(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】樹脂ペレット群およびそれを用いた層構造体
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20220907BHJP
B32B 1/02 20060101ALI20220907BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20220907BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220907BHJP
B29C 48/21 20190101ALI20220907BHJP
【FI】
C08L29/04 S
B32B1/02
B32B27/28 102
B65D65/40 D
B29C48/21
(21)【出願番号】P 2022523064
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2021046457
【審査請求日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2020209750
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】星加 里奈
(72)【発明者】
【氏名】森原 靖
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/041135(WO,A1)
【文献】特開昭62-227712(JP,A)
【文献】国際公開第2016/080438(WO,A1)
【文献】特開2015-143349(JP,A)
【文献】特開2000-007794(JP,A)
【文献】特開2016-155975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/04
B32B 27/00- 27/42
B32B 1/00- 1/08
B29C 48/00- 48/96
B65D 65/00- 65/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂ペレット群であって、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)を含有するペレット(A1)と、エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)を含有するペレット(A2)とを含
むドライブレンド体であり、
該ペレット(A1)の引取速度50m/分、210℃における溶融張力が10mN以上30mN以下であり、該ペレット(A2)の引取速度50m/分、210℃における溶融張力が2mN以上10mN未満であり、
該エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)のエチレン単位含有量(EC
a1)が
20モル%以上50モル%以下であり、
該エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)のエチレン単位含有量(EC
a2)
が30モル%以上60モル%以下であり、
該エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)の該エチレン単位含有量(ECa1)と該エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)の該エチレン単位含有量(ECa2)との差の絶対値が5モル%以上であ
り、
該ペレット(A1)と該ペレット(A2)との質量比(A1/A2)が20/80以上99/1以下である、樹脂ペレット群。
【請求項2】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)および前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)の合計含有量が全体質量に対して95質量%を超える、請求項1に記載の樹脂ペレット群。
【請求項3】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)の前記エチレン単位含有量(EC
a2)が、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)の前記エチレン単位含有量(EC
a1)よりも大きい、請求項1
または2に記載の樹脂ペレット群。
【請求項4】
前記ペレット(A1)の引取速度80m/分、210℃における溶融張力が10mN以上30mN以下であり、前記ペレット(A2)の引取速度80m/分、210℃における溶融張力が2mN以上10mN未満である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の樹脂ペレット群。
【請求項5】
前記質量比(A1/A2)が50/50以上99/1以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の樹脂ペレット群。
【請求項6】
ドライブレンドされた状態で
溶融成形するために使用される、請求項1~
5のいずれか1項に記載の樹脂ペレット群。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の樹脂ペレット群の溶融成形体でなるガスバリア層を備える層構造体。
【請求項8】
前記ガスバリア層が、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)を主成分として含むマトリックス相と前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)を主成分として含む分散相とを有し、該分散相の平均粒子径が200nm以上1.0μm以下である、請求項
7に記載の層構造体。
【請求項9】
前記ガスバリア層の少なくとも一方の面に熱可塑性樹脂層が配置されている、請求項
7または
8に記載の層構造体。
【請求項10】
前記ガスバリア層と前記熱可塑性樹脂層との共押出構造を備える、請求項
7~
9のいずれか1項に記載の層構造体。
【請求項11】
請求項
7~
10のいずれか1項に記載の層構造体を含む延伸多層構造体。
【請求項12】
請求項
7~
10のいずれか1項に記載の層構造体を含む包装材。
【請求項13】
請求項
7~
10のいずれか1項に記載の層構造体を含む容器。
【請求項14】
層構造体の製造方法であって、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)を含有するペレット(A1)と、エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)を含有するペレット(A2)とを含む
ドライブレンド体である樹脂ペレット群を、
ドライブレンドされた状態で溶融成形してガスバリア層を形成する工程を含み、
該ペレット(A1)の引取速度50m/分、210℃における溶融張力が10mN以上30mN以下であり、該ペレット(A2)の引取速度50m/分、210℃における溶融張力が2mN以上10mN未満であり、
該エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)のエチレン単位含有量(EC
a1)が
20モル%以上50モル%以下であり、
該エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)のエチレン単位含有量(EC
a2)
が30モル%以上60モル%以下であり、
該エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)の該エチレン単位含有量(ECa1)と該エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)の該エチレン単位含有量(ECa2)との差の絶対値が5モル%以上であ
り、
該ペレット(A1)と該ペレット(A2)との質量比(A1/A2)が20/80以上99/1以下である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ペレット群およびそれを用いた層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある)は酸素、臭気、フレーバー等に対して優れたガスバリア性を示す樹脂であり、食品等の包装材料などに好適に用いられている。このようなEVOHを用いた包装材料では、開封を容易に行えるようにする観点から直線カット性が求められる場合がある。
【0003】
ガスバリア性を維持しつつ、直進カット性を有する包装材を提供する材料として、特許文献1には、EVOH70~95重量%、脂肪族ポリアミド3~25重量%、半芳香族ポリアミド2~13重量%からなるEVOH樹脂組成物が記載されており、当該樹脂組成物を用いた多層構造体が直進カット性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
包装材または容器等の製造においては、製造の際に発生する端部(トリム)や不良品等を回収し、溶融成形して再使用する場合がある。しかし、上記特許文献1に記載されるような、ポリアミド樹脂を一定以上含むEVOH樹脂組成物を用いた場合、回収して再利用する際にポリアミド樹脂とEVOHとの架橋反応が起こるため、ゲル等が生じやすく、回収性が不十分となる場合があった。そのため、上記特許文献1に記載の材料に代わる優れた直進カット性を有する材料が所望されている。
【0006】
また、こうしたEVOH樹脂組成物から層構造体を製膜した際、MD方向に配向がかかることにより、当該層構造体では、MD方向の直進カット性が優れる傾向となる一方で、TD方向の直進カット性が不十分になる場合があった。ここで、TD方向の直進カット性が優れたものであった場合、層構造体を製膜した後に適切な大きさに裁断して容器を製造する際に、カットの方向に縛られずに自由に方向を選択でき、トリムを減少させることができる。このことから、MD方向およびTD方向の両方の直進カット性に優れる材料が所望されている。
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、ガスバリア性に優れかつMD方向およびTD方向に対して良好な直進カット性を有する成形体を得ることのできる、樹脂ペレット群およびそれを用いた層構造体、ならびに延伸多層構造体、包装材および容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、
[1]樹脂ペレット群であって、EVOH(a1)を含有するペレット(A1)と、EVOH(a2)を含有するペレット(A2)とを含み、該ペレット(A1)の引取速度50m/分、210℃における溶融張力が10mN以上30mN以下であり、該ペレット(A2)の引取速度50m/分、210℃における溶融張力が2mN以上10mN未満であり、該EVOH(a1)のエチレン単位含有量(ECa1)が、該EVOH(a2)のエチレン単位含有量(ECa2)と異なり、該ペレット(A1)と該ペレット(A2)との質量比(A1/A2)が20/80以上99/1以下である、樹脂ペレット群;
[2]前記EVOH(a1)および前記EVOH(a2)の合計含有量が全体質量に対して95質量%を超える、[1]の樹脂ペレット群;
[3]前記EVOH(a1)の前記エチレン単位含有量(ECa1)と前記EVOH(a2)の前記エチレン単位含有量(ECa2)との差の絶対値が5モル%以上である、[1]または[2]の樹脂ペレット群;
[4]前記EVOH(a2)の前記エチレン単位含有量(ECa2)が、前記EVOH(a1)の前記エチレン単位含有量(ECa1)よりも大きい、[1]~[3]のいずれかの樹脂ペレット群;
[5]前記EVOH(a1)の前記エチレン単位含有量(ECa1)が20モル%以上50モル%以下であり、前記EVOH(a2)の前記エチレン単位含有量(ECa2)が30モル%以上60モル%以下である、[1]~[4]のいずれかの樹脂ペレット群;
[6]前記ペレット(A1)の引取速度80m/分、210℃における溶融張力が10mN以上30mN以下であり、前記ペレット(A2)の引取速度80m/分、210℃における溶融張力が2mN以上10mN未満である、[1]~[5]のいずれかの樹脂ペレット群;
[7]前記質量比(A1/A2)が50/50以上99/1以下である、[1]~[6]のいずれかの樹脂ペレット群;
[8]そのまま溶融成形するために使用される、[1]~[7]のいずれかの樹脂ペレット群;
[9][1]~[8]のいずれかの樹脂ペレット群の溶融成形体でなるガスバリア層を備える層構造体;
[10]前記ガスバリア層が、前記EVOH(a1)を主成分として含むマトリックス相と前記EVOH(a2)を主成分として含む分散相とを有し、該分散相の平均粒子径が200nm以上1.0μm以下である、[9]の層構造体;
[11]前記ガスバリア層の少なくとも一方の面に熱可塑性樹脂層が配置されている、[9]または[10]の層構造体;
[12]前記ガスバリア層と前記熱可塑性樹脂層との共押出構造を備える、[9]~[11]のいずれかの層構造体;
[13][9]~[12]のいずれかの層構造体を含む延伸多層構造体;
[14][9]~[12]のいずれかの層構造体を含む包装材;
[15][9]~[12]のいずれかの層構造体を含む容器;
[16]層構造体の製造方法であって、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)を含有するペレット(A1)と、エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)を含有するペレット(A2)とを含む樹脂ペレット群を、そのまま溶融成形してガスバリア層を形成する工程を含み、
該ペレット(A1)の引取速度50m/分、210℃における溶融張力が10mN以上30mN以下であり、該ペレット(A2)の引取速度50m/分、210℃における溶融張力が2mN以上10mN未満であり、
該エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)のエチレン単位含有量(ECa1)が、該エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)のエチレン単位含有量(ECa2)と異なり、
該ペレット(A1)と該ペレット(A2)との質量比(A1/A2)が20/80以上99/1以下である、方法;
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガスバリア性に優れ、MD方向およびTD方向に対して良好な直進カット性を有する成形体を得ることのできる、樹脂ペレット群およびそれを用いた層構造体ならびに延伸多層構造体、包装材および容器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例および比較例で得られた単層フィルムの直進カット性を評価するための手法を説明する模式図であって、(a)は単層フィルムから切り出したサンプルの短軸方向の一端に切り込みを入れた状態を説明する図であり、(b)は、切り込みを入れたサンプルを単層フィルムの厚み方向に所定条件で拡張して引き裂いた状態を説明する図であり、(c)は、切り込みを入れたサンプルを単層フィルムの厚み方向に所定条件で拡張して引き裂いた際に、引き裂きの方向が曲がり、その先端がサンプルの長軸方向の一端にまで達して破断した状態を説明する図である。
【
図2】(a)は実施例1で得られた単層フィルムの平均粒子径を測定する際に用いたTD方向断面の走査型電子顕微鏡写真であり、(b)は比較例1で得られた単層フィルムの平均粒子径を測定する際に用いたTD方向断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(樹脂ペレット群)
本発明の樹脂ペレット群は、EVOH(a1)を含有するペレット(A1)と、EVOH(a2)を含有するペレット(A2)とを含み、ペレット(A1)の引取速度50m/分、210℃における溶融張力が10mN以上30mN以下であり、ペレット(A2)の引取速度50m/分、210℃における溶融張力が2mN以上10mN未満であり、EVOH(a1)のエチレン単位含有量(ECa1)が、EVOH(a2)のエチレン単位含有量(ECa2)と異なり、ペレット(A1)とペレット(A2)との質量比(A1/A2)が20/80以上99/1以下である。本発明のペレット群は、上記条件を満たすことでEVOHが本来有するガスバリア性を維持しつつ溶融成形性に優れる成形体(層構造体等)を提供でき、さらに、驚くべきことに、かかる成形体は直進カット性に優れる。エチレン単位含有量の異なるEVOHを含むペレットを有することで、ガスバリア性を維持しつつ溶融成形性が優れる傾向となり、特定の溶融張力を有するペレット(A1)及びペレット(A2)を含む樹脂ペレット群であることにより、直進カット性が顕著に表れる傾向となる。
【0012】
ここで、本明細書において「樹脂ペレット群」とは、樹脂ペレットの集合体を意味する。したがって、本発明の樹脂ペレット群はペレット(A1)とペレット(A2)とを含む樹脂ペレットの集合体である。本発明の樹脂ペレット群は、ペレット(A1)とペレット(A2)とを含むドライブレンド体であることが好ましい。ここで、本明細書中において「ドライブレンド体」とは、樹脂ペレット群を構成する各ペレット同士が十分に混合された状態を意味する。例えば、樹脂ペレット群を構成する各樹脂ペレットの大きさは特に限定されず、樹脂ペレット群の最小単位は、ある種類の樹脂ペレット1つと他の種類の樹脂ペレット1つとの組み合わせから構成されるドライブレンド体である。
【0013】
ペレット(A1)またはペレット(A2)に含まれるEVOH(a1)およびEVOH(a2)はともに、例えばエチレン-ビニルエステル共重合体をケン化することで得られる共重合体である。エチレン-ビニルエステル共重合体の製造およびケン化は、後述の通り公知の方法で行うことができる。当該方法に用いられるビニルエステルとしては、例えば酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、およびバーサティック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルが挙げられる。
【0014】
EVOH(a1)のエチレン単位含有量(ECa1)は、EVOH(a2)のエチレン単位含有量(ECa2)とは異なる。エチレン単位含有量(ECa1)とエチレン単位含有量(ECa2)との差の絶対値(|ECa1-ECa2|)は、好ましくは5モル%以上、より好ましくは7モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上である。また、前記エチレン単位含有量の差の絶対値(|ECa1-ECa2|)は、好ましくは20モル%以下、より好ましくは18モル%である。前記エチレン単位含有量の差の絶対値(|ECa1-ECa2|)が上記範囲にあることで、溶融成形性とガスバリア性とを両立できる傾向となる。エチレン単位含有量(ECa2)は、エチレン単位含有量(ECa1)よりも大きいことが好ましい。エチレン単位含有量(ECa2)が、単位含有量(ECa1)よりも大きいことで、得られる成形体が相分離構造を有する傾向となり、得られる成形体の直進カット性が優れる傾向となる。
【0015】
エチレン単位含有量(ECa1)は、好ましくは20モル%以上50モル%以下、より好ましくは22モル%以上44モル%以下、さらに好ましくは24モル%以上35モル%以下である。これに対し、エチレン単位含有量(ECa2)は、好ましくは30モル%以上60モル%以下、より好ましくは35モル%以上55モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上50モル%以下である。エチレン単位含有量(ECa1)およびエチレン単位含有量(ECa2)がそれぞれ上記範囲内であると、溶融成形性とガスバリア性を両立できる傾向となる。エチレン単位含有量(ECa1)およびEVOH(a2)のエチレン単位含有量(ECa2)はいずれも、例えば核磁気共鳴(NMR)法によって測定できる。
【0016】
さらに、本発明の樹脂ペレット群において、EVOH(a1)およびEVOH(a2)の各ケン化度(すなわち、EVOH(a1)およびEVOH(a2)の各ビニルエステル成分のケン化度)は、例えば85モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、99モル%が特に好ましい。他方、EVOH(a1)およびEVOH(a2)の各ケン化度は、例えば100%以下が好ましく、99.99%以下であってもよい。EVOH(a1)およびEVOH(a2)の各ケン化度が上記範囲を満足することにより、本発明の樹脂ペレット群は適切な熱安定性を有し得る。上記ケン化度は、1H-NMR測定によってビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して算出できる。
【0017】
EVOH(a1)および/またはEVOH(a2)はまた、本発明の目的が阻害されない範囲において、エチレンならびにビニルエステルおよびそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOH(a1)および/またはEVOH(a2)が他の単量体単位を有する場合、EVOH(a1)および/またはEVOH(a2)の全構造単位に対する当該他の単量体単位の含有量は、例えば30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下または5モル%以下であってもよい。EVOH(a1)および/またはEVOH(a2)が当該他の単量体由来の単位を有する場合、その含有量は、例えば0.05モル%以上がであっても、0.1モル%以上であってもよい。
【0018】
他の単量体としては、例えばプロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基含有アルケンまたはそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸またはその無水物、塩、またはモノもしくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸またはその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0019】
EVOH(a1)および/またはEVOH(a2)は、必要に応じてウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等することにより変性されていてもよい。
【0020】
EVOH(a1)およびEVOH(a2)は、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法で得ることができる。1つの実施形態では、無溶媒またはアルコール等の溶液中で重合が進行可能な塊状重合法または溶液重合法が用いられる。
【0021】
溶液重合法に用いられる溶媒は特に限定されないが、例えばアルコール、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールである。重合反応液における溶媒の使用量は、目的とするEVOHの粘度平均重合度や溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、反応液に含まれる溶媒と全単量体との質量比(溶媒/全単量体)は例えば0.01~10であり、好ましくは0.05~3である。
【0022】
上記重合に用いられる触媒としては、例えば2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス-(2-シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾ系開始剤;イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエイト、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエイト、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤等が挙げられる。重合に用いられる触媒量は、重合に用いられるビニルエステル成分当り0.005~0.6当量が好ましい。
【0023】
重合温度は20℃~90℃が好ましく、40℃~70℃がより好ましい。重合時間は2時間~15時間が好ましく、3時間~11時間がより好ましい。重合率は、仕込みのビニルエステルに対して10%~90%が好ましく、30%~80%がより好ましい。重合後の溶液中の樹脂含有率は5%~85%が好ましく、20%~70%がより好ましい。
【0024】
上記重合では、所定時間の重合後または所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去して、未反応のビニルエステルを取除くことでエチレン-ビニルエステル共重合体溶液が得られる。
【0025】
上記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加して、上記共重合体をケン化する。ケン化する方法は、例えば連続式および回分式のいずれでもよい。添加可能なアルカリ触媒の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラート等が挙げられる。
【0026】
ケン化反応後のEVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウム等の副生塩類、その他不純物を含有するため、必要に応じて中和や洗浄によってこれらを除去することが好ましい。ここで、ケン化反応後のEVOHを、所定のイオン(例えば金属イオン、塩化物イオン)をほとんど含まない水(例えばイオン交換水)で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の副生塩類は完全に除去せず、一部を残存させてもよい。その後、乾燥させることによって、EVOH(a1)およびEVOH(a2)をそれぞれ合成できる。
【0027】
本発明の樹脂ペレット群において、ペレット(A1)およびペレット(A2)は、それぞれ単独で所定の溶融張力を有する。
【0028】
具体的には、ペレット(A1)は、引取速度50m/分、210℃において10mN以上30mN以下、好ましくは10.5mN以上25mN以下、より好ましくは11mN以上20mN以下の溶融張力を有する。ここで、引取速度50m/分、210℃における溶融張力は、例えば株式会社東洋精機製作所製「キャピログラフ1D」を用いて測定できる。測定したペレットについて、引取速度50m/分、210℃における溶融張力が上記範囲を外れると、直進カット性が低下する。
【0029】
一方、ペレット(A2)は、引取速度50m/分、210℃において2mN以上10mN以下、好ましくは3mN以上9mN以下、より好ましくは5mN以上8mN以下の溶融張力を有する。測定したペレットについて、引取速度50m/分、210℃における溶融張力が上記範囲を外れると、直進カット性が低下する。
【0030】
ペレット(A1)はまた、引取速度80m/分、210℃において好ましくは10mN以上30mN以下、より好ましくは11mN以上25mN以下、さらにより好ましくは12mN以上20mN以下の溶融張力を有する。ここで、引取速度80m/分、210℃における溶融張力もまた、例えば株式会社東洋精機製作所製「キャピログラフ1D」を用いて測定できる。測定するペレットについて、上記引取速度50m/分、210℃における溶融張力に加えて、引取速度80m/分、210℃における溶融張力を測定することにより、そのペレットが十分な溶融成形性を有しているか否かを評価できる。溶融成形性が不十分なペレットである場合は、引取速度80m/分、210℃における溶融張力の測定の際に破断し、溶融張力を測定することができない場合がある。測定したペレットについて、引取速度80m/分、210℃における溶融張力が上記範囲内であると、直進カット性がより良好となる傾向となる。
【0031】
一方、ペレット(A2)は、引取速度80m/分、210℃において好ましくは2mN以上10mN以下、より好ましくは3mN以上9.5mN以下、さらにより好ましくは4mN以上9mN以下の溶融張力を有する。測定したペレットについて、引取速度80m/分、210℃における溶融張力が上記範囲内であると、直進カット性がより良好となる傾向となる。
【0032】
ペレット(A1)およびペレット(A2)の溶融張力は、例えば、EVOH(a1)およびEVOH(a2)のエチレン単位含有量およびケン化度、ならびにEVOH(a1)およびEVOH(a2)の合成時における、重合時間、重合触媒量、重合温度等によって調整できる。また、後述するホウ素化合物の含有量などによっても調整できる。
【0033】
ペレット(A1)および(A2)はそれぞれ独立して、本発明の効果を阻害しない範囲で、EVOH(a1)およびEVOH(a2)以外の他の熱可塑性樹脂、金属塩、酸、ホウ素化合物、可塑剤、フィラー、ブロッキング防止剤、滑剤、安定剤、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、各種繊維等の補強材等の他の成分を含有していてもよい。
【0034】
他の熱可塑性樹脂としては、例えば各種ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体、ポリオレフィンと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-ビニルエステル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、またはこれらを不飽和カルボン酸もしくはその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィン等)、各種ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6/66共重合体、ナイロン11、ナイロン12、ポリメタキシリレンアジパミド等)、各種ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアクリレートおよび変性ポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。なお、リサイクル性を良好にする観点から、本発明のペレット群は各種ポリアミド20質量部以上含まないことが好ましく、13質量部以上が含まないことがより好ましく、5質量部以上含まないことがさらに好ましく、本発明のペレット群は実質的に各種ポリアミドを含まないことがよりさらに好ましく、本発明のペレット群は各種ポリアミドを含まないことが特に好ましい。
【0035】
上記金属塩は、熱安定性を向上させる観点からアルカリ金属塩が好ましく、アルカリ土類金属塩がより好ましい。ペレット(A1)および/または(A2)が金属塩を含有する場合、その含有量の下限は、基準となるペレット(A1)および/または(A2)に対して当該金属塩の金属原子換算で、例えば1ppm以上、5ppm以上、10ppm以上、または20ppm以上が好ましい。ペレット(A1)および/または(A2)が金属塩を含有する場合、その含有量の上限は、基準となるペレット(A1)および/または(A2)に対して当該金属塩の金属原子換算で、例えば10000ppm以下、5000ppm以下、1000ppm以下、または500ppm以下が好ましい。金属塩の含有量が上記範囲であると、溶融成形する際のペレット(A1)および/または(A2)の熱安定性や色相が良好になる。
【0036】
上記酸は、ペレット(A1)および(A2)を溶融成形する際の熱安定性を高めることができる観点から、カルボン酸化合物、リン酸化合物等が好ましい。ペレット(A1)および/または(A2)がカルボン酸化合物を含有する場合、その含有量は1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。一方、カルボン酸化合物の含有量は10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。ペレット(A1)および/または(A2)がリン酸化合物を含有する場合、リン酸化合物のリン酸根換算含有量は1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、30ppm以上がさらに好ましい。一方、リン酸化合物のリン酸根換算含有量は、10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、300ppm以下がさらに好ましい。カルボン酸化合物またはリン酸化合物の含有量が上記範囲であると、溶融成形する際のペレット(A1)および/または(A2)の熱安定性や色相が良好になる。
【0037】
ペレット(A1)および/または(A2)が上記ホウ素化合物を含有する場合、その含有量は、1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。一方、ホウ素化合物の含有量は、2000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。ホウ素化合物の含有量が上記範囲であると、溶融成形する際のペレット(A1)および/または(A2)の熱安定性が良好になる傾向がある。また、ホウ素化合物を添加すると溶融張力が高まる傾向となる。
【0038】
上記他の成分を、ペレット(A1)および/または(A2)に含有させる方法は特に限定されず、例えば、上記EVOH(a1)またはEVOH(a2)を含む組成物をペレット化する際(すなわち、ペレット(A1)および/または(A2)を製造する際)に添加して混練してもよい。ペレット(A1)および/または(A2)を製造する際に添加する方法としては、乾燥粉末として添加する方法、所定の溶媒を含浸させたペーストの状態で添加する方法、所定の液体に懸濁させた状態で添加する方法、所定の溶媒に溶解させて溶液として添加する方法、所定の溶液に浸漬させる方法等も挙げられる。なお、所定の溶液に浸漬させる方法を用いた場合は、混練は行わなくてもよい。中でも、これらの化合物をEVOH中に均質に分散できる観点から、所定の溶媒に溶解させて溶液として添加し混練する方法および所定の溶液に浸漬させる方法が好ましい。所定の溶媒は特に限定されないが、添加される化合物の溶解性、コスト、取り扱いの容易さ、作業環境の安全性等の観点から、水が好ましい。
【0039】
本発明の効果をより奏する観点から、ペレット(A1)に占めるEVOH(a1)の割合は、90質量以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、97質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましく、ペレット(A1)は実質的にEVOH(a1)のみからなってもよい。また、ペレット(A2)に占めるEVOH(a2)の割合は、90質量以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、97質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましく、ペレット(A1)は実質的にEVOH(a2)のみからなってもよい。また、本発明の樹脂ペレット群における、EVOH(a1)およびEVOH(a2)の合計含有量は、全体質量に対して好ましくは95質量%を超え、より好ましくは97質量%以上であり、さらにより好ましくは99質量%以上である。
【0040】
本発明の樹脂ペレット群では、上記ペレット(A1)とペレット(A2)とが所定の質量比(A1/A2)で含有されている。具体的には、ペレット(A1)とペレット(A2)との質量比(A1/A2)は、20/80以上99/1以下、好ましくは50/50以上99/1以下、より好ましくは70/30以上95/5以下である。質量比(A1/A2)が20/80未満であると(すなわち、ペレット(A2)80質量部に対してペレット(A1)の含有量が20質量部を下回ると)、ガスバリア性が低下する。質量比(A1/A2)が99/1を超えると(すなわち、ペレット(A1)99質量部に対してペレット(A2)の含有量が1質量部を下回ると)、溶融成形性が低下する。上記ペレット(A1)とペレット(A2)との質量比(A1/A2)が上記範囲を満足することにより、本発明の樹脂ペレット群を用いて、ガスバリア性に優れかつMD方向およびTD方向に対して良好な直進カット性を有する成形体を得ることができる。
【0041】
本発明の樹脂ペレット群は、ペレット(A1)及びペレット(A2)以外のペレットを含んでいてもよい。本発明の樹脂ペレット群におけるペレット(A1)およびペレット(A2)が占める割合は、90質量%以上が好ましく、96質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましい。本発明の樹脂ペレット群は実質的にペレット(A1)およびペレット(A2)のみからなってもよく、本発明の樹脂ペレット群はペレット(A1)およびペレット(A2)のみからなってもよい。
【0042】
本発明の樹脂ペレット群は、所望の成形体を得るにあたり、そのまま溶融成形して使用することが好ましい。ここで、本明細書中に用いられる用語「そのまま溶融成形する」における「そのまま」とは、本発明の樹脂ペレット群の内容物であるペレット(A1)および(A2)を予め溶融混練等してペレタイズすることなく、所望の樹脂成形体を得るためにペレット(A1)および(A2)を各々ペレットの形態を保持した状態(すなわち、ペレット(A1)および(A2)がドライブレンドされた状態)で、樹脂成形体の製造のために直接使用することを指して言う。また、本明細書中に用いられる用語「樹脂成形体」とは、樹脂ペレットを用いて二次的に加工(成形)して得られた成形体を包含し、具体的にはペレット以外の成形体を指していう。
【0043】
例えばペレット(A1)および(A2)を予め溶融混練等してペレタイズする場合、これにより得られた溶融成形体が包装材料等の層構造体を有する場合、TD方向の直進カット性が発現しない。これに対し、本発明の樹脂ペレット群を、ペレット(A1)および(A2)のドライブレンド体の状態で溶融混練して所定の成形体(溶融成形体)の製造に使用すると、驚くべきことに、これにより得られた溶融成形体が包装材料等の層構造体を有する場合、MD方向およびTD方向のいずれに対しても良好な直進カット性を当該層構造体に付与できる。この理由は定かではないが、本発明の樹脂ペレット群をそのまま溶融成形した場合、適度に混練されるため、得られる溶融成形体におけるEVOH(a1)及びEVOH(a2)の相分離構造が、特定の構造となっていることが、一つの理由として考えられる。
【0044】
(層構造体)
本発明の層構造体は、1つまたはそれ以上の層で構成される構造体であり、本発明の樹脂ペレット群の溶融成形体でなるガスバリア層を含む。ここで、樹脂ペレット群の溶融成形体とは、樹脂ペレット群をそのまま溶融成形して得られた溶融成形体を指す。層構造体におけるガスバリア層の層数は、ガスバリア性(例えば酸素バリア性)をより向上させる観点から1層または複数層のいずれを有していてもよく、各ガスバリア層を構成する材料は同一であっても異なっていてもよい。ガスバリア層は、気体の透過を防止する機能を有する層であり、例えば、20℃、65%RH条件下にて、JIS K7126(等圧法)に準拠して測定した酸素透過度が100cc・20μm/(m2・day・atm)以下の層であり、好ましくは50cc・20μm/(m2・day・atm)以下、より好ましくは10cc・20μm/(m2・day・atm)以下の層である。ここで、「100cc・20μm/(m2・day・atm)」の酸素透過度とは、20μmの厚みのフィルム1m2当りの酸素1気圧下での1日の酸素透過量が100ccであることを言う。
【0045】
本発明の層構造体の層数は、1層であってもよく、2層以上が好ましい。また、本発明の層構造体の層数は13層以下であってもよい。本発明の層構造体の層数が上記範囲であると機械的強度が良好となる傾向となる。
【0046】
本発明において、樹脂ペレット群の溶融成形体から構成されるガスバリア層1層当りの平均厚みの下限は、必ずしも限定されないが、例えば3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が好ましい場合もある。一方、ガスバリア層1層当りの平均厚みの上限は、例えば、200μm以下であっても、100μm以下であってもよい。ここで、本明細書中において「平均厚み」とは、任意の5か所で測定した厚みの平均値とする。ガスバリア層1層当りの平均厚みが上記範囲内にあることにより、本発明の層構造体の耐久性や柔軟性、外観特性が良好となる傾向がある。
【0047】
本発明の樹脂ペレット群の溶融成形体でなるガスバリア層は、EVOH(a1)を主成分として含むマトリックス相とEVOH(a2)を主成分として含む分散相とを有することが好ましい。ここで「主成分」とは、相を構成する成分が50質量%超であることを意味する。マトリックス相を構成する成分におけるEVOH(a1)の割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましく、マトリックス相は実質的にEVOH(a1)のみから構成されていてもよい。また、分散相を構成する成分におけるEVOH(a2)の割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましく、分散相は実質的にEVOH(a2)のみから構成されていてもよい。ガスバリア層が、このようなマトリックス相および分散相を有することにより、直進カット性とガスバリア性を両立することができる。本発明においては、ガスバリア層が上記マトリックス相と分散相とを有する場合、当該分散相は、好ましくは200nm以上1.0μm以下、より好ましくは220nm以上750nm以下、さらにより好ましくは240nm以上500nm以下の平均粒子径を有する粒子の形態で存在し得る。分散相を構成する粒子の平均粒子径が200nm以上であると、直進カット性が良好となる傾向となる。分散相を構成する粒子の平均粒子径が1.0μm以下であると、ガスバリア性が維持できる傾向となる。
【0048】
上記分散相を構成する粒子の平均粒子径は、例えばEVOH(A1)及びEVOH(A2)の混合比率や混練条件を調整することにより調整できる。具体的な混練条件の調整方法としては、例えば、単軸押出機を用いる場合には、スクリューの形状や溝深さにより樹脂滞留時間を調整したり、せん断粘度を調整したりする方法等が挙げられる。スクリュー形状としては、例えば、フルフライトスクリューやバリアスクリューなどを用いることができるが、混練強度を調整するために、マドックやダルメージなどの形状を有するスクリューを用いてもよい。さらに、せん断速度を上げるためにスクリュー回転数を調整してもよい。また、スクリュー形状を容易に変更可能な観点から二軸押出機を用いる場合がある。二軸押出機を用いた場合には、混練強度を調整するために、ニーディングディスクの長さを調整する方法等が挙げられる。
【0049】
単軸押出機を用いた場合、具体的な混練条件として、例えば、下記一般式(1)から算出される溶融押出機における計量部におけるせん断速度rの下限は10秒-1が好ましく、15秒-1がより好ましく、20秒-1が特に好ましい。また、せん断速度rの上限は100秒-1が好ましく、95秒-1がより好ましく、90秒-1が特に好ましい。上記範囲内の条件で混練すると、上記分散相を構成する粒子の平均粒子径を適切な範囲に調整しやすく、直進カット性が良好になる傾向となる。
【0050】
【0051】
式(1)中、Dはシリンダー直径(cm)、Nはスクリュー回転数(rpm)、hは計量化部の溝深さ(cm)、rはせん断速度(秒-1)を表す。
【0052】
本発明の層構造体は、本発明の樹脂ペレット群の溶融成形体で構成されるガスバリア層以外に、少なくとも1つの他のガスバリア層を含んでいてもよい。他のガスバリア層を構成する材料は、必ずしも限定されないが、例えば、EVOH、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、無機蒸着体(例えば、所定の基材上に、アルミニウム、スズ、インジウム、ニッケル、チタン、クロム、金属酸化物、金属窒化物、金属窒化酸化物、金属炭化窒化物等の無機物を蒸着させたもの)等が挙げられる。中でも、溶融成形性とガスバリア性の点から、EVOHが好ましい。本発明の層構造体に他のガスバリア層が設けられる場合、この他のガスバリア層の厚みは特に限定されず、上記樹脂ペレット群の溶融成形体から構成されるガスバリア層が有する作用および効果を阻害しない範囲において任意の厚みが当業者により選択され得る。
【0053】
本発明の層構造体はまた、上記ガスバリア層に加えて熱可塑性樹脂層を有していてもよい。
【0054】
本発明の層構造体における熱可塑性樹脂層の層数は、耐衝撃性を向上させる観点から1層以上であることが好ましく、2層以上であることがより好ましい。また、熱可塑性樹脂層の層数は13層以下であってもよい。なお、層構造体に熱可塑性樹脂層が複数含まれる場合、各層を構成する材料は同一であっても異なっていてもよい。
【0055】
熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂を主成分として含有する。熱可塑性樹脂層は、単一の熱可塑性樹脂、または複数の熱可塑性樹脂の混合物のいずれを主成分として含有するものであってもよい。熱可塑性樹脂層において熱可塑性樹脂が占める割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、熱可塑性樹脂層は実質的に熱可塑性樹脂のみから構成されていてもよい。本発明における層構造体は、熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂層を積層することにより、延伸性および熱成形性を向上させることができる。
【0056】
熱可塑性樹脂層1層当りの平均厚みは、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。また、熱可塑性樹脂層1層当りの平均厚みは1000μm以下であっても、500μm以下であっても、400μm以下であってもよい。熱可塑性樹脂層1層当りの平均厚みが10μm以上であると、積層する際の厚みの調整が容易であり、上記層構造体の耐久性をより高めることができる。熱可塑性樹脂層の一層の平均厚みが1000μm以下であると、熱成形性が良好となる傾向にある。
【0057】
熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度または融点まで加熱することにより軟化して塑性を示す樹脂であれば特に限定されず、例えば、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)、不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性したグラフト化ポリオレフィン樹脂、ハロゲン化ポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体樹脂、エチレン-アクリル酸エステル共重合体樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ビニルエステル樹脂、アイオノマー、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、芳香族または脂肪族ポリケトン等が挙げられる。特に機械的強度や成形加工性が良好であるとの理由からポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリエチレン樹脂およびポリプロピレン樹脂がより好ましい。
【0058】
熱可塑性樹脂層は、本発明の目的を損なわない範囲で添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、上記熱可塑性樹脂以外の樹脂、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー等が挙げられる。熱可塑性樹脂層が添加剤を含む場合、添加剤の含有率は熱可塑性樹脂層の総量に対して20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0059】
本発明の層構造体において、熱可塑性樹脂層は、上記ガスバリア層の少なくとも一方の面に配置されていることが好ましい。ここで、「一方の面に配置されている」とは、熱可塑性樹脂層が上記ガスバリア層と直接接して積層されている状態、および当該ガスバリア層に対して他の層(例えば一般的な接着層)を介して積層されている状態のいずれをも包含する。熱可塑性樹脂層がこのように配置されていることにより、機械的強度を高められる傾向となる。
【0060】
本発明の層構造体はまた、上記ガスバリア層と熱可塑性樹脂との共押出構造を有することが好ましい。本明細書中に用いられる用語「ガスバリア層と熱可塑性樹脂との共押出構造」とは、上記ガスバリア層と熱可塑背樹脂層とが共押出することにより形成された積層構造を指して言う。このような共押出構造を有することにより、機械的強度を高められる傾向となる。
【0061】
さらに本発明の層構造体は少なくとも1層の接着層を含んでいてもよい。接着層は、例えば、上記ガスバリア層と熱可塑性樹脂層との間に配置され得る。層構造体に含まれる接着層の層数は特に限定されない。本発明の層構造体が接着層を備えることで、ガスバリア層と熱可塑性樹脂層との層間接着性を高めることができる。なお、本発明の層構造体において接着層が複数含まれる場合、各層を構成する材料は同一であっても異なっていてもよい。
【0062】
接着層を構成する材料としては公知の接着性樹脂を使用することができる。また、接着層を構成する材料は、層構造体の製造方法に合わせて当業者によって適宜選択され得る。
【0063】
例えば、ラミネート法により、本発明の層構造体を製造する場合、接着層には、例えば、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる二液反応型ポリウレタン系接着剤を用いることができる。また、接着層に公知のシランカップリング剤などの少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を向上させることも可能である。
【0064】
あるいは、共押出成形法により本発明の層構造体を製造する場合、接着層に使用される材料は、ガスバリア層および熱可塑性樹脂層に対して接着性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、カルボン酸変性ポリオレフィンを含有する接着性樹脂を用いることができる。カルボン酸変性ポリオレフィンとしては、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその無水物を化学的(例えば付加反応、グラフト反応等)に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を好適に使用することができる。ここで、オレフィン系重合体の例としては、ポリエチレン(例えば、低圧ポリエチレン、中圧ポリエチレン、高圧ポリエチレン)、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリブテン等のポリオレフィン、オレフィンと他のモノマー(例えば、ビニルエステル、不飽和カルボン酸エステルなど)との共重合体(例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチルエステル共重合体等)が挙げられる。直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニルの含有量5~55質量%)、エチレン-アクリル酸エチルエステル共重合体(アクリル酸エチルエステルの含有量8~35質量%)が好ましく、直鎖状低密度ポリエチレンおよびエチレン-酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。エチレン性不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその無水物としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸、またはそのエステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸、またはそのモノもしくはジエステル、あるいはその無水物が挙げられ、中でもエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物が好ましい。具体的な例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステルなどが挙げられ、特に、無水マレイン酸が好ましい。
【0065】
エチレン性不飽和カルボン酸またはその無水物のオレフィン系重合体への付加量またはグラフト量(変性度)は、オレフィン系重合体に対して、好ましくは0.0001質量%~15質量%、好ましくは0.001質量%~10質量%である。エチレン性不飽和カルボン酸またはその無水物のオレフィン系重合体への付加反応、グラフト反応は、例えば、溶媒(キシレンなど)、触媒(過酸化物など)の存在下でラジカル重合法などにより行うことができる。このようにして得られたカルボン酸変性ポリオレフィンの、JIS K7210:2014に準拠して測定した、210℃、2160g荷重下でのメルトフローレート(MFR)は0.2g/10分~30g/10分が好ましく、0.5g/10分~10g/10分がより好ましい。これらの接着性樹脂は単独で用いてもよいし、また二種以上を混合して用いることもできる。
【0066】
本発明の層構造体の積層順序は特に限定されず、ガスバリア層をE、接着層をAd、熱可塑性樹脂層をTで表した場合、例えばT/E/T、E/Ad/T、T/Ad/E/Ad/T等が挙げられる。層構造体を構成する各層は、単層または多層のいずれであってもよい。耐衝撃性を高める観点から、層構造体は、最外層に熱可塑性樹脂層を有していることが好ましい。
【0067】
本発明の層構造体が多層構造体である場合は、共押出成形法、共射出成形法、押出ラミネート法、ドライラミネート法等公知の方法によって製造することができる。共押出成形法としては、例えば、共押出ラミネート法、共押出シート成形法、共押出インフレーション成形法、および共押出ブロー成形法が挙げられる。このような方法により得られる層構造体の例としては、シート、フィルム、パリソン等が挙げられる。
【0068】
本発明の層構造体は、ガスバリア性とともにMD方向およびTD方向のいずれに対する直進カット性にも優れている。ここで、本明細書中に用いられる用語「直進カット性」とは、層構造体が例えばシートまたはフィルムの形態を有している場合において、その端部の一部に所定の切り込みを入れ、この切り込みにより分離した2つの端部を厚み方向に引き裂くように広げた際に当該切り込みを通じて層構造体が直線的に切断され得る性質を指し、直線カット性、易カット性とも呼ばれる。具体的には、実施例に記載される方法で評価することができる。直進カット性は、上記層構造体を用いて閉塞可能な容器や包装材を作製した際の当該容器または包装材の易開封性を表す性質の1つである。
【0069】
(用途)
本発明の層構造体のシート、フィルム、パリソン等を、例えば、当該多層構造体に含有される樹脂の融点以下の温度で再加熱し、絞り成形等の熱成形法、ロール延伸法、パンタグラフ式延伸法、インフレーション延伸法、ブロー成形法等により一軸または二軸延伸することにより所望の延伸多層構造体を得ることができる。
【0070】
熱成形法で作製する容器は、フィルム、シート等の多層体を加熱して軟化させた後に、金型形状に成形することで形成することができる。熱成形方法としては、例えば真空あるいは圧空を用い、必要によりプラグを併せ用いて金型形状に成形する方法(ストレート法、ドレープ法、エアスリップ法、スナップバック法、プラグアシスト法等)、プレス成形する方法等が挙げられる。成形温度、真空度、圧空の圧力、成形速度等の各種成形条件は、プラグ形状や金型形状、原料フィルムやシートの性質等により適切に設定される。成形温度は、成形するのに十分なだけ樹脂が軟化できる温度であれば特に限定されるものではなく、フィルム、シート等の多層体の構成によってその好適な温度範囲は異なる。
【0071】
フィルムを熱成形する場合、加熱によるフィルムの溶解が生じたり、ヒーター板の金属面の凹凸がフィルムに転写したりするほど高温にはしない一方、賦形が十分でない程低温にしないことが望ましく、具体的なフィルム温度の下限としては、通常50℃であり、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。また、上記フィルム温度の上限としては、通常120℃であり、110℃が好ましく、100℃がより好ましい。
【0072】
一方、シートを熱成形する場合、フィルムの場合より高温でも成形が可能な場合がある。この場合のシート温度の下限としては、例えば130℃である。また、上記シート温度の上限としては、例えば180℃である。
【0073】
本発明の層構造体はまた、例えば所定の内容物を包装または収容するための包装材または容器として使用され得る。内容物の例としては、食品(例えば、生鮮食品、加工食品、冷蔵食品、冷凍食品、フリーズドライ食品、惣菜、半調理食品等);飲料(例えば、飲料水、茶飲料、乳飲料、加工乳、豆乳、コーヒー、ココア、清涼飲料水、スープ類、酒類(例えばビール、ワイン、焼酎、清酒、ウイスキー、ブランデー等);ペットフード(例えばドッグフード、キャットフード);家畜、家禽、養殖魚用飼料または餌料;油脂類(例えば食用油、工業用油等);医薬品(例えば、薬局用医薬品、要指導医薬品、一般医薬品、動物用医薬品);その他の薬剤;等が挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
(評価方法)
(1)エチレン単位含有量およびケン化度
各製造例で得られたEVOHペレットをDMSO-d6に溶解させ、1H-NMR(日本電子株式会社製JNM-GX-500型)を測定し、当該ペレットを構成するEVOHのエチレン単位含有量およびケン化度を求めた。
【0076】
(2)ナトリウムイオン、リン酸およびホウ酸の定量
各製造例で得られたEVOHペレット0.5gをテフロン(登録商標)製圧力容器に入れ、ここに濃硝酸5mLを加えて室温で30分間分解させた。30分後に蓋をし、湿式分解装置(株式会社アクタック製MWS-2)を用いて150℃で10分間、次いで180℃で5分間加熱することで分解させ、その後室温まで冷却した。この処理液を50mLのメスフラスコ(TPX(登録商標)製)に移し純水でメスアップした。得られた溶液について、ICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社製OPTIMA4300DV)で含有金属の分析を行い、ナトリウムイオン(ナトリウム元素)量、リン酸のリン酸根換算量、およびホウ酸の含有量をそれぞれ算出した。なお、この定量に際しては、それぞれ市販の標準液を使用して作成した検量線を用いた。
【0077】
(3)酢酸含有量
各製造例で得られたEVOHペレット20gをイオン交換水100mlに投入し、95℃で6時間加熱抽出した。フェノールフタレインを指示薬として、1/50規定のNaOHで抽出液を中和滴定し、酢酸含有量を定量した。なお、酢酸含有量の算出については、リン酸の含有量を考慮して行った。
【0078】
(4)溶融張力
各製造例で得られたEVOHペレットについて、株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ1Dを用いて、測定温度210℃、キャピラリー径1mm、長さ10mm、ピストンスピード1mm/分の条件にて、引取速度50m/分または80m/分で得られる溶融張力を測定した。
【0079】
(5)平均粒子径
各実施例および比較例で得られた厚み100μmの単層フィルムをTD方向に切断し、表出したTD断面を60℃の溶媒に10秒間浸漬させ、当該切断面を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S-3000N)により観察した。観察される単位視野内(9μm×12μm)の分散相(粒子)を、新世代画像解析ソフト(伯東株式会社製Image Pro Plus7.0)を用いて粒子径が大きい順から100個抽出し、平均粒子径を算出した。このとき、粒子径を、その粒子と同一の面積を有する円の直径である円相当径として扱い、粒子の数とその粒子径により、平均粒子径を算出した。なお、上記溶媒として、実施例1~5、比較例1~4ではメタノールを使用し、そして実施例6は水/メタノール=30/70(体積比)の混合溶媒を使用した。エチレン単位含有量が高い(44モル%および48モル%)相について、これをメタノールに溶解し、エチレン単位含有量が低い(35モル%)相については、水を添加して水の割合を増やす(水/メタノール)ことにより溶解可能であるため、マトリックス相と分散相との種類に応じて適切な溶媒を選択して平均粒子径を測定することができる。
【0080】
(6)直進カット性
各実施例および比較例で得られた厚み100μmの単層フィルムを、温度23℃、相対湿度50%RHにて調湿した後、
図1の(a)に示すような長手方向170mm、短手方向20mmのサンプル100を10枚切り取った。切り取ったサンプル100のそれぞれについて、長手方向0mm、短手方向10mmの位置に、端部から基準線L
0に相当する長手方向50mmの切り込み102を入れた後、株式会社島津製作所製オートグラフ「DCS-50M型引張試験機」を用いて、下記条件にて
図1の(b)に示すようにサンプル100の厚み方向に切断片104,106の間の切り込み102’を拡張して引き裂くことにより引張試験を行った。引張試験の条件は下記の通り実施した。なお、MD方向の直進カット性を測定する際には、MD方向が長手方向となるようにサンプル100を10枚切り取りそれぞれ測定し、TD方向の直進カット性を測定する際には、TD方向が長手方向となるようにサンプル100を10枚切り取りそれぞれ測定した。
(引張試験条件)
・温度 :23℃
・湿度 :50%RH
・引張距離 :100mm
・引張速度 :250mm/分
・モード :T型剥離モード
【0081】
この試験では、直進カット性が高い場合には長手方向に切り込み102’が伸び(
図1の(b))、直進カット性が低い場合には短手方向に切り込み102’がずれることにより試料がサンプル100の短手方向の一端の点110にまで達して破断する(
図1の(c))。サンプル100が一部破断した割合、およびサンプル100の基準線L
0から破断した位置(破断停止線L
2)までの距離T
R(
図1の(c))を測定し、直進カット性を評価した。なお、破断したサンプル100が複数存在した場合、破断した位置までの距離は平均値として算出し、サンプル100が破断しなかった場合(例えば
図1の(b)に示すような切り込み102’が停止線L
1まで伸びた場合)は「-」と表記した。
【0082】
(7)酸素透過度(OTR)
実施例および比較例で得られた厚み20μmの単層フィルムについて、MOCON社製酸素透過率測定装置「OX-TRAN2/20型」(検出限界値0.01cc・20μm/(m2・day・atm))を用いて温度20℃、湿度65%RHの条件下でJIS K 7126(等圧法)に記載の方法に準じて測定した。
【0083】
(8)リサイクル性
実施例および比較例で得られた樹脂ペレット群60gを、株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミル「20R200」(二軸異方向)を用いて100rpm、250℃にて混練した際のモータートルクの変化を測定した。モータートルクについては、混練開始から5分後に測定し、トルク値が当該5分後で得られたトルク値の1.5倍に達するまでの時間を評価した。この時間が長いほど、リサイクル性に優れていることを示す。得られた時間から、当該樹脂ペレット群のリサイクル性を以下の判定基準に沿って分類した。
(判定基準)
A:60分以上
B:45分以上60分未満
C:45分未満
【0084】
(製造例1:EVOH(A1-1)ペレットの作製)
ジャケット、撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた200L加圧反応槽に、75.0kgの酢酸ビニル(以下、VAcと称することがある)、7.2kgのメタノール(以下、MeOHと称することがある)を仕込み、30分間窒素バブリングして反応槽内を窒素置換した。次いで、反応槽内の温度を65℃に調整した後、反応槽の圧力(エチレン圧力)が4.13MPaとなるようにエチレンを導入し、開始剤として9.4gの2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フィルム和光純薬工業株式会社製「V-65」)を添加し、重合を開始した。重合中はエチレン圧力を4.13MPaに、重合温度を65℃に維持した。4時間後にVAcの転化率(VAc基準の重合率)が49.7%となったことを確認して冷却し、37.5gのソルビン酸を25kgのメタノールに溶解させたMeOH溶液を投入して重合を停止した。反応槽を開放してエチレンを逃がした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで、重合液を反応槽から抜き取り、20LのMeOHで希釈した。この希釈した液を塔型容器の塔頂よりフィードし、塔底よりMeOHの蒸気をフィードして、重合液内に残る未反応モノマーをMeOH蒸気と共に除去し、エチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、EVAcと称することがある。)のMeOH溶液を得た。
【0085】
次いで、ジャケット、撹拌機、窒素導入口、還流冷却器および溶液添加口を備えた300L反応槽に、EVAcを20質量%の割合で含有するMeOH溶液100kgを仕込んだ。この溶液に窒素ガスを吹き込みながら60℃に昇温し、水酸化ナトリウム濃度を2規定に調製したMeOH溶液を300mL/分の速度で2時間添加した。この水酸化ナトリウムを含むMeOH溶液の添加を終えた後、系内の温度を60℃に保ち、反応槽外にMeOHおよびケン化反応で生成した酢酸メチルを流出させながら、2時間撹拌してケン化反応を進行させた。その後酢酸を5.8kg添加してケン化反応を停止した。
【0086】
その後、80℃で加熱撹拌しながら、イオン交換水75Lを添加し、反応槽外にMeOHを流出させ、EVOHを析出させた。デカンテーションで析出したEVOHを収集し、粉砕機で粉砕した。得られたEVOH粉末を1g/Lの酢酸水溶液(浴比20;粉末1kgに対して水溶液20Lの割合に相当)に投入して2時間撹拌かつ洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌かつ洗浄した。これを再び脱液し、イオン交換水(浴比20)に投入して2時間撹拌かつ洗浄し、脱液する操作を3回繰り返して精製を行った。次いで、これを酢酸0.5g/Lおよび酢酸ナトリウム0.1g/Lを含有する水溶液250Lに4時間撹拌かつ浸漬してから脱液し、60℃で16時間乾燥することによりEVOHの粗乾燥物10.1kgを得た。上記操作を再度行い、10.2kgのEVOHの粗乾燥物を得、合計で20.3kgのEVOH(A1-1)の粗乾燥物を得た。
【0087】
ジャケット、撹拌機および還流冷却器を備えた60L撹拌槽に、上記で得たEVOH(A1-1)の粗乾燥物20kg、水8kgおよびMeOH22kgを仕込み、60℃で5時間撹拌し完全に溶解させ、樹脂組成物溶液を得た。この溶液を径4mmの金板を通して-5℃に冷却した水/MeOH=90/10(体積比)の混合液中に押し出してストランド状に析出させ、このストランドをストランドカッターでペレット状にカットすることによりEVOHの含水ペレットを得た。得られたEVOHの含水ペレットの含水率をメトラー社製ハロゲン水分計「HR73」で測定したところ、52質量%であった。得られたEVOHの含水ペレットを1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌かつ洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌かつ洗浄した。脱液後、酢酸水溶液を更新し同様の操作を行った。酢酸水溶液で洗浄してから脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して2時間撹拌かつ洗浄して脱液する操作を3回繰り返した。これにより、ケン化反応時の触媒残渣が除去されたEVOHの含水ペレットを得た。
【0088】
得られた含水ペレットを酢酸ナトリウム濃度0.510g/L、酢酸濃度0.8g/L、およびリン酸濃度0.04g/Lである水溶液(浴比20)に投入し、定期的に撹拌しながら4時間浸漬させ化学処理を行った。このペレットを脱液し、酸素濃度1体積%以下の窒素気流下80℃で3時間、および105℃で16時間乾燥させ、酢酸、ナトリウムイオン(ナトリウム塩)、およびリン酸を含有した円柱状の平均直径2.8mm、平均長さ3.2mmのEVOH(A1-1)ペレット(含水率0.3%)を得た。本製造例で得られたEVOH(A1-1)ペレットのEVOHの重合条件およびケン化条件を表1に示す。
【0089】
(製造例2~4:EVOH(A1-2)ペレット、EVOH(A1-3)ペレットのおよびEVOH(A2-1)ペレットの作製)
EVOHの重合条件およびケン化条件を表1に記載の通りに変更し、かつEVOH含水ペレットの化学処理に用いられる水溶液(浴比20)の組成を酢酸ナトリウム濃度0.510g/L、酢酸濃度0.8g/L、リン酸濃度0.04g/L、およびホウ酸濃度0.57g/Lに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、EVOH(A1-2)ペレット、EVOH(A1-3)ペレットのおよびEVOH(A2-1)ペレットを作製した。
【0090】
(製造例5および6:EVOH(A2-2)ペレットおよびEVOH(A2-3)ペレットの作製)
EVOHの重合条件およびケン化条件を表1に記載の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、EVOH(A2-2)ペレットおよびEVOH(A2-3)ペレットを作製した。
【0091】
得られたEVOH(A1-1)ペレット~EVOH(A1-2)ペレット、およびEVOH(A2-1)ペレット~EVOH(A2-3)ペレットについて、上記評価方法(1)~(4)に記載の方法に従って、エチレン単位含有量、ケン化度、ナトリウムイオン量、リン酸量、ホウ酸量、酢酸量および溶融張力を測定した。得られた結果を表2に示す。なお、いずれのEVOHペレットについても、ナトリウムイオン含有量は100ppmであり、リン酸含有量はリン酸根換算で40ppmであり、酢酸含有量は100ppmであった。
【0092】
【0093】
【0094】
(実施例1:樹脂ペレット群および単層フィルムの作製および評価)
製造例1で作製したEVOH(A1-1)ペレット85質量部および製造例4で作製したEVOH(A2-1)ペレット15質量部をドライブレンドし、樹脂ペレット群を作製した。得られた樹脂ペレット群について、上記評価方法(8)に記載の方法に従って、リサイクル性を評価した。結果を表3に示す。
【0095】
さらに、この樹脂ペレット群を用いて、単軸押出装置(株式会社プラスチック工学研究所製、GT-40-A、D(mm)=40、L/D=26、圧縮比=3.0、スクリュー:フルフライト)にて100μmの単層フィルムを作製した。押出条件は以下の通りであった。
押出温度:C1/C2/C3/AD/H1/Die=180/200/220/220/220/220(℃)
ダイス幅:550mm
スクリュー回転数:90rpm
引取ロール温度:80℃
引取ロール速度:6.0m/分
【0096】
また、上記の100μm単層フィルムの製膜条件において、引取ロール速度を30m/分に変更し、厚み20μmの単層フィルムを作製した。
【0097】
得られた単層フィルムを用いて、上記評価方法(5)~(7)に記載の方法にしたがって、平均粒子径、直進カット性および酸素透過度を評価した。結果を表3に示す。
【0098】
(実施例2~6ならびに比較例2および3:樹脂ペレット群および単層フィルムの作製および評価)
上記製造例1~6で得られたEVOH(A1-1)ペレット~EVOH(A1-3)ペレット、およびEVOH(A2-1)ペレット~EVOH(A2-3)ペレットから、所定のペレットの種類および配合量を表3に記載の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂ペレット群および単層フィルムを作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0099】
(実施例7および8:樹脂ペレット群および単層フィルムの作製および評価)
製造例1で得られたEVOH(A1-1)ペレットおよび製造例4で得られたEVOH(A2-1)ペレットの配合量を表3に記載の通りに選択し、かつそれぞれ表3に記載の配合量のその他の成分「PA6」(宇部興産株式会社製ナイロン6「SF1018A」)を同時にドライブレンドして樹脂ペレット群を作製かつ評価し、当該樹脂ペレット群を用いたこと以外は実施例1と同様にして単層フィルムを作製かつ評価した。結果を表3に示す。
【0100】
(比較例1:樹脂ペレット群および単層フィルムの作製および評価)
上記製造例1で得られたEVOH(A1-1)ペレット85質量部および上記製造例4で得られたEVOH(A2-1)ペレット15質量部をドライブレンドし、下記に示す押出条件にて溶融混練することにより、溶融混練ペレットを作製した。この溶融混練ペレットを用いたこと以外は実施例1と同様にしてリサイクル性を評価した。さらに、この溶融混練ペレットを用いたこと以外は実施例1と同様にして単層フィルムを作製かつ評価した。結果を表3に示す。
(押出条件)
押出機:株式会社東洋精機製作所製二軸押出機「ラボプラストミル」
スクリュー径:25mmφ
スクリュー回転数:100rpm
フィーダー回転数:80rpm
シリンダー、ダイ温度設定:C1/C2/C3/C4/C5/Die=180/210/220/220/220/220(℃)
【0101】
(比較例4:樹脂ペレット群および単層フィルムの作製および評価)
上記製造例2で得られたEVOH(A1-2)ペレット80質量部および上記製造例5で得られたEVOH(A2-2)ペレット20質量部を用いたこと以外は比較例1と同様にして溶融混練ペレットを作製してリサイクル性を評価した。さらに、この溶融混練ペレットを用いたこと以外は実施例1と同様にして単層フィルムを作製かつ評価した。結果を表3に示す。
【0102】
【0103】
表3から明らかなように、実施例1~3の結果から、これらのペレット(A1)およびペレット(A2)を含む樹脂ペレット群をそのまま溶融成形して得られた単層フィルムは、直進カットに優れていた。また、実施例4および実施例5の結果から、エチレン単位含有量の異なる組合せであっても、得られた単層フィルムは直進カット性に優れていた。さらに、実施例5と実施例6との対比から、ペレット(A1)を構成するEVOHのエチレン単位含有量がペレット(A2)を構成するEVOHのエチレン単位含有量よりも低い場合は、直進カット性に優れる傾向にあった。
【0104】
加えて、実施例1と比較例1および4との対比から、ペレット(A1)およびペレット(A2)を一旦溶融成形してペレットを作製、その後単層フィルムを作製した場合(比較例1および4)は、ペレット(A1)およびペレット(A2)をそのまま溶融成形して単層フィルムを作製した場合(実施例1)と比較して、得られる単層フィルムの直進カット性に劣っていた。また、実施例1と比較例2および3との対比から、ペレット(A1)またはペレット(A2)のいずれかが含まれない樹脂ペレット群をそのまま溶融成形して得られた単層フィルム(比較例2および3)は、ペレット(A1)およびペレット(A2)の両方を含有する樹脂ペレット群をそのまま溶融成形して得られた単層フィルム(実施例1)と比較して直進カット性に劣っていた。
【0105】
このことから、本発明のようなペレット(A1)とペレット(A2)の組み合わせを含む樹脂ペレット群をそのまま溶融成形して、フィルム等の所定の成形体を得ることにより、当該成形体は優れた直進カット性を有することがわかる。
【0106】
図2は、上記評価方法(5)平均粒子径の測定の際に測定した、実施例1および比較例1の走査型電子顕微鏡写真である。
図2の(a)に示すように、樹脂ペレット群をそのまま溶融成形して得た実施例1の単層フィルムでは、比較的粒子径の大きな分散相が観測されたのに対し、樹脂ペレット群を一旦溶融混練してペレット(溶融混練ペレット)を作製し、その溶融混練ペレットを用いて作製した比較例1の単層フィルム(
図2の(b))では、
図2の(a)で観察されたようなサイズの分散相は観測されず、比較的粒子径の小さな分散相のみ観測された。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の樹脂ペレット群は、例えば、食品および飲料分野、ペットフード分野、油脂工業分野、医薬品分野等の技術分野における各種製品の包装に有用である。
【符号の説明】
【0108】
100 サンプル
102,102’ 切り込み
104,106 切断片
110 短手方向の一端の点
L0 基準線
L1 停止線
L2 破断停止線
TR 基準線L0から破断停止線L2までの距離
【要約】
本発明の樹脂ペレット群は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)を含有するペレット(A1)と、エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)を含有するペレット(A2)とを含む。ここで、ペレット(A1)の引取速度50m/分、210℃における溶融張力は10mN以上30mN以下であり、ペレット(A2)の引取速度50m/分、210℃における溶融張力は2mN以上10mN未満である。さらに、エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)のエチレン単位含有量(ECa1)は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(a2)のエチレン単位含有量(ECa2)と異なっており、ペレット(A1)とペレット(A2)との質量比(A1/A2)は20/80以上99/1以下に設定されている。