(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】微粒化ホエイたんぱく質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 21/00 20060101AFI20220912BHJP
A23L 9/10 20160101ALI20220912BHJP
A23L 21/10 20160101ALI20220912BHJP
A23J 3/08 20060101ALI20220912BHJP
A23L 33/19 20160101ALI20220912BHJP
【FI】
A23C21/00
A23L9/10
A23L21/10
A23J3/08
A23L33/19
(21)【出願番号】P 2019507687
(86)(22)【出願日】2018-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2018010998
(87)【国際公開番号】W WO2018174051
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2017055302
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏木 和典
(72)【発明者】
【氏名】堀本 智仁
(72)【発明者】
【氏名】長井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 芙由子
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-514667(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017525(WO,A1)
【文献】特開2009-207419(JP,A)
【文献】大本俊郎,小島直人,最近の新素材の動向と食品への応用,月刊フードケミカル,2003年6月,第19巻,第6号,
【文献】SIMPLESSE MICROPARTICULATED WHEY PROTEIN CONCENTRATE,2016年03月,http://alimentos.web.unq.edu.ar/wp-content/uploads/sites/57/2016/03/Simplesse.pdf
【文献】土井 修,食品プロセス工学計算法 第17回,食品工業 第25巻第16号 ,第25巻,鎌田 恒男 株式会社光琳,p66-71
【文献】佐田 守弘,~連載▲76▼~洗浄・サニタリにおける食品技術者の基礎知識の物性測定法(6)液体の粘度と粘性,食品機械装置 Vol.49 No.9 ,第49巻,浅野 和男 株式会社ビジネスセンター社,p80-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A23J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒化ホエイたんぱく質の製造方法であって、
(a)固形分濃度が30~35質量%のホエイたんぱく質水溶液を調製する工程、
(b)前記ホエイたんぱく質水溶液を60℃までの温度にて予備加熱する工程、及び
(c)前記予備加熱したホエイたんぱく質水溶液を、70~75℃の温度にて掻き取り式熱交換器及び/又はキャビテーター装置を用いて加熱処理する工程
を含み、
前記(c)工程における掻き取り式熱交換器及び/又はキャビテーター装置のせん断応力が4~200Paであり、せん断速度が400~20,000/sである、前記製造方法。
【請求項2】
さらに、前記(c)工程のあとに、(d)前記加熱処理したホエイたんぱく質水溶液を、60℃以下の温度にて掻き取り式熱交換器で処理する工程を含む、請求項1に記載の微粒化ホエイたんぱく質の製造方法。
【請求項3】
レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、積算75%粒子径が1.5μm以下である、微粒化ホエイたんぱく質を含むゼリー
又はプリンであって、相分離を生じない前記ゼリー又はプリン。
【請求項4】
前記微粒化ホエイたんぱく質について、レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、10μmより大きい粒子径を有する粒子の割合が、前記微粒化ホエイたんぱく質全体を基準として4.5%以下である、請求項3に記載のゼリー又はプリン。
【請求項5】
前記微粒化ホエイたんぱく質について、レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、積算50%粒子径(メディアン径)が0.01μm以上1.5μm以下である、請求項3又は4に記載のゼリー又はプリン。
【請求項6】
前記微粒化ホエイたんぱく質について、レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、モード径が0.01μm以上1.8μm以下である、請求項3~5のいずれかに記載のゼリー又はプリン。
【請求項7】
加工食品における相分離の発生を抑制するための方法であって、
(a)固形分濃度が30~35質量%のホエイたんぱく質水溶液を調製する工程、
(b)前記ホエイたんぱく質水溶液を60℃までの温度にて予備加熱する工程、
(c)前記予備加熱したホエイたんぱく質水溶液を、70~75℃の温度にて掻き取り式熱交換器及び/又はキャビテーター装置を用いて加熱処理して、微粒化ホエイたんぱく質を製造する工程、及び
(e)前記微粒化ホエイたんぱく質を加工食品の原料として使用する工程を含み、
前記(c)工程における掻き取り式熱交換器及び/又はキャビテーター装置のせん断応力が4~200Paであり、せん断速度が400~20,000/sであり、
前記加工食品がゼリー、又はプリンである、前記方法。
【請求項8】
さらに、前記(c)工程のあとに、(d)前記加熱処理したホエイたんぱく質水溶液を、60℃以下の温度にて掻き取り式熱交換器で処理する工程を含む、請求項
7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒化ホエイたんぱく質及びその製造方法に関する。
また、本発明は、微粒化ホエイたんぱく質を含む食品、特に、栄養機能食品、乳含有食品、乳製品、ゼリー等に関する。
さらに、本発明は、微粒化ホエイたんぱく質を原料として使用することを含む、加工食品における相分離の発生を抑制するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホエイたんぱく質は良質なたんぱく質源であり、汎用されている。しかし、ホエイたんぱく質は熱安定性が低く、加熱殺菌すると焦げ等が生じやすいため、熱安定性を向上できる改質方法が求められている。
【0003】
ホエイたんぱく質の改質方法としては、例えば、特許文献1(特表2008-514667号公報)には、ホエイタンパク質の水溶液のpH又はイオン強度を調節して80~95℃で加熱処理を行い、1μm未満の粒子径を有する球形ナノ粒子化ホエイタンパク質を得る方法が記載されている。
また、特許文献2(特表2008-525019号公報)には、カルシウムとマグネシウムの合計濃度の上限値を規定した乳清たんぱく濃縮物を70℃より高温で最長60分間熱処理する方法が記載されている。
【0004】
さらに、特許文献3(国際公開第2013/187519号)には、pHが6.8~8.0、液中タンパク質濃度が1.3質量%以下のホエイ液について80~150℃で加熱処理を行う方法が記載されている。
また、特許文献4(特開2015-171373号公報)には、ホエイたんぱく質濃縮物の水溶液を乱流条件下で50℃を超えるまで加熱処理する方法が記載されている。
さらに、特許文献5(特表2016-533726号公報)には、脂肪の最大濃度を規定した変性ホエイたんぱく質組成物を70~150℃の温度で熱処理した後、pHを最大で5に低下させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2008-514667号公報
【文献】特表2008-525019号公報
【文献】国際公開第2013/187519号
【文献】特開2015-171373号公報
【文献】特表2016-533726号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、従来のホエイたんぱく質の改質方法は、たんぱく質濃度が低いために生産性が低く、また、カルシウムやマグネシウム、又は脂肪の含有量に制限があり、適用範囲が限られる等の欠点があった。さらに、pH調節等が必要であり、より簡便に実施可能な方法が求められる。
【0007】
これらの従来技術の問題点を解消するため、本発明者らが鋭意検討したところ、高濃度のホエイたんぱく質に特定の温度にてせん断力を負荷して熱処理を行うことで、特定の粒径を有する微粒化ホエイたんぱく質を製造することができ、また、かかる微粒化ホエイたんぱく質を原材料として用いることで、加工食品における相分離の発生を抑制できることを発見して本発明を完成させた。
【0008】
本発明の目的は、加工食品に使用した場合に相分離の発生を抑制することができる、新規な微粒化ホエイたんぱく質の製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明によれば、以下の微粒化ホエイたんぱく質の製造方法等を提供できる。
1.微粒化ホエイたんぱく質の製造方法であって、
(a)固形分濃度が30~35質量%のホエイたんぱく質水溶液を調製する工程、
(b)前記ホエイたんぱく質水溶液を60℃までの温度にて予備加熱する工程、及び
(c)前記予備加熱したホエイたんぱく質水溶液を、70~75℃の温度にて掻き取り式熱交換器及び/又はキャビテーター装置を用いて加熱処理する工程
を含む前記製造方法。
2.さらに、前記(c)工程のあとに、(d)前記加熱処理したホエイたんぱく質水溶液を、60℃以下の温度にて掻き取り式熱交換器で処理する工程を含む、1に記載の微粒化ホエイたんぱく質の製造方法。
3.前記(c)工程において、前記掻き取り式熱交換器及び/又は前記キャビテーター装置のせん断応力が4~200Paである、1又は2に記載の微粒化ホエイたんぱく質の製造方法。
4.前記(c)工程において、前記掻き取り式熱交換器及び/又は前記キャビテーター装置のせん断速度が400~20,000/sである、1~3のいずれかに記載の微粒化ホエイたんぱく質の製造方法。
5.レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、積算75%粒子径が1.5μm以下である、微粒化ホエイたんぱく質。
6.レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、10μmより大きい粒子径を有する粒子の割合が、微粒化ホエイたんぱく質全体を基準として4.5%以下である、5に記載の微粒化ホエイたんぱく質。
7.レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、積算50%粒子径(メディアン径)が0.01μm以上1.5μm以下である、5又は6に記載の微粒化ホエイたんぱく質。
8.レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、モード径が0.01μm以上1.8μm以下である、5~7のいずれかに記載の微粒化ホエイたんぱく質。
9.5~8のいずれかに記載の微粒化ホエイたんぱく質を含む食品。
10.5~8のいずれかに記載の微粒化ホエイたんぱく質を含む栄養機能食品。
11.5~8のいずれかに記載の微粒化ホエイたんぱく質を含む乳含有食品。
12.5~8のいずれかに記載の微粒化ホエイたんぱく質を含む乳製品。
13.5~8のいずれかに記載の微粒化ホエイたんぱく質を含むゼリー。
14.5~8のいずれかに記載の微粒化ホエイたんぱく質を含むプリン。
15.5~8のいずれかに記載の微粒化ホエイたんぱく質を原料として使用することを含む、加工食品における相分離の発生を抑制するための方法。
16.前記加工食品が、栄養機能食品、乳含有食品、乳製品、ゼリー、又はプリンである、15に記載の方法。
【0010】
本発明によれば、加工食品に使用した場合に相分離の発生を抑制することができる、新規な微粒化ホエイたんぱく質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、製造例1及び比較製造例1~3で得られたホエイたんぱく質変性粒子について測定したメディアン径を示す図である。
【
図2】
図2は、製造例1及び比較製造例1~3で得られたホエイたんぱく質変性粒子について測定したモード径を示す図である。
【
図3】
図3は、製造例1及び比較製造例1~3で得られたホエイたんぱく質変性粒子について測定した平均径を示す図である。
【
図4】
図4は、製造例1(固形分濃度30%、処理温度75℃)のホエイたんぱく質変性粒子を使用して調製したゼリーの写真を示す。
【
図5】
図5は、比較製造例2(固形分濃度30%、処理温度85℃)のホエイたんぱく質変性粒子を使用して調製したゼリーの写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[微粒化ホエイたんぱく質の製造方法]
本発明の微粒化ホエイたんぱく質の製造方法は、(a)固形分濃度が30~35質量%のホエイたんぱく質水溶液を調製する工程、(b)前記ホエイたんぱく質水溶液を60℃までの温度にて予備加熱する工程、及び(c)前記予備加熱したホエイたんぱく質水溶液を、70~75℃の温度にて掻き取り式熱交換器及び/又はキャビテーター装置を用いて加熱処理する工程を含むものである。
【0013】
本発明の製造方法によれば、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC)の高濃度溶解液(濃度30~35%)を原料として用い、掻き取り式熱交換器及びキャビテーター装置の少なくとも一方で特定の温度範囲で処理することにより、微粒化されたホエイたんぱく質を効率よく製造することができる。
【0014】
本発明の製造方法では、まず、(a)工程として、固形分濃度が30~35質量%のホエイたんぱく質水溶液を調製する。使用できるホエイたんぱく質は、特に限定されず、市販のものを使用することができ、例えば、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC:Whey Protein Concentrate)、ホエイパウダー、ホエイたんぱく質分離物(WPI:Whey Protein Isorate)を使用でき、好ましくは、ホエイたんぱく質濃縮物を使用する。また、豆腐の製造で排出される液状の大豆ホエイ又はナチュラルチーズの製造で排出される液状ホエイのたんぱく質濃度を適宜調整して使用することもできる。水は、食品の製造に用いられる既知の水を使用することができ、例えば、水道水、純水(イオン交換水、RO水、等)、超純水等を使用できる。
【0015】
本発明においてホエイたんぱく質としてホエイたんぱく質濃縮物を使用する場合、固形分あたりのたんぱく質濃度は、質量基準で、好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは40%以上であり、もっとも好ましくは60%以上である。
【0016】
本発明の製造方法では、(a)工程に続いて、(b)工程として、ホエイたんぱく質水溶液を60℃までの温度にて予備加熱する。ホエイたんぱく質の変性温度は、常圧下で70~90℃付近であるため、60℃までの温度であればホエイたんぱく質が変性することはない。
予備加熱は、既知の手段を用いて行うことができ、例えば、ホエイをタンクなどの容器に入れ常時撹拌しながら加熱するバッチ式で行うことができ、あるいは、プレート式熱交換器又はチューブラー式熱交換器を用いて連続式で行うことができる。好ましくは、プレート式熱交換器を用いて連続式で行う。
【0017】
本発明の製造方法では、(b)工程に続いて、(c)工程として、予備加熱したホエイたんぱく質水溶液を、70~75℃の温度にて掻き取り式熱交換器及び/又はキャビテーター装置を用いて加熱処理する。これにより、ホエイたんぱく質が加熱変性されるともに、掻き取り式熱交換器及び/又はキャビテーター装置によるせん断力が負荷され、ホエイたんぱく質が微粒化される。
【0018】
掻き取り式熱交換器は、被処理物を内部に流通させる円筒形容器であって、熱交換のための外筒ジャケットと、円筒形容器の中心軸周りに回転する掻き取り羽根とを備える装置である。掻き取り式熱交換器は、特に限定されず、市販のものを使用することができ、例えば、SPX社製の掻き取り式熱交換器、オンレーター(株式会社櫻製作所)、スラッシュヒータークーラー(株式会社イズミフードマシナリ)等を使用できる。
【0019】
キャビテーター装置は、高速で回転するローターとステーターとの間に被処理物を流通させ、装置内部でキャビテーションを発生させる装置である。キャビテーター装置は、特に限定されず、市販のものを使用することができ、例えば、SPX社製、Cavitator Systems社製等のキャビテーター装置を使用できる。
【0020】
(c)工程における加熱処理は、掻き取り式熱交換器とキャビテーター装置のいずれか一方を用いて行えばよく、又は、掻き取り式熱交換器とキャビテーター装置の両方を用いて行ってもよい。
【0021】
(c)工程における加熱処理の温度は、70~75℃である。これにより、ホエイたんぱく質を変性させて熱安定性を向上させることができる。また、この温度範囲で加熱処理を行えば、たんぱく質が分解したり焦げ付いたりすることがない。
【0022】
(c)工程における掻き取り式熱交換器及び/又はキャビテーター装置のせん断応力は、例えば4~200Paであり、好ましくは8~200Paであり、より好ましくは10~200Paであり、さらにより好ましくは15~190Paである。
また、(c)工程における掻き取り式熱交換器及び又はキャビテーター装置のせん断速度は、例えば400~20,000/sであり、好ましくは800~20,000/sであり、より好ましくは1,000~20,000/sであり、さらにより好ましくは1,500~19,000/sである。
せん断応力やせん断速度を特定の範囲に設定することにより、ホエイたんぱく質に一定のせん断力が負荷され、ホエイたんぱく質を均一に微粒化することができ、また、10μmよりも大きな粒子径を有する粒子の形成を抑制することができる。
【0023】
掻き取り式熱交換器及び/又はキャビテーター装置の運転速度(回転数)は、せん断応力、せん断速度が上記の範囲となるように、装置の寸法等を考慮して適宜決定することができる。
【0024】
本発明の製造方法の一態様では、さらに、(c)工程のあとに、(d)前記加熱処理したホエイたんぱく質水溶液を、60℃以下の温度にて掻き取り式熱交換器及び/又はキャビテーター装置で処理する工程を含むことが好ましい。これにより、形成されたホエイたんぱく質の粒子が再凝集することを抑制できる。
(d)工程における掻き取り式熱交換器及び/又はキャビテーター装置の運転速度(回転数)は、適宜決定することができ、例えば(c)工程と同じ条件とすればよい。
【0025】
[微粒化ホエイたんぱく質]
本発明の微粒化ホエイたんぱく質は、上記説明した本発明の微粒化ホエイたんぱく質の製造方法により得られるものである。具体的には、本発明の微粒化ホエイたんぱく質は、レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、積算75%粒子径が1.5μm以下であるものである。
【0026】
本発明の微粒化ホエイたんぱく質は、熱安定性と分散性にすぐれ、加工食品の原材料として好適に使用することができる。本発明の微粒化ホエイたんぱく質を加工食品の原材料として使用した場合、製造される加工食品を殺菌する際の熱安定性を向上することができ、また、加工食品において他の原材料と良好に分散するため相分離の発生を抑制することができる。本発明の微粒化ホエイたんぱく質は、例えば、栄養機能食品、乳含有食品、乳製品(「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(昭和26年12月27日厚生省令第52号)で規定されている乳製品)、ゼリー、プリン等の原材料として好適に使用することができる。
【0027】
本発明の微粒化ホエイたんぱく質は、レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、積算75%粒子径が1.5μm以下であり、好ましくは1.4μm以下であり、より好ましくは1.3μm以下である。
【0028】
本発明の微粒化ホエイたんぱく質の一態様では、レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、10μmより大きい粒子径を有する粒子の割合は、微粒化ホエイたんぱく質全体を基準として、好ましくは4.5%以下であり、さらに好ましくは4.0%以下である。10μmより大きい粒子径を有する比較的大きな粒子が少ないことで、微粒化ホエイたんぱく質の熱安定性を均一に向上させることができ、また、微粒化ホエイたんぱく質を含む加工食品を喫食した際にざらつき感がなくなめらかな食感にすることができる。
【0029】
また、本発明の微粒化ホエイたんぱく質の一態様では、レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、積算50%粒子径(メディアン径)は、好ましくは0.01μm以上1.5μm以下、より好ましくは0.01μm以上1.4μm以下、さらにより好ましくは0.01μm以上1.0μm以下である。
【0030】
また、本発明の微粒化ホエイたんぱく質の一態様では、レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、モード径は、好ましくは0.01μm以上1.8μm以下、より好ましくは0.01μm以上1.5μm以下、さらにより好ましくは0.01μm以上1.4μm以下である。
【0031】
また、本発明の微粒化ホエイたんぱく質の一態様では、レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、0μmより大きく2μm以下の粒子径を有する粒子の割合は、微粒化ホエイたんぱく質全体を基準として、好ましくは86%以上、より好ましくは87%以上、さらにより好ましくは88%以上である。0μmより大きく2μm以下の粒子径を有する粒子が多いと、加工食品(例えば、ゼリー)に配合しても分離しない分散性のよい粒子となる。
【0032】
また、本発明の微粒化ホエイたんぱく質の一態様では、レーザー回折式粒度分布装置で測定したとき(体積基準)、1μm以上10μm以下の粒子径を有する粒子の割合は、微粒化ホエイたんぱく質全体を基準として、好ましくは53%以下、より好ましくは52%以下、さらにより好ましくは51%以下である。
【0033】
微粒化ホエイたんぱく質の粒子径を測定するためのレーザー回折式粒度分布装置は、特に限定されず、市販の装置を用いることができる。測定試料は、分散媒としてイオン交換水を使用し(分散剤は使用しない)、これに試料(微細化ホエイたんぱく質)を添加して、超音波処理を1~5分間実施することにより調製する。
【0034】
[加工食品における相分離の発生を抑制するための方法]
本発明の加工食品における相分離の発生を抑制するための方法は、上記説明した本発明の微粒化ホエイたんぱく質を原料として使用することを含むものである。
本発明の微粒化ホエイたんぱく質は、熱安定性と分散性にすぐれており、加工食品の原材料として使用した場合、殺菌等の熱処理によっても加工食品中に安定して分散するため、加工食品における相分離の発生を抑制することができる。
【0035】
本発明において、加工食品は、栄養機能食品、乳含有食品、乳製品(「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(昭和26年12月27日厚生省令第52号)で規定されている乳製品)、ゼリー、又はプリンであることが好ましい。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0037】
製造例1
粉状のWPC(Whey Protein Concentrate) 80(Leprino Foods Company製)(ホエイたんぱく質 質量濃度で80%)20kgを50~60℃の温水46.6kgに溶解し、固形分濃度35%及び濃度30%のWPC 80溶解液を調製した。このWPC 80溶解液を、プレート式熱交換器(SPX社製)を用いてホエイたんぱく質が変性しない60℃に予備加温した後、掻き取り式熱交換器(SPX社製)を用いて750rpm(せん断応力として12.3Pa、せん断速度として1230/s)で撹拌しながら75℃まで加温した。その後、掻き取り式熱交換器(SPX社製)を用いて750rpm(せん断応力として12.3Pa、せん断速度として1230/s)で撹拌しながら60℃以下に冷却し、ホエイたんぱく質変性粒子を得た。
【0038】
比較製造例1
粉状のWPC 80(Leprino Foods Company製)(ホエイたんぱく質 質量濃度で80%)20kgを50~60℃の温水46.6kgに溶解し、固形分濃度30%のWPC 80溶解液を調製した。この濃度30%のWPC溶解液に適宜50~60℃の温水を加え、固形分濃度25%及び固形分濃度20%のWPC溶解液を調製した。調製した固形分濃度25%及び固形分濃度20%のWPC溶解液を、プレート式熱交換器(SPX社製)を用いてホエイたんぱく質の変性しない60℃に予備加温した後、掻き取り式熱交換器(SPX社製)を用いて750rpm(せん断応力として12.3Pa、せん断速度として1230/s)で撹拌しながら75℃まで加温した。その後、掻き取り式熱交換器(SPX社製)を用いて750rpm(せん断応力として12.3Pa、せん断速度として1230/s)で撹拌しながら60℃以下に冷却し、ホエイたんぱく質変性粒子を得た。
【0039】
比較製造例2
粉状のWPC 80(Leprino Foods Company製)(ホエイたんぱく質 質量濃度で80%)20kgを50~60℃の温水46.6kgに溶解し、固形分濃度30%のWPC 80溶解液を調製した。この固形分濃度30%のWPC溶解液に適宜50~60℃の温水を加え、固形分濃度30%、固形分濃度25%、固形分濃度23%、固形分濃度20%、及び固形分濃度18%のWPC溶解液を調製した。これら固形分濃度の異なるWPC 80溶解液を、プレート式熱交換器(SPX社製)を用いてホエイたんぱく質の変性しない60℃に予備加温した後、掻き取り式熱交換器(SPX社製)を用いて750rpm(せん断応力として12.3Pa、せん断速度として1230/s)で撹拌しながら85℃まで加温した。その後、掻き取り式熱交換器(SPX社製)を用いて750rpm(せん断応力として12.3Pa、せん断速度として1230/s)で撹拌しながら60℃以下に冷却し、ホエイたんぱく質変性粒子を得た。
【0040】
比較製造例3
粉状のWPC 80(Leprino Foods Company製)(ホエイたんぱく質 質量濃度で80%)20kgを50~60℃の温水46.6kgに溶解し、固形分濃度30%のWPC 80溶解液を調製した。この固形分濃度30%のWPC溶解液に適宜50~60℃の温水を加え、固形分濃度30%、固形分濃度25%、固形分濃度23%、固形分濃度20%、及び固形分濃度18%のWPC溶解液を調製した。これら固形分濃度の異なるWPC 80溶解液を、プレート式熱交換器(SPX社製)を用いてホエイたんぱく質の変性しない60℃に予備加温後、掻き取り式熱交換器(SPX社製)を用いて750rpm(せん断応力として12.3Pa、せん断速度として1230/s)で撹拌しながら95℃まで加温した。その後、掻き取り式熱交換器(SPX社製)を用いて750rpm(せん断応力として12.3Pa、せん断速度として1230/s)で撹拌しながら60℃以下に冷却し、ホエイたんぱく質変性粒子を得た。
【0041】
製造例2
粉状のWPC 80(Leprino Foods Company製)(ホエイたんぱく質 質量濃度で80%)20kgを50~60℃の温水46.6kgに溶解し、固形分濃度30%のWPC 80溶解液を調製した。このWPC 80溶解液をタンクジャケットにて60℃に保持した状態から、キャビテーター(SPX社製)を用いて3,600rpm(せん断応力として187.9Pa、せん断速度として18790/s)で撹拌しながら75℃まで加温した。その後、掻き取り式熱交換器(SPX社製)を用いて750rpm(せん断応力として187.9Pa、せん断速度として18790/s)で撹拌しながら60℃以下に冷却し、ホエイたんぱく質変性粒子を得た。
【0042】
粒子径の測定
製造例1及び比較製造例1~3において調製したホエイたんぱく質変性粒子の粒子径分布を、レーザー回折式粒度分布測定装置「SALD-2200」(株式会社島津製作所製)により体積基準で測定した。結果を
図1~3及び表2に示す。
【0043】
図1を参照すると、製造例1で得られたホエイたんぱく質変性粒子(固形分濃度30%、処理温度75℃)のメディアン径(積算50%粒子径)は1.0μm、モード径は0.9μm、平均径は1.0μmであった。
比較製造例1で得られたホエイたんぱく質変性粒子は、メディアン径(積算50%粒子径)、モード径、平均径ともに2.0μm以下であったが、製造例1の粒子径よりも大きかった。比較製造例2及び比較製造例3で得られたホエイたんぱく質変性粒子は、メディアン径(積算50%粒子径)、モード径、平均径ともにほぼ2.0μm以上であり、製造例1よりも顕著に大きかった。
また、製造例2で得られたホエイたんぱく質変性粒子のメディアン径(積算50%粒子径)は1.6μm、モード径は1.7μm、平均径は1.6μmであった(図示せず)。
以上より、固形分濃度30%以上のWPC80溶解液を75℃以下の温度で掻き取り式熱交換器やキャビテーター装置を用いて処理することにより、2.0μm以下の粒子径をもつホエイたんぱく質変性粒子を製造することができ、処理時の固形分濃度が高いほど粒子径が小さくなることが明らかとなった。
【0044】
ゼリーの調製
製造例及び比較製造例において調製したホエイたんぱく質変性粒子を用いて、表1に示す配合でゼリーを調製し、相分離の有無を確認し、食感を評価した。結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
具体的には、製造例及び比較製造例において調製したホエイたんぱく質変性粒子40g及び寒天溶液(粉末寒天1.5gを100mlの蒸留水に分散させ、80℃で10分間かけて粉末寒天を溶解させたもの)を蒸留水800mlに溶解し、撹拌後さらに蒸留水を加え全量を1Lとした。この溶液を90℃まで加温した後、カップに充填し、ゼリーを得た。
図4に、製造例1(固形分濃度30%、処理温度75℃)のホエイたんぱく質変性粒子を使用して調製したゼリーの写真を示し、
図5に、比較製造例2(固形分濃度30%、処理温度85℃)のホエイたんぱく質変性粒子を使用して調製したゼリーの写真を示す。
図4及び
図5において、ゼリーの上面は、ゼリーを固める際に使用したカップの底面に相当する。
【0047】
製造例1及び製造例2で得られたホエイたんぱく質変性粒子を使用して調製したゼリーは、二相に分離することはなかったが(例えば、
図4を参照)、比較製造例1、2、3で得られたホエイたんぱく質粒子を使用して調製したゼリーはいずれも二相に分離した(例えば、
図5を参照)。例えば、
図5では、ホエイたんぱく質の粒子径が大きく、ゼリー溶液中でカップの下部に沈降したために、固めたゼリーが見かけ上、二相に分離したと考えられる。
【0048】
以上より、固形分濃度30%以上のWPC80溶解液を75℃以下の温度で掻き取り式熱交換器やキャビテーター装置を用いて処理して得られたホエイたんぱく質変性粒子は、ゼリーの原材料として好適であり、相分離が生ずることなく均一な外観のゼリーが得られた。
【0049】
表2において、ゼリーの食感評価は、食感がすぐれているものを◎、食感が良好なものを○、ざらつきが感じられ食感が好ましくないものを×と評価した。
【0050】
【0051】
尚、表中の粒子径積算比率の粒径の数値範囲は、「下限値以上、上限値以下」を意味し、下限値が0μmの場合は、「0μmより大きく、上限値以下」を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の微粒化ホエイたんぱく質の製造方法によれば、熱安定性や分散性にすぐれた微粒化ホエイたんぱく質を好適に製造することができ、かかる微粒化ホエイたんぱく質は、加工食品の原材料として好適である。
【0053】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献及び本願のパリ優先の基礎となる日本出願明細書の内容を全てここに援用する。