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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】熱伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/32 20060101AFI20220908BHJP
   F28F 13/12 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F28F1/32 N
F28F13/12 Z
F28F13/12 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018150502
(22)【出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2020026902
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】小原 公和
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】カイタッカラ ジョン アルジュン
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-156296(JP,A)
【文献】特開昭62-009196(JP,A)
【文献】特開2006-132839(JP,A)
【文献】特開2017-015304(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066075(WO,A1)
【文献】特開昭52-135448(JP,A)
【文献】米国特許第06378605(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/32
F28F 13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性を有する伝熱部材(33)と、
前記伝熱部材に一体に設けられ、前記伝熱部材との間で熱移動が行われるフィン(41、641)とを備えた熱伝達装置(1)であって、
前記フィンは、前記フィンに沿って流れる熱媒体の主流の流れ方向とは異なる方向に振動する副流を生成するための複数の開口部(42、342、442、542、642)を備え、
前記開口部は、前記フィンに前記開口部が形成されていないとした仮定の下で、前記フィンに沿って層流状態の熱媒体を流した場合に、層流が完全に発達する前の区間として定義される層流助走区間を含む位置に設けられ、
前記副流は、前記開口部を双方向に通過するとともに、前記主流の流れ方向に振動の波が進行する進行波であり、
前記フィンよりも前記主流の上流に設けられて、前記フィンに対して供給される熱媒体の流れを乱す撹乱体(299)を備えている熱伝達装置。
【請求項2】
前記進行波は、進行方向の上流から下流に向かう過程で振幅が変化する波である請求項1に記載の熱伝達装置。
【請求項3】
前記進行波は、進行方向の下流に向かうほど振幅が小さくなる波である請求項2に記載の熱伝達装置。
【請求項4】
複数の前記開口部は、前記フィンの全体に一様に形成されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱伝達装置。
【請求項5】
前記フィンにおける前記開口部の開口率は、前記主流において前記フィンの下流側よりも前記フィンの上流側の方が大きい請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱伝達装置。
【請求項6】
前記撹乱体は、流れを乱した状態の熱媒体を複数の前記フィンに対して供給する請求項1から請求項5のいずれかに記載の熱伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、熱伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、熱交換器に備えたノズル部から熱交換路を流れる主流に対して気体を吹き出し、または、主流から気体を吸引し、副流を生じさせている。これにより、熱交換器のフィンに、渦発生体などの流れに乱れを発生させるための特別な構造体の形成を必要とせずに、熱交換器の熱交換性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-15304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の構成では、熱交換器の端部に設けられた壁部に副流を生成するためのノズル部を備えている。これにより、主流に副流を加えた流れをフィンに沿って流すことで、主流と副流のぶつかり合いによる流れの乱れを発生させて、熱交換器の熱交換性能を向上させている。しかしながら、副流を生成するノズル部からの距離によって主流に副流を加えた流れの状態が異なり、フィンにおいて適正な副流を作用させることのできる範囲が限られていた。上述の観点において、または言及されていない他の観点において、熱伝達装置にはさらなる改良が求められている。
【0005】
開示される1つの目的は、熱伝達率の高い熱伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された熱伝達装置は、熱伝導性を有する伝熱部材(33)と、伝熱部材に一体に設けられ、伝熱部材との間で熱移動が行われるフィン(41、641)とを備えた熱伝達装置(1)であって、フィンは、フィンに沿って流れる熱媒体の主流の流れ方向とは異なる方向に振動する副流を生成するための複数の開口部(42、342、442、542、642)を備え、開口部は、フィンに開口部が形成されていないとした仮定の下で、フィンに沿って層流状態の熱媒体を流した場合に、層流が完全に発達する前の区間として定義される層流助走区間を含む位置に設けられ、副流は、開口部を双方向に通過するとともに、主流の流れ方向に振動の波が進行する進行波である。
【0007】
開示された熱伝達装置によると、熱伝達装置は、熱媒体の主流の流れ方向とは異なる方向に振動する副流を生成するための開口部を有するフィンを備えている。この副流は、開口部を双方向に通過するとともに、主流の流れ方向に進行する進行波である。このため、フィンに設けられた開口部によって進行波である副流を生成するので、フィンにおける熱移動を促進させることができる。したがって、熱伝達率の高い熱伝達装置を提供できる。
【0008】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】熱伝達装置を示す正面図である。
図2】熱伝達装置のコア部を示す拡大斜視図である。
図3図2のIII-III線における断面での熱媒体の流れを示す説明図である。
図4】フィンの周囲を流れる熱媒体の流れを示す説明図である。
図5】フィンの周囲を流れる熱媒体の流れを示す説明図である。
図6】フィンの周囲を流れる熱媒体の流れを示す説明図である。
図7】第2実施形態における熱伝達装置のコア部を示す拡大斜視図である。
図8図7のVIII-VIII線における断面での熱媒体の流れを示す説明図である。
図9】第3実施形態における熱伝達装置のコア部を示す拡大斜視図である。
図10図9のX-X線における断面での熱媒体の流れを示す説明図である。
図11】第4実施形態における熱伝達装置のコア部を示す拡大斜視図である。
図12】第5実施形態における熱伝達装置のコア部を示す拡大斜視図である。
図13】第6実施形態における熱伝達装置のコア部を示す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/または関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0011】
第1実施形態
熱伝達装置1は、空調装置や冷却装置などに用いられる装置である。熱伝達装置1は、空調装置において、例えば冷媒と空気とを熱交換して冷媒を凝縮させる凝縮器や、冷媒と空気とを熱交換して冷媒を蒸発させる蒸発器として用いることができる。熱伝達装置1を凝縮器として用いた場合、周囲の空気を加熱する加熱源として熱伝達装置1を暖房運転などに利用可能である。また、熱伝達装置1を蒸発器として用いた場合、周囲の空気を冷却する冷却源として熱伝達装置1を冷房運転などに利用可能である。また、熱伝達装置1は、空調装置や給湯装置に用いられるヒートポンプユニットにおける室内器や室外器としても利用可能である。
【0012】
熱伝達装置1は、冷却装置において、例えばエンジン冷却水と空気とを熱交換してエンジン冷却水を冷却するラジエータとして用いることができる。あるいは、熱伝達装置1は、発熱源と熱交換媒体とを熱交換させて熱源を冷却する低温ラジエータなどの冷却装置として用いることができる。この場合、発熱源としては電気自動車やハイブリッド自動車などに搭載される二次電池やインバータ装置などが例として挙げられる。
【0013】
図1は、熱伝達装置1の正面図であって、X軸方向が熱伝達装置1の幅方向であり、Y軸方向が熱伝達装置1の奥行き方向であり、Z軸方向が熱伝達装置1の高さ方向である。熱伝達装置1は、マルチフロー型の熱交換器である。熱伝達装置1は、熱交換部であるコア部35、およびコア部35の上下に設けられた一対のヘッダタンク31、32を備えている。ヘッダタンク31、32は、熱伝達装置1の下部に位置している下部ヘッダタンク31と、熱伝達装置1の上部に位置している上部ヘッダタンク32とを備えている。下部ヘッダタンク31と上部ヘッダタンク32との間にコア部35が設けられている。コア部35は、複数のチューブ33、および複数のフィン41を備えている。チューブ33は、Z軸方向を長手方向とし、断面偏平状をなす管である。チューブ33は、X軸方向に等間隔に離間して複数並んで設けられている。フィン41は、薄肉の帯板材から波形に成形されたコルゲート形状である。フィン41は複数平行に並んで設けられたチューブ33の間に設けられており、1枚のフィン41が2本のチューブ33と接触した状態で固定されている。
【0014】
ヘッダタンク31、32、チューブ33およびフィン41は、例えば熱伝導性や耐腐食性等に優れるアルミニウム材もしくはアルミニウム合金材により形成されている。チューブ33は、熱伝導性を有する伝熱部材を提供する。チューブ33は、内部流体の熱を外部流体に伝熱している。フィン41とチューブ33とは、X軸方向に交互に並べられて相互に熱的に接合されており、互いに積極的に熱移動が行われる。フィン41は、チューブ33と外部流体との間での熱のやり取りを促進する伝熱促進部材である。熱伝達装置1のX軸方向の最外方のフィン41の更に外方には、補強部材としてのサイドプレート34が設けられている。
【0015】
各チューブ33の長手方向の端部は、ヘッダタンク31、32に連結固定され、チューブ33、フィン41、サイドプレート34、およびヘッダタンク31、32が一体でろう付けされている。内部流体は、チューブ33内を流通するときに、チューブ33の外表面に沿ってY軸方向に流れる外部流体と熱交換して、外部流体を冷却あるいは加熱する。内部流体は、例えば冷媒やエンジン冷却水などの流体である。外部流体は、例えば空気などの熱媒体である。
【0016】
熱伝達装置1は、下部ヘッダタンク31に内部流体を供給するための入口配管21を備えている。熱伝達装置1は、上部ヘッダタンク32から内部流体を流出させるための出口配管22を備えている。入口配管21および出口配管22の接続箇所は、上述した箇所に限られない。すなわち、入口配管21を上部ヘッダタンク32に接続し、出口配管22を下部ヘッダタンク31に接続するようにしてもよい。あるいは、ヘッダタンク31、32の内部を仕切ることで、入口配管21と出口配管22との両方の配管を上部ヘッダタンク32に接続するなどしてもよい。
【0017】
熱伝達装置1における内部流体の流れを以下に説明する。内部流体は、入口配管21から下部ヘッダタンク31内部に流入する。流入した内部流体は、下部ヘッダタンク31の内部を広がって、下部ヘッダタンク31と連通している複数のチューブ33に流入する。内部流体は、チューブ33を下部ヘッダタンク31から上部ヘッダタンク32に向かって移動する。内部流体は、チューブ33を流れる過程で、外部流体と熱交換を行う。チューブ33を流れた内部流体は、上部ヘッダタンク32に流入する。流入した内部流体は、上部ヘッダタンク32の内部を広がって、上部ヘッダタンク32と連通している出口配管22から流出する。
【0018】
内部流体である冷媒を蒸発させる蒸発器として熱伝達装置1を利用する場合、入口配管21から液体の冷媒が流入し、コア部35の一部をなすチューブ33を流れる過程で外部流体と熱交換して液体の冷媒が蒸発する。すなわち、冷媒が外部流体から気化熱を奪って外部流体を冷却する。その後、出口配管22から蒸発した気体の冷媒が流出する。
【0019】
内部流体である冷媒を凝縮させる凝縮器として熱伝達装置1を利用する場合、入口配管21から気体の冷媒が流入し、コア部35の一部をなすチューブ33を流れる過程で外部流体と熱交換して気体の冷媒が凝縮する。すなわち、冷媒が外部流体に熱を与えて外部流体を加熱する。その後、出口配管22から凝縮した液体の冷媒が流出する。
【0020】
図2において、チューブ33の内部は、内部流体が流通可能な流路が複数形成されている。この内部流体の流路は、Y軸方向に並んで形成されている。すなわち、チューブ33は、内部が互いに平行に並ぶ複数の流路に区切られた扁平管である。隣り合って並ぶチューブ33同士は、間にフィン41が位置した状態で互いに平行に設けられている。
【0021】
フィン41は、複数の水平面を形成するように波形に折り返されている。フィン41の水平面は、Z軸方向に離間して互いに略平行に設けられている。波形をなすフィン41の断面形状は、矩形波状である。フィン41には、複数の開口部42が形成されている。開口部42は、円形の穴である。複数の開口部42は、互いに大きさの等しい円形である。開口部42は、フィン41の上面と下面とを連通している。すなわち、開口部42は、フィン41をZ軸方向に貫通する穴である。開口部42は、フィン41のろう付け箇所を除く各水平面に一様に設けられている。
【0022】
外部流体は、送風機などの流体輸送装置や走行する車両が受ける風などによる作用で流れる。外部流体の主流の流れ方向は、Y軸方向に沿った方向である矢印F1方向である。外部流体の主流の流れ方向において、最上流に位置しているフィン41の始端部から最下流に位置しているフィン41の終端部までの間に開口部42が碁盤の目のように等間隔に離れて設けられている。言い換えると、開口部42は、X軸方向及びY軸方向において互いに等しい距離だけ離れた位置に設けられている。ただし、開口部42同士のX軸方向における離間距離とY軸方向における離間距離とは、必ずしも等しくなくてもよい。外部流体は、折り返されたフィン41と互いに隣り合うチューブ33とで囲まれた領域を流れる。
【0023】
開口部42が形成されていないと仮定した場合のフィン41に対して、層流状態となるように外部流体を流した場合に、フィン41の始端部から終端部までの区間は、層流助走区間と完全発達区間とのどちらかの区間に分類される。
【0024】
ここで、層流状態とは、流体のレイノルズ数が層流から乱流へ変化するときのレイノルズ数である臨界レイノルズ数以下の流れとして定義される。ただし、臨界レイノルズ数は、流路の形状や流路の表面粗さによって異なる値である。例えば、円管を流れる流体の臨界レイノルズ数は、約2300であることが知られている。
【0025】
層流助走区間とは、流路において流れ方向に流速分布が変化する区間として定義される。また、完全発達区間とは、流路において流体の流れが一定の速度分布となっている、すなわち流れ方向に流速分布が変化しない区間のことである。フィン41の始端部においては、フィン41の表面と流体との摩擦により、外部流体の流速分布が変化するため、常に層流助走区間となる。すなわち、始端部から完全発達区間までの区間は、層流助走区間である。層流助走区間を過ぎた完全発達区間での流体の流れは、完全に発達した層流境界層で覆われた層流の流れとなる。
【0026】
管内を流体が流れる場合の層流助走区間の長さLは、以下の式で与えられる。
【0027】
(数式1)
L≒0.06×Re×d
ここで、Reは、レイノルズ数である。dは、相当円直径である。例えば、自動車に搭載されるラジエータにおいて、実用上の風量で外部流体として空気を流した場合、層流助走区間の長さは、短い場合でも10mm程度の長さとなる。例えば、層流助走区間が10mmで、フィン41のY軸方向の長さが40mmである場合には、始端部から4分の1程度までの区間が層流助走区間となる。ここで、外部流体の流速が速くなるとレイノルズ数が増加するため、層流助走区間も増加し、フィン41の始端部から4分の1を超える範囲まで層流助走区間が拡大される。ただし、層流助走区間の長さは、外部流体の種類や速度などに依存するため熱伝達装置1を使用する用途や環境によって異なる。
【0028】
開口部42は、開口部42が形成されていないとの仮定の下での層流助走区間を含む位置に設けられている。すなわち、フィン41の始端部から層流助走区間が終わるまでの領域に少なくとも1つは開口部42が形成されている。
【0029】
開口部42は、フィン41の層流助走区間を含む位置に設けられればよく、フィン41の形状や長さは自由に設定可能である。フィン41に完全発達区間を設けず、フィン41の始端部から終端部までの全体が層流助走区間となるように構成してもよい。あるいは、フィン41の始端部よりも上流側に外部流体の流れを完全発達に近づけるためのガイド機構を備え、ガイド機構とフィン41とを用いて外部流体を完全発達させてもよい。
【0030】
外部流体は、矢印F1方向に示すように熱伝達装置1に沿って流れる。外部流体は、フィン41に沿って流れる過程でフィン41の表面から熱が伝達される。また、外部流体は、チューブ33に沿って流れる過程でチューブ33の表面から熱が伝達される。言い換えると、外部流体は、コア部35を通過することで、コア部35をなすチューブ33及びフィン41と熱のやり取りを行い、コア部35との温度差が小さくなる。
【0031】
フィン41における外部流体の流れについて以下に説明する。図3に示すように、外部流体は、主流として矢印F1方向に進行してフィン41に沿って真っすぐに流れる。熱伝達装置1における外部流体の入口がフィン41の始端部であり、出口がフィン41の終端部である。矢印F1方向とフィン41の始端部から終端部に向かう方向とは同じ方向である。フィン41の終端部よりも下流に流出した外部流体は、フィン41にガイドされた流れを維持して矢印F1方向と同じ向きに真っすぐに流れる速度成分と、矢印F1方向とは異なる方向に広がろうとする速度成分とを有する。これにより、フィン41の終端部の近傍において、微小な撹乱を起点として、相対的に圧力の高い領域と圧力の低い領域とが局所的に形成され、圧力の高い領域から圧力の低い領域に向かって一部の外部流体が流れる。この外部流体の流れによって、新たに圧力差が生じるため、フィン41の終端部の近傍において圧力が変化し続けることとなる。
【0032】
フィン41の終端部の近傍において生じた圧力差により、フィン41の終端部の近傍に位置する開口部42においてもフィン41の上面側と下面側とで圧力差が生じる。このため、圧力の高い領域から圧力の低い領域に向かって、外部流体が開口部42を通過するようにZ軸方向に移動する。開口部42は複数並んで形成されているため、外部流体の通過が引き起こされた開口部42と隣り合う開口部42においても、開口部42を通過するように外部流体の移動が引き起こされる。このように、終端部の近傍をきっかけとして生じた圧力差によって、フィン41の終端部から始端部までのフィン41全体において、開口部42を通過するような外部流体の移動がX軸方向やY軸方向に連鎖して引き起こされることとなる。
【0033】
図4は、フィン41全体において、開口部42を通過するようにZ軸方向に外部流体の移動が引き起こされている状態での外部流体の流れを示している。フィン41の終端部近傍においては、フィン41の上面側で圧力が高く、下面側で圧力が低い状態である。したがって、フィン41の上面側から下面側に向かって下向きに流れる外部流体の移動が引き起こされている。さらに、終端部近傍の開口部42と隣り合う開口部42においても下向きに流れる外部流体の移動が引き起こされている。ただし、外部流体の移動は、フィン41の上面側と下面側との圧力差に起因して引き起こされるため、圧力差の大きさに応じて開口部42を通過する外部流体の流量が異なる。より詳細には、圧力差の大きいところでは、開口部42を通過する外部流体の流量が多く、圧力差の小さいところでは、開口部42を通過する外部流体の流量が少ない。
【0034】
フィン41の上面側と下面側とで圧力差が生じていないところでは、外部流体が開口部42を通過していない。フィン41の上面側で圧力が低く、下面側で圧力が高いところでは、フィン41の下面側から上面側に向かって上向きに流れる外部流体の移動が引き起こされている。フィン41全体では、開口部42を通過する下向きの流れが生じている状態と、開口部42を通過する流れが生じていない状態と、開口部42を通過する上向きの流れが生じている状態との3つの状態が同時に引き起こされている。
【0035】
フィン41の開口部42を通過する流量は、隣り合う開口部42同士で近い値となる。すなわち、最も多くの外部流体が通過する開口部42をピーク値として、その開口部42から離れるほど外部流体が開口部42を通過する量が減少する。ただし、開口部42を上向きに通過する場合のピークと開口部42を下向きに通過する場合のピークとは、Y軸方向に周期的に発生する。すなわち、外部流体の流れは、主流とは別に開口部42を通過する副流を含んでおり、この副流は主流の流れる向きであるY軸方向とは異なる向きであるZ軸方向に振動する波としての性質を有している。
【0036】
図5は、図4の状態からわずかに時間が経過したときの外部流体の流れを示している。フィン41の終端部の近傍における開口部42を通過する下向きの流れの流量が時間経過にともなって増加している。言い換えると、副流の下向きの流れのピークが終端部の近傍における開口部42に近づいている。一方、フィン41の始端部の近傍における開口部42を通過する上向きの流れの流量が時間経過にともなって減少している。言い換えると、副流の上向きの流れのピークが始端部の近傍における開口部42から離れている。すなわち、副流が開口部42の1つ分の距離をY軸方向に向かって進行している。
【0037】
図6は、図5の状態からわずかに時間が経過したときの外部流体の流れを示している。フィン41の終端部の近傍における開口部42を通過する下向きの流れの流量が時間経過にともなって増加しており、下向きの流量が最大となるピークを迎えている。一方、フィン41の始端部の近傍における開口部42を通過する上向きの流れの流量が時間経過にともなって減少しており、上向きにも下向きにも流れない状態である。上述の通り、開口部42を通過する外部流体の波である副流が、時間経過にともなって主流の進行方向に伝播して進行している。
【0038】
副流は、同一の開口部42に対して、外部流体が上向きに通過する状態と、下向きに通過する状態とが時間経過によって切り替えられる。すなわち、外部流体は、開口部42を上向きと下向きとの双方向に通過することとなる。ただし、外部流体の通過方向は、上下方向であるZ軸方向に限定されず、熱伝達装置1におけるフィン41の設置角度によっては、前後方向や左右方向や斜め方向などの向きで、外部流体がフィン41の面に対して略垂直な方向における双方向に通過することとなる。
【0039】
上下に隣り合うフィン41同士で生成される進行波は、同位相である。このため、進行波の上向きのピークの位置においては、外部流体が上向きに吐き出されて開口部42から離れると同時に、上向きに吸い込まれて別の開口部42に近づくこととなる。ただし、上下に隣り合うフィン41同士で生成される進行波は、逆位相でもよい。逆位相の場合、上向きのピークと下向きのピークとが同時に作用するため、上下に隣り合うフィン41同士の中間位置において、副流同士の流れの力が上下方向に拮抗することとなる。
【0040】
開口部42から吐き出され、あるいは吸い込まれることでZ軸方向に振動し、Y軸方向に進行する外部流体の流れである副流と、矢印F1方向に進行する外部流体の流れである主流とが重なり合うことで、流れが合成される。合成された流れは、主流の進行方向である矢印F1方向に進行するとともにフィン41からの距離が変化してZ軸方向に振動する蛇行流としてフィン41同士の間を流れる。この合成された流れは、流量が一定な定常流である主流と、主流と同じ方向に進行する進行波である副流とが合成されている。このため、フィン41に流れを妨げるための突起などを設けて主流中に渦を生成した場合の流れに比べて、始端部から終端部に向かう方向の流れを妨げられにくく、圧力損失を低くしやすい。
【0041】
進行波である副流をフィン41に作用させた場合の熱伝達装置1における熱伝達率の向上と圧力損失の低減について、以下に推測される原理を説明する。
【0042】
フィン41を通過した副流により、主流の温度分布と速度分布が変化する。このとき、副流による温度分布の変化速度と速度分布の変化速度が異なるため、主流の進行方向に連続的に副流を作用させることにより、温度分布と速度分布の位相がずれる。例えば、フィン41により高温の流体を冷却している際に、一般的には速度が速い領域と温度が高い領域は一致する。一方で進行波となる副流が作用していると、速度の速い領域の温度が低く、速度の遅い領域の温度が高い状態となる。その状態にさらに副流が作用することで、速度が速く温度の低い領域がフィン41表面から遠ざけられ、速度が遅く温度が高い領域がフィン表面に近づけられる。すなわち、フィン41表面に速度の遅い領域が近づくことで摩擦が低減されるため、圧力損失が低減され、温度の高い領域がフィン41表面に近づくことで伝熱促進され高熱伝達を実現する。定在波では節の部分で主流に副流が作用できないため、進行波に比べて伝熱促進効果が低減する。言い換えると、副流を進行波とすることで、副流を定在波とした場合に比べてより大きな伝熱促進効果を得ることができる。
【0043】
上述した実施形態によると、フィン41は、フィン41に沿って流れる熱媒体の主流の流れ方向とは異なる方向に振動する副流を生成するための開口部42を備えている。このため、フィン41に設けられた開口部42によって副流を生成して、主流に副流を直接作用させることができる。したがって、フィン41の適正な位置に適正な副流を発生させて、熱伝達装置1のフィン41全体にわたって熱伝達率を向上させることができる。
【0044】
副流が主流と同じ方向に進行する進行波である。このため、フィン41に流れを乱すための突起を設けるなどした場合や、副流を主流とは異なる方向に進行する進行波とした場合に比べて圧力損失を低くしやすい。したがって、外部流体を熱伝達装置1に向かって送る送風機やポンプなどの流体輸送装置で消費するエネルギーを低減しやすい。
【0045】
開口部42は、フィン41全体に一様に形成されている。このため、フィン41全体で進行波をなす副流を同時に生成できる。したがって、フィン41の特定の部位によらず全体的に熱伝達率を向上させやすい。よって、フィン41の特定の部位のみに流れを乱すための突起を設けるなどした場合に比べて、フィン41の広い範囲にわたって、熱伝達率を向上させることができる。また、フィン41の部位によらず開口部42の形状が同一であるため、部位によって開口部42の形状を変えるような加工を行う場合に比べてフィン41を容易に加工できる。
【0046】
開口部42は、フィン41の表面において始端部から終端部までY軸方向に並ぶ列がX軸方向に離間して平行に複数列形成されている。このため、開口部42が一列しか形成されていない場合に比べて、フィン41の広い範囲に対して適正な副流を作用させることができる。したがって、フィン41の表面において偏った位置に開口部42を形成する場合に比べて、熱伝達率を向上させやすい。
【0047】
波形に折り返されたフィン41の水平面は、Z軸方向に略平行に並んでいる。言い換えると、フィン41の波形は断面が矩形波状である。このため、フィン41の断面が正弦波状である場合に比べて、フィン41の水平面同士の距離であるフィンピッチが部位によって変化しにくい。したがって、フィン41の部位によらず一様に適正な副流を生成してフィン41に副流を作用させやすい。よって、熱伝達装置1の熱伝達率を向上させやすい。
【0048】
第2実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、外部流体の流れにおいてフィン41よりも上流に撹乱体299を備えている。
【0049】
図7において、撹乱体299は、X軸方向を長手方向とする円柱状の部材である。撹乱体299の外径は、フィン41の板厚よりも大きい。撹乱体299は、上下に並んで折り返されているフィン41の水平面と略同じ高さに配置されている。撹乱体299の表面には凹凸を設けることで、流れを乱しやすくする加工がなされている。
【0050】
撹乱体299およびフィン41における外部流体の流れについて以下に説明する。図8において、外部流体は、撹乱体299の上流側と下流側とでその流れ方が変化している。撹乱体299の影響を受けていない一様で直線的な流れの中に撹乱体299が位置することで、撹乱体299が外部流体の流れを妨げる障害物として機能する。これにより、撹乱体299の下流側において発生する圧力変化によって、上下方向に交互にカルマン渦が発生し続ける。すなわち、撹乱体299は、外部流体の流れに渦を生成する渦生成装置として機能する。
【0051】
外部流体は、定常流に撹乱体299で生成されたカルマン渦が合成されて流れが乱れた状態でフィン41に流れ込むこととなる。このため、フィン41の上面側と下面側とで圧力差が生じやすい。したがって、フィン41の始端部の近傍における開口部42において上面側と下面側との間の圧力差によって開口部42をZ軸方向に通過する副流が形成されやすい。
【0052】
上述した実施形態によると、フィン41よりも主流の上流に設けられて、フィン41に対して流れを乱した外部流体を供給する撹乱体299を備えている。このため、定常流よりも流れの乱れた状態で外部流体をフィン41に対して供給できる。したがって、フィン41の始端部側で外部流体の圧力差を生じやすく、撹乱体299を設けない場合に比べてスムーズに副流を生成することができる。よって、熱伝達装置1の熱伝達率が高い状態を長く維持しやすい。
【0053】
1つの撹乱体299を熱伝達装置1の全幅にわたるように設けることで、X軸方向に並んだ複数のフィン41に対して同時に流れの乱れた外部流体を供給できる。このため、X軸方向に並んだフィン41毎に撹乱体299を備える場合に比べて、部品点数を削減できる。
【0054】
撹乱体299として円柱状の部材を用いている。このため、撹乱体299でカルマン渦を交互に生成して、フィン41の上面側と下面側との間での圧力差を生じさせやすい。したがって、フィン41において進行波としての副流をスムーズに生成することができる。ただし、撹乱体299は、定常流の流れを乱すカルマン渦などの流れを生成できればよく、撹乱体299の形状は、円柱状に限られない。例えば角柱状や平板状であってもよい。あるいは、位置によって太さの異なる棒状の部材であってもよい。あるいは、針金のような細長い部材であってもよい。あるいは、複数の球体をフィン41の上流側に並べて配置してもよい。
【0055】
撹乱体299をフィン41やチューブ33から連続して突出させて設けるようにしてもよい。これによると、撹乱体299が流れを乱す機能と熱を伝達する機能とを兼ね備えることができ、熱伝達率を向上させやすい。また、フィン41と撹乱体299との距離を一定に保ちやすい。このため、撹乱体299で乱された流れを用いて副流を安定して生成しやすい。
【0056】
第3実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、開口部342が、大開口部342aと小開口部342bとの大きさの異なる2種類の開口によって構成されている。
【0057】
図9において、フィン41は、外部流体の流れにおいて上流側に位置する上流側フィン41aと、外部流体の流れにおいて下流側に位置する下流側フィン41bとを備えている。フィン41は、大開口部342aと小開口部342bとの大きさの異なる開口部342を備えている。
【0058】
大開口部342aは、上流側フィン41aに形成されている。小開口部342bは、下流側フィン41bに形成されている。大開口部342aと小開口部342bとは互いに大きさが異なるが、フィン41において形成されている数は等しい。言い換えると、大開口部342a同士の間隔は、小開口部342b同士の間隔よりも狭い。すなわち、フィン41において、上流側フィン41aの開口率は、下流側フィン41bの開口率よりも大きい。ここで、開口率とは、フィン41のうち、開口部342の占有する割合を示す値である。開口率が大きいほど、フィン41を貫通する方向に外部流体が流れやすく、副流が生成されやすい。一方、開口率がゼロの場合には、フィン41をZ軸方向に貫通して外部流体が流れることができず、副流を生成することができない。フィン41における開口率が大きい状態は、フィン41における透過率が大きい状態である。
【0059】
図10において、大開口部342aの直径D1は、小開口部342bの直径D2よりも大きい。すなわち、大開口部342aの開口面積は、小開口部342bの開口面積よりも大きい。
【0060】
開口部342を通過する外部流体の流れについて以下に説明する。外部流体は、大開口部342aを通過する副流における振幅Am1と、小開口部342bを通過する副流における振幅Am2との大きさとが異なる。すなわち、大開口部342aを通過する際には、開口面積が大きいため通過可能な外部流体の量が多い。一方、小開口部342bを通過する際には、開口面積が小さいため通過可能な外部流体の量が少ない。したがって、大開口部342aを通過する副流の振幅Am1は、小開口部342bを通過する副流の振幅Am2に比べて大きい。言い換えると、副流は上流から下流に向かって進行する過程で振幅が小さくなっている。
【0061】
上流側フィン41aにおいては、副流の振幅Am1が大きいため、外部流体が上流側フィン41aに近づく流れと離れる流れとにおける移動量が大きい。一方、下流側フィン41bにおいては、副流の振幅Am2が小さいため、外部流体が下流側フィン41bに近づく流れと離れる流れとにおける移動量が小さい。すなわち、上流側フィン41aにおいては、主流と副流とが合成された外部流体の流れが大きく蛇行してフィン41に近づくため熱伝達が促進されやすい。一方、下流側フィン41bにおいては、副流の作用が小さく、主流と副流とが合成された外部流体の流れが上流側フィン41aに比べて小さく蛇行することとなる。このため圧力損失が小さく、外部流体がスムーズに流れやすい。
【0062】
上述した実施形態によると、副流の進行波は、大開口部342aを通過する振幅の大きな状態と小開口部342bを通過する振幅の小さな状態との2つの状態を備えている。言い換えると、上流から下流に向かう過程で副流の振幅が変化している。このため、熱伝達率を高める部分と圧力損失を小さくして流れをスムーズにする部分とを使い分けることができる。したがって、熱伝達装置1での形状や用途に応じて、外部流体の流れを適切に制御して必要な熱伝達性能を得ることができる。
【0063】
副流の進行波について、上流側フィン41aでは振幅の大きな状態であり、下流側フィン41bでは振幅の小さな状態である。言い換えると、副流は主流の進行方向に進むほど振幅が小さくなっている。このため、主流と副流とが合成された外部流体の流れにおいて、外部流体の流れの上流であるフィン41の始端部付近では振幅が大きく、下流であるフィン41の終端部付近では振幅が小さい。したがって、熱伝達装置1との温度差が最も大きい状態である熱伝達が行われる前の外部流体に対しては大きな振幅で熱伝達率を高めることができる。一方、温度差の小さい状態である下流の外部流体に対しては、小さな振幅の進行波で圧力損失を小さくして外部流体をスムーズに流すことができる。
【0064】
フィン41の始端部で振幅の大きな副流を入力し、温度分布と速度分布の位相をずらしている。これにより、下流側では振幅の小さな副流、すなわちフィン41を通過時のエネルギーロスが小さな副流であっても、温度分布と速度分布の位相ずれを保ちながらフィン41の上流から下流までの広い範囲で低圧損と高熱伝達を実現できる。
【0065】
第4実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、下流側フィン41bにおける下流側開口部442bの数が上流側フィン41aにおける上流側開口部442aの数よりも少ない。
【0066】
図11において、上流側フィン41aには上流側開口部442aが形成され、下流側フィン41bには下流側開口部442bが形成されている。上流側開口部442aと下流側開口部442bとは、ともに大きさの等しい円形の穴である。下流側開口部442b同士の距離は、上流側開口部442a同士の距離よりも大きい。言い換えると、下流側フィン41bは、上流側フィン41aよりも形成されている開口部442の数が少ない。すなわち、下流側フィン41bにおける開口率は、上流側フィン41aにおける開口率よりも小さい。
【0067】
副流は、フィン41の開口部442を通過して生成される。このため、フィン41において、開口率が小さな部位よりも開口率が大きな部位の方が副流を生成しやすい。したがって、開口率の大きな上流側フィン41aでは副流が生成されやすく、開口率の小さな下流側フィン41bでは、上流側フィン41aに比べて副流が生成されにくい。
【0068】
上述した実施形態によると、フィン41において上流側と下流側とで開口率を変えている。このため、フィン41において副流の生成されやすさを部位によって制御することができる。したがって、熱伝達を積極的に行いたい部位では、開口率を大きくすることで副流の作用によって熱伝達率を向上させ、熱伝達をそれほど高める必要がない部位では、開口率を小さくすることで副流の影響を小さくして圧力損失を低下させることができる。よって、熱伝達装置1の形状や用途などによって、フィン41の開口率を変化させて最適な熱伝達が行えるように調整することができる。
【0069】
第5実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、微小な開口部542がフィン41全体にわたって形成されている。
【0070】
図12において、フィン41は、開口部542を備えている。開口部542は、チューブ33に形成されている内部流体の流路よりも断面積の小さな円形の穴である。開口部542は、チューブ33から隣り合うチューブ33に向かって延びるフィン41の水平面だけでなく、チューブ33と接触しているフィン41のろう付け部分も含めたフィン41の全体にわたって一様に形成されている。すなわち、フィン41の全体に同じ大きさの開口部542が規則的に形成されている。
【0071】
上述した実施形態によると、フィン41は、フィン41のろう付け部分も含めたフィン41全体にわたって一様な開口部542を備えている。このため、フィン41の水平面において開口部542が形成されておらず適正な副流を生成することができないといった事態を防止できる。言い換えると、フィン41の折り曲げ位置によらず水平面に一様な開口部542が形成された状態とすることができる。したがって、フィン41における開口部542の位置のばらつきを低減して、熱伝達装置1の伝熱性能を安定させやすい。
【0072】
また、開口部542を形成した後の板部材を波形に折り曲げてフィン41を形成する場合に、水平面として機能する部分とろう付け部分として機能する部分とを区別して折り曲げ加工を行う必要がない。すなわち、フィン41を波形に折り曲げ加工しやすい。
【0073】
また、ろう付け部分において、一様な開口部542がフィン41に形成されている。このため、ろう付け加工時のろう付け部分における温度分布の偏りなどを低減しやすく、適切にろう付け加工を行いやすい。
【0074】
開口部542は、直径の小さな穴である。このため、同じ開口率であっても直径の大きな穴を形成する場合に比べて、フィン41において開口部542が形成されている部分と形成されていない部分との分布の偏りを低減しやすい。言い換えると、直径の大きな穴を形成する場合に比べて、開口部542から隣り合う開口部542までの距離を短くできる。したがって、直径の大きな穴を形成する場合に比べて開口部542を通過して副流を生成しやすい。
【0075】
第6実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、フィン641が第1フィン641aと第2フィン641bとの2つの部品によって構成されている。
【0076】
図13において、フィン641は、それぞれ形状の異なる開口部642を有している第1フィン641aと第2フィン641bとを備えている。すなわち、第1フィン641aで生成される副流と第2フィン641bで生成される副流とは異なる性質を有している。
【0077】
第1フィン641aに形成されている第1開口部642aは、円形の穴である。第1フィン641aの始端部及び終端部には、第1開口部642aとして半円形状の切り欠きが形成されている。第1開口部642aは、互い違いに配置された千鳥配置である。具体的に千鳥配置とは、隣り合って並ぶ第1開口部642aの列が第1開口部642a同士の間隔の半分の距離ずれて配置された状態である。ただし、第1開口部642aの形状は円形に限られず、長方形の穴を千鳥配置とするようにして構成してもよい。
【0078】
第1フィン641aにおいては、始端部から終端部にかけて幅方向であるX軸方向のいずれかの部位に第1開口部642aが形成されている。したがって、部位によってはX軸方向のどの位置にも開口部42が形成されていない場合が存在する碁盤目配置とは異なり、外部流体がX軸方向に移動することで、必ずいずれかの第1開口部642aを通過して第1フィン641aを貫通して流れることができる。また、碁盤目配置に比べて開口部642同士の中心間の距離を近づけることができる。
【0079】
第2フィン641bに形成されている第2開口部642bは、平行四辺形の穴である。第2開口部642bは、主流の流れ方向に対して斜めに形成された穴である。第2開口部642b同士は、互いに平行に配置されている。
【0080】
第2フィン641bは、第1フィン641aよりも下流に位置しており、第1フィン641aと第2フィン641bとは互いに離間している。したがって、第1フィン641aで生じた副流による流れの乱れや、第1フィン641aの終端部で生じたカルマン渦などの流れの乱れによって、第2フィン641bに流入する流れが乱れた状態となりやすい。よって、第2フィン641bの始端部近傍において圧力差が生じやすく、第2開口部642bを通過する副流が生成されやすい。すなわち、第1フィン641aは、第2フィン641bに流入する外部流体の流れを乱す撹乱体としても機能する。
【0081】
上述した実施形態によると、第1フィン641aと第2フィン641bとを互いに離間した状態で主流の流れ方向に並べて配置している。このため、第1フィン641aで生成された副流などの影響によって流れの乱れた外部流体を第2フィン641bに流すことができる。したがって、第1フィン641aよりも下流側に位置している第2フィン641bにおいて、第2開口部642bを通過する副流を生成しやすい。よって、熱伝達装置1は、副流の作用による熱伝達率の向上効果を安定して発揮しやすい。
【0082】
第1フィン641aは、千鳥配置である。このため、碁盤目配置に比べて、第1フィン641aにおいて第1開口部642aが形成されている部分と形成されていない部分との分布の偏りを低減できる。したがって、碁盤目配置に比べて第1開口部642aを通過して副流を生成しやすい。
【0083】
第1フィン641aと第2フィン641bとで、開口部642の形状が異なっている。このため、第1フィン641aと第2フィン641bとで熱伝達率や圧力損失の大きさを変えることで、熱伝達装置1全体としての性能を調整しやすい。また、複数の種類のフィン641を備えることで、外部流体の粘性が異なる場合であっても、適切な副流を生成することができる。すなわち、外部流体として空気を流す場合を想定したフィン641と水を流す場合を想定したフィン641との両方のフィン641を備えることで、同じ熱伝達装置1を用いて様々な状況に対応して熱伝達率を向上させることができる。
【0084】
第1フィン641aと第2フィン641bとで開口部642の形状以外を変更してもよい。例えば、第1フィン641aの厚さを第2フィン641bの厚さよりも薄くしてもよい。あるいは、第1フィン641aのY軸方向の長さを第2フィン641bのY軸方向の長さよりも長くしてもよい。あるいは、第1フィン641aの水平面のZ軸方向の間隔であるフィンピッチを第2フィン641bのフィンピッチよりも大きくしてもよい。あるいは、第1フィン641aを第2フィン641bよりも熱伝導性の高い材料で形成してもよい。
【0085】
他の実施形態
副流の生成方法としては、主流の流れに応じて副流が生成される構成に限られない。例えば、外部動力によって副流の流れを生み出すピストン装置を複数の開口部42に対応して設けてもよい。これによると、1つ1つのピストン装置で適正な副流を生成してフィン41に副流を作用させることができる。
【0086】
熱伝達装置1は、フィン41を介して内部流体と外部流体との2つの流体同士で熱交換を行う装置に限られない。例えば、発熱部品の熱を空気などの外部流体に熱伝達して発熱部品を冷却するヒートシンクを熱伝達装置1としてもよい。この場合、発熱部品と放熱フィンとを熱的につなぐ部分が伝熱部材であり、放熱フィンに進行波である副流を生成するための開口部が形成されることとなる。伝熱部材としては、発熱部品で生じた熱を伝達するものに限られず、伝熱部材自身が発熱あるいは吸熱するような部材であってもよい。
【0087】
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、1つの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【符号の説明】
【0088】
1 熱伝達装置、 21 入口配管、 22 出口配管、 31 下部ヘッダタンク、 32 上部ヘッダタンク、 33 チューブ(伝熱部材)、 34 サイドプレート、 35 コア部、 41 フィン、 41a 上流側フィン、 41b 下流側フィン、 42 開口部、 299 撹乱体、 342 開口部、 342a 大開口部、 342b 小開口部、 442 開口部、 442a 上流側開口部、 442b 下流側開口部、 542 開口部、 641 フィン、 641a 第1フィン、 641b 第2フィン、 642 開口部、 642a 第1開口部、 642b 第2開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13