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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】モデル生物用マルチウェルプレート
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220908BHJP
   A01N 1/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C12M1/34 A
A01N1/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018172546
(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2020043769
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】新家 一男
(72)【発明者】
【氏名】出口 友則
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0178012(US,A1)
【文献】特開2014-169951(JP,A)
【文献】特開2005-098808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
A01N
A01K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に沿って配置されるプレート頂部から、前記水平方向と交差する方向にて前記プレート頂部に対向するプレート底部に向かって窪むように形成される複数のウェルを備え、
各ウェルが、それぞれ前記プレート頂部及び前記プレート底部寄りに位置するウェル開口及びウェル底壁を有し、
前記複数のウェルが、複数のモデル生物をそれぞれ収容可能とするように構成されている、モデル生物用マルチウェルプレートであって、
前記モデル生物が、小魚、線虫、または幼生以前の段階のアフリカツメガエルであり、
各ウェルのウェル底壁が、前記プレート底部に向かって凹むように形成される凹部を有し、
前記複数のウェルにおける前記ウェル壁の凹部が、前記複数のモデル生物をそれぞれ収容可能とするように構成され、
各凹部が、この凹部に収容される前記モデル生物の頭部の標準形状に対応して形成される周面を有する頭部対応区域と、同モデル生物の胴体部の標準形状に対応して形成される周面を有する胴体部対応区域とを含み、
前記複数の凹部が互いに同じ方向を向くように配向され、
前記複数のモデル生物の姿勢が、それぞれ前記複数の凹部の周面に基づいて定められるようになっている、モデル生物用マルチウェルプレート。
【請求項2】
前記標準形状が、前記モデル生物に関する複数のサンプルの形状を測定した結果に基づいて算出される平均形状である、請求項1に記載のモデル生物用マルチウェルプレート。
【請求項3】
前記モデル生物が魚であり、
各凹部が、前記魚の尾部の標準形状に対応して形成された周面を有する尾部対応区域をさらに含んでいる、請求項1に記載のモデル生物用マルチウェルプレート。
【請求項4】
各凹部は、該凹部内に収容される前記魚を、該魚の側面部を前記プレート頂部に向けた姿勢に定めるように形成されている、請求項3に記載のモデル生物用マルチウェルプレート。
【請求項5】
各凹部は、該凹部内に収容される前記魚を、該魚の背中部又は腹部を前記プレート頂部に向けた姿勢に定めるように形成されている、請求項3に記載のモデル生物用マルチウェルプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のモデル生物をそれぞれ複数のウェルに収容可能とするように構成されるモデル生物用マルチウェルプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
医学分野、生物学分野等、特には創薬プロセスにおいては、医薬品の薬効評価試験のモデル生物として、メダカ、ゼブラフィッシュ等の魚類を用いることが注目されてきている。特に、創薬スクリーニングにおいては、複数の窪み形状のウェルを有するモデル生物用マルチウェルプレート(以下、必要に応じて、単に「マルチウェルプレート」という)を用いて、複数の魚のスクリーニングを実施することが注目されてきている。具体的には、モデル生物用マルチウェルプレートを用いたスクリーニング(以下、必要に応じて、「マルチウェルプレート式スクリーニング」という)においては、複数の魚が、それぞれ個別に複数のウェルに収容された状態で、目視されるか又は撮像装置によって撮影される。
【0003】
かかるマルチウェルプレート式スクリーニングにおいては、複数の魚を正確に観察するために互いに同一の姿勢で維持することが望ましい。しかしながら、それぞれ複数のウェルに収容された複数の魚を同一の姿勢に維持することは難しい。そのため、複数の魚を同一の姿勢に維持可能とするマルチウェルプレート式スクリーニングが提案されてきている。
【0004】
このようなマルチウェルプレート式スクリーニングの一例としては、次のような小魚類配列装置を用いることが挙げられる。具体的には、小魚類配列装置が、マルチウェルプレートに相当するウェルアレイ板を備え、このウェルアレイ板の各ウェルが、ウェルアレイ板の頂面側にて開口する開口部と、この開口部と対向するようにウェルアレイ板の底面側に位置すると共に長方形状に形成さえる平坦底部と、開口部の周縁から平坦底部の周縁に向かって先細るように形成される側壁部とを有し、複数のウェルの平坦底部が互いに同じ方向を向くように配向され、各小魚が、付勢手段によって、それを収容するウェルの平坦底部に付勢されるように構成されている。そして、このような付勢手段が、平坦底部近傍に形成された孔からウェル内の液体を吸引する吸水ポンプ、ウェルアレイ板を振動させる振動装置、ウェルアレイ板の頂面からその底面に向かう方向の遠心力を発生させるようにウェルアレイ板を回転させる回転体、又は小魚の体内に収容された磁性物質を磁気吸引可能とする永久磁石となっている。(例えば、特許文献1を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-169951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のようなマルチウェルプレート式スクリーニングの一例においては、小魚を、その体長方向を長方形状の平坦底部の長辺方向に合わせた姿勢に維持することができるが、複数の小魚のうち一部分の頭部が平坦底部の長辺方向の一方側を向くと共に複数の小魚のうち残りの部分の頭部が平坦底部の長辺方向の他方側を向くおそれがあり、さらには、複数の小魚のうち一部分の背ビレ部が平坦底部の短辺方向の一方側を向くと共に複数の小魚のうち残りの部分の背ビレ部が平坦底部の短辺方向の他方側を向くおそれがある。すなわち、小魚の頭部の向きを同一に定めることが困難になっており、かつ小魚の背ビレ部の向きを同一に定めることが困難となっている。
【0007】
さらに、上述のようなマルチウェルプレート式スクリーニングの一例においては、付勢手段によって小魚を付勢するために、スクリーニングを実施する設備が複雑化又は大型化するおそれがある。
【0008】
このような実情を鑑みると、モデル生物用マルチウェルプレートにおいては、複数のモデル生物の姿勢を同一に維持する精度を高めることが望まれる。さらに、任意選択的に、モデル生物用マルチウェルプレートを用いたスクリーニングを実施する設備が複雑化又は大型化することを防ぐこと、少ない薬剤量でハイスループットスクリーニングを行うことが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、一態様に係るモデル生物用マルチウェルプレートは、水平方向に沿って配置されるプレート頂部から、前記水平方向と交差する方向にて前記プレート頂部に対向するプレート底部に向かって窪むように形成される複数のウェルを備え、各ウェルが、それぞれ前記プレート頂部及び前記プレート底部寄りに位置するウェル開口及びウェル底壁を有し、前記複数のウェルが、複数のモデル生物をそれぞれ収容可能とするように構成されている、モデル生物用マルチウェルプレートであって、各ウェルのウェル底壁が、前記プレート底部に向かって凹むように形成される凹部を有し、前記複数のウェルにおける前記ウェル壁の凹部が、前記複数のモデル生物をそれぞれ収容可能とするように構成され、各凹部が、この凹部に収容される前記モデル生物の頭部標準形状に対応して形成される周面を有する頭部対応区域と、同モデル生物の胴体部の標準形状に対応して形成される周面を有する胴体部対応区域を含み、前記複数の凹部が互いに同じ方向を向くように配向され、前記複数のモデル生物の姿勢が、それぞれ前記複数の凹部の周面に基づいて定められるようになっている。
【発明の効果】
【0010】
一態様に係るマルチウェルプレートによれば、複数のモデル生物の姿勢を同一に維持する精度を高めることができる。また、任意選択的に、モデル生物用マルチウェルプレートを用いたスクリーニングを実施する設備が複雑化又は大型化することを防ぐことができ、少ない薬剤量でのハイスループットスクリーニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係るモデル生物用マルチウェルプレートを概略的に示す斜視図である。
図2】第1実施形態に係るモデル生物用マルチウェルプレートを概略的に示す平面図である。
図3図2のA部を1つのウェルにメダカを収容した状態で示す拡大図である。
図4図3のB-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1及び第2実施形態に係るモデル生物用マルチウェルプレートについて以下に説明する。各実施形態に係るモデル生物用マルチウェルプレート(以下、必要に応じて、単に「マルチウェルプレート」という)に収容可能なモデル生物の一例として、メダカ(ミナミメダカ、学名:Oryzias latipes)を挙げて説明している。しかしながら、各実施形態に係るマルチウェルプレートにて収容可能なモデル生物は、メダカ以外の魚(好ましくは、小型の魚)、線虫(学名:Caenorhabditis elegans)、幼生(すなわち、オタマジャクシ)以前の段階のアフリカツメガエル(学名:Xenopus laevis)等とすることもできる。例えば、メダカ以外の魚は他のメダカ属やゼブラフィッシュ(学名:Danio rerio)、プラティ(学名:Xiphophorus maculatus)、ソードテール(学名: Xiphophorus hellerii)、トラフグ(学名: Takifugu rubripes)、ミドリフグ(学名: Tetraodon nigroviridis)等とすることができる。これらの生物は、生物個体そのものとしてのスクリーニングを可能にし、かつ観察及び取り扱いが容易で倫理的な問題も回避可能であるので、好ましく用いることができる。さらに、各実施形態に係るマルチウェルプレートは使い捨て型であるとよいが、このことは、本発明を限定しない。
【0013】
以下の説明にて用いる図1及び図2においては、マルチウェルプレートを使用する作業者の近位側を矢印Pによって示し、かつ当該作業者の遠位側を矢印Dによって示す。しかしながら、本発明はこれに限定されず、作業者は、マルチウェルプレートに対して矢印Pにより示した方向以外の方向に位置した状態でマルチウェルプレートを使用することもあり得る。
【0014】
[第1実施形態]
第1実施形態に係るマルチウェルプレートについて説明する。
【0015】
[マルチウェルプレートの概略について]
図1図4を参照して、マルチウェルプレートの概略について説明する。図1及び図2に示すように、マルチウェルプレートは、プレート頂部1からプレート底部2に向かって窪むように形成される複数のウェル3を有する。ここで、プレート頂部1及びプレート底部2は水平方向と交差する方向(以下、「交差方向」という)にて互いに対向していて、プレート頂部1は水平方向に沿って配置される。なお、水平方向のうち第1の方向の一方側が、図1及び図2にて矢印Pにより示した作業者の近位側に対応し、かつ該第1の方向の他方側が、図1及び図2にて矢印Dにより示した作業者の遠位側に対応するものとして定義する。また、交差方向(図1及び図2にて矢印Cにより示す)は水平方向に対して略直交するとよい。
【0016】
図3及び図4を参照すると、複数のウェル3のそれぞれは、プレート頂部1寄りに位置するウェル開口4と、このウェル開口4の周縁部からプレート底部2に向かって延びるウェル周壁5と、交差方向にてウェル開口4に対向するようにプレート底部2寄りに位置するウェル底壁6とを有する。ウェル周壁5は、ウェル開口4の周縁部及びウェル底壁6の周縁部間で延びる。このような複数のウェル3が、それぞれ、複数のモデル生物M、すなわち、複数のメダカM(図3に示す)を1ウェルにつき1匹ずつ収容可能とするように構成されている。
【0017】
このようなマルチウェルプレートは、樹脂材料、ガラス材料、金属材料等を用いて作製されると好ましい。例えば、かかる樹脂材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、PMMA等を用いることができるが、これらには限定されない。また、これらの材料には、蛍光を発する物質を含まないことが好ましい。特に、ウェル底壁6からの観察を可能にすることを考慮する場合、ウェル底壁6が実質的に透明になっているとよい。さらに、マルチウェルプレートは実質的に透明になっているとよい。しかしながら、マルチウェルプレートの用途に応じて、マルチウェルプレートが部分的に着色されるか、又はマルチウェルプレート全体が着色されていてもよい。
【0018】
再び図1及び図2に示すように、マルチウェルプレートの外形、特に、マルチウェルプレートのプレート頂部1の外形は、平面視で略四角形状に形成されるとよい。この場合、略四角形状の外形が、水平方向のうち第1の方向に沿った一対の第1の辺と、水平方向のうち、第1の方向に対して略直交する第2の方向に沿った一対の第2の辺とを有する。
【0019】
しかしながら、本発明はこれに限定されず、マルチウェルプレートの概略は次のようになっていてもよい。交差方向は、水平方向に対して略直交せずに、斜めに交差していてもよい。この場合、各ウェルが水平方向に対して斜めな方向に窪むとよい。また、マルチウェルプレートが実質的に透明以外であってもよく、すなわち、マルチウェルプレートが半透明又は不透明であってもよい。例えば、マルチウェルプレートのウェルのウェル底壁を透明とし、かつウェルのウェル底壁以外の部分を不透明とすることもできる。マルチウェルプレートのウェル底壁を透明とし、かつウェル周壁を、光の透過を防止可能とする色、例えば、白色、黒色等とすることもできる。マルチウェルプレート又はそのプレート頂部の外形は、平面視で略四角形状以外の形状に形成することもできる。また、複数のウェルのうち一部の色と、複数のウェルのうち別の一部の色とを異なるようにすることもできる。
【0020】
[ウェルの詳細について]
次に、図1図4を参照して、ウェル3の詳細について説明する。図3及び図4に示すように、複数の凹部7は、それぞれ、複数のメダカMを収容可能とするように形成されている。特に、各凹部7は、1匹のメダカMを収容可能とするように形成される。
【0021】
なお、本実施形態においては、一例として、モデル生物であるメダカMの部位は次のように定義されるとよいが、このことはモデル生物の部位の定義を限定しない。図4に示すように、メダカMの頭部m1は、その体長方向にて、口(図示せず)側の末端からエラ(図示せず)までの部分として定義されるとよい。メダカMの胴体部m2は、その体長方向にて、内臓を収容する部分として定義されるとよい。具体的には、メダカMの胴体部m2は、その体長方向にて、エラ(図示せず)から肛門(図示せず)までの部分として定義されるとよい。メダカMの尾部m3は、その体長方向にて、肛門(図示せず)から尾ヒレ側の末端までの部分として定義されるとよい。
【0022】
さらに、メダカMの腹部は、その体高方向にて、肛門側の縁部分として定義されるとよい。メダカMの背中部は、その体高方向にて、背ビレ側の縁部分として定義されるとよい。メダカMの側面部m4は、その体高方向にて、腹部と背中部との間の部分として定義されるとよい。メダカMの腹部、側面部m4、及び背中部のそれぞれが、メダカMの頭部m1、胴体部m2、及び尾部m3を含むことがあり、その逆に、メダカMの頭部m1、胴体部m2、及び尾部m3のそれぞれが、メダカMの腹部、側面部m4、及び背中部を含むことがある。
【0023】
なお、かかるメダカMの部位の定義は、メダカM以外の魚、幼生以前の段階のアフリカツメガエル等のモデル生物にも適用可能である。さらに、モデル生物が線虫である場合には、線虫の頭部は、その体長方向にて、口側の末端から咽頭までの部分として定義されるとよい。線虫の胴体部は、その体長方向にて、内臓を収容する部分として定義されるとよい。具体的には、線虫の胴体部は、その体長方向にて、咽頭から肛門までの部分として定義されるとよい。線虫の尾部は、その体長方向にて、肛門から尾っぽ側の末端までの部分として定義されるとよい。
【0024】
さらに、線虫の腹部は、その体高方向にて、肛門側の縁部分として定義されるとよい。線虫の背中部は、その体高方向にて、腹部と対向する部分として定義されるとよい。線虫の側面部は、その体高方向にて、腹部と背中部との間の部分として定義されるとよい。線虫の腹部、側面部、及び背中部のそれぞれが、線虫の頭部、胴体部、及び尾部を含むことがあり、その逆に、線虫の頭部、胴体部、及び尾部のそれぞれが、線虫の腹部、側面部、及び背中部を含むことがある。
【0025】
各ウェル3のウェル底壁6は、プレート底部2に向かって凹むように形成される凹部7を有する。各凹部7は、プレート頂部1寄りに位置する凹部開口7aと、この凹部開口7aの周縁部からプレート底部2に向かって延びる凹部周面7bと、交差方向にて凹部開口7aに対向するようにプレート底部2寄りに位置する凹部底面7cとを有する。凹部周面7bは、凹部開口7aの周縁部及び凹部底面7cの周縁部間で延びる。凹部周面7bは、その横断面の面積を凹部底面7cから凹部開口7aに向かうに従って増加させるようにテーパを付されるとよい。
【0026】
各凹部7は、メダカMの頭部m1を収容可能に構成される頭部対応区域8と、メダカMの胴体部m2を収容可能に構成される胴体部対応区域9とを有する。さらに、各凹部7は、メダカMの尾部m3を収容可能に構成される尾部対応区域10を有するとよい。
【0027】
各凹部7の周面7bは、メダカMの標準形状に対応して形成される。より具体的には、頭部対応区域8は、凹部周面7bの一部を構成し、かつメダカMの頭部m1の標準形状に対応して形成される周面(以下、必要に応じて、「頭部対応周面」という)8aを有する。胴体部対応区域9は、凹部周面7bの一部を構成し、かつメダカMの胴体部m2の標準形状に対応して形成される周面(以下、必要に応じて、「胴体部対応周面」という)9aを有する。尾対応区域10は、凹部周面7bの一部を構成し、かつメダカMの尾部m3の標準形状に対応して形成される周面(以下、必要に応じて、「尾部対応周面」という)10aを有する。なお、「標準形状」の詳細については後述する。
【0028】
各凹部7は、該凹部7内に収容されるメダカMを該メダカMの側面部m4をプレート頂部1に向けた姿勢(以下、「横向き姿勢」という)に定めるように形成されるとよい。この場合、頭部対応周面8aは、横向き姿勢にあるメダカMの頭部m1の標準形状に対応して形成され、胴体部対応周面9aは、横向き姿勢にあるメダカMの胴体部m2の標準形状に対応して形成され、かつ尾部対応周面10aは、横向き姿勢にあるメダカMの尾部m3に対応して形成される。
【0029】
複数の凹部7は互いに同じ方向を向くように配向される。複数のメダカMがそれぞれ複数の凹部7に収容された状態で、これら複数のメダカMの姿勢は、それぞれ複数の凹部7の周面7bに基づいて同一に定められるようになっている。
【0030】
本実施形態に係るマルチウェルプレートのウェル3においては、ウェル開口4の周縁部と、ウェル周壁5の横断面と、ウェル底壁6の周縁部とのそれぞれは略四角形状に形成される。この場合、凹部7が、略四角形状に形成されたウェル底壁6の対角線に沿って配置されるとよい。すなわち、凹部7は、メダカMの体長方向に沿った長手方向を水平方向のうち第1又は第2の方向に対して傾斜した斜め方向に向けるように配置されるとよい。各ウェル底壁6は、プレート頂部1寄りに位置する底壁ベース面11を有するとよい。この場合、凹部7は、底壁ベース面11からプレート底部2に向かって凹むように形成される。底壁ベース面11は略平坦に形成されるとよい。
【0031】
凹部7は、1匹のメダカMの全体を収容可能とするように形成されるとよい。凹部7の周面7bは、凹部7に収容されたメダカMとの間に隙間が生じるように形成されるとよい。この隙間の距離は、約5μm~約10μmであることが好ましい。凹部7はまた、メダカMの体長方向に対応する長手方向にて非対称であるとよい。凹部7はまた、水平方向のうち、凹部7の長手方向に略直交する方向にて非対称であるとよい。1つのマルチウェルプレートに含まれる複数のウェルのそれぞれに形成される凹部7の周面7bの形状は、すべて同一であってもよい。凹部7の周面7bは、できる限りウェル周壁5と接近すると好ましく、例えば、凹部7の長手方向における周面7bの端区域が、ウェル周壁5と略一致するように配置されるとよい。
【0032】
しかしながら、本発明のウェルの形状は、上記に限定されず、次のように形成することもできる。ウェル開口の周縁部とウェル周壁の横断面とウェル底壁の周縁部とのうち少なくとも1つを、略四角形状以外の形状に形成することもでき、例えば、ウェル開口の周縁部とウェル周壁の横断面とウェル底壁の周縁部とのうち少なくとも1つを、略円形状、略楕円形状、略四角形状以外の略多角形状等に形成することができる。凹部は、メダカの体長方向に沿った長手方向を水平方向のうち第1又は第2の方向に向けるように配置されてもよい。ウェル底壁の底壁ベース面は、略平坦形状以外の形状に形成することができる。例えば、底壁ベース面は、略湾曲形状、略屈曲形状、略円錐形状、略角錐形状等に形成することもできる。ウェル底壁は底壁ベース面を有さない構成とすることもできる。さらに、マルチウェルプレートの用途に応じて、1つのマルチウェルプレートにおける複数のウェルのそれぞれが凹部を有し、これら複数のウェルの凹部が、後述する成長段階の異なる標準形状に基づいて互いに異なる形状にそれぞれ形成されていてもよい。
【0033】
さらに、ウェル3の配置は次のようになっているとよい。図1及び図2に示すように、複数のウェル3は、水平方向にて複数の行及び複数の列に沿った行列の状態で配置される。図2に示すように、かかる行列の配向方向について、複数の行は、水平方向のうち、上記第1の方向に直交する第2の方向に沿って配置され、かつ複数の列は、水平方向のうち第1の方向に沿って配置されている。
【0034】
本実施形態においては、複数のウェル3が水平方向にて16個の行及び24個の列を有する行列状態で配置されて、各行には24個のウェル3が配置され、かつ各列には16個のウェル3が配置されている。マルチウェルプレートは384個のウェル3を有する。
【0035】
しかしながら、本発明のウェルの配置は、これに限定されず、次のようになっていてもよい。複数のウェルを水平方向にてn個の行及びm個の列を有する行列状態で配置することができ、各行にm個のウェルを配置することができ、かつ各列にn個のウェルを配置することができる。この場合、マルチウェルプレートは(n×m)個のウェルを有することとなる。なお、n及びmのそれぞれは2以上の整数、特に、3以上の整数であるとよい。例えば、行列状態で配置されるウェルの数は、6個、12個、24個、48個、96個、1536個等とすることもできる。具体的な一例として、マルチウェルプレートにおいて、水平方向にて8個の行及び12個の列を有する行列状態で96個のウェルを配置することができる。
【0036】
また、複数のウェルは、行列以外の状態で配置することもできる。例えば、複数の列のうち一部に沿って配置されるウェルの数と、複数の列のうち別の一部に沿って配置されるウェルの数とを異なるようにすることができる。ウェルに関する行列の配向方向については、複数の行の配向方向と複数の列の配向方向とが互いに略直交していれば、複数の行の配向方向を第2の方向以外の方向とし、かつ複数の列の配向方向を第1の方向以外の方向とすることもできる。
【0037】
[標準形状の詳細について]
図3を参照して、上述した標準形状の詳細について説明する。メダカMの標準形状は、メダカMに関する複数のサンプルの形状を予め測定した結果に基づいて算出されるメダカMの平均形状であるとよい。なお、メダカには遺伝子をほぼ均一とする近交系が多数存在し、各近交系の発生段階における胚の形状の個体差が小さいことが一般的に知られている。具体的には、メダカMの頭部m1、胴体部m2、及び尾部m3の標準形状が、頭部m1、胴体部m2、及び尾部m3に関する複数のサンプル、例えば、約3匹~約5匹のサンプルの形状を予め測定した結果に基づいて算出されるメダカMの頭部m1、胴体部m2、及び尾部m3の平均形状であるとよい。さらに、メダカM、頭部m1、胴体部m2、及び尾部m3の標準形状は、メダカMの発生段階に応じて定めることもできる。発生段階は、受精後所定の日数経過した状態の胚の段階、稚魚の段階等とすることができる。そのため、例えば、受精後5日目胚の標準形状、受精後6日目胚の標準形状等をそれぞれ算出し、受精後5日目胚の観察用のマルチウェルプレート、受精後6日目胚の観察用のマルチウェルプレート等を別個に作製することができる。
【0038】
例えば、このような平均形状は、定規等の寸法測定器を用いて測定した複数のサンプルの形状に関する寸法に基づいて、手計算又は自動計算によって算出することができる。例えば、平均形状は、レーザースキャナ、カメラ等の画像取得装置等を用いて取得した複数のサンプルに関する画像データを解析することによって算出することもできる。
【0039】
以上、本実施形態に係るマルチウェルプレートによれば、各ウェル3の凹部7に収容されたメダカMは、該メダカMの頭部m1及び胴体部m2がそれぞれその凹部7の頭部対応区域8及び胴体部対応区域9に対応するように配置され、かつこのような複数の凹部7が互いに同じ方向を向くように配向されている。そのため、マルチウェルプレート内において、複数のメダカMの姿勢を同一に維持する精度を高めることができる。さらには、マルチウェルプレートを用いたスクリーニングを実施する場合には、各ウェル3に薬剤液を投入することによって、該ウェル3内のメダカMが、それぞれ凹部7内にて該メダカMの頭部m1及び胴体部m2を頭部対応区域8及び胴体部対応区域9に配置されるように導かれることとなる。なお、このとき投入される薬剤液の量は、各ウェルの容量に対応すると共にメダカMを凹部7に導くことができるように定められた量であるとよい。例えば、かかる薬剤液の量は、最小液量が約40μL以下であるとよく、かつ好ましくは、20μL以下であるとよい。また、例えば、薬剤液の量は、約10μL以上であるとよい。しかしながら、薬剤液の量は、これらに限定されない。なお、既に薬剤処理したメダカをウェルに注入して用いる場合には、薬剤液に代えて、同程度の量である緩衝塩類溶液等をウェル3内に注入するとよい。よって、従来のような付勢手段を用いずに、ウェル3内でメダカMの姿勢を維持することができるので、マルチウェルプレートを用いたスクリーニングを実施する設備が複雑化又は大型化することを防ぐことができ、少ない薬剤量でのハイスループットスクリーニングを行うことができる。
【0040】
本実施形態に係るマルチウェルプレートによれば、メダカMの標準形状が、メダカMに関する複数のサンプルの形状を測定した結果に基づいて算出される平均形状となっている。そのため、かかる平均形状に基づいて形成された複数のウェル3の凹部7によって、複数のメダカMの個体差による影響を受けずに、複数のメダカMをそれぞれ同一の姿勢に維持する精度を高めることができる。
【0041】
本実施形態に係るマルチウェルプレートによれば、各ウェル3の凹部7が、メダカMの尾部m3の標準形状に対応して形成された周面10aを有する尾部対応区域10をさらに含んでいる。そのため、メダカMの頭部m1、胴体部m2、及び尾部m3の標準形状に対応して形成される複数の凹部7によって、複数のメダカMをそれぞれ同一の姿勢に維持する精度を高めることができる。
【0042】
本実施形態に係るマルチウェルプレートによれば、各ウェル3の凹部7は、該凹部7内に収容されるメダカMを、該メダカMの側面部m4をプレート頂部1に向けた姿勢に定めるように形成されている。そのため、複数のメダカMを、それぞれ、これらの側面部m4をプレート頂部1に向けた同一の姿勢に維持する精度を高めることができる。
【0043】
[第2実施形態]
第2実施形態に係るマルチウェルプレートについて説明する。本実施形態に係るマルチウェルプレートは、以下に述べる点を除いて、第1実施形態に係るマルチウェルプレートと同様に構成される。
【0044】
特に図示はしないが、本実施形態に係るマルチウェルプレートにおいては、各凹部は、該凹部内に収容されるメダカを、該メダカの背中部をプレート頂部に向けた姿勢(以下、「うつ伏せ姿勢」という)、又は該メダカの腹部をプレート頂部に向けた姿勢(以下、「仰向け姿勢」という)に定めるように形成されている。この場合において、頭部対応周面は、うつ伏せ姿勢又は仰向け姿勢にあるメダカの頭部の標準形状に対応して形成され、胴体部対応周面は、うつ伏せ姿勢又は仰向け姿勢にあるメダカの胴体部の標準形状に対応して形成され、かつ尾部対応周面は、うつ伏せ姿勢又は仰向け姿勢にあるメダカの尾部に対応して形成される。
【0045】
以上、本実施形態に係るマルチウェルプレートによれば、各ウェル3の凹部7が、該凹部7内に収容されるメダカMを、該メダカMの側面部m4をプレート頂部1に向けた姿勢に定めるように形成されている構成に基づく効果を除いて、第1実施形態に係るマルチウェルプレートと同様の効果を得ることができる。
【0046】
さらに、本実施形態に係るマルチウェルプレートによれば、各ウェルの凹部は、該凹部内に収容されるメダカを、該メダカの背中部又は腹部をプレート頂部に向けた姿勢に定めるように形成されているので、複数のメダカを、それぞれ、これらの背中部又は腹部をプレート頂部に向けた同一の姿勢に維持する精度を高めることができる。
【0047】
[マルチウェルプレートの使用方法]
ここで、第1及び第2実施形態のそれぞれに係るマルチウェルプレートの使用方法について簡単に説明しておく。マルチウェルプレートの使用方法は、マルチウェルプレートにモデル生物を注入する工程と、前記モデル生物の画像を取得する工程とを含む。第1及び第2実施形態のそれぞれに係るマルチウェルプレートによれば、その構造的特徴により、特段の操作をすることなくモデル生物が整列し、画像取得が容易となる。注入するモデル生物の成長段階(受精後の日齢)は特に限定されることなく、受精卵の段階で注入することも、孵化後の段階で注入することもできる。注入するモデル生物は、スクリーニング対象となる候補薬剤で既に処理したものであってよい。あるいは、マルチウェルプレートにモデル生物を注入する工程と同時にあるいは注入後に、各ウェルに化合物及び/または濃度の異なる候補薬剤を注入して、ウェル中で薬剤処理を行うこともできる。モデル生物、及び/または候補薬剤の注入は、自動分注装置を用いて実施することができるが、注入方法は特には限定されない。画像取得の時点におけるモデル生物の成長段階も特に限定されるものではないが、マルチウェルプレートの凹部7の形状を、所定の成長段階に適合するように設計した場合には、所定の成長段階において画像取得することが好ましい。より高い整列率を得られるためである。
【0048】
このような使用方法によれば、モデル生物の薬剤処理から画像取得までを、ひとつのマルチウェルプレートで実施することができ、かつモデル生物の整列のための操作を必要としない。そのため、ハイスループットスクリーニングが可能となる。なお、本発明はある実施形態においては、薬剤スクリーニング方法であって、モデル生物に候補薬剤を接触させる工程と、モデル生物を第1、第2実施形態に係るマルチウェルプレートに注入する工程と、前記モデル生物の画像を取得する工程とを含む。モデル生物に候補薬剤を接触させる工程は、モデル生物を前記マルチウェルプレートに注入する工程の前に行ってもよく、後に行ってもよく、同時に行ってもよい。
【0049】
ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その技術的思想に基づいて変形及び変更可能である。
【実施例
【0050】
実施例について説明する。本実施例においては、384個のウェル3を有する第1実施形態に係るマルチウェルプレートを作製した。かかるマルチウェルプレートは、概ね図2に示すものと同一とした。このマルチウェルプレートを用いて、メダカに対し、候補薬剤の表現型スクリーニングを実施した。受精後2日~3日経過した胚の段階にあるメダカを、1つのウェルに1匹ずつ投入し、各ウェルに約20μLの候補薬剤、又は候補薬剤含有液を注入して、薬剤処理を施した。その後、この薬剤処理時からさらに3日経過した胚の段階にあるメダカMの画像を取得した。
【0051】
具体的には、まず初めに、受精後2日~3日経過し、かつ成長段階が実質的に同一にある胚の段階のメダカ卵を、サンドペーパーによって擦り、その後、孵化酵素処理によって卵殻を取り除いた。次に、卵殻を取り除いたメダカ胚を緩衝塩類溶液によって2回~3回洗い、その後、マルチウェルプレートを、そのプレート頂部1及びプレート底部2をそれぞれ上方及び下方に向けた状態として、スポイトを用いて約10μL緩衝塩類溶液とともに、1つのウェルにかかるメダカ卵を1個ずつ投入した。さらに、組成の異なる384種の薬剤液を、それぞれ384個のウェル3内に1ウェルあたり約10μLずつ注入して、薬剤処理を施した。その後、この薬剤処理時からさらに3日経過した胚の段階にあるメダカMに対して、終濃度が約0.04%となるように麻酔薬(MS222)を加え、約5分~約10分後に、メダカMに麻酔がかかっていることを確認した。なお、このとき、各ウェル3内のメダカMは、そのウェル3の凹部7内の形状によって、概ね同一の姿勢となっていた。その一方で、凹部7の形状と異なった姿勢になっているメダカMが存在する場合、かかるメダカMに対して、直線の針をその略中間部分にて約45°~約60°に折り曲げるように形成された有針柄を用いて、他のメダカMと実質的に同一の姿勢になるように整えた。一度、姿勢を整えた各ウェル3内のメダカMは、凹部7内の形状に支えられて、これによって、麻酔が解けることによりメダカMが動かない限り、メダカMが実質的に同一の姿勢で維持された。
【0052】
さらに、イメージアナライザであるPerkinElmer社製Opera Phenixを用いて、マルチウェルプレート内に収容された384匹のメダカMの画像を取得した。その結果、384匹のメダカMの全てが16個の行及び24個の列を有する行列に配置された状態で互いに同一の姿勢に整列された画像を、約10分弱といった短時間で取得することができ、かつかかる画像を用いて良好なスクリーニングを実施することができた。特に、得られた画像は、384匹のメダカMを同一の姿勢で捉えており、所望の部分の拡大画像を得ることが可能である。したがって、例えば、特定の器官を蛍光タンパク質で可視化したトランスジェニックメダカを用いた薬剤スクリーニングにおいて、特定の器官のみの拡大画像を得ることも容易となる。
【符号の説明】
【0053】
1…プレート頂部、2…プレート底部、3…ウェル、4…ウェル開口、6…ウェル底壁
7…凹部、7b…凹部周面、8…頭部対応区域、8a…周面(頭部対応周面)、9…胴体部対応区域、9a…周面(胴体部対応周面)、10…尾部対応区域、10a…周面(尾部対応周面)、M…メダカ(モデル生物)、m1…頭部、m2…胴体部、m3…尾部
図1
図2
図3
図4