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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】分散剤および水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/52 20220101AFI20220908BHJP
   B01D 65/08 20060101ALI20220908BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20220908BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20220908BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C09K23/52
B01D65/08
B01D71/56
B01D61/02 500
C02F1/44 D
C02F1/44 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021117767
(22)【出願日】2021-07-16
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】川勝 孝博
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-53108(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0168980(US,A1)
【文献】国際公開第2013/160429(WO,A1)
【文献】特開2005-58934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/
B01D 65/08
B01D 71/56
C02F 1/44
C09K 23/52
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水を選択性透過膜で処理する前に、前記被処理水に添加される分散剤であって、
前記分散剤が、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上を含むポリマーを含有し、
前記ポリマーの重量平均分子量が1000超である、分散剤。
【請求項2】
前記ポリマーがホモポリマーである、請求項1に記載の分散剤。
【請求項3】
前記ポリマーの重量平均分子量が8000未満である、請求項1または2に記載の分散剤。
【請求項4】
前記ポリマーがポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩である、請求項1~3のいずれか1項に記載の分散剤。
【請求項5】
タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に、分散剤を添加する分散剤添加工程と、
前記分散剤添加工程後に、前記被処理水を選択性透過膜で処理する、選択性透過膜処理工程と、
を備え、
前記分散剤が、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含むポリマーを含有し、
前記ポリマーの重量平均分子量が1000超である、水処理方法。
【請求項6】
前記ポリマーがホモポリマーである、請求項5に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記ポリマーの重量平均分子量が8000未満である、請求項5または6に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記ポリマーがポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩である、請求項5~7のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項9】
前記選択性透過膜が逆浸透膜である、請求項5~8のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項10】
前記逆浸透膜がポリアミド膜である、請求項9に記載の水処理方法。
【請求項11】
前記被処理水に対する前記ポリマーの添加量が0.01~100mg/Lである、請求項5~10のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項12】
前記被処理水に対する前記ポリマーの添加量が0.1~10mg/Lである、請求項5~11のいずれか1項に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散剤および水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に水の供給が不足している。この水供給の不足に対して、精密ろ過(MF)、限外ろ過(UF)、逆浸透(RO)膜などの選択性透過膜システムを用いた海水、かん水の淡水化や排水回収が行われている。
【0003】
水処理用選択性透過膜として、低圧運転が可能で、脱塩性能に優れる芳香族ポリアミド系逆浸透膜が広く使われている。しかし、芳香族ポリアミド系逆浸透膜は、塩素に対する耐性が低い。そのため、酢酸セルロース系逆浸透膜のように、運転条件下で塩素と接触させることができないので、芳香族ポリアミド系逆浸透膜は、タンパク質やペプチドによる有機物汚染が酢酸セルロース系逆浸透膜と比較して起こりやすい。膜が有機物で汚染されると透過流束、差圧、阻止率などの性能が低下するという問題がある。
【0004】
性能が低下した膜の性能を回復する方法として、膜の洗浄がある。特許文献1には、膜が汚染し、透過流束などの性能が低下した際に、膜の性能を回復させるための洗浄剤として、スチレンスルホン酸及び/又はスチレンスルホン酸塩をモノマー成分として含むポリマーを含有する洗浄剤が開示されている。特許文献1のポリマー中のスルホン酸とベンゼン環とは、膜に付着したカチオン界面活性剤(汚染物)と親和性が高いので、カチオン界面活性剤に当該ポリマーが吸着しやすい。一方、カチオン界面活性剤に吸着したスルホン酸基以外の当該ポリマー中の他のスルホン酸基は、膜に対して荷電反発する。その結果、吸着したカチオン界面活性剤を膜から除去することができる。
【0005】
選択性透過膜システムを長時間安定的に運転するためには、膜の洗浄よりも膜の汚染そのものを抑制することが好ましい。特許文献2には、有機物を含んだ水を逆浸透膜で処理する際の透過流束の低下を抑制する薬剤として、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物及びリン化合物が開示されている。
【0006】
特許文献3には、膜の汚染を防止するために、アクリル酸とアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体などのスルホ基を有する重合体を含む分散剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-15694号公報
【文献】特開2020-110778号公報
【文献】特開2014-188455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、特許文献2で開示された薬剤および特許文献3に開示されたアクリル酸とアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体などのスルホ基を有する重合体よりも高い性能の分散剤が求められている。
【0009】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされた発明であり、タンパク質やペプチドによる選択性透過膜の汚染を抑制する分散剤、および水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定の重量平均分子量を有し、かつ、所定のモノマーを含むポリマーを含む分散剤が、タンパク質やペプチドによる選択性透過膜の汚染抑制に有効であることを見出した。
本発明は上記の知見に基づいて達成されたものであり、以下の手段を提案している。
(1)本発明の一態様に係る分散剤は、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水を選択性透過膜で処理する前に、前記被処理水に添加される分散剤であって、前記分散剤が、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上を含むポリマーを含有し、前記ポリマーの重量平均分子量が1000超である。
(2)上記(1)に記載の分散剤は、前記ポリマーがホモポリマーであってもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載の分散剤は、前記ポリマーの重量平均分子量が8000未満であってもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の分散剤は、前記ポリマーがポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩であってもよい。
(5)本発明の一態様に係る水処理方法は、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に、分散剤を添加する分散剤添加工程と、前記分散剤添加工程後に、前記被処理水を選択性透過膜で処理する、選択性透過膜処理工程と、を備え、前記分散剤が、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含むポリマーを含有し、前記ポリマーの重量平均分子量が1000超である。
(6)上記(5)に記載の水処理方法は、前記ポリマーがホモポリマーであってもよい。
(7)上記(5)または(6)に記載の水処理方法は、前記ポリマーの重量平均分子量が8000未満であってもよい。
(8)上記(5)~(7)のいずれか1つに記載の水処理方法は、前記ポリマーがポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩であってもよい。
(9)上記(5)~(8)のいずれか1項に記載の水処理方法は、前記選択性透過膜が逆浸透膜であってもよい。
(10)上記(9)に記載の水処理方法は、前記逆浸透膜がポリアミド膜であってもよい。
(11)上記(5)~(10)のいずれか1つに記載の水処理方法は、前記被処理水に対する前記ポリマーの添加量が0.01~100mg/Lであってもよい。
(12)上記(5)~(11)のいずれか1つに記載の水処理方法は、前記被処理水に対する前記ポリマーの添加量が0.1~10mg/Lであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記態様によれば、タンパク質やペプチドによる選択性透過膜の汚染を抑制する分散剤、および水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】試験装置の構成を示す模式図である。
図2図1の試験装置の密閉容器の構造を示す断面図である。
図3】比較例1-1、1-2、1-3および1-4と実施例1-1の透過流束の経時変化を示す図である。
図4】比較例2-1、2-2と実施例2-1、2-2、2-3、2-4、2-5の透過流束の経時変化を示す図である。
図5】比較例3-1、3-2と実施例3-1、3-2の透過流束の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の分散剤および水処理方法について説明する。
本開示の水処理方法は、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に、本開示の分散剤を添加する分散剤添加工程と、分散剤添加工程後に、選択性透過膜で前記被処理水を処理する、選択性透過膜処理工程と、を備える。以下、各要素について説明する。
【0014】
<分散剤添加工程>
分散剤添加工程では、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に分散剤を添加する。
【0015】
(分散剤)
本開示の水処理方法に用いられる分散剤は、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水を選択性透過膜で処理する前に、被処理水に添加される分散剤である。本開示の水処理方法に用いられる分散剤は、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含むポリマー(以下、スチレンスルホン酸系ポリマーと称する場合がある)を含有する。スチレンスルホン酸系ポリマーは、例えば、下記式(1)を構成単位として含むポリマーである。
【化1】
(式(1)中、Mはプロトン、アンモニウムイオン、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンを示す。)
【0016】
選択性透過膜の多くは負の荷電を有し、タンパク質やペプチドの正の荷電の部位が膜に吸着すると想定される。スチレンスルホン酸系ポリマーは負の荷電を有するポリマーであり、タンパク質やペプチドに吸着分散することで、選択性透過膜への吸着を抑制することができる。スチレンスルホン酸系ポリマーは、モノマーとして(ポリマーの構成単位として)、スチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含むので、タンパク質やペプチドに対し高い分散効果を有する。
【0017】
スチレンスルホン酸系ポリマーは、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含むポリマーであれば、特に限定されない。即ち、スチレンスルホン酸系ポリマーは、スチレンスルホン酸および/またはポリスチレンスルホン酸塩に由来する繰り返し単位を有するポリマーである。スチレンスルホン酸系ポリマーは、スチレンスルホン酸および/またはポリスチレンスルホン酸塩のホモポリマーであってもよく、スチレンスルホン酸またはスチレンスルホン酸塩とその他のモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0018】
スチレンスルホン酸塩としては、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スチレンスルホン酸カリウム塩等のスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩や、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0019】
スチレンスルホン酸系ポリマーが、スチレンスルホン酸またはスチレンスルホン酸塩と他のモノマーとのコポリマーである場合、他のモノマーとしては、スチレンスルホン酸またはスチレンスルホン酸塩と共重合が可能であり、タンパク質またはペプチドの分散効果を阻害しないものであれば、特に限定されない。他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、酢酸ビニル等が挙げられる。スチレンスルホン酸系ポリマーの重合に用いられる他のモノマーは1種又は2種以上であってもよい。
【0020】
タンパク質またはペプチドの分散には、スチレンスルホン酸またはスチレンスルホン酸塩に由来する繰り返し単位の含有量が多いことが好ましい。スチレンスルホン酸系ポリマーがスチレンスルホン酸および/またはポリスチレンスルホン酸塩と他のモノマーとのコポリマーである場合、スチレンスルホン酸系ポリマー中のスチレンスルホン酸および/またはポリスチレンスルホン酸塩に由来する繰り返し単位の含有量は50モル%以上が好ましい。さらに好ましくは、80モル%以上である。スチレンスルホン酸および/またはポリスチレンスルホン酸塩のホモポリマーであることが好ましい。なお、ここで、スチレンスルホン酸および/またはポリスチレンスルホン酸塩のホモポリマーには、ポリスチレンスルホン酸及びポリスチレンスルホン酸塩だけでなく、スチレンスルホン酸とスチレンスルホン酸塩のコポリマーを含むものとする。
【0021】
スチレンスルホン酸系ポリマーがホモポリマーの場合、スチレンスルホン酸系ポリマーとしては、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩、ポリスチレンスルホン酸カルシウム塩、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩などが挙げられる。特にスチレンスルホン酸系ポリマーとしては、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩が好ましい。また、スチレンスルホン酸系ポリマーは、1種または2種以上併用してもよい。
【0022】
本開示の分散剤に含まれるスチレンスルホン酸系ポリマーの重量平均分子量は1000超である。より好ましいポリマーの重量平均分子量は、2000以上である。さらに好ましいポリマーの重量平均分子量は、3000以上である。特に好ましいポリマーの重量平均分子量は4000以上である。ポリマーがモノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上含み、かつ、重量平均分子量が1000超であれば、荷電反発によって、タンパク質またはペプチドを被処理水中で分散させやすくなり、透過流束の低下を抑制することができる。
【0023】
本開示の分散剤に含まれるスチレンスルホン酸系ポリマーの重量平均分子量は8000未満であることが好ましい。より好ましいポリマーの重量平均分子量は、7000以下である。さらに好ましいポリマーの重量平均分子量は、6000以下である。ポリマーの重量平均分子量が8000未満であれば、タンパク質またはペプチドに対して、凝集する効果を低減できる。その結果、タンパク質またはペプチドをより被処理水中で分散させやすくなり、透過流束の低下を抑制することができる。なお、本開示において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィにより測定することができる。
【0024】
本開示の水処理方法に用いられる分散剤は、スチレンスルホン酸系ポリマーから構成されていてもよいし、用途に応じて、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、キレート剤、pH調整剤などがある。
【0025】
(被処理水)
被処理水は、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する。タンパク質およびペプチドは、選択性透過膜を汚染するものであれば、特に限定されない。例えば、ロイペプチン、リゾチーム、ポリリジン、ラクトアルブミンなどが挙げられる。
【0026】
被処理水のpHは5~8の範囲に調整することが好ましい。pHがこの範囲であれば、スチレンスルホン酸系ポリマーのタンパク質およびペプチドに対する分散効果がより向上する。pH調整剤を被処理水に添加することでpHを調整してもよい。
【0027】
(添加量)
被処理水へのスチレンスルホン酸系ポリマーの添加量は、被処理水に対して、0.01mg/L以上であることが好ましい。より好ましい添加量は、0.1mg/L以上である。さらに好ましい添加量は1mg/L以上である。特に好ましい添加量は、5mg/L以上である。添加量は、100mg/L以下が好ましい。より好ましい添加量は、50mg/L以下である。さらに好ましい添加量は、30mg/L以下である。特に好ましい添加量は10mg/L以下である。
【0028】
スチレンスルホン酸系ポリマーの添加のタイミングは、タンパク質およびペプチドの分散効果を損なわない範囲で適宜設定することができる。連続的に添加してもよいし、断続的に添加してもよい。ここで、被処理水の処理開始から処理終了までの処理中に行うことを「連続的」といい、又は処理期間中に2回以上の間隔を開けて行うことを「断続的」という。
【0029】
<選択性透過膜処理工程>
選択性透過膜処理工程において、分散剤添加工程後に、被処理水を選択性透過膜で処理する。
【0030】
(選択性透過膜)
選択性透過膜は、特に限定されない。選択性透過膜は、例えば、精密ろ過膜、限外ろ過膜、逆浸透膜である。特に選択性透過膜としては逆浸透膜が好ましい。
【0031】
逆浸透膜は、特に限定されない。逆浸透膜は、例えば、スパイラル状、中空糸状、平膜状等の形状で、スキン層が酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリイミド等の樹脂製のものを用いるものが挙げられる。逆浸透膜は、特に芳香族ポリアミドを用いたポリアミド膜が好ましい。
【0032】
(処理条件)
選択性透過膜処理工程において、被処理水を処理(通水)する条件は、処理系に応じて適宜設定すればよい。
【0033】
以上、本開示の分散剤および水処理方法について詳説した。その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、本開示の水処理方法における要素を周知の要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記の要素を適宜組み合わせてもよい。
【実施例
【0034】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0035】
以下の実施例及び比較例では、図1および図2に示す試験装置100を用いて、タンパク質およびペプチドに対する分散効果を調べた。図1は、試験装置100の構成を示す模式図である。図2は、図1の試験装置の密閉容器の構造を示す断面図である。
【0036】
試験装置100は、被処理水が通る配管11および配管13と、配管11および配管13と接続されるポンプ12と、配管13に設置される圧力計14と、配管13、配管16および配管17と接続される密閉容器1と、密閉容器1中の攪拌子5を回転させるスターラー15と、透過水が通る配管16と、濃縮水が通る配管17および19と、配管17および配管19と接続されるバルブ18とを備える。
【0037】
密閉容器1は、多孔質支持板2と、逆浸透膜3と、Oリング4と、攪拌子5と、上部ケース6と、下部ケース7と、を備える。また、密閉容器1は、多孔質支持板2および逆浸透膜3で分けられた上部ケース6側の空間である室8と、下部ケース7側の空間である室9とを備える。
【0038】
試験装置100において、被処理水は、配管11を通ってポンプ12に送られ、配管13よりポンプ12で、密閉容器1の室9に供給される。室9では、スターラー15によって、攪拌子5が回転し、被処理水が攪拌される。逆浸透膜2を透過した透過水は、室8を経て配管16より取り出される。濃縮水は、配管17から取り出される。密閉容器1内の圧力は、圧力計14とバルブ18により調整される。
【0039】
供試膜としては、日東電工社製 芳香族ポリアミド系逆浸透膜「ES20」を円形に切り取って用い、これを上記の試験装置100にセットした。透過流束1.0[m/d]、回収率80%で純水を通水して、運転圧力P0[MPa]を測定した。その後、後述する実施例、比較例の被処理水を通水した。2、5、24、48、72、96時間後の透過流束を測定し、1.0[m/d]を維持できるように圧力を調整した。調整後の圧力をP1[MPa]とすると、相対透過流束J1[m/(m・d)]は以下の式(A)で求めた。なお、通水実験は25℃で行った。
相対透過流束[-]=P0/P1・・・(A)
【0040】
(比較例1-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、ロイペプチン(ペプチド研究所)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤は添加しなかった。
【0041】
(比較例1-2)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、ロイペプチン(ペプチド研究所)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合ポリマー(重量平均分子量11,000、アキュゾール587、ダウケミカル)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。
【0042】
(比較例1-3)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、ロイペプチン(ペプチド研究所)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、アクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、t-ブチルアクリルアミドの共重合ポリマー(重量平均分子量5,000、アキュマー5000、ダウケミカル)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。
【0043】
(比較例1-4)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、ロイペプチン(ペプチド研究所)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、アミノトリメチレンホスホン酸(ベルクレン640、BWA)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。
【0044】
(実施例1-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、ロイペプチン(ペプチド研究所)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量4,600、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。
【0045】
(比較例2-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤は使用しなかった。
【0046】
(比較例2-2)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量~1,000、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。
【0047】
(実施例2-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤としてポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量4,600、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。
【0048】
(実施例2-2)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤として、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量8,000、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。
【0049】
(実施例2-3)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤としてポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量18,000、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。
【0050】
(実施例2-4)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤としてポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量70,000、Alfa Aesar)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。
【0051】
(実施例2-5)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、リゾチーム(ニワトリ卵白由来、富士フィルム和光純薬)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤としてポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量4,600、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は1mg/Lとした。
【0052】
(比較例3-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、ポリリジン(MP Biomedicals, LLC)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤は使用しなかった。
【0053】
(比較例3-2)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、ラクトアルブミン(シグマアルドリッチ)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤は使用しなかった。
【0054】
(実施例3-1)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、ポリリジン(MP Biomedicals, LLC)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤としてポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量4,600、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。
【0055】
(実施例3-2)
タンパク質およびペプチドを含有する被処理水(タンパク質、ペプチド水溶液)として、ラクトアルブミン(シグマアルドリッチ)の水溶液(濃度1mg/L)を用いた。分散剤は使用しなかった。分散剤としてポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(重量平均分子量4,600、Polysciences, Inc)を用い、被処理水に対する添加量は5mg/Lとした。
【0056】
図3は、比較例1-1、1-2、1-3および1-4と実施例1-1の透過流束の経時変化を示す図である。図3の縦軸は相対透過流束を示し、図3の横軸は、経過時間(h)を示す。実施例1-1(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩)の場合、96時間経過しても相対透過流束を0.90以上に保っていた。一方、他のスルホン基を有するポリマーを用いた比較例1-2、1-3、1-4は、96時間経過した後、相対透過流束は0.65以下となっていた。以上より、スチレンスルホン酸系ポリマーであるポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩は、ペプチドであるロイペプチンに対して優れた分散効果があることが分かった。
【0057】
図4は、比較例2-1、2-2と実施例2-1、2-2、2-3、2-4、2-5の透過流束の経時変化を示す図である。図4の縦軸は相対透過流束を示し、図4の横軸は、経過時間(h)を示す。実施例2-1~2-5(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩)の場合、96時間経過しても相対透過流束を0.85以上に保っていた。特に重量平均分子量が4600の実施例2-1は、高い効果が得られていた。一方、分散剤を添加しなかった比較例2-1および重量平均分子量が1000以下のポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩を用いた比較例2-2は、96時間経過した後、相対透過流束が0.70以下にまで低下していた。以上より、スチレンスルホン酸系ポリマーである重量平均分子量1000超であるポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩は、リゾチーム対して、高い分散効果があることが分かった。
【0058】
図5は、比較例3-1、3-2と実施例3-1、3-2の透過流束の経時変化を示す図である。図5の縦軸は相対透過流束を示し、図5の横軸は、経過時間(h)を示す。重量平均分子量が4600のポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩を用いた実施例3-1および3-2は、96時間経過しても相対透過流束を0.85以上に保っていた。一方、分散剤を添加しなかった比較例3-1および3-2は、96時間経過後、相対透過流束が0.75以下にまで低下していた。以上より、ポリリジン、ラクトアルブミンに対してもスチレンスルホン酸系ポリマーである重量平均分子量1000超のポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩は高い分散効果を有することが分かった。ラクトアルブミンの等電点は4.2~4.5であり、中性付近では負の荷電をトータルとして有するが、負荷電のポリスチレンスルホン酸ナトリウムの効果があることから、吸着時には正の荷電基が作用していることが推察される。
【0059】
以上の結果より、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水に対し、スチレンスルホン酸系ポリマーを含有する分散剤を添加することで、タンパク質やペプチドによる選択性透過膜の汚染を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0060】
1 密閉容器、 2 多孔質支持板、3 逆浸透膜、4 Oリング、5 攪拌子、6 上部ケース、7 下部ケース、8、9 室、11、13、16、17、19 配管、12 ポンプ、14 圧力計、15 スターラー、18 バルブ、100 試験装置
【要約】
【課題】タンパク質やペプチドによる選択性透過膜の汚染を抑制する分散剤、および水処理方法を提供する。
【解決手段】本開示の分散剤は、タンパク質およびペプチドを少なくとも1種以上含有する被処理水を選択性透過膜で処理する前に、前記被処理水に添加される分散剤であって、分散剤が、モノマーとしてスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸塩を少なくとも1種以上を含むポリマーを含有し、ポリマーの重量平均分子量が1000超である。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5