が挙げられる。石油樹脂としては、例えば、脂肪族又は芳香族石油樹脂、水添石油樹脂、変性石油樹脂、脂環族石油樹脂、クマロン・インデン石油樹脂等が挙げられる。これらの中でも、水添テルペン樹脂、水添石油樹脂がより好ましい。
【0084】
樹脂(B)の重量平均分子量は特に限定されないが、300から3,000であることが好ましい。樹脂(B)の重量平均分子量が300以上であると、耐熱性が充分なものとなり、高温環境下において脱ガス量が少なくなる。一方、樹脂(B)の重量平均分子量が3,000以下であると、積層体を剥離するときの剥離速度が良好なものとなる。なお、本実施形態における樹脂(B)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の分子量を意味するものである。
【0085】
なお、樹脂として、樹脂(A)と樹脂(B)とを混合したものを用いてもよい。混合することにより、耐熱性及び剥離速度が良好なものとなる。例えば、樹脂(A)と樹脂(B)との混合割合としては、(A):(B)=80:20から55:45(質量比)であることが、剥離速度、高温環境時の熱耐性、及び柔軟性に優れるので好ましい。
【0086】
(アクリル-スチレン系樹脂)
アクリル-スチレン系樹脂としては、例えば、スチレン又はスチレンの誘導体と、(メタ)アクリル酸エステル等とを単量体として用いて重合した樹脂が挙げられる。
【0087】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル、脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数15から20のアルキル基を有するアクリル系長鎖アルキルエステル、炭素数1から14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステル等が挙げられる。アクリル系長鎖アルキルエステルとしては、アルキル基がn-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基等であるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なお、当該アルキル基は、分岐状であってもよい。
【0088】
炭素数1から14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステルとしては、既存のアクリル系接着剤に用いられている公知のアクリル系アルキルエステルが挙げられる。例えば、アルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、ドデシル基、ラウリル基、トリデシル基等からなるアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。
【0089】
脂肪族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、イソボルニルメタアクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0090】
芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、芳香族環としては、例えばフェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基等が挙げられる。また、芳香族環は、炭素数1から5の鎖状又は分岐状のアルキル基を有していてもよい。具体的には、フェノキシエチルアクリレートが好ましい。
【0091】
(マレイミド系樹脂)
マレイミド系樹脂としては、例えば、単量体として、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-sec-ブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド、N-n-ペンチルマレイミド、N-n-ヘキシルマレイミド、N-n-へプチルマレイミド、N-n-オクチルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-ステアリルマレイミド等のアルキル基を有するマレイミド、N-シクロプロピルマレイミド、N-シクロブチルマレイミド、N-シクロペンチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-シクロヘプチルマレイミド、N-シクロオクチルマレイミド等の脂肪族炭化水素基を有するマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-m-メチルフェニルマレイミド、N-o-メチルフェニルマレイミド、N-p-メチルフェニルマレイミド等のアリール基を有する芳香族マレイミド等を重合して得られた樹脂が挙げられる。
【0092】
例えば、下記の化学式[化10]で表される繰り返し単位及び下記の化学式[化11]で表される繰り返し単位の共重合体であるシクロオレフィンコポリマーを接着成分の樹脂として用いることができる。
【0093】
【化10】
【0094】
【化11】
【0095】
(上記の化学式[化11]中、nは0又は1から3の整数である。)
このようなシクロオレフィンコポリマーとしては、APL 8008T、APL 8009T、及びAPL 6013T(全て三井化学株式会社製)等を使用することができる。
【0096】
(エラストマー)
エラストマーは、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含んでいることが好ましく、当該「スチレン単位」は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1から5のアルキル基、炭素数1から5のアルコキシ基、炭素数1から5のアルコキシアルキル基、アセトキシ基、カルボキシル基等が挙げられる。また、当該スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内であることがより好ましい。さらに、エラストマーは、重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲内であることが好ましい。
【0097】
スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内であり、エラストマーの重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲内であれば、後述する炭化水素系の溶剤に容易に溶解するので、より容易かつ迅速に接着層30を除去することができる。また、スチレン単位の含有量及び重量平均分子量が上記の範囲内であることにより、ウエハがレジストリソグラフィー工程に供されるときに曝されるレジスト溶剤(例えばPGMEA、PGME等)、酸(フッ化水素酸等)、アルカリ(TMAH等)に対して優れた耐性を発揮する。
【0098】
なお、エラストマーには、上述した(メタ)アクリル酸エステルをさらに混合してもよい。
【0099】
また、スチレン単位の含有量は、より好ましくは17重量%以上であり、また、より好ましくは40重量%以下である。
【0100】
重量平均分子量のより好ましい範囲は20,000以上であり、また、より好ましい範囲は150,000以下である。
【0101】
エラストマーとしては、スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内であり、エラストマーの重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲内であれば、種々のエラストマーを用いることができる。例えば、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックコポリマー(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SBBS)、及び、これらの水添物、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー(スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー)(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー(SEEPS)、スチレンブロックが反応架橋型のスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー(SeptonV9461(株式会社クラレ製))、スチレンブロックが反応架橋型のスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー(反応性のポリスチレン系ハードブロックを有する、SeptonV9827(株式会社クラレ製))等であって、スチレン単位の含有量及び重量平均分子量が上述の範囲内であるものを用いることができる。
【0102】
また、エラストマーの中でも水添物がより好ましい。水添物であれば熱に対する安定性が向上し、分解や重合等の変質が起こりにくい。また、炭化水素系溶剤への溶解性及びレジスト溶剤への耐性の観点からもより好ましい。
【0103】
また、エラストマーの中でも両端がスチレンのブロック重合体であるものがより好ましい。熱安定性の高いスチレンを両末端にブロックすることでより高い耐熱性を示すからである。
【0104】
より具体的には、エラストマーは、スチレン及び共役ジエンのブロックコポリマーの水添物であることがより好ましい。熱に対する安定性が向上し、分解や重合等の変質が起こりにくい。また、熱安定性の高いスチレンを両末端にブロックすることでより高い耐熱性を示す。さらに、炭化水素系溶剤への溶解性及びレジスト溶剤への耐性の観点からもより好ましい。
【0105】
接着層30を構成する接着剤に含まれるエラストマーとして用いられ得る市販品としては、例えば、株式会社クラレ製「セプトン(商品名)」、株式会社クラレ製「ハイブラー(商品名)」、旭化成株式会社製「タフテック(商品名)」、JSR株式会社製「ダイナロン(商品名)」等が挙げられる。
【0106】
接着層30を構成する接着剤に含まれるエラストマーの含有量としては、例えば、接着剤組成物全量を100重量部として、50重量部以上、99重量部以下の範囲内が好ましく、60重量部以上、99重量部以下の範囲内がより好ましく、70重量部以上、95重量部以下の範囲内が最も好ましい。これら範囲内にすることにより、耐熱性を維持しつつ、ウエハと支持体とを好適に貼り合わせることができる。
【0107】
また、エラストマーは、複数の種類を混合してもよい。つまり、接着層30を構成する接着剤は複数の種類のエラストマーを含んでいてもよい。複数の種類のエラストマーのうち少なくとも一つが、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含んでいればよい。また、複数の種類のエラストマーのうち少なくとも一つが、スチレン単位の含有量が14重量%以上、50重量%以下の範囲内である、又は、重量平均分子量が10,000以上、200,000以下の範囲内であれば、本発明の範疇である。また、接着層30を構成する接着剤において、複数の種類のエラストマーを含む場合、混合した結果、スチレン単位の含有量が上記の範囲内となるように調整してもよい。例えば、スチレン単位の含有量が30重量%である株式会社クラレ製のセプトン(商品名)のSepton4033と、スチレン単位の含有量が13重量%であるセプトン(商品名)のSepton2063とを重量比1対1で混合すると、接着剤に含まれるエラストマー全体に対するスチレン含有量は21から22重量%となり、従って14重量%以上となる。また、例えば、スチレン単位が10重量%のものと60重量%のものとを重量比1対1で混合すると35重量%となり、上記の範囲内となる。本発明はこのような形態でもよい。また、接着層30を構成する接着剤に含まれる複数の種類のエラストマーは、全て上記の範囲内でスチレン単位を含み、かつ、上記の範囲内の重量平均分子量であることが最も好ましい。
【0108】
なお、光硬化性樹脂(例えば、UV硬化性樹脂)以外の樹脂を用いて接着層30を形成することが好ましい。光硬化性樹脂以外の樹脂を用いることで、接着層30の剥離又は除去の後に、ガラス支持体10の微小な凹凸の周辺に残渣が残ることを防ぐことができる。特に、接着層30を構成する接着剤としては、あらゆる溶剤に溶解するものではなく、特定の溶剤に溶解するものが好ましい。これは、基板80に物理的な力を加えることなく、接着層30を溶剤に溶解させることによって除去可能なためである。接着層30の除去に際して、強度が低下した基板80からでさえ、基板80を破損させたり、変形させたりせずに、容易に接着層30を除去することができる。
【0109】
(希釈溶剤)
接着層30(及び分離層20)を形成するときに使用する希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、メチルオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の直鎖状の炭化水素、炭素数4から15の分岐状の炭化水素、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ナフタレン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン等の環状炭化水素、p-メンタン、o-メンタン、m-メンタン、ジフェニルメンタン、1,4-テルピン、1,8-テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、テルピネン-1-オール、テルピネン-4-オール、ジヒドロターピニルアセテート、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、ツヨン、カンファー、d-リモネン、l-リモネン、ジペンテン等のテルペン系溶剤;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン(CH)、メチル-n-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類又は前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル又はモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体(これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい);ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル等の芳香族系有機溶剤等を挙げることができる。
【0110】
(その他の成分)
接着層30を構成する接着剤は、本質的な特性を損なわない範囲において、混和性のある他の物質をさらに含んでいてもよい。例えば、接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着補助剤、安定剤、着色剤、熱重合禁止剤及び界面活性剤等、慣用されている各種添加剤をさらに用いることができる。
【0111】
<保護層形成工程>
保護層形成工程S03は、例えば接着層形成工程S02の後に行う。保護層形成工程S03では、図4(A)に示すように、接着層30のガラス支持体10が存在しない側、つまり接着層30の保護層形成面30fに、接着層30と互いに接し合うように保護層40が形成される。保護層形成工程S03では、保護層40が接着層30上に形成される。保護層形成工程S03では、例えばスパッタリング法等の手法により、接着層30の保護層形成面30fの全面に保護層40が形成される。なお、保護層40は、スパッタリング法以外の任意の方法により形成することが可能である。
【0112】
保護層40は、後述の再配線層71の形成に用いられる。保護層40を設けることにより、再配線層の位置ずれを抑制する。保護層40は、導電性又は非導電性の金属の層で形成される。保護層40は、例えばTi及びCuの一方又は双方を含む金属で形成される。保護層40は、融点が300℃以上である。保護層40として適用可能な金属としては、銀(Ag)、アルミ(Al)、金(Au)、カーボン(C)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、パラジウム(Pd)などがある。なお、銀(Ag)の融点は約961℃である。アルミ(Al)の融点は約660℃である。金(Au)の融点は約1063℃である。カーボン(C)の融点は約3600℃である。クロム(Cr)の融点は約1900℃である。銅(Cu)の融点は約1083℃である。鉄(Fe)の融点は約1539℃である。チタン(Ti)の融点は約1727℃である。ニッケル(Ni)の融点は約1455℃である。亜鉛(Zn)の融点は約419℃である。パラジウム(Pd)の融点は約328℃である。なお、上記した接着層30の軟化点(ソフトニングポイント)は、約170℃から220℃である。
【0113】
このように、本実施形態では、保護層40の融点が300℃以上の金属等を用いることにより、加熱時において接着層30が軟化したとしても、保護層40の流動性が抑制される。また、保護層40の融点が500℃以上であることが好ましい。保護層40の融点が500℃以上であると、より一層保護層40の流動性が抑制される。融点が500℃以上の保護層40としては、銀(Ag)、アルミ(Al)、金(Au)、カーボン(C)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)などがある。なお、保護層40の形成後に加熱する工程を含むものは、例えば、後述する再配線層形成工程S04などである。
【0114】
<再配線層形成工程>
再配線層形成工程S04は、保護層形成工程S03の後に行う。再配線層形成工程S04では、保護層40のガラス支持体10が存在しない側の面に再配線層71が形成される。本実施形態では、再配線層71を形成した後、再配線層71上に電子部品81を積層するRLDファーストと呼ばれる手法を行う。
【0115】
図2は、再配線層形成工程S04における処理の一例を示すフローチャートである。図2に示すように、再配線層形成工程S04は、絶縁層形成工程S41と、レジスト層形成工程S42と、レジストパターニング工程S43と、絶縁層エッチング工程S44と、金属層形成工程S45と、メッキ工程S46と、金属層上部除去工程S47と、レジスト除去工程S48とを含む。
【0116】
まず、絶縁層形成工程S41では、図4(B)に示すように、保護層40の全面にポリイミド等の材料によって絶縁層50が形成される。絶縁層形成工程S41では、例えばガラス支持体10を不図示のステージ上に保持し、スリットノズル等から保護層40にポリイミド等を含む液状体を吐出する。この状態でステージとスリットノズルとを相対的に移動させることで、保護層40上に絶縁層50が形成される。絶縁層50として適用可能な材質としては、例えば、ポリイミド、アクリル樹脂などがある。また、絶縁層50を形成するための液状体の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、ディッピング法、ローラーブレード法、ドクターブレード法、スプレー法、スリットノズル法、インクジェット法などによる塗布法等が挙げられる。また、絶縁層50を形成するための液状体を保護層40上に塗布した後、加熱等により乾燥させてもよい。
【0117】
絶縁層50が形成された後、レジスト層形成工程S42が行われる。レジスト層形成工程S42では、図5(A)に示すように、絶縁層50の全面にレジスト層60が形成される。レジスト層形成工程S42では、スリットノズル等により、絶縁層50上にレジストを含む液状体を吐出する。レジスト層60を与えるレジストは、ポジ型であってもネガ型であってもよく、プロセスに応じて適宜設定できる。また、レジスト層60を形成するための液状体の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、ディッピング法、ローラーブレード法、ドクターブレード法、スプレー法、スリットノズル法、インクジェット法などによる塗布法等が挙げられる。また、レジスト層60を形成するための液状体を絶縁層50上に塗布した後、加熱等を行ってもよい。
【0118】
レジスト層60が形成された後、レジストパターニング工程S43が行われる。レジストパターニング工程S43では、再配線層71のパターンに対応したパターンでレジスト層60を露光し、その後所定の現像液に浸すことにより現像する。これらの処理には、レジスト層60を露光する前又はレジスト層60を露光した後において、レジスト層60を加熱する工程を含む。本実施形態では、接着層30と絶縁層50との間に保護層40が設けられることで、レジスト層60を加熱する際に、熱による接着層30の収縮あるいは変形が抑制される。その結果、図5(B)に示すように、パターニングされたレジスト層61は、所望の位置から移動せず、かつレジスト層61同士を初もの間隔とした状態となる。レジスト層61は、再配線層71のパターンとは反転したパターンを有する。
【0119】
パターニングされたレジスト層61が形成された後、絶縁層エッチング工程S44が行われる。絶縁層エッチング工程S44では、絶縁層50のうちレジスト層61から露出した部分をエッチング液に浸して除去する。エッチング液は、絶縁層50を溶解可能な任意の液体が使用される。絶縁層50のエッチングにより、図6(A)に示すように、レジスト層61と同一又はほぼ同一のパターンを有する絶縁層51が形成される。また、これら絶縁層51及びレジスト層61により保護層40の一部が露出する。
【0120】
絶縁層50がエッチングされた後、金属層形成工程S45が行われる。金属層形成工程S45では、図6(B)に示すように、例えばスパッタリング等の手法により、保護層40が露出した部分を含めて絶縁層51の全面に、再配線層71の材料となる金属層70を形成する。再配線層71に用いる材料としては、例えば、金、銀、銅、アルミなどの金属の他に、導電性樹脂等が用いられてもよい。また、金属層形成工程S45の後にメッキ工程S46を行ってもよい。メッキ工程S46では、無電解メッキ又は電解メッキにより金属層70上にメッキ層を形成する。図6(B)では、メッキ層を含めて金属層70と表記している。メッキ工程S46は、積層体100を所定のメッキ槽に浸すことにより、金属層70上にメッキ層を形成する。メッキ層を形成するために用いる材料としては、例えば、ハンダめっき、銅めっき、金めっき、ニッケルめっき、銀錫めっき用の薬液である。なお、スパッタリング等の手法により十分な厚さの金属層70を形成できる場合は、メッキ工程S46を省略してもよい。
【0121】
金属層70が形成された後、金属層上部除去工程S47が行われる。金属層上部除去工程S47では、例えば金属層70の上面を、レジスト層61の全面が露出するように研磨等によって除去する。その結果、図7(A)に示すように、レジスト層61が露出する。また、絶縁層51及びレジスト層61の積層部分の間の領域、つまり保護層40が露出していた領域に再配線層71が形成される。
【0122】
金属層70の上部を除去した後、レジスト除去工程S48が行われる。レジスト除去工程S48では、レジスト層61に対してガス又は溶剤等を供給することにより、レジスト層61を除去する。その結果、図7(B)に示すように、保護層40上に絶縁層51及び再配線層71が形成される。なお、再配線層71は、誘電体層及び導電体層を含んでもよい。このような誘電体層として、例えばポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド、及びポリアミドの少なくとも一つを含む樹脂が用いられてもよい。
【0123】
<基板形成工程>
基板形成工程S05は、例えば再配線層形成工程S04の後に行う。基板形成工程S05では、再配線層71に対して電気的に接続された電子部品81を有する基板80を形成する。基板形成工程S05では、例えば50μm以上1000μm以下の厚さの基板80を形成し、基板80の厚さがガラス支持体10の厚さよりも薄くなるようにする。基板形成工程S05では、まず、図8(A)に示すように、再配線層71上に複数の電子部品81が配置され、絶縁層51に接着固定される。電子部品81と再配線層71とは、導電性接着剤又は金属バンプ、はんだ等により電気的に接続されている。なお、電子部品81の配置数は、再配線層71の数に対応してもよく、任意の数である。電子部品81は、例えば、半導体等を用いて形成されたチップ等を含む。
【0124】
続いて、図8(B)に示すように、電子部品81を含む絶縁層51の全面を覆うようにモールド82を形成する。モールド82が形成されることにより、電子部品81がモールド82に埋まった状態で保持される。なお、モールド82は、電子部品81の一部(例えば上面)を露出させるように形成されてもよい。また、モールド82は、例えば分離層20を変質させる光を透過可能な材料を用いて形成される。このような材料としては、例えばガラス、シリコン、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0125】
<モールド研磨工程>
モールド研磨工程S06は、基板形成工程S05の後に行う。なお、モールド研磨工程S06は、基板形成工程S05に含まれていてもよい。モールド研磨工程S06は、図9(A)に示すように、モールド82のガラス支持体10が存在しない側、つまりモールド82の上面82aを研磨し、電子部品81を露出させる。モールド研磨工程S06により、電子部品81の上面(+Z側の面)とモールド82の上面82aとが同一面又はほぼ同一面となった状態となる。モールド研磨工程S06では、例えば公知の手法によりモールドを研磨する。なお、基板形成工程S05において、モールド82が電子部品81の一部を露出させて形成されている場合には、モールド研磨工程S06を省略することができる。
【0126】
なお、モールド研磨工程S06の後、電子部品81及びモールド82の上面82aに導電性を有する材料により配線が形成されてもよい。また、この配線と電気的に接続するように電子部品81が配置され、この電子部品81を覆うように、さらにモールド82が形成されてもよい。配線と電子部品81との接続は金属バンプ、はんだ等が用いられる。このように、電子部品81を配置した層が複数積層された基板80が形成されてもよい。
【0127】
<分離層変質工程>
分離層変質工程S07は、モールド研磨工程S06あるいは基板形成工程S05の後に行う。分離層変質工程S07では、図9(B)に示すように、ガラス支持体10の分離層20が存在しない側、つまりガラス支持体10の底面10rから分離層20に対して、照射装置IRから光L又は不図示の加熱装置から熱を照射する。光Lとしては、上記したように分離層20を変質させることが可能な波長の光Lが用いられる。加熱装置からの熱は、同様に分離層20を変質させることが可能な温度まで分離層20を加熱可能な熱が用いられる。分離層変質工程S07により、分離層20が変質し、強度又はガラス支持体10に対する接着力が低下する。なお、図9(B)では、ガラス支持体10(積層体100)の上下を逆にして(基板80を下向きとして)、上方の照射装置IRから光L又は加熱装置から熱を照射しているが、この形態に限定されない。例えば、基板80を上向きとしてガラス支持体10の下方から照射装置IRにより光L又は加熱装置により熱を照射してもよい。
【0128】
<ガラス支持体剥離工程>
ガラス支持体剥離工程S08は、例えば分離層変質工程S07の後に行う。ガラス支持体剥離工程S08では、図10(A)に示すように、基板80を下向きとした状態でガラス支持体10を上方に持ち上げることにより、分離層20が破壊され、基板80からガラス支持体10が剥離される。ガラス支持体10を上方に持ち上げる作業は、ガラス支持体10を吸着して持ち上げる装置が用いられてもよいし、作業者によりガラス支持体10を上方に持ち上げてもよい。このとき、基板80は、例えばステージ等に吸着されており、ガラス支持体10が持ち上げられることにより、ガラス支持体10から引き離される。ガラス支持体剥離工程S08により、接着層30及び基板80を含む積層体100がガラス支持体10から剥離される。
【0129】
<接着材除去工程>
接着層除去工程S09は、ガラス支持体剥離工程S08の後に行う。接着層除去工程S09では、図10(B)に示すように、基板80(配線及びモールド82)を溶解させず、かつ接着層30を溶解させる溶剤S1を、接着層30上に供給する。接着層30への溶剤S1の供給は、例えば、ディスペンサ等の供給装置Sを接着層30上で走査して行ってもよいし、溶剤S1を溜めた槽に基板80をディップして行ってもよい。接着層30を溶解させる溶剤S1としては、接着層30に用いた材質によって選定され、例えば、接着層30が炭化水素系のエラストマーである場合に、溶剤S1として炭化水素系溶媒が用いられる。この炭化水素系溶媒としては、例えば、テルペン系の炭化水素系溶剤、アルカン系の炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられる。その結果。接着層30が溶剤S1によって溶解され、基板80から接着層30が除去されて、図11(A)に示すように、複数の電子部品81の間にモールド82が配置され、かつ電子部品81及びモールド82の一方の面には再配線層71及び絶縁層51を備え、さらに保護層40を備えた1枚の板状となった構成体101が得られる。
なお、溶剤S1は炭化水素系溶媒に限られることなく、接着層30の材料に応じて、炭化水素系溶媒以外も選択することができる。典型的な例としては、エステル結合、エーテル結合、ケトン基、アミド結合、及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の構造を含む溶剤が挙げられ、これらが単独で用いられてもよいし、組み合わせて用いられてもよい。また、これらの溶剤は、前述の炭化水素系溶剤と組み合わせて用いられてもよい。
【0130】
続いて、図11(B)に示すように、この構成体101から保護層40を除去することで、保護層40がない構成体102を得ることができる。保護層40の除去は、例えば、エッチング等が用いられる。なお、構成体101から保護層40が除去されなくてもよい。上記のように得られた構成体101又は構成体102から、電子部品81を1つ又は複数含む範囲でモールド82の部分がダイシングされることで、電子装置を得ることができる。構成体101をダイシングした場合は、保護層40を有する電子装置が得られ、構成体102をダイシングした場合は、保護層40がない電子装置が得られる。
【0131】
以上のように、実施形態に係る積層体の製造方法及び電子装置の製造方法によれば、接着層30上に融点が300℃以上である保護層40が設けられるので、その後の工程による熱で接着層30が収縮あるいは変形することを抑制している。その結果、接着層30上に形成される絶縁層51の変形又は移動を抑制し、再配線層71を精度よく形成することにより歩留まりの低下を抑制することができる。
【0132】
上記した実施形態は、先に絶縁層50を形成させ、この絶縁層50上にレジスト層60を形成する場合を例に挙げて説明したが、この形態に限定されず、例えば感光性ポリイミド等、感光性を有する絶縁層50を用いて、上記したレジスト層60を用いない形態であってもよい。
【0133】
図12は、他の例における再配線層形成工程S14を示す工程図である。図12では、積層体200を形成する。図12に示すように、再配線層形成工程S14は、絶縁層形成工程S141と、絶縁層パターニング工程S142と、金属層形成工程S143と、メッキ工程S144と、金属層上部除去工程S145とを含んでいる。なお、再配線層形成工程S14よりも前の工程である分離層形成工程S01(図13(A)参照)、接着層形成工程S02(図13(B)参照)、及び保護層形成工程(図14(A)参照)については、上記した実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0134】
再配線層形成工程S14において、まず、絶縁層形成工程S141では、図13(B)に示すように、保護層40の全面に感光性ポリイミド等の感光性絶縁材料によって絶縁層150が形成される。感光性絶縁材料としては、感光性ポリイミド以外に、例えば、感光性のアクリル材料がある。絶縁層形成工程S141では、例えばガラス支持体10を不図示のステージ上に保持し、スリットノズル等から保護層40に感光性ポリイミド等を含む液状体を吐出する。この状態でステージとスリットノズルとを相対的に移動させることで、保護層40上に絶縁層150が形成される。絶縁層150を形成するための液状体の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、ディッピング法、ローラーブレード法、ドクターブレード法、スプレー法、スリットノズル法、インクジェット法などによる塗布法等が挙げられる。また、絶縁層150を形成するための液状体を保護層40上に塗布した後、加熱等により乾燥させてもよい。
【0135】
絶縁層150が形成された後、絶縁層パターニング工程S142が行われる。絶縁層パターニング工程S142では、再配線層171のパターンに対応して絶縁層150を露光し、その後所定の現像液に浸すことにより現像する。その結果、図15(A)に示すように、パターニングされた絶縁層151が形成される。絶縁層151は、再配線層171のパターンとは反転したパターンを有する。
【0136】
絶縁層151がパターニングされた後、金属層形成工程S143が行われる。金属層形成工程S143では、図15(B)に示すように、例えばスパッタリング等の手法により、保護層40が露出した部分を含めて絶縁層151の全面に、再配線層171の材料となる金属層170を形成する。再配線層171に用いる材料としては、例えば、金、銀、銅、アルミなどの金属の他に、導電性樹脂等が用いられてもよい。また、金属層形成工程S143の後にメッキ工程S144を行ってもよい。メッキ工程S144では、無電解メッキ又は電解メッキにより金属層170上にメッキ層を形成する。図15(B)では、メッキ層を含めて金属層170と表記している。メッキ工程S144は、積層体200を所定のメッキ槽に浸すことにより、金属層170上にメッキ層を形成する。メッキ層を形成するために用いる材料としては、例えば、ンダめっき、銅めっき、金めっき、ニッケルめっき、銀錫めっき用の薬液である。なお、スパッタリング等の手法により十分な厚さの金属層170を形成できる場合は、メッキ工程S144を省略してもよい。
【0137】
金属層170が形成された後、金属層上部除去工程S145が行われる。金属層上部除去工程S145では、例えば金属層170の上面を、絶縁層151の全面が露出するように研磨等によって除去する。その結果、図16(A)に示すように、絶縁層151の全面が露出する。また、絶縁層151の間の領域、つまり保護層40が露出していた領域に再配線層171が形成される。
【0138】
基板形成工程S05は、例えば再配線層形成工程S14の後に行う。基板形成工程S05では、上記した実施形態と同様の手法により、再配線層171上に電子部品81を有する基板80を形成する。基板形成工程S05では、まず、図16(B)に示すように、再配線層171上に複数の電子部品81が配置され、絶縁層151に接着固定される。電子部品81と再配線層171とは、導電性接着剤又は金属バンプ、はんだ等により電気的に接続されている。なお、電子部品81の配置数は、再配線層171の数に対応してもよく、任意の数である。
【0139】
続いて、図17(B)に示すように、電子部品81を含む絶縁層151の全面を覆うようにモールド82を形成する。モールド82が形成されることにより、電子部品81がモールド82に埋まった状態で保持される。なお、モールド82については、上記した実施形態と同様である。続いて、モールド研磨工程S06では、図17(B)に示すように、モールド82のガラス支持体10が存在しない側、つまりモールド82の上面82aを研磨し、電子部品81を露出させる。これにより、電子部品81の上面(+Z側の面)とモールド82の上面82aとが同一面又はほぼ同一面となった状態となる。モールド研磨工程S06については、上記した実施形態と同様である。
【0140】
なお、モールド研磨工程S06の後、電子部品81及びモールド82の上面82aに導電性を有する材料により配線が形成されてもよい点、及び、この配線と電気的に接続するように電子部品81が配置され、この電子部品81を覆うように、さらにモールド82が形成されてもよい点は、上記した実施形態と同様である。
【0141】
続いて、上記した実施形態と同様に、分離層変質工程S07、ガラス支持体剥離工程S08、及び接着層除去工程S09を行うことにより、複数の電子部品81を含めて1枚の板状となった構成体101が得られる。また、構成体101から保護層40を除去することで、保護層40がない構成体102を得ることができる。構成体101又は構成体102からダイシングすることで、電子装置を得ることができる点は、上記した実施形態と同様である。
【0142】
このように、本実施形態によれば、絶縁層150として、感光性ポリイミド等の感光性材料を用いることにより、レジスト層の形成及びレジスト層の除去などの工程を省略することができる。
【実施例
【0143】
次に、本実施形態の積層体の製造方法により作製された製品と、本実施形態を用いずに作成された製品との比較を行った。図18(A)は、比較例に係る製造方法により形成した再配線層の一部を示す図、図18(B)は、上記した実施形態に係る積層体の製造方法により形成した再配線層の一部を示す図である。比較例に係る製造方法では、分離層上に接着層を形成し、保護層を設けることなく、接着層上に再配線層を形成している。なお、比較例及び実施例の双方において、外観上の比較を容易にするため、いずれも同一の再配線層を複数層重ねて形成している。
【0144】
図18(A)に示すように、比較例に係る製造方法により形成した場合、本来重なって形成されるべき再配線層271が平面方向にずれた状態となっている。これに対して、図18(B)に示すように、本実施形態に係る製造方法により形成した再配線層71、171では、このような平面方向へのずれは認められなかった。このように、上記した実施例においては、保護層40が形成されていることにより、再配線層71、171の平面方向へのズレが抑制されることが確認された。
【0145】
以上、実施形態及び実施例について説明したが、本発明は、上述した説明に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0146】
10・・・ガラス支持体、10f・・・分離層形成面、20・・・分離層、20f・・・接着層形成面、30・・・接着層、30f・・・保護層形成面、40・・・保護層、50,51,150,151・・・絶縁層、60,61・・・レジスト層、70・・・金属層、71,171・・・再配線層、80・・・基板、81・・・電子部品、82・・・モールド、100、200・・・積層体、101、102・・・構造体(電子装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18