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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】成膜装置及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20220909BHJP
   C23C 14/54 20060101ALI20220909BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220909BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
C23C14/35 A
C23C14/54 F
H05B33/14 A
H05B33/10
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018143735
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020019991
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】菅原 洋紀
(72)【発明者】
【氏名】内田 敏治
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-505768(JP,A)
【文献】特開平08-053764(JP,A)
【文献】特開2012-201910(JP,A)
【文献】特表2002-512311(JP,A)
【文献】特開平10-152772(JP,A)
【文献】特開2016-011445(JP,A)
【文献】特開2014-066619(JP,A)
【文献】特公昭47-036151(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 51/50-51/56
H01L 27/32
H05B 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物およびターゲットが配置される、接地されたチャンバと、
前記チャンバ内の、前記ターゲットを介して前記成膜対象物と対向する位置に配置される磁場発生手段と、
前記ターゲットと前記磁場発生手段との間に配置されるカソード電極と、
前記カソード電極への電圧印加により、前記カソード電極に対して前記チャンバの壁部がアノードとなる電位を印加する第1の電位印加手段と、
を備え
前記磁場発生手段による前記ターゲットの表面での所定の磁場形成と、前記第1の電位印加手段による前記電位の形成と、により、前記ターゲットの前記アノード側の表面近傍にプラズマ領域が生成される成膜装置において
導電部材で構成され、前記ターゲットの長手方向に並んで配置され、ターゲット粒子の前記成膜対象物への飛翔範囲を画定する複数の第1の防着部材と、
導電部材で構成され、前記ターゲットの長手方向に並んで配置され、ターゲット粒子の前記成膜対象物への飛翔範囲を画定する複数の第2の防着部材であって、複数の前記第1の防着部材に対して、前記プラズマ領域を挟むように対向配置される複数の第2の防着部材と、
数の前記第1の防着部材のうちの少なくとも2つの前記第1の防着部材の電位が異なるように、複数の前記第1の防着部材の少なくとも1つに電位を印加するとともに、複数の前記第2の防着部材のうちの少なくとも2つの前記第2の防着部材の電位が異なるように、複数の前記第2の防着部材の少なくとも1つに電位を印加する第2の電位印加手段と、
を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
数の前記第1の防着部材は、前記ターゲットの長手方向に並んで配置された少なくとも3つの前記第1の防着部材を含み、
複数の前記第2の防着部材は、前記ターゲットの長手方向に並んで配置された少なくとも3つの前記第2の防着部材を含むことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記第2の電位印加手段は
数の前記第1の防着部材のうち、前記ターゲットの中央部に対応する前記第1の防着部材の電位が、前記ターゲットの両端に対応する前記第1の防着部材の電位よりも高くなるように、電位を印加し、
複数の前記第2の防着部材のうち、前記ターゲットの中央部に対応する前記第2の防着部材の電位が、前記ターゲットの両端に対応する前記第2の防着部材の電位よりも高くなるように、電位を印加することを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
成膜対象物およびターゲットが配置される、接地されたチャンバと、
前記チャンバ内の、前記ターゲットを介して前記成膜対象物と対向する位置に配置される磁場発生手段と、
前記ターゲットと前記磁場発生手段との間に配置されるカソード電極と、
前記カソード電極への電圧印加により、前記カソード電極に対して前記チャンバの壁部がアノードとなる電位を印加する第1の電位印加手段と、
を備え
前記磁場発生手段による前記ターゲットの表面での所定の磁場形成と、前記第1の電位印加手段による前記電位の形成と、により、前記ターゲットの前記アノード側の表面近傍にプラズマ領域が生成される成膜装置において
導電部材で構成され、前記ターゲットの表面の長手方向における一部の領域にのみ前記ターゲットと対向し、ターゲット粒子の前記成膜対象物への飛翔範囲を画定する第1の防着部材と、
導電部材で構成され、前記ターゲットの表面の長手方向における一部の領域にのみ前記ターゲットと対向するとともに、前記第1の防着部材に対して前記プラズマ領域を挟むように対向して配置され、ターゲット粒子の前記成膜対象物への飛翔範囲を画定する第2の防着部材と、
前記第1の防着部材に電位を印加するとともに、前記第2の防着部材に電位を印加する第2の電位印加手段と、
を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
前記一部の領域は、前記ターゲットの表面の長手方向の両端部から外れた部分であることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記一部の領域は、前記ターゲットの表面の長手方向の中央部であることを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記一部の領域は、前記ターゲットの表面の長手方向の両端部の少なくとも一方であることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記ターゲットの表面形状を計測する表面形状計測手段と、
前記表面形状計測手段によって計測された前記ターゲットの表面形状に応じて、前記第2の電位印加手段によって印加する電位を制御する制御部と、を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記表面形状計測手段は、前記ターゲットの前記成膜対象物と対向していない部分の表面形状を計測することを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記成膜対象物に成膜される膜の膜厚分布を測定する膜厚分布測定手段と、
前記膜厚分布測定手段によって測定された前記膜の膜厚分布に応じて、前記第2の電位印加手段によって印加する電位を制御する制御部と、
を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記カソード電極は、前記ターゲットを支持するケースであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項12】
前記ターゲットは円筒形であり、前記ターゲットを回転させる回転手段をさらに有することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項13】
前記磁場発生手段と前記ターゲットとを有し、前記磁場発生手段が、前記ターゲットの内部に配置されるカソードユニットを、前記チャンバ内に複数有することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項14】
成膜対象物を接地されたチャンバ内に配置し、前記成膜対象物と対向して配置されたターゲットと磁場発生手段との間に配置されるカソード電極への電圧印加により、前記カソード電極に対して前記チャンバの壁部がアノードとなる電位を印加するとともに、前記磁場発生手段により前記ターゲットの表面で所定の磁場を形成することで、前記ターゲットの前記アノード側の表面近傍にプラズマ領域を生成し、前記成膜対象物に対して前記ターゲットから飛翔するスパッタ粒子を堆積させて成膜するスパッタ成膜工程を含む電子デバイスの製造方法であって、
前記スパッタ成膜工程は、
導電部材で構成され、前記ターゲットの長手方向に並んで配置され、ターゲット粒子の前記成膜対象物への飛翔範囲を画定する複数の第1の防着部材のうちの少なくとも2つの前記第1の防着部材の電位が異なるように、複数の前記第1の防着部材の少なくとも1つに電位を印加するとともに、
導電部材で構成され、前記ターゲットの長手方向に並んで配置され、ターゲット粒子の前記成膜対象物への飛翔範囲を画定する複数の第2の防着部材であって、複数の前記第1の防着部材に対して、前記プラズマ領域を挟むように対向配置される複数の前記第2の防着部材のうちの少なくとも2つの前記第2の防着部材の電位が異なるように、複数の前記第2の防着部材の少なくとも1つに電位を印加することにより、
前記ターゲットの長手方向に垂直な断面における前記ターゲットの周囲の空間電位分布を前記ターゲットの中央部と端部とで異ならせた状態で成膜する工程であることを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板や基板上に形成された積層体などの成膜対象物に、金属や金属酸化物などの材料からなる薄膜を形成する方法として、スパッタ法が広く知られている。スパッタ法によって成膜を行うスパッタ装置は、真空チャンバ内において、成膜材料からなるターゲットと成膜対象物とを対向させて配置した構成を有している。ターゲットに負の電圧を印加するとターゲットの近傍にプラズマが発生して電離した不活性ガス元素によってターゲット表面がスパッタされ、放出されたスパッタ粒子が成膜対象物に堆積して成膜される。また、ターゲットの背面(円筒形のターゲットの場合にはターゲットの内側)にマグネットを配置し、発生する磁場によってカソード近傍の電子密度を高くしてスパッタする、マグネトロンスパッタ法もよく知られている。
【0003】
マグネトロンスパッタ法の成膜装置(スパッタリング装置あるいはスパッタ装置とも称する)において、円筒形状に成形したターゲット(ロータリーカソード)を回転させて成膜を行う装置構成が知られている(特許文献1)。この構成では、固定された磁石ユニットに対し、その外周を囲む円筒形のターゲットを回転させることで、ターゲット表面のうち、磁石ユニットによって形成される磁場によって高密度に形成されたプラズマに曝される箇所を変えつつスパッタを行うことができる。これにより、ターゲットの消費を周方向に均一化し、無駄の少ないターゲット材料の消費を可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-237913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マグネトロンスパッタ法においては、磁石ユニットによってターゲットの背面(内面)から前面(外面)に向かって漏洩する漏洩磁場が形成されるが、一般に、ターゲットの長手方向に延びたレーストラック状のコロイダル型の磁場トンネルが形成される。この磁場トンネルによって電子が拘束され、拘束された電子の軌道はターゲットの長手方向に延びたレーストラック状に形成される。このとき、レーストラックの曲率の大きな部分、すなわちターゲットの長手端部近傍では、レーストラックの曲率の小さな部分、すなわちターゲットの長手中央部に対応する部分よりもターゲットがより多くスパッタされる。そのため、ターゲットの長手端部近傍のほうが、ターゲットの長手中央部よりもターゲット材料の消費が局所的に大きくなり、ターゲット材料の消費分布がターゲットの長手方向に沿って均一ではなくなることがある。ターゲットの寿命は消耗の大きい箇所を基準に決められるため、長手中央部にはまだ十分にターゲット材料が残っているにもかかわらず、ターゲットの交換をしなければならなくなり、ターゲット材料の効率的な使用が困難となってしまう場合がある。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑み、ターゲットの利用率を向上させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての成膜装置は、成膜対象物およびターゲットが配置される、接地されたチャンバと、前記チャンバ内の、前記ターゲットを介して前記成膜対象物と対向する位置に配置される磁場発生手段と、前記ターゲットと前記磁場発生手段との間に配置されるカソード電極と、前記カソード電極への電圧印加により、前記カソード電極に対して前記チャンバの壁部がアノードとなる電位を印加する第1の電位印加手段と、を備え、前記磁場発生手段による前記ターゲットの表面での所定の磁場形成と、前記第1の電位印加手段による前記電位の形成と、により、前記ターゲットの前記アノード側の表面近傍にプラズマ領域が生成される成膜装置において導電部材で構成され、前記ターゲットの長手方向に並んで配置され、ターゲット粒子の前記成膜対象物への飛翔範囲を画定する複数の第1の防着部材と、導電部材で構成され、前記ターゲットの長手方向に並んで配置され、ターゲット粒子の前記成膜対象物への飛翔範囲を画定する複数の第2の防着部材であって、前記複数の第1の防着部材に対して、前記プラズマ領域を挟むように対向配置される複数の第2の防着部材と、複数の前記第1の防着部材のうちの少なくとも2つの前記第1の
防着部材の電位が異なるように、複数の前記第1の防着部材の少なくとも1つに電位を印加するとともに、複数の前記第2の防着部材のうちの少なくとも2つの前記第2の防着部材の電位が異なるように、複数の前記第2の防着部材の少なくとも1つに電位を印加する第2の電位印加手段と、有することを特徴とする。
また、本発明の別の一側面としての成膜装置は、成膜対象物およびターゲットが配置される、接地されたチャンバと、前記チャンバ内の、前記ターゲットを介して前記成膜対象物と対向する位置に配置される磁場発生手段と、前記ターゲットと前記磁場発生手段との間に配置されるカソード電極と、前記カソード電極への電圧印加により、前記カソード電極に対して前記チャンバの壁部がアノードとなる電位を印加する第1の電位印加手段と、を備え、前記磁場発生手段による前記ターゲットの表面での所定の磁場形成と、前記第1の電位印加手段による前記電位の形成と、により、前記ターゲットの前記アノード側の表面近傍にプラズマ領域が生成される成膜装置において導電部材で構成され、前記ターゲットの表面の長手方向における一部の領域にのみ前記ターゲットと対向し、ターゲット粒子の前記成膜対象物への飛翔範囲を画定する第1の防着部材と、導電部材で構成され、前記ターゲットの表面の長手方向における一部の領域にのみ前記ターゲットと対向するとともに、前記第1の防着部材に対して前記プラズマ領域を挟むように対向して配置され、ターゲット粒子の前記成膜対象物への飛翔範囲を画定する第2の防着部材と、前記第1の防着部材に電位を印加するとともに、前記第2の防着部材に電位を印加する第2の電位印加手段と、を有することを特徴とする。
また、本発明の別の一側面としての電子デバイスの製造方法は、成膜対象物を接地されたチャンバ内に配置し、前記成膜対象物と対向して配置されたターゲットと磁場発生手段との間に配置されるカソード電極への電圧印加により、前記カソード電極に対して前記チャンバの壁部がアノードとなる電位を印加するとともに、前記磁場発生手段により前記ターゲットの表面で所定の磁場を形成することで、前記ターゲットの前記アノード側の表面近傍にプラズマ領域を生成し、前記成膜対象物に対して前記ターゲットから飛翔するスパッタ粒子を堆積させて成膜するスパッタ成膜工程を含む電子デバイスの製造方法であって、前記スパッタ成膜工程は、導電部材で構成され、前記ターゲットの長手方向に並んで配置され、ターゲット粒子の前記成膜対象物への飛翔範囲を画定する複数の第1の防着部材のうちの少なくとも2つの前記第1の防着部材の電位が異なるように、複数の前記第1の防着部材の少なくとも1つに電位を印加するともに、導電部材で構成され、前記ターゲットの長手方向に並んで配置され、ターゲット粒子の前記成膜対象物への飛翔範囲を画定する複数の第2の防着部材であって、複数の前記第1の防着部材に対して、前記プラズマ領域を挟むように対向配置される複数の前記第2の防着部材のうちの少なくとも2つの前記第2の防着部材の電位が異なるように、複数の前記第2の防着部材の少なくとも1つに電位を印加することにより、前記ターゲットの長手方向に垂直な断面における前記ターゲットの周囲の空間電位分布を前記ターゲットの中央部と端部とで異ならせた状態で成膜する工程であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ターゲットの利用率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1に係る成膜装置の模式的断面図
図2】本発明の実施例1におけるターゲット駆動装置の構成を示す模式的断面図
図3】本発明の実施例1における防着部材の構成を示す模式図
図4】印加電位の大きさと成膜レート比との関係についての実験結果を示す図
図5】ターゲットの局所的消耗部の様子を示す模式的断面図
図6】ロータリーカソードにおける膜厚分布の経時変化の実験結果を示す図
図7】本発明の実施例1の変形例における防着部材の構成を示す模式図
図8】本発明の実施例2に係る成膜装置の模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態および実施例を説明する。ただし、以下の実施形態および実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成およびソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
(実施例1)
<成膜装置>
図1図6を参照して、本発明の実施例1に係る成膜装置について説明する。本実施例に係る成膜装置は、円筒形状のターゲット内側に磁石ユニットを配置した、マグネトロン方式のスパッタリング装置である。本実施例に係る成膜装置は、半導体デバイス、磁気デバイス、電子部品などの各種電子デバイスや、光学部品などの製造において基板(基板上に積層体が形成されているものも含む)上に薄膜を堆積形成するために用いられる。より具体的には、本実施例に係る成膜装置は、発光素子や光電変換素子、タッチパネルなどの電子デバイスの製造において好ましく用いられる。中でも、本実施例に係る成膜装置は、有機EL(ErectroLuminescence)素子などの有機発光素子や、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子の製造において特に好ましく適用可能である。なお、本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機C
MOSイメージセンサ)も含むものである。本実施例に係る成膜装置は、蒸着装置等を含む成膜システムの一部として用いることができる。
【0012】
本実施例に係る成膜装置は、例えば、有機EL素子の製造に用いられる。有機EL素子の場合、基板に陽極、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極の順番に成膜される構成が一般的である。本実施例に係る成膜装置は、有機膜上に、スパッタリングによって、電子注入層や、電極(陰極)に用いられる金属や金属酸化物等の積層被膜を成膜する際に好適に用いられる。また、有機膜上への成膜に限定されず、金属材料や酸化物材料等のスパッタで成膜可能な材料の組み合わせであれば、多様な面に積層成膜が可能である。
【0013】
図1は、本実施例に係る成膜装置の全体構成を示す模式的側断面図である。図2は、本実施例におけるターゲット駆動装置の構成を示す模式的断面図である。図3は、本実施例における防着部材の構成を示す模式図である。図4は、防着板に印加する電位の大きさと、スパッタ膜の成膜レート比(対防着板なし)との関係についての実験結果を示す図である。図5は、ターゲットの局所的消耗の様子を示す模式的断面図である。図6は、ロータリーカソードにおける膜厚分布の経時変化の実験結果を示す図である。
【0014】
図1に示すように、本実施例に係る成膜装置(スパッタ装置)1は、チャンバとしてのスパッタ室(成膜室)2と、スパッタ室2内に配置されたカソードユニット3および防着板4と、CPUやメモリ等からなる制御部5と、を備える。防着板4は、カソードユニット3を挟むように対向配置される。成膜処理対象物たる基板10は、不図示のドアバルブを介してスパッタ室2に搬入・搬出される。スパッタ室2には、クライオポンプやTMP(ターボモレキュラポンプ)等からなる排気装置23がそれぞれ接続されており、室内の圧力が調整可能に構成されている。スパッタ室2は、排気装置23により予め所定の圧力まで排気された状態にされて、基板10が搬入されてもよい。
【0015】
図2に示すように、基板10は、スパッタ室2内を、基板ホルダ20に載せられて(保持されて)、カソードユニット3に対して所定の対向距離で延びる搬送ガイド22に沿って、一定の速度で搬送される。基板ホルダ20には、基板10の被成膜面(被処理面)11を開放する開口部21が設けられており、該開口部21を介して、被成膜面11に成膜処理が施される。
【0016】
<スパッタリングチャンバおよびカソードユニット>
図1図2に示すように、スパッタ室2は、上方に基板10の搬送経路が設けられ、その下方にカソードユニット3が配置されている。スパッタ室2は、排気装置23により、より具体的には排気装置23に接続されたバルブの開度により、スパッタリングプロセスに好適な圧力(例えば、2×10Pa~2×10-5Pa)に調整されるとともに、不図示のガス供給源からガス導入配管24を介してスパッタリングガスが流量制御されて供給される。これにより、スパッタ室2の内部にスパッタリング雰囲気が形成される。スパッタリングガスとしては、例えばAr、Kr、Xe等の希ガスや成膜用の反応性ガスが用いられる。なお、ガス導入配管24の配置は一例であり、これに限定されるものではない。
【0017】
カソードユニット3は、ターゲット30と、磁石ユニット31と、ターゲット30を支持するカソード電極としてのケース32と、を備える。ターゲット30は、円筒形状に成形された成膜材料であり、基板10の搬送経路から所定の距離を空けた位置において、基板10の被成膜面11(搬送方向)に平行、かつ中心軸線(又は母線)が基板10の搬送方向と直交する方向となるように配置される。ターゲット30の内周面は、カソード電極としてのケース32の外面に密着している。磁石ユニット31は、ターゲット30(カソード電極としてのケース32)の内側の中空部に配置される。ケース32には電源25が
接続されており、スパッタ室2は接地されている。電源25による電圧印加において、ケース32が陰極(カソード)となり、スパッタ室2の壁部が陽極(アノード)となる。
【0018】
ターゲット30の材料としては、例えば、Cu、Al、Ti、Mo、Cr、Ag、Au、Niなどの金属ターゲットとその合金材が挙げられる。その他、Si、Ti、Cr、Al、Taなどの金属ターゲットに反応性ガス(O、N,HOなど)を添加したものや、SiO、Ta、Alなどの絶縁材料も挙げられる。ターゲット30は、これらの成膜材料が形成された層の内側に、バッキングチューブのような別の材料からなる層が形成されていてもよい。また、ターゲット30は円筒形のターゲットであるが、ここで言う「円筒形」は数学的に厳密な円筒形のみを意味するのではなく、母線が直線ではなく曲線であるものや、中心軸に垂直な断面が数学的に厳密な「円」ではないものも含む。すなわち、本発明におけるターゲット30は、中心軸を軸に回転可能な円筒状のものであればよい。
【0019】
磁石ユニット31は、ヨーク310と、第1磁石としての中心磁石311と、第2磁石としての外周磁石312と、を備える。ヨーク310は、基板10の搬送方向と直交する方向を長手方向とする縦長形状の磁性部材である。ヨーク310上面の中央部に上記長手方向に沿って延びる中心磁石311が設けられている。また、ヨーク310上面において中心磁石311の外周を囲むように環状に形成された外周磁石312が設けられている。中心磁石311と外周磁石312は、ターゲット30の内周面と対向する端部に、互いに逆極性となる極を有している。本実施例では、中心磁石311が第1極としてのS極を有し、外周磁石312が第2極としてのN極を有する構成としている。磁石ユニット31は、ターゲット30の内部に配置されることで、ターゲット30の長手方向に延びたトロイダル型の漏洩磁場を形成する。
【0020】
<スパッタリング>
上述したスパッタリング雰囲気の形成と、電源25からカソード電極たるケース32への電圧印加および磁場発生手段である磁石ユニット31によるターゲット30表面での所定の磁場形成と、によって、ターゲット30外周面近傍にプラズマ領域Pが生成される。プラズマ領域Pの生成により生成されるスパッタリングガスイオンとターゲット30との衝突により、ターゲット粒子がターゲット30の外周面から放出される。ターゲット30から放出されたターゲット粒子が基板10に向かって飛翔、堆積することで基板10の被成膜面11に成膜がされる。
【0021】
図2(a)に示すように、ターゲット30および磁石ユニット31は、エンドブロック33とサポートブロック34とにより円筒ターゲット30の中心軸線方向におけるそれぞれの両端部が支持されている。スパッタ室2に対して、磁石ユニット31は、固定支持されているのに対し、ターゲット30は、その中心軸線周りに回転可能に支持されている。成膜装置1は、磁石ユニット31を静止させたままターゲット30のみを回転させる駆動機構を備えている。
【0022】
図2(b)は、ターゲット30を回転させる駆動機構の構成を示す模式的断面図である。また、図2(b)において磁石ユニット31の構成は図示を省略している。図2(b)に示すように、成膜装置1は、ターゲット30を回転させる駆動力を得るための動力源としてモータ70を備える。また、カソード電極としてのケース32は、中心軸線方向の両端にそれぞれ軸部321、322を備える。一方の軸部321は、ベアリング72を介してサポートブロック34の軸孔に回転自在に支持されている。他方の軸部322は、ベアリング72を介してエンドブロック33の軸孔に回転自在に支持されているとともに、ベルト71を介してモータ70に連結されている。モータ70の回転駆動力がベルト71を介して他方の軸部322に伝達することにより、カソード電極たるケース32がエンドブ
ロック33とサポートブロック34に対して回転する。これにより、ケース32の外周に設けられた円筒ターゲット30がその中心軸線周りに回転する。ターゲット30を回転させる回転手段としての、モータ70、ベルト71を含むターゲット駆動装置7は、制御部5によって制御される。
【0023】
一方、磁石ユニット31は、長手方向の両端部にそれぞれ軸部131、132を備えている。一方の軸部131は、カソード電極たるケース32の一方の端部に対してベアリング72を介して回転自在に支持されている。他方の軸部132は、カソード電極たるケース32の他方の軸部322の軸孔内周面に対してベアリング72を介して回転自在に構成されるとともに、エンドブロック33に固定されている。すなわち、磁石ユニット31は、他方の軸部132がエンドブロック33に固定支持されていることにより、モータ70の駆動によって回転するケース32に対してベアリング72を介して相対回転し、スパッタ室2に対して静止状態を維持する。なお、ここで示した駆動機構は一例であり、従来周知の他の駆動機構を採用してよい。
【0024】
ターゲット30は、磁石ユニット31に対して相対回転するように構成されている。ターゲット30表面においてスパッタリングにより掘られる箇所は周方向において局所的に形成されるため、ターゲット30を回転させてターゲット表面の削れ方を周方向に均一化し、無駄の少ないターゲット材料の消費を可能とすることができる。本実施例では、ターゲット30は、10~30rpm(rotation per minute)で等速回転するように制御される。
【0025】
<本実施例の特徴>
図1図3に示すように、本実施例に係る成膜装置1は、本実施例の特徴的な構成として、ターゲット30の長手方向に分割された防着板4(4A、4B)を備えている。図1に示すように、防着板4A、4Bを、ターゲット30およびその上方に発生するプラズマ領域Pを挟むように、互いに平行に対向配置されている。すなわち、防着板4A、4Bは、ターゲット30外周面においてプラズマ領域Pの発生により形成されるエロージョン領域と対向する配置となっている。防着板4A、4Bの延びる方向はそれぞれ、ターゲット30の長手方向(母線方向)に平行かつ成膜処理位置にある基板10と直交する方向となっている。
【0026】
防着板4A、4Bは、ターゲット粒子の基板10への飛翔ルートを構造的に規制(飛翔範囲を画定)して基板10へのターゲット粒子の入射角等を制御する防着部材であるとともに、後述の電位印加制御によって長手方向に電位差を形成し、成膜レートを長手方向に沿って制御する導電部材である。
防着板4は、導電性を有する部材(例えば、SUS等の金属板)からなり、接続された電源26からの電位印加により所定の電位に制御可能に構成されている。かかる構成により、基板10に成膜される薄膜の成膜レートを、基板10の搬送方向と直交する方向(長手方向)に調整・制御可能、すなわち、ターゲット30のターゲット材料の消耗度合いを同方向に調整・制御可能である。
【0027】
図4は、防着板4を設置しなかった場合の成膜レート(基板10に成膜された薄膜の膜厚)を1.0とし、該成膜レートに対する、防着板4を設置しかつ所定の電位を印加した場合の成膜レートの比率を、印加電位の大きさを変化させてプロットしたものである。約+100Vの電位を防着板4に印加した場合には、印加バイアスを0Vあるいはマイナスバイアスを印加した場合よりも、成膜レート比が1.25倍に上昇、すなわち、基板10に成膜された薄膜の膜厚が1.25倍になったことが示されている。つまり、所定の大きさのプラスバイアスを防着板4に印加することで、スパッタリング時にターゲット30の表面からより多くのターゲット材料が掘られる(消費される)ことになる。
【0028】
図5は、背景技術の項において説明した、ターゲット長手端部においてターゲット材料の消耗が局所的に増大する様子を説明する模式的断面図である。磁石ユニット31の磁界とカソード電極(ケース)32への電位印加とによってターゲット30表面に生成される磁場により、ターゲット30表面近傍にプラズマ領域Pが生成される。プラズマ領域Pは、ターゲット30の長手方向に長いレーストラック状に形成される。かかる形状のプラズマ領域Pにおいて折り返すように延びる部分と対向する、ターゲット30の長手端部において、ターゲット材料の消耗が他の部分と比較して著しい部分301が発生することが経験的に知られている。
【0029】
図6は、横軸をターゲット長手位置(長手中央を0mm)とし、縦軸を基板に成膜された薄膜の膜厚として、ターゲット長手位置に対応した膜厚の継時的な変化を計測した実験結果を示すグラフである。使用初期(5時間)においては、膜厚は長手に略均一であるものの、以降は、長手中央部における膜厚が薄くなっているのに対し、長手端部における膜厚は増大している。すなわち、上述した局所的消耗部301の消耗度合いは、継時的に悪化することがわかる。
【0030】
図3に示すように、本実施例では、防着板4Aを、ターゲット30の長手方向に3分割して配置している。すなわち、防着板4Aを、ターゲット30の長手方向に直列に並べた3つの防着板4A1、4A2、4A3によって構成している。3つの防着板4A1、4A2、4A3には、それぞれ個別の電位印加手段としての電源26A1、26A2、26A3が接続され、印加電位の大きさをそれぞれ個別に可変に制御可能に構成している。図示および説明は省略するが、防着板4Bも同様に構成されている。かかる構成により、長手に3つに分割された防着板4に対応して、ターゲット30表面において長手に分割された3つの領域ごとに、成膜レートを調整・制御することが可能となる。すなわち、ターゲット材料の消耗度合いを、長手の分割領域ごとに個別に調整・制御することが可能となる。これにより、上述したような局所的な消耗を抑制して、ターゲット材料の消費効率を向上させることができる。
【0031】
本実施例における防着板4に対する印加電位の制御は、具体的には、ターゲット30の長手中央部と対向する防着板4A2に印加する電位を、ターゲット30の長手端部と対向する防着板4A1、4A3に印加する電位よりも高くする。これにより、印加電位に差をつけない場合よりも、ターゲット30の長手中央部に対応する基板10の成膜レートが高くなる。すなわち、ターゲット30の長手中央部におけるターゲット材料の消費量が、印加電位に差をつけない場合よりも増加する。これにより、ターゲット30の長手端部領域におけるターゲット材料だけが相対的に局所的に消費されることが抑制され、長手方向におけるターゲット材料の消耗のばらつきを低減することができる。したがって、ターゲット材料の消費効率を向上させることができる。
【0032】
本実施例に係る成膜装置1は、表面形状計測手段として、ターゲット30の厚みを測定するための変位計8(81,82,83)を備えている。変位計8は、ターゲット30外周面のうち基板10と対向する領域から外れた領域において、スパッタ室2の壁部に設けられた検知用窓28を介して、ターゲット30外周面に対向するように配置される。変位計8は、検知用窓28を介して、検知光をターゲット30の表面に照射し、その反射光を検知すること、でターゲット30の厚み情報を取得する光学式センサである。本実施例では、ターゲット30表面の上述した3つの領域それぞれにおけるターゲット30の厚みを測定すべく、3つの変位計81、82、83をターゲット30の長手方向に沿って配置している。これにより、ターゲット30の長手方向に沿った表面形状を測定することができる。
【0033】
また、本実施例に係る成膜装置1は、膜厚分布測定手段として、基板10に成膜された膜の膜厚を測定するための変位計9を備えている。変位計9は、変位計8と同様の光学式センサであり、スパッタ室2内におけるカソードユニット3と基板10との対向領域(プラズマ領域Pが生成される領域)から外れた位置において、基板10と対向するように配置される。この変位計9も、変位計8と同様、長手方向に複数配置されており、制御部5は、基板10に成膜された膜の膜厚の長手方向における分布を取得して、防着板4の印加電位の制御に利用することができる。例えば、取得された基板10の膜厚分布に基づいて、長手に分割された各防着板4の各印加電位を調整することで、ターゲット30の周囲の空間電位分布を長手方向で調整して成膜レートを長手方向で調整し、膜厚の長手方向の均一化を図るフィードバック制御が可能である。
【0034】
したがって、本実施例においては、ターゲット30の長手方向に沿った(i)ターゲット30の表面形状、または、(ii)基板10に成膜された膜の膜厚分布のいずれかに基づいて、長手方向に分割された防着板4の印加電位を制御することができる。本実施例によれば、基板10をスパッタ室2内で複数回往復搬送して成膜処理を複数回に分けて行うような場合において、ターゲット材料を効率よく消費しつつ精度の高い基板10への成膜を行うことが可能となる。
【0035】
防着板4の印加電位の制御は、他にも種々の方法を採用することができる。例えば、一対の防着板4A、4Bの両方の印加電位を制御する方法に限られるものではなく、例えば、それらのうち少なくとも一方の印加電位を制御し、他方の印加電位は固定して変化させないようにしてもよい。あるいは一方の防着板4Aにのみ電位を印加し、他方の防着板4Bには電位を印加しないようにしてもよい。また、長手方向中央に対応する防着板4の印加電位値を変化させる(高くする)ことにより、長手方向両端に対応する防着板4との間に電位差を設ける制御に限られない。長手方向両端に対応する防着板4の印加電位値を変化させる(低くする)ことで、長手方向中央に対応する防着板4との間に電位差を設ける制御でもよい。さらに、過去の制御情報、例えば、基板10に成膜された膜の膜厚分布の変化やターゲット30の表面形状の長手分布の変化、そのときの印加電位値などの情報を蓄積しておき、それらの情報に基づいて、印加電位値を設定するようにしてもよい。また、印加電位値は、成膜処理の間、一定の値で制御してもよいし、成膜処理の途中で可変に制御してもよい。
【0036】
<変形例>
図7(a)は、本実施例の変形例1における防着部材の構成を示す模式図である。図に示すように、長手中央部の防着板4A2だけが電源26A2に接続され電位印加制御が可能な構成となっている。長手両端部の防着板4A1、4A3は、スパッタ室2(チャンバ)と同電位(アース電位)としてよい。実施例1よりも電源の数を少なくしつつ、中央の防着板4A2を適切に制御することで、実施例1と同様の効果が期待できる。
【0037】
図7(b)は、本実施例の変形例2における防着部材の構成を示す模式図である。図に示すように、長手両端の防着板4A1、4A3がそれぞれ電源26A1、26A3に接続され、個別に電位印加制御が可能な構成となっている。長手中央の防着板4A2は、スパッタ室2(チャンバ)と同電位(アース電位)としてよい。電位印加制御によって、長手両端における成膜レートが長手中央の成膜レートよりも抑制されるような電位差を形成することで、ターゲット材料の消費度合いの長手分布における均一化を図ることができる。
【0038】
図7(c)は、本実施例の変形例3における防着部材の構成を示す模式図である。ターゲット30の長手中央と対向する防着板4A2のみを配置し、長手両端には防着板を配置しない構成としてもよい。すなわち、ターゲット30表面において、防着板の電位制御による成膜レート(ターゲット材料の消費度合い)の調整が必要な一部の領域にのみ、防着
板を配置する、というものである。
【0039】
(実施例2)
図8を参照して、本発明の実施例2に係る成膜装置1bについて説明する。なお、実施例2の構成において実施例1の構成と共通する構成は、実施例1と同じ符号を付して、再度の説明を省略する。実施例2においてここで特に説明しない事項は、実施例1と同様である。なお、図8では、実施例1と共通する構成の一部について図示を省略している。
【0040】
図8に示すように、実施例2に係る成膜装置1bは、ターゲット30bが、平板型のターゲット(プレーナーカソード)であり、基板10(の搬送経路)と平行な配置となるようにスパッタ室2の壁部に組み込まれて設置されている。磁石ユニット31は、ターゲット30bの基板10と対向する面とは反対側の面と対向するようにスパッタ室2の外部に設定されている。このようなプレーナーカソード型のスパッタ装置においても、実施例1と同様、ターゲット30bの局所的消耗が発生することがある。具体的には、板状ターゲット30bの長手方向(基板10搬送方向および基板10とターゲット30bの対向方向のそれぞれと直交する方向)の両端部において、他の部分と比較してターゲット材料の消耗が著しい局所的消耗部が発生する場合がある。
【0041】
実施例2に係る成膜装置1bは、実施例1と同様、それぞれターゲット30bの長手方向に分割された防着板4A、4Bと、これらに電位を印加する電源26A、26Bと、を備えている。実施例1と同様、防着板4A、4Bへの印加電位を適切に制御することで、ターゲットの局所的消耗の発生を抑制し、ターゲット材料の消費効率を向上させることができる。
【0042】
(その他)
本実施例では、防着板4の長手方向の分割数が3つであるが、4つ以上に分割した構成としてもよいし、分割された防着板4それぞれの長手方向の長さも、上記実施例等の構成に限定されず、種々の組み合わせを適宜採用することができる。
本実施例では、分割された防着板4のそれぞれの高さ(基板10と対向する上端部の位置)が、ターゲット粒子の飛翔ルートを構造的に長手方向に均一に規制するため、それぞれ同じ高さとなっているが、それぞれ異なる高さとしてもよい。例えば、分割された防着板4のうち、ターゲット30の長手中央部に対応する防着板4A2の高さを、ターゲット30の長手両端に対応する防着板4A1、4A3の高さよりも低くしてもよい。これにより、ターゲット30の長手中央部の成膜レートを増大させることができ、基板10に成膜される膜の膜厚の均一性を向上させることができる。
本実施例では、ケース32が中心軸線方向の両端にそれぞれ軸部321、322を備える構成としたが、これに限定はされない。軸部321、322をそれぞれ構成する部材と、ケース32と、が着脱可能に構成されていてもよい。この場合、ケース32はターゲット21のバッキングチューブであってもよい。
本実施例では、カソードユニット3を1つ備えた成膜装置を例示したが、カソードユニット3を2つ以上備えた成膜装置についても、本発明は適用可能である。
本実施例では、カソードユニット3に対して成膜対象物である基板10が上方に配置され、基板10の成膜面が重力方向下方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆるデポアップの装置構成となっているが、これに限定はされない。基板10がカソードユニット3に対して下方に配置され、基板10の成膜面が重力方向上方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆるデポダウンの装置構成でもよい。あるいは、基板10が垂直に立てられた状態、すなわち、基板10の成膜面が重力方向と平行な状態で成膜が行われる装置構成であってもよい。
本実施例では、スパッタ室2内において、カソードユニット3が固定され、基板10がカソードユニット3に対して相対移動する構成となっているが、かかる構成に限定されな
い。例えば、スパッタ室2内において固定(静止)された基板10に対してカソードユニット3が相対移動する構成でもよいし、両者がそれぞれ相対移動する構成でもよい。
【0043】
上記各実施例および各変形例は、可能な限りそれぞれの構成を互いに組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0044】
1…成膜装置、10…基板、11…被成膜面、2…スパッタ室、3…カソードユニット、30…ターゲット、31…磁石ユニット、32…ケース(カソード電極)、4A、4B…防着板、26A、26B…電源、5…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8