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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用電極合剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20220912BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220912BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220912BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019542053
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2018033553
(87)【国際公開番号】W WO2019054350
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2017175158
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛島 靖仁
(72)【発明者】
【氏名】藤重 隼一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩司
【審査官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/057627(WO,A1)
【文献】特開2017-152121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00
H01M 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質と、架橋剤と、結着剤とを含有し、
前記結着剤が、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を含み、
前記架橋剤が、金属キレート錯体化合物であり、
前記結着剤及び前記架橋剤の合計量100質量部に対して前記架橋剤が0.2質量部以上10質量部未満含有される、
非水電解質二次電池用電極合剤。
【請求項2】
金属キレート錯体化合物が、チタンキレート錯体化合物及びジルコニウムキレート錯体化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極合剤。
【請求項3】
前記架橋剤は、カルボキシル基および/または水酸基と反応可能な官能基を2個以上有する架橋剤である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用電極合剤。
【請求項4】
前記架橋剤は、アルコキシ基及びアシレート基からなる群より選択される官能基を、同一又は異なって2個以上有する架橋剤である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用電極合剤。
【請求項5】
前記エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物が、アクリル酸アルカリ金属中和物および/またはメタクリル酸アルカリ金属中和物である、請求項1~4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用電極合剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の非水電解質二次電池用電極合剤を用いた非水電解質二次電池用電極。
【請求項7】
請求項6に記載の非水電解質二次電池用電極を備えた非水電解質二次電池。
【請求項8】
請求項7に記載の非水電解質二次電池を備えた電気機器。
【請求項9】
電極活物質、架橋剤、及び結着剤を混合する工程を含み、
ここで、前記架橋剤は金属キレート錯体化合物であり、前記結着剤はビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体であり、前記結着剤及び前記架橋剤の合計量100質量部に対して前記架橋剤が0.2質量部以上10質量部未満となるよう混合される、
非水電解質二次電池用電極合剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用電極合剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、スマートフォン、携帯ゲーム機器、PDA等の携帯電子機器の普及に伴い、これらの機器をより軽量化し、且つ、長時間の使用を可能とするため、電源として使用される二次電池の小型化及び高容量化が要求されている。さらに最近では、電池の携帯性及び取扱性を重視して、大きな電流で短時間での充電が可能な急速充電特性も重要な要求特性となってきている。
【0003】
リチウム二次電池の急速充電特性を向上させる手段としては、主として電極構成部材の改良が挙げられる。
【0004】
電極構成要素であるバインダー(結着剤)も二次電池の性能を左右する部品の一つである。電極の構造を強固に固定するためにバインダーが用いられるが、より結着力が高く強靭なバインダーを用いることで、電池充放電時の電極の崩壊を防ぎ、サイクル特性がよくなる(すなわち、寿命が長くなる)。ただ、一般に、電極を構成する部材の1つであるバインダーは、電極活物質や導電助剤などに比べて、導電性が低く充放電時の抵抗の要因となり得る。活物質や導電助剤だけでは電極は形成できず、部材の接着のためにはバインダーは欠かせない。このため、電池性能を向上させるために、バインダーを含有しつつも抵抗が小さい電極の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-204203号公報
【文献】特開2000-348730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、結着剤を含有しつつも抵抗が小さい電極合剤を提供すること、ひいては、当該電極合剤から電極を製造し、当該電極を備えた非水電解質二次電池用電極合剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の結着剤、特定の架橋剤、及び電極活物質を含み、特に当該結着剤と当該架橋剤とを特定の比率で含む、非水電解質二次電池用電極合剤を用いることで、抵抗値が低い電極を製造できること見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
電極活物質と、架橋剤と、結着剤とを含有し、
前記結着剤が、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を含み、
前記架橋剤が、金属キレート錯体化合物であり、
前記結着剤及び前記架橋剤の合計量100質量部に対して前記架橋剤が0.2質量部以上10質量部未満含有される、
非水電解質二次電池用電極合剤。
項2.
金属キレート錯体化合物が、チタンキレート錯体化合物及びジルコニウムキレート錯体化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の非水電解質二次電池用電極合剤。
項3.
前記架橋剤は、カルボキシル基および/または水酸基と反応可能な官能基を2個以上有する架橋剤である、項1又は2に記載の非水電解質二次電池用電極合剤。
項4.
前記架橋剤は、アルコキシ基及びアシレート基からなる群より選択される官能基を、同一又は異なって2個以上有する架橋剤である、項1又は2に記載の非水電解質二次電池用電極合剤。
項5.
前記エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物が、アクリル酸アルカリ金属中和物および/またはメタクリル酸アルカリ金属中和物である、項1~4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用電極合剤。
項6.
項1~5のいずれかに記載の非水電解質二次電池用電極合剤を用いた非水電解質二次電池用電極。
項7.
項6に記載の非水電解質二次電池用電極を備えた非水電解質二次電池。
項8.
項7に記載の非水電解質二次電池を備えた電気機器。
項9.
電極活物質、架橋剤、及び結着剤を混合する工程を含み、
ここで、前記架橋剤は金属キレート錯体化合物であり、前記結着剤はビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体であり、前記結着剤及び前記架橋剤の合計量100質量部に対して前記架橋剤が0.2質量部以上10質量部未満となるよう混合される、
非水電解質二次電池用電極合剤の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る非水電解質二次電池用電極合剤を用いた電極はサイクル性が高く、サイクル後の抵抗値が比較的低い。つまり、本発明の結着剤を電極に用いることで、電池充放電時の電極の崩壊を防ぎ、サイクル特性がよくなる(すなわち、寿命が長くなる)ため、充放電後の抵抗が低く(すなわち、レート特性が向上し高出力が可能と)なる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に包含される非水電解質二次電池用電極合剤の一態様について、その概要を示す。
図2図1に示す非水電解質二次電池用電極合剤を金属箔に塗工し、乾燥させ、プレスし、加熱して電極を調製した際の一態様の概要を示す。
図3】架橋型樹脂を含む結着剤及び電極活物質を含有する電極合剤、並びに、これにさらに架橋剤を加えた場合には本発明の非水電解質二次電池用電極合剤となり得ることについて、概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0012】
本発明に包含される非水電解質二次電池用電極合剤は、電極活物質(正極または負極用活物質)と、架橋剤と、結着剤とを含有し、前記結着剤は、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を含み、前記架橋剤は金属キレート錯体化合物である。また、前記結着剤と前記架橋剤とは、特定の比率(前記結着剤100質量部に対して前記架橋剤が0.2質量部以上10質量部未満)で含有される。当該合剤は、前記各成分を含む組成物(合剤組成物)である。また、当該合剤は、スラリーの形態であることが好ましい。
【0013】
また、当該電極合剤には、電極活物質、架橋剤、及び結着剤の他にも、例えば液体媒体(好ましくは水)が含まれていてもよい。またさらに、導電助剤、分散助剤などが含まれていてもよい。
【0014】
(結着剤)
本発明に用いられる結着剤は、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を含む。当該共重合体は、例えば、ビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとを共重合させて得られた共重合体を、アルカリ金属を含むアルカリの存在下、水性有機溶媒と水の混合溶媒中でケン化することによって得ることができる。すなわち、ビニルアルコール自体は不安定であるため直接モノマーとして使用することはできないが、ビニルエステルをモノマーとして使用して得られた重合体をケン化することにより、生成された重合体は結果としてビニルアルコールをモノマーとして重合させた態様となる。
【0015】
前記ビニルエステルとしては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、ケン化反応が進行しやすいため酢酸ビニルが好ましい。これらのビニルエステルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
前記エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、iso-プロピルエステル、n-ブチルエステル、及びt-ブチルエステルなどが挙げられるが、ケン化反応が進行しやすいためアクリル酸メチル、及びメタクリル酸メチルが好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸エステルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
また、必要に応じて、ビニルエステル及びエチレン性不飽和カルボン酸エステルと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を、ビニルエステル及びエチレン性不飽和カルボン酸エステルに加えて使用し、これらを共重合させてもよい。このようにして得られる共重合体をケン化して得られる、ビニルアルコールをモノマーとして重合させた態様の共重合体も、本発明において結着剤として用いることができる。
【0018】
またさらに、ビニルエステル及びエチレン性不飽和カルボン酸エステル(並びに必要に応じて前記他のエチレン性不飽和単量体)を共重合する際、架橋剤をも組み合わせて共重合させてもよい。このようにして得られる共重合体をケン化して得られる共重合体も、本発明において、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体に包含され、結着剤として好ましく用いることができる。つまり、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体は、未架橋樹脂であっても架橋型樹脂であってもよい。
【0019】
なお、このようにして得られる架橋型樹脂を調製するために用いられる架橋剤を、本明細書では「樹脂内架橋モノマー」と表記して、本発明に係る非水電解質二次電池用電極合剤が含有する「架橋剤」と概念上区別する。すなわち、本発明に係る非水電解質二次電池用電極合剤は、電極活物質と、「架橋剤」と、結着剤とを含有するところ、当該結着剤は架橋型樹脂を含んでいてもよく、当該架橋型樹脂の調製には「樹脂内架橋モノマー」が用いられ得る。ただし、概念上区別するだけであって、当該「架橋剤」として用いられる物質と、当該「樹脂内架橋モノマー」として用いられる物質とが、同一物質であることは妨げない。
【0020】
樹脂内架橋モノマーとしては、共重合が可能な反応性官能基を2つ又はそれ以上有するものが挙げられる。当該反応性官能基は、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の原料であるモノマーと、共重合が可能な反応性官能基である。2つ又はそれ以上の反応性官能基のそれぞれが別の共重合体の骨格中に取り込まれる(結合する)ことで架橋する。共重合が可能な反応性官能基としてはビニル基が好ましく挙げられる。樹脂内架橋モノマーとして、ビニル基を2個有するモノマーが好ましく挙げられる。より具体的には、当該樹脂内架橋モノマーとしては、例えばジビニルベンゼンが好ましく挙げられる。また例えば、2官能性アクリレート、2官能性メタクリレート等(例えば2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、等)が好ましく挙げられる。またさらに、ビニルスルホン基を2個又はそれ以上有する架橋剤も樹脂内架橋モノマーとして用いることができ、例えば、CH=CH-SO-CH-CO-NH-(CH-NH-CO-CH-SO-CH=CH(ここでnは1~6の自然数を示し、2又は3が特に好ましい)で表される化合物が好ましく挙げられる。このような化合物の市販品として、例えば富士フイルム社製VS-B、VS-Cを挙げることができる。
【0021】
上記の通り、本発明に包含される非水電解質二次電池用電極合剤は、電極活物質と、架橋剤と、結着剤とを含有する。ここで、当該非水電解質二次電池用電極合剤は、前記架橋型樹脂を含む結着剤及び電極活物質を含有する電極合剤とは異なるものであり、区別される。つまり、前記架橋型樹脂に含まれる「樹脂内架橋モノマー」由来部分は、「架橋剤」ではない。樹脂内架橋モノマーは架橋型樹脂調製時に既に架橋のために用いられており架橋能を有していない(換言すれば、樹脂内架橋モノマーは架橋型樹脂の架橋部分を既に構成している)からである。
【0022】
またさらに、本発明に包含される非水電解質二次電池用電極合剤を熱処理して架橋剤による架橋がなされた後の組成物(例えば、当該合剤を金属版もしくは金属箔に塗布及び熱処理して調製した非水電解質二次電池用電極が備える電極組成物)についても、前記架橋型樹脂を含む結着剤と電極活物質とを含有する電極合剤とは異なるものであり、区別される。当該組成物において、架橋剤は結着剤に含まれる共重合体どうしを架橋するのみならず、結着剤に含まれる共重合体と電極活物質とをも架橋し得、また電極活物質どうしを架橋し得るからである。さらには、本発明に包含される非水電解質二次電池用電極合剤が金属板若しくは金属箔に塗布された後熱処理されて当該組成物が得られた場合(例えば、電極組成物である場合)、架橋剤は、当該金属板若しくは金属箔と結着剤に含まれる共重合体又は電極活物質とをも結合し得る。前記架橋型樹脂を含む結着剤と電極活物質とを含有する電極合剤では、架橋型樹脂内に樹脂内架橋モノマー由来の架橋部分が存在するが、架橋型樹脂と電極活物質とは架橋されていない。
【0023】
本発明に包含される非水電解質二次電池用電極合剤の一態様について、その概要を図1に示す。また、当該電極合剤を金属箔に塗工し、乾燥させ、プレスし、加熱して電極を調製した際の一態様の概要を図2に示す。また、架橋型樹脂を含む結着剤及び電極活物質を含有するだけの電極合剤は、本発明の非水電解質二次電池用電極合剤とは異なるが、これにさらに架橋剤を加えた場合には本発明の非水電解質二次電池用電極合剤となり得ることについて、概要を図3に示す。
【0024】
本実施形態におけるケン化反応の一例として、酢酸ビニル/アクリル酸メチル共重合体が水酸化カリウム(KOH)により100%ケン化されたときのケン化反応を以下に示す。
【0025】
【化1】
【0026】
なお、上に示すように本実施形態に係るビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体は、ビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステルをランダム共重合させて、モノマー由来のエステル部分をケン化させた物質であり、モノマー同士の結合はC-C共有結合である。(以下、ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物と記載する場合がある。また、前記説明から明らかなように、ここでの「/」はランダム共重合していることを示す。)
【0027】
本実施形態の共重合体においては、ビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステルのモル比(ビニルアルコール/エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物)は、95/5~5/95が好ましく、95/5~50/50がより好ましく、90/10~60/40が更に好ましい。95/5~5/95の範囲内であれば、ケン化後得られる重合体が、結着剤としての保持力が特に好ましく向上する。
【0028】
したがって、得られるビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との前記共重合体において、共重合組成比はモル比で95/5~5/95が好ましく、95/5~50/50がより好ましく、90/10~60/40が更に好ましい。
【0029】
エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物としては、アクリル酸アルカリ金属中和物及びメタクリル酸アルカリ金属中和物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。また、エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が例示できるが、好ましくはカリウム及びナトリウムである。特に好ましいエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物は、アクリル酸ナトリウム中和物、アクリル酸カリウム中和物、メタクリル酸ナトリウム中和物、及びメタクリル酸カリウム中和物からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0030】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の前駆体であるビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体は、粉末状で共重合体が得られる観点から、重合触媒を含む分散剤水溶液中にビニルエステルおよびエチレン性不飽和カルボン酸エステルを主体とする単量体を懸濁させた状態で重合させて重合体粒子とする懸濁重合法により得られたものが好ましい。
【0031】
前記重合触媒としては、例えばベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物が挙げられるが、とりわけラウリルパーオキシドが好ましい。
【0032】
重合触媒の添加量は、単量体の総質量に対して、0.01~5質量%が好ましく、0.05~3質量%がより好ましく、0.1~3質量%がさらに好ましい。0.01質量%未満では、重合反応が完結しない場合があり、5質量%を超えると最終的に得られるビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の結着効果が十分でない場合がある。
【0033】
重合を行わせる際の前記分散剤は、使用する単量体の種類、量などにより適当な物質を選択すればよいが、具体的にはポリビニルアルコール(部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール)、ポリ(メタ)アクリル酸およびその塩、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの水溶性高分子;リン酸カルシウム、珪酸マグネシウムなどの水不溶性無機化合物などが挙げられる。これらの分散剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0034】
分散剤の使用量は、使用する単量体の種類などにもよるが、単量体の総質量に対して、0.01~10質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましい。
【0035】
さらに、前記分散剤の界面活性効果などを調整するため、アルカリ金属、アルカリ土類金属などの水溶性塩を添加することもできる。例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化リチウム、無水硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム及びリン酸三カリウムなどが挙げられ、これらの水溶性塩は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
水溶性塩の使用量は、使用する分散剤の種類、量などにもよるが、分散剤水溶液の質量に対して通常0.01~10質量%である。
【0037】
単量体を重合させる温度は、重合触媒の10時間半減期温度に対して-20~20℃が好ましく、-10~10℃がより好ましい。例えば、ラウリルパーオキシドの10時間半減期温度は約62℃である。
【0038】
10時間半減期温度に対して-20℃未満では、重合反応が完結しない場合があり、20℃を超えると、得られるビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の結着効果が十分でない場合がある。
【0039】
単量体を重合させる時間は、使用する重合触媒の種類、量、重合温度などにもよるが、通常数時間~数十時間である。
【0040】
重合反応終了後、共重合体は遠心分離、濾過などの方法により分離され、含水ケーキ状で得られる。得られた含水ケーキ状の共重合体はそのまま、もしくは必要に応じて乾燥し、ケン化反応に使用することができる。
【0041】
本明細書における重合体の数平均分子量は、溶媒としてDMFを用いGFCカラム(例えばShodex社製OHpak)を備えた分子量測定装置にて求めた値である。このような分子量測定装置としては、例えばウォーターズ社製2695、RI検出器2414が挙げられる。
【0042】
ケン化前の共重合体の数平均分子量は、10,000~1,000,000が好ましく、50,000~800,000がより好ましい。ケン化前の数平均分子量を10,000~1,000,000の範囲内にすることで、結着剤として結着力がより向上する傾向がある。従って、電極用合剤(特に負極合剤)が水系スラリーであっても、スラリーの厚塗りが容易になる。
【0043】
ケン化反応は、例えば、アルカリ金属を含むアルカリの存在下、水性有機溶媒のみ、又は水性有機溶媒と水との混合溶媒中で実施することができる。前記ケン化反応に使用するアルカリ金属を含むアルカリとしては、従来公知のものを使用することができるが、アルカリ金属水酸化物が好ましく、反応性が高いという観点より、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが特に好ましい。
【0044】
前記アルカリの量は、単量体のモル数に対して60~140モル%が好ましく、80~120モル%がより好ましい。60モル%より少ないアルカリ量ではケン化が不十分となる場合があり、140モル%を超えて使用してもそれ以上の効果が得られず経済的でない。
【0045】
前記ケン化反応には、水性有機溶媒のみ、又は水性有機溶媒と水との混合溶媒を用いることが好ましい。当該水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノールなどの低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;およびこれらの混合物などが挙げられるが、なかでも低級アルコール類が好ましく、優れた結着効果と機械的せん断に対して優れた耐性を有するビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体が得られることから、特にメタノールおよびエタノールが好ましい。
【0046】
前記水性有機溶媒と水の混合溶媒における水性有機溶媒/水の質量比は、30/70~85/15が好ましく、40/60~85/15がより好ましく、40/60~80/20がさらに好ましい。30/70~85/15の範囲を逸脱する場合、ケン化前の共重合体の溶媒親和性またはケン化後の共重合体の溶媒親和性が不足し、充分にケン化反応を進行させることができないおそれがある。水性有機溶媒が30/70の比率より少ない場合、結着剤としての結着力が低下するだけでなく、ケン化反応の際に著しく増粘するため工業的にビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物を得ることが難しく、水性有機溶媒が85/15の比率より多い場合、得られるビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物の水溶性が低下するので電極に使用すると、乾燥後の結着力が損なわれる場合がある。なお、含水ケーキ状の共重合体をそのままケン化反応に使用する場合、前記水性有機溶媒/水の質量比は、含水ケーキ状の共重合体中の水を含むものとする。
【0047】
ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体をケン化させる温度は、単量体のモル比にもよるが、例えば20~60℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。20℃より低い温度でケン化させた場合、ケン化反応が完結しないおそれがあり、60℃を超える温度の場合、反応系内が増粘し撹拌不能となる場合がある。
【0048】
ケン化反応の時間は、使用するアルカリの種類、量などにより異なるが、通常数時間程度で反応は終了する。
【0049】
ケン化反応が終了した時点で通常、ペーストないしスラリー状の共重合体ケン化物の分散体となる。遠心分離、濾過など従来公知の方法により固液分離し、メタノールなどの低級アルコールなどでよく洗浄して得られた含液共重合体ケン化物を乾燥することにより、球状単一粒子または球状粒子が凝集した凝集粒子として共重合体ケン化物、すなわちビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を得ることができる。
【0050】
前記ケン化反応以降において、塩酸、硫酸、燐酸、硝酸などの無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸などの有機酸等の酸を用いて共重合体ケン化物を酸処理した後に、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化フランシウムなど任意のアルカリ金属を用いて、異種の(つまり、アルカリ金属が異なる)、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物の共重合体を得ることもできる。
【0051】
含液共重合体ケン化物を乾燥する条件は、特に限定されないが通常、常圧もしくは減圧下、30~120℃の温度で乾燥することが好ましい。
【0052】
乾燥時間は、乾燥時の圧力、温度にもよるが通常数時間~数十時間である。
【0053】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の体積平均粒子径は、1~200μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましい。1μm以上でより好ましく結着効果が得られ、200μm以下であることで水系増粘液がより均一になり好ましい結着効果が得られる。なお、共重合体の体積平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置(例えば島津製作所社製、SALD-7100)に回分セル(例えば、同社製、SALD-BC)を設置し、分散溶媒に2-プロパノールまたはメタノールを用い測定した値である。
【0054】
含液共重合体ケン化物を乾燥し、得られた共重合体ケン化物の体積平均粒子径が100μmを超える場合は、メカニカルミリング処理などの従来公知の粉砕方法にて粉砕することにより体積平均粒子径を例えば10~100μmに調整することができる。
【0055】
メカニカルミリング処理とは、衝撃・引張り・摩擦・圧縮・せん断等の外力を得られた共重合体ケン化物に与える方法で、そのための装置としては、転動ミル、振動ミル、遊星ミル、揺動ミル、水平ミル、アトライターミル、ジェットミル、擂潰機、ホモジナイザー、フルイダイザー、ペイントシェイカー、ミキサー等などが挙げられる。例えば、遊星ミルは、共重合体ケン化物とボールとを共に容器に入れ、自転と公転をさせることによって生じる力学的エネルギーにより、共重合体ケン化物粉末を粉砕又は混合させるものである。この方法によれば、ナノオーダーまで粉砕されることが知られている。
【0056】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の結着剤における増粘効果としては、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を1質量%含む水溶液の粘度が30mPa・s~10000mPa・sであることが好ましく、40~5000mPa・sであることがより好ましい。前記粘度が30mPa・s以上であれば、作製したスラリー状電極用合剤の粘度が好ましく得られ、集電体へ塗工する際に合剤が広がりすぎず塗工が容易となり得、また合剤中の活物質や導電助剤の分散性も良好となる。前記粘度が10000mPa・s以下であると、作製した合剤の粘度が高過ぎず、集電体に薄く均一に塗工することがより簡単となる。なお、前記1質量%水溶液の粘度は、BROOKFIELD製回転粘度計(型式DV-I+)、スピンドルNo.5、50rpm(液温25℃)にて測定した値である。
【0057】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体は、結着力と結着持続性に優れるリチウムイオン二次電池電極用結着剤として機能し得る。その理由としては、限定的な解釈を望むものではないが、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体は、集電体と活物質および活物質同士を強固に結着し、充放電の繰り返しに起因する活物質の体積変化によって集電体から電極用合剤が剥離したり、活物質が脱落したりすることがないような結着持続性を有することで、活物質の容量を低下させることがないためであると考えられる。
【0058】
本実施形態リチウムイオン二次電池電極用合剤(好ましくは電極スラリー)には、本発明の効果を損なわない範囲で、結着剤として、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体にさらに他の水系結着剤を加えてもよい。この場合、他の水系結着剤の添加量は、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体と他の水系結着剤との合計質量に対して80質量%未満であることが好ましい。より好ましくは、70質量%未満である。すなわち、換言すれば、結着剤中におけるビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の含有割合は、20質量%以上100質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、30質量%以上100質量%以下である。さらに、当該下限は、例えば40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であり得る。
【0059】
他の水系結着剤の材料としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸塩などのアクリル樹脂、アルギン酸ナトリウム、ポリイミド(PI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド、ポリアミドイミド、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン酢酸共重合体(EVA)等の材料が挙げられる。これらは、一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。他の水系結着剤のうち、ポリアクリル酸ナトリウムに代表されるアクリル樹脂、アルギン酸ナトリウム、ポリイミド等が好適に用いられ、アクリル樹脂が特に好適に用いられる。
【0060】
(架橋剤)
本発明に用いられる架橋剤は、架橋能を有する金属キレート錯体化合物である。当該金属キレート錯体化合物としては、例えばチタンキレート錯体化合物、ジルコニウムキレート錯体化合物、及びアルミニウムキレート錯体化合物等が挙げられ、中でもチタンキレート錯体化合物及びジルコニウムキレート錯体化合物が好ましく、チタンキレート錯体化合物がより好ましい。
【0061】
当該架橋剤(金属キレート錯体化合物)は、カルボキシル基および/または水酸基と反応可能な官能基を2個以上(好ましくは2、3、又は4個であり、より好ましくは2個)有する架橋剤が好ましい。また、架橋剤は、水系架橋剤(水溶性架橋剤)であることが好ましい。カルボキシル基および/または水酸基と反応可能な官能基とは、カルボキシル基および/または水酸基と反応して化学結合を形成する官能基をいう。アルコキシ基のように、自らは反応により脱離してしまっても、結果として結合が形成されていれば、これに含まれる。触媒の必要性、加熱の必要性は特に限定されない。このような官能基の具体例としては、アルコキシ基及びアシレート基等が好ましく挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、炭素数1~18(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、又は18)の、直鎖若しくは分岐鎖状のアルコキシ基が挙げられる。アシレート基としては、例えばラクテート基、ステアレート基、イソステアレート基等が挙げられる。
【0062】
これら官能基がビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体分子鎖のカルボキシル基および/または水酸基と反応することによって、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体が架橋され、機械強度が向上する。架橋剤として作用するために、カルボキシル基および/または水酸基と反応可能な官能基は、架橋剤分子中に2個以上(好ましくは2、3、又は4個であり、より好ましくは2個)存在する必要がある。架橋剤一分子内に存在する当該官能基は同一であっても異なっていてもよい。官能基の数が多いほど架橋点が増えるため機械強度が向上し得るが、多すぎると電極塗工液の状態でゲル化が進むため塗工が困難になってしまう場合があり、この場合不便である。ゲル化が生じるかどうかはビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体分子鎖中のカルボキシル基および/または水酸基の個数の他、当該共重合体と架橋剤との混合比によっても左右されるため、これらを適宜調整することでゲル化を回避可能である。
【0063】
アルコキシ基及び/又はアシレート基を有する架橋剤(金属キレート錯体化合物)としてはマツモトファインケミカル(株)製 オルガチックスシリーズ等の金属キレート化合物が例示される。
【0064】
チタンキレート錯体化合物としては、具体的には、例えばチタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、チタンジエタノールアミネート、チタンアミノエチルアミノエタノレート、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、ドデシルベンゼンスルホン酸チタン化合物、リン酸チタン化合物、チタンオクチレングリコート、チタンエチルアセトアセテート等が好ましく挙げられ、中でもチタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、チタンジエタノールアミネート、チタンアミノエチルアミノエタノレートがより好ましい。より具体的には、例えば(i-CO)Ti(C14NO、(HO)Ti[OCH(CH)COO(NH 、(HO)Ti[OCH(CH)COOH]、(i-CO)Ti(OCNHCNH、(i-CO)Ti(C、Ti(C、(i-CO)Ti(C、Ti(O-i-C、(C17O)Ti(O17、(i-CO)Ti(C、等が挙げられる。
【0065】
このようなチタンキレート錯体化合物の市販品としては、例えばマツモトファインケミカル(株)製 オルガチックスTCシリーズが挙げられ、より具体的には、例えばオルガチックスTC-300、TC-310、TC-400、TC-315、TC-335、TC-500、及びTC-510等が挙げられる。
【0066】
また、ジルコニウムキレート錯体化合物としては、例えば塩化ジルコニル化合物、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩、炭酸ジルコニウムアンモニウム等が好ましく挙げられる。より具体的には、例えば(HO)Zr[OCH(CH)COO(NH 等が挙げられる。
【0067】
このようなジルコニウムキレート錯体化合物の市販品としては、例えばマツモトファインケミカル(株)製 オルガチックスZAシリーズ、オルガチックスZCシリーズ(例えばオルガチックスZC-126、ZC-300等)及びサンノプコ(株)製 AZ コート 5800MT等が挙げられる。
【0068】
アルミニウムキレート錯体化合物としては、例えばアルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート等が挙げられ、より具体的には例えばAl(C、Al(C)(C、Al(Cが挙げられる。
【0069】
このような有機アルミニウム化合物の市販品としては、例えばマツモトファインケミカル(株)製 オルガチックスALシリーズが挙げられる。
【0070】
架橋剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
架橋剤の含有量は、架橋剤及び結着剤の合計質量を100質量部としたとき、0.2質量部以上10質量部未満である。0.3、0.4、又は0.5質量部以上であることがより好ましく、0.6、0.7、0.8、0.9又は1質量部以上であることがさらに好ましい。また、9、8、又は7又は6質量部以下であることがより好ましく、5又は4質量部以下であることがさらに好ましく、3質量%以下であることがよりさらに好ましい。当該架橋剤の含有比率が10質量部未満であることにより、電極塗工液の状態でゲル化が進みづらくなり塗工を簡便に行うことができる。またさらに、活物質の比率が相対的に高くなり得られる電極の電気抵抗値が特に好ましく低下し得る。また、当該架橋剤の含有比率が0.2質量部以上であることにより、架橋効果が十分に発現し、結着剤樹脂の機械強度が高く好ましい電池性能が好ましく得られる。
【0072】
(正極活物質)
正極活物質としては、本技術分野で使用される正極活物質が使用できる。例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO)、ピロリン酸鉄(LiFeP)、コバルト酸リチウム複合酸化物(LiCoO)、スピネル型マンガン酸リチウム複合酸化物(LiMn)、マンガン酸リチウム複合酸化物(LiMnO)、ニッケル酸リチウム複合酸化物(LiNiO)、ニオブ酸リチウム複合酸化物(LiNbO)、鉄酸リチウム複合酸化物(LiFeO)、マグネシウム酸リチウム複合酸化物(LiMgO)、カルシウム酸リチウム複合酸化物(LiCaO)、銅酸リチウム複合酸化物(LiCuO)、亜鉛酸リチウム複合酸化物(LiZnO)、モリブデン酸リチウム複合酸化物(LiMoO)、タンタル酸リチウム複合酸化物(LiTaO)、タングステン酸リチウム複合酸化物(LiWO)、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.05)、リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物(LiNiCoMn1-x-yここで0<x<1,0<y<1,x+y<1)、Li過剰系ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物、酸化マンガンニッケル(LiNi0.5Mn1.5)、酸化マンガン(MnO)、バナジウム系酸化物、硫黄系酸化物、シリケート系酸化物、等が好適に使用される。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
(負極活物質)
負極活物質としては、特に限定はなく、例えばケイ素(Si)やスズ(Sn)あるいはこれらを含む材料、炭素(特に炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン))、チタン酸リチウムなどのようにリチウムイオンを大量に吸蔵放出可能な材料、等を用いることができる。このような材料であれば、単体、合金、化合物、固溶体およびケイ素含有材料やスズ含有材料を含む複合活物質の何れであっても、本実施形態の効果を発揮させることは可能である。ケイ素含有材料としては、Si(ケイ素)の他に、酸化ケイ素(好ましくはSiOx(0.05<x<1.95)、より具体的には例えばSiO)、またはこれらのいずれかにB、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、N、Snからなる群から選択される少なくとも1つ以上の元素でSiの一部を置換した合金や化合物、もしくは固溶体などを用いることができる。これらはケイ素化合物ということができる。スズ含有材料としてはNiSn、MgSn、SnOx(0<x<2)、SnO、SnSiO、LiSnOなどを挙げることができる。炭素材料としては結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらを共に使用しても良い。これらの材料は、それぞれ1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、ケイ素、ケイ素化合物、および炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。また、特に、ケイ素及び/又はケイ素化合物と炭素材料とを組み合わせて用いる場合、炭素材料とケイ素及び/又はケイ素化合物との比率(炭素材料/ケイ素又はケイ素化合物)が質量比で5/95~50/50であることが好ましい。当該質量比の上限は、10/90又は15/85であってもよい。また、当該質量比の下限は、40/60、35/65、30/70、又は25/75であってもよい。
【0074】
(導電助剤)
導電助剤を用いる場合、導電助剤は、導電性を有していれば、特に限定されることはない。例えば、金属、炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどの粉末が例示でき、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、カーボンブラック(例えばSuperP(SP))、黒鉛、サーマルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ローラーブラック、ディスクブラック、ソフトカーボン、ハードカーボン、グラフェン、アモルファスカーボンカーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(例えば、登録商標であるVGCFという名称の気相成長炭素繊維)などが挙げられる。これらは一種単独で用いてもよいし、または二種以上を併用してもよい。特に制限されないが、伝導助剤は、電極合剤中例えば0.01~5質量%程度含有させることが好ましく、0.02~3質量%又は0.05~2質量%程度含有させることがより好ましい。
【0075】
(分散助剤)
分散助剤を用いる場合、分散助剤としては、例えば、グルクロン酸、フミン酸、グリシン、ポリグリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸などが例示される。
【0076】
(電極合剤)
電極活物質(正極活物質又は負極活物質)に、架橋剤、結着剤、および必要に応じて液体媒体(好ましくは水)を加えてペースト状のスラリーとすることにより電極合剤(正極合剤又は負極合剤)が得られる。結着剤は、あらかじめ水に溶かして用いてもよいし、活物質、結着剤の粉末をあらかじめ混合し、その後に水を加え混合してもよい。また、その他の成分を加える場合にも当該スラリーへ混合することができる。
【0077】
液体媒体(好ましくは水)の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、活物質、架橋剤、結着剤の合計を100質量%とした場合、40質量%以上2000質量%以下が好ましく50質量%以上1000質量%以下がより好ましく、60質量%以上500質量%以下がさらに好ましい。
結着剤は、活物質同士、およびこれらと集電体との接着を目的として使用される。すなわち、両極の集電体上にスラリーを塗布し、乾燥させたときに良好な活物質層を形成するために使用される。
【0078】
結着剤の使用量についても、特に限定的ではないが、例えば、電極活物質、架橋剤、及び結着剤の合計質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。また、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることがよりさらに好ましい。結着剤が当該上限以下であることで、活物質の割合が相対的に少なすぎず、電池の充放電時に高容量がより得られうる。また、当該下限以上であることで、より好ましく結着力が得られ、好ましいサイクル寿命特性を得られ、またスラリーの粘性不足による凝集が生じる傾向も減少する。
【0079】
当該電極合剤は、正極用合剤又は負極用合剤で有り得、特に負極用合剤であることが好ましい。
【0080】
なお、特に制限はされないが、電極合剤においては、電極活物質の含有量が80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0081】
また、特に制限はされないが、電極合剤における架橋剤及び結着剤の合計含有量は、20質量%より小さいことが好ましく、15質量%より小さいことがより好ましく、10質量%より小さいことがさらに好ましい。
【0082】
(正極)
正極は、本技術分野で使用される手法を用いて作製することができる。
【0083】
正極の集電体は、電子伝導性を有し、保持した正極材料に通電し得る材料であれば特に限定されない。例えば、C、Ti、Cr、Mo、Ru、Rh、Ta、W、Os、Ir、Pt、Au、Al等の導電性物質、これら導電性物質の二種類以上を含有する合金(例えば、ステンレス鋼)を使用し得る。電気伝導性が高く、電解液中の安定性と耐酸化性がよい観点から、集電体としてはC、Al、ステンレス鋼等が好ましく、さらに材料コストの観点からAl等が好ましい。
【0084】
集電体の形状には、特に制約はないが、箔状基材、三次元基材などを用いることができる。ただし、三次元基材(発泡メタル、メッシュ、織布、不織布、エキスパンド等)を用いると、集電体との密着性に欠けるような結着剤であっても高い容量密度の電極が得られる。加えて、高率充放電特性も良好になる。
【0085】
(負極)
負極は、本技術分野で使用される手法を用いて作製することができる。
【0086】
負極の集電体は、電子伝導性を有し、保持した負極材料に通電し得る材料であれば特に限定されない。例えば、C、Cu、Ni、Fe、V、Nb、Ti、Cr、Mo、Ru、Rh、Ta、W、Os、Ir、Pt、Au、Al等の導電性物質、これら導電性物質の二種類以上を含有する合金(例えば、ステンレス鋼)を使用し得る。あるいは、FeにCuをめっきしたものであってもよい。電気伝導性が高く、電解液中の安定性と耐酸化性がよい観点から、集電体としてはC、Ni、ステンレス鋼等が好ましく、さらに材料コストの観点からCu、Niが好ましい。
【0087】
集電体の形状には、特に制約はないが、箔状基材、三次元基材などを用いることができる。なかでも、三次元基材(発泡メタル、メッシュ、織布、不織布、エキスパンド基材等)を用いると、集電体との密着性に欠けるような結着剤であっても高い容量密度の電極が得られる。加えて、高率充放電特性も良好になる。
【0088】
(電池)
本実施形態の非水電解質二次電池用電極を用い、本実施形態の非水電解質二次電池とすることができる。非水電解質二次電池としては、例えばリチウムイオン二次電池が好ましい。
【0089】
本実施形態の非水電解質二次電池のなかでもリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを含有する必要があることから、電解質塩としてはリチウム塩が好ましい。このリチウム塩としては特に制限されないが、具体例としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウムなどを挙げることができる。これらのリチウム塩は、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。上記のリチウム塩は、電気的陰性度が高くイオン化しやすいことから、充放電サイクル特性に優れ、二次電池の充放電容量を向上させることができる。
【0090】
上記電解質の溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン等を用いることができ、これらの溶媒を一種単独又は2種以上混合して用いることができる。特に、プロピレンカーボネート単体、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物又はγ-ブチロラクトン単体が好適である。なお、上記エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物の混合比は、一方の成分が10体積%以上90体積%以下となる範囲で任意に調整することができる。
【0091】
また、本実施形態のリチウム二次電池の電解質は、固体電解質やイオン性液体であっても構わない。
【0092】
上述の構造のリチウム二次電池によれば、寿命特性に優れるリチウム二次電池として機能することができる。
【0093】
リチウム二次電池の構造としては、特に限定されないが、積層式電池、捲回式電池などの既存の電池形態・構造に適用できる。
【0094】
(電気機器)
本実施形態の負極を具備した非水電解質二次電池は、寿命特性に優れており、様々な電気機器(電気を使用する乗り物を含む)の電源として利用することができる。
【0095】
電気機器としては、例えば、ポータブルテレビ、ノートパソコン、タブレット、スマートフォン、パソコンキーボード、パソコン用ディスプレイ、デスクトップ型パソコン、CRTモニター、パソコンラック、プリンター、一体型パソコン、ウェアラブルコンピュータ、ワープロ、マウス、ハードディスク、パソコン周辺機器、アイロン、冷房機器、冷蔵庫、温風ヒーター、ホットカーペット、衣類乾燥機、布団乾燥機、加湿器、除湿器、ウインドウファン、送風機、換気扇、洗浄機能付便座、カーナビ、懐中電灯、照明器具、携帯カラオケ機、マイク、空気清浄器、血圧計、コーヒーミル、コーヒーメーカー、こたつ、携帯電話、ゲーム機、音楽レコーダー、音楽プレーヤー、ディスクチェンジャー、ラジオ、シェーバー、ジューサー、シュレッダー、浄水器、食器乾燥機、カーコンポ、ステレオ、スピーカー、ヘッドホン、トランシーバー、ズボンプレッサー、掃除機、体脂肪計、体重計、ヘルスメーター、ムービープレーヤー、電気釜、電気かみそり、電気スタンド、電気ポット、電子ゲーム機、携帯ゲーム機、電子辞書、電子手帳、電磁調理器、電卓、電動カート、電動車椅子、電動工具、電動歯ブラシ、あんか、散髪器具、電話機、時計、インターホン、電撃殺虫器、ホットプレート、トースター、ドライヤー、電動ドリル、給湯器、パネルヒーター、粉砕機、はんだごて、ビデオカメラ、ファクシミリ、フードプロセッサー、マッサージ機、豆電球、ミキサー、ミシン、もちつき機、リモコン、冷水器、冷風器、泡だて器、電子楽器、オートバイ、おもちゃ類、芝刈り機、うき、自転車、自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、鉄道、船、飛行機、非常用蓄電池などが挙げられる。
【0096】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes"consisting essentially of” and "consisting of.")。
【0097】
また、上述した本発明の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本発明に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本発明には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例
【0098】
以下、実施例により本実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、Grはグラファイトを示す。
【0099】
(結着剤の作製)
(製造例1)ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体の合成
撹拌機、温度計、Nガス導入管、還流冷却機および滴下ロートを備えた容量2Lの反応槽に、水768g、無水硫酸ナトリウム12gを仕込み、Nガスを吹き込んで系内を脱酸素した。続いて部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度88%)1g、ラウリルパーオキシド1gを仕込み内温60℃まで昇温した後、アクリル酸メチル104g(1.209mol)および酢酸ビニル155g(1.802mol)の単量体を滴下ロートにより4時間かけて適下した後、内温65℃で2時間保持し反応を完結させた。その後、固形分を濾別することによりビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体288g(10.4質量%含水)を得た。得られた重合体をDMFに溶解させた後フィルターにてろ過を実施、分子量測定装置(ウォーターズ社製2695、RI検出器2414)により求めた数平均分子量は18.8万であった。
【0100】
(製造例2)ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物の調製
上記同様の反応槽に、メタノール450g、水420g、水酸化ナトリウム132g(3.3mol)および製造例1で得られた含水共重合体288g(10.4質量%含水)を仕込み、撹拌下で30℃、3時間ケン化反応を行った。ケン化反応終了後、得られた共重合体ケン化物をメタノールで洗浄、濾過し、70℃で6時間乾燥させ、ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物(ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体、アルカリ金属はナトリウム)193gを得た。ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物の体積平均粒子径は180μmであった。なお、体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SALD-7100)により測定した。
【0101】
(製造例3)ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物の粉砕
上記ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物193gを、ジェットミル(日本ニューマチック工業社製LJ)により粉砕し、微粉末状のビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物173gを得た。得られた共重合体ケン化物の粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製SALD-7100)により測定したところ、体積平均粒子径は39μmであった。以下、製造例3で得られたビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物を共重合体〔1〕として検討に用いた。
【0102】
なお、共重合体〔1〕の1質量%水溶液の粘度は1,630mPa・s、ビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合組成比はモル比で6/4であった。前記1質量%水溶液の粘度は、BROOKFIELD製回転粘度計(型式DV-I+)を用いて、スピンドルNo.5、50rpm(液温25℃)の条件で測定した。
【0103】
(製造例4)
製造例1において、アクリル酸メチル104g(1.209mol)および酢酸ビニル155g(1.802mol)に代えて、アクリル酸メチル25.9g(0.301mol)および酢酸ビニル232.8g(2.704mol)を用いた以外は製造例1~3と同様の操作を行い、ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物を得た。当該ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物を共重合体〔2〕とした。
【0104】
なお、共重合体〔2〕の体積平均粒子径は34μmであった。また、共重合体〔2〕の1質量%水溶液の粘度は50mPa・s、ビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合組成比は9/1であった。当該体積平均粒子径及び1質量%水溶液の粘度は、共重合体〔1〕と同様にして測定した。
【0105】
(架橋剤量の検討)
(実施例1)
SiO(平均粒子径5-10μm:日立化成社製)18.8質量部、Gr(G1:江西紫宸科技社製)75.2質量部(SiO/Gr=2/8の質量比)、SP(SuperP:Timcal社製カーボンブラック)1.0質量部、製造例3で得られた共重合体〔1〕 4.95質量部、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400)0.05質量部、及び水100質量部を混合してスラリー状の負極合剤を調製した。
【0106】
得られた合剤を厚さ10μmの電解銅箔上に塗布し乾燥させた後、ロールプレス(大野ロール社製)を用いて圧力を加えることで、電解銅箔と塗膜とを密着接合させ、次に、加熱処理(減圧中、120℃、12時間)を行って負極を作製した。活物質層(塗膜)の厚みは50μm、負極の目付重量は10mg/cmであった。
【0107】
(実施例2)
実施例1において、共重合体〔1〕 4.95質量部に代えて、共重合体〔1〕 4.9質量部を用い、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400) 0.05質量部に代えて、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400) 0.1質量部を用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製した。活物質層の厚みは50μm、負極の目付重量は10mg/cmであった。
【0108】
(実施例3)
実施例1において、共重合体〔1〕 4.95質量部に代えて、共重合体〔1〕 4.65質量部を用い、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400) 0.05質量部に代えて、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400) 0.35質量部を用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製した。活物質層の厚みは50μm、負極の目付重量は10mg/cmであった。
【0109】
(比較例A)
実施例1において、共重合体〔1〕 4.95質量部に代えて、架橋剤を加えず、共重合体〔1〕 5.0質量部のみを混合した以外は実施例1と同様にして負極を作製した。活物質層の厚みは50μm、負極の目付重量は10mg/cmであった。
【0110】
(比較例1)
実施例1において、共重合体〔1〕 4.95質量部に代えて、共重合体〔1〕 4.995質量部を用い、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400) 0.05質量部に代えて、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400) 0.005質量部を用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製した。活物質層の厚みは50μm、負極の目付重量は10mg/cmであった。
【0111】
(参考例1)
実施例2において、共重合体〔1〕 4.95質量部に代えて、共重合体〔1〕 4.5質量部を用い、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400) 0.05質量部に代えて、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400) 0.5質量部を用いた以外は実施例1と同様にして負極スラリーを作製しようとしたところ、ゲル化をおこしスラリーが得られず、このため電解銅箔への塗工が困難であった。
【0112】
(架橋剤種の検討)
(実施例4)
実施例2において、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400) 0.1質量部に代えて、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-300) 0.1質量部を用いた以外は実施例2と同様にして負極を作製した。活物質層の厚みは50μm、負極の目付重量は10mg/cmであった。
【0113】
(実施例5)
実施例2において、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400) 0.1質量部に代えて、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-315) 0.1質量部を用いた以外は実施例2と同様にして負極を作製した。活物質層の厚みは50μm、負極の目付重量は10mg/cmであった。
【0114】
(実施例6)
実施例2において、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400) 0.1質量部に代えて、有機ジルコニア化合物架橋剤(サンノプコ社製、AZ-コート 5800MT)0.1質量部を用いた以外は実施例2と同様にして負極を作製した。活物質層の厚みは50μm、負極の目付重量は10mg/cmであった。
【0115】
(比較例2)
実施例2において、有機チタン化合物架橋剤(マツモトファインケミカル社製、TC-400) 0.1質量部に代えて、エポキシ系架橋剤(ナガセケムテック社製、デナコール EX-810)0.1質量部を用いた以外は実施例2と同様にして負極を作製した。活物質層の厚みは50μm、負極の目付重量は10mg/cmであった。
【0116】
なお、上記各実施例で用いた架橋剤について、表1にまとめて示す。
【0117】
【表1】
【0118】
表2に、各負極の組成を示す。
【0119】
【表2】
【0120】
(正極)
(実施例A)
活物質(Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2:北京当升科技社製)95質量部、バインダーとして共重合体〔1〕3質量部、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカブラック:デンカ製)2質量部、及び水100質量部を混合してスラリー状の正極合剤を調製した。
【0121】
厚さ10μmのアルミニウム箔上に前記合剤を塗布・乾燥後、ロールプレス機(大野ロール社製)により、アルミニウム箔と塗膜とを密着接合させ、次に、加熱処理(減圧中、120℃、12時間以上)して、正極を作製した。当該正極において、正極容量密度は1.6mAh/cm(活物質物質層の平均厚み:50μm)であった。なお、以下に示すいずれの検討においても、正極電極として当該正極を用いた。
【0122】
(電池の組立)
実施例1~7、比較例Aおよび比較例1~2で得られた負極電極と、実施例Aで得た正極を用い、セパレータとしてPP(セルガード#2500:セルガード社製)、電解液として、LiPF6 1mol/Lの電解質入りのEC/DEC(1/1 v/v%)+1質量%VC溶液(キシダ化学社製)を具備した20mAhの小型パウチセルを作製した。
【0123】
なお、PPはポリプロピレンを、LiPF6はヘキサフルオロリン酸リチウムを、ECはエチレンカルボナートを、DECは炭酸ジエチルを、VCはビニレンカーボネートを、それぞれ示す。
【0124】
<エージング後高率放電試験>
上記のようにして作製したパウチセルを用いて以下(1)~(10)に示すような手順で、エージングから高率放電試験を行い、DC-IR抵抗値を算出した。
試験温度 :30℃
カットオフ電位:2.5-4.3V(vs.Li+/Li)
(1)CC(CV)充電/CC放電において、0.2C(0.05C)/0.2Cの条件で10サイクルエージングを実施した。この際、エージング最後の平均放電電圧値を記録した。
※充電/放電の順に記載。カッコ内はCVの終端電流である。
(2)0.2C(0.05C)/0.5Cの条件で3サイクル実施し、3サイクル目の平均放電電圧値を記録した。
(3)0.2C(0.05C)/0.2Cで2サイクル実施した。
(4)(2)の放電レートを0.7Cにして3サイクル実施し、3サイクル目の平均放電電圧値を記録した。
(5)0.2C(0.05C)/0.2Cで2サイクル実施した。
(6)(2)の放電レートを1.0Cにして3サイクル実施し、3サイクル目の平均放電電圧値を記録した。
(7)0.2C(0.05C)/0.2Cで2サイクル実施した。
(8)(2)の放電レートを2.0Cにして3サイクル実施し、3サイクル目の平均放電電圧値を記録した。
(9)横軸に放電電流(レート)、縦軸に平均放電電圧のグラフを作成した。その際、0.2、0.5、0.7、1.0、2.0C時の平均電圧値を入力した。
(10)グラフの傾きをDC-IRの値(Ω)とした。
なお、作製した全てのパウチセルを用いて、本条件にて試験を行った。
試験により算出したDC-IR値を、表3に示す。
【0125】
<サイクル試験>
上記のようにして高率放電試験を終えた各パウチセルを用いて、以下に示すような手順で、サイクル試験を行った。
試験温度 :30℃
カットオフ電位:2.5-4.3V(vs.Li+/Li)
サイクルレート:0.5C(0.05C)/0.5C
サイクル数 :100
サイクル後、次の式を用いて容量維持率を算出した。結果を表3に示す。
※ 容量維持率(%)=[100サイクル後の放電容量(mAh/g)]/[エージング後の初期放電容量(mAh/g)]×100
【0126】
<100サイクル後高率放電試験>
上記のようにしてサイクル試験を終えた各パウチセルを用いて、高率放電試験を行った。なお、試験方法・条件はエージング後高率放電試験と同様とした。
試験により算出したDC-IR値を、表3に示す。
【0127】
なお、DC-IR抵抗値(Ω)は、値が低いほど電池性能(放電特性)において良好と言え、容量維持率(%)は値が高いほど電池性能(サイクル特性)において良好と言える。
【0128】
【表3】
図1
図2
図3