(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】固液分布検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/12 20060101AFI20220909BHJP
G01N 29/036 20060101ALI20220909BHJP
B01D 9/04 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
G01N29/12
G01N29/036
B01D9/04
(21)【出願番号】P 2017216703
(22)【出願日】2017-11-09
【審査請求日】2020-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 信行
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-013697(JP,B1)
【文献】特開昭48-062491(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00119790(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0232803(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
B01D 9/04
G01B 17/00 - G01B 17/08
G01S 1/72 - G01S 1/82
G01S 3/80
G01F 23/00
A61B 8/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結濃縮装置の固液分離カラム内における内容物の固液分布を検出する固液分布検出装置であって、
前記固液分離カラムのカラム表面に向けて音波を放射し、前記カラム表面に共振波形を生じさせる音波放射手段と、
前記カラム表面の共振波形を測定する測定手段と、
該測定手段で測定した共振波形を解析する解析手段と、
該解析手段の解析結果に基づいて前記固液分離カラム内における内容物の固液分布状態を判定する判定手段と、
を備え
、
前記内容物は、氷結晶層と、濃縮液層と、前記氷結晶層と前記濃縮液層との境界層と、を含み、前記判定手段は、前記測定手段が測定した箇所が、前記氷結晶層、前記濃縮液層、及び前記境界層のいずれであるかを判定する、固液分布検出装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記固液分離カラム内で接する内容物の振動特性に応じて予め設定されている固有の共振波形と、前記解析手段により解析した音波の共振波形とを対比して、前記固液分離カラム内における内容物の固液分布状態を判定することを特徴とする請求項1に記載の固液分布検出装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記固有の共振波形として、前
記氷結晶層に固有の共振波形と、前
記濃縮液層に固有の共振波形と、前
記境界層に固有の共振波形を有することを特徴とする請求項2に記載の固液分布検出装置。
【請求項4】
前記音波放射手段と前記測定手段を前記固液分離カラムの上下方向に移動させる移動手段を備えていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固液分布検出装置。
【請求項5】
前記音波放射手段は、前記固液分離カラムの上下方向に所定幅で連続する面状の音波を放射する構成を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固液分布検出装置。
【請求項6】
前記音波放射手段は、前記固液分離カラムの上下方向に所定間隔を空けて複数の音波を放射する構成を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固液分布検出装置。
【請求項7】
前記音波放射手段は、一つまたは複数の音源を有することを特徴とする請求項5または6に記載の固液分布検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結濃縮装置の固液分離カラム内における内容物の固液分布を検出する固液分布検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を濃縮する方法の一つとして凍結濃縮方法が知られている。凍結濃縮方法では、固液分離カラムに濃縮処理すべき被処理流体(内容物)を収容して冷却する。冷却によって被処理流体中に氷結晶が生成され、被処理流体は氷結晶が生成されたことによって濃縮される。この氷結晶と、濃縮された被処理流体とを固液分離カラムで分離している。
【0003】
本発明の発明者もこのような凍結濃縮方法、凍結濃縮装置を利用した濃縮製品の製造方法を提案している(特許文献1、2)。
【0004】
凍結濃縮装置において固液分離カラム内では、氷結晶はカラムの上方に、氷結晶が生成されたことによって濃縮された被処理流体はカラムの下方に移動する。これは、固液分離カラム内における被処理流体の流れや比重の違いによって生じるものと思われる。
【0005】
一般に、氷結晶が集まって充満した部分をアイスベッド層と呼ぶ。凍結濃縮装置の安定した運転を行うには、固液分離カラム内のアイスベッド層の下端の高さを適正に管理することが要求される。
【0006】
アイスベッド層とは、比重差や固液分離カラム内における被処理流体の流れによって固液分離カラム内の上部へと上昇した氷結晶が充満圧縮されてシャーベット様を呈した範囲をいう。
【0007】
アイスベッド層の下方には氷結晶の充満のない濃縮された被処理流体の層があり、アイスベッド下端が濃縮された被処理流体の層の上端と接している。アイスベッドの下端高さの管理幅は基準位置から概ね±10cm程度とされている。
【0008】
例えば、生乳を凍結濃縮方法によって濃縮する場合、固液分離カラム内におけるアイスベッドの下端高さの管理幅が基準位置から±10cm程度の範囲を逸脱すると、アイスベッドが崩壊して乳固形分が分離水側に漏れ出して濃縮操作ができなくなることがある。アイスベッドの一部に上下を貫通する孔が空いてしまい、この孔を介してアイスベッドの下側の濃縮乳がアイスベッドの上側に流れ出してしまい、濃縮操作ができなくなるのである。
【0009】
凍結濃縮装置を安定して運転するには、固液分離カラム内のアイスベッド下端高さを適正に管理する必要がある。
【0010】
固液分離カラム内におけるアイスベッドの下端付近は氷結晶と、氷結晶が生成されたことによって濃縮された被処理流体とが入り混じったシャーベット状になっている。
【0011】
このため、アイスベッド下端は人の目では非常に見難く、目視で監視しているのでは測定精度に限界があり、凍結濃縮装置の運転自動化のネックとなっている。アイスベッド下端は非常に見分けにくく、測定誤差や人による測定値のばらつきが大きいなど、測定精度が悪い。このため、アイスベッド下端高さの制御は作業者の手動操作で行われており、凍結濃縮装置は未だ運転自動化が図れていない。
【0012】
アイスベッド下端高さの自動測定は世界でも実施例がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】WO2015/030161
【文献】WO2015/030162
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、凍結濃縮方法に使用される凍結濃縮装置において、固液分離カラム内における固液分布を検出する装置を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[1]
凍結濃縮装置の固液分離カラム内における内容物の固液分布を検出する固液分布検出装置であって、
前記固液分離カラムのカラム表面に向けて音波を放射する音波放射手段と、
前記カラム表面の共振波形を測定する測定手段と、
該測定手段で測定した共振波形を解析する解析手段と、
該解析手段の解析結果に基づいて前記固液分離カラム内における内容物の固液分布状態を判定する判定手段と、
を備えている固液分布検出装置。
【0016】
[2]
前記判定手段は、前記固液分離カラム内で接する内容物の振動特性に応じて予め設定されている固有の共振波形と、前記解析手段により解析した音波の共振波形とを対比して、前記固液分離カラム内における内容物の固液分布状態を判定することを特徴とする[1]の固液分布検出装置。
【0017】
[3]
前記判定手段は、前記固有の共振波形として、前記内容物の氷結晶層に固有の共振波形と、前記内容物の濃縮液層に固有の共振波形と、前記氷結晶層と前記濃縮液層の境界層に固有の共振波形を有することを特徴とする[2]の固液分布検出装置。
【0018】
[4]
前記音波放射手段と前記測定手段を前記固液分離カラムの上下方向に移動させる移動手段を備えていることを特徴とする[1]から[3]のいずれかの固液分布検出装置。
【0019】
[5]
前記音波放射手段は、前記固液分離カラムの上下方向に所定幅で連続する面状の音波を放射する構成を有することを特徴とする[1]から[3]のいずれかの固液分布検出装置。
【0020】
[6]
前記音波放射手段は、前記固液分離カラムの上下方向に所定間隔を空けて複数の音波を放射する構成を有することを特徴とする[1]から[3]のいずれかの固液分布検出装置。
【0021】
[7]
前記音波放射手段は、一つまたは複数の音源を有することを特徴とする[5]または[6]の固液分布検出装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、凍結濃縮方法に使用される凍結濃縮装置において、氷結晶と、氷結晶が生成されたことによって濃縮された被処理流体とを分離する固液分離カラム内における固液分布を検出する装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る固液分布検出装置の概略構成を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の発明者は、凍結濃縮装置の固液分離カラム内における内容物の固液分布を、音響解析技術を応用して検出、判定することを検討し、音響解析技術を用いた固液分布の測定が可能であることを見出して本発明を完成させた。本発明の発明者は、凍結濃縮装置の固液分離カラムに音波を放射した場合に、カラム表面の共振がカラム内部で接する内容物の振動特性に応じて異なることに着目し、カラム表面の共振波形を測定し、測定した共振波形について所定の音響解析処理を行うことで、その解析結果に基づいて固液分離カラム内における固液分布状態を判定することが可能であることを見出した。
これまでは、測定器の検出感度に難があって音波放射時のカラム表面の共振を精度よく測定することができず、音波により固液分布を検出する方式は実用的ではないと考えられていた。
【0025】
本発明の固液分布検出装置によれば、凍結濃縮方法に使用される凍結濃縮装置の固液分離カラム内の氷結晶や被処理流体に直接触れることなく、固液分離カラムの外側から非接触で固液分離カラム内の固液分布状態を判定し、アイスベッド下端高さを適切、迅速に検出することができる。なお、本発明の対象は、凍結濃縮装置の固液分離カラム内のアイスベッド下端高さの測定に限らない。本発明は、カラム内における粒度分布の測定にも有効である。
【0026】
本発明に係わる固液分布検出装置は、音波放射手段と、測定手段と、解析手段と、判定手段とを備えている。音波放射手段は、固液分離カラムの外側からカラム表面に非接触で音波を放射する。音波放射手段は、固液分離カラムの外側に配置される一つまたは複数の音源を有する。音源から放射される音波の周波数と振幅は、固液分離カラムの材質や厚さ、カラム内の内容物に含まれる粒子の組成や密度、粒径などによって適宜選択される。音源は、固液分離カラムの上下方向に所定幅で連続する面状の音波を放射する構成でもよく、また、固液分離カラムの上下方向に所定間隔を空けて複数の音波を放射する構成でもよい。
【0027】
測定手段は、固液分離カラムの外側からカラム表面に非接触でカラム表面の共振波形を測定する。測定手段は、カラム表面の共振を測定するのに最適な受信方式の測定器が選択される。測定器は、静電容量式、渦電流式、レーザードップラー式などの非接触型振動測定器が用いられる。この非接触型振動測定器の高感度化によって、カラム表面の微細な共振状態を精度よく測定することが可能となった。そして、音波検出方式が固液分離カラム内の固液分布検出に有効であることが確認された。音源と測定器は、一つのユニットにまとめて設けてもよく、また、2つに分けて設けてもよい。また、音源と測定器は、それぞれが固液分離カラムの上下方向に所定間隔をおいて配置されるように複数設けてもよく、また、一つのユニットを移動手段によって固液分離カラムの上下方向に沿って移動させる構成としてもよい。
【0028】
解析手段は、測定手段で測定した共振波形を解析する。解析手段は、固液分離カラム内で接する内容物に応じた共振波が固液分離カラムの上下方向のどの位置から来たかを解析する。また、計測した波形から凍結濃縮装置の運転に伴う固液分離カラムの振動ノイズを除外して、音波放射手段による共振波のみを分離抽出する。
【0029】
判定手段は、解析手段の解析結果に基づいて固液分離カラム内における内容物の固液分布状態を判定する。カラム表面の共振は、固液分離カラム内で接する内容物の振動特性によって変化する。固液分離カラム内で氷結晶と接している箇所では氷結晶に固有の共振波形となり、固液分離カラム内で濃縮流体と接している箇所では濃縮流体に固有の共振波形となる。例えば、予めカラム内部で接する内容物が氷結晶の場合と、濃縮流体の場合と、両者の境界の場合のそれぞれ固有の共振波形のパターンを把握しておき、測定した共振波形を解析してその特長を抽出し、各パターンと対比することによって固液分離カラム内の測定位置における内容物が氷結晶と濃縮流体とこれらの境界のいずれの状態であるかを判定できる。したがって、固液分離カラム内の内容物に直接触れることなく、非接触で測定箇所における内容物の固液分布状態を判定することができる。
【0030】
本発明に適用される固液分離カラムは、可視光が透過して内部を視認できるアクリル樹脂などの透明体であってもよく、また、外側から内部が視認できない金属製であってもよい。本発明の固液分布検出装置によれば、外側から内部が視認できないステンレスなどの金属製や塩化ビニルなどの樹脂製の不透明なカラムであっても、カラム内の内容物である氷結晶や濃縮流体に直接触れることなく、カラムの外側から非接触で内部の氷結晶の分布状態を判定することができる。
通常の透明カラムで汎用されるアクリル樹脂と比較して、ステンレスなどの金属製の不透明カラムは、耐熱性に優れ、高温殺菌が可能であるというメリットを有している。金属製の不透明カラムは、高温で加熱殺菌ができるため、微生物学的管理が容易である。また、ステンレスなどの金属製の不透明カラムは、樹脂などと比較して耐久性にも優れている。
【0031】
<実施例>
図1は、本発明の一実施例に係る固液分布検出装置の概略構成を説明する図である。
凍結濃縮装置の固液分離カラム10は、円筒形状を有しており、軸が上下方向に延びるように配置されている。固液分離カラム10の内容物は、氷結晶層と、濃縮乳層と、これらの間の境界層とに分かれており、上から下に向かって順番に並んでいる。固液分離カラム10は、氷結晶と氷結晶が生成されたことによって濃縮された濃縮乳とを分離している。固液分離カラム10には、外部から内部が視認できない不透明な金属製のものが用いられているが、可視光が外部から内部に透過し、内部が視認可能な部分を有するものを用いてもよい。
【0032】
固液分布検出装置20は、音源21と、測定器22と、固液分離カラム10に近接して設置されて音源21と測定器22を一つのユニットとして一体に上下方向に移動させる昇降装置23と、測定器22で測定した共振波形を解析する解析装置24を有している。
【0033】
固液分布検出装置20は、一定時間毎に昇降装置を作動させ、音源21からカラム表面に音波を放射し、照射した際のカラム表面の共振波形を測定器22で測定する。
【0034】
解析装置24は、測定器で測定した共振波形を解析し、その測定した共振波形のパターンと、予め登録している氷結晶層と濃縮乳層と境界層の各共振波形のパターンとを対比して、そのユニット高さ位置における固液分離カラム10内の内容物が、氷結晶層と、濃縮乳層と、境界層のいずれであるかを推定する。この解析装置24は、本発明の解析手段と判定手段に相当する。
【0035】
固液分布検出装置20によれば、固液分離カラム10内の内容物に直接触れることなく、非接触で測定箇所における内容物の固液分布状態を判定することができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0037】
10 固液分離カラム
20 固液分布検出装置
21 音源(音波放射手段)
22 測定器(測定手段)
23 昇降装置
24 解析装置