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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】金属張積層板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20220909BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20220909BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20220909BHJP
   B29C 63/02 20060101ALI20220909BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220909BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
B32B15/08 Z
B32B7/023
B32B7/022
B32B15/08 J
B29C63/02
H05K1/03 670A
H05K3/00 R
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019511164
(86)(22)【出願日】2018-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2018012222
(87)【国際公開番号】W WO2018186223
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2017076564
(32)【優先日】2017-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】中島 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 健
(72)【発明者】
【氏名】新谷 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 稔
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-032605(JP,A)
【文献】特開2017-039992(JP,A)
【文献】特開2016-107505(JP,A)
【文献】特開2000-343610(JP,A)
【文献】特開2002-019023(JP,A)
【文献】特開平04-226350(JP,A)
【文献】国際公開第2016/139950(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 63/00-63/48,
65/00-65/82
H05K 1/03, 3/00
C08J 5/00- 5/02,
5/12- 5/22
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属とが少なくとも積層された金属張積層板であって、金属との接合面とは反対側の熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面が、JIS Z 8741に基づく光沢度(20°)において55以上であり、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムに接している側の前記金属箔の十点表面粗さRzが0.1μm以上かつ2.0μm以下である、金属張積層板。
【請求項2】
請求項1に記載の金属張積層板であって、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点が290℃以上である、金属張積層板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属張積層板であって、さらに、前記熱可塑性液晶ポリマー表面に形成された金属蒸着層を備える、金属張積層板。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の金属張積層板であって、長手方向において、100m以上の長さを有する、金属張積層板。
【請求項5】
ロールツーロール方式により、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面に金属が接合された金属張積層板の製造方法であって、
熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属とを準備する工程と、
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと前記金属とを一対の加熱ロール間に導入し、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと前記金属とを前記一対の加熱ロール間で圧着させる工程と、
を少なくとも備え、
前記一対の加熱ロールは、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する側に金属弾性ロールを少なくとも備え、前記金属弾性ロールは、表面の十点平均粗さRzが0.2μm以下であり、前記金属弾性ロールが、ロール状の耐熱性ゴムと、その周囲に形成された金属表面層とで構成されている、金属張積層板の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の金属張積層板の製造方法であって、前記一対の加熱ロールが、金属ロールと金属弾性ロールで構成される、金属張積層板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の金属張積層板の製造方法であって、前記金属ロールが、内部加熱式の金属ロールである、金属張積層板の製造方法。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の金属張積層板の製造方法であって、前記耐熱性ゴムの硬度が70~100であり、金属表面層の厚みが100μm~1000μmである、金属張積層板の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の金属張積層板に、回路パターンが形成されている、回路基板。
【請求項10】
請求項に記載の回路基板であって、前記回路パターンが、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面または金属蒸着層表面に形成されている、回路基板。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、日本国で2017年4月7日に出願した特願2017-076564の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属層とを備える金属張積層板、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを備えた金属張積層板は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムに由来した優れた低吸湿性、耐熱性、耐薬品性および電気的性質を有するとともに、優れた寸法安定性も有しているため、フレキシブル配線板や半導体実装用の回路基板などの回路基板の材料として使用されている。
【0004】
特に、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの片面に金属シートが積層された片面金属張積層板は、金属シートが積層されていない側のフィルム面に回路形成加工を施したマイクロストリップ回路などの形態で用いられる需要が高まっている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2000-343610号公報)には、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属シートとをロール圧着してなる片面金属張積層板が記載されている。この文献では、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属シートとを積層して片面金属張積層板を作成する際に、一対の耐熱ゴムロールと加熱金属ロールを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-343610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で得られた片面金属張積層板は、耐熱ゴムロールを加熱ロールとして使用することにより、耐熱ゴムロールがフィルムの凹凸に追随して、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属シートとの均一な積層が可能であり、その結果、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属シートとの接着強度や寸法安定性を向上させることができる。
【0008】
その一方で、熱可塑性液晶ポリマーフィルムのような高耐熱性フィルムの積層では、積層温度が260℃以上となり、ゴムロールを用いる場合、長時間の積層によりゴムロールの耐熱性を超えて過熱されてしまう。過熱されたゴムロールを用いると、ゴム表面とフィルムとの剥離性が低下してしまうため、フィルム表面に剥離傷を発生させてしまう。
【0009】
さらに、特許文献1で得られた片面金属張積層板は、近年需要が高まっているマイクロストリップ回路などの緻密な回路パターンで求められている伝送特性には、必ずしも十分対応できていなかった。
【0010】
本発明の目的は、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の表面平滑性の改善された金属張積層板を提供することにある。
本発明の別の目的は、良好な伝送特性を達成できる金属張積層板を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、ロールツーロール方式で連続的に長時間製造した場合であっても、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の表面平滑性に優れる金属張積層板を効率よく製造する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、まず、(1)マイクロストリップやストリップ線路などの回路パターンを形成するに当たり、片面金属張積層板の、金属シートが積層されていない側のフィルム面に蒸着や導電性ペースト等による伝送線路が形成されることが有効であるが、伝送特性の更なる向上を図るには、片面金属張積層板のフィルム面の表面状態が、伝送特性などの回路の特性に重要な影響を及ぼすことを見出した。(2)その一方で、非金属光沢を有する熱可塑性液晶ポリマーフィルムでは、光沢度を指標として用いると、従来表面粗さによる評価では困難であった、伝送特性に影響を与えるフィルム全体の表面状態を的確に評価できることを把握した。そして、さらに鋭意検討した結果、(3)熱可塑性液晶ポリマーフィルムが接触するゴムロールに代えて、表面追随性を有するとともに特定の表面粗さを有する金属弾性ロール(金属表面を有する弾性ロール)を用いた場合、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面に金属弾性ロールの平滑性を転写することができ、それによって、特定の光沢度を液晶ポリマーフィルム表面に付与できること、および(4)このような光沢度を液晶ポリマーフィルム表面に有する金属張積層板には、伝送特性に優れる回路パターンを形成できることを見出し、さらに(5)このような金属弾性ロールを用いた場合、ロールツーロール方式で連続的に長時間製造しても、金属弾性ロールがもたらす表面耐久性、フィルムとの剥離性により熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面に剥離傷がつくことを有効に防止できることをも見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属シートとが少なくとも積層された金属張積層板であって、金属シートとの接合面とは反対側の熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面が、JIS Z 8741に基づく光沢度(20°)において55以上(好ましくは60以上、より好ましくは65以上)である、金属張積層板。
〔態様2〕
態様1に記載の金属張積層板であって、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点が290℃以上(好ましくは300℃~400℃、より好ましくは315℃~380℃)である、金属張積層板。
〔態様3〕
態様1または2に記載の金属張積層板であって、さらに、前記熱可塑性液晶ポリマー表面に形成された金属蒸着層を備える、金属張積層板。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の金属張積層板であって、長手方向において、100m以上の長さを有する、金属張積層板。
〔態様5〕
ロールツーロール方式により、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面に金属シートが接合された金属張積層板の製造方法であって、
熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属シートとを準備する工程と、
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと前記金属シートとを一対の加熱ロール間に導入し、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと前記金属シートとを前記一対の加熱ロール間で圧着させる工程と、
を少なくとも備え、
前記一対の加熱ロールは、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する側に金属弾性ロールを少なくとも備え、前記金属弾性ロールは、表面の十点平均粗さRzが0.2μm以下(例えば、0.01~0.2μm)である、金属張積層板の製造方法。
〔態様6〕
態様5に記載の金属張積層板の製造方法において、前記一対の加熱ロールが、金属ロールと金属弾性ロールで構成される、金属張積層板の製造方法。
〔態様7〕
態様6に記載の金属張積層板の製造方法において、前記金属ロールが、内部加熱式の金属ロールである、金属張積層板の製造方法。
〔態様8〕
態様5~7のいずれか一態様に記載の金属張積層板の製造方法において、前記金属弾性ロールが、ロール状の耐熱性ゴムと、その周囲に形成された金属表面層とで構成されている、金属張積層板の製造方法。
〔態様9〕
態様8に記載の金属張積層板の製造方法において、前記耐熱性ゴムの硬度が70~100であり、金属表面層の厚みが100~1000μmである、金属張積層板の製造方法。
〔態様10〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の金属張積層板に、回路パターンが形成されている、回路基板。
〔態様11〕
態様10に記載の回路基板であって、前記回路パターンが、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面または金属蒸着層表面に形成されている、回路基板。
【0013】
なお、請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の金属張積層板では、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面が極めて平滑で、特定の光沢度を有しているため、平滑な熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面を利用して、回路パターンのファインピッチ化に対応した緻密な回路パターンを形成することができる。そして、このような金属張積層板からは、優れた伝送特性を示す回路基板を製造することができる。
【0015】
また、本発明では、特定の金属弾性ロールを用いるため、ロールツーロール方式で、前記金属張積層板を、効率よく製造することができる。特に、長期間運転を行う場合であっても、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの剥離傷の発生を抑制するだけでなく、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面において、特定の光沢度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきでない。この発明の範囲は添付のクレームによって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一部分を示す。
図1】本発明の一実施形態に係る金属張積層板の製造工程で用いられる連続熱プレス装置を説明するための概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る金属張積層板の製造工程で用いられる蒸着装置を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[金属張積層板の製造方法]
本発明の一実施形態は、ロールツーロール方式により、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面に金属シートが接合された金属張積層板の製造方法である。前記製造方法は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属シートとを準備する工程と、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび前記金属シートを一対の加熱ロール間に導入し、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび前記金属シートを加熱ロール間で圧着させる工程と、を少なくとも含んでいる。
【0018】
例えば、図1に、本発明の一実施形態に係る金属張積層板の製造工程で用いられる連続熱プレス装置10を示す。連続熱プレス装置10は、金属弾性ロール8を少なくとも備える一対の加熱ロール7を有している。図1では、一対の加熱ロール7は、金属弾性ロール8と加熱金属ロール9とで構成され、巻出しロール22から熱可塑性液晶ポリマーフィルム2が、巻出しロール21から金属シート6が、それぞれ巻き出され、一対の加熱ロール7へ、導入される。
【0019】
加熱ロール7では、金属弾性ロール8側に熱可塑性液晶ポリマーフィルム2が、加熱金属ロール9側に金属シート6が接触した状態で、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2および金属シート6が所定の温度および圧力下において所定の積層速度により熱圧着され、片面金属張積層板19が作製される。得られた片面金属張積層板は、金属シート層、熱可塑性液晶ポリマーフィルム層の順で積層された積層構造を有している。
【0020】
図2には、本発明の一実施形態に係る金属張積層板の製造工程で用いられる蒸着装置を示す。図2に示すように、得られた片面金属張積層板19は、巻出しロール12から、金属シート6面が蒸着用加熱ロール13に接触するよう、ガイドロール15により導入される。言い換えると、液晶ポリマーフィルム2は、蒸着用加熱ロール13に接触せず、蒸着用加熱ロール13の外側を向いた状態で導入されている。次いで蒸着用加熱ロール13に導入された片面金属張積層板19では、蒸着用加熱ロール13の外側に存在する液晶ポリマーフィルム2に対して、金属蒸着層(銅蒸着層)が形成される。金属蒸着層は、蒸着用加熱ロール13の下方に配置された蒸着源を有する坩堝17に対し、電子銃18からの電子ビームを照射することによって蒸着源を加熱することにより行われる。金属蒸着層が形成された両面金属張積層板21は、ガイドロール16により導かれ、巻取りロール14により巻き取られる。得られた両面金属張積層板は、金属シート層、熱可塑性液晶ポリマーフィルム層、金属蒸着層の順で積層された積層構造を有している。
【0021】
(熱可塑性液晶ポリマーフィルム)
熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、溶融成形できる液晶性ポリマーから形成される。この熱可塑性液晶ポリマー(単に液晶ポリマーと称する場合がある)は、溶融成形できる液晶性ポリマーであれば特にその化学的構成については特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性液晶ポリエステル、又はこれにアミド結合が導入された熱可塑性液晶ポリエステルアミドなどを挙げることができる。
【0022】
また熱可塑性液晶ポリマーは、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
【0023】
本発明に用いられる熱可塑性液晶ポリマーの具体例としては、以下に例示する(1)から(4)に分類される化合物およびその誘導体から導かれる公知の熱可塑性液晶ポリエステルおよび熱可塑性液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。ただし、光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマーを形成するためには、種々の原料化合物の組合せには適当な範囲があることは言うまでもない。
【0024】
(1)芳香族または脂肪族ジオール(代表例は表1参照)
【表1】
【0025】
(2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は表2参照)
【表2】
【0026】
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸(代表例は表3参照)
【表3】
【0027】
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は表4参照)
【表4】
【0028】
これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの代表例として表5および6に示す構造単位を有する共重合体を挙げることができる。
【0029】
【表5】
【0030】
【表6】
【0031】
これらの共重合体のうち、p―ヒドロキシ安息香酸および/または6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を少なくとも繰り返し単位として含む重合体が好ましく、特に、(i)p-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸との繰り返し単位を含む重合体、(ii)p-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよびヒドロキノンからなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジオールと、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸との繰り返し単位を含む重合体が好ましい。
【0032】
例えば、(i)の重合体では、熱可塑性液晶ポリマーが、少なくともp-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸との繰り返し単位を含む場合、繰り返し単位(A)のp-ヒドロキシ安息香酸と、繰り返し単位(B)の6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸とのモル比(A)/(B)は、液晶ポリマー中、(A)/(B)=10/90~90/10程度であることが望ましく、より好ましくは、(A)/(B)=15/85~85/15(例えば50/50~85/15)程度であってもよく、さらに好ましくは、(A)/(B)=20/80~80/20(例えば60/40~80/20)程度であってもよい。
【0033】
また、(ii)の重合体の場合、p-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ヒドロキシカルボン酸(C)と、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよびヒドロキノンからなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジオール(D)と、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸(E)の、液晶ポリマーにおける各繰り返し単位のモル比は、芳香族ヒドロキシカルボン酸(C):前記芳香族ジオール(D):前記芳香族ジカルボン酸(E)=(30~80):(35~10):(35~10)程度であってもよく、より好ましくは、(C):(D):(E)=(35~75):(32.5~12.5):(32.5~12.5)程度であってもよく、さらに好ましくは、(C):(D):(E)=(40~70):(30~15):(30~15)程度であってもよい。
【0034】
また、芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位と芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位とのモル比は、(D)/(E)=95/100~100/95であることが好ましい。この範囲をはずれると、重合度が上がらず機械強度が低下する傾向がある。
【0035】
なお、本発明にいう溶融時における光学的異方性とは、例えば試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。
【0036】
熱可塑性液晶ポリマーとして好ましいものは、融点(以下、Mpと称す)が260~360℃の範囲のものであり、さらに好ましくはMpが270~350℃のものである。なお、Mpは示差走査熱量計((株)島津製作所DSC)により主吸熱ピークが現れる温度を測定することにより求められる。
【0037】
前記熱可塑性液晶ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲内で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマー、各種添加剤を添加してもよく、必要に応じて充填剤を添加してもよい。
【0038】
本発明に使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、熱可塑性液晶ポリマーを押出成形して得られる。熱可塑性液晶ポリマーの剛直な棒状分子の方向を制御できる限り、任意の押出成形法が適用できるが、周知のTダイ法、ラミネート体延伸法、インフレーション法などが工業的に有利である。特にインフレーション法やラミネート体延伸法では、フィルムの機械加工方向(以下、MD方向と略す)だけでなく、これと直交する方向(以下、TD方向と略す)にも応力が加えられ、MD方向とTD方向における誘電特性を制御したフィルムが得られる。
【0039】
また、必要に応じて、公知または慣用の熱処理を行い、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点および/または熱膨張係数を調整してもよい。熱処理条件は目的に応じて適宜設定でき、例えば、熱可塑性液晶ポリマーの融点(Mp)-10℃以上(例えば、Mp-10~Mp+30℃程度、好ましくはMp~Mp+20℃程度)で数時間加熱することにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点(Tm)を上昇させてもよい。
【0040】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点(Tm)は、フィルムの所望の耐熱性および加工性を得る目的において、200~400℃程度の範囲内で選択することができ、好ましくは250~360℃程度、より好ましくは260~340℃程度であってもよい。
【0041】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムは等方性が高い方が好ましく、等方性の指標である分子配向度SORは、0.8~1.4であり、好ましくは0.9~1.3、より好ましくは1.0~1.2、特に好ましくは1.0~1.1である。
【0042】
ここで、分子配向度SOR(Segment Orientation Ratio)とは、分子を構成するセグメントについての分子配向の度合いを与える指標をいい、従来のMOR(Molecular Orientation Ratio)とは異なり、物体の厚さを考慮した値である。
【0043】
本発明において使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、金属張積層板に用いる観点から、そのフィルムの膜厚は、10~200μmの範囲内にあることが好ましく、15~150μmの範囲内がより好ましい。
【0044】
(金属シート)
金属シート(以下、金属箔と称する場合もある。)は、金属張積層板において、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの片面に積層される。本発明の金属箔の材料としては、特に制限はなく、例えば、銅、金、銀、ニッケル、アルミニウム、及びステンレスなどを挙げることができ、導電性、取り扱い性、及びコスト等の観点から、銅箔やステンレス箔を使用することが好ましく、特に銅箔が好ましく用いられる。銅箔は、回路基板において用い得る銅箔であれば、特に限定されず、圧延銅箔、電解銅箔のいずれであってもよい。
【0045】
また、金属箔には、通常、銅箔に対して施される酸洗浄などの化学的処理が施されていてもよい。また、6~200μmの範囲が好ましく、9~40μmの範囲内がより好ましく、10~20μmの範囲内がさらに好ましい。これは、厚みが薄すぎる場合、金属張積層板の製造工程において、金属箔にシワ等の変形が生じる恐れがあり、厚みが厚すぎる場合、例えば、フレキシブル配線板として使用する場合に、折り曲げ性能が低下する場合があるためである。
【0046】
十点平均粗さRzは、例えば0.1μm以上であってもよい。特に2.0μm以下であると、良好な高周波特性を有し、密着強度に優れた金属張積層板1を得ることが可能になる。特に高周波特性と密着強度のバランスから、0.1~1.5μmの範囲内であることがより好ましく、0.3~1.1μmの範囲内であることがより好ましい。なお、十点平均粗さRzは、後述する実施例に記載された方法により測定された値を示す。
【0047】
(熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび金属シートの熱圧着工程)
本発明にかかる製造方法は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび金属シートの熱圧着工程を備え、前記熱圧着工程では、熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび金属シートを一対の加熱ロール間に導入し、両者を圧着させる工程を備えている。
【0048】
一対の加熱ロールは、少なくとも熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接する側に金属弾性ロールを備えている。前記金属弾性ロールは、金属表面を有する弾性ロールであり、前記金属表面では、十点平均粗さRzが0.2μm以下の極めて平滑な表面を有する。十点平均粗さRzの下限値は特に制限されないが、例えば、0.01μm以上であってもよい。
【0049】
このような極めて平滑性の高い表面を有する金属弾性ロールを、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと接触させながら一対の加熱ロール間で圧着させることによって、金属弾性ロールがもたらす表面追随性により圧着ムラを抑制しつつ、金属表面に形成された特定の表面粗さの形状を熱可塑性液晶ポリマーフィルムに反映させることが可能となる。その結果、金属張積層板の熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面に、特定の光沢度を与えることが可能となる。
【0050】
特に、金属弾性ロールでは、金属表面に起因して、ロール表面温度の放熱性を高めることができるため、長時間高温の圧着を続けた場合であっても、熱可塑性液晶ポリマーフィルムとの剥離性の悪化を抑制できるため、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面に剥離皺などの剥離キズが発生することを抑制することができる。
【0051】
金属弾性ロールは、表面が特定の平滑金属面を有する弾性ロールであれば特に限定されないが、転写性を良好にする観点から、好ましくは、ロール状の耐熱性ゴムと、その周囲に形成された金属表面層とで構成されている金属弾性ロール(以下、金属ゴムロールと称する)であってもよい。
【0052】
金属ゴムロールでは、熱圧着時の圧着性を向上する観点から、ゴムロール部分は、ゴム硬度70~100程度であってもよく、好ましくはゴム硬度75~90程度であってもよい。ここで、ゴム硬度は、JIS K 6301に基づくA型のスプリング式硬さ試験機による試験で得られた値である。硬度70以上のゴムは、シリコーン系ゴム、フッ素系ゴムなどの合成ゴムまたは天然ゴム中に、加硫剤、アルカリ性物質などの加硫促進剤を添加することによって得られる。
【0053】
金属ゴムロールの金属表面層の厚みは、例えば、100~1000μmであってもよく、好ましくは150~800μm、より好ましくは200~500μmであってもよい。金属表面層は、耐熱性および剛性に優れる金属(例えば、ニッケル、ステンレスなど)から形成され、厚みや材質に応じて、円筒状のメッキ層であってもよいし、金属板を加工して円筒状にしたものであってもよい。
【0054】
一対の加熱ロールにおいて、金属シートと接触する側のロールとしては、加熱手段に応じて適宜選択することができる。加熱処理手段としては、例えば、熱風式の加熱処理炉、熱風循環乾燥機、熱ロール、セラミックヒーター、IR(遠赤外線)による熱処理装置またこれらを併用した方法を使用することができる。
【0055】
例えば、加熱手段が外部からの加熱手段である場合、金属ロール、金属弾性ロール、耐熱性ゴムロールなどが挙げられる。また、加熱手段が内部加熱である場合は、内部加熱式の金属ロール(加熱金属ロール)が好ましく用いられる。
【0056】
一対の加熱ロールでの積層時、積層温度は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点(Tm)に応じて適宜設定することができ、例えば、融点(Tm)から40℃低い温度から融点から5℃低い温度、すなわちTm-40℃~Tm-5℃の範囲内であってもよく、好ましくはTm-35℃~Tm-7℃、より好ましくはTm-30℃~Tm-10℃の範囲内であってもよい。
【0057】
一対の加熱ロールでの積層時の圧力は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対して、良好な光沢を与える観点から、面圧として、例えば、15~70kg/cm程度、好ましくは20~60kg/cm程度、好ましくは25~55kg/cm程度であってもよい。
【0058】
また必要に応じて、加熱ロールにより接合された熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび金属シートの片面金属張積層板に対して、両者の層間接着性を向上させるために、さらに熱処理を行ってもよい。
【0059】
加熱処理手段としては、例えば、熱風式の加熱処理炉、熱風循環乾燥機、熱ロール、セラミックヒーター、IR(遠赤外線)による熱処理装置またこれらを併用した方法を使用することができる。また、金属シートの表面の酸化を防止する観点から、加熱した窒素ガスを使用して、酸素濃度が0.1%以下の不活性雰囲気で加熱処理を行うことが好ましい。また、熱処理は、緊張下または無緊張下のいずれで行ってもよいが、無緊張下で行うことが好ましい。
【0060】
熱処理温度をTa(℃)とした場合、例えば、熱処理温度Ta(℃)は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点Tm(℃)より高い温度であってもよく(Tm<Ta)、好ましくは、Tm(℃)に対して、1℃以上50℃未満高い温度(Tm+1≦Ta<Tm+50)、より好ましくは1℃以上30℃以下高い温度(Tm+1≦Ta≦Tm+30)、さらに好ましくは2℃以上20℃以下高い温度(Tm+2≦Ta≦Tm+20)であってもよい。
また、所定の熱処理温度Taでの熱処理時間(ロールツーロール方式の場合は、任意の1点が、熱処理温度Taを通過する時間)は、1秒~10分が好ましく、より好ましくは5秒~8分であり、さらに好ましくは8秒~5分であってもよく、特に好ましくは8秒~3分である。
【0061】
(金属蒸着工程)
本発明にかかる製造方法は、さらに、片面金属張積層板の熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面に対して、金属を蒸着させる金属蒸着工程を備えていてもよい。生産効率を高める観点から、金属蒸着工程についても、ロールツーロール方式で行われることが好ましい。その場合、蒸着用チャンバー内において、片面金属張積層板の金属シート面が蒸着用加熱ロールに接触するように、片面金属張積層板を蒸着用加熱ロールに導入し、蒸着用加熱ロールで、熱可塑性液晶ポリマーフィルム面に対して、金属蒸着層を形成する。
【0062】
金属蒸着は、例えば、真空蒸着により行われ、その加熱様式は、例えば、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波加熱などが挙げられる。例えば、抵抗加熱を利用する場合、真空蒸着装置における蒸着用チャンバー内に、蒸着源(例えば、銅、金、銀、ニッケル、アルミニウム、及びステンレスなどの金属、好ましくは銅、特に好ましくは純度が99%以上の銅)を入れた蒸着ボート(抵抗体であるタングステンやモリブテンにより形成されたもの)を載置する。次に、この蒸着用ボートに電流を流して加熱することにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面上に金属を蒸着し、片面金属張積層板における熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面に金属蒸着層を形成することができる。
【0063】
また、電子ビーム加熱を利用する場合、真空雰囲気中で、蒸着源を坩堝に入れ、電子ビームを坩堝に照射して蒸着源を加熱することにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面上に金属を蒸着し、片面金属張積層板における熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面に金属蒸着層を形成して、両面金属張積層板を得ることができる。
【0064】
また、金属蒸着層の形成では、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属蒸着層との密着力を向上させる観点から、蒸着用加熱ロールの表面温度が、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱変形温度(Tdef)以上であり、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点(Tm)以下であることが好ましい。例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点(Tm)に対して、蒸着用加熱ロールの表面温度は、Tm-65℃~Tm-0.5℃としてもよく、好ましくは、Tm-55℃~Tm-1℃、より好ましくはTm-45℃~Tm-1.5℃)であってもよい。熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱変形温度以上で蒸着を行うと、蒸着粒子(蒸着時に飛散する粒子)が、加熱して柔らかくなったフィルムの中まで潜り込むためか、極めて平滑な表面を有する熱可塑性液晶ポリマーフィルムに対しても、良好な密着性を有する金属蒸着層を形成することができる。
【0065】
また、本実施形態では、ロールツーロール方式における生産性を向上させるとの観点から、蒸着速度を1nm/s以上5nm/s以下に設定することが好ましい。
【0066】
また、本実施形態では、ロールツーロール方式における熱可塑性液晶ポリマーフィルム2の移動速度を0.1m/分~5m/分に設定することが好ましい。
【0067】
[金属張積層板]
本発明の一態様である金属張積層板は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属シートとが少なくとも積層された金属張積層板であって、金属シートとの接合面とは反対側の熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面が、JIS Z 8741に基づく光沢度(20°)において55以上である、金属張積層板である。ここで、金属張積層板が、前記光沢度を有する熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面に金属蒸着層を備えている場合、金属蒸着層をエッチング除去することにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の光沢度を確認してもよい。
【0068】
前記金属張積層板は、特定の製造方法に由来して、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面が極めて平滑であるため、その表面のJIS Z 8741-1997に基づく光沢度(20°)が、55以上となる。熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の光沢度(20°)の上限は特に限定されないが、通常200以下であってもよい。
【0069】
本発明者らは、非金属光沢を有する熱可塑性液晶ポリマーフィルムでは、ファインピッチなどの緻密な回路パターンを形成する場合、光沢度により、伝送特性に影響を与えるフィルムの表面状態を、的確に評価することができることを明らかにした。すなわち、熱可塑性液晶ポリマーフィルムでは、微細な範囲で測定される表面粗さではフィルム表面の全体的な平滑性を的確に評価することができない一方、巨視的な範囲で測定される光沢度では、フィルム表面の全体的な平滑性を評価することが可能であるため、光沢度を伝送特性の評価基準として利用できるものと推察される。
【0070】
熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の光沢度(20°)は、好ましくは60以上(例えば、60~120)、より好ましくは65以上(例えば、65~100)であってもよい。光沢度(20°)は、後述する実施例に記載された方法により測定された値を示す。
【0071】
また、熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の光沢度(20°)は、ロールツーロール方式での連続運転を行う場合であっても低下しにくいため、例えば、ロールツーロール方式で60分連続運転した場合の熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の光沢度保持率は、95%以上(例えば、95~105%)、好ましくは97%以上(例えば、95~103%)であってもよい。なお、60分連続運転した場合の光沢度保持率は、以下の式により算出することができる。
光沢度保持率=(60分連続運転後の光沢度/運転直後の光沢度)×100
ここで、「運転直後の光沢度」とは、ロールツーロール方式による運転を開始した直後に得られた積層体サンプルの熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の光沢度であり、「60分連続運転後の光沢度」は、60分間連続運転した後に得られた積層体サンプルの熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の光沢度である。
【0072】
特に、本発明の好ましい態様では、従来ロールツーロール方式での製造が困難である高融点の熱可塑性液晶ポリマーフィルムであっても、剥離傷を形成することなく片面金属張積層板とすることが可能である。そのような高融点フィルムの融点は、例えば、290℃以上(例えば300℃~400℃)であってもよく、好ましくは315℃~380℃であってもよい。
【0073】
このような熱可塑性液晶ポリマーフィルム表面の平滑性に由来して、熱可塑性液晶ポリマー表面に形成された金属蒸着層を備える両面金属張積層板は、優れた伝送特性を示すことが可能である。金属蒸着層の厚みは、例えば、0.05μm~1.0μm、より好ましくは0.1μm~0.8μmであってもよい。
【0074】
本発明にかかる金属張積層板は、ロールツーロール方式で形成されるため、バッチプレス方式で形成される金属張積層板と異なって、大きなサイズの金属張積層板を効率よく製造することができる。例えば、金属張積層板は、長手方向において、100m以上の長さを有していてもよい。
【0075】
[回路基板]
本発明の一態様である回路基板は、前記金属張積層板に、回路面が形成されている回路基板である。回路面は、公知のサブトラクティブ法、アディティブ法、セミアディティブ法などにより形成することができる。回路(金属層)の厚みは、例えば、10~14μmであってもよく、好ましくは11~13μmであってもよい。
回路面は、好ましくは熱可塑性液晶ポリマーフィルム面または金属蒸着層面に形成されていてもよい。または、金属蒸着層に対して、さらに金属メッキ層を形成し、前記金属メッキ面に回路面を形成してもよい。
【0076】
なお、回路基板は、必要に応じて、公知又は慣用に行われている各種製造方法により、スルーホールなどが形成されていてもよい。その場合、回路基板には、スルーホールメッキ層が形成されていてもよく、スルーホールメッキ層が形成された状態の回路(金属層)の厚みは、例えば、20~40μmであってもよく、好ましくは25~35μmであってもよい。
【0077】
本発明の回路基板は、伝送特性に特に優れるため、特に高周波回路基板として好適に用いることができる。高周波回路には、単に高周波信号のみを伝送する回路からなるものだけでなく、高周波信号を低周波信号に変換して、生成された低周波信号を外部へ出力する伝送路や、高周波対応部品の駆動のために供給される電源を供給するための伝送路等、高周波信号ではない信号を伝送する伝送路も同一平面上に併設された回路も含まれる。
【実施例
【0078】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0079】
[光沢度]
JIS Z 8741に準じて、サンプルを平坦な机の上に置き、入射角20°でのサンプルの光沢度(グロス度)を光沢度計(スガ機械株式会社製「GC-1」)で測定した。なお、光沢度計の較正は、付属の較正板を用いて行った。
【0080】
[伝送特性]
誘電率測定は周波数10GHzで共振摂動法により実施した。マイクロ波ネットワークアナライザ(Agilent社製)に40~67GHz対応プローブを接続し、40GHzおよび60GHzで伝送損失を測定した。
【0081】
[表面粗さ]
表面粗さは、JIS B0601:1994に準じ、接触式表面粗さ計(ミツトヨ(株)製、型式:SJ-201)を用いて十点平均粗さ(Rz)を測定した。より詳細には、十点平均粗さ(Rz)は、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さを抜き取り、最高から5番目までの山頂(凸の頂点)の標高の平均値と、最深から5番目までの谷底(凹の底点)の標高の平均値とのをμmで表わした。
【0082】
[融点]
融点は、示差走査熱量計を用いて、フィルムの熱挙動を観察して得た。即ち、作製したフィルムを、20℃/分の速度で昇温して、完全に溶融させた後、溶融物を50℃/分の速度で50℃まで急冷し、再び20℃/分の速度で昇温した時に現れる吸熱ピークの位置を熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点とした。
【0083】
[熱変形温度]
熱変形温度は、熱機械分析装置を用いて、フィルムの熱挙動を観察して得た。即ち、作製したフィルムを、幅5mm長さ20mmの試験片として、チャック間距離15mmにて、引張荷重0.01N、昇温速度10℃/分の条件で試験片の長さ方向の熱膨張量を測定し、その変曲点を熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱変形温度とした。
【0084】
[実施例1]
(1)熱可塑性液晶ポリマーフィルムの作製
6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位(27モル%)、p-ヒドロキシ安息香酸単位(73モル%)からなるサーモトロピック液晶ポリエステルを、単軸押出機を用いて、280~300℃で加熱混練した後、直径40mm、スリット間隔0.6mmのインフレーションダイより押出し、厚さ50μmの熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得た。この熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点Tmは282℃、熱変形温度Tdefは230℃であった。
【0085】
(2)片面金属張積層板の作製
図1を参照しつつ、片面金属張積層板の作製を説明する。前記(1)で作製した熱可塑性液晶ポリマーフィルムと、12μm厚みの圧延銅箔(JX日鉱日石金属(株)製、商品名:BHYX-HA-V2、Rz:0.9μm)とを、それぞれ、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2および金属シート6として用意した。一方、連続熱ロールプレス装置10に、積層用加熱ロール7として、金属弾性ロール8と、加熱金属ロール9とをそれぞれ取り付け、金属弾性ロール8側に熱可塑性液晶ポリマーフィルム2が、加熱金属ロール9側に金属シート6が接触するように導入し、熱可塑性液晶ポリマーフィルム2および金属シート6を熱圧着し、片面金属張積層板19を作製した。
【0086】
ここで、金属弾性ロール8は、硬度90度の耐熱性ゴムロールの外周に、厚み380μmの金属バンドを取り付け、金属弾性ロールの金属表面は、十点表面粗さRz:0.2μm以下を有している。また、加熱金属ロール9の表面温度は270℃であり、耐熱ゴムロールと加熱金属ロールの間で、熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび銅箔に加えられる圧力は、面圧換算で40kg/cmである。また、積層速度は3m/分である。この条件下で、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを耐熱ゴムロールに沿って移動させた後、銅箔を熱可塑性液晶ポリマーフィルムに合わせて接合させて、積層板を得た。
【0087】
さらに、この積層板において、熱可塑性液晶ポリマーフィルムおよび金属シートの層間接着性を向上するために、続いて、ニップロールにより、ライン上で巻き取りテンションを解除し、作製した積層板を、IRによる加熱処理を行った。
【0088】
なお、熱処理炉内で150℃から徐々に昇温し、熱処理装置における熱処理時間(即ち、積層板の任意の一点が、所定の熱処理温度を通過する時間)は、任意の一点が、Tm+5℃(Tm:フィルム融点)を10秒間で通過するように設定して、熱処理を行った。
【0089】
運転開始60分後に製造された片面金属張積層板について、熱可塑性液晶ポリマーフィルム面の表面状態を目視で観察するとともに、熱可塑性液晶ポリマーフィルム面の光沢度を測定した。結果を表7に示す。
【0090】
(3)銅蒸着層の形成
図2を参照しつつ、銅蒸着層の形成を説明する。真空蒸着装置(ロック技研工業(株)製、商品名:RVC-W-300)を使用したロールツーロール方式を採用して、上記片面金属張積層板19の液晶ポリマーフィルム2面に銅蒸着層(厚み:0.3μm)を形成した。
【0091】
より具体的には、片面金属張積層板19をローダー側にセットし、開放窓を完全に閉めた後、真空引きを行い、それと同時に蒸着用加熱ロール13の温度を100℃とした。
【0092】
次に、銅インゴットを取り出し、銅の総重量が450gとなるように銅ペレットを加えた。なお、銅ペレットに対して、前処理として過硫酸ソーダ水による洗浄を行い、その後、蒸留水で洗浄したものを用いた。
【0093】
次に、蒸着用チャンバー内の真空度が7×10-3Paとなったことを確認した後、蒸着用加熱ロール13の設定温度を(Tm-15)℃(Tm:フィルム融点)とした。その後、電子銃18のEMI(エミッション電流値)の出力を上昇させ、坩堝17中の銅を溶融させた。なお、この際、蒸着速度が2.7nm/sとなるようにEMI出力値を調整した。
【0094】
次に、蒸着用加熱ロール13の温度が前記設定温度(Tm-15)℃に到達し、蒸着用チャンバー内の真空度が5×10-3Pa以下になったことを確認した後、片面金属張積層板19の搬送速度を0.5m/分に設定した状態で、銅の蒸着処理を行い、0.3μmの厚みを有する銅蒸着層を形成し、両面金属張積層板21を得た。
【0095】
(4)マイクロストリップ回路の形成
作製した両面金属張積層板21を用いて、裏面に導体箔が形成された板状誘電体基板の表面に線状の導体箔が形成された構造を有し、電磁波を伝達する50Ωの伝送路(マイクロストリップライン)を作製した。
具体的には、両面金属張積層板21の金属蒸着面をシード層とし、その上にレジストのパターンを形成した後、電解銅めっきを行って回路を成長させた。その後、レジストを除去し、回路間のシード層をエッチングすることにより、厚みを12μmの回路パターンを形成した。さらに、スルーホールめっきを行うことにより、回路の厚みが30μmであるマイクロストリップ回路基板を作製し、その伝送特性を測定した。得られた結果を表7に示す。
【0096】
[実施例2]
(1)熱可塑性液晶ポリマーフィルムの作製
6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位(20モル%)、p-ヒドロキシ安息香酸単位(80モル%)からなるサーモトロピック液晶ポリエステルを、単軸押出機を用いて、350℃で加熱混練した後、直径40mm、スリット間隔0.6mmのインフレーションダイより押出し、厚さ50μmの熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得た。この熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点Tmは325℃、熱変形温度Tdefは310℃であった。
(2)熱可塑性液晶ポリマーフィルムとして、前記(1)で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを使用し、加熱金属ロール5の表面温度を300℃とする以外は、実施例1と同様にして片面金属張積層板を作製した。その後、蒸着用加熱ロール13の設定温度を(Tm-15)℃(Tm:フィルム融点)とする以外は、実施例1と同様にして両面金属張積層板、マイクロストリップ回路基板を得た。各種物性を表7に示す。
【0097】
[実施例3および4]
実施例1および2の片面金属張積層板について、それぞれ、運転開始60分後に得られた片面金属張積層板に代えて、運転開始直後に製造された片面金属張積層板を用いる以外は、それぞれ実施例1および2と同様にして、両面金属張積層板、マイクロストリップ回路基板を得た。各種物性を表7に示す。
【0098】
[比較例1]
金属弾性ロールに代えて、耐熱性ゴムロール[樹脂被覆金属ロール(由利ロール機械(株)製、商品名:スーパーテンペックス、樹脂厚み:1.7cm)、直径:40cm]を使用する以外は、実施例1と同様にして片面金属張積層板を作製した。その後、実施例1と同様にして両面金属張積層板、マイクロストリップ回路基板を得た。各種物性を表7に示す。
【0099】
[比較例2]
金属弾性ロールに代えて、耐熱性ゴムロール[樹脂被覆金属ロール(由利ロール機械(株)製、商品名:スーパーテンペックス、樹脂厚み:1.7cm)、直径:40cm]を使用する以外は、実施例2と同様にして片面金属張積層板を作製した。その後、実施例2と同様にして両面金属張積層板、マイクロストリップ回路基板を得た。各種物性を表7に示す。
【0100】
[比較例3および4]
比較例1および2の片面金属張積層板について、それぞれ、運転開始60分後に得られた片面金属張積層板に代えて、運転開始直後に製造された片面金属張積層板を用いる以外は、それぞれ比較例1および2と同様にして、両面金属張積層板、マイクロストリップ回路基板を得た。各種物性を表7に示す。
【0101】
【表7】
【0102】
表7に示すように、実施例1および2は、いずれも60分連続運転した場合であっても、液晶ポリマーフィルム表面には皺が発生せず、良好な表面状態を保持している。さらに、運転直後の金属張積層板を示す実施例3および4と比較しても、実施例1および2の光沢度は遜色なく、長時間の連続運転を行った後であっても、液晶ポリマーフィルム表面は、光沢度が高い水準である。60分連続運転後の光沢度保持率は、実施例1および2において、98.5%および101%である。
さらに、このような高い光沢度を反映し、実施例1~4で得られたマイクロストリップ回路基板の伝送損失は、40GHzおよび60GHzの双方において、比較例と比べて小さい値を示している。
【0103】
一方、比較例1および2では、連続運転に伴って、耐熱ゴムロールに対する液晶ポリマーフィルムの付着が激しくなり、60分後には液晶ポリマーフィルム面に、顕著な剥離皺の発生が確認された。また、皺の発生しない部分については、光沢度が低く、表面の光沢感は実施例1および2と比較して劣っている。
【0104】
また、比較例3および4から明らかなように、耐熱ゴムロールを用いた場合、ゴムロール表面に形成されている微細な筋が転写されるため、運転開始直後であっても、液晶ポリマーフィルム面の光沢度は実施例1および2に比べると劣っている。そして、比較例3および4は、いずれも実施例と比べて伝送損失が劣っている。また、60分連続運転後の光沢度保持率は、比較例1および2において、77%および92%であり、実施例1および2と比べると、光沢度が著しく低下している。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、液晶ポリマーフィルム表面が従来にない程の光沢面を有する金属張積層板を得ることができる。そして、このような金属張積層板から、優れた伝送特性を有する回路基板を提供することができる。
【0106】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0107】
2 熱可塑性液晶ポリマーフィルム
6 金属シート
7 一対の加熱ロール
8 金属弾性ロール
9 加熱金属ロール
10 連続熱プレス装置
13 蒸着用加熱ロール
19 片面金属張積層板
21 両面金属張積層板
図1
図2