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特許7139132焼成前セラミックス積層体の切断方法およびそれに用いる装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】焼成前セラミックス積層体の切断方法およびそれに用いる装置
(51)【国際特許分類】
   H01G 13/00 20130101AFI20220912BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
H01G13/00 391H
H01G4/30 311A
H01G4/30 517
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018062231
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019175990
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】岸下 真一
【審査官】菊地 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-103445(JP,A)
【文献】特開2003-045738(JP,A)
【文献】特開2000-024988(JP,A)
【文献】特開2003-127123(JP,A)
【文献】特開2001-010866(JP,A)
【文献】特開2008-265003(JP,A)
【文献】特開2000-263535(JP,A)
【文献】特開2000-254910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 13/00
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台上に固定可能に配置され、焼成前セラミックス積層体または小積層体を保持可能な固定保持台と、
前記固定保持台に取り付けた案内手段と、
前記案内手段に係止可能で前記固定保持台に近接配置され、前記焼成前セラミックス積層体または小積層体の一部を保持可能な可動保持台と、
前記固定保持台と前記可動保持台の並列配置面に対して上方に配置された片刃を有する切断具と、を備え、
前記切断具の片刃面を前記可動保持台側に面して配置し、前記切断具を用いて前記焼成前セラミックス積層体または小積層体を切断するときは、この切断具の移動により発生する力で前記可動保持台が前記案内手段を案内として前記固定保持台から切断方向に直角な方向に遠ざかるよう構成された焼成前セラミックス積層体の切断装置。
【請求項2】
前記固定保持台と前記可動保持台のいずれかの切断面側側面に、切断面方向に延びる突起を形成し、該突起は前記固定保持台および前記可動保持台の前記焼成前セラミックス積層体または小積層体の載置面より下方に形成されていることを特徴とする請求項に記載の焼成前セラミックス積層体の切断装置。
【請求項3】
基台上に固定可能に配置され、焼成前セラミックス積層体または小積層体を保持可能な固定保持台と、
前記固定保持台に取り付けた案内手段と、
前記案内手段に係止可能で前記固定保持台に近接配置され、前記焼成前セラミックス積層体または小積層体の一部を保持可能な可動保持台と、
前記固定保持台と前記可動保持台の並列配置面に対して上方に配置された片刃を有する切断具と、を備える切断装置を用いて、焼成前セラミックス積層体を切断する、焼成前セラミックス積層体の切断方法であって、
前記固定保持台、及び、前記固定保持台に近接配置された前記可動保持台の双方に渡るように、前記焼成前セラミックス積層体または小積層体を載置する工程と、
片刃面を前記可動保持台側に面して配置した前記切断具を用いて前記焼成前セラミックス積層体または小積層体を切断し、前記切断具の移動により発生する力で前記可動保持台を前記案内手段を案内として前記固定保持台から切断方向に直角な方向に遠ざかるよう移動させる工程と、を含む、焼成前セラミックス積層体の切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス焼成前のいわゆるグリーンシートの切断方法およびそれに用いる装置に係り、特にセラミックコンデンサを製造するのに好適な焼成前セラミックス積層体の切断方法およびそれに用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばセラミックスコンデンサを製造するには、シリコン等の原材料粉体に有機バインダーや溶剤を混合して均一化し、スラリー状態にする。その後このスラリー状材料を乾燥等により脱水し、チューインガム程度の硬度および柔軟性を有するグリーンシートと呼ばれる誘電体シートを形成する。誘電体シートに内部電極を印刷した後、誘電体シートを積み重ね、それに圧力を掛けてプレス加工する。その際、積層されたシートは金属製の所定の大きさの型枠に入れられており、次工程では、この型枠からの取り出しを実行し、取り出した積層体を所定の大きさのチップに切断し、焼成行程に移る。焼成行程では、1000~1300℃程度の高温で積層体を焼成し、以下、外部電極の取り付けやその焼き付け、表面のメッキ加工等が実施される。
【0003】
このようなセラミックス電子部品の製造方法の例が、特許文献1に記載されている。この公報では、上記セラミックスコンデンサの製造過程において、プレス後の積層体をx方向とy方向に沿って切断し、その後焼成により複数の部材を形成している。その切断の際には、ダイシングや押し切り等の機械的な手段を用いることまたはレーザを用いて光学的に切断することが開示されている。
【0004】
ところで、金属製型枠からの積層体の取り出しとチップへの細分化の工程は、グリーンシートの硬度および剛性が低いので、加工中に加えられる各種応力およびハンドリングにより、分割されたチップの形状に対し多大な影響を与える恐れがある。特に各チップの設計において内部に空洞または厚さや密度、硬度等が異なる部分を有すると、その部分に局所的な応力が加わり積層体を変形させる恐れが生じる。
【0005】
グリーンシートの積層体をチップ形状に細分化する切断の他の例が、特許文献2に記載されている。この公報では、小型かつ大容量で高信頼性のコンデンサ素子を歩留まり良く効率的に製造するため、以下の工程を含んでいる。すなわち、マザーブロックを行状に分断して細長のほぼ直方体形状を有する複数の積層体ブロックに個片化する工程と、複数の積層体ブロックのそれぞれを転動させる工程と、転動後の複数の積層体ブロックを列状に分断してほぼ直方体形状を有する複数の積層体チップに個片化する工程を含む。そして転動工程においては、ステージ上に載置された複数の積層体ブロックをその並び方向に沿って移動させて順次ステージの端部に押しやり、端部から回転落下させ、落下した複数の積層体ブロックをそれぞれステージ外の領域で着地させている。
【0006】
グリーンシートまたはグリーンシート積層体の切断に用いる切断刃の例が、特許文献3~5に記載されている。これらの公報においては、安定した形状精度(特許文献3)、切断方向の制御(特許文献4)および積層体に生じる応力の低減(特許文献5)等を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-3847号公報
【文献】特開2015-84406号公報
【文献】特開2017-42911号公報
【文献】特開2013-826号公報
【文献】特開2012-71374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の複数のグリーンシートを含む焼成前の積層体シートの切断においては、積層体の積層方向における密度や硬度、剛性、弾性等の不均一については十分には考慮されていない。例えば特許文献1では、積層体を所定形状に切断することは考慮されているが、切断時に切断刃や保持治具等によりグリーンシート積層体に不均一な力が加わる恐れが生じ、それにより積層体に変形や内部応力を生じて焼成時に形状変化を起こすことについての配慮はなされていない。
【0009】
特許文献2では、マザーブロックを粘着シートで保持し、このマザーブロックを押切刃で複数の平行線に沿って切断している。しかしながらこの方法においては、押切刃の押し込みによりマザーブロックと刃の接触面で刃の移動方向にマザーブロックが引き込まれ、マザーブロックの切断面近傍が微小変形するまたは残留応力が発生することについては考慮されていない。特にマザーブロックの切断面近傍に空洞や密度の低下した部分が形成されていると、この変形はより大きくなる恐れがある。
【0010】
このような切断刃によるグリーンシート積層体の引き込まれを低減する切断刃の各種形状を示す、特許文献3~5に記載のものにおいては、切断刃が最初に積層体に当設する刃の端部の形状や粗さを変えて積層体の引き込まれを軽減している。しかしながら、これらの切断刃を用いても積層体が切断刃の厚さ分移動できなければ、積層体はチューインガムのように弾性に乏しく剛性も低いので、容易に塑性変形を生じる。すなわち、切断面近傍には切断刃の厚さ分の変形が生じやすく、それに伴い残留応力も発生する。
【0011】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、複数のグリーンシートを含む焼成前の積層体を分割するに際して、切断部近傍に発生する変形と残留応力を極力低減することにある。本発明の他の特徴は、積層体が内部に空洞や異なる密度、剛性等を有していても、切断時に切断された積層体チップの形状変形や残留応力を低減して、焼成後の積層体チップの歩留まりを向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明の特徴は、金属製型枠内に形成された複数枚のグリーンシートを含む焼成前のセラミックス積層体を切断して、焼成前セラミックス積層体チップを得る焼成前セラミックス積層体の切断方法において、前記金属製型枠と前記積層体の周縁部を、片刃を有する切断具の片刃面を前記金属製型枠に対向させて前記積層体の厚さ方向に移動させて切断線を形成し、順次前記積層体の四周部を切断して型枠から切り離す工程と、 片刃を有する前記切断具もしくは前記切断具と異なる片刃を有する切断具を斜め下に移動させて前記積層体を切断し、積層体チップ1個分だけの幅の小積層体を得る第1の細分化工程と、前記第1の細分化工程で得られた積層体チップ1個分の幅を有する前記小積層体を、前記第1の細分化工程時の切断方向と実質的に直交する方向で切断して焼成前のセラミックス積層体チップを得る第2の細分化工程とを含むことにある。
【0013】
そしてこの特徴において、前記第1の細分化工程においては前記小積層体側に、第2の細分化工程においては前記積層体チップ側に、それぞれ切断具の片刃面を対向させて切断加工することを特徴とする。また、前記第2の細分化工程においては、前記小積層体を固定保持し、前記セラミックス積層体チップを切断方向に直角な方向に移動可能に保持することを特徴とする。
【0014】
また上記特徴において、前記第1の細分化工程においては、前記積層体を固定保持し、前記小積層体を切断方向に直角な方向に移動可能に保持することを特徴とする。または、前記第1の細分化工程における前記小積層体の切断方向に直角な方向の移動は、前記切断具が積層体の厚さ方向と切断方向に移動することにより片刃面に発生する力(即ち、前記切断具が切断中に前記小積層体に加える力)によるものであることを特徴とする。前記第2の細分化工程における前記積層体チップの切断方向に直角な方向の移動は、前記切断具が小積層体の厚さ方向と切断方向に移動することにより片刃面に発生する力によることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、基台上に固定可能に配置され、焼成前セラミックス積層体または小積層体を保持可能な固定保持台と、この固定保持台に取り付けた案内手段と、この案内手段に係止可能で前記固定保持台に近接配置され、前記焼成前セラミックス積層体または小積層体の一部を保持可能な可動保持台と、前記固定保持台と可動保持台の並列配置面に対して上方に配置された片刃を有する切断具とを備え、前記切断具の片刃面を前記可動保持台側に面して配置し、前記切断具を用いて前記セラミックス積層体または小積層体を切断するときは、この切断具の移動により発生する力で前記可動保持台が前記案内手段を案内として前記固定保持台から切断方向に直角な方向に遠ざかるよう構成されることにある。
【0016】
そしてこの特徴において、前記固定保持台と前記可動保持台のいずれかの切断面側側面に、切断面方向に延びる突起を形成し、該突起は前記固定保持台および前記可動保持台の前記セラミックス積層体または小積層体の載置面より下方に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数のグリーンシートを含む焼成前の積層体の切断において、金属製の型枠からの取り出し時には積層体チップを形成する面を平面とした片刃の切断刃で押切し、型枠から取り除いた後は、切断側を固定し被切断側を切断刃の切断方向に直角な方向に移動可能にしたので、複数のグリーンシートを含む積層体の分割において、切断部近傍に発生する変形と残留応力を極力低減できる。また、積層体が内部に空洞や異なる密度、剛性等を有していても、切断時に切断された積層体チップの形状変形や残留応力を低減し、焼成後の積層体チップの歩留まりを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る焼成前セラミックス積層体の切断方法の一実施例を説明する模式斜視図である。
図2図1の方法に使用する切断具の動作を説明する図である。
図3図1の方法に使用する切断具の一例を示す斜視図である。
図4】本発明に係る切断方法の細分化工程で使用する切断装置の一実施例の正面図(同図(a))、平面図(同図(b)および部分側面図(同図(c))である。
図5】切断による積層体の変形を説明する図である。
図6】本発明に係る切断方法の細分化工程の繰り返しを説明する図である。
図7】本発明に係る切断方法の一実施例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る焼成前セラミックス積層体の切断方法とそれに用いる切断装置の一実施例を、図面を用いて説明する。なお、各図面は本発明の内容を明確にするため実際の寸法とは異なっており、本発明の特徴点を強調して記載した模式図である。
【0020】
図1は、いわゆるグリーンシート積層体と呼ばれる焼成前セラミックス積層体を切断する本発明に係る切断方法を説明するための図である。ここで、図1(a)は第1切断装置50を用いて型枠20内に形成されたグリーンシート積層体(以下積層体とも称す)30を、型枠20から外す様子を示しており、第1切断装置の主要部を模式的に斜視図で示す。前工程では内部配線等が作製されたグリーンシートを積層し、型枠20内で圧縮して上面が平面の積層体30が形成されている。積層体30は、型枠20の近傍に将来の積層体チップ作製には寄与しない周囲部32を取り代として形成しているので、ほぼ型枠20の幅の大きさであって型枠20よりわずかに小さい幅の切断具(切断刃)10を用いて、周囲部32を切断する。このとき、切断具(切断刃)10の片刃面が型枠20と対向するような向きにして切断を行う。ここでグリーンシート積層体30は、焼成前はチューインガムと同程度の剛性及び弾性、硬度等しか有しておらず、切断具10を用いて切断すると、切断具10に接する積層体30の部分は容易に塑性変形する。そのため、切断具10を用いて積層体30を切断する場合には、片刃式の切断具10を矢印40で示すように、周囲部32へ上方から押し当てるようにして切断する。この詳細は後述する。
【0021】
型枠20の4周部を図1(a)に示すように切断具10で加工することで、将来積層体チップとして使用するチップ形成部34が型枠20から取り出される。次に取り出したチップ形成部34を、詳細を後述する第2切断装置200で切断する。この様子を図1(b)に示す。図1(b)は第2切断装置200の主要部の模式的斜視図である。図1(a)でチップ形成部34であったグリーンシート積層体は、以下の図では単に積層体230と呼ばれる。
【0022】
第2切断装置200は、第1切断装置50と同様の構成であるので、第1切断装置50と第2切断装置200を兼用することもできる。第2切断装置200は片刃に形成された切断具(切断刃)210を備え、積層体230に形成されたチップのパターンに応じて、長さ方向(L方向)及び幅方向(W方向)にそれぞれ複数回、それぞれ所定幅で切断する。
【0023】
ここで第2切断装置200では、切断される積層体230の下方に、固定保持台250と可動保持台240が配設されており、可動保持台240は切断される積層体の切断長さに応じた長さ方向(L方向)の長さを有しており、一方固定保持台250は積層体230の長さ方向(L方向)の全長程度の長さを有している。そして積層体230の切断直前までに、固定保持台250と可動保持台240は、固定保持台250に形成した突起が可動保持台240の側面に接するまで近づけて配置される。積層体230の切断時には、矢印310で示すように切断具210を斜め下方に移動させて、切断時の抵抗を抑制している。固定保持台250は切断前の切断具210の移動中も切断中も、図示しないベースに固定されているが、可動保持台240は切断具210の切断中に切断具210が積層体230に加える力だけで長さ方向(L方向)に動くことができる。これは、後述する積層体230を切断して積層体チップにするときも同様であり、切断中に切断具210が積層体チップに加える力だけで可動保持台240は可動方向に動くことができる。
【0024】
積層体230を所定幅に切断して得られた積層体230の部分260は、可動保持台240から取り外され、積層体チップとするために新たに第2切断装置200に載置される。この様子を図1(c)に示す。図1(c)では、積層体230の部分260は小積層体260であり、上記切断時とは90°位置を変えている。小積層体260の内部に形成された積層体チップの配置に応じて、小積層体260は所定幅に切断される。この過程で切断して得られる積層体チップが、正方形であれば、可動保持台240は図1(b)で使用したものを用いることが可能であるが、積層体チップが長さWを有する長方形であれば可動保持台240を交換して積層体チップの大きさに応じた可動保持台240aにすることが望ましい。なお、作業効率等を考慮して同一の可動保持台240を使用することはもちろん可能である。この積層体チップを得る切断においても、切断具210は矢印310で示された斜め下方に移動させられる。以上の一連の切断動作が、本発明の切断方法を構成する。
【0025】
次に、図2および図3を用いて、図1(b)に示した積層体230の切断方法を詳細に説明する。図2(a)は、切断具210が積層体230の上面に当接する前の状態を示し、図2(b)は切断具210が積層体230の内部に入り込んだ状態を示し、図2(c)は切断具210が積層体230を完全に切断した状態を示す。図2の各図は正面図と側面図をそれぞれ示す。図3は、この切断に用いる切断具210の詳細を示す斜視図である。初めに図3を参照して、切断具210は全長Cで全幅Cの矩形の刃であり、長さ方向の中間部から下端まで一方の面が平坦面14、214から斜めに切り落とされた片刃面16、216に形成されている。この切断具210の一例としては、全長50mm、全幅130mmであり、片刃面16、216の長さCが30mm、厚さCが0.1mmである。すなわち、切断具210は、ほぼ片刃の剃刀の刃のような構成であり、切断具210を真下に移動させても積層体230を変形させることが少ないと思われるかもしれないが、積層体230の剛性や弾性が低く塑性変形しやすいことと、積層体が必ずしも厚さ方向に均一には形成されず内部電極232や空洞等が形成されている場合もあることのため、切断具210による切断時の抵抗の低減が求められている。そこで本発明では、切断具210による抵抗がより少なくなるように、切削角θが真下に下した場合のθから斜めに移動させたθへ減少させ、これにより切断具210と積層体230の間の抵抗を低減している。この方法を、以下に示す。
【0026】
積層体230の幅方向(W方向)長さより幅広に形成された切断具210を用い、図2(a)の初期状態では、切断具210を積層体230より距離Dだけ前方にオフセットさせる。切断具210が積層体230の上面に当接するまでこの状態を維持して矢印300の方向に切断具210を移動させる。切断具210が積層体230に当接したら、切断具210の移動方向が斜め下方になるように、切断具210を後方に引きながら下方に移動させる。図2(b)に示す切断具210が積層体230に切り込んだ状態では、切断具210の前部は、初期オフセット量より小さいDだけ積層体230からオフセットしている。切断具210のオフセット量が低下したので、切断具210の後部は積層体230からはみ出ている。次に切断が完了すると、図2(c)に示すように、切断具210の前部のオフセット量はなくなり、切断具210は後部で積層体230から距離Dだけオフセットするようになる。
【0027】
上記切断において、切断具210は片刃に形成されており、刃面側は所定幅に切断され可動保持台240に載置されて残る小積層体260側に面するように配置される。なおこれは、図1(b)に示すように、積層体230から小積層体260を切り出すときも同様であり、片刃の刃面は、切り出される小積層体260側に面するように配置されて切断が行われる。この理由は以下のとおりである。小積層体260が形成される前の途中段階である図2(b)に示すように、切断具210が積層体230の内部に入り込むと、入り込んだ切断具210の容積234だけ積層体230は瞬間的に変形させられる。ここで切断具210の裏面212側と当接する積層体残部262を形成することとなる部分は、切断具210の裏面212が平面であるため、変形を受けることがほとんどない。一方切断具210の片刃面216側は切断具210により押圧力を受ける。図5(b)を参照する。図5(b)は図2(b)の状態における力の関係を示す図であり、切断具210の下方への動きにより切断具210から積層体230に下方への力Fが加わり、その片刃面216に垂直方向の分力Fが加わって、積層体230を可動保持台240の長さ方向に押し出そうとする。可動保持台240はほぼ摩擦なしにレール170(図4参照)をガイドとして長さ方向に移動できるので、図2(c)の状態である切断完了時には長さ方向大きさLの小積層体260と可動保持台240が一緒に切断具210から離れ、切断具210からの押圧力は解放される。したがって、切断に要する時間を短くすることにより、切断具210からの押圧力付与時間を低減し、塑性変形する前に小積層体260を切断具210から切り離すことができる。同様に、残留応力の発生前に小積層体260の切り離しが可能になる。
【0028】
次に、図4を用いて上記切断方法を実施する本発明に係る第2切断装置200の一実施例を説明する。図4(a)は、第2切断装置200の正面図であり、図4(b)はその平面図、図4(c)は右部分側面図である。定盤等の図示しないベース上にXテーブル270が載置されている。Xテーブル270の裏面側には、スライダ272が取り付けられており、ベースに固定して取り付けたレール274上をX方向(図4において左右方向)に滑り移動可能になっている。Xテーブル270には、切断対象であるグリーンシート積層体230より大きく形成された固定保持台250と、積層体230を切断して小積層体260を作製する際に小積層体260が載置される可動保持台240が載置されている。可動保持台240の長さはほぼ小積層体260の長さである。従って、切断対象である積層体230の長さまたは切断されて形成される小積層体260の長さ(L)に応じて、可動保持台240は交換して使用される。図4(a)は切断直前の様子を示している。この状態では、固定保持台250はXテーブル270に固定保持されている。一方可動保持台240は、固定保持台250の側面に形成した高さ約100μmの突起に可動保持台240が接するまで固定保持台250にレール170をガイドとして接近させられている。可動保持台240はレール170に規制されるほかは長さ方向(図4(a)で左右方向)に自由に移動できる。ここで図4(c)に示すように、可動保持台240の幅方向中間部の2カ所の下側には、レール溝242が平行に形成されており、このレール溝242はXテーブル270の2個のレール170(図4(b)参照)に、長手方向に移動自在に係止する。
【0029】
可動保持台240と固定保持台250のそれぞれの内部にはそれぞれの上面に連通する複数の真空吸着路132、134が形成されており、可動保持台240と固定保持台250に載置される積層体230を真空保持する。可動保持台の真空吸着路132を図示しない真空ポンプ等の吸着源に接続するため、可動保持台240には真空吸着路接続具136が設けられている。図示しないが固定保持台250も同様の構成である。なお本実施例では積層体230を真空吸着して積層体230を可動保持台240と固定保持台250に保持しているが、保持方法は真空吸着に限らず、磁気吸着等も使用することができる。ただし、積層体230に余分な負荷を加える方法は避けることが望ましい。
【0030】
併置された可動保持台240と固定保持台250の上面には、真空吸着により積層体230が相対移動しないように載置されている。その際、固定保持台250の可動保持台240側端面から、可動保持台240の反対側までの積層体230の長さが所望の長さになるよう、可動保持台240上に積層体230が位置合わせされている。可動保持台240上の積層体230および固定保持台250上の積層体230の変形や外力の付与を防止するため、各保持台240、250の上面を覆うように保持カバー122、124が各保持台240、250に固定されている。
【0031】
積層体230の切断位置、すなわち固定保持台250の突起252側であって突起252の根元に相当する端面位置に切断具210の裏面212が位置するように切断具210が配置されている。切断具210は、切断装置110の切断具支持部材112に取り付けられており、切断具支持部材112は、上下方向に延びる軸114に上下動可能に保持されている。軸114の上端には軸駆動手段(モータ)116が設けられている。モータ116は配線118により制御器100に接続されており、制御器100は切断具210の高さ位置、移動速度および切断装置110の長さ方向位置を制御する。切断装置110の長さ方向駆動手段には、例えばXテーブル270上に配置したレール276とそのレール276上を滑り可能なスライダ278等を用いることができる。切断時には、切断具210の高さ方向を制御器100で制御するが、切断完了時には切断具210の片刃面216の先端は積層体230よりわずかに下方に位置する必要がある。そのため固定保持台250に突起252を形成し、切断具210の刃先が固定保持台250に干渉するのを防止する逃げとなっている。従って、突起252は固定保持台250の上面から十分離れた下方に形成する。
【0032】
積層体230の切断完了時には、可動保持台240は切断具210から加えられる力で固定保持台250から遠ざかるが、次の切断のためには可動保持台240を固定保持台250まで戻す必要がある。固定保持台250はXテーブル270に固定されているので、その移動はXテーブル270で実行する。なお、積層体230を切断位置へ動かすために、積層体移動装置150が設けられている。
【0033】
可動保持台移動装置140はエアシリンダ142であり、往復動可能な軸146を備え、エアシリンダ142に加圧空気を供給する駆動源(圧縮機)144が付設されている。駆動源144は配線148で制御器100に接続されており、制御器100はエアシリンダ142の移動を制御する。同様に、積層体移動装置150には、往復動可能な軸156と軸156に係合するガイド152と軸156を駆動する駆動部(モータ)154を備える。駆動部154は配線158で制御器100に接続されており、制御器100は軸156の移動を制御する。なお、積層体移動装置150をガイドと軸の構成としたが、スライダとレールやエアシリンダ等、直動できるものであればどのような構成をも使用できる。同様に、切断装置110の移動装置にも直動できる種々の移動手段を使用できる。
【0034】
次に図5により、切断具10、210により積層体30、230に生じる変形を説明する。図5(a)は第1切断装置50における積層体30の切断を示す。積層体30は、厚さ0.5mm~1mm程度の型枠20a~20n内焼成前セラミックスを充填し、それを型枠20a~20nごと積層して形成される。型枠20a~20nは、周辺部でボルト等により隙間無く締結されて、型枠20を形成する。切断具10が積層体30内に挿入されると、積層体30は弾性に乏しいので切断具10の体積だけ塑性変形を生じて積層体30の表面から飛び出し変形部36が形成される。このとき、切断具10の裏面12側は平面なので、切断によりほぼ影響を受けないが、片刃面16側は型枠20との距離も短く切断具10により加えられた力を解放する余裕がないので、変形部36が生じる。この変形は以後の工程で使用しない部分であるので製品となる部分には影響せず、製品の積層体30には変形も残留応力も生じない。
【0035】
一方、先に述べたように、第2切断装置200での切断具210による積層体230の切断では、積層体230を端部側に解放しようとする力の分力Fが作用する(この分力Fにより可動保持台240,240aは、可動方向に移動する)。したがって、切断時間を短くすれば実質的に積層体230の変形を生じる前に、積層体230の一部が積層体230から解放され、切断された部分260には変形も残留応力も生じない。なお、切断されて残った積層体部分230(図6の262に相当)は、図5(a)の裏面側と同様に切断による影響を実質的に受けないので、こちらの側にも変形や残留応力は生じないか実質的に無視できる。
【0036】
1個の積層体230から、積層体230に形成されたチップのパターンに応じて複数回切断を繰り返す様子を図6に示す。図6(a)は積層体230の1回目の切断が終了した時点を示す図であり、図6(b)は可動保持台240を固定保持台250に隣接するまで戻す図である。また図6(c)は、可動保持台240と固定保持台250を1ピッチ分だけ、すなわちチップ1個分だけ移動させる図であり、図6(d)は積層体残部262を移動させた可動保持台240と固定保持台250の位置に移動させるとともに、切断具210を新たな可動保持台240と固定保持台250の境界に位置させる図である。
【0037】
1回目の切断が終了すると、積層体230は所定長さの小積層体260と残部262に分かれる。小積層体260は切断具210の切断力により可動保持台240とともに切断位置から遠ざかり、小積層体260は可動保持台240から外され(矢印280)、次の加工を待つ。一方可動保持台240は矢印282の向きに固定保持台250に近づくよう移動させられる。
【0038】
可動保持台240が固定保持台250に接触したら、可動保持台240と固定保持台250をXテーブル270を駆動して、1ピッチ分だけ切断具210から遠ざかる方向に移動させる(矢印284、286)。次に積層体移動装置150を駆動して、積層体残部262を切断方向に押し出す(矢印288)。それとともに切断具210を可動保持台240と固定保持台250の境界へ、1ピッチ分だけ移動させる(矢印290)。第2回目の切断位置に可動保持台240、固定保持台250および切断具210が位置決めされたので、切断具210を矢印方向300に移動させ、上述した方法で第1回目と同様に積層体残部262の切断を実行する。
【0039】
以上説明した本発明による切断方法のフローチャートを、図7に示す。図示しない前工程でグリーンシートの積層体30が型枠20内に収容され、圧縮されて水分等が除去される。その後、第1切断装置50の切断位置に型枠20ごと積層体30が運ばれ固定される(ステップS700)。図1(a)に示した方法で、型枠20からチップ形成部34を含む積層体30が切断され、取り出される(ステップS710)。次いで第2切断装置200へ切り出した積層体230を運搬し、切断位置に設定する。その際、固定保持台250と可動保持台240の双方に渡るように積層体230を各保持台240、250上に載置する(ステップS720)。ここで、可動保持台240は長さ方向に移動自在である。
【0040】
図1(b)に示す第1の細分化工程が実行される(ステップS730)。この工程では小積層体260が得られる。積層体230には、複数のチップがパターンで形成されているので、積層体230からチップを切断する場合には、複数回の切断が必要である。そこで、ステップS740において小積層体260を積層体残部262から取り出すためにさらに積層体残部262を切断する必要があるか否かを判断する。無ければ、ステップS760に進む。さらに切断可能であれば、可動保持台、固定保持台を所定位置に移した後、積層体や切断具を所定位置に移し(ステップS750)、ステップS730を再度実行する。
【0041】
小積層体260には複数のチップが形成されているので、小積層体260を今度は90°位置を変えて、同じ第2切断装置200の切断位置に設定し(ステップS760)、図1(c)に示した第2の細分化工程が実行される(ステップS770)。第2の細分化工程を実施後、複数のチップが形成された小積層体260にまだ切断すべき箇所があるか否かをステップS780で判断する。切断すべき箇所がなければ、切断工程を完了する。切断すべき箇所があれば、可動保持台240と固定保持台250を移動させた後、小積層体260や切断具210を移動させて、第2の細分化工程を再実行する。
【符号の説明】
【0042】
10…切断具(切断刃)、12…裏面、14…平坦面、16…片刃面、20、20a、20b…20n…型枠、30…(グリーンシート)積層体、32…周囲部、34…チップ形成部、40…移動方向、50…第1切断装置、100…制御器、110…切断装置、112…切断具支持部材、114…軸、116…モータ、118…配線、122、124…保持カバー、132、134…真空吸着路、136…真空吸着路接続具、140…可動保持台移動装置、142…エアシリンダ、144…駆動源(圧縮機)、146…軸、148…配線、150…積層体移動装置、152…ガイド、154…駆動部、156…軸、158…配線、170…レール、200…第2切断装置、210…切断具(切断刃)、212…裏面、214…平坦面、216…片刃面、230…積層体、232…内部電極、234…切断具容積、240、240a…可動保持台、242…レール溝、250…固定保持台、252…突起、254…隙間、260…小積層体、262…積層体残部、270…Xテーブル、272…スライダ、274…レール、276…レール、278…スライダ、310…移動方向、C…切断具全長、C…片刃部長さ、C…切断具厚さ、C…切断具幅、D…初期オフセット値、D…切断中オフセット値、D…切断終了時オフセット値、F…切断具の力の方向、F…分力、L…積層体長さ、L…小積層体幅、W…積層体幅(小積層体長さ)、W…積層体チップ長さ、θ…刃先角度、θ…切削角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7