(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-08
(45)【発行日】2022-09-16
(54)【発明の名称】触媒組成物、それを含む洗浄液組成物、およびそれを用いた重合装置の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B01J 31/22 20060101AFI20220909BHJP
C08F 8/50 20060101ALI20220909BHJP
C08F 36/04 20060101ALI20220909BHJP
【FI】
B01J31/22 Z
C08F8/50
C08F36/04
(21)【出願番号】P 2021547723
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(86)【国際出願番号】 KR2020015594
(87)【国際公開番号】W WO2021206250
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2021-08-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0041908
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ウン-キョン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ホン-ス
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-530047(JP,A)
【文献】特表2007-500766(JP,A)
【文献】特表2011-521069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00- 38/74
C08C 19/00- 19/44
C08F 4/60- 4/70
6/00-246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される遷移金属化合物および下記化学式3で表される遷移金属化合物からなる群から選択された1種以上と、ジアルキルL-タルトレート(Dialkyl L-tartrate)と、を含む、触媒組成物。
【化19】
前記化学式1中、
Mは、ルテニウム、またはオスミウムであり、
Aは、酸素(O)、窒素(N)、または硫黄(S)であるが、Aが酸素(O)または硫黄(S)である場合、R
10およびR
11のうち何れか1つは存在せず、
X
1およびX
2は、それぞれ独立して、ハロゲンであり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6は、それぞれ独立して、水素、または炭素数1~10のアルキル基であり、
R
7およびR
8は、それぞれ独立して、水素、または電子求引基(electron withdrawing group)であり、
R
9は、直接結合、または炭素数1~10のアルキレン基であり、
R
10およびR
11は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基、または下記化学式2で表される置換基であり、
【化20】
前記化学式2中、
Yは、酸素(O)、窒素(N)、または硫黄(S)であるが、Yが酸素(O)または硫黄(S)である場合、R
13およびR
14のうち何れか1つは存在せず、
R
12は、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数3~10のシクロアルキレン基、または炭素数6~10のアリーレン基であり、
R
13およびR
14は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数3~10のシクロアルキル基であり、
*は、Aとの結合位置を示す。
【化21】
前記化学式3中、
Mは、ルテニウム、またはオスミウムであり、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素、または下記化学式4で表される置換基であるが、少なくとも1つ以上は、下記化学式4で表される置換基であり、
X
1およびX
2は、それぞれ独立して、ハロゲンであり、
Phは、フェニル基であり、
【化22】
前記化学式4中、
R
3およびR
4は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基であるか;または
R
3およびR
4は、互いに連結され、飽和または不飽和の5原子環を形成する。
【請求項2】
前記化学式1で表される遷移金属化合物は、下記化学式5で表される遷移金属化合物である、請求項1に記載の触媒組成物。
【化23】
前記化学式5中、
MおよびR
7は、それぞれ請求項1で定義した通りである。
【請求項3】
前記化学式1で表される遷移金属化合物は、下記化学式5-1で表される遷移金属化合物である、
請求項1または2に記載の触媒組成物。
【化24】
【請求項4】
前記化学式3で表される遷移金属化合物は、下記化学式6で表される遷移金属化合物である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【化25】
前記化学式6中、
M、R
1およびR
2は、それぞれ請求項1で定義した通りである。
【請求項5】
前記化学式3で表される遷移金属化合物は、下記化学式6-1で表される遷移金属化合物である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【化26】
前記化学式6-1中、
前記Mは、ルテニウムである。
【請求項6】
前記ジアルキルL-タルトレートは、ジエチルL-タルトレートおよびジブチルL-タルトレートからなる群から選択された1種以上である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記ジアルキルL-タルトレートは、前記化学式1で表される遷移金属化合物および前記化学式3で表される遷移金属化合物からなる群から選択された1種以上の1当量に対して1~25当量で含まれる、
請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項8】
ジエン系重合体が含まれた重合装置内に、請求項1から7の何れか一項に記載の触媒組成物を投入して、前記ジエン系重合体をオリゴマー化させるステップ(S30)を含む、重合装置の洗浄方法。
【請求項9】
前記(S30)ステップの以前に、前記重合装置内のジエン系重合体を炭化水素系溶媒で膨潤させるステップ(S20)をさらに含む、請求項8に記載の重合装置の洗浄方法。
【請求項10】
前記(S20)ステップまたは前記(S30)ステップの以前に、前記重合装置内で、希土類金属化合物および有機アルミニウム化合物を含む重合用触媒系の存在下で前記ジエン系重合体を重合するステップ(S10)をさらに含む、請求項9に記載の重合装置の洗浄方法。
【請求項11】
前記(S30)ステップにおいて、オレフィン系単量体、共役ジエン系単量体、および芳香族ビニル系単量体からなる群から選択された1種以上の単量体がさらに投入されて、前記ジエン系重合体のオリゴマー化が行われる、
請求項8~10のいずれか一項に記載の重合装置の洗浄方法。
【請求項12】
前記(S30)ステップにおいて、前記ジエン系重合体のオリゴマー化は60℃以上の温度で行われる、
請求項8~11のいずれか一項に記載の重合装置の洗浄方法。
【請求項13】
前記ジエン系重合体は、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、およびスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体からなる群から選択された1種である、
請求項8~12のいずれか一項に記載の重合装置の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年04月07日付けの韓国特許出願第10-2020-0041908号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
本発明は、触媒組成物、前記触媒組成物を含む洗浄液組成物、および前記洗浄液組成物を用いて高分子量の重合体が蓄積された重合装置を洗浄する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジエン(diene)を含む単量体から高分子量の重合体を重合するために、高分子量の重合体の製造が容易な溶液重合(solution polymerization)方法が主に用いられている。例えば、SSBR(solution styrene butadiene rubber)、BR(butadiene rubber)、およびSBS(styrene butadiene styrene block copolymer)などの高分子量の重合体が前記溶液重合方法を用いて重合される。
【0003】
しかしながら、前記溶液重合方法を用いて高分子量の重合体を重合する際、重合反応器の内部に高分子量の重合体が蓄積され、重合反応器内の熱交換効率が低下し、蓄積された高分子量の重合体による重合反応器内部の蓄積減少により生産性が低下し、蓄積された重合体が重合反応器の下端に流入されて反応物の移送を遮断するという問題がある。
【0004】
そこで、上記のような問題を解決するために、周期的に反応器の内部に人手が直接投入され、高圧の水を用いて蓄積された高分子量の重合体を物理的に除去するジェット-クリーニング(jet-cleaning)を施すが、前記ジェット-クリーニング時に平均5日間の除去時間が必要であるため、当該時間の間に当該重合反応器を含む生産設備が全て稼動中止となって生産性に非常に大きい影響を及ぼし、人手が重合反応器の内部に直接投入されて安全に係る事故の発生可能性が常に存在し、ジェット-クリーニング時に水を用いるので、洗浄完了後に溶液重合、特にアニオン重合を再開するために、さらに水分除去過程などが必要となるという問題がある。このような問題を解決するために、重合反応器の内部に蓄積された高分子量の重合体を除去するための方法として、ジェット-クリーニングのような物理的な方式の代わりに、オレフィン交差複分解(olefin cross metathesis)用触媒を用いたオレフィン交差複分解方法を通じて化学的な方式により、蓄積された高分子量の重合体を除去する技術が行われている。
【0005】
一方、ジエンを含む単量体から高分子量の重合体の重合は、希土類金属含有触媒を用いた重合システムにおいて活発に行われている。前記希土類系金属含有触媒の中でもネオジム化合物(Nd(OOCR)3、この際、R=アルキル基)が効果的であると立証され、特に前記ネオジム化合物および有機アルミニウム化合物を含む触媒系は、重合活性が高く、分子量分布が狭い共役ジエン系重合体を得ることができるという報告もある。
【0006】
しかしながら、ネオジム化合物および有機アルミニウム化合物を含む触媒系を用いて、ジエンを含む高分子量の重合体を重合する場合には、反応器内に蓄積された高分子量の重合体と共に有機アルミニウムが残存するようになり、オレフィン交差複分解用触媒を用いた反応器の洗浄時、オレフィン交差複分解用触媒の反応を阻害させる要因として作用して、高分子量の重合体の除去効率が低下するという問題が存在する。
【0007】
そこで、本発明においては、希土類金属化合物および有機アルミニウム化合物を含む重合用触媒系を用いて、ジエン系高分子を重合する反応器内に、蓄積された高分子量の重合体および有機アルミニウムを効果的に除去できる触媒組成物を提示しようとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、前記発明の背景となる技術において言及した問題を解決するために、希土類金属化合物および有機アルミニウム化合物を含む重合用触媒系を用いて、ジエン系高分子を重合する反応器内に、蓄積された高分子量の重合体および有機アルミニウムを効果的に除去することができる、触媒組成物、およびそれを含む洗浄液組成物を用いて優れた洗浄効率を示す重合装置の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の一実施形態によると、本発明は、下記化学式1で表される遷移金属化合物および下記化学式3で表される遷移金属化合物からなる群から選択された1種以上と、ジアルキルL-タルトレート(Dialkyl L-tartrate)と、を含む触媒組成物を提供する。
【0010】
【0011】
前記化学式1中、
Mは、ルテニウム、またはオスミウムであり、Aは、酸素(O)、窒素(N)、または硫黄(S)であるが、Aが酸素(O)または硫黄(S)である場合、R10およびR11のうち何れか1つは存在せず、X1およびX2は、それぞれ独立して、ハロゲンであり、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は、それぞれ独立して、水素、または炭素数1~10のアルキル基であり、R7およびR8は、それぞれ独立して、水素、または電子求引基(electron withdrawing group)であり、R9は、直接結合、または炭素数1~10のアルキレン基であり、R10およびR11は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基、または下記化学式2で表される置換基であり、
【0012】
【0013】
前記化学式2中、
Yは、酸素(O)、窒素(N)、または硫黄(S)であるが、Yが酸素(O)または硫黄(S)である場合、R13およびR14のうち何れか1つは存在せず、R12は、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数3~10のシクロアルキレン基、または炭素数6~10のアリーレン基であり、R13およびR14は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数3~10のシクロアルキル基であり、*は、Aとの結合位置を示す。
【0014】
【0015】
前記化学式3中、
Mは、ルテニウム、またはオスミウムであり、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素、または下記化学式4で表される置換基であるが、少なくとも1つ以上は、下記化学式4で表される置換基であり、X1およびX2は、それぞれ独立して、ハロゲンであり、Phは、フェニル基であり、
【0016】
【0017】
前記化学式4中、
R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基であるか;またはR3およびR4は、互いに連結され、飽和または不飽和の5原子環を形成する。
【0018】
また、本発明は、ジエン系重合体が含まれた重合装置内に本発明に係る触媒組成物を投入して、前記ジエン系重合体をオリゴマー化させるステップ(S30)を含む重合装置の洗浄方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、希土類金属化合物および有機アルミニウム化合物を含む重合用触媒系を用いて、ジエン系高分子を重合する反応器内に、蓄積された高分子量の重合体および有機アルミニウムを効果的に除去することができる、触媒組成物、およびそれを含む洗浄液組成物を用いて優れた洗浄効率を示す重合装置の洗浄方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の説明および請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0021】
以下、本明細書内に記載される「オレフィン交差複分解用触媒」は、オレフィン交差複分解を通じて、高分子量の重合体を分子量の低いオリゴマー(oligomer)に分解するための触媒を意味し、「触媒組成物」は、オレフィン交差複分解用触媒(遷移金属化合物)およびジアルキルL-タルトレート(Dialkyl L-tartrate)を含む触媒組成物を意味し、「希土類金属化合物および有機アルミニウム化合物を含む重合用触媒系」は、ジエン系単量体からジエン系重合体を含む高分子量の重合体を重合するための重合用触媒系を意味する。
【0022】
以下、本発明に対する理解を助けるために本発明をより詳細に説明する。
本発明は、高分子量の重合体(例えば、ジエン系重合体)を化学的に分解可能な触媒組成物を提供する。具体的に、本発明の触媒組成物は、下記化学式1で表される遷移金属化合物および下記化学式3で表される遷移金属化合物からなる群から選択された1種以上と、ジアルキルL-タルトレート(Dialkyl L-tartrate)と、を含んでもよい。
【0023】
【0024】
前記化学式1中、
Mは、ルテニウム、またはオスミウムであり、Aは、酸素(O)、窒素(N)、または硫黄(S)であるが、Aが酸素(O)または硫黄(S)である場合、R10およびR11のうち何れか1つは存在せず、X1およびX2は、それぞれ独立して、ハロゲンであり、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は、それぞれ独立して、水素、または炭素数1~10のアルキル基であり、R7およびR8は、それぞれ独立して、水素、または電子求引基(electron withdrawing group)であり、R9は、直接結合、または炭素数1~10のアルキレン基であり、R10およびR11は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基、または下記化学式2で表される置換基であり、
【0025】
【0026】
前記化学式2中、
Yは、酸素(O)、窒素(N)、または硫黄(S)であるが、Yが酸素(O)または硫黄(S)である場合、R13およびR14のうち何れか1つは存在せず、R12は、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数3~10のシクロアルキレン基、または炭素数6~10のアリーレン基であり、R13およびR14は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数3~10のシクロアルキル基であり、*は、Aとの結合位置を示す。
【0027】
【0028】
前記化学式3中、
Mは、ルテニウム、またはオスミウムであり、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素、または下記化学式4で表される置換基であるが、少なくとも1つ以上は、下記化学式4で表される置換基であり、X1およびX2は、それぞれ独立して、ハロゲンであり、Phは、フェニル基であり、
【0029】
【0030】
前記化学式4中、
R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基であるか;またはR3およびR4は、互いに連結され、飽和または不飽和の5原子環を形成する。
【0031】
ジエンを含む単量体から高分子量の重合体の重合は、希土類金属含有触媒を用いた重合システムを用いて行われている。前記希土類系金属含有触媒の中でもネオジム化合物(Nd(OOCR)3、この際、R=アルキル基)が効果的であると立証され、特に前記ネオジム化合物と、助触媒として有機アルミニウム化合物と、を含む触媒系は、重合活性が高く、分子量分布が狭いジエン系重合体を得ることができることが報告されている。
【0032】
しかしながら、ネオジム化合物および有機アルミニウム化合物を含む触媒系を用いて、ジエンを含む高分子量の重合体を重合する場合には、反応器内に蓄積された高分子量の重合体と共に有機アルミニウムが残存するようになり、オレフィン交差複分解用触媒を用いた反応器の洗浄時、オレフィン交差複分解用触媒の反応を阻害させる要因として作用して、高分子量の重合体の除去効率が低下するという問題が存在する。
【0033】
そこで、本発明においては、有機アルミニウムのスカベンジャ(scavenger)として作用するジアルキルL-タルトレートを触媒組成物に含ませることにより、反応器内に蓄積された高分子量のジエン系重合体および有機アルミニウムを効率的に除去することができる。
【0034】
本発明の一実施形態に係る洗浄液組成物に含まれる前記化学式1で表される遷移金属化合物または化学式3で表される遷移金属化合物は、重合装置内に蓄積された高分子量の重合体を分解するための遷移金属化合物であってもよく、具体例として、重合装置内に蓄積された高分子量の重合体内に存在する繰り返し単位のうち炭素-炭素二重結合(C-C double bonding)を分解および再結合させるオレフィン交差複分解(olefin cross metathesis)を行って、高分子量の重合体を分子量の低いオリゴマー(oligomer)に分解するための触媒であってもよい。前記化学式1で表される遷移金属化合物および化学式3で表される遷移金属化合物からなる群から選択された1種以上を重合体の分解のための触媒として用いる場合、化学的安定性に優れ、重合体内に存在する繰り返し単位のうち炭素-炭素二重結合を除いた他の官能基および置換基に対する影響が少ないため、重合装置の洗浄時、洗浄効率に優れ、安定した洗浄が可能であるという効果がある。
【0035】
以下、前記化学式1~化学式4の定義に記載された官能基または置換基について具体的に説明する。
前記「水素」は、水素原子、または共有結合をなす水素ラジカルを意味する。
【0036】
前記「ハロゲン」は、ハロゲン原子、または配位結合をなすハロゲン配位子を意味する。具体的に、前記ハロゲンは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、またはヨウ素(I)などであってもよい。
【0037】
前記「アルキル基」は、炭素数1~10の直鎖状または分岐状の飽和炭化水素に由来する1価の置換基を意味する。具体的に、前記アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、またはヘキシル基などであってもよい。
【0038】
前記「電子求引基」は、炭素(C)より電気陰性度が高くて電子を引っ張る官能基を意味する。具体的に、前記電子求引基は、窒素(O)、酸素(O)、硫黄(S)、ハロゲンなどが結合された炭化水素基であってもよい。
【0039】
前記「アルキレン基」は、炭素数1~10の脂肪族不飽和炭化水素に由来する2価の置換基を意味する。具体的に、前記アルキレン基は、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、アミレン、またはヘキシレンなどであってもよい。
【0040】
前記「シクロアルキル基」は、炭素数3~10の単環または多環の非芳香族炭化水素に由来する1価の置換基を意味する。具体的に、前記シクロアルキル基は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、またはシクロヘキシル基などであってもよい。
【0041】
前記「シクロアルキレン基」は、炭素数3~10の非芳香族炭化水素に由来する2価の置換基を意味する。具体的に、前記シクロアルキレン基は、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、またはシクロヘキシレン基などであってもよい。
【0042】
前記「アリーレン基」は、単環または2以上の環が結合された炭素数6~10の芳香族炭化水素に由来する2価の置換基を意味する。具体的に、前記アリーレン基は、フェニレン基、またはナフチレン基などであってもよい。
前記直接結合は、当該位置に如何なる原子または原子団も存在せず、結合線で連結されることを意味する。
【0043】
前記「飽和または不飽和の5原子環」は、化学式4に表されたN原子を含め、5原子からなる飽和または不飽和の環状基を意味し、飽和の環状基は、環内に二重結合(double bonding)が存在しないものを意味し、不飽和の環状基は、環内に二重結合(double bonding)が1つ以上存在するものを意味する。ここで、前記飽和または不飽和の5原子環は、5原子環を形成する原子が、化学式4に表された窒素(N)原子を除いて何れも炭素原子であってもよく、または炭素原子以外に、酸素(O)原子、窒素(N)原子、および硫黄(S)原子からなる群から選択された1種以上のヘテロ原子をさらに含んでもよい。また、前記飽和または不飽和の5原子環は、1価炭化水素基、またはヘテロ原子を含む1価炭化水素基などのような置換基で置換または非置換されてもよい。
一方、前記化学式1~化学式4の定義に記載された官能基または置換基は、炭素数1~10の炭化水素基で置換または非置換されてもよい。
【0044】
本発明の一実施形態によると、前記化学式1で表される遷移金属化合物は、中心金属(M)に結合されたベンジリデン基(benzylidene group)側に2つ以上のヘテロ原子(例えば、N、O、Sなど)が含まれており、配位子であるベンジリデン基および中心金属(M)間の配位結合力が高くなることにより、優れた熱安定性を示すことができる。
【0045】
本発明の一実施形態によると、前記化学式1で表される遷移金属化合物は、下記化学式5で表される遷移金属化合物であってもよい。この場合、重合体内に存在する繰り返し単位のうち炭素-炭素二重結合を除いた他の官能基および置換基に対する影響を最小化しつつ、オレフィン交差複分解反応を安定的に活性化させることができる。
【0046】
【0047】
前記化学式5中、
MおよびR7は、それぞれ先に定義した通りである。
【0048】
本発明の一実施形態によると、前記化学式1で表される遷移金属化合物は、下記化学式5-1で表される遷移金属化合物であってもよい。この場合、また、高温(例えば、86℃以上)で行われる高分子量の重合体のオレフィン交差複分解反応での触媒として用いても、反応過程で安定した活性を維持することができ、所望の生成物に対する反応選択度を求められるレベルで得ることができる。よって、下記化学式5-1で表される遷移金属化合物を含む触媒組成物を用いて高分子量の重合体を複分解する場合、高分子量の重合体の複分解反応効率を高めることができる。
【0049】
【0050】
また、本発明の一実施形態によると、前記化学式3で表される遷移金属化合物は、下記化学式6で表される遷移金属化合物であってもよい。この場合、オレフィン交差複分解の効率に優れ、より少ない量でも重合装置の洗浄が可能であり、安定した洗浄が可能であり、洗浄完了してから重合再開時までの前処理ステップの時間を節減できるという効果がある。
【0051】
【0052】
前記化学式6中、
M、R1、およびR2は、それぞれ先に定義した通りである。
【0053】
【0054】
前記化学式4中、
R3およびR4は、それぞれ先に定義した通りである。
【0055】
本発明の一実施形態によると、前記化学式3で表される遷移金属化合物は、下記化学式6-1で表される遷移金属化合物であってもよい。この場合、アミノ基の窒素原子に電子密度を変化させて中心金属の電子密度を調節できるという効果があり、それにより、重合装置の洗浄能力が調節されるという効果がある。
【0056】
【0057】
前記化学式6-1中、
Mは、ルテニウムである。
【0058】
本発明の一実施形態によると、前記触媒組成物は、前記化学式1で表される遷移金属化合物および前記化学式3で表される化合物からなる群から選択された2種以上を含んでもよい。この場合、2種以上の化合物間の組み合わせにより、複分解反応の反応性が向上するという効果がある。具体的に、前記遷移金属化合物として2種を含む場合、1種の遷移金属化合物は数百万単位の重量平均分子量を有する重合体を数十万単位に複分解し、他の1種の遷移金属化合物は前記複分解された数十万単位の重量平均分子量を有する重合体を数千単位の重量平均分子量を有する重合体に複分解することが可能であるため、複分解反応の反応性が向上するという効果がある。
【0059】
本発明の一実施形態によると、本発明に係る触媒組成物は、前述した化学式1で表される遷移金属化合物および化学式3で表される遷移金属化合物からなる群から選択された1種以上と共に、ジアルキルL-タルトレート(Dialkyl L-tartrate)を含んでもよい。具体例として、前記ジアルキルL-タルトレートは、ジメチルL-タルトレート、ジエチルL-タルトレート、ジプロピルL-タルトレート、ジイソプロピルL-タルトレート、ジブチルL-タルトレート、およびジ-tert-ブチルL-タルトレートからなる群から選択された1種以上であってもよい。
【0060】
前述したように、前記ジアルキルL-タルトレートは、有機アルミニウムのスカベンジャとして作用することができる。具体的に、前記ジアルキルL-タルトレートは、有機アルミニウムの二座配位子(bidentate ligand)として作用して、有機アルミニウムを除去し前記遷移金属化合物を保護することにより、前記遷移金属化合物による高分子量重合体のオレフィン交差複分解反応の効率をさらに向上させることができる。より具体的に、前記ジアルキルL-タルトレートは、ジエチルL-タルトレートおよびジブチルL-タルトレートからなる群から選択された1種以上を含んでもよい。この場合、より少ない量の遷移金属化合物を含むとしても、反応器内の蓄積された高分子量重合体の除去効率が向上することができ、過量のジアルキルL-タルトレートが含まれるとしても、高分子量重合体の除去効率を低下させないという効果がある。
【0061】
前記ジアルキルL-タルトレートは、前記化学式1で表される遷移金属化合物および前記化学式3で表される遷移金属化合物からなる群から選択された1種以上の1当量に対して1~25当量、5~25当量、または10~20当量で含まれてもよい。前記範囲内でジアルキルL-タルトレートが含まれる場合、有機アルミニウムおよび副生成物の除去が容易であり、より少ない量の遷移金属化合物でもオレフィン交差複分解の効率に優れるため、安定した洗浄が可能であり、洗浄完了してから重合再開時までの前処理ステップの時間を節減できるという効果がある。
【0062】
本発明の一実施形態によると、本発明に係る重合装置の洗浄方法が提供される。前記重合装置の洗浄方法は、ジエン系重合体が含まれた重合装置内に本発明に係る触媒組成物を投入して、前記ジエン系重合体をオリゴマー化させるステップ(S30)を含んでもよい。
【0063】
このような重合装置の洗浄方法により重合装置を洗浄する場合、重合装置内に蓄積された高分子量の重合体を化学的な方式により除去が可能であり、それにより、人手の直接投入に応じた安全性に係る問題なしに、迅速な時間内に洗浄が可能であるため、重合反応器の再稼働時間を短縮して生産性を向上させるという効果がある。
【0064】
本発明の一実施形態によると、前記(S30)ステップにおいて、重合装置内に蓄積された高分子量の重合体(例えば、ジエン系重合体)を化学的な方式により洗浄することができるように、前記触媒組成物に炭化水素系溶媒がさらに含まれた洗浄液組成物として投入されてもよい。
【0065】
前記洗浄液組成物に含まれる前記触媒組成物は、重合装置内に蓄積された高分子量の重合体の分解を活性化させる役割をすることができる。具体的に、前記触媒組成物に含まれる前記化学式1で表される遷移金属化合物および前記化学式3で表される遷移金属化合物は、高分子量の重合体内に存在する繰り返し単位のうち炭素-炭素二重結合(C-C double bonding)を分解および再結合させるオレフィン交差複分解を通じて、分子量の高い重合体を分子量の低いオリゴマーに分解させる過程で触媒の役割をすることができる。
【0066】
それにより、前記触媒組成物を含む洗浄液組成物を用いて高分子量の重合体が蓄積された重合装置を洗浄する場合、優れた洗浄効率を示し且つ安定した洗浄が行われることができる。
【0067】
前記触媒組成物の含量は、前記洗浄液組成物の全体含量を基準に、0.1~10000ppm、0.1~1000ppm、0.1~100ppm、または1~10ppmであってもよい。前記触媒組成物の含量が前記範囲内であることにより、前記オレフィン交差複分解反応の効率が高まって、重合装置内の高分子量の重合体の洗浄効率を高めることができる。
【0068】
前記洗浄液組成物に含まれる炭化水素系溶媒は、前記触媒組成物を溶解または分散させる役割をすることができる。すなわち、本発明に係る洗浄液組成物は、上述した遷移金属化合物が炭化水素系溶媒に溶解または分散された状態で存在する溶液(solution)形態の洗浄液組成物であってもよい。
【0069】
このような炭化水素系溶媒は、溶液重合方法により重合体を製造する過程で用いられる炭化水素系溶媒であってもよい。具体的に、前記炭化水素系溶媒は、芳香族炭化水素系溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン)であってもよい。前記炭化水素系溶媒が芳香族炭化水素系溶媒であることにより、上述した触媒組成物の溶解または分散が容易に行われることができる。また、溶液重合方法で用いられる炭化水素系溶媒と性質が同一または類似するため、洗浄完了後に重合装置内に一部の溶媒(炭化水素系溶媒)が残留しても溶液重合が円滑に行われることができる。
このような本発明の洗浄液組成物は、本発明に係る触媒組成物を製造した後、炭化水素系溶媒と混合する過程を経て製造されてもよい。
【0070】
前記重合装置内に蓄積されたジエン系重合体は、ジエン系単量体に由来した繰り返し単位を含む重合体、または共重合体であってもよい。具体的に、前記ジエン系重合体は、ブタジエン系重合体(例えば、ブタジエンゴム)、イソプレン系重合体(例えば、イソプレンゴム)、スチレン-ブタジエン系重合体(例えば、スチレン-ブタジエンゴム)、およびスチレン-ブタジエン-スチレン系ブロック共重合体からなる群から選択された1種以上であってもよい。また、前記ジエン系重合体は、重量平均分子量が30,000g/mol~100,000,000g/mol、50,000g/mol~80,000,000g/mol、または100,000g/mol~50,000,000g/molであってもよい。このようなジエン系重合体は、重合装置に含まれた重合反応器(重合反応器の壁面または下端)、撹拌器、または移送ラインなどに蓄積(固着)されていてもよい。
【0071】
また、前記重合装置の洗浄方法によりオリゴマー化されたジエン系オリゴマーは、重量平均分子量が100g/mol~10,000g/mol、100g/mol~8,000g/mol、または100g/mol~5,000g/molであってもよく、この範囲内で、より多い量のジエン系重合体の除去が可能であるため、洗浄効率が高く、洗浄完了後に重合装置内の溶媒と共に排出が容易であるという効果がある。
【0072】
また、本発明の一実施形態によると、前記洗浄液組成物は、重合装置内に蓄積されたジエン系重合体100重量部当たりに、洗浄液組成物に含まれた遷移金属化合物が0.001~1重量部、0.001~0.1重量部、0.001~0.01重量部、または0.001~0.005重量部で含まれるように投入されてもよく、この範囲内で、オレフィン交差複分解の効率に優れるため、より少ない量でも重合装置の洗浄が可能であり、安定した洗浄が可能であり、洗浄完了してから重合再開時までの前処理ステップの時間を節減できるという効果がある。
【0073】
本発明の一実施形態によると、前記重合装置の洗浄方法は、前記(S30)ステップの以前に、前記重合装置内に蓄積されたジエン系重合体を炭化水素系溶媒で膨潤させ、前記洗浄液組成物に含まれた遷移金属化合物の接近容易性を向上させるために、前記(S30)ステップの以前に、前記重合装置内のジエン系重合体を炭化水素系溶媒で膨潤させるステップ(S20)をさらに行ってもよい。ここで、前記炭化水素系溶媒は、脂肪族炭化水素系溶媒(例えば、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン)、または芳香族炭化水素系溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン)であってもよい。
【0074】
一方、前記膨潤させるステップ(S20)は、重合装置内の蓄積、すなわち、重合装置の壁面または撹拌装置などをはじめとして重合装置内に固着されたジエン系重合体を炭化水素系溶媒で膨潤させ、洗浄液組成物内の遷移金属化合物の接近容易性を向上させるためのステップであってもよい。前記膨潤させるステップの膨潤は20℃~100℃、または20℃~80℃で行われてもよく、この範囲内で、重合装置内に蓄積されたジエン系重合体の膨潤が最大化されるという効果がある。
【0075】
本発明の一実施形態によると、前記(S20)ステップまたは前記(S30)ステップの以前に、前記重合装置内で、希土類金属化合物および有機アルミニウム化合物を含有する重合用触媒系の存在下で前記ジエン系重合体を重合するステップ(S10)をさらに行ってもよい。前記有機アルミニウム化合物は、ジエン系重合用触媒として用いられる希土類金属化合物の助触媒であってもよい。
【0076】
前記希土類金属化合物は、ネオジム(Nd)、ランタン(La)、およびプラセオジム(Pr)からなる群から選択された1種以上を含んでもよく、具体例として、前記希土類金属化合物は、ネオジムを含んでもよい。また、前記有機アルミニウムは、トリアルキルアルミニウムまたはその水素化物であってもよい。具体例として、ジエチルアルミニウム、ジ-n-プロピルアルミニウム、ジイソプロピルアルミニウム、ジ-n-ブチルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウム、ジ-n-オクチルアルミニウム、ジフェニルアルミニウム、ジ-p-トリルアルミニウム、ジベンジルアルミニウム、フェニルエチルアルミニウム、フェニル-n-プロピルアルミニウム、フェニルイソプロピルアルミニウム、フェニル-n-ブチルアルミニウム、フェニルイソブチルアルミニウム、フェニル-n-オクチルアルミニウム、p-トリルエチルアルミニウム、p-トリル-n-プロピルアルミニウム、p-トリルイソプロピルアルミニウム、p-トリル-n-ブチルアルミニウム、p-トリルイソブチルアルミニウム、p-トリル-n-オクチルアルミニウム、ベンジルエチルアルミニウム、ベンジル-n-プロピルアルミニウム、ベンジルイソプロピルアルミニウム、ベンジル-n-ブチルアルミニウム、ベンジルイソブチルアルミニウム、ベンジル-n-オクチルアルミニウム、エチルアルミニウム、n-プロピルアルミニウム、イソプロピルアルミニウム、n-ブチルアルミニウム、イソブチルアルミニウム、およびn-オクチルアルミニウムからなる群から選択された1種以上またはその水素化物であってもよい。
【0077】
前述したように、本発明に係る触媒組成物は、前記化学式1および化学式3の遷移金属化合物からなる群から選択された1種以上と、前記ジアルキルL-タルトレートと、を含むことにより、一次的に有機アルミニウムの除去効率に優れ、二次的に有機アルミニウムの除去により遷移金属化合物を保護することにより、オレフィン交差複分解の効率が上昇して、より少ない量の遷移金属化合物を用いても、重合装置内のジエン系重合体の除去効率が向上することができる。それにより、重合装置の安定した洗浄が可能であり、洗浄完了してから重合再開時までの前処理ステップの時間を節減できるという効果がある。
【0078】
このような本発明に係る重合装置の洗浄方法は、希土類金属化合物および有機アルミニウム化合物を含有する重合用触媒系の存在下で重合されたジエン系高分子量重合体を迅速な時間内に優れた除去率で除去することができるため、重合装置の生産性および洗浄効率を高めることができる。
【0079】
本発明の一実施形態によると、前記(S30)ステップは、前記膨潤されたジエン系重合体をオリゴマー化させるために、前記触媒組成物(または洗浄用組成物)により、前記ジエン系重合体をオレフィン交差複分解させるステップであってもよい。具体的に、前記(S30)ステップは、ジエン系重合体内に存在する繰り返し単位のうち炭素-炭素二重結合(C-C double bonding)を分解および再結合させるオレフィン交差複分解を行うステップであり、この際、前記触媒組成物は、分子量の高いジエン系重合体を分子量の低いオリゴマーに分解する過程で触媒の役割をすることができる。
【0080】
このような(S30)ステップのジエン系重合体のオリゴマー化は60℃以上、80℃以上、または80℃~150℃の温度で行われてもよい。また、前記(S30)ステップのジエン系重合体のオリゴマー化は1時間~24時間、6時間~18時間、または12時間~15時間行われてもよい。前記温度および前記時間の範囲内でジエン系重合体のオリゴマー化が行われることにより、触媒組成物(または洗浄液組成物)に含まれた遷移金属化合物によるジエン系重合体のオリゴマー化が円滑に行われることができ、付随的な堆積物の形成を最小化しつつジエン系重合体をオリゴマー化することができる。
【0081】
一方、本発明の一実施形態によると、前記(S30)ステップにおいては、オレフィン系単量体、共役ジエン系単量体、および芳香族ビニル系単量体からなる群から選択された1種以上の単量体がさらに投入されて、前記ジエン系重合体のオリゴマー化が行われてもよい。前記オレフィン交差複分解反応を通じてジエン系重合体のオリゴマー化を行うためには、ジエン系重合体内に存在する炭素-炭素二重結合以外に、アルケン(alkene)基のような炭素-炭素二重結合を含む別の単量体の投入が必要である。それにより、前記(S30)ステップにおいては、触媒組成物と共に、オレフィン系単量体、共役ジエン系単量体、および芳香族ビニル系単量体からなる群から選択された1種以上の単量体が投入されてもよい。
【0082】
具体的に、前記オレフィン系単量体は、炭素数2以上のオレフィン系単量体であって、エテン、プロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、およびデセンからなる群から選択された1種以上であってもよい。
【0083】
また、前記共役ジエン系単量体は、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、ピペリレン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、イソプレン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、および2-ハロ-1,3-ブタジエン(ハロは、ハロゲン原子を意味する)からなる群から選択された1種以上であってもよい。
【0084】
前記芳香族ビニル系単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、1-ビニルナフタレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-(p-メチルフェニル)スチレン、および1-ビニル-5-ヘキシルナフタレンからなる群から選択された1種以上であってもよい。
【0085】
本発明の一実施形態によると、前記オレフィン系単量体、共役ジエン系単量体、および芳香族ビニル系単量体からなる群から選択された1種以上の単量体は、重合装置内に蓄積されたジエン系重合体100g当たりに、1ml~100ml、5ml~50ml、または5ml~30mlの当量になるように投入されてもよい。前記範囲内で単量体が投入されることにより、ジエン系重合体のオリゴマー化が円滑に行われることができる。
【0086】
このようなジエン系オリゴマーは、洗浄液組成物の第1炭化水素系溶媒に溶解された状態で存在するようになり、洗浄液組成物が重合装置から排出される際に共に排出されることができる。前記重合装置から排出された洗浄液組成物とジエン系オリゴマーとの混合物は、別の分離装置および蒸留装置に移送され、分離およびストリッピング過程などを経てもよい。
【0087】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇および技術思想の範囲内で多様な変更および修正が可能であることは通常の技術者にとって明らかであり、これらのみに本発明の範囲が限定されるものではない。
【0088】
<実施例>
製造例1
窒素充填されたグローブボックスにおいて、下記化学式7で表される化合物10gおよびCuCl 1.16gを500mlの丸底フラスコに入れ、マグネチックバー(magnetic bar)を入れた。フラスコをゴムセプタム(septum)で密封し、グローブボックス外へ取り出した後、窒素気体下で、シリンジ(syringe)を用いて、精製されたCH2Cl2 195mlを入れた。20mlのバイアルにN,N’-ジメチル-1-(2-ビニルフェニル)メタンアミン(N,N’-dimethyl-1-(2-vinylphenyl)mathaneamine)2.06gを入れ、シリコンセプタム(silicon septum)で密封した後、窒素気体下で、シリンジを用いて、精製されたCH2Cl2を入れて溶かした溶液を先に準備した混合物に添加した。添加後、バイアルに残っているN,N’-ジメチル-1-(2-ビニルフェニル)メタンアミン(N,N’-dimethyl-1-(2-vinylphenyl)mathaneamine)を、それぞれ2×1mlのCH2Cl2を用いて、残さず触媒反応容器に添加した。500mlの丸底フラスコ反応容器に還流冷却器を設け、温度を40℃に昇温した後、窒素気体下で3時間撹拌させた。反応後、温度を常温に下げた後、マグネチックバーを除去し、減圧蒸留により溶媒を除去した。減圧蒸留により溶媒を除去した後、フラスコに残った反応混合物が溶けられる少量のCH2Cl2を入れ、固体を完全に溶かした後、CH2Cl2の1.5倍程度のノルマルヘキサンを添加した。ノルマルヘキサンを用いて、反応混合物をセライト(celite)濾過により白色の固体沈殿物を除去して明るい緑色の濾過液を得た。この緑色の濾過液を減圧乾燥して黒緑色の固体を得ると、シリカカラムで精製して、緑色の下記化学式5-1で表される化合物を75%の収率で得た。合成された化合物に対する1H NMRは、499.85MHzのVarian Mercury 500を用いてCDCl3に溶解させて測定した。
【0089】
【0090】
前記化学式7中、
Mは、ルテニウムである。
【0091】
【0092】
1H NMR(CDCl3、500MHz)δ18.72(s、1H)、7.46(broad s、1H)、7.12(broad s、1H)、7.03(broad s、4H)、6.93(broad s、1H)、6.75(broad s、1H)、4.18(broad s、6H)、2.8-2.2(18H)、1.94(broad s、6H)。
【0093】
製造例2
250mlのフラスコに下記化学式8で表される化合物11.8gをトルエン100mlに入れた後、1時間撹拌させた。前記撹拌中の溶液上に下記化学式7で表される化合物20gを投入し、常温で3時間撹拌させた。撹拌後、フラスコ内の反応溶液が赤色から淡い緑色に変わると、ノルマルヘキサンを投入して、淡い緑色の化合物を沈殿させた。沈殿した化合物を濾過した後に減圧乾燥させ、92%の収率で、下記化学式8で表される化合物が下記化学式7のルテニウムに配位された下記化学式6-1で表される遷移金属化合物を得た。合成された化合物に対する1H NMRは、499.85MHzのVarian Mercury 500を用いてCDCl3に溶解させて測定した。
【0094】
【0095】
前記化学式7中、
Mは、ルテニウムであり、前記phは、フェニル基である。
【0096】
【0097】
【0098】
前記化学式6-1中、
Mは、ルテニウムである。
【0099】
1H NMR(CDCl3、500MHz)δ19.10(s、1H)、8.18(d、2H)、7.64(d、2H)、7.48(t、11H)、7.38(d、2H)、7.08(t、2H)、7.00(broad s、2H)、6.77(broad s、2H)、6.49(d、2H)、6.15(d、2H)、4.07(broad d、4H)、2.98(s、6H)、2.88(s、6H)、2.61-2.21(18H)。
【0100】
実施例1
250mlのアンドリューガラス(Andrew glass)に自然硬化したポリブタジエンゴム5g(MV:123MU)およびノルマルヘキサン100gをそれぞれ投入して、ブタジエンゴムを膨潤させた。グローブボックス(glove box)内で、エチルベンゼンに溶かした前記製造例1の化学式5-1で表される遷移金属化合物0.2mg(質量濃度2ppm)、0.45μMのネオジムおよび有機アルミニウム化合物を含む重合用触媒0.75ml、スチレン単量体1.0ml、および前記遷移金属化合物1当量に対して有機アルミニウムスカベンジャ(scavenger)としてジエチルL-タルトレート(Diethyl L-tartrate)20当量を前記それぞれのアンドリューガラスに順次投入した。次いで、アンドリューガラスを80℃の恒温組においてそれぞれ一定時間撹拌した。その後、アンドリューガラス内の圧力を除去し、アンドリューガラス内の溶液をメッシュに濾過してゴムを回収した。
【0101】
実施例2
前記実施例1において、前記ジエチルL-タルトレート20当量の代わりに10当量を投入したことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0102】
実施例3
前記実施例1において、前記ジエチルL-タルトレート20当量の代わりに5当量を投入したことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0103】
実施例4
前記実施例1において、前記ジエチルL-タルトレート20当量の代わりに3当量を投入したことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0104】
実施例5
前記実施例1において、有機アルミニウムスカベンジャとしてジエチルL-タルトレートの代わりに、ジブチルL-タルトレート(Dibutyl L-tartrate)を投入したことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0105】
実施例6
前記実施例5において、ジブチルL-タルトレート20当量の代わりに10当量を投入したことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0106】
実施例7
前記実施例5において、ジブチルL-タルトレート20当量の代わりに5当量を投入したことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0107】
実施例8
前記実施例1において、有機アルミニウムスカベンジャとしてジエチルL-タルトレートの代わりに、ジプロピルL-タルトレート(Dipropyl L-tartrate)を投入したことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0108】
実施例9
前記実施例8において、ジプロピルL-タルトレート20当量の代わりに10当量を投入したことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0109】
実施例10
前記実施例1において、前記化学式5-1で表される遷移金属化合物の代わりに、前記化学式6-1で表される遷移金属化合物を投入したことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0110】
比較例1
前記実施例1において、ネオジムおよび有機アルミニウム化合物を含む重合用触媒、および有機アルミニウムスカベンジャであるジエチルL-タルトレートを投入していないことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0111】
比較例2
前記実施例1において、有機アルミニウムスカベンジャであるジエチルL-タルトレートを投入していないことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0112】
比較例3
前記比較例2において、前記化学式5-1で表される遷移金属化合物を2ppmの代わりに20ppm投入したことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0113】
比較例4
前記実施例1において、有機アルミニウムスカベンジャとしてジエチルL-タルトレートの代わりに、前記製造例1で用いられた化学式7で表される遷移金属化合物を20ppm投入したことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0114】
比較例5
前記実施例1において、有機アルミニウムスカベンジャとしてジエチルL-タルトレートの代わりに、前記化学式6-1で表される遷移金属化合物を20ppm投入したことを除いては、実施例1と同様の方法により行った。
【0115】
比較例6
前記実施例1において、有機アルミニウムスカベンジャとしてジエチルL-タルトレートの代わりに、アクリル酸(acrylic acid)を投入したことを除いては、前記実施例1と同様の方法により行った。
【0116】
<実験例>
実験例1
前記実施例および比較例から回収されたブタジエンゴムを80℃の真空オーブンで12時間減圧乾燥させた後、ブタジエンゴムの重さを測定し、最初投入されたブタジエンゴムの重さと対比してゴム除去率(%)を計算することにより、洗浄効率(cleaning rate)を確認した。この際、洗浄(除去)されたブタジエンゴムの量が多いほど、すなわち、メッシュにより濾過されたブタジエンゴムの量が少ないほど、高いゴム除去率(%)を示すと見ることができる。
【0117】
【0118】
前記表1を参照すると、本発明に係る前記化学式5-1で表される遷移金属化合物または化学式6-1で表される遷移金属化合物をジアルキルL-タルトレートと共に投入した実施例1~10は、ゴム除去率に優れることを確認することができる。
【0119】
一方、ネオジムおよび有機アルミニウム化合物を含む重合用触媒を投入していない場合(比較例1)には、化学式5-1で表される遷移金属化合物だけによってもゴム除去率が91%として優れるが、ネオジムおよび有機アルミニウム化合物を含む重合用触媒を投入した場合(比較例2)には、化学式5-1で表される遷移金属化合物だけによってはゴム除去率が6%として顕著に低下することを確認することができる。また、化学式5-1で表される遷移金属化合物の含量を20ppmに増大させた比較例3は、少量(2ppm)の遷移金属化合物が投入された比較例2に比べて、ゴム除去率が向上したことを確認することができる。
【0120】
これは、ジエン系高分子量重合体の製造時に用いられる重合用触媒に含まれる有機アルミニウムが遷移金属化合物のオレフィン交差複分解反応を妨害して、少量の遷移金属化合物を用いた化学的なゴム除去方法によっては蓄積物の除去が難しいということを示す。
【0121】
その反面、前記実施例1~10は、スカベンジャの投入により、化学式5-1または化学式6-1で表される化合物を少量(2ppm)用いても、ゴム除去率が比較例2より顕著に優れ、さらには比較例3と同等であるかまたはそれ以上のゴム除去率を示した。
【0122】
また、スカベンジャとしてジアルキルL-タルトレートではなく前記化学式7で表される遷移金属化合物、前記化学式6-1で表される遷移金属化合物、またはアクリル酸を用いた比較例4~6は、ゴム除去率が実施例に比べて低下したことを確認することができる。
【0123】
これにより、本発明に係る前記化学式5-1で表される遷移金属化合物または化学式6-1で表される遷移金属化合物をジアルキルL-タルトレートと共に投入する場合、少量の遷移金属化合物を用いても、ゴム除去率は顕著に向上することを確認した。