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特許7138682GaAsウエハ及びGaAsインゴットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】GaAsウエハ及びGaAsインゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/42 20060101AFI20220909BHJP
   C30B 11/08 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
C30B29/42
C30B11/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020168750
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060960
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】砂地 直也
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 隆一
(72)【発明者】
【氏名】赤石 晃
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0187768(US,A1)
【文献】特表2011-527280(JP,A)
【文献】特開2013-126943(JP,A)
【文献】SEKI Yasuo,ほか,Journal of Applied Physics,vol. 49, No.2,1978年02月,p.822 - p.828,doi: 10.1063./1.324610
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/42
C30B 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5.0×1017cm-3以上3.5×1018cm-3未満のシリコン濃度と、
3.0×1017cm-3以上3.0×1019cm-3未満のインジウム濃度と、
1.0×1018cm-3以上のボロン濃度と、
3.0×1016cm-3以下の亜鉛濃度と、
を有し、
平均転位密度が1500個/cm以下であることを特徴とするn型GaAsウエハ。
【請求項2】
6.0×1017cm-3以上のキャリア濃度を有する、請求項1に記載のn型GaAsウエハ。
【請求項3】
1.0×1018cm-3以上1.2×1019cm-3以下のインジウム濃度を有し、
前記平均転位密度が500個/cm以下である、請求項1又は2に記載のn型GaAsウエハ。
【請求項4】
キャリア濃度が8.0×1017cm-3以上1.4×1018cm-3以下の範囲であり、940nmの波長における吸収係数が6.47cm-1以上7.2cm-1以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のn型GaAsウエハ。
【請求項5】
キャリア濃度が7.0×1017cm-3以上8.0×1017cm-3以下の範囲であり、940nmの波長における吸収係数が6.07cm-1以上6.8cm-1以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のn型GaAsウエハ。
【請求項6】
縦型温度傾斜法又は縦型ブリッジマン法により、ドーパントとしてシリコンを使用し、封止剤として酸化ホウ素を使用するn型GaAsインゴットの製造方法において、
前記ドーパントとしてシリコンと共にインジウムを使用し、亜鉛を使用せず、
シリコンチャージ量をGaAs原料に対して70wtppm以上130wtppm以下、インジウムチャージ量をGaAs原料に対して100wtppm以上5000wtppm以下で添加し、
平均転位密度を1500個/cm以下とすることを特徴とするn型GaAsインゴットの製造方法。
【請求項7】
キャリア濃度が6.0×1017cm-3以上となる部分を有する、請求項6に記載のn型GaAsインゴットの製造方法。
【請求項8】
前記平均転位密度を500個/cm以下とする、請求項6又は7に記載のn型GaAsインゴットの製造方法。
【請求項9】
キャリア濃度が8.0×1017cm-3以上1.4×1018cm-3以下の範囲であり、940nmの波長における吸収係数が6.47cm-1以上7.2cm-1以下である部分を有する、請求項6~8のいずれか1項に記載のn型GaAsインゴットの製造方法。
【請求項10】
キャリア濃度が7.0×1017cm-3以上8.0×1017cm-3以下の範囲であり、940nmの波長における吸収係数が6.07cm-1以上6.8cm-1以下である部分を有する、請求項6~8のいずれか1項に記載のn型GaAsインゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaAsウエハ及びGaAsインゴットの製造方法、ならびにGaAsウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
GaAs単結晶ウエハ(以下、GaAsウエハともいう。)を得るためのGaAs結晶(インゴット)の製造方法として、引き上げ(LEC)法、横型ボート(HB)法、縦型温度傾斜(VGF)法及び縦型ブリッジマン法(VB)法が知られている。単結晶の種結晶を起点とし、これらの製造方法により結晶成長させた単結晶の直胴部を有する塊がインゴットであり、そのインゴットの直胴部からウエハが切り出される。
【0003】
上記方法のうちLEC法では、GaAsウエハの転位密度を低減することが困難であった。インジウム(In)ドープを用いたLEC法による低転位化の手法が一時的に流行したが、GaAsとInとの合金ともいわれるほどの多量のInをドープするため、Inの析出が多量に発生し、製品として使用できないことが判明し、現在ではInドープを用いたLEC法は用いられなくなった。
【0004】
LEC法では市販品のエッチピッド密度が10000cm-1台となる一方、縦型温度傾斜(VGF)法及び縦型ブリッジマン法(VB)法は、LEC法に比べて大幅な低転位密度化が可能であった。特許文献1は、VGF法又はVB法を利用して作成されたn型GaAsインゴットが開示されている。このn型GaAsインゴットは、キャリア濃度が1×1016cm-3以上1×1018cm-3の電荷キャリア濃度と、5×1017cm-3以上のボロン濃度と、を有し、結晶軸に垂直な断面におけるエッチピット密度が、1500個/cm以下であって、近赤外線域での非常に低い光吸収係数を実現しようとするものである。なお、特許文献1のn型GaAsインゴットは、製造時に砒化ガリウム溶融物のガリウム濃度及びホウ素濃度を制御することにより得られ、Zn、Inなどの別のドーパントの更なる添加は避けるべきとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-78122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、LiDAR(Light Detection and Ranging)と呼ばれるセンサが自動車の自動運転用途で特に注目されている。LiDARでは、波長940nm等の赤外線が利用される。赤外線を発光する発光素子ではGaAsウエハが素子基板に用いられており、LiDAR用途では、GaAsウエハによる上記波長の吸収を抑制することが求められるようになった。
【0007】
さて、Siドープのn型GaAsウエハにおいては、Siドープ量を多くしてフリーキャリアが増えるほど、赤外線の吸収が増える。そのため、VGF法又はVB法を利用して作成されたSiドープのGaAsウエハにおいて、上記波長の吸収を十分抑制するためには、GaAsウエハのキャリア濃度を、概ね1×1018cm-3以下(好ましくは5×1017cm-3以下)に制限することが必要であった。また、LiDAR用のセンサの製造に用いられるGaAsウエハは、転位密度が十分低いことも求められている。しかし、キャリア濃度を下げるためにSiドープ量を減らすと転位密度が大きく上昇するため、上記のキャリア濃度としつつ、上記波長の光吸収を十分抑制しながら、低転位密度を実現することは従来困難であった。転位密度を低くすることが難しい大口径のGaAsウエハでは、このキャリア濃度、光吸収抑制及び低転位密度の3条件を実現することは特に困難であった。
【0008】
そこで、本発明では、キャリア濃度及び波長940nmでの光吸収係数を制御しつつ、GaAsウエハの平均転位密度を低減したGaAsウエハの提供を目的とする。さらに本発明は、このGaAsウエハを得ることのできるGaAsインゴットの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上述の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、GaAsウエハのシリコン濃度、インジウム濃度及びボロン濃度に着目し、以下に述べる本発明を完成させた。
【0010】
本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)5.0×1017cm-3以上3.5×1018cm-3未満のシリコン濃度と、
3.0×1017cm-3以上3.0×1019cm-3未満のインジウム濃度と、
1.0×1018cm-3以上のボロン濃度と、を有し、
平均転位密度が1500個/cm以下であることを特徴とするGaAsウエハ。
(2)6.0×1017cm-3以上のキャリア濃度を有する、上記(1)に記載のGaAsウエハ。
(3)1.0×1018cm-3以上1.2×1019cm-3以下のインジウム濃度を有し、
前記平均転位密度が500個/cm以下である、上記(1)又は(2)に記載のGaAsウエハ。
(4)キャリア濃度が8.0×1017cm-3以上1.4×1018cm-3以下の範囲であり、940nmの波長における吸収係数が4.8cm-1以上7.2cm-1以下である、上記(1)~(3)のいずれかに記載のGaAsウエハ。
(5)キャリア濃度が7.0×1017cm-3以上8.0×1017cm-3以下の範囲であり、940nmの波長における吸収係数が4.8cm-1以上6.8cm-1以下である、上記(1)~(3)のいずれかに記載のGaAsウエハ。
(6)縦型温度傾斜法又は縦型ブリッジマン法により、ドーパントとしてシリコンを使用し、封止剤として酸化ホウ素を使用するGaAsインゴットの製造方法において、
前記ドーパントとしてシリコンと共にインジウムを使用し、
シリコンチャージ量をGaAs原料に対して70wtppm以上130wtppm以下、インジウムチャージ量をGaAs原料に対して100wtppm以上5000wtppm以下で添加し、
平均転位密度を1500個/cm以下とすることを特徴とするGaAsインゴットの製造方法。
(7)キャリア濃度が6.0×1017cm-3以上となる部分を有する、上記(6)に記載のGaAsインゴットの製造方法。
(8)前記平均転位密度を500個/cm以下とする、上記(6)又は(7)に記載のGaAsインゴットの製造方法。
(9)キャリア濃度が8.0×1017cm-3以上1.4×1018cm-3以下の範囲であり、940nmの波長における吸収係数が4.8cm-1以上7.2cm-1以下である部分を有する、上記(6)~(8)のいずれかに記載のGaAsインゴットの製造方法。
(10)キャリア濃度が7.0×1017cm-3以上8.0×1017cm-3以下の範囲であり、940nmの波長における吸収係数が4.8cm-1以上6.8cm-1以下である部分を有する、上記(6)~(8)のいずれかに記載のGaAsインゴットの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリコン濃度、インジウム濃度及びボロン濃度を制御することにより、特にLiDAR用のセンサ製造に用いて好適なGaAsウエハを提供することができる。また、本発明によれば、このGaAsウエハを得ることのできるGaAsインゴットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のGaAsインゴットの模式図である。
図2】本発明のGaAsインゴットの製造に用いられる製造装置の断面模式図である。
図3】本発明のGaAsインゴットの製造に用いられるルツボ3の断面模式図であり、結晶成長開始前の原料等を充填した状態に対応する。
図4】結晶成長開始から結晶成長終了までのルツボ内の状態と温度傾斜の関係を示す図である。
図5】実施例において切り出したGaAsウエハのキャリア濃度と、透過率及び吸収係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に従うGaAsウエハは、本発明に従うGaAsインゴットの製造方法により得られるGaAsインゴットを切り出すことにより得ることができる。実施形態の説明に先立ち、本発明を説明するための部位名及び物性測定方法を説明する。
【0014】
<GaAsインゴット>
(GaAsインゴットのシード側、中央部及びテイル側)
図1は、本発明の製造方法に従い得られるGaAsインゴットの模式図であり、シード側15、中央部16及びテイル側17の各位置が示されている。GaAsインゴットは種結晶6から増径する領域19(コーン部ともいう)を介して直径が略同一の直胴部18を有し、この直胴部18の種結晶6側の端部をシード側15と呼び、種結晶6の反対側の端部をテイル側17と呼び、シード側15とテイル側17までの間の半分の位置(中間位置)を中央部16と呼ぶ。GaAsインゴットは、シード側15からテイル側17に向けて固液界面が移動して結晶成長が行われる。
【0015】
本発明に従うGaAsウエハのシリコン(Si)濃度、インジウム(In)濃度、ボロン(B)濃度、キャリア濃度、平均転位密度及び940nmの波長における吸収係数の各測定値は、GaAsインゴットの直胴部18をウエハに切断した状態で測定を行うことで得ることができ、GaAsインゴットの直胴部18のシード側15、中央部16及びテイル側17の少なくとも1か所において評価を行う。ウエハのサイズは、GaAsインゴットの直胴部18の径により、適宜選択することができ、例えば2~8インチとすることができる。
【0016】
一方、GaAsインゴットを評価する場合、GaAsインゴットの直胴部18のシード側15のウエハと、中央部16のウエハと、直胴部18のテイル側17のウエハとの3か所のウエハのうち、少なくとも1か所から上記各測定値を得ることとし、2か所以上において、上記各種測定値を得ることが好ましい。なお、GaAsインゴットの直胴部18のシード側15のウエハとは、GaAsインゴットの直胴部18を各ウエハに切断した際の、最もシード側で得られた1枚目から5枚目をいい、GaAsインゴットの直胴部の中央部16のウエハとは、GaAsインゴットの直胴部18を各ウエハに切断した際の、中央部16に当たるウエハ(中央部16が切断面の場合は、その断面を有する2枚のウエハのどちらでもよい)及び前後2枚ずつのウエハをいい、直胴部18のテイル側17のウエハとは、最もシード側で得られた1枚目から数えて最終枚目と、最終枚目からの5枚目までの、最もテイル側で得られたウエハをいう。シード側、中央部、テイル側のそれぞれのウエハにおいて、上記範囲のウエハ同士の測定結果は同一とみなしてよく、異なる場合は誤差の範囲である。
【0017】
シード側15のウエハ、中央部16のウエハ及びテイル側17のウエハの各測定において、各ウエハが有する上下2つの面のいずれかとウエハ切断時に対面していた面を有する部位(隣り合うウエハ又は切れ端部分)の各測定値は、当該シード側15のウエハ、中央部16のウエハ及びテイル側17のウエハの各測定値と見なすものとする。
【0018】
測定においては、ウエハの上下2つの面のいずれも測定に使用することができる。ただし、切れ端部分については、シード側15のウエハと切断時に対面していた面又はテイル側のウエハと切断時に対面していた面を測定に使用するものとする。
【0019】
次に、キャリア濃度、平均転位密度、吸収係数並びにSi濃度、In濃度及びボロン(B)濃度の各種測定値の測定方法について説明する。
【0020】
(キャリア濃度の測定方法)
キャリア濃度は、抜き取ったウエハからウエハ中心部の10mm×10mmのサイズを割り取り、インジウム電極を四隅に付けて330~360℃に加熱した後、Van der Pauw法によるホール測定により測定した値とする。
【0021】
(平均転位密度の測定方法)
平均転位密度は、エッチピット密度(EPD:Etch Pit Density)の測定によるものであり、抜き取ったウエハの表面を硫酸系鏡面エッチング液(HSO:H:HO=3:1:1(体積比))で前処理した後、液温320℃のKOH融液中に30~40分間浸積することでエッチピットを発生させ、この数を計測することにより行う。
【0022】
エッチピット密度の計測は、ウエハ上の69点に直径3mmのエリアを設定し、各エリアを顕微鏡で観察して発生させたエッチピットをカウントすることにより行う。
69点のエリアはウエハ全面にまんべんなく分布させることとし、各エリアは2インチウエハの場合は5mm間隔、4インチウエハは10mm間隔、6インチウエハの場合は15mm間隔、8インチウエハの場合は20mm間隔で均しく分散させた位置に設定する。
各エリアの観察には、視野直径1.73mmとなる10倍対物レンズを使用する。各エリアの中で最もピットが多く観察される視野を探してエッチピットをカウントし、カウントされたエッチピットの数を単位面積当たり(個/cm-2)に換算する。各エリアのエッチピットのカウント数を平均した値を平均転位密度とする。
【0023】
(吸収係数の測定方法)
吸収係数を測定する際には、GaAsウエハの裏面および表面の両方を鏡面加工によりダメージフリーの状態とする。この際、ワイヤーソーによりスライシングされたウエハであれば両面合わせて70μm以上研磨し鏡面加工するのが望ましい。本明細書では、このように鏡面加工が施され、加工後の厚みを計測したGaAsウエハの中央付近から20mm×20mmサイズで切り出したサンプルを使って分光光度計(株)日立ハイテクサイエンス製UH5700)により透過率測定を実施した。測定条件は以下のとおりである。
ベースライン設定:エア校正
開始波長:1300nm
終了波長:850nm
サンプリング間隔:1nm
測定回数:1回
スキャンスピード:60nm/min
スリット幅:2nm
分光光度計で測定した透過率から両面反射モデルを用いて下記式[1]、[2]に従い吸収係数αを求めた。なお、各波長に対する屈折率の算出には”Refractive Index of GaAs_Journal of Applied Phisics 1964”に記載の文献値を採用した。
【数1】
【数2】
ただし、Iは入射前の光強度であり、Iはウエハ透過後の光強度であり、Tは透過率であり、Rは反射率であり、αは吸収係数であり、dはウエハ厚さであり、nはウエハ屈折率である。
【0024】
(Si濃度、In濃度、B濃度の測定方法)
Si濃度、In濃度及びB濃度は、抜き取ったウエハの表面をエッチング液(NHOH:H:HO=1:1:10(体積比))により5μmの深さまでエッチングし、純水洗浄後に乾燥したウエハを二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により分析した値とする。
具体的には、SiとBについては、セシウムイオンによるSIMS分析により、イオンエネルギー14.5keVの設定で表面から0.5~1μmの深さまで測定する。Inについては、酸素イオンによるSIMS分析により、イオンエネルギー5.5keVの設定で表面から3μmの深さまで測定する。
【0025】
<GaAsインゴットの製造方法>
次に、本発明に従うGaAsインゴットの製造方法を説明する。本製造方法では、縦型温度傾斜法又は縦型ブリッジマン法により、ドーパントとしてシリコンを使用し、封止剤として酸化ホウ素を使用する。そして、ドーパントとしてシリコンと共にインジウムを使用し、シリコンチャージ量をGaAs原料に対して70wtppm以上130wtppm以下、インジウムチャージ量をGaAs原料に対して100wtppm以上5000wtppm以下で添加し、得られるGaAsインゴットの平均転位密度を1500個/cm以下とする。GaAsインゴットの平均転位密度を1500個/cm以下とするとは、前述したGaAsインゴットのシード側、中央部、テイル側のそれぞれのウエハにおいて、いずれの位置のウエハにおいても平均転位密度が1500個/cm以下の測定結果であることをいう。
【0026】
VGF法又はVB法によりシリコンドープn型GaAsインゴットを製造する場合、通常は多結晶原料融液としてSiを添加したGaAs融液と、液体封止剤としてBを使用するところ、本発明のGaAsインゴットの製造ではSiの他にInを更に添加する。そして、シリコンチャージ量及びインジウムチャージ量を上記のとおりとして、得られるGaAsインゴットの平均転位密度を1500個/cm以下となるよう制御する。以下、図2~4を参照して本製造方法をより詳細に説明する。
【0027】
(製造装置と温度制御)
図2は、本発明のGaAsインゴットを製造するための製造装置の一例について、断面図を模式的に示したものである。図2に示す製造装置は、外部より真空排気及び雰囲気ガス充填が可能な気密容器7と、気密容器7内の中央に配置されたルツボ3と、ルツボ3を収容保持するルツボ収納容器(サセプタ)2と、ルツボ収納容器(サセプタ)2を昇降及び/又は回転させる機構14(昇降・回転ロッドのみ図示する)と、気密容器7内においてルツボ収納容器(サセプタ)2を取り囲むように装備されたヒーター1を備えている。ルツボ3は、熱分解窒化ホウ素(PBN:Pyrolytic Boron Nitride)よりなるものを用いることができる。図2では、ルツボ3には、種結晶6、化合物半導体原料5、封止剤(B)4が充填され、気密容器7内は一例として不活性ガス8が充填された状態となっている。
【0028】
図3は、本発明のGaAsインゴットを製造するためのルツボの一例について、断面図を模式的に示したものであり、結晶成長開始前の原料等を充填した状態に対応する。図3に示すルツボ3の中には、種結晶6とGaAs多結晶原料9と一般的なシリコンドープn型GaAsインゴットであればドーパント(シリコン)10、封止剤(B)4が充填される。封止剤(B)4は、Asの飛散や結晶成長開始時のSi濃度を制御する目的で使用され、GaAsよりも密度が低く、GaAsの融点(1238℃)よりもかなり低い融点(480℃)を有するため、単結晶を成長する際に原料融液の上面を覆うことができる。本発明においては、ドーパントとして、ドーパント(シリコン)10の他に、ドーパント(インジウム)11が原料として充填される。
【0029】
これらの充填が終了した後、不活性ガスを充填した成長炉内において、種結晶6が溶解しないように、種結晶6側の温度が低くなるようにPID制御されたヒーターにより温度傾斜をかけながら、GaAs多結晶原料9をGaAsの融点の1238℃以上まで昇温させて、GaAs多結晶原料9、ドーパント(シリコン)及びドーパント(インジウム)11、封止剤(B)4の全てを溶解させる。次いで、種結晶6付近の温度を上昇させ種結晶6の上部が溶解したところで、温度傾斜をかけながら全体の温度を徐々に下げることで、GaAsインゴットを得ることができる。この際、降温速度は10℃/h以下とすることが好ましい。図4に、結晶成長開始から結晶成長終了までのルツボ内の模式的な状態と温度傾斜の関係の一例を示す。
【0030】
(種結晶)
種結晶6のサイズは、特に制限されないが、ルツボ3の内径を径とする断面積に対して、例えば1~20%の断面積を有していればよく、3~17%の断面積を有していることが好ましい。成長しようとする結晶の径が100mmを超える場合には、種結晶6の断面積は、ルツボ内径を径とする断面積に対して2~10%とすることができる。
【0031】
(ルツボ内径とウエハサイズ)
ルツボ3の内径は、目的とするウエハサイズよりも僅かに大きいことが好ましい。目的とするウエハサイズは、例えば2~8インチの中から適宜選択することができるが、大口径のGaAsウエハを得るため、ウエハの直径が100mm以上とすることが好ましく、ウエハの直径が140mm以上とすることがより好ましく、ウエハサイズを6インチ以上にすることがさらに好ましい。
大口径となるほど、低転位密度のウエハを得ることが困難になる。ウエハの直径が140mm以上の場合、LEC法では仮に6.0×1019cm-3を超える多量のインジウムをドープしたとしても、平均転位密度1500個/cm以下さらには平均転位密度500個/cm以下のウエハを得ることは非常に困難である。
【0032】
(ドーパント)
ドーパント(シリコン)10は、高純度Siのショットや高純度Si基板を破砕するなどして所望の濃度となる重量をGaAs多結晶原料9中に添加する。また、ドーパント(インジウム)11は、高純度In、インジウム化合物(例えば、高純度ヒ化インジウム(InAs)等)を使って所望の濃度となる重量をGaAs多結晶原料9中に添加する。Siを添加するため、シリコンチャージ量をGaAs多結晶原料に対して70wtppm以上130wtppm以下で添加する。シリコンチャージ量をGaAs多結晶原料に対して80wtppm以上とすることも好ましく、100wtppm以下とすることも好ましい。また、Inを添加するため、インジウムチャージ量をGaAs原料に対して100wtppm以上5000wtppm以下で添加する。インジウムチャージ量をGaAs原料に対して500wtppm以上とすることも好ましく、1000wtppm以上とすることも好ましく、4000wtppm以下とすることも好ましく、2000wtppm以下とすることも好ましい。Inを添加するために高純度ヒ化インジウム(InAs)を添加する場合、InAs原料のチャージ量からインジウムチャージ量を換算すればよい。Inの融点は156℃、InAsの融点は942℃であるため、GaAsの融点である1238℃よりかなり低い。GaAs結晶成長開始前に、先に溶けたInが種結晶6の周りに付着すると単結晶化を阻害するため、図3のように、ドーパント(インジウム)11は種結晶6から離れた位置に入れるか、あるいはGaAs多結晶原料9の配置を工夫して容易に種結晶6の周りに付着しないようにする工夫が必要である。Inが容易に種結晶6の周りに付着しないようにするためにも、種結晶6のサイズは上記の範囲内とすることが好ましい。
【0033】
上記の製造方法は一例であり、結晶成長中にSi、In、BがGaAsインゴット中へ取り込まれる濃度及びキャリア濃度、平均転位密度、吸収係数を調整するために、従来公知な方法を追加してもよい。GaAsインゴットのシード側、中央部、テイル側の少なくともいずれかの位置において、6.0×1017cm-3以上のキャリア濃度を有することが好ましい。また、シード側、中央部、テイル側の少なくともいずれかの位置において、1.0×1018cm-3以上1.2×1019cm-3以下のインジウム濃度を有することが好ましい。また、シード側、中央部、テイル側の少なくともいずれかの位置において、平均転位密度を500個/cm以下の部分を有することが好ましく、シード側、中央部、テイル側のすべての位置において平均転位密度が500個/cm以下(のウエハ)であることがさらに好ましい。さらに、キャリア濃度が8.0×1017cm-3以上1.40×1018cm-3以下の範囲であり、940nmの波長における吸収係数が4.8cm-1以上7.2cm-1以下である部分を有するGaAsインゴットを製造することが好ましい。また、キャリア濃度が7.0×1017cm-3以上8.0×1017cm-3以下の範囲であり、940nmの波長における吸収係数が4.8cm-1以上6.8cm-1以下であるGaAsインゴットを製造することも好ましい。従来のSiドープされたインゴットでは、キャリア濃度が高くなる領域は、転位密度は抑制できても吸収係数が高くなるために、吸収係数を重視する用途では使用できなかった。しかし、本発明に従うインゴットでは、キャリア濃度が高くなる領域でも転位密度を抑制しつつ吸収係数の増加を抑えることができるため、使用することができる。特に、6.0×1017cm-3以上のキャリア濃度となる領域において、吸収係数の値の上昇が抑制される。
【0034】
なお、結晶成長では不純物の固溶係数によって、結晶成長方向と同じ方向に不純物濃度が増加又は減少することが知られており、Si濃度、In濃度及びB濃度はGaAsインゴットのシード側15からテイル側17にかけて共に増加する傾向が見られる。そのため、キャリア濃度もGaAsインゴットのシード側15からテイル側17にかけて増加する傾向が見られる。
【0035】
<GaAsウエハ>
本発明に従うGaAsインゴットの製造方法により得られたGaAsインゴットの少なくともシード側から中央部までの間からウエハを切り出すことにより、本発明に従うGaAsウエハを得ることができる。本発明に従うGaAsウエハは、5.0×1017cm-3以上3.5×1018cm-3未満のシリコン濃度と、3.0×1017cm-3以上3.0×1019cm-3未満のインジウム濃度と、1.0×1018cm-3以上のボロン濃度と、を有し、平均転位密度が1500個/cm以下である。このGaAsウエハは、6.0×1017cm-3以上のキャリア濃度を有することが好ましい。さらには、1.0×1018cm-3以上1.2×1019cm-3以下のインジウム濃度を有し、平均転位密度が500個/cm以下のGaAsウエハであることも好ましい。本発明者らは、GaAsウエハのシリコン濃度、インジウム濃度、ボロン濃度及び平均転位密度がこの条件を満足することにより、特にLiDAR用のセンサ製造に用いて好適となるキャリア濃度及び波長940nmにおける吸収係数を両立できることを、実験を通じて見出した。
【0036】
以下、本発明に従うGaAsウエハのSi濃度、In濃度、B濃度、平均転位密度、キャリア濃度、吸収係数等の範囲について説明する。
【0037】
(Si濃度)
過剰なSi濃度はフリーキャリア吸収の原因になって赤外線吸収が増えることと、キャリア濃度の制御の観点から、本発明に従うGaAsウエハにおいて、Si濃度を5.0×1017cm-3以上3.5×1018cm-3未満とする。
【0038】
(In濃度の範囲)
本発明者らは、VGF法及びVB法において、ドーパントとしてSiに加えてInを添加することにより、キャリア濃度の上昇に伴う赤外線吸収の増加の程度を制御できることを見出した。そこで、In濃度を1.0×1018cm-3以上3.0×1019cm-3未満とした。InはGaAs中では中性不純物として振舞うため、フリーキャリア吸収の原因とはならない。ただし、VGF法及びVB法においても過剰なIn濃度はGaAs結晶の格子定数やバンドギャップのズレを発生させるため、In濃度が3.0×1019cm-3以上では赤外線吸収量が増える恐れがある。そのため、In濃度を3.0×1019cm-3未満とし、2.0×1019cm-3以下に抑制することが好ましく、1.2×1019cm-3以下とすることがより好ましい。また、Si濃度に対するIn濃度の比(In/Si、濃度比ともいう)を1.0以上とすることも好ましい。
【0039】
(B濃度の範囲)
VGF法又はVB法によるGaAsインゴットの結晶成長においては、成長中のAsの乖離を防ぐため、液体封止剤として、一般にBを使用する。そして、B由来のボロン(B)はGaAsインゴット中に混入する。SiとBの置換反応による結晶成長開始時のSi濃度の制御の点から、ボロン(B)濃度を1.0×1018cm-3以上とする。B濃度の上限は特に制限されないが、B濃度を3.0×1019cm-3以下に抑制してもよく、1.5×1019cm-3以下とすることも好ましい。
【0040】
(上記以外の元素及びそれらの濃度)
封止剤として使用するBによってGaAsインゴット中に混入するB及び酸素(O)を除き、SiとIn以外の元素が、GaAsには添加されていないことが好ましく、ドーパントとして添加されるのはSiとInのみであり、それ以外はドーパントとして意図して添加されていないことが好ましい。
【0041】
シリコンとインジウム以外のドーパントとして考えられる元素としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、炭素(C)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、さらには、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、アンチモン(Sb)が挙げられるが、これらの元素は、不可避的に混入される量は許容されるが、意図して添加されていないことが好ましい。
例えば、SIMS分析によるGaAs中のAl、C及びZnの各濃度は3×1016cm-3以下(ゼロを含む)であることが好ましい。それ以外のBe、Mg、Ge、Sn、N、S、Se、Te、Cd、Cr及びSbの各濃度は5×1015cm-3以下(ゼロを含む)であることが好ましい。さらにNの濃度は1×1015cm-3以下であることがより好ましい。
【0042】
(平均転位密度の範囲)
平均転位密度の値を1500個/cm以下であることとする。平均転位密度は、500個/cm以下であることが好ましく、300個/cm以下であることがさらに好ましい。平均転位密度はゼロに近いことが好ましものの、生産性を考慮して下限を50個/cmとしてもよい。
【0043】
(キャリア濃度及び吸収係数の範囲)
本発明によるGaAsウエハにおいて、キャリア濃度は少なくとも1.0×1017cm-3以上あることが好ましく、先に述べたとおり6.0×1017cm-3以上であることも好ましい。また、940nmの波長における吸収係数がSiのみをドープした場合(Inを含まない場合)に比べて小さいことが好ましい。また、キャリア濃度が8.0×1017cm-3以上1.4×1018cm-3以下の範囲であり、940nmの波長における吸収係数が4.8cm-1以上7.2cm-1以下であることが好ましい。一方、本発明によるGaAsウエハにおいて、キャリア濃度が7.0×1017cm-3以上8.0×1017cm-3以下の範囲であり、940nmの波長における吸収係数が4.8cm-1以上6.8cm-1以下であることも好ましい。
従来はLiDAR用途には概ね1×1018cm-3以下(好ましくは5×1017cm-3以下)にキャリア濃度を小さくすることが求められたが、本発明によれば、キャリア濃度が比較的大きな範囲であっても低い吸収係数に抑えることができるため、消費電力を抑制した素子設計をすることもできる。いずれの場合も、LiDAR用途の素子基板に用いて好適である。
【0044】
上述したところは、本発明の代表的な実施形態の例を示したものであって、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例
【0045】
(結晶番号1)
図2に示す構成を有する製造装置を用いて、GaAsインゴットの製造を行った。
【0046】
<ルツボへの原料の充填>
ルツボとして内径159.9mm、シード部の内径6.0~6.5mmのPBN製のルツボを準備した。ルツボには、図3に示すように、6N(純度99.9999%以上)のGaと6NのAsを合成して作成したGaAs多結晶を破砕した20,000±10gのGaAs多結晶原料と(100)面が結晶成長面となるように切り出したGaAs種結晶を充填した。GaAs種結晶の直径については、各ルツボのシード部内径より約0.5mm小さくなるように機械研削とエッチングを組み合わせて調整した大きさのものを用いた。GaAs多結晶を充填する途中で、ドーパント(シリコン)として高純度SiのショットをGaAs多結晶原料に対して60wtppm充填した。Si以外に、意図して添加した不純物元素はない。
【0047】
<結晶成長>
これらの原料を充填した後、封止剤であるBを965±10g充填した。充填後のルツボをルツボ収納容器(サセプタ)にセットした。図2に示す製造装置の内部を真空排気及びArガス置換を繰り返して不活性ガス雰囲気とした後、VGF法により単結晶を成長させた。
結晶成長工程では、まずGaAs種結晶が溶解しないように、種結晶側の温度が低くなるようにPID制御されたヒーターにより温度傾斜をかけながらルツボ内の原料をGaAsの融点の1238℃以上まで昇温させて融液とした。その後、種結晶の上部が溶解するように種結晶付近の温度を上昇させた後、温度傾斜をかけながら炉内全体の温度をヒーター制御により10℃/h以下の速度で降温していくことでSiをドーパントとしたn型のGaAsインゴットを成長させた。
【0048】
<評価>
成長させたGaAsインゴットの直胴部をワイヤーソーでスライスしてウエハ状にした。ウエハサイズは6インチ相当である。
GaAsインゴット直胴部の最もシード側で得られた1枚目、および、当該1枚目から数えて5枚目までの任意のウエハをシード側(seed)として評価した。なお、当該1枚目のシード側の面と対面していた面を有するコーン部の一部を含む切れ端部分を円盤状としたもの(0枚目ともいう)を測定に含めても良い。
GaAsインゴットの直胴部を各ウエハに切断した際の、シード側からテイル側までの間の半分の位置に当たるウエハ(その位置が切断面に当たる場合はその断面を有する2枚のウエハのどちらか)および当該ウエハからシード側に2枚とテイル側に2枚の範囲における任意のウエハを中央部(middle)として評価した。
GaAsインゴット直胴部の上記1枚目から数えて最終枚目の、最もテイル側で得られたウエハ、および当該最終枚目からシード側に向けて5枚目までの任意のウエハをテイル側(tail)として評価した。なお、最後の切断面は、インゴットの種結晶側と反対の端から(シード方向に)20mmの位置である。
後述する測定にはシード側、中央部、テイル側の各位置において、それぞれ少なくとも3枚のウエハを使用した。
【0049】
スライスしたウエハ(又は切れ端部分)の結晶の中心を含む領域(ウエハ中心部)から、(110)面のへき開性を利用して、10mm×10mmのサイズを割り取り、前述のとおりにVan der Pauw 法によるホール測定によりキャリア濃度を測定した。
【0050】
ホール測定に用いたウエハ(又は切れ端部分)の残部を用いて、前述のとおりに前処理を行った後、CAMECA社製の装置を使ってSIMS分析によりSi濃度、In濃度及びB濃度の測定を行った。
【0051】
上記ホール測定に用いたウエハ(又は切れ端部分)と隣り合う(同じ切断面を介して対面する)ウエハの表面に対し、前述のとおりにEPDを測定し、平均転位密度として評価した。
【0052】
ホール測定やEPD測定に用いたウエハの近くのウエハを用いて波長940nmにおける吸収係数を測定した。吸収係数の測定に際しては分光光度計(株)日立ハイテクサイエンス製 UH5700)を用いて透過率を測定し、さらに前述の式[1]、[2]を用いて吸収係数を求めた。
【0053】
(結晶番号2)
GaAs多結晶原料を充填する途中で高純度シリコンのショットを100wtppm充填した以外は結晶番号1と同様として、結晶番号2のGaAsインゴットと、そこから切り出したGaAsウエハを得て評価を行った。Si以外に、意図して添加した不純物元素はない。
【0054】
(結晶番号3)
GaAs多結晶原料を充填する途中で高純度シリコンに加えて高純度InAsのショットを200wtppm(In換算で121wtppm)、高純度シリコンのショットを80wtppm充填した以外は結晶番号1と同様として、結晶番号3のGaAsインゴットを得て評価を行った。SiとIn以外に、意図して添加した不純物元素はない。
【0055】
(結晶番号4)
GaAs多結晶原料を充填する途中で高純度シリコンに加えて高純度InAsのショットを2000wtppm(In換算で1210wtppm)、高純度シリコンのショットを80wtppm充填した以外は結晶番号1と同様として、GaAsインゴットを得て評価を行った。
【0056】
(結晶番号5)
GaAs多結晶原料を充填する途中で高純度シリコンに加えて高純度InAsのショットを5000wtppm(In換算で3026wtppm)、高純度シリコンのショットを80wtppm充填した以外は結晶番号1と同様として、GaAsインゴットを得て評価を行った。
【0057】
結晶番号1~5の製造条件及び切り出したGaAsウエハの評価結果を表1に示す。また、各ウエハのキャリア濃度と、波長940nmにおける透過率及び吸収係数の関係を図5に示す。なお、図5のグラフには表1に記載しない位置から切り出したウエハの測定結果も示した。また、図5にはキャリア濃度と吸収係数の対応関係が特に良好な範囲を破線で注記した。
【0058】
【表1】
【0059】
得られたGaAsインゴットは、導電型としてはn型である。Inチャージ量をGaAs原料に対して100wtppm以上5000wtppm以下で添加した結晶番号3~5のGaAsインゴットからは、5.0×1017cm-3以上3.5×1018cm-3未満のシリコン濃度と、3.0×1017cm-3以上3.0×1019cm-3未満のインジウム濃度と、1.0×1018cm-3以上のボロン濃度と、を有し、平均転位密度が1500個/cm以下であるGaAsウエハをGaAsインゴットの少なくとも一部から得ることができた。特に、結晶番号4から切り出したGaAsウエハの平均転位密度はシード側からテイル側まで500個/cm以下であり、良好な結果であった。そして、切り出したGaAsウエハが上記濃度範囲の場合、キャリア濃度及び940nmの波長における吸収係数が良好な範囲であった。また、結晶番号1、2から切り出したGaAsウエハはキャリア濃度の増加に伴い吸収係数が急増するのに対して、結晶番号4、5から切り出したGaAsウエハはキャリア濃度の増加に伴う吸収係数の増加が緩やかであることも判明した。このため、結晶番号4、5からは適正範囲のキャリア濃度及び吸収係数を満足したGaAsウエハを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、シリコン濃度、インジウム濃度及びボロン濃度を制限することにより、特にLiDAR用のセンサ製造に用いて好適なGaAsウエハを提供することができる。また、本発明によれば、このGaAsウエハを得ることのできるGaAsインゴットの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ヒーター
2 ルツボ収納容器(サセプタ)
3 ルツボ
4 封止剤(B
5 化合物半導体原料
6 種結晶
7 気密容器
8 不活性ガス
9 GaAs多結晶原料
10 ドーパント(シリコン)
11 ドーパント(インジウム)
12 原料融液
13 凝固中のGaAs結晶
14 ルツボの昇降・回転機構
15 GaAsインゴットのシード側
16 GaAsインゴットの中央部
17 GaAsインゴットのテイル側
18 GaAsインゴットの直胴部
19 GaAsインゴットのコーン部
図1
図2
図3
図4
図5