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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-09
(45)【発行日】2022-09-20
(54)【発明の名称】光吸収異方性板
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220912BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20220912BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220912BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20220912BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20220912BHJP
   C09K 19/38 20060101ALI20220912BHJP
   C09K 19/54 20060101ALI20220912BHJP
   C09K 19/60 20060101ALI20220912BHJP
【FI】
G02B5/30
B05D7/00 A
B05D7/24 302Z
B05D7/24 303A
B05D3/00 D
B05D5/06 A
C09K19/38
C09K19/54 Z
C09K19/60 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020210384
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022097036
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2021-02-09
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】小川 歩
(72)【発明者】
【氏名】名田 敬之
(72)【発明者】
【氏名】幡中 伸行
(72)【発明者】
【氏名】村野 耕太
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079854(WO,A1)
【文献】特開2013-228706(JP,A)
【文献】特開2017-122776(JP,A)
【文献】特開2016-027387(JP,A)
【文献】特開2015-165302(JP,A)
【文献】特開2013-148883(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0219754(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0065428(KR,A)
【文献】特開2012-215704(JP,A)
【文献】特開2020-181150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材と光吸収異方性膜とを含む光吸収異方性板であって、
前記光吸収異方性膜が、重合性液晶化合物、反応性基含有非液晶化合物および二色性色素を含む液晶組成物の硬化膜であり、前記重合性液晶化合物と二色性色素とが該光吸収異方性膜平面に対して垂直方向に配向した状態で硬化した硬化膜であり、
前記光吸収異方性膜面内の任意の方向をx軸、膜面内でx軸に直交する方向をy軸、x軸およびy軸に直交する膜厚方向をz軸としたときに、該膜の光吸光度が下記式(4)および(5)を満たし、
前記重合性液晶化合物がスメクチック液晶相を呈する液晶化合物であり、
前記反応性基含有非液晶化合物が分子内に5個または6個の反応性基を有する多官能(メタ)アクリレートを含み、
反応性基含有非液晶化合物の含有量が、重合性液晶化合物100質量部に対して0.5質量部以上8質量部以下である、光吸収異方性板。
Ax(z=60)/Ax>10 (4)
Ay(z=60)/Ay>10 (5)
〔式(4)および(5)中、Ax、Ay、Ax(z=60)およびAy(z=60)は、いずれも前記光吸収異方性膜中の前記二色性色素の吸収極大波長における吸光度であって、
Axは、x軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Ayは、y軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Ax(z=60)は、y軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのx軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Ay(z=60)は、x軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのy軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表す。〕
【請求項2】
反応性基含有非液晶化合物が、アクリロイルオキシ基およびメタクリロイルオキシ基から選択される少なくとも1種の反応性基を有する、請求項1に記載の光吸収異方性板。
【請求項3】
反応性基含有非液晶化合物が有する反応性基と重合性液晶化合物が有する重合性基とが同一である、請求項1または2に記載の光吸収異方性板。
【請求項4】
二色性色素がアゾ色素である、請求項1~3のいずれかに記載の光吸収異方性板。
【請求項5】
光吸収異方性膜の厚みが2μm未満である、請求項1~4のいずれかに記載の光吸収異方性板。
【請求項6】
光吸収異方性膜がX線回折測定においてブラッグピークを示す、請求項1~5のいずれかに記載の光吸収異方性板。
【請求項7】
フィルム基材が、ポリイミド系樹脂、セルロースエステル系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリ(メタ)アクリル酸系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種から構成される樹脂フィルムである、請求項1~6のいずれかに記載の光吸収異方性板。
【請求項8】
フィルム基材と光吸収異方性膜とが隣接している、請求項1~7のいずれかに記載の光吸収異方性板。
【請求項9】
フィルム基材と光吸収異方性膜とを含む光吸収異方性板の製造方法であって、
フィルム基材上に、重合性液晶化合物、反応性基含有非液晶化合物および二色性色素を含む液晶組成物の塗膜を形成する工程、
得られた塗膜を乾燥させて乾燥塗膜を得る工程、および、
前記塗膜中の重合性液晶化合物と二色性色素とが前記塗膜平面に対して垂直方向に配向した状態で硬化させる工程
を含み、
前記重合性液晶化合物がスメクチック液晶相を呈する液晶化合物であり、
前記反応性基含有非液晶化合物が分子内に5個または6個の反応性基を有する多官能(メタ)アクリレートを含み、
反応性基含有非液晶化合物の含有量が、重合性液晶化合物100質量部に対して0.5質量部以上8質量部以下であり、
前記光吸収異方性膜面内の任意の方向をx軸、膜面内でx軸に直交する方向をy軸、x軸およびy軸に直交する膜厚方向をz軸としたときに、該膜の光吸光度が下記式(4)および(5)を満たす、製造方法。
Ax(z=60)/Ax>10 (4)
Ay(z=60)/Ay>10 (5)
〔式(4)および(5)中、Ax、Ay、Ax(z=60)およびAy(z=60)は、いずれも前記光吸収異方性膜中の前記二色性色素の吸収極大波長における吸光度であって、
Axは、x軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Ayは、y軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Ax(z=60)は、y軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのx軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Ay(z=60)は、x軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのy軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表す。〕
【請求項10】
光吸収異方性板が長尺状であって、
ロール状に巻回された長尺状のフィルム基材を巻き出して、該フィルム基材上に重合性液晶化合物、反応性基含有非液晶化合物および二色性色素を含む液晶組成物の塗膜を形成する工程、
得られた塗膜を連続的に乾燥させて乾燥塗膜を得る工程、および、
前記乾燥塗膜中の重合性液晶化合物と二色性色素とを前記塗膜平面に対して垂直方向に配向させ、連続的に活性エネルギー線を照射することにより硬化させる工程
を含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載の光吸収異方性板を含むディスプレイ材料。
【請求項12】
請求項1~8のいずれかに記載の光吸収異方性板を含むディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収異方性板および前記光吸収異方性板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や銀行ATM等のディスプレイに覗き見防止機能を付与するための光吸収異方性膜として、二色性色素と液晶性化合物とを含む液晶組成物を基材上に塗布し、該液晶化合物と二色性色素とを膜平面に対して垂直配向することにより製造した光吸収異方性膜が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-27387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、液晶化合物と二色性色素とが膜平面に対して垂直配向した光吸収異方性膜について、力が加わった際に膜の破損が生じ難い光吸収異方性膜が求められている。
【0005】
本発明は、力が加わった際に膜の破損が生じ難い垂直配向型の光吸収異方性膜を含む光吸収異方性板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]フィルム基材と光吸収異方性膜とを含む光吸収異方性板であって、
前記光吸収異方性膜が、重合性液晶化合物、反応性基含有非液晶化合物および二色性色素を含む液晶組成物の硬化膜であり、前記重合性液晶化合物と二色性色素とが該光吸収異方性膜平面に対して垂直方向に配向した状態で硬化した硬化膜である、光吸収異方性板。
[2]反応性基含有非液晶化合物が、アクリロイルオキシ基およびメタクリロイルオキシ基から選択される少なくとも1種の反応性基を有する、前記[1]に記載の光吸収異方性板。
[3]反応性基含有非液晶化合物が単官能(メタ)アクリレートおよび多官能(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種である、前記[1]または[2]に記載の光吸収異方性板。
[4]反応性基含有非液晶化合物が分子内に2個以上12個以下の反応性基を有する、前記[1]~[3]のいずれかに記載の光吸収異方性板。
[5]反応性基含有非液晶化合物が有する反応性基と重合性液晶化合物が有する重合性基とが同一である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の光吸収異方性板。
[6]反応性基含有非液晶化合物の含有量が、重合性液晶化合物100質量部に対して0.2質量部以上15質量部以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の光吸収異方性板。
[7]重合性液晶化合物がスメクチック液晶相を呈する液晶化合物である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の光吸収異方性板。
[8]二色性色素がアゾ色素である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の光吸収異方性板。
[9]光吸収異方性膜の厚みが2μm未満である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の光吸収異方性板。
[10]光吸収異方性膜がX線回折測定においてブラッグピークを示す、前記[1]~[9]のいずれかに記載の光吸収異方性板。
[11]フィルム基材が、ポリイミド系樹脂、セルロースエステル系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリ(メタ)アクリル酸系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種から構成される樹脂フィルムである、前記[1]~[10]のいずれかに記載の光吸収異方性板。
[12]フィルム基材と光吸収異方性膜とが隣接している、前記[1]~[11]のいずれかに記載の光吸収異方性板。
[13]フィルム基材と光吸収異方性膜とを含む光吸収異方性板の製造方法であって、
フィルム基材上に、重合性液晶化合物、反応性基含有非液晶化合物および二色性色素を含む液晶組成物の塗膜を形成する工程、
得られた塗膜を乾燥させて乾燥塗膜を得る工程、および、
前記乾燥塗膜中の重合性液晶化合物と二色性色素とが前記塗膜平面に対して垂直方向に配向した状態で硬化させる工程
を含む、製造方法。
[14]光吸収異方性板が長尺状であって、
ロール状に巻回された長尺状のフィルム基材を巻き出して、該フィルム基材上に重合性液晶化合物、反応性基含有非液晶化合物および二色性色素を含む液晶組成物の塗膜を形成する工程、
得られた塗膜を連続的に乾燥させて乾燥塗膜を得る工程、および、
前記塗膜中の重合性液晶化合物と二色性色素とを前記塗膜平面に対して垂直方向に配向させ、連続的に活性エネルギー線を照射することにより硬化させる工程
を含む、前記[13]に記載の製造方法。
[15]前記[1]~[12]のいずれかに記載の光吸収異方性板を含むディスプレイ材料。
[16]前記[1]~[12]のいずれかに記載の光吸収異方性板を含むディスプレイ装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、力が加わった際に膜の破損が生じ難い垂直配向型の光吸収異方性膜を含む光吸収異方性板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0009】
本発明の光吸収異方性板は、フィルム基材と光吸収異方性膜とを含む。
<光吸収異方性膜>
本発明において、光吸収異方性膜は、重合性液晶化合物、反応性基含有非液晶化合物および二色性色素を含む液晶組成物の硬化膜であり、前記重合性液晶化合物と二色性色素とが該光吸収異方性膜平面に対して垂直方向に配向した状態で硬化した硬化膜である。
【0010】
本発明において光吸収異方性膜を形成する液晶組成物(以下、「光吸収異方性膜形成用組成物」ともいう)に含まれる重合性液晶化合物は、少なくとも1つの重合性基を有し、かつ、液晶性を有する化合物である。ここで、重合性基とは、重合反応に関与する基を意味し、光重合性基であることが好ましい。光重合性基とは、重合開始剤から発生する活性ラジカルや酸などによって重合反応に関与し得る基のことをいう。重合性液晶化合物が有する重合性基としては、例えば、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基等が挙げられる。中でも、ラジカル重合性基が好ましく、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、オキシラニル基およびオキセタニル基がより好ましく、アクリロイルオキシ基がさらに好ましい。
【0011】
本発明において、重合性液晶化合物はスメクチック液晶性相を呈する液晶化合物であることが好ましい。スメクチック液晶相を呈する重合性液晶化合物を用いることにより、配向秩序度の高く、斜め方向における偏光機能に優れる光吸収異方性膜を形成することができる。より高い配向秩序度を実現し得る観点から、重合性液晶化合物(A)の示す液晶状態は、高次スメクチック相(高次スメクチック液晶状態)であることがより好ましい。ここで、高次スメクチック相とは、スメクチックB相、スメクチックD相、スメクチックE相、スメクチックF相、スメクチックG相、スメクチックH相、スメクチックI相、スメクチックJ相、スメクチックK相およびスメクチックL相を意味し、これらの中でも、スメクチックB相、スメクチックF相およびスメクチックI相がより好ましい。液晶性はサーモトロピック性液晶でもリオトロピック性液晶でもよいが、緻密な膜厚制御が可能な点でサーモトロピック性液晶が好ましい。また、重合性液晶化合物(A)はモノマーであってもよいが、重合性基が重合したオリゴマーであってもポリマーであってもよい。
【0012】
重合性液晶化合物としては、少なくとも1つの重合性基を有する液晶化合物であれば特に限定されず、公知の重合性液晶化合物を用いることができるが、スメクチック液晶性を示す化合物が好ましい。そのような重合性液晶化合物としては、例えば、下記式(A)で表される化合物(以下、「重合性液晶化合物(A)」ともいう)が挙げられる。
-V-W-(X-Y-X-W-V-U (A)
[式(A)中、
およびXは、互いに独立して、2価の芳香族基または2価の脂環式炭化水素基を表し、ここで、該2価の芳香族基または2価の脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフルオロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、シアノ基またはニトロ基に置換されていてもよく、該2価の芳香族基または2価の脂環式炭化水素基を構成する炭素原子が、酸素原子または硫黄原子または窒素原子に置換されていてもよい。ただし、XおよびXのうち少なくとも1つは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基または置換基を有していてもよいシクロヘキサン-1,4-ジイル基である。
は、単結合または二価の連結基である。
nは1~3であり、nが2以上の場合、複数のXは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。Xは、複数のXのうちのいずれかまたは全てと同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、nが2以上の場合、複数のYは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。液晶性の観点からnは2以上が好ましい。
は、水素原子または重合性基を表わす。
は、重合性基を表わす。
およびWは、互いに独立して、単結合または二価の連結基である。
およびVは、互いに独立して、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルカンジイル基を表し、該アルカンジイル基を構成する-CH-は、-O-、-CO-、-S-またはNH-に置き換わっていてもよい。]
【0013】
重合性液晶化合物(A)において、XおよびXは、互いに独立して、好ましくは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基、または、置換基を有していてもよいシクロヘキサン-1,4-ジイル基であり、XおよびXのうちの少なくとも1つは、置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基、または、置換基を有していてもよいシクロヘキサン-1,4-ジイル基であり、トランス-シクロへキサン-1,4-ジイル基であることが好ましい。置換基を有していてもよい1,4-フェニレン基、または、置換基を有していてもよいシクロへキサン-1,4-ジイル基が任意に有する置換基としては、メチル基、エチル基およびブチル基などの炭素数1~4のアルキル基、シアノ基および塩素原子、フッ素原子などのハロゲン原子が挙げられる。好ましくは無置換である。
【0014】
また、重合性液晶化合物(A)は、式(A)中、式(A1):
-(X-Y-X- (A1)
〔式中、X、Y、Xおよびnはそれぞれ上記と同じ意味を示す。〕
で示される部分〔以下、部分構造(A1)ともいう〕が非対称構造であることが、スメクチック液晶性を発現し易い点で好ましい。
部分構造(A1)が非対称構造である重合性液晶化合物(A)としては、例えば、nが1であり、1つのXとXとが互いに異なる構造である重合性液晶化合物(A)が挙げられる。また、nが2であり、2つのYが互いに同じ構造である化合物であって、2つのXが互いに同じ構造であり、1つのXはこれら2つのXとは異なる構造である重合性液晶化合物(A)、2つのXのうちのWに結合するXが、他方のXおよびXとは異なる構造であり、他方のXとXとは互いに同じ構造である重合性液晶化合物(A)も挙げられる。さらに、nが3であり、3つのYが互いに同じ構造である化合物であって、3つのXおよび1つのXのうちのいずれか1つが他の3つの全てと異なる構造である重合性液晶化合物(A)が挙げられる。
【0015】
は、-CHCH-、-CHO-、-CHCHO-、-COO-、-OCOO-、単結合、-N=N-、-CR=CR-、-C≡C-、-CR=N-または-CO-NR-が好ましい。RおよびRは、互いに独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表わす。Yは、-CHCH-、-CHO-、-COO-、-OCOO-、単結合、-N=N-、-CR=CR-、-C≡C-または-CR=N-であることがより好ましく、-CHCH-、-COO-、-CHO-または単結合であることがより好ましく、複数のYが存在する場合、Xと結合するYが-CHCH-または-CHO-であり、Xと結合しないYが-CHCH-、-COO-または単結合であることがさらに好ましい。XおよびXが全て同一構造である場合、互いに異なる結合方式である2以上のYが存在することが好ましい。互いに異なる結合方式である複数のYが存在する場合には、非対称構造となるため、スメクチック液晶性が発現しやすい傾向にある。
【0016】
は、重合性基である。Uは、水素原子または重合性基であり、好ましくは重合性基である。UおよびUがともに重合性基であることが好ましく、ともに光重合性基であることがより好ましく、ともに光ラジカル重合性基であることがさらに好ましい。重合性基としては、重合性液晶化合物が有する重合性基として先に例示した基と同様のものが挙げられる。Uで示される重合性基とUで示される重合性基とは、互いに異なっていてもよいが、同じ種類の基であることが好ましく、UおよびUの少なくとも一方が(メタ)アクリロイルオキシ基であることが好ましく、両方が(メタ)アクリロイルオキシ基であることがより好ましく、アクリロイルオキシ基であることがさらに好ましい。また、重合性基は重合している状態であってもよいし、未重合の状態であってもよいが、好ましくは未重合の状態である。
【0017】
およびVで表されるアルカンジイル基としては、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基、テトラデカン-1,14-ジイル基およびイコサン-1,20-ジイル基等が挙げられる。VおよびVは、好ましくは炭素数2~12のアルカンジイル基であり、より好ましくは炭素数6~12のアルカンジイル基である。
【0018】
該アルカンジイル基が任意に有する置換基としては、シアノ基および、塩素原子、フッ素原子などのハロゲン原子等が挙げられるが、該アルカンジイル基は、無置換であることが好ましく、無置換の直鎖状アルカンジイル基であることがより好ましい。
【0019】
およびWは、互いに独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-または-OCOO-が好ましく、単結合または-O-がより好ましい。
【0020】
スメクチック液晶性を示しやすい重合性液晶化合物の構造として、分子構造中に非対称性の分子構造を有することが好ましく、具体的には下記(A-a)~(A-i)の部分構造を有し、スメクチック液晶性を示す重合性液晶化合物であることがより好ましい。高次スメクチック液晶性を示しやすいという観点から(A-a)、(A-b)または(A-c)の部分構造を有することがより好ましい。なお、下記(A-a)~(A-i)において、*は結合手(単結合)を表す。
【0021】
【化1】
【0022】
重合性液晶化合物(A)としては、例えば、下記式(A-1)~式(A-25)で表される化合物が挙げられる。重合性液晶化合物(A)がシクロヘキサン-1,4-ジイル基を有する場合、そのシクロヘキサン-1,4-ジイル基は、トランス体であることが好ましい。
【0023】
【化2】
【0024】
【化3】
【0025】
【化4】
【0026】
【化5】
【0027】
【化6】
【0028】
これらの中でも、式(A-2)、式(A-3)、式(A-4)、式(A-6)、式(A-7)、式(A-8)、式(A-13)、式(A-14)および式(A-15)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。重合性液晶化合物(A)として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0029】
重合性液晶化合物(A)は、例えば、Lub等、Recl.Trav.Chim.Pays-Bas、115、321-328(1996)、または、特許第4719156号などに記載の公知の方法で製造できる。
【0030】
本発明において、光吸収異方性膜は重合性液晶化合物(A)を含んで形成されることが好ましく、光吸収異方性膜形成用組成物が重合性液晶化合物(A)を含むことが好ましい。光吸収異方性膜形成用組成物に2種以上の重合性液晶化合物が含まれる場合、光吸収異方性膜形成用組成物に含まれる重合性液晶化合物の総質量に対する重合性液晶化合物(A)の割合は、好ましくは51質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。重合性液晶化合物(A)の割合が前記範囲内であると、配向秩序度の高い光吸収異方性膜が得やすくなる。
【0031】
光吸収異方性膜形成用組成物が2種以上の重合性液晶化合物を含む場合、そのうちの少なくとも1種が重合性液晶化合物(A)であってもよく、その全てが重合性液晶化合物(A)であってもよい。複数の重合性液晶化合物を組合せることにより、液晶-結晶相転移温度以下の温度でも一時的に液晶性を保持することができる場合がある。
【0032】
光吸収異方性膜形成用組成物における重合性液晶化合物の含有量は、液晶組成物の固形分に対して、好ましくは40~99.9質量%であり、より好ましくは60~99質量%であり、さらに好ましくは70~99質量%である。重合性液晶化合物の含有量が上記範囲内であると、重合性液晶化合物の配向性が高くなる傾向がある。なお、本明細書において、光吸収異方性膜形成用組成物の固形分とは、該組成物から溶剤等の揮発性物質を除いた成分の合計量を意味する。以下、他の組成物等における固形分についても同様に、対象とする組成物等から溶剤等の揮発性物質を除いた成分の合計量をいう。
【0033】
本発明において反応性基含有非液晶化合物とは、前記重合性液晶化合物の重合性基と反応できる反応性基(官能基)を有し、かつ、温度変化によっても、固体と液体の間に液晶状態を有さない化合物のことを意味する。光吸収異方性膜が反応性基含有非液晶化合物を含む液晶組成物から形成されることにより、光吸収異方性膜の膜強度が向上するとともに、高い屈曲性が得られる。特に、本発明の発明者等の検討によると、重合性液晶化合物が膜平面に対して垂直方向に配向した液晶硬化膜では、膜平面に対して垂直方向に液晶化合物が層状に並ぶことに起因して該層間で剥離が生じやすいところ、反応性基含有非液晶化合物を配合することによってかかる層間剥離を抑制し得ることが明らかになった。更に、(高次)スメクチック液晶を示す液晶相の硬化膜である場合、液晶化合物が高い配向秩序をもって垂直方向に配向するほど層間剥離も生じやすくなる傾向にあるため、反応性基含有非液晶化合物を配合することによる膜強度および屈曲性の向上効果にくわえ、層間剥離の抑制効果がより顕著に得られる。
【0034】
反応性基含有非液晶化合物は、(i)それ自体に着色(可視光に対する吸収)が無く、(ii)重合性液晶化合物と均一に混合する程度の相溶性を有し、かつ、(iii)重合性液晶化合物が示す液晶状態の形成を阻害しないものが好ましい。
【0035】
反応性基含有非液晶化合物が有する反応性基としては、例えば、ラジカル反応により、重合性液晶化合物と、および/または、反応性基含有非液晶化合物同士で架橋または重合し得る反応性基が挙げられ、具体的にはビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基、チオール基、イソシアナート基等が挙げられる。反応性基は重合性基であることが好ましく、ラジカル重合性基がより好ましい。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、オキシラニル基およびオキセタニル基がより好ましく、アクリロイルオキシ基およびメタクリロイルオキシ基がさらに好ましい。
【0036】
本発明において、反応性基含有非液晶化合物は、アクリロイルオキシ基およびメタクリロイルオキシ基から選択される少なくとも1種の反応性基(重合性基)を有することが好ましい。アクリロイルオキシ基およびメタクリロイルオキシ基から選択される少なくとも1種の反応性基を有する反応性基含有非液晶化合物を含むことにより、得られる液晶硬化膜の膜強度が向上しやすく、垂直配向した液晶硬化膜における層間剥離を抑制しやすくなる。
【0037】
反応性基含有非液晶化合物としては、例えば、単官能(メタ)アクリレートおよび多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。単官能とは1つの反応性基を有することを意味し、多官能とは複数個の反応性基を有することを意味する。本発明において、光吸収異方性膜を構成する反応性基含有非液晶化合物が、単官能(メタ)アクリレートおよび多官能(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種であることが好ましく、単官能アクリレートおよび多官能アクリレートから選択される少なくとも1種であることがより好ましく、重合性液晶化合物と反応性基含有非液晶化合物との重合反応が連続的に進行しやすくなる点で、多官能アクリレートがさらに好ましい。反応性基含有非液晶化合物として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、(メタ)アクリロイルオキシ等についても同様である。また、かかる単官能(メタ)アクリレートおよび多官能(メタ)アクリレートは非液晶性であることから、メソゲン構造を有しないものが好ましい。さらに、光吸収異方性膜形成用組成物の塗膜において、ここに含まれる重合性液晶化合物の液晶相、特にスメクチック液晶相を乱さない範囲で分子内にウレタン構造、アミノ構造、エポキシ構造、エチレングリコール構造およびポリエステル構造を含んでいてもよい。
【0038】
単官能(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイルオキシ基〔すなわち、アクリロイルオキシ基(CH=CHCOO-)またはメタクリロイルオキシ基(CH=C(CH)COO-)〕を分子内に1個有する化合物である。
【0039】
(メタ)アクリロイルオキシ基を1個有する単官能(メタ)アクリレートとしては、炭素数4~16のアルキル(メタ)アクリレート、炭素数2~14のβ-カルボキシアルキル(メタ)アクリレート、炭素数2~14のアルキル化フェニル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートおよびイソボニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0040】
多官能(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイルオキシ基を分子内に2個以上有する化合物である。本発明において、反応性基含有非液晶化合物として用いられる多官能(メタ)アクリレートは、分子内に2~8個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有することが好ましい。
【0041】
(メタ)アクリロイルオキシ基を2個有する2官能(メタ)アクリレートとしては、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート;1,3-ブタンジオール(メタ)アクリレート;1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート;トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジアクリレート;ビスフェノールAのビス(アクリロイロキシエチル)エーテル;エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート;プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート;エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートおよび3-メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレートなどが例示される。
【0042】
(メタ)アクリロイルオキシ基を3~6個有する多官能(メタ)アクリレートとしては、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート;トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート;エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート;
ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物;トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物;
カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物;カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物、及びカプロラクトン変性トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物などが挙げられる。なお、カプロラクトン変性とは、(メタ)アクリレート化合物のアルコール由来部位と(メタ)アクリロイルオキシ基との間に、カプロラクトンの開環体、または、開環重合体が導入されていることを意味する。
【0043】
(メタ)アクリロイルオキシ基を7個以上有する多官能(メタ)アクリレートとしては、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートと酸無水物との反応物などが挙げられる。
【0044】
反応性基含有非液晶化合物として、市販の多官能(メタ)アクリレートを用いることもできる。そのような市販品としては、例えば、A-DOD-N、A-HD-N、A-NOD-N、APG-100、APG-200、APG-400、A-GLY-9E、A-GLY-20E、A-TMM-3、A-TMPT、AD-TMP、ATM-35E、A-TMMT、A-9550、A-DPH、HD-N、NOD-N、NPG、TMPT(以上、新中村化学株式会社製)、ARONIX M-220、ARONIX M-325、ARONIX M-240、ARONIX M-270、ARONIX M-309、ARONIX M-310、ARONIX M-321、ARONIX M-350、ARONIX M-360、ARONIX M-305、ARONIX M-306、ARONIX M-450、ARONIX M-451、ARONIX M-408、ARONIX M-400、ARONIX M-402、ARONIX M-403、ARONIX M-404、ARONIX M-405、ARONIX M-406(以上、東亜合成株式会社製)、EBECRYL11、EBECRYL145、EBECRYL150、EBECRYL40、EBECRYL140、EBECRYL180、DPGDA、HDDA、TPGDA、HPNDA、PETIA、PETRA、TMPTA、TMPEOTA、DPHA、EBECRYLシリーズ(以上、ダイセル・サイテック株式会社製)などを挙げることができる。
【0045】
好ましい多官能(メタ)アクリレートとしては、下記式(B-1)~(B-14)でそれぞれ表される化合物が挙げられる。
【化7】
【0046】
反応性基含有非液晶化合物は、分子内に2個以上12個以下の反応性基を有することが好ましく、分子内に2個以上12個以下の重合性基を有することがより好ましく、分子内に2個以上12個以下の重合性基を有する多官能(メタ)アクリレートがさらに好ましい。膜強度がより向上しやすい観点から、反応性基含有非液晶化合物が有する反応性基(重合性基数)は、一分子内に好ましくは3個以上、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは5個以上である。また、適度な膜強度と、得られる液晶硬化膜における高い配向秩序とをバランスよく達成し、屈曲性に優れ、層間剥離を抑制しながら、斜め方向における高い偏光機能を有する光吸収異方性膜を実現し得る観点から、反応性基含有非液晶化合物が有する重合性基の数は、一分子内に好ましくは10個以下、より好ましくは9個以下、さらに好ましくは8個以下である。
【0047】
本発明において、反応性基含有非液晶化合物が有する反応性基(重合性基)と、重合性液晶化合物が有する重合性基とが同一であることが好ましい。なお、重合性液晶化合物および反応性基含有非液晶化合物から選ばれる少なくとも1つの化合物が複数種の反応性基を有する場合は、重合性液晶化合物が有する少なくとも1つの重合性基と、反応性基含有非液晶化合物が有する少なくとも1つの反応性基とが同一であることが好ましい。例えば、反応性基含有非液晶化合物が単官能(メタ)アクリレートである場合、重合性液晶化合物も(メタ)アクリロイルオキシ基を有することが好ましい。反応性基含有非液晶化合物が多官能(メタ)アクリレートである場合、重合性液晶化合物も(メタ)アクリロイルオキシ基を有することが好ましい。
【0048】
光吸収異方性膜における反応性基含有非液晶化合物の含有量は、光吸収異方性膜を構成する重合性液晶化合物100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上15質量部以下である。反応性基含有非液晶化合物の含有量が前記範囲内にあると、反応性基含有非液晶化合物が重合性液晶化合物や二色性色素の配向を乱し難く、高い偏光機能を有しながら膜強度を向上させやすい。適度な膜強度と重合性液晶化合物の配向秩序とのバランスに優れ、高い膜強度と屈曲性を示しながら、偏光機能に優れる光吸収異方性膜をより得やくすなる観点から、反応性基含有非液晶化合物の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上、特に好ましくは1.2質量部以上であり、また、より好ましくは12質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下、特に好ましくは9質量部以下、とりわけ好ましくは8質量部以下である。
【0049】
二色性色素とは、分子の長軸方向における吸光度と、短軸方向における吸光度とが異なる性質を有する色素を意味する。本発明において用い得る二色性色素は、上記性質を有するものであれば特に制限されず、染料であっても、顔料であってもよい。また、2種以上の染料または顔料をそれぞれ組合せて用いてもよいし、染料と顔料とを組合せて用いてもよい。また、二色性色素は、重合性を有していてもよいし、液晶性を有していてもよい。
【0050】
二色性色素としては、光吸収異方性膜中において波長300~700nmの範囲に吸収極大波長(λMAX)を有するものが好ましい。
【0051】
このような二色性色素としては、例えば、アクリジン色素、オキサジン色素、シアニン色素、ナフタレン色素、アゾ色素およびアントラキノン色素などが挙げられる。中でもアゾ色素が好ましい。アゾ色素としては、モノアゾ色素、ビスアゾ色素、トリスアゾ色素、テトラキスアゾ色素およびスチルベンアゾ色素などが挙げられ、好ましくはビスアゾ色素およびトリスアゾ色素である。
【0052】
アゾ色素としては、例えば、式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」ともいう)が挙げられる。
(-N=N-K-N=N-K (I)
[式(I)中、KおよびKは、互いに独立に、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基、置換基を有していてもよい安息香酸フェニルエステル基または置換基を有していてもよい1価の複素環基を表わす。Kは、置換基を有していてもよいp-フェニレン基、置換基を有していてもよいナフタレン-1,4-ジイル基、置換基を有していてもよい4,4’-スチルベニレン基または置換基を有していてもよい2価の複素環基を表わす。pは0~4の整数を表わす。pが2以上の整数である場合、複数のKは互いに同一でも異なっていてもよい。可視域に吸収を示す範囲で-N=N-結合が-C=C-、-COO-、-NHCO-、-N=CH-結合に置き換わっていてもよい。]
【0053】
1価の複素環基としては、例えば、キノリン、チアゾール、ベンゾチアゾール、チエノチアゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、オキサゾール、ベンゾオキサゾールなどの複素環化合物から1個の水素原子を除いた基が挙げられる。2価の複素環基としては、前記複素環化合物から2個の水素原子を除いた基が挙げられる。
【0054】
およびKにおけるフェニル基、ナフチル基、安息香酸フェニルエステル基および1価の複素環基、並びにKにおけるp-フェニレン基、ナフタレン-1,4-ジイル基、4,4’-スチルベニレン基および2価の複素環基が任意に有する置換基としては、炭素数1~20のアルキル基、重合性基を有する炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~4のアルケニル基;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などの炭素数1~20のアルコキシ基;重合性基を有する炭素数1~20のアルコキシ基;トリフルオロメチル基などの炭素数1~4のフッ化アルキル基;シアノ基;ニトロ基;ハロゲン原子;アミノ基、ジエチルアミノ基、ピロリジノ基などの置換または無置換アミノ基(置換アミノ基とは、炭素数1~6のアルキル基を1つまたは2つ有するアミノ基、重合性基を有する炭素数1~6のアルキル基を1つまたは2つ有するアミノ基、あるいは2つの置換アルキル基が互いに結合して炭素数2~8のアルカンジイル基を形成しているアミノ基を意味する。無置換アミノ基は-NHである。)等が挙げられる。なお、前記重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等が挙げられる。
【0055】
化合物(I)の中でも、以下の式(I-1)~式(I-8)のいずれかで表される化合物が好ましい。
【化8】
[式(I-1)~(I-8)中、
~B30は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルケニル基、炭素数1~4のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、置換または無置換のアミノ基(置換アミノ基および無置換アミノ基の定義は前記のとおり)、塩素原子またはトリフルオロメチル基を表わす。
n1~n4は、互いに独立に0~3の整数を表わす。
n1が2以上である場合、複数のBは互いに同一でも異なっていてもよく、
n2が2以上である場合、複数のBは互いに同一でも異なっていてもよく、
n3が2以上である場合、複数のBは互いに同一でも異なっていてもよく、
n4が2以上である場合、複数のB14は互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0056】
前記アントラキノン色素としては、式(I-9)で表される化合物が好ましい。
【化9】
[式(I-9)中、
~Rは、互いに独立して、水素原子、-R、-NH、-NHR、-NR 、-SRまたはハロゲン原子を表わす。
は、炭素数1~4のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表わす。]
【0057】
前記オキサゾン色素としては、式(I-10)で表される化合物が好ましい。
【化10】
[式(I-10)中、
~R15は、互いに独立して、水素原子、-R、-NH、-NHR、-NR 、-SRまたはハロゲン原子を表わす。
は、炭素数1~4のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表わす。]
【0058】
前記アクリジン色素としては、式(I-11)で表される化合物が好ましい。
【化11】
[式(I-11)中、
16~R23は、互いに独立して、水素原子、-R、-NH、-NHR、-NR 、-SRまたはハロゲン原子を表わす。
は、炭素数1~4のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表わす。]
式(I-9)、式(I-10)および式(I-11)において、Rの炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基等が挙げられ、炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基およびナフチル基等が挙げられる。
【0059】
前記シアニン色素としては、式(I-12)で表される化合物および式(I-13)で表される化合物が好ましい。
【化12】
[式(I-12)中、
およびDは、互いに独立に、式(I-12a)~式(I-12d)のいずれかで表される基を表わす。
【化13】
n5は1~3の整数を表わす。]
【化14】
[式(I-13)中、
およびDは、互いに独立に、式(I-13a)~式(1-13h)のいずれかで表される基を表わす。
【化15】
n6は1~3の整数を表わす。]
【0060】
二色性色素は単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。アゾ色素は直線性が高いため偏光性能に優れる光吸収異方性膜の作製に好適である。偏光性能の観点から上記式(I)中のK~Kのいずれか1つがチエノチアゾールまたはベンゾチアゾールであるアゾ色素を含むことが好ましい。可視光全域にわたって偏光特性が求められる場合には、好ましくは2種類以上、より好ましくは3種類以上の二色性色素を組み合わせると偏光性能を制御しやすい。
【0061】
複数種の二色性色素を組み合わせる場合には、光吸収異方性膜中において波長500nm~600nmの範囲に極大吸収波長を有するものを少なくとも1種含むことが好ましい。2種類の二色性色素を組み合わせる場合は、さらに350nm~499nm、または601nm~750nmの範囲に極大吸収波長を有するものを含むことが好ましく、3種類の二色性色素を組み合わせる場合は、350nm~499nm、500nm~600nm、601nm~750nmの範囲に極大吸収波長を有する二色性色素をそれぞれ含むことが好ましい。二色性色素をこのように組み合わせることによって、斜め方向における偏光機能がより向上しやすく、例えば、覗き見防止用の光学フィルムとしての用途に好適な光吸収異方性板となり得る。
【0062】
二色性色素の重量平均分子量は、通常、300~2000であり、好ましくは400~1000である。
【0063】
本発明の一実施態様において、光吸収異方性膜を構成する二色性色素は疎水性であることが好ましい。二色性色素が疎水性であると、二色性色素と重合性液晶化合物との相溶性が向上し、二色性色素と重合性液晶化合物が均一な相状態を形成し、高い配向秩序の光吸収異方性膜を得やすくなる。なお、本発明において、疎水性の二色性色素とは、25℃、100gの水に対する溶解度が1g以下である色素を意味する。
【0064】
光吸収異方性膜形成用組成物における二色性色素の含有量は、用いる二色性色素の種類などに応じて適宜決定し得るが、重合性液晶化合物100質量部に対して、好ましくは0.1~50質量部、より好ましくは0.1~30質量部、さらに好ましくは0.1~10質量部、特に好ましくは0.1~5質量部である。二色性色素の含有量が、上記範囲内であると、重合性液晶化合物の配向を乱し難く、高い配向秩序の光吸収異方性膜を得ることができる。なお、2種以上の二色性色素を含む場合には、全二色性色素の合計量が上記範囲内であることが好ましい。
【0065】
光吸収異方性膜形成用組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤は、重合性液晶化合物や反応性基含有非液晶化合物などの重合反応を開始し得る化合物である。重合開始剤としては、より低温条件下で重合反応を開始できる点において光の作用により活性ラジカルまたは酸を発生する光重合開始剤が好ましく、光の作用によりラジカルを発生する光重合開始剤がより好ましい。重合開始剤は、単独で用いても、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0066】
光重合開始剤としては、公知の光重合開始剤を用いることができ、例えば、活性ラジカルを発生する光重合開始剤としては、自己開裂型の光重合開始剤、水素引き抜き型の光重合開始剤がある。
自己開裂型の光重合開始剤として、自己開裂型のベンゾイン系化合物、アセトフェノン系化合物、ヒドロキシアセトフェノン系化合物、α-アミノアセトフェノン系化合物、オキシムエステル系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、アゾ系化合物等を使用できる。また、水素引き抜き型光重合開始剤として、水素引き抜き型のベンゾフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ベンジルケタール系化合物、ジベンゾスベロン系化合物、アントラキノン系化合物、キサントン系化合物、チオキサントン系化合物、ハロゲノアセトフェノン系化合物、ジアルコキシアセトフェノン系化合物、ハロゲノビスイミダゾール系化合物、ハロゲノトリアジン系化合物、トリアジン系化合物等を使用できる。
【0067】
酸を発生する光重合開始剤としては、ヨードニウム塩およびスルホニウム塩等を使用できる。
【0068】
中でも、色素の溶解を防ぐ観点から低温での反応が好ましく、低温での反応効率の観点から自己開裂型の光重合開始剤が好ましく、特にアセトフェノン系化合物、ヒドロキシアセトフェノン系化合物、α-アミノアセトフェノン系化合物、オキシムエステル系化合物が好ましい。
【0069】
光重合開始剤としては、具体的には例えば、以下のものが挙げられる。
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルおよびベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系化合物;
2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1,2-ジフェニル-2,2-ジメトキシエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕プロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよび2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパン-1-オンのオリゴマー等のヒドロキシアセトフェノン系化合物;
2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルチオフェニル)プロパン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-ベンジル-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン等のα-アミノアセトフェノン系化合物;
1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等のオキシムエステル系化合物;
2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドおよびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系化合物;
ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’-テトラ(tert-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンおよび2,4,6-トリメチルベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;
ジエトキシアセトフェノンなどのジアルコキシアセトフェノン系化合物;
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシナフチル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシスチリル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチ_ル)-6-〔2-(5-メチルフラン-2-イル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(フラン-2-イル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)エテニル〕-1,3,5-トリアジンおよび2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン等のトリアジン系化合物。
光重合開始剤は、例えば上記の光重合開始剤から光吸収異方性膜を形成する重合性液晶化合物および反応性基含有非液晶化合物との関係において適宜選択すればよい。
【0070】
また、市販の光重合開始剤を用いてもよい。市販の重合開始剤としては、イルガキュア(Irgacure)(登録商標)907、184、651、819、250および369、379、127、754、OXE01、OXE02、OXE03(BASF社製);Omnirad BCIM、Esacure 1001M、Esacure KIP160(IDM Resins B.V.社製);セイクオール(登録商標)BZ、Z、およびBEE(精工化学株式会社製);カヤキュアー(kayacure)(登録商標)BP100、およびUVI-6992(ダウ・ケミカル株式会社製);アデカオプトマーSP-152、N-1717、N-1919、SP-170、アデカアークルズNCI-831、アデカアークルズNCI-930(株式会社ADEKA製);TAZ-A、およびTAZ-PP(日本シイベルヘグナー株式会社製);並びに、TAZ-104(株式会社三和ケミカル製)等が挙げられる。
【0071】
重合開始剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、より好ましくは0.1~15質量部、さらに好ましくは0.5~10質量部、特に好ましくは0.5~8質量部である。重合開始剤の含有量が上記の範囲内であると、重合性液晶化合物の配向を大きく乱すことなく重合反応を行うことができる。
【0072】
光吸収異方性膜はレベリング剤を含んでいてもよい。レベリング剤は、光吸収異方性膜形成用組成物の流動性を調整し、該組成物を塗布することにより得られる塗膜をより平坦にする機能を有し、具体的には、界面活性剤が挙げられる。レベリング剤としては、ポリアクリレート化合物を主成分とするレベリング剤およびフッ素原子含有化合物を主成分とするレベリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。レベリング剤は単独または2種以上組合せて使用できる。
【0073】
ポリアクリレート化合物を主成分とするレベリング剤としては、例えば、BYK-350、BYK-352、BYK-353、BYK-354、BYK-355、BYK-358N、BYK-361N、BYK-380、BYK-381およびBYK-392(BYK Chemie社)が挙げられる。
【0074】
フッ素原子含有化合物を主成分とするレベリング剤としては、例えば、メガファック(登録商標)R-08、R-30、R-90、F-410、F-411、F-443、F-445、F-470、F-471、F-477、F-479、F-482およびF-483(DIC(株));サーフロン(登録商標)S-381、S-382、S-383、S-393、SC-101、SC-105、KH-40およびSA-100(AGCセイミケミカル(株));E1830、E5844((株)ダイキンファインケミカル研究所);エフトップEF301、エフトップEF303、エフトップEF351およびエフトップEF352(三菱マテリアル電子化成(株))が挙げられる。
【0075】
光吸収異方性膜がレベリング剤を含有する場合、その含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.05~3質量部がより好ましい。レベリング剤の含有量が上記の範囲内であると、重合性液晶化合物を配向させやすく、かつ、ムラが生じ難く、より平滑な光吸収異方性膜を得られる傾向がある。
【0076】
光吸収異方性膜は、レベリング剤以外の他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、例えば、光増感剤、酸化防止剤、離型剤、安定剤、ブルーイング剤等の着色剤、難燃剤および滑剤などが挙げられる。他の添加剤を含有する場合、他の添加剤の含有量は、光吸収異方性膜形成用組成物の固形分に対して、0%を超えて20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0%を超えて10質量%以下である。
【0077】
光吸収異方性膜形成用組成物は、従来公知の液晶組成物の調製方法により製造することができ、通常、重合性液晶化合物、反応性基含有非液晶化合物および二色性色素、並びに、必要に応じて重合開始剤および上記添加剤等を混合、撹拌することにより調製することができる。また、一般にスメクチック液晶性を示す液晶化合物は粘度が高いため、液晶組成物の塗布性を向上させて光吸収異方性膜の形成を容易にする観点から、液晶組成物に溶剤を加えることにより粘度調整を行ってもよい。
【0078】
溶剤は、用いる重合性液晶性化合物、反応性基含有非液晶化合物および二色性色素などの溶解性に応じて適宜選択すればよく、前記成分を完全に溶解することができ、重合反応に不活性な溶剤であることが好ましい。
【0079】
溶剤としては、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテルおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトンまたはプロピレングリコールメチルエーテルアセテートおよび乳酸エチルなどのエステル溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトン溶剤;ペンタン、ヘキサンおよびヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶剤;トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素溶剤、アセトニトリルなどのニトリル溶剤;テトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル溶剤;クロロホルムおよびクロロベンゼンなどの塩素含有溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
溶剤の含有量は、光吸収異方性膜形成用組成物の固形分100質量部に対して、好ましくは100~1900質量部であり、より好ましくは150~1000質量部であり、さらに好ましくは180~800質量部である。
【0081】
本発明において、光吸収異方性膜は重合性液晶化合物と二色性色素とが該膜平面に対して垂直方向に配向した状態で硬化した膜であり、光吸収異方性膜面内の任意の方向をx軸、膜面内でx軸に直交する方向をy軸、x軸およびy軸に直交する膜厚方向をz軸としたときに、下記式(1)を満たす。
Az>(Ax+Ay)/2 (1)
〔Ax、AyおよびAzは、いずれも光吸収異方性膜中の二色性色素の吸収極大波長における吸光度であって、
Axは、x軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Ayは、y軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Azは、z軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表す。〕
【0082】
Axは、z軸方向から膜面に向かって、x軸方向に振動する直線偏光を入射して測定することができる。Ayは、z軸方向から膜面に向かって、y軸方向に振動する直線偏光を入射して測定することができる。Azは、例えば、x-y平面方向から膜側面に向かって、すなわち、光吸収異方性膜をx-y平面としたとき、その側面(厚み方向)に向かって垂直に、z軸方向に振動する直線偏光を入射して測定することができる。
【0083】
式(1)におけるz方向の吸光度は、膜側面からの光入射となるために測定が難しい場合がある。そこで、測定光である直線偏光の振動面と膜のx-y平面とがなす角を90°としたとき、この振動面に対して、膜のx-y平面を直線偏光の入射方向に30°および60°傾けて測定することによりAz方向の吸光度を見積もることができる。
【0084】
具体的には、以下の方法等で見積もることができる。
y軸を回転軸として前記膜を30°および60°回転させた状態で、Axを測定した直線偏光と同一の直線偏光を入射することによりAx(z=30)およびAx(z=60)を測定し、同様に、x軸を回転軸として前記膜を30°および60°回転させた状態で、Ayを測定した直線偏光と同一の直線偏光を入射することによりAy(z=30)およびAy(z=60)を測定する。
このとき、Ax(z=30)<Ax(z=60)かつAy(z=30)=Ay(z=60)であれば、Ax(z=30)<Ax(z=60)<Ax(z=90)=Azであり、かつAy(z=30)<Ay(z=60)かつAx(z=30)=Ax(z=60)であれば、Ay(z=30)<Ay(z=60)<Ay(z=90)=Azであるから、必然的に式(1)を満たすと言うことができる。
【0085】
特に、x-y平面に吸収異方性がない場合、すなわちAxおよびAyが等しい場合においては、Ax(z=30)=Ay(z=30)かつAx(z=60)=Ay(z=60)であるから、Ax(z=30)およびAy(z=30)をA(z=30)とすることができ、Ax(z=60)およびAy(z=60)をA(z=60)とすることができる。すなわち、A(z=30)<A(z=60)であれば、A(z=30)<A(z=60)<A(z=90)=Azの関係を満たす。さらに、A(z=30)>(Ax+Ay)/2であれば、必然的にAzは式(1)を満たすと言うことができる。
【0086】
また、本発明において光吸収異方性膜は、上記式(1)に加えて、下記式(2)および(3)を満たすことが好ましい。
Ax(z=60)/Ax>5 (2)
Ay(z=60)/Ay>5 (3)
〔Ax、AyおよびAzは前記と同じ意味である。Ax(z=60)およびAy(z=60)は、いずれも光吸収異方性膜中の二色性色素の吸収極大波長における吸光度であって、
Ax(z=60)は、y軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのx軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Ay(z=60)は、x軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのy軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表す。〕
【0087】
Ax(z=60)は、y軸を回転軸として前記膜を60°回転させた状態で、Axを測定した直線偏光と同一の直線偏光を入射して測定することができる。ここで、膜の回転は、Axを測定した状態の膜を、y軸を回転軸として直線偏光の入射方向に60°回転させて行う。Ay(z=60)は、x軸を回転軸として前記膜を60°回転させた状態で、Ayを測定した直線偏光と同一の直線偏光を入射して測定することができる。ここで、膜の回転は、Ayを測定した状態の膜を、x軸を回転軸として直線偏光の入射方向に60°回転させて行う。
【0088】
Ax(z=60)/AxおよびAy(z=60)/Ayは、その数値が大きいほど優れた光吸収異方性を示すことを意味する。これらの数値は、例えば50以下であってもよく、また30以下であってもよい。
さらに、本発明において光吸収異方性膜が、下記式(4)および(5)を満たすことがより好ましい。
Ax(z=60)/Ax>10 (4)
Ay(z=60)/Ay>10 (5)
重合性液晶化合物として、スメクチック液晶相、特に高次スメクチック液晶相を形成する化合物を用いることで、上記式(2)および(3)、または、式(4)および(5)をも満たす光吸収異方性膜が得られやすくなる。
【0089】
光吸収異方性膜が、式(1)、式(2)および式(3)を満たすと、優れた吸収異方性、すなわち、優れた偏光性能を有すると言える。この優れた特性によって、正面方向からの光を効果的に透過し、かつ、斜め方向からの光を効果的に吸収することができる。
【0090】
光吸収異方性膜の厚みは、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは2μm未満、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。光吸収異方性膜の厚みが上記下限以上であると、斜め方向からの光吸収が良好になり、斜め方向における偏光特性が向上しやすく、厚みが上記上限以下であると、重合性液晶化合物および二色性色素の配向を乱し難く、正面方向の高い透過性を確保でき、表示装置等に組み込んだ際の薄型化を期待できる。光吸収異方性膜の厚みはレーザー顕微鏡や膜厚計等により測定でき、以下、光吸収異方性板を構成するフィルム基材等の各層の厚みの測定も同様である。
【0091】
本発明において、光吸収異方性膜は配向秩序度の高い液晶硬化膜であることが好ましい。配向秩序度の高い液晶硬化膜は、X線回折測定においてヘキサチック相やクリスタル相といった高次構造由来のブラッグピークが得られる。ブラッグピークとは、分子配向の面周期構造に由来するピークを意味する。したがって、本発明の光吸収異方性板を構成する光吸収異方性膜はX線回折測定においてブラッグピークを示すことが好ましい。すなわち、本発明の光吸収異方性板を構成する光吸収異方性膜においては、重合性液晶化合物またはその重合体が、X線回折測定において該膜がブラッグピークを示すように配向していることが好ましい。本発明においては分子配向の面周期間隔が3.0~6.0Åである光吸収異方性膜が好ましい。ブラッグピークを示すような高い配向秩序度は、用いる重合性液晶化合物の種類、二色性色素の種類やその量、および重合開始剤の種類やその量等を制御することにより実現し得る。
【0092】
<フィルム基材>
光吸収異方性膜は、重合性液晶化合物、反応性基含有非液晶化合物および二色性色素を含む光吸収異方性膜形成用組成物をフィルム基材上に塗布する等の方法により形成することができる。
基材フィルムとしては、光学フィルムの分野において従来公知の樹脂フィルム基材を用いることができ、本発明の光吸収異方性板を他の光学積層体や表示装置等に組み込む場合に、フィルム基材を転写して剥離しない場合には透明樹脂フィルム基材であることが好ましい。透明樹脂フィルム基材とは、光、特に可視光を透過し得る透光性を有するフィルム基材を意味し、透光性とは、波長380nm~780nmにわたる光線に対しての視感度補正透過率が80%以上となる特性をいう。
【0093】
フィルム基材を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ノルボルネン系ポリマー等の環状オレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリル酸系樹脂;トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロースおよびセルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル系樹脂;ポリビニルアルコールおよびポリ酢酸ビニル等のビニルアルコール系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルケトン系樹脂;ポリフェニレンスルフィド系樹脂;ポリフェニレンオキシド系樹脂、ならびにこれらの混合物等を挙げることができる。中でも、汎用性、耐熱性等の観点から、ポリイミド系樹脂、セルロースエステル系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリ(メタ)アクリル酸系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、セルロースエステル系樹脂および環状オレフィン系樹脂がより好ましい。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このような樹脂を、溶媒キャスト法、溶融押出法等の公知の手段により製膜して樹脂フィルム基材とすることができる。
【0094】
フィルム基材またはフィルム基材を構成する樹脂として市販品を用いてもよい。市販のセルロースエステル系樹脂フィルム基材としては、フジタックフィルム(富士写真フイルム株式会社製);KC8UX2M、KC8UYおよびKC4UY(以上、コニカミノルタオプト株式会社製)等が挙げられる。市販の環状オレフィン系樹脂としては、Topas(登録商標)(Ticona社(独)製)、アートン(登録商標)(JSR株式会社製)、ゼオノア(ZEONOR)(登録商標)、ゼオネックス(ZEONEX)(登録商標)(以上、日本ゼオン株式会社製)およびアペル(登録商標)(三井化学株式会社製)等が挙げられる。このような環状オレフィン系樹脂を、溶剤キャスト法、溶融押出法等の公知の手段により製膜して、フィルム基材とすることができる。市販の環状オレフィン系樹脂基材としては、エスシーナ(登録商標)、SCA40(登録商標)(以上、積水化学工業株式会社製)、ゼオノアフィルム(登録商標)(オプテス株式会社製)およびアートンフィルム(登録商標)(JSR株式会社製)等が挙げられる。
【0095】
フィルム基材には表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、例えば、真空から大気圧の雰囲気下で、コロナまたはプラズマでフィルム基材の表面を処理する方法、フィルム基材の表面をレーザー処理する方法、フィルム基材の表面をオゾン処理する方法、フィルム基材の表面をケン化処理する方法、フィルム基材の表面を火炎処理する方法、フィルム基材の表面にカップリング剤を塗布する方法、フィルム基材の表面をプライマー処理する方法、および、反応性モノマーや反応性を有するポリマーをフィルム基材表面に付着させた後に放射線、プラズマまたは紫外線を照射して反応させるグラフト重合法などが挙げられる。中でも、真空から大気圧の雰囲気下で、フィルム基材表面をコロナまたはプラズマ処理する方法が好ましい。
【0096】
コロナまたはプラズマでフィルム基材の表面処理を行う方法としては、大気圧近傍の圧力下で、対向した電極間にフィルム基材を設置し、コロナまたはプラズマを発生させて、フィルム基材の表面処理を行う方法、対向した電極間にガスを流し、電極間でガスをプラズマ化し、プラズマ化したガスをフィルム基材に吹付ける方法、および、低圧条件下で、グロー放電プラズマを発生させてフィルム基材の表面処理を行う方法等が挙げられる。
【0097】
中でも、大気圧近傍の圧力下で、対向した電極間にフィルム基材を設置し、コロナまたはプラズマを発生させてフィルム基材の表面処理を行う方法、または、対向した電極間にガスを流し、電極間でガスをプラズマ化し、プラズマ化したガスをフィルム基材に吹付ける方法が好ましい。かかるコロナまたはプラズマによる表面処理は、通常、市販の表面処理装置により行われる。
【0098】
フィルム基材は、光吸収異方性膜形成用組成物を塗布する面とは反対側の面に保護フィルムを有していてもよい。保護フィルムとしては、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートおよびポリオレフィンなどのフィルム、並びに、当該フィルムにさらに粘着剤層を有するフィルム等が挙げられる。中でも、乾燥時における熱変形が小さいため、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。保護フィルムを、光吸収異方性膜形成用組成物を塗布する面とは反対側の面に有することで、フィルム基材搬送時のフィルムのゆれや塗布面のわずかな振動を抑えることができ、塗膜の均一性を向上させることができる。
【0099】
フィルム基材の厚みは、実用的な取り扱い性の観点からは薄い方が好ましいが、強度や加工性の観点からは厚い方が好ましい。本発明の一態様において、フィルム基材の厚みは、好ましくは5μm~300μmであり、より好ましくは20μm~200μmである。
【0100】
<光吸収異方性板の作製方法>
本発明において光吸収異方性膜は、二色性色素の吸収軸を膜面に直交した方向に配向させることによって得られる。このようなホスト-ゲスト型の光吸収異方性膜における二色性色素の吸収軸の方向は、通常、重合性液晶化合物が配向する方向によって制御される。重合性液晶化合物の分子長軸の配向方向を膜面に直交した方向にすることによって、通常、二色性色素の吸収軸を膜面に直交した方向に配向させることができる。重合性液晶化合物の配向方向は、重合性液晶化合物と、反応性基含有非液晶化合物と二色性色素とを含む液晶組成物が塗布される基材、または配向膜の性質、並びに、重合性液晶化合物の性質によって制御し得る。
【0101】
本発明において光吸収異方性板は、例えば、
フィルム基材上に、配向膜を介してまたは介さず、重合性液晶化合物、反応性基含有非液晶化合物および二色性色素を含む液晶組成物(光吸収異方性膜形成用組成物)の塗膜を形成する工程、
得られた塗膜を乾燥させて乾燥塗膜を得る工程、および、
前記塗膜中の重合性液晶化合物と二色性色素とが前記塗膜平面に対して垂直方向に配向した状態で硬化させる工程
を含む方法により製造できる。
【0102】
本発明において、光吸収異方性膜は配向膜上に形成されていてもよい。配向膜は、重合性液晶化合物を所望の方向に液晶配向させる配向規制力を有するものであり、配向膜上に光吸収異方性膜形成用組成物を塗布することにより精度よく配向した光吸収異方性膜を容易に得やすい。配向膜としては、前記光吸収異方性膜形成用組成物の塗布等により溶解しない溶剤耐性を有し、また、溶剤の除去や重合性液晶化合物の配向のための加熱処理における耐熱性を有するものが好ましい。かかる配向膜としては、配向性ポリマーを含む配向膜、光配向膜等が挙げられ、具体的には、例えば特開2016-27387号公報に記載されるような配向性ポリマーを含む配向膜や光配向膜を用い得る。本発明の一実施態様において、フィルム基材と光吸収異方性膜とは隣接して積層される。
【0103】
フィルム基材上等に光吸収異方性膜形成用組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコーティング法、エクストルージョン法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、アプリケータ法などの塗布法、フレキソ法などの印刷法などの公知の方法が挙げられる。
【0104】
光吸収異方性膜形成用組成物が溶剤を含む場合には、通常、塗布された組成物から溶剤を除去する。溶剤の除去方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥および減圧乾燥法等が挙げられる。乾燥塗膜は、光吸収異方性膜中の残存溶剤が、光吸収異方性膜の全質量に対して1重量%以下となるように乾燥されるのが好ましい。残存溶剤の量は、フィルム基材から光吸収異方性膜を剥離して秤量し、得られた光吸収異方性膜をテトラヒドロフラン等の光吸収異方性膜を溶解する溶剤に浸漬し、10分間超音波を照射して溶解成分を抽出した後、この溶液をガスクロマトグラフィーにて分析することで定量することができる。乾燥温度および乾燥時間等の各条件は、光吸収異方性膜形成用組成物の組成、フィルム基材の材料等に応じて適宜決定し得る。
【0105】
塗膜中の重合性液晶化合物は、通常、液晶状態あるいは溶液状態に転移する温度以上に加熱し、次いで液晶配向する温度まで冷却することによって二色性色素とともに配向し、液晶相を形成する。
【0106】
塗膜中の重合性液晶化合物が配向する温度は、予め、当該重合性液晶化合物を含む組成物を用いたテクスチャー観察などにより求めればよい。また、溶剤の除去と液晶配向とを同時に行ってもよい。この際の温度としては、除去する溶剤や用いる重合性液晶化合物の種類にもよるが、50~200℃の範囲が好ましく、80~130℃の範囲がより好ましい。
【0107】
重合性液晶化合物の液晶状態を保持したまま、重合性液晶化合物を重合し、硬化させることにより、液晶組成物の硬化膜として光吸収異方性膜が形成される。重合方法としては光重合法が好ましい。光重合において、乾燥塗膜に照射する光としては、当該乾燥塗膜に含まれる重合性液晶化合物、反応性基含有非液晶化合物等の種類(特に、重合性液晶化合物/反応性基含有非液晶化合物が有する重合性基の種類)、重合開始剤の種類およびそれらの量等に応じて適宜選択される。スメクチック相の液晶相を保持したまま重合した重合性液晶化合物を含む液晶硬化膜は、従来のホストゲスト型の液晶硬化膜、すなわち、ネマチック相の液晶相を保持したままで重合性液晶化合物等を重合して得られる液晶硬化膜と比較して偏光性能が高く、また、二色性色素またはリオトロピック液晶のみを塗布したものと比較して、偏光性能および膜強度に優れる。
【0108】
活性エネルギー線の光源としては、例えば、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマレーザー、波長範囲380~440nmを発光するLED光源、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等が挙げられる。好ましくは、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等の波長400nm以下に発光分布を有する光源であり、フィルム基材の法線方向に対して平行な紫外線であるとより好ましい。
【0109】
活性エネルギー線の照射エネルギーは、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が10~5000mJ/cmとなるように設定することが好ましく、より好ましくは100~2000mJ/cmである。
【0110】
本発明の光吸収異方性板は、長尺のフィルム状であってもよく、Roll to Roll形式により連続的に製造することができる。かかる製造方法としては、
ロール状に巻回された長尺状のフィルム基材を巻き出して、該フィルム基材上に、配向膜を介してまたは介さず、重合性液晶化合物、反応性基含有非液晶化合物および二色性色素を含む液晶組成物の塗膜を形成する工程、
得られた塗膜を連続的に乾燥させて乾燥塗膜を得る工程、および、
前記塗膜中の重合性液晶化合物と二色性色素とを前記塗膜平面に対して垂直方向に配向させ、連続的に活性エネルギー線を照射することにより硬化させる工程
を含む方法等が挙げられる。
【0111】
ロール状に巻回された長尺状のフィルム基材を巻き出す方法としては、フィルム基材が巻き取られている巻芯に適当な回転手段を設置し、当該回転手段によりフィルム基材が巻回してなる前記ロールを回転させることにより行う方法、前記フィルム基材ロールからフィルム基材を搬送する方向に適当な補助ロールを設置し、該補助ロールの回転手段でフィルム基材を巻き出す方法等が挙げられ、フィルム基材に適度な張力を付与しながらフィルム基材を巻き出すことが好ましい。
【0112】
長尺状のフィルム基材のサイズは適宜決定すればよいが、フィルム基材の長手方向の長さは、例えば10~3000mであり、好ましくは100~2000mである。また、フィルム基材の短手方向の長さは、例えば0.1~5mであり、好ましくは0.2~2mである。
【0113】
フィルム基材ロールから巻き出されたフィルム基材は、適当な塗布装置を用いて、該装置を通過する際に、その表面上に光吸収異方性膜形成用組成物が塗布される。連続的に光吸収異方性膜形成用組成物を塗布するための塗布装置としては、グラビアコーティング法、ダイコーティング法およびフレキソ法が好ましい。
【0114】
塗布装置を通過したフィルム基材を乾燥炉へと搬送し、乾燥炉によって乾燥することにより、フィルム基材表面に光吸収異方性膜形成用組成物の乾燥塗膜が連続的に形成される。乾燥炉として、例えば、通風乾燥法と加熱乾燥法とを組み合わせた熱風式乾燥炉等が用いられる。
【0115】
乾燥炉を通過することにより、光吸収異方性膜形成用組成物から溶剤を除去するとともに、該組成物に含まれる重合性液晶化合物が熱エネルギーにより配向する。乾燥炉は、互いに異なる設定温度の複数のゾーンからなるものであってもよいし、互いに異なる設定温度の複数の乾燥炉を直列に設置したものであってもよい。
【0116】
次いで、塗膜中の重合性液晶化合物が配向した状態で、活性エネルギー線照射装置へと搬送する。活性エネルギー線照射装置において、活性エネルギー線を照射することにより重合性液晶化合物が配向した状態で重合され、連続的に光吸収異方性膜が得られる。
【0117】
連続的に製造された光吸収異方性板を、第2の巻芯に巻き取ることでロール状に巻回された光吸収異方性板を得ることができる。なお、巻き取る際には、適当なスペーサを用いた供巻きを行ってもよい。
【0118】
本発明の光吸収異方性板は、適度な膜強度と重合性液晶化合物の配向秩序とのバランスに優れ、高い膜強度と屈曲性を示しながら、斜め方向における偏光機能を示すので、液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置等の構成材料として好適に用いることができる。したがって、本発明は、本発明の光吸収異方性板を含むディスプレイ材料、および、本発明の光吸収異方性板を含むディスプレイ装置も対象とする。
【0119】
本発明の光吸収異方性板は、例えば、覗き見防止用フィルムやディスプレイ外観を向上させる材料として用いることができる。また、本発明の光吸収異方性板は、優れた偏光性能とともに屈曲性にも優れるため、フレキシブルディスプレイ材料としても好適である。
【0120】
ディスプレイ材料として、ディスプレイ装置に組み込む場合、具体的には、例えば、膜面に平行な方向に吸収軸を有する偏光機能を有する偏光膜や位相差フィルム等を含む円偏光板の視認側に、粘接着層を介して貼合することができる。
【0121】
ディスプレイ装置としては、表示素子を有する装置であって、発光源として発光素子または発光装置を含む、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、無機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、タッチパネル表示装置、電子放出表示装置(例えば電場放出表示装置(FED)、表面電界放出表示装置(SED))、電子ペーパー(電子インクや電気泳動素子を用いた表示装置、プラズマ表示装置、投射型表示装置(例えばグレーティングライトバルブ(GLV)表示装置、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を有する表示装置)および圧電セラミックディスプレイなどが挙げられる。
【0122】
膜面に平行な方向に吸収軸を有する偏光機能を有する偏光膜や位相差フィルム等のディスプレイ装置を構成する各材料および部材は、ディスプレイ装置に用いられる公知の材料や部材から適宜選択して用いることができる。
【実施例
【0123】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例および比較例中の「%」および「部」は、特記しない限り、「質量%」および「質量部」である。
【0124】
1.実施例1
(1)光吸収異方性膜形成用組成物の調製
下記成分を混合し、80℃で1時間攪拌することにより、光吸収異方性膜形成用組成物を得た。二色性色素には、特開2013-101328号公報の実施例に記載のアゾ系色素を用いた。
【0125】
・式(A-6)で表される重合性液晶化合物 75部
【化16】
・式(A-7)で表される重合性液晶化合物 25部
【化17】
・下記に示す二色性色素(1) 1部
【化18】
・重合開始剤:2-ジメチルアミノ-2-ベンジル-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン(イルガキュア369;チバスペシャルティケミカルズ社製) 6部
・反応性基含有非液晶化合物(1):ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(6官能) 1.5部
・溶剤:o-キシレン 650部
【0126】
(2)光吸収異方性膜の作製
フィルム基材としてトリアセチルセルロースフィルム(コニカミノルタ社製KC4UY-TAC、厚さ40μm)を四角形に切り出し、コロナ処理装置(AGF-B10;春日電機株式会社製)を用いて出力0.3kW、処理速度3m/分の条件で1回コロナ処理を施した。フィルム基材のコロナ処理した面にバーコーターを用いて光吸収異方性膜形成用組成物を塗布した後、100℃に設定した乾燥オーブンで1分間乾燥した。
【0127】
次いで、高圧水銀ランプ(ユニキュアVB-15201BY-A、ウシオ電機株式会社製)を用いて、紫外線を照射(窒素雰囲気下、波長:365nm、波長365nmにおける積算光量:1000mJ/cm)することにより、重合性液晶化合物および二色性色素が塗膜平面に対して垂直配向した光吸収異方性膜を形成し、フィルム基材/光吸収異方性膜からなる光吸収異方性板(1)を得た。この際、光吸収異方性膜の厚さをエリプソメータにより測定したところ、0.4μmであった。
【0128】
(3)特性評価
[膜強度の評価]
得られた光吸収異方性板(1)の光吸収異方性膜側に粘着剤を積層し、該粘着剤層にトリアセチルセルロースフィルムを貼合した。該貼合により得られたフィルム基材、光吸収異方性膜、粘着剤層およびトリアセチルセルロースフィルムからなる積層体に対して光吸収異方性膜と粘着剤層との界面にきっかけを入れた後に光吸収異方性板(1)を剥離速度100mm/minにて引き剥がした。結果を表2に示す。
<評価基準>
A:光吸収異方性板が粘着剤との界面で剥がれた(材破なし)
B:光吸収異方性板の剥離面の1/3未満で材破した
C:光吸収異方性板の剥離面の1/3以上が材破した
D:光吸収異方性板の全面で材破した
【0129】
[屈曲性の評価]
得られた光吸収異方性板(1)について、屈曲性の評価をJIS-K-5600-5-1に記載の塗料一般試験方法―耐屈曲性(円筒形マンドレル法)の方法を用いて、以下のように行った。
光吸収異方性板(1)を25mm×200mm角に切り取り、円筒型マンドレル法耐屈曲性試験機タイプII型(TP技研株式会社製)を用いて、温度25℃、相対湿度55%RHの条件下で、直径が6mm(屈曲半径R=3mm)のマンドレル棒に、光吸収異方性膜を外側にして巻きつけて屈曲性試験を行った。10000回屈曲後、50000回屈曲後、100000回屈曲後の光吸収異方性板を暗室環境下にて照明透過光で目視確認した。結果を表2に示す。
<評価基準>
A:試験前後で変化なし
B: 100000回屈曲後に剥離確認
C: 50000回屈曲後に剥離確認
D: 10000回屈曲後に剥離確認
E:1回の屈曲で基材破壊を確認
【0130】
[正面/斜角吸光度比]
光吸収異方性板(1)について、以下のようにして吸光度を測定した。
分光光度計(島津製作所株式会社製 UV-3150)にプリズム偏光子付フォルダーをセットした装置を用いて、ダブルビーム法により2nmステップ380~680nmの波長範囲で、極大吸収を示す波長での3次元吸光度を測定した。ここでの3次元吸光度とは、光吸収異方性膜の膜面内の任意の方向をx軸、膜面内でx軸に直交する方向をy軸、膜の膜厚方向をz軸としたとき、直線偏光に対する各々の方向の吸光度(Ax、Ay、Az)である。具体的には、測定光である直線偏光に対して、サンプルを回転させることで測定を行った。
また、z方向の吸光度は、定義上サンプル側面からの光入射となるために測定が難しい。よって、測定光である直線偏光の振動面に対して、サンプルのx-y平面を60°傾けて測定することによりAz方向の吸光度を見積もった。
具体的には、y軸を含むようにサンプルを30°および60°回転させた状態で、Axを測定したときと同一の直線偏光を入射することによりAx(z=60)を測定し、同様に、x軸を含むようにサンプルを60°回転させた状態で、Ayを測定したときと同一の直線偏光を入射することによりAy(z=60)を測定した。
なお、x-y平面に吸収異方性がない場合、すなわちAxおよびAyが等しい場合においては、Ax(z=60)=Ay(z=60)であるから、Ax(z=60)およびAy(z=60)をA(z=60)とした。Ax(z=60)/Axの値を正面/斜角吸光度比とした。
【0131】
2.実施例2~5
光吸収異方性膜形成用組成物において、反応性基含有非液晶化合物の配合量を表1に示す量に変更した以外は、実施例1と同様にして光吸収異方性板(2)~(5)を作製し、実施例1と同様に特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0132】
3.実施例6
光吸収異方性膜形成用組成物において、二色性色素(1)に代えて下記に示す二色性色素(2)を用いた以外は、実施例2と同様にして光吸収異方性板(6)を作製し、実施例1と同様に特性評価を行った。結果を表2に示す。
【化19】
【0133】
4.実施例7
光吸収異方性膜形成用組成物において、二色性色素(1)に代えて下記に示す二色性色素(3)を用いた以外は、実施例2と同様にして光吸収異方性板(7)を作製し、実施例1と同様に特性評価を行った。結果を表2に示す。
【化20】
【0134】
5.実施例8
光吸収異方性膜形成用組成物において、二色性色素として、二色性色素(1)、(2)および(3)を各1質量部配合した以外は、実施例2と同様にして光吸収異方性板(8)を作製し、実施例1と同様に特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0135】
6.実施例9~17
光吸収異方性膜形成用組成物において、反応性基含有非液晶化合物(1)を表1に示す反応性基含有非液晶化合物(2)~(10)に変更した以外は、実施例2と同様にして光吸収異方性板(9)~(17)を作製し、実施例1と同様に特性評価を行った。結果を表2に示す。
なお、表1に示す各反応性基含有非液晶化合物(2)~(10)として、以下の化合物を用いた。
【0136】
・反応性基含有非液晶化合物(2):トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(2官能)
・反応性基含有非液晶化合物(3):ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(4官能)
・反応性基含有非液晶化合物(4):エトキシ化ジペンタエリスリトールポリアクリレート(6官能)
・反応性基含有非液晶化合物(5):トリペンタエリスリトールオクタアクリレート(8官能)
・反応性基含有非液晶化合物(6):トリメチロールプロパントリメタクリレート(3官能)
・反応性基含有非液晶化合物(7):ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(4官能)
・反応性基含有非液晶化合物(8):ジペンタエリスリトール ヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)(6官能)
・反応性基含有非液晶化合物(9):3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(2官能)
・反応性基含有非液晶化合物(10):2-イソシアナトエチルアクリラート(2官能)
【0137】
7.実施例18
光吸収異方性膜形成用組成物において、レベリング剤として、ポリアクリレート化合物(BYK-361N;BYK-Chemie社製)を0.3質量部配合し、二色性色素(1)の配合量を2.8質量部に、溶剤の量を250質量部に変更した以外は、実施例2と同様にして光吸収異方性板(18)を作製し、実施例1と同様に特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0138】
8.実施例19
フィルム基材として、40μmのシクロオレフィンポリマーフィルムに、厚み3μmのハードコート層(アクリル樹脂から構成される層)を形成したフィルムを用いた以外は、実施例2と同様にして光吸収異方性板(19)を作製し、実施例1と同様に特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0139】
9.比較例1
フィルム基材の代わりにガラス板(厚み0.7mm)を用い、光吸収異方性膜形成用組成物に反応性基含有非液晶化合物を配合しなかった以外は、実施例18と同様にして光吸収異方性板(20)を作製し、実施例1と同様に特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0140】
10.比較例2
光吸収異方性膜形成用組成物に反応性基含有非液晶化合物を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして光吸収異方性板(21)を作製し、実施例1と同様に特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0141】
11.比較例3
光吸収異方性膜形成用組成物に反応性基含有非液晶化合物を配合しなかった以外は、実施例19と同様にして光吸収異方性板(22)を作製し、実施例1と同様に特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】